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1999-11-19 第146回国会 参議院 国民生活・経済に関する調査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年十一月十九日(金曜日)    午後一時一分開会     ─────────────    委員氏名     会 長         久保  亘君     理 事         畑野 君枝君     理 事        日下部禧代子君     理 事         阿曽田 清君     理 事         松岡滿壽男君                 金田 勝年君                 岸  宏一君                 国井 正幸君                 斉藤 滋宣君                 田中 直紀君                 中原  爽君                 長峯  基君                 成瀬 守重君                 日出 英輔君                 松村 龍二君                 海野  徹君                 勝木 健司君                 谷林 正昭君                 堀  利和君                 簗瀬  進君                 沢 たまき君                 但馬 久美君                 山本  保君                 西山登紀子君                 清水 澄子君     ─────────────    委員異動  十月二十九日     辞任         補欠選任      金田 勝年君     吉村剛太郎君      国井 正幸君     真鍋 賢二君      長峯  基君     服部三男雄君      成瀬 守重君     長谷川道郎君  十一月十八日     辞任         補欠選任       谷林 正昭君    円 より子君  十一月十九日     辞任         補欠選任       円 より子君    谷林 正昭君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         久保  亘君     理 事                 中原  爽君                 服部三男雄君                 海野  徹君                 沢 たまき君                 畑野 君枝君                日下部禧代子君                 阿曽田 清君                 松岡滿壽男君     委 員                 岸  宏一君                 田中 直紀君                 長谷川道郎君                 真鍋 賢二君                 松村 龍二君                 吉村剛太郎君                 勝木 健司君                 谷林 正昭君                 堀  利和君                 円 より子君                 簗瀬  進君                 但馬 久美君                 西山登紀子君                 清水 澄子君    事務局側        第二特別調査室        長        白石 勝美君    参考人        國學院大學経済        学部教授     上村 政彦君        早稲田大学社会        科学部教授    岡沢 憲芙君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○参考人出席要求に関する件 ○国民生活経済に関する調査  (海外派遣議員報告)  (「少子化への対応と生涯能力発揮社会形成  に関する件」のうち、諸外国における少子化問  題への取組について)     ─────────────
  2. 久保亘

    会長久保亘君) ただいまから国民生活経済に関する調査会を開会いたします。  まず、委員異動について御報告いたします。  昨十八日までに、前川忠夫君、平田健二君、藁科滿治君、山下栄一君、長峯基君、成瀬守重君、国井正幸君及び金田勝年君が委員辞任され、その補欠として海野徹君、勝木健司君、簗瀬進君、但馬久美君、服部三男雄君、長谷川道郎君、真鍋賢二君及び吉村剛太郎君が選任されました。     ─────────────
  3. 久保亘

    会長久保亘君) 理事補欠選任についてお諮りいたします。  委員異動に伴い現在理事が四名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、会長指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 久保亘

    会長久保亘君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事服部三男雄君、中原爽君海野徹君及び沢たまき君を指名いたします。     ─────────────
  5. 久保亘

    会長久保亘君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  国民生活経済に関する調査のため、本日の調査会参考人として國學院大學経済学部教授上村政彦君及び早稲田大学社会科学部教授岡沢憲芙君出席を求め、その意見を聴取いたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 久保亘

    会長久保亘君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  7. 久保亘

    会長久保亘君) 国民生活経済に関する調査を議題といたします。  先般、本院から、ドイツスウェーデン及びフランスにおける少子化対策人材育成等調査並びに各国政治経済事情等視察のため、海外派遣が行われました。  その調査の結果につきましては、議院運営委員会報告されることと存じますが、この際、派遣議員から報告を聴取し、本調査会調査参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願いいたします。  それでは、円君から報告をお願いいたします。円より子君。
  8. 円より子

    円より子君 御報告いたします。  特定事項調査第二班は、各国少子化対策人材育成政策等実情調査のため、去る九月三十日から十月八日まで、ドイツスウェーデンフランスに派遣されました。  派遣議員は、本調査会久保亘会長を団長として、加納時男議員畑野君枝議員日下部禧代子議員、阿曽田清議員松岡滿壽男議員、そして私、円より子の七名でございます。  以下、少子化問題を中心調査概要を申し上げ、今後の調査参考に供したいと思います。  最初に私たちドイツを訪れました。近年の同国における合計特殊出生率は一・二台の後半で推移しており、ドイツ少子化の進展が著しい国の一つであります。  ドイツでは、旧東ドイツ地域電力等のエネルギーを供給しているフィアック社と、連邦議会家族政策等を所管している家庭老齢者・青少年・女性委員会ハネヴィンケル委員長を訪ねました。  連邦議会では同委員長から、ドイツでの少子化要因少子化対策の基本的考え、少子化が極端に進んでいるにもかかわらず一貫した人口政策等を採用できない歴史的背景男女同権法の改正や女性の固定的な職業選択を変えていくことの必要性等について説明を受けました。さらに、同委員長は、私たちとの意見交換の中で、男女役割分担意識の強さや男性育児休業取得率の低さなどドイツ日本共通点が多いこと、公務部門で実現している男女平等を民間部門においても実現するため男女同権法を改正しようとしているが、男性側企業、野党の反対と与党内部意見の食い違いなどで思うようにいかないこと、また若年失業率が高いことなどから、若い男性学生生活を長引かせる傾向があり、女性よりも男性パラサイトシングル化が顕著であること等の発言がございました。  次に、スウェーデンについてです。この国は、高率の育児休業補償など手厚い家族政策実施先進国の中では比較的高い出生率で知られる国の一つですが、最近の出生率は一・五台まで低下しており、同国最低記録を更新しております。  同国では、ストックホルム近郊テービー・セントラム開放型幼稚園スウェーデン国会、約四万の企業が加盟しているスウェーデン経営者連盟を訪れました。  スウェーデン国会では、それぞれの党で家族問題を担当している穏健党リセロット議員、自由党のヨハン議員と懇談いたしました。まず、スウェーデン側からは、同国家族支援制度概要、手厚い家族政策実施しても生じている少子化背景社会の多くの分野でなかなか進まない世代交代問題等について説明を受けました。私たちとの意見交換の中でリセロット議員らは、同国国会では少子化問題を取り上げることは少なく、むしろ高齢者福祉のあり方や年金問題が論議の中心になっており、一般国民の間でも少子化問題の関心は低いなどの発言がございました。また、スウェーデン人出生率は低下しておりますが、移民としての背景を持つ国民が約百四十万人、人口の約一五%存在し、現時点ではこれらの人々の出生率に期待しているとの発言もありました。  開放型幼稚園は、コミューンと呼ばれる自治体が設置、運営しているもので、子供母親等が一緒に来て過ごす施設であり、育児中の家族を孤立させないことを基本的な目的として二十年前から設けられているとのことでした。現在は、コミューンから経費の五〇%削減を求められており、施設存続の危機に直面しているとの説明を受けました。なお、私たちは、来園していたお母さん方から、同国出産育児事情男性育児参加の実態などについて直接話を聞くことができました。  私たち最後フランスを訪問いたしました。同国は、一九三〇年代から家族給付制度等を導入した歴史を持ち、現在では多種多様な家族支援策実施して、ヨーロッパ諸国の中でも比較的高い出生率を保っている国であります。  フランスでは、同国上院に最近設置されました人口問題委員会パリ市内にある私立のエコール・アクティヴ・ビラング幼稚園、昨年設置された家族関係省庁代表部を訪れました。なお、家族関係省庁代表部は、実施機関が数省庁にまたがり、年間約二千億フランに上る家族給付制度などの家族政策を円滑に実施するため新たに設置された政府機関です。  上院では、ニュウェルト人口問題委員長を初めとする五名の上院議員から、同国における人口問題と家族政策歴史的経緯家族政策の基本的な考え、議会側から見た同政策出生動向に与えた評価等について説明を受けました。私たちとの意見交換の中で、フランス側からは、最近、同国において出生率が一・七五まで上昇したのは、家族給付制度充実託児所、保育園の整備等全体的に家族政策充実させた結果であると考えていること、フランスにおいても、女性仕事のキャリアと出産育児のどちらを優先させるか深刻なジレンマに悩んでおり、これをパートタイム労働の導入やベビーシッター制度充実等で解消しようとしているが、政策的に解決するのは難しいこと、女性仕事育児の両立に関しては種々の制度的支援があっても大変厳しく、女性からは男性に対し家事手伝い拡大等要求が出ていること等の発言がありました。  今回、私たちが訪れたいずれの国においても少子化現象は大きな社会問題としてとらえられており、各国ともさまざまな政策的手当てを行っておりましたが、人口の置きかえ水準まで出生率を引き上げ、かつその水準を持続させる政策を見出している国はありませんでした。しかしながら、スウェーデンフランスでは現状出生率水準はこれまで行ってきたさまざまな家族政策などの結果であるとし、その必要性を強調しておりました。これらのことから、この二国における出産育児に関する家族政策は一種のセーフティーネットとして機能しているのではないかと思われました。  こうした観点から、今後、私たち我が国少子化対策を考える際には、これらの国の結婚、出産育児に関する家族政策が大いに参考になるものと思われます。  なお、この報告で取り上げなかった視察先調査概要につきましては、後日、議院運営委員会会議録の末尾に掲載する予定の文書報告を御参照願いたいと存じます。  最後に、今回の海外視察に際し、多大な御協力をいただいた関係省庁在外公館及び視察先関係者各位に対し、心から感謝を申し上げ、報告を終わります。
  9. 久保亘

    会長久保亘君) 以上で報告の聴取は終わりました。     ─────────────
  10. 久保亘

    会長久保亘君) この際、委員異動について御報告いたします。  本日、円より子君が委員辞任され、その補欠として谷林正昭君が選任されました。     ─────────────
  11. 久保亘

    会長久保亘君) 次に、少子化への対応と生涯能力発揮社会形成に関する件のうち、諸外国における少子化問題への取組について参考人から意見を聴取いたします。  本日は、お手元に配付の参考人名簿のとおり、國學院大學経済学部教授上村政彦君及び早稲田大学社会科学部教授岡沢憲芙君に御出席をいただき、御意見を承ることといたします。  この際、上村参考人及び岡沢参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、御多忙のところ本調査会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、本調査会が現在調査を進めております少子化への対応と生涯能力発揮社会形成に関する件のうち、諸外国における少子化問題への取組について忌憚のない御意見をお聞かせいただき、調査参考にさせていただきたいと存じます。どうぞよろしくお願いいたします。  議事の進め方でございますが、まずフランスにおける少子化問題への取り組みについて上村参考人スウェーデンにおける少子化問題への取り組みについて岡沢参考人の順にお一人三十分程度で御意見をお述べいただきました後、二時間程度委員からの質疑にお答えいただく方法で進めてまいりたいと存じます。  質疑につきましては、あらかじめ質疑者を定めず、自由に質疑を行っていただきたいと存じます。質疑を希望される方は、挙手の上、会長指名を待って質疑を行うようお願いいたします。  また、時間が限られておりますので、質疑答弁とも簡潔に行っていただくようよろしくお願いいたします。  なお、参考人からの意見陳述、各委員からの質疑及びこれに対する答弁とも着席のままで結構でございます。  それでは、上村参考人からお願いいたします。
  12. 上村政彦

