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公述人(
永濱利廣君)
第一生命経済研究所の
永濱でございます。この度はこのような機会をいただきまして、誠にありがとうございます。
私はかねてから、
日本の
財政健全化のためには、まず
デフレ脱却、
経済成長、これが最も重要でありまして、そういった観点から
プロビジネスな
政策、これをいかに進めていくかということが重要と考えております。そういった考えの下、お
手元の
資料に、
アベノミクスの現状と
課題という
資料を基に、僣越ではございますけれども、これまでの
アベノミクスの
評価と今後の
課題について御説明させていただければというふうに考えております。
では、早速本題に入りたいと思います。
一枚おめくりいただきまして、まず
アベノミクスの一本目の矢から御説明させていただきたいと思います。
こちらにつきましては、私、個人的には大いに
評価をしているというところでございます。実際に
足下までの
株価の
水準が表しているとおりなんですけれども、これについていろいろな
意見がございます。
アベノミクスの第一の矢は
関係ないとかという話もあるんですけれども、実際に、お
手元の
資料の
左側の
グラフを御覧いただきますと、
株価上昇のきっかけというのは、このグリーンの縦棒、いわゆる
衆議院の
解散発言、当時の
野田首相がされた
タイミングで急激にマーケットが激変しているということからすると、
紛れもなく大胆な
金融緩和の期待というところから円安、株高が始まっているということで
評価できるというふうに思います。
足下の
金融政策につきましては、今
日銀の方で、今年の年末までにマネタリーベースを二百七十兆円まで増やして
インフレ率を二%に持っていくと、そういったような目標を掲げているわけでございますが、強いて
課題を挙げるとすれば、仮に
日銀が
前提としている
インフレ率を下振れしてくるというような
状況になってきたら、やはりこれは積極的に
追加の
緩和をしていくという必要があると。さらには、まさに
足下で今
日銀がやっている大胆な
金融緩和というのはリーマン・ショック以降に
アメリカが既に実施をしておりまして、これも
アメリカですら
金融緩和、五年
程度必要だったということからすると、二〇一五年以降も
金融緩和が引き続き求められるのではないかというふうに考えております。
一本目の矢につきましては、
評価は以上でございます。
続きまして、二本目の矢、こちらにつきましては、私、個人的には非常に
評価が分かれているというところでございます。具体的には、まず第
二の矢ということで最初に打ち出されたのが、去年、
真水十兆円の
補正予算、これが打ち出されたわけでございますが、私、こちらにつきましてはやや
規模が大き過ぎたのかなというふうに考えております。
一つの理由といたしましては、やはり国債の増発が必要になってしまったということ、さらには、今年の四月から
消費税が引き上げられるという
タイミングの中で大
規模な十兆円の
補正予算、特に
公共事業が実施されるということからすると、逆に
消費税が上げられるこの四月から
公共事業が剥落することによって
消費増税の
悪影響を増幅してしまうと、こういったようなリスクがあったんじゃないかなというふうに思います。そういった
意味では、十兆円の
真水の
補正予算につきましては、若干ちょっと
規模が大き過ぎたのかなというふうに考えております。
ただ、それがやられてしまったという
前提の下で考えれば、今回打ち出されております五・五兆円の
追加の
補正予算、こちらについては
一定の
評価をしていいのではないかというふうに考えております。
といいますのも、既に
真水十兆円の
補正予算が進んでいて、これが何もやらないと、まさに先ほど申し上げましたとおり、
消費税を引き上げる
タイミングで
公共事業が減り始めて、場合によっては
景気の
腰折れにもつながりかねないという中では、今回の
補正予算、さらに、中身を見てみると、
公共事業のウエートは、あくまで私の計算でございますが、
金額でいうと二兆円は下回ってくるんじゃないかなということで、ほかにも
減税ですとか幅広い内容が含み込まれておりますので、ここについては
一定の
評価ができるのかなということでございます。
実際に
アベノミクス始まってから一年強たつわけですが、実際に、二
ページ目の
右側の
経済成長率のところを見ていただきましても、四
四半期連続で
プラス成長と。内訳を見てみますと、
民間需要、
公的需要、こういったところが
