○
中山会長 次に、
日本国憲法に関する件について
調査を進めます。
この際、米国、
カナダ及び
メキシコ憲法調査議員団を代表いたしまして、御報告を申し上げます。
私どもは、去る八月三十一日から九月十三日まで、
アメリカ合衆国の
カリフォルニア州及び
首都ワシントンDC、
メキシコ並びに
カナダにおいて、その
憲法事情について
調査をいたしてまいりましたので、その概要につきまして口頭で御報告をし、
調査の参考に供したいと存じます。
この
調査議員団は、私を団長に、
会長代理の
仙谷由人君を副団長といたしまして、
中川昭一君、
山口富男君の四名をもって構成されました。なお、この
議員団には、
憲法調査会事務局及び
国立国会図書館の職員のほか、二名の
記者団が同行いたしました。
私ども一行は、九月一日、最初の
訪問地である
カリフォルニア州の
州都サクラメントにおいて、
州議会議事堂を視察の後、
カリフォルニア州の
上下両院議員を経験した後、
州政府の
総務庁長官を務められた
バリー・
キーン氏及び
カリフォルニア州
議会ロビイストであるスコット・
キーン氏と懇談し、
州知事のリコール及びそれが成立した場合の
州知事選挙が行われている最中の
カリフォルニア州の
政治状況、そしてそれに大きな影響を与える
住民参加規定を有する
カリフォルニア州
憲法の意義と課題について意見の交換を行いました。
また、翌二日には、全米の中でも
日本研究で名高い
UCバークレー校におきまして、「
衆議院憲法調査会の活動と二十一世紀の日本の
憲法」と題する私の講演及び
会場参加者との間での
質疑応答を行い、その後、場所を移して、スティーブン・
ヴォーゲル准教授ら政治学者との懇談、そして
バーネット教授ら憲法学者との懇談を相次いで行いました。
私は、講演の中で、
日本国憲法の
制定経緯にGHQが深く関与したこと。戦後半世紀の間における国内外の諸情勢の変化を受けて
現行憲法のままで本当によいのかどうか、今まさしくそこが問われていること。そのような観点から、
憲法調査会では、
象徴天皇制の維持に関しては各会派が合意したものの、九条や
憲法裁判所の導入の是非などについては精力的に議論されていることなどを述べました。これに対する
質疑応答では、
会場関係者から、
憲法裁判所を導入した場合の判事の任命の
政治性についてどのように考えているのか、
九条改正が
近隣諸国に与える影響についてはどうか、
天皇制維持の理由は何かなどに関する質問が出されました。
最後に、
ヴォーゲル准教授の指名により、
仙谷会長代理、
山口議員が発言されましたが、
仙谷会長代理は、
我が国が戦後とり続けてきた軽武装・
経済成長路線はもはや通用しなくなってきていることを指摘された上で、
安全保障を初めとする
国際関係の考慮、これまでの統治の
基本システムであった
中央集権体制の転換、
民主主義の
豊富化としての
人権保障の仕組み、具体的には、
憲法裁判所、
人権委員会や
GAOなどの仕組みの構築の
必要性といった三つの課題を挙げ、さらに、
法治国家としてこれ以上の
解釈改憲は行うべきではないと述べられました。
また、
山口議員は、
日本国憲法の
制定過程は、各党の
憲法草案の提示、
制憲議会での議論、国民の圧倒的な支持など、実に豊かなものであった。
天皇制は
国民主権と矛盾するものであり、やがて解決されるものとは思うが、現時点では、
象徴天皇制にかかわる
憲法条項を厳格に運用していくべきである。
憲法九条は
アジアと世界の平和、安定にとって重要であり、これを守ること、
我が国では、
日米安保からの離脱を主張する意見こそ多数派であるとする
世論調査もあるとの意見を述べられました。
他方、
政治学者及び
憲法学者らとの懇談においては、
イラク戦争、
北朝鮮情勢などをめぐる現在の
日米関係に対する認識と評価、頻繁な修正がなされている
カリフォルニア州
憲法の特徴とこれに対する評価など、実に広範なテーマをめぐって
意見交換を行いました。特に、
民主党勢力が強い
カリフォルニアという
土地柄もあってか、ユニラテラリズムの傾向を強める現在の
ブッシュ政権の
対外政策に批判的な意見が相次ぎましたが、
憲法の観点から個人的に印象に残ったのは、
カリフォルニア州
憲法の最大の特徴とされる
住民参加規定の
運用実態に対する
消極的評価でした。
すなわち、
カリフォルニア州
憲法においては、一九一一年改正によって導入されたイニシアチブ、
住民発案による
憲法修正が頻繁に行われており、この制度を利用して行われてきた数々の
憲法修正、例えば、
固定資産税の
上限税率を
