○
参考人(
吉田正幸君) おはようございます。
「遊育」、遊び育つという
保育専門誌を出しております。
幼稚園、
保育園の
先生方が主たる読者でございまして、今日は、私は
大学の
先生方ほど学識も理論もなく、
幼稚園、
保育園の
先生方ほど現場も知らずということでございますが、
大学の先生よりは少し現場を知っていて、現場の
幼稚園、
保育園の
先生方よりは少し理屈が分かるという、こういう立場だろうと思います。それから、この中で、今日、たまたまでございますが、いわゆる認定
こども園に至る
総合施設の合同検討
会議の
委員と
総合施設モデル事業評価委員会の
委員をやっておりましたので、直接そこの議論にかかわったということでお話を申し上げたいと思います。
今日レジュメを用意してございますのでまず簡単に申し上げたいと思いますが、まず、
こども園であるかないかという以前に、
子供、
家庭を取り巻く
状況というのを、やっぱりこれを押さえておく必要があるだろうと、こう思います。
特に今大きな特徴というのは、いわゆる
小学校就学前のお子さんのいる
家庭で
核家族化が物すごく進んでいる。四、五年前のデータでもう八割が実は
核家族化と。しかも、
核家族というのは親と子だけの
家庭でございますが、その親と子の親の方も離婚その他で、最近は母子
家庭、父子
家庭という一人親
家庭が増える。より単位の小さな、非常に小さな
家庭になってきている、これが特徴の
一つでございます。
それからもう
一つは、やはり男女共同参画ということもあって、あるいはこれから人口減少
社会で少子高齢
社会でという中で、どうしても
女性就労は確実に高まっていく。つまり、働く
母親も当然増える。これも数年前のデータで、三十歳代前半の
女性の六割ちょっとがもう働いている。これは間違いなく増えると思います。そうすると、
核家族で、親と子しかいない
家庭で父親のみならず
母親も働くということになれば、当然昼間そこには
子供しか残らない。じゃ、この
子供はだれが面倒見るんですかと。要するに、
保育に欠ける
子供が今構造的に増えているということだと思います。
そういう意味で、この十年近く、
少子化で
子供の数は減っているのに
保育所に入る
子供は増え、場合によっては入れない
待機児童まで出、一方で
幼稚園の方は
少子化の影響で
園児減という顕著な特徴が出ています。それは
幼稚園、
保育園の個々の努力の問題ではなくて、今申し上げた構造的な
理由から、どうしても
保育に欠ける
子供が結果的に増えて、
保育所志向、ある種の
幼稚園離れにつながっているんじゃないか、こう思います。
それから、もう
一つの特徴というのは、やはりよく言われるように、
家庭も
地域社会も
子供に対して本来持っていた様々な力を失ってきている。特にしつけとか基本的
生活習慣を含めて、子育て力、
教育力が低下をしているということだろうと思います。そういう中で、やっぱり
子供同士の交流も減る、あるいは同年齢、異年齢のかかわりも減る、親以外の大人とかかわって
社会性を培うチャンスもなくなってくると、こういう
状況で今進んでいるんであろうと思います。
そういったことをトータルに
考えると、ある種の
保育時間の長時間化はこれはもう避けられないだろうと思います。そして、
家庭が本来行っていた
家庭養育もある部分肩代わりをしなきゃいけない。極端な場合は、今、昔と違って
幼稚園でも三、四歳でトイレットトレーニングが必要な
子供が出てきていると、こういう
状況でございまして、昔では
考えられなかったそういう部分も必要になる。と同時に、じゃ、そういういわゆる養護的な、ケアの面だけでいいかというと、
子供集団そのものが兄弟が減ったり
地域の異年齢
集団がなくなる中で保障されない。それに対しては、もう
幼稚園、
保育園を問わずに、やはり同年齢、異年齢の
子供集団とか、あるいはその
集団の良さを生かしたある種の
幼児教育の
充実というのは多分避けられないんだろうと。
そういう
状況をトータルに
考えると、今後
日本に生まれ育つ
子供にとっては、
保育所か
幼稚園かということではなく、ある一定の長時間
保育も必要だし、
家庭養育のケアも必要だけれども、同時に
集団の良さを生かした質の高い