    参考人上村政彦君) それでは、ただいまのお話にございましたけれども、私からはフランス家族政策についてお話を御参考までにいたしたいと思います。  私は、これまで社会保障論といいましょうか、そういう研究領域でございまして、国際比較ということで日仏比較をやってまいりました。社会保障日仏比較ということになりますと、どうしてもフランス家族手当制度あるいは家族給付制度というのがかなり進んでおりますので、それについての研究というのがつい多くなるわけでありまして、これまでフランス家族給付制度について幾つかの論文等を発表してまいりました。  きょうは家族政策あるいは少子化対策という点でフランス家族給付制度を検討するといいましょうか、家族給付制度を土俵にしてフランス少子化対策なり家族政策を考えてみたいと思います。  まず、お手元資料等が参っているかと思いますけれども、そのレジュメといいましょうか資料に基づいてお話をいたします。  最初人口動向と低い出生率ということでございますが、先ほど視察報告がございました。戦前の低い出生率についてあるいは最近若干改善しているというお話がございましたけれども、総体としてフランス人口は、一九九七年の数字でございますけれども、平成九年一月一日現在で五千八百五十万人、我が国の約半分でございます。うち六十五歳以上の人口が占める割合は一五・四%ということでございまして、これも一九九七年のことでございます。  お手元にお配りいただきました資料がございまして、図表一、二、三、四、五というようなものがございますが、総人口中に占める六十五歳以上の人口割合について棒グラフ資料があるかと思いますが、これからわかりますようにフランスの場合は先進国の中にあって高齢化率というのは、今のところさほど大きいものではないわけでございます。一五・四%という数字はこの棒グラフをごらんになるとわかりますように、むしろ先進国では低い方と言ってよろしいかと思います。  フランスで問題なのは何かということになるわけでありますけれども、フランス人口高齢化はやや緩慢ながら少しずつ高齢化が進んでおりますが、その高齢化をつくり出す要因となっている出生率の低さ、少子化傾向が問題であるということになるわけでありまして、人口問題の専門家、例えばポール・パイヤーという方がおられますが、パイヤー教授お話によりますと、フランス高齢化というのはこの二百年、二世紀の間に少しずつ続いてきた出生率低迷といいましょうか、によって高齢化が少しずつ少しずつと形成されてきたものであるというふうに言われております。  この点は日本の場合とかなり違うところでありまして、日本の場合はその率なりあるいはその高齢化のスピードというものが大変早いということは皆さん御存じのとおりでございますが、フランスの場合は約二世紀の間かかって一五・四%前後といいましょうか、この辺がつくり上げられてきたんだということであります。  フランスの場合は、先ほども少し報告の中で言及がございましたが、フランス出生率は特に一九三〇年代に低下し始めました。特にその辺が顕著であるわけでありますが、図表の二というのがございますけれども、この図表の二にありますとおり、三〇年代後半以降の十年間というのは出生率死亡率を下回って人口が減少する。つまり、最近日本でも言われております人口減少社会への移行が始まるわけであります。その後、出生率はやや改善されるわけでありますが、先ほどの御報告とは若干私は違った認識を持っておりまして、近年、また、特に八〇年代、九〇年代になって戦前の低い出生率水準に近いような状況に近づきつつあるように思われます。  そういうことを考えますと、これからもまた出生率対策というのが大変重要になるわけでありますけれども、フランスの場合、その人口問題の中心というのは終始、出生率低迷あるいは少子化傾向、これが人口問題の中心であるわけで、対応策中心はすべて出生率を引き上げるための少子化対策に置かれてまいりました。つまり、簡単に言えば、人口問題対策子供中心といいましょうか、子供に当てられてきたということであって、この点についてはシモーヌ・ド・ボーボアールがその名著「老い」の中で、高齢者対策フランスの場合、少子化対策の犠牲になったとして厳しく批判を加えているところであります。  我が国の場合は、どちらかというと少子化はつい最近気づかれたといいますか、注目されているところでありますけれども、その点からいたしますと、少子化問題、少子化対策に関するフランス取り組み、こういうものがこれからの参考になるわけであります。  次に、二番目の家族政策家族給付制度に参りたいと思います。  フランスでは、ただいま申し上げましたように出生率低迷が続くということもあって、古くから家族単位福祉の増進を図り、それを通じて出生率の引き上げを目指すというそういう家族政策が極めて多面的な形で幅広く展開してきているわけであります。既に、一九三九年でございますが、人口少子化が進み始めます最中に家族法典というものが制定されました。したがって、この種の家族政策につきこの家族法典が立法上の基礎を提供することになったわけであります。  専門家の言われるところを参考にいたしますと、フランス家族政策は大きく三つに大別されるということであります。  そのうちの第一は、家族生活援助活動というものでありまして、主として社会的に恵まれない人たち対象とする社会福祉活動分野に属するものだと見てよろしいかと思います。第二は、家族給付制度による多様な現金、現物給付提供活動でありまして、主として子供養育負担を負う一般家庭対象として家族手当金庫制度によって実施されるものであります。そして、第三は、家族計画に関する援助活動で、一九七五年の法律で可能となりました人工妊娠中絶にかかわる活動もこれに含まれるわけであります。  実際にはこれらの三つ分野に属する家族政策活動というようなもののほかに、子供養育負担を負う家族のための税制上の優遇措置であるとか、あるいは医療保険年金制度に設けられておりますところの扶養加算であるとか被扶養者向け給付分でありますとか、文字どおりこのような施策というのは多様であります。  ところが、そういう多様な施策にもかかわらず、それぞれを体系的な形で費用面の数値を明らかにするというような資料は皆無と言ってよろしいかと思われます。そういう中にあって、実質的な家族政策を展開するのは何よりも私がここで取り上げたい家族給付制度であります。一九九五年で見ましたとき、フランス家族給付制度給付いたします給付費総額というのは、図表五の下の方にございますように、千四百八十五億フラン、日本円にして約三兆円程度に達しているわけでございます。  そこで、そのような家族給付制度現状特徴というものをお話しいたしまして、そこに展開される家族政策なりあるいは少子化対策、そういう点について触れてまいりたいと思います。  家族給付制度現状特徴でございますが、今日、フランス家族給付制度はほとんどのフランス人をカバーしておりまして、適用国民化といいましょうか、というものは実現しているわけであります。我が国流の言い方をいたしますと国民家族給付制度ということにでもなりましょうか、その中で子供養育負担を負う者が手当受給権者とされるわけでありますが、その数は一九九五年で五百八十五万人、そしてその手当制度給付制度受益者子供ということになるわけでありますが、その受益者は約一千二百三十万人となっているところであります。  なお、受益者たる子供の定義につきましては、原則として義務教育終了の十六歳未満というのが定められた年齢でございますが、実際には十九歳未満あるいは二十歳未満といいましょうか、十九歳になる直前、二十歳になる直前まで子供として扱われるといいましょうか、手当対象として扱われる場合が多様に設定されているわけであります。  そのほか、この家族給付制度適用を受けて子供を養育する負担を負う者が給付を受給するに当たっては、何らかの職業活動を行っていることということが今まで要件とされておりました。その点が最近変わりまして、現在ではこの要件が削除され、家族給付制度適用一般化いたしております。  次に、家族給付種類でありますけれども、この種類というのは非常に多様でございまして、全部で十種類ばかりございます。その種類社会保障法典第五編の規定によって分類されているわけでありますが、その分類法によって見ますと、図表の五にありますとおり、一、一般的扶養給付として四つの手当が、二、出生関連給付として三種の手当が、特定目的給付として三種の手当合計十種の手当がございます。非常に多様でございます。  最も中心になりますのはもちろん最初にございます家族手当でありますが、これはフランスに居住する第二子以降の子供を現にかつ継続的に扶養する者に支給されるもので、制度発足時の一九三二年から今日まで続いておる最も有名な手当でございます。  これ以外の種類手当等につきましては、お配りされております資料にございますので、そちらを参照していただくということにさせていただきまして、家族手当以外の各種の手当というのは大体第二次大戦以後に設定されたものでございます。ただ、そのうち家族補足手当というのがございますけれども、この家族補足手当、二番目の手当でありますが、これは三歳以上の子が三人以上いるとき所得制限をつけて支給されるものでありまして、家族手当を補足するものであります。したがって、この二番目の家族補足手当というのは家族手当と一体として見てよろしいのではないかと思います。  注目すべきことは、この二つの給付でもって図表五の数字に明らかなように、フランス家族給付費全体の約五三%を占めているということ。それで、あとの八種の手当がその残り四七%になる。したがって、大部分が家族手当家族補足手当によって占められると言ってよろしいわけでございます。  そのほか、制度的に家族給付制度概要お話しいたしますとすれば、財源というものがあるわけでありますが、その財源としましては、これまで主として雇い主が負担する保険料で賄われてまいりました。雇い主が負担するという表現の中には、家族給付制度国民化しているわけでありますから、雇い主、雇われる者という関係にない人たち、つまり非被用者といいましょうか、あるいは自営業層といいましょうか、そういう人たちもまた家族手当家族給付制度適用を受けるわけでありまして、ここで言う雇い主負担というのは、中でも働く労働者の家族給付制度を頭に置いて御説明を続けさせていただきたいというふうに思っております。もちろん、働く労働者のみならず、自営業層等にも家族給付制度適用されるわけでありまして、その際の財源は、雇い主自身が自分たち家族給付制度のために、あるいは自営業主たちが自分たち家族給付のために保険料を支払うという形をとっているわけであります。  ただ、その際の保険料という表現、この点にも問題がございまして、年金保険や医療保険の保険料とは若干異なると一般に議論されているわけでございます。医療保険における保険料が将来発生するであろう疾病という事故に対処するものであるのに対して、この家族給付制度の場合はそういう側面がないわけでありまして、保険料という言い方は問題を持っているわけでありますが、ここでは一般的に言われている言葉を使って保険料としておきたいと思います。  保険料のほかに、最近一般目的税と言ってよろしいのではないかと言われているような新しい財源措置が導入されました。それは総合福祉拠出金制度と私は訳しておりますが、他の何人かの方は一般社会拠出金とやっておられますが、それでは余り内容がわからないんじゃないかと思います。  この総合福祉拠出金という新しい拠出金制度というのは、所得税法の適用を受けるすべてのフランス人からその所得の一定パーセント、当初一・一%でしたが、に相当する拠出金を徴収しまして、赤字傾向に悩んでいる社会保障の財源措置、財源収入にしようというもくろみで設けられたものであります。  目的税を社会保障の財源にするということになりますと、最近の日本の年金をめぐる議論、特に基礎年金を目的税にしてはどうか、あるいは介護保険を保険ではなくして目的税でやったらどうかという議論と相通じてくるわけでありますけれども、これは純粋の目的税と言っていいのかどうかまだはっきりした結論は出ていないように思うわけであります。  しかし、家族給付制度について、これが取り入れられたということをめぐっては、実はこの総合福祉拠出金をどういうところに投入していくかという際に考えられたことは、制度給付の普及率といいましょうか、そのお話がございます。  つまり、簡単に申しますと、社会保障給付制度が全国民化している、すべての国民に拡大されたような給付部門、したがってまた家族給付制度がそれに該当するわけでありますが、の財源にそれを使っていこうというものであります。  そういう意味で、一部の人たちの保険料ではなくして、限定された階層の保険料ではなくして、全国民適用、普及されるような制度をこの財源でもって解決していこうというそういう方向がとられようとしているわけで、そういう一つの事例として家族給付制度が挙がってきているわけであります。これまでの保険料だけで行われるような、そういう財源措置が若干変わってきつつあるということであります。  以上、保険料、財源の点までをお話ししまして、家族給付制度の大まかな概要お話しいたしまして、次に四番目の少子化対策としての家族給付制度お話を移したいと思います。  概略以上のようなこと、家族給付制度家族政策、なかんずく少子化政策として見たときにどういうふうになるのかというのがここでの中心的課題ということになるわけであります。  それで、一体フランス家族給付制度というものは少子化対策としての役割を果たすものとして設計されているものであるのだろうかどうか、この点は戦前から議論されてきたわけでありますが、なかなかこれという結論はないように私は考えております。  制度戦前から発展してまいりましたこの発展の跡を全体として見渡してみましたときに、そこに感じられますことは、一九三二年にこれが始まりまして、賃金の一部を集団化して払うという形がこの家族手当の始まりでありました。賃金の一種でございました。  それから今日を考えてみますと、そこの間には大変大きな変化があるように思われます。その原因といいますか、大きな変化を感じさせる原因は、どちらかというと無原則的とも見られるような多様な給付、多様な手当類の設計、創設であろうかと思います。  これらの手当類の出現がまず最初に見られましたのは単一賃金手当というものでありまして、もう既に現在ではなくなっているわけでありますが、一九四一年に単一賃金手当という手当が設定されました。これは、子供を養育するために女性家庭に残って、その世帯が夫の賃金だけで生計を維持するようなそういう家族に対して手当を支給する、こういうものでありました。ですから、言うまでもなく、そこに少子化対策出生率の引き上げ対策というのが考えられるわけでありますけれども、戦後、一九六七年になりまして、これは女性家庭の中に押し込めるものだとして廃止されることになります。  言うまでもなく、この手当の創設されました時期というのはまさしく出生率が引き上げられなければならないというそういう時期でありまして、そういう役割を持たされて創設されたものでありました。同じころに創設されました産前手当出産手当の類といいますか、これは最近の幼児手当というのに移行しているわけでありますが、こういうようなものもまた出産奨励ということで、そういう意図が託されて創設されたものでありました。  全体として見たときに、伝統的な家族手当を別としますと、一九三二年の家族手当を別といたしますと、その後に出現いたします諸手当の類は、ほとんど出産を奨励し、あるいはだれもが安心して子供を産み育てることができるような条件をつくっていくということをその趣旨としているように思われます。  しかしながら、問題点は代表的なこの家族手当でありまして、これをどう考えるか。何しろ費用総額の半分ぐらいを占めるわけでありまして、これが問題であろうかと思います。  しかしながら、例えばこの手当は、資料にありますとおり第二子以降に支払われるものであります。既に、その点を考えますと、出生率の引き上げを期待され、中にその趣旨が組み込まれていると言うこともできるかもしれません。しかしながら、先ほど申しましたように、財源が企業主の負担とされる点を含めまして、何しろ企業主の負担ということになりますと、出生率の引き上げ策がなぜ企業主の財源負担で行われなくちゃならないのかという問題にすぐ突き当たるわけでありまして、その企業主の負担という点を含めまして、今日までの経緯を見ますと、どうもこの家族給付制度全体と少子化対策との間には若干のずれがあるというふうに思われるわけであります。  そういうずれが、いわば家族給付制度特徴とか特質にある、つまり家族給付制度が一九四五年以降、第二次大戦以後、社会保障という新しい理念のもとに再編成されることになりまして、家族給付制度社会保障給付の一部門として取り上げられるようになりました。  ここに新しい家族給付制度の発展の時期が始まるわけでありまして、現時点はその中にあるわけでありますが、どうも家族給付制度につきましては、社会保障給付一つとして社会保障理念のもとに統一されたにしては何か一つそこにずれがあると感じられるわけでありまして、それが単なる社会保障給付、例えば年金とか医療保険、介護保険等の社会保障給付と違った少子化対策といいましょうか、そういうものを含んだ点が感じられるということであるわけであります。  時間的な余裕がございませんから若干その程度にさせてもらいまして、最後家族給付制度の将来展望ということでお話はおしまいにしたいと思います。簡単にしたいと思います。  少子化対策とのかかわりで家族給付制度の将来展望を簡単にするといたしますと、近年、家族給付制度について進行しつつあります重要な変化、例えば制度適用一般化であるとかあるいは総合福祉拠出金制度を通じた財政システムの変更というものは、社会保障における家族給付の独自性の確立を推し進めることとなるのではないか。伝統的な家族手当制度中心とした家族給付全体の中における少子化対策の側面というのがよりこれから明確になる可能性がそういうところに含まれているように私は感じます。  ただ、それは制度面での可能性の問題でありまして、これまでの経緯ということから考えてみますと、多様な手当類の場合には、そこに負わされている課題と期待に比べて実際にはなかなか効果が上がってこなかったというのがこれまでの経験であったろうかと思われます。  つまり、制度政策というこういう制度を設けたとしてもなかなかその効果が思うとおりにいかないという難しいところであるわけでありますが、特に出生率の問題については女性の意識の問題がそこにあるかと思います。ただ制度をこういうふうに定めたというだけでは問題はなかなか解決しない。女性の意識の変化という点がやはり大きな影響力を持つわけでありまして、その点についての配慮が政策には必要ではないかというふうに思っております。社会的意識を変化させるなんということは大変難しいことでありますが、長い時間をかけた教育であるとか啓発とか、その他の政策があわせてとられる必要があるのではないかというふうに考えております。  とりあえず時間が参りましたので、一応それだけにさせていただきたいと思います。
  13. 久保亘

