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1952-04-22 第13回国会 参議院 法務委員会 27号 公式Web版

  1. 昭和二十七年四月二十二日(火曜日)    午前十時五十一分開会   ―――――――――――――  出席者は左の通り。    委員長     小野 義夫君    理事            伊藤  修君    委員            左藤 義詮君            長谷山行毅君            岡部  常君            内村 清次君            吉田 法晴君            齋  武雄君            一松 定吉君            羽仁 五郎君   政府委員    法制意見長官  佐藤 達夫君    法務府法制意見    第四局長    野木 新一君    民事法務長官総    務室主幹    平賀 健太君    法務府民事局長 村上 朝一君   事務局側    常任委員会専門    員       長谷川 宏君    常任委員会専門    員       西村 高兄君   説明員    最高裁判所長官    代理者    (事務総局民事   局長事務取扱)  鈴木 忠一君    最高裁判所長官    代理者    (事務総局刑事    局長)     岸  盛一君   ―――――――――――――   本日の会議に付した事件 ○平和條約の実施に伴う民事判決の再  審査等に関する法律案(内閣提出、  衆議院送付) ○平和條約の実施に伴う刑事判決の再  審査等に関する法律案(内閣提出、  衆議院送付) ○日本国とアメリカ合衆国との間の安  全保障條約第三條に基く行政協定に  伴う民事特別法案(内閣提出、衆議  院送付)   ―――――――――――――
  2. 小野義夫

    ○委員長(小野義夫君) これより委員会を開きます。  本日は先ず平和條約の実施に伴う民事判決の再審査等に関する法律案、平和條約の実施に伴う刑事判決の再審査等に関する法律案及び日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障條約第三條に基く行政協定に伴う民事特別法案、以上三案を便宜一括して議題に供します。御質疑のおありのかたは御発言を願います。
  3. 伊藤修

    ○伊藤修君 先ずこの再審の民、刑二本についてお尋ねいたします。この法案におけるところの再審の意義ですね、これをお伺いいたしたい。
  4. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 法案におきまする再審の意味でございますが、講和條約第十七條b項に基きまして、裁判の再審査の義務を負うことになりましたので、この再審査といたしまして、本法案のような再審の手続をとることにいたしましたわけであります。この再審は実質的の性質といたしましては、民、刑訴訟法における再審を考えておるわけであります。ただ刑事につきましては、法律の改廃その他いろいろの特殊の事情がありますので、刑事訴訟法の再審の手続に或る種の変形を加えた手続を考えておるわけであります。そうしてこういう構造にすることによつて、十七條b項の再審査の要求を満たすことができるものと考えたわけであります。
  5. 伊藤修

    ○伊藤修君 そうするといわゆる刑訴、民訴で言う再審と同様の意味であるという御答弁であるようにお伺いしますが、そうすると、例えば刑事の場合において軍法会議や何かはこの場合に入るのですか。
  6. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 軍法会議につきましては、やはり憲法上の裁判所でありますし、日本国の裁判所として、日本の内地にあつた軍法会議につきましては、ここに含めて解釈するのが相当と考えております。
  7. 伊藤修

    ○伊藤修君 そうすると軍法会議の場合においては、再審の管轄はどこになるのですか。
  8. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 軍法会議につきましては、軍法会議はそれぞれ廃止当時後継裁判所というものが指定せられておりまして、例えば東京にあつた軍法会議の後継裁判所は、復員裁判所を経て当時の東京刑事地方裁判所、それが裁判所施行法等によりまして、現在は東京地方裁判所と、そういうようになつておりまして、而も裁判所法の施行関係の法令に基きまして、元の裁判所で受理した事件は、その新らしい裁判所法による裁判所の受理した事件とみなすというような規定がありまして、順次軍法会議でやつた事件の再審等は、例えば東京の現在の地方裁判所が扱うといつたように、順次後継裁判所という観念で事務の引継ぎが行われておることになつておりますので、その裁判所がこの再審を取扱う、そういう構造になつております。
  9. 伊藤修

    ○伊藤修君 そうするとこれはまあ民事の場合と刑事の場合と法文の建て方が違いますが、表現も違つておりますが、民事のほうは別に何とも言つてないあたかも判決を以てするというふうにも見えるのですが、刑事の場合は申請という表現を使つておるのですが、一体裁判をするつもりか、決定をするのか形式はどういうのですか。
  10. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 民事と刑事の再審査の法案の用語は多少違つて来ております点は、民事訴訟法と刑事訴訟法との表現が違う点があるのでありますが、それが延いて法案にも響いて来ておるわけであります。而して刑事の再審におきまして決定であるか判決であるかという点につきましては、刑事につきましては刑事訴訟法の再審査を開始するかどうかという場合には、民事と異りまして、再審開始決定という段階があります。再審手続を開始するかどうかにつきましては、再審開始決定が開始した後につきましては、それぞれの審級に従つて審判をして最後は判決をする、そういうことになるわけであります。
  11. 伊藤修

    ○伊藤修君 最終は判決で以てするとおつしやるのですが、そういうことはこれでわかるのですか。
  12. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) その点につきましては刑事につきましては第六條、民事につきましては第三條の二項におきまして、刑事につきましては刑事訴訟法、民事につきましては民事訴訟法の規定によるということにいたしましておのずからその規定がここに被つて来るという関係で、あとは民事、刑事の再審の場合と同じように動いて行く、そういう考え方をいたしておるわけであります。
  13. 伊藤修

    ○伊藤修君 そのことは法文を見ればわかりますが、どうも法文の書き方によりますと、民事のほうにおいては訴えを以てその申立ができるといつておる、不服申立について訴えをするというふうに一応とれるのですね。刑事のほうで見ますと、請求することができるといつておるのです。この相違はどうですか。
  14. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) その点も民事訴訟法と刑事訴訟法の現在の再審の規定の建て方が、といいますか、文字の表現が違つておりますので、民事におきましても普通の再審も再審の訴えを以てするということになつております。刑事につきましては訴えという言葉を使いませんで、再審の請求という文字で旧刑訴も新刑訴心いつておりますので、それに合せたというわけでごごいます。
  15. 伊藤修

    ○伊藤修君 これは我が国の従来の民訴及び刑訴の手続ということになると再審は一審ですか。
  16. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 再審は、例えば刑事の一審判決に対して再審の請求があつた場合におきましては、その一審判決をした裁判所が再審裁判所になりまして、再審を開始するかどうかを決定し、再審を開始しましたら、その裁判所がその審級の手続きによつて事件を審理いたします。そうしてそれに判決がありますと、今度はそれに対して控訴、上告ができる、訴訟法の許すところに従つて控訴、上告ができる。そういうように普通の再審がなつておりますので、これもそれと同じように考えておる次第であります。
  17. 伊藤修

    ○伊藤修君 この再審の結果、地位の回復又は救済手続は、別に法律で定めると言つておるのですが、どういうような構想を持つておられますか。
  18. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点につきましては、地位の回復といたしまして、殊に民事等におきましては、物の返還という場合がときによつて考え得られますので、又刑事におきましても、実際問題としては少いかも知れませんが、例えば没収した物があるならば、それを無罪になつた場合には返してやる場合があるのではないかというようなことを考えまして、物の返還というような点のところ、その点につきましては、連合国財産の返還等に関する法令がありますので、それに準じてこの手続規定を定めたいという点が一つと、それから金銭賠償するような場合につきましても、いきなり賠償の訴えを起すということにいたしませんで、一応政府側と折衝して、和解のような話合いができるならばそれで話合いをしたいということ。それから「地位の回復」又は「公正且つ衡平な救済を與える」という点は、地位の回復になるか、或いは金銭賠償にするかにつきましては、日本側にどちらを選ぶかという、選択権と申しますか、そういう権利があることを前提といたしますので、どちらでやるかというような点をきめる手続、そういうものを、この地位の回復、救済の手続については、別に考慮されるという点で定めたいと思つております。それにつきましては、先ほど申上げましたような、連合国財産の返還に関する法令等を参酌して、大体それに傚つたことを考えて行きたいと思つております。
  19. 伊藤修

    ○伊藤修君 この四條の二項に、「前項の場合において、訴訟の当事者その他他にその損害について責に任ずべき者があるときは、国は、これに対して求償権を有する。」これはどういう場合が想像されるのですか。
  20. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 民事の再審査法案の第四條第二項によりまして、当事者以外で、損害について責に任ずべき者というものは、非常に例外の場合で少いと思いますが、一番適例といたしましては、例えば日本人が原裁判の結果として、連合国人から取上げて占有中の家屋を第三者が不法行為によつて滅失せしめたというような場合の第三者、そういうようなことがここに考えられるわけであります。
  21. 伊藤修

