○
安田敏雄君 私は
日本社会党を代表いたしまして、
議題になっております
農地法の一部を
改正する
法律案並びに
農業協同組合法の一部を
改正する
法律案に対しまして
反対の
意見を申し述べたいと思います。
今回の
改正案は、
農地法の
基本原則に沿いつつ、
自立農家の
育成、
協農化の促進をはかり、また
農業従事者の転職を容易ならしめるように
農地の
流動化を確保するものであるということを明らかにしておりますが、
農地法の
原則とはどんなものであろうかという点があるわけでございます。
農地は、その
耕作者みずからが所有することを最も適当であると認めて、
耕作者の
農地の
取得を促進し、その
権利を保護する、こういうように
農地法というものは述べているわけでございます。それを今回の
改正案におきましては、一部の比較的
大農だけを対象とするような
自立農家の
育成をはかっている感がするわけでございます。たとえば
農業基本法にうたはれておりますところの
自立経営というような問題がありますけれ
ども、
一体自立経営をいたしますに
近代家族の
構成というようなことがやはり問題にならなければなりません。ところが、今日の
農家の現状を見ますというと、親
夫婦、
長男夫婦、まあこういうような形があるわけでございますが、これは今日の
家族制度のもとではその問題はもう後退しておるわけでございまして、一体近代的な
家族構成とはどういうものかといいますというと、やはり
夫婦二人に子供二人とか三人とか、しかもそれが
農業をするにはそれらが
中心になったところの
自家労働、まあこういうことになろうかと思うのでございます。そういう自力の
自家労働に対しまして内地三
町歩以上、北海道十二
町歩以上の
農地を今度は上限を撤廃いたしまして、そしてこれに
農地を保有せしめるというようなことが、はたして今後において
自家労働を
中心といたしましたところの
農業経営に当たられるかという
問題点が出てくるわけでございます。これらの問題は、
家族制度の上からいっても、根本的に再検討されなけばならないのでございます。特に今回の
農地法の
改正におきまして、
一般の
会社に
農業法人の
資格を与えるわけでございますが、
農業生産者にばかりでなくて、そういうふうにほかの
会社にも与える、すなわち
合名会社、
合資会社、
有限会社等にも
農業法人としての
資格を与える。ただ、その中で
株式会社だけが削除せられておるわけでございますが、なぜ
株式会社を削除したかというような問題もあるわけでございます。そこで、すでに
政府からいただいた
資料の中にも約四百何がしの
協業を営んでおるところの、
資料の中にも
株式会社が四十幾社かあるわけでございますが、これらの問題の処理は一体今後どういうように
発展していくのかということも考えられるわけでございます。特に
問題点になりますのは、
政府の
所得倍増計画におきまして、将来二町五反以上の
自立経営農家を百万戸作る、そして十年後には
農業総
生産を二兆四千億に持っていくと、まあこういうことでございます。そういうような中において二町五反の
農家を百万戸作るということになって、それらの
人たちの
粗収入が百万円だと、こういう
倍増計画の内容のようでありますけれ
ども、それを考えますというと、
自立経営農家百万戸だけで約一兆円を
粗収入に持っていくわけでございます。そうしますというと、
残りの一兆二千億というものは、これは
残りの
農家で分けなければなりません。かりに六百万
農家としますというと、五百万戸が一兆二千億を分ける、こういうことになりますというと、
農家二戸当たりの
粗収入というものは二十二、三万ぐらいしかならぬ。まあこういうことになりますというと、五百万
農家というものは、これは
所得倍増計画の恩恵に浴せない、まあこういう問題が考えられるわけでございます。しかもそういう
自立農家を百万戸ふやしていくということにすれば、かりに
農家が二町以上の
農家が現在三十八万戸
日本の中にあるわけでございますけれ
ども、百五十万
町歩という
土地を今後は
自立経営農家に与えなければなりませんそうしますというと、かりにこの地価を二十万円と想定いたしますというと、約三兆円という金になるわけでございます。ところが、現在の
農地の
価格というものは、おそらく二十万円というような安い値段ではございません。高いところによりましては四十万、五十万もするような問題もあるわけでございます。そういうような場合を考慮いたしますときに、三兆円というような、こういう以上、あるいは三十万円とすれば四兆五千億という膨大な金がかかりますが、これらの
土地を購入するところの
代金は一体どこから出てくるのか、はたして
政府がそういうような
土地購入代金を、これを将来
自立経営農家のために保障し得られるのかどうかという
疑点が出てくるわけでございます。しかもそういう中において、かりに
自己資金でもって
土地を購入したというような
農家がありましても、それはせっかく
土地を得ましても、今後における
生産手段であるところの農機具その他のいわば問題にも
自己資金が要るわけでございますから、結局
土地は得ましたものの営農はできない、
生産性の向上ははかり得ないといういわゆる
資金面において行き詰まりが生じてしまう、こういうようなことも考えられるわけでございます。そういう
意味からいたしまして、私
どもはすでに
社会党におきましても過
ぐる国会におきまして
農業基本法を
提案いたしました。しかし、われわれの
農業基本法は、
国会の
構成分野の中ではついにほうむり去られたわけでございまして、まことに残念ではございますが、私
どもにおきましては、やはり
農地は
農民に保有せしめる、そうしてこれは
共同管理をしていくのだという、こういう
基本原則を打ち出しているわけでございます。しかも
生産につきましては、
農民みずからが作るところの
農業、いわば
生産組合を
中心にしていく、たとえばその
単位は十戸ぐらい、今度の
政府の
改正案は、大体五戸を
最低の
基準単位としているようでございますが、そういうようないわば
農民みずから
農業に従事するというものを
中心にいたしまして今後の