憲法に定めたり、また、
増税法案や
予算案の議決には議会の三分の二の特別多数を要するとしたこと。知事、
議員の任期を制限し、知事及び
上院議員は二期八年まで、
下院議員は三期六年までとしたこと。
不法移民への
福祉制限やアファーマティブアクションの廃止などが次々と行われてきましたが、これらは、
州知事及び議会に対する住民の
不信感に根差したものであると同時に、
少数派政党が
州政府、議会に対抗する形でこの
住民発案を政治的に利用する傾向が見てとれるといった指摘であります。このような指摘は、前日の
サクラメントでの懇談において、
バリー・
キーン前
総務庁長官も指摘したところで、同氏は、このような現象を指して、
カリフォルニア州における
憲法の危機とまで言い放っておられました。
我が国でも、特に
地方自治レベルにおいて
住民参加の主張がなされておりますが、
住民自治の観点から仮にこれを導入するという立場に立った場合でも、このような直接
民主制の
妥当領域はどこか、これと議会への委任を中心とした
間接民主制との
ベストミックスをどのように図るべきか、さらには
憲法裁判所のような
チェック機構をどのように組み合わせて
制度設計をするか等々といった観点が重要になってくると痛感した次第であります。
メキシコでは、その
首都メキシコシティーにおいて、九月四日、午前中からお昼を挟んで夕方の午後八時近くまで、
セラーノ・メキシコ国立自治大学法学部長、
ブルゴア同
大学名誉教授、
ゴンゴラ最高裁判所判事、前
最高裁判所長官、
ソラーナ元
外務大臣との懇談を相次いで、かつ精力的に行いました。
セラーノ教授との懇談においては、
中央集権派対
連邦派、
保守派対
自由派の相互の対立、変遷を繰り返した十九世紀の
メキシコ憲法の歴史を振り返った後、二十世紀初頭の
メキシコ革命の後に定められた現行一九一七年
憲法の意義について、また、
保護請求裁判制度の生みの親と言われる
ブルゴア名誉教授との懇談においては、この制度の沿革及び意義について、実に熱のこもった詳細な説明を伺いました。
ブルゴア名誉教授は、この
保護請求裁判制度は、1.どのような当局の
憲法違反と思われる行為であっても対象となること、2.個人、法人を問わず、
権利侵害をなされたと主張するいかなる人も
提訴権を有すること、3.したがって、それは各人の
権利保護にとどまらず、
憲法全体を保障する制度として位置づけられていることという点で特筆すべき制度であることを強調されていたのが印象的でした。
また、
ゴンゴラ最高裁判事との懇談でも、
憲法システムを保障する制度として、各人が
権利侵害を理由として
裁判所に提訴するこの
保護請求裁判制度が話題になりましたが、このほかにも、
メキシコ憲法においては、
最高裁によって抽象的な
法令審査権が行使されるものとして、
憲法紛争や
違憲申し立ての手続が用意されているとの説明もありました。
衆議院憲法調査会においても、
裁判所の
違憲審査制度については、
我が国の
最高裁の
違憲審査権行使の
消極的姿勢にかんがみて、
憲法裁判所制度の導入の是非も含めて、これまで活発な議論がなされてきておりますが、この
メキシコの制度の詳細については、後ほど御報告する
アメリカ及び
カナダの制度ともあわせて、もう少し
調査する必要があると感じられました。
最後に、
ソラーナ元外相との懇談では、さきの
セラーノ教授との懇談でも話題となったのですが、
メキシコの
PKO不参加の哲学、
アメリカとの対等な
パートナーとしての共存にかける
基本姿勢が主な話題となりました。
セラーノ教授は、
メキシコは、国家の安全に関して
主権制限にかかわるようないかなる
国際条約にも加入していない。したがって、
国際連合の枠内であろうと、
メキシコの兵士が他国の
指揮下で行動するようなことは行わないとの観点から、
PKOにも一人の兵士も出していない。その理由は、
アメリカという超大国を隣人として、これと三千キロメートルに及ぶ
国境線を接している
我が国が対等な関係を保とうとすれば、これしか方法はないからだという趣旨のことを述べておられたので、このことについて、私が
外務大臣を務めていたときの
カウンターパートであった
ソラーナ元外相に改めて伺いたかったからであります。
ソラーナ元外相は、1.現在の
世界情勢は、
アメリカの
イラク戦争に象徴される一国の
ヘゲモニー体制に傾いており、これに対する各国の
意思決定はそれぞれに尊重されるべきであるが、我が
メキシコは、
アメリカに対しても、ノーと言わなければならないときはノーと言うべきであると考えている、2.
