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参考人(
目黒公郎君) それでは、
お話しさしていただきます。
まず最初に、
中越地震でお亡くなりになられました
方々、また御不自由な
生活をされている
方々に対しまして、お悔やみとお見舞いを申し上げます。
じゃ、まず私の方から申し上げたいことを最初に資料を使って
お話しさしていただき、また時間があればパワーポイントの図表などを使ってその背景を説明さしていただきたいというふうに思います。
まず最初に、今後我が国が
地震防災対策としてきちんとした対応をする上で欠いてはならない重要な視点ということについて
お話しさしていただきます。今日、我が国が置かれている
地震学的な環境をまず
お話しさしていただきたいというふうに思います。
今日、我が国は
地震学的に非常に活動度の高い時期を迎えておりまして、今後三十年、四十年の間にM八クラス、東京に近いところでいいますと関東
大震災、あれがM七・九ですから、それを超えるぐらいのクラスの
地震が四発あるいは五発、その前後にM七クラス、今回の
中越あるいは
兵庫県
南部地震クラスの
地震がその数倍起こるというふうに我々は考えております。それらの一連の
地震で我々が失う
被害額、これが百兆円から三百兆円というような額になります。三十年で三百兆だとすると、年間十兆円ずつの
被害を受ける、こういうような
状況に今あるということがまず最大の重要な
課題ではないかと思います。
さらに、これらの
地震が起こるというとどれぐらいの
被害が我々を襲うかといいますと、東海、東南海、南海の話をさせていただきますというと、
震度五以上のところに住んでいらっしゃる方の人口が四千万人、三万人ほどの方が亡くなられるというような見積りが中央
防災会議の方から出ております。
ただ、私自身は、これはかなりな過小評価なんじゃないかなというふうに思っております。神戸の
地震で全壊数は十万棟です。半壊数は十四万棟です。一部損壊は二十一万、火事で焼けたのは七千数百です。これら一連の
地震でどれぐらいの建物
被害を我々が受けるかといいますと、全壊建物数だけでも百万棟を超えるわけなんですね。半壊を入れればその数は二百万棟というような数になるわけです。そういうような
災害を今後受ける際に、我々が何をしなきゃいけないか、どういう
観点を忘れちゃいけないかというのが私の今日の
お話の主題であります。
兵庫県
南部地震、先ほど十兆円の
被害ということの御報告がありましたが、間接
被害等を入れますというと、学者によっても見積りが違いますが、二十兆から三十兆円を計上されるわけであります。それで、先ほど言ったような数の建物
被害が生じ、
地震後二週間までの間に五千五百余名の方が亡くなられました。その中の実は九〇%を超える
方々が、監察医のデータによると、
地震の十五分後までの間に亡くなってしまっているというデータがあるんですね。自分の住んでいらっしゃるアパートを含めて建物で亡くなっている方が八七%、こういったような
状況です。火事で亡くなられた方が一五・四%ほどいらっしゃいますが、その多くの
方々は、消防活動の問題というよりは傷んだ家の下敷きになっていて、逃げ出すことができないでいて、それで火事が襲ってきて亡くなられているような
状況なんですね。ですから、建物の問題をきちんとしない限り、今後の
地震防災の
対策の抜本的な改善はあり得ないということがまず一番重要な視点であります。
自衛隊、消防士の方、全国でどれぐらいの数いらっしゃるか考えていただければ、それらの方がどれだけ迅速に御対応していただいたとしても、
状況が抜本的に変わるということはあり得ないというようなことも忘れてはいけないことではないでしょうか。
耐震性が高まれば、
地震の後に発生する火災も大幅に減ります。しかも、消火活動の条件も大幅に良くなりますから、仮に火が付いても消せるというような
状況も明らかです。
東海、東南海、南海では津波の影響が叫ばれ、その重要性が指摘されています。そのとおりです。ただし、津波
避難路をきちんと整備
しようが、津波の来る前に
地震動が到達するのは自明であります。すなわち、建物をきちんとしておかないというと、津波の前に家がばたばた倒れてそこで多くの方が亡くなって、せっかく造った津波の
避難路も使えないというような
状況が発生してしまうということであります。
今回の
中越の
地震を私が見るに、
中越で被災された
地域の建物は、日本のほかの
地域、特に関東以西の建物に比べれば大変丈夫な建物が多いという印象を受けております。なぜならば、積雪を考えなきゃいけない
構造物というのは柱もはりも太くしなきゃいけない。冬寒い。大きな窓を作って開けっ広げというような
構造物は造りません。当然壁の量が多くなるということで、
地震に対して強くなります。積雪を考えるからといって、じゃ屋根が重いかといえば、もちろんそうじゃなくって、積雪を屋根の上に乗っけておきたくないですから、スレート、トタン、こういったものを使います。これは屋根の荷重を軽くします。さらに、基礎も十分、非常に大きな丈夫なものを造られます。これら
一つ一つは
地震に対しての
対策ではないんですが、結果的には
地震に対して非常に強い
構造物を造り、結果として
構造物被害が少なくなったということが今回の
地震の影響、先ほど
泉田知事の方から御報告がありましたが、非常に悲惨な
状況だということに変わりもありませんが、あれがもっと
地震に対して弱い建物が一杯ある
地域だとしたときには、今の比じゃない、非常に厳しい
状況に置かれたということをまず我々は忘れちゃいけないということです。
中越で見えている
災害というのは、建物が大幅に壊れるということを防いだことによって相対的に重要性が高まった問題が今出ております。私は、それらの問題が重要じゃないと言っているんではないので、それは誤解していただきたくないんですが、ほかの
地域、オールジャパンで
