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鈴木國務大臣 先日ただいままでの
隱退藏物資をめぐる刑事
事件について
報告をするようにという
お話があ
つたのでありますが、できるだけ取纒めて御
報告いたそうと存じて努力いたしたのであります。實は
新聞等に出てすでに久しくた
つているのでありますが、
實際問題として調べている方ではいい加減に調べて片をつけるというわけにいかぬものでありますから、一々その先その先とたぐ
つてまいりまして取調べを進めてまいります
關係上、いずれも取調べの途中にあるものが多いのであります。それでただいま詳細に全貌を明らかにするような御
報告ができないことは非常に殘念でありますが、せつかくの御希望でありますから、ここにその概略を取纒めて御
報告を申上げたいと思うのであります。ただ次の二、三の點についてお斷り申上げておきたいと思います。その一はここにいう刑事
事件の
範圍は全國の檢察廳が
事件を受理したものに限らなければならないということであります。從
つて新聞紙上に取沙汰されている
事件でも、檢察廳が取扱う以前に屬するものにつきましてはここに觸れないこととするのであります。その二は、
事件はこれを時期的にいうと、終戰から現在に至る間のものについて述べるのでありますが、通信連絡が不圓滑な
状況にかんがみまして、必ずしも迅速に
資材を集め得ているとは斷言しがたいのでありまして、また
隱退藏物資をめぐるいろいろな現象の中で檢察廳の取扱いますところはもつぱらそれが刑事上の犯罪を構成した場合のみ積極的にこれに臨む立場にありまして、犯罪
事實の確定にせ念せざるを得ない
關係上、
隱退藏物資の所在をたしかめるということ、すなわちその
摘發という點からすると、きわめてその一部分の角度の觀察に局限せられるということであります。次にその三としては、後に述べますように、いわゆる
隱退藏物資をめぐる犯罪は、隱退藏されている
物資そのもの調査の必要にもとずく各種の特別法規の違反としてとり上げられる場合は、統計的にも比較的把握しやすいのでありますが、廣くこういう
物資をめぐる犯罪ということになりますと、詐欺恐喝窃盗等の固有の刑法犯の中にこれを觀察しなければならないので、全國の檢察廳について、これらの刑法犯の
内容がどうのように
隱退藏物資と
關係をも
つているかということをたしかめた上でなければ、正確なことは御
報告できない
状況であります。殊に司法省としては、從來これらの刑法犯の
内容について
一つ一つ全部の
内容の
報告を徴する必要もなか
つたので、本
委員會の御要求に
應ずることができまする
資料は各檢察廳共にこれを十分に整えがたい
状況にあるといわなければならんのであります。從
つて私は全國の各檢察廳において若干の注目すべき
事件として
報告を受けたものの中から、
隱退藏物資をめぐる犯罪という概念に照して適當と思われまするものを拾い上げて御
報告を申し上げるほかはないことになりまする點を、とくと御了承願いたいのであります。
そこで
隱退藏物資をめぐる犯罪という概念そのもののもつ常識性からいたしまして、統計的なる
説明もはなはだ大ざつぱにならざるを得ないのでありまするが、まず順序として
昭和二十年八月終戰當時及びその直後の混亂時の犯罪の統計の
説明にはいることといたします。
ときの檢事總長は終
戰後一箇月にして全國の檢事長及び檢事正に對して、終戰に伴う經濟事犯
處理に關する件という九月十四日附の通牒を發しまして、終戰の混亂に乘じ軍需
物資の
處理軍需産業
關係の經理に關する不當の措置に對する嚴重なる檢察を命じ、その後數囘にわたりまして次長檢事からも
