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北村暢君 私は、
日本社会党を代表して、ただいま
議題となりました
農業基本法案(
閣法第四四号)に対し、
反対の
討論をいたします。
討論に先立って、この際、一昨日の本
法案に対する
質疑打ち切りにあたり、わが
党委員が参加できなかった
理由を明らかにしておきたいと思います。
わが党は、
衆議院段階において
政府案の
審議に当てられた時間はわずか十数時間にしかすぎず、いまだ
総括質問も終了しないままに強行通過し、本院に
送付を受けたことにかんがみ、当初より
慎重審議を尽くすことを主張し、従来の
審議日数を増加することにも応じ、きわめて冷静に
議事運営に協力してきたつもりでおります。しかるに、われわれとしては、第五章、第六章については、
質疑を終了するに至らず、さらに、一応
最後まで
逐条審議を終了した後、再び初めに返って
審議を繰り返すという
理事間の
了解もあったので、そのつもりで
審議を続けてきておったのでありまするが、
十分審議を尽くしたとは考えられないのであります。さらに、本
法案の
重要性にかんがみ、前例からいっても、当然
中央公聴会を開催すべきであると主張をいたしました。しかるに、三十日かの午前中に実施するがごとき
意見もあったのでありますが、わが党の
要請で仕方なしに形式的に
公聴会を行なったというような形だけを残そうとするがごときは、大体
公述人に対し失礼千万であるばかりでなく、
日数も十分あることでありますから、十分時間をかけて実施することを主張いたしたのであります。この当然の
要請がいれられない限り、
質疑打ち切りのための
委員会の
開会には応ずるわけにはいかなかったのであります。わが
党委員の
出席なくして
質疑の
打ち切りを強行されたことは、まことに遺憾にたえません。
次に、
法案の内容について
反対の
理由を申し述べたいと存じます。
その第一は、
農業の
低位生産性、並びに農民と他
産業従事者との
生活水準の
格差の拡大の原因が明確でないことであります。すなわち、
農業と他
産業の
格差は、
経済の著しい発展によって自然に起こったような表現をしているのでありますけれ
ども、今日の
日本経済の高度の
成長は、
農業の
低位生産性、低所得、
過剰労働等、つまり第一次
産業の立ちおくれでなされてきたのであります。この
日本経済の二重
構造をいかに克服し、農政の曲がりかどにどう対処するかが
基本法制定の重大な意義であったと思うのであります。しかも、二重
構造の根は
相当に深いのでありまして、
日本農業の立ちおくれは、自然的
経済的社会的諸制約の不利を補正すれば解決するようなことを言われているのでありますけれ
ども、その中でも、
日本農業の最大の欠点である
零細性を克服すること、もちろんそれもありますけれ
ども、今日の
日本農業の立ちおくれは、資本の投下の不足、いわゆる金融の二重
構造、いわゆる大
企業優先の融資、こういうものからして資金的な面においても二重
構造がうかがわれるのであります。さらに、今日の
技術改革による
技術面の二重
構造、
労働内部の大
企業と
中小企業との二重
構造、これらの
農業外または
農業を含めてのこの二重
構造の問題がきわめて深刻な問題になっているわけであります。しかも、
農業はこの二重
構造の
底辺にありまして、
池田首相は、
高度成長によって自然に農村の人口は都市に流れていき、六割の首切りではなく、切り上げで解決がするように言われておりますけれ
ども、また、二重
構造は
解消するのではなくして、
解消されるのだと、
成長政策が唯一の
構造政策であるかのように言っておるのでありまするが、しかしながら、
成長の頂点と
底辺とは表裏一体であって、このような点からすれば、
成長は二重
構造解消のただ
一つの
条件ではない。せいぜい
必要条件であっても、十分な
条件ではない。
高度成長は明らかに二重
構造を
解消する作用がありますことは確かでありますけれ
ども、同時にそれを拡大するものでもあるのであります。そして現状は、
解消する
機能よりも、拡大する
機能の方が非常に強いのであります。従って、
政府の
経済成長政策が
計画通りに進行するかどうかに重大なる疑義を持ちますし、このそごを来たすことが、ひいては
農業の二重
構造の
解消のためにも非常に大きな問題を生じてくるのであります。すでに、国際収支ははっきり逆調に転じております。さすがの
経済に対しては自信を持っておる池田さん自身が、安定的
成長という含みのある発言をするようになっている現状であります。もし、
成長政策に狂いが起こる場合は、
農業基本法の前提の崩壊を意味するのでありまして、このような
経済情勢下におけるこの基本法の考え方、前提がくずれることにおいて、こういう情勢下において農民の不安というものはぬぐい去ることができないと思うのであります。
反対理由の第二は、
農業の動向、施策に関する年次報告並びに施策に関する文書の提出等の内容について、報告の