対策を考えようとしたときに、
中越地震で見えてきたことの大切さと同時に、建物が丈夫だったということであれだけ影響が小さくなったという
部分も忘れてはいけないということをきちんとお考えいただきたいということであります。
それから、先ほど来申し上げていますように、私どもが今後受けるであろう
被害の額というのは大変な量であります。そのときにやらなきゃいけないことは何かというと、被災された
方々が気の毒なのでその
人たちに手厚くケアをしましょうということはもちろん大切なことなんですが、それだけでは
被害を、あるいは潜在的な
被害を減らすことはできないということも重要です。耐震改修をきちんと進めていただくような
制度設計をきちんとして、それでもって
被害を減らす努力をした上でやられた人をケアするという
対策を取っていかないというと、全く
被害は減らせません。
そこで、私が提言している
制度があるんですが、それは幾つかの
制度の合わせ技になっております。
一つは、今の
生活支援の
制度というのは、事前に御自分の力で努力できるにもかかわらずやらないでいて、
地震で建物が壊れたときに気の毒だからお金を上げましょうという
状況になってしまっております。私は、この
制度を作られるときに、
是非それには自助の条件を付加していただきたいということを強く主張していたんですが、残念なことにそれはなくなりました。すなわち、どういうことかというと、私自身は、
行政によるインセンティブ
制度、それから耐震改修をした
人たちによる積立て、それから新しい
地震保険
制度、こういったものを作ると。耐震改修さえしておいていただければ、仮にその建物が被災した場合に、新しく家一軒造って住んでくださいというぐらいのお金をぽんと御提供できる
制度が成り立つんですよという、そういう提言であります。
事前に自助努力した人が、その建物が
地震の後に被災した場合に、
行政がそれに対して手厚くケアをするというようなことを実現しますというと、
行政の出費は大幅に減ります。市民の
被害も大幅に減ります。今一部の
行政が展開されている、事前に
行政がお金を用意してこのお金の中でやってくださいという
制度はうまくいきません。なぜならば、
対象となる
構造物の数を考えたときに
現実的な予算は用意できないからです。静岡県で五十数万棟、神奈川県で百万棟、東京で百五十万、こういった
人たちが百万ずつサポートしてくださいと言った瞬間に何ぼ掛かるか。五千億だ、一兆だ、二兆だというお金が掛かるわけです。それを事前に用意できる自治体がありますか。ないわけです。
やらなきゃいけないことは何かといえば、
皆さんに自助努力していただいて、それでケアする
制度であります。そうすることによって、そういう
制度を作ると。今の
制度は、仮に数を限ってやってくださいと、市民がやりました、やりっ放しの
制度です。その建物がその後どう維持管理されるかを
行政がインセンティブを持って見るというようなことは成り得ないんですね。ところが、私のような
制度を作っておけば、その契約されたものが将来やられたらばお金を払わなきゃいけない。継続的に見る、その
制度、その建物を管理する、ウオッチングする仕組みができます。それが
責任あるビジネスとして地元を潤すことにもなるわけです。悪徳業者も入ってこれません。
それから、耐震改修した家が平均値としていいことはだれも疑わない。だけれども、自分の家が将来どれだけ
耐震性が高まって、あるいは何か問題があったときにだれも補償してくれない、これが不安で多くの
方々はその一歩を踏み出せないなんということもあるんですね。そういうことに関しても、私が言っているような
制度があるとこれは踏み出していただくことができるということなんですね。
以下、積立ての話は、耐震改修した
人たちだけがほんの少しの積立てをするだけで建物は大幅に強くなりますから、仮にやられたときにその積立ての中からお金を払うということで大変有利な
制度ができます。
それから、新しい
地震保険とはどういうものかというと、今の
地震保険は、揺れでやられる場合、その後の火事でやられる場合、津波、火山、火山灰、こういったものを全部カバーしなきゃいけないから
地震保険屋さんから見たときにリスクが高い、つまり
地震保険料を高くしなきゃいけないんですね。
私の言っている新しい
制度はそうじゃない。
耐震性をきちんと高めておけば、揺れで壊れるということはほとんど考えなくていい。ですから、市民側からすれば、揺れで壊れるものは免責にしてくださって結構ですよということが言えます。そうしたときにどれだけいい
状況が生まれるか。
兵庫県
南部地震では十万棟が全壊、十四万棟が半壊ですよ。火事で焼けたのは七千数百。つまり、火事で焼ける量は大幅に少ないということです。さらに、
耐震性が高まるというと出火・延焼確率は大幅に減りますから、同じ保険料だったらば補償してあげられる額が大幅に上がる。あるいは同じ額を補償するんだったらば保険料が数十分の一になる。こういったことが実現できるんですね。そういうことをきちんとすることによって、
被害を大幅に減らすということをされるべきだと思います。
私が申し上げているのは、今、
中越で被災されている
人たちをケアする
制度は正しくないと言っていることでは全くありません。それは誤解していただきたくないんですが、ただ、そういう
制度を作るときも、今後よそで同じような
災害があったときに、あるいは潜在的に我々今後大きな
被害を受ける
状況にある際に、オールジャパンで、アカウンタビリティーが立って、しかもロジックが立つ
制度になっていないというと後々問題を生む
可能性があるので、それをきちんとお考えいただいておくことがこの時点で重要ではないでしょうかということを申し上げているわけであります。
ちょっと時間が超過しましたのでこれくらいでやめますが、具体的な数字を含めて御説明、あるいは質問があれば私の方で追って解説をさせていただきます。
どうもありがとうございました。