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参考人(
伊藤隆敏君)
参考人としてお招きいただき、ありがとうございます。
コロンビア大学及び
政策研究大学院大学教授をしております
伊藤隆敏です。本日はよろしくお願いいたします。
お手元に
パワーポイントを紙に落としたものが配付されていると思いますので、それに基づいて御説明をしたいと思います。なお、
河合参考人の
お話とダブるところはなるべく省いて先に進みたいと思います。
まず、
概要ということで、そこに主な項目を立てておりますが、
河合参考人とダブるところは明らかですので、先に進むように話をしたいと思います。
一枚めくっていただきまして、
AIIB構想の経緯ということですが、
最初に
構想が打ち上げられたのは二〇一三年十月でありまして、そのときはもうざくっとしたものしか出ておりませんで、
北京に
本部を置いて、
中国人が
総裁で、
規模は一千億ドルということで、
中国が五〇%まで出資する用意があるということで、もう
概要を先に
中国が決めた上で、言わばこの指止まれという形で
参加者を募るという形を取りました。
一四年十月で、まだ
設立に参加するといったのは二十一か国だったわけですが、この
時点では、本当に
設立できるのかという懐疑的な
意見が非常に強かったと思います。ムードががらっと変わったのが、今年の三月中旬になりましてイギリスが
参加表明をして、その後、ドイツ、フランス、イタリア、
韓国、
オーストラリアと、次々に
交渉参加ということを表明したということで、何となく、逆に今度は日、米、カナダが取り残されたという印象が残ったわけです。
今後の予定については、先ほど
河合参考人が述べたとおりです。
次の
中国の
設立意図ということですが、これは、
河合参考人がここが一番重要だというふうにおっしゃったところでありますけれども、多少推測も含めて事実をまとめてみますと、
河合参考人も述べたように、
GDPで
世界第二位なのに
国際金融体制では
世界第二位の地位を与えられていないじゃないかという疑問が、疑問というか
不満が
中国にはあるだろうと。
それから、
欧米中心、ドルとユーロで
金融体制ができているわけですけれども、これに対抗する
人民元を
中心とした
自分の
金融体制をつくりたいということを考えているように見えると。それをコントロールするという
意味では、
本部と
総裁を取ることが非常に重要だというふうに思っているようだと。これは、
世界銀行が
アメリカに
本部があって、
アメリカ人がずっと
総裁をやっていることを引き直してみると、じゃ、
自分たちが何が重要かと思うと、やっぱり
本部と
総裁を取ることだというふうに考えているように見える。
それから、
シルクロード基金、
BRICS開発銀行、
人民元の
国際化などなどを全部勘案して考えると、やはり
中国中心の
一つの
体制というものを
アジアに築きたいと思っているようだと思われます。
これを打ち出した
タイミングというのは、私は政治的な
タイミングとしては非常に絶妙な
タイミングを取られたということだと思います。
一つは、
河合参考人も触れられましたけれども、
アメリカ議会が
IMFにおける
中国の
投票権の
拡大というものをブロックしていると。これは後ほど表で示します。したがって、
アメリカが
負い目がありますから余り強く反論できないだろうという
タイミングであると。それから、
アジアの
インフラ投資の
必要性、その額の大きさということについては
世銀も
ADBもここ数年強調されて、
河合参考人もそういったレポートを書かれていると思いますけれども、したがって、
必要性があるという認識が広まっていると。この
二つの
タイミングを捉えて
中国が
一つの大きな仕掛けをしてきたということだと思います。
一枚めくっていただいて、これが
国際金融体制の
転換点になるかどうかというのは、まあ歴史ですから今後の
発展を見なきゃいけないわけですけれども、やはり
中国がこういったものを打ち出しても、表立ってはこんなのはけしからぬといった声は聞かれないんですね。そういう
意味では、既にもう
中国の
意図というのは半分ぐらい達成されていまして、
中国の
発言権の
拡大ということについてはこれからどんどん進んでいくだろうということが推察されます。
先ほど言いました
IMFにおいて何が起きているのかということですけれども、そこに
IMFの
設立時から最近時までの
出資比率の推移が書いてあります。
日本が第二位になったのは一九九〇年なわけですけれども、
