○犬塚直史君 ただいま議題となりましたICC、
国際刑事裁判所のためのローマ規程の締結、そしてその関連法案につきまして、民主党・新緑風会を代表して、関係各大臣に質問いたします。
一昨年の三月三十一日、
スーダンの状況が国連安保理決議一五九三によってICC、
国際刑事裁判所に付託をされました。国連によると、二〇〇三年以来、ダルフールでは二十万人が虐殺され、合計二百五十万人が難民となっており、現在でも完全に国際的な支援に頼って生活をしております。
決議採択に当たって、当時安保理
非常任理事国であった我が国は賛成票を投じました。十二か国が賛成、反対ゼロ、そして
アメリカ、中国を含む四か国が欠席をしましたが、拒否権は行使されず採択に至りました。
外務大臣に伺います。
公然とICC、
国際刑事裁判所に対する反対を表明してきた米国が拒否権を行使しなかったのは、こうした場面で我が国の働き掛けもあったのでしょうか。ICCに対する米国の姿勢に変化の兆しを見る向きもあります。大臣の見解を伺います。
さて、昨年の夏、私は機会を得てダルフールのカルマ難民
キャンプを訪問し、医療団の皆さんと一緒に一週間寝食をともにいたしました。平穏だった村がジャンジャウィードと呼ばれる武装集団に襲われ、虐殺から逃れて
キャンプ生活をしているわけですが、現在でも薪を集めに
キャンプ外に出た女性たちが月に百人単位でレイプされるという報告もなされています。
滞在中、
スーダン人精神科医の行った現地調査に参加することができました。部族長に了解を取って、木の下などに二十人ほどが車座になり、質問票に従って
キャンプの生活の実情を語ってもらいました。身の安全、移動の自由がないこと、食料、水、医療、学校がないことなどが語られました。もちろん、この質問票ではICC、
国際刑事裁判所については触れられてはいませんでした。
外務大臣に伺います。
目の前の生死にかかわる状況を生き延び、長い時間が経過をし、和解が語られるようになるプロセスを通じて、我が国としてはどのような支援をお考えでしょうか。緒方JICA理事長が最近視察されたガチャチャなどの伝統的な和解方法と
国際刑事裁判所は今後どんな関係を持ち得るのでしょうか。また、真実和解委員会のような取組と
国際刑事裁判所はどのように補完をしていくんでしょうか。大臣の御認識をお聞かせください。
現地の医師には、目の前の病人を助けることはできても、紛争の原因を取り除くことはできません。ICC、
国際刑事裁判所は、許し難い戦争犯罪や
人道に対する罪を犯した個人を国境を越えて訴追、処罰することで、何をやっても許されるという不処罰をなくし、もって法の支配を実現しようとするものであります。
外務大臣並びに法務大臣に伺います。
ICCローマ規程採択後、二〇〇〇年にコソボと東チモールが、そして二〇〇二年に
シエラレオネ特別法廷が設立をされました。ICC発効後も、二〇〇三年に
カンボジア特別法廷がつくられました。
国際刑事裁判所と国際化された国内裁判所はどのような関係にあるのでしょうか。また、サダム・フセインが裁かれたイラク特別法廷は、ICCと比べてどのような違いがあるとお考えでしょうか。
さて、本年二月二十七日、ICCの検察官は、
人道に対する罪と戦争犯罪五十一件に関与したとして、
スーダン人道問題大臣とジャンジャウィードの指導者の名前を挙げ、証拠を予審裁判部に提出をいたしました。検察局は、
スーダンの元
内務大臣及び武装集団の指導者の両名を共犯として起訴するに足る証拠がそろったと発表し、会見の模様は全世界に生中継されました。予審裁判部は、これらの情報を総合的に検討して、召喚及び訴追開始の可否について判断を下すこととなります。
そこで、外務大臣に伺います。
今後、逮捕状が発付され、容疑者の逮捕などについて現地で十分な協力が得られない場合、我が国は締約国として今後どのような協力を行っていくんでしょうか。外務大臣の御認識をお聞かせください。
さて、我が国は、この条約を締結すれば百五番目の締約国となります。思えば、
第二次世界大戦後、事後法による勝者の裁きのそしりを免れることができないニュルンベルクと東京裁判の反省を踏まえて、国連のILC、
国際法委員会で議論が重ねられ、さらに、旧ユーゴ
国際刑事裁判所や
ルワンダ国際刑事裁判所の経験を経て、人類が初めて手にした常設の
国際刑事裁判所がICCであります。昨年来日されたドイツのカウルICC判事は、日本の加盟はICC設立以来最大の出来事であるとまで評しました。
外務大臣及び法務大臣に伺います。
東京裁判を経験した我が国がICCに加盟することにどのような歴史的な意義を感じておられるでしょうか。
さて、国際社会は、
人間の安全保障を外交の柱としている我が国の動向に注目をしております。我が国がICCを政策上どのように位置付けているのか、アジア諸国を含めた世界各国が重大な関心を寄せているのであります。というのも、常設の
国際刑事裁判所の設立の根底にあるものが、
人間の安全保障の理念そのものだからであります。
一九九八年のローマ規程採択に当たり、
国際刑事裁判所の管轄権をめぐって外交会議が紛糾したときに、収拾案を提示してその解決に大きな貢献を果たしたのは当時の小和田大使率いる日本代表団でありました。以来十年間にわたって我が国は国内法の未整備を理由に条約の締結を行わなかったわけですが、今回の法案を見る限り、十年間の国内法の法整備の結果とはどうしても思うことができません。
外務大臣及び法務大臣に伺います。
