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只野委員 この九月十四日
以來の、
カスリン颱風が發生しました結果、
東北地方特に
宮城縣、
岩手縣を
中心として激しい
降雨量があ
つて、七月の
水害と比較してほとんど問題にならないほどの
状態が現われております。九月七日から十六日までの
降雨量というものは、大體三四五・五ミリにな
つております。それから九月十五日十六時より十七時までの一時間の
最大雨量が六一・七ミリという驚異的な降り方で、ほとんど
一間先を歩く人の顔が見えないくらいの
豪雨であ
つた。その結果容易らぬ事態が發生すると考えてお
つたのでしたが、それが遂に實現された。私の見た
範圍は、大
體宮城縣の
仙北地方全體にわた
つて見てきたのでありますが、各
河川はほとんど河水が氾濫して、
決壊せざるところなしと
言つた方が早わかりであります。大
體宮城縣の
河川の中で
堤防決壊が七十一箇所あります。その中で最も大きいのは江合川、鳴瀬川、
登米郡の方の
迫川、さらに歴史的に大きなものが
北上川の
堤防決壊であります。これは
岩手縣の方では一ノ
關町が完全に全滅されて、一ノ
關町の
住民のすべての人がほとんど二日間というものは
屋根の上で過した。新聞の記事によると赤ん坊を
屋根の上で生んだという話が出ております。その結果
北上川の
流水が及ぼした
災害というものは
ほんとうに
言語に絶するものがあります。私は
登米郡全體の
水害の
状態を見たのでありますが、氾濫した水の高さは大體一丈を越えております。そして
登米郡の中を流れている
迫川の
堤防を、内側から川の水が越していく。それでほかに行かれないところの
住民は、ほとんど
屋根の上で
食糧の補給を受けておるそれから
堤防の近くにおる
住民は、
堤防の上に
笹小屋を立てて暮しておる。二階建の家の人は二階から舟で出入りしておる。これが
登米郡の
状況で、大體これが四日ぐらい續いてお
つた。私が
行つたのは三日目でしたが、私が歸るときからずつと水が減りだして、もう三日も經てば大體窪地以外は水が引くだろう。少くも一週間もその
丈餘の水が停滯してお
つた。今度の水の流れてくる
状態を見ておると、これは今後の
河川の問題に關して重要な
参考資料になるだろうと思いますが、今度の
堤防は
上流から
決壊し始めた。
下流の方にくるに
從つてだんだん
決壊する。それで地元の
人々は
たけの
こ出水である。こう
言つております。先が細くてもとの方が太くて、だんだん流れてくるに
從つて堤防を破
つてくる。だから
上流から
決壊するので、その川の水を利用する水田というものは全部氾濫することになるわけです。そういう
状態が各
河川において行われた。それで
宮城縣だけの例で言うと、
宮城縣の
耕地面積のほとんど三分の二が冠水しておる。それで實は二十二日に
宮城縣の
知事に會
つたときに、
知事が私の顔を見たらすぐ涙ぐんで、やあ
只野さん、
宮城縣は遂に
消費縣にな
つてしまいました。こう言うのです。今まで一番の
供出縣、
移出縣が
消費縣にな
つたら、この縣民をどうして養うのか。
知事としては涙の出るのも無理のない話と思いましたが、私もそれを見てまことに感慨無量であ
つたのですが、
縣知事が涙を流して考えておる姿を見たときには、さすが
行政官の
苦勞をしみじみと感じましたが、われわれが
國民の代表としてこの
状態を考えて、やはりこれは命がけでやらなければならぬということを通感したのです。それでこうい
つたような
状態が各
河川に及んでおりますので、今後の
水害に關する根本問題は、先ほど
委員長からもお話がありましたが、
ほんとうにこれは
國家という大きな
見地に立
つて、專門的な、そうして
實際的方法を考えてやらねばならぬのではないかと
思つてきました。それでこまかいことは省略しますが、要すれば今度の
災害というものは、七月の
災害の何層倍であるかわぬからほどと
言つてよいくらいであります。たとえば
北上川の氾濫のごときは、
明治八年に一度あ
つたそうです。
明治八年のときは現在の
北上川の
提防よりも四尺低い
堤防であ
つたそうです。その四尺低い
北上川の
提防が
決壊して氾濫したときは、ある家の話ですが、
ちようど土臺石まできた。その
土臺石までというのを基準に家を建てたところが、今度のはそれから約六尺も水が高くな
