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参考人(
北村邦夫君)
北村でございます。
このような機会にお呼びいただきましたことを大変感謝いたします。
ただ、私は、ただいまお二方の
参考人のお話を伺いながら、十分注意しなければいけないことがあるかなという印象を持ちましたのでまず申し上げますが、国会ですし、あるいは国政の場で
先生方は世界の中の
日本ということを評価しなければいけない立場にあるわけでございますから、私はその辺りをきちっと踏まえた形で何か
先生方に資料を提供できないだろうかという思いで一杯でございます。
私も臨床医ですから、
赤枝先生の話、現場の臨床の場では十分見受けられる話でありますけれ
ども、
赤枝先生は
六本木というある限られた集団の中で
子供たちを見ていらっしゃる方であります。
また、中絶に関する話も、しなければいけないことがたくさんあることは、そして
日本がほかの国に比べて非常に立ち後れている部分があることは十分承知しております。人工妊娠中絶の件数は、一九四九年からのデータ、すなわち
遠藤先生のデータ、四
年間不足しているんですけれ
ども、私の今試算では三千六百万件近くなんでございまして、どういうところから六千七百万件になったのかということについて、ややちょっと疑問もございます。
それと、私は、
日本の
子供たちの名誉に懸けて、
日本の
子供たちはそれほどあほではないということをまず
先生方にきちっと知ってもらいたいと思っております。人を動かすときには性悪の立場でではなくて、この
人たちは働き掛けることによって変わるんだというその可能性を相手に秘めながら取り組まないと、本当の意味で人を動かすことはできないと私は確信しております。
ちなみに、世界の中の
日本の、例えば十八歳の女の子の性交経験率などを最新に近いデータで見ますと、スウェーデンは六五%でございます。フランスは五〇%、イギリスは六三%、カナダは五三%、アメリカが六三・一%、我が国は実は四三・一%にすぎません。目の前にいる
子供たちを、正に灯台下暗しという言葉がありますけれ
ども、見ておりますと、これは大変だと私も身近なところではそう思うんですけれ
ども、そう思いがちですけれ
ども、グローバルの世界の中で
日本の
子供たちを見たときに、
子供たちは満更ではありません。
ただ問題は、国の政策が、あるいは
学校教育における怠慢さが、
子供たちが学ばなければいけないものを学ぶ
チャンスを失わせ、あるいは
子供たちが受けるべき権利を受けられないという状況にあるのでございます。
私は経口
避妊薬、ピルの承認のために闘い続けてきた者の一人でございますけれ
ども、確実な
避妊法と評価されている経口
避妊薬、ピルが、世界に後れること四十年も掛けて、実は不毛な
議論が僕はあったと思いますけれ
ども、
日本で一九九九年に承認されたというのはまだ記憶に新しいところでございます。
例えば、世界では当たり前のように使われている緊急
避妊法というのがございますけれ
ども、それについても国連加盟国中、ひょっとして
日本、唯一というのは大変乱暴ですけれ
ども、実はそれが存在しないのは
日本だけでございます。緊急
避妊という方法がありまして、七十二時間以内であれば対処できる方法なんですが、そのことを知らないことはおろか、知らせないことは罪とまで言われている中、
日本政府はそういう取組に対して極めて非常にルーズであります。
例えば、経口
避妊薬一つを取ってみても、フランスもカナダもスウェーデンも実は十代の若者
たちに対しては無料で提供するというような仕組みが取られておりますし、
性感染症の
検査や治療についても、公的なクリニックでも私的なクリニックでも無料で受けられるにもかかわらず、
日本は、保険を使うにも親からもらえず、使えず、自費で受けなければいけない、経口
避妊薬、ピルについても
自分の
お金で買わなければいけないという、こういう若者
たちにサポートすべき国の政策がきちっと行われないまま、現代の身近にある若者
たちを悪というような形でとらえることがあっては私はいけないんではないだろうかと思っております。
限られた時間ですので、私の今日の
テーマについて向かいますが、ちなみに私は実は五人の子持ちでございまして、今日の
テーマ、
少子化という部分ではひょっとしたらよくつくったなと
