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有田政府委員 御承知の通り、わが
國海運界の
現状は
船腹の面から申しましても、わずか百三十數
萬トンというきわめて貧弱な
状態であります。
戰前の六百
數十萬トンに比しまして、わずか二割
程度にすぎない、かように量的にも貧弱であります。しかもこの
船舶の七割というものがいわゆる戰時標準船で、戰爭中に急いでつく
つた粗惡なる
船舶であります。
あと殘りの三割はいわゆる在來船でございまするが、これまたその大
部分がいわゆる
老齢船、
お婆さん船でありまして、質的にも實にわが国の保有しておる
船舶は貧弱きわまるものであります。まず一口に申すならば、わが國の
海運は壊滅に等しい
状況であります。しかも
船主經濟の
立場から申しますると、今囘の
戰時補償打切りの問題に關連いたしまして、戰爭中沈没した船に對する
保險金をもらつておりましたが、これを全部とられてしまう。かような有様でありまして、
船主經濟の上からいきましても非常な
打撃を受けておるのであります。しかも
船舶は
開戰當時よりただちに
損害を受けておるのであります。沈んだ船の
保險金はもらうが、その
保險金でまた代船をつくる。またその船が沈む。いわゆる「おどる」と申しますが、一隻の船でも二倍三倍の
損害を受けるという結果に
なつておるのでありますので、
陸上のそれに比しまして
船主經濟は極端なる
打撃を受けておるのであります。一方
海員でありますが、
日本の
海運の強みは
海員であ
つたのであります。ところが
海員の戰時中における犠牲は
陸海軍人の比ではないのであります。非常に優秀なる
中堅船員を
失つたのであります。かように
船腹の面から申しましても、
乗組員の點から申しましても、また
船主經濟の面よりいたしましても、非常な
打撃を受けておる。これが
海運界の
現状であります。しからば
將來いかになるだろうということであります。もちろん今日は
マツカーサー司令部の
管理下におかれておりまして、百トン以上の
船舶は、つくることも動かすことも、わが方のみの自由にはならないのであります。全部
關係筋の
管理のもとにあるのであります。さような
關係上、
將來どうなるかということを私はここに輕々には申しかねる次第でありまするが、しかし私は
日本はいわゆる
海運國である。
四面海をめぐらしておる。しかも八千萬の
人口を擁して、僅か四つの小さな島に閉じこめられておる。しかもその小さな島の
天然資源というものは實に貧弱きわまるものである。どうしても、またどんな
開懇をやつて、どんなに
國内資源の
開發をやりましても、大局から見て
日本は
自給自足はできないと思うのであります。從いまして今後の
日本は海に出ずるよりほかに途はない。
日本が獨立國として
生存が許される以上は、今後は海である。かように
考えるのであります。從いまして
貿易が再開されましても、この
貿易の荷物を運ぶもの、これはどうしてもわが國の船でやらないと、いわゆる
貿易尻が合わない。
從來わが國の
海運でいわゆる
貿易外収入と申しまして、
外貨獲得の面に寄與したところが非常に多か
つたのであります。わが國のような貧弱なる國で、しかも諸
外國より物を入れなければ
自給自足ができない、かような
國柄におきましてはどうしても、海に伸びて、
貿易品も可及的にわが國の
船舶で賄つていつて、いわゆる足代をかせがないと、せつかく入れた
貿易品に對する見返りのものがない、
貿易尻が合わない、かようになるのであります。從いまして私は
日本の
海運というものは、これは
日本が
生存するための
絶對の
必需品と
考えるのであります。
アメリカの
海運というものは必要であるかもしれないが、私から申せばこれは
一つの
贅澤品じやないかと思う。
日本の
海運はどうしても
必需品である、
從つて日本が生きんがためにはどうしても海へ海へと伸びる、これが必然であると思うのであります。從いまして
將來のことは私は斷言はできませんが、
日本の獨立ということが容認される以上は、
日本の
海運はやはり伸ばさなくちやならぬ、また伸ぶべきである。おそらくこれは
關係筋におかれましても了解していただけるものとかように確信しているのであります。
さてしからばいかなる
船腹の
保有量をもつて
貿易再開を迎えるかということでありますが、これまた非常にむずかしい問題でありまして、今ただちに私は何
萬トンの
船腹をもつべきだということはここに發表することを差控えたいと思いますけれども、少くとも一九三五年から三十九年、いわゆる平時の
生活水準に立脚し、その後の
人口増加ということを加味して、
日本の國の
生存上必要なるもの、たとえば石炭が何
萬トン、
鐵鋼が何
萬トン、あるいは綿花が
いくらというように、それぞれの
必要量から
考えまして、その大
部分を
日本の船で運ぶ、こういう
建前で
日本の必要なる
船腹保有量を確保したい。かように
考えている次第であります。もちろんその
前提としまして、
戰前だけの
船腹をもつということは、あるいは不可能であるかもしれませんが、私は少くとも三分の二
程度は、
日本としていわゆる
經濟安定期に備えてその
程度の船は必要でないか、かように
考えている次第であります。
次に
國内航路として省
營航路とするか
民營航路とするか、こういう
お尋ねでありますが、私は
日本の
海運のあり方としまして、國内といわず、海外と言はず、大體その基調は
海運の特質から見まして、
民營ということを
前提とすべきものと
考えております。殊に
國際海運としての性格をもつて
日本の
海運は伸びていくべきものであると
考えておりますので、
企業形態の
前提としては
民營を
考えております。しかしながら今日の
段階におきまして、ただちに
民營できるかと申しましと、そう
簡單にはまいらない。
將來民營ということを腹にもちながら、
一つの
國家管理をやつていくというのが、現
段階における
海運の
企業形態の進み方であろうと思うであります。從いまして
國内航路につきまして
民營にするか、省營にするかということは、できるならば
民營を
前提としていきたい。
海運を培養する
意味において、また
海運を育てる
意味において、
民營ということを
前提としていきたい。しかしながら
民營では重要な
航路の確保ができない。われわれは極力
民營を
前提として
監督力を及ぼして、いわゆる完全なサービスの提供ということに努めたいのでありますが、
いくらわれわれが
監督をやかましく
言つても、どうしてもその要望に副いがたいというときには、これは好むと好まざるにかかわらず省營ということに相
なつていくと思うのであります。しかしできるだけ
民營主義を
とつて、
監督力でいきたいというのが今日の
考え方であります。
最後に
沈没船は
利用價値があるかどうか。こういう
お尋ねでありますが、
沈没船の中には相當優秀な船があります。全部の
沈没船が多額の
引揚げ費用をかけて、また修繕を
行つていいものばかりとは申せませんが、わが國の今日の
沈没船の中には、
引揚げてそれを利用する
價値のあるものが相當あるように
考えております。從いまして、
日本の今日の資材の
不足、殊に船の
不足という
立場から、なかなか新
造船もむずかしい、極力つくりますがそうたくさんの船ができがたい
状況にありますので、
利用價値のあると認められる
沈没船は、極力これを
引揚げまして、この活用をはかりたいと
考えておる次第であります。