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石橋(一)
委員 医学及び歯学の
教育のための献体に関する
法律の案につきまして、提案者を代表し、起草の趣旨及びその内容を御説明申し上げます。
人体の正常な形態と構造を学び、これを明らかにすることは、医学または歯学の
教育の
基本であります。
このため、人体解剖学の実習が不可欠であることは申すまでもないことでありますが、この解剖実習こそ医の道を志す者にとって、人間の生命及び身体の尊厳を、身をもって心に刻みつける端緒をなすものでありまして、医学
教育の根底にある医の倫理の涵養のため貴重な
教育の場となっております。
現在、死体の解剖及び保存に関する包括的・統一的な
法律として、死体解剖保存法が制定されており、大学における医学、歯学の
教育のための解剖及び解剖用遺体の交付等は、この
法律に根拠を置いております。しかしながら、同法はすでに死亡した者の死体について規定しているものであり、また、解剖については原則として遺族の承諾が必要とされております。
ところで、解剖学実習用遺体につきましては、医・歯学部設置基準要項により、入学定員について一定数の確保が求められておりますが、近年の医科・歯科大学の新増設や、社会
状況の変遷に伴い、その充足
状況は必ずしも十分とはいえず、このままに推移すれば医学
教育に支障が生ずるおそれもあります。
このような
状況にかんがみ、医学
教育の発展のために、自己の身体を死後、無報酬で提供しようとする、いわゆる献体運動が篤志家団体や大学
関係者によりじみちに進められており、今日ではほとんどの医学及び歯学の大学に献体篤志家団体が置かれ、献体登録者の数は通算四万一千人を教え、解剖学実習用遺体の約三四%はこの献体に依存しております。
自己の死後その身体を医学
教育のためにささげようと、生前から献体の意思を表明する行為は、解剖体の確保のみならず、それ自体崇高な行為でありますが、一方、宗教上からくる遺族感情等もあって、献体の意義が必ずしも国民一般の理解を得るに至っていないのが実情であります。
現在、
わが国での法制上、献体に関しては何らの規定もなく、せっかくの生前の献体の意思が死後生かされないという事態も生じており、篤志家団体や大学
関係者等から、献体に関する法制化についての強い要望が出されております。
これらの事情にかんがみ、医学及び歯学の
教育の向上に資するため、献体に関する法制を整え、国民の理解を深める必要があると考えられるのであります。
このような
観点から、かねてから各党各派とも相はかり、ここに御提案申し上げましたような
法律の案を起草いたした次第であります。
本案においては、献体の意義を法令上明らかにし、本人の献体の意思について定義を定め、これが尊重されるべきこと、遺族感情にも配慮しながら献体に係る解剖の要件の緩和等について規定を設けるとともに、国として行うべき献体篤志家団体への
指導助言及び国民一般への献体の精神の啓発普及について規定を設けようとするものであります。
その主な内容は、第一に、この
法律の目的を、献体に関して必要な事項を定めることにより、医学及び歯学の
教育の向上に資することといたしております。
第二に、この
法律において、献体の意思とは、自己の身体を死後医学または歯学の
教育として行われる正常解剖の解剖体として提供することを希望することをいうことといたしております。
第三に、献体の意思は、尊重されなければならないことといたしております。
第四は、医学または歯学に関する大学において正常解剖を行おうとする場合に、死亡した者の献体の意思が書面により表示されており、かつ、大学の学長または学部長がその旨を遺族に告知し、遺族がその解剖を拒まない場合には、死体解剖保存法第七条本文の解剖のための遺族の承諾の規定にかかわらず、遺族の承諾を要しないこととしております。
第五は、死亡した者が献体の意思を書面により表示しており、かつ、その者に遺族がない場合には、その死体の引き取り者は、学長等から医学または歯学の
教育のため引き渡しの要求があったときは、これを引き渡すことができることとしております。
第六は、学長等は、正常解剖体として死体を受領したときは、その死体に関する必要な記録を作成し保存しなければならないこととしております。
以上のほか、文部大臣は献体篤志家団体の求めに応じて、その活動に関し、
指導助言ができること、国は献体の意義について国民の理解を深めるための必要な措置を講ずるよう努めることとしております。
なお、以上のような趣旨からしまして、この案の内容は先に述べました死体解剖保存法には溶け込みにくい面があり、また、献体を推進する上からも新たな
法律として制定することが適当であると考え、このような法案の形式をとることとした次第であります。
以上が本案の趣旨及び内容であります。
何とぞ
委員各位の御賛成をお願い申し上げます。
以上です。
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医学及び歯学の
教育のための献体に関する
法律案
〔本号末尾に掲載〕
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