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村本参考人 成城大学の
村本でございます。
このような
発言の機会を与えられまして大変光栄に存じております。私は、立場上と申しましょうか、今の三人とはちょっと違った視点から
中小企業の問題、特に
中小企業金融の問題について所見を申し上げたいと思います。
お
手元に二枚紙がございますので、それに基づきましてお話を申し上げます。
中小企業の
状況につきまして、大変厳しい
状況であるということは、もう既にお話がございました。私も同感でございます。その際に、私、
中小企業の問題ないし
中小企業金融の問題を考える場合に、
幾つか視点があるんだろうと思いますが、とりあえず、一枚目の最初に書きました「基本的視点」、(1)の足元の問題とそれから中長期的な問題はやはり区別して考えた方がいいのかなと実は考えております。
私が一番気にしておりますのは、
中小企業向けの貸出
残高が、先ほどもお話がございました、大変減っているということでございます。ここ数年で約五十兆ぐらい減っているという
現状がございます。実は、この裏側にはマネーサプライの問題があるわけですけれども、マネーサプライがふえても
貸し出しがふえなければ
経済はよくならないわけでございますから、結局、単純な
インフレターゲティングだけでは実は議論ができないという問題があるんだろうと思いますが、いずれにしても、そういう
状況がなぜ発生しているんだろうか。つまり、これは裏返して言えば、貸し渋り、貸しはがしが起きているということです。
貸出先数も実は大変に減っておりまして、この数年間でやはり五十万ぐらい減っているというような
状況でございますから、大変これは困ったことだなと実は思っておるわけでございます。
そんなことで、少し調べましたことがございますが、去年の秋ぐらいからアンケート
調査を日本商工
会議所を通じてやりましたことがございます。ちょっとそのことに
一言触れておきたいと思います。
四千ぐらいのアンケートが戻ってまいったわけですが、その中で、どういうことが私にとって大変気になったかといいますと、
金融機関の
貸し出しスタイル、いつから変わったんですかという質問をしてみたわけですね。そうしましたら、検査マニュアルが始まってからという答えが二五%、それから、金融庁ができてから、二八%ということでございまして、一つは金融行政との絡みが大変あるのかなという感じがしております。
これは実は
不良債権の問題と裏腹の問題でございまして、検査マニュアルとかあるいは自己資本比率規制、先ほど福島銀行の事例が出ましたが、自己資本比率規制だけで果たして金融行政というのはいいんだろうかというのが私もともとちょっと気になっているところでございますが、そういう問題、あるいは、先ほどちょっとございました
ペイオフの問題もあるのかもしれません。
そういう複合的な要因によって多分こういう
貸し出しの
残高が減るという問題が実はあって、それが裏腹で金融システム不安にもつながる。金融システム不安が出てくると、これは歴史が示すところですが、巨大銀行に
預金が集まるというようなことが起きておりますから、ある種の因果
関係はそこに求められるのかなという感じを持っております。そういうのを
経済学では合成の誤謬というんですが、
金融機関が身ぎれいになって健全化しても、
経済全体が落ち込んでしまったら何も残らないねということになりますので、そこはやはり我々はよく注意しなきゃいかぬのじゃないかと思っております。
ペイオフの問題が先ほどちょっと出ましたので、ちょっと
一言だけ申し上げておきたいと思うんですが、日本では一千万円までということになっておりますが、実は
ペイオフが先に進んでいる
アメリカでも、個人については、
幾つか口座があって、それは全部合計できて、実は十万ドルが五十万ドルぐらいまで使えるという話を私も聞いたことがありますので、その辺ももう少し考えまして、風評被害が起こらないようなシステムを提示することが実は大事なことではないかと思っております。
あるいは、ドイツでありますとかオランダの協同組織の
金融機関では、俗に相
保証というのですが、相互
保証制度を持っておりまして、お互いの
預金ないし債務については
保証し合うというシステムを持っておりますが、そういったことも実はこういう問題の背後には必要なのではないだろうかというふうに考えております。
それから、先ほど売り掛け債権
担保の話が出てまいりましたけれども、これは実は大事なことでございまして、
中小企業は実は
担保がない。
中小企業問題の最大の問題は自己資本不足だ、あるいは
担保がない、あるいは必要な
資金が借りられないような、さまざまな要因があると言われておりますけれども、売り掛け債権というのは
中小企業レベルでは大変大きくございまして、大体土地と同じぐらいの規模、約九十兆円ぐらいあるわけですから、それを活用しようという制度をこれからどんどん育成するのは大変重要なことだろうと思っております。
それから、足元で非常に重要なクレジットスコアリングという手法、
