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1975-06-25 第75回国会 衆議院 法務委員会 第28号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十年六月二十五日(水曜日)     午前十時十七分開議  出席委員    委員長 小宮山重四郎君    理事 大竹 太郎君 理事 小島 徹三君    理事 田中  覚君 理事 保岡 興治君    理事 稲葉 誠一君 理事 横山 利秋君    理事 青柳 盛雄君       小澤 太郎君    小坂徳三郎君       小平 久雄君    福永 健司君     早稻田柳右エ門君    中澤 茂一君       日野 吉夫君    山本 幸一君       諫山  博君    沖本 泰幸君  出席国務大臣         法 務 大 臣 稻葉  修君  出席政府委員         行政管理庁行政         監察局長    大田 宗利君         法務大臣官房長 香川 保一君         法務大臣官房司         法法制調査部長 勝見 嘉美君         法務省民事局長 川島 一郎君         法務省刑事局長 安原 美穂君         法務省人権擁護         局長      萩原 直三君         法務省入国管理         局長      影井 梅夫君         国税庁税部長 横井 正美君         国税庁調査査察         部長      渡邊 喜一君  委員外出席者         内閣総理大臣官         房参事官    北山 直樹君         警察庁刑事局保         安部防犯少年課         長       鈴木 善晴君         警察庁刑事局保         安部保安課長  四方  修君         大蔵省関税局監         視課長     海田 久義君         大蔵省銀行局保         険部保険第二課         長       田中 哲男君         厚生省医務局医         事課長     古賀 章介君         厚生省薬務局麻         薬課長     石居 昭夫君         最高裁判所事務         総局民事局長  井口 牧郎君         法務委員会調査         室長      家弓 吉己君     ————————————— 委員の異動 六月十九日  辞任         補欠選任   諫山  博君     田中美智子君 同日  辞任         補欠選任   田中美智子君     諫山  博君 同月二十日  辞任         補欠選任   諫山  博君     田代 文久君 同日  辞任         補欠選任   田代 文久君     諫山  博君     ————————————— 本日の会議に付した案件  参考人出頭要求に関する件  法務行政検察行政人権擁護及び裁判所の司  法行政に関する件      ————◇—————
  2. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 これより会議を開きます。  この際、参考人出頭要求に関する件についてお諮りいたします。  法務行政及び検察行政に関する件(犯罪被害者補償問題)について、来る七月二日午前十時から、参考人出席を求め、意見を聴取することとし、その人選につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。
  3. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ————◇—————
  4. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 法務行政検察行政人権擁護及び裁判所司法行政に関する件について調査を進めます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所井口民事局長から出席説明要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。
  5. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。     —————————————
  6. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。稲葉誠一君。
  7. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 おとといですか、東京地検起訴したという新星企業その他の事件ですね。宅建業法違反商法特別背任ということのようですが、どうも私よくわからないのですが、これは起訴するだけの起訴価値があったんでしょうか。どういう起訴価値があったんでしょうか。
  8. 安原美穂

    安原政府委員 御指摘の、無免許宅地建物取引業を営んだというのが公訴事実の一つとして宅建業法違反ということでございまして、これは一部の見解では単なる形式犯ではないかということでございますが、御案内のとおり、これは懲役三年以下、三十万円以下の罰金ということでございまして、無免許で業を営むということはそう軽く評価すべきものではないということが基本にございますとともに、統計を引用いたしまして御説明申し上げますと、昭和四十八年のこの業法違反起訴件数で五百八件ございますが、そのうち公判請求いたしましたものが七十件ございます。七十件ございますが、これは常に罰金相当の主として略式命令で済ませるような事案ばかりではない。その区別の基準は、やはり取引額がどの程度の額であるか、あるいはそれによる利得が巨額であるかどうかというようなことを勘案して公判請求すべきかどうかを検察庁では決めたものでございまして、本件につきましては、長い期間、しかも百億を超える取引がございましたし、起訴状から計算いたしますと四億二千万円の利得があったというようなことで、期間、それから取引額利益利得額というようなことを勘案して、公判請求が相当であるというのが東京地検見解でございます。
  9. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だけれども、国民は別に宅建業法違反によって被害を受けているわけでも何でもないのでしょう。
  10. 安原美穂

    安原政府委員 処罰する場合に、直接の被害があるかどうかということは非常に重要なメルクマールでございますけれども、およそ何々業法ということでその業態を規制しておりますいわゆる行政取り締まり法規におきましては、直接の被害者というのは常にあるようでないわけでございまして、この場合も、宅地建物取引というものを規制していこうということが現下国民生活に重要な問題であるので、それを無免許でやるということは、やはり広い意味においては国民被害を及ぼすおそれがある犯罪であるという理解であろうと思います。
  11. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 要するに、数も非常に多いし、額も多い。ことに利益が四億二千万円も上がっておるというようなことからして、略式請求でなくて公判請求に踏み切った、こういうふうなことのようですね。  それから、商法特別背任というのは、これはないことはないわけですけれども、非常に珍しいことですね。普通の背任罪でも特別行為が必要ですね。そうすると、商法特別背任罪の場合と普通の背任罪とどう違うのかということ、特に普通の背任と横領とはまた違うわけでしょう。それから、普通の背任商法特別背任と、構成要件がどういうふうに違うかということですね。そこら辺を説明していただいて、後の質問に入るわけですが……。
  12. 安原美穂

    安原政府委員 刑法背任罪の身分による特別罪だということで商法上の特別背任罪がございまして、特に七年以下の懲役ということで刑が加重されておるわけでございまして、常に刑法背任罪構成要件を別にするということではないと理解しております。
  13. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、どういうふうな構成要件になるわけですか。ことに故意の場合はどういう行為が必要なわけですか。
  14. 安原美穂

    安原政府委員 商法四百八十六条を読みながら御説明申し上げたいと思いますが、本件の場合だけに適用される条文として、本件の場合は取締役ですから、取締役等が「自己ハ第三者利シハ会社害センコトヲ図リテ」、だから目的罪といたしまして、自己または第三者あるいは会社利益を図るあるいは会社を害することを図るという、いわゆる利益を図る目的が必要でございますとともに、故意といたしましては、それが「任務ニ背キ会社ニ財産上ノ損害加ヘル」結果となるという認識をも含めて、目的罪としての目的認識のほかに、任務に背き会社損害を加えることとなるという結果の認識が必要でございます。
  15. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、会社損害と言っても、これは形だけは変わっているけれども実際は同じ会社なんだ、だから別に損害を加えたことでもないのではないか。これは法人格から言うと別個のものではあるけれども、事実上同じなんだということなら、損害を加えたことにならないのではないか、こういうふうな考え方もあったように聞いているのです。そういうふうなことは一体どういうふうに理解をしたらいいのでしょうか。新聞などを見ますと、そういうふうな意味でこれは不起訴になるのがあたりまえだったのだけれども、というような意見もありますね。まあ、あたりまえだとは言わぬけれども、そういう意見も大分あったということなんですが、そこはどうなんでしょうか。
  16. 安原美穂

    安原政府委員 御指摘のように、これが個人法人区別はない、つまり法人とは言いながら、それは第三者である法人を害するという意味での法人がないということであればこの構成要件に当たらぬわけでございますが、検察庁といたしましては、これは取締役という個人の問題と法人とは別であり、法人は実在するという認定のもとに起訴したものと理解しております。
  17. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはわかっているのですが、法人とは言うけれども、別個の人格ですからそれは形式的にはそうなんだけれども、実質的にはこの場合には法人というのはないので、だからお互いが仲間なんで、別に被害感情も何もないし、損害を加えたというところまで行ってないのだから、起訴するだけの価値はないのではないかという意見が相当出たわけじゃないでしょうかと聞いているわけです。
  18. 安原美穂

    安原政府委員 そのようなことは広い意味での捜査の秘密でございますので申し上げるわけにはいかぬと思いますが、いずれにいたしましても、いま御指摘のようなことは十分に検察庁で検討の上、いずれ公判廷において明らかにすべき事柄でもございますので、この程度で御猶予を願いたい、かように思います。
  19. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、商法特別背任の場合でも起訴したということは、普通の仲間同士被害のかけ合いというか、その程度のものではない、やはり悪質だということですか。これは非常に悪質じゃなくて、良質と言うのはおかしいけれども、どうなんだろう。ぼくは前の宅建業法起訴価値はわかったとしまして、この方の起訴価値はどういうふうなところに起訴価値があるのか。ぼくはきょうは意識的に逆に聞いているんですよ。起訴価値があるかないかということを聞けば、起訴価値があるというふうに答えるに違いないのだから、そうすれば、起訴価値というのは何かということになってくれば、その内容の説明をあなたの方である程度せざるを得ないのだ。だからわざと逆に聞いているわけですけれども、この方の起訴価値はどういうのですか。
  20. 安原美穂

    安原政府委員 すべて御明察でございまして、起訴価値がないものを起訴するわけでもございませんし、起訴価値、つまり処罰価値、それは可罰性というようなことはやはり法廷を通じて明らかにすべきことでございまして、遺憾ながらここで稲葉委員と論争するには適当でないと思いますので、ひとつ御猶予を願います。
  21. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 あたりまえのことを聞いているんですけれどもね。可罰性があるし、それだけの重要性がある、だからこそ起訴したのだ、これはこういうことなんでしょう。あたりまえのことですけれども。
  22. 安原美穂

    安原政府委員 御指摘のとおりでございます。
  23. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、どういう点に重要性があるかということです。これはその点が答えとしてないというとわからないんじゃないか。話がしり切れトンボになってしまうんじゃないですか。
  24. 安原美穂

    安原政府委員 商法特別背任罪に該当する事案であるということは、明確な自信のもとに起訴しておることでございますし、あと、どれだけの処罰価値があるかというようなことは、いわば犯罪情状に属することでございまして、公判立証の過程を通じて検察としてはその所信を明確にしていくはずでございます。
  25. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だけれども、宅建業法の場合には、いま、これこれ、これこれで起訴価値があるのだと説明したわけだ。片方の方になってくるとその説明はなくなってくるわけですよ。それはおかしいではないでしょうかと、こう私は聞くわけですよ。
  26. 安原美穂

    安原政府委員 宅建業法につきましては処罰価値を明らかにしたつもりはございませんで、公判請求をした理由を申し上げておるわけですが、それは若干情状にも関連いたしますが、特別背任罪につきましては、そのような処罰すべきかどうかというようなことを議論する以前に、すでに背任罪として、自然犯ということの特別罪として刑法にも規定のある事柄でございますので、本来処罰価値がないということを言うことの方が例外でございますので、特に申し上げる必要もない、かように思います。
  27. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 まあそれでいいですけれどもね。背任罪起訴というのは普通の場合は余りないのですね。検事背任罪起訴するようになったらおしまいだ、こう言われているくらいですよ、率直の話。もう崩れた事件だというのが普通の考え方でしょう。そういうことを余りここで言わないけれども……。  そこで、これは何で事件最高検まで行って相談をしたのですか。あなたの言うようなお話ならば東京地検だけでいいじゃないですか。宅建業法違反、何回もある、商法特別背任もはっきりしているのだと言うなら、あなた、最高検まで行って相談をする必要は何にもないのですね。どういうわけでこんな事件を……。何とかという議員を、何とかという議員か何とかという人か、なんか知りませんけれども、そういう人を起訴するとかしないとかというのならこれは最高検まで行かなければならない、法務大臣のあれになるかもわかりませんけれども、東京地検だけで済むことであって、なぜこれ最高検まで行って何回も協議したの。それだけの重要性があったからですか。
  28. 安原美穂

    安原政府委員 御指摘のとおり、最後にお言葉のございました重大な事件であるという検察認識であったと思います。それから、最高検に行ったことが新聞に報道されるから、たまにしか行かないように見えますけれども、常に検察庁最高検察庁指揮を仰ぐという意味においてたびたび最高検には行っておるわけでございまして、特にこのために、このことだから行ったということじゃなしに、これは希有のことではございません。
  29. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だれも希有のことだと言っているのじゃないので、それは最高検へ行って相談するということはありますよ。大きな公安事件のような場合だとか、たとえば大臣——大臣と言っちゃ悪いかもわからぬけれども、大臣関係しているような大きな事件とか、そういうふうな事件の場合には最高検に行って慎重に協議するということはありますけれども、いまあなたのおっしゃるような例の宅建業法違反だ、商法特別背任だというようなことなら東京地検だけで、特捜部はいい人いっぱいいるのだから、そして検事正や次席がいるのだし、最終的には東京高検あたりで話をすればいいわけなんで、最高検まで行って何回か相談しているのはどうもよく理解ができない、こう言っているのです。それだけ重要だからやったのか、それだけ事件が危なっかしいからやったのか、あるいはそれだけ判断に政治的な考慮というものを加えなければだめだからやったのか、大体三つぐらいに分かれるのじゃないのですか。これはどうなんだろう。
  30. 安原美穂

    安原政府委員 どういう理由相談したかと言われれば、先ほど申したように重大だからやったのだろうと思いますし、一々検察庁が結論を出すのについてどこどこと相談しろなどということは、本省、法務大臣から指揮するわけでもございませんので、よく承知いたしませんが、いずれにいたしましても政治的に処理するために相談したものとは思っておりません。
  31. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だから、重大だろうと思うから最高検へ行って相談したというのでしょう。そうすると、どういう点がこの事件は重大なんですか。問題はそこですよ。どういう点が重大なの。ちっとも重大じゃないじゃないですか、出てきたことを見ると。これはどういうわけで重大なの。
  32. 安原美穂

    安原政府委員 また議論が一回りいたしまして、重大であるかどうかは犯罪情状でございますので、これから公判廷を通じて明らかにしていくわけでございますので、しばらくお待ちをいただきたい、かように思います。
  33. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 なかなかいい答弁ですね。  大臣はあれですか、このことについては、一切相談にあずからなかったの。それはどうなんですか。あるいは報告を受けておったの、法務大臣は。
  34. 稻葉修

    稻葉国務大臣 起訴する前、刑事局長から報告を受けました。
  35. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはどういうことで刑事局長から起訴するということについて報告を受けるのですか。その根拠はどこにありますか。
  36. 安原美穂

    安原政府委員 法務大臣は、御案内のとおり検察について一般的な指揮監督の権限を持ちますとともに、具体的な事件につきましても検事総長を通じて個々の取り調べ、処分についての指揮権を持っておるわけでございます。そういう意味におきまして、大臣が全然知らないというようなことではないような仕組みになっておるわけでありまして、世間の耳目を集めておるような事件につきましては大臣に御報告するというのは慣例でございます。
  37. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 法務大臣は、何か一部の新聞、ニュースでは、私の読み違いかもわかりませんけれども、会議に直接加わったのかどうかわかりませんけれども、その都度報告を受けているように伝えられているところもあるのですが、これは私間違いだと思いますが、それがどうかということが一つと、それから、この件についてあなたが最高検検事総長なり何なりと話し合ったとかなんとかしたことはあるのですか、ないのですか。
  38. 稻葉修

    稻葉国務大臣 会議などしたこともなし、検事総長を通じての指揮権はあっても、この事件について検事総長と会ったこともありません。
  39. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そこで、国民の多くが疑問に思いますことの一つは、宅建業法の方は、普通の場合でも証拠隠滅というふうなことは余り行われないでしょう、これは取り締まり法規ですから。まあ、ないことはないでしょうけれども、それはないと思うのですが。特別背任なんというのは、甲と乙あるいは甲と丙、それらの人々のいろんな供述なり何なり、それからその持っておる書類というか証拠というか、そういうふうなものが隠滅されたりなくなってしまったりしたら、これはできなくなるわけですから、通常の場合は逮捕し勾留をしてやっていくのが普通の状態ではないか、私はこう思うのですよ。いいですか、宅建業法じゃないですよ、特別背任の場合ですよ。この場合について身柄拘束ということは全然話題にならなかったのですか。これがまず一点。伝えられるところによると、これは途中で、身柄拘束をしてそして徹底的に捜査をすべきだという意見も出たけれども、それは抑えられたのだということで、身柄拘束なしに在宅のまま調べがいったということのようですね。なぜ身柄拘束はしなかったのか、あるいは身柄拘束についての話が出なかったのか。当然身柄拘束して捜査をやらなければ真実の事態も発見できないし、検察の使命としてはこれはそこまでやるべきだったというふうに私は思いますがね。
  40. 安原美穂

    安原政府委員 そもそも検察庁が今回の事件捜査することとなりましたのは、警視庁から三月の末に送られてまいりました宅建業法違反送致事件の処理ということから始まったわけでございまして、今回特別背任起訴の対象となっておる土地、つまり埼玉県上尾市にございます土地につきましては新星企業宅建業法の無免許営業の一環としてなされたものでございまして、その土地の行方を探っていきますと不思議な土地移転があるということから、本件特別背任犯罪捜査に着手したというような関係でございまして、稲葉委員に御説明申し上げるまでもなく、捜査任意捜査がたてまえでございますが、この関係につきましては、その宅地移転に関しましてその取り調べを進めたところ、被疑者の方で任意捜査に協力をいたしまして、かような事実の自供を得たというのが経緯でございまして、特にこの件について証拠隠滅逃走のおそれというものもなかったために、刑事訴訟法捜査本道どおり任意捜査で進めたということでございます。と同時に、帳簿等につきましても、宅建業法関係関係会社からまさに任意の提出を受けておる物件で十分にこの関係捜査ができたということでございますので、あえて強制捜査権の発動は必要ではなかったというふうに聞いております。
  41. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 宅建業法のたくさんの事件があった、その中から、調べてきたらこれが出てきた。なるほどね。いままでの検察庁の例では、それを突破口にして、そして既存のものなり新たなものを切り開こうというので、そこで、いいか悪いかは別ですよ、逮捕をして、そして積極的に新たな展開を図っていくというのが、これが検察庁の仕事じゃないですか、いままでのやり口で。これは恐らく第一線の検事からは身柄逮捕しろという意見が出たに違いないですよ。そうして本件の真相を、さらにいろいろな問題が出てくる可能性があるのだから、そこでやるべきだという意見が出たんだというふうに私は思うのですが、そういう点については御想像にお任せしますという答えならばそれ以外にないですね。
  42. 安原美穂

    安原政府委員 御想像にお任せしてもいいのですが、一言申し上げますと、要するに、従来から特捜は、何にもなくても何か取っかかりがあれば、いわゆる俗な言葉逮捕、いわゆるほうり込んでかち割るというようなことをやっておるような御理解でございますと、これはまことに困るわけでございまして、まさに検察庁といたしましては犯罪嫌疑を抱くということを前提としての、相当な嫌疑を抱いた上で、任意捜査でやるべきか強制捜査でやるべきかという判断の上で、強制捜査をやっておるものはやはり証拠隠滅のおそれがある、逃走のおそれがあるということで、刑事訴訟法の許すところによてやるっておるわけでございまして、やみくもに特捜事件逮捕するのが原則であるということであれば、そうではないということを一言申し上げさしていただきたいわけでございございます。
  43. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはあたりまえの話で、特捜だからといってやみくもにやったらこれは大変なことになっちゃうのですね、人権じゅうりんで。そんなことを言っているわけじゃありませんけれども。それならば、本人が認めた、逃走のおそれがないことと、あるいは証拠隠滅のおそれがあるかないかということとは、理解の仕方は別の問題でしょう。だから、あらゆる場合にいま言ったような行き方をしているのなら話はわかるのだけれども、そういう都合のいいときには——都合のいいというか、自分たちがそういう行き方をとったときにはそういう説明をするのだけれども、そうでないときには別件逮捕別件逮捕でどんどん実際問題としてやっているわけですから、そこがおかしいんだ、こういうふうに私は思うのですが。  そこで、もうさっき出たことで、たとえば四億二千万円宅建でもうけた。その金を競馬で使っちゃったとか競輪で使っちゃったとか、どこかへ行って遊んじゃったとかなんという場合と、それがそうでないところに、正当かどうかは別として、何というかな、使われたという場合では、これは量刑が非常に違ってきますか。
  44. 安原美穂

    安原政府委員 宅建業法違反という犯罪の性質から考えますと、その利益金をどう使ったかということは必ずしも直接に、宅建免許営業罪質の悪質を考慮する直接の重大なメルクマールとは思いませんけれども、御指摘のように、無免許で法を犯してやった行為の結果の金の使い道が、いま申し上げるような奢侈的なことであるとか私利私欲的なものであるというふうな場合には、やはり情状には影響するだろうと思います。
  45. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 では特別背任の場合はどうですか。特別背任の場合は、その金の使い道、これこそ情状に非常に大きく左右しますわね。
  46. 安原美穂

    安原政府委員 特別背任の場合におきましては、情状のみならず、自己利益を図る目的であったという今回のような場合におきましては、まさに図利、自己利益を図る目的の立証、罪体そのものの立証にも直接関係する事柄になろうと思います。
  47. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だから、自己利益を図る目的がどういうふうな目的であったか、そうしてその結果として、図った金額がどこへどういうふうに使われたかということは当然検察庁としては調べておるはずだ、こういうふうに思うのですが、それはどうでしょうか。
  48. 安原美穂

    安原政府委員 御指摘のように、まさに調べておるはずでございます。
  49. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それが調べてなければ恐らく捜査は終わらないし、起訴はできなかった、こういうふうに私は思うのですが、そうすると、いまの段階では宅建業法の四億二千万。それから片っ方の方では、特別背任の方は幾らですか。二千万か三千万くらいのものですか。ちょっと少ないように思うのだけれどもな。
  50. 安原美穂

    安原政府委員 特別背任の場合におきましては、会社に与えた損害宅地の時価約五千六百万円ということになっております。
  51. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 その金がどういうふうに使われたかということは、これは冒頭陳述の段階でないと明らかにできないということですか。
  52. 安原美穂

    安原政府委員 先ほども申しましたように、情状に関するのみならず、罪体の立証そのものにも関する事柄でございますので、適正な裁判の実現という意味におきまして、いま公にすることは差し控えさせていただきたいと思います。
  53. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ただ、冒陳があるまででも記録謄写できるわけですね。これはあなた、記録謄写できるのだから、そこで明らかになってくるのじゃないですか。だから、そういう段階になれば当然明らかにされてきざるを得なくなってくるのではないか、こういうふうに思うのですがね。
  54. 安原美穂