つておる。
提防が
明治八年の
提防より四尺高くな
つておる。
北上川の
提防は約百間ほどの距離が
決壊しておるが、その水がほとんど全部
登米郡一圓にはいりこんだ。この水の量から考えてみると、とても
せんだつての水の比較じやない。ですから今度の
カスリン颱風の
慘害というものは實に
言語に絶するものがあります。話がとびとびになりますが、一の
關町のごときは、まさかくると思わないで家の中にお
つたために、そこへ突然の川の
決壊、それから
北上川の逆流、そうい
つたようなものが家の中にはい
つたために、殘
つておるのは
商店街であれば建物と
土臺と、
金物商とか
瀬戸物商ならば、そうい
つた品物が殘
つておるだけで、
あとは全部流しておる。そういうような
状態なので、これはとても想像できないほどです。まあ利根川の
決壊に劣らない
慘害が
北上川の
決壊によ
つて起されたと考えなければならぬのであります。
それでこの問題に關しまして、特に
現地側の
人々の
要求しておることをここで皆さんにお傳えして御參考に供したいと思います。先ほ
ども縣知事の話がありましたが、私は特に
宮城縣を見たので、
宮城縣に重點をおいてお話しますが、
宮城縣は
移出縣であ
つて、ほとんどあすこは
米專業です。
從つて米がとれなければ來年度の食うものはなくなるという結果、まず
食糧の問題について考えてもらいたい。それから
牛馬の
飼料が問題です。
わらが全然用いられない。
わらはごみがついたら全然
牛馬の
飼料に使えない。
從つて家畜の
飼料の問題を何とかしてもらいたい。それから現在の
堤防決壊七十何箇所とい
つたようなもののほかに、
山地帶の土砂の崩壊とか、そうい
つたようなものからいえば、これまた容易ならぬ
復舊にいろいろな費用を要します。こうい
つた關係で、
現地における
農民たちの
要望というものは
眞劍そのものです。食うこと、それから彼らの生命である
牛馬の
飼料の問題、また大雨が降ればどうなるかわからぬ。いわば
大穴があいておりますから、その
大穴を何とかして防いでもらわなければいかぬ。こうい
つたような
切實な問題がさし迫
つております。それでいろいろな點から
農村側の方で、今度の
災害地においては
要求しておりましたが、私が
水害對策委員、また
國土計
畫委員という
關係で、そのことを話しておりましたので、特に
國土計畫の
委員としてお願い申したいということで
言つておりましたが、二、三の
町村長の
要望のまとめたところを、ここに申し上げて見たいと思います。それは臨時緊急の
對策はもちろんや
つてもらわなければならぬけれ
ども、さすがに
地方の
農民たちも目ざめております。おそらくこのような
状態はここだけではないだろう。要するに山に木がないからだ。山に木がないから水が流れてくるのではなくて、
たけのこのように
上流から
決壊するのである。これは
國家として根本的に考えてもらいたい。これが
町村における
指導者の腹からの
要求であります。
從つてたとえば
河川問題も、ただ
堤防を強くするというだけではない。根本的に川の形を直してもらいたい。たとえば
迫川のようなものは恐しくうねうねしておりますが、これを
まつすぐに直してもらいたい。こういう
實例があります
迫川という
一つの川の例をとると、
迫川の
上流を開鑿して
川巾を
擴げて、それから
下流を
擴げた。ところがまん中に佐沼町というところがある。そこにきたときに川を同じ巾でも
つてくることができなくな
つた。町があるために
川巾を
擴げるというところまで考えが進まなか
つた。それをどういうわけか
國營事業が最初の豫定よりも半分の廣さにしてしま
つた。そういうことでは困る。
土地の買收問題とか、あるいは都市に住んでいるものが
農村の問題を考えないようなことがあ
つたりして、こうい
つたような
慘害を起すことになれば、これは容易ならぬことであるから、こういう問題は
國家の力をも
つて、
まつすぐにするものは
まつすぐにしてもらいたい。こういうことを
言つておりましたが、これはもつともだと
思つて感じてきております。要すれば
河川の
改修、あるいは曲折の除去、
狭隘部を
擴げる、あるいは河床を全面的に掘り下げる、
堤防の強化、これはもちろんのことでありますが、今
言つたように、
國土計
