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與謝野政府委員 今年の一月の末に本委員会におきまして、当時の
國際情勢につきまして概括的なことを御説明申し上げました。その後の
國際情勢につきまして御参考までに概括的なことを御説明申し上げたいと存じます。別に特に変つた資料はあるわけでもございませんので、御承知のことが多かろうかと思うのであります。大体今日の
國際情勢の大きな問題はいずれも
アメリカと
ソヴイエトとの関係ということに帰するものが多いのでありまして、
米ソ関係ということを中心として最近の情勢についてお話申し方げたいと思います。
実は昨年以來いわゆる
マーシヤル・プラン、
アメリカの
欧州復興援助計画、また
ソヴイエトのいわゆる
國際共産党情報機関の設置というようなことがございまして、米ソの対立ということは
ヨーロツパでも漸次
はつきりしてまいつたのでありますが、ドイツとの講和條約の問題をめぐりまして、昨年十二月の
ロンドン会議が決裂をいたしまして以來、漸次米ソの関係はさらに惡化してまいつたようにみられておつたのでございますが、今年の一月、二月になりますといろいろこまかな問題で米ソ間に紛爭があつたのでございます。たとえば
北アフリカの飛行場の使用に関して、
ソヴイエトは
アメリカは條約違反であるというようなことを
言つて抗議を申込んだ事件もございましたし、また一月の末に
アメリカの軍艦が
イタリーに入港したのに対して、
ソヴイエトは
イタリーとの講和條約の違反であるというようなことを
言つて抗議した事件もありました。またイランという所は
ソヴイエトにとつては相当重要な所でありまして、そのイランにおきまして
アメリカの
軍事使節が活躍しているということについて、
イラン政府にたびたび抗議を行うばかりでなく、
アメリカに対しても
ソヴイエトは抗議を申込んだというような事件もあつたのであります。その他東洋におきましても、日本海、黄海等におきまする
ソヴイエトの艦船の行動を
アメリカの飛行機が偵察しているというようなことに関して
ソヴイエトは抗議を申込んだ。その他
ヨーロツパの
占領地域におきまして両軍が接触している部面、特にベルリンにおきましては毎日のように小さな事件が頻発しておつたのでありますが、特に
米ソ関係が急に惡化してまいつたというのは今年二月の末以来のことでありまして、これは
ヨーロツパにおきましてはチエコの政変、及び
ソヴイエトの
フインランドに対する進出、また東洋におきましては時を同じくして朝鮮の事態というものが
はつきりとしてまいつたために、米ソの関係は急に惡化してまいつたように思われるのであります。チエコスロバキヤはいわゆる鉄のカーテンの中に必ずしも含まれておらなかつたわけでありますが、今年の二月にチエコの共産党がまだ大多数を議会で占めているのではないのでありますが、
内務大臣の要職を
共産党員が占めて、それによつて一種のクーデタを行いまして遂に内閣を乘つ取り、チエコの共産化に成功したわけであります。この事件のめにチエコの
外務大臣が自殺するというような事件が、ありまして、
アメリカの輿論に対して非常なセンセーションを與えた。またときを同じくして二月の末に
スターリン首相が
フインランドに対して、
ソヴイエトが
ルーマニアやハンガリーなどとの間に結んだ
相互援助條約に似たものの締結を提議いたしまして、
ソヴイエトが北の方に出てきたという印象を與えました。これもまた
アメリカの輿論には非常な影響を與えたのであります。そこで
アメリカが最も心配いたしましたのは、御承知の通り四月十八日に行われることになつてお
つたイタリーの総選挙でありまして、つまりチエコの共産党が内閣を乘つ取つたばかりにチエコ全体が
ソヴイエトの勢力下に帰して
しまつた、これと同じことが
イタリーで起れば、つまり
イタリーの総選挙で共産党が大多数を占めれば、
イタリー全土が
ソヴイエトの傘下に收められる、こういう危險があることになつてまいりましたために、
アメリカとしては
イタリーの共産化を防ぐということにあらゆる手を盡すということになつてまいつたのでありまして、これがとりもなおさず米ソの関係が非常に緊張したように思われた一つの原因だつたのであります。
アメリカ政府では三月中旬に
トルーマン大統領が声明を発し、
