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曽野説明員 本日は
ソ連の
經濟機構とその
運營につきまして御
説明することに
なつておりますが、時間の
關係もございますので、ごく
簡單に皆樣の御參考になると思われます點をかいつまんで申し上げます。皆
樣御承知のように、
ソ連ではすでにいわゆる
社會主義經濟體制というものを完成しておると稱せられておるのであります。
事實革命直後一九二〇年のころまでに
土地とか大
企業、金融という
機關、
運輸通信機關、その他の主要な
生産手段というものは
個人の手から
國家または
公共團體の手に收められたのであります。そのようにしまして、その後一九三五年ごろまでには
農業の
集團化もでき上りました。また
國營商業の組織もでき
上つたのであります。このようにいたしましてほとんどすべての
生産手段は
國家の強力な統制のもとに、いわゆる計畫に基きまして
運營されることにな
つたわけであります。すなわち
資本主義社會が
利潤の
追求という
精神によりまして
運營されておるのに對しまして、
ソ連の
社會は計畫によ
つて運營されておるということになるわけであります。しかしながら
人間性の常といたしまして、たとえ計畫に基きまして
勞働を命ぜられましても、なかなか十分の
仕事をしないということは
當然あり得る點であるわけであります。
ソ連におきましてもやはりこの點に問題が存するわけなのであります。從いまして
ソ連邦政府あるいは
連邦共産黨といたしましては、
ソ連にはもはや
資本家の搾取はない、
從つて國民は大いに自覺をも
つて自分たちの
仕事に努力せねばいかぬということを
國民にしきりに教えておるわけであります。これがいわゆる共産主義的な
勞働精神の涵養という
言葉でいわれておるわけであります。しかしながらこのような
精神運動だけをも
つてしましては、とうてい急速に
人間性を引締めていくということは不可能であるわけであります。そこで
ソ連邦政府といたしましては、やはり
國家的ないしは公共的な
利害というものに
勞働者の
個人的な
利害を結びつけることによりまして、
個人の
勞働意欲というものを刺戟いたしまして、より多く働いた者より多く公共的な
貢獻をなした者に對しましてはより多くの報酬、より高い地位あるいはより大きい名譽というものを與える
方法を
とつておるわけであります。たとえば出
來高賃金制あるいは
工場や
企業間におきまする皆
樣御承知の
社會主義競爭、その結果勝ちました
企業に對しましては優勝旗を與える。あるいは
勞働營位、その他の勳章とか記章を與えるというような
方法を
とつているわけであります。しかもそれでも十分に精勤しない者に對しましては、行政的な
手段によりまして強制が行われているわけであります。たとえば缺勤とか遲刻とか早退とかいう者に對する處分は、ほかの國に類を見ないほど嚴重に行われているわけであります。
ただいま申し上げました
勞働能率の
増進策のうちで、本日は特に
個人の
利害心を刺戟することによりまして、
生産を増大させる方策を中心としました
ソ連の
經濟機構を御
説明いたしたいと思います。第一は
賃金の
制度と出
來高拂いの
制度について御
説明いたします。
ソ連におきましては
賃金は決して均一化平等化されているのではございません。
勞働者あるいはその他の
勤務員のそれぞれにつきまして職業の
種類と熟練の程度によりまして、
一定の
賃金がきま
つているのであります。そうして
勞働時間は現在一日八時間と定められておりますが、ただ漫然と八時間働いたのでは
規定の
賃金をもらえないのであります。すなわち一
勞働日當りの
作業基準量、
ノルマといわれておりますが、これが定められましてこの
ノルマの遂行が義務的であるわけであります。たとえばある
工場で八時間働きまして、この
ノルマを
ちようどうまく遂行いたしますと
規定の日給がもらえるのでありますが、もし八時間働きましても
ノルマの八割しか遂行できなか
つたといたしますと、
賃金も八割になるわけでありますが、
實際はそれよりも少くなるようなふうに定められております。これと反對に八時間の間に
ノルマを十二割つまり二割
よけいに遂行いたしますと、
賃金は二割増しになるわけでありますが、
實際はそれよりもさらに多くなるように定められている場合が多いのであります。つまり
ノルマ以上に働きました場合には出
來高單價が累進的に殖えていくという
制度に
なつているのでありまして、
一般の
國國の
出來高制度とはむしろ逆な形に
なつているわけであります。しかも
ソ連政府といたしましては年々
