○
千葉最高裁判所当局者 最高裁判所の
行政局長をしております千葉でございます。よろしくお願いをいたします。
それでは、私の方から、
憲法調査会の御依頼に基づきまして、戦後の
違憲判決、これを中心に簡単に御
説明をさせていただきたいと思います。
あらかじめお断りしておきたいと思いますけれども、
最高裁判所は、これから御
説明申し上げます
裁判をした当事者という立場にございますので、私といたしましては、
裁判の内容の当否などその評価にわたる事項とか、今後予想される
裁判、どういうものになるかということにつきましては、御
説明をいたしかねるところでございます。また、
憲法理論の是非についても同様でございます。したがいまして、
判決文にあらわれております客観的な事実関係とその
判決内容を御
説明させていただくということになりますので、御了承のほどをお願い申し上げたいと思います。
法令等の合憲、
違憲という
憲法判断をした戦後の
最高裁の
判決というのは多数ございます。その中で何を主要な判例と見るか、これは論者によってさまざまでございますけれども、お手元に資料を配付してございます。資料1をごらんいただきたいと思います。
これは、
法律雑誌などで戦後の主な
憲法判例として紹介されていたものを
一覧表にしたものでございます。この中で、
憲法調査会の
事務局の方で、
違憲判決を中心に、本日の御
説明にふさわしいということで選んでいただきました十二件につきまして、御
説明をさせていただきます。
次の資料2をごらんいただきたいと思います。
まず、一枚目でございます。
これは、
憲法に関する
判決例十二件を並べてみたものでございます。最初の
警察予備隊違憲訴訟判決、これは、
我が国の
違憲審査権の性格について言及をした、いわば
違憲審査の土俵を明確にした
判決ということで選定されたものと思います。そのほかの十一件は、すべて
違憲判断のものでございます。
これらの
裁判例を眺めてみますと、一つの
時代背景と申しますか、そういったものが反映されているのではないかなという感想めいたものを持つわけでございます。
つまり、
日本国憲法が制定、施行されました
昭和二十年代から三十年代にかけては、
民事事件よりも
刑事事件の方が相当多い時代でございまして、例えば
昭和二十五年ですと、地裁の第一審の
民事訴訟事件は約六万一千六百件、刑事の方では約十一万千五百件、刑事が民事の倍近くでございます。
このころから
昭和四十年代にかけまして、新
憲法それから新
刑事訴訟法の解釈がまだ十分に定着していなかったということもありまして、
刑事事件をめぐる
違憲判断が比較的多い。また、戦時中に立法された
法律の効力が争われる。そうしますと、いわゆる戦後の混乱した世相の中で、法や
制度などの大きな
枠組みが問題にされるということが少なくなかった時代と言うことができようかと思います。
このような時代の
判決として、資料2の一枚目の(1)から(7)がございます。これらについて御
説明をさせていただきます。資料2の二枚目以下に、十二件の
裁判例について一件ずつ
事件の概要、
判決要旨等をまとめたものがございます。御参照いただきたいと思います。
まず、(1)のいわゆる
警察予備隊違憲訴訟でございます。
先ほど申し上げましたように、この
判決は、
我が国の
裁判所に与えられました
違憲審査権の
枠組みを決めたもの。この
審査権というのは、個々の
事件を離れて法令の合憲、
違憲を一般的に
判断するというものではなくて、具体的な
事件を解決するための前提として合憲、
違憲の
判断を行う、いわゆる
具体的審査制あるいは
付随的審査制といいますが、こういうことを明示したものでございます。
事件の概要は、
国会議員が原告になりまして、自衛隊の前身であります
警察予備隊の設置や維持に関して国が行った法令、規則の
制定等一切の行為が無効であるという確認を求めて、直接
最高裁に出訴したものでございます。
この
判決の要旨は、
裁判所は、
法律、
命令等に関し
審査権を有するけれども、この権限は
司法権の範囲内において行使されるべきものであって、具体的な
事件を離れて抽象的に
法律、
命令等が
憲法に適合するかどうかを
決定する権限を有するものではないというふうに言ったものでございます。
次の
ページをごらんいただきたいと思います。以下、
違憲判決が続きますが、
自白調書有罪認定違憲判決、