マーシヤル長官も声明を発したのでありますが、特に
トルーマン大統領は議会に
特別教書を送りまして、
ソヴイエトの
対外政策を非常に強く攻撃いたしまして、米國のとるべき措置として、
マーシヤル・プランによる
欧州復興援助計画を至急立法化する、また一般の
軍事訓練法を制定する、また
選拔徴兵法というものを一時的に制定する、同時に当時ヨーロッパで成立いたしました
イギリス、
フランス、
ベルギー、
オランダ、
ルクセンブルグ五箇國の同盟を全面的に支持する、こういうことを述べて、
ソヴイエトの
ヨーロツパの西の方に対する進出に対しては強くこれを反対するという態度を明らかにするとともに、米國内の輿論に訴えたわけであります。同時に
イタリーの共産化を防ぐ手段といたしまして、
アメリカ政府は
ソヴイエトに対して
トリエストを
イタリーに返還してやろう、こういうことも提議したのでありまして、御承知のように昨年できました
イタリーと連合國との間の條約によりまして、
トリエストのステータスというものは
はつきりときまつておるのであります。
トリエストの憲法まで條約の附属文となつておるくらいに、
イタリーから取り上げられた
トリエストの地位というものは連合國間にきまつておるのでありますが、
アメリカはこれも
イタリアに返そうではないかという提議をして、
イタリアの輿論を自分の方にひきつけよう。また
イタリアがもし共産化したならば
マーシヤル・プランによる
イタリアへの援助ということはやめるというようなことも
アメリカは声明して
イタリアの共産化を防ぐべく努力をしたのであります。その他傳えられるところによりますと、
アメリカにたくさんおりまする
イタリアの移民を通じて、その縁故の者にいろいろ共産化を防ぐ運動をしたというようなことも傳えられておるのでありまするが、
イタリアの選挙は去る四日十八日行われまして、御承知の
通り共産党はあまり進出できなかつたのであります。
上院下院を通じまして投票数のそれぞれ三〇%、三一%程度に止まつたのでありまして、大体
イタリアの政局というものも一時安定した形になつております。しかしながら選挙の結果を詳細に見ますと、やはり
イタリアの共産党の得票というものは約八百万あるのでありまして、また
イタリアの
共産党員になつておる者が二百数十万ということが傳えられているのでありまして、選挙の結果政権を握るということはできなかつたのでありまするが、ともかく八百万の得票を得ているということは、やはり
イタリアにおける共産党の潜勢力というものは相当強いものである。
從つてイタリアの共産化について
アメリカのみならず西欧の諸國というものは非常な関心をもつておるということがうかがわれるわけであります。また
北の方フインランドに対する
ソヴイエトの進出につきましては、
フインランドの政府は非常な苦境に立ちまして、長い
間ソヴイエト側と交渉を重ねまして、結局
ソヴイエト側も
フインランドの立場を考慮いたしまして、
ルーマニア、ブルガリアその他の國と結んだ
相互援助條約とはなはだ性質の違つた非常に穏健な
相互援助條約と申しますか、
フインランドの立場を考慮した
相互援助條約を締結したのであります。たとえば
フインランドの出兵の義務というものは、
フインランドの土地が侵されない限り、そういう義務はないという点において、ほかの諸國との結ばれました條約とは
大分性質を異にしているわけであります。
なお
米ソ関係の惡化いたしました一つの原因は、西において
チエツコ問題、
フインランド問題が起つたと時期を同じくして朝鮮の問題が起つた、つまり朝鮮は今年の三月の末に
國際連合の指導のもとに
南北朝鮮を通ずる総選挙を
行つて独立政府をつくることが昨年の
國際連合の総会できまつておつたのでございますが、
國際連合の委員が今年の一月
以來朝鮮へ参りましていろいろ調査をいたします際に、
ソヴイエト側は北緯三十八度以北にこの
國際連合の委員を入れないのでありまして、結局
國際連合の企画した
南北朝鮮を通ずる総選挙というものは実行不可能になり、
國際連合の委員長が
中間報告のために
アメリカに帰りますと、
アメリカの飛行場へ着いたところで
受取つたニユースは、北朝鮮に
独立民主政府ができた。しかもその政府は二十五万の常備軍と申しますか、兵力を養成してもつている。こういう
ニユースだつたのでありまして、あたかも
