○赤松正雄君 公明党の赤松正雄でございます。
会派公明党・
改革クラブを代表いたしまして、ただいま
議題となりましたいわゆる
拷問等禁止条約につきまして、
総理並びに関連各
大臣に
質問をいたします。
この
条約は、一九八四年、今から十五年前の
国連総会で
全会一致で採択をされ、一九八七年に発効されており、既に、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中国などを含む約百十カ国が
批准をしております。
その
内容は、公務員らが情報提供などを強要するために、肉体的または精神的に激しい苦痛を故意に加える
行為を
拷問と定義し、
国内法でこれを
禁止する
措置をとるよう求め、戦争状態や
政治不安などの緊急事態の中での
行為であっても正当化することはできないとしております。さらに、
拷問を受ける可能性のある他国への送還を
禁止しております。
また、この
条約が成立するに至るまでには、一九四八年に
世界人権宣言が
国連総会によって採択されたことを皮切りに、六六年の市民的及び
政治的権利に関する国際規約の制定、七五年の
拷問禁止宣言の採択、八四年には
拷問等禁止条約が採択され、八五年には
国連人権委員会拷問に関する特別
報告者
制度設置を
決議、そして八七年にこの
拷問等禁止条約の発効へと、長い道のりがありました。
この成立の背景には、
拷問を廃絶しようと国際的な活動を展開されてきたアムネスティを初めとする
人権団体等の努力を忘れてはならないことは言うまでもありません。
そこで、まず、最も基本的な点を
総理にお伺いいたしたいと思います。
この
拷問等禁止条約は、採択後既に約十五年も
経過をしておりますけれども、今日に至るまで、何ゆえこんなに時間がかかったのでしょうか。
政府は、
批准までに十五年かかった理由として、さまざまな場で、人種差別撤廃
条約、女子差別撤廃
条約あるいは児童の
権利条約など、他の
人権関連
条約批准を優先したためだとの点を挙げているようでありますけれども、国連、市民団体など内外から
早期批准を
我が国に求めてきていたことも考え合わせますと、それだけの
説明では不十分ではないか。国際的に通用するのかどうか、甚だ疑問であります。
どうして今ごろになってしまったのか。こんなことでは、
人権後進国との指摘を受けても仕方がないのではないか。今日までの
経過を踏まえて、
総理に明確な答弁をお願いいたします。
この問題に関連をいたしまして、もう一つ、
批准がおくれている国際人道法についてもお尋ねをいたします。
同法は、世界百八十八カ国が加入している一九四九年採択のジュネーブ四
条約と、その後の民族自決戦争、ゲリラ戦の出現などに対応するため、一九七七年に採択された二つの議定書に集大成されています。この法は、捕虜を
公衆の面前にさらすことや、民間施設、民間人を攻撃の
対象とすることを禁じています。このことからしますと、ユーゴ連邦当局が、拘束された三人の米兵を
公衆の面前に立たせたことも、NATOの攻撃が民間施設や民間人に被害を与えることも、ともに重大な国際人道法違反であります。
コソボ紛争の拡大が懸念をされる中で、国際人道法の重要性は一段と高まっていると言われます。ところが、
日本では、四九年の
条約には五三年に加入をしておりますけれども、七七年採択の二つの追加議定書の
批准はしていません。この理由は何なのか。国際人道法の遵守を担保するものは何もないとの
意見がありますけれども、そういった考え方に政府は影響されているのかどうか。
日本が主要先進国の中で際立って国際人道法に対して無関心であるとの評価は、残念だと言うほかありません。この際、この議定書
批准を進めるべきではないのか、
総理のお考えを聞かせていただきたいと存じます。
次に、具体的にこの
条約の中身に入ります。
まず、
拷問の定義についてお伺いをいたします。
第一条には三つの要件が記されており、第一には、激しい苦痛を故意に加えること、第二には、一定の目的、動機の存在が記されており、