昭和二十五年七月の大
法廷判決でございます。
この事案の概要は、
東京都内の電車内でのすりの
窃盗被告事件でございまして、本件では、
憲法三十八条の三項に言います
自白、
唯一自白だけが証拠の場合に有罪とされないという
規定がございますけれども、ここで言う「本人の
自白」がどういうものかという意義が問題になったものでございます。
この
判決は、
被告人の第一審の公判での供述、
自白、それからこの
被告人の
司法警察官の
尋問調書中の
自白、これらはいずれも
憲法で言う「本人の
自白」に含まれるから、これだけでは
補強証拠なしに有罪を認定することはできないということを言ったものでございます。
違憲判決でございます。
次の
ページが、三番目でございますが、
強制調停違憲決定、これは
昭和三十五年七月の大
法廷の
決定でございます。
事件の概要は、これは
戦時民事特別法に基づきまして、
家屋明け渡し請求事件などについて、職権で
調停によって処理をするという旨を
決定して、
調停が不調になりますと、この
法律の十八条とか
金銭債務臨時調停法七条、八条等の
規定によりまして、
事件を併合して
調停にかわる決定、これで決めてしまうという決定をしたわけでございます。
本件では、こういう
決定というのが、これは公開で行われておりませんので、
裁判の公開を定めた
憲法八十二条等に違反するかどうかということが問題になった
事件でございます。
この
決定の要旨といたしましては、これは性質上は
訴訟事件である。そうすると、公開の
法廷による対審、
判決によることなく終局的に国民の
権利義務を決めてしまう、こういうような
調停にかわる
決定というのは、これはやはり
憲法八十二条、三十二条、特にこの八十二条が公開を
規定してございますので、これに違反するということを言ったものでございます。
次が、
第三者所有物没収違憲判決、次の
ページにございます。
昭和三十七年の大
法廷の
判決でございます。
これも
刑事事件でございますけれども、これは、税関の免許を受けないで貨物を船舶に持ち込んで
密輸出を企てたということで起訴された
事件でございます。
被告人らが、没収された貨物には
被告人ら以外の
第三者の
所有物が含まれている、ところが、この
第三者に対しては
財産権保護の機会を全く与えないで没収ということを
判決で命じた、これは
財産権の保障を
規定した
憲法二十九条に違反するというようなことで争ったものでございます。
この
判決の要旨は、
禁制品を輸入する罪などの一定の犯罪に関係ある船舶、貨物が
第三者の所有に属するという場合においても、
被告に対する
付加刑として没収するという旨を
規定していた
関税法、これは旧
関税法でございますが、百十八条一項、これは、その
第三者に対して、告知とか弁解とか防御とか、そういう手続的な観点での保障を一切していない。
刑事訴訟法やその他の
法律においても、そういう手続を全然設けていない。何もそういう手続というようなことをしないで、いきなり没収をする。したがいまして、こういう
規定だけで
第三者の
所有物を没収するということは、
憲法三十一条、二十九条に違反するということを言ったものでございます。
次が、
余罪量刑考慮違憲判決、
昭和四十二年の大
法廷判決、
刑事事件がここでも続くわけでございます。
事件の概要といたしましては、
郵便局の
集配課に勤務する
被告人、これが
昭和三十九年の十一月に、現金、
郵便切手在中の
普通郵便物二十九通を窃取したという
窃盗事件でございます。
一審では、起訴されていないほかの、約百三十件と非常にたくさん同じような犯行がございましたけれども、これを逐一具体的に判示をいたしまして、懲役一年二月に処したわけでございます。
控訴審では、一審における余罪を量刑に考慮するということについては一定の配慮をしつつも、一審の
判決は量刑がやや重過ぎるということで破棄をいたしましたが、やはり
被告人を懲役十月に処した。
この
事件では、このような余罪の
取り扱いが
適正手続の保障を定めた
憲法三十一条等に違反するかどうかという点で争いになったというものでございます。
判決の要旨は、起訴されていない犯罪事実を余罪として認定をする、さらに、これを実質上処罰するという趣旨のもとで重い刑を科するということになりますと、これはやはり
憲法三十一条、三十八条三項に違反するという
