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大塚参考人 早稲田大学大学院法務研究科教授の
大塚直でございます。
本日は、このような
機会を与えていただきまして、大変ありがとうございます。
環境影響評価法の一部を
改正する
法律案について、私の
意見を申し上げさせていただきたいと思います。
お手元の、パワーポイントのスライド版とそれから文章のもの、二つレジュメを用意させていただいております。適宜、両方御参照いただければと思いますけれども、パワーポイントの方を使ってお話をしていきたいと思います。
時間も限られておりますので、最初の
現行アセスの特色等については飛ばしまして、スライドの六から申し上げていきたいと思います。
三ページのスライドの六でございます。
現行アセスメントの
問題点について、まず簡単に申し上げておきます。特に不十分であったという点につきまして、三点ございます。
一つは、代替案としての
複数案の
検討が義務づけられていないということでございます。
二つ目は、
環境大臣の
意見につきまして、
評価書の
段階にとどまっていたということでございます。第三に、事後
調査につきまして、
規定は置かれていたとはいえ、
事業者さんの方の任意性の極めて強いものであったということ。以上三点が特に重要な
問題点であったと考えております。
改正法案がどのような
内容を持つものかについてでございますけれども、これもちょっと時間の
関係で飛ばしまして、スライドの十一、六ページの方を御参照いただければと思います。
改正法案の主要点でございますけれども、箇条書き的に申しますと、次のとおりでございます。
まず第一に、
対象事業につきまして、三位一体改革の一環としての補助金の
交付金化をしていることとの
関係で、
交付金の交付
対象事業を法
対象事業とするということでございます。
第二に、
計画段階配慮書
手続を新たに設置するということでございます。第一種
事業を
実施する方については、
事業の位置、
規模等を選定するに当たって、
環境の
保全のために
配慮すべき事項について
検討を行い、
計画段階配慮書を作成することを義務化するということでございます。
第三に、
方法書段階での
説明会の開催を義務化するということでございます。
第四に、
評価項目等の選定
段階で、
環境大臣が主務大臣に対して技術的助言をすることができるようにするということでございます。
現行制度におきましては、
環境大臣の
意見は、先ほど申しましたように
評価書の
段階にのみ述べられることになっておりますけれども、
評価項目等の選定
段階においても述べることができるようにするということでございます。
第五に、
環境保全措置等の
公表等の
手続を義務化するという点であります。
さらに、その他の点といたしまして、
一つ目は、インターネットの利用等による
環境影響評価図書の
電子縦覧の義務化をするということであります。
二つ目に、政令で定める市から
事業者に対して直接
意見が提出できるようにするということでございます。これは、地方分権を推進するという趣旨からでございますけれども、
事業の
影響が単独の政令で定める市の区域内にとどまるという場合にのみ、このような直接の
意見の提出を認めるという考え方でございます。
三つ目でございますけれども、公有水面埋立
事業のように、地方分権推進一括法の施行をきっかけにして、
環境影響評価手続の中で国の関与がなくなってしまったというケースにつきまして、
許認可権者である地方自治体が国からの助言を求めるように努めなければならないという
規定を置くということであります。これによって、その中で
環境大臣の
意見が提出できるようになるというわけであります。
さて、
評価と論点の方に移りたいと思います。
改正法案の
評価でございますけれども、スライドの十三でございます。
今回の
改正は、
現行法の制定のときに残された課題の重要な部分について対処しようとするものでありまして、基本的に、積極的に
評価できると考えております。さらに、今回の
改正は相当大きな
改正であると認識しております。
まず第一に、
計画段階の
配慮書の
手続の導入でございます。
これにつきましては、代替案の意味での
複数案を実質的に義務づけるというものでございまして、
法律に基づく
環境影響評価制度が欧米に言います
環境影響評価本来の目的をようやく果たし得るものになるということは、大変望ましいことだと考えております。より早い
段階での
環境面での
検討を行うことによって、
環境影響の回避を図ることができるようになるということですので、大きな