先生方から褒められるべき立場でございます。学生時代に
子供を二人つくりまして、思えばそのときの子育てが最も楽しかったというのが私の思いでございまして、以降、とんとんとんと五人の
子供が生まれ、そして、今では
日本家族計画協会という場にあって我が国の家族計画
運動に取り組んでいるという、そういう不思議な経歴の持ち主でございます。
さて、私に与えられました
テーマは
少子化対策への提言と性教育でございますので、この資料をごらんくださいませ。(
資料映写)
こうやって一・二九、一人の
女性が生涯産む
子供の平均数一・二九という形でございますが、減少の一途をたどっているというのが
日本の現状でございます、幾つかの国々では増加を示しておりますが。
さて、こんなところが一体どういうところに問題があるのかということを、従来の
少子化対策とは異なった視点から私は今日
先生方に御提案を申し上げようと思っております。
少子化対策に対する新しい視点の提言でございます。
実は、今日、卓上に資料を用意させていただきましたが、これは国から厚生労働科学研究費をちょうだいいたしまして、
日本家族計画協会と共同で行いました「男女の生活と
意識に関する
調査」、第二回目の報告でございます。この報告で一番
お金が掛かるところは何かといいますと、サンプリングなんですね。三千人の男女、十六歳から四十九歳の
日本国民男女三千人を対象にいたしまして、層化二段無作為というんですけれ
ども、
全国を幾つかのブロックに分け、そして人口規模別に分け、そして百五十地点を選びまして、二十人を住民基本台帳閲覧をお願いしまして、そして抽出し、
北村さん、あなたが選ばれましたという形で
調査をしたものでございまして、
日本人の性や
性行動、
避妊、人工妊娠中絶の
実態、考え方などを知る恐らく数少ない、いや、そしてひょっとしたら唯一の資料になるだろうと自負しております。こんな
調査から私
たちが受けた印象でございます。
実は
セックスレスという問題がございまして、これは
日本性科学会がこう定義しているんですね。特殊な事情が認められないにもかかわらずカップルの合意した性交あるいはセクシュアルコンタクトが一か月以上ない、その後も長期にわたることが予想されるという、これが
セックスレスなんでございます。大ざっぱに
セックスが一か月以上ないというところに御注目ください。
日本のデータでございます。
これは先ほどの紹介したデータございまして、実は
調査員が訪問する先が山古志村が選ばれました。しかし、これについてはどうしましょうと相談を受けましたものですから、体育館に行って
調査をするわけにはいかないので、同じ規模の同じ近くの町村で選びましょうというほどにしっかりとした
調査だと自負しておりますが。
皆さん、
日本のいわゆる婚姻関係にある
人たちの三二%がこの一か月間
セックスがないんでございます。この青の部分は婚姻関係のなくなった人あるいは未婚の
人たちでございますけれ
ども、これでは子はつくれるのか、私はそう思わずにはおれません。男性の二八・四%が、
女性の三四%が
セックスレスという状況にございます。
既婚者、すなわち婚姻関係にある人だけを抽出して
セックスレス傾向を見ますと、ここにございますように、三割近くの
人たちが、二十五歳から四十四歳、とりわけ
子供をつくるのに非常に適当だと思われる、生物学的に適当だと思われるようなこの二十代のこの部分でも三割近くの
人たちが
セックスがない、こういう状況がございます。
さらに、この
セックスレス傾向のある
人たちの背景を調べてみますと、初めて付き合った異性と今も付き合っている人は少ない、
セックスに対してとても関心がある割合が少ない、異性とかかわることを面倒だと感じている、初めての
セックスに対してかなり重大なことだと感じていた、
セックスレスが高じてか、一年を超えるほどに長期間にわたって
セックスから遠ざかっている人が多い、
避妊することや
避妊法について相手とよく相談して決めている割合が少ないという、こういうデータが出ております。
これは、こういう背景
調査というのは極めてまれな
調査でございますが、この
セックスレス傾向のある
人たちというのは、結局は異性とのコミュニケーションを図ることに非常に消極的であったり、
セックスに対して前向きな姿勢を持つことができないというような背景があるのではないだろうかと危惧しております。私は、