勞働生産性、
勞働能率を増加させるように努力しているのでありまして、たとえば
生産設備や
技術面の
改善合理化をはかり、あるいは
生産方法や
勞働組織の
改善をする。あるいは
勞働者の
技能水準を向上させるというようないろいろの
措置を
とつているのでありますから、
ノルマも毎年々々だんだんと強化されていくという
傾向にあるのであります。從いまして
勞働者といたしましては、毎年
自分の
能率をだんだんと高めていくというふうに
努カをしませんときは、
賃金收入の増加ということも容易に、期待できない。こういうふうに
なつているのであります。
一方
農業におきましても、これと同じような
制度を
とつておるのでありまして、たとえば
コルホーズにおきましては、
作業の
種類によりまして、一日の
作業量につきまして、やはり
ノルマが設けられておるわけであります。この
ノルマを一日で遂行した場合は一
勞働日ということになるわけであります。たとえば手で草を刈るわけでありますが、〇・二ヘクタールの
土地を刈りますと、それが一
勞働日という
計算になるわけであります。一日の間にその二倍を刈りますと、一日働いただけで二
勞働日というふうな
計算をされるわけであります。そういうふうにされまして、
コルホーズにおきましては、一年中の各
コルホーズの
勞働農民の
勞働日を
計算いたしまして、
按分比例によりまして
コルホーズの産物の
供出殘りの分だとかあるいは
現金收入を皆にわけるわけなのであります。從いまして
勞働日の多い人は
よけいもらうという
制度に
なつておるわけであります。
勞働日の
制度は最近におきまして、
コルホーズの收穫量と關連させまして、だんだんと強められていくという
傾向に
なつておるように見受けられるのであります。今申し上げましたように
ソ連におきましては決して各人が均等の
賃金で働いておるというわけではないのであります。多く働けば、またよりよい
仕事をすれば、それだけよい
生活ができるということに
なつておるのであります。まさに
ソ連憲法の第十二條をここらんになりますと、おわかりになると思いますが、十二條には、
ソ連においては各人その
能力に應じて、各人その
勞働に應じて、という
社會主義の
原則が實現されておるというふうにうた
つておるわけであります。從いましてこの
原則はただいま申し上げましたように、單に
工場の
勞働者やあるいは
コルホーズの農民についてだけ行われておるわけではないのでありまして、
ソ連の
社會全體についてもあてはめられるものであります。たとえばこれははつきりした數がわかりませんが、戰前の數を一
應とつてみますと、
一般の
弊働者の
收入は、月約四百五十ルーブルであ
つた場合に、
技手級の者は七百ルーブル、
技師級の者は千ルーブルというふうに
なつてお
つたことがあるのであります。すなわち
ソ連という
國家に對しまして、多くの
貢獻をなした者には多くの
收入を與える。そしてよりよい
生活をさせるということに
なつておるのでありまして、これは
ソ連の
立場から見ましても、現
段階におきしては、
當然であるというふうに考えられておるわけであります。
第二の問題は、
獨立採算制の問題であります。
ソ連の
國營企業は
國家から
生産計畫と資金計畫とを詳しく定められておるのであります。すなわち物と金との二つの面から、
國家から與えられる計畫を
忠實に實行するということが
ソ連の
國營企業の任務に
なつておるわけなのであります。しかし
個々の
企業はその
經營活動につきましては、
一定の
範圍で
獨立性をも
つておるというわけであります。ただ獨立の
收支計算によりまして
收益を
追求いたしまして
企業を
運營していくという仕組に
なつておるわけであります。これが
ソ連のいわゆる
獨立採算制といわれる
制度であるわけであります。すなわち
個々の
企業は
原料の購入だとか、あるいは
生産品の
販賣というものは、
原則として
自分の採量で行うことができるということに
なつておるわけであります。しかしここで附け加えなければなりませんことは、
ソ連におきましては、わが國の戰時中に見られましたような、各
企業間の
コーペレーション關係が發達しておるわけでありますので、なるほどその
企業は
原料を好きな所から買い、あるいは
生産品を自由に賣れという建前に
なつておりますが、
實際上の問題といたしましては、
個々の
企業が賣買の相手を選ぶ場合、は相當な制限があるということは
當然であるわけであります。このようにいたしまして、
個々の
企業は一應の
獨立性をも
つておりますけれども、
ソ連におきましては、
價格は
一般に國定
