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1997-04-21 第140回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成九年四月二十一日(月曜日)    午後一時三十分開会     ―――――――――――――   出席者は左のとおり。     会 長         林田悠紀夫君     理 事                 板垣  正君                 南野知惠子君                 益田 洋介君                 赤桐  操君                 上田耕一郎君     委 員                 尾辻 秀久君                 笠原 潤一君                 木宮 和彦君                 北岡 秀二君                 塩崎 恭久君                 馳   浩君                 林  芳正君                 山本 一太君                 今泉  昭君                 魚住裕一郎君                 直嶋 正行君                 山崎  力君                 大脇 雅子君                 菅野 久光君                 笠井  亮君                 田村 公平君     政府委員         外務省総合外交         政策局長    川島  裕君     事務局側         第一特別調査室         長       入内島 修君     参考人         野村総合研究所         主任研究員   森本  敏君         軍事評論家   田岡 俊次君     ―――――――――――――   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (「アジア太平洋地域の安定と日本役割」の  うち、東アジア安全保障米軍プレゼンス  について)      ―――――・―――――
  2. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会のテーマである「アジア太平洋地域の安定と日本役割」のうち、東アジア安全保障米軍プレゼンスについて政府からの説明聴取参考人からの意見聴取及びそれに対する質疑を行います。  本日は、参考人として、野村総合研究所主任研究員森本敏君、軍事評論家田岡俊次君に御出席いただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  このたびは、御多用中のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、忌憚のない御意見を伺い、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず政府から東アジア安全保障米軍プレゼンスについて二十分程度説明を聴取し、次いで森本参考人田岡参考人からそれぞれ三十分程度順次御意見を伺った後、午後五時三十分ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願い申し上げます。  なお、意見説明質疑及び答弁とも、御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、まず政府から説明を聴取いたします。川島外務省総合外交政策局長
  3. 川島裕

    政府委員川島裕君) いただきました東アジア安全保障米軍プレゼンスということでございます。お手元に一枚紙を配付させていただいておりますが、安全保障につきましては今どうなっておるかということの前に若干、この東アジアが、第二次大戦から五十二年たったわけですけれども、どういうふうになって現在に至っておるかということは、今の状況を論ずるに当たっても、あるいは先々のことを考えるに当たってもやはり意味があると思いますので、ちょっと冷戦時代ということを振り返らせていただきたいと思います。  申すまでもなく、冷戦時代というものは二極構造であり、イデオロギーの真っ向から対立した中での冷戦だったわけでございます。そして、欧州正面の方は、御承知のとおりNATOとそれからワルシャワ同盟がいわばがっちり四つに組んだ感じで、結果として、幸いに第三次大戦というものになることなく冷戦は無事終わったわけでございます。  アジアの場合も、当然のことながらこの冷戦構造というものが大きく影響したわけですけれども、ちょっと状況は異なったわけでございます。この間、アメリカ朝鮮戦争それからベトナム戦争と二度にわたって大変大きな戦争を経験し、そして中国存在というものがやっぱり欧州正面とかなり違った趣を加えたわけでございます。冷戦が終わったのは俗に言うベルリンの壁の八九年でございますけれども、その前から東アジアの場合は、御承知のとおり中国存在のゆえに、いわゆる二極構造よりはるかに異なった様相を見せたわけでございます。  中ソ対立が見えてまいりましたのは既に六〇年代でございますけれども、米ソ対立というものが非常に緊張感が高まった時期に、既に中ソの対立というものが相当決定的なものになっていて、例えば御記憶のとおり、インドシナでは非常に多くの場合代理戦争になっちゃったわけでございます。具体的には、一九七九年だったと思いますけれども、中国ベトナムの間で短期間ですけれども本格的な戦争が行われております。そしてその後、これはもう本当についこの間終わった内戦でございますけれども、カンボジア内戦というものは、基本的にはベトナムと、さらにそれを支援するソ連中国の支援するポル・ポトという二つ勢力の間の内戦が大変悲惨な状況で続いたわけでございます。  そういう中で、東アジアの場合には非常に目を離せない状況がずっと続き、これが現在まで至っているのが申すまでもなく朝鮮半島でございます。それから、これに反して、冷戦構造の中で非常に危機感を持たれていたのが見事に解消されたのが東南アジアでございます。具体的に言えばインドシナASEANの国でございます。  ベトナム戦争というものは、まさに米国がその二極構造のもとで、当時ドミノ理論という理論がございましたのですけれども、社会主義共産主義勢力をここで食いとめないとASEAN全土を飲み込むのではないかという危機感のもとに戦ったわけでございます。そしてその後も、これは八〇年代中ずっとそうだったというふうな印象を持っております。東南アジアを見ますと、ASEAN諸国は当時は六カ国ですか、非常に順調に経済成長が進むのに対して、インドシナの三カ国、つまりベトナムラオスカンボジアですか、その辺は内戦とか経済的な困難で大変なアンバランスと申しますか不安定な状況が続いたわけでございます。そういうのが大まかな冷戦の終了時までの東アジアと言ってよろしいんだろうと思います。  しかしながら、2の冷戦後の変化というところにございますように、東アジアにおきましても地域安全保障環境というものはやはり好転したんだろうと思います。  そこに、中ソあるいは中露関係正常化とか、米越関係正常化とかいろいろ書いてございますけれども、やっぱりより基本的なものは、東アジアの場合には、冷戦構造を特徴づけていた理念イデオロギー対立とか革命理論みたいなものが消えていって、どこの国も要は自国繁栄を目指すと。それも市場経済マーケットエコノミーを通じて、しかも貿易とか海外からの投資というものを通じて自国経済的繁栄を目指す。それを最大の国家目標とし始めたということから非常に全般的な環境が変わっていったんだろうと思います。  繁栄を目指すといっても、それは自国だけの繁栄ということではなくて、今の市場経済のゲームというものは相互依存の中で図らざるを得ないということですので、その結果として、周りの国といたずらに武力行使をやるというようなことは引き合わない、こういうことでございます。これは、その前の冷戦時代の例えば民族解放戦線とか、国内的に不安定な武装の要因を抱えていたころ、そしてそのころは理念と申しますかイデオロギーも、マルキシズムと申しますか、ある意味市場経済と全く違う理念でやろうとする国もあった時代に比べると大変な変化なわけでございます。  そういう意味で、安全保障について語るに当たって、やっぱり一番基本的なパラメーターと申しますか、この地域を見ていて安定要因だと思うのは、そういう経済的繁栄国家目標とし、かつおおむね市場経済のもとでそれがうまくいきつつあるということに尽きるのではないかと思うわけでございます。  例えば、ベトナムがついにASEANに加盟いたしまして、これが九五年、おととしてございます。ちょうどインドシナ戦争が終結して一たん革命勢力が全部勝利したのが一九七五年ですから、ちょうど二十年後にそういう対決、二つのグルーピングというかそれが終わって、めでたしめでたしと言うのもなんですけれども、大きく変わった年でございました。  と申しますのは、ASEANというのは、もともとはまさにインドシナからのドミノというものを非常に強く意識してできた国家の連係でございますので、そのインドシナの国が次々と入るということ自体、ある意味ASEANのそういう戦略的目標というものは成功裏に終わったとすら言えるんだろうと思います。今やベトナムのみならず、ラオスカンボジア、そしてミャンマーも入ろうかと、ASEAN10というような時代になったわけでございます。  特にさま変わりだと思いますのは、私もベトナム村山総理の、初めての日本総理正式訪問にお供しましたときに、ベトナム指導者というのはまさにベトナム戦争を戦い、革命をやった世代の七十代の方たちですけれども、ベトナムというのは戦争については人材が幾らでもいるけれども、とにかく国づくりというのはやったことがないと。これからは国づくり人材というものを育てたいし、今のところいないのでこれはぜひ教えてもらいたいということを言いまして、やっぱり一つの国が基本的に変わるというのはこういうことではないかという気がつくづくした次第でございます。  それで、そういう中で地域協力というものができ、経済面ではAPECができ、安全保障の面ではASEAN地域フォーラム、ARFというものができて、ようやくそこに国が協力していろいろ共通目標を一緒に探求しようという動きになってきたわけでございます。これらは皆地域安定要因ということだろうと思うわけでございます。  それから、やっぱり国際システムというか地域的なシステムでも、より安定したシステムというものは多分、共通理念までいくと一番いいんですけれども、少なくとも共通利害関係を分かち合うという認識で域内の国が皆協力し合うときだろうと思うわけです。そういうことからいうと、さっきの市場経済というのは一つ共通分母になるんだろうと思います。  ヨーロッパの場合には、さらに共通価値観というものが相当根底に広がっていて、今や例えば民主主義とかそういう基本的な価値観ロシアまで共有するに至るんではないか、そういう中での協力関係というものが見られるわけです。アジアの場合には、基本的価値観ということになりますと、例えば民主主義とかそういうことになるというと、ちょっとまだそこまでいかないということであろうかと思います。  ただ、民主主義という観点から見ても、韓国とか台湾とかタイとかいろんな国で、みずから経済的繁栄に伴ってそういう民主化を達成したという国がいろいろございますし、それ自体安定要因と言うべきだろうと思います。これはさらに検証をまたなければなりませんけれども、やっぱり民主主義国家というものはお互いに戦わないというテーゼを相当打ち出していると言う方は多うございますし、多分そういうことだろうというふうに私も考える次第でございます。  ただ、それは結構な姿だけれども、不安定、不確実性はないのかと言われればそれはあるわけでございます。安全保障は、言うまでもなく予想を申すのではなくて、万一そうなったら大変だということを発想に立てて、いろんなことを心配せざるを得ないというわけでございますから、確実にそうなるということを申しているのではなくて、これがこうなったら大変だという観点から幾つかの要因がございます。  そこに朝鮮半島というものがまずございます。これはちょうど北朝鮮の黄さんがソウルに到着されて、非常に戦争のことを心配された発言をされておられますけれども、やはり何といっても北朝鮮というか、三十八度線沿い軍事力というか、ハードウエアと申しますか武器の集中、恐らく世界であれだけ集まっているところはあそこなんだろうと思うわけでございます。  朝鮮戦争が終わってから何十年となるにもかかわらず、第二次朝鮮戦争というものは抑え込まれてきたわけです。そうは言っても、北朝鮮の現在の経済困難というものを控えて、一体どういうふうな形であの半島緊張緩和、より安定した平和というものができるのかについてはまだ必ずしも見えておりませんし、そこはいろいろ心配をすべき要因があるわけでございます。  俗にと申しますか、よくソフトランディングとかハードランディングとかいろいろ言いますけれども、要は北朝鮮がどこかの段階で崩壊といったことになった場合に、それに伴ってあそこに蓄えられている武器が火を噴くと、やっぱり非常に危険なんではないかということを心配する向きはあるわけでございます。そういうような事態が起きることはどこの国にとっても、南北のみならず、中国にとってもアメリカにとっても日本にとっても、これは決して好ましいことではないというか断固避けるべき話でありましょうから、どうやって緊張緩和の道をつけるかということがこれからの課題だろうと思いますけれども、やはり朝鮮半島というものが一つの、どうしても不安定というとまず思い浮かべられるところだろうと思うわけでございます。  それから、そういう状況に比べれば、ちょっと台湾と並べて書きましたけれども、おのずから問題の性質は異なるわけでございます。ただ、台湾が仮に独立をしようとした場合には、中国武力をもってこれをとめるということを辞さないという基本的姿勢であるということでございます。やっぱりそこは、去年の三月の台湾海峡緊張等を御記憶の方がおありと思いますけれども、その意味で注意を払っておかなきゃならない地域だろうと思うわけです。  その他ということで、これはいろんなことはあろうかと思います。例えば中国につきましては、いろんな中国に関するセミナーなんかに行きますと、通常、中国分析二つの全然違うシナリオを心配する向きがございます。一つは、中国がこういう順調な経済開発に失敗して、中国がむしろ麻のごとく乱れたときにこれは地域にとって大変心配ではないかと。  つまり、改革・開放路線が失敗して中国の内部が流動化したときに心配だという人たちと、それから逆に、中国が順調にどんどん経済を伸ばしていって、その中で国防、防衛力もおのずから強くなってくるとこれはやっぱり心配だと。両方、両派がございまして、結局のところその間のどの辺におさまるのかということなんだろうと思いますけれども、最近は、中国が麻のごとく乱れるというスクールといいますか、その人たちよりは、どうも中国がどんどん強くなるのは非常に脅威になるのではないかという声の方が若干多いような気もいたします。  いずれにいたしましても、中国近代化を進めていくプロセス自体、国の大きさからしても、いろんな意味地域の安定あるいは不安定に非常に大きな影響をもたらすことは間違いないわけでございます。  特に中国の場合、後で申してもいいんですけれども、アメリカのこの地域における軍事的プレゼンスというものについて、非常に姿勢変化しつつあるんではないかということを言う方は多うございます。と申しますのは、アメリカ中国というものを脅威と見て封じ込め論に転換しつつあるのではないかという猜疑心というか、そういうものがだんだん中国の中で強くなっていて、したがってアメリカのこの地域におけるプレゼンスというものに対してより警戒的と申しますか、否定的な姿勢に転じつつあるのではないかという物の見方でございます。  御記憶のとおり、中ソ対立ということでソ連と大変緊張していたころには、中国は、米国プレゼンスというものはみずからの安全という観点からむしろ歓迎していた時期があったんだろうと思いますけれども、ちょっとその雰囲気が変わったという見方は多いわけでございます。  事実、日米安保に対しましても、これは我々の方から、そういういわば誤解というか中国見方に対して、日米安保というものは中国脅威としてとらまえているものでもないし、そもそも封じ込めといったものではございませんということはやりとりはしておりますけれども、やっぱり中国中国で、そういう外の世界中国を見る目に対しておのずから敏感であるということでございます。  それからロシアでございますが、これもNATOロシアやりとりを見ましても、もはやロシア脅威としては扱わず、むしろ基本的な価値観を分かち合う存在として、いわば仲間意識を持ちつつある中でのやりとりが基本的にはございます。さはさりながら、ロシア状況自体、御承知のとおりそんなに安定したものではないし、それから随分軍事力というものはひところに比べますと弱くなったと言われておりますけれども、やはりロシアがどういうふうな国になっていくのかというのは、東アジア一つパラメーターと申しますか要因だろうと思うわけでございます。  そういう、あの地域心配だこの地域心配だと申すわけではなくて、ひっくるめて言えば、これはアジアだけではないんですけれども、もはやイデオロギーというものは起爆力を失ったんだと思うのですが、要注意なのはむしろナショナリズムだと思います。特に民主主義というものは、一方において非常に危なくないシステムヘの移行だとは思うのですけれども、そういう民主主義ですら、ナショナリズムというものは一つ起爆力を持ち得るし、そこはそれぞれの国でナショナリズムあらわれ方が違いますし、これがどうなっていくのかというのは一つのポイントで見ていかなきゃならないと思っております。  そこで、ちょっと時間もなくなりかけましたんですけれども、そういう中での安全保障として何があるのかということで、一つは既に若干触れましたけれども、米国軍事的プレゼンスということでございます。これは、アメリカがこの地域軍事的プレゼンスを持つということによって一つ抑止力として、別にどこの国が脅威だからとかいうことではなくて、意味を持つのであろうという発想であり、アメリカ自身、おおむね十万人の兵力の維持ということを言っているわけでございます。  そして、日米安保につきましては、これはもとより日本自身の安全、日本を守るということもそれ自体重要でございますけれども、そういうアメリカプレゼンスというものを支えるシステムとして、日米安保というものは引き続き大変重要だろうと思っております。逆に言えば、アメリカプレゼンスというものがなくなって、アメリカが去って、いわば力の真空みたいなものができた東アジアというのはちょっと危ないのではないかという発想であることは御承知のとおりでございます。  そして、この辺は抑止力というか、そういう事態が流動化する可能性というものを非常にはるか手前で封じておくということでございますけれども、最近になってもう一つ出てきましたのが信頼醸成でございます。  これは先ほどちょっと触れましたけれども、ASEAN諸国がリードをしてできたASEAN地域フォーラムという場がございます。これが、この地域安全保障について多国間でもって意見やりとりする最初の場でございまして、まだまだ本当のスタートではございますけれども、やはり域内諸国安全保障についていろいろやりとりをすることに至ったというのは、冷戦時代からの東アジアの長い歴史を考えますと、それは画期的なことだし一育てていくべきものだろうと思っております。  それから、日本自身は実は中国とかいろんな国と安全保障対話というのを二国間ベースでもやっております。こういうのは要するに信頼醸成ということですけれども、要はお互い安全保障について何を考えておるかということを開陳し合うことを通じて、少なくとも無用な猜疑心とか心配というものをなるべく減ずるというプロセスでございます。  これも、ヨーロッパ正面に比べますとまだまだほんの立ち上がりではありますけれども、一つの新しい流れであり、これが単に抑止力存在だけではなくて、こういう面で全体的な緊張激化を防ぎ、より安定的なシステムにつながるということを期待するわけでございます。  ちょっと二、三分超えましたけれども、ここでやめさせていただきます。
  4. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  次に、両参考人に順次御意見をお述べいただきたいと存じます。  それでは、森本参考人からお願いいたします。森本参考人
  5. 森本敏