プラスになっているということで、
実体経済にも第一の矢、第
二の矢の
効果が出ているというふうに
判断できると思います。
そうなりますと、先行きの
経済を見通す上では、やはり今後の
消費増税の
影響がどう出てくるか、
景気がどうなるかということが問題になってくるわけですが、その点につきましては次の
ページを御覧いただきたいと思います。結論から申し上げますと、九七年のような
景気の
腰折れというのは避けられるのではないかというふうに考えております。
まず、今回の
消費増税の
負担増、この
金額を過去の
消費増税の
タイミングとの比較をしてみたものが三
ページの
左側の
グラフでございます。これを御覧いただきますと、前回の九七年度の
消費増税のときと比べて、当時は
消費増税以外にも
負担増がありました
関係で八兆円を上回る
負担になったわけですけれども、実は今回も
負担増の
規模でいうと遜色がないということでございます。
ただ、当時と大きく違うのは、やはり
景気対策を今回は打ち出しているということでございます。先ほども申し上げましたとおり、五・五兆円の
経済対策を打ったことによって、
公共事業、去年大きく出たわけですけれども、今年についても
名目ベースでほぼ横ばいぐらいで維持できるのかなと。それに対して九七年度のときには
公共事業が二・七兆円ほど減っているということからしますと、こういったところが
一つ大きな違いなのかなということでございます。
実際に
消費税三%上げたときの
マクロ経済への
影響というのを
右側の
グラフで
試算していますけれども、やはり
消費税を無防備に上げてしまうと、この青い棒
グラフにありますとおり、大きな
悪影響が出ることが想定されるわけですが、今回の
景気対策、
減税も含めて、
政府の
試算では一%の
押し上げ効果ということなんですが、私の
試算ですと〇・七%
程度と若干低くはなりますが、
消費増税の
悪影響を
緩和するという
意味では
それなりに
効果があるのかなというふうに
判断をしております。更に付け加えますと、九七年の当時と比べると、やはり
経済の
環境が大きく違っているということも
支援材料かなというふうに考えております。
次の
ページをおめくりいただきたいと思います。
アベノミクスについてはいろいろ光と影の
部分もあるかと思うんですけれども、
マクロ経済の
経済指標で見てみるとやはり
紛れもなく
効果が出ているということでございまして、例えば四
ページの
左側の
グラフでありますと、これは
日銀短観の
業況判断DIという
データでございますが、これにつきまして、これまでは、例えば
小泉政権のときの戦後最長の
景気回復、このときは実感なき
景気回復というふうに言われたわけですが、その
背景には、この
グラフの手前のところにあるとおり、いわゆる最大の
雇用の受皿である
中小企業の非
製造業、ここが
景気回復局面でも一度きりとも水面上に上がってこなかったと。ここが要因だったと思うんですけれども、今回につきましては二十一年十か月
ぶりに
プラスに出てきているということからすると、これは
紛れもなく
実体経済に大きな
効果が出ているのかなと。それを考えると、九七年のときと
経済環境は大きく違っていると。
さらにもう
一つ、
アベノミクスの非常に大きなポイントとしては、取りあえず
アベノミクスで去年は
企業の業績が上がりました。今年の
課題はいかに
企業業績が増えた
部分が
分配に回るかというところだと思うんですけれども、昨日の
春闘の
集中回答の結果でもお分かりいただけますとおり、近年まれに見る
賃上げが実現しそうであると。
実は、こういった結果というのは事前から予想されておりまして、具体的には、この四
ページの
右側の
グラフにありますとおり、
春闘の
賃上げ率の結果はまだ出ておりませんが、大体その
賃上げ率の結果と
連動性の高い
データというのが毎年一月の末に
労務行政研究所というところから発表されるんですけれども、この
データを見ますと、
水準的にいうと十五年
ぶりの
水準まで
賃上げ率は上がるというところからすると、いわゆる好循環という
意味での
分配というのも
それなりに出てきていると。
さらに、
余り報道では出ていないんですけれども、今年、来年度ですか、四月からについては、これまで公務員の給与の削減の
部分があったんですけれども、来年度からそれがなくなって元に戻るというところもありますので、マクロ的に見た
賃上げというのは結構行くのかなという、そういった面でも
消費税の
悪影響というのは一時的にとどめられるのかなというふうな
状況になっているということだと思います。