事件處理の徹底を指令したのでありまするが、年があらたまりまするとともに、司法、内務兩省打合せの上
昭和二十一年二月全國的に一齊取締りを斷行いたしましたるところ、食糧について申しますると、米二千三百七十石、麥九千八百二十四石、乾パン三百七十六箱、小麥粉千五百八十六袋、その他澱粉、雜穀、乾うどん、カン詰、乾甘藷等多量の物を營團に引渡す成果をあげたのであります。續いて二月十七日隱匿
物資等緊急措置令の公布とともに、同令違反の檢擧に乘出したのでありまするが、一應昨年六月末日までの
報告によ
つて、いわゆる放出資
關係の犯罪を概括いたしますると、こうなるのであります。
報告を受けた被疑者の人員は千六百九十名でありまして、この期間中に起訴せられたるものについて申しますると、豫審請求が二十七件公判の請求が三百十九件、略式の請求が四十六件とな
つております。この被疑者を職業別にいたしますると陸軍軍人が二百六十八人、陸軍の軍屬が百十三人、海軍の軍人が百六十九人、海軍の軍屬が六十五人、軍需
工場等の幹部が七十一人、同じく工員が五百二十五人、一般業者及びブローカーが百五人、消費者、農民その他が三百四十七人、また罪名別に分けますると窃盗が最も多く、その大部分は
陸海軍將兵や軍需
工場の職員、工員
たちが終戰時の混亂に乘じて諸
物資を不正に持出したものとか、またはこの
物資集積所附近の住民が集團的に盗み出したものなどでありまして、横領は軍人、軍屬が保管
物資を持出したり、または軍需
工場の職員等が
資材として支給され、または保管している
物資をと
つたり隱したりしたもの、あるいは
日本通運その他の倉庫業者等が保管
物資を横領し、
配給の衝にあたる
統制機關や官公吏が横領した場合も少くないのであります。そうしてこれらの
物資が他に渡りまするときは必然的にやみ取引とな
つて國家總動員法違反となりまして、このことを種にした詐欺等が行われたのであります。
さきに述べた隱匿
物資等緊急措置令の違反は同令に規定いたしておりまする調査
物資について所定の期日でありまする
昭和二十一年二月十日までの申告を怠
つたことが發覺する事例が普通の形態でありまして、これに類することは
指定生産資材在庫調整規則に至るまで各種の
物資にわた
つて設けられておりまして、これらの法令違反についてはいわゆる隱匿それ自體を
内容とする犯罪なのでありまして、司法省もこういう違反については一應の統計をも
つております。すなわち今これらの違反
事件について、
法律施行後今年六月末までの統計によ
つて檢察廳受理の被疑者數を
法律違反の類別に見すると、隱匿
物資等緊急措置令違反が千三十七人、生絲等の數量
報告に關する件違反が七百十八人、眞珠竝びに眞珠製品の取引の禁止等に關する違反が百十三人、臨時貴
金屬數量等
報告令違反が九人、絹織物檢査蒐荷令違反が二十二人、鉛の調査
報告に關する件違反が九人、パイプ類臨時措置規則違反が六人、生ゴム、ニツケル錫地金またはアンチモニー地金の調査
報告に關する件違反二人、
指定生産資材在庫調整規則違反二十一人、計千九百五十七人であります。
しかし以上申し上げましたところでは本
委員會御要求のねらいに對應していないと思われまするから、
隱退藏物資をめぐ
つて起りました一般犯罪について申し上げたのでありまするが、前に申し上げましたような
事情から申して特に
範圍を限定して統計を示すということに適しませんので、おもな
事件約十件について
事件の
内容に重きをおいて、ごくあらましの御
報告を申し上げて御參考に資したいと考える次第であります。
第一は皇國
復興協力會
事件、横領
事件であります。昨年三月二十日鹿兒島
地方裁判所の公判請求濟
