○
淵上委員 ただいまの御
説明をよく伺いまして、私はなお納得いかぬ點がありまするが、後日またさらに機を得てお尋ねいたしたいと思います。もう
一つ大臣にお伺いしたいと思いますのは、國家の統制力という問題につきまして御所見を伺いたいのであります。先般
西田委員からこの
法案の
八條その他につきましてお尋ねがあ
つたのであります。憲法違反でないかどうかという熱心なる質疑應答が繰返されたのでありまするが、この
法案は私は
根本において命令、禁止、抑制、罰則を骨子とした、いわゆる國家權力を過大に期待したところの
法律だと、かように
思つているのであります。かように私はこの
法案を讀んでおります。この
法律は、要するに今申しましたように命令、抑制、禁止、罰則
——この間も私は
質問の際に申し上げましたが、權力というものがはたしてほんとうに
増産を期待し得るかどうかという問題であります。ロシヤのような人民を奴隷視いたしまして、パンと水とだけ與えて、ま
つたく自由というもりを與えない徹底した國家權力を發揮し得る國においてならいざ知らず、今日の
日本におきまして、はたして國家權力というものが
生産殊に
増産を期待し得るかどうか、私はそれはきわめてむずかしいことであると思うのであります。
生産はあくまでも人間の本能でありますところの營利の自由を認めて、その人間の創意、くふう、努力を促すという
方式でなければ、とうてい
生産の増加ということは期し得ない、かように私は思うのであります。
勞務者でもそうでありますが、餘分に働いて、働けば働くだけの報酬がなければ
増産はできないのであります。ただいたずらに權力の過大に依存していくことは、國家權力萬能
主義であ
つたか
つての軍國
主義を思わせるのであります。東條暴政を思い出させるにすぎないのであります。私が
商工大臣に特にお尋ねしたいのは、今日現在の
日本の國家權力の強さ、國家權力のほんとうの力がどれくらいの力をも
つておるかということをお尋ねしたいのであります。われわれの國家は、もちろん
舊來の封建的一切の制度思想を拂拭、清算しつつ、民主國家の
建設に著々歩武を進めつつありますけれ
ども、現在
民主化とか、あるいは民主
主義ということにつきましては、一般の
國民の
理解あるいは認識というものは、まことに遺憾の點が多いのであります。民主
主義といえば、亂暴狼藉、勝手氣ままなもののごとく、今日なお一般に解釋されている。
國民の國家に對する
責任感は、きわめて弱いのである。遵法精神は地を拂
つているとい
つてもよいくらいである。同時にまた、國家の
方面から見ましても、國家機構が順次に變革されており、行政運營のいき方が急激に變りつつありますために、國家の人民に對する統制力、權力というものは、きわめて弱いのであります。經濟統制違反のごとき、ま
つたく枚擧にいとまいくらいであります。やみ横行は
ごらんの
通りであります。われわれはやみ値は知
つているが、マル公の値段を知
つている
品目は一、二もあるかないかわからないという状態であります。どろぼうよけにセパードを二匹も飼
つている家でも、どうしてあの家は配給食糧であ
つているのだろうと普通
考えるのでありますが、一般の
國民は何とかや
つているだろう、かように評判しているような時世であります。ルートといい、値段といい、やみでなければ食
つていけないのが、ほんとうの
實情であります。たとえばタバコを見ましても、燒跡に葉タバコがりつぱに生育している。
生産價格の小さい、家の中での施設タバコ製造所がたくさんできている。東京驛初め都内はもちろんですが、全國各地にやみタバコの立賣りがたくさんある。しかるにタバコ專賣法は今日嚴然として存しております。許可なくして耕作、製造、販賣はできないことにな
つておりますが、專賣法違反であげられたことは、新聞記事にもほとんど見ない。殊に凶惡犯罪の跳梁跋扈にいたしましては、
ごらんの
通りでありまして、この検擧の實績のごときは、まことに寥々たるものであります。電車の運轉臺に乘るなということも、國家權力では禁止することはできないので、「進駐軍の命により」という
文句を使わなければらちがあかぬぐらいに、今日の
日本の國家權力は非常に弱いものであります。國家の統制力というものは、非常に薄弱なものであるというなさけない國情に今日なり下
つておるのであります。かりに國家權力がある程度強く行使できるといたしましても、經濟を国家權力が支配することは、これはまたきわめて困難な問題でありまして、これは戰爭中でも、軍部官僚がさんざん弱
つてお
つたことは、
ごらんの
通り體験濟みである。
石炭増産のために必要な
資金、
資材、勞務、輸送、食糧柱の各種の施策につきまして、今日まで國家や行政官廳が、國家權力、國家の統制力を十分に發揮できなか
つたことが、出炭の一大隘路とされておることは、すでに御
承知の
通りであります。この
法律によりまして、あるいは一年、一萬圓、三年、三萬圓なんかの嚴罰をも
つて、あるいは報告を徴し、あるいは臨檢をやり、あるいは設備の新設、改良、新坑開発、坑道堀進を命じたり、協力を命ずるというような規定がありますが、はたしてこの
法律を有效に施行するだけの國家の權力、統制力を今日
日本の國家がも
つておるかどうか。この
法律の建前から申しまして、強力な國家權力を發揮し得るような建前で、この
法律が立案されておるのでありますが、今日の
日本の國力として、國家の現状としまして、それほど強い國家權力を發揮し得る現状にあるかどうかを、
商工大臣にお伺いしたいと思います。