以上が第
二の矢までの
評価でございまして、第
二の矢はやや限定の
部分もありますけどおおむね
評価できるという中で、やはり個人的に、私はこれからの大きな
アベノミクスの
課題と考えておりますのが第三の矢、
成長戦略かと思います。こちらにつきましては、確かに非常に高い
岩盤規制等ありましてなかなか踏み込みにくい
部分ではあるとは思うんですが、今のところやはり踏み込み
不足と言わざるを得ないと。
特に
成長戦略でどういった
部分が重要かと考えますと、やはり、私、個人的には
ビジネス環境を整えるということが非常に重要と考えておりまして、そういった
意味では、かねてから
国内産業で指摘されている産業の六重苦、これをいかに解消するかというところだと思います。ここについて今後の
課題を指摘させていただきたいと思います。
まず、六重苦の
一つ目というのは異常な
円高ということだったわけでございますが、これにつきましては、第一の矢が今のところ非常に効いているということで、ほぼ解消されているということでよろしいかと思います。ただ、六重苦の
二つ目でございますね、こちらが高い
法人税ということなんですけれども、こちらについては、やはりこれから踏み込みが期待される
部分であるということだと思います。
五
ページの
左側の
グラフにありますとおり、これはもう既に御案内のことだと思うんですけれども、
法人税率非常に高いということでございます。やはり、国際的な、その平均的な
水準で見ますと二〇%台半ばということでございますので、この
部分については早急な引下げが求められるということでございます。
ただ、そうはいっても、
法人税を下げるということからしますと、私、個人的には、一方で、
法人税を下げると
経済の
活性化が進むことによって、
法人税の
減収分そのもの、全てをほかの財源で賄う必要はないと思うんですが、
部分的には、やはり
租税特別措置なんかを含めて一部財源確保することは必要だと思うんですけれども、今報道で出ているとおり、
配当課税の強化ですとか、そういったところまで
議論が踏み込んでしまいますと、まさにこれ、
アベノミクスの重要な
部分であるいわゆる
民間への活力ですとか
株価の上昇、こういったところに非常に大きなダメージを及ぼしてしまう
可能性がございますので、ここの
部分については踏み込んでいただかない方がいいのかなというふうに考えております。
続きまして、六重苦の
三つ目でございますけれども、こちらは
経済連携協定の遅れということでございます。
五
ページの
右側の
グラフにありますとおり、これは
主要国のいわゆる
貿易額に占める
経済連携協定を組んでいる国との貿易の割合を見たものでございますが、これは去年六月時点での
データですけれども、
日本はやはり
発効・
署名済みが非常に低いということでございます。ただ、一方で、
TPPを始めとしていろいろな
経済連携協定の枠組み、
交渉参加しておりますので、
交渉中のところは非常に増えているということでございますので、ここをできるだけ早急に
発効・
署名済みに変えていくということが必要になってくると思うんですが、ただ、特に
足下の
TPPにつきましてはなかなか難航しておりまして、その
背景には、やはり
アメリカが
中間選挙を控えているということもあって、なかなか
アメリカも折れないという
状況からしますと、こういう
状況の中で余り
日本が譲歩をし過ぎて
国益をそぐ形で早急な合意というのもかえって
悪影響になってしまうかもしれませんので、そういったところはしっかりとやはり
日本の
国益を最大化させるという形での
交渉が求められるというふうに考えております。
次が六重苦の
四つ目でございます。次の
ページをおめくりいただきたいと思います。
四つ目は、
労働規制が厳しいというところでございます。特に重要なのは、やはり
正社員の
解雇がしにくいというところだと思います。特に、
正社員の
解雇がしにくいというと、これを
解雇しやすくすると一見リストラが横行するような感じで捉えられる向きもあるんですが、むしろ今の
民間企業は
正社員が
解雇できないという、そういう下で
若年雇用の採用に非常に慎重になってしまっておりまして、これが
若年雇用の
収入面とか
所得面、
雇用面の悪化をもたらして、ひいては少子化に拍車を掛けていると、そういった悪循環だと思います。
解雇規制の
緩和をしたとしても、実際に本当に
解雇が横行してしまえばそういった
企業には当然優秀な人材は集まってこないわけでございますので、そういった
意味では、この
解雇規制の