チエツコの問題が起きていた当時でありますから、同じようなやり口でまた朝鮮にもこれが起つたということで、
アメリカは
ソヴイエトというものの出方について非常な警戒心をもち、輿論も硬化したように思われるのであります。
その後
イタリアの総選挙が済みまして以來、米ソの関係というものは多少小康を得た形になりまして、
イギリスの主導のもとに目下
西ヨーロツパの五箇國、
イギリス、
フランス、
オランダ、
ベルギー、
ルクセンブルグという五箇國の同盟ができまして、これがいろいろ会合を行い、また
アメリカの援助を要請しているのでありますが、
イタリアの総
選挙以來これらの動きもそれほど緊張したものとは見られないで今日に及んでまいつたのであります。專門家の言うところによりますと、今年の五月一日のメーデーにおける
ソヴイエト側と申しますか、共産党のスローガンというようなものも昨年と比べますと、
大分米英に対して協調的なことになつているというようなことも言つているのでありまして、やや小康を得たように見られておつたのでありますが、
アメリカ政府は五月の初めにモスコーに駐在する
スミス大使を通じまして
アメリカの
米ソ関係に対する見解というものを申し入れ、これを
ソヴイエトがこの五月十日に発表したことは御承知の通りであります。
アメリカは
スミス大使を通じて
ソヴイエト政府に送りました覚書の中で、
アメリカが現在の
外交政策を今後も実行していく、また
アメリカの今日とつている
強硬政策というものは、國内における選挙というようなものでは影響されない、同時に
アメリカの経済がいずれパニツクがくるというようなことを言う者があるが、何らそういう心配はないのであつて、結局
アメリカと
ソヴイエトとの関係というものが惡化している現在の状態というものは、
ソヴイエトが
東ヨーロツパの隣國に圧力を加えていることが原因となつて招來されているのである。しかしながら
アメリカとしては
ソヴイエトに対して何らこれを損う意図はもつておらないのであるから、両國関係の改善の途は開いているというような趣旨を覚書として申し入れたのであります。これに対して
ソヴイエト側は、五月九日に
アメリカと
ソヴイエトの交渉を開始して両國の關係を改善しようという
アメリカ側の提案には同意する、しかしながら現在の
米ソ関係が惡くなつている。それは
ソヴイエトの行動の結果だという
アメリカ側の見解には
ソヴイエトとしては同意できない。
ソヴイエトは今後とも東欧諸國との関係を一層強化していく方針である。
アメリカの方はソ連をめぐるいろいろな所に基地を得ているが、これは自衞上の方策とは見られないじやないかというようなことを語りまして、しかもその両國の話合いというものが極祕の話合いであつたにもかかわらず、
ソヴイエト側は外交上の慣例を無視いたしまして、一方的にこれを発表いたしたのであります。発表いたしたばかりでなく、
ソヴイエトの國内においても非常に宣傳をいたしまして、
アメリカ側があたかもひざを屈して
ソヴイエト側に
米ソ関係の改善を申し入れてきた、こういう印象を國内に與え、同時に今日
西欧國家間の同盟をつくり、
アメリカの援助を得て
西ヨーロツパと
ソヴイエトと対抗しようとしております
イギリス、
フランスその他の諸國に対して、
アメリカは
自分たちを拔きにして
ソヴイエトにこういう話をもちかけている、けしからぬという疑心暗鬼を起させるような結果になりまして、
アメリカ側としても、この
ソヴイエト側が
米ソ関係に関する覚書を発表したことに関して、またさらに声明を出すというようなことが今繰返されております。また
アメリカの覚書をよく見ましても、今ただちに
米ソ関係を改善するための
國際会議ないし首脳者の会談を提議しているというようなことはないのでありますが、
ソヴイエト側がそういうふうにとつて発表したという点を、非常に意外としているのでありまして、ただいまのところこの覚書の交換によつて、ただちに
米ソ関係が打開されるというような形勢にはなく、むしろちよつとこの交渉も一頓坐を來して
しまつた。こういう形になつているのであります。しかしながらいずれにしても
アメリカの当局者が、
ソヴイエト側に対して自分の國の
外交政策なり見解なりを率直に傳えると同時に、
米ソ関係の打開のとびらは開かれているということを申し傳えたわけでありますから、今日
チエツコの
