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磯谷参考人 磯谷でございます。
私は、主に
児童相談所長の代理人として
児童虐待事件にかかわってまいりましたほか、
児童福祉をめぐるさまざまな
法律問題について、全国の
児童相談所その他の
関係機関から御
相談を受けてまいりました。また、
法制審議会児童虐待防止関連親権制度部会、それから
社会保障審議会の
専門委員会におきまして、
日弁連選出の
幹事あるいは
委員として
議論に参加をさせていただきました。きょうは、
児童虐待問題にかかわってきた
法律実務家の一人として、今回の
法律案について
意見を申し上げたいと思います。
まず、今回の
法律案は、
児童虐待防止の
観点から
親権制度に大きく切り込んだという点で大変画期的なものだと考えております。画期的だと考える点として、次の五点を御指摘申し上げたいと思います。
まず第一に、
監護教育権を定める
民法八百二十条に「子の
利益のために」という言葉を入れているという点です。
親権が
子供の
利益のために
行使されるべきだということを最初にはっきり宣言しているということは、その後の
条文を
運用する上で重要な解釈指針となると思われますし、また、
親権と日々格闘をしている
現場の感覚としましても、大変心強い
規定だと思われます。
第二に、
親権制限の要件が見直されて、新たに
親権停止制度が設けられるなど、これまで使いにくかった
親権を
制限する
制度が随分使いやすくなるという点でございます。
さらに、
親権制限の申立人として
子供が加えられるということも画期的だと考えております。もちろん、
子供自身が
申し立てをせざるを得ないような事態は決して望ましいものではありません。特に
児童相談所長が、必要なケースはきちんと
申し立てをしていくということが大切です。しかし、
児童相談所が常に適切な
対応をしてくれる保証はありませんので、やはり
子供自身がみずから
裁判所に救いを求める手段があるということは、とても大切なことだと思います。
画期的だと思われる第三の点は、
懲戒権規定が
改正をされるという点です。
日弁連としましては、
懲戒権規定全体の廃止を求めてまいりましたが、少なくとも、今回、実質的に子の
利益に反する
懲戒を認めないという趣旨が明確にされるという点で、確実な前進だと考えております。
第四に、
施設入所中、里親委託中、一時保護中の
子供と
親権などについて一定の整理がなされるという点も画期的だと思います。
例えば、
児童養護
施設の
現場では、親が
子供の治療に反対したり、
子供の日常生活に事細かに干渉するなど、
親権との
関係に日々悩まされてきました。今回、親は
施設長の
措置等を不当に妨げてはならないということが明記されるなど、対策が講じられたことは、
現場の悩みを相当
程度改善するものと期待をされます。
ただ、この点に関連しまして、一点だけ懸念している点がございます。
児童福祉法改正部分で新設の四十七条五項ですが、緊急の必要があると認めるときは、
親権者等の意に反してでも
措置をとることができると書かれています。これを意地悪く反対解釈をしますと、緊急の必要がないときは、たとえ
親権者の意思が不当なものであったとしても、
親権者等の意に反して
措置をとることはできないのではないかと言われかねないように思います。
社会保障審議会の報告書では、
措置をとるべきことを明らかにするということにしていました。
この点、とらなければならないと改めるか、もしくは、国会の
審議の場で、緊急の必要がないからといって、
親権者の意に反しては何もできないということではないんだという趣旨を明らかにしていただければと思います。
少々脱線をしましたが、最後に、
未成年後見人として
複数が就任できるようにして、また
法人も就任できるようにするという点も画期的であります。
現在、
親権制限をちゅうちょする大きな理由は、その受け皿となるべき
未成年後見人のなり手がいないという点にあります。今回の
改正案では、
複数後見も
法人後見も、たった一人で苦労をしょい込まなくて済むという点で、
未成年後見人の負担を軽減するのに役立つものと考えております。私としては、今後、福祉
関係者や心理の
専門家、あるいは
家庭裁判所の調査官経験者や
子供の
権利に詳しい
弁護士などが、
未成年後見人の受け皿となるような
法人を立ち上げるようになりますと、充実した
未成年後見が可能となるのではないかと思っております。
次に、今回の
法改正を前提に、比較的短期的に解決されるべき
課題と考えている点について
お話をいたします。
一つ目は、今申し上げた
未成年後見人に関することであります。
複数後見が認められ、
法人後見が認められるのは確かに前進ですが、率直に申し上げて、これだけで
未成年後見人のなり手がふえるとは考えておりません。
第一に、
未成年後見は、財産管理のみならず
身上監護も含みますので、例えば
子供が第三者を傷つけた場合、
未成年後見人が法的
責任を問われるというおそれがあります。もちろん、常に問われるという趣旨ではありません。しかし、そういう可能性がありますと、当然、引き受けるのにはちゅうちょしてしまいます。
第二に、報酬の問題です。
現行法では、
家庭裁判所は、被
後見人の財産の中から相当な報酬を与えることができるとしています。しかし、
成年後見とは異なりまして、
未成年後見は、
子供に財産があるとは限りません。これは関西の
弁護士から聞いた話ですけれども、
家庭裁判所から
弁護士会を通じて
未成年後見人の推薦依頼がありまして、その際、メモが付されていたそうですけれども、そこに、報酬は全く見込めませんというふうに書かれていたという笑えない話もございました。何かあったら
責任は問われる、でも報酬はないというのでは、たとえ
