○
佐藤(達)
政府委員 前會本案と
憲法との
關係につきましていろいろ御
質疑があつたと思いますが、私よんどころない公用のために
出席いたしておりませんでしたので、御
質問の要旨を間接に聽いたのでありますが、それによりまして一
通りお答え申し上げたいと思います。
第一の點といたしましては、本
法案の第二十四條、すなわち醫者等を
救助の
業務に從事せしむることに關しての
規定は、
憲法第十
一條、第十
二條、第十三條、第十
八條等の
趣旨に照らして、
自由權の
侵害ではないかというような
お尋ねであると心得ております。まずその點に關しまして一應われわれの見解を申し述べておきたいと存じます。ただいま列擧されました
憲法の
條文、すなわち第十
一條、第十
二條、第十三條までの三つの
條文は、ここで
學校の講義のようなことを申し上げるまでもございませんが、
憲法第三章の大
精神をこの三箇條において示した
總論的の
條文でございます。すなわち
基本的人權の
尊重という
原則、しかしながら、この
基本的人權の
尊重は、第十
二條に明らかにありますように、濫用は許さない。また常に
公共の
福祉のためにこれを利用する責任を負うという、
わくのもとにおいて認められる
人權であるということの
趣旨を
規定いたしましたのであります。これらの
條文に引續いて出てまいります他のもろもろの
條文は、先ほど私が
總論と申し上げましたように、この
總論的の
規定を受けまして、
人權の
保障上最も留意すべき
事項を一々列擧したものであります。もとより
人權の
尊重というものは、後の
條文に出て來ますもののみに限るわけではございませんが、要するに第十
一條ないし十三條は今申しましたように、
人權保障の
基本精神を述べたものであります。この
具體的の問題に戻りまして、本
法案の第二十四條に、たとえば
土木建築工事の
關係者を
救助に關する
業務に從事させるということは、
關係者の
立場から言うと、
國家から一種の
強制力を加えられたということになりますから、その點でおそらくこれらの
憲法の
條文との
關係を御懸念にな
つたのではないかと思います。
憲法第三章の
趣旨は、ただいま申しましたように、
人權はもちろん
尊重する。しかしその
人權の
尊重は手放しの
尊重ではないのである。
個人々々の
人權を
尊重するのあまり、
公共の
福祉全體に大きな障害を生ずるというような場合においてまでも、
公共の
福祉を犠牲にしてまでも、
個人々々の
人權を形式的に
尊重するというような
趣旨でないことは先ほど申し上げた
通りであります。この
意味におきまして、
公益の
わくがあるということもそれに觸れて申し上げたところであります。
從つて本
法案のねら
つておりまするような
公共の秩序の保持、あるいは大きな
災害のために
罹災者の
立場の保全というようなもののためには、
法律をも
つてある特定の技術を身につけておる人をそのために奉仕してもらうということを
規定することは、一向
憲法の
精神に矛盾するところはないと確信いたしております。なお
憲法の第十
八條という
條文をお引きにな
つておるやに承ります。すなわち第十
八條、「何人も、いかなる
奴隷的拘束も受けない」。それから「
犯罪に因る處罰の場合を除いては、その意に反する
苦役に服させられない」。これと
業務從事との
關係はどうであろうかという御疑問もあろうと存じます。この
業務從事が
奴隷的拘束でないことは問題ありませんが、その意に反する
苦役ということに一體なりはしないかというのは、一應ごもつともな御疑問であろうと存じます。この
苦役という
意味につきましては、私も記憶いたしておりますが、前にこの
日本國憲法が貴
衆兩院の
委員會において審議されました際にも、一應問題にはな
つたのでありますが、ここに申します
苦役というのは、
本人の意に反する
勞役そのものを全部含むものではない。
本人の意に反する
勞役というものの中で、
通常人の耐え得ない
程度の、通常豫想し得ない
程度の苦痛を伴うものというふうにこれを了解しておるわけであります。
苦役の苦という字はそこを表わしたものであると信じております。
從つて本
法案の二十四條で
救助に關する
業務に從事せしめることができると言
つておりますのは、普通の人が普通の勞務に從事するという場合の
程度のものを大體豫想したものでありまして、この
憲法十
八條に申しまする
苦役というものには全然該當しない。これも
憲法關係の問題はないものと確信しておる次第であります。
第二點といたしまして、
災害救助法案の第十
二條、十三條、二十六條、二十七條の
規定は、
財産權の
侵害として
憲法違反ではないかというような御
趣旨の御
質疑があ
つたやに承
つております。この列擧せられました
條文を
二つの
種類にわけて
考えることができると存じます。第一の
種類は、十
二條、二十六條に掲げてありますような
物資等の
使用、
收用、管理という問題と、ただいまの
財産權の
保障との
關係はどうであるか、それが第一種の問題であると思います。それから第二種の問題、すなわち十三條、二十七條、これは同じことでありまして、いわゆる
一定の
場所に
立入つて檢査ができるという
一つの問題であります。この
二つの
種類に問題がわかれておると思います。これを一括して
お答え申し上げてよろしかろうと思います。この
使用收用等の問題は申すまでもございませんが、
財産權の
保障に關しまする
憲法第二十九條の問題であります。第二十九條は非常にいろいろ學者的の
