○
白石参考人 きょうはこういう非常に重要な場にお招きいただきまして、どうもありがとうございます。
今、
野依先生から極めて包括的なお話がございましたので、私としましては、それを踏まえて、大きく三つのテーマに絞って、私の考えを少しお話ししたいと思います。
まず最初は、
総合科学技術会議の
司令塔機能の
強化ということでございますが、新政権が成立いたしまして、
総理が議長を務めておられます本
会議が極めて頻繁に開催されまして、これが非常にはっきりと
政府の
科学技術・
イノベーション政策重視の
政治的意思となって、それを受けて、
総合科学技術会議としても、私
自身、議員をやっておりまして、よほど大変だったろうと思いますけれども、ともかく五カ月で
総合戦略をまとめたというのは、これは非常にすばらしいことだろうと思います。
実際に、私もこの
総合戦略についてはかなり丁寧に拝見いたしまして、
アクションプラン、それから
重点施策パッケージ編成、こういう
プロセスを
強化する形で
予算編成プロセスにおける
機能強化ということが
方針として出され、さらに
戦略的イノベーション創造プログラムの
創設ということがうたわれ、それから、
日本版DARPA、Dのところがどうなるのかというのが若干私としてはまだ心配でございますけれども、ともかく、
日本版DARPAということで、
DARPAを
参考にした
革新的研究開発支援プログラムがつくられる。非常にすばらしい。まさに、これが
一つ、これまで
総合科学技術会議として
日本の
科学技術・
イノベーション政策の
司令塔ということで考えられていた、そういう
方向に今進んでいるというふうに受けとめております。
これから
工程表を八月の末までに策定して来年度から
実行ということになっておりますので、これに関連して四点申し上げたいと思います。
一つは、
科学技術顧問の
創設ということでございます。
総合科学技術会議では、
科学技術・
イノベーション政策における
二元性の
観点から、
科学技術顧問の
創設についてどうも懸念されておられるようなところがございます。あるいは、そういうふうに私としては受けとめておりますけれども、これはやはり
科学技術顧問というものの
役割について少し混乱があるのではないか。
レジュメにも書いておりますけれども、
総合科学技術会議というのは、これは
科学技術振興のための
政策、これを策定するのが
総合科学技術会議でございまして、それに対して、
科学技術顧問、あるいは英語で申しますと
サイエンスアドバイザーというのは、
政策のための
科学について
総理を補佐する。つまり、
安全保障政策、
防衛政策から
環境政策、
科学技術・
イノベーション政策まで、あらゆる
政策について、その
科学的な意義、これが第一です。それからもう
一つは、それぞれの
分野の
政策が長期的に
科学技術の
発展にどういう意義があるのか、これが二つ目ですが、この二つについて
総理にアドバイスする、これが私は
科学技術顧問の
役割だろうと考えております。
ですから、その
意味で、私は、
科学技術顧問についてはぜひもう少し前向きに考えていただきたい、これが第一点でございます。
それから第二点目は、
総合科学技術会議の改組においては、ぜひ防衛大臣の参加をお考えいただきたいということでございます。
防衛力の基盤には、当然のことながら、産業
技術というのが極めて重要でございまして、防衛産業、それから防衛
技術基盤というのがこの十年かなり弱くなっている。また、これから将来、防衛
予算というのがそれほど大幅にふえるということはなかなか考えがたいことから申しますと、やはり、防衛力というものについても、
科学技術・
イノベーション政策の一環として考える必要がある。これは、特に
科学技術の方から申しましても言えることだろうと思います。
もう既に、軍事
技術における革命ということが
アメリカで言われるようになって十年たっておりますけれども、この十年の間に、もう皆様御承知のとおり、例えば人間の生命のコストというのは非常に高くなっておりますので、無人飛行機、無人潜水艇等、無人のロボティクスあるいはブレーン・マシン・インターフェースの新しい知見に基づいた武器、装備の開発ということが行われております。
私は、
日本の
研究機関あるいは
大学がそこまで踏み込めとは申しませんけれども、少なくとも、こういう
技術というのは全てデュアルユースでございまして、デュアルユースの
技術について、あるいは
科学技術について、これが軍事に転用されるかもしれないということでその
分野に
日本が入っていかないというのは、決して望ましいことではないのではないだろうかというふうに考えております。
ですから、その
意味で、
総合科学技術会議の本
会議への防衛大臣の参加ということは、実際には
基本計画にございます安全保障・基幹
技術のところの安全保障を実質化するということでございますが、これをぜひ考えていただきたい。
それから三番目に、これはもう既に先ほど
野依先生から指摘があったところでございますけれども、こういう
科学技術イノベーション戦略と申しますものは、これは結局のところ、
大学、国の
研究機関、あるいは企業の
研究者が動かなければ絵に描いた餅でございます。
その
意味で、今、
研究者は、
基本計画に基づき、この
総合戦略をかなり丁寧に読んでいる。ここに、彼らの視点から見てどういうインセンティブがあるのかということを非常に注意しながら見ていると思います。