事件でありまするが、被告人は元憲兵中尉でありまして岩村英夫、同人は勤務先の鹿兒島縣下某陸軍療養所から復員するに際しまして、
昭和二十年九月二十日ごろ米、澱粉、小麥粉、茶、わかめ、毛布、ふとん、かや、大なべ、食用油、木工具、鍛工具、電話機、電話線、エンピ、のこぎり、油脂、眞空管、自轉車、乘用自動車、貨物自動車、同附屬品、アルコール、ガソリン、その他多數の
物資を多量に
拂下げた名義で横領いたしまして、この數量も一々明らかにな
つておりまするが、何が
いくら、何が
いくらということを、あとで書面にお
手もとに差上げることにいたしまして、あまりこまかくな
つて長くもなりまするから、この數量を申し上げることは省略させていただきます。これを資本として皇國
復興協力會という團體をつくりまして、燒跡整理等の土木運送の請負業を營んでお
つた事件であります。
第二は徳川齊宏
事件、これは詐欺
事件であります。警視廳において檢擧後昨年十月進駐軍憲兵官に
事件を引繼いでおるのであります。本年六月十五日懲役二年及び罰金二萬五千圓の言渡しがありまして、目下執行中のものであります。被告人は
昭和十五年十二月に徳川齊宏を改名いたしまして、
連合軍特務協力捜査監、
日本公民黨總裁を名乘る者でありますが、徳川家達の甥と稱しまして、
連合軍最高幹部や宮家と昵懇であるように吹聽いたしまして、
連合軍最高司令部軍
政府長官官房長陸軍大佐フランク・キユー・グツトエル作成名義の
連合軍特務協力捜査員示達書なるものを作成いたしまして、
連合軍に直結して
隱退藏物資摘發事業を營む者のごとき
態度を示しまして、自己の衆議院議員立候補のための政治獻金、または
連合軍公認捜査がたることの身分證明書入手、運動資金等の名義下に、昨年三月ごろより八月ごろまでの間合計三十四萬九千圓を、終戰殘存
物資調査會長阿部彌吉ほか十數名より騙取したものであることが判明いたしまして、
事件を進駐軍憲兵隊に移しましたるところ、ただいま申し述ベましたような裁判があ
つたものであります。本人の申立によりますると、東久邇内閣の當時、總理の私設祕書となり、幣原内閣退陣の際は、第二次東久邇内閣の出現を企圖し、アチソン大使、マーシヤル衆議長、ダイク代將等を訪問した
事實があると申しまして、政治家とな
つて大いに伸びようとする希望を抱いてお
つたようであります。
第三は
復興物資全協連盟
事件というのでありまして、これも詐欺であります。昨年十二月九日靜岡
地方裁判所に起訴いたしまして、豫審にかか
つておるのでありまするが、被告人は大阪市に住居を有する清家義照であります。同人は
復興物資全協連盟という團體を設立いたしまして、みずからその
理事長となり、隱匿
物資を
摘發して戰災者援護會や農業會に衣料品、疊表等を斡旋すると稱して、同胞援護會本部の百五十
萬圓を初めといたしまして、
昭和二十年十月中旬から
昭和二十一年二月上旬ころまでの間静岡、沼津、濱松の各市役所、その他農業會、
會社等よりここに詳しい數字がみなあが
つておりまするが、これも御希望とあれば一々申し上げますけれども、後に文書にでもしたためて申し上げることにいたしまして、省略したいと思います。手附金名義のもとに四百三十一萬數千圓の金を詐取したものであります。彼は
情報によ
つて大阪方面に隱匿
物資たる綿布が數百萬ヤードあり、岡山縣下には疊表二百萬枚、相當の製品及び藺草があると確信しておると辯解しております。
第四は住友學
事件という業務横領
事件であります。昨年七月九日長野區裁判所に起許せられてお
つて、ただいま控訴中のものであります。被告人は住友學。彼は