    参考人森本敏君) 林田会長及び理事の皆様方、本日、この国際問題に関する調査会にお招きいただきまして各委員皆様にお礼を申し上げます。  私は、過去三十年にわたり防衛庁と外務省で主として安全保障防衛の実務に携わり、現在は研究所研究員でございますが、研究所に移りまして主としてトラック2といういわば民間の各種国際会議研究会に参加しつつ、いろいろな安全保障にかかわる問題について提言等の仕事を行っているところです。  今日、我が国が抱える安全保障の問題で当面する一番深刻な問題は、日米同盟をどのように位置づけ、この日米同盟役割と意義をどのように国民皆様に理解していただくかということです。さきの特別措置法をめぐる一連審議も、日米同盟のあり方について必ずしも我が国国民が十分に納得していないということからくるいろいろな問題が、この審議をめぐる一連国内世情というんでしょうか国内における一つの問題として、この特別措置法がここまで難しく、かつ国民になかなか理解が得られなかった背景にあったのではないかと思います。  本日の調査会は、冒頭川島総政局長より非常に包括的な安全保障政策について御説明があり、私の後に田岡先生の主として軍事情勢をめぐるこの地域の問題について御説明がありますので、私は重複を避けて日米同盟が将来、特に次世紀冒頭どのような形になり、いかなる役割を果たすのかということを念頭に、日米同盟米国プレゼンス同盟国として日本がどのような形で支えていくのが最も望ましいのかということについて、一つのヒントを申し上げてみたいと思います。  この地域に限らず、今日国際社会冷戦後の新しい秩序を構築するプロセスの中にあると思いますが、その新秩序の構築は早くても来世紀初頭以降になるでありましょう。その際、この冷戦後の新秩序がどのようなものになるかについては予見が困難であると考えます。  いずれにせよその間、転換期の不安定な状況が続くということでありまして、その新秩序性格についていろいろな見方がございますが、いわばイデオロギーとか文明や文化、あるいは民族といった価値観に基づいて構築される可能性は極めて低いということでありましょう。また、国連のような単一の枠組みのもとで国際社会秩序が維持されるという可能性も低いと考えるべきでしょう。  したがって、冷戦後の新秩序は恐らく多元的で重層的な性格を持つということになるんだろうと思います。それでは、その新秩序にとって各国がどのような役割を果たすのかということについては、依然としてアメリカ指導力が重要な役割を果たすということになりましょう。今日、ロシア中国は依然として内政、経済とも不安定な状況にありまして、将来における方向ははっきり見えないものの、中国の地位が冷戦後に増大しつつあるということについては多くの人の指摘するところであると思います。  一方、ヨーロッパを見ますと、旧西側諸国冷戦期に構築した枠組みを冷戦後の新たな安全保障環境に適応すべく今日努力しております。そして、そのことはボスニア情勢への対応等に若干の成果が見られましたけれども、依然としてヨーロッパ安全保障にとってロシアは最大の重要課題であります。現在、欧州の安全保障にとって最大の課題は、御案内のとおりNATOの東方拡大ということでありますが、これがもし順繰りに進めば、NATOの東方拡大は、欧州における同盟関係が恐らく質的に集団安全保障へと構造的に変化するプロセスを示すのではないかと思います。  一方、グローバルに見ますと、冷戦後の国際社会を不安定にしている要因は、いわば地域紛争や大量破壊兵器の拡散や地球的規模の問題であるということを指摘する人が多いわけです。そのような中で冷戦後における安全保障はどういう特色を持っているかということを三つの側面からお話をしたいと思います。  第一は、安全保障上の対象が広範多岐にわたっていることであります。従来、安全保障の対象は主権国家の国益あるいは価値に対する侵害の要因としての軍事脅威でありましたが、今日の安全保障上の対象はこの脅威に加え、いわゆる危険とかリスクといった直接、間接の要因へと拡大しつつあります。したがって、例えば価値観の相違、あるいは歴史的な民族的あるいは宗教的な確執、人口増加に伴う食糧やエネルギーの不足、難民の発生やテロといった極めて広範な危険やリスクというものが安全保障上の対象になっているということであり、従来のように軍事的脅威だけを念頭に安全保障を考えるということは今日的意味を持たないということであります。  第二に、安全保障上の主体も、かつては国家であったものが今や国際社会全体あるいは地域社会、例えば欧州の安全保障あるいはアジア太平洋の安全保障、それよりももっとブレークダウンして、今日は個人の安全保障、例えばヒューマンセキュリティーなどというものも安全保障の主体に変わっているということです。  このように対象や主体が広がりますと安全保障の手段も拡大してきまして、従来の国家の外交防衛という手段に加え、もっとトータルな、例えば経済や科学技術、環境や食糧、エネルギー政策などという総合的な政策を持つようになっております。  特に、我々が考えなければならないのは、冷戦が終わるまでの国家防衛の手段が抑止と対応ということでありましたが、今日はその抑止の前段階であるいわゆる予防防衛あるいは予防外交といった、国際社会の不安定要因を未然に排除するための総合的な努力に重点がシフトしつつあるということも安全保障一つの特色であろうと思います。  さて、それではアジア太平洋の安全保障というのは何が問題なのかということを考えてみますと、この地域における指導者は一様に、この地域における政治・安全保障面での安定を維持するための経済発展に従来は重点がありました。今やこの地域は目覚ましい経済発展と成長のセンターであるということであります。その結果、この地域における多くの政治指導者の関心は、経済的成長を発展、継続させるために今後どのような政治的安定を維持するかということに関心が変わりつつある、すなわち関心が逆転しているのではないかと思います。  そのような中で、この地域における不安定要因は三つのカテゴリーに分けられる。一つ地域的不安定という問題であり、これは川島局長より御説明のあった朝鮮半島あるいは台湾海峡等であります。第二は地政学的不安定ということであります。これは、例えばこの地域中国北朝鮮などという社会主義国が存在すること、あるいは人権や価値観というものが著しく異なっており、いわば共通価値観をなかなか受け入れがたいという政治的な環境にあるということ。幾つかの重要な国で政治指導者が今後交代するということがあること。さらに、領海や領有権問題、あるいはこの地域における共通の軍備増強問題といったいわゆる地政学的な問題があると思います。加えてこの地域には将来、人口、食糧、エネルギー、環境、テロ、海賊等のいわゆるこの地域特有のトランスナショナルな問題があるということは多くの人が指摘するところです。  さて、このような問題を解決するため、川島局長が御指摘になったように、この地域には、近年この地域における安定を維持するための対話と交流が極めて目覚ましい進展を見せてきました。一方、この地域における多国間の協力主義あるいは多国間の協調主義とは別に、依然としてこの地域において周辺諸国に対する勢力を拡張せんとする勢力均衡主義、いわゆるバランス・オブ・パワーという考え方に基づくパワーポリティックスが依然として見られるということであり、この多国間の協調主義と勢力均衡主義というものがこの地域に併存しているということが冷戦後のアジア太平洋の一つの特色であると思います。  そこで、この地域においてどのような安全保障上の課題を抱えているかということですが、それは二つの側面から指摘できるのではないかと思います。  第一は、この地域における地域的枠組みをどのように構築するかです。これは今日非常に難しい問題で、この地域において将来どのような地域的枠組みをつくるかについて明確なコンセンサスはありませんが、これを例えば欧州に当てはめて考えれば、私は三つの代表的なタイプが挙げられるだろうと思います。  一つはEUのタイプです。つまり経済や社会、あるいは労働、安全保障共通防衛政策といった緩やかな地域統合のタイプ。これが第一のタイプです。第二がWEUのタイプということで、地域安全保障を特定の軍事機構を常設することなく賄っていくという考え方です。これがいわば地域的枠組みの中で一番かたい形の枠組みということになるのかもしれません。第三にOSCEのようなタイプです。いわば常設軍もなくしかし全員が集まってコンセンサス方式でいろいろなことを、特に協力関係を決めていくというやり方です。  いずれにせよ、欧州の地域機構をそのままアジア太平洋に持ち込むということは困難であり、かつ非現実的です。したがって、この地域の地政学的な特色に合致した性格のものとならざるを得ないのですが、いずれにせよこのような問題を考えるときに、問題はそのような地域的枠組みをつくるかどうかということについてまだコンセンサスがない。仮にあったとしても、どのような目的を持つ、どのような性格の枠組みをつくるかについてもまだ議論がない。さらに、どのようなメンバー国にするかについてもほとんど議論がない。  さらにこの枠組みを、権利及び義務を明記した条約や協定が必要かどうかということについては、非常に大きくこの地域は分かれると思います。いわば西側の思考をする例えば米国、カナダ、豪州、ニュージーランド、EUのような国はこのような地域的枠組みに比較的前向きでありましょうが、中国ASEANのような国は比較的後ろ向きでありましょう。したがって、この地域における地域的枠組みには幾つかの困難な問題があると思います。  さて、もう一つの問題は、同盟と多国間協力をどのように調和させるかということです。この地域における同盟の意義というのが、川島局長の御説明にあるように、共有すべき価値観や国益というものに仮にあるとしても、そのような価値観や国益をすべての国が共有するというのは大変難しいわけであります。  他方、同盟関係こそがこの地域における安全保障の実効的な機能を果たすということについても確かであり、幾らこの地域において対話や交流を進めても、そのような対話や交流によって紛争を抑止したり、あるいは紛争に対応するというのは、これは非現実的であります。  したがって、この同盟関係と多国間協力をどのようにこの地域で調和させるかは大問題であります。その際重要なことは、依然として冷戦後においてアメリカのこの地域におけるプレゼンスというものが重要な役割を果たしているということについては多くの国が認めるところであり、それを公に言うかどうかは別にせよ、アメリカにおけるこの地域の抑止機能というものが、この地域の平和と安定に重要な役割をいかにして果たしてきたかということについては、私は幅広いコンセンサスがあると思います。  さて、最後に私が申し上げたい結論は、それでは、まず同盟の意義を何に求め、日米同盟の将来をどう考えるかということです。私は、冷戦後の同盟は、共有する価値あるいは共有する国益というものをいかに増進するかということが目的であると思いますが、その場合二つの問題があります。  第一の問題は、日米同盟というものが規定する国家価値や国益を共有できる他の国がもし存在するとすれば、その国が日米同盟に加われるかどうかという点であります。  第二は、このことは同盟の広がりを意味するということになりましょうが、それは日米同盟が多国間の集団安全保障変化するということを意味するわけです。それが日米両国にとって国益に合致するかどうかという問題であります。  この二つのことを考えた場合、我が国としては当面日米同盟を間違いなく強化し安定的なものにするということは必要ですが、歴史を見ると、同盟が未来永劫に続いた例はありません。