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参考人(
森泉陽子君) 本日は、このような
機会を与えていただきまして、誠にありがとうございました。
私は、今日は
少子化社会と
住宅ということで少し述べさせていただきたいと思います。(
資料映写)
既にお配りしてあります私の
ペーパーにおいて「
少子高齢社会における
住宅と
経済」ということを書かせていただいたわけですが、今日はそれを
ベースといたしまして、その中の幾つかを取り上げてみたいと思います。
私がお配りいたしました
ペーパーの骨子をちょっとここで一、二回、簡単にもう一度述べさせていただきたいと思います。
基本になっておりますのは、ここにありますように、豊かな
高齢者と少ない
子供の数ということが
ベースになっておりまして、そこで書きましたことは、まず豊かな
高齢者の、親の
行動が
子供の
行動に
影響を与えるということなんです。そこでは、特に親が自分の持っている
財産、
住宅も含めまして、その
財産を戦略的に用いて
子供に、
子供の
行動を縛るというか、
子供に老後の
介護を、老後の世話を頼んで、それで
子供の方は、それはそれで
財産がもらえる、
住宅がもらえるということで非常にいいという、お互いの利益が一致したということで親の
行動が
子供の
行動と非常にリンクすると。そのリンクの核となっているのが
住宅を中心とする
財産であるというようなことが書かれております。
そのような、親がどのような
行動を取るか、
子供に
財産を残そうとしているのか、全く残さないとしているのかと、そういうことによって
住宅市場のマーケットも
変化する。すなわち、賃貸市場が違ってくる、それから持家市場の動向も異なってくる、それからさらには中古
住宅市場の
変化もあると。
それで、ひいてはマクロ
経済、マクロ
経済といいますと、今、
八代先生がお話しになったような労働面もありますが、いろんな面があるんですが、特に昨今問題になっております貯蓄率の非常な
低下ですね、そういった貯蓄率の
低下及び貯蓄率の違いもこういった親子の
経済行動、住
生活によって
変化してくるだろうということが述べてあるわけです。
さらに、それをもうちょっと詳しくリビューいたしますと、親子の住まい方が
住宅市場、マクロ
経済にどのような
影響を及ぼすかということで、まず
住宅市場にどのような
影響を及ぼすかということですが、今申しましたように、親はかなり利己的に、自分は、遺産動機と言うんですけれども、自分は戦略的に老後の世話を頼みたいから
子供に遺産を残してやると。ですから、同居したり隣居したり近居したりするわけです。そうしますと、
子供の方はやはり早く自分の家が持ちたいから、買いたいんですが、そういうときには資金繰りが楽になります。
生活も楽になって、何度でも海外旅行に行けるというようなことになるわけです。
住宅購入は、若い時期から
住宅を買うことができる。しかし、
介護負担もしなくてはいけない。だけれども、もしかして親が元気なうちは
子育て支援を受けられるかもしれない。
住宅市場においてはどういうことが言えるかといいますと、建て替えであるとか、あるいはリフォームというものが親子一緒に住んだりする場合には活発になります。若年の世帯が
住宅購入を活発に行うという、そういう持家市場が活発になるということです。
それからもう
一つは、親は全く
子供になんか遺産残したくなかったんだけれども、うまく使い切れないで結果として残ってしまったと。こう意図せざる遺産というのも
日本では多いわけなんですが、そういった場合には
子供は非常に得するわけで、こういうケース多いと思うんです。資金繰りが楽になると。親から結局、
財産をもらったり、
住宅をもらったりするわけですが、その親がくれるまで待っているということですね。言葉が悪ければ、親が死ぬのを待っているというような感じがあるわけですね。
介護負担はしなくてもいいし、親は高齢化が進んでいますから、購入する時期は遅れるであろう。
それまでは、
住宅市場における
影響としましては、それまでは賃貸
住宅市場で住んでいるわけです。ですから、賃貸
住宅市場は活発化する、
住宅購入時期は遅れると。しかし、親の
住宅をもらったり、あるいは親の
財産をそっくりもらえるとなると
住宅の規模は大きくなるだろうと。こういうような
住宅市場は
変化をいたします。
最後に
ペーパーに書きましたのは、遺産を残さないで、贈与もしないで、これからの、今まで蓄積してきた
住宅なり
財産を全部自分で使ってしまう。私は、その
ペーパーではアクティブシニアというふうに書いたわけですが、それは、これからの団塊の世代のシニアはそういう形態を取るのではないかと思うんですが、