構造改革に対処していくという、こういう考え方を持っておるわけでございますが、そういう点と今回のいわば
改正案とはほど遠い感じがするわけでございます。特に今回
政府が三十六年度に指定いたしました
農業構造の
改善事業、すなわち主
産地形成というような問題もあるわけでございますが、これらにつきましては
御存じのように、本年度九十二の
パイロット地区、二百
市町村の
一般地区の指定、こういう問題が出ております。それは
政府で推進しているわけでございますが、これらの問題につきましても、従来は
特別地区におきましても
地元負担が、
パイロット地区におきましても
地元負担が二千万円、
政府の
補助が三千五百万円、
近代化資金が三千五百万円、それから
一般市町村におきましては一億一千万円の
事業費のうち
地元負担が二千万円、
政府補助金が四千五百万円、また
近代化資金が四千五百万円、こういうことで主
産地を形成するわけでございますが、私はこれだけでは
農業構造の
改善が不十分であると思うのでございます。
御存じのように、すべて
畜産物におきましても、あるいはその他の
果樹におきましてもそうでございますが。問題は
農業生産物が再
生産できるという、
最低のできるということと、もう
一つは
農家が
最低の
生活が保障し得るという、こういう
基本線に立ったところの
価格が保証されなければならないわけでございます。そういう中にもかかわらず、そういうような
流通機構の問題はさらに取り上げられないで、いわばただ
基盤整備をする、そうしてそこへ主
産地形成をするということになりますというと、その
農業構造の
基盤整備をやった
地区内におきましても
大農と小農との間の、たとえば
果樹をやる場合におきましても、片方の
自己資金のあるものはいわば温室の
果樹園を作る、ところが、貧農のほうはやっとこビニールのハウスを作るというようなことで、そこに
お互いに自然的に格差が生じてくるという問題もあるわけでございます。しかもこの
価格の保証がないために、現在では
政府の推進するところの
構造改善事業に対しまして、たとえば
養蚕地帯におきましては
繭価が一貫目二千円を保証されなければ、どういう形におきましても三千五百万円なり、四千五百万円の
近代化資金の借金というものは、いわば
農民負担のものになってしまう、こういうようなことが今日いわれておりまして、むしろ返上の機運さえも出ておるわけでございます。そういう
意味合いからいたしまして、もう少しくこの
農地の問題につきましては、今後十分に検討していくべきものがあるではないかというように思うわけでございます。この
意味におきまして、実は前の
国会から二回
継続審議に本
法案はなっておるわけでございますが、この間におきましては、相当
日本の
経済界も、あるいはまた
農業の
状態も、さらにはまた
貿易自由化によりまして相当大きな変革を生じつつあるところの状況にあるわけでございますから、当然もう少しく
法案の
整備をすべきではなかったかということを指摘しなければなりません。
また、
農業協同組合の一部を
改正する
法律案でございますが、これは論議の中においてもそうでございますが、
農業協同組合と
農業生産法人との問におきまして、将来必ず摩擦が生ずるということが種々論議されておるわけでございますが、これはまさにそのとおりでございます。こういう
意味合いからいたしまして、私はこれらの問題につきましては今後十分な検討の上に対処していかなければならないと思う次第でございます。
さらに、
農業協同組合に
土地を
信託するという問題があるわけでございますが、はたして
農業協同組合に
土地を
信託することが妥当であるかどうかということでございます。
信託業法との問題も考慮するならば、なおさらそういう
疑点が出てくるわけでございます。今日の農協の
状態を見ましても、真に
農民のために
サービス機関といたしまして自主的にその
生産の
発展に尽くしておるという
農業協同組合もありますけれ
ども、一面におきましては
組合の
経営安定のためにその
運営をしておる、こういうような
組合も
現実の問題としてはあるわけでございます。そういう中でこの
信託の
問題等につきましても、はたして完全な運行ができるのか、あるいはまた
信託された
土地を一体どういう調査に基づいていかなるものにこれを売り渡していくのかという将来
現実の問題にぶつかったときにおきましては、相当
運営上困難性をきわめるではないかということも予想されるわけでございます。
まあ、いろいろ申し上げたいことがございますが、特に、これは
清澤委員のほうからもいろいろ指摘があったわけでございますが、
農業生産法人に
農事組合にかかるところのいわば税の
負担の問題でございますが、これらにつきましても私は十分もっと再考しなければならないと思うのでございます。というのは、実はたとえば、私も先日ちょっと触れましたが、
畜産物の振興だというようなことによりまして、
わが国の
飼料は足りませんから、これを外国から輸入する。
濃厚飼料を輸入した場合におきまして、その
飼料を
保税工場会が取り扱いましたときに
配合飼料にいたします。その際、
濃厚飼料を全部
飼料に使うのだということが検査官によって認められた場合に、初めて関税がかからないで無税になる、こういうような特別の優遇があるわけでございます。今日、
農業構造改善のいわば重要な時期に際会いたしまして、
農事組合に加入する、すなわち
農業生産法人の中に自分が出資いたしまして、そうして直ちに出資したものに対しまして課税をするというようなことは、特に今後避けなければならぬと思うわけでございます。今日、
農業が曲がりかどにあるといわれておりますときに、
農業の
生産基盤を
拡大して、そうして
農民にいわば
最低の
生活保障ができ得るという、農産物の
価格を安定する、こういう
主眼点に立つならば、今回の
農地法の一部を
改正する
法律案と、
農業協同組合法の一部を
改正する
法律案については、さらに最近の
農業事情にかんがみまして、再考してもっとしっかりしたものを
提案すべきではなかったかということを私
どもは申し上げたいのでございます。
いろいろ申し上げたいわけでございますが、以上簡単でございますが、本二
法案についての
反対理由とする次第でございます。