○山口(好)
委員 時間も大分經過いたしましたので、
簡單に
最後に
自由黨を代表いたしまして、しかしながら
考え方はできるだけ政黨を拔きにいたしまして、公平な立場から、この大事な
民法の
改正を論じてみたいと思うのであります。
大體
自由黨といたしましての態度を表明いたしますれば、その
自由黨より
提出の第
一條以下の
修正案、これに
贊成をいたすことはもちろんであります。さらに
榊原千代委員の
提出になります
修正案の中で、第七百六十
五條第二項を削るというこの
修正には
贊成をいたすことを、ここに表明する次第であります。今まで長らく實施されておりましたる
民法にわかれを告げて、ここに新しく
改正民法を迎えることに相な
つたのであります。この實に記念すべき
最後の
委員會でありまして、天下の人々もこの
民法の
改正につきましては、非常な關心をも
つて凝視いたしておるのであります。これにつきまして、われわれは近き
將來に
修正を行うのであるからいいというような、そういう輕率な
考えをも
つてこれを
審議しては相ならないのであります。やはりどこまでもこの日本の現状を十分に檢討しまして、そうしてしかも
民主主義の線に沿うて、このよき日本の風俗習慣、これも殘し、そして平地に波亂を起すようなことなしに、眞に
民主主義に向
つて前進し、進歩し得るところの、そういう
法律をつくらなければならないのであります。その
意味において檢討をいたしますれば、われわれはすでに經過しました戰時中において、國家という觀念がともすればさきに立ちまして、私權は忘れがちであ
つたのであります。その苦難をわれわれは經てきておるのであります。それを再び繰返すような
條文をおくことは相ならない。どうしてもわれわれは新法を望みますけれ
ども、ただいたずらにイデオロギーにとらわれて、あるいは文字の上に拘泥をいたしまして、それに引ずられて過ちを侵すというようなことでは相ならぬのでありまして、やはり日本には日本の國情があり、
國民性があり、また風土文化もあるのでありまして、これに即して、水の流れにたとえますれば、やはり
民主主義の流れを流す場合に、山もある、谷もあり、いろいろな凹凸もありまするので、そのままにこれを流すことはできない。やはり現地に即した流れを
研究いたさなければならないのであります。第
一條のごときも、そういう角度から見まして、やはり左に偏したような、いわゆる横の道徳と申しましようか、これにのみこだわりましたような
條文を設けましたならば、悔いを殘すことになると思うのであります。その
意味において、
政府の
原案は、まことにその國家という觀念、あるいは
公共福祉という觀念を先に立てまして、私權をその
あとに付隨せしめる、こういう感が強いのであります。あるいは再び戰時中のごとき全體主義的な弊害を生じない限りもないと思うのであります。裁判所の
解釋におきましても、また一般の
解釋においても、さようなことに相な
つては、非常な危險があるのであります。眞の
民主主義というものは、やはり各自が自己の私權を
尊重する、自分の私權を
尊重してもらいたいというためには、從
つて他人の私權を
尊重していくということにな
つていくのが當然であります。そうした眞に自分の私權を
尊重していくというところから出發した
公共の
福祉ということに相ならなければならないと思います。これは牧野博士などが、よく政治というものは、
社會の
利益と
個人の
利益の調和にあるというようなことを申しているのも、そこにあると思います。さらに
親族、相續問題につきましては、その權威者でありまする穂積重遠博士な
ども、日本の家族
制度の中にも非常によいものがある。この完成したところの縦の道徳に加えて、その弊害を除去して、横の道徳を加えて、その交叉點をも
つて將來の
民法は
改正をいたさなければならないということを指摘いたしております。そういう面から見まして、また
實際の實情、さらにわれわれ最もその
責任の地位にあ
つて感じなければならない
國民の聲を聽き、
國民の實情を深く觀察するという立場から申しまして、われわれはもつともつと、この
民法の
改正については檢討をいたさなければならないように思うのであります。ここに古き
民法、殊にその
親族、相續編にわかれを告げまするときに、私たちはなんとなく後髪を引かれるような思いがいたすのであります。それは決して今までの封建主義を追うというようなことでなしに、やはりわれわれに存在するところの家族主義、祖先以來ここに續けられたるところの家族主義の美點が必ず存するのであります。これについて
改正民法のこの
審議は、十分なる檢討がなされておるかどうかということに深く思いをいたしますれば、なお十分咀嚼し
研究しきれないところがある。近き
將來において、じつくりと
改正をいたさなければならないというようなことが殘されております。そのために、われわれはここになお十分なものでないことを痛感いたすのだと思うのであります。かかる
