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井手参考人 慶應の
井手でございます。
本日は、このような
機会をちょうだいいたしまして、心より御礼申し上げます。
私の
専門でございます
財政学の見地から、以下四点ほど
お話をさせていただきたいと思います。
先ほど大変実務的な
お話がございまして、私は、その
意味ではやや一致しない点もあるかもしれませんが、理念でございますとか
ビジョンでありますとか、そういったことの
お話をさせていただければと考えております。
ややちょっと大上段な話から入りまして大変恐縮なのでございますけれども、
財政学の観点から申しますと、
財政の本質といいますのは、本来、
家族が担ってきたような
領域、この
領域のニーズを
社会全員で満たすことにございます。
家族というのは、
御存じのように、ともに悲しみ、そしてともに喜びを分かち合うような存在でございます。ラグビーではよくワン・フォー・オール、オール・フォー・ワンというふうに申し上げますけれども、
財政学の観点からいいますと、
家族あるいは
財政というのはオール・フォー・オール、すべてがすべての人のために喜びも痛みも分かち合う、こういったものが
財政の本質ではないかと考えております。
では、その場合に、
家族ないしは
財政が担ってきた
領域というのは一体何でしょうか。ややちょっと高尚過ぎる発言かもしれませんが、アリストテレスの「政治学」の中で大変興味深い言葉がございます。それは、財産を維持することではなく、人間の人間らしい暮らしを維持し改善することが
家族の役割である、こういうふうにアリストテレスは申しております。人間の望ましい
状態とは一体何でしょうか。それは、人々の生存そして生活が保障される社会ではないかと考えます。こういった
状況を実現することこそが
財政の役割ではないかと思うのでございます。
憲法の二十五条をひもとくまでもございません、生存の保障というのは中央
政府の役割でございます。これは、主に、生存を保障するという観点からは、現金による給付を行うのであり、弱者に対して再分配的な政策を行うということになろうかと思います。同時に、課税面でこれを見ますと、弱者への
配慮が必要となってまいりますので、累進課税を中心とした税制になってくるかと存じます。
他方、生活や暮らしの保障というのは、人々により身近な存在であるという
意味でも、あるいは先進各国の
状況を確認した上でも、これらは
地方自治体の責任となることは言うまでもございません。生活を改善するための
施策とは一体何か。それは対人社会サービスであり、
所得が多い少ないということとは
関係なしに、あらゆる住民に対してひとしくサービスを提供するということが求められてまいります。
ですから、
地方税の方も、国税とは異なりまして、累進制を設けるのではなく、あらゆる人に課税をする。これは
負担分任原則というふうに我々は申しますけれども、クラブの会費と同様でみんなで
負担をする、そのかわりサービスの受益はみんなに行き渡る、これが
地方財政の論理となってまいります。このように考えますと、もし今の
政権与党が生活が第一であるとおっしゃるのであれば、まさに
地方財政の役割、
地方自治の強化、この点を抜きに生活保障の実現はあり得ないと私は考えております。
やや理論めいたことが続きましたが、以下、この点を踏まえまして、今回の
予算に関する私の
意見を申し述べさせていただきます。
まずは、いわゆる
一括交付金、地域自主戦略交付金についてでございます。
理論的な観点から申しますと、現物給付は
地方であり、
現金給付は国であるという神野試案が示した画期的な
方向性がやや後退したことに対しまして、私は少々残念な思いをいたしました。これが実現できましたら、一九一八年、
政府が
地方の
財政に対して
財源を保障するという初めての試みであります、義務教育費国庫
負担金
制度の成立以来の画期的な大
改革になったのではないかと私は思っております。
しかしながら、そうはいいましても、今
年度の
予算で、箇所づけを廃止することでありますとか、あるいは省庁の枠を超えた、省庁の枠を外すような、そういった成果が得られたことに対して、私は深く敬意を表したいと考えております。
一層の
改革を今後期待することとしまして、幾つか気になっている点を申し述べさせていただきます。
アメリカの事例で考えますと、
一括交付金、こういったものが
制度化されるときには、必ず補助金の削減が
セットで
実施されております。裁量性が確保された結果として
予算の効率的な執行ができ、そして補助金が結果として減額されるということは歓迎すべきかと思いますが、
予算の削減を目的として、少なくとも総額を抑制するためだけに交付金化を行うというのであれば、それは大変な問題となってまいります。この点への
配慮が必要かと存じます。
また、そういった裁量性が高まるとしましても、
自治体の方での縦割り行政の弊害をまずなくさないことには、幾ら交付金で裁量性が高まっても、このことがこれまでと同様の
予算配分につながるかもしれないという懸念もございます。
また、第三に、やや細かい話になってまいりますが、公共事業の場合は、執行残というものが大体一割程度出てまいります。この執行残に対して、各省庁の枠を超えて資金の流用ができるのであれば大変使い勝手が上がるかと思いますが、結局は限られた範囲の中で執行残を使うということになってまいりますと、交付金の裁量性は余り高いものになってまいりません。この点への