子供に頼らずに自分でさっさと施設に入ると。そのときに、自分が自宅を売却する場合もあるし、リバースモーゲージで月々収入を得たり、自分の家を貸して自分で収入を得たりという自分の人生を自分で完結するというケースです。そのような場合には、
子供世帯としましては、やっぱり同じように、今までと同じように貯蓄をしていかなければならない。まあ海外旅行何度も行くというようなことはできないかもしれない、だけど
介護の
負担もなくて済むということです。
住宅市場はどういう
変化になるかといいますと、自分で建てなくちゃならないので、
住宅の規模は上
二つのケースよりも小さい。敷地も細分化していくことになるだろう。しかし、若い世代が家を買うということは、中古
住宅市場からスタートするということもあるわけですね。中古
住宅市場であると新築よりも安いわけですから、中古
住宅市場に、中古
住宅を買って、それから買い換えていくということもありますから、これ中古
住宅市場が活性化するであろうというわけです。
ですから、
住宅政策としましては、これらの一番目は、若年世帯の購入を活発化する、あるいはリフォーム
住宅、こういうものに
対応したもの。それから二番目のケースとしては、賃貸
住宅市場に
対応するような、こういったニーズに
対応するようなもの。三番目としては、中古
住宅に
対応するような
住宅政策が必要であろうということです。どの場合も、
少子化の場合は、
住宅市場において
住宅価格が下がっていくということは言えます。
マクロ
経済の
影響ですが、一番目と二番目に関しては、
住宅を購入するときにはせっせと頭金をためて、ある
程度たまって、銀行から借りて
住宅を買うわけですけれども、そういうものは要らなくなるわけですから、ためる必要はなくなるわけです。これが貯蓄率を
低下させている。私は、これが近年の貯蓄率の
低下の非常に重要な
要因ではないかと思います。三番目に関しては、貯蓄率を下げる下支えになっていくのではないかというふうに考えております。
それで、このような、今見たような親子のリンケージということは
ペーパーで書かせていただいたわけですが、今日はその中で、特に今言ったこの二番目の「意図せざる遺産」、要するに待っていれば自然に入るということ。
少子化であり高齢化であるから、
子供は貯蓄もせず待っていると、そうすると独りでに
財産なり
住宅が入ってくるという、
少子化と若年持家率が
低下していると、この傾向に注目して、この部分についてお話しさせていただきたいと思います。
まず、三つのことがありまして、
日本の持家率は六一・二%であり、これは先進各国に比べて低くはないんです。
高齢者の持家率は八〇%を超えていますから、これは高いんです。それに比べて、
日本の若年持家率というのは、二十九歳までの三十歳未満ですが、それは非常に低いわけです。これらのことが、これらの非常に
日本の特徴的なこの三つのこと、特に若年持家率が非常に低いというこの特徴が、
日本の
住宅市場、マクロ
経済にどのような
影響を与えるかについて述べさしていただきたいと思います。
まず、事実の認識なんですが、先進各国の持家率というのはこういう具合になっております。
一番端が
日本ですが、
日本の持家率は六一・一%以上ですから、これは世界各国、先進各国と比べて決して低くはありません。一番低いのがドイツです。それに比べて、若年の持家率はドイツの次に低いわけです。ドイツは全体の持家率が低いわけですから、持家率、若年も低いのはうなずけますが、例えばオランダは、
日本よりも平均的な全体の持家率は低いにもかかわらず、若年の持家率はこんなに高いということです。
それから、
日本の持家率の時系列の
変化を見てみますと、二十五歳以下はこう徐々に減ってきています。それから、二十九歳未満においても減ってきています。最近ちょっとこう、上がると言えるかどうかこれはよく分かりませんが、いずれにしても低いわけです。
それをさらにコーホートというもので見てみますと、このコーホートというのはどういうものかといいますと、昭和十四年から十八年に生まれた人が二十五歳未満のときにこれだけ
住宅を持っていて、その
人たちが五年後に三十歳未満になったときにこれだけの人が持家を持っていてと、こういうのをプロットしたのがコーホートというものです。ですから、これは昭和十四年から十八年生まれの
人たちです。
徐々にこう、これを曲線を見ていただくと分かるように、最近の昭和四十四年—四十八年生まれの
人たちはこんなに下がっているわけです。ですから、このギャップというのが、若年の
人たちが、若い
人たちが家をなかなか買わなくなってきた。しかしいずれは、こういう傾向にありますから、
日本の世帯はやはり持家を持つと、最終的には八〇%ぐらいの持家を持つということには変わりないわけです。