意味合いにおきまして、第
一條の
修正は、よろしく左に偏せず右に偏らざるところの
解釋竝びに實情に即しまして、日本
自由黨から出ておりまする「
公共ノ
福祉ニ反
セサル限度ニ於テ」となすのが、最も私は妥當であると思うのであります。何とぞこの點につきましては、政黨政派を超越して、この
改正民法を
社會に送り出され、また世界の人々の前に出されましたときに、なるほどと納得のいくところの體裁と内容とをも
つていなければならない。先ほど佐瀬
委員からるる
説明がありましたが、どうも用語の點におきましても、また内容
表現の點におきましても、三派共同の
提案になりまする
修正は、これはとるべきものではないと思います。何とぞ第
一條、殊に大事な第
一條でありまするから、十分皆さん胸にお聽きくださいまして、この「
公共ノ
福祉ニ反
セサル限度ニ於テ」ということに、御賛成を願いたいのであります。そのほか繼
親子關係を實
親子の
關係におくというこの
修正でありますが、これもいろいろ
議論がございましようけれ
ども、日本の實情といたしましては、やはり家族
制度の
實際の必要から、何もこういう條項を設けなくても、それは
實際に
親子關係のような
考え方でいけばよいと言われるかもしれませんが、やはりこうした
條文をおくことによりまして、そういつた
親子の
關係を生ぜしめることに相なる。もしこれをおかなかつたならば、かえ
つてまたそこに弊害を生じまして、龜裂を生ずることに相なるという立場から、ぜひこれを
贊成を願いたいのであります。それから
事實婚の點につきましても、これは穂積博士などはつとに提唱をいたしております。今度の
改正民法におきましても、もとより
事實婚を否定するというような
意味でこの
條文ができておるのではないと思いますが、その
事實婚を
事實のままに認めていくということは、男女の平等の立場から申しまして、女子を保護するという面から、ぜひこうなければならない。またその他の
實際の取扱いからも、もしこうしておかなければ、弊害も出てまいります。先ほど中村
委員が申されましたが、中村
委員などは、つとにこれについて申されておるのであります。
ほんとうは
贊成なわけであります。ぜひ皆さんの御一考を煩わして
贊成を願いたいのであります。さらにわれわれが忠實にこの
國民の聲を聽きましたときに、先ほど明禮君から
説明されました系譜あるいは墳墓などの所有権をだれに歸屬させるかという問題、それから親を扶養する者を
指定するというような問題でありますが、これは農村などでは、非常に關心をも
つております。
實際農村の
家庭におきましては、相當封建的なところがあります。しかしながら、その封建的な惡いところは除かなければならないかもしれませんが、ここは非常に重大關心をも
つておるのであります。もう農村の親などは、この
民法が
改正されて、
ほんとうに自分の家の跡を繼ぐ者が定まらないというようなことに
なつたならば、自分たちはどうなるか、自分の家はどうな
つていくかということを、非常に案じて暗憺たるものがあるのであります。何も
民主主義といえ
ども、家の存置、あるいは家督相續
制度、そういう名前はよろしくないかもしれませんが、家を立てて守
つていくという人をはつきりときめるような
制度はできないものであろうか、これだけは殘せないものであろうかと、非常に案じでおるのであります。さらにアメリカ人な
ども、日本の家族
制度の美點をみて、こうした家を守
つて一人の人が立てていく。そうしてそこにまた
親子團欒いたしまして、親も安んじて老後を養われていく、この
制度の美點を認めております。アメリカから参りました人々が、終戰後におきまして、日本に浮浪者が少い。さぞかし日本に行つたならば、そこらに浮浪者がうようよしておるだろうと思
つてきたところが割合に少い。これはどういうわけであるか。やはり日本は家族
制度で、おのおの自分の家がある、あるいは親戚がある、そこに頼
つてい
つてみんな養われておるという話を聽いて、なるほどと感心いたしておるのであります。その實情、家族
制度の家の存置せらるべき存在
理由、これを深くわれわれは檢討いたさなければならぬ。そこに深く思いをいたしてできたのが、この
修正案であります。明禮君がつとにこの點を
研究されまして、人情を十分に檢討し、この點は殘さなければ
民法を
改正してかえ
つて改惡されるというのでは相ならないというので、みつちりこれを檢討して、
民主主義の線に沿いまして、この
修正案を出されたのであります。どうぞそういう
意味で、民衆の聲を聽き、實情を檢討し、われわれとしては
實際にできないようなことを行
つて、平地に波瀾を起すような、日本の進歩を妨げるようなこの點についても、
原案をさらに改めて、かように