教育も必要になると。当然そういう中から、ある意味で必然的に
総合施設みたいなものが出てきたんだろうと、こう思います。
ただ、そうは言いながら、直接やはりこの
総合施設の提言がなされたのは、経済財政諮問
会議を始めとした国の構造改革でございますので、こう申し上げていいのかどうか分かりませんが、その構造改革の方は余り明確な
理念があったと私は実は
考えておりません。しかし、これから誕生するわけですから、是非ともこの国会の審議を通して認定
こども園に
理念のある、血の通った仕組みにしていただきたいと、こう思うわけでございます。
その
理念について、私は一番今、これまでの検討
会議でも、
評価委員会でも申し上げてきたことでございますが、ソーシャルインクルージョン、片仮名で申し訳ないんですが、要するに、
子供に何ら責任がない、親の所得が多いとか少ないとか、人種が違うとか宗教が違うとか、障害があるとかないとか、そういったことに、
社会的な要因で
子供が排除されることなく、すべての
子供が質の高い
教育や
保育を受ける機会が均等に与えられるべきだろう、そういうある種のソーシャルインクルージョンという発想をやっぱり大事にして認定
こども園というものを組み立てていただきたいと、こう思うわけでございます。
それから、もう
一つの
理念としては、これ後の方にデータを付けておりますが、やっぱり親が安定して、親自身が
子供と豊かにかかわることで当然
子供は育つわけです。つまり、親の不安を取り除くということが、単に親の
育児の肩代わりという意味ではなくて、ある種の親育てをすることが結果的に
子供の
育ちを促すことになると、そういう意味での広い意味の
家庭援助の発想はやっぱり認定
こども園には必要ではないかなと、こう思っています。
それからもう
一つは、やっぱり
家庭も
地域の中に置かれておりますので、
地域そのものがやっぱり
子供、子育てに優しい町にならなければいけない。つまり、認定
こども園がいろんな
機能を持っていて、総合
機能を持ってそこで完結してしまうのではなくて、むしろ
地域と、
地域に開かれた形でかかわりながら
地域のいろんな力も高めていくような、そういう役割を果たすということが非常に大事なんじゃないか。そういったことを基本的な
理念に据えてこれからの仕組みをつくっていただきたいと、こういうことでございます。
それから、あと、認定
こども園の幾つかの特徴でございますが、最大の特徴は、当初
総合施設と言ったので理解しづらいんですけれども、私は
施設ではなく
機能だと思っております。つまり、
幼稚園だろうと
保育園だろうと、
施設は
施設としてそれぞれの
施設が今申し上げた
理念に基づいた必要な様々な
機能を発揮できるようにすること、つまり
施設中心でない
機能中心の発想に立つということが一番実は基本ではないかなと、こう思っております。
例えば、いろんな議論で、
給食調理室の問題ですとか運動場の問題ですとか、これは規制緩和の発想もあっていろいろ御議論あるようでございますが、実は、例えば調理室について、私は基本的には調理室はあった方がいいと思います。あった方がいいとは思いますが、じゃ調理室を自前で持っていたらそれですべてオーケーかというと、そうではない。じゃ、自前の調理室があってもアレルギー対応ができないと。
外部搬入で
外部の業者がきめ細かいアレルギー配慮ができていろんな安全衛生面の配慮もできるという、もしそういう業者が仮にあれば、アレルギー対応ができない自前調理室よりも私は
外部搬入でもいいんじゃないか。それは
外部搬入を認めているという意味じゃないですよ。
機能で
考えれば、
子供の食、
給食というものに対して本当に必要な十分な
機能を発揮できるかどうかが問題で、その
施設設備が自前のものであるのか
外部の力をかりるかというのは実は本質ではないんじゃないか。やっぱり
子供に必要な
機能をどれだけ持っているかという観点が大事なんだろうと、こう思うわけでございます。
それから、もう
一つの特徴は、やはり
子供にとって、親が働いていようと働いていまいとひとしく質の高い
教育、
保育が受けられる、そしてどういう
家庭であっても必要な
子育て支援を受けられるというのがやっぱりもう