    ○伊藤修君 いやしくも国が権限を持つて裁判をして、一旦そういう地位を與えておいてそれがこの條約によつてこういう結果になつて、こういう法律ができて、再びやつたら、今度は国が任してしまつたりして、そうしてその人間に求償権を行使させる、自分の責任を考えないで、その責を国民のみに持つて行くという考え方じやないですか。非常に不合理じやないですかね。
  22. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点につきましてはこういうように考えております。一見お説のように見える嫌いもないではありませんが、もともと連合国人が十分な陳述ができなかつたために、間違つた裁判が行われた場合でありますので、間違つた裁判の結果を一方の当事者に不当な利得を得しめるという点は、やはり正義の観念に適しないのではないかという考えから第二項の規定を置いたわけであります。而も「損害について責に任ずべき者が」という場合でありまするから、正義の観念から離れることはないと存ずる次第でございます。
  23. 伊藤修

    ○伊藤修君 正義の観念から申しますれば、国民はとにかく権限ある裁判所の判決に基いてその地位を取得したのであつて、むしろ善意を犯すと申さなくちやならないでしよう。少くとも善意であるということは当然のことで、そういう地位を與えたのは、国家がそういう手落ちがあつたといわなくちやならないじやないですか。正義の観念から申しますれば、そういう原因を與えた国家が責を負つて、この場合は解決すべきものじやないでしようか。その責任を国民のほうへ持つて行つてしまうということは、自分の責任を少しも顧みずして、国民のみが悪いという考え方はおかしいじやないですか。
  24. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 民事の裁判におきまして、若し普通の状態におきまして裁判が進行し、連合国人が十分主張、立証できたならば、日本国人としては勝訴の判決が得られなかつた場合でありますので、只今のような結果になるのは止むを得ないのではないかと存ずる次第であります。
  25. 伊藤修

    ○伊藤修君 止むを得ないと言つて、そういう考え方でなくして、このような異例の場合においては、むしろ国家が当然責任を負うてしまつて解決すべきものじやないでしようか。再び国民のほうへ又その求償権を行使さして、平和裡に生活しておる者の経済的生活を破壊して行くような結果をもたらすことは、好ましくないんじやないでしようか。一体根本的に私はお尋ねしたいことは、かような不名誉極まるところの條約を締結したこと自体に私は不服があるんです。殊に日本の裁判というものは、戦前におきましては世界各国に比較いたしまして、少くとも権威を持つた裁判所であつたはずです。いわゆる治外法権を撤廃した当時においては、諸外国と等しい、平等以上な権力を持つたところの整備された日本の裁判所であるということを我々は誇示しておつたはずです。又誇りを持つていたはずです。その裁判所が裁判したことについて今日講和條約の結果、とやかく言われて難癖を付けられて、あたかも日本の裁判は劣等のごとく考えられて又やり直ししろと言われる。これほど不名誉なことはないじやないですか。而もその不名誉極まることをこれを甘んじて受入れて、その結果取消しだと言うて国民にその尻を持つて行くことがどこにあるでしよう。それが衡平の観念ですか、正義の観念ですか。国家みずからその責任を負うべきじやないですか。若しさような不当な利得をした者があるとしても、その不当の利得が今日なお残つているとは考えられないのです。あなたがた常識でお考えになつたらどうですか。この求償権を行使することによつて今日の経済生活を又破壊に導くのです。そこに又再び損害を生ずる。秩序が乱れて来るのです。さようなことを法律で企図するということは私は理窟はないと思う。基本的な考えを一つお伺いしましよう。
  26. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 民事の裁判が問題になるわけでありますが、民事の裁判は原告、被告との間の争訟としてそれについて裁判官が裁判所が判断するわけでありまして、この法案によつて再審の結果、連合国人が勝訴になるという場合におきましては、結局元の訴訟におきましても充分な陳述をしたならば勝訴になるというそういう場合でありますので、原則的の考え方から申しますと、被告である日本人といたしましては本来勝訴できなかつたのに、連合国人側の戦争状態の結果、十分な陳述ができなかつたという点が因になつて勝訴の判決を得たという場合でありますから、本来勝訴の判決を得られない場合でありますので、その点から見ますと、或る意味で不当に利得しておるということになりますので、再審の結果連合国人が勝訴し、日本人側が負けたという場合に、その不当利得をそのまま保持させていいかどうかという点を考えますと、やはりそういう利得は保持させてはいけないのではないかと、そういう考えでこの四條第二項のような規定を設けた次第でございます。
  27. 伊藤修

    ○伊藤修君 私の今お尋ねしておることは、ともかくその基本的なことを今お尋ねしたのですが、一体日本の裁判がさような不公平極わまるところの裁判を戦争中行なつていたのかどうか。それを認めてこの講和條約を締結したのですか。そういう卑屈な態度に出たのですか。私は少くとも戦時中においても訴訟関係人はそれぞれ相当の知識あるところの弁護士を依頼して訴訟は遂行されておつたものと認めるのです。その場合においてこれらの陳述、主張というものが不当に拒否されておるとは考えられないのです。そういうことはあり得ないということを根本的になぜ主張できなかつたのです。若しできなくて屈服してこのような規定を法律上立法せざるを得ないような立場に追い込まれたとするならば、これも又敗戦国として止むを得ません。然らばそれはその結果もたらすところの、法律上の地位の変動によつて生ずるところの損害求償というものについては国家みずからが責任を負うべきじやないですか。それを転嫁して、いわゆる本質的には勿論あなたのおつしやるようにさような訴訟の結果、不当に利益したものをこれを求償するということは法律的には考えられましようが、それによつて起るところの新らしい法律変動というものに対するところの損害というものを考慮しなければならんと思うのです。為政者というものはそれくらいのことは考えなくちやならないのですが、又法律を立法する場合においてそういうことが好ましいかどうか。又現実に果してそういうことができるかどうかということも考えなくちやならんと思うのです。ただ單に名分的に理論を通すためにこれを書いたとおつしやればこれは又別問題ですけれども、真におとりになるおつもりなら私は不服です。
  28. 佐藤達夫

    ○政府委員(佐藤達夫君) 一応私からお答え申上げますが、おつしやるところはよくわかるのであります。ただ今前提にお言葉にありました日本の裁判所が不公正である、不衡平であるというようなことを頭に置いてこの條文ができておるかどうか、これは平和條約の條文ということになるわけでありますが、そういう点につきましては私は平和條約そのものは決して日本の裁判所が不公正であるというようなことを前提においてできているものではないと思います。その公正を否定する趣旨は全然ないものと思つております。理論上の問題かも知れませんけれども、現実仮想されますることは、御説明にも出ておると思いますが、例えば抑留されておる、或いは送還されたというために普通に認められておる上訴の手続を履むことができなかつた。そのために判決が、又は裁判所の審理が盡せなかつた、盡し得なかつたということから来る若干の差異ということはこれは裁判所の公正、不公正の問題じやなしに、これは考え得ることであろうと思います。そういう点を重点としてこの條約は考えておる。それを是正すると言いますか。補完するという意味でできておるものと私は考えております。まあ併しいずれにしましてもこういう條文がないに越したことがないことは全く御同感でございます。御同感でございますけれども、この平和條約は一応勝つた国と負けた国とのけじめというものはやはり付けてできておるのでありまして、この條文が入つたことは止むを得ないことかとも思いますが、これは例えばベルサイユ條約あたりにあります例によりますとこういう場合に、私ははつきりは承知いたしませんけれども、混合裁判所というようなもので再審査をするというようなのがあるらしいのでありますが、それに比べますとむしろこれは日本の国内機関で十分自主的に再審査をせよという形になつておりまするからして、それらに比べればまだまだ日本の裁判所というものの公正さというものを信頼してこの條文ができておるというような気持もいたします。このようなことから結論を付けて参りますと、さつき野木君が説明いたしましたように、その結果仮に前の、再審の結果前の判決が変つたというような場合にはそこにやはり不当利得というような観念が出て来ることはこれは止むを得ないのじやないかというようなのが大体の考えでございます。
  29. 伊藤修

    ○伊藤修君 充分な陳述ができなかつたという意味を一つ……。
  30. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この両法案におきまして充分な陳述ができなかつたときと申しますのは、一応條約の表現をそのまま法案に借りて来たものでありますが、政府といたしましてはこの趣旨は一言で申しますと、連合国人が戦争状態のために原判決に影響を及ぼす虞れのある申立、主張、立証等訴訟上の権利の主張、防禦ができなかつた場合というように解釈しておりますが、その一番適例といたしましては、戦時中の措置として抑留、送還等があつたために上訴しようとしていたものができなくなつた、或いはそのため期日を懈怠せざるを得なかつた、そのために敗訴してしまつたというような場合が一番適例として考えられる次第であります。
  31. 伊藤修