一般的には取り調べ、強制のためといった動機であります。
拷問の
対象者は、被
拘禁者のみならず、医療施設における患者、学校の生徒なども考えられ、体罰も
拷問と考えられますが、いかがでしょう。その保護
対象の範囲をどう考えておられるのか、
外務大臣の答弁を求めます。
第三の要件としては、公務員の何らかの形での関与についてであります。
公務員だけではなく、そのほかの公的な資格で行動する人も含まれます。私人についても、公務員の同意、黙認のもとに行えば
条約上の
拷問に当たり、
拷問が行われていることを知りながらそれを防止しなかった公務員も、行った私人も処罰の
対象になるとも考えられますが、この
拷問の定義について、具体的な例を挙げた上で、
外務大臣に
説明をお願いいたしたいと存じます。
この
条約では、
拷問はいかなる状況下であっても絶対に許されてはならないとされております。たとえテロリストに対するものであっても、
拷問は全面的に
禁止だとこの
条約は定めております。また、上官や上司からの命令のものであっても、
拷問を正当化する理由にはならないとされております。逆に、下級の公務員が上官の命令に抵抗することが求められているのであります。
次に、この
条約を受けて、拘禁施設を管轄する警察庁、
法務省の態度についてお伺いをいたします。
刑事事件の被疑者の処遇について、なぜ警察施設を代用するのか、
拷問の下地にならないのかとの指摘があります。いわゆる代用監獄
制度についての問題であります。例えば、警察が容疑者を逮捕した場合、被疑者の留置、勾留の期間は、最長で二十三日間となります。容疑事実を否認する被疑者の多くは、警察の留置場、いわゆる代用監獄に置かれます。ここでは警察が被疑者を二十四時間完全に
管理できますので、拘置所では不可能な、深夜にわたる取り調べもできます。
また、この第三者の目の届かない場所で
拷問もしくはそれに類する
行為が行われ、虚偽の自白を生み、冤罪の温床となるとの批判があります。もちろん、この代用監獄
制度は被留置者の
人権尊重には十分配慮しておる、警察の迅速、適正な捜査に寄与しているといった
意見もあることは承知をいたしております。
しかしながら、この
条約の第二条に、「
拷問に当たる
行為が行われることを防止するため、立法上、行政上、
司法上その他の効果的な
措置をとる。」こととしており、その意味からも、
拷問もしくはそれに類する
行為の可能性がある限り、積極的に何らかの
措置を行わなければならないと考えます。
法務大臣並びに
国家公安委員長の答弁を求めます。
次に、拘禁施設訪問
制度新設問題についてお伺いをいたします。
これは、
拷問等禁止条約議定書の草案において、すべての拘禁場所への無条件の査察
制度を記したものであります。既にヨーロッパではこの
制度が確立されており、定期的または必要に応じて、情報が入った場合、その国のすべての拘禁施設を訪問、査察することができるとされており、効果を上げています。
この
制度を国連でも
導入しようということで、この選択議定書の成立に向け、努力をしているところでありますが、しかし、
我が国は、少数派の消極
意見に同調し、
条約成立に否定的であると伺っております。何ゆえ、この
制度について、
我が国はこういう態度をとるのでありましょうか。
拷問を廃絶、防止するのは、
政治的意思と、
拷問を起こしやすい拘禁施設への訪問
制度の確立であることは、具体的事例によって知られているとの指摘もあります。
外務大臣は、この件についてどうお考えか、答弁を求めたいと思います。
また、この
条約を
批准することは、
国際的監視制度を避けて通ることはできず、むしろ積極的に拘禁施設訪問
制度を取り入れるべきではないかと考えます。
外務大臣の答弁を求めます。
次に、
条約批准に当たっての
国内法との整合性について、今も御
質問がありましたけれども、さらに改めてお伺いをいたします。
言うまでもなく、憲法第三十六条に、「公務員による
拷問及び残虐な
刑罰は、絶対にこれを禁ずる。」と、公務員による