昭和二十年八月下旬ころ東京陸軍被服本廠岡谷作業場松本裁斷班の組長として業務上保管にかかる陸軍軍需品用毛絲ほか二十九品目、これも詳しい品目の細別がありまするが、省略しておきます。合計四萬三千二百七十九點を相被告人方に運搬隱匿したのち、賣却
處分して上京し、賭博に耽
つていたものであります。これは一審の判決は懲役六年にな
つております。
第五は富士ゴム株式
會社事件で、物價投制令違反その他であります。本年四月二十二日靜岡縣警察部長から檢察廳に檢事
報告せられたものであります。本件は
戰時中陸軍獸醫
資材本廠の
注文により袋類を製造していた富士ゴム株式
會社が
工場擴張資金調達のために、手持の隱匿
物資たる麻生地百反、約五千三百九十八ヤードをブローカーにやみ賣りしたことが發覺したものであ
つて、この麻生地は
會社が軍から讓受けた當時は一ヤードわずか六十錢であ
つたのを、
會社はこれを一ヤード百三十圓で賣り、六十九萬餘圓の利益を上げたが、その後ブローカーが介在して
最後の買主が手に入れたときは、一ヤード二百三十圓とな
つておる
事實は、この種取引の特異性を如實に示すものと申すことができるのであります。
第六には新生協力會
事件、これは詐欺と恐喝でありますが、京都
地方檢察廳の捜査にかかる
事件であり、被告人は小沼儀市、同人は終
戰後綿布等のブローカーをや
つてお
つたが、昨年六月京都市内に海外引揚者、罰災者新生協力會なるものを設立し、みずからその
理事長となり、朝鮮人連盟保安隊と結び、大阪市
日本産業建設協會
理事長秋月琢磨、及び同協會纖維部長湯淺儀一等を威赫監禁し、綿布五萬反の提供を強要し、さらに百六十
萬圓の小切手を喝取した上、自分を通ずれば
隱退藏物資の拂下入手が確實であるように裝い、宣傳して、造船統制會勤勞者用
物資構買係を欺罔して綾生地等千百反の代金名義のもとに九十五萬七百圓の小切手を騙取したほか、同樣手段で約二十囘にほたり現金合計四百七十八萬五千圓を騙取したのであります。
第七には千葉教育會
事件。これも詐欺でありますが、本年八月十一日千葉縣警察部長から檢察廳に檢擧
報告せられたものであります。被疑者は第一物産株式
會社社長松葉彌熊ほか二名であ
つて、本件はオリエンタル物産株式
會社社長馬崎三次郎が常民科學研究所龜井貫一郎經營でありますが、この研究所で復員軍人軍屬の被服を洗濯して一組三百五十圓くらいで、
民間に
拂下げる旨を聞知したことをめぐ
つて起きた
事件であ
つて、千葉県教育會は本年四月、軍服四千著を
注文して、その代金名下に三百
萬圓を騙取せられておるのであります。
第八は安江
機關事件と言われるものでありまして、詐欺
事件であります。本年八月二十二日大阪
地方裁判所に一部起訴濟みのものであります。被告人は安江忠之助ほか二名でありまして、安江は安江商事株式
會社の社長であ
つて、
日本織物株式
會社より中央水産業會に綿布の讓渡方を指令した
商工省發行の讓渡指令書の寫しを利用して、その綿布を世話してやると欺いて、本年二月分から四月までの間に鳳産業株式
會社社長や帝國洋傘工業株式
會社社長等から契約金名下に二十五
萬圓を騙取したものであります。右のほか八名の被害者に對する約三百
萬圓の詐欺については、追起訴の豫定であると
報告せられております。
それから本年八月二十九日廣島
地方裁判所に同じく安江
關係が起訴せられたのでありますが、被告人は安江商事株式
會社社員鹿倉春雄ほか一名でありまして、鹿倉は財團法人更生同胞協力會の參與として京都市内の隱退藏
纖維製品の調査に從事していたところ、芳しくないので、本年四月から安江
機關の一員となり、安江とともに廣島縣下にまいりましたが、
隱退藏物資を發見することができないで、かえ
つて安江から資金の調達を求められましたので、キヤラコを
摘發して賣
つてやると稱して、本年六月山口縣萩漁業會及び松山市