事件以來アメリカ議会において陸軍や空軍の拡張案が討議されているのでありますし、その他いろいろ
米ソ関係の緊迫を傳える材料が多いのでありますが、両國の首脳者間には、さらにいろいろな折衝も行われる途が残つているのではないかと考えられるのであります。
國際情勢の一切の問題はいずれも
米ソ関係に帰することができるのでありますが、これを離れて具体的に個々の問題について少し申し上げますと、先ほど申し上げました朝鮮の問題でありますが、朝鮮は
國際連合の当初の予定であつた三月に
南北朝鮮を通ずる選挙を行うということが実行できなかつたのでありまして、その後
極東委員会その他においてもいろいろ問題が討議されたのでありますが、結局五月十日に南朝鮮だけで選挙を行うということをきめまして、御承知のように、十日に選挙が行われたのであります。この選挙には共産党、右翼の一部その他の反対がございまして、済州島その他各地において
テロ行為等もあ
つた模樣でありますが、結局
アメリカの
ホツヂ司令官も発表しておりますように、満足すべき状態でこの選挙が
終つた模樣であります。選挙の結果につきましてはまだ公式に発表されておらないのでありますが、
大韓独立促成國民会、李承晩氏の率いるこの会が五十六名、
韓國民主党が二十八名、その他の小会派二十九名、無所属が八十二名というような結果になつているということが傳えられています。また
南北朝鮮間のいろいろの交渉につきましても、新聞等に傳えられるいろいろな問題がありまして、この選挙に先だちまして南鮮の一部政治家と北鮮の政治家との間に会議があつたりしたこともあるのでありますが、今日さしあたり問題になつているのは、北朝鮮から南朝鮮への電力の供給の問題であります。北朝鮮は前から南朝鮮に対する電力の供給を断つということを言つていたのでありますが、この十四日の正午にいよいよ南朝鮮に対する電力に供給を断つということを通告したのであります。
アメリカ側でも、前からこういう問題がございましたために、準備を進めておりまして、発電設備をもつた船を控えさせておりまして、南鮮に対する電力供給が断たれた一時間後にはもう公共施設への供給には差支えない程度に電力を供給している。こういうことが今さしあたりの問題になつているのでありますが、これは南朝鮮から北朝鮮に対する電力に対する支拂いが、
アメリカ側がドルで支拂うと言うのに対して、北鮮側では施設その他に要する現物で支拂つてくれということでもめている。また
アメリカ側が
ソヴイエトとこの問題を直接交渉をしようとするのに対して、
ソヴイエト側はいわゆる北鮮側には
人民共和國の政府があるからそれと交渉してくれというふうなことを言つて、なかなか交渉がめんどうになつているということがいわれているのであります。
次に
ヨーロツパにおきまして、ドイツが
ソヴイエトの占領下と英米佛の占領下に両分されておることは御承知の通りでありますが、昨年十二月の
ロンドン会議以來、ドイツとの講和條約の問題が当分望み薄になつてきた現在、どういうかつこうで個々の統治が行われているかということを簡單に申し上げますと、去る四月二十日から
ロンドンにおきまして英米佛の三國がドイツの
占領地域をどうするかということにつきまして非公開の会議を開いております。この会議でいかなることが討議されたかまだ詳しくわかつていないのでありますが、この会議には
ベルギー、
オランダ、
ルクセンブルグ——つまり英佛と
西欧同盟をつくつておる國もオブザーバーとして参加しておるのであります。今後
ヨーロツパの復興について、
西ドイツと
東ドイツとを統一した國家をつくるという方向にもつていくのを一時断念して、
西ドイツだけの形で
ヨーロツパの復興に参加さしていくということが、今日英米佛が考えておる大体の方向ではないかと傳えられておるのであります。
イギリスの
ロバートソン軍政官が最近、ドイツはドイツ全部の統一は当分期待できないから、
西ドイツは
東ドイツと遊離した形において一つの國家の形態ができることに
ドイツ人は満足しなくてはならぬと語つておる点でもうかがわれるのであります。これに対して
ソヴイエト側は
ソヴイエト側で、また
東ドイツの
占領地域を強化し、政策を強化するとともに、
ドイツ人の民心の把握ということをいろいろ考えておる模樣でありまして、