畫委員會のような權威のある場所で考えられることを、
國家の力をも
つて、多少のいざこざが起
つても、思ひ
切つて大膽な線を引いてもらいたい。こういうことが
地方人の非常な
要求であります。
從つてわれわれ
委員會の使命は、
委員會があるということ自體に對して、
地方の
人々が非常な期待をも
つております。そういう
意味において、私
どもはこの問題を
ほんとうに
眞劍に考えねばならぬものだと思いました。
それからこれは附随的な問題になるかもしれませんが、燃料問題と治水問題の
關係が出たのです。これは各
町村、殊に
山地帶の方の
町村長が率直に
言つております。どうも最近
東北地方からおもに薪炭をも
つていくような氣がする。これは私もはつきりしたことはわかりませんから言われないのですが、
水害地の山の木を
切つて都會地のたき物にされるということは實につらい。
水害地の山の木を切るということは、さらにまた
水害を増大することになる。
從つて山の木を切る場合にはよほど考えて、
國家的な
見地から立
つて燃料用の山の木を
切つてもらいたい。そういうふうなことを
言つておりましたが、これも
現地の人に言われてみて、私が成ほどそうかなと
思つてようなものでありますが、こうい
つたような話を
現地側で私に對しまして、特にこれを
中央に響かせてもらいたいというようなことを
言つております。もつともなことだと思いました。どのくらいの
災害をこうむ
つたか、それを
金錢に見積ればどのくらいであるかというようなことは、いずれ
あとから縣應の方からでも詳しく
報告があると思いますから、それは省略いたします。
ただ私最後に
實情を調査した結果考えたことは、先ほど申し上げましたことと重複するかもしれませんが、大體私は三つの案を考えております。それは根本的には抜本塞源的な
施策を實行しなければならぬ。そのためにはただ單に
素人意見だけではなく、純粋な
專門家の
知識を總動員して、それを思い
切つて政治力化して、大膽にならなければいかぬと思います。
一種の便宜やなんかと考えて、
專門家の
せつかくの研究を殺すようなことをしてはいけない。
專門家の
知識を
ほんとうに活かして、理論的にも
支障のない、堂々たる
治水政策を立てなければならぬのではないか、それが
一つであります。
第二番目に私の考えましたのは、これはま
つたく私の私見であ
つて、皆様の御
意見を十分お
聽きしたいことなのでありますが、要すれば各
河川を
中心とする
河川保護協會、あるいは
河川保護協議會とい
つたものをこしらえて、それが
府縣だけを單位としたものでなく、數縣が
連合體を組織してその川を守るという、何か系統立
つたもので、しかも
中央政府に依存するだけでなく、
地方の
府縣が合同して、その川の
流域民を結合して、その川を保護するという行き方をとる必要があるのではないだろうか。たとえば
北上川の
流域に住居し、
北上川の水によ
つてつくられた米を食
つておる者は、みなして
北上川を親と
思つて守るというふうな、
政治機構をここに新しく考えて、われわれの川を守ろうという氣持を起させる必要があるのではないか。そうでない限り、これは
一種の
幣風と思いますが、いつまでた
つても
中央依存の
幣風が
國民から抜けきらない限りは、
りつぱな治山治水は行われないものである。こういうふうに實は感じてきました。
それで結論としまして、私は今日の
中央集權的な
政治をむやみに強要しない、
地方分權的な
政治を徹底強化して、そうして
地方の
自治體に強大なる權力を一面與えて、そうして
地方の問題は
地方で解決するというところまでも
つていけば、治水問題もおのずから解決するのではないか。
日本が現在の
状態において、これから雨が降ればどの
土地も
洪水になるというような場合に、すべて
中央政府だけに任していかなければならないような組織、
機構にしておいては、とてもやりきれないだろうと思う。そういう
意味で、各
河川を
中心とした
合同協議會というようなものをこしらえてや
つていくことも
一つの案ではないだろうか。そういうことを
現地視察をしながら考えてまい
つたのでございます。
はなはだ雜駁なことで、
東北全般の
水害實情報告にはなりかねるかもしれませんが、以上を申し上げまして、わずかの時間でありましたが、
東北水害の
調査報告ということにいたしたいと思います。