加藤物産株式
會社松山連絡所から現金または小切手で会計六十七
萬圓を騙取したものであります。
第九は福井の人絹
事件であります。物價統制令違反その他であります。東京
地方檢察廳及び福井
地方檢察廳で捜査いたしまして、一部起訴濟みであります。被告人は福井縣織物
配給株式
會社社長酒井伊四郎等約二十名の多數に上るのであります。本件は福井縣織物
配給株式
會社及び福井縣織物工業協同
組合をめぐる人絹のやみ取引でありまして、いずれも表面は正規の
ルートを流すように見せて、その實
統制機關の役職員がその他位を利用してブローカーと結托し、すでに確證を得たものだけでも四十四萬ヤードに及ぶ取引を行いまして、裏面でやみ金の授金を
行つていたものでありまするが、これらの人絹は
生産者が隱匿していた。無籍物であ
つて、さらに今後の捜査によりまして、全貌が明らかになる見込であります。
第十は世にいわゆる世耕
事件と稱せられるものであり、本件は目下東京
地方檢察廳で捜査中で、全部完了しておらない
事件ですから全貌を申し上げかねるのでありますが、大體登場人物及び金錢の動きはこういうことにな
つております。
津田沼農業會ほか二十三圓體、これは千葉縣でありますが、財團人法人更生同胞協力會に金を渡し、それが二百三十
萬圓、水野繁彦のところにまい
つております。それから西田政雄という者から五十
萬圓、松田正から十
萬圓。また三加莊農業會、大豐富農業會から臼井富治に二百
萬圓。宇治山田の勞務共助
組合から臼井富治に二百三十九
萬圓、岐阜縣の農業會稻葉支部から百十
萬圓、江吉良農業會からは百四十四
萬圓、海津郡農業會の方からは百
萬圓、いずれも臼井富治に渡されているのであります。また孫聖文という者から中村清文に百
萬圓、岩手縣の輕米農業會から足立正雄という者に三百八十
萬圓が渡されているのであります。これが大體中會根幾太郎という者に集中せられていくのでありまして、ただいま申し上げました中村清文から中曽根幾太郎に百
萬圓、足立正雄から百三十
萬圓、水野繁彦から二百六十
萬圓、この臼井富治がもらいました數百
萬圓の中から大矢一市に三百四十
萬圓まい
つておりまして、その大矢一市から中曽根幾太郎に三百
萬圓い
つておるのであります。それから矢島徳太郎という者から挟間祐行というものに三十五
萬圓まいりまして、さらに挟間祐行から鹽月學という方にい
つておるのであります。鹽月學から内藤道之助、藤川文六から内藤道之助に二十
萬圓及び十
萬圓というふうにい
つておるのであります。それから中曽根幾太郎のところにはいりました金はまだ完結しておりませんから申し上げかねまするが、鹽月學のとこに百二十六
萬圓、辻嘉六に二百五十
萬圓というふうにい
つておる次第であります。
こういうふうに金が動いておるのでありまして、東京第二區から衆議院議員選擧に立候補して落選いたしました自由黨公認の中曽根幾太郎が、本年二月頃面識を得ました鹽月學及び藤川文六兩名から、當時内務政務次官であり
隱退藏物資摘發處理委員會副
委員長でありました、世耕弘一が、その
摘發にかかる軍衣袴多數を一着につき百圓の政治獻金を
條件として、一着六十圓乃至六十五圓の價格で
拂下げるということを言明したと聞知いたしまして、まず政治資金を獲得しようということを畫策いたしまして、その後ブローカー水野繁彦ほか數名から軍衣袴
拂下げを前提とした政治獻金名下に數百
萬圓の交付を受けましたが、
摘發物資である軍衣袴は皆無で、未だ一着の
拂下げもみていないということから捜査に著手するに至
つたのであります。
第十一は、山北町の
事件、窃盗と業務横領でありますが、横濱