効果が期待できると思います。
二つ目の点でございますけれども、第三者機関と言うことができる
環境大臣の
意見を述べる箇所をふやしたということも重要な進展であると考えております。
現行法におきましては、
環境大臣は、先ほども申しましたように
評価書のところでだけ
意見を言う
機会がございましたが、今般の
改正案におきましては、
配慮書、
方法書、
評価書、事後
調査の報告書という四つの箇所で
意見を言えるようになったわけでございます。
三つ目でございますけれども、市民の
意見聴取に関しまして、
現行法は既に、閣議要綱のころとは違って、
方法書段階と準備書
段階の二つの
意見聴取の
機会を設けております。さらに、
関係地域以外の者の
意見聴取も認めております。
しかし、今般の
改正案によりまして、
配慮書の
段階でも
意見聴取の努力義務を課したということでございまして、これによって
意見聴取の
機会は三回となります。また、縦覧に関しまして電子化をするということ。それから、
方法書段階での
説明会を義務づけている、こういうことは、
住民に、
事業の
内容を理解して
意見提出の基礎をつくる
機会を設けたことになります。さらに、
電子縦覧によりまして
専門家もアクセスしやすくなるということがございますので、これらの点には大きな
効果が期待できると思います。
四つ目でございますが、
環境保全措置等につきましては、これも先ほど申しましたように、従来、
事業者の自主性にゆだねられていたということがございますけれども、
許認可権者に対する報告の義務づけ、
公表の義務づけを今回の
改正案は導入しようとしているということが重要でございます。
なお、先ほども御
説明がありました
発電所のいわゆる
リプレースの問題について、若干申し上げておきたいと思います。
確かに、
原子力発電とか高効率の
火力発電は
温暖化対策として重要でございます。しかし、まず第一に、道路とか鉄道などでも同じような問題があるということを申し上げておきたいと思います。それから
二つ目に、
発電所につきましては、
電気事業法の
手続を簡素化することもむしろ
検討してよいのではないかということも指摘しておきたいと思います。この問題につきましては、中環審の答申にもございますように、
ベスト追求の
観点を踏まえながら、
方法書における
評価項目の絞り込みを通じた
環境影響評価に関する期間の短縮など、弾力的な運用で対応するということが必要であると考えられるわけであります。
以上のうち、特に注目されますのは、第一点の
計画段階配慮書の
手続の新設と第四点の
環境保全措置等の
公表等の
手続の義務化でございます。この二つについて、やや詳しく触れておきたいと思います。
まず、
計画段階配慮書の
手続の新設でございます。
今般の
制度の
見直しにおきましては、
実績の積み重ねがある個別
事業の位置、規模または施設の配置、構造等の
検討段階を
対象とした
SEA、
戦略的環境アセスメントの導入を図ったものでございまして、これは、欧米で導入されている
SEA、つまり、より
上位の
計画や政策
段階での
環境影響評価とは必ずしも一致しません。その意味で、日本版
戦略アセスメントでございます。この点は、
計画段階配慮書について
民間事業者が
対象となっていることとも大いに
関係がございます。
計画段階配慮書の
手続の導入の最大の眼目は、代替案の
検討を基本とすることでございます。条文上は「一又は二以上」とありまして、正確には単数案もあり得るわけでございますけれども、基本は
複数案であると考えられます。区域以外にも、施設の構造とか配置等の
内容が含まれます。
この点に関しまして、
現行の国の
環境影響評価におきましては
複数案の
検討が八割を超えていると言われているわけでございますけれども、これは
環境保全措置を含めておりまして、欧米で言われているような代替案ではございません。代替案に当たるものはごくわずかでございます。そして、従来の
環境影響評価におきましては、早期
段階での、早い
段階での案の選定に関しまして市民の関与とか主務大臣など第三者の参画がなく、
環境影響の低減が図られなくて問題になったという
事例が存在しておりました。また、
方法書の
段階では既に
事業の位置、規模、配置などの枠組みが決定されておりますところから、
環境影響の回避、低減などが十分でないという傾向があることが今回の
改正案に直結しているわけでございます。
代替案は、
環境影響評価の先進国であるアメリカでは、
環境影響評価のハートである、核心であるというふうに言われていまして、今般の法