セックスレスの解消、
少子化からの脱却、そして望まない妊娠や人工妊娠中絶の防止、それはすなわち
日本の男女の間でのコミュニケーションスキルをどう向上させるかというところに課題を持つべきだと考えております。
もう一つ、先ほど来話題になっております人工妊娠中絶について見てみましょう。出生数百十二万人、その四分の一強が人工妊娠中絶という状況があるという、こういうデータ。不思議なことに、妊娠が
現実にあるとしたら、中絶が増えれば出生数が減る、この辺りは非常にリーズナブルなんですけれ
ども、最近の状況を見ますと、出生数も減っているが中絶も減っている。すなわち、これを証明するものは、ひょっとして
日本人のやっぱりセクシュアルコンタクトが極めて少ないのではないだろうか。中絶が増えているから出生数が減る、これは妊娠の結末として十分あり得ることです。しかし、中絶が減っているが出生数も減っているというこの
現実に対しては、もう少し深刻な問題として受け止めなければいけないんではないだろうかと認識しております。
ちなみに、一九五二年以降、毎日
新聞人口問題
調査会が国連人口賞を受賞するほどまでに、二十五回にわたる家族計画世論
調査を実施してまいりました。そして、二〇〇〇年をもってその
調査が中止になりましたものですから、私
どもは国に頼み込んで、何とかこの継続性をということで二
年間にわたって
調査をさせていただきました。本当にありがとうございました。
これを見ますと、今、
日本の特に既婚
女性の一六%が中絶の経験を持っているという事実がございます。そして、その中絶を経験している一六%の
女性の
うち複数回の中絶を経験する
人たちが三割にも及んでいるという事実。私
どもが中絶を集団を対象に話題にするときに、よほど言葉遣いを注意しないと大勢の
人たちのトラウマを更に強めてしまう危険性があることを認識しなければいけません。
これほど多くの
人たちが中絶という問題にかかわっておりますが、
先生方、世界の中の
日本という見方だけを見ますと、あたかも中絶天国のような形でやゆされておりますが、実は世界では、例えば法的な整備がなされないままのいわゆる中絶、リーガルではない中絶は
日本をはるかに超えるほどのものがあることを私はデータで入手しております。そのことも
日本人を評価するときに是非忘れてはいけないことだと思います。
しかし、先ほど来話題になっておりましたけれ
ども、最初の人工妊娠中絶を受けたときの気持ちを尋ねますと、
胎児に対して申し訳ないという思いが五五・九%に認められます。以下、
自分を責める気持ち、
自分の人生において必要な選択ということでございます。
このように、中絶が心身に及ぼす
影響、とりわけ
胎児に対するれんびんの情というものを強く持たせる以上、願わくば望まない妊娠を経験することがないような確実な
避妊法の提供、そしてそれをアクセスしやすい環境をいかに行政としてあるいは国としてつくっていくかという課題を私
たちは求められております。
さらに、
少子化問題と私は絡めて考えたいんですが、最初の人工妊娠中絶を受けることを決めた我が国の
女性たちの理由は、二二・一%が相手と結婚していないので産めないと回答しております。
経済的な余裕がない一七%、
自分の仕事、学業を中断したくない九%等々等でございますけれ
ども、まあ、しかし考えてみますと、
日本という国はいかほどにファジーな国なのか。母体保護法における人工妊娠中絶のいわゆるその適用事由というのは、許容事由というのは
経済的な事由と母体の健康に限られておるにもかかわらず、このような形で
日本国民に対して中絶の理由を聞きますと、実はその二つに絞り込まれることなく、結婚していないので産めないと回答するというような、こういう回答が平然と出てきてしまうところに、またファジーさと、また面白さがあるわけでございます。
私は、こんなデータを見ながら、嫡出でない子の出生割合を国際的に比較してみることに興味を持ちました。スウェーデンは五五・三%が、デンマークは四四・六%が、フランスは四二・六%が、しかし、
日本はいわゆる結婚しない
状態で
子供を産むということが極めて困難な国であること、このことに、国政にあずかる
先生方には是非知っていただきたい。結婚していないので産めないと中絶理由のトップに挙げた
日本国民の、とりわけ