價格でありましす。いわゆる
公定價格であります。
原材料の
値段も
生産品値段もいずれも
國家によ
つて定められておるわけであります。後いまして
個々の
企業といたしましては、
製品の
販賣といたしのして、
資本主義國家で見られるような投機的な要素は見られないのであります。すなわち
ソ連の
企業といたしては、
國家のきめております
値段で
原材料を買いまして、
國家のきめておる
値段で
製品を賣るということになるわけであります。
それではそのような
状況のもとにおきまして、いわゆる
獨立採算制、
收益の
追求という
やり方がどんなふうにして行われてあるかということを御
説明したいと思います。
一つ一つの
企業を例に
とつてみますと、この企撃の計畫面を見ますと、その
製品の
價格は
一つ一つの
企業に
具體的に決定されております計
畫的な
原價、それから後に御
説明いたします
取引税、それからいわゆる
適正利潤に相當する計畫
利潤、この三つから
生産品の
價格ができ上
つておるわけであります。この中で
實際に
企業が活動する場合に
取引税というものは變らないのであります。計畫においても、
實績の場合においても、
取引税は
一定してとられるわけであります。
從つてこれは全然變らないのであります。ところが
原價の方は計畫の場合と
實際の場合とを比べてみますと、計
畫以上に
原價がかかる場合もありますし、あるいは計畫よりも安くでき上る場合もあるわけであります。從いまして
取引税は變らないのでありまして、
原價の方が動くわけでありますから、
利潤はその
原價と逆比例して動くわけであります。でき
上つた品物の
値段は
一定しております。
取引税は變りません。そうして
原價が
よけいかかれば
利潤が減ります。
原價が安くできれば
利潤は高くなる。こういうことに
なつているわけであります。但しその
企業といたしましては
利潤を高めるように努力するわけなのであります。これは今申しましたように、
原債を引下げるという
やり方も
一つでありますが、もう
一つの
やり方といたしましては、與えられた
生産計畫に對して計
畫以上に
よけい物をつくるということによ
つても、もちろん
利潤はできるわけであります。但し計畫
經濟の
ソ連でありますから、
生産量をやたらに殖やすということはなかなか容易でないわけであります。從いまして結局
企業といたしましては
利潤の増大ということは
原價をいかにして引下げるかというところに求められることになるわけなのであります。從いましてこの點に
個々の
企業の
關係者の
利害と、それからその
企業の成績を結びつけることによりまして、
生産能率の向上をはかるという
手段がとられておるわけであります。この
方法が、皆樣も御
承知の、いわゆる
企業長基金というものの
運營によ
つて行われるわけであります。この
企業長基金と申しますのは、先ほど申しました
個々の
企業の
利潤の中から、初めに
政府がきめまする計
畫的な
利潤の四%と、それから計
畫以上の
利潤を得ました場合の、その部分の五〇%というものの
ニ種類からでき上るわけであります。これが
企業長基金になるわけであります。そうしてこの
企業長基金の中の五〇%以上は、その
企業の
文化施設とか、
住宅施設に充てられるわけであります。その殘りが
企業長以下の模範的な
勞働者に對する
賞與だとか、あるいは各種の
福利施設、あるいはその他のプレミアム、そういうものに使われておるわけであります。すなわちある
企業の
關係者が大いに
能率を向上いたしまして、
生産費を引下げる。そうしてあるいはまた
生産計
畫以上に遂行する。こうすれば結局においてその
企業の
利潤は殖えるのでありまして、やがては
自分らの利益にもなる。こういうふうに結びつけられている
制度であるわけであります。
御
説明の順序が少し逆になりましたが、この
企業長基金と申しますものは、先ほど申しました
企業の
利潤の一部であるわけでありますが、それではその
利潤の全體がどういうふうに處分されるかということを御
説明しておきますと、
國營企業の
利潤の中から第一には
收益税というものが引かれるのであります。これはいわば
資本家であります
國家に對する配當でありまして、その税率は
企業の成續によりまして違
つておりますが、全體といたしましては
利潤總額の約五〇%ないし六〇%という程度であります。そしてその
利潤總額からこの
收益税と
企業長基金、この二つを取りました殘りはいわば
企業の社内留保
利潤として、その
企業の自己資金の中に入れられるのであります。そして擴張資金とか、あるいは運轉資金に使われるものなのであります。しかしながらこの