    会長久保亘君) ありがとうございました。  次に、岡沢参考人にお願いいたします。
  14. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) 早稲田大学の岡沢でございます。  本日は、意見表明の機会をお与えくださいまして、心から感謝いたします。非常に時間が限られておりますので、早速話の内容に入らせていただきたいと思います。  レジュメの一ページでございますけれども、上の四行に「少子化の挑戦にどう政策対応するか」という基本的な視点を書いておきました。  平均寿命が延び、男女間平均寿命差が拡大し、それにつれて女性のライフスタイル、意識が変化しているのに社会システムが政策対応できないでいるということ。こうした問題を解決するためには、つまり人口構造や有権者構造の変容にどう政策対応するかという視点で考えるときには、労働空間、居住空間、通勤移動空間、余暇空間、社交空間、医療福祉空間、こうした側面の中でそれぞれの環境をどう整備していくかということが非常に重要な政策対応の視点ではないかと考えます。  そのときに、多くの国々の中で最初に少子高齢化を経験したスウェーデンがある意味でヒントを提供してくれるかもしれない、そういう判断から恐らくきょう私にこういう意見表明の場が与えられたんだろうと理解しております。  お手元の六ページに「北欧のカルチャー・ショック」という項目をつくってみました。北欧の家族というのと日本家族というのはかなり違います。それを「北欧のカルチャー・ショック」という表現で並べてみました。北欧を旅する日本人たちが経験した伝統的な北欧ショックというのは、こういうものがありました。  一九六〇年代に初めて北欧を訪問した人たちは、次の人のためにドアをあけてくれる北欧人の姿に感動したものであります。フォー・ザ・ネクスト・パーソンという考え方が非常に圧倒的でございまして、六〇年代に初めて北欧に渡った私も最初にこれに感動いたしました。ドアをあけようとすると、必ず次の人のために来るまでドアをあけていてくれる。そして次の人が、スウェーデン語でタックと言うんですが、ありがとうと言って次の人のためにドアをあけていくというこういうのに感動したものであります。  そして、八〇年代後半に北欧を旅した人は、恐らく公共のバスがおじぎをする姿に感動したと思います。バスや地下鉄がほぼバリアフリーの状態になって、停留所に高齢者がいたりベビーカーを引いている人がいると、バスの前の三分の一がおじぎをして乗りやすくしてくれるという姿に感動したものだろうと思います。  そして、八〇年代から九〇年代の初頭にかけて初めて北欧を旅行した人は、男性がベビーカーを引いて職場や町の中を濶歩している姿に随分アジアとは違うなというふうに感動されたはずであります。  そうした現象と並行しまして、アジアから来た長期定住者の経験する北欧ショックというのがございます。そこに書いておきましたけれども、大家族主義的な伝統を持つアジアの諸国から来た長期定住者は、住めば住むほどアジア的な意味でここには家族がないという表現をよくしたものであります。これは、日本から来た長期定住者もほぼ同じような経験を持っております。それほど伝統的な大家族主義的家族観で育った人にとっては相当大きなカルチャーショックであったと思います。  そうした現象を並べてみますと、「スウェーデン家族特徴」として次の十一があると思います。一、高い離婚率。二、事実婚の通常化。この事実婚が定常化したために、今では同棲法、スウェーデン語で言うとサンボーラーゲンというのがあるんですが、同棲法をつくっております。そして、三番目が婚外子の一般化。四番目が養子縁組の簡素化。五番目がマルチハビテーションという、ワンファミリーが複数の住宅を持っていて、そしてそこを行き来する。御承知のとおり、モバイルテレホンが一番発達しているのは実は北欧諸国でございますから、そのマルチハビテーションの中で非常に新しい形の親密な家族関係が構築されている、家庭内コミュニケーションが濃密な状態で維持されているということであります。  そして、六番目が出生率が低い。少子化が進み、家族規模が縮小した。そして、伝統的な家族機能がどのような形で社会化されるべきなのかという議論が起こった。そこで出てきたのが高齢者介護の社会化ということと育児社会化。具体的に言うと、子持ち家族への経済支援、児童手当と住宅手当に要約されるのではないかと思います。  そして、スウェーデン家族の第七の特徴は、海外に親類がいるファミリーが多いということであります。これは後でお話ししますけれども、スウェーデンはもともと非常に貧しい農業国家でございまして、ヨーロッパで一番貧しい農業国家、それが今世紀の初頭までスウェーデンの代名詞でございました。どの程度の貧しさかといいますと、当時、約百万人のスウェーデン人が海外に移住をいたしました。当時の人口が四百万から四百五十万の時代でしたから、全国民の四人に一人が海外に移民せざるを得なかった、それほど貧しかった農業国家であります。  逆に言うと、多くのファミリーが海外に親戚を持つという新しい家族の形態が生まれた。それが家族構成の国際化という点で非常にユニークな役割を演じてきた。例えば、在外選挙権の問題であるとか在住外国人の地方参政権の問題なんというのはスウェーデンはいち早く導入した国の一つになるんですが、やはりその背景には今述べたように二十世紀の初頭、膨大な国民が海外に移民せざるを得なかったという歴史的な背景があるというふうに考えたらいいと思います。  そして八番目の特徴は、男性の家事・育児分担が進んでいるということであります。これは大体六〇年代以後の現象でございまして、炊事、洗濯は大体男性がよく参加しております。  そして九番目、これは先ほどの繰り返しになりますが、少子高齢化現象を先導した。そして、その過程で介護の社会化と育児社会化が進んだということ。  そして、スウェーデン家族の十番目の特徴なんですが、これは独立時期が早いということ。比較的若い段階から自立教育が徹底しておりまして、個性重視の旺盛な自立精神、もしくは経済的自立を促進する教育、職業教育が早い段階から進められております。この自立というコンセプトに包含されるのは、自己決定、自己選択、自己責任、自己投資という考え方が非常に濃密でございまして、国や地方自治体が何かをやってくれると考える前に、まず自分は何ができるのかということを最初に考えてほしい。一般的なイメージとしての福祉国家というと、何となく人に優しい社会を考えそうでありますが、実際には逆でございまして、自分が労働可能なときに働いて納めた税金をいざというときに回収しているだけでして、ある意味では非常にきつい社会だというふうに言えるかと思います。  いずれにしましても、自立精神が非常に旺盛でございまして、それが早い家離れ、早い親離れ、早い子離れ、早い夫離れ、早い妻離れというような現象で起こっておりまして、新しいスウェーデン家族特徴になっているというふうに言えるかと思います。  そして十一番目の特徴は、経済的依存、扶養、丸抱え関係を超えた家族間の濃度の高い精神的きずなというのが北欧のファミリーシステムの非常に大きな特徴になっているということであります。例えば、高齢者センターに家族の者が入っていると、家族の者がそこに訪問する頻度は非常に高うございます。これは日本の高齢者センターとは全く逆でございまして、日本の場合はどうしても預けっ放しという傾向があるんですが、北欧は非常に濃密に家族とのつき合いがある。これは大きな特徴で、指摘できることではないかと思います。  こうした現在のスウェーデンのファミリーが抱えている特徴の幾つかが、恐らくこれから日本少子化問題に対して政策対応するときの考え方のヒントの幾つかにつながっていくんだろうというふうに漠然と考えていただければと思います。  そして、その次に指摘しておかねばならないのは、スウェーデン少子化の問題をどの時期からということですが、レジュメの五ページに書いておきました。  スウェーデンは一九三〇年代にやはり少子化の問題に直撃されます。そして、ノーベル平和賞をもらいましたアルバ・ミュルダールという学者が「人口問題の危機」を書いたのが一九三〇年代でございまして、このころから実はスウェーデンでは少子化問題そして女性社会参画の問題ということをワンセットで考えるようになった。つまり、女性育児、家事、炊事という家庭内の労働と社会的労働という二つの荷重を強いられるようなシステムを続けている限り人口減という現象は避けられないかもしれないということを問題提起いたしまして、それ以来、スウェーデンの政党、労働組合というのはこの問題に取り組んできたというふうに言えるかと思います。  そして、一九三〇年代から徐々に回復しまして、ずっと進んでいたんですけれども、一九六〇年代末、七〇年代の初頭からもう一度下降ぎみを描きまして、そして一九八〇年代の末に逆転、再上昇するまでしばらくの間、合計特殊出生率が低下していました。そして、一九九〇年代中庸になるとまた再び下がり始めまして、一九九八年、昨年記録的な低さ、一・五二になっておりますが、そのときの新聞は非常に衝撃的でございますけれども、しかしこれが大体底を見て、これからは傾向としては反転していくんではないかという予想が成り立っております。その背景にあるのは、非常に経済が今好調にあるということであります。  レジュメの一ページに戻りますけれども、少子化問題というのはどういう視点から分析する必要があるのだろうかということをスウェーデンの経験から考えますと、こういう視点があると思います。  一つは、少子化が労働市場に対してどういう影響を与えていくのか。第二の視点は、少子化というものが企業経済構造にどういう衝撃を与えていくのか。第三の視点は、少子化社会福祉体制に対してどういう衝撃を与えていくのか。第四は、家や家族、家制度に対してどういうような影響を与えていくのか。第五は、少子化が地域社会にどういう衝撃を与えるのか。第六は、少子化が教育環境にどのような影響を与えるのか。そして第七は、少子化が個人生活や市民哲学にどのような影響を与えていくか。こうした七つの包括的な視点で少子化の問題を語っていかないと問題は解決しない。ある一つの法律をつくってそれが解決をするという問題ではなさそうだということはスウェーデンの経験からも簡単に類推することができると思います。  そうしますと、レジュメでいう二ページの一番下にアンダーラインの下から書いておきましたけれども、少子化問題に対する政策問題を考えるときには、まずスタートラインは、少子社会というのは望ましいのか、望ましくないのか。そして、それがだれにとって望ましい、もしくは望ましくないのかということに関する基本的合意がどのような形で形成されるんだろうか。地球社会全体としては人口が爆発して天然資源が枯渇し、また地球環境が汚染される、環境が破壊されるために、余りの極端な人口膨張は望ましくないといって人口抑制政策をとっているときに、一つの国が少子化は望ましくないという形で政策対応しようとするときに、それは国際的なコンセンサスをどのような形でとれるのかどうかということもやはり議論としてやっておく必要はあるんではないか。地球社会全体と日本人口問題の相対的バランスはどうなのか、地域社会企業社会にとってそれは何を意味するのか、男性女性にとって少子化は望ましいのか望ましくないのか、そういうさまざまな視点からこの問題を考えておく必要があろうかと思います。  そしてもしくは、その議論の結果、少子化そのものが望ましくないとしたら、出生率を高める政策をどう構築するかという次のステージに進むはずであります。そうすれば、構造や制度をどうさわっていくのか、また意識をどのように変えようとしていくのかという議論になっていくかと思います。そして、そのときの制度であるとか構造の改革の視点というのは、上に述べました一番から七番までのさまざまな領域でどう制度をさわっていくのか、変えていくのかという発想が必要ではないかと思います。  一つの結論として、恐らく多くの先進工業国家がたどった結論だろうと思いますが、職場、家庭、地域社会男女が役割と責任を分かち合い、共生する男女共同参画型への社会の構築が望ましいという結論になるんでしょうけれども、そうするとそのためにどういう政策が可能なのか。これは、やはり七つの政策領域でもう一度構築していく必要があるんだろうと私は思います。  そして、政策対応の視点は三ページの頭に矢印の下に書いておきました二つだと思います。どう政策対応するかとすると、一つは産みたいのに産めない状態があるとしたらそれをどう克服するか、最終的に子供を産む、産まないというのは個人の自由の問題でありますから、余り公的な権力が介入できる問題ではありません。ただ、政治や行政が対応できる問題としては、産みたいんだけれども産めない事情があるとしたら、それを産むことが可能な状態にすることは政治や行政が大いにやらねばならない政策領域だろうと私は思います。そうすると、産みたいのに産めない状態があるとしたらそれをどういう形で克服するか、産むことへの不安を解消、縮小するという策をどう構築するかだろうと思います。そして、もう一つ踏み込んだ政策です。産んだ方が得と思える制度充実してより合計特殊出生率を引き上げるということも可能かもしれないという視点は二つあると思います。  この二つの視点でさまざまな政策を展開しても、にもかかわらず当初予定したほどの合計特殊出生率が引き上がらないとしたら、少子化が回避できないとしたら、少子社会にどう政策対応するかという問題を構築していく必要がある。これがやっぱり第三のステージの政策問題として考えていく必要がある。だから、ファーストステージ、セカンドステージ、サードステージ、それぞれ段階的な政策対応をしていく必要があるんではないかと思います。  きょうは限られた時間でお話しするわけですので、当面の政策目標、産みたいのに産めない状態の克服というところに論点を絞ってお話をさせていただきたいと思います。  産むことへの不安を解消、縮小するという作業であります。これにつきましては、七ページに厚生省人口問題研究所の出生動向基本調査第十回の調査結果、おなじみの調査がございます。「妻が理想の数の子どもをもとうとしない理由」であります。これについて順番に、もしかスウェーデンだったらこういう政策対応をしたでしょうねという視点を並べてみたいと思います。  まず最初に、「子どもが生めないから」、一四・一%という現象がありますが、これについては、スウェーデンは養子縁組の簡素化と各種手当、補助金の養子、実子間格差を解消するという形で政策対応してまいりました。片方で予期しないときに子供が産まれた、それで困っている夫婦がいる一方で、本当は産みたいのに子供が産めないという夫婦がいる。その間にどのような形で養子縁組が可能なのかというようなことを考えると、その養子と実子の間のさまざまな格差を是正するという形で政策対応するというやり方が一つあります。  そして、その次です。「高年齢で生むのはいやだから」、二九・六%と出ておりますが、嫌な女性に強制はできない。ただ問題は、若いときに産みたかったのに産めなかった理由を分析して政策対応することは可能だろうという姿勢をとるでしょうねということは推測できます。  そして、いよいよその次からパーセントが多い項目なんですが、「子どもの教育にお金がかかるから」、二八・三%です。一人当たりGDPが二万五千ドルを超え、世界のGDPの一五%を生産する堂々たる経済大国で、次の世代の子供を産むということに対してこれだけ大きな経済的理由が出るというのは、やっぱり何か政策対応が妥当ではないなと私は思います。子供の教育にお金がかかるからという問題については、教育環境の整備、それは生涯教育制度充実であるとか、奨学金制度充実という形で対応できると思います。ちなみに、スウェーデンは、幼稚園から大学院まで授業料はただになっております。  その次です。「一般的に子どもを育てるのにお金がかかるから」、これがやっぱり最頻度で三〇・一%であります。やはり、経済大国なのになぜお金がかかるから子供が産めないという状態になっているのか。とすると、今世界に約二百九デモクラシーと称する国があるんですけれども、これほどの経済力を持っている国の親がこういう悩みを持っているわけですから、ほかの国においてをやということを考えると、もう少し積極的な一歩踏み出した形の政策対応を実際にやっていく必要があるんではないかと思います。そのためには、保育所の整備、児童手当充実出産育児休暇制度充実や児童看護休暇制度充実という形で政策対応が十分可能ではないかと思います。  そして、その次のパーセント、二〇・六%が「育児の心理的・肉体的負担に耐えられないから」という理由がありますけれども、これについては保育所の充実という側面が一つと、あと一つは、子供を産むときのもう一人のパートナーである男性育児過程に参加してくれないということが非常に大きな精神的負担になっているとするならば、育児・家事過程に男性が参加することによって、労働環境と家庭環境、そして都市環境を整備しながら、男性女性育児過程に参加する、家事過程に参加するという環境を整備することによって、女性育児に対する精神的心理的な負担がかなりの程度解消されるのではないかというふうにスウェーデンなら解釈するでしょうね、もしくは政策対応するでしょうねということは言えるかと思います。そのためにやることは労働時間の短縮だろうと思います。そして、二番目が年休の延長と完全消化、そして三番目が幼児を持つ親の労働時間選択制度、五番が児童看護休暇制度、バリアフリーの都市計画、そしてジェンダーフリーの住宅という形で、男性女性育児過程に参加できるような環境を整備していくだろう。実際問題として、後でまとめながらお話しさせていただきたいと思うんですが、やっぱり一番大きな突破口は私は労働時間の短縮ということだろうと思います。  そして、その次が「家が狭いから」が一二・四%なんですが、これは住宅政策充実で十分対応できるわけであります。住宅補助金の充実スウェーデンがやっていることは、家族数に応じた優先的住宅提供と補助金の提供というのをやっていますね。つまり、子供が何人のファミリーなら何平米までの住宅にできるだけ住んでください、一人一人の子供を余り狭い部屋に住まわせないでくださいという形で、ファミリーの大きさによって適正な住宅の規模というものを決めていまして、そしてそれに対して補助金を出していくという形をしております。  最後が「自分の仕事に差し支えるから」、これが九・二%ですが、これは労働環境、女性環境の整備でありまして、所得保障の少ない出産育児休暇がバリアになっているんだとしたら、出産育児休暇の所得保障をスウェーデン並みに八〇ないしは八五%に引き上げるなんという政策も必要でしょう。日本の場合にはこれがあるんです、出産育児休暇を一回目とるときには何となく職場の雰囲気もいいよねと言うんですが、それが二度三度になると何となく速やかにとらせてもらえない、嫌みの一つも言われる可能性があると。そのときにやっぱり出産育児休暇、今所得保障がわずか二五%しか出ていないんですから、できれば二度三度でもどうぞどうぞという歓迎するムードがあれば随分精神的な悩みは解消できるんだなという気がいたします。そして、その次ですが、男性出産育児休暇を気安くとれない職場のムードというのもあろうかと思います。これをどのような形で解消していくかだろうと思います。  そのようなことをずっと進めていって、結局はきょうのスウェーデン少子化対策はどうなったのかということなんですが、それを子供を産む性である女性の環境というところでまとめてみたのが十二ページであります。そして、そうしたスウェーデン女性環境をつくり上げた背景、理由が十三ページであります。  十二ページについて御説明いたしますと、結局言おうとしていることは、結婚ハードル、出産ハードル、育児ハードル、高齢者介護ハードルを縮小もしくは除去しようとした。男性女性が同じ機会を得るという形をとった方がフェアではないだろうかという発想をした。  そして、その四つのハードルを取るために具体的にどう政策対応したかというと、そこに述べました一から十九。一、妊娠中の部署移動申告制度。二、四百五十日間の出産育児休暇。この所得保障は景気の変動によって大きな差があります。七五%から九〇%ぐらいの差であります。今大体八〇から八五です。日本のマックスが二五%というのと比べると、やっぱり圧倒的な量だろうと思います。最初の三百六十日が八〇から八五%提供されます。三、児童看護休暇制度。四、保育所の整備。五、幼児を持つ親の労働時間選択制度。六、姓の選択・継続制度。七、同棲法。八、離婚自己決定権。九、出産・中絶自己決定権。十、男女機会均等オンブズマン制度。十一、長期の有給休暇と完全消化。十二、短い労働時間。十三、教育休暇制度。十四、学生ローン制度。十五、労働経験大学入学制度。十六、近しい人の最期をみとる介護休暇。十七、ホームヘルパー制度充実。十八、グループホームの普及。十九、バリアフリーの都市計画。この一番から十九番の環境の中でいわゆる男女共同参画型社会をつくり上げたというふうに言えるかと思います。  北欧の政治学者、私がお話しするのはほとんどが政治学者なんですが、政治学者と話をするとき、どれが一番大きな突破口になったでしょうかと言うと、ほとんどの人がやっぱり二番と四番を挙げます。四百五十日間の出産育児休暇、そして手厚い所得保障が、安心して出産育児と労働が両立可能な環境に自分たちはいるんだという安心感を与えているということ。それと手近に非常に多様な保育所が準備されている。そのために安心して育児と労働が両立できるというふうに答える人が多いと思います。  あと教育環境からいうと、十三、十四、十五というのは非常に重要な意味を持っております。これは平均寿命が延びたにもかかわらず、女性は労働の場を出産育児のたびごとに一度一時的に退出するわけですから、若いときに学んだ学問がもう一度再就職するときに使い物にならないときに、その精神的な不安を解消するために生涯学習環境を整備して、職場と家庭と大学というもの、教育機関を何度も往復できるような環境につくった、これはこれからの日本の教育制度を考えるときの一つの重要な視点の一つになるんだろうと思いますが、十三、十四、十五があります。  そして、十三ページにはそうした環境を生み出した背景、理由について書いておきました。  この中で一番重要な問題は何かというと、理由の六、労働環境の整備、とりわけ短時間労働、長期の有給休暇と完全消化、雇用安定法、そして出産育児休暇制度、そして幼児を持つ親の労働時間選択制度、そして最後に組織内情報共有化と書いておきましたが、この組織内の情報共有化ということをやらないとなかなか勤労者が年休をとれない。自分がいないと会社が困るというためになかなか休暇をとれないために、北欧諸国は組織内情報共有というのを非常に進めておりまして、会社を休んでも周りがファイルナンバーを見れば十分ピンチヒッターになれるという状況を持っています。  これはもともと情報公開が非常に激しく展開された国で、世界で最初に出版の自由法が制定されたのが実に一七六六年、日本の江戸時代の中期にはもう既に出版の自由法を世界で最初に法文化した珍しい国なんですが、その伝統があるために情報公開が非常に進んでいる国なんです。社会も情報公開が進んでいるように組織内情報公開も非常に進んでおりまして、情報を共有化することによって勤労者が比較的簡単に年休をとれる、私がいなくてもだれかが対応できるという状態をつくっていった。これは非常に重要なことだろうと思います。  そして、私自身は少し自分なりにこういう対応があるというのがあるんですが、ちょうど時間でございますので、一段落ここでさせていただきたいと思います。  以上です。
  15. 久保亘