増資が発効したのが九二年。
日本が
世界第二位の
経済大国になってから、しばらくたってからようやく
出資比率で二位になって、常に
経済力の変化に遅れて
出資比率が変わってきたわけです。
日本は長年、もっともっと
出資比率を高めてくれということを言っていたわけですけれども、なかなかそれが、特に
ヨーロッパの反対で実現してこなかった。
あるいは、更に六%台から上を目指すというのができないうちに今度は
中国がどんどん下から追い上げてきたということで、今、
IMFの
総務会では
決定されたけれども
各国の批准ができていないという未発効の第十四次
増資というところで、
中国がそれまでの第六位から第三位に躍進するということがそこで決まっているけれども、発効していないと。これをブロックしているのが
アメリカの
議会になるわけで、これが先ほど言いました
アメリカに
負い目があるということの表になっています。したがいまして、
中国はここをうまく捉えたということであります。
一ページめくっていただきまして、ここから先の議論は余りマスコミでまだ出ていないんですけれども、まず、そもそも
国際機関として
開発銀行なのか
投資銀行なのかと。
名前からいって、
AIIBというのは
アジアインフラ投資銀行なので、
開発ではないということは
中国も
最初から意識しているらしい。じゃ、
開発銀行と
投資銀行で何が違うのかということでありますけれども、先ほど
河合参考人も触れられたように、
開発銀行というのは、
貧困の
削減であるとか
環境であるとかそういったことで、非常に包括的な
経済開発を助ける
銀行という国際的な
仕組みであるということであるのに対して、
投資銀行というのは、
投資案件、多くの場合
インフラ投資になるわけですけれども、そういった
投資を
仲間内で助けましょうというような
仕組みであるというふうに位置付けることができると思います。
ちょっとページまたいでしまったんですけれども、そこに
世界の
開発銀行一覧というのと
世界の
投資銀行一覧というものを並べてみました。
開発銀行というのは、よく知られている
世界銀行、
アジア開発銀行、
米州開発銀行、
アフリカ開発銀行、
欧州復興開発銀行と、これが
規模も大きいですし、よく
開発問題では非常に重要な
役割を果たしていると言われている
銀行です。
理事会というところ、これは
河合参考人も強調された、
理事会というのが必ず常駐しています。これは
本部に
理事会が住み込んで、そこで日々スタッフと話をしながら
融資案件等を審査しているわけです。もう
一つは、
出資国側というのは多くの場合
先進国が
中心で、
所得の高い国が
所得の低い国の
開発を助けるための
機関であるというのが明確になっていると思います。
アメリカは、
世界銀行ではもちろん一位ですけれども、
アジアでも
ヨーロッパでも
アフリカでも、かなり大きな
発言権を持っています。
これに対して、一ページ先のところにあります
世界の
投資銀行一覧という方は、余りなじみのない
名前が並んでいると思うんですけれども、
欧州投資銀行、
アンデス開発公社、
黒海貿易開発銀行、
イスラム開発銀行、
カリブ開発銀行と。これは何かというと、
地域の
仲間内が集まって、お互いに金を貸しながら
開発プロジェクトを助けましょうということで、それは主に
域内の国だけで、その
仲間内で集まってやっている
投資銀行であると、
名前は
開発と付いているものもありますけれども。その
共通項は
理事会が非常駐であるということなんですね。つまり、
理事会は、まあ月に一回ぐらい集まって話はするけれども、ほとんどの場合に、幹部とかスタッフが決めたことを後追いで承認するだけということのようであります。
なぜ私がこれに気が付いたかというと、ある
ヨーロッパの人と話をしていて、どうも
中国からアプローチがあって、この
欧州投資銀行をモデルに
AIIBを構築したい、ついては
欧州投資銀行はどうなっているか教えてくれというようなアプローチがあったというようなことで、ああ、そうだったのか、
開発銀行を目指しているわけではないのかなと。
そうするといろんな話が腑に落ちまして、非常駐にこだわるとか、あるいは
総裁に一任するとか、
投資案件については
総裁に委任するということが多いというようなことが
投資銀行であれば説明が付くのかなと。
開発銀行だと言った途端に非常にハードルが高くなって、
環境だとか
貧困であるとか、そういうところまで考えなくちゃいけないので、いや、これはもう
投資銀行です、
仲間内の
投資を助け合うだけの
仕組みですということであれば話としては分かりやすい。なぜ