企業の資金というものも、やはり
國家全體が定めております資金計畫の一部にもちろん含まれることは
當然であります。
ここで先ほどちよつと觸れました
取引税について御
説明をしておきます。
取引税は一種の間接税でございまして、主として消費税であります。その税率は消費財には非常に高く、
生産財にはきわあて低く、また消費財の中でもぜいたく品に對しましてはきわめて高く、必需品に對してはきわめて低い、こういうふうにきめられておるわけであります。たとえば一九三八年度の税率を見ますと、石炭、セメント、船、こういうものは〇・五%であります。ビールは五九%であります。牛肉は七〇%であります。そしてさらにここで御留意を願いたいことは、この税率は
原價に對しましてかかるものではありませんで、その物の引渡す
價格の中に對する税率であるわけであります。たとえば一九四〇年度におきまする小麥の引渡し
價格は一ツエントネルにつきまして百二十ルーブルであ
つたわけでありますが、その中で
取引税率が八五・八%、つまり小麥の
値段は十・七ルーブル、
取引税の
値段は百三ルーブル、合計百二十ルーブルということになるわけであります。この
傾向は消費財
一般についても見られるところであるわけでありまして、あたかもわが國におきまするタバコと同じように、大部分は税金であるということが言えるわけなのであります。ここに
ソ連邦におきまする資本の蓄積の主要なる源泉が見出されるわけであります。それではこの
取引税が全體といたしまして、各
生産部門からどのような
割合でとられていたかということを御
説明いたしますと、一九三七年度におきましては、重工業の部門からはわずかに
取引税總額の一一・五%しかとられておりませんのに對しまして、經工業からは一四・八%食料品工業からは二七%、農産物の收買
機關からは三一・四%というような工合に
なつておるわけであります。これを換言いたしますると、
ソ連の財政
收入の最も重要なる財源に
なつております
取引税、たとえば一九四〇年度の歳入豫算におきましては、歳入總額の三一%を占めておりますが、そのほとんど大部分は農産物、食糧品、經工業品というような消費財からとられておると言えるわけであります。
第三に、
農業の機構について御
説明いたします。
ソ連におきましては全農家總數の九四%は
コルホーズ農家に
なつております。その播種面積の九九%以上というものは
コルホーズの
土地に
なつております。從いまして
コルホーズの
生産物をどのようにして集めるかということは、
ソ連の食糧政策上の最大の問題であるわけでありまして、それ以外の分はあまり大きな影響を及ぽさない。こういうことになるわけであります。
コルホーズと
一般にいわれておりますが、これは決して
農業だけに限られておるわけでございませんで、牧畜とか、漁業とかの
コルホーズもあるわけなのであります。ただ
一般的に申しまして、
農業の
コルホーズが一番多くて、有名でありますので、普通日本では
コルホーズを集團農場というふうな譯をつけておるわけであります。また
農業の
コルホーズの中にも穀物その他のものを主に
生産するものや、あるいは棉花とか麻などの工業
原料を主として
生産する
コルホーズもあるわけであります。
コルホーズは皆
樣御承知のソホーズ、國營農場と異りまして、多數の農家か集ま
つて組織した協同組合であります。
コルホーズには三つの
種類がございまして、コンムーンというものと、アルテーリというものと、トーズというものと三
種類があるわけであります。コンムーンと申しますのは
生産も消費も共同で行うというものであります。トーズは一部の作禁だけを共同で行うという程度のものであります。これに對しましてアルテーリというものはいわばその中間に位置するものでございまして、
生産の主要部分は共同化されておりますが、各人の消費
生活は各自の自由に委ねるという形のものであります。すなわち今の三つの形を見てみますと、コンムーンこそは最も共産主義の理想に近いものであるわけでありますが、
ソ連邦政府は現在の
段階におきましては消費
生活の共同化はかえ
つて惡平等を招いて、
生産意欲を減退させるという建前に立ちまして、今申しました中間的な形でありますアルテーリが最も適したものであるというふうに認めておるわけなのであります。從いまして現在の
ソ連の
コルホーズは殆んどこのアルテーリ型の
コルホーズであるということが言えるわけであります。
このアルテーリ型の
コルホーズにおきましては、農地には一切の境界を設けておりません。共同の耕作利用に充てられておるわけであります。このうちの一部は
コルホーズ農家の宅地附屬地といたしまして、
