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岩沢政府委員 今申し上げたような
應急對策は、大體資材が整えば著々と進行する見透しはついたのでありまして、すでに二十日から大體杭打ちにかか
つて、本格的にかかれば、私の見透しといたしまして、
荒水を切るのには、巾が
廣いものでありますから、締切りの長さも、
決壊口は三百メートルもありますから、どうしても遠まわしにして
淺いところからやらなければならないので、六百メートルくらいの
荒水を切るようになると思います。そういう
關係上最大限二十日あれば十分できるものと見ております。資材の供給が十分であれば人力は相當ありますし、また
内務省の手ばかりでは、できることはわかりますが、一刻を爭うという
關係上、民間の
建設力をこの際應援を
願つて、官民一體とな
つてこの
工事の
促進をはか
つておるような
状態でありますから、今申し上げたような豫想の時日よりも、以内においてこの
荒水を切ることができるだろうと思います。
次に今申し上げたのは
應急對策でありますが、しからばこういうような大
出水に顧みて、再びこの慘害を起さないという
一つの策を
内務省でも
つておるかというような御疑念がありはしないかと思うのでありますが、その點、について一言申し上げておきたいと思います。
利根川の
治水工事は、すでに
御存じの
通り四十三年から一應緒につきまして、
昭和二年に
完成をいたしたのであります。ところが
昭和十年に非常な
出水を來して、これでは現在の計畫の
堤防ではもてないということから、
昭和十三年にもう一度
對策を練り直して、十五箇年計畫として、一億圓の
豫算を
議會の承認を得まして、第一期として、五千
萬圓の十五箇年計畫の
支出が認められたのであります。その際において現在の
堤防を
かさ上げすることと、
船橋方面に取手から
放水路をつくるということが著しい
對策にな
つてお
つたのであります。ところが今囘の
出水によりますと、われわれが
從來昭和十年の
出水を基礎にして考えたことが、はたして妥當であるかどうかということを十分檢討しなければ、今のままでは非常な不安を感じておるのであります。それならば今
具體的にどういうような
對策をも
つておるかということに相なりますが、この點は今
漸次調査中でありまして、いずれまた
具體的な
根本策を決定いたしまして、その
豫算なり、あるいは處置については、皆様の御協賛を得たいと考えております。ただ私個人として今一應考えておることは、大
體山林地方の
砂防工事を完全にやることと、それから第二は、
上流地方において現在の
堤防をもつと鞏固にして
かさ上げをすることと、
栗橋下流においては、
江戸川にはいる水をもつと多くして、
下流に送りこむ、水を少くすると同時に、
利根川においては、渡良瀬川と
利根川が合流する
箇所が一番弱い。しかも一番大事な
箇所で、あの線が切れれば、昔から言われておるように、權現堂の堤が切れれば
東京の淺草、日本橋が水浸しになるというような歴史をも
つておる
關係上、あすこのたまり水はできるだけ早く
下流に流すというような意味から、
江戸川に相當の流量を現在流しておる。これを計畫水量よりももつと多く流す必要があるるではないかと考えております。それと同時に、
下流の
平地地帶においては、少々の雨が降ると
霞ケ浦の
水位の上昇で、低地の冠水という
状況が起るので、手賀沼と
印幡沼を連絡する
放水路の
完成ということが
絶體必要だと考えております。その他詳細のことについては今後の研究にまたなければなりませんが、今私が考えておる大體の構想はそういう線で進もうと考えております。
それから先ほど申しました
通りに、
昭和十年の
水害に鑑みまして、
利根川増補工事というものが現在進行しておりまして、
昭和十四年から實施して、今日まで五千
萬圓の
豫算の中で四千
萬圓ばかりはすでに
支出しておるのであります。つまりこの四千
萬圓の中で千五百
萬圓は今年度の
豫算でありますから、大體二千五百
萬圓が
昭和四年から二十一年まで
支出せられたということでありまして、その
支出はどういう
工事をやつたかと申しますと、大
體下流地方、あるいはまた
上流地方においても、比較的弱い所から
かさ上げをいたしまして、そうして水の出に
應ずるというような方法をと
つたのであります。しかしながら、われわれから見ますれば、
戰爭中漸次物價が暴騰いたしまして、のみならず、また一般に
御存じの
通りに、
戰爭中は土木に對する費用というものは、非常に少い
關係上、思うような
増補工事を進捗することができず、またわれわれが期待いたしておりました
放水路の
工事も、相當厖大な
工事のために、遂に現在においては
中止をしているやうな
状態であります。
なおこういうような
出水の時に、
水防はどういうようなことをしておつたかというような御質問があるだろうと思いますが、これにつきましては、すでに
出水期におきましては、
内務省といたしましては、
關係の
府縣に指令を發しましまして、その
水防の資材なり、あるいは要員を用意して、そうして各部署をきめてお
つて、常に
水防はやはり
關係府縣及びその當該の町村が受持つという
建前にな
つているのでありますが、何しろ今囘の水は深夜でありまして、この