中国が非常駐の
理事会にこだわるのかというのも分かりやすいし、
インフラだけですというのも分かりやすいと。
そうだとすると、
AIIBを見る目も、そういうものなんだ、
仲間内で
インフラだけを考えて、その
投資案件だけをやるものだというふうに考えると、そこから対応というのが決まってくるというふうに思うんですね。あるいは、逆に
中国があくまでもそういう
国際機関として考えるのであれば、それなりの
ガバナンス体制というのが要求されるというふうに思います。
時間が短いので、次の
ADBと
AIIBの参加国比較というのは飛ばさせていただきます。
その後に、比較表EIBについてというのは、先ほど言いました
欧州投資銀行、これも余り我々にとってはなじみがないもので、
日本は参加していないわけですけれども、
欧州の中で、EUの中で
投資を助ける
機関としてそこにあるわけですけれども、これも、
関係者から話を聞いたところでは、
投資案件というのは
本部で決めていて、ほとんど理事が精査しているということはないという話を聞きました。
次に、
AIIBの構造と
問題点、これは
河合参考人のところと少しかぶりますけれども、私は、やはり
出資比率で
中国が一位になることを
最初から仕組まれている、つまり、
域内国と
域外国で七五%、二五%というのを、その枠組みを決めた
時点で、誰が決めたかといえばこれは
中国が
最初に決めたわけですけれども、この
時点でもう
中国が一位になるというのが確定しているわけで、
アメリカが参加しようと、先ほど
河合参考人が言ったように、
欧州との間を食い合いをするだけです。
日本が参加しても、残念なことに
日本の
GDPの
規模というのは
中国に比較して非常に低いですから、
域内国で
中国が圧倒的になるというのは分かっています。したがって、これはもう
出資比率からいって
中国が一番で、
本部も
総裁も取るというのがそこで決まってしまっているという点が第一点。
それから二点は、やはり
理事会が
本部に常駐しない、これは
中国が非常にこだわっています。という
時点で、既に
案件の審査等は非常に甘いものになるだろうということが予想されます。理事というのはほとんど審査には関われないということになると思います。
三番目、
融資案件、それから条件、これはこれからの話ですので懸念というところにとどまりますけれども、
中国の
国内のプロジェクトに貸すことになるかもしれないし、あるいは
中国が地政学上重要だと思う国の
インフラ投資に貸していくと。第一号
案件がパキスタンであると報道されていますけれども、もしそうであれば、先ほど言った
シルクロード基金と共同であちらの方にどんどん貸していくというようなことかなというふうに思っていますので、これは、
中国の
意図を反映したプロジェクトがどんどん採用されていくという懸念が非常に強いと思います。
もう
一つの
問題点が、
既存の
国際機関、つまり
ADB、
世銀と、ある
意味、貸出し競争、条件の緩い貸出し競争になる
可能性があるということで、この辺が
世銀、
ADBは、いや、協調
融資にしましょうと言っているわけですけれども、協調
融資と言った途端に審査
基準というのは
ADB、
世銀の方になりますので、これはベストプラクティスということですから、そちらに本当に
中国がイエスと言うのかというところが甚だ疑問だと思います。
ベストプラクティスというのは、先ほど
河合参考人も使われましたけれども、これが
世銀、
ADBがやっているような形でやりましょうという
意味なわけですが、これについて
中国は既に、そういったベストプラクティスはないんだと、もしベストだったら別に新しい
機関をつくる必要はないという非常に挑戦的なことを言っておりますので、そういう
意味では、初めは協調
融資で始めたにしても、ある
時点からは
中国の
基準で貸していくということになる
可能性が非常に強いと思います。
最後のページでありますけれども、私は、そういったことから、これは
中国が
中国の
意図を実現するための
銀行であるという
可能性が非常に強いので、そういうところに
日本が特に参加してその実現を手助けするという必要はないというふうに思いますので、
創設メンバーにならなかったということも正しい
選択であったと。
外にいて、
投資銀行なの
開発銀行なの、本当に
ガバナンスをきちんとする気があるのないの、
理事会は常駐するのしないのということをきちんと詰めていって、もし万が一、
中国がベストプラクティス
開発銀行を目指すというのであればそのときに参加すればいいと、このように考えております。
以上です。