個人的な使用が認められておるわけであります。その面積は穀物地帶におきましては四分の一ないし二分の一へクタール以内、その他の地域におきましては一ヘクタール以内、というふうに定められておるわけであります。またトラツクターその他の
農業機械とか大農具あるいは役畜、こういうふうなものはすべて共同化されておるわけであります。ただその宅地附履地の耕作に必要な小さな農具と若干の家畜だけは、
個人の私有が許されておるわけであります。このようにアルテーリ型の
コルホーズにおきましては、主要な部分の共同化と一部の私的所有というものが竝んであるという點が特徴であるわけであります。そしてその今申し上げました宅地附屬地、あるいは各
個人のも
つております家畜、こういうものからの收穫物につきましては、供出の義務を果しました後には、その
コルホーズ農民は自由に虚分することができるというふうに
なつておるわけであります。
それではこの
コルホーズの收穫物というものはどのように處分されるかということを御
説明いたしますと、まず第一にどうしても出さなければなりませんのは義務納入の分であります。この義務納入と申しますのは、税金または地代として性格をも
つておりまして、そし
値段は必ずしも
生産費を償わないということが言えるのであります。但しその義務納入の
制度が適用されてておりますのは、穀物、馬鈴薯、牛乳、羊毛、肉類、皮革等でありまして、棉花その他の工業用の作物につきましては豫約買付
制度という
制度がとられておりをすが、今日はこの點は省略いたします。今穀物を例に
とつて申し上げますと、この各
コルホーズに對しまする義務納入量の割當は、
一つの
コルホーズのも
つております
土地全體の中から、ただいま申しました
一般的な豫役買付
制度の對象に
なつておる作物のつく
つてあります部分を除きました、全
コルホーズの全農地に對しまして、一へクタール當りといくらというふうに定められるのであります。しかもその一ヘクタール當りの義務納入量は、地域と作物の
種類によりまして細かくわけられているわけであります。從來は日本で申しますと郡にあたりますが、同じ郡の中にある
コルホーズにつきましてはいずれも同一であ
つたわけでありまして、その
コルホーズの個個の特殊的な事情というものは全然考慮されなか
つたのでありますが、本年の三月に至りまして、この點につきまして若干の改正が行われたのであります。それは戰時中及び戰後におきまして
農業機械が非常に缺乏しておりましたり、あるいは
勞働力が非常に不足しておりましたために、
コルホーズの
土地の利用率がだんだん低下してきたのは
事實であります。殊に大農地區、たとえばシベリヤとか、カザフスタン北部とか、あるいは沿ヴオルガ地方という
土地におきましては、
勞働力不足の打撃が非常に大きか
つたのであります。そのために播種面積がだんだん減
つてまい
つたのであります。そこで
ソ連邦政府といたしましては、このような
コルホーズに對しましてはある程度の特殊事情を考慮して、義務納入量をきめる、こういうふうにも
つてきておるように思えるのであります。いずれにしましても、今申しましたような
制度が行われております
關係上、
個々の
コルホーズとしましてはできるだけ
土地を遊ばせないで耕すことが有利であります。そこで收穫率をできるだけ多くすることが有利であるということになるわけであります。
次はトラクター・ステーシヨンの問題でありますが、この詳しい御
説明は省略いたしまして、要するにトラクター・ステーシヨンと申しますものは、
ソ連では、大きな
農業機械を
國家がプールして、そして
個々の
コルホーズの要望に應じてその機械カでも
つて手傳いをする、こういうことに
なつておりますが、それに對して
コルホーズとしては現場で支拂いをするという形になるわけであります。つまり先ほど申しました義務納入によりまして、いわば地代に相當するものを
國家に納める。トラクター・ステーシヨン――M・T・Sに對する現物の支拂いとしてお禮を出す、こういうことになるわけなのであります。そうしてここでもやはり先ほどから申しました
原則が貫かれておるのでありまして、そのM・T・Sに對する
コルホーズの現物支拂というものは、M・T・Sのや
つてくれました
作業の
種類、
作業の面積、それらが非常にこまかく
なつておりまして、どの
作業面積に對してどういう
作業をすればいくら現物支拂をする、そしてそれも收穫物に影響してくるわけでありますが、そういうこまかい
規定によりまして、
コルホーズはM・T・Sに現物で手拂いをする、こういうことに
なつております。
ただいま申し上げました義務納入とM・T・Sに對する現物支拂、この二つが