    安原政府委員 まさに御指摘のとおり、訴訟関係人には閲覧、謄写をさせるわけでございまして、私は何も隠しおおそうというつもりで申し上げておるのではなしに、いまその段階でないということを申し上げておるわけで、しかるべきところでしかるべきところに明らかにされることは何も問題はない、かように考えております。
  55. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 法務大臣としてはこれは——こういうふうな事件があって検察庁として一応の結論が出ましたよ。それに対してあなたとしては、この程度でこれはもうやむを得ないというふうにお考えなんですか。これ以上はしょうがなかったということなんですか。あるいは、もっと力を尽くせばもっといろいろできたんだけれども、もうここら辺がいいところだ——いいところだというのはおかしいけれども、という程度のことなんですか。
  56. 稻葉修

    稻葉国務大臣 私は、検察庁の処置については厳正公平にやっておるものと、こういうふうに信じております。それは就任のときにも、あらゆる犯罪について厳正公平にこれに対処し、法秩序を維持せんならぬけれども、特に現下の日本のいろいろな諸情勢にかんがみて、社会情勢にかんがみて、経済事犯をしっかりやれ、暴力事犯はしっかりやれ、公害事犯というものについては仮借するところなくやれ、こういう一般的な訓示を検察当局に与えておりますから、検事総長以下一体となって、こういう事件につきましては、重大な経済事犯でありますから、厳正公平にやっておるものと信じております。
  57. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは刑事局長に聞くことですけれども、世間ではこれをいわゆる田中金脈、田中金脈と言うんですね。どこから田中金脈というのが出てきたんですかね。——いや、わからないから聞いているんだけれども。
  58. 安原美穂

    安原政府委員 私の理解するところでは、これは新聞用語でございまして、検察庁が使った言葉ではございませんので、私もよくわかりません。
  59. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、この事件全体を通じて、検察庁としては、田中さんは全然らち外で、参考人としても調べる——調べるというか、お聞きをするということはなかったんですか、あったんですか。
  60. 安原美穂

    安原政府委員 検察庁は現在の嫌疑を抱いた捜査の必要な範囲においては取り調べはしておるわけでございますが、起訴事実でごらんのとおり、田中個人には関係のない起訴でございますので、御理解をいただきたいと思います。
  61. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いや、田中さん個人関係のないことは起訴事実でわかるんですが、たとえば新星企業田中さんとの関係なり、宅建業法特別背任との関係というか、あるいはそれを指示したとか指示しないとか——指示したと言っては悪いですけれども、そういうふうなことについては、検察庁としては全然初めから捜査の対象外だったわけですか。
  62. 安原美穂

    安原政府委員 冒頭に申し上げましたように、警視庁から送致を受けました宅建業法違反につきましては、三月の末に送られてまいりまして、処理を終わったのが六月でございます。約三カ月近い日時を要して捜査をしたわけでございまして、その間におきまして、宅建業法違反という、先ほど御指摘の単なる無免許営業ということでなくて、その営業の実態、それから会社の実態、背景等を綿密詳細に、それこそ御指摘のいわゆる田中金脈問題として世間の関心を集めている事犯でございますので、実質的に真実を究明するという態度で検察庁は臨んだわけでございますので、この新星企業宅建業法違反、あるいはその取締役背任ということにおいては、真相を究明するために、当然、新星企業関係等からいきまして、それがどういう背景で行われたかの真相は究明しておりますので、必要な範囲では調べたはずでございます。
  63. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 必要な範囲でだれを調べたのですか。田中さんを調べたということですか。
  64. 安原美穂

    安原政府委員 これまた御案内のとおり、捜査は密行でございますので、個人の名誉というようなこともございますから、だれを検察庁が調べたかということを公にすることはできるだけ差し控えさしていただきたい。そうでないと、これから後も検察捜査について国民一般の御協力を得がたいおそれもございますので、できれば差し控えさしていただきたいと思います。
  65. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 検察庁に呼ばれると、もうすでにその人が悪者扱いされてしまっているんですね。そういう行き方は私はいけないと思うのですよ。いろいろなことで呼ばれるんだから、参考人で呼ばれたり、いろいろな事情を聞かれたり、あるいは好意的な助言で呼ばれる場合も、いろいろあるわけですから、それをかれこれ言うのはおかしいと思うのですけれども、余りあれしてするのは、私としてもこれはあれしておきましょう。  ある代議士の名前が出てきますね。名前は言いませんけれども、出てきますね。この人はどういう関係で調べられたのですか。
  66. 安原美穂

    安原政府委員 先ほどの原則論の繰り返しで恐縮でございますが、どういう理由でそういう人が調べられたかどうかというまず前提事実からしてお答えすることは御勘弁願いたいと思います。
  67. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、私疑問に思うのは、警察から送られてきたでしょう。送られてきたことについての検察庁の処理がやけに早いんですよ。早過ぎるんですよ。それは、早過ぎるからおかしいという言葉は変かもわからぬけれどもね。本腰を入れて徹底的にやろうというのじゃなくて、ただ警察から送られたのを適当に上滑りというか、滑って、そこをまとめていこう。その間に商法背任が出てきたか知れぬけれども。だから、警察からやってきたことだけではちょっとなかなか調子が悪い、だから何かくっつけなければいけない。やってきたら商法特別背任が出てきた。それを起訴するかしないか、いろいろ議論もあったのだけれども、とにかくそれを入れて、そこで検察庁の面目が立てた。検察庁がいかにも一生懸命にやったのだという面目を立てた。しかし、本当に一生懸命にやるならば、いま言ったように身柄拘束その他強制捜査のやり方、幾らでもあったはずだ、こう私は思うのですが、そいつはいろいろな影響があるからやれないというところで、中途半端な行き方で、お茶を濁したというのじゃありませんけれども、終わらせてしまった。こういうのがどうも筋のように私には考えられるのですね。本気でやるなら三カ月くらいでは……。特捜でだれがやったのか知りませんけれどもね。このごろは特捜は選挙違反関係ないのかな。暇なわけはありませんから、何人くらい、だれがかかったのかわかりませんけれども、これ、こんなに早く片がつくわけないですよ。片がつくのが、逆に言うと余り早過ぎるのだよ。さらりとやってさらりとやめてしまった、そうとれるのですがね。年月をちゃんとかけて、もっとじっくりどうしてやらなかったんですか。
  68. 安原美穂

    安原政府委員 いろいろ評価は違うものでございまして、私は三カ月も宅建業法違反を調べておることは長過ぎるのじゃないかと実は思っておった。それを長過ぎるくらいやったのはやはり、お言葉でございますが、一生懸命に事犯の真相を究明したということでございます。残念ながら、お茶を濁したという御批判があることは遺憾でございますが、私ども検察としては一生懸命やったはずでございます。
  69. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 同じ質問をしてもあれですから……。  そうすると、国税庁は、この四億二千万円の宅建業法関係における利益ですね、それから四千五百万かな、特別背任利益、これらはどういうふうに申告されておるのですか。
  70. 渡邊喜一

    ○渡邊(喜)政府委員 ただいまお話しの利益というのは、個々の取引における買い値と売り値の差額というふうなものだろうと思いますが、課税所得というものは、この法人の場合は一年決算法人でございますから、一年間におけるその法人の総収入から総経費を引いた差額が所得になるわけでございまして、したがって、個々の取引における利益がそのまま直に課税所得につながってくるというものではございません。
  71. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そんなことはあたりまえじゃないですか。そんなことはぼくも税理士をやっておるからわかっていますよ。この会社が四億二千万円という利益があったと起訴状で出ておるでしょう。それがどういうような経費に使われたかということはあなたの方としては調べないのですか、こう聞いておるのですよ。ここに問題があるんじゃないですか。これがどこへ使われておるかということよ、問題は。じゃ、税金はどうなったの。これは全然税金を払ってないの。税金を払ってないとすれば、どこにどういうふうに経費が使われたのか。
  72. 渡邊喜一

    ○渡邊(喜)政府委員 個別の取引利益がどこにどう行ったかということではございませんで、年間の総所得、総収入から総経費を引くということでございますから、個別の取引に基づく利益がどこにどう使われたかという究明はいたさないというのが普通でございます。
  73. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ちょっといま別のメモを見ていたので——松澤行政管理庁長官が十一時に来るというので、それで質問することになっていたのだけれども、朝から気分がすぐれないので何か来られないというメモが来たので、それを見ていたものでよく聞いていなかったのですけれども、私の聞いているのはもちろん年間ですよ。年間で決算するわけですけれども、その新星企業というのは税金を納めているのですか、納めてないのですか。それから経費としてはどこへどういうふうに行っているのですか。
  74. 渡邊喜一

    ○渡邊(喜)政府委員 新星企業は過去において黒字決算の年もございますし赤字決算の年もございます。経費はいろいろあるわけでございますが、非常に大きな経費は支払い利息でございます。
  75. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 私の聞いているのは、起訴があったのは四十四、五年ごろから大体四十七年七月まで四、五年の間のことでしょう、その問の決算状態がどういう報告になっているかということです。一番の問題は、たとえばいろいろなところへ経費として、会費なりあるいは寄付がされているでしょう。越山会だとかなんとかいろいろなものがあるらしいのですけれども、それを聞いているわけです。
  76. 渡邊喜一

    ○渡邊(喜)政府委員 四十五年三月期決算は黒字決算でございまして、税金を納めております。それから四十六年は赤字でございまして、七年は黒字決算というふうなことになっております。  経費、寄付等のお尋ねでございますが、寄付金等が支出されておることは事実でございます。ただし、寄付金につきましては法定の枠がございまして、枠を超過した分についでは課税されるということになるわけでございますが、枠は資本金の千分の二・五と所得の百分の二・五を足して二で割ったというものでございます。新星企業の場合は資本金が六億でございまして、所得金額が余り大きくありませんから、したがって枠としてはかなり小さな枠になっておるわけでございます。
  77. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 ぼくは行管の長官に十分間でもいいから来ていただいて、そこで締めくくりにしようと思っておったのですが、来るという約束だったのに何か来ないということなので、話が変なふうになってしまいました。  行管の方にまず第一にお聞きをしたいのは、松澤長官がことしの五月二十三日に参議院の決算委員会で、信濃川の河川敷の問題を中心にいろいろ言っていますね。そこで、一体この問題について行管長官から行管にどういう指示があったのかということです。
  78. 大田宗利

    ○大田政府委員 お答えいたします。  参議院の決算委員会で御答弁があった後に、長官から、信濃川の河川敷につきまして河川管理上の問題について監察をするようにということで指示がございました。
  79. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 河川管理上の問題というのは何ですか。それだけじゃわからない。河川管理上の問題で監察するようにということで、要するに具体的にどういう話があったのか、それに基づいてあなたの方では何をやっているのか。
  80. 大田宗利

    ○大田政府委員 大臣から指示がありましたのは、河川管理上の問題について監察をするようにということでございます。そこで事務当局といたしましては、河川管理上の問題につきましては利水上の問題と治水上の問題、二つがあるわけでございます。それで、それに関連しました事項につきまして現在検討しておるところでございますが、特に治水上の問題について、かすみ堤と締め切り堤の問題を中心にして現在監察の準備段階に入っておるところでございます、
  81. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そんな技術的なことを松澤長官が国会で約束したわけじゃないでしょう。読んでみましょうか、松澤さんの言っているのを。あなた、これ読みましたか。読んでいるでしょう。「かすみ堤なり締め切り的な問題等を、率直に直ちにやるんだというふうなお話もございましたが、しかしながら、直ちにやるにいたしましても、ある程度までは田中氏のやってきた実情というものを把握しなければならぬではないかという気持ちがしてなりません。ですが、現実の問題として、極力早目に私自体が率直にお約束を申し上げるわけでございまするが、早目に行政監察的な面でこの問題を取り上げて、そして進めていきたいという気持ちを持っております」云々、こういうふうに言っているわけですよね。これは、田中さんが一体何をやった、というのだ。田中さんが何をやったということと、あなたの言う行政監察とどう関係するのですか。長官がぐあいが悪いと言って来ないからだめだが、これはどうなっているのですか。
  82. 大田宗利

    ○大田政府委員 大臣から御指示がありましたことはそれでございます。行政管理庁としましては、設置法の第二条十一号によりまして、行政の実施状況について監察するということでございます。したがいまして、行政上の問題としまして河川敷を見た場合には、河川管理上の問題ということが行政上の問題だということで、そういう範囲で取り上げたわけでございます。
  83. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると、松澤長官の言ったことが設置法を逸脱するかもわからない。それはわかりませんよ。それは国務大臣として言ったのかもわからないけれども、田中さんを呼ばないと、つまり「田中さんのやってきた実情というものを把握しなければならないという気持ちがしてなりません」と、こう言っているのですよ。議事録持ってきましたか、五月二十三日の。ここにありますよ。だから、行政監察と、田中さんのやってきた実情というものとが、あなた方の方とどういうふうに結びつくのですか。これは公務員としての地位利用があったかなかったかということでしょう。それが犯罪になるというところまで行くか行かないか知らぬけれども。それでなければ、あなた、行政監察にならないじゃありませんか。そんな技術的なことなんか何も監察する必要ないじゃないですか。現実にあなたの方としては松澤長官からその後、田中さんに事情を聞けとかなんとかという話があったのですか、ないのですか。本人は、田中さんに事情を聞かなければならぬと言っているのだから。「田中さんのやってきた実情というものを把握しなければならないという気持ちがしてなりません」と大臣が言っているのですよ。言っているのだから、この議事録を見てあなたの方でどうするかということを決めなければならぬのでしょう。松澤さんからもそういう話が当然あるはずなんですよ。なければ、あなた、筋が全然違うじゃないですか。国会で適当なことを言ったとしかとれない。いまの段階はどういうふうになっているのですか。松澤さんから言われたことをもう少し詳しく言ってください。それから、あなた方の方でやろうとしていることをもう少し具体的に説明してみてくれませんか。ちょっとわからないです。
  84. 大田宗利

    ○大田政府委員 大臣から指示を受けましたことはその範囲でございます。ただ事務的には、行政上の問題ということになりますと建設省の問題になろうかと思います。したがいまして、治水上の問題ということになりますと、まずかすみ堤から締め切り堤になったいきさつ、そういう範囲、あるいは砥それに関連した事項というものが中心になろうということで、現在はそういう過去の経緯からいろいろ資料その他をとりまして検討しておる段階でございます。したがいまして、その他のいま御説明になったようなことは私には指示はございません。
  85. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それじゃ、長官が来ないし、それからこの委員会でやるのは適当かどうかということがぼくもありますから、程度は余り逸脱しないようにしますけれども、長官によく言っておいてください。きょうの朝日新聞の社説によく出ていますように、たとえば、「閣僚としての田中氏の「地位利用」が行われなかったと言い切れるだろうか、」という疑問があるんだと、こう言っていますね。「一例に新潟県の「信濃川河川敷」の問題がある。この河川敷の約七〇ヘクタールを、田中氏関連企業の一つである「室町産業」がさる三十九年から四十年にかけて買い占めたが、その後仮堤防がつくられ、さらに本堤防も完成したため、荒れ地は“優良土地”になり、現在の時価は買い入れ時の百倍以上にもなっているという。こういういきさつをみれば、世間が強い疑惑を持つのも自然のことといってよいだろう。」そのほかにも鳥屋野潟だとか新潟大学用地なんかたくさんあるんですが、あなたの方の調べることは、なぜ室町産業が買った土地が、仮堤防がつくられ、本堤防も完成して、荒れ地が優良土地になりて時価は買い入れ時の百倍以上になったかということ、そしてそれに田中さんがどういうふうに関与をしたか、しないかということ、これを調べるということが、松澤さんが決算委員会か何かで言った言葉ではないのですか。議事録をよく読んでくださいよ。そういうふうにぼくにもとれるのだ、私はとり方が悪いのかもわからぬけれども。だからその点について調べなければ私はいかぬと思うのですがね。それでなければ意味がないわけですよ、ところが、きょう来るという約束だったんだけれども、体のぐあいが悪くなっちゃったというので来られないと言うから、それを無理にというわけにはいきませんし、委員会は恐らく内閣なり、あるいはどこかほかの委員会、決算なりでやるのが筋だろうと私は思いますから、だからこの問題についてこれ以上言いませんけれども、これは大臣に、いま私が質問したことなどを中心として行政監察をするようによく言っておいてくださいよ、いいですか。はっきり大臣に、こういう点、こういう点を行政監察するように言われたということを言っておいてほしいと思うのですが、その点についてあなたはどういうふうな答えなのか、答えを聞いて私はこの点は終わりにしましょう。
  86. 大田宗利

    ○大田政府委員 大臣にはその旨お伝えしておきます。ただ御了解を得たいのは、行政管理庁の権限というのが行政の実施状況ということでございますので、あくまでもその範囲は行政の範囲に限られると思います。したがいまして、今度の、いま準備段階に入っておりますけれども、結局は監察の範囲というものは信濃川河川敷に関連します行政上の問題ということが中心になろうかと思います。いま言われましたことにつきましては、大臣にその旨をお伝えしておきます。
  87. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 そうすると監察局長大臣の言ったこと、あなたよく議事録を読んでくださいよ、それはあなたの方の設置法を免脱していることを言っているのかね。これはそういうことか、どうなの。ぼくもその点率直に言って疑問を持ったのです。それできょう六法全書をひっくり返して調べてみたんだけれども、それはどうなんだ。大臣は五月二十三日にいろいろしゃべっていますね。しゃべっていることは、大臣としてはよけいなことを言ったのか。国務大臣として何を言ったっていいだろうから構わぬと思うんですがね。行政管理庁の組織法からいうと、大臣はできもしないことを、よけいなことというか、少しオーバーというかな、そういうふうに権限を越えて言っているというふうに理解をしてよろしいですか。あなたの答弁を聞き、大臣の言っていることを聞いてみると、どうもそうとれるんだよ。大臣は、行政管理庁ができないようなことを言っているようにとれるんだよ。それはどうなんだ。
  88. 大田宗利

    ○大田政府委員 大臣の言われたことにつきまして、具体的にどうだこうだということは実は言われてないわけでございまして、その範囲というものは、やはり事務といたしましてはわれわれの権限の範囲でできることはやるという姿勢でおります。したがいまして、大臣からわれわれのところに、言ったこと全部というような指示もございませんし、ただ、先ほど申し上げましたように、信濃川の河川敷問題について、河川管理上の問題で監察をしろという指示でございます。したがいまして、具体的に何がどうしろ、かにがどうしろということの指示はございません。したがいまして、われわれとしましてはわれわれの権限の範囲内で、できる範囲のことは全部やりたいというふうに考えておるわけでございます。
  89. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 余りくどいからぼくもあれしますがね、大臣が「田中氏のやってきた実情というものを把握しなければならぬではないかという気持ちがしてなりません。」と、こう言っているんですよ。だから、結局あなたの方で行政監察するについても、田中さんがやってきたという実情を把握しなければならないのか、あるいはそんなことは全く関係ないのか、そこら辺のところは事務当局の方ではどういうふうに理解しているのですか。
  90. 大田宗利

    ○大田政府委員 いま計画している範囲は先ほど申し上げましたようなあれでございます。ただ、われわれが計画をつくる範囲というのは、行政上の実施状況ということでございますから、その範囲だけは全部とろうと思いますけれども、まだ現在、いろいろ建設省からいただいた資料の分析だとか、あるいは法令全般だとか、あるいは今後取り上げるべき問題の焦点というものをいま検討しておる段階でございます。その段階で、今後の問題がどうなるかということは、いまはっきりとここで私は申し上げられないと思っているわけでございます。
  91. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 それはあなたが政府の局長であって、大臣との考え方がどうも違っているように思われるので、そのことをこれ以上あなたに追及するのは酷ですからぼくは追及しません。いいですよ。これは別の委員会でやるのが筋だと思います。  それで、問題は戻るのですが、大臣国民田中金脈、田中金脈、こう言っていましたね、あるいは田中ファミリーとか言っていましたね。これは御本人が言ったんじゃなくて、だれかが言ったのかもわかりませんけれども、その実態というものにいろいろ疑惑を持っているわけでしょう。大臣はそういうふうな考えはないのか。どうしてあんなに金ができたんだろうかとか、その金はどこへどういうふうに行ったんだろうかとか、土地をいろいろ転がして金がもうかったんだろうかとか——そういう事実があったかないかじゃないですよ、そういうことに国民は疑惑を持ち、あるいはその真相を究明したいというふうに考えておるというふうに大臣はお考えでしょうか。
  92. 稻葉修

    稻葉国務大臣 私には、国民はどういうふうに思っているか、正確に把握できませんな。
  93. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 だれだって正確に把握できないでしょう。そんな物差しはないんだから。——おかしいな、あなた。こういうふうな問題が盛んに言われてきているわけでしょう。これは憲法の問題じゃないんですよ。安心して答えていいよ、大丈夫だから。憲法だったらぼくも余り聞かないから、憲法の問題じゃないから安心してお答えになっていいですよ。ちょっとかたくなり過ぎているね、大臣。もう少しゆったりした気持ちで答えなさいよ。大丈夫だ、決して変なことはしないから。  国民はそうした問題を盛んに問題にされましたよ。だから国会でもある程度究明されたけれども、それで終わったことじゃないと考えていて、何となくはっきりしない。だからもっともっと本当のことを知りたいというふうに考えておるのではないか、こういうふうに私は思うのですが、そのことが今度の公判廷を通じて、全部じゃないですよ、一〇〇%というわけにはいかぬけれども、ある程度、いろいろな国民が疑惑に思っていたことが明らかにされ得るものなんだろうかどうかということについては、大臣はどういうふうにお考えでしょうか。
  94. 稻葉修