我が国と日本との間では、現在、
FTAの
締結交渉が進められているが、今後は、
太平洋を挟んだ
アジア太平洋地域の
FTAが現実味を帯びてくるだろうし、日本との関係は政治的にもますます重要なものとなってくるだろう、3.そのようなことを背景にして、
国会議員レベルでの恒常的な会合を日本、
メキシコの二国間で持つことを提案したいとの趣旨の発言をしておられました。
次の
訪問地ワシントンDCにおいては、九月八日、九日の二日間にかけて、
連邦議会、
大統領府、司法府それぞれの
関係者と精力的に懇談をいたしました。すなわち、
連邦議会関係では、その
附属機関である会計検査院、
GAOの
ウォーカー院長、
議会予算局、CBOの
ホルツイーキン局長、いずれも
下院議員である、
レイノルズ共和党選挙対策委員長、
チャボット司法委員会憲法小委員長、
ネイ議院管理委員長の三人の
議員、
大統領府関係では国務省の
アーミテージ国務副長官、そして、司法府関係では
最高裁判所の
スカリア判事の計七名の高官、
議員であります。
まず、
ウォーカー会計検査院長及び
ホルツイーキン議会予算局長との懇談では、
大統領府に対抗し得る情報を議会に提供し、
連邦議会の
調査及び
立法活動を補佐する
組織運営の実態について説明を聴取いたしましたが、その中で、それぞれの組織において、1.客観的かつ的確な情報を提供するよう腐心していること、2.特に、法律によって義務づけられているのは
委員会や小
委員会からの正規の要請だけであるが、慣例上、
少数会派の
調査の充実に資するために個々の
議員からの
調査依頼にもこたえており、これが年々多くなりつつあること、3.ただし、複数の依頼が重複した場合には、法律上の要請を優先することになることなどの説明を受けました。
我が国における
議院法制局や
調査局・
調査室、
国立国会図書館の
調査及び
立法考査局などをいかにして充実強化するかを考えたとき、興味を引かれました。
また、
ウォーカー院長は、
GAOの独立的かつ効率的な職務の遂行を担保するために、
GAOの院長の任期は十五年というかなり長いものとされていること、ちなみに、
FRB議長の任期の十四年、
FBI長官の任期の十年と比較しても長いことについて付言されましたが、
連邦最高裁判事の任期は終身とされていることなどを考えると、議会の
補佐機関の
独立性確保をどうするかといった点もさることながら、その任期の異常なまでの長さには驚かされました。
次いで、
レイノルズ共和党選挙対策委員長、
チャボット司法委員会憲法小委員長、及び
ネイ議院管理委員長の三人の
下院議員と懇談いたしました。
レイノルズ委員長との懇談では、来年の
大統領選挙では景気、経済が最大の争点となるだろうとの意見が述べられ、
アメリカの有権者は自分の懐ぐあいで投票するとの発言が印象に残りましたし、また、
チャボット小
委員長との懇談では、成立に至る
憲法修正は極めて少ないが、恒常的に
憲法修正案は提案され、審議されていること、現在でも、予算の均衡に関する
修正案、
犯罪被害者の保護に関する
修正案が議論されていること。
ネイ委員長との懇談では、
下院議員には
公設秘書が全部で二十二名いることや、二年間の
下院議員の任期の間には秘書の
人件費も含め
議員一人
当たり平均百万ドルの
活動費が支給されていることなどが話題になりました。
アーミテージ国務副長官との懇談においては、同副長官は、訪問の歓迎のあいさつの中で、共産党の
山口議員も含めた日本の
憲法調査会の
議員団にお会いできたことは、私にとって大変に意義深い日であると同時に、このような
調査団の構成は
憲法調査会の
重要性を示すものであり、私は、その設置のときから関心を持って眺めてきたし、その
調査結果をとても注目している旨述べられました。
引き続き、懇談に入りましたが、専ら
アーミテージ副長官と団を代表して私との間で、