地方裁判所小田原支部に起訴濟みであります。被告人は神奈川縣山北町町長田代彌市、同助役武井郡平及び合資
會社東海工業支配人神部北之助であります。本件は進駐軍から
日本政府に引渡された
物資、綿絲、短綿、撚絲、洋紙、水藥原紙、錫、
機械油、電氣銅、それから釘、石綿粉、屋根用フエルト、ブリキ板、ワイヤロープ等多量を搬出いたし、あるいは隱匿いたしたのであります。同町
民間で非常な紛議を招いた
事件でありまして、綿絲について言いますと、同町が得た量は二百梱以上に達すると
報告されております、
それからキヤラコ
事件というものがありまするが、目下東京
地方檢察廳において捜査中のものであります。被疑者は佐々木在久、大野圭演、泊利一、平山寅雄という者でありまして、佐々木は弊原男爵の甥であり、大野は朴烈の伜であり、泊は滿洲國高官であると名乘りまして、大倉喜七郎、中島知久平共有の無籍物のキヤラコ五萬七千反が桂公爵邸や野村大使邸の地下室に保管してあるが、大倉からこれを正規の
ルートによる賣捌き方を依頼せられていると稱しまして、G・H・Qの輸送證明書のごときもの及び朝鮮獨立促進青年同盟の加工委託及び輸送證明書を作成いたしまして、漆原徳藏ほか數名を欺罔いたしまして、代金名下に百九萬八千圓を騙取いたしまして、全部遊興に使用したことがわか
つておるのであります。
その他大分
地方檢察廳からの
報告によりますと、群馬縣太田市の舊中島航空機太田
工場に國際綜合大學を建設する資金獲得のため大藏、商工、内務、各省の拂下にな
つているキヤラコ、てんじゆく、サラシ、麻服地、ふとん、蚊帳、
日用品、雜貨、藥品、軍手、軍足、地下たび、軍衣袴、作業服、窓硝子、ジユラルミン材、鐵板等合計二十四億圓ぐらいあり、拂下先は公共團體に限るが、入用はないかと申しまして水産業會その他からは
注文を受けた者がありまして、あるいは連合總司令部が
日本キリスト教團擴帳費用に充當するため軍管理
物資中から物品を
拂下げることになり、既に三箇月前
日本キリスト教團が放出
申請をなし許可せられ、總司令部直屬米軍衣料仕立
工場主田邊某が約六、七十億圓程度の
處理をすることができるというようなことを申したということが言われているのであります。
それから隱匿
物資摘發權限あることを装
つた者の状罪といたしましては、去る七月十八日宇都宮
地方裁判所に窃盗罪で起訴されました井上登外四名のように、
摘發情報係と稱して各所の倉庫等を檢査し、賍品の所在を確めておいてから後日不良朝鮮人等と組んで貨物自動車を利用し倉庫破りを敢行して各種生地類、衣類、毛布等を多量に奪いと
つている事例がありまするし、また大阪
地方檢察廳の
報告によりますれば、
安本隱匿退藏
物資摘發隊員と稱する者の不審な行動に出ている數個の場合を示され、たとえば晝間の臨檢に加わ
つた者が夜間再び同じ家に現われて「晝間見せてもら
つた物資を賣
つてくれ、もちろんマル公とは言わない、即金で拂うから旅館で商談したい」などと申込んだ
事實等があるのであります。
こういうふうに引例してきた多くの
事件を通じて、私どもは次のことを知り得るのであります。すなわち
隱退藏物資ありとして金錢の動くところはほとんど皆詐欺漢の策動にほかならない、まことしやかに傳えられる誇大な嘘言はいろいろの臆説を生んでこれを冷静に考えてみますれば、ま
つたくばかばかしい狂態の現出であります。
以上によりまして一應の
資料に基くきわめてあつさりした
報告を申し上げたわけでありまするが、冒頭に申し上げましたように、その角度からする
資料がはなはだしく不十分でありまして、また犯罪捜査中に部分が少くないために、まことに簡略に過ぎるということは私といたしましても遺憾に存ずる次第でありまするが、御了承あらんことを希望いたすのであります。