    稻葉国務大臣 あれだけ世間を騒がしたことだし、内閣の運命にも関係したことでございますし、国会でも予算委員会等、あらゆる場で問題になったことですから、国民がそう思っていることでしょう。そうしてそのことは、公判廷を通じて明確にやる、検察庁はきちんとやっていく、こういうふうに思いますから、いずれ公判廷で明らかになるものだというふうに私は思うております。
  95. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 じゃ、いろいろ聞きたいこともありますけれどもこの程度にして、いまこれから始まる事件ですからそれは余り中身を聞くこともできないし、限度がありますから、終わりにしたいと思います。  そこでもう一点、全然別のことなんですけれども、法務省の民事局の参事官室で五十年六月十二日に、「会社法改正に関する意見照会について」という文書を各方面に出しているのですね。これは会社法改正に関する問題点ですね、企業の社会的責任だとか、株主総会制度の改善策だとか、取締役及び取締役会制度の改善策、株式制度の改善策その他ありますが、いろいろ出しているのですね。これはどういうふうな意味で出されたものなんでしょうか。
  96. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 御承知のように昨年商法改正が行われたわけでございますが、一昨年、昨年の国会審議をいただいてきました際に、現在の会社法についてはまだまだいろいろ根本的な問題がある、そういった問題についてさらに検討して、改めるべき点を改めろ、こういう附帯決議をいただいております。それから法制審議会の商法部会でも、昨年の改正だけでは必ずしも十分とは考えておりませんで、さらにいろいろな問題について継続的に検討する必要がある、かねてからそういう考えでおったわけでございます。そこで、昨年の改正が行われました後、昨年の九月から、株式会社の株主総会、取締役会制度等、会社の基本的な問題点について検討を開始しまして、何回か会議を開いたわけでございますが、何分にも非常に問題が重要であり、かつ範囲が広いということで、とりあえずいろいろな現在考えられる問題点を拾い出しまして、これを関係のところに照会して意見を求めようということになったわけでございます。そこで先ほど御質問にございましたような六月十二日の照会となったわけでありまして、項目は非常に多岐にわたっております。そういうことでございます。
  97. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これはまた商法の改正の問題で別に聞くことにいたしますが、その中の一つの問題で、株主総会の運営に関する罰則の問題で、現行四百九十四条、これを改正したらどうかというような意見があるということですね。これは現行はどういうふうになっていて、どこに問題点があるわけですか。これはあるいは刑事局長の方がいいのかな。どちらでもいいですけれども。
  98. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 とりあえず私からお答えして、もし補足すべき点があれば刑事局長からお聞き取りいただきたいと思います。  この問題点の第二の「株主総会制度の改善策」その二の(五)というところがございます。ここにその問題が書いてあるわけでございますが、株主総会につきましては非常に形式的に流れる、たとえば総会の開会時間が五分くらいで済んでしまうところもあるというようなことで、株主総会がもう少し実質的に審議をする機能を発揮すべきではないかということがかねてから指摘されておったわけであります。それに関連いたしまして総会屋の問題がございまして、総会屋対策として警察などの取り締まりがきわめて重要でございますが、それに関連した罰則の規定をどうするかという問題があったわけであります。現行法の四百九十四条というのは総会屋とか会社荒らしに対する罰則でございますが、現行の規定は、そういう者が株主総会における発言とか議決権の行使に関して「不正ノ請託ヲ受ケ財産上ノ利益」を収受したという場合にこの罰則が適用されることになるわけであります。  ところが、これは経過がございまして、昭和十三年の改正によってできた規定でございますが、その前に、昭和十二年に帝国議会で審議いたしましたときに出した政府原案の当初案というものはこういう表現ではございませんで、公務員の涜職罪と同じように、職務に関し「賄賂ヲ収受シ、」云々という規定になっておったわけです。ところがその帝国議会の審議において、それは少しきつ過ぎるのではないかということで、現在のように「不正ノ請託ヲ受ケ財産上ノ利益」を収受したという形にすべきだということで修正を受けたわけでございます。そのときは成立しませんでしたけれども、その後の第七十三回ですか、帝国議会に政府がもう一遍案を出し直しまして、そのときには帝国議会の貴族院の修正意見をそのまま採用いたしまして、「不正ノ請託ヲ受ケ財産上ノ利益」を収受したという形で罰則の案を提案して、それが現行法になっておる、こういう経緯でございます。
  99. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは刑事局長がいいと思うのですが、いまの「不正ノ請託ヲ受ケ」という意味がどうもよくはっきりしませんけれども、その場合と、それがなくても議決権の行使に財産上の利益を得た場合と、例を挙げて説明を願いますとどういうふうに違うわけですか。あるいは民事局長でもいいですよ。
  100. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 この点はいろいろ考え方があるわけでございますが、先ほど申し上げました帝国議会の審議におきましては、政府原案は職務に関し「賄賂ヲ収受シ、」となっておった。これは公務員の場合にはそれでよい。しかし、会社の重役などの場合には、いろいろな営業活動で関係方面と接触して酒を飲んだりすることが多いであろう。そういう場合に、それが一々、罰条の適用の有無が問題になってくるというようでは困る。そこで、そういった行為が不正に結びつくものでなければいけない、不正に結びつく場合だけを罰すればいいではないかということでこういう表現になったわけでございます。もちろん政府側としては、賄賂というもの自体が不正の意味を持っているのだから、そこまで、たとえば儀礼的な贈答や社交にまでは罰則の適用はないのだという説明をいたしておりますけれども、そういうことで修正が行われたわけです。  現在一番問題になりますのは、たとえば総会屋が、株主総会でこういうことを発言しておどすぞと言った場合に——おどすと言ってはちょっとあれですが、会社の経営方針に対して質問をするぞというようなことを言った場合に、それに対して会社の方で包み金を渡して、出てきてもらわないということをやっておるわけです。その場合にそれが「不正ノ請託」に当たるかどうかという問題がございます。この点につきましては、不当な議決権の行使なりあるいは不当な発言を抑えるために財産上の利益を与えることもこれに当たるのだという解釈があるわけでございますけれども、一方におきましては、これは会社にとっては別に悪いことをしているのではないのだ、会社としては総会を円滑に進めるというだけの目的で何がしかの金を包んでおるのだから、この罰則には当たらないという考え方もあるわけでございます。そういうことで、かなり実際の運用では罰則を適用しにくい形になっておるというような点があろうかと思います。そこでこの「不正ノ請託」というものを取ってしまいますと、いまのような場合にもかなり罰則の適用が容易になってくるという問題があるというふうに考えております。
  101. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 いまの場合は普通の恐喝でやれるのじゃないの。ただ、被害届けを出さないということがあるかもわからぬけれども、刑事局の方、そこはどうですか。
  102. 安原美穂

    安原政府委員 恐喝でやれる場合が相当多いと思います。
  103. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 これは普通の場合、恐喝でやれますよ。恐喝というのは非常に範囲が広いですからね。相手が畏怖しているに違いなのだから。ただ、被害届けを出す、出さないがあるかもしれませんけれども。  それは別として、そうすると「不正ノ請託ヲ受ケ」を削除しちゃうのですか。そういうふうにすると現実には総会屋の活動というものは非常に範囲が狭まってくるのかな。できにくくなってくるという意味ですか。そこはどうなんですか。それが一つ。  それから、いま言ったように、これは刑事局の方ですけれども、総会屋が変な帽子をかぶったりなんかして、異様な服装をして前の方にがんばっているようなのが、新聞を見ますとよくいますね。そして株主で発言しようと思うとわあわあやってそれを妨害しています。これはどうなのか、威力業務妨害にならないの。そういうことについては検察庁は余り関心を持たないのですか。
  104. 安原美穂

    安原政府委員 御指摘のとおり、威力業務妨害になる場合があると思います。そういうことも検察庁は熱心でございますので、ひとつ誤解のないように。
  105. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 余りやってないのじゃないの。そういう経済犯罪というか、そういうふうなことについてはどうもやってないような印象を受けるのです。やっているのかもしれぬけれども、余り出てない。表面に出ないのかもわかりませんけれども。  どうも、今度の新星企業というか何というか、このやり方についても、私はもっとやれば、前に言ったように粘り強くというか、身柄拘束して——拘束が法律的にできなければ困るかもわかりませんけれども、まあできるんじゃないかと思いますがね。もっとも、証拠隠滅のおそれがないというんじゃなく、もう証拠隠滅してしまったから証拠隠滅のおそれがなくなっちゃったというのかもわからぬけれども、長い間ずっとあれしていたのですから。いずれにしてももっと徹底的にやればやれる方法があったんではないか。どうもそういう点について足りなかったというか、一生懸命やったのでしょうけれども、何となく足りなかったんじゃないか、こういうふうに思うし、どこかに遠慮してそういう点が足りなかったのじゃないか、こういうふうに思うわけですが。  そうすると民事局長、いまのこの点については、商法の四百九十四条の改正ということは、これはどうなんですか、意向としては、どういうふうにしたいつもりなんですか。
  106. 川島一郎

    ○川島(一)政府委員 今度の「意見照会」というのは、ただ出てきた意見を列挙いたしまして、そうしてそれについてどうするかという考えをまだ決めてないわけです。決める前に一般の意見を聞いて、それを参考にしようという趣旨でございますので、まだ当局の方針というものは別にあるわけではございません。ただ、総会屋対策と言うと非常にむずかしいものですから、それについて一つのこういう考え方も話に出てきたものですから、それも「意見照会」の中に加えたというだけのことでございます。
  107. 稲葉誠一

    稲葉(誠)委員 総会屋対策でむずかしいという考え方がおかしいんだと私は思いますね。これは刑事でも民事でもそうですけれども、総会屋によって企業が存立しているわけでもないでしょうが、それをうまく利用しているわけですから、総会屋対策を余りやるとかえって企業側から恨まれちゃう。だから法務省にしても、民事にしろ刑事にしろ、やり過ぎるとかえって立場がまずくなるということで、そこでむずかしい、むずかしいということになってくるのではないかというふうに疑われるのです。だから何かそういう面についても企業に対する積極的な究明——究明というのは法務省の仕事ではないかもわかりませんけれども、そういう点についてどうも何か手ぬるいような印象を与えますね。考えてみれば無理もないので、いまの社会は資本主義社会なんだから、企業によって成り立っている社会なんですから、企業をつぶすようなことを法務省がやれるということはおかしいのであって、と思いますね。だからぼくはそれがいやで、そういう点で疑問を感じて検事をやめたのですけれども、どうもその辺のところが納得できない。納得できないと言ったところでしょうがありませんが、いずれにいたしましても、どうも総会屋対策なり何なりについてのやり方が、これがまた何となく手ぬるいという印象ですね。それは一株株主なら一株株主の運動というものに対して、何かそれが異常な運動をやっているんだ、法律に許されないアウトローのことをやっているんだというような前提が頭の中にあるから、そういう連中を抑えるためにもこの総会屋というものが必要だということでやっているんだというふうに疑われるのですね。これは疑われるのだから、そういうことのないようにしていかなければいけない、こう思うのですが……。  商法の改正の問題は今後の問題ですから、これはまた別の機会にやりたいと思って、きょうは質問をこれで終わります。
  108. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 横山利秋君。
  109. 横山利秋

    ○横山委員 この間、改めて新聞に安楽死の問題が報道されました機会に、私もこれで二、三回目になると思いますけれども、その後の政府の考えをただしたいと思います。  その前に、もう素材となって各位御存じかと存じますが、名古屋高裁、三十七年十二月二十二日の判決を朗読をしたいと思います。事件の概要は、   被告人は、父甲、母乙の長男として生まれ、昭和三二年高等学校を卒業後、直ちに家業の農業に従事し、父母によく仕え、弟妹を慈しみ、部落の青年団長などを勤めた真面目な青年であった。ところが、甲は、昭和三一年一〇月頃、脳溢血でたおれ、一時小康をえたこともあったが、昭和三四年一〇月再発してからは、全身不随となり、以来臥褥のままとなっていた。しかも、昭和三六年七月初め頃から食欲も著しく減退し、衰弱はなはだしく、上下肢は曲げたまま、すこしでも動かすと激痛を訴えるようになり、そのうえ、しばしば「しやくり」の発作におそわれ、息も絶えんばかりに悶え苦しみ、「早く死にたい」「殺してくれ」などと叫ぶようになった。被告人は、このような父の叫び声を耳にし、言語に絶した苦悶をみるにつけ、子として堪えられない気持になっていたところ、それまで甲の診察に当たっていた医師から、同八月二〇日頃、甲の命脈も「おそらくはあと七日か、よくもって一〇日だろう」と告げられるにおよび、ついに、父を病苦から免れさせることこそ、最後の孝養であると考え、父を殺害しようと決意するにいたった。そこで、被告人は、同月二五日午前五時頃、居宅水小屋で、当日早朝配達されていた牛乳に使い残しの有機燐殺虫剤E・P・Nを少量混入したうえ、もとどおり栓をして右小屋にさしおいたが、同日午前七時三 ○分頃、事情を知らない母乙は甲の求めにより同人に右牛乳を飲ませたため、同日午後零時三 ○分頃、同人を有機燐中毒により死亡せしめるにいたったのである。   この事実に対して、第一審裁判所は尊属殺人罪を認めたが、第二審の名古屋高等裁判所は弁護人の控訴を容れて原判決を破棄し、あらたに嘱託殺人罪として処断した。これが事実関係であります。  そこで、その判決の判旨に大変示唆に富む判旨が示されて、それが刑法学の中でも重要な一つの示唆を与えておりまして、ある人々は、これで安楽死は刑法学の中で一定の座を占めるに至ったとまで言われておるわけであります。その判旨は、  所論のように行為の違法性を阻却すべき場合の一として、いわゆる安楽死を認めるべきか否かについては、論議の存するところであるが、それはなんといっても、人為的に至尊なるべき人命を絶つのであるから、つぎのような厳しい要件のもとにのみ、これを是認しうるにとどまるであろう。  (1) 病者が現代医学の知識と技術からみて不治の病に冒され、しかもその死が目前に迫っていること、  (2) 病者の苦痛が甚しく、何人も真にこれを見るに忍びない程度のものなること、  (3) もっぱら病者の死苦の緩和の目的でなされたこと、  (4) 病者の意識がなお明瞭であって意思を表明できる場合には、本人の真摯な嘱託又は承諾のあること、  (5) 医師の手によることを本則とし、これにより得ない場合には医師によりえない首肯するに足る特別な事情があること、  (6) その方法が倫理的にも妥当なものとして認容しうるものなること。この六項目をこの判旨の中で述べて、こういうことであれば、安楽死はこういう厳しい条件ならば是認さるべきではないかということを示唆し、この事件については遺憾ながら、医師の手により得ない、それから有機燐中毒によったこと等をもって、妥当な措置ではないという判断をしたわけであります。しかしこの中では、先ほど言いましたように、妥当な措置ではない、安楽死とは言えないけれども、もしこの六項目が満たされたならば安楽死として是認し得るのではないか。  この後、私もいろいろ調べてみましたけれども、たしかこの名古屋高等裁判所の判決以後、この安楽死に関する判決というものはないようであります。それは一遍法務省の意見を聞きたいのでありますが、ないようであります。でありますから、今日段階においては、この安楽死に関する名古屋高等裁判所の判決というものが一つの判例として生きておる、こういうふうに思うわけであります。そこで、法務大臣の常識豊かな御意見を一番最後に伺うこととして、刑事局長に、安楽死に関するその後の判決はないと思うがどうか。この名古屋高等裁判所の判決というものが一つの示唆を与えておると思うがどうか。現在の刑法の解釈としてどう思うか等について御意見を伺いたいと思う。
  110. 安原美穂

    安原政府委員 横山委員指摘のとおり、この名古屋高裁の判決以後、いわゆる安楽死につきましての判決、判例はございません。これが今日においては実務上の一つの安楽死の違法性を阻却する条件として示された判例として、非常に有力な参考になるものとわれわれは思っております。  なお、ついででございますが、安楽死というものの定義はいろいろございますが、いま御指摘のように、死に直面して耐えがたい肉体的苦痛にあえいでいる人に、その嘱託または承諾のもとに、医学的措置を施して楽に死なせてやる行為というものを安楽死と考えますならば、そのことが違法性を阻却するかどうかということにつきましては、いろいろの条件のもとに違法性を阻却する場合もあり得るという点については、おおむね判例、学説も一致するのではないかと思われるのでございますけれども、なおまた、そのこと自体もまだ適法ではない、違法だという学説もないわけではございませんで、定着した通説というものはまだないというのが現状のように理解をいたしております。
  111. 横山利秋

    ○横山委員 これは投書であります。幾つかありますけれども、一つを引用してみたいと思う。主婦、七十一歳の人であります。   さきごろスイスで安楽死の是非を民間に問う方法を、政府が打ち出されたという記事が出ていました。   実は、私は安楽死志願なのです。七十一歳としては弱いタチで、腰が痛く、動くのがつらいのに、言語障害のうえ日に一回は発作を起こし暴れる八十六歳の夫を世話しなければならないのです。   民生委員様、老人福祉係長様、ケースワーカ一様には、筆舌につくせぬお世話をやかせ、感謝しており、心の中でご迷惑の数々を申し訳なく思いながらいろいろとおわび申し上げております。夫の発病以来、人の情けが身にしみてあしかけ三年、私は今が死にどきと思うのです。   生保費はたくさんいただけるし、もと巡査の夫の恩給は年三十二万円余、私の無きょ出年金  も去年からいただき、そのうえ六十通話まで無料という夢のようなありがたい福祉電話を貸与されて、去年六月十一日から現在まで九か月、はかり知れない恩恵に浴しています。   国や地方財政の苦しさを聞くたびに、生きているのがつらくなるのです。昔と違って現在の福祉行政はゆきとどいています。それでも生きたい者は手厚く生かしてやり、死にたい者は安楽死させる方法をと本気で考えている私です。  東京都の主婦なんであります。このおばあさんは、判旨におきまして述べております「病者の苦痛が甚しく、何人も真にこれを見るに忍びない程度のもの」という条項には該当しておりません。日に一回発作を起こし暴れる八十六歳の夫を世話しなければならない。その八十六歳の夫が日に一回発作を起こして暴れる状況を見ておるのでありますから、この病気が治るのか治らないのか、あるいは本当に見るに忍びがたい状況なのかと考えますと、この判旨から言って該当し得る条件であるかどうかは判断ができません。ただ、このおばあさんが考えております安楽死というものは、とにかく生きたい者は手厚く生かしてやりたい、死にたい者は安楽死させる方法をと本気で年とって考えています、こういうことなんでありまして、この条件を、私は、気持ちはわかるけれども、安楽死に該当する条件には必ずしもならないのではないかと思うのであります。  一方、サンケイが調査いたしました世論調査でいきますと、安楽死の制度は賛成が三八%、反対が三六%、何とも言えないが二三%、三年前と比べますと安楽死賛成論がかなりふえておるわけであります。二%ふえておるわけであります。それから反対派が四八%から三六%に落ちており、私の感ずるところでは年々歳々、社会が発展すればするほど、つまり文化的な教養、文化、思想、そういうものが近代的になればなるほど、安楽死の思想は、非常に限定された立場といえども、これを首肯する方向に逐次進みつつあるのではないか。断っておきますが、私はいまのおばあさんの投書の引用の中で私の意見をやや述べたわけでありますが、人間の命というものを、よほどでない限り、この命を絶つことについては絶対反対の立場ではありますから、この点をお含みおき願いたいと思います。  そこで、この安楽死について、厚生省からおいでを願っておりますから、厚生省の意見を聞きたいと思います。
  112. 古賀章介

    ○古賀説明員 お答え申し上げます。  やはり、生命の尊厳というものを至上の命題にいたします医療の本質から見まして、医師というものはいかなる場合でも、最後のチャンスまで患者の疾病の治療と、それからやはり苦痛の軽減というものに最善を尽くすべきであるというふうに考えるわけでございます。したがいまして、そういう医療の本質から見まして、先生御指摘昭和三十七年の名古屋高裁の判旨につきましては賛成いたしかねるというのが厚生省の立場でございます。
  113. 横山利秋

    ○横山委員 命を大事にしたいという気持ちはわかるけれども、しかしながら、こういう高裁の判決にあるような全く厳しい要件に沿っても、なおかつ厚生省としては一切いけない。それは何ですか、厚生省で安楽死について思想統一したことでもあるのですか、協議したことでもあるのですか、どうなんですか。
  114. 古賀章介

    ○古賀説明員 三十七年の名古屋高裁の判決は非常に厳しい要件を課しておりますけれども、そういう要件のもとでもなおかつ医師は最後まで治療に最善を尽くすべきであるというのが医療の本質であるということを申し上げたわけでございますが、いままでかつて、調査会等を設けて厚生省の中で安楽死について検討したことはございません。今後どうするかということもございますが、やはり国民的合意ということから見ますと、まだ非常に遠いのではないかというふうに考えておりますので、いまこれは調査会等を設けて検討するという考えは持っておらないわけでございます。
  115. 横山利秋

    ○横山委員 私も、いま直ちに安楽死の制度をつくれ、こう言っているわけではないんですよ。しかし、少なくとも世論の動向というものが、厳しい条件の中でも安楽死を首肯する方向に逐次向いておることに目を向けない、耳をかさない。  現にこの判決以外にもこの種の問題が起こっているわけですからね。安楽死を委嘱されて殺人をするという状況があります。ついこの間、三月三十一日の新聞に、香川県におきまして、四十九歳のお父さんを、高校二年の長女A子さん(十七歳)が自宅居間で、父から「楽にしてくれ」と頼まれ、とっさに殺した。このお父さんは病弱でほとんど寝た切りで、A子さんが買い物から帰ってきたところ、胃潰瘍で三畳の間で寝ていたお父さんに呼びつけられ、「わしもあと二、三日の命だ、おまえの手で早く楽にしてくれ」と言われ、A子さんは自宅のオノを持ち出し、ふとんの中に寝ていたお父さんの後頭部を数回なぐり、さらにストッキングで首を絞めて殺した疑いがある、こうなっている。  厚生省が、全然はしにも棒にもかからぬ、それはあかんと言う、その気持ちは、一般としてのお医者様の立場で、お医者様が自分の任務を放棄するという、その気持ちからその立場に立っているのではないですか、いやな言い方をいたしますけれども、そういうことでしたら少し考え直す必要があるのではないか、この安楽死について。いかぬとか言っておっても、いま現在の社会の中で安楽死による殺人——殺人ではない、嘱託殺人ですか、そういうものがあることに目をつぶり、耳をふさいでおるという非難に厚生省は耐えられますか。どうです。
  116. 古賀章介

    ○古賀説明員 やはり医の本質といいますか、医療の本質というのはやはり疾病の治療にあるわけでございます。苦痛の軽減も当然そうでございますが、そういう医療の本質から見まして、厳しい要件のもとであるにせよ、安楽死を肯定するような立場はとり得ないということでございます。
  117. 横山利秋

