○門司亮君 私は、ただいま
議題にな
つております
警察法の一部を改正する
法律案並びに
集団示威運動等の
秩序保持に関する
法律案、二の両案の
原案に対しまして、さらに
自由党、改進党から出されておりまするおのおのの
修正案に対しましても、
日本社会党を代表いたしまして
反対の意思表示をするものであります。(
拍手)
先ほど
委員長の
報告にもあり、また改進党の藤田君のお話のうちにもありましたように、今日の
警察法ができておりまするそのゆえんのものは
警察法の前文に書いておりまするように、竹本の民主化と、
日本の
国民の真に自由なる意思のもとに行われまする、組織のある、かつ秩序のある治安の確保をしなければならないということであります。すなわち、念のために前文だけを朗読いたしますならば、「
国民のために人間の自由の理想を保障する
日本国
憲法の精神に従い、又、地方自治の真義を推進する観点から、
国会は、秩序を維持し、法令の執行を強化し、個人と
社会の
責任の自覚を通じて人間の尊厳を
最高度に確保し、個人の
権利と自由を保護するために、
国民に属する民主的権威の組織を確立する
目的を以て、ここにこの
警察法を制定する。」と規定いたしておるのであります。この
警察法の前文から見て参りますと、当然
国民の
最高の尊嚴を保持することのためにこの
警察法ができておるのでありまして、従いまして、この前文から出て参りました
警察法は真に
日本の治安を維持するために、
国民みずからが民主
政治の建前から、みずからの
責任においてその治安を確保して行こうという、きわめて民主的の組織にできておることは申し
上げるまでもないのであります。しかるに、
政府は、このきわめて民主的の
運営をし、民主的にみずから治安を確保しようとするこの
国民の意思に反しまして、権力をも
つて治安の確保をいたそうといたしておるのであります。
およそ治安の確保をいたそうとする場合に、機構の改革や権力の
政治において断じて治安の確保はでき得ないのであります。実例を申し
上げまするならば、か
つて日本の
警察国家の最も強かつたと目されておりまする大正七年における、かの富山県に起つた米騒動は、一体何を物語るかということであります。米一升が五十銭に
なつたということで、富山県の一角から、細君連中が、これではとうてい自分たちの生活ができないということがその口火とな
つて、遂に米の問屋を襲撃し、あるいは米の倉庫を襲撃することが伝播いたして参りまして、
全国三十八箇所の県及び市にまで騒動が起
つて、遂に單隊を出動せしめなければこれを錘圧することができなかつたことは、皆さんも御承知の
通りであります。この事実は一体何を物語るかということである。
警察の権力が最も強かつた大正七年当時、いわゆる
天皇制のもとに、
国民はその多くの自由を奪われておつた当時においても、
国民が食うに困るという
一つの現実にぶつか
つて参りまするならば、生きんがためには、これは細君連中が考えたことにいたしましても、遂これから米騒動が勃発した。そのことを、よくわれわれは考えなければならない。
このことは治安の問題が單に権力や行政の改革のみによ
つて行われるものではないということである。先ほども改進党の鈴木君から申し
上げましたように、治安の確保のためには、
政治情勢がきわめて大きな役割を果すものであ
つて、
警察制度というものは、單にその
一つの
部分的な治安の確保に当るのみであ
つて、根本的な問題ではないということである。もし
自由党にして、真に今日の治安を確保しようとするならば、まず
国民大衆の生活の安定のことを、この
警察法改正の前に、よくお考えになることが重要でなかつたかと私は思うのであります。(
拍手)の
国民生活の安定ということを十分考えないで、一方においては
国民は重税にあえぎ、一方においては低賃金に労働階級が酷使されておりまする今日の現状において、私どもは、機構の改革と権力の集中のみによ
つては、治安の確保は断じてできないであろうということを、強く申し
上げなければならないのであります。
メーデー事件に際して、このことを喫機として、あるいはこれを
一つの
理由として、こういう
法案を
提出されたかと思われるのでありまするが、
メーデー事件にいたしましても、あの中で、一体極左分子は何人おつたかということであります。多くの
