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重光国務大臣 日ソ交渉の七日の交渉の
状況は、御報告申した
通りでございます。それに引き続いて、その後の経過を御報告いたします。
七日の交渉において
お話申しておいた
通りに、まずわが松本全権から
日本側の立場及び主張について、全面的に陳述を行なったということを申し上げました。しからばその
内容いかんということになるわけでありますが、その
内容は遺憾ながら申し上げるわけにはいかない、こう報告をしておいた。何となれば、交渉において発表するときめたこと以外は発表しないというので、向うも、また松本全権側もそれをかたく守っているわけで、その約束を無視するわけには私としても参りません。しかしながらこのこと自身は、
日本の国民にとっては非常に重大な問題である。大よそのところは少くともこれを感ずるようにしておかなければいかぬ、こういう見地をもって、松本全権の主張した
内容は、私がすでにもう議会に対してはっきりと申し上げている
政府の方針、また所見、それを主張したのであるということを申し上げたのでありますが、それによって実際は尽きてもいるし、またそれによってすべて御
了解を得ることだとそのときに思っておった。また御
了解を得たことと思っておりました。さてそれに対して七日の交渉においては、ソ連側のマリク全権が、これは広範にわたることであるから、次回においてゆっくり検討してソ連側の意向、ソ連側の主張を述べよう、こういうことで
会議が終ったのである。こういうことを御報告を申し上げた。
そこでその
会議が十四日に開かれたわけであります。ソ連大使館でしたか、の順で開かれた。この
会議におきまして、ソ連側は約束の
通りにソ連側の主張、立場を全面的に述べたのでございます。それは前回に
日本側の立場の陳述を聞いて、それに対する回答の意味でもあったわけであります。全面的にソ連の立場及び主張を述べた。しからばその
内容いかんということになります。この
内容いかんということは、先ほど前回の場合について申した
通りの
理由をもって、私はこれを申し述べることはできない立場におります。しかしそれが大体どういうものであるかということは、
日本国民として知るべき権利があると私は思います。従いまして私がどういうものであるかということを大体間接な方法で申し上げることも、許されることだと思います。それはソ連の主張及び立場は、大体においてサンフランシスコ平和
条約が三年有余前に調印されたときに、ソ連のグロムイコ全権がソ連の提案として出した
内容と大同小異のものである、こういうことを申して差しつかえないと思うのであります。これはソ連の立場は、そのとき以来変っておらぬということを示すので、ソ連としても私がそれだけのことを言っても、何も根底的に秘密の問題ではないと思います。さようなことであるのであります。
そこで
日本側の何がすべて出た、向う側の主張も出たわけであります。そうなりますと、松本全権はこれから取り組んでやっさもっさやらなければならぬことになる。しかし松本全権は、その
内容に入る前に、ソ連側に対して一つ
日本側の要望があるという前置きをもって持ち出したのが、抑留者の帰還の問題であります。抑留者の帰還の問題に対する
日本側の主張は、松本全権の主張したことそれ自身を繰り返さなくても、もう御
承知の
通りであります。松本全権はこれを大所からもまた数字をあげても、詳細にかつまた非常に強く要求をして、この問題は交渉自身の問題でない問題であって、交渉を離れてもこれは解決しなければならぬ、さような問題であるわけであるから、今、日ソの間に正常国交を回復して友好
関係に進んでみたいという場合には、特にこの問題が必要であるか、かような問題を解決することによってさらに交渉は円満にいくのであるから、むしろこれを先決問題としてすみやかに解決してもらいたいということを強く要請をいたしたのであります。これに対してソ連マリク全権は、この問題はもうすでに解決をしておった問題である。そうして解決していない戦犯その他のまだ残っておる抑留者は、平和
条約でもできればすぐ解決する問題じゃないか、こういうふうに軽く応待をいたしたのでありますが、松本全権は、そういう問題じゃない、これは非常な重大な問題で、ぜひともこの問題を解決して空気をよくして、交渉の前途を明るくするようにすることが最も必要なことである、これは人道上の見地からいっても最も重要なことであるというようなことで、非常に強くこれを要請をして、そうしてマリク全権はこのことについてまた十分に考慮してみようというような意味を述べて、そしてもう時間は二時間半もたったので、他の問題
——これは先決問題ということになってきておるわけであります。それからまたマリク大使も、これは交渉の問題と離れても
考えなければならぬ問題だということには首肯しておるのでありますから、
考えてみようということで、そこで時間切れになったということで、
あとの問題は次に一つやろうということで別れておるのでございます。これが十四日の交渉の
状況でございます。
これをもって見ますと、これから先は私のこれに対する感想でございますが、
日本側が自分の立場及び主張の全部を出し、ソ連側もそのときに出しておる、こういうことであるのであります。ソ連側も国交の正常化をするためには平和
条約を作ろうというはっきりした
考えでもって、平和
条約を作るという下ごしらえで案を出しておるわけであります。そうでありますから平和
条約を作ろうというのは、両方とも
考えがそこに一致するわけであります。その平和
条約の
内容をどういう工合に作るかということについては非常な差があるということは、今の私の
説明によっても大体御感得のことだろうと思う。そこでその差のある主張をこれからもみ合って、主張の差のないようにして
結論を得るようにしなければならぬ、これが交渉であります。それで初め立ち会ったときには主張が差があるということは、これは当然のことである。それがために今すぐ交渉が見込みがあるとかないとかいうことを
考えることは、これは一体早計であるのみならず、むしろ交渉の常識に反しておることだと私は思っております。これはすべてすらすらいくとは私も
考えない。順調という言葉を用いるのはどうかと思うけれども、交渉としては、何と申しますか常軌の
通りにいっておるのだ、こう申し上げて差しつかえないと思う。しかし今後どうなるか、これは何人も予想することはできません。主張の異なっておることの多いことは、これは言わなくてもわかっておることでありますが、しかし妥結をすることが不可能とはだれも言うことはできません。交渉はこれから進めるべきである。そこで、それじゃ
政府の立場はどういうことでいくか、こういうことになります。
政府の立場は少しも変りません。
政府の立場については、この問題についてはずいぶん多くの機会において国会の討論を経ておりますし、大体国会の意のあるところも了承しておるわけでありますから、その上に立った
政府の交渉方針は少しも変りません。主張すべきはあくまで主張し、そうしてできるだけ主張を貫徹をして、国交正常化の
目的を達しようという方針には少しも変りはございません。さような工合にして進むわけでございます。次回は二十一日にやるという情報が来ておりますから、その後にいずれ機会を見て御報告をいたすことにいたします。
ついでながら申し上げますが、この日ソ交渉については、各
方面とも非常に注目をしておるので、世界の各
方面からいろいろな電信が入ります。
内容も推察したりいろいろしております。しかし大
部分は推測記事だ、また観測記事だと思っております。それには非常に参考になるものもありますけれども、要するに観測を中心にしたものだと私は思っております。大体以上であります。