    ○伊藤修君 そうすると、それは疏明又は証明の点まで行くのですか。疏明の程度でいいのですか。或いは更に進んでいわゆる原判決に影響を及ぼす点まで疏明若しくは証明するのか。その点を……。
  32. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点につきましては、民事と刑事とやや立て方を異にしておりますが、民事につきましては、再審の訴を以て行くわけでありまするから、そうして再審の訴につきましては、民事訴訟法の規定によりまして、一般の訴の審理の規定が適用になりますので、この十分な陳述ができなかつたときという点も民事では証明するということになるかと思います。刑事につきましては、これが再審開始決定をするかどうかという点になりますので、その点につきましては十分な陳述ができなかつたときという点につきましては、疏明で足りるものとは思いますが、刑事の再審査、法案におきましては、第四條におきまして、再審開始決定をするにつきましては、十分な陳述ができなかつたことが原判決に影響を及ぼすか否かについて審査し、原判決に影響を及ぼすと認めるべき相当な理由がある場合には再審開始の決定をし、その他の場合には請求を棄却する決定をしなければならないということにいたしまして、刑事事件の特性に鑑みまして、ここで相当内容に入つた調査もする段階を設けてありまして、このためには証人尋問等をすることができるということになつておりますので、この点につきましては、相当高度の心証を要求して行こう、そういうことの立て方になつておるわけであります。
  33. 伊藤修

    ○伊藤修君 そうすると、第四條の三項の場合においては、これは当事者の請求ですか。或いは職権主義ですか。
  34. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 刑事の再審査法案の四條におきましては、この立て方におきましては、勿論当事者が先ず十分な陳述ができなかつたことが原判決に影響を及ぼすか否かについての資料を出す、検察官がそれに対して反対の資料を出す、最後には裁判所がなお職権をも加味して調べて決定をする、そういうようなコースを考えております
  35. 伊藤修

    ○伊藤修君 第六條は、これは旧刑訴と新刑訴との適用の経過規定が規定されておるのですが、これは旧刑訴によつてやる部分はどういうふうに扱うのですか、全部旧刑訴によつてやるのですか。
  36. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 第六條の趣旨は、刑事訴訟法施行法を受けまして、いわゆる新刑事訴訟法施行前に、公訴の提起があつた事件につきましては、現在でも旧刑事訴訟法及び応急措置法によつて再審手続が行われることになつておりますので、それと同じように取扱うものでありまして、新刑訴になりましてから、公訴の提起があつた事件につきましては、新刑事訴訟法によつて再審が通常事件について行われますので、この事件もそれと同じように取扱つて行こう、こういうわけでございます。
  37. 伊藤修

    ○伊藤修君 そうすると、再審手続も旧刑訴時代は、旧刑訴の再審手続によるのですか。
  38. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 新刑訴施行前に起訴のあつた事件について、本法案の再審査、再審をやる場合におきましては、旧刑事訴訟法及び応急措置法によつてやる、そういう考え方でございます。
  39. 伊藤修

    ○伊藤修君 再審後におけるところの訴訟手続は、一切旧刑訴でやるわけですね。
  40. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 只今申上げました事件につきましては、旧刑事訴訟法及び応急措置法の二つで再審開始決定後の手続もやつて行く考えでございます。
  41. 伊藤修

    ○伊藤修君 ちよつと再審だけは新法でやつて、それから事案の審理については旧法でやるように、ちよつと見えるのですが、それは、はつきりそういう区別しておるのですね。
  42. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 再審手続自体も、新刑事訴訟法施行前に起訴のあつた事件につきましては、この法律とそれから旧刑訴及び応急措置法で行く、そういう考えでございます。
  43. 一松定吉

    ○一松定吉君 刑事判決の再審査に関する法律案、それから民事判決の再審査に関する法律案の一方は第七條、一方は第四條、その地位の回復ということと、公正且つ衡平な救済を與えるということを具体的に説明して頂きたい。どういう場合、どういう方法で……。
  44. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) まず刑事から申しますと、地位の回復という点につきましては、例えば、本来無罪であるべき者が有罪の判決を受けたという場合におきましては、無罪の判決をすること自体が地位の回復ということにもなる場合もあるかと存じます。それから刑事につきましては、没収しておるようなものがありまして、それは非常な稀な場合と思いますが、なお残つているというような場合には、その沒收しておるものを返してやるというようなものが地位の回復になろうかと思います。民事につきましては、地位の回復といたしましては、例えば連合国人が家を所有しておつてそれに住んでいた、それが敗訴の結果家を取られてしまつたというような場合には、その元の家が残つておる場合には元の家に住まわせるようにしてやるというような点がその適例になるかと存じます。なお公正且つ衡平な救済と申しますものは、十分な陳述ができなかつたことが原因となつて敗訴になり或いは有罪の裁判を受けた。ところが充分な陳述をした結果勝訴になり、或いは無罪若しくは刑が減つたというふうなように、そこに因果関係が認められる場合におきまして、その他その人の当時の状況、或いは事情を斟酌いたしまして、又当事者のほうに過失があつたかどうかというような点、そのときの事情その他一切の事情を斟酌いたしまして、適当と認められるところに従うわけで、大体の金銭賠償、そういうようになるかと考えております。
  45. 一松定吉

    ○一松定吉君 地位の回復というのは押収された品物を返してやるのが地位の回復だ……、それは地位の回復じやない、押收されておるものを返してやるということは地位の回復じやない、地位というものはその人の資格じやないですか。
  46. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 刑事につきましては地位の回復ということは民事ほど適例がなかなか考えられないわけでありますが、その資格という点も入るのではないかと思います。例えば、名誉を害せられておる場合におきましては、現在の再審のところにおいても認められておるような新聞広告をして名誉を回復してやるというような点もここに入るのではないかと考えておる次第であります。
  47. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうすると今の新聞広告をして、こういうことでこの人は無罪になつたということを公告してやるということだけに地位の回復という文学を使つたのですか、まだほかにもあるでしよう。ほかにもあることを具体的にあなたから例を挙げて説明してもらいたい。
  48. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 刑事につきましては、只今申上げましたように、ほかの事例が、今挙げたような事例でありまして、連合国につきましては人の資格というような点は、これは余り問題がありませんですが、若しあるならばそのいろんな資格というような点も考えられるのではないかと思います。
  49. 一松定吉

    ○一松定吉君 例えば日本に在留することのできる地位のあつたものが、有罪の判決によつて日本に在留することができないことになつたというようなものも、地位の回復で又元の通りに在留できるというようなことも含むのではないですか。
  50. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) そういうことがあるといたしますならば、その場合も勿論含むと存じます。
  51. 一松定吉

    ○一松定吉君 それから公正な救済というのは、これは損害を賠償してやるとか、名誉の回復をしてやる、或いはその人間が非常に生活に困れば生活の補助をしてやるというような、とにかく問題は「公正且つ衡平な救済を與える」というのであつて、これは再審の裁判所において裁判の主文にそういうことを書くのですか。
  52. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点は只今の考えにおきましては、再審裁判所で直ちにやることにせずに、別の方法でする。そうして例えば「公正且つ衡平な救済」の主なるものは金銭賠償が典型的に大部分といいますか、殆んど全部金銭賠償でやつていいのじやないかと考えておるわけでありますが、その場合にはその金額等について、いろいろ見るところによつて異なる部面もあるかと存じまするので、只今のところではいきなり訴訟ということにさせませんで、政府等に一応申し出させてそこで折衝いたしまして、成るべくならば話合いで話を落ちつけさせる、どうしてもしようがなくなつたならば、新らしく国を被告として訴訟を起して解決して行きたい、そう考えております。
  53. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうではなくて、やはりこの訴えを起して後に、それが再審の理由があるかないかということが認められて初めて、今の地位の回復だとか或いは救済とかいうことが與えられるというのが、第七條の法文の前にちやんと書いてある、或いは民事ならば四條にちやんとそのことが書いてある。でその問題は結局刑事のほうでは第七條の三項に「地位の回復又は救済の手続については――別に法律で定める」のであつて、その定められた法律の範囲内において再審裁判所が適当にその項目に当てはめるという意味じやないですかね。
  54. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この案の考え方といたしましては、只今仰せのような考え方ではございません。勿論再審の訴えが起つて、再審の判決があつた後に、地位の回復とか「公正且つ衡平な救済」という問題は起るわけでありますが、それは再審裁判所が別に法律で定める手続によつて直ちにするというような構想は今考えておりません。この別の法律で定めるとしておきますのは、例えば地位の回復の一つとしての物の返還を請求する場合には、請求する場合の手続とか、それに伴うところのいろいろの手続、或いは金銭の賠償を請求する場合はどこへどういう手続でして来いというような点、その手続といたしまして訴訟のほうは一般の民訴に譲りまして、普通の訴訟の段階の手続を「別に法律で定める。」として定めたいと思つておるわけであります。
  55. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうするとこの地位の回復だとか救済の手続は、刑事のほうは第七條の三項にあるし、民事のほうは第四條の四項に規定してあるのですが、こういう案はまだできないのですか。別に法律で定める、その別に定める法律案は……。
  56. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点につきましては、物の返還につきましては、例えば連合国財産の返還等に関する政令、これは今法律としての効力は持つておりますが、これ等に準じ、又金銭賠償につきましては例えば訴訟を起す前に政府に申出をして、そこで話合いの機会を設けるというような構想で今考えておるわけであります。
  57. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうするとあなたのいうのは、現行法がある、その現行法に準ずるというのですか。この規定から見ると「別に法律で定める」というから、これからこの地位の回復及び救済の手続に関する法律を制定するのじやないのですか。
  58. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) これから立案いたしまして引続いて御審議を仰ぎたいと考えておるわけであります。
  59. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうすると現行法を準用するというあなたのさつきの言葉は取消しか。
  60. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 内容的にそれにならつて内容を考えて……。
  61. 一松定吉