諸君は、これに雷同し、これに同調したものであ
つて、真に計画的にあの騒動を起そうとした人はきわめてわずかであつたということを、
諸君はよく知らなければならないのであります。(
拍手)この扇動あるいはこの計画に雷同し、同調する者は、時の
政府に対する、みずからの生活の不安定から来る
一つの反撃であり、何かの衝撃に
国民大衆の生活の不安が爆発したものであるということを、よく
政府当局においては知
つていただきたいと私は思うのであります。(
拍手)このことを忘れて、いたずらに今日のように
警察法を改正しようとすることは、まつたく本末を転倒するもはなはだしいといわざるを得ないのであります。
しかも、案の内容については、先ほどから、るる申されております
通りに、今日、
国家公安委員の
運営管理のもとに、しかも民主的に定められ、同時に
国会の承認を得た
国家公安
委員会が
国家地方
警察本部長官を任命する、その任命権を
内閣総理大臣が取
上げ、さらに特別区の存しまする、いわゆる
東京都の警視総監に対しましても、
警察長に対しましても、これを今日のように公安
委員会の推薦にまかせないで、
内閣総理大臣が把握しようといたしておるのであります。しかいたしまして、その
理由の中に、
警察の権限を一本化し、さらに治安の
責任の所在を明確にするためにこの法律を出したと
言つておりまするが、治安の
責任の
内閣にあるということは
憲法の
通りであ
つて、しかも
警察法の四條によりましても、
国家公安委員は
内閣総理大臣の所轄のもとにこれを置くということが明確に書いてあるのであります。そう考えて参りまするならば、何もこの
国家地方
警察本部の長官が総理大臣の任命でなくとも、その長官を任命する公安
委員会は明らかに
内閣総理大臣の所轄のもとにという文字を使
つております以上は、当然
内閣に治安の
責任があることは明らかにな
つておるのであります。何もここに機構を改革しなくても、ちつともさしつかえのないことである。この、ちつともさしつかえのないことを、もつともらしい
理由をくつつけて、これを
内閣が握ろうとするところに今日の
政府並びに與党の陰謀があることを知らなければならないのであります。(
拍手)
すなわち、か
つての
日本の
警察国家のごとく、一切の
国家権力を
警察にゆだねて、それのすベての権限を
内閣が握
つて参るということになりまするならば、先ほど朗読いたしました
警察法の前文の
趣旨にまつたく相反するのであります。今日公安
委員会を設けておりまするゆえんのものは、いわゆる政党
政治であり、時の
内閣の意向によ
つて、治安あるいは
国民の大幅な
人権、
権利義務が阻害ざれることのないように、基本的
人権はあくまでも厳正公平にこれを維持することができるようにせんがためであります。しかるに、この制度をくつがえして、
内閣がこれし掌握いたして参りまするならば、いかにして
警察の厳正と公平を保ち得るか。もし
警察の厳正と公平が保ち得なかつたならば、再び治安が乱れるであろうということは、火を見るよりも明らかであります。われわれは、かくのごとき改正案に対して
賛成をするわけには参りません。
さらに改正案の最も重大なものは最後に書いてありまする
内閣総理大臣の指示権であります。
内閣総理大臣の指示権とは一体何であるか。
内閣総理大臣は、必要な事項があるならば、これを
国家地方
警察、あるいは
国家公安
委員会、あるいは地方の公安
委員会を通じて、
全国にその処置を指示することができるということに相な
つておるのであります。この指示は、単なる指示にあらずして命令であるということであります。
日本の
警察法の中にすでに設けてありまする非常事態の宣言は、一体何を物語るか。地方においても、
国家全体においても、もし今日の
警察力において十分これを取締ることができない、鎮圧することができない事態に対しましたときには、当然この
警察法に定めてありまする非常事態の宣言が行われなければならないのであります。非常事態の宣言は、
都道府県の公安委員あるいは
国家公安委員等の助言によ
つて、
内閣総理大臣がこれを布告いたして参りまするが、この
国家非常事態に至らない前に、
内閣総理大臣は各
警察に対して指示をし、命令をすることができるということにな