配慮が今後必要になってくるかと存じます。
今後、
民主党の
方向性から考えますと、社会保障も含めた交付金化というのが進んでまいるかもしれませんが、本来、社会保障の
予算というのは、住民の監視が最も届きやすいものでございますので、交付金化をさらに超えて、税源移譲と権限委譲に結びついていくということが本来の筋であると私は思っております。
続いて、
子ども手当に関してでございます。
いわゆるチャイルドベネフィットに関しましては、子供を持つ親への
所得補償なのか、そうではなくて、子供の生存を保障するための
手当なのかということの区別が極めて重要ではないかと私は考えております。国家が両親の
所得状態によって子供の命の扱いを変えるということは決してあってはなりません。
そのような観点から見ますと、近年、
子ども手当に対する批判というのは大変多くございますが、あくまでも理念的な観点から申し上げますと、今回の
改正は極めて望ましいものと私は考えております。少なくとも、先進国の中では例外的であった
所得制限を撤廃したことは大きな前進であると私は考えております。
こういった見方から申し上げますと、
子ども手当は子供の生存保障というふうに位置づけるべきではないかと存じます。生存保障は、言うまでもなく国家の責任でございます。もしそうだとすれば、今
年度予算において、
子ども手当の部分に関して
全額国庫負担というふうな決断をなさったことに対しては、非常に高く評価すべきことと思われます。しかしながら、可及的速やかに
児童手当部分に関する
地方負担に関しても国庫
負担に移すことが必要ではないか、これは生存保障の観点から国家の責務として申し上げたいと思います。
あと、やや学問的な観点とは外れて恐縮なんですが、
自治体を調査していると、
子ども手当の天引きが意外と評判が高いことに驚かされております。これは、やはり子供
たちの
関係改善に資する側面が強いということでございまして、そういった観点からは、こういった細やかな
配慮が今後とも引き続きなされることを願っております。
最後に、
地方の税
財源の拡充について二つほど
意見を申し述べさせていただきたいと思います。
一つは、今回、基礎的
財政収支対象経費に七十一兆円の枠が設定されました。これは、
財政再建に対する
政府、
財政当局の懸命な努力の結果と
理解しておりますが、しかしながら、このような厳しい上限が策定されました結果、社会保障
関係費一・三兆円部分の増分に対しまして、
地方交付税とその他それぞれの経費で一・三兆円の減額をしなければならないということになってしまいました。今回、
地方の立場から申し上げれば、
地方交付税に対しまして、出口ベースの交付税は対前
年度比で資金が確保されているわけでありますけれども、入り口ベースで拝見をいたしますと、実は交付税の額が減っております。
今後の
予算編成におきまして今回一番大きな問題だと私が考えておりますのは、交付税を減らせば減らすほど他の省庁の
予算の減額分が少なくなるという構造が生み出されてしまったことであります。今後こういった対立が起きないように、少なくとも、交付税を減らせば各省庁の
予算がふえるでありますとか、交付税は減らすけれども臨財債をふやすでありますとか、
財政運営戦略にも掲げられておりますように、
地方の一般
財源総額の確保というのは大変重要な論点かと存じます。そのような
対応を切に願いたいと思っております。
最後に、
地方消費税について一言だけ申し上げたいと思います。
地方消費税と申しますと、一般的には、税収の偏在性の低さでありますとか安定度の高さということが指摘されますが、もう一点だけ、
地方税の
負担分任原則について申し述べさせていただきたいと思います。
再分配を使命とします国家においては、
消費税の逆進性が問題となります。そのために、軽減税率の適用でありますとか、あるいは税の還付ということが議論になってまいります。しかしながら、このことは、
消費税の最大のメリットである、低い税率でたくさんの税金を取ることができるという多収性を損なうことになってしまいます。これに対しまして、
地方税においては、みんなが
負担をするというのは原則であり長所になってまいります。そういった観点から、広い課税ベース、低い税率で多額の税収を上げられる
消費税本来のメリットを最も生かせるのは
地方消費税ということです。
無論、住民税を強化するという
方向性もあります。これはスウェーデンにその典型例を見出すことができますが、県民一人当たりの住民税収で見て、スウェーデンは一・三倍の格差しかないのに対し、日本ではこれが三倍に達しております。こういった観点からは、税収の偏在度が低い
地方消費税を薄く広く徴収するということがサービスを拡充する上で最も重要ではないかと考えます。とりわけ、国税において
消費税を中心としているスウェーデンでは税収の半分以上が脱漏していることに対して
配慮する必要があるのではないでしょうか。これは、低
所得層への
配慮をしなければいけない国家の
財政の観点から考えれば当然のことでございます。
以上が、今
年度予算編成に対します私の
意見でございます。
関係各位の努力に対して再度敬意を表しますとともに、このような
機会を与えていただいたことをまたお礼申し上げたいと思います。
ありがとうございました。(
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