    ○一松定吉君 ならつて内容を考えて法律案を出すと、こういう意味ですか。
  62. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) さようでございます。
  63. 一松定吉

    ○一松定吉君 それならいいです。  それから再審開始の理由があるということを認めた時分には、その裁判で地位の回復だとか「公正且つ衡平な救済」を與えるとかいうことでなくて、再審の理由があるという決定をすると、その決定があつた後に、国がその七條の三項並びに四條の四項によつて適当な回復若しくは救済の方法を講ずる、こういうことですか。
  64. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 先ず再審の手続が済みまして再審の裁判があつて、それが確定するわけであります。そういたしますと連合国人が原判決の結果損害を受けたかどうかという点がはつきりいたしますので、連合国人は国に対して原判決前の地位に回復するか、又はその者のそれぞれの事情において「公正且つ衡平な救済」を與えられるというような請求権がそこで発生することになりますので、その権利に基きまして、国に対して更にその地位の回復なり或いは救済なりいずれかをしてくれというような申出をします。それで国がその申出に基きましていろいろ話合いをし、どうしてもまとまらない場合には、連合国入側から訴訟を起す、そうして裁判所が終局的には又きめる、そういうような二段階の手続を考えておるわけでございます。
  65. 一松定吉

    ○一松定吉君 その再審の訴えがあつて再審の理由があるということで開始決定がある。そうすると開始決定があつてから、そこで裁判するでしよう。刑事なら刑事、民事なら民事、刑事ならばお前は無罪にするのだ、或いはこの前は懲役何年であつた、それは重いからして何年に減ずるのだとか、或いは民事であれば何々の家を返せということであつたのを返さんでいいとかいうことまでの再審の開始決定があつて、それから更に裁判をするでしよう。その裁判があつてからそれで自分が無罪になつた、或いは家を返さんでいいということになつたときに、判決が確定する。確定してからその確定したことを原因にして、地位の回復の交渉若しくは救済の交渉をその外国人から国にする、その交渉をする手段、方法、内容等は別に定むる法律できめる、その法律できめたことについて話合いがつかなかつたら、更にその地位を回復する、若しくは救済を與えるというこの法文を根拠にして裁判に訴えを起すというようなのですか。
  66. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 大体お説の通りと考えております。
  67. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうするとそういうことは別に定める法律の中に書くのですか。
  68. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 普通の民事訴訟法で行ける分は民事訴訟法に譲りますが、その前のこの地位の回復の場合におきまして、家屋などの問題がありまして、家屋を連合国人に返すというような場合には、裁判がきまつておるわけでありますから、連合国人財産の返還等の政令などの取扱に準じて、内容に準じて手続をここで考えよう、又金銭賠償の場合につきましては、一応政府当局に申出でさせまして、その金額がうまくまとまればそれでいい、まとまらない場合には、連合国人側から政府を相手にして訴訟を起す、それはその訴訟は民事訴訟法で考えて行きたい、そういう考えでございます。
  69. 一松定吉

    ○一松定吉君 そうするとこれは損害賠償の請求権はここに時効の規定があるが、この時効の規定はどういうのですか。時効にかかつておるといけないというのですか、若しも特別の法律でこういうときには時効にかかつてから時効を延長するとかなんとかという規定を別な法律で設けるのですか。
  70. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 時効の点につきましては、再審開始手続が開始されますと、訴訟はずつと係属しておる、こういう観念でございまして時効は完成しないということになりますので、問題になることはないのではないかと思つております。なおこの請求権が発生した後におきましては期間が短いのでありますが、原判決の結果原判決が間違つておる結果損害を受けたという点につきましては、その時効の問題は生ずることはないのではないかと存ずる次第でございます。
  71. 一松定吉

    ○一松定吉君 例えば民法の不法行為による損害賠償ですね。こういうようなときには時効の規定がある、ところが再審の申立てをしたときにはもう本当は時効にかかつておる、三年の時効にかかつておるというようなことがある、それはどういうふうに救済するのですか。それは特別に別に定める法律の中に救済方法を書いておけば問題はないが、書いておかなければやはり問題になるんでしよう。
  72. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 只今のところは連合国人から損害賠償の請求を起して原判決がすでに確定しておる、それが大分経つてから再審の訴えが起つて再審の判決があつた、再審の判決があつたときには時効が完成しておるという場合があるのではないかという点でございますが、この点につきましては、この講和條約の議定書におきまして、時効期間などは戦争中進行しないというような規定もありますし、又再審の理論外と申しましても、再審が開始されますと、再審の訴訟物になつておつた請求権につきましては、時効は訴訟が係属しておるという点で完成しないというような理論もございます。只今のところはそれにつきましては問題になることはないと考えておる次第でございます。なお研究の結果はお説のように問題になる点がありますといたしましたらば、この別法を作るときに愼重検討して見たいと思います。
  73. 一松定吉

    ○一松定吉君 つまり連合国の人の受けた判決の再審の目標となるものは昭和十六年十二月八日からですね、それから再審の訴えを起すことのできるのは平和條約の効力が発生してから一年以内、そうするともう時効にかかつておる場合があると考えられるが、このような場合に、時効にかかつた場合損害賠償の請求権を如何にして救済するか、特に明文を必要と考えるが、その辺は少しぬからんようにしてもらわんと困るですね。
  74. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) その点は承知しました。
  75. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 前回に引続いて政府に質疑を行いたいと思うのです。前回お願いしてありましたので今日御出席を得ているようでありますから、最高裁のほうの御意見も伺いたいと思うのでありますが、この最高裁のほうから御意見を伺うのに必要があるので、一応最初に政府のほうの意見を伺つておきたいと思うのです。前回の質疑と重複する点があつて甚だ恐縮に思うのですが、前回の質疑に対する政府側の御答弁があいまいであつてはつきり了解することができなかつたのでもう一遍伺いますが、法務総裁お見えにならないので佐藤長官が政府を代表してはつきり答弁して頂きたい。  第一に伺いたいのは、本法律案は勝利者が敗者に向つて強制したところの條約に基いて発生した法律案であるのか、それとも戦争中に日本は外国人に対して裁判などに関連して妥当でない、公正でない処置をしたということを認めるのであるか、そのいずれであるかということをはつきりして頂きたいのです。これはなぜはつきりして頂きたいと思うかと申しますと、この法律案に賛成するか反対するかということは先ずそこから出て来ますし、それからこの後引続き伺うそれぞれの問題についての政府の態度が、或いはこの法律案が首尾一貫しているのかどうかを判定する意味から、今の点についてはつきりした見解を伺つておきたいと思うのです。これが第一です。
  76. 佐藤達夫

    ○政府委員(佐藤達夫君) ちよつとあとにお尋ねになりました点をもう一度おつしやつて下さい。
  77. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 つまりこの質問の意味をもう少しはつきりしますと、勝利者が敗者に向つて押付けたという感じでは我々はこれに賛成することはできないですよ、絶対に……。併しながら若しも戰争中に先ほど伊藤委員のお言葉にもありましたが、日本の裁判は決して列国に比して恥ずべきものではなかつた、なかつたけれども戰争中に戰争が原因となつて様々の第一には不当なる圧迫があつたということがありましよう。それから第二には技術的にそういうことがなかつたということがあるでしよう。大体その二つの理由によつて公正ならざる裁判が行われたということをお認めになるのかどうかということなんです。
  78. 佐藤達夫