日本国憲法九条を中心とした
日米関係の
あり方、
北朝鮮問題に関する六カ国協議の評価と今後の見通し、
総裁選挙及び
衆議院の解散・総選挙が取りざたされている日本の政局などについて、友好的かつ活発な
意見交換が行われましたが、その中で、
アーミテージ副長官は、大要、次のようなことを述べられました。
まず、
アーミテージ副長官は、
日米関係は、現在、最も良好な関係にあり、また、低迷していた
日本経済も徐々に回復しつつあるが、しかし、両国間には、
北朝鮮問題も含めて、余りにも多くのしなければならないことがあることを指摘した上で、
日米関係については、日本が二十一世紀の
日米関係を始めた方法であるショーイング・ザ・フラッグとブーツ・オン・ザ・グラウンドは大変にすばらしい。
イラク戦争で日本は
アメリカを支持してくれたが、
アメリカも、日本が
安保理の
常任理事国の席を得られるよういろいろな面で日本を支持している。ただし、
安保理常任理事国の問題は、
集団的自衛権の問題について日本が根本的な決断をしないと難しいであろう。私は、長い間、日本の
内閣法制局の
憲法九条解釈はもっと柔軟であってもよいのではないかと思ってきた。日本は、
主権国家として有している
集団的自衛権をみずから制限しているだけであり、その
制限解除に関する議論が日本で起きていることは、大変に重要であり、歓迎している。ただし、それはあくまでも日本と
日本国民が決定すべき問題であり、どのような決定をしようが、日本と
アメリカは
同盟国であり、友人であるといった趣旨のことが述べられました。
さらに、用意していたペーパーに基づき、二〇〇〇年に発表された、いわゆる
アーミテージ・ナイ・レポートの次の一節を読み上げられました。
日本による
集団的自衛の禁止は、
米日間同盟協力にとって束縛となっている。この禁止を取り払えば、もっと密接で、もっと有効な
安保同盟になるだろう。ただし、その決定は
日本国民にだけできることである。米国は、日本の
安全保障政策を特徴づけている内政上の諸決定を尊重してきたし、今後もそうしなければならない。しかし、
ワシントンは、日本がさらに大きな貢献をし、もっと対等な同盟の
パートナーになることを歓迎することを明確にしておくべきである。
また、
北朝鮮問題については、先日の
北朝鮮の核開発問題に関する六カ国協議では、
日米韓ロが協力して、それぞれが確固たる使命を果たしたが、特に、中国がふさわしい役割を果たしつつあり、今後とも、その地位にふさわしい役割を果たすように促していかなければならないだろう。
北朝鮮も、五カ国の現実がわかりつつあるのではないか。先日の五十五周年のパレードで新たなミサイルがあらわれなかったのは象徴的な出来事である。しかし、
北朝鮮に関しては、何事も確実に言うことはできず、今後の六カ国協議に期待していきたいとの趣旨のことを述べておりました。
最後に、私から、
衆議院憲法調査会を運営するに当たっての中山三原則ともいうべき私自身の心構え、すなわち、この
調査会でもたびたび申し上げておりますが、
民主主義の堅持、
基本的人権の保障、再び侵略国家とはならないことを宣明した就任あいさつを在京の大使あてに英訳して送付したことを披露したところ、
アーミテージ副長官は、これに深い理解を示されました。
また、
山口議員から、
集団的自衛権の問題など、
アーミテージ副長官とは異なる見解を持つが、それは今後の交流の妨げにはならない旨の意見表明がありました。
スカリア判事との懇談においては、専ら、具体的な事件を前提としてのみ
憲法判断をする
アメリカ型の付随的
違憲審査制度と、具体的な事件と離れて
憲法判断を行い得るドイツ型の
憲法裁判所制度との比較が話題となりました。
スカリア判事は、徹頭徹尾、
アメリカ型の制度の方がよいとの立場から、ドイツのような
憲法裁判所制度においては、