從來資本家、地主その他いろいろ企業等を取上げたのでありますが、これも今後は行わない、個人の財産をとらない、國有化は從來やつた以外はもう行わないというようなことを
ドイツ人に宣言しまして、
東ドイツだけで投票を
行つて一つの政府をつくるというような政策に出ておる模樣であります。これは
西ドイツの方におきまして、最近
西ドイツだけを一丸とした総選挙を行つて、首府をフランクフルト・アン・マインにおき、
西ドイツ政府をつくることに対抗して、
東ドイツの方でまた
ソヴイエトが
東ドイツ政府をつくり、
西ドイツをなるべくそれにひきつけよう
——ちようど朝鮮において
ソヴイエトが北鮮の政府をつくり、これが南鮮に非常な力で働きかけておる。それと同じ方法でもつて
東ドイツ政府をつくり、
西ドイツをなるべくひきつけよう、こういう政策に出ておることが傳えられておりますが、まだこれについては詳細なことはわかつていない形であります。
次に中國の問題を簡單に申し上げます。中國では
國民大会が今年の三月末に行われまして、蒋介石氏は自分は総統になることを辞退するということを申し出たのでありますが、総統の権限を相当拡大いたしまして、蒋介石氏も遂に選挙されるということを承諾しましたために、大多数をもつて総統に選挙されたのでありますが、続いて行われました副総統の問題につきましていろいろ紛糾がありまして、國民党の主流が孫科氏を推したのでありますが、孫科氏と李宗仁、程潜、この三氏の得票が非常に接近いたしまして、三回副
総統選挙をやつてもなおきまらなかつた。その間に
國民党内部にいろいろなグループの策動等がありまして、孫科氏も辞退をする。李宗仁氏も辞退をするというようなことがあつて、一時どうなるかといわれていたのでありますが、結局李宗仁氏が副総統に選挙されまして、國民党の主流の支持のもとに立つている孫科氏を破つたということは、やはり
國民党内でいろいろな対立があることを示しているといわれているのであります。
なお中共軍と
國民政府軍との戰況につきましては、さきに一月にも申し上げておいたのでありますが、今日では満州の九九%が中共軍に押えられて
しまつたのであります。最近は長春が攻撃されておりますし、奉天も圧迫されております。また中國の本土の方では河北、大同、張家口、山東方面にも中共軍の勢力が非常に殖えてまいりました。延安もすでに四月二十一日に
國民政府軍が撤退した、結局
國民政府軍は黄河以南において防禦する、こういうような態勢になつておるということが傳えられているのでありますが、同時に蒋介石氏は今後六箇月以内に華北から中共軍を追拂つてみせるという声明を行つているのでありますが、いろいろ困難のあることはすでに御承知の通りであります。
また
アメリカに対しましていろいろな
ミツシヨン等が参りまして、
國民政府に対する援助を懇請してお
つた模樣でありますが、
アメリカは四億六千三百万ドルという借款を議会で可決いたしまして、これを中國の援助のために充てることになつたのでありますが、
國民政府としては目下最も必要なのは、
アメリカ政府の
軍事的援助でありまして、この
軍事的援助については
アメリカの
トルーマン大統領もこれを行わないということは言つておらないのでありまして、その可能性は示しているのでありますが、この四億六千万ドルの借款の場合においても、
経済援助ということだけを言つているのでありまして、中國としてはなお一層の援助を得るために努力をしておるのではないかというふうに傳えられてるのであります。
なお
アメリカにおきましては、御承知のようにボゴタにおきまして三月
以來汎米会議が開かれておつたのでありますが、時を同じくしてボゴタにおきまして暴動が起りましたために、この会議が一時中絶されまして、四月の十四日からもう一遍この会議が再開されたのであります。議題の一番おもな問題でありましたラテン・
アメリカに対する
経済援助問題につきましては、結局今年の末ごろにブエノス・アイレスで
経済会議を開催して細目の討議を行う、今回の会議では單に基本的の問題の審議に止めるということで
終つたようであります。そのほか
米州機構憲章というものの採択が行われたのでありますが、從來の
汎米連合というものを再組織しまして、
國際連合憲章のわく内における西半球の
地域的機構の確立ということを目的とした一つのチヤーターが採択された模樣であります。
大体去る一月以來の