今までは、
総合科学技術会議の方で、この六カ月は、専門
調査会であるとか
戦略協議会というのは忙しくてなかなか開けなかったのであろうというふうに想像しますけれども、ぜひこれからは、こういう
総合科学技術会議が持っております専調であるとか
戦略協議会だとかあるいはタスクフォースだとか、いろいろなものを使って、
研究者のコミュニティーがどうこれにインセンティブを見出して動いていくかというところに考えをめぐらせていただきたい、これが三番目でございます。
それから四番目に、
戦略的イノベーション創造プログラムにおける資源の投入ということでございます。
エネルギー、それからライフサイエンス、インフラ等の
分野にその資源を集中的に投入する、これは非常に明快でございまして、私としても全く違和感はございませんが、同時に、事業化のための環境整備、それから
イノベーションの
エコシステム、ちょっと間違ってエコロジーと書いておりますが、
エコシステムの構築、これは極めて重要でございます。
したがって、規制であるとか、金融
分野の
改革であるとか、あるいは税制、それから
政府調達その他、ワールドバンクだとかあるいはワールドエコノミックフォーラムのランキング等を見ましても、
日本が明らかに、国際的に比較して余り
競争力を持っていない
分野というのがございまして、ここについてはよくよく検討して、
競争力強化のために資源を投入する。つまり、
研究開発のところだけにお金を投入するのではなくて、規制とか金融とか税制とか
政府調達とか、こういうところにぜひ注意を払っていただきたい、これが四点目でございます。
次に、二番目に、もう少し広いテーマになりますけれども、
科学技術イノベーション戦略の狙いというのは
技術力の
強化ということでございまして、これは別の言い方をしますと、生産関数を変えて資源を効率的に使う、そのための
技術力を培養するんだ、そういう趣旨でございます。
この
技術力の基盤には、当然のことながら、一般的な言葉で申しますと、
知識のストックというものがございまして、この
知識のストックというものをいかに豊かにしていくかということが最終的に
技術力を
強化することにつながる、これはもうよく知られているところでございます。
その
観点から申しますと、
大学改革というのは喫緊の
課題でございまして、先ほど
野依先生が指摘されました、若手、特に三十代の若手を
独立の
研究者として
競争させる、あるいはリーダーとして彼らに
研究費を配分する、これはもう極めて重要でございます。これをやらない限り、
創造的な
研究というのは出てこないというふうにむしろ言えるのではないだろうかと考えております。
それを申し上げた上で、これについては四点、少しこの機会に申し上げさせていただきます。
一つは、国際頭脳循環、これをもっと推進する必要があるということでございます。
国際的な
研究ネットワークに
研究者が入っていくことが
研究の質の向上にどのくらい貢献するか、資するかということについては、これはいろいろな
研究の知見から判断して確実に言えることでございますが、例えば一橋に中馬
先生という、非常に
イノベーション研究ではすばらしい
研究をしておられる
先生がおられますけれども、この中馬さんの
研究なんかを見ますと、例えば半導体
研究においては、二十一
世紀の最初、
世界的な
研究ネットワークのハブであった
日本の
研究者が、十年後には、
アメリカでは彼らのライバルはますます大きなハブに成長しているのに対して、
日本のそういう
研究者は、結局どんどんマージナルなところに移っていっている、そういう
研究もございます。
ということで、ともかく国際的なネットワークにリンクしていくことが重要ですが、同時に、
日本にも
研究ネットワークのハブをつくることが私としては非常に重要ではないかというふうに考えております。これは既に、例えばWPIのようなもので現に
実行されているところでございますけれども、ここではまだやれるところがある。
それで、特に
大学について申しますと、
世界的な頭脳循環が非常に加速化する中で、優秀なポスドクあるいはテニュアトラックのアシスタントプロフェッサーのとり合いというのは、これは極めて
競争が激化しております。
ここで
一つ、少し妙な例を挙げますと、例えば、
アメリカ人で、
アメリカに住んでいて、学部あるいは
大学院でハーバードであるとかスタンフォードに行けるような人は、仮にiPS細胞の
研究で
研究者になりたいと思っても、一生、例えば京大には来ません。これはもうほぼ明らかに来ません。だけれども、そういう人が仮にハーバードないしスタンフォードでPhDを取って、ポスドクあるいはテニュアトラックのアシスタントプロフェッサーで
山中先生のところで
研究できる機会があるということになったら、これは相当の確率で来ます。
ということは、別の言い方をしますと、今、恐らく
日本がかなり勝てるチャンスのある
大学間
競争というのは、これは、学部、
大学院以上に、ポスドク、それからテニュアトラックのアシスタントプロフェッサー、つまり若手
研究者のレベルじゃないか。ここにかなり集中的な
投資をし、頭脳循環の中にはめ込んでいけば、これは私は、
日本の
大学改革にとっても、
日本の
研究者コミュニティーのいわば質の向上にとっても、非常に大きな
意味があるのではないだろうかと考えております。