    ○横山委員 法務省は世界における安楽死の制度といいますか、進行状況というものを御調査になっていらっしゃるでしょうか。私たちの承知いたしておりますのは、イギリスでは一九三六年に安楽死協会ができて、一九六九年のときには法案が国会へ出た。一たんは六十一対四十で国会で否決をされた。しかしきわめて票差が接近していた。アメリカでも安楽死協会ができました。一九 ○六年アイオワ州で法案を一たん可決をしたのですが、連邦政府でつぶされたことがあるそうであります。ローマ法王ヨハネス二十三世も一九七〇年に、すでに精神が肉体から離れてしまった人間にあえて人工的な機械で生命を長らえさせる必要はないんだと述べたと伝えられております。  法務省で刑法の討議の中で、この種安楽死の問題が討議をされたことがございましょうか。
  118. 安原美穂

    安原政府委員 御指摘のとおり、答申を得ました改正刑法草案の法制審議会の答申の過程におきまして、刑事法特別部会の第五小委員会で殺人罪の規定の検討をいたしましたときに、どういう条件のもとには安楽死、つまり違法性を阻却する場合があり得るかということは議論をされたようでありますが、結論としては、具体的なケース、ケースで事情が異なるであろうから、明文の規定を設けて条件を明記することは控えるべきだという結論になったと聞いております。
  119. 横山利秋

    ○横山委員 先ほど言ったように、いま直ちに私も安楽死に関する法案をつくれと言っているのではないのですが、しかし現実問題として名古屋高裁の判決があり、その判決がかなり首肯するに足る方向を示しており、そしてなおかつ現実の事態としては、安楽死に相当する、ないしは相当しない、これに似たような嘱託殺人が現在社会においてときどきあるという事実をわれわれは否定し去ることができないのであります。したがいまして、われわれが手をかけなければ、裁判所において別な裁判官が名古屋高裁の判決を中心にいたしましてその判断をする、新しい判決が出てくる、そういう判決が積み重なっていって一つの方向を示すということになるのではないかと私も思います。しかしそれを、そうであろうからといって、厚生省にしたところで法務省にしたところで、そういう事態の推移に放置しておいてよいのであろうか。少なくともこの安楽死に関する検討なり議論をもう少ししておくべき必要があるのではないか。起こったら裁判長に任せればいい、一つの示唆が出ているのだから、裁判長がそれを高裁の判旨を考えて適当にやるんじゃないかというふうなことではいかがかと私は思うのであります。この辺で法務大臣のひとつ常識豊かな御意見を伺いたいと思います。
  120. 稻葉修

    稻葉国務大臣 まことにむずかしい問題を提起されましたが、そして私、常識豊かでございませんので……。  ただ、法務大臣といたしましては、安楽死は、刑法学上というよりは法律学上一般にきわめて深刻な問題の一つでございますことは、横山先生も御指摘のとおりであります。どのような条件が備われば罪とならず、どのような条件下においては罪となるという点については、少なくとも刑法学者の間ではきわめて学説が多岐に分かれている問題であるだけでなく、いままでお挙げになった名古屋高裁の判決などもそうですが、安楽死であることを理由にして無罪の言い渡しをした裁判例は皆無でございます。     〔委員長退席、大竹委員長代理着席〕 したがって、現段階で、法務大臣として、安楽死が条件によっては許されるのか否か、そういうことにつきまして見解をここで述べますことは不穏当でないか、適当ではないのではないか、こういうふうに思うのでございます。安楽死の問題は、人間個人の生命と、その個人の参加する集団、たとえば家庭なんかもそうでしょうけれども、それとの関係についての哲学的な死生の根幹にも触れることであり、宗教哲学的にも、人類文化永遠の問題でございましょう。私などの、学力や修練未熟な人間のよく判断し得る問題ではございません。
  121. 横山利秋

    ○横山委員 そんなこと、いばらぬでもいいですよ、ございません、なんて大きな声で。大臣が私にはとても答弁し得る能力がないと言われちゃ、私、質問する能力があるかないか、私が疑われるわけでございますから。  要するに、好むと好まざるとにかかわらず、われわれ人類はそれに直面しているのではないか。だから、私も何度も言うように、いま法律をつくる、つくらぬということを迫っているわけではないが、少なくともそれは逃げてはいかぬじゃないか。それを役所は、厚生省も法務省も逃げているんじゃないか。そして自然に、事態が起こったら裁判官が判決していく、判例もあるから大体その方向でいくだろうというふうに放置をしておくことの方がよりいいのではないか——いいのではないかというか、あるいは逃げておるのではないかというか、そういうことを私は指摘をしておるのである。なるほど、大臣がおっしゃるように、生と死の問題についてそう軽々にわれわれが判断をしにくいという点は私全く同感でありますけれども、そう言ったって逃げてはいかぬではないか。そういう点ではお互いに衆知を集めて、この問題について時間をかけてでも検討をする必要があるのではないか。われわれがしなくても裁判所がやっておるんですからね、これからもやらなければならぬのですから。そういう点では私どもも、また立法府としてもあるいは行政府としても任務があることを忘れてはなるまいよ、こういう意味で言っておるわけであります。どうですか。
  122. 稻葉修

    稻葉国務大臣 そういう努力を傾けるべき任務があるということにつきましては御説のとおりであります。私、いま直ちにここで先生の御質問に応じて、法務大臣として、安楽死は条件によっては許されるべきものであるか否かというような点についてお答えを申し上げるのは適当ではないと思います。法務省として法制審議会等がございますね。刑法部会もございます。日本の刑法上、刑法学者の所論等を検討するだけではとうてい解決しない問題ではないかと私は思いますね。単に法務省とか厚生省とか、そういう行政各部が幾らやったってそんなことは追求できる問題ではなくて、もっと広く生命哲学的な究明をしていかなければ解決しない問題でございまして、それに到達する努力は人類として必要なんでしょう。そしてあなたもその追求者の一人として御質問になっているわけでございますので、私もそれを受けてそういう点はよく承知しますが、将来の人類文化の進歩は無限でございますから、いずれはそういう解決に到達する時期はあろうかと思いますし、そういう問題についてもなるべく早く人類の英知を集中して解決すべき問題だろうと私は思いますよ。それに対する努力を怠って逃げているというふうにおとりにならないで、一生懸命に深刻に考えれば考えるほど、先ほど申し上げましたような答弁に終わってしまうということだけはこの際御了察いただきたい、御理解をいただきたいものである、こう思っているわけです。
  123. 横山利秋

    ○横山委員 私どもが映画を見たり、小説を読んだり、テレビを見たりするときに、そういう世界ではしばしば安楽死というものを見ながら、読みながら、そしてそれを当然のこととして理解をしています。それは小説の世界、映画の世界で安楽死の殺人をさせたときに、ああ、それをやるのは当然であろうというふうな首肯をしておるわけです。しかし現実の世界となると、いまお互いに議論されるように、そう簡単なものではないということはわかるわけであります。私どもの記憶によれば、国民の中で一番よく知られておるのは、「高瀬舟」ですか、弟を殺して遠島を仰せつけられた兄貴がおぼろ夜に舟に乗っていく、そしてそれを護送するお役人が、おまえは遠島に行くのになぜそんなに明るい顔をしておるのかというところを聞くくだりが実に名文で、あの「高瀬舟」を読むと、全くこの安楽死というものの、貧なるがゆえに、あるいはまた病気なるがゆえに、弟は自殺をしかけたのですが、それを助けたのです。助けたというのは早く死ねるようにしてやったということになるわけですけれども、昔から今日に至りますまで、本当に状況やむを得ない場合においてはそれは当然だろう、やむを得ないことだという気持ちは、日本人的な気持ちならずとも、人類の中ではよく許している、私はそう思うのであります。しかし、それを許したと大きな声で言うと、それに籍口する殺人が起こりやすい。だから大きな声では許せぬ、腹の中では許すという気持ちが現代社会ではなかろうかと思うのであります。口では許せぬけれども、腹の中で許しておる安楽死、それがだんだん賛成者が多くなっているという今日ならば、むしろ私は、この名古屋高裁の判決のような厳しい要件を付して公然たるものにする、そうすることの方がより合理的、より実際的ではなかろうかと思いますから、ひとつ今後とも十分御検討をいただきたい。  次の問題でございますが、これはまだきのうの問題でありますけれども、五十人ぐらいのベトナムの難民が「サイゴンから小さな漁船で脱出。あてもなく海上を漂流し続けていた。漂流約四十日、水や食糧も尽きて、もうだめかと思っていたとき、六月十八日このマースクが通りかかって救助され」そのマースク号が二十四日午後零時十五分過ぎ、名古屋港西埠頭に接岸。この難民に対して、「法務省は、難民が各国をたらい回しされる事態は人道上好ましくないとして、米国など第三国への渡航をあっせんする方針。日本への永住希望者が出ても、原則的には拒否するとしており、上陸を認める期間は第三国政府との交渉に必要な期間に限る、としている。」と報道されております。実に日本というところは冷たいなあという感じがするわけでありますが、この報道に誤りはありませんか。
  124. 影井梅夫

    ○影井政府委員 大筋において誤りございません。
  125. 横山利秋

    ○横山委員 誤りないとしたならば少し伺いたいと思うのでありますが、「米国など第三国への渡航をあっせんする方針」というのですが、日本にひとつしばらくおらせてくれ、ないしは日本に永住させてくれという希望があったとしたら、なぜお断りをなさる。
  126. 影井梅夫

    ○影井政府委員 現実に本件につきましてそのような申し出はないのでございますけれども、ただいま先生御指摘のように、そのような申し出があったときに、それをそのまま受け入れるべきではないかという御趣旨だと解しますと、それに対して私どもやや慎重を期しております。  その理由は、いろいろあるのでございますが、わが国といたしましては外国からの移民の受け入れをしていないという基本的な方針があるわけでございます。その理由といたしましては、これはもう私から申し上げるまでもなく、国土が狭隘で人口が非常に多いという事情。それからまた経済的、社会的な面からも考えなければいけないだろう。経済的と申しますのは、基本的には、いろいろな就職の機会その他というものは第一義的には日本人のために確保したい。——これはいずれも一般論としていま申し上げているわけでございます。——それから、社会的という面からまたいろいろ問題があろうかと思います。これはもう私から申し上げるまでもなく、われわれ日本国民と申しますか、これは歴史的また地理的な理由から、従来ずっと単一民族として今日まできた民族でございます。したがいまして、一般的に申しまして、外国人を受け入れることになれているであろうかという点、これを私どもまじめに考えなければいけないだろう。また、仮にわれわれがこれを受け入れまして、その受け入れました外国人が、しかもその外国人が難民というような形で入ってまいりました場合に、長期的に見まして果たして日本の国内で幸福に生活していけるであろうかどうかというような点、これもまじめに考えなければならない。基本的にはそういう考え方を持っているわけでございます。したがいまして、御本人の方から日本に定住したいという申し出があった場合に、直ちにこれを無条件に引き受けるということが果たして適当であろうかどうかという意味から、慎重に考えているわけでございます。  以上申し上げましたのは、一般的と申しますか、基本的に考えているところでございます。しかしながら、こういう考えを持っているから、したがってもういかなる場合にも全部これを拒否するということではございませんけれども、ただいままでるる申し上げましたような理由に基づきまして、慎重という印象を与えているということは私ども承知しているところでございます。
  127. 横山利秋

    ○横山委員 いま局長がおっしゃったことは、従来から見て、もう長年この方針で進んでおられる方針を再度確認をされたような気がするわけですが、全く進歩がありませんね。大臣どうですか、いまお聞きになって。ちっとも進歩がない。それはいままでおっしゃったことと別にかわりばえのないことですから間違ったことをおっしゃっているわけではないにしても、一般論であるから何が何でもこれで押し通すつもりはないとおっしゃりながら、たとえば、日本の経済的、社会的に受け入れる雰囲気がない、あるいはその余力がないとおっしゃる。そんなことを言っておったら、最近国際社会から経済大国と言われておる日本が、そんな、戦争が済んだ後の経済状態なり状況の理論をそのまま振りかざしても諸外国には適応しない。それから外国人が育つ余地があるか、楽しく生活する余地があるか、そういう日本であるかと言ったって、いま七十万人住んでいるのですからね。もちろんその圧倒的多数は朝鮮の人たちなんでありますが、それにしても七十万人の外国人が日本に住んでおるのですから、これもまたどうも理屈がうまくいかないのではないか。広い日本の中で——狭いとはおっしゃるけれども、その日本の中で、途方もない四千人も四万人も来るわけではありません。難民と言ったって、日本へ難民がやってくる可能性は、ヨーロッパと違いまして、今回の人たちだって日本に仮に希望なさるとしても大した数ではない。そういう人たちに対して、いままでの論理をそのまま蒸し返しておいてよいものであろうかどうか。ここはひとつお考え直しをなさるべき時期にもうとっくに来ておるのではないか、そう思いますが、いかがでしょう。
  128. 稻葉修

    稻葉国務大臣 横山さん御指摘のように、人道的な問題であり、また人類仲よく、それから、ここまで日本の経済が来たのは、そういうことを言ってはどうかと思いますが、発展途上国の迷惑のもとに来たようなこともあって、そういうことからいたしますと、もう少しおおらかに、野方図という意味ではありませんけれども、そういう人類愛に基づく人道的な立場から考え直してはどうか、こういう先生の御意見には私どもも同感です。したがいまして、法務省といたしまして、今後ケース・バイ・ケースに、なるべく温かい処置を広めていくという方向を検討してまいりたいと思っております。
  129. 横山利秋

    ○横山委員 私の意見は、この際全面的に考え直せと言っておるので、ケース・バイ・ケースをお願いしているわけではないのです。御存じのように、世界人権宣言というものがある。そしてその十四条で、「何人も、迫害からの保護を他国において求め且つ享有する権利を有する。右の権利は、非政治的犯罪又は国際連合の目的及び原則に反する行為を真の原因とする訴追の場合には、援用することはできない。」条件つきではあるけれども、しかしこれは国際的なルールになっておる。また、国際人権規約が採択され、一九六七年、庇護権に関する宣言がされた。そして、「各国が庇護を与えることは、平和的人道的行為であることを認め、他国はそれを非友好的行為とみなしてはならない」とされておる。それから一九五一年、ジュネーブ、亡命者(難民)の地位に関する条約があり、五十四カ国が加入しておる。日本はまだ未加入です。亡命者とは、「人種、宗教、国籍、特定の社会的グループヘの所属、政治的意見の相違などの事情のために、本国において迫害を受け、または迫害を受ける危険があるために、外国にのがれ、本国の保護をうけることができず、またはそれを望まないもの」ということになっているわけであります。  そこで私が、一昨年でございましたか、これらの点を整理をいたしまして、政治亡命者保護法案というものをたしか二回提出をいたしておるのです。私はその当時、難民というよりも、今日日本において現実的な政治的課題になりますのは亡命が多うございましたから、この政治亡命者の保護法案を提出をしたわけなんです。そのころ、歴代の法務大臣は、中垣さんは、「政治亡命ということが明確な場合には、迫害の待っている国に強制送還しない」という方針だから、ひとつそれに照らして特別につくらぬでおいてくれ。あるいは田中法務大臣は、「政治亡命ないし、政治難民という認定をいたします場合においては、これは母国に帰すべきではない。難民については、幾らか不確実なところは御座居ますが、大体において確立している。本人の希望にそって、本人を救済してやるべきだということになるわけであります。」これはきわめて前向きな答弁をなさっておるわけであります。しかし、これもやはり、気持ちはわかるのですけれども、ケース・バイ・ケースという考えなんです。  私は、この際難民の地位に関する条約に日本も加入すべきだ。この際、国際的な日本の責任ということを考えたならば、ベトナムから難民が、日本を目的ではないにしても、その中には日本を目的にする人もあるかもしれない。そういうことは予想してなかったわけであります。そういうことから考えますと、国際的な日本の立場からいっても、難民の地位に関する条約には加入し、それに伴う条件を整備すべきではないか。  また、私の案が必ずしも完璧だとは思いませんけれども、政治亡命者保護法というものについて——もうそのときそのとき大変な政治的な問題になるのですから。たとえば、いままででもずいぶんありますね。歴代の法務大臣が国会で答弁するようなせぬようないろいろな亡命事例というものが、私の整理いたしましたものでも昔から十二件ぐらいあるんですね。こういう亡命事件が起こってから議論をいたしますと、どうしても色めがねでお互いに見る。あれはアメリカにひいきだから、あれは北朝鮮にひいきだから、ああいう措置をするのだろうというふうに見がちなんでありますから、亡命事件がない平静な今日に、亡命者を保護するシステムというものをつくっておくべきではないか。  ですから、三点であります。一つは、もう二十七日に横浜へ入港するわけですが、その中にひょっとして日本に滞在したい、あるいは永住したいという希望があるかもしれない、そういうときには温かく考えるべきである。それから難民の地位に関する条約の批准を真剣に検討すべきである。政治亡命者に関する保護法を制定すべきである。この三つが私の結論であり意見であります。大臣の最後的な御意見を伺いたい。
  130. 稻葉修

    稻葉国務大臣 横浜へ参りますベトナムの避難民の取り扱いにつきましては、入管局から報告を受けておりまして、前向きの方向でやるように言ってありますから、担当の局長からその具体的な内容をここで御報告させていただきます。  難民条約批准の問題は、お説のとおり、今日のこの段階で批准をおくらせるべき問題ではない、時期は熟しておるのではないかという判断を持っております。難民条約の批准に伴う亡命者保護法をも含めた国内法の整備につきましても、難民条約を批准する方向で検討する段階に来ましたから、当然国内法整備の問題についても前向きに検討すべきである、急ぐべきであるという判断を私は持っております。
  131. 影井梅夫

    ○影井政府委員 明日名古屋を出港いたしまして横浜港に向かいますベトナム難民五十人につきましては、いままでのところ、明確に日本に永住を希望している申し出に接しておりませんけれども、もしそういう申し出がございました場合には、私の方でいろいろその事情その他を聴取いたしまして——先ほどは一般的な原則を申し上げたのでございますけれども、しかしながらそれを盾にいたしまして全部これを拒否するという考えではございませんので、その点はひとつ御了解願いたいと思います。そういった定住を認めます場合に私どもといたしまして考慮しなければならないのは、入管局といたしまして日本に永住のための門戸を開いたといたしましても、その後の手当てが一体どうなっているのかという点、ある程度と申しますか、相当明確な見通しがついているということが必要であろうかと思います。したがいまして、そういった点も勘案いたしまして十分に事情を聞きたい、こういうふうに考えております。  それから第二点の条約加入の件でございますが、この条約に加入している国の数が相当数に達しておりますことは私どもも承知しております。すでにこの条約に加入した国がすべてそうであるという意味ではございませんけれども、そういった国の中には、現実の問題としてこういった難民受け入れということが現実には起こらないという国もかなりございますし、また国によりましては、国内の体制、法令その他が必ずしも整備されないままにこの条約に加入しているという国が幾らかあるということも事実でございます。他方、わが国といたしましては、きちょうめんと申しますか、こういった条約に加入するということを決意いたしますときには、大体におきまして国内の体制が完全に整備されておりまして、条約に規定されております字句がそのとおり履行されるということが十分に確保される、その後に加入するというのが日本のこういった条約加入の行き方でございますので、そういった点から、この条約に加入するということについて多少時間がかかっているのはそういう事情でございます。  それから政治亡命者の保護に関します法律案、これは私どもも拝見いたしまして、私どもとしてもこれを取り上げまして、いろいろ検討しなければならぬ点がたくさんあるということは承知しておる次第でございます。
  132. 横山利秋

    ○横山委員 終わります。
  133. 大竹太郎

    ○大竹委員長代理 青柳君。
  134. 青柳盛雄

    ○青柳委員 まず最初に総理府の方にお尋ねをいたしますが、ことしの五月六日ごろですか、財団法人交通事故裁定センターというものの設立許可申請書が提出された。その申請の代表者は、加藤一郎という、これは元東京大学の総長をやり、いま国連大学の副学長もやっておられる方のようでありますが、この設立が認可になれば理事長に就任をするという予定のようであります。この申請を受理し審査を行っておられるのかどうか、まずそれをお尋ねいたします。
  135. 北山直樹

    ○北山説明員 五十年五月七日付で、加藤一郎氏から三木総理大臣にあてて「財団法人交通事故裁定センター設立許可申請書」が出ております。で、五月十八日にこれを受け付けまして、現在審査をやっております。
  136. 青柳盛雄

    ○青柳委員 私の手元にもその許可申請書に添付された設立趣意書あるいは寄付行為などの写しがありますので、輪郭はわかるわけでありますが、正確を期するために、その申請書によるその申請の目的、それから、これは同時にその財団法人目的になるわけでありますが、事業、それから肝心の資産の内容、これを具体的に知りたいのです。役員などにつきましては、具体的にもしわかっておったら、最初に認可になったときに就任することが決められている役員、そういうものもお知らせ願いたいのです。
  137. 北山直樹

    ○北山説明員 御説明いたします。  この財団法人交通事故裁定センターの申請書に書いてあります「目的」でございますが、「この法人は、交通事故の被害者利益の公正な保護を図るため、交通事故に関する紛争の適正な処理を行い、もって公共の福祉の増進に寄与することを目的とする。」こういうふうになっております。  「事業」でございますが、一といたしまして「交通事故に関する法律相談」、二といたしまして「交通事故の損害賠償に関する紛争の適正なる和解の斡旋」、三といたしまして「交通事故による損害賠償に関する調査研究」、四といたしまして「自動車保険制度及び自動車共済制度に関する調査研究」、五といたしまして「交通事故の損害賠償に関する知識の啓発普及」、六といたしまして「関係機関及び諸団体との連絡提携」、最後に七といたしまして「その他この法人目的を達成するために必要な事業」、こういうかっこうで「事業」が出ております。  それから財産の関係でございますが、基本財産といたしまして三千万円を予定しております。出資の内訳は、損保協会から二千八百万円、全共連から二百万円というふうになっております。  それから運営経費でございますが、昭和五十年度一億六千九百八十三万二千円を予定しております。その内訳は、損保協会から一億五千七百四十万七千円、それから全共連から千百万円、その他財産収入が百四十二万五千円、そういうことになっております。  それから設立許可後の役員、これは予定でございますけれども、理事長は加藤一郎前東大総長、それから常任理事といたしまして長谷部茂吉弁護士、加藤勝三弁護士、須藤静一弁護士、四宮和夫新潟大学教授、それから理事といたしまして伊藤淳吉弁護士、それから西原道雄神戸大学教授、それから監事といたしまして渡辺正夫公認会計士、以上の予定になっております。  以上でございます。
  138. 青柳盛雄