拷問の
禁止がうたわれており、さらに、
刑法第百九十五条には、いわゆる裁判所、検察、警察の職務の
対象となる者に対する
特別公務員暴行陵虐罪が明記されております。また、そのほか、傷害罪、
暴行罪を適用することで、
拷問に対する取り締まりは、現状では可能であります。
しかし、この
条約の第一条では、
拷問の定義について、「身体的なものであるか精神的なものであるかを問わず人に重い苦痛を故意に与える
行為であって、」と規定されており、この精神的
拷問が
我が国国内法でカバーできるのかどうか。法
改正が必要なのではないでしょうか。
法務大臣に答弁を求めます。
次に、
個人通報制度についてお伺いをいたします。
この
条約では、第二十二条に、「
締約国は、
自国の管轄の下にある
個人であっていずれかの
締約国によるこの
条約の規定の違反の被害者であると主張する者により又はその者のために行われる
通報を、
委員会が受理し及び
検討する権限を有することを認める
宣言を、いつでも行うことができる。」と記されております。いわゆる
個人による
国際機関への直訴が可能だと記されているわけであります。しかし、今回、政府はこれを
受諾しないとのことでありますが、なぜ
受諾しないのか。
外務大臣の答弁を求めます。
これまでも、
個人通報制度については、先ほども、
総理または
外務大臣が挙げておられましたけれども、
司法権の独立が侵されるおそれという点を指摘されておりますけれども、
司法権の独立と
個人通報制度は両立できないのでしょうか。
法務大臣の答弁を求めます。
次に、
締約国増大に伴う
条約機関の
審査体制の
整備についてであります。
第十七条で設置されている
拷問の
禁止に関する
委員会は十名で構成されておりますが、
締約国が百十カ国に及ぶ現在、十分に機能するのかどうか疑問であります。各
締約国から提出される
報告書の処理であるとか、
締約国内の領域における
拷問の
制度的な実行の存在を確認するための調査であるとか、そういった
審査体制は
充実しているのか、きちんと行われるのかどうか。また、
我が国は、
拷問廃絶に向け、この
条約機関に何らかの協力を考えておられるのかどうか、
外務大臣に答弁を求めます。
次に、この
条約を実効性のあるものにするためには、まず、この
条約の存在とその意義が
国民に十分に知らされなければなりません。その意味でも、国による啓蒙活動の促進をどう考えておられるのか、
外務大臣の答弁を求めます。
かつて、
我が国において治安維持法がありました。戦争の最中とはいえ、罪もなき人々が逮捕をされ、特高警察の
拷問的取り調べに遭い、中には獄死をした人もいました。戦後、半世紀も過ぎているにもかかわらず、いまだにその名残があります。憲法にも
法律にも規定されているにもかかわらず、拘禁施設内における非人道的な事件はいまだにやみません。むしろ、その監視の行き届かない閉ざされた空間で、あしき権力の魔性はきばをむいているのではないでしょうか。
そして、やっと今ごろになって、
拷問等禁止条約を
批准しましょう、しかし、
個人通報制度は
受諾しません、また選択議定書にあるような拘禁施設訪問
制度には積極的にはなれませんというのでは、やはり
我が国は、本気で
拷問を
禁止しようという立場に立っていないのではないかと考えざるを得ないのであります。
我が国は、
人権小国であってはならない、
人権大国、
人権先進国であるべきだと強く思う次第であります。そのためにも、今後、
人権をめぐる問題については、
我が国がリーダーシップをとって、世界の模範となるべきではないでしょうか。憲法において基本的
人権の尊重を掲げている
我が国は、本来であるならば、この
拷問等禁止条約の
批准に真っ先に取り組まなければならなかったのではないでしょうか。
最後に、
総理に、
拷問根絶に向けた国際的な取り組みの
推進、さらには、
人権先進国、
人権大国
日本に向けた取り組みについての決意をお伺いし、私の
質問といたします。(
拍手)
〔
内閣総理大臣小渕恵三君
登壇〕