    会長久保亘君) ありがとうございました。  以上で参考人意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑は午後四時ごろをめどとさせていただきます。質疑を希望される方は、挙手の上、会長指名を待って質疑を行うようお願いいたします。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  16. 日下部禧代子

    日下部禧代子君 きょうは両先生、本当にありがとうございました。非常に短い時間の中で、しかも簡潔によくわかるようにおっしゃっていただきましてありがとうございました。  ところで、まず最初に両先生にお伺いしたいのでございますが、今フランス少子化対策、そしてスウェーデン少子化対策というのを伺いました。非常に共通の発想がございますが、また同時に違いがあるようにも私は受けとめました。  したがいまして、まず最初上村先生には、スウェーデン少子化対策に対する発想の違いというようなものがございましたらお聞かせいただきたい。  そして岡沢先生には、フランスとこの辺が違うのではないか、それにつけ加えて、自分なりの対応がある、今最後に時間がないのでとおっしゃいましたので、その御自分なりの対応というのをお加えくださいましてお聞かせいただければと存じます。
  17. 上村政彦

    参考人上村政彦君) 大変難しいお話でございますが、率直に、日ごろも感じていることでありますけれども、スウェーデンというような北欧の国々とヨーロッパ大陸の暖かいところのフランスの場合、そういう国と国との間の違いというのがいろんなところで同じような形でもってあらわれてくるんだなというふうに感じます。  フランスの場合は、政策対応というのがどちらかというと工業化が進んだ労使関係にまず目が向けられる。それに対して北欧などの場合は、地域的な対応策というか、そういうものが積み上げられていくという気がするわけです。  ですから、例えば健康保険、私が社会保障論の中で勉強いたしますと、健康保険などでは、フランスの場合は雇用労働者健康保険、ドイツもそうでありますけれども、ビスマルクの労働者疾病保険、そういう形で始まり、職域的なものから国民的なものへという方向が出てくるんです。  今、私はそういう職域的なものというのは職域社会の連帯というか、そういう職域社会の連帯として形成されたものが国民的連帯へ転化しつつある時期じゃないかと思います。それは、あたかもスウェーデンなどの北欧の場合と同じように地域的な対応策国民的な対応策へと広がっていく、そういうところで過程の違い、出発点の違いはあるけれども、結果的には同じ方向を向いているのかなと、いつもそういうふうに思っているところであります。  御質問にまともに答えたことになるかわかりませんけれども、以上です。
  18. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) フランススウェーデン家族政策の決定的な違いが一つあるんです。  その一つは、フランスはどうしても家族支援政策に非常にウエートが多いんです。スウェーデンは、どちらかというと女性の労働支援という視点で政策を固めていこうという傾向が強うございます。だから、スウェーデン家族政策というのは、家族政策の中でも特に女性の労働支援、どうすれば女性育児出産と家事と労働を両立できるだろうかという視点で政策対応していく労働支援策としての福祉政策が強うございまして、フランスはどちらかというと家族支援という視点が非常に強うございます。これは日ごろ感じていることであります。  あと続けて少しお話しさせていただきたいと思うんですが、今先生の御指摘がございましたように、スウェーデンは非常に分権が進んでいる国でございます。国と県と市という三層構造でやっているのは日本と同じなんですが、実はその三層構造の中で役割が非常にはっきりしておりまして、国の役割は国独自の固有の領域、防衛であるとか外交であるとかという形で限定されますが、県の領域というのは実は医療に限定されているんです。県の業務というのはほとんどが医療なんです。そして、福祉は一番下の地方自治体、コミューンというんですが、市に当たるもの。  だから、スウェーデンにおきましては病院はすべて原則として県立病院なんです。医療機関は県立、そして福祉は自治体、そしてそれ以外の大きな機能は全部国。日本は、国立病院をつくって、県立病院をつくって、市立病院をつくる。だから、その三つに恵まれている人は非常に医療上有利なのに、それがないところは非常に不利ということ。どこに住んでも同じ行政サービスが受けられるように病院は全部県立というふうにしています。そして、国の仕事、自治体の仕事、自治体の仕事は主に福祉をベースとしてやっていくという形で三層構造になっています。つまり、市民生活のできるだけ近いところに市民生活に関連のある権限はおろした方がよろしいという発想で非常に地方自治の強い伝統がございます。これが大きな特徴だろうと思います。  それと、日本にとってどういうふうな政策対応が可能なのだろうかということをよく考えるんですけれども、先ほど少しお話ししたかもしれませんが、私は当面の政策対応としては六つ七つ提言できると思うんです。これは、あくまでも最初に少子高齢化を経験し、男女共同参画型社会を経験した国を背景にしてこういう提案がありますよというふうにお聞きくださればありがたいと思うんです。  一つは、やっぱり労働時間の短縮だろうと思います。  お手元の十一ページをおあけ願いたいと思いますが、日本の労働時間が平均すると現在千八百八十九時間で、スウェーデンが千五百五十二時間、ドイツがその上の千五百六十時間なんです。日本もこの数年、労働時間の短縮に非常にウエートを置いて政策的には進めてきたんですけれども、やはりまだ非常に長い国になっていると思います。そして、まだ残業やサービス残業というのが厳然としてある。なかなか五時になっても職場を出られないという状態です。  北欧は、これを短時間労働にする、残業をできるだけなくす、そして、当然のことながら賃金を抑圧するという形にしたんです。つまり、一九六〇年に経済が非常に好調だったとき、当時は一クローナが大体七十五円ぐらいでありました。恐らく世界でも最も強い通貨の一つだったと思います。そのままいくとスウェーデン企業は国際競争力を失うのではないか、そしてスウェーデン企業が海外に逃げるのではないかという不安感がありました。  そのときに、これ以上の賃上げはスウェーデン企業の国際競争力をそぐかもしれない、かといって市民の欲望は充実しているし、福祉の費用も少子高齢化が進んでいるから膨張する、どういう政策対応があるのだろうかという議論をしたときに、一人の給料そのものはそれほど上がらないけれども、もう一つ別の財布を持ったらどうだろうかと。そして、一人当たりの労働時間は短く、一人当たりの所得は少ないかもしれないけれども、夫婦を合わせた労働時間は長く、夫婦を合わせた合計所得は大きく、一世帯当たり二人の納税者がいるという状況をつくっていったらある程度福祉の整備と企業の国際競争力が維持できるのではないかという、社会全体である意味でのワークシェアリングを進めていったわけです。  それが現状になって千五百五十二時間。大体日本に比べると三百三十時間ぐらい労働時間が短い。三百三十時間労働時間が短いというのは、一日八時間、週四十時間労働に直したらやっぱり相当な期間なんです。  そして、そこに女性社会参画するようになったということと、五時になると自宅に帰れるので男性育児過程に参加できるようになった。そして、男性がかなりの程度育児過程に参加することによって、一方的に女性に背負わされていた育児の心理的な負担からある程度解き放されるということで、子供を産み育てることの精神的な負担男性がある程度肩がわりすることによって解消していくという形をとっていったというふうに言えるかと思います。  労働時間の短縮ということと年休消化率を引き上げるという、社会全体でのワークシェアリングがそういう背景にあったということが一つだと思います。  もう一つは、労働環境の整備の中でも出産育児休暇制度充実だろうと思います。  先ほども述べておきましたけれども、せめて最初の三百六十日間の所得保障水準を二五%からもっと大幅に引き上げる必要があるということが一つ。  あと一つは、何度とっても歓迎されるムードを職場でつくらないと、一人目はまあまあいいんだけれども、二人目、三人目というと何となくとりにくいという状態だと少子化政策対応にはならないということになると私は思います。出産育児による労働市場からの一時退出を何度経験しても職場は温かく迎えてくれるんだという雰囲気を職場、労働市場全体がつくっていかないと、なかなか出生率の向上にはつながっていかないだろう。  そして、第三番目の政策対応としては、やはり保育所と幼稚園の充実。もう少し幼稚園、保育所の開園時間に多様性があっていい、そして開設場所にもっと多様性があっていいと私自身は思います。安心して子供を任す、預けることができる保育所や幼稚園がもっと手軽に利用できたら、もう少し女性は安心して働けるし、育児との両立も可能になる、相当心理的にも和らぐと私自身は思います。  そして、四番目は家庭政策充実なんです。その場合には、先ほどこれも言いましたが、児童手当充実させるということと子持ち家庭への住宅補助の充実ということが非常に重要なことだろうと思います。  日本の場合、もう少し子供が欲しいんだけれども家が狭くてねという理由になっておりますが、子供がふえるごとに大きな家に住める、そしてその分だけは住宅補助が出るんだ、そのかわり、逆に子供が十八歳になって家を出たらその大きな家にはなかなか住み続けられないという形をとっています。だから、生涯を通じて小さな家、大きな家、小さな家というふうに移動しているというのが大体北欧の家庭生活だと見ていいと思います。  そして、五番目の問題としては、妊娠から出産過程でかかる費用、経費というものをもう少し軽減する必要があると私自身は思います。  私は、去年の暮れからことしの二月にかけて、私の知り合いの女性がたまたまスウェーデン日本子供を産むことがあったんですが、それをずっと細かくメモしてくださいねと頼んでいたんです。片方は日本の国籍を持つ日本の人で、日本出産した人です。もう一人は、日本の国籍を持ってスウェーデンで生活している人。そこで非常に違いがわかったのが二つありました。  一つは、日本はレントゲン検査が非常に頻繁だったということがスウェーデンとは違うなということがありました。  そしてもう一つは、検査のたびにかなりの費用がかかったのが日本で、日本国籍のままスウェーデンで生活している日本人はほとんど費用がかかりませんでした。私が行っても国籍のことはほとんど問題になりませんでしたと言われたのにはやはりちょっと違和感を感じまして、乳幼児に対する政策は随分違うなと。病院に行くたびに検査の費用がかかる国と国籍を問わずほぼただでやってくれる国の政策対応の違いというのは非常に大きくて、ちょっと驚いた記憶があります。それがたまたま同時期で、私の近しい人だったものですから、両方に細かいメモを書いてくださいねと言っていたら驚いた結果が出たのを覚えております。  そして、六番目の政策対応というのは、やっぱりライフスタイルの変容に対する意識改革というのがどうしても必要だろう。恋愛や結婚スタイルが非常に多様化しているんですけれども、この問題についてなかなか世の中自身が新しい対応ができないでいるというのがやっぱりあろうかと思います。  そして八番目、これは非常に重要なことだと思うんですが、二ページ目に書いておきましたけれども、伝統的な大家族主義というのが少子化によって非常に核家族化している。  今、日本の平均世帯規模というのは二・七九人なんです。西暦二〇一〇年には二・五五人になろうとしています。東京都と横浜市では、一人のみ世帯と夫婦のみ世帯が全世帯の過半数という状態になっている。全国平均でも一世帯規模が二・七九という時代ですから、我々の世代のように合計特殊出生率が四とか五とか六の時代ではないんです。だから、明らかに規模は小さくなり、そして分散しているという状況にある。  そうすると、二ページの一番から十三番にまとめてみたんですけれども、この一番から十三番目の伝統的な大家族が演じてきた社会的機能のどれを国が、どれを自治体が、どれを企業が、どれを組合が、どれを協同組合が、どれを各種団体が、そしてどれを地域社会が部分的に肩がわりしていくのかという議論をしていかないと、一つ家族を構成するメンバー数がこれだけ小さくなっているのに、相も変わらず昔の大家族主義の機能をそのまま演じよと命ずるということは非常に難しくなっていくだろう。伝統的な大家族の時代に家族が演じていた社会機能のどれをどの機関が代替していくのかということをそろそろ真剣に考えていかないと難しくなっていく。それがとりわけ女性の方にしわ寄せがいくと、ますます女性は未来に対して明るい展望を持てないかもしれないというふうな危惧の念を持ちます。  最後なんですが、これは決定的に重要なことの一つだと思うんですが、やはり政策決定過程に女性が参加するということをもうちょっと急いだ方が私はいいと思う。  私は比較政治学という学問をやっている者ですけれども、世界で選挙政治をやっている国がこれだけあるんですけれども、やはり非常に変則的だと思います。意思決定過程にこれだけ女性がいない国は珍しいんです。これは皆さんが一番御存じだと思うんです。  ただ、日本は多くの先進工業国と違って女性男性の平均寿命の差が六歳あるんです。スウェーデンは大体三歳ぐらいなんです。日本は六歳ある。将来、西暦二〇五〇年には女性の平均寿命と男性の平均寿命の差が七・〇四歳になると予想されている。ということは、日本は平均寿命が飛躍的に伸びているんですが、とりわけ女性の平均寿命が伸びているんです。  このまま行くと、一八九一年から九八年、女性男性の平均寿命の差が一・五歳だったのが、今は六歳になり、将来は七・〇四歳になるということは、少なくとも総人口でも有権者でも女性が過半数を占め、そして女性男性の数でいうと女性の方が圧倒的に多くなる時代が今からずっと続いていくにもかかわらず、意思決定過程にいるのは国も県も市町村も企業も組合も圧倒的に男性だというような状況ではなかなかこうした政策対応が難しくなるなという気はいたします。とりわけ介護の問題であるとか育児の問題というときの政策対応については非常に難しくなっていくなという気はいたします。  逆に言うと、皆さんのお手元のレジュメでいいますと十六ページ、十七ページ、十八ページあたりにまとめてきたことなんですが、十六ページの官報資料版でいいますと、一番上の図が日本、真ん中がスウェーデン、そして一番下がフランスなんです。どちらかというと日本フランスは似通った形状なんですが、スウェーデンはかなり圧倒的な違いで意思決定過程に女性が参加しているということだと思います。  そして十七ページ、これが現在の性別での議員数なんですが、今スウェーデンで国会議員は女性が四二・七%、最近の数字だと四三・三%であります。そして、県会議員で四八・二%、コミューン会議員で四一・六%。その次の十八ページ、これは大臣ですが、二十名のうち十名が女性、二人に一人が女性。非常に女性の意思決定過程への参画が激しい国であることは事実なんです。  こういう社会構造というのは、実はそれほど時間がかかってできたわけではなくて、ほんの最近までスウェーデンというのはやはり多くの工業国が考えているのとほぼ同じような問題に悩んでいたんです。ただ、多くの国々より先に少子高齢化を経験したときに、この問題をクリアするためにどういうふうに問題を解決した方がいいのかといったときに、やはり介護の社会化と育児社会化というところで一つの先鞭をつけて、そして非常に多くの税金を取る国になっていった。  税金の話をしておく必要があると思うんですけれども、一九六〇年に四・二%の間接税を導入しまして、その六年後の一九六六年に一〇%になり、一九九〇年に二五%になる。今、間接税が二五%の国というのは日本とデンマークなんです。ノルウェーが二三、フィンランドが二二なんですが、これは非常に高うございます。  女性社会参画が進んだのは、実は間接税が導入されたころ、それが特に一〇%を超えるころから飛躍的に伸びた。それまではそれほどでもなかったというのも、税金と女性社会参加という点では一つ相関関係があると指摘できるかと思います。  以上です。
  19. 長谷川道郎