このような同盟というものの意義づけを行った場合、米国アジア太平洋における軍事プレゼンスが、この地域の平和と安定のために不可欠であるということを仮に前提とした場合、日米同盟を将来において緩やかな協力関係へ拡大していくということが不可欠であると考えます。  例えば、この場合、日米両国と共通の価値や国益を共有できる国、例えばオーストラリアや韓国などを、日米同盟を軸としつつも、この軸を中心にして緩やかな協力体制をつくり上げるということができるかもしれないと思います。その場合に、これらの同盟国日本とともに米国プレゼンスをいろいろな形で支援し協力するということです。これは日米同盟の広がりということを意味し、そして日米同盟が緩やかな集団安全保障に発展していくということを意味すると思います。  さらに、この協力体制の外側に、例えばASEANとかニュージーランドなどの友好国を日米同盟の周辺国として位置づけることができるとすれば、これらの周辺国との関係、緩やかな協力体制をつくっていくということができる。米国アジア太平洋におけるプレゼンスをそれぞれの国情に応じて、それぞれの国がおのおのの分野で、例えばある国は後方支援、ある国は基地を提供する、ある国はアクセスを提供する、ある国は輸送のみ提供する。  ある国は共同演習や、あるいは共通防衛協力や技術協力を進めるといった、それぞれの分野でアメリカプレゼンスをこの地域に直接、間接に支援、協力できる緩やかな協力体制ができるとすれば、それはこの地域における紛争を未然に防止し、広範な安全保障協力アメリカを中心として進めることができるということを意味する。そのことは、この地域にとっていわば共通の価値である自由とかあるいは民主主義とか、あるいは市場経済とか、あるいはこの地域における広範な地域的安定というものにとって役立てる、まさに本当の意味での地域協力関係、あるいは地域的枠組みに発展できるのではないかと思います。  いずれにせよ、我が国がやるべきことは、まず日米同盟の軸足というものをいかにして万全のものにするかということであります。しかしこれができた後、次の世紀に、今申し上げたように日米同盟を軸にして緩やかな協力関係に発展することがもしできるとすれば、アメリカが相当長期間にわたりこの地域における国益というものを享受できる体制になり、そのことは日本安全保障にとって非常に意味があることなんだろうと思います。  ただし、この場合には、日本はある種の集団安全保障というものの問題を克服し、若干の支援、協力我が国の領域の外でアメリカに対して行わなければならないということを意味し、そのことは日本の政治にとっても大きな意味合いを持っているんだろうと思います。そのような枠の中で日本が域外に出るということであれば、この地域におけるいわば日本への不必要な懸念あるいは不必要な心配というものをもたらすことなく、この地域において平和と安定のために日本が引き続き協力ができるということを意味するのではないかと思います。  以上が私の所論でございます。拝聴ありがとうございました。
  6. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  次に、田岡参考人にお願い申し上げます。田岡参考人
  7. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) 本日はお招きいただきましてまことにありがとうございました。  私は、本日は、日本安全保障を真剣に考えます国民の一人として、軍事評論家としてお招きに応じた次第でございます。したがって、今回私が申し上げますことは、私の属しております新聞社等にはいささかもかかわりなく、私個人の観察、見解を申し述べさせていただきたいというふうに存じますので、その旨御承知おきを願いたいと思います。  さて、本日は、日本周辺の軍事情勢と申しますか、極東ロシア軍の空洞化、それから中国軍が拡大をしておるというけれども、これは本当であるかどうか、それからまた朝鮮半島の南北の軍事バランスはいかがであるか、また米軍のこの周辺における駐留の状況はどうであるか、その目的は何であるかということにつきましてお話を申し上げたいと存じます。  極東のロシア軍が弱体化していることは、川島局長も今若干言及をなさいましたとおりで、これは世界史上今までに例を私は思いつかないほどの極端な自壊が始まっております。日本にとりましては、十八世紀ロシアが千島あたりに出てきて、「赤蝦夷風説考」とかいうことで北方の脅威が言われまして以来、常に北方からの軍事的重圧ということは感じておったわけですけれども、それまでの長い二百年余りのロシア脅威からやっと解放されたという安心すべき状態になったというふうに考えております。  かつてのソ連は、ここにございますとおり、人口が二億九千万人ございましたけれども、現在は一億四千九百万人というわけで、日本よりも二割多い程度のかつての半分という人口になりまして、GDPも、現在の日本円にしますと四十八兆円程度日本の十分の一程度という小さい貧弱な国になってしまいました。  そういうわけで、ロシアの兵力もかつては四百二十万人ほどおりましたのが現在百二十万人、つまり三百万人減ということになりまして、極東は特にこれがひどくて、下士官、兵の欠員が四〇%、これは徴兵を忌避する人、それから徴兵の対象外になる人が余りに多いということでこういった極端な兵力減に至っております。  ロシアの国防費も、九二年、これはソ連が崩壊した翌年の最初のロシアとしての予算ですけれども、このときと現在と比べますと、額面では二百九倍という極端なふえ方をいたしておりますけれども、その間物価が千八百三十倍でございますので、実質はわずかに九分の一に減少する一兆八千億円、およそ日本防衛予算の三分の一程度というふうな値になっております。  特に問題なのは、食糧費が不足いたしまして、この食糧費というのは日本の今の役所で問題になっております食糧費じゃなくて、本当に食うための食糧費でございまして、これが必要量の三分の一しかないというわけで、九三年の二月には、ウラジオストクにあります海軍の士官候補生学校で栄養失調で二十数人が倒れて入院をしまして、そのうち四名が死亡する、太平洋艦隊司令長官がその責任を問われて更迭されるというふうな悲惨な事件も起きております。  給料は、特に軍人の給与の遅配、欠配がひどいということはもう評判でございます。昨年十一月に海上自衛隊の招待でロシア太平洋艦隊司令官のクロエドフ大将が日本に来られましたので、うちの記者がこの方にインタビューいたしまして、遅配、欠配がひどいというふうに伺っておりますが、これは本当でございましょうかと聞きましたら、いやそれは全く本当でございます、私もことしは七月からまだ給料をもらっておりませんということをおっしゃるので、それはやはり今まで情報だったけれども、司令官自身が新聞記者に直接話すんだからこれほど確かなことはあるまいというので、我々も大笑いをしたような次第でございました。  そういったわけで、ロジオノフ国防相が今度近く来られますけれども、彼はロシアは二〇〇三年までに防衛能力を完全に失うに至るであろうということをおっしゃっております。日本防衛白書を見ましても、大体この傾向ははっきりしておりまして、防衛白書というのはえてして、よその国の脅威をできるだけ言って予算をとろうとするものですけれども、これもずっと長年同じ比較をしますと、おのずと出てまいります。  ここにありますように、陸軍兵力は五一%減、水上艦が四五%減、潜水艦が五七%減、作戦機に至っては六三%減というふうにどんどん減ってきています。これも、まだ現在形として残っておるものだけでございまして、実際上動けるかと申しますと、海上自衛隊が昨年視認いたしましたロシア艦艇はわずか九隻。この九隻と申しますのは、出も入りも一隻ずっと数えますから、実際は五隻でございます。ピーク時の八七年には百四十一隻出ておりました。極端に減っている、ほとんど動けない。  それから、航空自衛隊のスクランブルにもこれはあらわれておりまして、八四年には九百四十四回こちらの戦闘機が出動しておりますけれども、昨年は二百三十四機、約四分の一にこちらの出す戦闘機数が減っております。これは、もちろん全部がロシアに対するものじゃなくて、間違って入ってきます、接近してまいります韓国とか台湾とか、それからまた米軍機が間違ってコースを外れて飛んでおるとか、そういうこともございます。それも入れましてこちらが出した数が二百三十四機でございます。  極東におります、この極東というのは、今までしばしば印象としては間違うもとでございまして、日本の近くだと思いますけれども、防衛庁の言います極東の定義は、カムチャツカ半島からバイカル湖の西までの広大なエリアでございます。これは、かつて日露戦争のころから満州正面のロシア軍のことを極東と言っておりまして、それですから、現在もバイカル湖の西までが極東というふうになっておるわけです。この広い極東の範囲内におりますロシア空軍の戦闘機が三百機、それから攻撃機が三百機程度だろうというふうに、これはミリタリーバランスの見積もりでございます。日本が三百七十機ですから、実は余り変わらない程度になってきている、実力的には変わらないと私は見ております。  九五年のソ連の全体の戦闘機生産が三十機ほどだと言われております。第一線で十五年使われるといたしますと、トータルで四百五十機ほどたまるかと。そのうち、三分の一ぐらいは大体伝統的に極東ですから、そうすると向こうは百五十機ぐらいになるのかなと。日本の半分程度ということに相なると思います。  特に問題なのは、部品の不足、燃料の不足から来るパイロットの訓練でありまして、年間二十時間ないし三十時間というふうにロシアで報道されております。これは、アメリカ空軍が二百四十時間、自衛隊は若干一時減りまして百五十時間程度飛んでおります。二十時間、三十時間では離着陸の腕も確保できない。これは自動車で考えましても、例えば月に二時間、三時間しか乗らない人というのは、とても危なくて横に乗せてもらうというのは嫌なわけですけれども、ましてや戦闘機パイロットはこれじゃもうどうにもならないという状況になっております。  こういったわけで、ロシアというのは、軍事力は核を除いてもうぺしゃんこでございまして、アメリカに異様にといいますか、接近をして何とか世界で認めてもらおうというところがございまして、アメリカロシアは今や同盟国だということを公言いたすに至りました。昨年の四月にも、クリントン・アメリカ大統領がモスクワに参りましたときに、米ロは今後も同盟国であり続けるということを演説しておられます。実際、アメリカ軍とロシア軍は共同訓練も盛んにやっておりまして、特に日本のそばでは、沖縄におりますアメリカの海兵隊、これが九四年にはウラジオストクの近くに参りまして、ロシア太平洋艦隊の海軍歩兵部隊と一緒になって上陸作戦訓練をする。  九五年は対日戦勝五十周年記念でございましたので、今度はロシアの海兵隊がハワイへ行きまして、ハワイでアメリカ海兵隊と一緒に共同の上陸作戦訓練をする。対日戦勝記念日に米ロの海兵隊が上陸演習をするというと、これはどこをねらっておるのかねというような皮肉も我々は言っておった次第でございます。もちろん、これは別にどこと日本をねらっているわけでもなくて、ただ、たまたまそのときやったということでございましょう。昨年もウラジオストクの近郊でアメリカロシアの海兵隊がまた一緒に共同訓練をいたしております。  じゃ、ロシアが今こういうふうにだめだとしまして、将来また共産党政権が復活するとか、もしくは右翼軍事政権が復活してロシアが強くなるんじゃあるまいかという懸念を表明する方が、特にアメリカでも見られますけれども、よく考えてみますと、かつてソ連がどうしてだめになったかといいますと、結局は言論統制、官僚支配、それをやっている限りは、第二の産業革命である情報革命には乗れっこない。だから、どんどん下降をしてまいったわけで、結局専制体制を復活すれば過去の下降カーブを再現するにすぎない。  