國際情勢のおもなる問題はこの程度でありまして、まだこまかい点は多々ございますが、これは省略いたしまして、最後に対日講和條約の問題はどうなつているかということを簡單に申し上げたいと思います。対日講和條約の問題は、一月に本委員会で御説明申し上げました通りに、手続上の問題のために連合國側で意見が一致しない、その上に対独講和條約の問題が昨年末の
ロンドン会議で決裂してしまいまして、それ以來公に連合國側の交渉の材料になることはなく、今日に及んで
しまつたのであります。その間に米國の対日経済自立を援助するという政策が着々実行されてまいつたことは、御説明するまでもなく御承知の通りでありまして、これが対日講和が遅れている一面を現わしているものであるという印象をもたれておつたのでありますが、最近二、三この対日講和條約問題が取上げられた例がありまして、その第一は中國であります。中國におきましては、四月中旬に、
國民大会が対日講和に対する政府への勧告というものを決議して、政府に建言いたしたのでありますが、中國としてはやはり從來通り、
アメリカ、
ソヴイエト、
イギリス中國の四大國が拒否権をもつた講和会議でなければいかぬという、この方式を堅持する。また講和会議の会議地としては中國でやるべきである、こういうことを主張しておるのでありますが、その他に條約の内容といたしまして、天皇制を廃止する、工業水準を一九二八年から三〇年くらいに止めておく、賠償の総額の五〇%は中國がもらうべきだ、また今後五十箇年間日本を連合軍が管理すべきだ、また連合國側はこの講和條約をつくつた、後に條約実施の保証を相当嚴重にとつておかなくてはならぬ、こういうようなことを
國民大会の外交委員会が採択し、同時に
國民大会もこれを採択し、政府に建言したのでありますが、政府当局の方はまたこれは別でありまして、四月十四日に王外交部長はその外交演説におきまして、日本の軍國主義再興に対する一つの防止の保証があれば、今日
アメリカが行つている対日経済復興政策に反対しない、こういうことを声明しておりますし、また
アメリカの政策に対しまして、その他の
國民政府首脳部の態度も協調的になつたということが傳えられているのであります。また昨年の末に蒋介石氏も、日本に対して行き過ぎた警戒心をもつことは不可であるということを訓戒しているのでありまして、最近の中國と
ソヴイエトの関係、
國民政府と中共軍の関係というものから、中國の
アメリカに対する接近の空氣が濃くなつているということが傳えられておりますために、政府当局の対日態度と申しますか、
アメリカの対日経済政策に対する批判の態度ないし講和條約に対する態度というものも、
國民大会で決議されたようなこういうものとは、また別の方向に向つているというふうに思われるのであります。また
イギリスでは先月の十二日に議会におきまして、一体対日講和條約はどうなつているのかという質問が出まして、
イギリスの外務次官は、日本との講和條約の問題については、一切の問題について英連邦の各國間で緊密な連絡をとつている、また
アメリカとも緊密な連絡をとつているのだが、今日のところ、日本の武装解除、非軍事化というものは満足すべき状態にあると思うというようなことを答弁しているのであります。それから濠州におきましては、
外務大臣のエヴアツト氏は最近下院におきまして、大國間の一般的な危惧が除去されたならば、日本との早い講和ということも適当であろうが、ただまだ十分信用のおけないうちにあまり早く日本の再武装を行わせるようなことを
アメリカ当局が考えていたならば、これは濠州にとつて重大問題だ。日本は東洋の経済的な工場になる権利は與えられても、兵器廠になるような権利は許してはいかぬというような非常に警告的な演説をしておりますし、また講和條約の内容についても、日本の生活水準は日本が侵略して荒した太平洋諸國の水準より高くてはいかぬというようなことを述べておる模樣であります。最近
ヨーロツパ連合の討議のために
ロンドンで会議が行われておりますが、その会議の後に引続いて対日講和の問題について非公式に話合わなければならぬということが外電等に傳えられておるのでありますが、これも未だ
はつきりしたことはわかつておらないのでありまして、その他においては日本の講和條約締結が促進されるというような氣運は今日のところ見受けられない、こういう状況であります。はなはだ簡單でございましたが、一應御説明といたします。