法人であっても、やはり
未成年後見人にはならないでしょう。
したがって、
未成年後見制度を本当に機能させるためには、最低限、業務を続けていけるだけの報酬を国が支払うとともに、賠償
責任について保険
制度を設けるなど、善意で
未成年後見人になった者が思わぬ
責任を負わされることがないように、しっかりとしたサポートをしていただきたいと思います。
二つ目は、
児童養護
施設で生活する
子供たちと
親権との
関係で、なおすっきりしない、解決しない点があるということでございます。
例えば
予防接種について、
施設で
子供たちに
予防接種をしようとしても、病院から、親の承諾がないとだめだと言われてできないということがあるそうです。
教育に関しては、例えば、本当はその子のためには特別支援学校に就学させるのが適当であると思われるのに、親が反対するため先に進まず困っているということも聞きます。私の理解では、親が反対したからといって、
法律上、特別支援学校に就学させられないのかというと、必ずしもそうでもないだろうと思ってはおりますが、実際には親の
意見を尊重せざるを得ないようです。
パスポートも問題にされています。
施設を支援してくださる方の御好意で、
子供たちが近場の海外旅行に行くということがあります。
家庭のない
子供にとってはとても貴重な経験なわけですけれども、海外旅行にはパスポートが必要となりますが、パスポートの申請も親の協力がないとなかなか難しいようです。
精神病院への医療保護入院も
課題です。
虐待を受けた
子供の中には精神的に不安定な
子供も少なくないのですが、かなり
状況が悪いとき、精神病院に医療保護入院をさせた方がよいということもあります。しかし、親が反対すると入院を断念せざるを得ないということもあるようです。
こういった問題は、確かに、
親権停止をした上で
未成年後見人を選べば解決する問題だと思われますが、そこまでしなければならないのかと疑問に感じております。親が
子供を
施設に入れた経緯を振り返ってみますと、
子供を
虐待してしまったり、適切に養育できないなどの事情で
施設に入れていることが多いわけですから、
基本的に
施設に任せる
部分がかなりあるんだろうと思っております。そうしますと、
予防接種、特別支援学校への就学、パスポートの申請などといった点については、
関係省庁が
連携して、必ずしも親の協力を得なくてもスムーズに
対応できるように工夫をしていただきたいと思っております。
三つ目は、接近
禁止命令の拡大です。これは
社会保障審議会の
委員会でも
議論をされました。
現行法では、
児童虐待防止法に、
虐待をした親に対し、
子供につきまとってはいけない、
子供のいるところを徘回してはならないという命令を出せる接近
禁止命令が定められていますが、これは、
児童福祉法二十八条の承認のもとで
子供が
児童養護
施設などに入っている場合に限られています。しかし、実際には、民間のシェルターに入っている
子供、
親族の家に身を寄せている
子供、ひとり暮らしをしている
子供などにとっても、親の接近を避けたい事情があることが少なくなく、そういった
子供たちにも接近
禁止命令はぜひ望まれるところだと思います。
このような私の
意見に対しては、
磯谷はそんなことを言うけれども、
現行法の接近
禁止命令ですらほとんど活用実績がないではないか、拡大する必要など本当にあるのかという批判を耳にします。しかし、そもそも
児童相談所がかかわっていて
施設にいる
子供は、組織的に守ることが可能です。一方、小さい民間シェルターにいる
子供、ひとり暮らしをしている
子供などには、組織的に守ってくれる大人たちはいません。昨年、全国
児童養護
施設協議会が取りまとめた調査によりますと、親が
施設を退所した
子供にお金を無心するためにつきまとったり、性的
虐待が疑われるケースで、退所した後の
子供の居場所を捜すなどのケースがあったそうです。
また、私の
意見に対しては、ほかにも、面談強要
禁止仮処分などを活用してはどうかという
意見もございました。しかし、もし本当に面談強要
禁止仮処分が機能するのであれば、いわゆるDV法の保護命令など必要ないことにならないでしょうか。実際には全くそんなことはなく、DV法の保護命令は年間三千件前後の
申し立てがあり、年間二千五百件前後の発令があると伺っています。DV法も
児童虐待防止法も議員
立法だったと思いますので、行く行くは接近
禁止命令の拡大をぜひ議員の
先生方にお願い申し上げたいと思います。
若干御注文めいたことも申し上げましたが、何はさておき、今回の
法律案が一日も早く
成立することを願っております。特に、
親権停止制度については大変期待をしております。
考えてみますと、これまで
児童虐待防止において活用されてきました
児童福祉法二十八条という
制度は、わざわざ裁判をして、
実務上相当ひどい
虐待を認定して、
子供を
施設に保護しながら、
親権については何も触れていないというちょっと不思議な
制度でした。
以前は、以前の学説ですけれども、
児童福祉法二十八条の承認があっても、
親権はとめられているわけじゃないんだから、親は
子供の引き取りを求めることができるのではないかといった
意見すらあったようであります。もちろん今ではそういう
意見を聞くことはありませんが、私は、二十八条の
制度は、そういう
意見も出てきかねないほど中途半端な
制度だというふうに感じております。
むしろ、
虐待を認定した以上、きちんと
親権をとめて、ケースワークの枠組みをつくって、
児童相談所がしっかりと主導できるような体制こそ望ましいと考えており、そういう
視点から、この
親権停止制度はとても役に立つのではないか、ぜひ活用したいと思っているところでございます。
以上で私の
意見陳述を終わります。(
拍手)