ソ連の穀物收買の最も大きな源泉に
なつておるわけでありますが、戰前におきましては義務納入の調達總量に對する比率というものは、當初は非常に高くて、たとえば一九三三年度におきましては七〇%もあ
つたのでありますが、その
割合はだんだんと小さく
なつてまいりまして、これに反しまして二番目のM・T・Sに對する現物支拂というものの比率はだんだん上
つていく、こういうふうに
なつておるのであります。たとえば一九三七年度におきましては、調達總量に對する義務納入の比率は三三・五%であ
つたのに對しまして、M・T・Sに對する支拂いの比率は三五%、こういうふうに二つの大きな收買の源泉の比率は同じように
なつてきたわけであります。いずれにしましても、結局
ソ連の
政府の必要としまする商品穀物の半分以上は義務納入と、M・T・Sに對する現物支拂によ
つて賄われるということがいえるのであります。
このようにいたしまして、
コルホーズは義務納入を遂行し、M・T・Sへの現物支拂を完了いたしまして、またもしその
コルホーズが種子を播きました際に
政府から種子を借りておれば、その分を返し、それからまた次の年のための種子を取除く、それから冬の間の家畜に對する飼料を保持する、こういうものを引きまして、そしてさらにその殘りの一部を萬一の場合の備えに
とつておく。あるいは
コルホーズ員の相互扶助に使う部分として
とつておく。こういう必要な部分を引去りましてその殘りを先ほど申しました
勞働日の
計算によりまして、
按分比例で
コルホーズ農民にわけるわけであります。また非常に餘剩が多い場合には、たとえば協同組合とかあるいは國營
機關に任意供出の形で賣るということも行われているのであります。また後ほど御
説明いたします。
コルホーズ市場へ賣るということもできるわけであります。つまり今までお話いたしました點から見ましても、結局
コルホーズ農民は多く働いて
勞働日を
よけいも
つておれば割當も多くなるというわけであります。
コルホーズ農民といたしましては、先ほど申しました宅地附履地の
生産物をも
つており、またただいま申しました
コルホーズからの
勞働日による分配というものももらえるわけであります。この中から
自分らの
生活に必要な物を除きまして殘りがあれば、それを
コルホーズ・マーケツトへも
つてい
つて賣るわけであります。この場合の
値段は自由
價格であります。そこでもうおわかりのように、
コルホーズ農民がよく働けば賣る量も多くなるわけであります。從いましてこのバザール市場の存在ということは、
コルホーズ農民の
生産意欲を非常に刺戟する。そこへ行けば
自分の物を賣
つて、ほしい物が買える。しかもそれは自由
價格であるということでありますから、非常に
コルホーズ農民の
生産意欲を刺戟する一方農村にあります餘剩物資を買集めることができるというふうな、
一つの非常に巧妙なる政策であるということがいえるわけであります。
第四番目に、商業機構と物價の問題を御
説明いたします。
ソ連の國内商業は商業省直轄の
國營商業機關によるいわゆる
國營商業と、協同組合商業活動と、ただいま申しました
コルホーズ・マーケットの三つから成立
つていると考えられるのであります。そのうちで
國營商業は最も基本的な形でありまして、大きな都市におきます商店網というものは、最近までこの
國營商業によ
つて占られてお
つたのであります。次に協同組合商業というものは、消費組合とか、あるいは廢兵組合というものが行う商業であります。そのうちの消費組合は全國的に消費組合全國連合會というものに統合されておりまして、主として農村に全國的な商店網をも
つているのであります。つまり最近までは都市においては
國營商業、農村においては協同組合商業、こういう形に
なつてお
つたのであります。この二つは國定
價格によりまして商業を行うものでありまして、この獨ソ戰爭が始まりまして
配給制が布かれましてからは、完全に
國家の
配給機關に
なつているわけであります。最後に
コルホーズ・マーケツトは先ほども申し上げましたように
コルホーズあるいは
コルホーズ農民が
自分の餘
つている物を直接賣るわけでありますから、その
値段は自由
價格であります。
今申し上げましたところからおわかりになりますように戰前の
段階におきましては、
ソ連の商業は固定
價格によるものと自由
價格によるものとの二本建に
なつていたのであります。しかもこの自由
價格によります
コルホーズ・マーケツトこそは、先ほども申し上げましたように、農村における餘剩物資を吸いつけると同時に、農民に必要な工業
製品を直接に供給するという使命をも
つてお
