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政府委員(
竹内壽平君)
治安警察法第十七条の解釈につきまして所見を申し述べたいと思います。
この条文には、現行法に使われておりません
法律用語等もございまして、全く適正であるかどうかということにつきましては、短時間の研究でございますので、確信を持って申し上げかねるわけでございますが、一応申し上げてみたいと思います。
まず、この十七条の
規定は、労使双方に平等に取り扱うというたてまえの
規定になっております。
それから犯罪
行為でございますが、犯罪
行為は、暴行、脅迫、公然誹毀でございまして、この暴行、脅迫、公然誹毀につきましては、一号と三号の目的をもって暴行、脅迫、公然誹毀をした場合が
処罰の
対象になる。それから二号の目的をもってする場合には、暴行、脅迫、公然誹毀のほかに、誘惑もしくは煽動も
処罰の
対象になっておるというふうに読めるのでございます。
そこで、中身でございます。しからばここに「他人ニ対シ」の「他人」とは何であるかという点につきましては、被害者でございますけれ
ども、この被害者は何人たるを問わず制限がないという解釈も字句の上からはできるのでございますけれ
ども、なお、この犯罪行然の内容をよく見てみますると、加入の申し込みを受けた者または加入しようとしておるような者に対して暴行、脅迫という
行為があった場合、そういう限定された者に限られるというふうに理解できるのでございまして、もちろん何人たるを問わずという制限なしという解釈をいたしますと、かなり広い解釈になるのでございます。もしこれが現行法にこういう
規定がかりにあるといたしますれば、私は狭いほうの解釈をとるのが相当だというふうに考えるのでございます。
「暴行、脅迫」につきましては、現行刑法にもあるのでございまして、おそらく全く同一の内容概念だと思います。
次に、「公然誹謗」という
ことばがございますが、これは現行法にはない
ことばでありますが、要するに、名誉に対する罪のところには名誉毀損と侮辱という二つの罪がございますが、これを学問上は誹毀罪と一般に申しております。ここで公然誹毀とこうありますのは、おそらくは誹毀という
ことばは、名誉毀損、侮辱、現行法の両方を含むのではあるまいか、かように考えます。もちろん公然でございますので、公然という
意味は、現行法にもありますように、不特定または特定の多数人の認知し得べき
状態において名誉毀損あるいは侮辱的な
行為に出る。これが公然誹毀であると思います。
次に、「誘惑若ハ煽動」、この「誘惑」というのも現行刑法にはちょっとないのでございますが、営利誘拐の
規定の中で誘拐という
ことばは、誘惑をして人の事実上の支配を確立すとるいうふうに一般に説明されておるのでございますが、この誘惑という
ことばは、学問的に申しますならば、煽動と対比してみますると、誘惑のほうは、理性に訴えて自由な意思決定を失わせる。そういう
行為でございますし、煽動のほうは、これは破防法等にも
規定がございますように、それからまた
廃止になりましたが治安維持法の煽動につきましての判決もございまして、そういうものによって明らかであろうかと思います。それと同じ内容のものと考えておるのでございます。
次に、こまかく中へ入りまして、一号でございますが、「労務ノ条件」、この「労務」というのは、これは肉体的な労務も精神的な労務も両方含むものと解します。ただ、ここに「行動ヲ為スヘキ団結」という
ことばがございます。「団結」というのは団体とは違うのでございますが、「団結ニ加入セシメ」という
意味が、いまの
ことばでいうならば団体に加入せしめというふうに読むのが相当なのかもしれませんが、なお団結という
ことばはもう少し広い
意味を持っているのじゃないか。すでに団体ができておらないでも、これから団結しようとするそういう場合に、加入せしめ、加入を妨げる、こういうことの場合にはやはりこの団結の中へ入れて読むべきではなかろうか、かように思うわけでございます。「加入」という
意味は、いま申しましたように、それに加わるわけでございますが、これも、労働者の団結、使用者の団結、双方を含むものと解されます。
次に、二号でございますが、「同盟解雇」、この
ことばはちょっとただいまの現行法には見当たらない用語でございますが、思うに、労使平等の立場で
規定しております趣旨から申しまして、この同盟解雇というのは、多数の使用者が協同の意思に基づいて労働者を解雇する、こういう
意味だと思うのでございます。そこで、この多数の使用者ということから当然理解されるのでございますけれ
ども、
一つの企業の中で社長と重役とが協同の意思でというのではいけないので、別の企業の使用者の二人以上が協同の意思でやる場合、こういうものがこれに当たるのだと、かように思うのでございます。「同盟罷業」につきましては、これは現行法にもございますので、現行法と同じように解して差しつかえないと思います。この二号が
意味が非常にわかりにくいのでございますが、同盟解雇と同盟罷業、同盟解雇のほうは使用者のほうの要件でありますし、同盟罷業のほうは労働者のほうの要件でございますので、その
あとで続きます「使用者ヲシテ労務者ヲ解雇セシメ若ハ労務ニ従事スルノ申込ヲ拒絶セシメ」というのは同盟解雇のほうに結びつく用語のように思いますし、それから次の「又ハ」以後の「労務者ヲシテ労務ヲ停廃セシメ」――これもサボでございまして、これは現行法にも文字がございます。「若ハ労務者トシテ雇傭スル入申込ヲ拒絶セシムルコト」、これは
あとのほうにかかる内容のように思うのでございますが、そういうふうに分けて書いてなくてここに混然と書いてあるところに
一つの
意味があるのではないか。たとえば、今日のような状況から考えてみますと、第一組合、第二組合があって、第一組合の人が第二組合の人に対してやるというようなものも入ってくると、いまの使用者のほうの側に書いてあるようなことも労働者のほうの側に書いてあると同じような条文で
処罰されることもあり得るというふうにも読めるのでございまして、この辺が実は私も明確に申し上げかねる点でございます。
第三号の「労務ノ条件又ハ報酬ニ関シ相手方ノ承諾ヲ強ユルコト」、この点でございますが、これは先ほど申しました「労務ノ条件」、これはまあたいしてむずかしい用語はないかと思います。
第二項といたしまして、「耕作ノ目的ニ出ツル土地賃貸借ノ条件ニ関シ承諾ヲ強ユルカ為相手方ニ対シ暴行、脅迫シ若ハ公然誹毀スルコトヲ得ス」とございますが、この「土地賃貸借ノ条件」という点でございますが、これは「耕作ノ目的ニ出ツル」というふうに上に目的がくっついておりますことから、おのずから「土地賃貸借ノ条件」といういうものには限定が出てくるのでございまして、一般的に申しますならば、山林、原野、家屋その他建物の賃貸借には
関係のないことでございますから、ここの「土地賃貸借」といいますのは、やはり耕作地の土地の賃貸借でございますから、所有権の移転とか永小作権とか地上権とかいったような物権はこれに含まれないというふうに理解されるのでございます。「条件ニ関シ」のこの「条件」は、そういうことから自然に出てまいりまして、借地料の一金額とか、その支払いの時期、支払う物、金額――金であるとか物であるとかいったもの、それから支払いの方法とかといったようなものがこの条件だと思うのでございます。
大体この
規定に関しましてはさように理解をいたすのでございます。