    ○青柳委員 いまお聞きのとおり、この財団法人の財産は、それからまた運営費もそうのようでありますが、損保協会というのが主力のようでございます。損保協会から出されるものが多い。もちろん全共連の方からも出るようでありますけれども、これはわずかである。そこで、この発想がどうも損害保険事業をやっておる保険協会から出ていると思われる節があるのですね。で、この保険協会に参加している保険会社が、いわゆる家庭用乗用車保険、FAP、わかりやすく言えば示談つき代行保険というものを発売しているらしいのであります。これは保険料は相当高いようでありますけれども、事故が起こった場合に被害者との間で紛争が起こることを予想し、その場合に、高い保険料を払っておるから保険会社の方でその紛争処理に要する費用も負担してやる、代行してやるというような仕組みのようであります。そういう仕組みがある以上、これをカバーするための機構がなければならないわけで、当然それはいま弁護士制度がありますから、保険会社が弁護士を顧問として雇い入れて、そしてその保険加入者、つまりFAPを買い取ったそういうお客さんに対して約束どおりサービスをしてやる、そういうことでいいわけですが、それではなくて、いま問題にしようとしている中央機関のような色彩を持った交通事故裁定センターというようなものをつくって、これに代行させよう、こういう含みがあるのじゃないかと思われるのです。  そこで、大蔵省の保険関係の係官から、この問題についてどういう指導がなされているのか、お尋ねしたいと思います。
  139. 田中哲男

    田中説明員 お答え申し上げます。  裁定委員会というものは御承知のように現在あるわけでございますが、これが発足いたしましたのは、先生のおっしゃいましたようなFAPの発売時期とわりに近接しておりますが、考え方といたしましては、FAPを売るからこれも発足させなければならないということではございません。御承知のように、FAPと申しますのは、先生が御指摘になりましたように、示談交渉サービスつきということで売っているわけでありますが、ほかの保険につきましても、これは自賠責保険につきましても任意保険につきましても同様でございますが、被害者と加害者あるいは保険会社の間で意見がまとまらないということがあるわけでございます。そういう場合の最終的なよりどころは、もちろん先生おっしゃいましたように裁判所でございますが、そこへ行く前に何らか中立的な機関で示談を進めるところがあれば、被害者、加害者双方にとって早い解決ができるという点で有利ではないかということから、現在委員長をされております加藤一郎先生その他弁護士の方から、こういうような機関をつくったらどうだろうかというお話が出ていたわけでございます。損保協会といたしましては、もちろん被害者保護を第一の目的とする自動車保険でございますので、そのような機関ができまして解決ができれば、もちろん被害者のためにいいわけでございますし、また加害者側にとりましても早期解決は望むことでございますので、そのような委員会につきましては全面的に御協力申し上げるということで来ておるわけでございます。また役所といたしましても、そのように中立的な機関ができることは望ましいという立場から、これの育成、発展を願っているわけでございます。  問題は、先生がおっしゃいましたように、損保協会が金を出しているというところにあるように見受けられますが、御承知のように、この裁定委員会の経費の一部につきましては損害保険協会及び自賠責を扱っております農協から寄付がなされております。ただ、この場合も条件がついておりまして、損害保険会社は裁定委員会の裁定には必ず服するということでございます。したがいまして、そこで出されましたあっせん案なるものがもし被害者にとって不満足なものであれば、被害者は裁判に訴えるなり何なりの解決手段は残っておるわけでございますが、損害保険会社はそこで出されましたあっせん案に必ず従うということで、さらに裁判に訴えたりその他の措置はとらないということを約束しているわけでございます。したがいまして、委員の構成の方を拝見いたしましても、損害保険会社の代表のような方は一人もおられないわけでございますし、たてえま上としまして、損害保険会社はそこのあっせん案にはすべて従うということになっておりますので、被害者を有利にするということはございましても、損害保険会社がこういうものができたために有利になるということは一つもない、このように考えておる次第でございます。
  140. 青柳盛雄

    ○青柳委員 この問題についての大蔵省側の考え方はいまの説明でわかりました。それが妥当なものであるかどうかについてはまた意見がありますが、いまここですぐ反論するということはしませんから、したがって、もし係官が他の委員会の方で答弁に立たなければならぬ、説明に行かなければならぬということであれば退席されても構いません。  さて、この申請を受理した内閣とすれば、総理府で主として中心になってといいますか、許可すべきであるか否かを審査中だと思いますけれども、いま一つの例を申し上げたように、質問をしたように、大蔵省が関係しておる。このほかに運輸とか農林とか——農林というのは農業共済あたりが絡んでいる関係もあります。それから、交通事故でございますから警察も関係しているんじゃないか。そして何よりも、これが裁判制度そのものに重大な影響を持った問題でありますから、法務省、それから最高裁判所、こういう方面と当然協議をすべき事項だと思いますけれども、この点について、総理府が所管するということだから勝手に決めていいんだということにしているのではなかろうと推察をするわけですが、どうなっておりますか。
  141. 北山直樹

    ○北山説明員 御説明いたします。  申請書が出されまして、申請書につきましてのいわゆる形式的な審査、これはすでに終了しておりますが、現在その内容的な審査を進めております。この段階で関係各省と協議をしておるわけでございます。いま先生がおっしゃいましたように、警察庁、運輸省、農林省、大蔵省、それから法務省と協議をいたしております。
  142. 青柳盛雄

    ○青柳委員 きょうは運輸、農林、警察関係の人は出席しておられませんから、また別の機会にお尋ねするようなことになるかもしれませんが、実はこの構想が突如としてといいますか、関係の、影響力の非常に多い日本弁護士会連合会、いわゆる在野法曹の側には突如としてという形で申請されてしまった。むしろ法務省の方からの連絡で、そういう申請が出ているということを日弁連関係の人たちは知ったというのが実情のようであります。五月の初旬に出て、そのことを知ったのは五月の終わりごろか、まあそのころらしいのであります。したがって、なぜ日本弁護士連合会などに政府として意見を聞くようなことをしていないのか、それともしているのかどうか、この点はいかがですか。
  143. 北山直樹

    ○北山説明員 現在この件につきましては審査をしておりますので、その過程で日本弁護士会とお打ち合わせをしたいというふうに考えております。現在加藤一郎先生が外遊中でございまして、お帰りになりましたら、加藤一郎先生と日本弁護士会との間でも十分話し合いをしていただきたいというふうに私は考えております。
  144. 青柳盛雄

    ○青柳委員 私の手元に、日本弁護士連合会交通事故対策委員委員長後藤英三氏名義の日本弁護士連合会会長辻誠殿あての五十年六月十二日付の文書、「財団法人交通事故裁定センター設立問題に関する意見書」というものがあります。この意見書によりますと、これができるまでにはいろいろの経緯があったようであります。日本弁護士連合会には昭和四十二年ころから交通事故相談センターというものが設立され、これは日弁連の仕事の一部というものとして、被害者に対する救済措置を十分にするということがねらいでありますけれども、しかし日弁連そのものとしてこれを運営するということは、設立の費用並びにこれを運営する費用、こういうものが日弁連だけで賄うということは困難であるために、自動車損害賠償責任保険特別会計の保障勘定というところから補助金を受けるという必要上、財団法人という形をとって活動を続けている。     〔大竹委員長代理退席、委員長着席〕 これは、昭和四十八年度の「交通事故の状況及び交通安全施策の現況」と題する政府の国会に対する報告書、つまり七十二国会提出の白書によりますと相当の実績をおさめているわけでありますが、これではまだ十分でないというところから、これをもっと改善する方法はないかということでいろいろ相談をしている。その背景には、先ほどから話が出たFAPという家庭用乗用車保険という制度がある、こういうものを否定してしまうのじゃなくて、むしろこれを活用するというような含みもあっていろいろと論議が行われたわけでありますけれども、日本弁護士連合会の内部では、いま問題になっておりますような形の裁定委員会といいますか、裁定センターといいますか、そういうものができることは賛成だという人よりも反対という人が強いということで、まだ討議の最中であったわけであります。その討議の最中に突如として、加藤一郎氏などが中心になってでございましょう、理事長に就任する予定になっておる方でありますし、この申請の代表者でもありますから、こういう方々、それから先ほど名前の出た弁護士の人たち、そういう人たち並びに損保協会あるいは全国共済といったような方面の人たち、これが抜け駆けといいますか、日弁連を出し抜いて、そしてこういう構想のもとに政府の公認を取ろうということに問題が発展してしまったのじゃないか、かように思います。そこで日本弁護士連合会並びにその傘下の単位弁護士会からはそれぞれ同趣旨の反対の意見書が政府に提出されているようでありますが、これは受理して検討しているかどうか、これをお尋ねいたします。
  145. 北山直樹

    ○北山説明員 いま先生お話しの要望書等につきましては、私の方で受け取りまして検討しております。
  146. 青柳盛雄

    ○青柳委員 それではその反対の理由についてどういうような検討をしているか、一つ一つお尋ねいたしますが、反対をする理由は幾つかありますけれども、まず第一に、これは紛争の処理を目的として設立されておる。具体的には紛争処理の仕方として和解のあっせんをやるということであります。最初の構想は裁定もやろう。本人たちから、つまりこのセンターにやってきた加害者、被害者双方から裁定契約を成立さして、そして裁定もやるということであったようでありますけれども、だからこそ「裁定センター」などという文字まで名称の中に組み込まれているわけでありますが、裁定は余りにも一方的ではないか、裁判所とほとんど同じようなことをやってしまうのじゃないか、本人たちの契約書を前提にするとはいうものの。そこでそれはやめて、和解のあっせんということだけでいこうということだけれども、実際は司法機関のやるような仕事をやろうというのがねらい。つまり、裁判所などへ問題を持ち込むというのは非常に時間がかかるし、金もかかる。弁護士を雇うなどということもむだな費用がかかって困るというのが被害者側の一般の意見であるから、早く安く、いや、ただで片づくのならこんなうまいことはない。これはまさに金を出すところは別にあるわけでありますから、無料であっせんをやってくれる。和解のあっせんと言っても、裁判所で和解をするというあっせんではなくて、示談であります。いわゆる下方示談。だから、加害者、被害者を説得して、そして適当なところで示談をさせることによって交通事故の紛争は急速に解決する。これがいまの社会的な要請に合致するものであるということでそれに精力を注ぐわけでありますから、まさに、憲法七十六条第一項の、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。」というこの大原則を乱して、一民間の機関が裁判事務を行うということになるわけであります。これは事実に基づいてそういうふうになるわけであって、形式は、なるほど本人たちが好まなければいつでもその示談というものは不成立になって、そして裁判所へ持っていくことができるのであり、したがって裁判を受ける権利というものを、憲法の三十二条に言われた、「何人も、裁判所において裁判を受ける権利」を奪うようなものではないという。そういう形式論などは幾ら言ったって始まらないのであって、実際は何か政府公認の私的機関が裁判所の代行をやる、こういうことになる。これが反対の根本的な理由でありますが、これについてはどういう検討をしておられるのでしょうか。
  147. 北山直樹

    ○北山説明員 いまの先生の御指摘の点につきましては現在検討中でございますが、この機関につきましては、この機関が委嘱をした弁護士による示談のあっせんをするというのが主な業務であるというふうに聞いております。
  148. 青柳盛雄

    ○青柳委員 これも後々から問題になると思いますけれども、その弁護士が示談の勧告をやる。だから機関がやるわけじゃないのだから、弁護士が示談の勧告をやるのは弁護士業務の中で許されておることであり、別にそれが裁判所の機能を侵すものではない、そこで逃げようというわけでございますけれども、実は弁護士の中でも問題になっておるのは、複数の弁護士が一緒になって合同の法律事務所をつくっているという例が、欧米にも非常に多いようでありますが、日本でも戦後非常に多くなってまいりました。名称は合同と言ったり共同と言ったり総合と言ったり、要するに、特別の弁護士が最高の責任者になって他の弁護士はそれに雇われているというような事務所形態はいまほとんどなくて、対等、平等の複数の弁護士が共同で法律事務所をつくっているという例がありますが、これを法人化することは許されるかどうか。具体的な事案法人であるところの法律事務所が引き受けて、そしてそこに雇っている弁護士が担当する、これで果たして法律違反にならないだろうかどうだろうかということが大問題になって、それはいかぬというのが大体定説のようであります。やはりあくまでも弁護士は相談を受けた以上個人として責任を持って誠心誠意その処理に当たるべきであって、何か法人事件を引き受けて、そしてそこで雇われておる弁護士が処理するなどということは、大体弁護士の任務から言っても逸脱をするし、また司法制度そのものにも根本的な変更を加えることにもなる非常に大問題であるということで、これはどこでも法人格を持った法律事務所というのはないはずであります。あるとすればそれは全く脱法行為だと私は思います。  そこで、そういうのと、いまの財団法人交通事故裁定センターというものが発足をして、そしてそこで雇っている弁護士が処理するのだというようなことでごまかせるかどうか。もしこれが許されるということになりますと、これから後、いろいろな問題についてこういうようなセンターができるのじゃなかろうか。借地借家の問題についても紛争が起こりますし、医療公害というような問題についても、あるいは建築公害その他、もろもろの紛争、法律的な紛争が起こってくる。それを全部処理する財団法人のようなもの、株式会社のようなものができ上がって、そこでいろいろと処理する。これはまさに非弁護士取り締まりの弁護士法の七十二条にも違反する結果にはならぬか。なるほど担当する弁護士は、あるいはまた事故裁定センターは、相談に来た被害者あるいは加害者から一定の報酬を取ってそして事務の処理をしてやるというのじゃなくて、無料でサービスをしてやる。無料ほど安いものはないわけで、だから財団法人は何ら営利的なことをやっておらぬし、したがって形式の上では非弁護士取り締まりの規定には抵触しない、つまり三百屋のような仕事はやっておるわけじゃないんだと言いましても、それではその財源はどこから出ているのだということになると、これは国から出ているわけじゃないのですね。公のものから出ているわけでもないのです。まさに損保協会が年間一億何千万円という金を出してやる。設立に当たっても三千万円近くの金を出してやる。これでは実際上は、雇われている弁護士も、そこで活動している職員も役員も、すべてこの財源によって賄われている。まさか空気を吸っているだけでこれだけの活動ができるのではないのであって、当然物質的な裏づけがあればこそこの活動ができるわけでありますが、胃袋は全部そちらにお任せしてあるというに等しいわけです。これでは完全に三百屋の仕事と同じではないか。それで事実上三百屋であるばかりでなく保険協会の代弁者に成り下がっているのではないか。中立公正などと幾らうまいことを言ったって、何しろ一宿一飯の恩義という昔からの言葉がありますけれども、金を出してくれるところに対する義理というもの、これを断ち切ることはできない。当然これは金を出してくれる方に傾く。またそれがあればこそ保険協会の方では金を出すのです。何も社会事業の団体でも何でもない。営利全社の集団であるところの保険協会というものは、これでうまく片づけてもらえば損害賠償が安上がりになる、またしたがってもうけもたくさん上げられる、こういうことなんです。こういう問題について政府の方では検討をどのように続けているか、お尋ねしたい。
  149. 北山直樹

    ○北山説明員 御説明いたします。  いわゆる法律事務所を法人化するというような問題とも関連があるかもしれないというのは、審査の過程で法務省と協議をした際にそういう問題が指摘されまして、現在その点につきましてはどういうふうな学説等があるかというふうな点も考えまして検討中でございます。  なお、事実の問題に関連いたしましては、これはまあ今後どういうふうな形でお金の出所の方に判断が傾くか傾かないか、こういうふうな問題でございますが、これは中立公正が維持できるよう指導監督をしていくというふうなことで解決できるのではないかというふうに考えております。
  150. 青柳盛雄

    ○青柳委員 ここで水かけ論をしたくはありません。同じことを繰り返したくもありませんが、どうも発足から言い、これから後の運営の方法と言い、その財源の捻出方法と言い——確かに、裁判所へ問題を提起しても、自分自身が簡易裁判所に駆け込んでいっても、また弁護士を頼んでそして裁判所に訴えても、金がかかります。いま日本で一文も金を使わずに紛争事件の解決ができるなどということは考えられない。もちろん判決を得た場合に、勝訴すれば訴訟費用は被告側の負担になる、また弁護士費用なども、もう一遍裁判にかけるか、あるいは裁判の過程で弁護士費用も含めて請求すればそれも一緒に取れるというようなことはあっても、それまでに金が必要なんだ。いわゆる立てかえというか、最初は投資というか、金をかけないことには紛争は有利に解決しないわけです。まして和解、示談ということになりますと、訴訟費用は各自負担というのが常識であります。結局はそれだけむだというか、とにかくただよりはむだな費用がかかる。ところがいま構想されておる交通事故裁定センターは、恐らく私はこれはただでやってやるというのがたてまえだろうと思う。金を取ってしまえば弁護士法違反になるわけですからね。金は取れない。だからこれで宣伝していったら相当お客さんは飛び込んでくると思いますね。それはそれで結構じゃないかということになりますが、一体そんなサービスをする機関というのがこのいまの日本の経済社会制度のもとであるのだろうか。確かに、われわれの税金が財源となって、そしてそういうサービスを国民のためにするというのであれば、それは当然あっていいことです、社会保障ですから。だけれども、これは一営利会社が金を出すのですね。そういうものが無料でやるというのは何かその裏にもうけがある。もうけた金を少し罪滅ぼしに吐き出しているのだという、そんな理屈は私は通らないと思う。そのぐらいなら保険料を安くして、もうけを少なくすればいい。保険料をたんまり取って、もうかったからこれを少しサービスに放出しているのだ、だから別にもうけをねらってやっているのじゃありませんと言っても、これはきれいごとであって、またおかしな話であって、やはりもうけるためにこういうものをつくろうとしておるのじゃないか。これにまんまと一部の人々が乗ってしまって、そしてまた一般の人もこういうものができればそれに越したことはない。一体なぜこんなことになるのかというと、日本の司法制度が非常に信用されていないということ、そこに原因がある。  そこで、最高裁の方もお見えになっていますからお尋ねしますけれども、どうも交通事故の被害の解決について、裁判所が和解中心主義をとっているというような傾向は、これはよくないというのが被害者側の弁護士たちのこぞって主張するところなんです。これは結局は低額な賠償を押しつけるというか、そういう事態を醸成する。また、早目に問題を解決する上に和解は都合がいいと言うけれども、実際和解を勧めるということになると、裁判をしようとする姿勢がなくなって、結局は解決も長引いてしまう、訴訟は決して促進されないでむしろ遅延する、そういう意見も出ております。要するに、事件を早く解決する、紛争を早く解決するということは、抽象論とし一般論としては非常にいいことでありますが、またそういうふうに努力しなければならぬのであって、それをほかの方法で解決するというのはいけない。つまり迅速に公正な裁判が行われることが紛争を速やかに解決するゆえんであって、これが理想なんですが、早く解決するということのほうに急ぐ余り、普通の手続をとっておったらもっとたくさん賠償を受けられるかもしれないけれども時間はかかりますよ、費用もかかりますよ、だから早く和解した方がいいのじゃないですかというようなことで、裁判官がこれを勧める。言うことを聞かなければ負かしてやる、裁判所がせっかく好意を持って円満に解決してやろうと思って和解を勧告しておるのに、それを我を張って言うことを聞かない、顔を立てない、そういう態度をとる者に対しては、裁判官も人間だから、まあどういう判決になるかわからないというようなことを、まさか露骨に口に出しては言わないまでも、言うというようなことで、結局低額賠償でおしまいになってしまう。泣き寝入りに等しいことになる。訴訟が、こういう裁判官に出っくわすと、被害者の代理をした弁護士がもう大変に困るわけです。へんぱな裁判をするおそれがあるというので忌避するというわけにもいかないし、結局は何とか裁判所のごきげんもうかがいながら示談にしないように、和解をしないで判決にしていただくように下手に出ていかなければならぬというような結果になりがちなんです。この裁判の遅延という問題、和解中心主義というような問題が弊害をもたらしていることはもうくどく申さぬでもよくわかると思いますが、最高裁では、こういう問題を含めて、どうですか、この裁定センターというようなものに対してどう評価しておられるか、これをお尋ねしたい。
  151. 井口牧郎