若年持家率がどういう理由で
低下したかという原因を考えてみますと、これは
一つ、デモグラフィック
要因なわけです。先ほどのお話にもありましたように、
晩婚化、未婚化というようなことで、
家族形成の後れというのが
一つありますが、これは世界各国でも同じようなことが見られるので、これを中心に考えるわけにはいかないわけです。その次には、家をいずれは持ちたいわけですが、家を持とうと若い人が思っても、これは
住宅ローン市場の信用力が低いわけですから、若い人は借入れが困難であるからその頭金が蓄積されないうちは買えないということ。
それから、先ほどもちょっと申しましたが、中古
住宅市場からスタートして買い換えていこうかと思いますが、中古
住宅市場は非常に
日本の場合はまだ未整備です。非常に質が悪くてよく分からない。しかも、売手と買手の間にその情報の
非対称性というか、売る方は自分の
住宅の欠陥を分かっていますが買う方には分からないという、そういうことですね。
住宅性能
制度が最近は徐々にスタートいたしましたので、まあ少しはいいかと思いますが、そういったいろいろな
要因で中古
住宅市場が未発達です。
そういったことも持家率
低下の大きな
要因であろうと思いますが、今回は相続という点に注目したいと思います。
相続で
少子化ですから、一人っ子あるいはせいぜい二人だとしましても、
住宅、家が入る、あるいは資産が一杯もらえる。下手をすれば一人っ子同士が
結婚すれば両方の親から家をもらえるというようなことになるわけです。ですから、若い
人たちは待っているわけですね。高齢化でもって、年寄りの方も高齢化ですからこの時期が長く続くということになっている。これが若年持家率が
低下している大きな
要因ではないかというふうに思います。
今日新たにお配りしたところでも見ていただくと分かりますが、若年持家率というのは、昭和四十三年から平成十五年まで調べてみたんですが、昔は二七・九%ほどあったわけですね。それでも、先進各国から比べるとそれでも低い方なわけです。しかし、その低い方でも昔は二八%弱の世帯が家を若年が持っていたと、それが徐々に、最近は非常に落ちてきているということでございます。
それでは、そういった若年持家率の
低下というのはどのような
意味を持つのかということですね。いずれは家を持つということは先ほどから申し上げているとおりです。若年持家率が、それではインプリケーションどういうものかといいますと、若年世帯の資産形成の意識が後れていると。すなわち、若いうちから自分の
経済的なプラン、ライフステージに従って
経済的自立をしていくということですね。先ほども言いましたように、頭金を、そのためには頭金を一生懸命ためると、これも
生活の設計の
一つです。初めは中古の小さい家に住んで、それから買い換えて、世帯が増えていくにつれて大規模な家、中規模な家に移っていくと、こういうようなことを考えるということが資産形成の意識なわけです。頭金を貯蓄したときにはどういったものでポートフォリオを組もうかとか、そういうことにも資産形成の意識があるわけですけれども、そういったことが非常に意識が低くなったのではないかと。これはちょっと話が飛ぶかもしれませんけれども、私は、パラサイトシングルというようなことが今言われていますけれども、大人としての意識の後れというのも、そういう
経済面の意識の後れ、自立の後れというところに非常にリンクしているのではないかというふうに思います。これが
一つです。
もう
一つは、賃貸
住宅に住むのが非常に長くなりますと、賃貸
住宅に住むということはある種のモラルハザードを起こすわけです。要するに、貸家に住んでいるんだから丁寧に住むのをよそうとか、もちろん周りの住環境への気配りは全くないわけですから、
住宅の質がそういう限りでは少しも良くならないというような
問題点も持つわけです。
それから、中古
住宅市場の発達も遅れてきます。若年の世帯が家を持つようになれば中古
住宅市場も発達が、中古
住宅市場が整備され、それに対するニーズが高まるということは中古
住宅市場を発達させるということで、良い中古
住宅市場が形成されるというふうに思われます。
それから、マクロの
影響としては貯蓄率の
低下があります。これは、要するに自分で、ここで言ったように頭金をためなくてもよろしいということですね。そういうことから、貯蓄率を
低下させている昨今の大きな理由の
一つであるというふうに思います。
まず、それではどうしたらよろしいのかといいますと、非常に、若年世帯の持家率をすごく高めるということは別に必要ないと思うんですね。若年世帯の持家率を先進国並みに、あるいは昔のように、今のように一〇%ちょっとということではなくて、先進国並みに持ち上げるということが
一つの
政策の