考え方から言いますと、問題が多い
條文でございますが、少くともただいまの
法案に關する限度においては、
憲法上の問題はないものと
考えております。すなわち第二十九條の
最後の項に「
私有財産は、正當な
補償の下に、これを
公共のために用ひることができる。」という
條項にまさに該當するものと信じております。念のために申し上げますが、これを
公共のために用いることができるという、この用いるという
言葉について、多少お
疑いがあ
つたのではないかという氣がいたします。これも實は
憲法改正の際の
兩院の
委員會において御
質疑があつたところであります。
當時から
政府のと
つております
考えは、
公共のために用いるというのは、
公共の利益のために提供してもらうと言いますか、幅の廣い
意味で、すなわち取上げてしまうことはもちろんのこと、
公共のために
使用するということも當然はいる。また本來その
所有權なら
所有權者が自由に
使用し得るその
使用の方法を
制限することによ
つて、
公共のためにそれを役立たせてもらうという消極的な場合も、これは言いかえれば現在の
土地收用法においても、この
法律において
使用と稱するのは、
使用の
制限をも含むということを言
つておりますが、そういう場合も含んでおるものと了解しております。
從つてただいまの問題はこの第三項の問題であるのであります。これは
條文に明らかにな
つておりますように、
補償を與えることにしてございます。その點から申しまして、
憲法二十九條の
條項にそのまま適合しておるというふうに
考えております。
それからもう
一つ、第二のグループの立入りの問題でございます。立入りの問題は私どもはむしろ
財産權の
侵害という面よりも、その人の
居住であるとか、なんとかいうものを、侵すという問題に近い性格のものではないかと思います。この間も承りますと、むしろ
憲法の三十
五條に引きつけての問題のようにどなたかの御
質疑があ
つたやに承
つております。この點は
財産權の
侵害という面よりも、むしろ
そつちの方の問題ではないかとも思います。
財産權の
侵害ということになりますれば、結局今の第二十九條の問題で、これも
憲法上問題はないと私ども思いますけれども、三十
五條との
關係をあげてこられますと、辯明を多少必要とするような性質の
事項であります。三十
五條というものは、これはよけいなことかもしれませんけれども、これも
憲法の審議の際に
政府當局からはつきり申し上げておるのでありますが、この
條文の位置から申しましても、あるいは「
司法官憲」というような文字があるところから申しましても、主として
犯罪捜査その他
司法手續の
關係のことを言
つておる
條文でありますので、ただいまの問題は三十
五條を離れた
一般の
憲法第三章の問題として
考えなければならぬと存ずるわけであります。先ほど
ちよつと
最初に申し上げましたように、第三章はすべての
基本的人權にあたるもの、すべての
人權を各
條文に網羅しているわけではございません。先ほどの十
一條あるいは十
二條、十三
條等におきまして
總論的に一
應人權關係の網をかぶせてしま
つて、その網の中で顯著な典型的な、またいろいろな名目のもとに侵されやすいものを特にその後の
條文においてあるというわけでありますから、後の
條文にあた
つておりません
事柄は、先ほど申しました
總論的の
規定の問題となるわけで、
ちよつと例をあげましても。たとえば
一定の
報告を徴するというようなことも一種の
人權に對する
關係をもつのであります。そういう
事柄は
憲法の第三章の中に列擧してございません。そういう
種類のものはすべてこの初めの方の
條文の問題として扱う。でありますから一應
公益と申しますか、
公共の
福祉という
條件にあたらない限りはこれを侵すことはできない。この
公益の
條件、
公共の
福祉という
條件にあたる限りは、それを侵す場合には、というと
言葉はよろしくありませんが、それを
制限する場合には必ず
法律でやらなければならぬということは
憲法の
基本原則であります。
從つてただいまの立入りの問題というようなものは、その
基本精神の方の問題として考うべきものであるわけであります。たびたび申しますように、この
災害救助法のねら
つておりますところは、この
法案の第
一條にも明らかのように、
公共の
福祉というものを直接の
目當てにしての
條文であります。そういう場合の必要のために、やむを得ない必要によ
つて調査のために役人がはい
つてくるという場合にはそれを受忍する。忍ぶ義務を課する。これを
法律で課しまする以上は、何ら
憲法に
違反するものではないということになるわけであります。なおこの
法案におきましては、この立入りをいたします場合にあらかじめたしか通知をするというような、
手續もきめている。またいい加減の者がはいりませんように、必ず身分を示す證票をも
つていかなければならないというような合理的な
條件をも
法律自體で
規定しておりますので、それらの點を總合いたしまして、
憲法上
違反の問題はないというふうにこれまた信じておる次第であります。
最後に、これがかりに
憲法違反でないにしても、
民主主義のもとにおいては
不適當の
規定である。
いくら運用に注意しても、官僚の横暴を招くおそれがあるじやないかというような
お尋ねがあ
つたやに承知いたしますが、これは私などが
法律的の頭で御
答辯いたしますよりも、あるいは
大臣あたりから
お答え願つた方がよろしいかとも存じます。以上私の
お答えを一應終ります。