○荒木
委員長 御異議なしと認めましてご報告申し上げます。
先般衆議院議長の承認を得まして、去る十一月十六日茨城縣霞ヶ浦及び利根川中流附近において霞ヶ浦干拓工事竝びに利根川治水工事の實状を調査いたしました結果を御報告いたします。
本調査に参加いたしました委員は左の五名であります。
細野三千雄委員、溝淵松太郎委員、野原正勝委員、
高倉定助委員竝びに不肖私の五名でございます。なおこのほかに内務省より山本技官、農林省より菊岡技官が同道し、現地においては茨城縣副知事、縣會議長その他關係、係官が數名立會し説明の任にあたりました。
今囘調査いたしました事項は、霞ヶ浦干拓事業、霞ヶ浦北浦放水路計畫、利根川昭和放水路計畫と印幡沼手賀沼干拓事業計畫であります。以下各事項に關し調査の御報告いたします。第一の霞ヶ浦干拓事業、これは霞ヶ浦及び北浦の干拓事業即中止等の
請願衆議院文書表番號第二三一號が霞ヶ浦北浦治水協會長より衆議院議長宛呈出せられましたので、本國土計畫
委員會においては、農林省開拓局當局より右事情を聽取いたしました。その當時の答辯によりますると、干拓事業は茨城縣知事よりの申請に基き、これを霞ヶ浦干拓耕地整理組合に委託したので、漁業權問題の一部が未解決であるのみとのことでありました。本
請願紹介議員葉梨新五郎君の説明によりますと、政府は食糧増産の見地より霞ヶ浦北浦に對して本年度より幾多の干拓工事を
實施しようとしているが、現在霞ヶ浦北浦の實情は治水工事が不備で、干拓工事はすでに飽和状態であり、これ以上の干拓工事はその成功率も乏しく、また沿岸農漁業にも多大な惡影響もあり、水害の危險率を増大させる結果にもなるから、一應干拓工事はこれを中止して、治水工事を促進して貰ひたいというのであります。兩者の説明には相當間隔があり、本
委員會においてもこれが審査にかなり困惑いたしましたので、現地調査を必要と考えたのであります。本調査においては、目下
施行中の干拓事業の代表的なものとして、本新島村地先干拓地を視察いたしましたので、その大要を説明いたします。
本干拓事業は昭和二十一年六月農林省の委託により、霞ヶ浦干拓耕地整理組合が
施行者となり、工事請負人として株木組を指定したのであります。新利根川河口の本新島村地先を埋立するものでありまして、耕地面積四百六十町歩、工費四千八百萬圓、期間三箇年を豫定しています。サンドポンプ船一臺により、高さ十五尺、幅百八十尺、延長五キロ餘の堤塘を築造し、内水を排除せんとするのであります。なお本
地域農産物減收の主因として考慮されますます分、鐵分、アルカリ性等の除去に關しましては、農事試驗場等に依頼し特別に研究中であるとのことでした。工事賃も
増額の一途をたどるのみで、現状にては一段冨り約一萬圓の埋立費を要する計算になります。完成の暁には農地調整法により處分されます。なおこのほか十五箇所を加え、總計約千三百町歩干拓を本湖水内に企圖しています。
これらの干拓事業に對する反對的意見を陳情されました。香澄村村長及び阿蘇町漁業組合長等の意見を總合しますと、次の二點に要約されます。
イ、海面上僅々一・二メートルの高さを有する霞ヶ浦にとつては、干拓工事はすでに飽和状態であるから、治水工事を先行させねば水害は増大する一方である。現に昭和十六年の水害においては三萬餘町歩が冠水した。
ロ、魚族繁殖に好適の
地域が主として干拓せられ、被害減收額は一年約四十萬貫三千萬圓にも達するというのであります。
これに對する縣耕地課及び耕地整理組合側の意見としては、食糧増産の見地より極力良好なる耕地を急速に造成するのがわれわれの責任であつて、治水事業は縣土木部の方で極力推進しているというのであります。本
委員會調査の結論といたしましては、すでに相當大規模に著工中の本新島村工事は續行するといたしましても、政府當局において次の三點に關し善處されんことを要望いたしたいのであります。
一、北利根川、常陸川の治水工事を促進し干拓工事を有名無實とならしめないように考慮すべきこと。二、本干拓工事の所要の電力を確保すること。三、漁業權のうち未解決になつている部分を早急に解決すること。なおその他の干拓事業はこれが著工に先だち治水關係を考慮し、愼重に再檢討の必要があると認めます。
第二は霞ヶ浦北浦放水路計畫であります。霞ヶ浦北浦の放水路としては北利根川より常陸川にリレーするのみで、兩
河川ともに河積きわめて狭小にして、その流出量は毎秒三百ないし五百立方メートルにすぎず、昭和十三年六、七月のごとき大雨に際會すれば、最大流入量毎秒三千立方メートルにも達し、これは當然排水困難にして、湖面水位は上昇し、遂に常水位より一・八メートル上昇し、沿岸耕地三萬町歩を冠水せしめたのであります。よつてこれが對策として、内務省においては、右兩