    井口最高裁判所長官代理者 ただいま、裁判所の裁判が信用されていないのではないかという御指摘を受けまして、大変恐縮に存じております。  交通事故に基づく訴訟事件の審理が一般の民事訴訟に比べて若干長期化しておりますことは御指摘のとおりでございます。また、この事件の処理内訳といたしまして、和解による処理が他の一般事件よりもかなり高いということも御指摘のとおりでございます。ただ、これを大ざっぱに申しますと、和解が約五〇%ぐらいでございまして、判決が三十数%、かように相なっております。恐らく和解による処理の期間というものはかなり短いかと存じますけれども、判決によって処理される事件と申しますと、これはもう先生もちろん御承知のことでございますが、いわゆる欠席判決などによって簡単に判決になるという事件はこの種の事件にはございませんで、やはり後遺症があるかないかといったようなかなり複雑な争いがございます関係上、証拠調べにある程度期間がかかるということは遺憾ながら事実でございます。  それで、多少お尋ねの趣旨が多岐にわたりますが、和解による処理という点について一言まず申し上げておきたいと思いますけれども、一般の民事訴訟事件では、先生御指摘のように、勝つか負けるかということの微妙な事件は幾らもございます。ただ、私どもの承知しております限度では、交通事故に関する訴訟に関して申しますと、勝つか負けるかという事件が全くないとは申しませんが、おおむね損害賠償額がどの程度であるべきかということをめぐって争いになる場合が大部分でございまして、和解に応じなければ負けるぞというような問題では決してなくて、むしろ裁判所が主に心配しておりますのは、処理の結果が、実際上金が取れるかどうかという問題に重点を置きます関係上、やはり任意に払おうという確認をとった上で訴訟を終わらせた方が実際上被害者のふところに金の入る可能性がはるかに高いという観点であろうかと、私どもはさように理解しております。  ところで、最後の御指摘の点でございますけれども、私どもの立場といたしますと、ただいま申しましたような裁判所における紛争の解決との関連において、一般的にお答えを申し上げる以外にないことをあらかじめお許しいただきたいと思います。先生も御指摘になりましたように、決して裁判所における訴訟、調停等、裁判所の手続による処理が全く理想的に行われていると言う自信もございませんことは申しわけない次第でございますけれども、この点につきましては、さらに今後こういった訴訟、調停の運営を改善しながら、少しでも権利の救済の実を上げていきたいというのが私どもの基本姿勢でございます。ただ、裁判前と申しますか、裁判外の私的な紛争の解決ということになりますと、これは当事者同士で話し合いをつけるとか、あるいは弁護士さんに仲に入っていただいて話し合いをつけるとか、いろいろな形の裁判外の紛争解決の方法はあろうかと思いますし、私的な紛争の相当大部分のものがこういう形で現実に解決されておるわけでございます。その解決の中身が公正であるとかあるいは適正であるという限りにおいては、やはりそれは一種の私的自治の範囲にとどまるものでございまして、私どもとしては特にこれにとやかく申し上げる筋合いではなかろう、かように考えております。  なお、これも先生十分御承知のことでございますけれども、特に交通事故紛争に関しましては、すでに十数年以前から各地にございます交通事件専門部における判決、和解あるいは調停、そういったものによる解決の結果というものが非常にたくさん集積されつつございまして、これがおのずと合理的な解決基準を実際に示しておる。少なくとも法律専門家であられる弁護士さんの方々にはこのあたりは十分御承知いただいておるわけでございまして、そういうものが裁判外の解決には相当有力な資料になっているものと、かように考えております。  ところで、お尋ねの裁定センターの機構であるとかあるいは制度の当否ということになりますと、これは私どもの考えでは、むしろ政策的な色彩の非常に強い判断を要することであろうと考えますので、裁判所としてどう考えるかということにはお答えいたしかねるということでございますので御了承いただきたいと思います。
  152. 青柳盛雄

    ○青柳委員 私どもも、裁判所がこれは反対だというような意思表示はできないと思いますけれども、しかし、憲法の条章にもかかわり合いのあることであるから無関心ではいられないと思います。当然、これが運用され活用されてきた中でまたいろいろの弊害も起こるでしょうが、それ以前の問題として、やはりこれはよほど真剣に考えて、そうして政府公認のような形でこれが行われることについて——弁護士会の、先ほど申しました、関係しております日弁連交通事故相談センターというようなものは、民間団体とはいうものの、法律専門家によって組織されているということ、この点は今度の構想の中でもそういうものが役に立つんだ、また実際上仕事をやるのも弁護士だ、だから似ているようでありますけれども、繰り返して申しますが、この方は公金が使われていると言ってもよろしいわけですね。ところがいまの構想は公金ではなくて、全く私企業の出す金であります。  そこで最後に法務省にお尋ねをいたしますが、こういう構想について、先ほどの総理府の御答弁の中にもありましたが、相談をしたようであります。どういう見解をお持ちになっておられますか。
  153. 勝見嘉美

    ○勝見政府委員 先ほど総理府の方からお答えがございましたように、この許可申請の件に関しましては総理府の方において主管いたしておりますので、私どもといたしましては、司法制度にかかわりがあるという観点から検討させていただいておる次第でございます。私どもといたしまして法務省の結論というべきものを出している段階ではございませんけれども、お尋ねでございますので、ただいま私どもが考えておる点を申し上げたいと存じます。  先ほど裁判所の方からもお答えがございましたけれども、基本的に一般論として申し上げれば、民間人または民間の団体が私的な紛争に関与いたしまして、その紛争の処理に当たるということ自体は別に禁止されているわけでもないと思います。当事者はいついかなる段階においても裁判所に訴えできるのでありますれば、別に裁判権を奪われたことにもならないかと存じます。  ただ、この種の、本日問題になっておりますような機関について、先ほど御指摘のように、国民全般が裁判所に行くのはめんどうくさい、あるいは時間と経費がかかるということ、ないしただでやってもらえるとか、簡単にやってもらえるとか、いろいろな実際上の利点はあるかもしれませんが、ただこの際、国民の側から言って裁判所に行きたいのだけれども、やむなくこの種の民間の機関の厄介になるということでありますれば、そこに何かしら裁判所における各種制度の制度面、運用面で問題があるからであろうかと存じます。運用面は裁判所の方でやっていただいておるわけですが、もしそういうことでありますれば、私どもといたしましては十分検討しなければいけない問題だというふうに考えております。  それから第二番目に、先ほど御指摘の資金の支出源の問題でございます。本件が財団法人でございますので、財団とその基本財産ないし運営財産という点で考えてみますと、一般的に言って、財源がどこから出されているかということ自体と、財団の目的ないし現実に社会に機能する面を考えてみますと、一般の国民から疑惑を持たれるというようなことがあり得ることは御指摘のとおりかと存じます。ただ、抽象的に言いまして、果たして、財団の財産、財源の出所自体と、その財団の許可をなすべきかどうかという問題になりますと、十分検討が加えられなければならないというふうに考える次第であります。本件の場合は、先ほど御説明がありましたように損保協会から出ておって、それはいわば加害者サイドの方から金が出ておることになるのではないか、そこに中立性、公共性といいますか、そういうものを損なうこととなるのではないかという御疑問、ごもっともでございますけれども、その点は、実際に相談に当たる人、あるいはいわゆる裁定に当たる人の人選、それから手続等の実際の運用面などともかみ合わせて十分検討がされてしかるべきことだろうと思います。  それから、弁護法人の問題でございますが、この点も青柳委員指摘のとおりの問題点があろうかと思います。私どもの考え方といたしましては、現行弁護士法が、弁護士事業というものは個人がやるものであるということが前提となっておりまして、弁護士業務を目的とする法人を設立するための規定は見当たらないわけでございます。そこで、本件センターのような法人が設立されること自体が弁護士法の趣旨に合うのか合わないのか、結局弁護士業務を目的とする法人を認めてしまうことになるのではないか、あるいはそうではないのだというようなことはいろいろ十分検討を加えられなければならない問題だというふうに承知しております。  それから最後に、私ども拝見しました申請書添付の寄附行為の案を見ますと、この業務に当たられる方が弁護士であるということが明記してございませんでしたので、仮に弁護士でない方がこの種事務をやるということになりますれば、やはり弁護士法七十二条違反の疑いが起こり得るというふうに考えておる次第でございます。  以上のような次第で、いろいろな問題点があろうかと存じますけれども、主管庁において十分御検討していただいておるものというふうに考えておる次第でございます。
  154. 青柳盛雄

    ○青柳委員 最後に法務大臣にお尋ねいたします。  途中からお聞きになったので、問題の所在を必ずしも正確に御理解いただいておるかどうかわかりませんが、おまえが勝手に問題にしておるのだと言われればそれまでですけれども、決して勝手に問題にしておるのではなくて、先ほどからも述べておりますように、日弁連及び単位弁護士会からこぞって政府に対して、これはぜひ許可しないでもらいたい、反対であります。その理由としていろいろ挙げておりますが、私的な司法機関をつくることになる。これは公正中立と言うけれども、結局はスポンサーのようなものがあって、それが保険会社である。いま交通事故の賠償金を払うのは、形の上では加害者なんですけれども、加害者はみんな保険に入っておりますから、保険会社が賠償金を払う。だから、交通事故紛争、民事紛争と言えば、被害者の相手方である当事者は保険会社と言っても過言ではないのです。その当事者の一方が金を出して政府公認でこういう財団法人をつくって、しかも理事長は前東大総長、現国連大学副学長、最高裁判所の並みいる裁判官と比べて少しも遜色ないどころか、むしろもっと偉そうな人だ。そして弁護士も裁判官を長年やって弁護士になった人とか、弁護士としても数十年の閲歴を持った人が役員になっておる。こういう人が無料でやってくれるのだからこんなありがたいものはないということで、被害者はみんなそこに駆け込むのじゃないか。みんなと言うと極端ですけれども……。そして裁判所の方には全然行かないかと言えば、行くことは行くでしょうけれども、裁判所へ持っていったって、大体このくらいがもう限度ですよ、それから弁護士の費用や時間のことなど考えて差し引いてごらんなさい、これくらいの方がぐっと得ですよという話になっていけば、もうこれは全部低賠償で不満ながらも事実上納得させられる。不満の感情を持つならまだいいですよ。ところが権利意識が眠り込まされて、もうこんなものです、これが社会制度としては一番理想的なものですというようなことになっていったら、裁判所の機能も弁護士の機能も全く麻痺するようなことに、極論すればなる、そういう大問題ですから。しかも、これが日弁連などの知らない間に抜け駆けにやっているのです。全く出し抜いたと言いますかね。日弁連の方では九項目にわたっていろいろな問題点を検討中、あっという間に一部の人が出してしまった。こんなものを政府が軽々に許したら、全くスキャンダルに等しいものにならざるを得ないと私は思うのです。だから大臣、この点ひとつ慎重に考えていただきたいと思う。ちょっと御意見をいただきたいと思う。
  155. 稻葉修

    稻葉国務大臣 これは私、よく事態を認識しております。途中から入ってきましたけれども、よく認識しております。それから、私は決して軽率な人間ではありませんから。この間じゅう、いろいろ軽率だとか慎重だとか……そういう者ではありませんから。それから、お説の点については非常に同意な点が多々あるわけです。日弁連の書類を私どものところへ持ってこられたから見ましたが、全部が全部首肯すべきとも思いません、ずいぶん虫のいいこともあるようだなと私自身思う点もありますけれども、しかし全体としてなかなか疑問の多い問題だ。これは慎重の上にも慎重を期せざるを得ないというふうにいま思っております。
  156. 青柳盛雄

    ○青柳委員 終わります。
  157. 田中覚

    田中(覚)委員長代理 諫山博君。
  158. 諫山博

    諫山委員 まず警察庁に質問します。  ことしの六月十一日に沖縄県警の防犯課長が沖縄県環境保健部予防課に、精神障害者に関する一つの文書を持ってきました。これがマスコミに知られまして、六月二十一日付の毎日新聞では「精神障害者の鑑定、入院求める 沖縄県警、海洋博警備で」同じ日の西日本新聞では「精神障害者をリストアップ 強制収容まで要求 沖縄県警」六月二十三日付の赤旗では「精神障害者の“予防拘禁”図る 海洋博控え人権侵害」そのほかほとんどすべての新聞がこのことを報道しています。  そこで、きのう私は警察庁に、沖縄県警が沖縄県の予防課にどういう書類を持ってきたのか、その表題は何と書いてあったのか、内容はどう記載されていたのか、できれば飛行機で現物を取り寄せていただきたい。できなければ電話で、現物を取り寄せたと同じように、表題や文書の内容を正確に報告してもらいたいということを要望しました。そこで、どういう表題の文書だったのか。さらに文書にはどういうことが書かれていたのか。注釈抜きで現物のまま御説明ください。
  159. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 お答え申し上げます。  私ども、先生御質問の文書をまだ入手しておりませんし、また事柄の性質上提出するというわけにもまいりませんが、電話で内容を聞いておりますので、その内容について御説明させていただきたいと思います。
  160. 諫山博

    諫山委員 まず表題は何だったのですか。
  161. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 表題は「精神障害者の発見通報について」というものであるというふうに聞いております。  それから内容でございますが、内容の要旨を申し上げさせていただきますと……
  162. 諫山博

    諫山委員 できれば全部正確に読み上げてください。
  163. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 それでは読み上げさせていただきます。  「精神障害者に対する措置については、日ごろから種々御協力を賜り、感謝申し上げます。」  ちょっと途中で恐縮なんでございますが、この文書そのものが精神障害者に関する文書でございますので、文書全体を提出したりあるいは読み上げたりするということは精神障害者の方の人権にも関する問題でございますから、文書全体について読み上げるということは差し控えさせていただきたいと思いますが……(諫山委員「とにかく読んでみてください」と呼ぶ)送り状と申しますか、その送った文書につけておりました表書きと申しますか、そういうものについて電話で聞いておりますので、その点について申し上げさせていただきます。
  164. 諫山博

    諫山委員 いまあなたは、全文を読み上げたら人権に関するような弁解をされているわけですが、まさに人権に関するからこそ大問題になっているわけです。私が質問しているのも、精神障害者の人権問題だから質問しているわけです。ですから、まず正確に読み上げてみてください。
  165. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 ただいまも申しましたように、リストそのものはここで読み上げるというわけにまいりませんが、送り状について読み上げさせていただきます。
  166. 諫山博

    諫山委員 氏名は結構です。百八名の名前が出ているそうですが、それを一人一人読み上げなくても結構です。その他の部分は読み上げてください。
  167. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 申し上げます。  「精神障害者に対する措置については、日ごろから種々御協力を賜り、感謝申し上げます。  さて、当県警本部においては、地域住民や関係機関の協力を得て県民防犯運動を展開するなど、海洋博に向けての防犯対策を強力に推進中であるが、その一環として、精神障害者等による各種事犯、事故の未然防止を図るため、その対策資料として、去る三月全県下における精神障害者の実態を調査した結果、精神衛生法第二十七条、第二十九条の措置を要すると思われる粗暴癖のある精神障害者を別添のとおり百八名発見したので、早期に適切な措置を講ぜられたく、参考通報します。」ということでございまして、それに一覧表と申しますか、名簿がついておりまして、その名簿には、もちろん内容を読み上げるというわけにまいりませんけれども、氏名と年齢、住所、職業、それから障害の程度とか保護義務者とか備考欄、そういうものがついていたというふうに電話で報告を受けております。
  168. 諫山博

    諫山委員 そうすると、その文書は沖縄海洋博を直接の目的とした文書である、それから精神衛生法に基づく何らかの措置である、このことは間違いありませんか。
  169. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 沖縄海洋博についての防犯対策の一環としての文書であるということは間違いないと思います。それから、文書をお届けした趣旨が、そういう精神障害者の方に対して、精神衛生法の所管部局である県の環境保健部において精神衛生法の精神にのっとった適切な措置がとられることを望んでおるということも事実だと思います。
  170. 諫山博

    諫山委員 精神衛生法には、警察官としてなすことができる幾つかのことが規定されていますが、これは精神衛生法に基づく文書だと理解していいのか、それとも精神衛生法とは関係のない何らかの通達と見ていいのか、どちらでしょう。
  171. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 先生御指摘のように、精神衛生法には二十四条で、警察官が職務執行に当たって、自傷他害のおそれのある精神障害者を発見した場合には、保健所長を通じて「知事に通報しなければならない」という規定がございますが、今回沖縄県警が県庁の環境保健部予防課にお知らせしたのはその二十四条に基づく通報ではなくて、事実上の行為と申しますか、自傷他害のおそれのある精神障害者について、これらの人たちの保護が適切に行われ、それによって事件や事故も防止される必要があるので、精神衛生法所管部局において精神衛生法の精神にのっとって適切な措置があればとっていただけたらいいんじゃないかというふうな趣旨で、事務レベルの参考資料提供という意味でお届けしたというふうに報告を受けております。
  172. 諫山博

    諫山委員 精神衛生法の第二十四条には、いま言われましたように、一定の要件がある場合に、警察官は「通報しなければならない」ということを書いています。その要件というのは、「異常な挙動その他周囲の事情から判断して、精神障害のために自身を傷つけ又は他人に害を及ぼすおそれがあると認められる者」こういう限定づけがあるわけです。そうすると、こういう条項に該当したから法律で通報したというのではなくて、法律の根拠のない単なる事実的なお知らせだというふうに理解していいですか。
  173. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 お知らせした百数名の方の中には、過半数はすでに精神衛生法二十四条の規定に基づいて保健所長に通報した者が含まれておるという報告を受けております。過半数はそういう者でございますが、そういう者を含めて、精神障害者の治療及び保護を担当しておる所管部局としての県の環境保健部の予防課に参考資料としてお知らせしたというふうに聞いております。
  174. 諫山博

    諫山委員 警察官は、私が読み上げたような条項に当たる人については「都道府県知事に通報しなければならない」となっています。しかし、その条項に当たらない人については通報する権限はないはずです。あなたは、事実行為として通報できると理解しているんですか。それともこれは間違った行為だと考えているんですか。
  175. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 精神衛生法の規定に基づく義務的通報といいますか、警察官はどうしても通報しなければならない義務というものは、先生御指摘のように精神衛生法の二十四条に規定されているわけでございます。今回の参考通報と申しますのは、精神障害者であって自傷他害のおそれがあって、二十四条の要件に該当する者について保健所に通報したものが過半数含まれていると申しましたが、これについてはその後警察としては何ら措置する必要はないわけですけれども、念のため参考に所管部局、県庁の本庁の方にお知らせしたということでございます。それからあと半分近くの者については、警察官が判断したところでは直ちに自傷他害のおそれがあるというまで自信はないけれども、そういう可能性がある程度あるという者について、そのままほっておくというわけにもいかないので、所管局である保健部予防課の方にお知らせすれば精神衛生法の精神にのっとった適切な措置がとられるであろうということを期待して、事務レベルの判断で参考資料としてお届けしたというものでございます。
  176. 諫山博

    諫山委員 結論として、沖縄県警のやったことには間違いはないということですか。結論だけで結構です。
  177. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 こういう沖縄県警のやったやり方というものでございますが、これは精神障害者の人権の保護という面では慎重を欠いていたというふうに考えております。もちろん通報先は精神衛生法の所管部局であって、精神障害者の人権保護という点では世の中で最も配慮している機関でございまして、そこに、そこで行われる精神衛生行政というものがよりよく行われるという参考資料としてお送りしたというものでございますから、それ自体が直ちに人権侵害になるということでもないと思うのですけれども、やはり手続上慎重を欠いた点があるのじゃないかというふうに私どもとしては考えております。もちろんほかの県の警察ではこういうことをやったことがありませんし、沖縄県で今回こういう慎重を欠いた行為をしたということについては大変遺憾でありますので、今後そういうことをしないように、警察庁としても沖縄県に対して指導していきたいというふうに考えております。
  178. 諫山博

    諫山委員 私はもっと事態をはっきりする必要があると思うのですが、一部の人については精神衛生法二十四条に基づく通報をした、その他の者についてはそうではないということになりますか。答えてください。
  179. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 先ほども申しましたように、今回県庁の予防課の方に県警から参考通報しましたうちの過半数は過去に……
  180. 諫山博

    諫山委員 そういう説明は要らないから、答えだけ言ってください。
  181. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 参考通報した者の過半数は過去に精神衛生法二十四条に基づいて保健所長に通報した者でありますし、その他の者についてはまだ通報していない者でございます。
  182. 諫山博

    諫山委員 そんなこと聞いてないでしょう。私、ごまかしの答弁はお互いにやめた方がいいと思うのです。今度の通報が二十四条に基づくものであるかどうかを問題にしているのです。
  183. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 二十四条に基づく通報ではないということは先ほども申し上げたとおりでございます。
  184. 諫山博

    諫山委員 そうすると、異常な挙動云々というのはよけいなことであって、すべての人について精神衛生法に基づかない通報だというふうに聞いていいですか。
  185. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 御質問の趣旨がよくわからないのですけれども、再三申し上げておりますように、警察官が日常の業務執行の過程で、自傷他害のおそれがかなりあるという精神障害のおそれのある方を把握しているわけですけれども、それについて衛生行政上適切な措置がとられることが望ましいということで参考通報したということでございます。
  186. 諫山博

    諫山委員 それを別な言葉で言えば、精神衛生法に基づく通報ではないということですか。一言で答えてください。
  187. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 先ほど申しましたように、精神衛生法二十四条に基づく通報ではございません。
  188. 諫山博

    諫山委員 「参考通報」という言葉がしばしば出てきますが、これは全国の警察で使われている言葉ですか。そして、精神衛生法に基づかずにこういうことを知らせるということは、あなたたちはあたりまえだと思っているのですか。
  189. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 これもただいま申し上げましたように、ほかの県の警察では精神障害者についてこういう通報の仕方をしたことはないわけでございまして、沖縄県警についても、今回そういう通報の仕方をしたことについては、それが直ちに人権侵害になるというものでもないと思いますけれども、精神障害者の人権の尊重という点について慎重さを欠いたということは事実だと思いますので、沖縄県警が今後こういうことをしないように指導していきたい。先ほども申し上げたとおりでございます。
  190. 諫山博

    諫山委員 慎重を欠いた、慎重を欠いたと言うと、この間の法務大臣の問題の言葉を思い起こすのですが、要するに沖縄県警は法律に基づかない悪いことをした、こういうことをしてはいけない、これが警察庁の公式見解ですか。
  191. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 ただいまも申しましたように、悪いことをしたという表現が適当かどうかよくわかりませんが、繰り返しになって恐縮でございますが、こういうこと自体が直ちに精神障害者の人権侵害ということになるとは言えないと思いますけれども、警察としては精神障害者の人権尊重ということについては慎重の上にも慎重でなければいけないというふうに考えておりますし、かねてから各県警に対してもそういう指導をしておりますので、そういう過去において指導をしてきた考え方から言うと、どうも慎重を欠いておる、好ましくないと考えますので、今後そういうことはやらせないようにしたい、こういうことでございます。
  192. 諫山博

    諫山委員 そこで法務省の人権擁護局長に質問します。  大体問題ははっきりしたと思います。慎重を欠いた、好ましくない、しかしなかなか悪いという表現は使われないようです。そこで、人権擁護に責任を負う人権擁護局長として、精神衛生法に基づかずに精神障害者の名前を、お役所であれ他のところに通知する、そして何らかの措置を求める、こういう行為人権擁護局の立場から見れば是認できますか、それともいけないことですか。
  193. 萩原直三