作成要領等簡単なる資料提出にとどまりまして、真に農民の要求にこたえる報告の内容の具体的なものを要求しているのでありますが、それらについて何らの具体的な
説明を行なわれなかったのでありまするが、これでは農民の不安というものをぬぐい去るわけにはいかないと思うのであります。また、需要及び生産の長期
見通しについて、答申並びに倍増
計画では、一応の数字を出しているのでありますけれ
ども、これに対し
政府は一応参考にする、こういう態度で調査会の答申を十分尊重する態度が見られない。従ってこの長期
見通しについても、一切数字的なものは
答弁を避けておるのであります。すなわち
法律が通ってから検討を加えて出すのだと、こういうことを言っているのでありますけれ
ども、このことはまことに遺憾であると思います。
しかも、その公表にあたっては、農民団体が自主的に選択するように行なわれるのでありまして、
政府が責任を持って生産の指導をするというような積極的なものは、どこにも見られなかったのであります。農民は抽象的な基本法をもって満足するものではございません。その裏づけこそ真に求めているところなのであります。それが何ら明らかにされないことは、農民に対して失望を与え、不信を与える結果になると思うのであります。
反対理由の第三は、
農業生産の選択的拡大に対し自信を持っていないということであります。自信を持つことができないということであります。まず、今度の基本法の精神が、米麦中心の
農業を転換をして畜産、果樹、テンサイ等の
成長財に重点を指向し、選択的拡大をしよう、こういうことになっておるのでありますけれ
ども、まず農民の不安の第一は、この選択的拡大によりまして畜産なり、果樹なり、テンサイなり増産をいたした場合に、過剰生産にならないかという不安を持っております。しかも、これにつきましては大資本、大商事会社の進出等が出て参りまして、直接の生産加工部面への著しい進出が見られるのであります。一応
農業生産の調整ということはうたっているのでありますけれ
ども、
質疑の中にも明らかになりましたように、国が責任を持って調整をするのではなくして、自主調整にゆだねる、こういうようなことでは従来の経験からして、農民の過剰生産に対する不安というものはぬぐい去られないと思うのであります。
次には、価格政策に対する不安であります。米は現在、生産費・所得補償方式をとっております。麦はバルク・ラインによる無制限買い入れを食管法によって規定をいたしております。イモ類、菜種、大豆等の農産物価格安定法あるいは天災法、振興法、繭、蚕糸価格安定法、こういうようないろいろな価格安定法がまちまちに制定せられております。また、新たに畜産物の価格安定法というものも出そうとしております。しかしながら、この価格政策について、一体
政府は、基本法の精神によるいわゆる拡大生産によるところの、しかも
構造政策を重点とするところの価格政策というものに対して、何ら新しい積極的な意欲というものを見せておらない。このままの形で価格政策を推移するならば、
政府はいかに指導しようとも、いわゆる
構造政策なるものは、自立経営農家なるものは、これははるかに及ばない結果になるのではないかと思うのであります。こういうような点からいきまして、わが党は、生産する者に対する価格は、生産費・所得補償方式というもので明らかに農民に補償をする、こういう立場をとるべきであるということを主張いたしておるのでありますけれ
ども、底に流れるものは、需給均衡価格、いわゆる
経済の合理主義を貫くところの需給均衡価格というものを想定しているようでありますが、これを明らかにすることは、農民に対する影響等も考え、今日価格政策に対して全くあいまいもこたる態度でおるということは、これは農民に対して選択的拡大を指導しても、なかなか農民はついていけないというのが現状ではないでしょうか。
さらに貿易自由化に対する不安であります。今日国際
農業との比較において、日本の零細
農業、こういうものの点からいきまして、どのものをとっても不安のないものは
一つもないのであります。選択的拡大を主張しておりますテンサイにしても、畜産にしても、乳製品にいたしましても、不安のないものは
一つもないのであります。現実に大豆が自由化され、今日非常な混乱が起きている状態であります。そういう状態からいたしまして、今日日本の
農業に対する貿易自由化の不安というものは、この
法案の制定によって今、当分は自由化せずという方針を立てておりますけれ
ども、基本的には、近く二、三年のうちには、ほとんど全部のものは自由化されるという段階に来ているのでありまするから、この点に対しても
政府の
措置に対して信頼を持つことができないというのが、農民の偽らざる心境であろうと思うのであります。
反対理由の第四は、自立農家の育成は、実質的な農民の首切り政策につながるからであります。まず、
政府の施策を見ますというと、
質疑によっても明らかなるがごとく、今後の
農業地は、作付面積にいたしましても、実面積にいたしましても、現状の六百万町歩というものは、これは拡大をしないという考え方をとっておるのであります。しかも拡大をしないということで、耕作面における面積は、さらにこれを減らそう、こういう考え方すらあるのであります。一方、自立経営農家というものを想定をし、そうしてその育成のために、所得倍増