    ○政府委員(佐藤達夫君) 第一点の最初におつしやいましたような点は、この講和條約というものの性質と言いますか、本質に触れて掘下げればなかなかむずかしい問題であろうと思います。併しながら私どもの少くとも今回の平和條約について考えておりますところは、例えば日本は占領の下にまだあつて、その地位において結ばれた條約でありますけれども、その占領下にあるというようなことから来る一つの制約といいますか、圧力と申しますか、そういうものが加わつてできたものではない、一応自主的に日本政府が対等の立場で結んだ條約であると考えます。併しながら最初に触れましたように、とにかく平和條約と言い、講和條約と言う以上は、多くの場合勝つた国と敗けた国との約束でございますからして、その勝ち敗けの事実から来る内容の影響というものは、これは否定できないというふうに申上げるべきであろうと存じます。それから第二におつしやいましたお尋ねは、先ほど伊藤委員にもお答えしたところに関連するのでございますが、私どもの見ておりますところでは、戰時中といえども、少くとも裁判所は嚴正公平にその職責を果しておられたと存じます。旧憲法の下においても、裁判の独立だけはこれは十分保障されておつたのであります。それが侵害されたというような事実は私どもは承知いたしておりません。ただ今お触れになりましたように、この技術的の手続上の止むを得ない事実から来る、現実から来る技術的の不行届はこれはもう止むを得ないことでありまして、その点から来る影響はこれはありましようけれども、裁判そのものが特に或る外部からの圧迫を受けたというようなことは全然考えておりません。
  79. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それは少しお言葉が過ぎるのではないかというふうにも思うのですが、そうだとすると、戰争中の裁判で反省すべき点はゼロだ。然らばその再審査に応ずるという理由はどこにあるのか。そうすると全く強制によるものだということになつてしまう。で或いはその単に技術的な面だけを救済するのだということになつてしまう。そうするとその点がまあ第一に納得しかねるのですが、それから第二にはこれは第二の点に……まあ押問答してもしようがありませんから、大体そういうお考えだというふうに伺つて第二の点に移りますが、この法律案が法律がどの程度までの範囲に及ぶかということになんです。これはこの前、前回質疑をしまして、今日も一松委員からの御質問にお答えが今まであつたが、その軍の行なつた裁判をも含むということになつていますがそうですか。そうですね。そうするとこの軍の行なつた裁判というものについて、今のお答えがそのまま妥当するかどうかということなんですがね。つまり顧みて反省しなければならないような点が技術的以外にはないということが、その軍の行なつた裁判においてないかどうか。でそれからその範囲としまして、若しその相手方がこの法律案はこの裁判判決の再審査だから、判決がないものには及ばないというお考えでこの法案のお作りができているのですけれども、併しこの趣旨によつて、実際においてこの戦争中外国人が日本で不当な取扱を受けたのは、裁判よりは実は検察なり警察においてだろうと思う。で私はいつもあの九段の前を通るたびに、あそこの憲兵隊の窓からイギリスの新聞記者が飛び降りて自殺したという悲しむベき事実を思いだすのです。従つてこの法律は判決があつたものだけを取扱うのだと言つても、この趣旨に従つて相手方はその裁判まで行かなかつたところにおいて、実は非常な名誉を毀損され、或いは生命を奪われ、その他非常な不当な取扱いを受けている。これに対してその地位の回復なり、或いは何なりを求められた場合には、政府はそれに応じないおつもりだというようにお考えになつているかも知れない。若しそうだとするとそれに応じないでよろしいのだという根拠を伺う。こういう法律は出す、併しそういうものには応じないということが言えるのかどうか。その点は第二はその範囲の問題です。どの程度に及ぶのか……。
  80. 佐藤達夫

    ○政府委員(佐藤達夫君) 軍の裁判については先ほど野木政府委員からお答えした通りでございますが、あとのお言葉に出て参りました、この裁判に至らない、その事前の警察とか、或いは検察というような段階において不当に権利が侵害されたというような場合でございますが、この條約そのものからいたしますというと、この十七條の(b)項、即ちこの法案の基になつております條文は、御承知の通りに裁判によつてその損害を受けたというものの救済についてのみ規定しておるのであります。その他この條約の中で今御指摘になりましたような点について條文があるかと申しますというと、これはないわけでございます。従いまして一般の行政処分に基く損害の問題と同じことになるわけであります。その一般行政処分による損害の問題はどうしているかと申しますというと、たしかこの條約のほうでは、十四條の(b)項で、ございましたか、そのほうで連合国側としては日本側に対してその賠償を請求しない、請求権を放棄しておるということになつております。従いましてこれはもう法律的のお答えで申訳ございませんが、條約上の問題としては、今最後に御指摘の点は、連合国側に対する日本側の賠償というものの義務づけはないということを一応お答え申上げます。
  81. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その点は実はまあ政府の政治上のお考えを伺つておきたいというふうに思つたのですが、御承知のように戦争中は特にスパイ事件というような関係で不当な圧迫が加えられている。それは裁判に持つて行かないことを初めから目的としているのじやないかと思うくらいに、警察や検察で締め上げるということをやつて、裁判所のほうでは或いは早く裁判に持つて来てくれればいいのにとお考えになつたかも知れない。それを持つて行かないで、そういう段階で非常に残虐なことをまあやつたということが事実ありますね。私はこの法律案がそういうことを今後根絶するのに、役に立つような法律案であるならば、喜んで賛成したいと思うのですよ。併しそういうこととは関係がないのだというお考えだと、先ほどへ戻る。強制された分だけやるのだということになつてしまうのじやないか。而も今の問題のように、これは長官にもお考えを願つておきたいと思うのですが、例えばゾルゲ事件というような問題ですが、あれは実際の日本のスパイの行動として、スパイ事件として取上げられたものなのか、それとも一種の政治的な意味を以て大きく取上げられたものなのかどうかという問題についてはいろいろ問題が、議論の余地が私はあろうと思うのです。ところがあれを最近も又つまり使つているということがある。而もそれは法務府の公務員が、どういう手続によつたか知らないけれども、アメリカの上院に出席をして、そうしてアメリカの上院における或る一党一派のかたの政治的活動を有利ならしめるがごとき証言をする際に、これを用いてそして現在の我々の同僚である参議院議員の某君の名誉を毀損するというようなことをやつている。僕はその問題も実は問題だと思うのですが、併し今この法律案に関係して、戰争中にやつていた、いわゆる特高なり、或いは憲兵隊なりのやつていたことを、まあ敗戰後はちよつと悔い改めたというような顏をしておられたのですが、最近は悔い改めたのは損したような顔で、それどころか今度は又そいつを続けるのだという傾向があるのじやないか。私はそういう深い見地に立つてこの法律案を出されるならば、これは立派な法律案だと思うのですよ。だけれどもそうじやなく單に今の御答弁のような形式的なもので、それで結局つまるところは技術的なものと、それから勝利者の敗者に対する命令というものだ、勝利者の言葉である、それから技術的な点だけを悪かつたと思うのである、この程度の法律案じや、実にこれはレベルの低いつまらん法律だという感じがして、賛成する気にはなれない。それでその質問の趣旨を明らかにする意味で今の点を申上げるのですが、先ほどの御答弁でよろしうございましようか。或いは若干補足乃至御訂正になりますか如何ですか。(笑声)
  82. 佐藤達夫

    ○政府委員(佐藤達夫君) お話の趣旨はよくわかります。わかりますがですね、おつしやる通りに例えば反省の色が又薄れて来ておるとか、或いは今後、この問題を根絶する方法如何というように、立法政策上の見識の問題としてはこれはもうすべてのことに当てはまることでございますけれども、飽くまでもこれは深く広く持たるべきものである。これは立法機関としての国会も政府もこれは同様だろうと思います。併しこれは当然のことでありますが、ただですね、今この槍玉と……、ちよつと失言いたしましたが(笑声)、問題になつておりますこの法案でございますね、これは広い立法分野の中で、この平和條約の十七條、而も十七條の中のb項というこの條文をとらえての解決を受持つて出て来ておる法案なのでございますからして、この場合においてはこの法案自体の中の問題としてどういう事柄を盛込まれるのが適当であるか、或いは條約との関係はどうなるかということを我々としては一番当面の問題として考えておりますので、これの受持ち以外の広い立法政策の分野のことについては、又いろいろ教えを受け、私どもも反省をして善処して行きたいというふうに考えておるのでございます。
  83. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私は佐藤さんのような立派なかたが将来法務総裁になることを非常に期待しているのですが、(笑声)今のような御答弁じや全然満足できないのですよ。この立法の精神は判決に限るのだけれども、併しながら政府としてはその裁判所に持つて行くという前に起つた検察乃至警察において起つた問題についても全く責任なし、考慮しないというふうには考えていないというくらいの御答弁をなぜできないのですか。それは僕はおできになるはずだと思うのです。併しこれも押問答になつて強制するようになつてはいけませんから(笑声)次の問題に移りますが、これは第三の問題ですけれども、さてこういうことを外国人に対してやるとして日本人が戦争中外国の裁判所で或いは不当の取扱いを受けたことがあるかも知れん、さつきのせいぜい技術的な点だけでもね。刑事民事を通じて……。そういう問題について政府は何か努力されているのですか、それとも外国人のほうだけこういう鄭重な考慮をされて同胞たる日本国民の問題については何らお考えになつていないのですか、この法律には勿論書いてない……。
  84. 佐藤達夫