    ○萩原政府委員 お答えいたします。  一般論としての御質問の御趣旨のようでございますので、私どもも一般論としてお答えすべきかとも思いますけれども、問題は本件に関することのようでございますし、私どもの調査したところではただいま警察庁からお話のございましたところとちょっと達うことを聞いておりますので、われわれの調査の段階を御報告申し上げまして、その点からお答えをさせていただきたいと存じます。  私どもは、先ほどお話しの新聞等によりまして調査する必要を認めまして、那覇地方法務局がただいま調査中なのでございます。この那覇地方法務局では、沖縄県の環境保健部予防課の係員と沖縄県警本部の係員とにつきまして事情を聴取した段階でございますが、それによりますと、ただいま警察庁からお話がございましたように、「精神障害者の発見通報について」という文書を持参した。その内容は、ただいま御説明のような詳しい事情は伺っておりませんけれども、大体そういう内容の趣旨であった。それに対しまして県の予防課では、警察官からの通報は精神衛生法第二十四条により保健所長を経て知事に対してなされるべきである、県予防課では受理すべき法的根拠はないとして、受理せず返還した。もっともこの点につきましては、県警の係員は、新聞報道等があったので自発的に撤回したものであるというふうに述べておりまして、このリストアップした文書自体は県警に戻されている。この程度の事実関係がわかった段階でございます。  それで、ただいまの御質問に関連する点でございますが、県の予防課の係員は、ただいま御説明いたしましたとおり精神衛生法上の通報と解しまして、県が直接通報を受ける法的根拠がないので通報を受理しなかった、かように述べております。他方、県の警察の係員は、繰り返すようでございますが、精神衛生法関係の事務を所掌する行政機関へ参考通報したものである、こういうふうに述べておりまして、この書面を持参した意味自体についてはっきりしないところがございます。われわれとしましてはできればその点をまず明らかにするように努力したいと思っております。でありますから、ただいまの御質問にはこの事実関係を離れてお答えするのは適当でないと思いますので、できればこの事実調査をした上でわれわれの考え方を明らかにしたい、かように存じております。
  194. 諫山博

    諫山委員 人権擁護局の方は調査がまだほとんど進んでいないようです。もう少し事実を調査して明確にしてもらいたいわけです。  もう一遍警察庁に聞きます。警察官は国家公務員ですから、いわゆる守秘義務がありますね。田中金脈問題で盛んに政府が振り回した守秘義務、これは警察官にも適用されるわけです。そうして、法律に基づかずにだれそれが精神障害者だということを外部に漏らすことは、いわゆる守秘義務に違反するはずなんです。あなたたちはそう考えていませんか。
  195. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 もし警察官が、職務執行の過程で把握しただれそれが精神障害者ということを、たとえば新聞記者の方だとかあるいは全くその精神衛生行政と関係のない一般の方だとか、そういう方にお漏らしすれば、これは守秘義務に反すると思います。今回の行為は、精神衛生法に基づいてもともと精神障害者の実態を把握することを業務としている行政機関に対してお知らせした行為でございまして、直ちに守秘義務に反するということではないのではないかというふうに考えております。
  196. 諫山博

    諫山委員 警察官が通報する場合には法律的な根拠が要るわけです。その法律的な根拠というのが精神衛生法の二十四条です。そしてここには厳格な条件が付せられております。つまり、こういう条件に当たる者については通報しなければならないけれども、こういう条件に当たらない者については、勝手に外部にこれを漏らすことはいわゆる政府の好きな守秘義務に反するのだというのが憲法のたてまえだし、法律の趣旨じゃないですか。警察官が職務上知り得たことを、たとえば相手がお役所であっても、法律上の根拠に基づかずに知らせることができる何か理由がありますか。あれば、こういう法律に基づいてそれは知らしていいのだということを御説明願いたいと思います。
  197. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 警察官が通常の職務執行の過程で、だれそれが精神障害者であって、自傷他害のおそれがあるということを把握いたしまして、それをたとえば通産省とか、同じ役所でも全く関係のないところにお知らせすれば、これは守秘義務に反すると思うのですけれども、今回お知らせした相手は、精神衛生法の規定に基づいて精神障害者の治療と保護に当たっている役所でございまして、その役所は精神障害者の実態を把握しないと精神衛生法の精神に基づく適切な治療、保護ができない役所でございますので、役所間の協力関係という点で、こういうことをお知らせするのがむしろ精神衛生法の精神にのっとっておるのではないかというふうに考えて、沖縄県警では参考通報したというふうに考えております。
  198. 諫山博

    諫山委員 私は、そういう答弁がなされるならやはり精神障害者に対する考え方を根本的に検討し直さなければならないと思っております。通報というのは一つの法律上の行為であって、通報がなされれば、たとえば二十七条に基づいて、「都道府県知事は、通報のあつた者について調査の上必要があると認めるときは、精神衛生鑑定医をして診察をさせなければならない。」という義務が出てくるのですよ。そうすると、十一日付の知らせというのは都道府県知事にこういう義務を負わせるような知らせだったのですか、それともそういう義務を発生させない単なる事実上のお知らせなんですか。そこらあたりが不明確である限り、慎重を欠いたとかそういうことを言ってみたところで、将来の事態の予防にはならないと思うのです。どうですか。
  199. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 精神衛生法の二十七条は、先生も御承知のように、「都道府県知事は、前六条の規定による申請、通報又は届出のあった者について調査の上必要があると認めるときは、精神衛生鑑定医をして診察をさせなければならない。」と、こう書いてありまして、通報があれば直ちに診察するというものではございませんで、診察の必要があるかどうかということを調査した上で、診察の必要があるという場合だけ診察するわけでございまして、その調査のきっかけになるということはあると思いますけれども、通報したからこれが直ちに知事がその人を診察しなければならないというふうに、イコールになるというものではないと思うのです。
  200. 諫山博

    諫山委員 私が条文を読み上げましたから、そんなことはわかり切っております。つまり、二十七条の発動の根拠になるような通報だったのかと聞いているのです。
  201. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 二十七条の発動の根拠になるような通報ではないと思います。と言いますのは、先生もお読み上げになりましたように、「前六条の規定による申請、通報又は届出」と書いてございまして、先ほどから再三申し上げておりますように、このお知らせは二十四条に基づく通報ではないと申し上げておりますので、二十七条の発動の根拠になる通報ではございません。
  202. 諫山博

    諫山委員 人権擁護局の調査では幾らかそこは違うようです。しかしここではっきりしておかなければならないのは、あなたたちは法律上の根拠に基づく通報ではないというふうに言っております。しかし通報を受けた県の側ではそうは理解しなかったわけです。これは法律上の通報のようだ、しかし手続を踏んでない、様式も違う、また百八人も一緒に通報するというようなことは法律の趣旨に反するということで、いろいろ検討した結果、突っ返すという措置をとっているわけですよ。あなたたちは、あなたはいまは法律に基づく通報ではなかったと言っているけれども、通報を受けた現地では、法律以外に通報はあり得ないわけですから、法律上の通報にしては余りにもひど過ぎるということで問題にした。こういう経過になっているはずですが、人権擁護局はそういう理解ではないのですか。
  203. 萩原直三

    ○萩原政府委員 いま御指摘の点が問題の一つだろうと思いまして、その点を調査の対象にいたします。
  204. 諫山博

    諫山委員 それじゃしかし人権擁護にならないじゃないですか。もうこれだけ問題が表面化しているのに、いま人権侵害に当たるかどうか調査いたしますというようなことで間に合いますか。私はこういう場合は、きのう私が要望したのは、直ちに地元の法務局に電話するなり文書を取り寄せてもらうなりして、実態を調査してもらいたいということを要望したわけです。  法務大臣、ちょっとあなたに質問します……。
  205. 萩原直三

    ○萩原政府委員 ちょっとその前にお答えします。  私どもの調査課長が、ただいまのお話しのとおり、意を受けまして直ちに電話をいたしまして、できるだけ調査するように指示したのでございます。那覇地方法務局の人権擁護課でも早速その調べに当たったのでございますけれども、ただ、残念ながら県の予防課の責任者であります課長やその補佐の方が御不在でありまして、きのう聞くことができましたのは予防課の仲本主事という方だけだったのでございます。ただいまの点もこちらの係官が尋ねたようでございますけれども、自分はその点はわからないというお答えだったのでございまして、この点は責任者である課長なりあるいはこの衝に実際に当たった方に今後当たって調べようと思います。
  206. 諫山博

    諫山委員 法務大臣に質問します。  私はきのう国会図書館から、昭和四年一月二十五日付の衆議院議事速記録というのを取り寄せました。御大典のときに、当時の内務省がいわゆる予防検束でたくさんの人を拘禁した。この問題を浅原健三議員が追及しています。答えているのは内務大臣の望月圭介。浅原健三氏の追及によりますと、「御大典前一箇月頃カラ猛烈ナル、御大典警衛二名ヲ籍ッテ、全国二亙ッテ検束ノ行ハレタコトヲ知ラル、筈デアル、而モソレガ短キハ十五日、長キハ三十五日、四十日ニ亙ッテ居ル」こういう書き出しのもとに、御大典を理由にした当時の予防検束を厳しく追及しているわけです。そして極端な乱用の可能性を持っている治安警察法、違警罪即決例あるいは警察官処罰令あるいは行政執行法などを直ちに廃止しろと昭和四年に追及しています。私はなかなかの見識だと思います。昔、行政執行法などによって、精神病者という名目で左翼的な活動家が予防検束を受けた。これはもう歴史的な事実です。また、精神病者であっても何も拘束しなければならない理由がないのに不当に拘束する、こういうことが繰り返されております。映画「橋のない川」では、未解放部落の人たちを、天皇がやってくるというので何日間か勝手につかまえてほうり込むというようなことが映画の中で描かれています。精神病というようなことで勝手に理由をつけて人を拘束するというようなことがきわめて危険だ、人権上最も注意しなければならない問題だということは、現在の刑法改正案の中の保安処分をめぐっていろいろ論争されているとおりです。  いま聞かれたような事実、警察は慎重を欠いたというような表現をしておりますが、人権擁護に責任を負うべき法務大臣はどう考えますか、このたびの出来事を。
  207. 稻葉修

    稻葉国務大臣 よく事態を究明して、人権擁護上遺憾なきを期したいと考えております。
  208. 諫山博

    諫山委員 どうも余り本気に考えているように聞こえないのですがね。事は刑法改悪の先取りだと思うのです。刑法改悪では、第十五章に「保安処分」というのがあって、そこでは治療処分、禁絶処分というようなことが規定されることになっています。そしてここでも、たとえば精神障害者というようなことを理由にして治療処分、禁絶処分が行われるというようなことになれば、人権侵害上ゆゆしい問題ではないかということで、日弁連なんかも刑法改正案の中のこの条項に最も強く反対をしています。私は、刑法改正がまだ実現してもいないのに、まさにこれを先取りしたようなことが沖縄県で行われている、このことをもっと法務大臣としては深刻に受けとめなければならないと思うのですが、どうですか。
  209. 稻葉修

    稻葉国務大臣 深刻に受けとめているから、人権擁護局を通じ、向こうの沖縄のわれわれの部下の調査をも徴して、重大な問題だからこれに誤りなき対処をしたい、こう申しておるのであって、非常に熱心であります。
  210. 諫山博

    諫山委員 刑事局長に質問します。  刑法改悪の中の「保安処分」で、この治療処分というのが百二条に出てくるわけですが、ここで予想している治療処分というのは、たとえばこのたび沖縄県警がやろうとしたこと、精神障害者の名前を県の予防課に知らして、そしてできることなら強制的に病院に入れるというような措置を要望する、こういうことにつながるのではないかというのが反対論者の批判です。この改悪案ではその点はどういうことを予想しているのでしょうか。もっと読み上げますと、「精神の障害により、第一六条第一項に規定する能力のない者又はその能力の著しく低い者が、禁固以上の刑にあたる行為をした場合において、治療及び看護を加えなければ将来再び禁固以上の刑にあたる行為をするおそれがあり、保安上必要があると認められるときは、治療処分に付する旨の言渡をすることができる。」まさにここに書かれているようなことを沖縄県警が法律上の根拠なしにやろうとした。私はここにこのたびの本質的な問題があると理解しているのですが、刑事局長どうですか。
  211. 安原美穂

    安原政府委員 いま諫山委員お読み上げのとおり、刑法——われわれは改正と考えておりますが、改正刑法草案の中で考えておりますいわゆる保安処分としての治療処分は、いまお読み上げのとおりきわめて厳格な条件でございまして、仮に、先ほど問題になりましたような、まだ精神衛生法の適用の対象にならないような者であるならばまさにこのような治療処分の対象にならないことは一目瞭然でございまして、精神の障害がある者で責任能力のない者あるいは著しく低い者で、しかもわが司法裁判所において禁固以上の刑に当たる行為をしたという認定した場合において、しかも治療、看護を加えなければ将来再び同じように禁固以上の刑に当たる行為をするおそれがある、そういう意味で保安上必要があるというような、きわめて二重、三重のしぼりのかかった処分でございまして、簡単に、精神障害の疑いがあるということでこのような処分にならないことは、諫山委員よく御理解いただけることと存じます。またそのつもりでございまして、一般のいわゆる改悪と称して反対される方の御心配は、少なくともこの条文を見る限りは杞憂ではないかというふうに考えております。
  212. 諫山博

    諫山委員 問題は乱用なんです。精神衛生法で全く禁止されているようなことが現に行われている。戦前も、私がいま昭和四年の議事録を読み上げましたように、御大典というようなことで、何か大変なことが起こるんじゃなかろうかというので精神障害者とかあるいは左翼的な思想を持っている人を予防検束する、こういうことがしばしば行われてきているわけです。そしてまさにここに刑法改悪が予想しているようなことを法律上の根拠なしに行っているというところに問題があるわけです。ですから、法律が厳格に適用されればそういう心配はないんじゃないかという御説明だと思いますが、この種の規定というのはしばしば乱用されるものだ。しばしば乱用されたし、つい今月の十一日にも乱用されたということを厳格に受けとめてこの法案に臨んでもらいたいというのが私の希望です。あなたはこれほど厳格にしぼりをかけているから心配は要りませんと言うけれども、過去においてこの種の法律は乱用されてきた、現在においても乱用されている、この点をどうするのかということです。
  213. 安原美穂

    安原政府委員 確かに法律はひとり歩きするものでございますから、法律自体の規定を厳格にしておくということが必要でありますとともに、法律の規定の、何といいますか、人権保障性ということにつきましても、過去においてそのような法律がどのように使われたかという実績を踏まえて将来の立法を考えるべきであることも御指摘のとおりでございますので、今後とも御指摘のような観点から、十分に人権保障に欠くることなきよう、あらゆる刑罰法規については考えていきたい、かように思います。
  214. 諫山博

    諫山委員 そこで私は最後に警察に要望したいことは、精神衛生法第二十四条に基づかない限り、だれそれは精神病者で、だれそれは危険な人ですよということを、たとえ県に対してでも知らせることはできないはずだ、法律に基づかないこういう通報をすれば、警察官自身が問題になるんだという点をもっと厳格に検討していただきたい。そうしないと、遺憾であると言ってみたところで、同じようなことが再び起こらないのかどうか、私は何の保証もないと思います。なぜなら、私の手元に井上正吾編の「精神障害」という本があります。この中に次のような記載があるのです。これも調べてみてください。「大阪万国博での精神障害者を入場させないようにとの衛生部長通達、昭和四十六年の三重県での天皇、皇后、行幸啓でのアルコール中毒患者の予防拘禁に似た措置入院がある。」これについては詳しくは花井進著「天皇行幸に伴う三重県下のいわゆるアルコール中毒者入院の実態」という論文に出ているということが書いてあるんですよ。過去においてやはり似たようなことが、万博のときに起こっている、あるいは天皇が来られるときに起こっているというようなことを考えると、沖縄県だけで偶発した出来事ではないんじゃないか。こういうことを根絶するためには、この問題について警察がもっと厳正な態度をする、そしてもっと厳しい指導をするということが必要だということを私は言いたいわけです。どうでしょう。
  215. 鈴木善晴

    ○鈴木説明員 先ほども申し上げましたように、今回の沖縄県警のとった措置は、それ自体直ちに人権侵害になるというものではないと思いますけれども、精神障害者の人権尊重ということについては幾らしても、し過ぎるということはないということで私ども常日ごろ県警を指導してきておるわけでございますので、こういう考え方についてなお一層各県警に徹底するように努力していきたいと考えております。
  216. 諫山博

    諫山委員 人権擁護局長に質問します。  警察庁は、慎重を欠いたけれども、それ自体人権を侵害する行為とは思わないというふうに言っているようです。しかし、それ自体人権を侵害するからこそマスコミでもこれだけ問題になっているわけです。だからこそ私は人権擁護局長にも調査を求めているのです。ぜひこの点は正確な事実を調べていただいて——警察は人権侵害ではないと言っているけれども、皇太子が沖縄にやってくる、そうすると治安が大切だ、だから精神病者には気をつけておきなさい、できるなら診断をして入院させなさいよ、少なくとも皇太子が帰るまでは注意しておきなさいよという趣旨の申し立てに違いないのです。その点をぜひ、警察だけの情報に頼らずに、人権擁護局として独自に事態を調査して、人権侵害だと認められる点があれば厳正な措置をとるということを要望したいと思いますがいかがでしょうか。
  217. 萩原直三

    ○萩原政府委員 仰せのとおり、われわれも独自の立場から、人権擁護のためにできる限りの調査を尽くしたいと存じております。
  218. 諫山博

    諫山委員 終わります。
  219. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 沖本君。
  220. 沖本泰幸

    ○沖本委員 私は、麻薬関係についてそれぞれの御担当のところにお伺いしたいと思います。  きのうはタイからヘロインを持ち込んだということで逮捕されたことが報道されておりましたけれども、この際ですから、覚せい剤あるいは大麻、LSD、ヘロイン——聞きますとシンナーの関係は厚生省の方では麻薬の関係ではないということになっておりますが、その点については警察庁の方からお答えをいただきたいと思います。  まず覚せい剤につきまして、韓国から大量に入ってきたとか、あるいはその日本へ入ってくる経路、またこの間赤坂で暴発をやった暴力団で覚せい剤を持っておったというのが北海道で挙がった、こういうようなことで、それぞれの立場で取り締まりの万全は期していらっしゃるとは思うのですけれども、一体こういうふうな関係のものが日本でどの程度密輸され、それが末端に配られて、それを使う者にどういう影響を与えておるか、あるいはだんだん縮小されていっておるのか。いっときはベトナム戦争でアメリカの兵隊が相当量大麻等をアメリカに持ち帰って、こういう関係ではアメリカの警察官に至るまで常習者がふえてきておるということで、アメリカ自体大きな問題になっておるということも聞いておりますけれども、では入手先の非常に近い日本で、麻薬関係のものに冒されている人たちが一体どの程度おるか、その人たちがいまどういう状況にあるのか、それがだんだんふえてきておるのかどうかという点について、それぞれのお立場から御説明いただきたいと思います。
  221. 石居昭夫

    ○石居説明員 お答えいたします。  先ほど先生の御質問の第一番目にございました最近の麻薬とか覚せい剤につきましての事犯の現状でございますけれども、私ども、昭和四十九年集計いたしました統計から御説明申し上げますと、昭和四十九年度にわが国のすべての取り締まり機関が送致いたしました麻薬、覚せい剤の事犯の総数は一万一千百六十四件、約一万一千二百件に上っております。送致いたしました人員は七千四百三名でございます。  この内訳を申し上げますと、麻薬取締法の違反が四百三十六件、人員にいたしまして三百九十三名ございます。それからあへん法の違反でございますが、これは百七十六件で、人員にいたしまして百七十一名。大麻取締法の違反は七百八十一件で、人員にいたしまして七百二十名というように上っております。また、覚せい剤の関係でございますが、昨年九千七百七十一件違反事犯がございまして、人員にいたしまして六千百十九名となっております。  この量的な問題でございますけれども、四十九年度に押収いたしましたものを物別に見てみますと、ヘロインで大体二キロ九百七十六グラムというものが押収されております。LSDは約二千五百錠というものがございます。アヘンが約九百グラム、大麻にいたしまして約八十八キログラム、それから覚せい剤は粉末で約二十五キログラム、覚せい剤の原料が約八十五キログラムというふうな量に上っております。  これを法令別に見てみますと、特に麻薬関係ですとヘロインの事犯が最も多く、特に沖縄県で多発しております。しかしながら昨年、四十九年度におきまして見ますと、やはり関東地域におけるヘロインの事犯が少しふえております。それからあへん法関係は、従来どおり大部分はケシの単純栽培事犯でございます。それから大麻取締法の関係は、昭和四十四年ごろから四十五年にかけましてかなり急増したものでございますけれども、その後強力な取り締まりによりまして、人員にいたしまして約七百名台で推移いたしてきております。それから覚せい剤取締法関係でございますけれども、先生御承知のとおり四十五年から四十八年までかなり覚せい剤の事犯が急増してまいりました。しかしながら、昭和四十八年に覚せい剤取締法の改正で罰則強化等がございまして、四十九年にはその増加が減りまして、四十八年と四十九年を比べてみますと約三割減と事犯が減っております。これらのうち特に覚せい剤につきましては、最近非常に密売等がございまして、そのほとんどが暴力団関係の介在する密売組織によっているのではないかというふうにわれわれは推定いたしているわけでございます。  それから密輸の経路でございますけれども、四十九年度の事犯から見ますと、ヘロインは大体タイ及び香港からのルートが多いようでございます。それから大麻はタイとか韓国、アメリカ、インド等世界各地、約二十カ国くらいのところから入ってきております。それから覚せい剤につきましては、韓国と香港からのルートが多いようでございます。また、その原料につきましても香港あるいは台湾というところからのルートもあるようでございます。  それから、先生の御質問の第二番目の麻薬中毒者の現状でございます。麻薬中毒者に関しましては、昭和三十八年に麻薬取締法の改正に伴いまして、麻薬中毒者に対します届け出とかあるいは通報制度、それから措置入院等が確立されておりまして、現在この制度によってわれわれ運用しているわけでございまして、中毒者は麻薬事犯の減少に伴いましてだんだんと減ってきております。この麻薬中毒者の中には、がん等のいわゆる末期的疾病の治療に使用されておるものがございまして、この場合にも中毒になるわけでございますけれども、これは医師の監督のもとに置かれておりますので、麻薬中毒者対策上特に問題はございません。いわゆる不正使用によります麻薬中毒者でございますが、昭和四十一年以後は減少してきておりまして、四十九年中に麻薬取締法の規定によりまして届け出あるいは通報された麻薬の中毒者は六十名ございます。そのうちヘロインの中毒者が四十一名ございまして、医療麻薬中毒者は十九名でございます。四十一名のヘロイン中毒者のうちで四十名は沖縄県で届け出、通報されたものでございまして、このうちから麻薬取締法によります措置入院をされた者は十四名でございます。  以上でございます。
  222. 沖本泰幸