    長谷川道郎君 自民党の長谷川でございます。  両先生、大変ありがとうございました。  上村先生に三点まとめてお伺いさせていただきます。  フランスの場合、拠出者の間で、児童手当少子化対策の間でずれがあるという認識があるというお話がございました。そのずれというのは、効果がないからというずれなのか、それともシステムが悪いからというずれなのか、その点、どういう意味でのずれか。例えば日本の場合だと、日本はずれでさえ議論にならないような状況ですので、フランスでそこら辺のずれがどういう状況、どういう意味であるのかという点がまず第一点。  それから、先ほどの事業主負担とそれから自営者の負担でありますが、五・四%と私は記憶しておるんですが、事業主が被雇用者の賃金の五・四%を家族手当で拠出するという、かなり高率の税外負担企業者が強いられているというか負担をしておるわけでありますが、この負担の率が高率であるということに対してフランスでは企業の不満がないのかという点が第二点。  それから第三点、先ほど先生、ちょっと私が聞き漏らしたのかもわかりませんが、児童手当給付を受ける側は扶養する子供が二歳になるまでは職業につけないという規定が今度何か廃止をされたのか、されるとかというお話がございました。いかにもフランス的な制度だと思うんです。日本で児童手当給付を希望する女性は職業についてはいけないなどと言えばもう間違いなく袋だたきに遭うと思うのでありますが、こういう制度ができたというフランスの何か背景があるかどうか、この三点についてお伺いいたします。
  20. 上村政彦

    参考人上村政彦君) 私の説明が余り明確でないところがあって御質問のようなことが出るのかなと思いましたが、ずれといいますのは、少し話をはしょったものですから正確さが欠けたかと思います。  私が申しましたのは、家族給付制度歴史を考えてみると、その一つの時期に、一九四五年に社会保障計画というのがフランスにでき上がって、その中にいわば今日の視点からいえば社会保障理念のもとに家族給付制度が、社会保険とか労災補償とか、そういうものと一緒に統一的に位置づけられたわけなんです。  ところが、その社会保障というのは、簡単に言えば人間的生活を実現できるような所得保障というところに力点があると思うわけですけれども、そういう考え方で幾つかの部門を社会保障のもとに統合する、そういうことが行われたわけでありますが、その中の一つとして家族給付制度が取り入れられたわけです。  したがって、例えば社会保障法典、法典化されますけれども、法典の第一条を見ると、社会保障の範囲というのは社会保険とか、労災補償とか、それから家族給付制度を含むと。家族給付制度については、家族の養育費、子供についての養育負担社会的に解消するものである、そういう形で社会保障の中に統合されたわけでありますが、少子化対策あるいは家族政策としての側面、これがどうしても家族給付制度の中に残っているために、同じ社会保障の中に取り入れられたとしても、他の社会保険とか労災補償とは違った側面が残ってきて、そこに何というか、ある家族給付制度の独自性と言ってもよろしいわけですが、それと対応するような他の部門と比べてずれが生じた、そういうふうにお話をしたかったわけであります。  それから事業主負担につきましては、五・四〇%というのは確かにおっしゃるとおりで今の保険料率でございます。しかしながら、五・四五の前には実は七%というのがありまして、これが九一年二月一日まで続いて、そしてその時点で五・四〇%になりました。その前はもっともっと、一三%とか。ですからそういう意味では、五・四〇%というのは三分の一近い、三分の一までは行きませんけれども、かなり低くなったわけですね。その低くなった分、足りない分といいましょうかマイナス分、例えば七%から五・四%、一・六〇%分をどうしたかというと、それを先ほどお話ししました今度新しくできたところの総合福祉拠出金制度で賄うことにしたわけです。  このやり方はこれからもさらに続くんではないかと私は考えておりますけれども、つまり家族給付制度の財源システムというものを今までのような企業負担、そういうやり方ではなくして、国民負担的な方向をとっていくんではないかというふうに考えるわけであります。  方向としてはそういう方向であるわけでありますが、お尋ねのこの点についての企業の不満といいましょうか、これは保険料率が下がった分むしろ喜んでいる。それを国民一般が所得税に近い税金で賄うような形になるわけです。これは今のジョスパン内閣の、つまり社会党の党首を首班とする内閣の特殊な政策の方向ということになるかと思うと、そうでもないように思います。これは前の政権時代から続いている政策でありますので、これからも続くんではないかと思っております。つまり、その分だけ一般国民が余計負担をしなくちゃいけない、今まで所得税を払っていた人たちが余分に総合福祉拠出金を払わなくちゃいけなくなるということで、むしろ不満が出るとすれば一般国民ということになるわけであります。  それから、三番目の点は家族給付の受給要件、特に家族手当の受給要件を備えた者につきまして、何らかの職業活動をしているということが受給の条件になっていたわけであります。それがやっぱり今までは雇い主の家族給付制度についての費用負担制度と結びついていたように私は思うわけでありますけれども、そういう要件が解除されまして、特別に職業活動をしていない者についても家族給付制度給付が行われるようになって、その限りにおいてこれまでよりも一般化が進んだということが言えるんではないかというふうに思っております。  もっと詳しいお話をしなくちゃいけないんですけれども、一般化といういきなり言葉を持ってきて、どんなものか非常に不親切な説明でありますけれども、家族給付の場合、一般化は二段階に分かれておりまして、戦前の一九三九年にできました家族法典で第一段階の一般化が実現されました。それは、つまり工業国としてのフランスで、労使関係の場から始まった家族給付制度というのが、実は労使関係の労働者側ではなくして、雇い主側にも家族給付制度適用されるようになると同時に、あるいは町の自営業主や工場主等にも家族給付制度適用が広がるようになりました。その段階を第一次の一般化と言ってよろしいかと思いますが、第二次の一般化が今実現しようとしているわけです。  その一般化の説明の中で、フランスの場合は、今まで要件とされていた何らかの職業活動というのが外されて、ほとんどのフランス人が所定の要件を満たす限り家族給付の受給資格を取得できるということになった。そういうことをお話ししたかったわけであります。  大体以上でございます。
  21. 堀利和

    ○堀利和君 上村先生、岡沢先生、本当にきょうはお忙しいところをありがとうございました。大変参考になるお話を聞きながら、一、二お伺いしたいと思います。  まず、両先生にお伺いしたいわけですが、数年前までは、我が国は高齢社会高齢化対策という言い方をし、またそこに力を入れてきたわけですけれども、もちろん言うまでもなく今や一六%の高齢化率ですからこれは大変なんですが、それでも数年前から少子化対策、つまり高齢化社会というには必ずそこには少子高齢社会、少子高齢化対策ということで、ようやくそういう認識に立って政策も進められてきたわけです。  上村先生のお話の中でも、フランス家族給付の変遷を見る中で、労使関係、いわゆる労働政策という中から始まって、出生率アップに傾いたり、今や一般政策という形になってきたわけですけれども、その変遷の中でも、やはり出生率をどう上げていくかという目的が見える中で、家族給付が不鮮明といいますか混在しているようなあり方になっているというお話。あるいは岡沢先生のお話にも、明確に出生率を上げると意図した政策と、いわば少子社会を前提にした社会のありよう、経済のありよう、こんなお話もあったわけですけれども、現実に我が国は少子高齢社会、これはもう避けられない。人口問題を見ても避けられないことは言うまでもありません。  そういう意味で、我が国の二十一世紀を見通したときに、出生率を上げる方に対策として力を入れるべきなのか、あるいはもはや少子高齢社会そのものについては、当面といいますか二十一世紀は変えようがないので、これをある程度前提にして早急の対策を組むべきなのかということだと思うんです。もちろん、これは二つにして一つの根っこではあろうとは思いますけれども、ただ政策的には優先というのがございまして、そういう意味では今の日本現状、二十一世紀を見据えたときに緊急的な、かつ必要な観点からいってどちらに力を入れるべきなのかというのを両先生にお聞きしたいと思います。  それから二つ目に、上村先生にお聞きしたいのは、家族給付制度お話を聞いてもそれなりに私なりに理解はするわけですが、なかなか実感としてわからないのは、我が国は児童手当というのがフランスに比べれば大分貧弱ではありますけれども、フランスにおける家族給付制度水準国民全体に対してどの程度のところまでカバーしているのか、その辺が日本に仮に置きかえた場合にはどの程度のどういう水準の方々にされるような状態なのか。私にわかりやすいように、つまり日本我が国の状態をわかりやすいような形でフランス給付制度のありようを説明していただければありがたいなと思います。  それから、岡沢先生に最後にひとつお伺いしたいのは、スウェーデンのある意味で大変進んだといいますか整理されたさまざまな対策が手にとるようにわかるわけですけれども、以前先生の勉強会に出させていただいたときに、今でも覚えておりますけれども、日本はパート減税とかあるいは扶養控除等、どうも税のところで逆に今後女性が自立していくのを妨げているんじゃないかという御指摘がありました。もちろん、今すぐパート減税などの扶養控除に手をつけてといえば、当然今生活している方々は困るわけですけれども、先生が言われたときには、小学生、中学生の今の女の子たちに、将来は自立していけるような、そういうやはり税方式を今から提起すべきだというふうなことを伺いまして、そんなところも含めてさまざまな休暇制度なり労働時間のあり方、これは不十分という認識でいいと思うのですが、我が国少子化対策で方向として、その方向性がどうも違うんじゃないか、少し方向が間違っているんじゃないかということがございましたら、お教え願いたいと思います。
  22. 上村政彦

