○大木浩君 私は、自由民主党を代表して、ただいま報告のございました
財政演説及び
湾岸平和
支援財源法案の
趣旨説明について、
総理及び
関係大臣に御
質問を申し上げます。
今回の
イラク軍のクウェート侵入は、自己の軍事力を過信した一人の独裁者によって引き起こされた不幸な事件でありましたが、幸いにして、武力による他国の侵略、併合は断じて許されないという国際世論の支持と、米国を初めとする多
国籍軍の迅速な
行動により、少なくとも軍事的には
終結の
段階を迎えております。私はここに、サダム・フセイン大統領の暴挙を許さず、国際正義を守るために敢然として戦場に赴いた多
国籍軍兵士諸君の
犠牲と勇気と使命感に対し、深甚なる敬意を表するとともに、新しい
世界平和の
秩序確立を目指して毅然として決断を下した多
国籍軍派遣国の首脳の勇気ある
行動を高く評価するものであります。
本格的な地上戦の展開ともなれば、これまでの空爆とは異なり、多大な人的損害を伴うことは必至と思われておりましただけに、我々としてもできる限り地上戦への突入が避けられることを祈念したのでありますが、たび重なる多
国籍軍側の呼びかけに対して誠意ある回答もないままに、クウェートに居座り住民に対する殺りく
行為を続ける
イラク軍に対し、多
国籍軍が地上戦の展開により局面打開を図ったことはやむを得ない選択でありました。
一部には、交渉の手段を尽くさないまま地上戦に入ったのは早過ぎたのではないかという意見もありました。確かにソ連と
イラクからは和平に向かって種々の条件提示がありましたが、
提案は、無条件撤退と言いながら、経済制裁の解除や
国連決議の失効など、その真意を疑わせる条件が盛り込まれており、交戦中の軍隊として到底受け入れることのできるものではございませんでした。
八月二日の
クウェート侵攻以来、
イラク軍は外国人を人質として拘束するという暴挙から始まって、ジュネーブ条約を無視して捕虜を人間の盾とし、またイスラエルの住宅地にミサイルを撃ち込み、さらには原油をペルシャ湾に流出させて環境を大きく破壊するなど、狂気の限りを尽くしてまいりました。和平協議を行う一方で、サウジアラビアにスカッドミサイルを発射し、クウェートの油井に火を放って焦土作戦に出ました。これ以上いたずらに日を送ることは、クウェートの国土とその生産施設の完全な破壊につながる
情勢が生まれつつございました。
私は、多
国籍軍が
国連決議の完全実施を
イラクに迫り、
平和回復のため地上戦に踏み切ったことが、結果として去る二月二十六日のフセイン大統領の撤退声明とその後の
停戦条件受諾につながったものと
考えます。
総理は、この間の経緯をどう受けとめ、今後どう対処されるのか、御所見を承りたいと存じます。
次に、
我が国の
国連協力と日米
関係についてお伺いいたします。
我が国は、安保条約により、米国の同盟国として自由、
民主主義という共有の
価値を積極的に守る
立場にあり、同じ平和愛好国とはいっても、例えば
スイスのように永世中立国としての道を選び、
国連にも参加しておらない国とはいささか
立場を異にするのであります。日米安保条約は、平和
憲法、
国連との
協力とともに
日本外交の基軸をなすものであり、戦後
日本の平和と経済的繁栄に大きく寄与してまいりました。また、東西
冷戦の解消がもたらされるまでの時期に、米国の軍事力がグローバルな抑止力として大きく作用してきたこと、また、当面このような米国の軍事力が引き続き国際警察力としての
機能を果たすことも否定できない事実であります。
他方、今回の多
国籍軍の
行動は、
国連憲章第七章に基づく
国連安保理決議により認められた
武力行使でありました。
国連の一員である
我が国がこれに
協力することは、「平和を愛する諸
国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持」することを宣言するとともに、「いずれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならない」と述べている
日本国