ですから、ロシアが専制主義になって、さらにまた強くなるということはどうもありそうもない。じゃ、市場経済でどうかといいますと、民衆に市場経済の経験が乏しい、余り商才があるようには思えませんので、結局はロシアというのは今後もどんどん低迷を続けるのであろうなというふうに私は考えて、そう心配いたしておりません。  さて、問題は中国の方でございまして、中国に関しましては、一般には中国軍事力の拡大ということが言われるのでございますけれども、それは一つは、一九九〇年ごろから盛んにアメリカの中でそういう説が出る。それ以前、八〇年代はアメリカ中国武器近代化を一生懸命支援いたしておりました。  そのころは、ソ連に対抗するチャイナカードというのを使うために援助をいたしまして、例えば中国の戦闘機でありますF8のⅡ型、これも失敗作だと思いますけれども、グラマンと共同開発をいたしておりました。ところが、ソ連が崩壊したものですから、軍としてはやはり何か脅威がないと説得力に欠ける、予算をとるにも同盟国協力を求めるにもまずいというわけで、何か突然中国中国だという話が出てまいった。  その一つの証拠のようによく言われますのは、公表国防費が急増しておるというふうに言うわけですけれども、ここに表をお示ししましたとおり、九三年が一四・九伸びたといっても、その年の消費者物価の上昇率は一四・七じゃないかと。その次の年に至ると、二二・四%伸びたと騒いだけれども、実はインフレの方が二四・一%で、実はマイナス二%であるというふうな状態でございます。これは九六年、事前にお配りしました資料では六・一%になっておりますが、これは小売物価で、正しくは八・三%でございます。八・三%昨年の消費者物価は上昇しております。  ことしは一五・四%防衛費はふえておりますけれども、インフレを何とか六%程度に抑えたいというのが中国政府目標で、しかしアジア開発銀行は一四%程度になりはせぬかと言っておりますから、どの程度本当にふえるのかというところは注目されるところでございます。  やや長期的に見ますと、過去十年間、八六年から九六年の間に国防費は三・五一倍に額面でふえておりまして、この間の物価上昇率は三・〇八倍でございます。これは二とございますけれども、これは違っておりまして、三・〇八倍でございます。そうしますと、この十年間で四三%の増、年率でおよそ四%の増というふうなことでございます。  特に注目されますのは、中国が軍事基地を将来ふやしたくてもふやせるかどうかということを考えますときに、歳入がどうふえているかということがポイントなんです。この十年間で歳入は額面で三・二六倍ふえておりますけれども、その間の物価が今申しましたとおり三・〇八倍の増で、実質はほとんどふえておらないじゃないかと。名目のGNPは約七倍になっているにもかかわらず、歳入の方がその三倍余りでしかない。これは非常に異常な話でございますけれども、これは一つは、中国国家的な全国的な徴税機能を欠いておりまして、地方に末端の徴税は依存せざるを得ない。ところが、地方の官憲の不正、腐敗が非常に横行いたしておりまして、それからまた、もちろん国民も脱税をするというわけで中央政府に金が入らない。中国では現在、流行語は「上有政策、下有対策」、上に政策あれば下に対策ありというのが中国の流行語になっているようなところでございますから、皆が悪いことをするので中央政府の歳入がふえない。  というわけで、国防費も言われているほどにふえているわけじゃなくて、ことしなるほど一五・四%ふやしたといっても、実はそれは日本円にしまして一兆二千億円程度防衛予算が四兆九千億ですから、防衛予算の四分の一もないというところでございます。もちろん、このほかに科学技術の振興費が兵器開発に使われるのじゃないかとか、いや軍の副業収入もあるじゃないかと、それを入れれば三倍程度にはなるだろうという見方もございます。  ただ、これは中国軍の経費が不透明だというのは確かなので、例えば内訳がどうなっているのかを言わないというところで非常に不透明なところはあるのでございます。ただ、これは各国とも予算の立て方が違うというところが時にありまして、日本の場合でも、防衛予算の中に軍人恩給が入っていないじゃないかとか、自衛隊の退職者の年金も入っていないじゃないかとか、科学技術庁のロケット・衛星開発費、あれも本当は防衛費じゃないのとか、それから海上保安庁予算もあれは防衛費じゃないかとか、外国から見れば日本も何か小さ目に言っておるよと。一%以下と言っているけれども、実は一・五%以上は使っているはずじゃないかというようなことを向こうの方は必ず言うわけで、国によってもちろん若干そういったことは常にあるところでございます。  特に中国の場合、武器輸出による利益、これを新しい兵器を購入するための外貨の原資に充てておったということ、これは多分間違いないと思うんですけれども、それを含めますとかえって中国の軍事費の伸びは減ってまいります。と申しますのは、かつてイラン・イラク戦争中に中国は非常に両方に売り込みまして、八八年には三十六・四億ドルの輸出を記録しておりました。これが九五年に至りますと、わずか六億ドルというわけで六分の一に低下する。  これはイラン・イラク戦争が終わりましたことと、それから世界的にも軍事費を冷戦が終わって使わなくなり、さらにロシアが財政、経済に困るものですから、本来のロシア製のオリジナルな兵器をどんどん安値で売り出す。そうすると、中国ロシア製のコピーを売っておったわけですから、同じような値段でロシア製の本物を買えるならだれも中国のものは買わないというわけで、中国の商売は上がったりということになりまして結局六分の一に減ってしまう。これを含めると、本当は中国の国防費はむしろ減っているということだって考えられるというふうに思います。  ですから、もう一つは、ロシアから支援戦闘機を買った買ったという人がおります。ただ、そう言って騒いでいる人は何機買ったかということを絶対に言わないという点が非常に特色でございまして、実は九二年以来総計で五十機買っただけでございます。これは一機四十億円もしますので、中国の一人当たりGNPが日本の六分の一程度ですから、日本にしますとあたかも一機二百四十億円の戦闘機を買っているというわけですから、とてもそんなに買えるものじゃない。そこで、細々とやっと五十機程度を買いました。  ですから、今後ライセンス生産をしてふやすんじゃないかという説も一部にございますけれども、実はライセンス生産をしてもそうそう安くなるものじゃございません。レーダーとかコンピューターとか、エンジンとか、それからあとはチタニウムの部品とか、こういったものは中国ではできませんでしょうから、これはすべてロシアから輸入せざるを得ない。それから、組み立てる人件費にしても、今はロシア中国はさほどの差がなくなってきておるということを考えますと、余り買えるものじゃなくて、今までのいろんな見積もりがありますけれども、せいぜい二百機程度かなというふうに思います。  現在中国軍は、およそ五千五百機の戦闘機を持っておりまして、これはほとんどすべてがミグ17、19、21、一九五〇年代にソ連で初飛行しましたもので、その後中国で国産したものです。これはもう全部退役の時期を過ぎておりまして、この五千五百機を全部これからもう間もなく捨てなくちゃいけない。そのときに、かわりに五十機程度買ってどうするのという程度のものであろうと思います。  ただ、この五千五百機の戦闘機というのはもちろん過大兵力でありまして、アメリカでも現在、海軍、空軍、海兵隊を合わせまして四千八百機。ですから、五千五百機も要らないわけです。ただ、中国が将来も東の台湾、それから韓国が統一すれば韓国正面、ロシア正面、それから南のベトナム正面、こういったものに備えて首都等の防空をするということを考えますと、少なくとも千機程度は要るんであろうなと、日本の三倍。日本が三百七十機、韓国が四百機程度台湾も三百数十機新しいのを持つということを考えますと、まあ千機程度は要る。  そうしますと、戦闘機が十五年もつとしまして、年間で六十機か七十機の調達をしなきゃいけないはずである。ところが、それが九二年に買い出して以来、今までたった五十機しか買っておらないということを見ますと、これは中国軍は一般に言われております増強と違って、むしろ急減の方向にあるというふうに見るべきだと思います。  海軍も現実には相当な減少を示しておりまして、主力であります潜水艦は、八〇年代には百十隻ほどジェーン海軍年鑑によればありましたけれども、現在で六十二隻。しかも、この六十二隻のうちのほとんどを占めます三十八隻の潜水艦は、これはソ連で昔設計しましたロメオ型という潜水艦ですが、これのもとは実に一九四四年にドイツで設計されましたUボート21型で、これをソ連が、戦後アメリカ対立しましたから慌てて海軍をつくるときに、そのドイツの設計をコピーしてそのW型をつくり、その改良型がロメオで、それが中国で再コピーされたというものです。もうとてもこんなものは、今何かに使える意味があるとすれば、ドイツがもう一度Uボート映画をつくるときに、借りてきて出せばよろしいという程度のものが中国の潜水艦隊の今でも数的には主力でございます。  しょうがないので、中国としてもディーゼル潜水艦キロ型をロシアから二隻買い、さらに二隻入るという話ですが、これでもパッシブソーナー、聴音装置等の性能は西側のものに比べれば相当劣っているものだと思います。日本は近代的潜水艦を十六隻持っておりますから、これはもう勝負にも何もなりません。  それから、水上艦も九〇年に六十三隻ございましたけれども、現在で五十一隻、大分減っております。しかも、近代的なものはルフ型というものが二隻ございますけれども、これはエンジンは八〇年代にアメリカから買いまして、レーダー等はフランス、オランダその他から買って組み立てたようなものですけれども、これは結局輸入がとまりましたのでつくれません。やむなく今度はロシアからソブレメンヌイ級というのを二隻買うという話でございます。  これに対しまして、日本は近代的な護衛艦五十九隻、P3C百機近くを持っておりますから、ですから中国海軍が日本の海上自衛隊の敵でないということは、これはもう火を見るよりも明らかだということであろうと思います。  実は、防衛庁の中国問題の専門家たちはこのことをよく知っておりまして、防衛白書は一見すると何か中国が強くなっているような印象を与えるけれども、詳しく見てみればどこにも増強という言葉は彼らは使わない。結論部分では「中国軍事力近代化は、今後も漸進的に進むものと見られる」というふうに書いてございまして、この近代化が「漸進的に進む」というのは、実は増強どころか近代化すら遅々として進まずということを熟知している専門家が、そうは書きにくいからこういうふうにちょっとうまく書いたというところでございます。  中国は、数的には激減するんだけれども、近代兵器が入ってくるから強くなるんじゃないかということを言われる方もいらっしゃいます。しかし、近代化というのは両側にかかるファクターでございまして、よその国も近代化しているわけです。ですから、戦力というのは相対的なもので、結局近代化のスピードにおいて台湾とか韓国に比べればはるかに低いということで、ますます中国は差をつけられつつあるというのが実態でございます。  台湾の方は、F16を現在百五十機発注中で、やっと最近二機着きました。フランス製のミラージュ2000を六十機、それから国産で結構いい戦闘機「経国」号、これを百三十機製造中でありまして、今のところもう圧倒的に優勢というふうになりつつあると思います。海軍の方も、アメリカの設計のフリゲート艦「成功」型を七隻、それからフランスの一番新しいタイプのラファイエット級を六隻、それからアメリカのノックスクラスが今九隻入っております。こういったわけで水上艦も非常に近代化している。  