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参考人(奥島
孝康君) 奥島でございます。
本日は、このような権威のある
皆様方の御
審議の席にお呼ばれいたしましたことを心から光栄に存じております。
私は
商法の一
専門家でありますので、この問題につきましては
時限立法ということでありまして、
経済政策的なにおいが大きな
立法ではありますけれども、私は純
法律の
立場から、この
ポイントだけを簡単にコメントさせていただきたいと思っております。
前提でございますけれども、この問題を
考えるときに私たちがまず
考えておかなければいけないのは、
株式会社法と言われる
法律の大きな全体的な
構成であります。
株式会社法というのは、現在ではあらゆる国において最も効果的な
組織形態になっておりまして、
完成度の一番高い
組織形態だというふうに言われているのは
皆様方もよく
御存じのことだと思います。
なぜそういうことになったのかというと、その秘密が
株式にあるという点についてもこの四百年の
歴史の間に次第に明らかになってきております。
株式会社四百年の
歴史の中で、
株式会社についての一番
ポイントであります大きな
仕組みというのは、簡単に言えば
株主有限責任の
原則と
資本充実の
原則と言われる
二つの
原則の組み合わせによって
株式会社法というものができ上がっているという点であります。
御存じのように、
株主は
自己の
出資した額を超えて
責任を負う必要がありませんので、したがって
社会に散在しております
遊休資本というものを集めるのが容易な
仕組みになっております。また、
株主は
株式というものによって、
権利を
株式と呼んでおりますが、これを株券という
証券に表章させることによって容易にこの
権利を譲渡することができるという
システムができておりますので、事実上、
会社という
組織の
構成員となったりそれを離脱したりすることが非常に容易にできる
仕組み、これが
株式会社をして今日の隆盛を誇らしめるような
基本的な原因であるということは既に多くの
方々が指摘しているところであります。
ところが、そういたしますと、
株式会社を舞台として、場合によりますと詐欺が横行するということになります。
事実、
歴史はその事実をたくさん示しております。なぜならば、
株主は
株式会社をつくることによって、そして
お金を集めることによって、その
お金を持ち逃げするというようなことが、
日本の
会社の
出発時点であります
明治初期のころにも新聞を毎日にぎわすような事件が続いていたわけであります。
ですから、これをそういう
株主による詐欺的な
お金集めの
手段ではなくて、どうやって
事業資金という形で本当に転化していくことができるかといいますと、それは
会社の
内部にしっかりと
資金をとどめておくという
システムをつくり上げていかなければいけません。また、そのことが、要するに最終的に
責任を持つ必要のない
株式会社において、
債権者が安心できる
保証装置といいますか、あるいは
担保というものをつくり上げることになります。これが
資本充実の
原則と言われるものであります。したがって、
株式会社制度を成り立たせているのは、この
資本充実の
原則というものが
株主有限責任の
原則というものとうまく
対応関係、バランスを保っているからであるというふうに言ってよろしいかと思います。
ところが、今回の問題というのは、
御存じのように、この
資本充実の
原則と言われるものに
基本的に
真っ向から対抗する、そういうふうな非常に大きな問題を理論的には含んでいる、こういうふうに申し上げてよろしいのではないかと思っておるわけであります。
具体的に申し上げますと、今回の
立法といいますのは
資本準備金を
財源とする
自己株式の
取得であります。
資本準備金と言われるものは、
資本充実の
原則という
会社法の
基本原則に基づいて
債権者に対する
責任財産を形成する有力な
手段として
会社法の中には定着しているわけでありまして、明らかにこれは
会社法の
基本原則にのっとった
考え方に基づいてつくられたものでありますので、これを要するに自由に
株式取得に使用していいかどうかということになりますと、それ
自体が理論的に大きな問題であるというふうに言わねばなりません。
他方、
自己株式取得というのは、本来、
言葉の上からも
自己矛盾いたしますように、いわば一種の
資本の返還であります。
会社が
株式を発行することによって
出資を得る、そしてそれを買うということは、その
出資を返還することであります。したがって、これはある
意味で隠れた
資本減少ということになりますので、
各国ではこの問題について扱う場合にはかなり慎重な
態度を持っておりますが、とりわけ
我が国の
会社法体系と言われるものはこの
自己株式取得に対して世界でも一番厳しい
態度をとっております。