つて参りまするならば、
日本の
国家非常事態は二元化されるのであります。
それのみならず、先ほど本
国会を通過いたしました保安庁設置
法案の中には、その六十一條に、明らかに、
内閣総理大臣は必要のある場合においては保安隊並びに海上警備隊を出動させることができるという規定を設けておるのであります。こうな
つて参りまするならば、総理大臣は、必要のあるときには保安隊あるいは警備隊を出動せしめる、また必要のあるときには
全国の公安
委員会に対して命令をすることができる、さらにその次に、非常事態の宣言において、
警察権を全部掌握することができるということにな
つて参りまするならば、
国家非常事態に対する
内閣総理大臣の権限は三元化するということに相な
つて参るのであります。
この
警察法改正によ
つて指示権を
内閣総理大臣に與えようとすることは、以上の
理由をも
つて、すべての
日本の治安に対する権限が
内閣総理大臣にまつたく一元化されて参るということに対して、きわめて多くの危険性を持つものであります。すなわち、今日の保安庁は、陸海單を合同いたしました多謀本部、いわゆる
アメリカのペンタゴンにひとしいものであります。この陸海單を一方に掌握し、一方においては
警察官を掌握して、これで
国民大衆の
権利なり、
国民の基本的の
人権を圧迫しようということにな
つて参りまするならば、か
つて日本に、東條以外にこのような権限を持つたものがあるでございましようか。吉田
内閣総理大臣は、東條
内閣以上に、
日本の治安確保ということに名をかりて、一切の権限を把握しようとする、きわめて恐るべき陰謀であり、その
実力を與えるものであることを、私は強く主張しなければならないのであります。(
拍手)
さらに、この問題に対する
自由党の
修正案でありまするが、
自由党の
修正案は、
政府原案に、
内閣総理大臣が公安委員筆の意見を聞いて長官並びに
警察長をきめるどいうことにな
つておるが、これを逆にいたしまして、公安
委員会が
内閣総理大臣の意見を聞いてこれを定めるということにいたしております。こういうことが一体なぜ行われるか。実質的にはまつたく同じようなものでありますけれども、なぜこうしなければならなかつたかといえば、公聽会その他の世間の輿論に抗しかねて、私はここにごまかしの
警察法の改正案を出して来たということを申し
上げても決してさしつかえないのであります。かくのごとき欺楠の
政府修正案に対しまして、私どもは
賛成するわけには参りません。さらに、改進党の
修正案でありまするが、この
修正案において、公安
委員会に
内閣総理大臣が任命する国務大臣を一名加えるということ、さらに地方の公安
委員会に対しても、おのおの副知事あるいは市の助役等がこれに入
つて参りまするならば、私は実にこれはナンセンスだと思う。公安
委員会をこしらえましたのは、先ほど来申し
上げておりまする
通り、これが厳正公平を期さなければならないということで、当然行政機関と別個にこういうものを設置しておるにかかわらず、行政庁の
責任のある者がこの公安
委員会の中に入
つて参ることになりまするならば、一体何が行われるかわからぬということであ
つて、この
修正の
趣旨を私どもは十分にくみとることができ得ないのであります。さらに、
内閣総理大臣の指示事項に対しまして、これに制限を加えたということは
一つり進歩のように見えまするが、実際上の
運営にあたりましては、この指示事項の拡張解釈において、
原案と同じようなものが私どもは執行されるであろうということを、きわめて憂慮するものであります。従いまして、両
修正案に対しましても、同じように私は
反対をしなければならないと思うのであります。
次に
集団示威運動等の
秩序保持に関する
法律案でありまするが、
集団示威運動等に関しまして、今日
日本の国において、これらの秩序を保持するために行われておりまするものは、各
都道府県並びに市におきまして、
公安條例その他において、これの
秩序保持が行われておるのであります。
政府に言わせますならば、これを一元化して法律化することが最も適当だと申されておりますが、
日本の今日の各自治体における公安康例の実施状態を、私ども、つぶさに見て参りまするならば、四十六
都道府県のうち二十三都府県しかこの
公安條例を持
つていないのであります。