企業の
状況を点数化いたしまして、それに基づいて
融資を行うという手法がぼちぼち始まっております。実はこれは、大変重要なことは、
企業をスコアリングして、要するに必要な金利を取りましょうということをよく言われるわけですけれども、どうやら勝手に取られている、自分はいい
企業だと思っているけれども高い金利を押しつけられるというのは非常に困るわけですが、それをきちっと点数化してやろう。
これはCRDと書きましたが、国家プロジェクトで今始まったプロジェクトがございます。ただ、これはまだ加盟行が非常に少ない。これ、ぜひ広げてほしいということが私は大変気になっております。これはぜひ
中小企業の
社会的なインフラとして整備をしていくべき大きな課題であろうというふうに考えております。
中長期的な視点につきましては、足元の問題ではありませんから、ちょっとコメントだけにいたしますが、先ほど
政策金融の問題、これも出ましたが、後でちょっと申します。
申し上げたいことは、この七月十二日に、金融システムと行政の将来ビジョンという金融庁の報告書が出たわけですが、この中に、括弧書きで引用しておきましたが、要するに、
中小企業にとっては、そのビジョンでは、これからは市場を中心とする金融システムなんだから市場型でいこうよ、こう書いてあるわけですけれども、
中小企業にとってやはりそれは必要かもしれないけれども、やはり時間がかかるよということが
説明されております。
ですから、
中小企業であってもどんどん成長するような、つまり新しいマーケットといいますが、新興市場、ナスダック・ジャパンであるとか店頭市場であるとか、そういうところで上場できないようなところは、やはり今までどおり、銀行とか協同組織、これは協同組織の
金融機関ということだと思いますが、対応することになって、実は数としてはこの類型が多いんだ、こう書いてあるように、今後はその方向だろうと。
ということは、逆の言い方をすれば、従来型の
地域金融機関はきちっと健全に育ってほしいというメッセージを私は受けとめたいと思っております。そういうのを
経済学者はリレーションシップが重要だという言い方をしますけれども、従来型のいわゆるメーンバンク制度というのは実は非常に必要な問題であります。
ところが、そこの記述の中に一つ気になることが書いてありましたのは、協同組織の
金融機関というのは、先ほど、自己資本比率規制は私は問題だとちょっと申しましたが、自己資本の充実手法がないわけですね、株式を上場しているわけではありませんから。したがって、そういうところには実は別な手法も必要ではないかという問題点の指摘がございましたことをあえて指摘しておきたいと思います。
それから、もう一つ重要なことは、
合併の問題が先ほど出ました。
合併すると地域から
金融機関がなくなってしまうことが実はあり得る、それが実は大変心配だということが示されておりまして、今後、その問題はどうかねということが実は書いてありました。
先ほど、日商の
調査をいたしましたということを申しましたが、その日商の
調査でも、
合併をして、その後の
金融機関の態度が変わるので、つまりその
関係で貸し渋りを受けたというのを、私、ヒアリングに行った先で何カ所か聞かされましたが、そういう問題も実は起きております。ですから、
合併がすべての答えにはならないなという印象を持っております。
もう一つはノンバンクの問題でございまして、日本ではノンバンクの問題というのは商工ローンの問題になってしまうのですが、実はそうではなくて、健全なノンバンクはたくさんございます。そういうところが今後、
中小企業の方でも
役割を果たす可能性は大いにございます。実は、
アメリカなどでも、
中小企業金融のかなりの担い手はノンバンク、ファイナンスカンパニーと呼ばれるところでございますから、こちらをどうしていくかというのが今後の課題でございます。例えば
信用保証制度の中に組み入れていくなんということもあるのかもしれません。
それからもう一つだけ、今後の課題で申しておきますと、我々、お金を貸すというのを
融資、
貸し出しと言っていますが、これは実は
幾つかの要素から成り立っておりまして、そこにちょっと書きましたが、例えば、審査をして貸す、その審査作業ですね、それから実際にお金を貸す作業、あるいは、貸したら債権の保全をしなければいけませんので、
保証をする作業でありますとか、あるいは、それを事後的に管理をする作業、モニタリングといいますが、そういった作業であるとか、あるいは債権回収、こういった一連の作業を
貸し出しと言っているわけですが、今後はこれが分解されていく可能性が出てまいります。これが恐らく今後制度的には重要なものになるのかなと考えておるわけでございます。
話は二ページ目に参ります。
先ほど、
現状につきましてもう既に話がございましたので、あえて申し上げることはございませんけれども、「
現状」の(1)の民間の
金融機関の
貸し出しの
減少の四ポツ目に、先ほど日商の
調査ということを申しました。日本商工
会議所を通じて
調査をいたしましたのは四千社と言いましたが、これは比較的実は中身のいい