ポイントとして考えてもよろしいのではないかと。
実は、調べてみましたら、富山県というのは持家率全体が八〇%でしたけれども、若年の持家率は過半数を超えておりました。ですから、
日本でもそういう地域はあるわけです。そうしますと、その地域に根差したような若者の活動があるのではないかというふうには思います。
先進国並みにするためにはどうすればいいかといいますと、主に中古市場を整備していくということがあります。
それから次に、これが非常に大きなことだと思うんですが、
税制、買換え
税制の緩和をするということを私は強調したいと思います。
アメリカにおいては、
年齢制限なしに、しかも何回
住宅が移ってもそれは
住宅のキャピタルゲインに課税をされない、所得に不算入になっているわけですね。よく持家を持つと、持家を持つという、
住宅を持つということはロックイン効果を持ってしまう。要するに、そこから動かないわけですね。
ですから、それは、そのモビリティーもそうなんですが、就職、労働のモビリティーも低いというのは、要するに持家を持ってしまうからそこから動けない。ということは、例えば単身赴任もそうですし、そのほか、東京に住んでいる人が北海道で勤めるということは余りないわけですね。それは、その
住宅保有に問題があるのではなくて、
税制に問題があるわけです。
引っ越すたんびに売れば、それにそのたんびに掛かってくるわけですね、
税制、キャピタルゲインに掛かると。ということがある限りは絶対そのモビリティーは高まらないわけです。アメリカであのようにモビリティーが高いというのは、
一つは
税制の緩和ということも大きくあるわけで、ですから、持家がロックインじゃなくて
税制の問題であるということです。
これは、今後、ちょっと
高齢者の話で、
ペーパーには書いたんですが、
高齢者が自宅を売って
介護施設に入ると、そこでまず税金が掛かるということでは
高齢者は自宅を売って入るというインセンティブも低くなってくるわけですね。ですから、そこの
税制を是非緩和していくということを提案したいと思います。
それから、もう
一つはローン市場の発達、要するに若年者の信用力は低いということですから、そこのローン市場の発達をさせる。これは、今証券化が行われて、だんだんだんだん
住宅金融公庫を始めいろんなところで証券化がスタートしているので、この辺のところがもっともっと進展していけば、証券化することによって若年者も
住宅ローン、民間
住宅ローンを借りることができるということは言えるかと思います。
最後に、
少子化時代の
住宅政策の
ポイントということで、
ペーパーに書いたことも含めてちょっと幾つか羅列させていただきたいと思います。
まず、一番初めのリンケージでも述べましたが、
少子化の
時代というのは
住宅価格は下がるわけなんです。とにかく
住宅が余ってくるような
時代です。ですから、
住宅マーケットはタイトではなくなるわけですね。そういう
時代において、先ほど申しましたように、アクティブシニアというのがこれからの団塊世代のシニアであろうというふうに私は想像、予想するわけですから、そのアクティブシニアとの混住地域、要するに
介護施設及び独立した
高齢者を含む非常に広い範囲の地域というのを再開発すると。再開発は、六本木ヒルズとか、ああいうビジネスとかマンションのみではなく、
高齢者とのそういった地域が幾つか出てきてもよろしいのではないかという、そういう再開発の後押しをするようなことを
政策として行えればというふうに思います。
それは、ちょっとここの三番目ですけれども、空き家・空き地
対策ということと非常に、
ペーパーには書きましたけれども、密接に結び付くわけで、これからは
住宅市場がタイトでないですから、空き地とか空き家が幾つか出てくるわけです。ですから、それらをマージするというようなことで何らかの再開発の後押しをできればいいのではないかというふうに思います。
それから、新しい親子世代に
対応した住
生活を送るための
政策というのは、先ほど申しましたように、アクティブシニアのような、あるいは
介護施設も含んだそういった施設に親世代が入ろうと思ったときに、
税制を緩和しないと資産を使い尽くしてしまう。資産が、老後の
生活が足りないというようなことになります。ですから、それをアメリカのように引っ越しのたんびに取られないような
税制の緩和が是非とも必要であるということでございます。
それから、若年世帯の持家率を
欧米並みにというのは先ほど来申し上げたことです。
あと、中古
住宅市場の整備であるとか、当然、賃貸
住宅市場の整備というのは、これは
ペーパーに書いてありますが、多分いろんなことで言われてきたことではないかというふうに思います。
以上、簡単でございますが、私の報告とさせていただきます。