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受田新吉君 私は、ただいま緊急上程せられましたところの、私の提案にかかわる
國宝保存強化に関し、
政府に対して緊急の
質問をいたしたいと思います。
皆さん、去る一月二十六日、あの午前五時から七時までのわずか二時間の間に、解体修理中でありましたところの法隆寺金堂の内陣は、無残にも千三百年の尊い文化の精粹を一朝にして焼けぐずして
しまつたのでありました。
昭和九年の解体工事以來、一切をあげてなし來つたところの再建工作も、はたまた壁画の切取り作業も、今や空しく挫折せざるを得なか
つたのであります。しかして、今後金堂がいかに再建せられたといたしましても、あの大事な大事な壁画は再び帰
つて來ないのであります。世界に誇るこの文化の財を、われわれ人類が、われわれの祖先が残したこの尊いところの文化の遺産を何ゆえ不用意にも、かくも無残に焼失したのでございましようか。私は、この点について、何はさておき
政府当局の怠慢がこの結果をもたらしたことを思いまして、ここにまず総理大臣並びに
大藏大臣及び文部大臣に対して、それぞれの立場より緊急に
質問をしたいと思うのであります。
私
たちの祖國
日本が、文化を振興し、教育を愛し、よ
つても
つて世界に誇るべき堂々たる文化國家の建設を念願しつつあるときに、われわれの
政治の面において文化を愛する
政治が行われておるかどうか。今や、誕生以來三年目に及んでおりまするところの六・三制は、
予算関係その地においてまさに危機に逢着して、一部には六・二制を叫ぶ者さえ生ずるに至
つております。そして、われわれの祖國再建の重大な基盤として
経済安定、物の生産という点に重点的な
政策が行われておることは規定の事実でありまするが、さらに顧みて、この
経済再建も、その裏づけとして尊い人間を生産する面を忘れたならば、魂の抜けた
日本が再建されるのであります。この点につきまして、まず総理大臣は、祖國の再建、
政治の重要なる國策の
中心として、文化文教
政策をいかなる程度に考えておるのか。物の生産、
経済安定を重点に置き、余裕があつたら文化に及ぼそうという軽い
意味か、あるいは表裏一体をも
つてこの尊い祖國再建の肉づけをしようとするのか。か
つて石橋藏相が、あの、教育などはどうでもいいのだ、文化はどうでもいいのだ、まず食うことが大事だと、悟淡たる
氣持で放言した事実がありまするが、その衣鉢を継ぐ
大藏大臣は、
財政政策の上において、文化はまことに微々たる影の星のごときものでよいと思
つておられるのかどうか。この点につきまして、総理の、文化
政策の國策における地位と、
大藏大臣の、文教文化
政策を
財政政策上いかなる観点に置いておるかという二大問題について、お尋ねしたいのであります。
次は、文部大臣がおいでておるようでありまするので、大臣に対して、特に重点的に
緊急質問をいたします。
第一、先般の法隆寺焼失
事件について、今なほ
國民の前にこの
事件の全貌が明らかにされておらない向きがあります。この点について、法隆寺焼失
事件の
責任はいかにな
つておるか。この間、井手文部次官は
——
あるいは世の中のうわさかもしれませんけれども、強制的に辞表を
提出せしめられた、こう聞いております。か
つて下條文相が、
民自党の第二次
内閣がつくられた当初において、あの温厚にして着実であつた有光次官を強制的に辞職せしめ、今日またここに、井手次官を強制的に、
責任を追究して辞職せしめたとするならば、この六・三危機、文化危機に際会して、文部省が最も関心を持
つて努力しなければならぬときに、事務の練達者を、
内閣がかわるごとに、大臣がかわるごとに罷免するということは、政務と事務とを混淆するものにして、われわれのよ
つても
つて了解し得ないところであります。この点につきまして、法隆寺焼失
事件と次官罷免とは関連するものであるかどうか。関連するものとするならば、六・三危機その他重大危機において文部省の最も努力すべきときにおいて、このような人事をなすことが、はたして妥当であるかいなかという点について、まず御
質問したいのであります。
第二は、國宝保存の重要なる事業が、今國宝保存法なる法規によ
つて進められているのでありまするが、これは
昭和四年以來まつたく改正されないままで進んで來ました。