つたわけであります。この
コルホーズ・マーケツトの存在こそ
ソ連の市氏
生活に多大の潤いを與えていた大きな要素であると思われるのであります。しかるに獨ソ戰爭が始まりまして、
ソ連では一九四一年の七月の十七日から食料品と輕工業品の切符制が布かれたのであります。この切符
制度は各人の勤務先を通じて
配給されるのであります。從いまして何か職業をも
つて勤務先に登録されておるものと、戰時徴用令によ
つて特に
勞働の義務を免除されてお
つた若干の人だけが
配給されるわけであります。家庭でぶらぶらしておる者に對しては、
配給はないという建前に
なつておるのであります。食料品の
配給は、普通には五
段階にわかれておりまして、重
勞働者、輕
勞働者、それからその他の
勤務員、それから扶養家族の大人と子供というふうに
なつておるのでありますが、そのほかに軍人だとか、高級官吏、あるいは
企業長、
工場長、職場長、こういうふうな特別な役付のものに對しましては、特別の追加
配給があるわけであります。
機關手だとかあるいは治金
關係の
勞働者、こういうようなものに對しましては、特別な取扱いがされておるわけであります。また學校の先生だとか、科學研究員、學生、こういうようなものは輕
勞働者竝に取扱われておるわけであります。このように
配給制度も、その職業と地位によりまして種々この
段階にわかれておるということが申せるのであります。工業品の
配給について申し上げますと、やはり日本と同じく點數制に
なつております。その點數も、六箇月に對しまして、
段階がありまして
勞働者が百二十五點、その他の勤務者は百點、扶養家族は八十點というような
段階になるのであります。しかし
ソ連では、點數をも
つておるだけで買えるものは非常に少いのであります。おもな商品につきましては、點數と同時に
販賣指令書というものが必要なわけであります。この指令書はどういうふうに出されるかと申しますと、
官廳とか
企業などの
勞働組合
委員會が特に成績を上げた
勞働者、
勤務員、あるいは
政府の賣り出します公債を標準以上に買
つた者、こういうものにその
販賣指令所を與えるのであります。また學童とか妊産婦、病人などというものに對しても、特別の
販賣指令書が與えられるというとに
なつております。さらに軍人だとか教員だとか、あるいは科學研究員などに對しましては、特別の商店がありまして、そこの商店へ行けば
一般の商店よりも豊富に物がある。あるいはただいま申しました
販賣指令書を必要としない商品の
範圍が大きい。あるいはまた全然それを必要としない。こういうような優遇が與えられておるわけであります。
以上述べましたように、獨ソ戰爭が始まりましてから、
ソ連でも
配給制度が行われたわけでありますけれども、この
配給量というものはやはり
生活の最低限を充たすものにすぎなか
つたのであります。しかもスターリングラード以後戰況が
ソ連に
とつて非常に不利でありましたときは、決して
配給量が確保されていたとは言えないのであります。從いまして市民はいきおいコルネーズのマーケツトで不足分を補わなければならぬということに
なつておりまして、その
コルホーズのマーケツトの自由
價格というものが非常に上
つてきたというのは
當然であります。
一方
ソ連邦政府は一九四四年の四月の復活祭を前にいたしまして、新しく商業
價格による食料品店を開いたのであります。同年の夏には同じく商業
價格による工業品店も開いたわけであります。ここで商業
價格と申しますのはやはり固定
價格ではありますけれども、今までの固定
價格とは違いまして、非常に高いもの、最初は
コルホーズ・マーケツトの自由
價格のほぼ一割増というぐらいなように定められたのであります。つまりこれを御
説明いたしますと、
國家のつく
つております商業
價格店におきましては、とにかく
コルホーズ・マーケツトよりも品質も保障あるいい物があるわけでありますから、
コルホーズ・マーケツトより少し高目に
値段がついておりますが、大體のラインとしましては、要するに
コルホーズ・マーケットの自由
價格を基礎として、高い方の固定
價格をつく
つたということになるわけであります。たとえば砂糖一キロについて見ますと、普通の固定
價格二十五ルーブルというものに對しまして、商業
價格の場合は八百ルーブル、こういうような大きな差のついた二重
價格を布いたわけであります。こういうふうになりまして、
ソ連ではいわば二つの
種類の固定
價格と
一つの自由
價格、こういうものができたと言えるわけであります。ただいま申しましたように、高い方の固定
價格すなわち商學
價格は、
コルホーズ・マーケツトの