違憲判決を出したというものでございます。
次が、これも
刑事事件でございます。
偽計自白有罪認定違憲判決、
昭和四十五年十一月の大
法廷判決でございます。
これは、妻と共謀をして、けん銃一丁と実弾三発、これを自宅に隠していたということで起訴されたものでございますが、
捜査段階におきまして、妻が
被告人との共謀の事実を供述していないにもかかわらず、検察官がこの
被告に対しまして、妻が共謀を
自白したとうそを告げて、
被告人から
自白を引き出した、こういうものでございます。
本件では、こういううそのことを言って引き出した
自白の
証拠能力ということが問題にされました。
判決は、偽計によって
被疑者が
心理的強制を受けて、その結果、虚偽の
自白が誘発されるおそれがある場合、これは、偽計によって獲得された
自白はその
任意性に疑いがあるんだということで
証拠能力を否定すべきである、こういう
自白を証拠に採用するということは、
憲法三十八条の二項、強制、拷問もしくは脅迫による
自白、それから長く勾留された、あるいは拘禁された後の
自白は証拠とすることができないという
憲法三十八条二項に違反するんだ、こういうことを言ったものでございます。
次が、
高田事件、かなりこれは著名な
事件でございますが、
昭和四十七年十二月の
最高裁の
判決でございます。
これは、起訴されましたのが
昭和二十七年でございまして、二十七年に、
名古屋市内の
大韓民国居留民団愛知県本部の元
団長宅が侵入されたり、付近の
瑞穂警察署高田巡査派出所が火炎瓶によって放火された、いわゆる
高田派出所事件などの
刑事事件でございますが、この
事件で、
併合予定の別件の審理を優先いたしまして、その結果、その別件の審理が非常に長期化した。肝心のこの
事件につきましては、第一審において十五年余にわたる審理の中断があった。
本件では、こういう審理の著しい中断というのは、
憲法三十七条一項が保障した
被告人の迅速な
裁判を受ける権利を侵害したことになるんじゃないかということが問題になったわけでございます。
この
判決は、
憲法三十七条一項は、単に迅速な
裁判を一般的に保障するために必要な立法上、行政上の措置をとるべきことを要請するのにとどまらないで、さらに個々の
刑事事件についても、現実にこの保障に明らかに反して審理の著しい遅延の結果、迅速な
裁判を受ける
被告人の権利が害されたと認められる異常な事態が生じた場合には、その審理を打ち切るという
非常救済手段がとられるということも
憲法自体が認めている趣旨の
規定なんだと。十五年余の長きにわたって全く審理が行われないで経過した本件、これはもう
憲法違反、そして免訴という
判決をしたわけでございます。
以上の七点でございますが、こういう
法律や
制度の大きな
枠組みが問われている時代でございました。
これを経まして、徐々に新しい
憲法が
国民生活の中に行き渡ってきた。
憲法の定める
平等原則とか各種の
人権規定に基づいて
憲法判断を求める訴訟が、これから徐々に多くなってきております。こういう時期にされました
違憲判決、三つございますので、御
説明を申し上げたいと思います。(8)から(10)ということで、先ほどの続きをごらんいただきたいと思います。
(8)でございますが、尊属殺
重罰規定の
違憲判決、四十八年四月の大
法廷の
判決でございます。
これは、中学二年のときに実の父親に姦淫されて、以後十年以上、夫婦同様の生活を強いられ、数人の子供まで産んだ、こういう
被告人が、その後、正常な結婚の機会にめぐり会ったわけでありますが、父親はあくまでも
被告人を
支配下に置いて、こういう醜行を継続したということで、この
被告人が父親を殺害するに至った。
本件では、この
法定刑を死刑または
無期懲役に限っている刑法、これは旧刑法でございますが、二百条の尊属殺の
規定の
合憲性が問題となったわけでございます。
この
判決は、旧刑法二百条、これはその
法定刑を死刑または無期に限っているという点において、余りにも厳しい、尊属に対する敬愛とか報恩とかいう
自然情愛ないし普遍的な倫理の
維持尊重という
立法目的達成のため——この
立法目的自体はいいというふうに言ったわけですが、この
目的達成のための必要な限度を超えている。したがいまして、そういうことから、普通の殺人に関する
規定であります刑法百九十九条に比べまして、この
法定刑が著しく不合理なものになっておる、