    ○政府委員(佐藤達夫君) お尋ねの点もとよりこの條約交渉の任に当りました外務当局なり、或いは政府の首脳部において当然考慮に入れたことと存じますけれども、今御指摘の通りにこの平和條約の條文には入つておらないわけでございます。又実際どういう事実がありましたかということも私どもは存じませんけれども、いずれにせよ條約自身に入つておらないことはこれは事実でございます。従いまして條約自体の実施の問題とは別に十分その善後の処置と申しますか、そういう点については当然考慮せねばならぬというふうに考えております。
  85. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうするとその点については努力を継続されるという、ますます努力せられるというふうに了解いたします。そうすると第四に伺つて置きたいことは、この戦争中のみならず戦後不幸にして非常に長い期間常識を越えて占領が継続された。そのために占領の当初の目的が失われて、別個の目的がそこに発生して来たという状況は今更申上げるまでもない、政府もよく御承知だろうと思う。その占領期間中において日本国民が十分なる陳述をなす機会を與えられないで、不当な処置を受けている場合があるのじやないかということを非常に心配するのですが、その問題については、これも勿論この法律案と直接関係はないのですが、併しこの立法の背後の政府の態度としてその問題に対してはどういう処置をとられるか、又は努力をなさつておられるのか、いわゆる政令三百二十五号とか、或いは諸般の覚書などによつて、例えば一昨年でしたか……の新聞社におけるレッド・パージというふうなものでも、名誉を毀損せられておるというふうに客観的に考えられているものが少くないのですよ。日本の裁判所に訴えても管轄権がないといつて裁判もせられない、そうして何らそれについては、それは刑罰じやないというかも知れないけれども、併しながらそれについての処置は妥当であつたというふうには思えない。こういう問題については日本政府は、それも別に平和條約に書いてないから何にもしないというのか、それともそういう問題もこれらの問題と関連のある問題だというふうに認識し、それらについての救済を努力するつもりだというふうに現在お考えになつているかどうか、それを伺いたい。
  86. 佐藤達夫

    ○政府委員(佐藤達夫君) 問題は占領中の事態についてでございますが、殊に三百二十五号関係、或いは又占領軍の軍事裁判所の事件等についてのお話であるわけであります。私どもといたしましては例えば今の軍事占領裁判所の判決というようなものをどういうふうに今後扱つて行くかという点につきましては、この間ずつと前でありましたか、ちよつとここで触れたこともございますが、一応御破算になるという建前の下に新たに日本側として、例えば殺人とか何とかいうような放任できないものというようなものについては、日本の法制に従つて手続をとつて行こうというような観点に立つて現在いるわけであります。従いましてその他の問題につきましてもそういうような考え方で、要するに理論上もこれは当然だろうと思います。占領というものがなくなりますれば、占領軍の権力というものはなくなるわけでありますから、日本の独自の立場で政府は処理できるのであります。そういう考え方でいるわけでございます。
  87. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると政府側に向つての最後の質問なんですが、この政府側から頂戴した資料の中に、恐らくは或いは不当な処置があつたのじやないかというふうに考えられることは、刑事関係のもので昭和十八年に東京で、東京刑事地方裁判所で、米国人に対して行われた裁判、或いは同じ昭和十八年に札幌地方裁判所で米国人に対して軍機保護法違反関係で懲役十五年というような判決がなされたのですが、これらの事件については相当詳細に調査をしておられるのだろうというふうに思うのです。そうしてこれらの事件についての事実も今まで御答弁になつた趣旨と外れてはいないだろうか、單に技術上の問題があつたに過ぎない、決して人権蹂躙とか、或いは裁判の不公正、或いは日本国の裁判が何らかの力によつて独立を脅かされていたというようなことはないことだと思うのですが、お調べになつているでしようか。この資料を頂戴するようにこの前お願いしてあるのですが、まだ頂いていないのです。
  88. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 口頭を以てお答えをいたしたいと思います。先ずここに掲げてありますのは、一応国籍とか、判決の確定の日時、刑期、刑名などを照会して、それから判決謄本のあるものは送つて頂きたいということで調べたわけでありますが、現在までは判決謄本の来ているものとないものとあるわけであります。先ず東京刑事地方裁判所の詐欺横領、これにつきましては……。
  89. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 議事進行について……時間の関係とそれから最高裁のほうに御出席を願つている関係もあるので、今伺つた程度の点についてだけお答え頂ければいいのです。つまり問題がないとか、或いは技術上の問題だけだとか、それとも相当重大な問題があるとか……。
  90. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) この点につきましては区裁判所で一審をやり、控訴をして懲役一年の刑が言渡されているのでありますが、各自について相当丁寧に事実の取調べをしているように見受けられますので、まあその点については一応問題はないのじやないかと推定されるのであります。それから只今御指摘の札幌地方裁判所軍機保護法違反、この点につきましては判決原本が焼けてしまつてありませんのではつきりしたことはわかりませんが、これは軍機保護法違反で、もう大赦になつておりますので、実際の刑を執行されたのは極く短期間ではないかと思われるわけであります。これも地方裁判所の事件でありまするから、当時といたしましては、通常裁判所事件でありますから、相当詳細に調べてあるのではないかと存ずる次第でございます。
  91. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それじや最高裁のほうに伺いたいと思うのですが、今お聞き及びのような点についての関連において伺つておきたいと思うのですが、第一に伺つておきたいのは、我々は今こういう法律案を審議しておるわけなんでありますが、最高裁では、戦時中に外国人に対して行われた裁判などについてお調べになつたことがあるのですか。どうですか。
  92. 鈴木忠一

    ○説明員(鈴木忠一君) 最高裁ではこの法案が出ましたについて、戰時中殊にこの法案の適用を受ける事件が、どの程度全国の裁判所で行われておるかというようなこと、それからその内容はどういう大体事件かというような点については、一応調べてございます。
  93. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その前に伺いたかつたのですが、最高裁ではこういう法律案を誠に喜ばしい法律案だというふうにお考えになつておるのですか。どうなんですか。
  94. 鈴木忠一

    ○説明員(鈴木忠一君) これは結論から申上げますれば、誠に喜ばしい法案だとは少しも思つておりません。と言いますのは、どこの国でも同じでございますけれども、国家の権力で裁判所が判決をいたしまして、そしてそれが確定をしておる以上は、その確定した裁判を争うのは、結局再審の方法で、而も年限もちやんと切られて争うのが唯一の方法であるかと思います。然るにその再審の訴えで、再審の事由としてこういう法律の形で、むしろ例外的な再審の訴えとして規定をしておるわけですから、そういう例外的な現象を原則として喜ばないということは、もう申上げるまでもないのであります。決してこれを最高裁判所がいい法律ができたというようには考えておらないわけであります。
  95. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この最高裁判所の最高の現在の任務は、言うまでもなく、私から申上げるまでもない、裁判の独立ということにあると思います。この法律案は裁判の独立ということに関係があるのじやないか、裁判の独立を危うくする点がありはしないかというふうに考えますが、その点は如何ですか。
  96. 鈴木忠一

    ○説明員(鈴木忠一君) 私が只今喜んでおらない法律だと申上げましたのは、最前羽仁委員からも御質問になつたことにも関係いたしますが、戦時中の裁判所が軍部の圧迫を受けたとか、或いは時勢に便乗して外国人に対して差別待遇をした裁判をしておつたというようなことならば、これはむしろ只今の時期として反省して、そういう裁判を訂正すべき機会が與られたという意味で、喜ぶべきだと思うのですが、裁判所といたしましては、御承知のように、戦争中においても外国人なるが故に訴権を奪つたとか、裁判所が内国人に比して特別な差別待遇をして苦しめたとかいうような意識を少しも持つておらないわけなのであります。そういう意味で自分たちのやつたことを反省をするとか、やり直しをする機会を與えられたという意味にならないと思いますので、それで喜んでおらないわけであります。ただ併しこういう法律ができましても、再審事由があつて、再審の手続を開始いたしましても、それなら開始した事件が全部が全部、元の判決をひつくり返す結果になるかというと、これは必ずしもそうならないのでございます。再審の事由があつて手続きを開始したけれども、原判決の結論が審理の結果妥当なら、再審の訴えは実質上立たないわけなんですから、そういうつまり全面的に前の判決をひつくり返してかかる手続でないわけなんですから、そういう点において、言わばまあ若干、一方においては安心をしていいという意味でおるわけです。
  97. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今のお答えを伺つて、私はこの法律案の急所に触れたように思うのですが、恐らく平和條約においてそれに署名をされた国々が、こういうようなことを要求をされたのは、日本の裁判に対してじやないんじやないか、むしろ日本の検察や警察においてそういうふうなことが行われ、非常な不当が行われていた。どうも裁判においては、そう多く不当なことが行われていたということじやないんじやないか。であるとするならば、さつきから御説明のように、ほんのテクニカルな、技術的な、或いは召喚になつたとか、送還したとか、その程度のことは併し双方にあることじやないか。それをことごとしく平和條約の中に一條設けてやるというようには了解できない。だから、これは向うの要求は、日本は憲兵隊や特高や検察や警察、そういうところでそうしたひどいことをしたという印象があつた。それをすり換えて、それで裁判のほうに持つて行つたんじやないか。そうしたら日本の裁判のためには、それこそ又いつか再審査を要求しなければならんような、名誉を毀損されたようなことになるんじやないか。そういう意味でこの法律案は甚だおかしな、何を狙つているのか、どういう目的なのかという理論上の筋が甚だ立つていないというような印象を私は受けるのですが、それに関連して最高裁に伺つておきたいのは、最高裁は、今の御答弁で、裁判が何ら独立していなかつた時代の日本の裁判というものに対しては、こういう問題があつたかも知れないということはお認めになるだろうと思う。併し今日の裁判所はそういうものでない、ところでその問題と関係して、さつきもお引きになりましたように、この法律案はいわゆる軍刑法による軍の裁判に関係して来るわけなんですが、これは過去の問題ですが、軍のやつた裁判の問題が、あたかも日本の独立したる裁判の問題にあるかのように、この法律案では取扱われるわけですが、その問題については、どういうふうに現在又将来に対してお考えになつておられるのか。
  98. 岸盛一