裁判所は、法律の解釈を専門とする法律家の領域でなくて立法者の領域に踏み込んでしまうばかりか、政治家同士のホットな議論に巻き込まれることになってしまいかねないこと、また、そもそも司法府の
憲法、法律解釈は、原告、被告間の訴訟についての最終的解決ではあっても、決して、合衆国における最高かつ最終的な権威なのではなく、
大統領府や議会が、我々の示した解釈を尊重せずに、同じ誤りを犯した別の法律をつくることだって理論的にはできるのであり、これが三権分立なのであるとの趣旨を力説されました。
この発言の真意を理解するには、
大統領制のもと、厳格な三権分立がとられ、かつ、極めて積極的に違憲審査権を行使している連邦
最高裁の事情を割り引いて考えなければならないと存じますが、一つの見識であるとは言えましょう。
なお、最後に、連邦
最高裁判所判事の任期が終身であることについては、一たん任命された以上、死ぬか自分でやめるかしない限りその職にあり続けるということは、
独立性確保のための極端な制度であるが、そのかわり、その任命のプロセスにおいて、
大統領の任命と上院の同意といった形でかなり政治的色彩が強くなっており、これによってバランスがとれているとの趣旨のことを述べておられたのは印象的でした。
カナダのオタワにおいては、九月十一日に、まず、
最高裁判所においてマクラクラン長官及びバスタラシェ判事と、国防省においてロバートソン国際
安全保障政策局長らと、
連邦議会においてブードリア下院政府総務と、そして枢密院においてクリスティー事務総長補とそれぞれ懇談を行いました。
マクラクラン
最高裁長官及びバスタラシェ判事との懇談においては、特に、
カナダにおける
違憲審査権行使の実態について話題となりましたが、連邦
最高裁の有する独特な権限である参照意見(勧告的意見)制度が印象的でした。
これは、具体的な訴訟の提起を待つことなく、しかも、法律が制定される前の法律案の段階においても、連邦政府からの諮問、照会に対して、
憲法解釈、連邦法、州法の解釈、合憲性等について、
最高裁が意見を表明するという制度であります。具体的事例として著名なものとしては、一九九五年実施のケベック州独立の可否に関する住民投票に関して、一九九八年、
最高裁が示した、州の一方的独立は認められないとする意見があるとのことでしたが、現在も、同性愛者の結婚を認める法律案に関する諮問、照会があり、検討中とのことでした。ただし、いかなる諮問、照会にも回答を行うのではなくて、
最高裁として回答するにふさわしいものにのみ回答することとしている、したがって、政治的問題については回答を拒否するとも述べておられました。
具体的訴訟を所管する
最高裁判所に、一部、
憲法裁判所的な機能を付与したものであり、政府部内に置かれた
内閣法制局のような組織による
憲法解釈よりは透明性が高いと言えそうですが、運用の困難さはひしひしと感じました。
なお、
質疑応答の中では、マクラクラン長官を初め
最高裁判事九人中三人の判事が女性であることに関連して、
裁判所における女性の割合が話題となりましたが、一般に裁判官で三分の一、
裁判所事務官ではその割合はもっと高いとの発言には驚かされました。
国防省においては、制服組であるロバートソン国際
安全保障政策局長と、背広組であるキャロライン・キーラー女史から、
カナダにおける国防軍の活動及び
PKO等への参加の基準についてそれぞれ説明を聴取した後、
質疑応答を行いました。
ロバートソン局長らからは、
カナダの国防軍は六万人と非常に小さいので、
PKO等への派遣人数は多くはないが、その比率は米国に次いでかなり大きなものとなっていることなどについて説明を受けましたが、私が特に印象に残ったのは、最後に、私から、制服組として日本の自衛隊と共同行動をした経験のあるロバートソン局長に対し、次のような質問をしたときの局長の発言です。