憲法の規定にも一致するものと
考えます。すなわち、
我が国外交の二本の柱である日米
関係と
国連への
協力とが今回の多
国籍軍への
協力に際しては一体となって
機能しているものと
考えますが、
総理の御
見解を伺いたいと思います。
資源の少ない
我が国は、相互依存の
世界経済体制の中で生きていかなければなりません。貿易立国、科学技術立国を標榜する
我が国は、文字どおり
世界との協調の中でしか繁栄の道はなく、自主的に
世界の平和と繁栄に
協力していかなければならないことは当然のことであります。
今回の
湾岸戦争という事態に対処して、
国際社会は、
世界第二の
経済大国となった
我が国が平和
憲法のもとでその国際
責任をどう果たすのであろうかと注目しております。
言葉をかえて言えば、
憲法に基づく
日本国民の
平和主義外交は今大きな試練にさらされており、国際
情勢の現実に
対応した、より明確な位置づけを求められていると
考えねばなりません。
多
国籍軍の兵士が血を流して戦っているときに、
日本の国際
協力は金だけでは不十分であり、
自衛隊を含む人を
派遣して汗を流すことも必要という議論がある一方で、一部の学者の間では、
日本人はいわゆる良心的兵役忌避者の
立場に立って、一切の軍事
行動に
協力すべきではないとの極論を吐く人もあるわけであります。しかしながら、
日本は国家として自衛権を放棄したわけではなく、また、欧米におけるいわゆる良心的兵役忌避者たちは、宗教的信念に基づいてみずから武器をとって人を殺すことは拒否しておりますが、その代償として、戦火の激しい戦場で衛生兵として勤務し、あるいは自分の体を医薬品の実験に供するなどの危険な
行為に従事しているのであります。
いずれにしても、
日本国
憲法の掲げる
平和主義は、他人にのみ危険な仕事を押しつけてみずからは一切危険に近づかないという思想を示すものではない、そのような思想は
国際社会においても到底受け入れられないと
考えますが、いかがでありましょうか。
次は、
湾岸対策であります。
今回の
湾岸の
平和回復活動においては、米国を
中心とした二十八カ国の多
国籍軍が参加し、中でもクウェート奪回の先頭に直接加わった国々の血と汗を流しての
努力を思いますとき、
国連中心主義を標榜する
日本外交は、人の面でも国際
貢献を積極的に果たさなければなりません。前
国会において
国連平和
協力法案が審査未了となった現在、さしあたり我々のなし得ることは
湾岸戦争後の
避難民流出に対処することであります。今後は、場合により数十万とも言われる
避難民流出に有効に対処できる準備が必要であります。
さきの
国会において、自民、公明、民社の三党は、
国連平和
協力法案の論議を踏まえて、
日本はその力量にふさわしい国際
貢献が求められていると確認し、
資金や物による
協力ばかりでなく人の面で汗を流す必要があるとして、法制面の整備を行うことで
合意しております。
日本が
国際社会の中で信頼されるためには、
憲法の枠内においてでき得る
最大限の国際
協力を果たすべきだと
考えます。
政府では、既に北欧のPKOの実情などについて調査されているようでありますが、この法制化についてはどういう構想を持っておられるのか、今
国会提出の見通しを含めてお伺いいたします。
戦後、
我が国は目覚ましい経済的発展を遂げ、今や
世界一の援助大国となっておりますが、思い起こせば、第二次大戦直後から約十年間にわたり食糧や生活物資の
不足に苦しんだ
日本は、アメリカなどの友好
諸国から食糧、肥料、医薬品等の援助を受け、これが復興の原動力となったのであります。こうした
歴史を振り返るならば、
湾岸戦争の
終結後我々がまず実行すべきこととしては、
戦争により被害をこうむった住宅、道路、橋などの施設の復旧作業や、子供や傷ついた人々に対する
人道的立場からの食糧供与、医療活動等を挙げることができると思います。さらに、今回の
イラクによるペルシャ湾への大量原油流出という環境テロは許しがたい暴挙で、深い憤りを覚えるのでありますが、
我が国は、環境先進国として率先して技術、資材を提供し、汚染の