    ○説明員(岸盛一君) 戰前或いは戰時中に軍のやつた裁判が日本の裁判であるというような印象を、若し世界の国に持たれるとしますと、非常に残念至極なことだと思います。
  99. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 そうすると将来において再びそういうことが起らないような御決意をお持ちになるでしようか、現在最高裁は。
  100. 岸盛一

    ○説明員(岸盛一君) それは勿論のことです。
  101. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 それから警察や検察で行われていることは、新らしい民主主義以前の時代においては、とかく裁判所と関連して考えられた。又事実両方とも司法大臣の下にあつたんですから、国民から見れば裁判も警察も検察も同じです。違つていると言つたつていわゆる烏が少し黒いか白いかという少しの違いですから、だからそういう点で警察や検察がやつていたことを裁判所がやつていたことだと考えられているのです。これは今後においてはそういうことは絶対にあり得ないわけです。その問題について伺つておきたいのですが、過去に警察や検察がやつたことで、裁判所が如何にもそれは不当である又現在の裁判の独立を確立して行く上に不当であるとお考えになる事件について、御調査になつたり、そういうものに対して今後の方針というものをお立てになるような努力をしておられるのでしようか。或いは又現在制度は改まつたけれども、習慣は残つていて、随分警察や検察が裁判所のやるようなことまでもやりかかつている。或いは裁判に対する権威或いは信頼というものを失わせるような事実があるのじやないかと思うのですが、そういう点についてはどうなんでしよう。
  102. 岸盛一

    ○説明員(岸盛一君) 只今お尋ねのような問題、これは新憲法になりました後ばかりでなく、すでにその以前からも裁判所としましては非常に関心を持つておつた事柄でありまして、機会あるごとに裁判とそれから検察乃至警察との区別ということを世間の人たちにわかつてもらうように努力いたしておつたのであります。それがまあ十分な認識は得られずに来たのでありますが、併しわかる人にはわかつてもらえたと思います。終戰後の新らしい憲法の下におきましては、制度上その点がはつきりいたしまして、そしてその点は以前に比べるとずつとよくなつておると思います。ただ従来からの惰性で世間にはまだ往々にしてその点の認識をはつきりしていないかたもあろうと思いますけれども、これは今後ますます日本のこういう民主政治というものが発展して行くに連れてだんだんとよくなつて行くだろうと思います。その点については裁判所としても今後十分の関心とその点に関する努力を拂つて行くべきではないかと思つております。
  103. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 今の点について十分の努力をして頂きたいのですが、その次に第四の点なんですが、現行の、占領期間中に起つた多くの事件について裁判の独立という確信を国民に與えない。これらは先に裁判所侮辱法案というようなものをお考えになつたかたがあるようですが、どうして裁判所で騒ぐかと言えば、裁判は公正なものだという確信ができないからなのです。ですからそういう法律を作るよりも、裁判が公正なものじやないという事件が起つたならばそういうものを拂拭するような努力を最高裁になさつて頂かなければ、法律ばかり作つたつてとても裁判の権威は上るものじやない、いよいよ下る。ですから特に伺いたいのは第四の点は、占領期間中、最近新聞で見ましたところでも、飯田三七というかたたちに対してアメリカの軍事裁判、これは日本の裁判じやない。併し一般の国民から見ればやはり日本の裁判だ。読んで行くと、新聞に書いてあるのを見ると、何か別の令状を持つて踏み込んだ、その人はいなかつた、別の人がいて、いろいろの証拠物件があつた。そこからいろいろな事件が起つた。そう考えますと、我々はいつ何時どういう人が誰かを尋ねて僕の所へ踏み込んで来る、そこで僕の学問上のいろいろな必要からいろいろな、共産主義というものを研究しなければ、どこが悪いのかわからないから、そういう書類があると思います。そういうものを持つて行つて、三百二十五号とか六百何号とか何とかというものにひつかけるというような感じを與えるから、どうしても裁判というものは日本では確立していないのじやないかというような感じが出て来るのは当然でしよう。それからいわゆるレッド・パージなりその他の問題については、管轄権がないというふうにぽんと放される。これは日本の裁判の独立という重大な使命にとつていい影響があるかないかということは、これは日本の裁判所がやつたことじやないと言つて個々に説明して歩くわけには行かないのです。そういう事件があれば、何だ日本の最高裁というものはあるけれども、やはりアメリカの裁判が勝手なことをやつている、それに指も触れられないじやないかというようなことで、これは半ば誤解ですけれども、半ばはやはり日本の裁判の独立が確立しないということにもなるのじやないか。そういう点についてこの法律案を今我々が審議しているのですが、この法律案を審議しながらまだそういうことが残つている、或いはこれじや賄えない、解決し得ない問題が残つている、これらの点について勿論最高裁判所としては裁判の独立ということを確立する上に御努力願つておることと思いますがどうでしよう。
  104. 岸盛一

    ○説明員(岸盛一君) 御尤もな御質問でございます。折角新憲法によつて裁判所の権威というものがあのようなものになり、非常に重責を担うことになりましたにもかかわらず、占領期間中であつたという点が裁判所の独立というものに対する世間の考え方を多少曇らしたきらいがあるということは言えると思います。それは間接統治という特殊な方式をとられましたためにこういう結果になつたのでありまして、本来ならば占領軍の裁判所がやるべき事柄を場合によつては日本の裁判所を通じてやらせられたという場合もあるわけであります。併しそういう超憲法的な力の下にやはり裁判所が服したということは、これは誠に止むを得ない事柄であります。だからと言つて決してこの裁判官が裁判そのものの、自分の仕事の事実の認定、法律の適用について独立を忘れたということは絶対ございません。ただこれでいよいよ独立が回復することになりますと、そこに初めて日本の裁判所というものも憲法が規定しているようなその占める地位を回復して本当の姿を現わすときである。只今御指摘になりましたような問題、憲法との関係において今後裁判所が決断を以てきめて行くことになろうと思います。その点は御安心願いたいと思います。
  105. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その点安心することができればわざわざおいでを願わないのです。そこで最後に伺つておきたいことは、今我々の国会に提出されている法律案には、占領下と同じように日本の裁判権を制限するのじやないかという慮れのある法律案が多々あるのです。御承知のように行政協定に基いて出て来ている刑事特別法案、民事特別法案、これらは軍機保護法と異るところがない。或いは却つて悪い、却つて人権を危くし、憲法に違反しているというような慮れがあるのじやないか。それから最近政府が提案された破壊活動防止法案というふうなものは、裁判を行政府の手の中でやつて行こうというような法律案さえ出されている。そうすると今伺つた占領下において日本の裁判の独立を確立することに役立たない、或いはむしろそれを妨げていたような問題については、それが今後解決され……、今後にそれらをそのまま放つておかれないで解決される努力をなさると思うが、それのみならず、現在いやしくも裁判の独立を危くする、或いは危くする慮れがある、或いはそれを企て又は煽り、或いは何とか、というような意味において、広汎な意味で裁判の独立に何らかのネガティブ、否定的の、害するような影響のある法律案が出されているということは、裁判所にとつても重大な関心をお持ちにならなければならないことだと思う。これは勿論行政、立法、司法と相分れているのですから、相互に干渉すべき筋合のものではありませんが、ここで最後に伺つておきたいのは、今後独立をした、本当に独立をした最高裁判所においては、いやしくも憲法違反のような法律案、或いはそういう措置に対しては、嚴重なる審査をされて、そしてそれについて国民が納得するような判決を下されることだというふうに、これは伺うまでもないことですがその点について特にどれほどの熱意を持つているかを伺わして頂きたいと思うのです。
  106. 岸盛一