    参考人上村政彦君) 私に二つ御質問がございました。  まず、第一点でありますが、おっしゃるとおり高齢化対策から少子化対策へと比重が移ってきております。しかし、例えば年金制度の改革問題一つをとってみましても、将来の高齢層のための年金をどうしていくのかという問題あるいはそういう政策は、将来の年金制度を支える将来の現役労働力、現役人口の問題をどうするのかという問題でつながっているというふうに思うわけです。したがって、例えばそういう年金問題にあらわれているようなところから、少子化対策高齢化対策というのは、やっぱり車の両輪として両方を進めていかなくちゃならないのじゃないかというふうな気がいたします。  それから、最初お話のときにポール・パイヤー先生の名前を挙げましたけれども、このパイヤー先生の本が日本語に翻訳されておりまして、これは小さなものですが、文庫クセジュに「高齢の社会学」という名前であったかと思いますけれども、それを読みますと、人口高齢化というのは、もう御存じのとおり総人口の中に占める高齢人口割合が増加することをいうんだ、だから年齢別に見た高齢人口がだんだんとふえていく。つまり、だれもが長寿化しますから、高齢人口がふえていくということによって高齢化が発生するのはもちろんのこと、少子化によって将来の現役人口あるいは社会的扶養負担を負うような人口が減ることによっても人口高齢化することになるという両面があるということを強調しておりまして、したがって、人口問題というのはその両面に政策的な光を与えていかなくちゃならないんだということを言っております。そういう問題の整理の仕方というのはそういうことであろうかなと私も思っておるところであります。  それから、二番目のフランス家族給付制度適用といいましょうか、そしてその適用の結果、どの程度水準にあるのかということでありますけれども、なかなか時間がなかったものですから丁寧に御説明できなくて申しわけなかったのであります。要するに家族給付制度というのは、フランスに居住するすべてのフランス人及び所定の要件を満たす外国人でフランスに居住する者に適用され、フランスに居住する一人または二人以上の子供養育負担を負う者、こういう者がその子供のために家族給付制度適用を受けて家族給付を受給するのだということで、こういう要件を満たした者の数が、一九九五年の時点で手当を受給する権利を有すると思われる今の要件を満たした者が約五百八十五万人、そういう制度のもとで手当を受けて利益を受けることになる子供の数が千二百三十万人ということでありまして、この数を総人口なりあるいは雇用人口なりと比べて、大体適用率ということが出てくるのじゃないかと思います。  ただ、医療保険のように、あるいは年金保険のように、医療保険の場合が一番よろしいと思うんですが、だれもが適用を受けるということではないわけですね。一人または二人以上の子供を養育する者が適用を受けるわけでありますから、制度の保護を受けるわけでありますから、保護の適用率というのは医療保険の場合の、つまり国民皆保険の場合の適用率一〇〇%とは医療保険とは違うということになるわけであります。  大体そういうことでよろしいでしょうか。
  23. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) 私に与えられた御質問なんですけれども、短期的にはともかく、長期的には少子化が進みまして、全体としての労働市場というのは労働力不足という問題を抱えることになるだろう。これはもう現在のように合計特殊出生率が一・三八ぐらいのレベルで推移していけばますます生産労働人口が減っていくということは、長期的にはまず当てはまるだろう。これは一九六〇年代の北欧で議論してきたことと全く同じなんです。  長期的なトレンドとして、生産労働人口が減るということを前にして余り政策の選択余地はないんです。選択できる枝というのは五つぐらいありまして、一つは、長期的に見て生産労働人口が減る場合、それに対応できる政策選択肢の一は、合計特殊出生率を引き上げるという方法が一つ。第二番目の選択肢は、労働市場を開放して外国人労働力を導入するという方法。そして第三の選択肢は、国内に存在する潜在的な労働力に社会参画の道を開く、これは女性社会参画を進める。四番目は、今働いている人にもっと働いてもらう、つまり定年年齢と年金受給開始年齢をもっと引き上げるという方法。そして五番目の方法は、経済システムの規模そのものを小さくしてしまうという、この五つぐらいしか選択肢はない。  ところが、実際には五番目の選択肢というのはないわけですね。例えば日本で言うと、西暦二〇二五年には合計三千三百十二万の高齢者が生まれる。西暦二〇五〇年には合計三千二百四十五万の高齢者が誕生する。人口をダウンサイジングするといったってその部分は変わらないわけですから、そこを、変えられない部分をおいて人口が減るということはもうウルトラ級の高齢化社会になっていくというわけですから、選択肢の五というのは採用できないだろう。  選択肢の四、年金受給年齢と定年年齢を引き上げるといったって、これは既得権の問題がありますから、今まで六十五歳になったらゴールに入れると思って一生懸命働いていた人が、君たちの世代からあと二周だと言われてもなかなか国民的合意は得られそうにない。やはりある一定の既得権がある以上、それほど多くまで引き上げることはできない。  政策選択肢の一、合計特殊出生率を引き上げる、先ほど少子化対策を優先するという選択肢も理論としては可能なんですが、この政策効果が出るのが一世代か二世代後なんです。そうすると、どうもこれは選択肢としてはそれほど優先順位は高くない。ほかの選択肢をやりながら並行してそれが進めば、一世代後か二世代後に政策効果が出るという政策領域ですから、政策効果が出るまでにかかる時間数が、合計特殊出生率を引き上げるという選択肢の場合は効果が出るまでかなり時間がかかるわけですから、結局スウェーデンなんかでもとった選択肢は二つだったんです。  一つは、労働市場を開放して外国人労働力を引き受けて生産労働人口を確保するというやり方。先ほど調査団の御報告がありましたけれども、現在総人口の大体一〇%から一五%が在住外国人であるというぐらいになりました。これが一つの方法だったんです。もう一つは、女性社会参画を促進していくという形だったんです。その二番目の選択肢と三番目の選択肢をやりながら、結果として一番、女性子供を産んでもいいんだという希望を持ったとき、それは一時的に合計特殊出生率が上がった年もあるし下がった年もあるという感じなんです。だから、主軸に置いた政策の選択肢としては二番と三番、そして長期的に見て一番というふうに採用したと考えているんです。  そうすると、在住外国人の生活環境をどう整備するかという問題と、女性社会参画をどう整備するかということに非常に大きな重点を置いたんですが、特に後者の場合、先ほど先生の御指摘がありましたように、十三ページにも書いておきましたけれども、ここで理由の五ということを書きました。女性社会参加するようにワークシェアリングをして労働市場にすき間をつくり、そこに女性社会参加した。そして現在、労働市場の四八%が女性なんです。  どれぐらいの女性社会参画しているかというところはページの十四番に図表をつくっておきました。左の一番上が日本です。日本とほぼ同じような曲線を描く国が韓国だと思います。そして、左側の行の一番下がノルウェー、その上がスウェーデンです。この二つが同じような曲線を描いています。男女とも逆U字曲線を描いています。日本男性が逆U字曲線を描きながら、女性はM字曲線を描くという形をとっています。そして、アメリカ、カナダ、ドイツフランスは大体どちらかというと男性が逆U字曲線、そして女性もM字曲線のボトムの部分を徐々に引き上げているという中間形態になっているかと思うんです。  ノルウェーだとかスウェーデンというのは、そういう状況になったときに最後に歯どめをかけたのが五番だったんです。社会を変えてから最後に税金制度で歯どめをかけていくというシステムをとったんです。その税制というのは一九七一年に変わりまして、所得税が夫婦合算方式から個人別納税方式になって、すべての成人男女経済的に独立した単位であるということを前提として社会システムが構築されるようになった。そして、今では大体小学生も中学生も、将来自分たちは少子高齢化の中できっと社会参画して働くということが前提になって、どのような形で労働と出産育児と家事というものが男女で両立できるか、そういう社会はどうなのかということを準備しているというふうに考えた方がいいかと思います。  だから、制度としての選択肢というのは基本的には五つあるように見えるんですが、実際には二つか三つしかなくて、それを遂行している過程でたまたま合計特殊出生率が上がった年もあるし、また去年のように下がった年もあるというふうに考えた方がいいのではないか。そして、一般的なトレンドの中で、そのトレンドを定着させるために税金制度で歯どめをかけている、そういう国だなというふうに考えます。  以上です。
  24. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 両先生、御苦労さまでございます。  まず、岡沢先生にちょっとお伺いしたいと思うんですが、労働時間の短縮と出生率関係、それと外国人労働力の問題ですね、この関連で、この前スウェーデンに行きましたら、結局いろいろ少子化対策をやっているけれども、スウェーデン女性はなかなか子供を産みたがらない、今、百四十万人ほど外国人労働力がある、それでそちらに期待するというような発言も実はございました。  それで、ベルリンの方も今大変な建設ラッシュなんですけれども、例えばそれぞれの先進諸国が労働時間を短縮して、日本の場合も、ちょうど私が労働政務次官のときに労働基準法の改正で、十年かかって、当時二千百時間ぐらいだったんです、それが千八百時間台に落ちてきていますね。それで、ドイツの場合ももう五時になったらドイツ人は全部仕事をやめちゃうわけです。それで外国人労働力にカバーされているという状況なんです。だから、現実に労働時間を短縮しているヨーロッパ諸国外国人労働力に頼っているという部分があります。  それと、労働時間を短縮することがそれだけ出生率に大きな影響がある程度、それはめちゃくちゃ働いたらどうにもなりませんけれども、その辺の関係をどういうふうに考えたらいいのかなということをまず一点お伺いいたしたいと思います。  それともう一つ、婚外子の一般化ということをおっしゃいましたが、これはやっぱり出生率にある程度効いてくる問題なんでしょうか。その二つを岡沢先生にちょっとお伺いしたいと思います。  それから、上村先生の方には、いわゆる家族給付先ほどの御説明ですと三兆円ですね。人口日本の場合は倍ぐらいですから、六兆円もそういう対応をしないとどうにもならない状態なのか。今六百兆も国、地方が借金している状態で大変な金額になるわけです。  それで、調査会報告には載っておりませんけれども、実はフランスの国会議員さん方と意見交換したときに、女性の国会議員さんがこういう発言をしておられたんです。開発途上国の大変高い出生率を例に挙げて、やっぱり豊かになってくると人間は男女ともにエゴイストになると。だから、なかなかこれだけの予算をやっても十分な効果というのは難しいということを言外に言われたんだろうというふうに私は理解したんですが、こういう状況という、そういう受け取り方というものがあるんでしょうか。  その辺について、日本は具体的な少子化対策、現在のところほとんど児童手当、これは企業負担がありますから国から出しているのは何百億円ぐらいだと思います。それと、この前の補正予算で二千億円ですか、少子化対策に特別なあれを組みました。今まではその程度のものです。これから新たにこれだけの膨大な費用をかけるということは非常に大変なことですし、財源等についても十分考えた上での提言をしていかなきゃいかぬだろうと思うんですが、先ほど申し上げたような国会議員さんの発言というものを背景的にどういうふうに我々は受け取ったらいいのかなということについて、先生の方からお考えがあればちょっとお示しをいただきたいというふうに思います。  以上です。
  25. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) 労働時間の短縮と出生率の間に明白な論理的な関係があるかどうかということなんですが、これは明確な論理関係はないでしょう。また、もっと多くの変数が組み込まれて結果としてそうなるという話にはなると思います。  ただ言えることは、労働時間を短縮して残業がない、年休消化率が上がるということは、少なくとも男性育児過程、家事過程に参加できる可能性はふやすということ、そして女性社会参加の確率を高めるだろうということだけは言えると思います。そうしたら現状社会に対する満足度はもう少し高くなっていくだろうということだけは言えると思う。今の不満が解消できるからそれが自動的に出生率の向上に引き上がるかどうかというその次のステージの関係はわからない。だけれども、少なくとも不満の解消にはなるだろうと言えると思います。  あと一つの婚外子の一般化の問題なんですけれども、これも婚外子を社会が容認することによって、今ちょっと皆さんのお手元に配りましたページでいいますと八ページです、これは北欧が比較的高いんですが、スウェーデンが婚外子の比率が五三・九%、日本が一・四%という数字が出ています。  結局、スウェーデンの場合には、婚外子が高くなるから出生率が高くなるというそういう議論ではなくて、生まれてくる生命というものは、親の法的関係がどうであれ一つの未来の世代になるんだという発想で格差をなくして育てようという発想なんです。だから、少なくとも産むことを抑制するハードルは突破できるということです。つまり、世間体というものがあるからやめようというハードルは少なくとも取り払える。つまり、生まれてくる子供の二人に一人は婚外子という社会ですから、それが精神的なハードルになって産むのをやめようという気持ちだけはクリアできますから、それは生まれてくる可能性はある。そこまでは言えます。  だから、法的に婚外子をきちっと一般化したらそれでどうのこうのという、そこの明確な論理関係を証明しろというと非常に難しいんですが、それによって産むことをやめようというためらいのハードルを取ることだけは確実だというふうには言えると思います。
  26. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 外国人労働力がスウェーデンの場合も百四十万人ほど入っておられるというようなことですが、ドイツもかなり厳しいんですね。これなんかはどういうふうに考えたらいいんでしょうか。日本が例えば将来少子化が進んでいって労働力が足りなくなったらアジアに幾らでもあるわけですから、市場が。
  27. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) 先ほど私がお話するときにちょっと御紹介したんですが、ほんの少し前までスウェーデンはヨーロッパで一番貧しい農業国家と言われました。総人口の四人に一人が海外に移民した国です。  スウェーデンで有名なフレーズが一つあります。移民を送り出す国から移民を受け入れる国へ。かつてこの国は国民の四人に一人を海外に移民として送らねばならないほど貧しい国だった。だけれども、ついに我々は移民を受け入れる国になったんだというので、経済成長と福祉・工業国家としての繁栄を表現する方法として、フロム・ウトヴァンドリング・ティル・インヴァンドリングという言葉があります。移民を送り出す国から移民を受け入れる国にという、それは長期的な、国家的な歴史から見ると、かつて自分たちの膨大な国民を海外が受け入れてくれたんだと。とするならば、ある一定の経済水準に達した国がそれを求めて来る労働者を受け入れることは、自分たちがかつて送り出したことを考えると妥当だという判断で現在のようになっているんだろうと思います。  その問題は、先ほどから御質問がありますけれども、もともと移民を送り出す国だったから、急に移民を受け入れる国になったために環境整備と法の整備が非常に大変だったということは想像にかたくないと思います。一九六〇年ぐらいから在住外国人のための環境整備に膨大な投資をし、また知恵と工夫を出しております。これはまた改めた場所で時間をじっくりかけて御紹介させていただければと思いますけれども、これはやっぱり圧倒的だと思います。  私どもの世代も一九六〇年代に初めてシベリア鉄道経由で北欧に行って、そのときに我々が受けたサービスというのはやっぱり圧倒的でした。だから、労働市場を開放し外国人労働力を受けるということは、そのためにどれだけの準備が必要かということもやはりある程度情報を得て整備してからやらないと、なし崩し的にただ単に受け入れて、そしてそこで大きな不満が出るというシステムは余りよくないとは私は思います。
  28. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 上村先生にフランスの話をちょっと。
  29. 上村政彦

    参考人上村政彦君) 三兆円という金額について、そういう少子化対策というのは今の日本ではとても考えられないというお話でございましたけれども、その点について若干の数字を申し上げたいと思います。  大体、家族給付というのはどの程度給付水準といいますか、手当なり給付の額がどの程度なのかということ、これは資料の中に含めておりますからそれをごらんいただければよろしいんですが、一番代表的な家族手当、この家族手当の額が第二子から支払われます。その第二子に対して、つまり子供二人のときに六百七十八・五九フラン、三人のときに千五百四十八・二二フラン、これを日本円に単純に換算すると、子供二人のときには月に一万三千五百七十円、三人のときは三万七百六十四円というふうになって、こういう給付対象になる子供の数が千二百三十万人いる。大体労働力人口が二千万人ぐらいなんです。総人口五千八百五十万人でありましたでしょうか、二千万人ぐらいの労働力人口、それよりもちょっと少ない受給者となる子供の数が千二百三十万人いる。そうすると、大体その程度給付額を受給する児童の数が今申しました千二百三十万人だとすると、この予算総額が大体日本円に直したとき三兆円ぐらいになるんだと。  そういう数字的な背景があるわけでありますが、考えてみますと、こういう家族給付制度が成立して、百年までは参りませんけれども、一九三二年でございますからもう百年近い歴史があるわけで、その間にもはやこういう制度社会的にビルトインされているというか、今から始めていこうとする日本の場合とはそれはやっぱり事情が違うと言わなければならないと思います。しかしながら、単に比較にならないというわけじゃなくて、将来うまく設計されていけばこれぐらいの費用がかかるんだという目安にはなるというふうに思っております。
  30. 松岡滿壽男

    松岡滿壽男君 ありがとうございました。
  31. 松村龍二

    松村龍二君 岡沢先生にお伺いしたいんですが、このたび介護保険が始まるという段階に今なっておりますが、ある与党の政策責任者がちょっと待ったをかけまして、現在のような介護保険をやるとスウェーデンのような核家族社会を目指すことになる、公的介護を受けない、子供が面倒を見ている家庭に対してはお見舞い金を出して日本の美風を残さんといかぬ、こういうことをおっしゃいまして、なるほどそうだなという共感を与えた部分と、何かちょっと違うことを言っているんじゃないかといった点とあったと思うんですが、私もスウェーデン社会、北欧のそういう核家族社会を知らないもので、先生、率直にあの騒ぎをごらんになっていてどういうふうなお感じを持たれたかお聞かせいただきたい。  それと、一点に絞った方が本当はよかったかもしれませんが、現在、日本子供の教育が乱れているということが言われておりまして、小学校低学年で学級崩壊とかいうふうなことでてんで秩序がないというようなことを言われるんですが、これはゼロ歳児保育とか、小さいときから保育所に行っていて親の愛等に飢えていて、それで甘えて、小学校低学年で教室を歩き回るとか、そんなことがあるというテレビ番組もありますし、そういう少子化の問題と子供の教育のレベル、あるいはしつけと関係があるのかないのか。  フランスの場合は先ほど非常に長い時間かけてなってきたというのでちょっと違うかと思うんですが、スウェーデンの場合に関しまして、子供の教育の問題と少子化の問題についてお話をお聞かせいただければと思います。
  32. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) 介護保険の一連の問題に関して子供による家族介護の問題というのがあるんですが、これは歴史的な政策の基線をどの時点に置くかということだろうと思うんです。  つまり、家族による介護が可能であった世代というのと、それが不可能になる世代というのは確実にあるわけです。つまり、私どもの世代と我々の上の世代というのはそれが可能でした。それは何かというと、三つの前提がありました。平均寿命がそれほど長くなかった。二番目、医学がそれほど進歩していなかったし、延命措置がそんなに発達していなかった。そして三つ目、子供の数が非常に多かったということでございます。だから、多くの子供がそれほど平均寿命の長くない親の世代をローテーションを組んで介護するということも非常に可能な時代でありました。  ところが、今進行している現象というのは、平均寿命が飛躍的に延びています。そして、これからもますます延びようとしている。医学が進歩し、さまざまな医学的な技術が投入されていくだろう。そして三番目に、子供の数が合計特殊出生率一・三八が示唆しているように、ますます核家族化していくだろう。つまり、もしか介護という事態になれば、かつてならある一定の期間、平均すると四年か五年で一段落したかもしれませんが、非常に今は平均寿命が延びて長期化する可能性がある。そして、子供の数が減っていますから、一人の子供が複数の人間を時期的にずらしながらずっと介護の世界に入っていく可能性がある。  その意味では、子供の数が多くて、そして平均寿命がそれほど長くなかったときにはいわば短期的な単層型の介護システムで可能だったんでしょうが、これからはかなり長期化し重層化してくる可能性がある。  とすると、政策をどの辺の基点、ベースにした政策対応をしていくかというと、西暦二〇二五年、例えば合計三千三百十二万の高齢者が生まれ、そして約五百二十万の要介護高齢者が生まれるなんという事態のことを政策対応の基線として考えると、そのときの家族の規模とか平均寿命の延びとか考えると、そしてまたどの程度の医学が進歩しているかということを考えると非常に難しくなっていくだろうなということは確実に想像できると思うんです。  だから、かつて北欧もやっぱりそうでございまして、かつては大家族主義の中で、家族の中で介護をしていました。ところが、北欧というのは、日本男女とも世界で一番平均寿命が長い国になる前では大体ノルウェーかスウェーデンが世界で一番平均寿命の長い国でしたから、非常に平均寿命の長い国として有名でした。そして、医学が進歩し、そして、先ほど言いましたように、一九三〇年代に早くも少子化が発達した、進んだ。それで結局、最終的には少子化というよりも長男長女社会になっていった。そして、徐々に平均寿命が長く、介護する子供の数が減っていって、これはもうある一定レベルで少子化高齢化が進んだら家族介護はかなり難しくなる、これをどうクリアするかというところで考えたのが介護の社会化という戦略だろうと思うんです。  だから、現時点で可能かもしれないという政策と西暦二〇二五年の高齢化のピークを射程距離に置いた政策なのかということと、やはりその辺は、長期的な政策対応ということと短期的な当面の政策対応というのをどういうふうに考えていくかだろうと思うんです。だから、その辺を余り類推をして今可能だから西暦二〇二五年前後も可能だと考えるには、そのころの核家族とか少子化の進展が余りにも急速過ぎますからちょっと難しくなるんじゃないか。その辺は、どの辺を時点にした政策対応で考えていくかという問題だろうと私は思います。  あと一つ少子化による教育の問題。これは私、非常に難しい問題で、幼児教育の専門家ではありませんので、余り軽々に簡単なことは言えないと思うんです。  かつて、例えば私どもが子供がたくさんいる世代に育ったというのは、社会の基本的なルールというのは多くの兄弟の間からまず最初に学び、そして町内会の数多くの餓鬼連中から社会的な規範とかルールというのは学んでいったという気はします。そういう点から考えると、家庭内でもなかなか子供同士で社会のルールを学ぶ機会はなくなったし、町内会でなかなか学ぶ機会がなくなったということが、恐らく今までとは違う幼児期の文化が育っていくんだろうなということは想像がつくんです。ただ、だから将来はどうなのかというとちょっとわかりにくいというのが本音です。やはり個々の子供の事例によって随分違うとは思うんです。  一歩先に少子化を迎えたスウェーデンでは教育の場が広いかというとそうでもないわけでして、そしてもちろん、ではうまくいっているかというとうまくいっていない事例もいっぱいあるわけですから、やっぱり個々の事例というのは相当大きなばらつきがある。  ただ、伝統的な大家族主義の中で最初のルール、社会的なルールとか規範を学んだのは多くの兄弟や町内会の子供たちだったなというのがあるんですが、そういう社会的集団がなくなったということが幼児期の教育とか精神形成に対してどういう影響を与えていくかということは、今の段階ではまだ結果が出ていないからわからないという気はいたします。
  33. 畑野君枝