女性たちの声を、こういう方法をもって支えていく、サポートしていく道はないんだろうか。
私からの提案でございます。
一つは、男女間のコミュニケーションスキルを向上させるための施策の推進、そして触れ合いの
チャンスを増やすために何をしなければいけないかというと、企業主が配慮して早期退社を促すことが必要であります。
私、実は母子保健課というところが私とのかかわりが非常に深いところですけれ
ども、
少子化対策に重要な役割を負っているあの母子保健課のスタッフの帰り時間を見ますと、これでは子は産めない。きっとこの状況をインターネットで課員が見ていると思いますけれ
ども、もう夜遅くまで仕事をしているあの役人さん
たちを見ますと、早く帰れと声高に叫ばずにはおれません。そしてさらに、産みたいときに産めるような環境の整備、そして
女性が主体的に取り組める
避妊法の選択、戸籍法の改正を含めた婚外子に偏見を持たない
社会を育てる、私はこのことをまず提案したいと思います。
残り時間が五分になりました。
性教育の問題について触れろという
会長からの指示がございました。
改めて申し上げますが、性教育は
学校や地域で
子供たちが得ております。ちなみに、この研究
調査報告書によりますと、六十八ページをごらんいただきたいと思いますが、私も驚いたんですけれ
ども、若い世代が、
避妊方法の主なる情報源として国民はどこから得ているかというデータを取ってみましたところ、実は若い世代の六割近くが
学校というところで得ていると、こう答えるのであります。今、性教育バッシングの問題がいろいろ取り上げられる中、
学校という場が彼らにとって情報を入手する場所であるとしたら、この問題、
学校での教育の
チャンスを失わせるわけにはいきません。
取りあえず、数分、
あと三分ございますけれ
ども、早期性教育が若者
たちの
性行動に
影響を及ぼすという部分では、きちっとした情報を提供することが行動を慎重にさせ、そして、
性感染症や人工妊娠中絶の防止に向けた行動が取れる、性の乱れにつながるどころか責任感を高めることが証明されています。
ところで、アメリカにおける禁欲教育は成功したのでしょうか。
アメリカでは、ブッシュ政権以降、かなり強く禁欲教育というものを進めております。とりわけ、禁欲教育の中では、多くのことを教えないというところが大変気になるところでございますし、結婚までは
セックスをしないという、この情報提供を続けるということが描かれております。しかも、ブッシュは莫大な
お金を投じてこの禁欲教育に力を注ぎました。事実、妊娠率は減少し、人工妊娠中絶率は減少し、あたかも成果を現したかのような印象を私
たちに与えております。
しかし、この表をごらんくださいませ。結婚まで純潔を誓約したかどうかということと、
性感染症の罹患率を見ますと、結婚まで
セックスはしないと誓約した人と、誓約をしていないが、しかしきちっとした教育を受けた
人たちの群を比較してみましても、むしろ誓約をした群の方が
性感染症率が高いという事実が極めて国際、要するに国レベルの研究機関から報告されているということを私はつい最近得たわけでございます。
こういうことを通しても、あるいはカナダのデータもそうなんですけれ
ども、情報が十分提供されないことが
子供たちを混乱をさせるという、こういうことにつながるということを、私はアメリカの禁欲主義教育が恐らく失敗という烙印を押されるであろう理由になるだろうと思っております。
性交はしない、だから性交経験率は下がる。性交はしない、だから人工妊娠中絶率が下がった。性交はしない、だから妊娠率が下がった。そうかもしれません。しかし、先ほどの
性感染症の例などを見ますと、その結果として、口を使った、オーラル
セックスと言いますけれ
ども、あるいは性交や、あるいは肛門を使った性交、そういう方向に、実は誓約をしたグループが走り、結果として
性感染症を引き受けてしまったというデータでございます。カナダの
全国調査も十四年ぶりに行われましたが、情報が提供されないことが大変大きな問題だということをここで知ることになりました。
時間になりました。
私は、最終的には、若者
たちにどうやったらきちっとした情報を提供できるかという、あるいは、提供する
チャンスを
学校という現場で保ち続けることができるかということを常々考えつつ、今日の
議論に臨んだわけでございます。
御清聴ありがとうございました。