差別的取り扱いをするものである、
憲法十四条一項に違反する、こういう
判決でございます。
九番目が、
薬事法距離制限規定の
違憲判決でございます。
これは、
県知事に対しまして薬局の開設の申請をした者が、
薬事法に基づきまして薬局の配置の基準を定めた条例の
距離制限規定に適合しないということで、
薬局開設不許可とされたということで争った
行政事件でございます。
本件では、こういう
配置規制を定めた
薬事法の
規定が
職業選択の自由を定めた
憲法二十二条に違反するかどうか、こういうことが問題になったものでございます。
薬局の開設の
許可基準の一つとして
地域制限を定めた
薬事法の
規定、これは
不良医薬品の供給の防止というような、そういう目的のためにしたということでございますけれども、必要かつ合理的な規制を定めるものとは言えない、こういう規制はやはり、
憲法二十二条、
職業選択の自由を認めた
規定に違反して無効である、こういう
判決でございます。
(10)でございますが、
昭和六十二年四月の大
法廷の
判決でございます。
これは山林の関係でございますが、兄と一緒に二分の一ずつ父親から山林の生前贈与を受けた弟が起こしたもの。
共有物分割の請求を求めた。ところが、
森林の
共有者というのは、これは民法では
共有物分割の
規定がございます。二百五十六条一項の
規定がございますけれども、ところが、
森林の場合には、
森林の
分割請求をすることはできないというふうに旧
森林法百八十六条本文が定めております。
森林を
細分化しないという趣旨の
規定でございます。これは
財産権を保障した
憲法二十九条に違反するのではないか、こういう
事件でございます。
判決は、共有の
森林について二分の一以下の
共有者の
分割請求権を否定していたこの百八十六条の
規定、この
立法目的は、今申し上げました
森林の
細分化を防ぐということで
森林経営の安定を図って、それが究極的には
国民経済の発展に資する、こういうものでありますけれども、ただ、これは
森林の範囲や期限には限定がない。民法のこの
規定で
分割請求されても、現実に分割をしないで
価額賠償などで処理するということも可能でございますので、民法の
規定を認めたからといって
森林の
細分化をもたらすとは言えない。だから、一律に分割を認めないというこの旧百八十六条、これは
合理性、
必要性が認められない、
憲法二十九条に違反して無効である、こういう
判決でございます。
さらに、同じ時期でございますけれども、権利の侵害を受けた個人からの訴えにとどまりませんで、公の
制度が抱える
憲法問題、こういったようなものも広く指摘されるようになりまして、例えば一連の
議員定数訴訟のように
選挙制度のあり方について疑問が投げかけられる、あるいは公金の支出が
政教分離原則に違反するというような主張がされる、こういう
事件が多かったようでございます。
このような
時代背景の中での
違憲判決ということで、十一番と十二番の
判決がございます。その後のを引き続きごらんいただきたいと思いますが、十一番は、
昭和五十一年四月の大
法廷判決、
衆議院議員定数配分規定の
違憲判決でございます。
これは、
昭和四十七年の十二月に行われました
衆議院議員選挙につきまして、
選挙人が、
公職選挙法の
規定によりますと、
議員一人当たりの
有権者数、これは
選挙区によっていろいろございますけれども、この
最大値と
最小値の比較が四・九九対一になっておる。約五倍でございます。
合理的根拠なしに一部の国民を不平等に取り扱っているということで、この定数の
規定は法のもとの平等を定めた
憲法十四条に違反する、これに基づいて行われた
選挙は無効であると主張して、
選挙無効の
判決を求めたものでございます。
最高裁の大
法廷の
判決は、この
昭和四十七年の
衆議院の
選挙当時、
公職選挙法が
規定します
衆議院議員の
選挙区や
議員定数の定めというのは、国会の両議院の
議員の
選挙における各
選挙人の
投票価値が平等であることを要求する
憲法十四条一項、それから十五条一項、三項、四十四条ただし書き、こういう
規定に違反をしていたということを言ったわけでございます。そういう
違憲の
判断をしたわけでございます。
違憲の
判断をしたけれども、なお、この
衆議院選挙を無効とする
判決をいたしますと、そのことによって直ちに
違憲状態が是正されるわけではなくて、かえって