改正によりまして、代替案という意味での
複数案が基本的に
検討されるということ、つまり、回避を含めて対応するということになりましたら、
環境配慮の促進に格段の
効果があると考えられるわけでございます。また、早い
段階での
環境面での
検討が行われることによりまして、
事業者がより柔軟な
措置をとるということが可能になり、
環境影響の回避を図ることができるようになります。
生物多様性基本法が、
事業計画の
立案の
段階等での
生物の
多様性に係る
環境影響評価の推進について
規定していることからも、本法のこのような
改正が求められていると考えられます。
もっとも、
改正法案におきます
計画段階配慮書
手続の導入に対しましては、幾つかの論点がございます。
第一に、
配慮書としてはどの程度のものが要求されるかという問題がございます。
この点につきましては、
配慮書の
段階では、早期の
段階でございますので、既存の情報からの
複数案が
検討されるのに対しまして、その後の
方法書の
段階ではより
調査が進んだ
段階での
複数案が
検討されるわけで、両者は違っていると考えられます。例えば、埋め立ての場合には、
配慮書の
段階では藻場があることがわかる程度、
方法書の
段階では、水位が上がるかどうかなど、より詳細な
調査をした上での判断がなされることになると考えられます。
他方、
配慮書が非常に大ざっぱなものになるのではないかという
懸念もございますけれども、この点につきましては、
配慮書の
内容は後の
方法書の方に反映されますので、もし
配慮書と
方法書が大幅に違うということが出てきますと、市民の方から直ちにそれが明らかになってしまうということになります。また、
方法書につきましては、今回、
事業者が
説明会を開き
説明する責任が発生しますので、
事業者の方も大ざっぱな対応をするわけにはいかなくなるということが予想されるわけであります。
第二に、今般、
計画段階配慮書の
手続が入ることによって、
事業全体の遅延に
影響して、また、コストがかかるようになるのではないかという問題がございます。
この点につきましては、
環境影響評価の
手続はそれだけで独立して行われるわけではなくて、ほかの法令の
手続とか自治体との調整など、
事業の
実施に当たって不可欠な
手続と並行して進められるわけでございまして、
環境影響評価によって時間がかかる部分というのはそれほど長くはないと考えられます。
また、今般導入される予定の
計画段階配慮手続に要する期間につきましては、現在でも
方法書を準備する以前から既存情報などを用いた
調査が行われていることが多いことから、半年程度までの増加にとどまると考えられます。
このように、半年程度までの期間の増加はあり得るといたしましても、むしろ、後になって時間がかかるよりも、早目に市民の
意見を聞いて、それを参酌して合意形成をした方が、結局は早く
事業を
実施できると考えられます。
例えば、高速横浜環状北線道路につきましては、パブリックインボルブメントをせずに
手続に入りまして、準備書
段階で市民から二十九万通の
意見が提出されました。一方、高速横浜環状北西線道路につきましては、パブリックインボルブメントをして十三のルートを提案して比較
検討したところ、
意見はほとんど来ず、特に反対運動もなかったということがございます。このように、早い
段階から市民
意見を聴取するということは、合意に基づく
事業の円滑な
実施につながると考えられます。
なお、既存情報による
調査が主になるところから、
配慮書
手続の新設による金銭的負担、コストの増加というのは限定されたものになると考えられます。
第三に、
我が国で
計画段階配慮書の
手続を導入しても、それほど離れた場所での
複数案というのは、国土が狭いこと等もあって、
検討できないのではないかという問題がございます。
これにつきましては、例えば、
生物多様性について見ますと、絶滅に瀕した種が特定の条件を満たしたホットスポットにしかいないことが多いということを考えると、少し離れた場所に設置するというだけでも大きな意味があると考えられます。
第四に、
配慮書
手続の導入によって、
事業を
中止させることができるかという問題がございます。
これにつきましては、もちろん、場合によっては
事業者がそういうふうに判断することはございますが、それは
事業者がさまざまな
状況を勘案して判断された結果ということでございます。また、
事業の許認可等の意思決定に当たっては
環境影響評価の結果が適切に反映されますけれども、行政庁の意思決定におきましては、
環境面だけでなく、ほかの公益も含めた総合判断によって行われます。このように、