それから二番目は、これは既に、常に言われていることでございまして、また
大学の
学長がここに来て、
大学交付金の削減はやめてくれ、そういうふうに言っていると受けとめられるかもしれませんが、非常に厳しくなっていることは事実でございます。
それで、そろそろ教員の削減に手をつけないともうもたなくなっておりますが、仮にこれを一律にやりますと、
日本の
大学が押しなべて疲弊するということは、ぜひ頭に置いておいていただきたい。私は、別に
大学交付金を全体としてふやしてくれとは申しませんが、もし削減するのでしたら、そろそろ傾斜配分を考える時期に入っているだろうというのが申し上げたいことでございます。
それから三番目に、
研究資金の配分方法の多様化ということをぜひ考えていただく、あるいは考える必要がある。
現在、
研究費の配分というのは、圧倒的に、プロポーザルに基づいて、評価者がおり、その上に選考
委員会があって、ここで、誰に、どのチームに
研究費を配分するかというのが決まる、そういうふうになっておりますけれども、この結果、一番当たる確率が高いのは、
研究者コミュニティーの大勢が、これが、すばらしい
研究だ、この
方向に
研究が進むんだということを考える、そういう
研究テーマに資金は配分されがちである。つまり、ちょっとまた妙な比喩を使いますと、メダカの群れが向かう
方向に私も向かいますと言うとお金がつくというのが、基本的には私はプロポーザル主義だろうと考えております。
ここで
一つ、これもまた妙な例を挙げますと、
アメリカのMITに、かつてノーベル
経済学賞をとりましたポール・サミュエルソンという非常に偉大な
経済学者がおりました。彼が
アメリカの例えば
ナショナル・サイエンス・ファウンデーションに出したプロポーザルというのは一行だったという伝説がございます。本当かどうかは知りませんが、一行だったと。つまり、ポール・サミュエルソンだったら、一行でも、この人は必ずいい仕事を出すということがわかっているので、かなりの
研究費が彼には出た。
つまり、何を申したいかと申しますと、
日本にはJSPS、JST、NEDOといった
研究資金の配分機関がございますけれども、こういう資金配分機関がプロポーザルに基づく配分、あるいは人に基づく、人を見た配分、あるいはプロジェクトを見た配分という形で、違う資金配分のやり方をする、それによって
競争するということが重要ではないだろうか。当然のことながら、その中にハイリスク・ハイリターンの
研究に対する資金配分ということも考えておくということでございます。
それから、最後に
一つ、
研究費の問題で、私
自身も少し苦労しておるということで申し上げておきますが、科研の基金化というのはすばらしいことですが、今年度から、調整金という形で少し、実際には制度の手直しが行われておりまして、その結果、
大学では手続が煩雑になっております。私としては、これは本来の科研の基金化の趣旨に応じて、調整金ではなくて、基金化ということで進めていただきたいと考えております。
それから最後に、もう時間がございませんので、PDCAとエビデンスに基づく
政策研究についてはごく簡単に申し上げますけれども、これはもう当然のことですけれども、
政策のデザインそれから
政策の評価におきましては、エビデンスに基づいた
政策立案、
政策評価というのが必要であることは申し上げるまでもございません。
例えば金融
政策においては、大量の
経済データを収集し、分析するというのが金融
政策の
基礎になっておりまして、これはもう日銀も含めてあらゆる中央銀行がやっていることでございますが、そういう大量のデータの収集と分析に基づく
政策の立案というのは、まだ
科学技術・
イノベーション政策の
分野では随分やることがあるだろう。
つまり、具体的に申しますと、
研究費の配分から論文の生産、
科学的知見の活用からパテントの取得、起業から雇用まで、極めて大量のデータを収集し、分析する、これは、それほど大変なお金がかかるとは思いませんが、それでもお金がかかることは間違いございません。ですから、この
分野に対する資金配分というのもやはり考えておかないと、いつまでたっても、エビデンスに基づく
政策、つまりサイエンス・フォー・ポリシーというものが絵に描いた餅にとどまる
可能性がある。
それに関連して、最後に
一つだけ申し上げたいと思いますが、国会の議事録を拝見しますと、この
委員会では、最近、リニアコライダーについて随分議論があるように考えております。
私がお願いしたいのは、その
効果、つまり
研究上の意義、
経済効果、我々の生活にとっての意義、
イノベーション上の意義、こういうものを、先ほど
野依先生はヒトゲノムの
投資がどのくらいさまざまの
意味での
効果を持ったかということをお話しされましたけれども、例えば、毎年四百億円、十年、これをリニアコライダーに投入するのか、再生
医療に投入するのか、ロボティクスに投入するのか、それの
効果というのはどうなるのか、こういうことを、国会として、
日本のシンクタンク、必要であれば外国のシンクタンクとも協力しながら
調査して、できる限り合理的なエビデンスの上に
政策の決定ということを行う、そういう
仕組みをぜひこの
委員会としても考えていただければと思います。
これで私の報告は終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)