    ○説明員(岸盛一君) これは誠にその通りでありまして、違憲判断をするについての障壁というものは今後一切なくなります。裁判所は全く独立自由な立場から憲法の條規に照して事案を解決して行くことになるのであります。その点は繰り返してくどくど申上げる必要のないことだと思います。
  107. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 その点についていささか我々が危惧の念を抱くような事実がございます。例えて申すと、名前を申すのは遠慮いたしますけれども、本年一月一日発行の裁判所時報の第一頁を拝見いたしますと、裁判所が果して一点の曇りのない衡平にして公正な、そしてただ憲法を擁護する、憲法の原則そのものを擁護するという立場に立つという点において誤まれることなく、そして又その決断において誤まらず、又その勇気において欠けるところがないというように我々が抱いております期待が非常に大きいので、そこにお書きになつておる点なり、又文章なりを特に私は批評する意思は毛頭ないのでありますが、我々としてはどうかその日本の裁判というものが独立して頂きたい。そしていやしくも行政府なり国会なりが通した法律であろうとも、それが憲法に違反するものであるならば、びしびしとそれが違憲であるという判決をして頂きたいということを期待するの余り、そういう点についての心配を持つという点を申上げておきたいと思うのであります。私の質問は終ります。
  108. 内村清次

    ○内村清次君 先ほど佐藤法制意見長官の御答弁を聞いておりますと、とにかくこの両法案というものは日本国との平和條約の第十七條、いわゆるこの平和條約に日本政府は調印したのだと、而も又この條約の中の第十七條のb項によつて法制局としてはいわゆるこういう法案を作らなければいけなかつたのだと、こういうお話ですね。そこで問題は第三條にこの事件に対して原告又は被告として十分な陳述ができなかつたときは、この法律案によつて再審査を受けると、こういうようなことになるわけでありましようが、そのときにこういう事件が一体現在どれくらいになつておるかというような問題、同時に又先ほどの局長の御答弁によりますと、十分な陳述ができなかつたという適用のお話があつたわけですが、そういうような事件が、予想せられる事件がどれくらいあつたか。この点につきまして御調査なさつておりますかどうか。
  109. 野木新一

    ○政府委員(野木新一君) 事件につきましてはお手許に資料として差上げておきましたが、只今御質問の民事のほうにつきましては裁判所にお願いして調べてもらいましたところでは、大体昭和二十一年二月以前判決言渡しの分につきましては当事者の国籍といたしまして平和條約署名国のものが十九件、それから中国が十件、その他四件とありまして、広い意味の連合国人を当事者とするものは三十三件ほどであります。二十一年三月以降判決言渡しの分につきましては平和條約署名国が十五件、中国が八十六件、その他九件、合計百十件となりまして、直接今度の法案で対象となりますのは平和條約署名国でありますので、合計三十四件程度になつております。勿論これは多少の調査洩れがあるにしましても、大まかに言つて総体の件数はその程度でつかめると思います。このうち実際十分な陳述ができなかつた事件はどの程度あるかと申しますと、これはやはりその事件の申立を待つて見ないと十分わかりませんので、民事につきましてはさほど申立が、殊にこの中につきましてはすでに解決しておるものも相当あるようでありまして、実際問題として申立はそうたくさんはないのじやないかと考える次第であります。
  110. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 この問題は少し大きな問題になるのでありますけれども、やはり裁判所の独立という点からいささか心配になりますのは、日本の現在の憲法は言うまでもなく硬質憲法であろう、リジツト・コンステチューシヨンであろう、硬い憲法である、簡單に変えていいというものじやない。それで最高裁判所が憲法擁護の違憲の判決をなす最高の使命を持つておるということと、それと憲法がリジツトなものであるということは私は関係があるだろうと思うのです。政府が迭り、政策が変り、それで憲法を変える。例えばソ連の場合のように……。そうすると最高裁判所が違憲の判決をやつて行く、やるということとはそれは私は理論上一致しないのじやないかという、どつちがいい悪いを言うわけじやありませんが、筋が立たないのじやないか。従つて最近の情勢で憲法改正ということについてかなり簡単に変え得るかの、ごとき、リジツトなコンステチユーシヨンとしての意義というものとは相反するような考え方や、或いは運動や、又そういう行動がある。これらについては最高裁判所も勿論重大な関心を持たれておるのだろうと思う。憲法が変つたら変つた趣旨の違憲判決をするのだと、こういうように簡単には行かないことじやないかと思うのですが、これらの点についても最高裁判所では十分お考えになつておることだと思うのですが、そういうふうな問題が起つて来てから違憲判決なり何なりをするというよりも、場合によつてはこれは三権分立を乱すという意味においては警戒しなければならないことでありますけれども、併し立法府なり、或いは行政府なりが明らかに憲法違反のような立法上乃至行政上のことを企てたり、考えたりしておるような場合に、最高裁判所としてそれらを三権分立の原則の上に立つてではあるけれども、併し事前にそうした問題についての最高裁判所の態度を明らかにせられるというようなことはあり得ないもんでしようか、どういうもんでしようか。その目の前で違憲のような法律案ができてそれをあとから違憲の判決をやるというよりも、場合によつてはそういう違憲のような法律案ができないことが望ましいのじやないかと思うのですが、むずかしい問題でありますけれども、我々非常に本当の意味において心配をしておるので、それらの点についてはどんなふうにお考えになつておられるか。
  111. 岸盛一

    ○説明員(岸盛一君) お説のように最高裁判所は憲法の解釈の権利を持つておりまするけれども、理論的に申上げれば、やはり裁判所は立法府でもなければ、行政府でもないわけでありますから、具体的な事件を通じて何が合憲的な法律であるか、何が法律に適合しておるのかということを具体的な案件を通じて裁判をするのが本来の職責であることはこれは申上げるまでもないことであります。それともう一つは只今羽仁委員から申されましたようなことに類するような事件が下級裁判所又は最高裁難所に係属しておるようなことを仮定いたしますと、最高裁判所の本来の使命と若干離れて、まあ言わばもつと高い意味で、広い意味で仮にそれについての最高裁判所の意見を述べるということになりましても、それはやはり特にその当該具体的な事件について最高裁判所が意見を発表しているのだなというふうにとられる慮れも十分あろうかと思います。でやはり裁判官としましては、これは私ども最高裁判所の事務局におるだけで裁判官でありませんから、最高裁判所の裁判官各自がどういう意見を持つておるかは別といたしまして、ただ裁判官の一人として考えたことを意見としてここで申上げますと、やはり本来の使命に忠実な余り、国を誤るというようなことにも場合によつてはなる慮れがなきにしもあらずでございますけれども、やはりこの行政権又は立法権を或る場合にはチエツクするというような形になるような行為はできるだけ裁判官としてはやはり慎むべきではないだろうか、かように考えております。
  112. 羽仁五郎

    ○羽仁五郎君 私の申上げたいのは、例えば高等裁判所あたりでは、その都市の制定した條例などについてその憲法違反の判決を下されたところもあります。そしてそれらを通じて憲法を擁護せられるという、さつき私の申上げたような趣旨が国民の前に明らかにせられておる。で今後もまあ今申上げたような極めて一般的な場合の活動というものにはさまざまの弊害があるから、それは愼まれるのかも知れませんが、そうした問題が最高裁判所に来て、そしてその判決などにおいては憲法を擁護する、裁判の独立を確立するという点に集中せられて何ら政治上或いはその他の特定の見解というものに拘泥せられるということはないということを特に我々が期待するということは十分御了解になつていることだろうと思うのであります。
  113. 吉田法晴

    ○吉田法晴君 それじや一点だけ、最高裁に今の羽仁さんの御意見に関連してお尋ねするのでありますが、最高裁判所がこの違憲、憲法について裁判所としての任務を持つておられることについては論議がないのでありますが、その訴訟手続規定がないということがまあ言われておりますが、憲法第七十七條によつて訴訟に関する手続を最高裁判所が定め得るということになつておるわけでありますが、この違憲訴訟その他に関します訴訟手続規定についての制定の御用意、御意思がありますかどうか、一点だけをちよつとお伺いしたい。
  114. 岸盛一

    ○説明員(岸盛一君) 違憲審査の手続について特にそれのみを目的とした手続が必要かどうかというようなことは、咄嗟の御質問でございますから私はつきりお答えができないわけでございますけれども、今までの観念として申上げれば、やはり具体的な事件に附加されて具体的な案件を通じて憲法違反ということが問題になるわけですから、普通の事件を処理する手続即ち現在の手続によつてやはり審議をされ、会議をされるわけなんですから、普通の場合と特に異つてその違憲審査のみを対象とし、目的とするような手続を最高裁判所の規則なり又は手続法なりによつて作るということは考えなくてもいいのじやないかどうかとこういうように思つております。
  115. 小野義夫

    ○委員長(小野義夫君) それじやこれで散会いたします。    午後零時三十四分散会