價格にマッチするものでありまして、いわば商業
價格というものは
コルホーズ・マーケツトの自由
價格を抑制する働きをなしていたということがいえるわけなのであります。その後だんだんと戰況もよくなりまして、
コルホーズ・マーケツトへの商品の出まわりは殖増えてまいりました。そうしますと
コルホーズ・マーケツトの自由
價格は下
つてくる。こういうことにな
つたわけなのであります。
ソ連邦政府はそれに伴いまして、商業
價格の
値段も下げてい
つたわけであります。そうしてそれ以來、數次にわたりまして毎囘二五%ないし五〇%ずつと値下げをしてい
つてい
つた。その結果といたしまして、昨年の夏ごろには、先ほど申しました砂糖一キロが、初め八百ルーブルでありましたのが二百ルーブルに下
つた。四分の一に下
つた。こういう
状況に
なつておるのであります。なおこの商業
價格におきましては、軍人だとか高級官更、あるいはその他の特別の人々、特にまた
勞働成績の優秀であ
つた者、こういうものに對しましては相當大きい割引率が認められておるわけであります。つまりよく働けばよりよい
生活ができるという
原則は、このラインにもあてはま
つておるわけなのであります。ただいま申し上げましたように、商業
價格と
コルホーズ市場の
價格とがだんだん下
つてまいります。おいおい本來の固定
價格――現在は
配給の
値段でありますが、
配給價格に非常に接近してまい
つたわけなのであります。これがいわば戰時中に施行しました切符
制度の廢止の臨時
措置であるというふうに考えられるのでありまして、現に昨年の二月には、
ソ連邦政府は昨年中にパンとその他の穀物の切符
制度を廢止する、それからまた來年中に切符
制度を全廢するということを申してお
つたようであります。但しこの點は、この前も御
説明したと思いますが、昨年度は四十年來の大旱魃でありましたために、未だ全然廢止の緒にはついておらぬわけなのであります。
ここで最後に、商業に
關係いたしまして各
工場に存在しておりまする
勞働者配給部、いわゆるオルスの
制度について御
説明いたしたいと思います。さきに述べましたように、
一般の
配給は最低量を保障しておりますが、とてもそれだけでは足らない。しかも戰時中におきましては、品不足のために最低
配給量もなかなか確保されなか
つたということがいえるわけなのであります。しかして
コルホーズ・マーケットの自由
價格は非常に高く
なつてくる。こういう
状況に對しまして、
ソ連邦政府は
個人及び
企業に對しまして空地を耕してよい、そこで菜園をつく
つてよいということを命令したのであります。そうしてその
企業部分につきましては、一九四二年五月にただいま申しました
勞働者配給部、オルスをつくらせたのであります。このオルスは
個々の
企業が經營しておりまする菜園、野菜畑あるいは牧場、そういうものからできました
生産品や、あるいはその地方の
コルホーズの餘剩
生産物というものを買付けまして、そういうふうな食料品で食堂を經營する。そして從業員に給食するというための
機關であります。初めはパンの切符を取
つて食わしておりましたが、だんだん切符なしでも食事を與えるように
なつてきました。そうなりますと、そういうふうな
工場に勤めております
勞働者は、
一般の
配給以外にその食事がとれるということにな
つたわけなのであります。またお祭りの場合なんかには、從業員やその家族に對して、その成績に應じまして、肉類その他の特別な
配給を行うということもや
つてお
つたわけなのであります。またさらにおもしろいことは、大きな
工場におきましては、いろいろな日用品をつくる職場を設けたわけであります。これはつまり古くな
つた機械とか、あるいは廢物にな
つた原料を使いまして、たとえばなべをつくり、あるいは農具をつくり、あるいはライターをつくる、こういうことを始めたのであります。そしてその一部を
政府に納入いたしまして、その殘りを從業員に分配する、しかもそれは結局においてやはり成績に應じて分配するわけであります。そういうふうな
制度も發達しておるわけであります。
以上大ざつぱでありますが、現在と
ソ連の
國營企業や
コルホーズが、どのような刺激劑によ
つて國家の必要とする
生産計畫を遂行しておるかというとうことを御
説明したわけであります。
要するに、
ソ連では、最初にも申し上げましたように、
社會主義經濟統制というものは完成したといわれておりますが、しかし
國家の強力な統制のもとに計畫
經濟が行われておるわけでありますけれども、その成功の裏には、やはり
人間性の機微をつかんだ功妙な方策がとられておるということは、見逃がしてはならぬと思うのであります。