もともと海空軍は、中国台湾と比べますと台湾の方が優勢でございまして、優勢だからこそ金門島、馬和島という大陸に張りついた島を確保できた。あれは、中国にとりましては本当に目の上のたんこぶというところでございましょう。金門島はアモイの港の入り口に、もうすぐそばにございまして、アモイの港から出た途端に撃たれるという形になっております。それから馬和島の方は、これは福州の湾口にありまして、これもあたかも、例えば軍隊でいいますと駐屯地の正門前に何か敵が陣地をつくってそこに機関銃を構えてねらっておるというような形になっておりますので、これは中国としては非常に悔しい。  そこで、一九四九年に全土を人民解放軍が支配する前ですけれども、あそこに攻めかかりまして、一万人ほど上陸させましたところが、五千人が戦死し、五千人が捕虜になるというわけで全滅しました。五八年にも猛烈な砲撃をやり、制空権をとって孤立させてとろうとしたんだけれども、そのときは台湾空軍は実に三十二対一という撃墜比率のスコアを記録しまして、それで制空権を守り抜き、結局金門島はそれ以来ずっと落ちない。現在でも金門島には三個師団ないし四個師団、それから馬和島に二個師団相当を配備しております。  中国の上陸能力というのは、これは台湾の軍隊の見積もりでは、漁船とか商船全部をいろいろ動員したところでせいぜい二個師団、三万人だなというわけですから金門島すら落ちない。まして台湾本島には台湾陸軍が二十四万人もおりますから、これはもうとても上陸作戦は不可能、自殺行為であろうと思います。  中国の一番の問題点は、むしろ軍隊が強くなっていることより軍人が商業化して市場経済の波に乗り、金もないものだから、とにかくむちゃくちゃな商売を始める。三百万人の軍隊に二万の企業がある。百五十人に一社というふうなむちゃくちゃなものでございまして、それが観光客相手の射撃場をやるとか、それから軍の電波を使ってポケットベル会社をやるとか、輸送部隊がトラックを使って運送会社を始める。例えば日本関係のおもしろい話では、九二年十月二十一日の朝日新聞に、黒百合ジャパンというのが人民解放軍から功労勲章をもらったと。これは何かといいますと、黒百合という育毛剤を中国軍がつくっておりまして、これは中国の軍事医学科学院かなんかが発明をしまして、それで中国軍の工場でつくっておる。それを輸入元が三十億円売り上げたというので、何か中国軍の勲章を日本の会社がもらったというふうな笑い話もある。  それぐらい、これぞまさに中国軍というところでございまして、非常に経済がだんだん分立する中で、軍までこういうふうな商業活動をするということは非常にけんのんなことだというふうに思います。中国としてもそれはよく知っておりまして、転勤をさせようとするんですけれども、将軍の中にはもうかるところに居座るために、上に上げると言っても、いや小生は浅学非才にしてそのような重責にたえないとか何か言って居座るような人もいるというわけですから、軍がそこまで商業化する。  それから、中央政府の税収がどうも不思議なほど上がらない、それから転勤拒否も起きるということになりますと、公然たる分裂でなくても、何かひそかな分裂みたいなことがもう既に起きつつあるのかなということまで私としては若干懸念をせざるを得ないところでございます。  朝鮮半島につきましても、一般には緊張が伝えられておりますけれども、実はよく本質を見てみますと、あれは北朝鮮が一方的に弱くなっているというだけの話でございまして、ソ連が九〇年に韓国と国交を樹立し、中国が九二年に国交を樹立するというわけでロシアからの石油の輸入がばったりになってしまう。中国の方は少しは出しておりますけれども、自分の方も石油、食糧の輸入国ですからそうそう支援はできない。  というわけで、北朝鮮のパイロットは、九二年には実に年間四時間しか飛ばないというふうなことも言われておりました。これは本当かなと思っておりましたけれども、昨年五月に亡命してまいりました李・チョルス大尉が、勤続十年間で飛行時間が三百五十時間、すなわち年間三十五時間平均。幾ら何でも年間三十五時間ではパイロットになれませんから、最初のうちはもっと飛んでおったわけで、ですから、これは最近ほとんど飛んでいないということを彼の発言も示しておるというふうに思います。  さて、そういったわけで、航空戦力におきましては、アメリカと韓国軍を合わせますと大体六百機、それに対して北朝鮮の方は、第一線として何とか使えそうなものは百機程度でございまして、数で六対一。さらにパイロットのトレーニングが違う、電子装備が違う、搭載兵器の質が全く違う、情報能力が違うというふうに、これの積が戦力になりますから、実際には航空戦力は数百倍の差があるというふうに思います。戦車に関しても似たようなものです。  一九五〇年の朝鮮戦争とはもう全く違っておりまして、あの当時は北朝鮮軍が圧倒的優勢で韓国軍には戦車もなければ航空機もほとんどない、地雷もなければ陣地もない、対戦車火器も有効なものがないという状態で攻められまして、そこでソウルへ三日で突入されたわけです。今回は航空優勢が圧倒的であり、それからこの四十年間営々として陣地を築いてきておる。兵力的にも数においても実際上は遜色がない。それから、兵器の性能では南が上というわけですから、これがもしも戦になれば、まずならぬとは思いますけれども、なった場合にはあっという間に韓国軍に北朝鮮軍はやられて、つぶされてピョンヤンは占領されてしまう。  これは、五〇二七号という作戦計画を九四年の三月に韓国の国防大臣が議会国防委員会で説明をしまして、そのときにもソウル近郊で敵の戦力を撃砕し、それからピョンヤンをとり、ピョンヤンの北八十キロの清川江岸まで行って、そこで一時停止するという作戦計画を堂々と説明しているぐらいでございます。もちろんミサイルがソウルに若干飛んでくるとか、砲撃で死傷者が出るとかいうことはございましょうけれども、結局は韓国が勝つことは疑いないと思います。  日本にとりまして問題なのは核弾頭があるかどうかです。これは、九一年末までにプルトニウム一、二発分を取り出した可能性はございますけれども、その起爆をするためのインブロージョン、爆縮技術の完成を試すためには、多分北朝鮮の技術では、コンピューターではできないから実験をしないといかぬでしょうけれども、もちろん実験はしておりません。  それからさらに、弾頭にするためには、スカッド系列ミサイルですと直径が八十八センチですからそれ以下にしなくちゃいけない、弾頭の重量も一トン以下にしなくちゃいかぬというふうになると思います。ところが、なかなかそうするのは難しいようで、インドが最初に核実験を七四年にしましたときは、小屋ぐらいの大きさがあったという話ですし、アメリカが長崎に投下しました最初のプルトニウム原爆MK3、これは重さが四・九トン、直径が一メーター五十もあるものでございました。ですから、これがもしもできたとしてもミサイル弾頭にはなるまいというふうに思います。  化学弾頭の方は多分あると見た方がいいんでしょうけれども、これは対策があると効果が割合少ないものでございます。例えば、松本の場合には死者が七人出ましたけれども、東京で密閉状態で使ったけれども、そのときはもう対策がかなりわかっておりましたから、あれは死者十二人で何とか食いとめております。  じゃ、ノドンがあるかどうか、今もこれがイシューになっておりますけれども、ノドンは九三年の五月末に最初のテストをいたしました。それは射程が五百キロ出た。その後四年たちますが、二回目の発射実験を行っておらない。これは、もしも本当に開発をしているのであれば数十発は撃たなくてはならない。数十発撃って、そこで欠点を発見して、それから量産に移って配備になるというのが手順でございまして、これはいかに非常識な国だといっても、そういった物理的なものはごまかすわけにはいかない。  仮に実験もせず、いきなり配備しますと、発射ボタンを押してもどこへ行くかわからない、そこで爆発するかもしれない。当然数十発は撃つものだろうと思います。だから、毎月のように撃って二年三年やれば、これはいよいよ完成するかなということになりますけれども、実は四年たっても全然撃っていないということを見ますと、ああこれは多分まだ金がないか技術がないかで、どうもあれはやめたらしいなというふうに私は判断をいたしております。  むしろ問題は、韓国軍が最近、統一は近いというふうに見まして、次の防衛力整備計画で、これは九八年から二〇〇二年までですけれども、これが完成しますのは大体二〇〇五年とかその辺にそういう装備ができてまいるのでしょう。ですから、そのころまでに北朝鮮脅威なんか言っておっても予算がとれませんものですから、だから周辺諸国と言い、特に日本ということも時には使って、それに対する防衛ということを盛んに言い出しました。  次の中期防の韓国の計画は、百兆八千億ウォンで大体十四兆円、これは日本の九六年からの中期防の五六%という相当な巨費、GNPが日本の六分の一にすぎないのに日本の半分以上を使う。それで、年間装備費に至りましては七千八百億円ほどになります、日本は九千百億円ぐらいですが、また日本武器は少数生産でやたらに高いものですから、それから天下り等もあって高くなっています。ですから、大体対等かなというふうに思います。  この下敷きになっております韓国国防省附属機関の国防研究院の「二十一世紀を目指す韓国の国防」というのが一昨年の七月に出ておりますけれども、これは千五百キロ圏での空域を統制し得る航空戦力、すなわちこれは日本列島上空で制空権を確保するという計画でございます。これが北京や上海ですと千キロを割りますから千五百キロということになりません。これは明らかに日本を念頭に置いておるなと。  海軍の方は、遠洋での作戦を立体的に行い得る機動部隊の建設をするというわけで、アメリカ軍の将校に対しましても、例えばこの装備を買いたいと。そんなものは要らぬでしようというふうにアメリカが言うと、いや対日戦争のときに要るんですということを韓国軍の軍人が公言するということは、アメリカのいろんなソースから私も聞いているところでございます。軽空母もつくるとか、潜水艦を現在九隻建造中ですけれども、千二百トン級はこの九隻でやめて、次は三千トン型の潜水艦をつくるというふうなことを言っております。  こういったふうに、むしろ韓国が今のところそういう日本との戦争ということを言い出しておるということは、実際にはもちろん戦争にはならぬだろうと思います。統一しても経済が大変ですし、また中国との国境は今の二百四十キロが千二百キロぐらいになりますから、そうそうこちらに向かえるわけはないと思いますけれども、彼らの方がそう言い出しているということは、一般に認識されておらない一つのファクターとして考えた方がよろしいというふうに思います。これは今、森本先生が、感覚が似通った国としてオーストラリア、韓国を含めた安全保障体制とおっしゃったので、あえてここのところはちょっと申し上げた次第でございます。  じゃ、時間が来ましたので、また後ほど御質問にお答えしてお話しをさせていただきたいというふうに存じます。
  8. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  以上で政府からの説明聴取及び参考人からの意見聴取は終わりました。  これより質疑を行います。  質疑に入る前に出席者各位にお願いがございます。本日も多くの委員発言を希望されると思います。つきましては、すべての方が発言の機会を得られるよう発言時間を制限し、一人一回五分以内におまとめいただくようお願い申し上げます。なお、希望者の発言の一巡後は再び質疑することを認めますので、御協力をよろしくお願い申し上げます。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  9. 馳浩