憲法の所期するところには必ずしも適合しない結果を生ずる、こういう事情があるということで、
選挙が違法であるということを主文で宣言して、
選挙無効を求める
請求自体に対しては
請求棄却、こういう処理をしたというものでございます。
最後に十二番でございますが、愛媛県
玉ぐし料違憲判決でございます。平成九年四月の大
法廷の
判決でございます。
愛媛県が、
宗教法人の
靖国神社、それから
宗教法人護国神社が挙行しました
例大祭などに際しまして、県の公金から
玉ぐし料等を支出したことにつきまして、県の住民であります原告らが、この支出は
憲法二十条三項、八十九条等に
規定された
政教分離の原則に違反すると、
県知事らに対して、
玉ぐし料支出相当額の
損害賠償を求めたものでございます。
この
判決は、愛媛県が
靖国神社の挙行した恒例の宗教上の祭祀であります
例大祭などに際して県の公金から
玉ぐし料等を支出したことは、県が特定の
宗教団体との間にのみ意識的に特別のかかわり合いを持つことを否定することができない、したがって、
憲法二十条三項、八十九条に違反する、こういう
判決をしたというものでございます。
事務局の方から御依頼ございました
判決例についての御
説明は以上でございますけれども、外国の
憲法裁判制度につきましても御依頼がございましたので、
英米独仏の
制度につきまして簡単に御
説明をさせていただきます。もとより、
最高裁はこういう外国の
制度論の
専門家ではございませんので、概要のみを御
説明させていただきたいと思います。
資料の3でございますが、二枚紙をごらんいただきたいと思います。
一枚目は
英米独仏の
制度を
一覧表にしたものでございます。特別の
憲法裁判所を持っていますのは
ドイツだけでございます。アメリカは日本と同様に、通常の
裁判所が
具体的事件の処理の前提として
憲法判断を行うという仕組みになっております。イギリスとフランスは、そもそも
裁判所、
司法部は
違憲審査権を有しておりません。
それから、
ドイツの
憲法裁判所の
制度につきましては、次の
ページに別紙をつけておりまして、少し詳しく書いてございます。
ドイツの
憲法裁判所では、通常の
裁判所が
具体的事件について適用しようとする
法律が
違憲であると考えるときには、その手続を中止いたしまして
憲法裁判所に
判断を求めるということになっております。そして、このような
具体的事件に伴う
違憲判断とは別に、
連邦政府とか
州政府、あるいは
連邦議会の三分の一からの
申し立てがあれば、
具体的事件を離れて、法令が
違憲であるかどうか、そういう一般的な
判断をする抽象的な
違憲審査の
制度というものが設けられております。
また、
公権力によって
憲法上の
基本権を侵害された者、これは一定の要件のもとで対象となった
法律の
合憲性の
審査の
申し立てができる。
憲法異議というふうに言います。ですから、この
公権力には
裁判所の
判決も入りますので、
判決についてさらにこの
憲法異議ができる。
次に、
我が国の司法
制度の実情につきましても御依頼がございましたので、統計資料に基づきまして概略を
説明させていただきます。
まず、地裁の第一審の
事件数でございます。資料4をごらんいただきたいと思います。これは地裁の
民事訴訟事件の推移を示しております。
民事訴訟事件の数につきましては、社会情勢や経済の規模、景気、立法動向、法曹人口等さまざまな要因によって影響を受けるわけでございます。ごらんのように、長期的に見ますと大幅に増加してきております。
また、地裁の
刑事事件につきましても、やはり社会情勢等を反映いたしまして影響を受けるわけでございますが、資料5にありますとおり、戦後の社会情勢を反映いたしまして、
昭和二十四年、二十五年がピーク、一たん減少して、その後増加傾向を続けましたけれども、
昭和六十年に入るころから減少、最近は再び増加傾向ということでございます。
次に、平均審理期間を見ますと、資料4をごらんいただきたいと思いますが、地裁の
民事訴訟事件につきましては、
昭和四十八年が十七・三カ月という非常に長期間を要しております。これをピークとしておおむね短縮化傾向にございます。平成十一年では、九・二月という数字まで行っております。
これは、
裁判所が中心になりまして、争点整理、集中証拠調べという審理の運用改善を行う、それから、