これがいいか悪いかということはここで私は
議論するつもりもありませんし、その必要もないかと思われます。それは
我が国の
立法者がそういうふうに判断したからそういう
法律ができ上がっているわけでありますので、
自己株式取得を容易に認めるということは
資本充実の
原則にとって重大な脅威であるというのがこの
会社法を国会で制定している
方々の
考え方の
基本的前提になっているというふうに
考えるからであります。
そうしますと、この
資本準備金というものを用いて
自己株式を
取得するというのは、二重の
意味において明らかにこれは
会社法の
基本原則に対する挑戦を行っているというふうに
考えられる。私の話は理論的なものですからやや大げさでありますけれども、話の筋はそういうことになるのではないかということを申し上げているわけであります。
まず
資本という側面から見てまいりますと、
資本というのは
二つの
意味合いを持っております。
一つは、これは
営業活動の基礎をなすものでありまして、しっかりと
営業活動をできるだけの
財産というものを
会社内部にとどめておかなければいけないという
意味において、いわば
財産拘束機能というものを持っております。
しかし、これはそうあるべきだという
考え方でありまして、
資本というのは、具体的に形があって銀行に預けられているとか、
会社の金庫の中に入っているとか、
証券に変わってあるとかいうことではありません。要するに、計算上そういうものが
会社内部に
財産としてなければいけないという観念であります。
それに対して、
自己株式取得と言われるものは、
御存じのように
資本の払い戻してあります。ですから、この
資本準備金として
会社内部にこれだけの
財産をとっておかなければいけないといういわば
会社財産の最も中核的な
部分を
自己株式取得の
財源に充てる、つまり
出資の払い戻しに充てるということでありまして、本当は図でお示ししますとわかりやすいのでありますけれども、これは
一つの
会社財産というものがまずあるというふうに頭の中でお
考えいただきまして、その中心になるもの、これから先に使っていこうではないかという
考え方であります。
なぜならば、
資本といい、
資本準備金といい、その
本質は異ならず、
資本準備金というのは
本質は
資本であります。なぜならば、これは
出資金によって成り立っているものだからです。だから、
資本というものがあってこそ
株式会社と言われるものが成り立つわけです。
株主有限責任制度と言われるものが成り立つわけであります。
そういうものをしっかり持っておけということは、
商法の中では、それを取り崩すというのはもう
最後ですよ、
会社がつぶれそうになるとき、つまり
資本の
欠損が出てきたときにはその
てん補に充ててよろしい。そして、
資本準備金というのはもともと
資本なんだから、
資本というものにいつでも組み入れることができる。じゃ、なぜ
最初からもう全部
資本にしないんだ。私は本当は
資本にすべきだとは思っておりますけれども、しかし、これはこういうふうな
考え方があるわけです。
最後の
とりでというのは、さくは二重、三重の方がいい、こういうふうに
考えるわけでありまして、いわば
資本準備金というのは
会社の
最後の
とりでの外堀に当たる
部分を
考えておりまして、ここが破られて初めて内堀の
資本というところに
欠損が出てくる。そうなったときに初めて
会社というものは危うい状態におるというふうに
考えた方が、
考え方の上にしかすぎませんけれども、いかにも
会社が安全な
システムになっている、
債権者に対してしっかりと
責任財産をつくり上げる
システムになっている、こういうふうに
考える
方々がかなりいらっしゃいまして、現在のような
システムになっているわけであります。
そういうことで、言ってしまえば
会社法の最も
基本的な
原則に当たる
部分にいずれも抵触する
考え方でもって、なおかつこういうことをこの時代にやらなければいけないか。確かに、これは政治という
観点から見ますと、緊急は法を知らずであります。場合によったら、それは
法律があろうとなかろうと、やらなければいけないことはやらなければいけないでしょう。しかし、緊急は法を知らないんですけれども、要するにこういうやり方をやるということは、なぜ必要かといったら、それは現在の
資本主義体制、つまり
市場経済体制というのを確保しようと。
市場経済体制というのは、実は
株式会社が担っているわけであります。その
市場経済体制を担っている
株式会社のいわば最も
基本的な
部分というものに対して、そこを弱体化することによって
資本主義の
市場経済体制というのをどうしようというのは、ある
意味で矛盾ではないかということだけを私は申し上げておきたいと思います。
技術的な点はもういっぱいありますので、その点は御質問にお答えするということにさせていただきます。
ありがとうございました。