緩和、これは早急に必要なことなのかなというふうに考えております。
ただ、そうはいってもなかなか難しい
岩盤規制でございますので、諸
外国のいわゆる
解雇規制が緩い国を見てみますと、例えば六
ページの
右側にございますとおり、特に言われているのがデンマークですとかオランダというところがあるわけですが、こういったところはやはり
解雇がしやすい一方で転職もしやすいと、そういう
環境が整っているということだと思います。そういった
意味では、今のところ
政策としては、転職するときの助成的な
政策は
金額が増えてはおりますが、さらに
職業訓練を充実させるですとか、あとは
失業保険の給付をちょっと厳しくしたりするとか、そういった形でのいわゆる積極的な
労働市場政策、これを並行的に進めていくことで、
解雇がしやすい
規制緩和、こういったことが求められてくるのかなということだと思います。
それからもう
一つ、
労働規制のところでいうと、ここは今、
日本の
公共事業の
効果が出にくいというところと結び付いていると思うんですけれども、やはり
建設労働者の
不足、これが非常に大きな問題となっているということだと思います。実際、六
ページの
右側の
グラフを御覧いただきましても、十年ほど前に比べて
建設業の
就業者は百二十万人減っておりまして、これから
日本人で
建設労働者を賄うというのは恐らく不可能だと思います。そういったことからすると、やはり
足下では
高度人材を中心に
外国人労働者の
受入れというのは進んでいるとは思うんですが、少しここの
規制を緩くして、もう少し
外国人労働者を幅広く受け入れるという
政策が求められてくると思います。
実は、これは
外国人労働者を増やすというところが
最終目標ではなくて、例えば二〇二〇年以降の
日本の
財政を考えますと、やはり
日本は将来的には
移民を受け入れないと今のままの
財政はもたないと思います。そういったことから考えますと、こういったいわゆる
外国人労働者の
受入れを広げる、さらにはオリンピックに向けて
外国人観光客を増やすという形で、
移民に対する国民の免疫というのを徐々に緩めていくことによって、将来的な
移民受入れ、こういった
議論が早急に出てきてもらうということを期待したいなというふうに考えております。
次の
ページをおめくりいただきまして、六重苦の
五つ目と
六つ目、これは
環境規制が厳しい、
エネルギーコストが高いというところでございます。
こちらにつきましては、いかに
エネルギーコストを下げるかという
意味では、やはり
足下で
天然ガスの
ジャパン・
プレミアム、こういった問題がありますから、ここの
部分をいかに下げるかという
意味では、もう既にいろいろなところから、シェールガスとか、いろんな
調達先の
多様化というのを進めておりますが、ここをもっと、
インフラ輸出の
トップセールスみたいに積極的に国が
交渉に前面に出ていくことによって
交渉力を上げていくと、一刻も早く
ジャパン・
プレミアムを解消するということが求められてくると思います。
さらには、
規制緩和の面では、やはり
発送電分離、
電力自由化。これ、二〇一七年からの
実施予定になっていますけれども、できるだけ早急に進めること。さらには、今
足下で安くなっている
石炭火力発電、これの
有効活用、これも求められてくると。実際に既に新設も進んでおりますが、今のところの実際の
稼働予定が二〇二〇年からということで非常に先になっていますので、これをできるだけ早められれば早めるということだと思います。
結局、
エネルギー政策につきましては、十二
ページの
右側の
グラフにあるんですけれども、やっぱりドイツが
一つ参考になると思います。脱
原発を打ち出しながらも
原発の停止というのは徐々にしていく中で、
石炭火力発電の比率を上げる一方で
再生可能エネルギーを増やしていくと、こういう
政策が非常に重要になってくるのかなということでございます。
以上申し上げましたとおり、
アベノミクスにつきましては、第三の矢、こちらにつきましてはまだ踏み込み
不足のところは否めないということだと思います。
一方、今週の月曜日に発表されましたとおり、
経済成長率、昨年十―十二月期、下方修正されまして、今年度の
経済成長率の達成の
可能性がほぼゼロとなったということでございます。これというのは、やはり改めて
経済政策に
安倍政権は軸足をより深めてやっていかなければいけないと、そういうシグナルだと思いますので、是非とも今後の
アベノミクスの推進、これが加速するということを願って、私からの御説明を終わらせていただきたいと思います。
御清聴ありがとうございました。