    畑野君枝君 日本共産党の畑野君枝でございます。  上村先生、岡沢先生、きょうは本当にありがとうございます。  私も調査団の一人としてフランススウェーデンを初め伺ってまいりました。しかし、本当に短い時間でしたので、その一端をうかがい知るということでございまして、長い期間にわたって研究をされているお二人の先生のお話を伺って、大変きょうは参考にさせていただきました。  それで、私、何点かお二人の先生に共通してお伺いしたいというふうに思います。  一つは、女性の労働参加と男性育児・家事参加の問題が共通してお話しされました。この点では、労働者保護あるいは女性の労働者を保護する、そして男性も含めて保護していくという点で時間短縮、ワークシェアリングのお話もございました。フランスでも週三十五時間労働制に法律が決まって多くの企業では既に移行をしているというお話もございますし、スウェーデンでも有休を完全消化するということなど充実しているというお話なんです。日本でこれを具体的に進めていく際、サービス残業をなくすというお話もございましたが、雇用側にとりましてやはりこうしなくてはいけないんだというふうに思えるような経営上あるいは社会的、国際的な問題、どういう点がフランススウェーデンでは受け入れる要素になっていったのかという点を雇用の側から少し伺いたいというふうに思います。  それから、二つ目の問題ですけれども、若年層、青年対策について少し伺いたいと思います。  子供の自立というお話がありまして、それは教育あるいは職業訓練、就職の際にも進められているというお話などもありましたけれども、たしか両国とも十八歳の選挙権ということで、政治参加といいますか、そういう意識も違うのかなというふうに思います。それは国としてそういうふうに青年たちに自立を求めていくという政策のように思われましたが、そういう点、実際日本と比べてどのように違うのかということを伺いたいと思います。  それから、三点目に住宅政策お話がございました。  これは日本でも特に都市部の場合は大きな障害の一つになっているんですが、具体的な金額も含めてどのようなことがされているのかということなどをもし今の時点でわかればあれですし、何かそういう資料という点であれば御示唆いただければと、その三点でございます。  今いろいろ皆さんの中でも、例えば先進国の違いとかというのがありまして、エゴイストの話もございましたが、やはり民主主義が進んでいく中で、それぞれの自己決定というのがずっと進む中で、子供を産むというのは女性にとりましてはもう難事業でございまして、そういう点を含めて意識が変わってきているんじゃないかなという問題もございます。  それから、私、パリで学校を見せていただきましたけれども、やはり少人数学級などを含めて、日本では暴力に対処するには少ない人数で、子供たちに大きな声ではなく小さな声でしゃべるようにしたらどうだなんというアドバイスをいただくような、それぞれ諸問題を抱えながらその国々がいろいろな工夫をされているというふうに思ったんです。ちょっと話がそれましたが、以上の三点を含めて、そうしたお国柄なども踏まえながらお話しいただければというふうに思います。
  34. 上村政彦

    参考人上村政彦君) 御質問にお答えできるかどうかわからないんですけれども、三点のうちの一つ女性の労働参加を雇用の側からどう感じ、見ているのかということでございましょうか。  一般的なお話でありますけれども、私どもが思っているほどフランス社会というのは民主化されていないというか、かなり保守的な要素が強いわけです。この前たまたま年金額の計算をしたいと思いまして、平均的な女性の賃金とか雇用期間とか雇用年数というものを見ましたけれども、やっぱり日本と同じような数値だなと。男女と比べたときの女性の平均的賃金水準なり平均的雇用年数、つまり年金制度への加入期間の年数でございます、意外に日本と余り変わらないんだなと、そういう印象を持っているわけであります。それは、本当の一般的な印象についてであります。  それから、二番目の若年層対策の問題でございますけれども、これはもういわゆる今の当面の課題というのは失業対策でございます。一般的には失業率一一%というような数字が出ておりますけれども、若年層、特に新しく大学等を出た若年層の失業率は二五%だと言っておりますし、四人に一人は仕事がないという状況でありますし、場合によっては大学卒ということを資格を偽って働かなくてはならないとか、非常に厳しい状況でありますから、雇用をどう確保するかということが今のフランスの若年層対策は第一の課題ではなかろうかというふうに思います。  それから、住宅手当お話でございますが、フランス家族給付制度の中に住宅手当というのがございます。ただ、かなり住宅手当はほかの手当と比べると違っているといいましょうか、少し特殊なところを持っておりまして、もちろん要件としては子供を養育しているとか、あるいはそれがゆえに家族給付のどれかを受けているということが前提的な条件になっていて、あと衛生的な施設を持った家に住んでいるとか、あるいは所得との関係で見たときに適切な額の家賃を出して住まわっているとか、そういうことが要件になって住宅手当が支給されることになっているわけでありますけれども、その細かな数字的なことは今ちょっとここに持ってきておりません。  ただ、住宅手当というのは二つありまして、一つは通常の家族給付部門の一つとしての住宅手当と、もう一つ社会福祉分野に属する問題で社会的に恵まれない人たちのための住宅手当社会住宅手当といいましょうか、家族住宅手当社会住宅手当というのがありまして、そちらの方は一般人たち対象とするものではなくして、やっぱりそういう特定の階層の人たち対象とするものであって、私はそれは別系統だろうと思っております、通常の家族手当と比べて。それを一緒にして論じられる方々もいらっしゃるようでありますが、これは質的に違うものではないかというふうに考えております。  住宅手当はそういう家族給付制度の中でいうと特異な存在で、端っこの方に存在する給付なものですから、日ごろから私自身も、あるいは私が知っている専門家の方々も余り研究されておらない分野であります。ですから、数値等も余りないということになります。どうも申しわけありません。
  35. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) 女性の労働参加と男性育児参加の問題で、雇用サイドから見た意見なんですけれども、これはこういうふうに言えると思います。  一つには、男女間の賃金格差が世界で一番小さい国といえばスウェーデンだと思います。これはもう確実に統計が出ていると思います。ただし、二番目の問題です、これがやっぱりポイントだと思うんですが、女性社会参画が激しいのはパブリックセクターであって、プライベートセクターは圧倒的に男性の管理職の社会である。それは明確に峻別して考えておかないと、社会全体がプライベートセクターを含んで女性社会参画は進んでいるわけではない。つまり、公務員の世界は圧倒的に女性の職場になり、そしてそこの管理職は圧倒的に女性で、だから恐らく視察団が行かれたときにも、対応して説明された管理職の人はほとんどが女性だったと思います。  ところが、今度は、プライベートセクターは資本の論理が非常に大きく支配をしておりますので、どうしても従来型の男性優位の職場がずっと続いております。女性管理職は圧倒的にプライベートセクターでは生まれておりませんで、圧倒的にパブリックセクターで生まれている。  今、男女機会均等オンブズマンが非常に大きなウエートを置いているのは、いかにしてパブリックセクターである程度進歩した女性社会参画をプライベートセクターでどのような形で実現するか。ただ、ここら辺については、今度は資本の論理と企業の国際競争力の論理がありますので、プライベートセクターのライバルは他国の企業ですから、その他国の、国際的なビジネス市場とのすり合わせの中でしか進んでいかないという状態になっています。だから、今進んでいるのはパブリックセクターであって、プライベートセクターでの女性社会参加や管理職登用は今からの問題だというふうに言っていいかと思います。ただ、先ほども言いましたけれども、男女間賃金格差は世界でも一番少ない国の一つだということは指摘できるかと思います。  それとあと第二番目の若年、青年層の問題なんですが、若い人たちの自立教育というのは相当激しいです。はっきりしています。これほど離婚率が高く、何といいますか、事実婚が激しい国でございますので、若いときから確実に自立した精神力と経済力を確保しないと大変だということで、その自立教育は日本とはかなり違います。こう言えば比較的わかりやすいと思うんですが、スウェーデンでは十八歳で選挙権も被選挙権も与えられます。そして、十八歳の地方議員ももう何名か出ております。そういう意味では非常に早いです。政治的に参加するのは早いです。  それとともに、成人に達して親と同居している子供は原則として家賃も払えば食費も払うし、多くの場合は、成人に達すれば積極的に子供たちが進んで独立して別のファミリーを形成したいという意欲は非常に強いです。それは日本の親子関係とは随分違う風景だということは御理解願えるかと思います。  そして、次に、ただこういう問題が出てくるんです、青年層の問題で。これから女性社会参加しようとするときの問題として一つのハードルになっているのは、教育の選択ミスという問題が今出ているんです。つまり、皆さんのお手元にこの資料が出ていると思うんですが、この資料の五十五ページと五十六ページに書いてありますが、やはり女性が集まりやすい職場と男性が集まりやすい職場というのはあるんです。それは結局、高等教育を受けるときに女性がその時点で得意な科目の学科を選んでしまう。そのために、特定の学部は女子学生がいっぱい集中するのに、伝統的に男子学生が多い学部はなかなか女性が進出しない。  企業の論理からいうと、工学や経済学や法律を勉強した人を採りたい。ところが、女性はどちらかというと外国語学部であるとか教育学部であるとか文学部に集中する傾向がある。そこで、企業サイドからいうと、採りたいんだけれども専門が違うから採りにくいというそういう問題で高等教育へのアクセスの選択ミスをどのような形で指導していくかということを考えていかないと、将来の職業選択と連結した学科選択、学部選択ということが重要な意味を持ってきているというふうに今は関心が集中しています。教育の問題はそういうふうに移動しているということであります。  それと、第三番目の住宅手当の問題なんですけれども、実はスウェーデン福祉政策というのは持続可能性ということを、もしくは継続性ということを非常に重視しますので、好景気のときと不景気のときには微調整しながら景気に対応できるような形をとる傾向があります。だから、今お話しする数字は永遠にその数字じゃないと思っていただきたい。三年後に視察団が行けば違う数字を聞いてくるという、それぐらい変化の激しい、持続可能性こそが福祉の基線という考えがありますので、景気の上下によって随分変わるということです。  現在、スウェーデン経済は非常に好調でございますから、児童手当もよくて、児童手当を見ますと、一般児童手当対象が次のカテゴリーになります。スウェーデンに居住する児童で北欧の国籍を持つ児童。条件は、スウェーデンに住民登録していることもしくは北欧以外の国籍を持つ児童で、この場合条件は、本人あるいは親がスウェーデンに六カ月以上居住していることを対象にして、満十六歳になった四半期まで児童手当が支給されます。  こういうことだけを聞くとすごいなと思うんですが、そして受取人は児童の保護者でありまして、一九九九年の実績では児童一人につき年九千クローナ、月に七百五十クローナです。これに多子加算がふえまして、第一子、第二子までは年九千クローナなんですが、第三子にはそれにプラス二千四百クローナを追加して合計一万一千四百クローナ、第四子は基礎の九千クローナに七千二百クローナが追加されて一万六千二百クローナ、第五子には基礎の九千クローナに九千クローナを追加して合計一万八千クローナが支給されます。これを例にとりまして、万一子供が五人いたとしますと、九千プラス九千プラス一万一千四百プラス一万六千二百プラス一万八千で合計六万三千六百クローナ児童手当として給付されます。  大体平均的な給与生活者の年収が二十万クローナから二十一万クローナでございますので、その数字と比較するとかなりの金額になると思います。  ちなみに、職業別にどれぐらいの給与水準なのかといいますと、総理大臣が九十九万六千クローナ、大臣が八十万四千クローナ、国会議員が四十三万二千クローナです。これが額面です。それに大体五六%ぐらいの税金がありますから、それの半額。それに十四掛けるわけです。そして、残ったお金で物を買うたびに二五%の間接税を払うという社会です。そのお金が回り回って今述べたように、もしくは四人か五人子供を持っていると児童手当がそれぐらい出る。  それプラス、スウェーデンでは住宅手当子供の数によって決まります。原則として子供の数と部屋の大きさ、そして家賃、この三つの変数で住宅補助が決まりまして、子供の数が一人のときには六百クローナ、二人のときには九百クローナ、三人以上で千二百クローナ、プラス一人の子供のときには可能な限り八十平米のところ、二人のときには百平米、三人のときには百二十平米、四人のときには百四十平米、五人以上のときには百六十平米以内の建物を補助の対象にしていくと。そして、その家賃のうち、補償水準額が決まりまして、子供が一人のときには三千クローナ、二人のときには三千三百クローナ、三人のときには三千六百クローナ、四人のときには三千九百クローナ、五人以上は四千二百クローナ。そして、支給割合は、住居費によって決まるんですが、千八百クローナ未満の家賃のときには支給額はなし、千八百クローナから二千六百クローナの家賃を支払っている人については七五%の資金補充、そして二千六百クローナから三千六百クローナのときには五〇%の住宅補助となっております。  だから、数字を具体的に見ますと、それに掛ける十四円ですから、日本円で見ると非常に小さいように見えますけれども、実際には、平均的な給与生活者の年間所得が二十万から二十一万クローナだというふうに、それから類推していただけるとかなり大きな金額でありまして、実はここがスウェーデン家族制度の大きな特徴だと思うんです。  親子関係のコミュニケーションというのは非常に頻繁なんです。多くの場合、日本ではこの辺がよく誤解されるんですけれども、精神的なきずなというのは非常に濃密でありまして、親子関係が、特に男の親と子供の会話する頻度は多くの国に比べると圧倒的に多いと思います。これは日本で北欧の家族というとよく誤解されることなんですけれども、別居をし、それぞれが意外と無関心でいるようでコミュニケーションは本当に頻繁であります。それはただ単に親が高齢者センターに入ったときに訪れる頻度が高いとかというものではなくて、科学技術を利用して非常に親子間で常に対話の機会を持つ。特に男親と子供の接触度が非常に高いというのが特徴的だと思います。そして、それをサポートするように比較的児童手当も濃密で、今述べましたように、五人子供のときには百六十平米までとかというように、日本の住宅事情を考えるとかなりぜいたくなところまで補助金を出しているということが一つの大きな特徴だろうと私は思います。  ただ、これも今経済がいいときの話ですから、悪くなったときにはそれがまた景気に応じて減額されていくということです。持続可能性ということが非常に重要な要素を持っているということです。だから、何年後か行ったときには違う数字をお聞きになられると思います。
  36. 久保亘

