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参考人(
西川純子君)
西川純子でございます。
アメリカ経済史を専攻しております。
本日は、
防衛省設置法の
改正案につきまして、特に
防衛装備庁新設の項目に的を絞って私の思うところを申し上げたいと思います。
防衛装備庁とは、
自衛隊が
使用する武器の
調達を一元的に行う
組織のことであります。このような
組織が今、
防衛省の外局として法制化されようとしております。これと一昨日から国会で本格的な議論が始まった
安全保障関連
法案は決して無
関係ではありません。専守
防衛の
自衛隊が積極的平和主義のスローガンの下で海外での活動を展開するようになれば、
自衛隊が
使用する武器も質的、量的に変化せざるを得ないわけであります。
防衛装備庁には、新たな事態に備えて、必要な武器を
計画的に
調達するミッションが与えられております。その
意味で、本
法案は、注目度においては
安全保障法案に劣るようでありますが、重要性においては決して勝るとも劣らないものがあると思います。
防衛装備庁が新設される狙いの第一は、武器の
開発、
生産、購入、販売、これを一元的に
管理することであります。
第二の狙いは、
防衛産業基盤の
育成です。
防衛省が
予算を獲得し、
防衛装備庁がこれを効率よく配分する過程で、
日本の
産業は急速に
軍事化することでありましょう。
防衛省と武器
生産の契約を結ぶ主契約
企業はもとより、下請契約
企業にも
大学などの
研究機関にも
軍事予算があまねく行き渡るようになります。そして、造り過ぎた武器は海外へ売ると。そのために武器輸出三
原則は既に廃止されました。これは、
日本が自前で武器を
開発し、
生産できる
体制づくりへ向けて、法整備が着々と進められているということを
意味すると思います。
この先に見えるのが軍産複合体です。軍産複合体、ミリタリー・インダストリアル・コンプレックス、これは
軍事的な
組織と
兵器産業の結合
関係を示す言葉であります。この言葉を
最初に使ったのは、御承知のとおり、
アメリカの
大統領アイゼンハワーでした。一九六一年一月、
大統領職を辞するに当たって、彼は次のように述べております。
政治を行うに当たって、我々は、軍産複合体が、好むと好まざるとにかかわらず、不当な
影響力を手中にするのを防がなければならない、このような結び付きの重みが我々の自由や民主主義的な
手続を脅かすことのないようにしなければならない。
アイゼンハワーが軍産複合体という言葉を誇らしげに使っているのではないことは明らかであります。彼はむしろ、軍産複合体が強大な勢力になることを恐れ、それが自由と民主主義を脅かすことのないよう監視し続けることを後継の
大統領と
国民に託したのであります。
これを受けて、ケネディ
大統領は、国防省に
文民コントロール
体制をしきました。彼がフォードから引き抜いた
マクナマラ国防長官は、武器の選定、発注の権限を国防省に集中しました。彼はまた、入札
企業を競わせることによって
兵器の
生産に経済合理性を導入しようとしました。しかし、このような改革は、
軍部に代わって国防省が軍産複合体の主導権を握るという結果に終わりました。
アメリカの軍産複合体が弱体化の危機にさらされたのは、冷戦が終わったときのことであります。一九九三年に登場するクリントン政権は、九七年までに
軍事費を三〇%減らし、
兵器調達費を五〇%減らす必要に迫られました。クリントンが行ったのはボトムアップ
政策であります。必要な武器のリストを作りまして、それを
生産する少数の
兵器企業を選びました。ほかの
企業は民間の
産業に転換すればいいとしたのです。軍から民への
産業転換であります。
しかし、軍産複合体から
企業を引き離すのは容易なことではありませんでした。彼らは何とかして軍産複合体に残ろうとして、
企業同士で合併したり、買収や吸収に応じたりして、少数の巨大な
企業による寡占
体制をつくり上げました。一九九三年から九七年までの間に、十九あった
兵器企業は五社になりました。ロッキード・マーチン、ボーイング、レイセオン、ノースロップ・グラマン、ゼネラル・ダイナミクス、この五社で国防省の契約の三〇%を占めております。この状態は今日に至るまで変わっておりません。