河川の川幅を約二倍に擴張し、河底を浚渫しまして流出量を毎秒千二百立方メートル餘に増大せしめ、これによつて昭和十三年における水位を約〇・六メートル低下せしめ、さらに冠水期間一箇月を約一週間程度に短縮せしめることを企圖しています。
本計畫により耕地約八十町歩が埋没するのでありますが、一方浚渫土砂竝びに水位低下により造成せられる耕地は約四百町歩であります。これに要する工費は、本年度九月の計算によりますと、約二億圓でありまして、内務省においては五箇年計畫として明年度よりぜひ著工いたしたいと希望しています。なおこれに使用する浚渫船二隻は佐原に準備待機中であります。
調査の結論といたしましては、まず工事の效果が即刻にも實現する河底浚渫工事より著工し、少なくとも前途の干拓工事により、現在以上に浸水領域が増大せぬよう考慮し、沿岸住民諸君の不安を輕減すべきであると考えます。
また本
河川改修に伴う洪水時利根川本流逆流の問題は、昭和十三年及び十六年の例をとりましても、その逆流期間は最大二日程度でありまして、湛水期間の一箇月以上に及ぶ場合と比較すれば、まず恐れるに足らぬと考えます。
第三利根川昭和放水路計畫と印幡沼、手賀沼干拓事業計畫布川町より平戸を徑由して津田沼町に出て、右兩計畫豫定地をほぼ踏破しつつ、内務省及び農林省よりその計畫の概要を聽取いたしました。同
地域内において内務省の行わんとする放水路計畫と農林省の行わんとする。干拓用疎水路計畫が何らの關連性もなく、全然別々に立案せられたという事實に對しては一驚を喫しました。本年二月經濟安定本部よりの通達に基き、兩省關係技術官をもつて合同協議會を開き、一應の妥協點には到達していますが、次のごとき幾多の疑問を感ぜさせられるものであります。
その一は兩計畫ともに數十億圓の巨費と數萬トンのセメント及び鋼材を必要とする厖大なる工事であつて、わが國現在の經濟力より觀察すれば、兩者の水路を別々に
施行することは少なくとも考えられぬ。その二は本水路の完成はなるべく遠き將來と豫想せらるるにもかかわらず、平戸においては疎水路開通を前提として、すでに一部印幡沼の干拓工事に著手している。もし疎水工事が中止された場合は、印幡沼の湛水面積縮小の負擔は、沼沿岸の即耕地竝びに利根川下流に追加されることは必至である。その三は放水路計畫においては掘鑿土量二千萬立方メートルを印幡沼、手賀沼に埋立て、三千町歩の耕地造成を考慮しているのに、一方干拓計畫にては、その同一
地域たる印幡沼、手賀沼の水面を干拓して三千町歩の耕地造成を企圖しており、兩者の計畫が重復するのはまことに不可解である、その四は同一
地域において同一種類の土工工事を
施行するのに、その使用目的が異なるからとて、別々の機關で
施行することは經濟的には不利な點が多い。
以上のような幾多の疑問が感ぜられますが、放水路工事は現在のところ中止されていますが、今年利根川の出水に照しても考慮の必要がありますので早急に國家的見地より、兩計畫の根本的再檢計を行う必要があると認められます。
次に視察の途中、茨城縣稻敷郡根本村において農林省現地當局者より新利根川農業水利改良事業に關する説明を聽取いたしました、本事業は、新利根川流域の耕地五十町歩の水利改良事業を行い、湛水一毛作田を完全なる二毛作乾田に改良せんとするのであります。主要工事といたしましては、新利根川堤防の一メートル蒿上げと、用排水路の掘鑿と、揚水施設の建造とにあります。四箇年計畫で豫算二千百萬圓にて出發いたしましたが、物價値上りの今日、すでに一億五千萬圓の追加豫算を申請中と申しております。
また牛堀土木出張所において行方郡代表者より行方郡一帶旱害對策として、霞ヶ浦、北浦兩面より電力揚水による灌漑工事
實施要望の陳情がありました。本計畫は電力、豫算及び資材の關係を考慮し可能なる範圍で部分的にでもこれが
實施をはかり、食糧増産に寄與すべきだと考えます。
以上をもちまして今囘の現地調査報告といたしますが、最後に私は今次の實地調査が國會會期の切迫等の情勢に對應するため、特に最短日時をもつて現地踏査をいたしましたため、非常にむりな行程であつたにもかかわらず、各委員が萬難を排してこれに参加せられまして、目的の達成に御協力いただきましたことを、ここに謹んで御禮を申し上げまして、御報告にかえる次第であります。
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