    ○馳浩君 御意見をいろいろとありがとうございました。川島局長にのみちょっと基本的な問題から伺いたいと思います。  安全保障と外交というのは、一種似て非なるものと私は思っておりますが、軍事力によって守られるべき国益というものの優先順位を、この東アジアにおいて今から伺いたいのは、アメリカ日本、韓国、北朝鮮中国ロシア、この六カ国において最重要ポイントというのをどういうふうに今現在考えておられるか。その軍事力によって守られなければならない国益というものがアメリカ日本、韓国、北朝鮮中国ロシアで、今現在の段階でこの最優先順位というのは何なのかという点の認識をぜひ教えていただきたい。
  10. 川島裕

    政府委員川島裕君) それは韓国にとって何を守るかということですか。
  11. 馳浩

    ○馳浩君 国益、それぞれの国にとってのです。軍事力によってという一応前提を置いて。
  12. 川島裕

    政府委員川島裕君) 帝国主義のころの、それこそ権益保護のために幾らでも外に軍隊を派遣してというころは、国益というものが国の外にあった時代だと思うんです。それは植民地争奪戦しかり。ですけれども、今はやはりそういう侵略というものはそもそも国連憲章で違法でございますし、その意味ではどこの国に聞いても、自分の軍事力というものは自分の国を守るものであるということの答えになるんだろうと思います。  ただ、基本的にはそうですけれども、例えばアメリカの場合の軍事的プレゼンスというのは、まさに同盟関係を通じて米国と非常に緊密な関係にある日本を守る、あるいはアメリカと緊密な関係にある韓国を守るという意味において、これは米国の外においても軍事力を使うということがあるわけでございます。そういう意味では、米国がまさに東アジアプレゼンス軍事的プレゼンスというのはそういうことで、米国の外側でいろんなことをやるということだろうと思います。  日本の場合は御承知のとおり、個別的自衛権の、憲法の範囲内でございますので、軍事力でもってあっちへ行って何をするとかいう話はそもそも想定していないわけでございます。  それから韓国について言えば、今、田岡先生のお話にございましたけれども、基本的には朝鮮半島の中において南北の対峙関係が続いている中で、何とか平和を維持するということで朝鮮戦争以来ずっとやってきたということだと思います。  ロシアについては、昔のソ連の強大な軍事力というものはまさに非常に弱くなったということは今お話があったわけですけれども、その中でこれもそういう昔の米ソ対決の時代冷戦時代と違って、まさに自分の国を守るということだということでいっております。それで、二年ぐらい前だったと思うんですけれども、私がロシアの相手方とちょっと政務協議をやったときに、新大綱の基本的な哲学と申しますかを話したら、それを聞き終わって、やはりロシアと全く同じだと言われまして、若干そういうふうになったのかなという、一種新鮮な驚きを抱いたことがございます。  それから北朝鮮については、北朝鮮の言う朝鮮半島統一というのは武力による南進ではないかということをずっと言われていたわけですけれども、実力という観点からすれば、田岡先生の今言われたようにそう簡単な話ではないわけです。そうなると、むしろこれまた基本的には自分の防衛ということなのかなと思いますけれども、この辺についてはいろんな議論があろうかと思います。
  13. 馳浩

    ○馳浩君 そこで、もちろん領土を守り国民を守っていく、それが国益につながるということなんだと思いますけれども、この東アジア地域の場合には、エネルギー資源の依存というのが中国を中心にして、今まで中東に頼っていたのが、これはまさしく一昨年から中国も準輸入国になったわけでありまして、中近東に頼らない石油資源等のエネルギー資源の大量供給、大量輸送の道を確保しなければいけないというのが、この安全保障上の一つのキーポイントになってくるのではないかと思うのですが、その点についてのコメントはありますでしょうか。
  14. 川島裕

    政府委員川島裕君) 確かに中東・湾岸のエネルギー源の話をする際に、先々の話として、中東・湾岸地方自体の不安定化よりも、そこでもって実はより多くエネルギー源を買うのはアジアの国だろう、そこの争奪戦が一つの不安定要因ではないかという若干未来予測みたいな議論はございます。  それから、その前に、いろんな国のシーレーンがみんな同じところを通るわけでしょうけれども、そういうことを心配する方もおられます。私は、一つきちんとどこかでやらなきゃならないのは、例えば南シナ海、あそこは非常に多くの国の領有権がふくそうしていて、それは南沙とか島があるわけですけれども、実はみんな島が欲しいというよりも、島をベースにどうやって海底を切り取るかという話でございます。そこはドンパチと申しますか、非常に昔風な武力行使を通じて解決というようなことではなくて、解決をきちんとやらなきゃならない時期というのがいずれ来るんだろうと思います。  今のところは、どの国もそれは自分のだと言いつつも、そこは平和的に解決しなきゃならないという問題意識は、当事国、中国ASEANみんな同じ感じだという印象を得ております。
  15. 馳浩

    ○馳浩君 ありがとうございました。
  16. 板垣正

    ○板垣正君 川島さんに伺いますが、今のお話とも関連をいたしますけれども、中国に触れる場合、外務省姿勢あるいは防衛庁の姿勢政府全体の姿勢とも言えますけれども、非常に遠慮深いと申しますか、さっきの御説明でも朝鮮の問題、台湾の問題その他、台湾の問題というのはあるわけですが、それとやはりこの中国の将来というものがアジアの、ある意味では世界安全保障の最大の問題になってくる。これは日米関係、日中関係、そういう中でもう少しこの中国の実態、端的に軍の近代化の問題、そういうふうな問題についてもう少し外交姿勢としてもはっきり触れていただいた方がいいんじゃないか。  中国の体制というのは、例えば最近、アメリカの国防総省から議会に報告されておる報告書がありますね。ああいうのを見ましても、確かに中国経済大国になろうというのが重点であって、軍備にやたらに金を使って軍事大国をすぐ目指すというふうなことではないであろうと。しかし同時に、経済大国になるということはやはり軍事大国におのずから方向としては行くであろうし、これからの見通しによれば、十年後ですか、千基のミサイルを備えるようになるであろうと。これは一つの報告でありますけれども、その他いろいろ伝えられているような動きで、もう少しそうした動きを姿勢としても明らかにしていく必要があるんではないか。  これは私の考え方でありますが、今もありました、大変なエネルギーの輸入国になってくる、あるいは食糧の問題でも、到底中国は賄い切れずして相当大きな食糧の輸入国になっていくであろう、こういうような見方、予測もあります。そういう中におけるこの中国の姿というものについて、もう少し端的な取り上げ方をしていただきたいという感じがいたします。これはまあ質問というよりも希望であります。  それから、森本参考人のお話、大変傾聴させていただきました。  この中で、これまた中国の位置づけという問題です。長期的に見て日米安保体制、いかなる同盟も永久じゃないんだと。いずれはこれが変わっていく、消滅していく。そういう中で日米安保体制というのは、それを基軸にしながらより緩やかな例を挙げてお話がございました。そういう中における中国の位置づけはどういうふうにお考えになっておられるのか。  それから、これは日英同盟との比較、我が国の場合は御存じのとおり、あれは明治三十五年ですか、イギリスとの間に日英同盟を結んだということが外交的には非常にすばらしい成果であったと評価されております。日露戦争を勝ち抜くことができたのもあの日英同盟というのが非常に大きな役割を果たした。当時の英国というものは、まさに七つの海を支配する勢力でもあったわけで、ほかの国と同盟を結んだことがなかった国がアジア日本とだけああやって同盟を結んで、しかもいろんな形で応援をしてくれた。この安定性というものが非常に日本の発展に幸いしたと思っております。  同時に、大正になりましてから、これは私はアメリカの意向が非常に強かったと思いますけれども、日英同盟が断ち切れる。これにかわって四カ国条約とか九カ国条約とか、何か余り焦点の定まらない。今から顧みますと、やはりアメリカ一つの対日包囲網的な締めつけ政策につながっていって、やがて日本は国際的に孤立の道に追い込まれる。これは我が国の政策選択の問題はありますけれども。  そうしますと、今の日米安保体制というのが、おっしゃるとおり、狭い意味の軍事的な面というよりは、むしろさっき先生お話のとおりに非常に幅の広い、きめの細かい安定的な基軸として私は非常に大きな意義を持っていると思います。その辺の比較論というようなところで御見解を承れればと思います。  それから、田岡参考人からいろいろお話がございましたけれども、やはり日本の周辺国はすべて物すごい愛国心を持っている国ですね。民族意識旺盛ですし、まさに建国に取りかかって大変な愛国心を持った国々。その面では日本という国は、戦後そうしたものが見失われ、かつ国の防衛すらまるで平和に反するんだと言わんばかりの流れの中で、いろいろな問題に逢着していると思います。  そういうふうに周辺諸国の意気込みというか、そういうものを考えますと、田岡参考人のお話ではロシアというのはもうだめなんだというふうな決めつけのような感じを持ちますけれども、果たしてそうかなと。ロシアは、ああいう姿にはあるけれども、例えばミサイル潜水艦については一流のものはきちっと残して、カムチャツカの方もきちっとやっているとか、あるいは領空侵犯じゃありませんけれども、あれに対する航空自衛隊の対応というのは、何かまた最近はふえているんじゃないですか。いわゆるロシアの定期便がまた復活している、こういう情報もあります。  あるいは中国にいたしましても、最近日本の領海にまた調査船を入れて、海上保安庁の船が幾ら言ったって聞く耳を持たない。つまり中国は、今海上権益を守る、それから国内を含めて国境線を守っていくんだと。こういう方向づけの中で、しかも予算はもちろん限られるにしても重点的に核の問題と。あの国は何しろズボンをはかないでも核はっくるんだ、持つんだといって、現に旧ソ連から援助を断ち切られても自力で開発をし、あるいはそうした形で既に一つの軍事大国という見方も成り立つくらいな姿は持っている。しかも戦後、周辺諸国と皆戦争しているんですね、中国という国は。  こういう立場、こういう現実を見ますと、ロシアにしても中国にしても、これは決して内情がどうだからというようなことで安易には考えられない。むしろ、我が方がこれに対する読み方の甘さというか一国平和主義に閉じこもっている。それについての警鐘を乱打しなければならないんじゃないのか、率直に申し上げましてそんな感じを持ちます。  以上であります。
  17. 川島裕