一つの当然特徴だろうと思います。
それからもう
一つは、実は
幼稚園というのは、
幼稚園設置基準ですとか
幼稚園教育要領を見ても、どちらかというと学級を単位とした
集団教育に特質を置いて、例えば一クラス十六坪、五十三平米とか、そういう発想に立っております。一方で、
保育所の方は、
保育室は
子供一人三・三平米とか、
保育指針を見ても児童福祉
施設最低基準を見ても、どちらかというと個に着目をしている。もちろん両方しっかりやってはおりますが、強いて言えば、
幼稚園はより
子供の
集団という側面を非常に重視し、その面の強みがある。一方で、
保育園は
子供一人一人の、やはり
生活保障という意味で、ケアという観点で一人一人の個に着目した要素がある。これはこれで大変重要なことだと思います。
しかし、これからは、例えば先ほど申し上げたように、
幼稚園に入ってくる
子供でもトイレットトレーニングが必要になる。つまり、一人一人の個に対応したケアも
考えなきゃいけない。しかし、もちろん
集団の良さも生かさなきゃいけない。同時に、
保育園も、個は大事にしているけれども、しかし四、五歳児の年長に近くなってきた段階で一定の
集団の中の
社会性を培う
環境という部分でもう少し努力する余地もあるかもしれない。つまり、
幼稚園、
保育園それぞれの良さ、強みを相乗効果発揮できるようにすること、それが非常に私は大事だし、それが認定
こども園では多分可能になるんではないかと、こう思っております。
それからもう
一つは、よく
幼保一元化という議論が出るわけでございますが、例えば今日資料で付けておりますが、私、毎年ヨーロッパに行っておりますけれども、確かにイギリスでもドイツでもスウェーデンでも行政所管は
一元化をしております。しかし、その中で、例えばイギリス、ドイツがやはりある種の
総合施設を今つくり始めております。イギリスはもう数年前から、ドイツは去年、おととしから新しいタイプの
総合施設をつくって、かなり発想近い部分がございます。
日本の認定
こども園よりはもう少し大掛かりだろうと思いますが。
しかし、その中でやはり、所管は一元でも、
施設は
幼稚園もあれば
保育園もあれば
総合施設もあればということで、私は
施設というのは多様であっていいのではないか。しかし、大事なのは、何度も申し上げますが、そこで発揮される
子供のための
機能が、どれだけ豊かな質の高い
機能があるかという点になるのではないか。これは
地域性がございまして、都市部であれば
幼稚園、
保育園、その他たくさんございますので、通える範囲でも
施設選択が多分可能でございます。しかし、
地方に行くと、多分
一つ二つしかないというところもある。そうすると
施設の選択ができない。しかし、その
施設が
機能として多様な
機能を持っていればその
施設内での
機能選択ができる、そういう発想もあっていいのではないか。つまり、都市部、
地方部を全部一律にひっくるめて何でもかんでも一緒にして
一元化すればいいのかと、そう単純な話では実はないのではないか。いずれにしても、
子供や親にとって必要な質の高い
機能が保障され、それを選択できるということがやっぱり大事なんじゃないかなと、こう思っております。
それから、幾つかそうはいいながら課題がございまして、実は認定
こども園ってやっぱり
幼稚園機能、
保育園機能、
子育て支援機能、いろんな多様な
機能を持たなきゃいけない。しかし、余り欲張ると、残念ながら
職員配置に十分な財政措置が行われておりませんので
機能倒れになりかねない。特に
子育て支援については、在宅子育て
家庭も含めた様々な
支援が
期待をされる。しかし、その専任スタッフは残念ながら置けないということでございますので、認定
こども園が全部そういうものを背負い込むという発想はしない方がいいと私は
会議でも何度か申し上げました。
それはむしろ、
地域の様々な
子供子育て
関係の
社会資源と、例えばNPOや保健師さんや民生・児童
委員やいろんな
関係者がいる、そういう方々と有機的なネットワークをつくって、そして相互に
連携をして
地域全体として
支援体制をつくる、その
一つの拠点としてコーディネーター的に
機能できるかどうかという発想が多分大事なんだろうと、こう思っております。