制度化しました新しい民事訴訟法が平成十年に施行された、こういうようなことが審理の迅速化につながっているものと思われます。
また、地裁の
刑事事件につきましては、資料5をごらんいただきたいと思いますが、
昭和四十九年の六・六月をピークとして年々短縮されておりまして、平成十一年には三・一月というふうになっております。
民事訴訟事件、刑事
訴訟事件、いずれにつきましても、審理期間につきましては国際的に見ましても遜色のない水準にあると言ってよいというふうに考えております。
審理期間が三年を超える長期の係属
事件につきましても、資料の6、7をごらんいただきたいと思いますけれども、民事、刑事ともに、四十年代後半をピークに大幅に減少してきておる、こういう状況でございます。
しかしながら、地裁の
民事訴訟事件につきましては、問題がないわけではもちろんありませんで、公害訴訟のような訴訟当事者が極めて多数のいわゆる大型
事件、それから知的
財産権とか医療過誤
事件などのようないわゆる専門的な
事件の中には、解決まで長期間を要している
事件が多く見受けられるわけでございます。刑事
訴訟事件につきましても、件数はごくわずかでございますけれども、極めて長期間を要する例がございます。
今後、こういうような長期間を要している
事件につきましては、さらに迅速化を検討することが必要であると考えております。
次に、資料の8をごらんいただきたいと思いますが、
昭和二十四年から平成十一年までの
裁判官の数の推移を示したグラフでございます。
裁判所といたしましては、
事件数の変動や事務処理体制の変化など、諸要素を総合的に考慮いたしまして増員を行ってまいりました。平成十二年の定員は、
裁判官は三千十九人、
裁判官以外の
裁判所職員、書記官、事務官、一般職でございますが、これは二万二千三十八人となっておりまして、
昭和三十九年に臨時司法
制度調査会の意見書が出されました以降の三十六年間では、合計で五百四十四人の
裁判官の増員、千五百十四人の書記官等の増員を行ってきております。
次に、資料9をごらんいただきたいと思います。
最高裁における年間の受理件数の推移をグラフにしたものでございます。
最高裁でも戦後しばらくは、先ほど申し上げました
刑事事件が多くて民事、行政が少ないという状況が続いていましたが、その後逆転をいたしまして、以後、民事、行政は増加、刑事は微増という状況にございます。
民事、
行政事件につきましては、
最高裁の負担を軽減して、本来
最高裁が担っております
憲法判断とか、あるいは最終審としての
判断を示して法令の解釈を統一するという重大な機能をより一層充実強化しよう、そういう観点から、平成十年の一月一日に施行されました新しい民事訴訟法におきまして、
最高裁に対する上告の理由をいろいろ制限した。上告理由を
憲法違反と重大な手続違反に限定をいたしました。
また、法令違反につきましても、判例違反とかその他法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる
事件、これにつきましては、
最高裁が上告審として
事件を受理するという決定をいたします。そういう
決定をした場合のみに上告があったものとみなされる。
これによりまして、上告
事件の新受件数は、平成十年では二千五百四十二件でございます。平成十一年は、減少いたしまして二千百六十件でございます。
申し立て段階で、上告
事件、上告受理
事件、振り分けが行われます。また、平成十年以降の平均審理期間は短縮しておりまして、未済
事件の件数も明らかに減少している。こういうことからいたしますと、
事件の重さに応じた
事件処理をするという新民事訴訟法がねらった効果は徐々にあらわれつつあるのではないかというふうに考えております。
以上、御依頼ございました事項につきまして御
説明をさせていただきました。
御質問をお受けいたしますけれども、先ほど申し上げましたように、
裁判例につきましては、
最高裁は当事者でございますので、その当否や評価、さらに将来の予測あるいは
憲法論といった点について申し述べることは差し控えさせていただきたいと思います。そのあたりは、やはり
憲法学者の方にお聞きいただければというふうに思っている次第でございます。
裁判所といたしましては、客観的な事実関係、
判決の内容等について、わかる範囲でお答えをさせていただきたいと思います。
以上でございます。