事業が
中止されるかどうかということは、まさに個々のケースごとの判断とか意思決定の結果行われることでございまして、
環境影響評価と直結する問題ではないと考えています。
二つ目の今回の目玉でございますけれども、
環境保全措置等の
公表等の
手続の義務化ということがございます。
事後
調査というのはそもそもどういう利点があるかということについて、若干申し上げておきたいと思います。
事後
調査は、まず、
評価書の
内容について事後的に検証を図ることができるという、当該事案についての問題ということがございます。さらに、
予測し得ない要因による
環境影響の回避とか周辺
住民とのトラブルの防止が可能になるというような
効果もございます。さらに、その後で出てくる事案との
関係で、
予測の手法の改善につながるということがございます。また、ミティゲーションの
実施状況とか
効果の確認が可能になるという利点もございます。
このように、事後
調査、
環境保全措置等というのは非常に重要であるわけでございますけれども、
現行法におきましては、事後
調査の結果、
環境影響が著しいということが明らかになった場合に
環境保全措置をとることを準備書、
評価書に記載しておき、それによって、必要に応じて事後
調査等を行うとしています。この場合、事後
措置についての準備書及び
評価書の記述は
環境の
保全のための
措置に関する指針に従うということが必要になりまして、許認可等の際にはこの点が考慮されることになります。しかし、実際に事後
調査、事後
措置を行うのは許認可等の後であることからすると、この
方法では実効性に疑問の余地もございます。また、
現行制度におきましては、行政とか
住民等が
環境保全措置や事後
調査の
実施状況を把握するということは難しい状態にございます。
今般の
改正案によりますと、
環境保全措置等が
公表され、
許認可権者に報告されるということになりますので、
許認可権者が
事業者に対して適切な指導を行うことが期待されます。これによって、
環境影響評価手続の実効性が
確保され、
事業の
実施における
環境配慮が促進されると考えられます。特に、
環境保全措置等が失敗に終わった場合には、
公表義務を課するということは相当なインパクトがあると考えられます。
なお、事後
調査の終期はどういうふうに判断されるかという問題がございますけれども、この点につきましては、最終的には
事業者が判断するものと考えられます。
事業の種類によって異なってくると考えられますので、
基本的事項及びこれに基づく
省令で整理されると思われます。
最後に、結びにかえまして、簡単に幾つかのことを申し上げておきたいと思います。
本法が将来の課題として残したものもまだ少なくございませんけれども、
環境影響評価に伴う時間的、金銭的なコストについても一定の
配慮はせざるを得ないということはございますし、また、本法が本来目的としておりますベターデシジョンに向けて、
事業者と
住民とがコミュニケーションをとり合えるような運用
方法を我々自身の手でつくっていくという必要があると考えています。そのためには、
制度の改変を一歩一歩行わざるを得ないという面があると考えられます。国土交通省の那覇空港等におけるパブリックインボルブメントの
手続はその一例でございます。欧米の先進的な
制度を取り入れるということは極めて重要でございますけれども、他方で、
我が国には一九九九年の法の施行から十年以上運用してきた
経緯がございまして、その
実施状況を踏まえて、不断に前進していくということが必要であると思われます。
将来的な課題として残されたものとしましては、四つほど挙げておきたいと思います。
一つは、欧米で行われているような本格的な
SEAの導入ということがございます。
二つ目に、
対象事業としてダム等の取り壊しを入れるということがございます。これは政令事項ではないかと思います。
三つ目に、行政庁が許認可等を行った場合に、行政庁が
環境影響評価の結果をどのように考慮したかについて
公表していただくということがあると思います。四つ目に、
アセスメントに関する不服申し立てとか訴訟を導入するということがあります。
もっとも、
環境影響評価は業種によって異なるということを考えますと、将来の
改正に当たりましては、各業種について、
SEAから事後
調査までのいわゆるフルの
アセスメントが幾つか出てくること、少なくとも三
事例ほどは各業種について出てくるということが望ましいと考えております。
御清聴ありがとうございました。(拍手)
〔大谷(信)
委員長代理退席、
委員長着席〕