決壊はほとんど十一時から十二時前後に行われたような
關係上、非常に
水防が
圓滑を缺いたという點は、非常にわれわれとしても殘念に考えております。
なおこの席上におきまして、一言附け加えておきたいことは、
上流から
漸次水が來まして、そうして
東京都内に水が來たにつきましては、
内務省はどういうような措置を
とつたか。こういう點について、一言申し上げておきたいと思います。この點につきましては、溢水の排除とかいうような問題は、これはやはりその管轄である
東京都なり、あるいは
埼玉縣の方において處理すべきものだとわれわれは考えているので、ただ
本川の防備とか、あるいは
治水というものは、
内務省においてこれは受持つのだという二つの
建前は嚴然として存在してお
つたのでありますが、こういう非常時においては、やはりセクシヨナリズムというものは、當然に脱却して、互いに應援し合うということはもちろんであります。しかしながら
出水の
状況が刻々に變化してくるのでありますから、それに應じては、やはり都にしても、あるいは縣にしても、相
當計畫性をも
つて、これに對處するだけの
事前工作は考えなければならぬとわれわれは
思つたのであります。そういうような
關係から、
東京都といたしましては
上流から流れてくる
水位が漸次上昇いたしまして、まず
葛飾區内の小
合溜、大場川線、いわゆる新聞によく書き立てられております
櫻堤において、一應上からくる水をせき止めて、そうして中川によ
つてこれを食い止めるという線を計畫せられたように思います。ところがだんだん
櫻堤において、
水位が高くな
つて、そうして東の
江戸川の
水位よりも高く
なつた。
從つてあの
江戸川の本堤を破壊すれば、少くとも増水してくる水だけは
江戸川の方に流し得るという見透しがついたので維
東京都から私のところに對して、本堤を破壊さしてくれという
申出が十七日の六時にありました。しかしながらあの本堤を破壊しますれば、對岸の
千葉縣に對して相當の
影響を與える
關係上、
内務省といたしましては、一應は
千葉縣の方の承諾を得るというような
手續をとりました
關係上、私が決心するまでは、大體一時間くらい、
千葉縣との折衝にかかりまして、遂に七時過ぎに
切つてもよろしいということを
東京都の方に
申出たのであります。そうして
東京都におきましては、ただちに破壊作業を行われたものとは私考えてお
つたのでありますが、どういう手違いか、破壊隊もその場にいないとかいうような話を聞いて、遂に進駐軍のごやつかいにな
つて、爆破作業を行
つて、そうして十八日の夕方ごろようやく通水した。しかるに
水位の方はだんだん上昇いたしまして、
櫻堤が十八日の午前二時ごろに溢流をいたしまして、三十メートルばかりまず
決壊し、その流勢が強いために遂に二百メートルくらい
決壊して、そうして
上流からくる水が順次南下したのであります。それからその南下した水が、やはり葛飾區、
江戸川區に押寄せたので、
東京都といたしましては、中川の
水位が上昇してのみきれぬというような
關係から、荒川
放水路と中川の左岸堤を切らしてくれという
申出が十八日にあ
つたのであります。そこでこの左岸堤を切るということは、この際緊急の策としては非常に策の得たものであることはわか
つておるのでありますけれども、何しろ荒川の性質として、もし今後降雨があつた場合において荒川の
水位が上昇した場合においては、この左岸堤の切落しの
箇所から荒川の水が逆に中川の方にはい
つて、そうしてまた葛飾區、
江戸川區の浸水
地域に押寄せれば慘害を二重にするということを考えまして、私はそれに對して相當躊躇をいたしたのでありますが、この點は結局一か八かやるかという點は、私ではなくて、やはり
東京都の決心いかんによることでありますが、そのことは十分都の方に申し上げて、そうして都の方ではこの際やる方がよかろうという決心がつきましたので、十八日の五時ごろ
切つてもよろしい、切ろうということにな
つたのであります。それからなお
上流からくる水はだんだんと押寄せまして、足立區の低地の方にまわ
つてくるという現象にな
つたので、足立區の方の水がまた荒川の方に押寄せてくるから困るというような
關係から、今度は足立區の四ツ木と堀切の橋の中間の、
放水路の大きな本堤を切開する。そうして足立區の水を出そうじやないかというので都長官と相談いたしまして、決行いたしたのが一昨日のことであります。そうして結局一昨日において
江戸川の本堤と荒川の
放水路の本堤とそれから左岸堤の三
箇所を
切つて、
上流からくる水を多少なりともその
方面に分流して
下流に行く水を少くするという策をと
つたのであります。そういう
關係から、私どもといたしましては本堤を切るということは今後における
災害あるいはその他の
影響が非常に大であるというような意味から、相當愼重に決心するまでには考えなければならぬために、皆様方からごらんになりますと、多少時期を失したというような御非難があるかもしれませんけれども、やはり責任ある地位におきましては、爾後における慘害も考慮に入れなければならぬという
關係から、時間的に多少遅れたということはこの際おわびを申し上げたいと思います。以上大體今日の
風水害につきましてあらまし御報告を申し上げたのであります。