計画によれば、二町五反の百万戸を育成しよう、こういうことになっておるのでありますから、他に農用地を拡大しないとするならば、必ずこれは自立経営農家の
名前のもとに、そこに土地が移動しなければならないはずであります。しかるに、今日の状況からいけば、統計が明らかに示す
通り、農村の人口は都市に移動はいたしておりますけれ
ども、戸数は現状においてごくわずかしか減っていないのであります。逆に兼業農家は増大する傾向すらあるのであります。そういう点からいたしまして、今回の基本法に伴います農地法の
改正により、農地の移動の制限を緩和しようといたしておりますけれ
ども、ここに問題のあることは、地価の売買価格というものが根本的に問題に触れておらない、こういうような点からいたしまして、
政府の企図するがごとき農地の移動というものが簡単に行なわれないということも考えられますし、また、それを
政府の指導によって移動したとするならば、これは当然農地を手放さなければならないものが出てくるわけである。そういうような点からいたしましても、さらには農家の所得の問題から考えまして、所得倍増
計画によるというと、非自立経過的家族経営農家、これを一町歩二人構成員で二百五十万戸、これが十年後においてこの非自立経過的家族経営農家というものができるわけであります。これは一町歩の保有農家でありますから、現状において最も苦しい農家であります。これよりか保有面積の少ない八反、五反という農家の方は兼業収入によって収入はいいのであります。この非自立経過的家族経営農家二百五十万戸というのは、十年後にこれが存在するという
計画になっておるのでありますから、従ってこれは所得倍増
計画による所得が倍増するような形には決してならない農家であります。いずれは十年後以降において、自立農家あるいは完全な非自立農家というふうに分解をしていく層と見られるのであります。こういうような面からいたしましても、
政府の施策をもってするならば、すなわち自創資金等の通達にも明らかになっておりまするように、創設資金としてこの非自立的な経過的な農家には創設資金は貸さないのでありますから、また兼業農家には、創設資金は貸さないのでありますから、従ってこれは
政府の施策によっていびり出されるという結果にならざるを得ないのであります。そういうような点からいたしまして、真に
政府のとっております自立家族経営農家というものは、実質的には零細の兼業農家の切り捨てに通ずるのであります。そうでなければ、
政府の目的というものは達せられない、こういう結果になっていることは明らかであります。そういうような点からいたしまして、わが党はこれらの問題を勘案いたしまして、三百万町歩の農地造成の拡大を主張をいたしておるのであります。このことは
審議の中でも、私も予算
委員会でもやりましたけれ
ども、実際に可能な面積があるのであります。しかも適地もあるのであります。しかしながら、今日思い切ってやはり土地制度の改革まで踏み込まなければならない問題ももちろん含んでおります。しかしながら、日本の
農業の欠点である
零細性を克服するためには、やはり積極的な農用地の拡大ということをとるべきである、こういうような点からいたしまして、
政府のとっておりますこのやり方というものは、明らかに
農業というものを劣等
産業視いたして、衰退
産業視いたしておるものといわなければなりません。そういうような点からいたしまして、私
ども社会党は、こういう自立経営農家の育成ということは、そのこと自体否定するものではございませんけれ
ども、そのことによってです、そのことによって起こって参りますいわゆる農民の首切りというものにつながる政策、これでは私どどは
了解ができないのであります。あくまでも積極的な拡大再生産をとる、そういう方向こそ、真に
日本農業の向うべき道であるというふうに確信をいたす次第であります。
なお、自立経営農家の他
産業との所得の均衡の問題でありますけれ
ども、私
どもが農用地の拡大を踏み切って、しかも
農業の近代化に思い切って施策を講ずる、そのために
農業生産協同組合法の制定を準備しておるのでございますけれ
ども、現実の問題として、
政府の考える二町五反なり一町五反以上の自立経営農家そのものが、他
産業との所得の均衡ということを考えますときに、実際これで均衡がとれるかどうかという点からいたしましても、いわゆる都市的要素を除いた町村段階における所得に均衡する、これは
農業の生産性の低さからやむを得ない状態にならざるを得ない。これをやはり乗り越えていくためには、わが党の主張をいたしております
農業生産協同組合法の制定によって、積極的に
農業の近代化に踏み切るべきである。このような観点からいたしまして、私は
政府のとっております自立経営農家の育成というものが、農民の首切りにつながる政策でありますがゆえに
反対せざるを得ないのであります。
以上私の四点について
反対の
意見を申し述べ、
討論にかえる次第でございます。(拍手)