私は、日本の海上自衛隊のことをネービーと見ているのか、あくまでもセルフディフェンスフォースと見ているのかとの質問をしたのですが、ロバートソン局長は、海軍士官として答えれば、我々の活動は公海で行われているが、そこでは、どこの国の海軍であろうと自衛隊であろうと、そこで活動するに足りる能力が必要だということだけだ、私の経験から言えば、日本のネービーのような能力を持つ組織と一緒に行動したいとする趣旨の発言をされたからです。
ブードリア下院政府総務との懇談では、一九八二年
憲法改正による
憲法の
カナダ化の意義、一九九三年発足の現政権の成果である財政改革と議会の近代化(議会の民主化と選挙方法、選挙資金の改革など)について説明を受けました。また、
質疑応答の中では、
カナダにおける電子政府の進展に関連して、オンブズマンの一種であるプライバシーコミッショナーなる制度が法律上設けられていることにも興味を引かれました。
しかし、何といっても中心的な話題となったのは、
カナダの議院内閣制における政府と与党の関係でした。ブードリア氏のついている下院政府総務という国務大臣の名称が端的にそれをあらわしているとおり、これは、
我が国における国務大臣たる内閣官房長官と、与党の国対
委員長あるいは幹事長とが一つの職に凝縮しているようなものだからであります。
なお、これに関する説明の中で特に印象に残ったのは、
カナダでも民間人が国務大臣になることは別段禁止されていないが、しかし、その場合には、慣行上、直近の総選挙あるいは補欠選挙に立候補して
議員となることが必要とされており、一般には、首相のリーダーシップによって与党
議員のだれかを引退させ、その補欠選挙に立候補させることが行われているということでありました。引退させられる与党
議員には首相任命の
上院議員や大使の職が用意されているのが一般的なようですが、他方、選挙に立候補した民間人の国務大臣が落選した場合には、即大臣を辞任するのが通例とのことでありました。
最後の訪問先となった枢密院では、クリスティー事務総長補との懇談を行いましたが、そこでは、同氏の職責である枢密院の政府間関係部の業務概要のほか、
カナダという国を特徴づける多様性について説明を受けました。
カナダの多様性は、よく知られているような言語の多様性、文化的、民族的な多様性だけでなく、人口的な多様性もあり、どこか一極に人口が偏っているということがないこと、同時に、
カナダは地方分権・分散の非常に進んだ国であることなどについて、具体的な数字を挙げながら、詳細な実態説明を受けた次第であります。
以上のような極めて多忙な日程ではございましたが、私ども
議員団は無事これを消化し、去る九月十三日帰国いたしました。
ごく短期間の
調査でありましたし、また、各訪問国における
調査事項が極めて多岐な問題に及びましたので、ここから何がしか結論めいたことを抽出することはできませんが、しかし、この
調査の詳細をまとめた
調査報告書は、議長に提出し次第、過去三回の海外
調査と同様に、
委員各位のお手元にも配付いたす所存でございますので、残すところあと一年余りとなりました本
調査会の今後の議論の参考に供していただければと存じます。
今回を含めて四回の海外
調査を合わせると、これまで合計二十七カ国の
憲法事情を
調査いたしたことになりますが、いずれの国においても、
憲法のありようが国のありように直結して国民的な議論がなされていることを、私自身、改めて認識させられた次第です。
最後に、今回の
調査に当たり、種々御協力をいただきました各位に心から感謝を申し上げますとともに、充実した
調査日程を消化することができましたことに心から御礼を申し上げたいと思います。まことにありがとうございました。
以上、簡単ではありますが、このたびの海外
調査の概要を御報告させていただきました。
引き続きまして、派遣
議員から海外派遣報告に関連しての発言を認めます。
なお、御発言は五分以内にまとめていただき、自席から着席のままお願いをいたします。
仙谷由人君。