それから、これまでも幾つか御議論あったようでございますが、
保育所部分についてはやはり直接契約にするということでいろいろな懸念もあろうかと思います。問題は、どんな
制度をつくっても必ずそれで一〇〇%すべての人にいいということにはならない。大事なことは、そこで予想されるいろんな懸念に対してどれだけセーフティーネットを講じられるかと、こういう話だろうと思います。直接契約に関してもいろいろ懸念されることが多分あるだろう。
保育料設定をどうするだとか、じゃ
保育料を納めなくて退園しなきゃいけないだとか、それは心配はあろうかと思います。しかし、それを
法律で全部でカバーするというよりは、国、都道府県、市町村を含めた
関係機関の中でのセーフティーネットを運用上どうつくっていくかということで
考えるべき課題がかなり実はあるんじゃないかなと、正直思っております。
それから、今後のことを
考えれば、本当はできればやっぱり
子育て支援は非常に大事だと思います。しかし、認定
こども園は
幼稚園、
保育園、既存
施設をベースとしていますので、残念ながら
子育て支援を
充実させようと思ってもなかなか人的体制が取りづらい面がある。そこはこの
法律云々の問題じゃなく、今後の課題として、できるだけそういう豊かな
支援ができるような、
財政面も含めたバックアップ体制を是非
考えていただきたい。
それから、認定
こども園は、これから受けるところもある意味で手探り状態ですから、それがいい意味で進化し
発展していけるように、当然ある種の自己評価、あるいは必要に応じては
外部評価をしながら常に改善されていくような、そういうインセンティブをやっぱり
考えるべきだろうと、こういうふうに思っております。
そして、多分これはすべての方が、当事者、
モデル園なんかもそうですが、思っているのは、やっぱり
職員を伸ばす、人を伸ばすことが一番大事だ。そうすると、多様な
機能があって
職員の勤務体制が非常に
複雑になりますので、まとまった時間を確保して一斉に
研修ということはかなり実は難しくなります。そういう意味で、やっぱり
研修体制をバックアップする必要がある。
そして、変な話ですが、認定
こども園はある意味でもう
幼稚園でもないといえば
幼稚園でもない、
保育園でもない。そうすると、今、
幼稚園、
保育園はそれぞれ
関係団体があって、いろんな
研修を
充実してやっておりますが、下手をすると認定
こども園はどちらの
幼稚園、
保育園団体からも排除されかねない。そうではなくて、どちらにも少なくとも
職員は行けて、必要な
研修を受けられるような配慮も多分どこかできっとしなきゃいけないんじゃないかなと、こう思っております。
それから、最後に一点、これもう認定
こども園に限った話ではございませんが、障害を持ったお子さん、とりわけADHDとかLDとかアスペルガーとか、いわゆる軽度発達障害のお子さんが現場でやっぱりかなり増えてきているという実感を持っております。こういうお子さんというのは年齢が小さいと判定も難しいし、いわゆる本当の意味の、大きな障害と違って親もなかなか認めたくない。あと一年すれば普通の子に追い付くんだと。しかし、実はその段階でちゃんと手を打たなきゃいけない。しかし、手を打って手厚い体制を取ろうと思えば、専門家が判定をして親がそれを承認をしなければいけない。親はなかなかそれを認めない。結局しわ寄せは
子供に行ってしまう。そうではなく、少なくとも専門家が判定をすれば親がそれを認めようと認めまいと現場で手厚い対応が取れるような、何かそういう体制をつくっていただきたい。
とりわけ認定
こども園という多様な
機能を持った
施設の中では、そういう
子供の受入れもスムーズにいくような、それも運用上のバックアップの問題だとは思いますが、是非そういう軽度発達障害の
子供も含めた、正にソーシャルインクルージョンで、障害があろうとなかろうと、親の所得が多くても少なくても、働いていてもいなくても、すべての
子供がより質の高い
教育、
保育を受けられ、親も必要なサポートが受けられる、そのための仕組みと、それからそのための運用のバックアップ体制を是非
考えていただきたい、このように思います。
以上でございます。