独占力を強めた
兵器企業は、国防省に対して強い
立場に立つようになりました。例えば、ロッキード社は戦闘機F22とF35の
生産を独占しておりますが、国防省は、ロッキードが幾ら値段をつり上げても、どんなに納期を遅らせても文句が言えないのであります。それは、ロッキードのほかにステルス戦闘機を
生産できる
企業がないからであります。
武器の輸出についても、
企業の主張が通るようになっております。その良い例がF35の共同
開発であります。国防省はさすがにF22については輸出を
許可いたしませんでしたが、F35については、ロッキードが八か国との国際的な共同
生産体制をつくることを認めました。いかにも
開発段階から参画させるように見せかけておいて、ロッキードの真の狙いは、資金の
調達と市場の
確保であります。肝腎のステルス
技術はロッキードの手に握られたままです。
日本は、武器輸出三
原則があるために共同
生産の参画には遅れましたが、イスラエル、韓国と同じく、F35の購入は許されました。しかも、
日本の場合には、F35の最終組立てと検査のための
生産ラインを建設することが許されるという特権が付いております。これによって、
日本の軍用機
生産技術と
生産基盤は飛躍的に発展するでしょう。今回の
法改正はこのような動きと決して無
関係ではないはずです。
アメリカでは、二〇一一年から武器輸出が増えております。
その理由の一つは、二〇一一年に成立した
予算制限法です。
予算制限法がオバマ政権に
軍事予算も聖域としない財政の強制削減を迫ったために、
兵器企業は輸出に活路を見出そうとしております。
もう一つは、オバマ政権が掲げるリ
バランス政策であります。リ
バランスは、アフガニスタンとイラクの
戦争が終わった後の
戦略の見直しを
意味しておりますが、中でも力点が置かれているのがアジア太平洋地域で、この地域に二〇二〇年までに
アメリカ海軍力の六〇%を集中させようというものです。
この地域で既に
アメリカと同盟
関係を結び、
アメリカの基地や
軍事拠点を受け入れている国は、
日本、韓国、フィリピン、タイ、オーストラリアの五か国でありますが、リ
バランスは、これにシンガポール、マレーシア、ベトナムを加え、さらにインドとパキスタンなどインド洋周辺の国を加えて、アジア太平洋の全域において
アメリカ軍のプレゼンスを高めようとしております。
このアジア太平洋地域に
アメリカは武器を売りまくっているのであります。ノーベル賞を取ったオバマ
大統領も、リーマン・ショックから経済を立て直すために武器輸出を応援する
立場に転じました。この結果、二〇一三年以降は、アジア太平洋地域向けの
アメリカの武器輸出は、中東向けのそれを上回っております。リ
バランスが武器輸出の拡大を
意味する限り、
兵器産業にとってオバマを見限る理由はありません。しかし、オバマの存在が武器輸出の拡大を妨げるようなことがあれば、容赦なく彼を退けるでありましょう。
クリントンの時代以来、
アメリカの軍産複合体は最高の発展
段階に入ったと私は思います。それはアイゼンハワーが恐れていた軍産複合体が現実のものになったことを
意味します。アイゼンハワーが望んだように、自由と民主主義が軍産複合体の力を抑えることができるでしょうか。
アメリカの議会にまだチェック
機能が残っていることを期待するほかありません。
アメリカの例で明らかなように、軍産複合体が社会に根を下ろしてしまったら、よほどのことがない限り、これを取り除くことは不可能であります。それは
戦争と永遠に縁が切れない社会を
意味します。
日本でも、満州事変に始まり、太平洋
戦争に至った過去の
戦争を牽引したのは軍産複合体でありました。敗戦によって、
日本の軍産複合体は解体しました。我々は、新しい
憲法の下で
戦争と縁のない社会に生きる切符を手に入れたのであります。せっかく手に入れた切符を手放して、平和を脅かす軍産複合体の復活を再び許す法があるでしょうか。有名な言葉があります。
歴史は繰り返す。
最初は悲劇として、二度目は喜劇として。この言葉を肝に銘じたいと思います。
結論的に言えば、
日本に軍産複合体を許す流れを促進するような
防衛装備庁の設置は不要であると私は
考えます。
以上でございます。