中小企業さんが多うございました。そういうところでも実はどういうことがあったかというと、貸し渋りに遭った割合がやはり四分の一以上ございました。あるいは、
保証協会の利用、必要だね、四割以上ございました。
そういう中で、やはり、お金に困らないと言うと変ですが、
融資に困らないところはほとんどなくて、黒字
企業であっても、あるいは収支とんとんの
企業であったとしても、昨年に比べて採算がよくなっていないとやはりお金は借りられていないという
状況でございました。したがいまして、そういう
状況を考えますと、やはり
資金不足が起こると、場合によると現在の制度を超えたところにいってしまうような問題も実は起きているなという感じを持っているわけでございます。
それから、時間の
関係で3に飛びます。
中小企業について、私、どう考えているかということだけ申し上げますと、
中小企業金融というのは、すべからくと言ったらいいんでしょうか、お金が行き渡らないことが最大の問題。こういうのを
経済学で、情報が非対称的だ、こう言っておるわけですけれども、これを解消してやらないとお金が回りません。ですから、
金融機関の
役割は非常に重要なわけですね。
大
企業とか中堅
企業の場合には、格付を得てマーケットから
資金を取る、これは簡単にできるわけですが、
中小企業はそうはいかない。そうしますと、民間の情報生産だけで足りない場合、つまり
金融機関だけで足りない場合には、当然
政策金融が対応しなければいけないんだという問題もあわせて出てまいります。
ただ、それだけで解決できるわけではございませんで、(1)のポツの
最後に書きましたように、市場型間接金融と書きましたけれども、今後は
保証制度を完備するとか、つまり市場型システムにできるだけ近づけたところの制度をつくっていくとか、もう現在も信用補完はあるわけですが、これをもう少し整備するとか、あるいは証券化スキームを整備するとかということは、実は重要な問題になるのかな。
そうしますと、
政策金融は、それに対応していくことが実は必要でございまして、現在のような
保証スキームだけではなくて、あるいはリファイナンスをやるというようなことも必要になるでしょう、あるいは担
保証券というのを整備するのも必要になるでしょうということだろうと思います。
そうしますと、それだけですべて終わってしまうというような印象を持ちますが、実はそうではなくて、直接
融資を使いながら健全な
企業を育てていくような問題。つまり、信用
保証というのは保険の考え方ですから、大数の法則なんですね。ですから、大数の法則が働かないというようなことも大事だねということでございます。ですから、そういう意味で、直接
融資を行うような問題が相変わらず残っていくのかなというふうに考えております。
それから、少し飛ばしまして、リスクの分担と書きましたけれども、現在は、信用
保証の制度はすべて一律で、どこに行っても
信用保証協会では一%の
保証料率で借りられておりますが、これをやりますと、いい
企業にしてみると、何でこんな高いのという感じになります。悪い
企業にすると、何でこんなに安いのということになりますので、やはりこの辺も少し、
企業の体質に応じて差別化していくことも考える時期に来ているのかなというふうに考えております。そういうのをリスク対応の
保証料率なんて言っておりますけれども、今後はそういうことも課題になってくるだろう。
あるいは、現在は全部
保証というシステムが多いのですけれども、
保証を一〇〇%つけるのではなくて、八〇%にするとか九〇%にして、一〇%、二〇%は民間の
金融機関にもそのリスクを負ってもらおう、こういうのを
モラルハザードを除くというんですが、
モラルハザードを除去することもあるいは必要になるのかもしれません。
それから、再度申し上げますが、CRDのような、スコアリングをしてきちっとした
企業の評価をするということをしてやりますと、
中小企業の側でも、これは、一生懸命点数をよくしようという努力が働きますので、こういう制度をきちっと制度化してやるということがやはり今後の大きな課題になってくるのではないかと思っております。
最後に、自己資本比率規制の問題を書きました。
これは、現在、BISで常にいろいろ考えている最中で、二〇〇六年末適用と書いてありますが、
中小企業をほっぽっておきますと、これはリスクが高くなってしまうわけですね。そうすると、
中小企業にはインセンティブが全くなくなってしまう。
中小企業融資というのはリスクが高いからやめてしまおうということになります。それをできれば引き下げた方がいい、大数の法則が働くわけですから、
中小企業の
融資というのは実は安全な
融資なんだ、全体としてみれば安全な
融資なんだという形で、最近の新聞では、大
企業に比べてリスクを下げましょうという議論が行われているようですが、そういうことに関しましてもやはり
発言をし、なおかつ対応を求めていかないといけないのではないかというふうな印象を持っております。
以上でございます。どうもありがとうございました。(拍手)