    政府委員川島裕君) 中国でございますが、不安定要因のところで、例えば朝鮮半島の今の状況と同じ感じで取り上げるのはいかがかと思ったもので、ちょっと迷ったのでございます。中国は御指摘のとおり、日本にとって、あるいはグローバルにいろんな意味で大変大きな存在であり、多分それは朝鮮半島の問題よりもはるかに長きにわたる話だろうと思っております。  それは例えば、エネルギーの話が出ましたけれども、食糧だってそうですし、それからグローバルで環境問題とかよく言いますけれども、あれもすぐれて中国環境問題と日本環境問題と非常に関連がございます。一つには規模、ずうたいが大きいという俗な言い方になりますけれども、国の大きさのゆえにいろんな問題がマグニチュードが大きいということはあろうかと思います。  そして、日本にとってもそれから中国自身にとっても望ましいシナリオというものは、要するによき隣人関係というか、そういうものをどうやって構築するか、かつそれが日本にとっても中国にとっても利益になるというものでなければ多分ならないんだろうと思うわけでございます。そういう観点から言えば、一時期の革命のドクトリンで農村が都市を包囲とか言っているころの中国よりは、やはり近代化というか、改革・開放のもとで繁栄を求める中国というのは、基本的にははるかにつき合いやすくなるんだろうと思います。  そうして、そういう中で軍事力の増大をどう見るかということは、これは注意を払わなければなりませんけれども、軍事的な解決をいろいろな局面でやるのは中国にとって引き合わない。むしろ、相互依存関係の網の目の中でそういう相互依存のルールで動くことが、中国自身にとっても重要であるとみずからが実感として感じる中国になっていくということは、多分すべての国にとって一番望ましいシナリオだろうと思うわけです。  中国の場合、何と申しましても、近世以来幾つかの国が併存しての国際システムがそれなりにあったヨーロッパ世界と違って、何千年にわたっていわば中華思想というか、周りの国というのはやや格下で、それが今度近世になると、逆に周りの国というのがみんな攻めてきた国だという百五十年の歴史という記憶のもとで、そういう国家問のシステムの中で、共通の目的というか利益を追求するという方向にようやくこれからなっていくのかどうかということだし、その中で日本としても大いに協力すべきは協力するということだろうと思います。  そういうシナリオから離れていったとき、心配じゃないかと言われればそれはいろんな心配はあるんだろうと思いますけれども、政策からすれば、やはり基本的には中国との関係をより進めていく。関与政策と言っておりますけれども、そういう方向だろうと思うし、少なくとも中国はとにかく危ない、こう指をさしてこれを封じ込めるべきだとかいう方向というのは、政府としてはとっていないということに尽きると思います。
  18. 森本敏

    参考人森本敏君) 板垣先生の御質問は、御質問そのものが大変な御見識でありまして、先生の御質問の中に既にすべての回答が入っていると思いますので、私ごとき者がつけ加えることはほとんどないのでございますけれども、私は以下のように考えております。  中国は明らかに冷戦後に、地域における大国としての覇権国の道というものを歩んでいるのではないかと思います。その覇権国としての地域大国にとって一番大きな障害は、日本海の向こうにある日本、その日本日米同盟というものによって支えられていることであると思います。  過去数年にわたる中国との国際会議の体験を通じて、あらゆる場所であらゆるときに中国が同じことを日本に対して言ってきているわけです。それの第一は、冷戦後の同盟あるいは冷戦後に日米同盟の強化と日米両国は言うが、同盟は既に冷戦思考であると。冷戦後は同盟よりむしろ多国間の協力プロセスに入っているのであって、冷戦後に同盟は今日的意義を持たないといって、いわば日米同盟そのものを無力化する外交攻勢をかけてきたわけです。  もちろん、これ以外に日本防衛費、日本の国際協力日本の安保理常任理事国入り問題、靖国神社問題あるいはTMDの配備等、あらゆる問題を中国が投げかけてきています。いずれにせよ、それらのすべての物の考え方の背後に、今申し上げたように、中国地域大国としての影響力を拡大する際、日本米国との同盟関係を通じた影響力の拡大は、中国の方向にとって極めて大きな障害になると中国は考えているに違いないと思います。  さて、そういう見方が正しいと仮にすれば、我々の同盟というものをどう考えるかということです。  先生御指摘のように、我が国は日英同盟という歴史的に見れば大変意味のある同盟を明治時代に結び、この日英同盟の道がなくなったときに日本は急転直下、国際社会の中でいわば困難な道に入っていったわけです。今日、日米同盟というものを考えた場合に、これを今後発展させるために今のような状態で果たして日本の将来はあるのかということを考えた場合に、やはり思いつくといいますか思い至るのは、今の日米同盟にそのまま日本がすがっていたのでは日本の将来はないと。  明らかにこの日米同盟の中で日本が思い切った同盟国としての協力というものに踏み出さないと、運命共同体としての国民国家の決意、そしてその能力というものが同盟の内容を歴史的に決めてしまうということであれば、日米同盟を強化するために新しい政治の枠組み、新しい法的な枠組みというものを日本国としてというか日本国民として考えていかないといけないということだと思います。  しかし第一に、仮にそれをしても、それではアメリカがどう考えてくれるのかということについては、今申し上げたようにこの地域における同盟を緩やかな協力体制の中に発展させていく必要があると思います。その際、中国をどう位置づけるかということについては、この緩やかな協力体制の共通項が、まさにその友好国や同盟国が共有できる国家価値や国益にあるとすれば、中国がそのような共通のものを共有できる限りにおいて協力関係に入ることができるが、一方において、一切共有できないということになると、場合によって中国がその緩やかな協力体制の対象になり得ないということはあり得るんだろうと思います。  しからば、どのような国益、どのような価値が共有できるのかというと、私はやはりアジアにおいては、発展する市場経済あるいは地域における経済発展、経済発展のための相互の協力という、どちらかというと経済協力地域発展のためのいわば市場経済的な協力関係、これが中国と日米を中心とする協力体制が共有できるまず第一段階の価値ということになるのではないかと思います。  それがもしできれば、冷戦後における同盟の目的というのは、特定の国にあるのではなく特定の様相にあるのであって、例えば日米同盟の対象がこの地域におけるある種の不安定というものにあるとすれば、その不安定をもたらすような特定の国の行動そのものが同盟の対象なのであって、特定の国が対象なのではないという概念が、もしこの地域において広範に共有できるのであれば、そのような価値、そのような国益を少しずつ共有できるという、そういうプロセスの中で中国を位置づければ、中国との共利共存といいますか関係というものは次の世紀に別にそれは難しくない。既に中国経済というのは、中国が何と言おうとも、明らかに我々が持っておる市場経済とおおよそよく似たシステムであり、これが広くこの地域において共有できる価値観なのであれば、その分野から中国との協力関係が進められるのではないかというふうに考えます。    〔会長退席、理事益田洋介君着席〕  それが、この日米同盟を中心とする協力体制の中で中国をどう位置づけるかということについての私の説明であります。ありがとうございます。
  19. 板垣正

    ○板垣正君 ありがとうございました。
  20. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) 今の御質問の一つは、ロシアがそうそういつまでもだめなものであろうかという御質問でございます。  私もそういうことはもちろん、当然逆の方も考えているわけでございます。ロシア人というのは、民族的に非常に国民性は堅忍不抜でございまして、この前の第二次大戦でも二千万人が亡くなった。にもかかわらず、その後復活をしてくる。また、技術水準も一部に高い、それから教育水準は概して高い、それに資源もあるという点がロシアが復活する一つのそういった片方のプラスの作用でございます。  同時に、市場経済で彼らが成功できるんだろうかということを考えますと、一つは、資源があるといっても、輸送コストがこれからべらぼうにかかるようなところしか余りない。しかも、国内の輸送ルートは全然よろしくない。それから、国民がやはり商品経済ということになれておらない。ですから、中国の場合には、改革・開放路線にしますと、もともと彼らは市場経済世界の先達みたいな人たちですから、すぐに商才を発揮して経済の方は伸びてまいりましたけれども、ロシアの方は、いまだに経済はどんどん低迷する一方というふうに至っております。  ですから私は、現在ロシアに起きておりますことは、かつてユーラシア大陸で何回か起きましたような大帝国の崩壊、モンゴル帝国が崩壊して今のような人口四百万ぐらいの国になってしまうとか、それからトルコ帝国も、あれもオットマン帝国はかつては現在のロシア南部から中東、北アフリカまで大阪図を持っておりましたけれども、それが今の小アジア版図に縮こまってしまうと。  それからイギリスだって、第二次大戦が終わりましたときにはまだ日の没するところのない大帝国でございましたけれども、それが現在は北アイルランドも蜂起して、ブリテン島にこもろうかというふうな議論まで起きるような状態になっている。意外と大帝国の崩壊というのは早いものだなというふうに考えます。ロシアがどちらになるかといえば、そう明るい方にはとても私としては考えられないところでございます。一九八九年以来今まで起きましたことを見れば、明らかにその方向にはなっておるというふうに思います。    〔理事益田洋介君退席、会長着席〕  それから、カムチャツカのお話でございますけれども、カムチャツカのペトロパブロフスクにおりますロシアのミサイル原潜、これがあるじゃないかというお話で、確かに現在ございます。ロシアとしては核を持っていることが、これが唯一の大国のあかしという形になっておりますから、あたかも浪人も刀はなかなか質入れしない、これだけが武士の誇りというようなところでございまして、なかなか核は捨てませんでしょう。  ただ、このペトロパブロフスクに関して申しますと、ここにおりますミサイル原潜は二〇〇〇年ごろにはムルマンスク正面、白海の方に集中をすると。カムチャツカのあそこはもう交通が全く不便なところでとても維持するのにコストがかかり過ぎますので、ムルマンスクの方に集中するというふうにロシア海軍の計画はなっているものというふうに承知しております。  それから、中国でございますけれども、中国に関しましては、かつて彼らはズボンをはかないで核をつくったじゃないかというお話で、これは確かに六〇年代、七〇年代、彼らはっきものにっかれたように、そういうふうに軍事的努力をしておった時代がございまして、私もあのころの中国というのは、本当にずっと軍事問題をコンスタントにウォッチしておりまして、あれはすごいなというふうに思いました。  当時は、日本防衛費が一兆円ぐらいのときに向こうは三兆円ぐらい使っておったというわけで、その名残は、現在も中国空軍が五千機以上の戦闘機を持っているのも、七〇年代、八〇年代につくって努力したものが全部残っておるわけです。ところが、そういう無理をしましたものですから、結局中国が停滞してしまう。それは数ばかりで結局技術が低い。ですから七九年に、おっしゃったようにベトナム戦争をいたしまして、ベトナムの民兵にこてんこてんにやられてしまう、一万五千人ぐらいの損害をこうむって追い出される。  そこで中国は、これじゃいかぬ、いよいよ近代化しないといけないということで目覚めまして、そのために改革・開放ということになったんでしょうが、今度はそれが行き過ぎてと申しますか、中国人の伝来の利己主義と官僚の腐敗というのがあっという間にまた復活してまいりまして「一切向銭看」、すべて金もうけであると、今度は拝金主義に全部走る。結局、昔の中国と何か余り変わらぬのじゃないのというふうな感じにもなってまいりました。それで、何とかそれを引き締めようというわけで、何か必死になって愛国連動みたいなことをやっておるんじゃないかというふうに私はちょっと皮肉な見方をいたしております。
  21. 赤桐操