從つて、この中には社寺その他が有しているところの國宝と、個人の有する國宝の二
通りあ
つて、時に個人の有する國宝には実にルーズな
政策がとられてお
つて、これを賣買、輸出その他の所有権の移轉をするについても自由に許されている傾向があるのであります。特に敗戰直後において、重要美術品、國宝等を、戰災その他の名義に名をかりて、あたかも今やこの世の中にないがごとくにして、やみ賣買されている向きが多数にあると世の中に流布されているこのうわさを聞いても、われわれは、文部当局がこの國宝保存に対してまことに怠慢であることを突かざるを得ないのであります。現に文部省は、わが國宝のうち八百三十四件、これがどうな
つているか、今この際手をつけなければ、まさに荒廃に瀕しようとしている状況にあることを嘆いているではありませんか。この際大臣は、この重要な、祖先が残し、かつこれを子孫に傳えなければならないところのわれらの誇るべき文化財を最も強力に保護するために、いかなる法規の改正をしようとしておるのか、その意図がいかなる方向にあるか、この点についての御意図を伺いたいのであります。
次に、現在の國宝は約九千、この九千の國宝の中には、
政治的な措置その他によ
つて、まだその價値のないものさえもあげられている事実がある。このようなものは潔く整理して、よ
つても
つてAクラス、Bクラスと文部省がいうているところの重要なる國宝に重点的保護対策をとるべきではないか。ここに國宝の根本的整理対策を必要とするのではないか。
その次は、文部省がこの國宝を保存するための
財政的措置として、本年度においてわずかに三千三百万円しか計上されていないのでありまするが、法隆寺を除けば、きわめてわずかしか残
つて來ない。このわずかを二十三件の國宝に充てているのみであ
つて、その他はまつたく捨てて顧みられてない。あの千葉縣の龍角寺のごときは、あの本尊は金堂づくりの、ちようど白鳳期の最も有力なる國宝とされているものであるが、あの金堂づくりの本尊さえ、現に雨が降ればびしよぬれになる、月がさせばこの影を映すという、哀れなる破れ屋根の下にあるのであります。しかも國家は、これを捨てて何ら顧みない事実を思うとき、これに類する國宝がわが郷土山口縣の洞春寺にもあり、各所に散在している事実を思うとき、すみやかに保護対策を講じない限り、数年を出でずしてこれらがすたれ去るであろうという危惧を抱くのであります。
この機会に、
財政的措置として強力なる対策をいかに立てているか。先般、三月四日でありましたか、閣僚
会議に文相が提案せられ、関係閣僚をも
つて國宝保存閣僚
会議とか銘を打
つてその対策を強化するごとくに新聞にも書かれてお
つたのでありますが、その閣僚
会議は、その後いかに進められているのであるか。この
昭和二十三年度の最終の日において、しかして明るい
昭和二十四年度を迎えようとするこの重大なる段階において、われわれの祖先が残したこの尊い文化の遺産をさらに子孫に継承せしめて、よ
つても
つてわれわれが祖先と
なつたときの尊い
責任を果すための重大なる措置を文相にお聞きしたいのであります。
以上、重要なる点につき総理大臣、
大藏大臣並びに文部大臣にお伺いを申し上げたわけでありますが、單なる
経済政策と違
つて、文化を捨てるような
政治がこの祖國再建の中に行われるとしたならば、われわれは平和國家、文化國家と口にばかり言うのみであ
つて、実質を伴うことの
できない、脱けがらの
政治家としてしか、われわれ自身も考えることが
できないおそれがある。何ゆえに
政府は、何ゆえに
國会は、この際に根本的対策をこれに対して樹立しないか。この点において、
政府と
國会が一体とな
つて、
國民代表たる
國会と、しかして行政機関の最高
権威であるところの
政府とが、この祖先の遺産を子孫に傳えるという重大なる
責任を相ともに果したい。しかるがゆえに、ここにるる衷情を申し述べて
政府を鞭撻し、そうしてわれわれ
國会も努力を期そうとしているのであります。特に文相のこれに対する熱烈なる御意図をお伺いして、安心して
昭和二十三年度を送りたいものだと思うのであります。
以上、簡單でございますが、
緊急質問を終る次第であります。(
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