回復を図るべきであります。
今回の
戦争に至る経緯を顧みて強く感ぜられることの
一つは、何ゆえに
イラクはあのような侵略に走るまでの軍事大国となったかということであります。ソ連、フランス、中国等からの武器供与がなければ、
事情は大きく異なっていたのではないでしょうか。幸い
我が国は
武器輸出を禁止している国として、核、生物・化学兵器はもちろんのこと、通常兵器を含めた
武器輸出の禁止、軍備管理について
国連等の場でこのことを強く訴え、
冷戦後の
地域紛争の防止に
貢献すべきではありませんか。
以上の諸点を含め、
我が国として
湾岸地域の国際的な平和維持にどう
対応するのか、
総理のお
考えをお伺いしたいと思います。
次は、九十億ドルの
財源問題であります。
いかに緊急の予期せぬ事態とは申せ、既に巨大な債務を抱えている
政府としては、赤字公債の
発行に頼って、この
負担を我々の子孫に回すべきではありません。多
国籍軍の若者がとうとい血を流して平和の
回復に
努力していることを思えば、我々
日本国民も、安易な方法で
財源を
確保するのではなく、直接痛みを分かち合う覚悟が必要であります。同時に、
政府としても
既定経費の
節減合理化になお一層
努力せねばなりません。
政府は、今般の
財源措置として石油税及び法人税の増徴を予定しておりますが、何ゆえこの税を選んだのか、広く
国民全般が
負担を分かち合うという
考え方と一致するのか、また
国民生活や中小企業を含む
日本経済に与える影響についてはどう見ておられるのか、
総理及び
大蔵大臣の御
答弁をお願いいたします。
最後は、
湾岸戦争後の
外交的
対応であります。
八月二日の危機
発生以来の
各国の動きを見れば、
中東における域内及び域外
諸国の
立場は極めて複雑であり、東西
冷戦の解消が直ちに安定した国際
関係を形成するとは言い切れない
国際社会の現実を改めて我々に見せつけたと言うべきであります。今後は、この
地域における
域内諸国間の合従連衡と、米ソを初めとする欧米
諸国の影響力争いが始まると
考えられますが、
日本政府としてはどのような方針でこの
地域の安定と復興に寄与しようとするのか、
総理のお
考えをお伺いいたしたい。
また、
外交当局としては、具体的な政策立案のためにどのような調査研究を進めておられますのか、
外務大臣の御
答弁を得たいと思います。
なお、
湾岸戦争が終われば、
中東における諸問題の解決のために
関係国による国際協議が行われると存じますが、どうか
日本政府としても積極的に
イニシアチブをとって、九十億ドルの
貢献に見合う力強い
外交を展開していただくようお願いする次第であります。
質問を終えるに当たって、一言申し上げたいと思います。
本日議題となっておる九十億ドルの
支援を定めた第二次
補正と関連法案は、今後
日本が
国際社会で信頼される一員として活動するためのいわば重要なパスポートであります。私は、参議院における与野党逆転という政治
情勢の中で、国政の
責任の一端を担う公明党、民社党の御賛同を大いに評価いたすものでありますが、最大野党の社会党が、
イラクも悪いがアメリカも悪いという二者同列視の
立場から、多
国籍軍と
イラク双方の即時
停戦を主張してこられたのは、まことに
理解に苦しむところであります。
社会党の
議員の中にも、反戦を叫ぶだけで済ませたり、絶対平和の手段のみで対処することは、武力
行動を結果的に容認し、利することにつながり、逆に
戦争への道に近づいてしまう、一番喜ぶのはフセイン大統領ではないかとの御意見があったと聞いておりますが、私も全く同感であります。良識の府と言われる参議院の
議員諸君が、こうした同僚の訴えに十分耳を傾け、一党一派の枠を超えた高い
立場から、
国連決議に基づく多
国籍軍の正義と
秩序の
回復を目指す
行動を正しく評価し、一致して
支援されることを心から期待するものであります。
以上をもって私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣海部俊樹君
登壇、
拍手〕