    ○沖本委員 警察庁の方のこの関係に、ついて。
  223. 四方修

    ○四方説明員 数字的な御説明は、ただいま厚生省の課長説明されました中に警察の取り締まり結果も含まれておりますので、私の方から格別いまの御説明以外につけ加えることはございません。
  224. 沖本泰幸

    ○沖本委員 先ほどのお話の中にも出ましたけれども、覚せい剤の密売に関して暴力団関係の資金源になっているんじゃないかということなんですが、これはしばしば報道されるところではあるわけですけれども、そういう実態があればお教えいただきたいと思いますし、取り締まり方針、それもお答え願いたいと思います。
  225. 四方修

    ○四方説明員 昨年、昭和四十九年に年間で暴力団関係者として警察の方で把握しておりますのは、団体数で二千六百五十団体、約十一万人の者を暴力団として警察の方で把握いたしておりますけれども、この中で麻薬、覚せい剤の密売を主たる資金源といたしております暴力団の数は、人数にいたしまして約三千九百人で、いま申しました十一万人の大体三・五%に当たる暴力団が麻薬、覚せい剤を主たる資金源にいたしておる、こういうことでございます。  なお、昨年中におきます麻薬、覚せい剤関係の暴力団の検挙状況は、検挙件数にいたしまして六千四百六十二件、人員にいたしまして三千七百九十六人を検挙いたしておりますが、この検挙人員は全暴力団の検挙人員の七・一%に当たっております。なお、いま申しました三千七百九十六名のうち麻薬関係が八十一人、覚せい剤関係が三千七百十五人ということでございまして、御案内のとおり、最近では麻薬、覚せい剤のうち、特に暴力団は覚せい剤の方に非常に力を入れている、こういうことでございます。  取り締まりにつきましては、すでに御案内だと思いますけれども、警察といたしましては暴力団に対する取り締まりは、麻薬、覚せい剤のみならず、すべての暴力団につきまして全力を挙げて取り締まりをやっておりますので、われわれの方の麻薬取り締まりあるいは覚せい剤取り締まりを本来の暴力団取り締まりと並行いたしまして、今後さらに力を入れていく、このような方針でございます。
  226. 沖本泰幸

    ○沖本委員 ほとんど海外から密輸されてくることが多いわけで、韓国方面だと日本に入ってくる船の船員が持ってきたり、そのほかの外国も同じようなあり方があるわけですけれども、最近は飛行機の利用が多いわけですから、飛行機を利用する入手経路もあるわけですね。たとえば飛行機の場合ですと出入りの人が非常に多くなってきておるので、税関の方ではほとんど申告制をとって、中で抽出して調べるという形が多いわけですけれども、そういう現在の税関のいわゆる波打ち際で取り締まるという関係について、現状としてはどういう取り締まりであり、検挙数はどの程度出ておるのか、またその網をくぐるのはどの程度くぐってくるのか、そういう関係をお教えいただきたいと思います。
  227. 海田久義

    ○海田説明員 お答いたします。  ただいま御指摘のとおり、大体麻薬類が搬入されますケースは空港から携帯品ということで入ってくるわけでございますが、現在私ども羽田におきましては、旅具検査ブースを、課税物件があるかないかということによって区別いたしまして、赤と緑のランプをつけまして、そこで緑の場合は課税物件がない、赤の場合は課税物件があるということで、旅客が自主的に選択いたしまして申告していただいておるわけでございます。それで税関といたしましてはその場合抽出検査を行っております。これをとりました理由は、年々外国人旅客の入国旅客数がふえておりまして、たとえば羽田の場合一日最低六千人、多いときは一万人という数に達しておるわけでございまして、そこでやはり迅速通関ということが言われておりまして、そういった要請からこういった措置をとっておるわけでございます。  しかし、麻薬にかかります事案は、その手段、方法が非常に巧妙でございまして、その摘発はなかなか困難な面もございます。しかし、税関といたしましては、麻薬が社会に著しい害悪を及ぼすということを考えまして、こういった悪質事犯の取り締まりを重点的に考えまして、いろいろな情報のある者あるいは挙動不審の者に対しては、申告の有無にかかわりなく厳重な検査を実施することによりましてこれを検挙し、防遏を図っておるところでございます。これらの事犯に対しましては、今後とも取り締まりの重点目標といたしまして、やはり情報収集活動の強化、あるいは機動力、取り締まり機器の充実を図りますとともに、警察その他と連携を密にしてその取り締まりに万全を期したいと思っております。  そこで、昨年、昭和四十九年にこちらの税関の方で摘発いたしました麻薬類の件数は百件に及びまして、そのうち最大のものは韓国からの覚せい剤の密輸入の案件でございまして、これが総計十キロに及んでおります。そのほかタイ、インド、そういったところからアヘン、ヘロイン、そういったものが持ち込まれておりまして、合計百件の摘発件数、これを量的に申し上げますと七十五キロに及ぶわけでございます。  以上でございます。
  228. 沖本泰幸

    ○沖本委員 要注意人物であるとか、通報を相手国から受けるような人は、税関の方で写真なりあるいはこういう人物だというふうなリストをお用いだと思うのです。けれども、そういう者に限ったわけではなくて、普通人として入ってくる人の中にあったりするわけですから、網の目をくぐろうと思えばくぐれないことはないということなんで、税関として一〇〇%ということは期せないわけですけれども、どの程度の徹底ができておるのかどうか、その辺はどうなんでしょうか。
  229. 海田久義

    ○海田説明員 私ども、網の目を逃れた件数がどの程度かということは資料として持っておりませんが、私どもといたしましては、先ほど申し上げましたように、できる限り水際でこういったものについては防遏しようということで、できる限りの措置を講じてやっておるわけでございます。
  230. 沖本泰幸

    ○沖本委員 相当練達の方が、この人が怪しいとか、これは金を体につけているんじゃないだろうかとか、あるいは携行品の中に怪しい物があるんじゃないだろうかということを感覚的に見て、そうして摘発をすると思うのですが、現実に、羽田に限らず、主要港湾には外国船も入ってくるわけですから、麻薬に限らず、そのほかの物も密輸で入ってくるわけですが、きょうとりわけて集中してお伺いしておることは麻薬関係ということでございまして、そのいわゆる練達の方々の的中率はどの程度になるのですか。
  231. 海田久義

    ○海田説明員 私ども税関のそういった取り締まりに当たっております職員は、海と空、それぞれ約二千人ほどおるわけでございますが、その中には十年とか十五年のベテランもおりまして、やはり旅具検査に当たりまして相手方の挙動が怪しいとにらめば大体の人が持っておるということでございまして、六割から七割は大体的中しておるのではなかろうかと思います。
  232. 沖本泰幸

    ○沖本委員 麻薬課長に伺いますけれども、いわゆる覚せい剤は、限定して言うわけにはいかぬとは思いますけれども、ある時期には芸能関係の人の中で常習するのが流行しておったとか、これを使用する人のタイプとか、いろいろあると思うのですね。たとえばLSDだとヒッピーだった人たちが使っておったとかいうことが考えられるわけですけれども、主としてこの覚せい剤なりLSDを使っている範囲、六本木なら六本木の深夜バー等で大麻を吸っておったとか、LSDとかいうものが使われておるとか、風俗、習慣なり、いろんな流行によってこういうものが同じような形で流れていくということが考えられるわけですけれども、そういうふうなものの変遷、現状としては、それぞれの禁止されておる薬物というものを主に使用している階層と言っていいのですか、部類の人たちはどういうところにあるわけでしょうか。、
  233. 石居昭夫

    ○石居説明員 四十九年度におきましての送致者の職業という観点から見てみますと、やはり麻薬取締法関係違反ですと比較的風俗営業関係の方、あるいは軍属とか軍人というのが多いようでございます、それからあへん法関係では、先ほど御説明申し上げましたように、これは不正栽培の関係が多いものですから、やはり農業関係と申しますか、そういう点の不正栽培が多いようでございます。それから覚せい剤に関しましては、これは各階層に分かれておりまして、特にどれというふうなことはないわけでございますけれども、最も多いようなのはやはり風俗営業関係あるいは飲食関係というふうな職業になっております。なお、大麻に関しましては、最近の傾向は、いわゆる年齢層で言いますと、二十代というか青少年のところに多いようでございます。さらに、従来は基地周辺というのが比較的多かったように聞いておりますけれども、最近はやはりそういう繁華街の方に移ってきたというふうなことも言えるのではないかと思っております。
  234. 沖本泰幸

    ○沖本委員 そこで、このままだんだん使用範囲が狭まっていくとか、限定されたところで使用されておって流行の兆しはないとかいうふうに変わってくれば心配ないわけですけれども、普通健全な生活をしている青少年の中に流行的になっていくとか、そしてそれは爆発的に流行するというふうな傾向のものでもあるわけですし、若い人たちはともすればこういうものに取りつかれやすい、好奇心が強いわけですから。そういう面についての実態なり、これからの取り締まり方針なりという点についてお伺いしてみたいと思います。
  235. 石居昭夫

    ○石居説明員 青少年関係におきましては大麻関係というのが比較的多いわけでございます。大麻そのものにつきましては、野生大麻が比較的ありまして、そちらの方面につきましてはすでにそれは予算化されておりまして、野生大麻の撲滅ということで、特に北海道、青森が多いわけでございますけれども、毎年それを抜いて除去してきております。  それから、そういう覚せい剤等、大麻を含めましての青少年の利用でございますけれども、今後ともそういう繁華街等、私どもの方では地区の取締官事務所がございまして、そちらの方を動員いたしまして、かなり力を入れてその事犯の検挙等に力を注いでおります。また、毎年麻薬等のいわゆる啓蒙普及と申しますか、一部では最近主婦というようなものにも使われているというふうな話もありますし、私も確認はしておりませんけれども、そういう面におきましても、今後一般市民に対します啓蒙普及というものも大切ではないかということで、これも毎年宣伝ビラ等もつくりまして、あるいは大会を開きましてそういう啓蒙普及を図ってきてまいりまして、今後ともそういう方面に十分な力を注いでいきたいというふうに考えております。
  236. 四方修

    ○四方説明員 警察の方で把握いたしております実態から考えますと、麻薬関係につきましては、外国旅行の帰りに持ち帰る、あるいはまた米軍人が入手してきた麻薬が売られるという場合が多いわけですけれども、いずれにしましても、麻薬が使われる場所というのは大体基地周辺あるいは港湾周辺等の暴力団関係者等が多いわけでございます。覚せい剤につきましては、これはもうほとんどと言っていいほど暴力団員、または暴力団の周辺にいるトルコ嬢とか売春婦、そういう関係者が圧倒的に多いわけでございますので、取り締まりの方針といたしましてはやはり暴力団に対する取り締まりが最重点で、これがもう取り締まりのほとんどを占めるというふうに御理解いただいてもよかろうと思います。あとは、いま申しましたように、物が入ってくるルートをできるだけ押さえるという意味で、基地周辺及び港あるいは空港周辺で、できる限りそういう情報が早くキャッチできるような体制を整えていく、こういうことになろうかと思います。
  237. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これは蛇足的になると思うのですが、こういうものの伝播力、使用範囲というものは、われわれが知る限りではアメリカの方が大きいように聞いておるわけですけれども、アメリカのこういう実態がどの程度なのか、あるいはそういうものについての情報の交換なり現状についての交換なり、連絡というようなものがお互いに行われておるのかどうかという点についてお伺いしてみたいと思います。
  238. 石居昭夫

    ○石居説明員 特にアメリカ等におきましては、確かに麻薬等非常に国内的な問題にもなっておりまして、そういう点で特にアメリカからのものとして流れるのが非常に大きいのはLSDでございます。LSD関係は日本ではそれほどの流行はございませんけれども、昨年の事犯を見てみますと関東地区等が特に少し多いようでございまして、そういう点からも、LSDがつくられておるのは大体アメリカであろうというような推定もありますし、アメリカのいわゆるドラッグ・エンフォースメント・アドミニストレーションと申しますか、略しましてDEAと申しますが、DEAとも連絡をとりまして、できるだけ情報の交換を行ってきております。
  239. 沖本泰幸

    ○沖本委員 いま主として取り締まりについていろいろお伺いしたわけですけれども、ことしは国際婦人年である。先ほどのお話にも、主婦の中にも使用する人もあるというお話で、案外こういうものは知らない間にずっと横流れに流れていって流行していくという傾向の強いものですが、われわれ一般市民が知る範囲は新聞、ラジオ、特にテレビ等で、使い方とか、どういう階層の中で使われているとかいうことがドラマの中に出てきたり、アメリカ映画の中に出てきたりしてそれがわかるわけですけれども、そういうことに刺激されて使う人がふえる、あるいは好奇心を持つということが比較的強いわけですね。それで思わぬうちに冒されてしまうということになるわけです。ただ単なる暴力団の範囲の中だけでそういうものが使われておって、暴力団の取り締まりを徹底していけばそれが縮小されていくということにも限らないと思われるわけです。シンナーについては相当厳しい売買についての取り締まりが行われたので減少していったわけですけれども、まだ成人に至らない中学生あたりがこれに冒されて、それで人生を無為に過ごすということの影響力というようなことを考えると、これは軽々しく考えられてそこらへ置いておくような問題ではないということが考えられるわけです。  ですから、やはり取り締まりの反面で相当PRしていって、これに冒されるというものはどれほど大きいかということとか、そういうことの内容、あるいはそれによって起きた事件等の残酷さとか、思わぬうちに自殺を行ってしまうとか、大体は皆知ってはおりますけれども、そういうものについていろいろな催しの中にこういうものを取り上げていくとか、いろいろな中で十分宣伝していただいて効果を上げていく。そしてそれを使わない、興味をなくしていくという方向に対して十分な働きかけをしてもらった方が大いに効果が上がっていくし、買う者がいなければ売れなくなるわけで、使う者がいなければ持ってきてもしようがないということになるわけですから、その方に大きな力を注いでいただきたいと考えておるわけですけれども、これからそういうことに対するPRの方法なり、あるいはそういう内容のものを計画をしていらっしゃるのかどうか、これからお考えになるのかどうか、その辺、厚生省と警察庁からお伺いしてみたいと思います。
  240. 石居昭夫

    ○石居説明員 先生のおっしゃるPR、いわゆる一般に対するPRという面でございますが、先ほども私少し触れましたように、従来からかなりやっているわけでございますけれども、さらに先生のおっしゃる面も十分取り入れまして、今後あらゆる面で、たとえばTVとかあるいはマスコミも利用いたしまして、できるだけ今後やっていきたいというふうに考えております。その点につきましては、今後さらに新しい方法等もございますればそれも研究いたしまして、麻薬禍の撲滅という面におきまして徹底を図っていきたいというふうに考えております。
  241. 四方修

    ○四方説明員 麻薬、覚せい剤の恐ろしさについてのPRに関する御質問でございますけれども、LSDその他、青少年の間で広く使われておるこの種の問題につきましては、警察は一方で非行少年に対する補導活動を全県挙げてやっておりますので、そういう場を通じて、教育委員会の御協力を仰ぎながらかなりいままでもPRをやってきておりますけれども、これは今後も引き続きやる予定でございます。覚せい剤につきましては毎年、年に一回、ことしは七月一日から一カ月間、全国一斉の覚せい剤の取り締まりをやりますけれども、その期間中に覚せい剤についてのPRも並行して行うことにいたしております。なお、御存じかと思いますが、総理府に薬物乱用対策推進本部がございますけれども、これらとタイアップして毎年計画的なPRが行われております。ただし、青少年関係につきましてはまだ必ずしも十分とは考えられませんので、今後さらに一段と努力してまいりたい、このように考えております。
  242. 沖本泰幸

    ○沖本委員 ともすれば、官庁のPR用のポスターとかいろいろな文書というのは取りつきにくい内容のものが非常に多いのです。法律を根拠にしてやるとか、活字でも非常に読みにくいとか、結局はさらしものになってしまうということが多いと思うのです。どこかの片隅の掲示板にちょこっと出ていて、通りがかりの人が案外注意しないということが一般的に官庁のそういうものに多いようなんですが、やはりアイデアなりデザインなりいろいろなものを生かしていただいて、目にとまりやすいとか、それによって精神的に啓蒙を受けていくとかいうふうな内容のものを考えていただきたい。でないと、結局事務的に取り締まりが一カ月間あってそれで終わったということが多いんじゃないか、私はこう思われるのです。たとえばシンナーを吸った子が暴走族の中に入ると大変なことになるのです。そういう傾向が非常に多いわけです。それから、麻薬を使用して、何かのことで本人が知らない間に殺人を犯しておったとか傷害を犯しておったとかいうふうに、複数の方向につながっていく傾向が強いわけです。そうすると、将来性のある青少年がそれで一生挫折してしまうことにつながるわけですから、そういう点を考えていただくと、相当重要視していただいて、予防に徹底していただくということが必要じゃないか、私はそう考えるわけです。  これは私の考えですが、たとえば深夜バー、深夜喫茶というようなところで、大麻なら大麻を吸った場合は、何か試験紙的なものをその部屋に張っておけば、色が変化して、その部屋で使ったということがわかるというようなものはないのか。そういう面を開発していただけないのか。そういうものがあれば、そういうところへ張っておけば色が変わってきますから、変わってくると、お客が吸うわけで店の人に責任がないことにしても、この店で大麻を吸っているということがわかると営業にも影響していくというようなことの関連性というものが出てくれば、勢いそういうものを排除していくというかっこうにもなるので、その辺もやはり研究していただいて道を開いていただく、そして使えないという方向でやっていけば、隠れたところに、あるいは使用範囲がだんだん狭められれば、やはり使用することは少なくなっていく。使用者がいなければ、先ほど言ったとおりそれを満たす人もいなくなるわけですから、そういう方向に重点をうんと置いていただければ相当の効果が上がるんじゃないか、こういうふうにも考えるわけですけれども、その点はいかがですか。これは厚生省の方になると思うのですがね。
  243. 石居昭夫

    ○石居説明員 先生の非常に奇抜と申しますか、非常にりっぱなアイデアをいただきましてまことにありがとうございます。確かに、先生のおっしゃるような面につきましてそうしますと、取り締まり上おもしろいというか、能率が上がると思いますが、残念ながら現在の水準ですと、特に大麻等に関しましてはそういう、たとえば煙に当たりまして直ちに色が変わるというようなものはないわけでございます。ただ、捜査官が行きまして物を押収いたしまして、それを簡易鑑別と申しますか、すぐにこれが何である、あれであるというような科学的な方法は確立されてきているわけでございますけれども、今後ともそういうあらゆる面におきまして、まず使用させないようにするという面の、そういう科学的な知識を利用しました警告法というようなものも含めまして、できるだけ研究していきたいというふうに考えているわけでございます。しかし、これはなかなかむずかしい問題でございまして、一朝一夕に確立するのは非常にむずかしいとは思いますけれども、われわれもあらゆる努力をいたしまして、そういう点にも意を払っていきたいというふうに考えております。
  244. 沖本泰幸

    ○沖本委員 警察庁はどうですか。
  245. 四方修

    ○四方説明員 第一線の警察では、大体、不良青少年グループがたむろいたしましてよくない行為を行うような場所については、かなりよく把握しておるつもりでおります。しかしながら、いずれにしましても、麻薬、覚せい剤というのは非常にひそかに行われる、きわめて隠秘性の強い犯罪でございますので、これとわれわれ取り締まる側との対決という覚悟で、できる限りそういう情報がいち早くわれわれの耳に入るという努力を一方で行いながら、麻薬、覚せい剤の場合にはほとんど、使う者は本来これがよくないものであるという認識の上で使っておる場合が多いわけでございますので、そういう意味で、われわれはいままでは検挙にまさる防犯なしというような考え方で麻薬、覚せい剤にも対決をしてまいったわけでございまして、先ほど申しましたように今後もそういう考え方で行きますけれども、特に青少年につきましては先生御指摘のようなPRをできるだけ徹底して、早い間にその悪い芽を摘み取っていくという努力が必要であろう、このように考えております。
  246. 沖本泰幸

    ○沖本委員 これで質問は終わりたいと思うのですが、これは私の知っておる範囲内でも、知人の中で、大麻等に関してはやはり一度は口にしてみたという人もたくさんあるんですね。ですから、一度は口にしたということは相当あるということにもなるし、またそんなに犯罪意識あるいは害があるという意識でなくて、好奇心的にそれをとらえていっているということや、違法性が強いということは知っているわけですけれども、たとえば夜遅くまで仕事をする人とかあるいは連続的に仕事を多く続ける人は、そういう職業柄覚せい剤に頼って仕事をやっていく、しまいに破綻が起きてくるということもあるわけです。そういう点もあるので、やはり使わせないということにPRを図っていくということが大事じゃないかと思うわけです。  大臣が御退座になったので、刑事局長の御関係ではないのですが、法務省としてはこういうことについてどういうお考えでいらっしゃるか、最後に伺っておきたいと思います。
  247. 安原美穂

    安原政府委員 麻薬、覚せい剤事犯の概況につきましては、先ほど来第一線の機関から御説明のあったとおりでございまして、この薬物の乱用という問題は社会をむしばむ、刑事政策上もまことに無視できない問題でございまして、昨年も国際刑法会議では議題になったほどの問題でございまして、検察庁としても十分の関心を持っております。先ほど沖本先生御指摘のように、PRはもとより大事でございますけれども、従来の麻薬、覚せい剤事犯の増減の傾向の跡を振り返ってみますと、やはり先ほど警察からも御指摘のように、徹底した検挙と厳正な科刑ということが残念ながら最も有効な手段のようでもございますので、検察庁といたしましては先ほど来熱意を示しております第一線の取り締まり機関と十分な連絡を持ちまして、さような観点から処罰の効果、絶滅を期するという意味においての一翼を担いたい、かように考えております。
  248. 沖本泰幸

    ○沖本委員 以上で終わります。
  249. 小宮山重四郎

    小宮山委員長 次回は、来る七月二日水曜日、午前九時五十分理事会、午前十時委員会を開会することとし、本日は、これにて散会いたします。     午後三時十七分散会