この法案の整備にどうしてこのように時間が掛かったのでしょうか。国内法の整備というのは単なる言い訳だったのではないでしょうか。
現在、ICC、
国際刑事裁判所では、十八名の裁判官のうち二名の欠員が生じています。地域代表性の面でもアジア出身者が不足しているのが現状であります。この二名の欠員のうち、少なくとも一名については本年十一月の締約国会議で補充選挙が行われる予定です。
そこで、法務大臣に伺います。
本年開催予定の補充裁判官の選出に我が国から推薦を行う意向はあるのでしょうか。また、判事選出に当たって、どのような基準、手続をもって最もふさわしい人材を選ぶおつもりか、お伺いします。
御存じのように、現在、アジアはICC締約国が最も少ない地域となっております。
オセアニアを除くアジア地域では、二十四か国中わずか五か国が締約国という有様です。しかし、この批准した五か国のうち、我が国が積極的に
法整備支援を行った結果、見事批准にこぎ着けたのが
カンボジアであります。
外務大臣に伺います。
日本がアジアにおけるICCの普遍的管轄権達成の推進役となるためにどのような方策をお考えでしょうか。例えばカナダでは、施行法を発布するとともに、外務省などを通じて批准ガイドのようなものをキットとして無償配布したといいます。アジアで日本が求められているのもこうした心構えだと思われますが、我が国はそのような取組の準備と意思をお持ちでしょうか。
さて、
人間の安全保障という言葉は、一九九四年に国連開発計画が使い出して有名になりましたが、一般化されたのはまだ最近のことであります。しかも、この言葉はICCのためのローマ規程起草時にも想起されており、規程の採択と並行して
人間の安全保障の概念も発展及び一般化したと言うことができます。
その一方、二〇〇五年の国連サミットで保護する責任という概念の枠組みが国際的に認められました。国家主権には国民を保護する責任が伴うということ、そうした責任が果たされない場合、例えば九四年の
ルワンダにおいては百日間で八十万人が虐殺されたと言われていますが、ある国家が当該国民を保護する能力も意思もない場合、国際社会がこれに代わって被害者を保護することがうたわれております。
国際刑事裁判所及び保護する責任という概念は、ともに
人間の安全保障政策の重要な要素を成すものであり、今後我が国においても政策の基礎に据える理念として研究すべきものと考えますが、外務大臣の御認識を伺います。
ICC、
国際刑事裁判所の制度を実効的かつ普遍的なものとするために重要な役割を果たすのに、ICC特権免除協定、APIC、エーピックと呼ばれる補完協定があります。
この協定は、ICCの裁判官、検察官、書記などに対して外交使節長と同等の特権及び免除を享受する権利を保障するものであります。ICCは国連の機関ではないために、一九四六年に採択された国連特権免除条約と同等の法人格を保障するための協定であります。
我が国は、この協定について、ローマ規程と同じ九八年七月十七日に採択された最終合意書においてその草案の作成に賛成をしております。この協定に対する我が国の今後の取組を外務大臣、法務大臣に伺います。
さて、ICCにはこれまでの国際司法機関にない特徴として被害者信託基金が設けられております。現在、基金の規模は二百三十七万ユーロ、約三億七千万円となっております。この基金の目的は、紛争などによって破壊された日常を取り戻すための救済と補償にあります。当然支援すべきものと考えますが、この機構に対する我が国の姿勢を外務大臣に伺います。
御存じのように、ICCのためのローマ規程を米国は締結しておりません。しかし、その前身となるICTR、ICTYの設立に当たっては米国は大変大きな貢献をしたほか、ローマ規程採択会議でも、補完性の原則に関する厳格な適用、そして修正手続規定、犯罪人引渡し及び協力に関する均衡の取れた手続規定などの分野でその発展に大きな貢献をいたしました。米国のICC加盟は正に機能する
国際刑事裁判所にとって不可欠のものと言えます。我が国は同盟国として米国のICC加盟に今後どのような働き掛けを行っていくのか、外務大臣の御決意をお聞かせください。
さて、昨年十二月に二日間にわたって
憲政記念館で開催されましたICCと
人間の安全保障のための国際会議では、我が国の超党派
国会議員のほか、多くの関係各位の御協力により、世界五十九か国、百四十二名の
国会議員が日本を訪れ、フィリップ・キルシュICC所長も含め、参加者総数が三百十二名という大規模な国際会議となりました。
スーダン、
アフガニスタン、イラクなどの議長を含む多くの紛争当事国も参加をし、ICCと
人間の安全保障に対する各国の希望と日本の活躍に対する大きな期待を感じさせました。ICC、
国際刑事裁判所設立は、力の支配から法の支配へと向かう国際社会の歴史的な前進であり、今回の日本の加盟には各国の期待が集まっております。
今週はICJ、
国際司法裁判所のヒギンズ所長が来日をされ、一昨日は国連大学において法の支配と市民社会という講演が行われました。ICJは国家をその司法の対象とする国連機関であります。原爆の使用を原則的に違法とする勧告的意見を明らかにするなど数々の貢献を行ってまいりました。
一方、ICCは、個人をその司法の対象とし条約によって二〇〇二年に設立された国際機関であります。二〇〇九年の規程見直し会議においては、原爆を含む
大量破壊兵器の使用、侵略、テロなどをローマ規程の罪刑に含めることも検討されることと思います。日本が今後締約国としてこうした場において大きな活躍を続けることを確信するものであります。