    会長久保亘君) 約束の時間が近づいておりますが、清水さん、沢さんから質疑の希望がございます。  お二人で終わりにしたいと思いますが、よろしゅうございますか。
  37. 清水澄子

    清水澄子君 どうもありがとうございました。  もうほとんど皆さんたちの御質問でいろいろ聞きたかったことは重なっているのでそこは外します。  そして、結局、今後どういう政策が必要かという意味では、非常に日本参考にしなければならないシナリオはたくさんお話しいただいたわけなんですが、それらを日本でどう実現するかというのは今度私たちの課題なんですけれども、非常に今頭を悩ませています。これらはやっぱり日本の中では意識の改革が非常に重要になってくるだろう。日本家族観、それから女性観、それから労働観、そういう点が最もおくれているということ、これは今お話しいただいた政策はほとんど皆女性たちが求めている政策であり、それを実現したいという要求は非常に強いんですけれども、日本ではなかなかそれが進まないという状況があるんです。  それはちょっと置きまして、私も実はずっとヨーロッパへ行ってきまして感じましたけれども、皆さんは、スウェーデンでもオランダでもどこの国も、みんな自分たちは二十一世紀はそういう意味で非常に柔軟な労働、男も女ももっと短い時間で働きやすい労働と、家庭生活や育児や介護や地域生活ができるというそういう社会保障制度をつくっていくんだという目的を、明確にビジョンを持っていました。  今、上村先生からも今までの社会保障制度とは違う、だれかが何らかの職業生活をしている者にそういう要件で今までつくられていた社会保障じゃなくて、今後生きる力を持つ自立しようとする人々への支援という社会保障政策を全面的に今変えているんだということを言われて、いろんな具体例を私も聞いてきたんですが、福祉国家を目指すということを言っておられたわけです。  そこで、私はちょっとぜひお聞きしたいのは、その場合、特にそういう政策を決定していくときのシステムというんでしょうか、政策決定の主体、もちろん女性が参加を非常によくしているんですが、ここには使用者側もそれへの決定には参加していると思うんです、労働組合も、政府も。そういう中で、どういう日本とは違う政策決定のシステムといいますか、それとその市民の意見がどういうふうにここに反映されていくのかというところについてちょっとポイントだけで結構です。  そして、さらにその柔軟な働き方、労働というのは、もうほとんど今スウェーデンは四十時間でしたけれども、オランダでも、例えばオランダは週三十八時間でした。週三十八時間といったら日本のパート労働より短いわけですから、もうこれからはそういう短い時間で社会生活なり家庭生活を担うというそういう方向性、そういう点についてどういうことが今変わろうとしているかということについてお聞かせください。  そして、もう一つだけ。日本人口一億三千万人というのは少ないのか、これを維持しなきゃならないのか。どの点の人口数が最も、私たちはこれを減る減ると言っているんですが、どの辺が本当ならばバランスがとれるのかという点についてお聞かせください。  以上です。
  38. 上村政彦

    参考人上村政彦君) 政策決定のシステムということで御質問でございますけれども、そういう政策決定の場になるかどうかわかりませんが、フランス的な特色というものが社会保障政策決定なりあるいは運営のシステムといいますか、これが日本と全然違うというところを一つ取り上げさせていただきたいと思います。  医療保険にしましても年金にしましても家族給付制度にしましても、その制度をどうやって運営していくのかということは、すべて当事者たちの自治に任されている。フランスでは自主管理の思想なんという言葉が使われまして、これは哲学的な意味も持っているそうですが、自主管理というのが非常に現実にも進んでいるし、社会保障という場合にはその中に自主管理の仕組みが組み込まれている。  したがって、具体的に申し上げますと例えば社会保障金庫制度とか家族手当金庫制度というようなものの中に、関係当事者である労使の代表であるとか地域の代表であるとか公益の代表であるとか、そういう人たちが集まって社会保障の運営についての基本方針が決まっていくわけです。社会保障に自主管理のやり方が取り入れられているということで、これはほかの国、ヨーロッパの国もそうであるわけですが、どうしても私ども日本人はお上意識が強くて、社会保障というようなものはすべてお上がやるものだというそういう意識が強いんですけれども、その点が全く違うということをいつも感じております。  ただし、最近制度が若干変わりつつありまして、毎年の社会保障予算というのは各国それぞれ自主的に決めていたんですけれども、赤字問題が出始めまして、それに国庫負担が導入されます。その関係から自主的な予算案が国会に出されなくちゃならなくなった。そういうことで、国の干渉が赤字問題ということを通じて強くなりつつある。そこのところが、赤字をいいことにしてどうも中央政府は当事者の社会保障に文句をつけたいのではないか、そう勘ぐられるような節もあるぐらいであります。その辺は今後どうなるのか。  社会保障予算法という法律ができまして、毎年次年度の社会保障収支については今までは自分たちで決めてよかったんですけれども、二、三年前から必ず議会にその予算法案を提出して議会の承認を得なくちゃならなくなったということで、状況が少し変わってきているなと思っております。  そのお話をして責めをふさぎたいと思います。
  39. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) デシジョンメーキングの問題なんですが、これはスウェーデンで一九九八年の選挙で非常に大きな衝撃が起こりまして、投票率が大幅にダウンした。これはスウェーデン・デモクラシーとしては非常に危機だと言われまして、投票率が八一%になったわけです。日本から考えるとうんと多い数字なんですが、それまで八六とか九〇近かった投票率が八一になってダウン。  それはなぜかというと、それほど高負担なんです。間接税だけで二五%払っている国民にとっては、参加型デモクラシーということが基盤であって、投票率が下がるということはやっぱりデモクラシーそのものの危機ということだろうと思うんです。ただ、伝統的に言うと高かったんです。八六%から九〇%近くの投票率を維持できた。そのために、逆に言うとさまざまな苦労をしてきたんです、制度的な。  スウェーデンの意思決定過程はかなりユニークです。先ほど御紹介しましたが、選挙権年齢も被選挙権年齢も十八歳です。郵便投票制が非常に盛んです。全国にあるすべての郵便局は投票所になります。そして投票期間が長期的に設定されています。もう実際の投票日の二週間少し前から投票が始まっている。全国どこにいても投票できますし、スウェーデンの公館があるどこの国でも投票できるようになっています。だから、日本にいるスウェーデン人はここで投票しているという形です。そして、どこにいても投票できる、投票期間を長期に設定している、そして投票所を非常に数多くつくっている、そして郵便投票を採用しているという形で投票率が非常に高い。  つまり、参加をさせるということをベースにしないと市民が納得できないぐらい税率が高い国だというふうに考えればいい。そしてその高い税分だけ代価として払って参加型デモクラシーをつくっているんだと考えれば非常にわかりやすいかと思います。参加のためのメカニズム、特に国民が納得しないようではああいう高負担国家は無理だということを前提にしているので、制度的な整備水準は非常に高うございます。  そして、二番目なんですが、労働生活の柔軟性に対してどういうふうに対応しているのかということですが、今のスウェーデンというのは非常に興味深いと思うんです。一九六〇年代、七〇年代の北欧を見たら、日本との格差があり過ぎて、もう余り行っても参考にならなかったんです、すごいな、すごいなと言うだけで。ところが、EUに加盟して、スウェーデン企業が国際競争力を維持できなければ福祉の財源もなくなるんだと。つまり、経済成長と福祉の財源捻出というバランスの中で高負担福祉政策をどう追求していくかという課題に直面していますから、もう本当に試行錯誤なんです。ほんの少し前まで叫ばれ続けたことが一気に制度としてフェードアウトしていったりその逆であったり、数字がどんどん変わっていったりという非常に興味深いときだろうと思うんです。  そして、そういうときに一つ対応をしている。それでも継続性が維持できるのは、日本でパートタイムというと何となくフルタイムと違うようなイメージでとられがちなんですが、スウェーデンの場合にはパートタイムでもそのまま社会保障福祉対象としてカウント計算されますし、そしてそれぞれ自分がどの程度年金をもらえるか、どの程度の保険のポイントを持っているかというのが非常にわかりやすくなっているんです。これが、職場をかえても、そしてフルタイムとパートタイムを横断しても継続的に自分の働いた過去がポイントとしてわかるようになっているということが労働市場の流動化に対応しているというふうに言えると思います。  だから、これからもますますEU加盟後のスウェーデン企業というのは、国際競争力を維持しながら福祉政策を維持するということで非常に多くの試行錯誤をやるんでしょうけれども、その中である程度の継続性を持てるというのは、今述べたように、一人一人がきちっと過去にやった労働のポイント、それがどれだけ年金にはね返り保険にはね返るかということがわかるようになっているというのは非常に大きな強みになっているというふうに言えると思います。  それとあと、日本スウェーデンが非常によく似ているのは両方ともがテクノロジーの国だということです。最新のテクノロジー開発国という点ではスウェーデン日本は非常によく似ておりますので、私自身は、日本は問題解決までにそれほど時間はかからない、問題がどこにあるかということの発見と認識までには時間がかかるけれども、実際、問題がどこにあるかということがわかったら問題解決は非常に短期間にやる国だろうというふうに思います。また、それを可能にするような大胆な発想の転換とか科学技術のすばらしい成長力を持っているわけですから、私自身はそのテクノロジーをどのような形で労働生活に組み込んでいくのかということが非常に大きな課題になっていくんだと思います。  それは、少子高齢化という実態が進めば進むほど、従来型経営慣行とか労働慣行だけでは対応できないということはもうわかってくると思うんです。そのときの突破口というのは、やっぱり発想の転換と科学技術の導入で何とか対応していくんではないかというふうに考えております。  そして、人口規模がどの規模でバランスをとれるのかということについてはもうだれも予想できないことだと思います。ただ、言えることは、先ほど言いました、どの人口規模になろうと、西暦二〇二五年には三千三百十二万の高齢者が存在し、西暦二〇五〇年には三千二百四十五万の高齢者がいるんですから、その数だけは変わらないとしたら、そのことを前提にして高齢者の福祉をどう維持しながら少子化政策を推進していくかということを、もう先ほどから繰り返されておりますワンセットの問題としてやっぱり考えておく必要は常にあるというふうに私自身は思います。  以上です。
  40. 沢たまき

    沢たまき君 もう時間が過ぎました。本当に両先生ありがとうございました。  いろいろと伺ったんですけれども、岡沢先生にちょっと伺いたいんですが、初めて北欧のツーリストを体験してショックという中で、スウェーデン家族特徴の婚外子の一般化、それで四番目の養子縁組の簡素化、いろいろ伺いました。先生のお話を聞いているとすごくスウェーデンはバラ色に見えるのでございますけれども、日本は少子高齢化対策をするについても日本らしい文化の基盤があると思うのでございますが、ついついまねをする癖のある日本としては、文化的に見て、スウェーデンでは成功したけれども日本ではどうかなと思われるようなところを、それからまた、上村先生にも、私はフランスお話を伺っていて、さすがフランスだなという感じがしたのでございますが、文化的に見て、このところは日本にはどうかなと思うことがございましたら実例を挙げて何点かお示しいただければと思っております。
  41. 岡沢憲芙

    参考人岡沢憲芙君) ただいま御指摘ありましたけれども、スウェーデンは今苦悩の時期でございまして、一九六〇年代、七〇年代はかなりバラ色だったなという気がいたします。  これは何かというと、第二次大戦のときにスウェーデンは中立を維持することに成功しましたので、多くの工業国家が戦後復興にかかったときに、スウェーデンは生産財を提供できる数少ない工業国家でありました。そのために一九六〇年代、七〇年代は、それこそ世界じゅうから研究者が集まるぐらい福祉先進国として進んでいた。それが六〇年代、七〇年代です。  だから、多くの人たちスウェーデンイメージというと、その六〇年代、七〇年代のイメージでずっと語っているんですが、国際秩序が安定し、そして徐々にかつての工業国家が戦後復興をなし遂げて国際市場に参加するようになってから、今度は苦悩がずっと始まったんです。そして、その苦悩の原因は成功例の裏返しなんです。高負担政策が今度はかなり大きなハードルになってきた。そして、特に決定的になったのは、EUに加盟してからそれをどう変えていくのかということで今ちょうど苦悩している。  先ほど私申しましたけれども、一九九〇年代の後半に北欧社会を見るというのは非常に興味深い。というのは、六〇年代、七〇年代だとちょっと追いつかないかなというイメージがあったんですが、今なら大いに情報を相互が交換できるなというふうに私は思います。  それと、あと福祉政策とか家族政策の中でそれぞれの国の文化的な伝統とか背景とか考えたら、どれが可能かどうかという議論というのは非常に難しいんです。というのは、恐らく二十世紀初頭、全人口の四人に一人を海外に移民させざるを得なかった時代のスウェーデンの政治家は、恐らく今のような状態を考えていなかったと思うんです。そして、やっぱりほんの少し前まではスウェーデンも、多くの国々と一緒に大家族主義の中で、今社会の自治体や企業や組合やさまざまな団体が肩がわりしている機能を昔の大家族時代のスウェーデン家族は演じていたんです。そして、それが少子高齢化という極端な形で直撃されたときに徐々に定着していった段階だと私自身は思います。  だから、どの部分が残りどの部分が残らないだろうかとか、そしてほかの国はちょっとこの問題はというのは、なかなか導入しにくいだろうとかというのはあると思うんですが、私自身はどれは無理だろうと言うのは難しいとは思うんですが、どれは考えた方がいいんではないかということは言えると思うんです。  それは、やはり自立教育を急いだ方がいいということだけはまず言えるだろう。そして、労働環境を整備するということに対してはもう少し力を入れて進めた方がいい。やはり日本の場合、少し長時間労働過ぎるんではないか。時短というのは前川レポート以来国際公約ですので、これはやっぱり急いで進めた方がいい。そして、労働生活と、もう一度労働後の余暇生活に対して、もう少し価値観をシフトして、家族の団らんであるとか親子とのコミュニケーションというものが非常に大きな価値を持つ社会だというようなものに価値観を少しシフトした方がいいということだけはある程度学習できるんじゃないか。  その他の離婚率が高くなるだどうのこうのというのは、恐らくこれは現象の方が追いかけてくるかなという気はします。  以上です。
  42. 上村政彦

    参考人上村政彦君) 私も適切な何かいい事例があればよろしいんですが。  ただいまお話がございましたように、その国その国の国民性であるとか、あるいは一般的な考え方、文化の程度経済成長の程度等によってそれぞれに違いがあるわけであります。フランスの場合は、日本と比べると、私今までフランスで生活をしたりなんかしておりまして、その上で感じたことは、やっぱりフランスドイツもそうでありますが、工業化を通じて近代化、近代化を経て今日に至っているその経路といいましょうか、その経路というのは非常に似ていて、私は感心するといいましょうか、余りにも同じだなと思ってびっくりしたことがあります。  それは、フランスの中央山塊という山地があるんですけれども、その小さな村にある方から連れていっていただきまして、そしてその村の人たちと話をする機会を得たことがあったんです。その村の人たちの中に、ある老婆となかなかわかりにくい言葉で話をする機会があったわけですが、あなたは日ごろの生活の中で何が一番楽しいですかと言って聞いてみたところ、子供たちが町に、工場に出かけている、その子供たちが孫を連れてきてくれる日を待って、そしてその日が来るのが一番楽しみだということを話しておりました。それはそれはもう日本人の母親と全く同じ感覚です。  そういうのが地方に行きますといっぱいあふれていて、何か親近感を感じるわけでして、そういう中で出てくる社会的な政策、そういうようなものも共通性があるんではないかなという気がいたします。社会保障の問題もそう感じながら今までやってきております。  余りお話になりませんけれども、その程度でございます。
  43. 沢たまき

    沢たまき君 ありがとうございました。
  44. 久保亘

    会長久保亘君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  両参考人には、大変お忙しい中を本調査会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございました。  本日お述べいただきました貴重な御意見は今後の調査参考にさせていただきます。本調査会を代表して厚くお礼を申し上げます。  ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後四時十七分散会