修正をしていただきたいのであります。この點につきましては、現在農地法が施行されておりまして、皆さんも十分檢討されておると思いますが、あの農地法等も非常に進んだ
法律かもしれませんが、
實際に行
つてみまして、かえ
つて平地に波瀾を起し、行き過ぎており、なかなかに實行は困難である。これほどまでにいかなくてもという切實な實驗をわれわれはなめております。そうしてこういう弊害が生じ、こういう爭いが起きているということを如實に、われわれは見ておるのであります。またわれわれは大體において辯護士でありますから、すでに經験しておられると思いますが、この
民法の
改正をねらいまして、兄弟の間に財産の分割についての爭いが非常に起きております。われわれのところへしよつちゆうその相談があるのであります。兄弟牆に鬩ぐといいましようか、そうした肉親の間にかえ
つて爭いを起させるという面も多いのであります。それがゆえにこそ、
政府におきましては、農業
資産の問題については、これをなるべく分割しないで傳えていこうという案も立てられたことと存ずるのでありますが、さらに商業
資産につき、工業
資産につきましても、
民法がもしこのままで通るということでありましたならば、ぜひともそういう
修正的な特別法が檢討されなければならない。どうしてもそうな
つてくるのであります。ここにそうならないで濟むように、この根
本法である
民法を、その線に沿いまして、すなわち日本の實情に即し、そのよきをと
つて民主主義の線に沿うて、なおかつ存置し得るところの淳風美俗はこれを殘して、
規定に收めるというその
意味において、この
自由黨の
修正案も
提出いたされている次第であります。
われわれの思想といたしましては、
學者が申しておりますが、一つのテーゼができて、さらに進歩してこれに對するアンチ・テーゼが生ずる。しかしさらにその時代も過ぎれば、ここに兩方を折衷したところのジン・テーゼが生ずる。かくしてわれわれの思想、あるいは
法律上の思想が進歩していくのである。こういうことを申しております。われわれは決して過去の全體主義というようなことにとらわれてはならないし、またここでとらわれておるわけではないでありましよう。しかしある一つのことを強調するあまりに、
實際の
國民の實情をおおわしめ、それによ
つて、むりな、いたずらにわれわれが進歩的であると
考えるような、そういう
考えのもとに法を
規定いたしまして、それがためにかえ
つて平地に波瀾を起しまして、
國民を幸福に導き、一段と進歩させるようなことを目指しながら、結果はかえ
つて逆行いたすというようなこともあるのでありまして、ここに思いをいたして
提出いたされたのが、
自由黨の
修正案であります。これについては十分なる檢討と時間とを借りて、
諸君の御賛成を得たいというのが、われわれの
趣旨であ
つたのであります。今晩もそのゆえに少しく二、三日の考慮の時期を延ばして、そして皆さんのより以上の檢討と咀嚼を願いまして、これを通していただきたいという
考えであ
つたのでありますが、そこに至らずして今晩採澤ということに相
なつたわけであります。またこれに對しましては、皆さんにおかれましても、後日近き
將來において
修正がなされなければならないということをお認めにな
つて、その
附帶決議も出たわけであります。
自由黨としては、どこまでもこれは檢討して、そして
國民の前に眞のよき
改正案を送り出したいということにおいて、皆さんと同様の熱意をも
つておるのであります。ぜひともこれはじつくりと檢討をいたしたいと
考えてお
つたのでありますが、ここに採決になりましたので、この
附帶決議をかかる事情のもとに、やむを得ず
贊成いたしたいと
考えておる次第であります。卑近な例でありますが、河を越すというような場合に、もしその河を飛び越せば結構でありますが、國情がそこに至
つておらない場合に、にわかに進歩的な
法律をつく
つて、これを飛び越させるということになりましたならば、かえ
つて河中に落ちて溺れるような結論に相なる次第であります。何とぞそこに思いをいたされまして、
自由黨のこの實情に即し、
從來の淳風美俗をと
つて、しかも
民主主義の線に沿うていきたいという
修正案に御贊同願いたい。
さらに
榊原千代君の七百六十
五條の第二項を削るという點も、先ほど他の
委員からも御
説明がありましたので、これは
自由黨としては
贊成であります。
安田委員の
提案になりました七百三十三條の削除の問題は、中村君とほぼ同様の
理由によりまして、いま少しく檢討を試みてみたいと思います。かえ
つてこれは母性を
尊重することにもなるというふうにも
考えられるのであります。その
意味で七百三十三條を削除する
修正案には、いましばらく檢討を加えなければならないと
考えますので、この際に反對をいたす次第であります。
以上、
簡單ではございますが、
自由黨としての
贊成竝びにその
理由を御
説明いたしました。