    赤桐操君 両参考人並びに川島局長にお伺いいたしたいと思います。  先ほど来、大変示唆に富むお話を伺っておりまして、まことに感謝にたえません。アジア太平洋地域における平和の構築、なかんずく信頼醸成措置の具体化についてお尋ねをしたいと思っております。  現在、ASEAN地域フォーラムのもとで防衛政策の公表や防衛白書の作成、防衛関係者の対話、交流の推進等々の信頼醸成措置の具体化が進められております。これは、相互の信頼感を高めて紛争の要因を未然に除去しようとするものでありまして、我々がこれから先大きく努力をしていかなければならぬ地道な対策であろうと思います。  また、兵器移転等につきましても国連軍備登録制度を提唱するなど、ASEAN地域フォーラムの創設以前から我が国においては信頼醸成措置の具体化について努力をしてまいっております。  平和憲法も有しております我が国としては、当然域内国におけるところの信頼関係を高める措置のためのリード役を果たしていかなきゃならぬと考えるのであります。特に、一昨年の十二月に東南アジア非核地帯条約が署名されておりますが、これはASEAN地域フォーラムでも地域の安全強化と世界の平和、安定の維持に貢献するものと高く評価をされておると思います。  この非核地帯構想を北東アジアアジア太平洋地域に格上げしていくということを提唱しり、広い意味におけるところの信頼醸成措置と言える海上保安分野における協力関係、こうしたものについて努力を重ねていかなきゃならぬと思いますが、この辺についてのお考えを伺いたいと思います。
  22. 川島裕

    政府委員川島裕君) 確かにASEAN地域フォーラムは三年ちょっとたちまして、当初は非常にまだ手探りの状況だったわけですけれども、閣僚会議は夏に一回やるだけですけれども、その間に会期間のいろんな事務レベルの会合を積み重ねておりまして、それなりに三年間にいろんな項目をカバーしたというのが実感でございます。  例えば、信頼醸成につきましては、安全保障認識、つまりお互い安全保障をどういうふうに見ておるかという発想お互いに比べ合うということ自体が信頼感の醸成に資するわけですし、国防政策、これも疑い出せば切りがない紙にはなるわけでございます、本当に全部出しているのかねと。しかし、そうはいっても、まずは国防ペーパーをいろいろ出してみようということでそれなりに、当初は危惧したんですけれども、まあ動かそうかという感じにはなっております。それから、制服の方たち防衛の交流も動かすべきということでやっております。それから、国連軍備登録制度、これにつきましてもASEAN地域フォーラムの中でもやっておるということでございます。このほかに、そういう信頼醸成に加えまして、捜索・救難、これの分野でも訓練のマニュアルをお互いにどうするかというような話とかをやっております。  それから、域内にも結構国連のPKOを積極的にやっている国、マレーシア等がございまして、そういう分野でもこれは訓練コースとか情報、知識の共有等いろいろなことをやりつつある次第でございます。全くなかった地域にこういうものができたということ自体非常に意味があろうかと思っております。  それで、東南アジア非核地帯条約というもの、これも今お話がありましたとおり動き出したということで、平和と安定時の貢献すべきものだろうと思っております。  問題は、東北でどうかということでございますけれども、御承知のとおり東北アジアにおきましては核保有国が幾つかございまして、割に大きな国が核保有国でございます。そういう国が併存している状況で非核地帯というものをつくっていくというのは、そう簡単なプロセスではないのではないかという気がしております。ただ、朝鮮半島につきましては、例えば北朝鮮の核開発疑惑をきっかけとしてKEDOというプロセスを始めて、北朝鮮の核兵器開発の可能性をなくしていくという動きとか、それなりに個別の対応という意味で動いている部分もあるわけでございます。  いずれにいたしましても、ASEANがもともとは始めたプロセスですし、それからASEANにとってはやっぱり個々の一つの国で中国やりとりをするというのはなかなかしんどい、国の大きさが違うものですから。そこで、何と申しますか団体交渉というとあれですけれども、やっぱりASEANがまとまって中国やりとりをするというのが、非常にこういう場では意味があるんだということを言う方もおられます。これは発言やなんかで言う話ではございませんけれども、南シナ海のいろんな問題を抱えておりますので、ASEAN中国ということだと確かにそういう面もあるのかもしれないなという気はいたす次第でございます。
  23. 森本敏

    参考人森本敏君) 川島局長の御説明でほとんどカバーされており、つけ加えることはないと思いますが、過去数年にわたるアジア太平洋地域での各種の信頼醸成措置、あるいは予防外交のためのいわばトラック1という政府間の協議、及びトラック2という民間の協議、これこそアジア太平洋の冷戦後を物語るそのものであります。この数年の間、おおよそ各種の政治・安全保障面での協議が行われなかった週はないと言っていいぐらい、あらゆるところであらゆる時期にこの種会議を行っている。その点で、この地域におけるいわば広範な安全保障の対話あるいは協力の進展というのは大変目覚ましいものがあると思います。  他方、それではこのような対話や協力を進めて、後どういうことになるのかということについては非常に難しい問題があり、対話を進めてより具体的な合意をつくっていくというのが望ましいと考える立場と、いや、それは急にこの地域で各国が履行しなければならない権利や義務を明記したそのような枠組みをつくることは、やや時期尚早であるという考え方に大きく分かれていると思います。この点についての幅広いコンセンサスはまだできていないと思います。  さて、そういう前提で今の先生御指摘の非核地帯について考えれば、川島局長の御指摘のように、東南アジア非核地帯構想はもともと東南アジア諸国、特にASEANを中心としてあるいわゆるZOPFANという考え方、すなわち東南アジアに大国の影響力が入っていくことを排除するという考え方が根本にあって、いわゆる非核地帯構想というものができたんだろうと思います。  しかるに北東アジアは、局長の御指摘のように、中国あるいはロシアも極東部に核兵器を配備し保有しているということであり、日本米国の核の抑止機能というものに依存して国家安全保障を担保している。こういう状況の中で、北東アジアにおける非核地帯というものが実効的な、あるいは真に安全保障を高めるような意味のあるものになるかどうかということは、大変現実の国際政治の中でも難しい問題があると思います。  私はむしろ、先般の米ロの首脳会談において合意されたSTARTⅢという、STARTⅡ後の戦略核交渉に中国を招き入れるということにより、中国の核戦力を米国ロシアとの相対関係においてどのように取り扱うかということがまずあって、しかる後にこの北東アジアにおける全体の核の安定と抑止をどのようにすればよいのかということを、まず核保有国が第一義的に考えそして扱うということがあって、それでなければこの地域における非核地帯というのはややプロセスとして困難であり、かつ非現実的な面があるのかなというのが私の印象でございます。  以上でございます。
  24. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) 私への御質問は赤桐先生からは特別なかったかというふうに思います。
  25. 赤桐操

    赤桐操君 ありがとうございました。
  26. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 各先生、示唆に富むお話をありがとうございました。今のお話を繰り返すような形になるかもしれませんけれども、やはり二国間同盟と多国間における協力、これが相補って地域の安定を図っていくんだろうということはわかるんですが、川島局長もこのARFについては非常に積極的に評価をされておられました。そして一方、つけ足しと言ったら何か語弊がありますが、二国間ベースでも信頼醸成を一生懸命やっていますよというような言い方もされておりました。他方、森本先生のお話では、対話と交流が進展すれば地域的枠組みというものができ上がっていくけれども、まだ今はコンセンサスがありませんよというお話でございました。  ただ、この調査会でやっていることは、地域の安定と日本役割ということでもありまして、じゃそういう状況の中で日本として何をすべきなのかということが提言されなければならないだろうと思います。その意味で、赤桐先生から今もお話がございましたけれども、この北東アジア地域における信頼醸成措置の具体化についての日本の積極的な努力、これがあってしかるべきではなかろうかというふうに考えております。  そんな中で、例えば一昨年ですか、ペリー前国防長官がこのアジア太平洋諸国における防衛担当大臣の地域国際会議、これをやってはどうかというようなお話もあったと記憶しております。逆にこんなことを日本が積極的に提言し、そういう場から進んで地域的枠組みというものをつくっていく努力を日本としてはすべきではないだろうか、このように考えるものであります。この点につきまして、川島局長並びに森本参考人にお伺いしたいと思います。  それからもう一点、このようないわゆる政府間レベルの交流というか、そういうことももちろん大事ではありますけれども、やはり何も政府だけでやるわけでもないし、海外旅行もこれだけ多いことでもございます。  私は、最も民間で大事なのは、国際関係論あるいは軍事に関してかなり深く研究をされている方々、この交流ということではなかろうかなというふうに思います。もちろん外務省でも国際問題研究所とか防衛庁でも防衛研究所とかあるようでございますけれども、やはり定期的、継続的にこれを進めていくということが必要ではないか。日本では余りないようですが、例えば民間の研究者が政府の一定の地位に立って政策を進めていくということもあるわけでございまして、やはりこんなことからも信頼醸成へ一歩も二歩も進め得るんではないだろうか、このように考える次第であります。  この二点目につきましては、田岡先生も含めてお話を伺いたいと思います。
  27. 川島裕

    政府委員川島裕君) 北東アジアの問題なのでございますけれども、ASEAN地域フォーラムというものがあって、その中でも朝鮮半島の話が出るんですけれども、他方、北東アジア、例えば朝鮮半島の話をするにはちょっと関心の度合いが参加国によって異なり得る。例えば、タイ、インドネシアから見ている朝鮮半島日本とか中国から見ている朝鮮半島と、おのずからちょっと関心の深さというのが違うんではないかということはいろいろ言われているわけでございます。  北東アジアと申しますと、朝鮮半島の南北と日本中国米国ロシアかなということで、実はそういう枠組みをつくってみたらということで、既にやってはいるのでございます。ただ、そういう北東アジアだけで、しかも政府ベースでつくるのは、例えば一部の国の間では国家関係がそもそもないし、今やろうとしておりましてまだうまくいっていないんですけれども、北東アジア協力対話という場がございます。これは日、米、ロシア中国、韓国の五カ国の政府のみならず民間、いわゆるトラック2と申しますか両方が集まる。ですから民間のフォーラム、場でございますけれども、これに北朝鮮の関係者にも出席を毎回要請しているんですけれども、なかなかうまくいかないという状況でございます。  やっぱりいきなり政府ベースでその六カ国でというのもなかなか微妙なものなので、特に政府ベースではまず六カ国の前に、とにかく朝鮮半島につきましては四者会談というような話を一生懸命やっている次第で、それもまだなかなか動かない状況でございます。ただ、行く行く北東アジア間についての地域的なそういう何らかの対話と協力の枠組みというのは、常に念頭に置いていかなければならない一つの話だろうと思っております。  防衛担当大臣の集まる場、ペリーさんが言ったたしかあれだと思いますけれども、これは既にいろんな形で制服レベルでのそういう会合とかいうのはできております。そういう延長線として考えていくべきものだろうと思いますし、今の御指摘は私どもとしても意識はしていることでございます。やはり制服の集まりというものは、私はシビリアンのサイドですからあれですけれども、それなりの非常に好ましい効果をもたらすというのは、私のこれまでいろんな安保対話をやっての実感ではございます。
  28. 森本敏

    参考人森本敏君) この点も川島局長の御説明でもう全くカバーされているということなのですが、私は役所を出てからこのトラック2の作業にいささか加わってきましたので、経験を通じて感ずるところが二つあるんです。  第一は、アジア太平洋における信頼醸成措置について日本政府は大変熱心で、特に透明性の拡大、防衛白書の発行あるいは通常兵器の登録移転制度、PKO等、今までにないいろいろな役割を果たし、昨年は信頼醸成措置に関するISGというんでしょうか、いわゆる政府間会合の共同議長国をインドネシアと務め、大変成果の大きなイニシアチブを日本政府はとられ、アジア太平洋の中でもこの面での日本の積極的な対応は大変評価が高いと思います。  問題といいますか、私は、将来のことを考えると二つのことを考えないといけないのかなと。  第一は、信頼醸成措置は非常に重要なのですが、これをどんどん進めていくと、次の段階としてやはり予防外交ということを考えないといけない。どうしてもこの地域における不安定要因を未然に防止するための外交、防衛面での努力、この面で日本はまさに防衛力を使わないでこの地域における平和の安定をもたらすという意味において、予防外交の分野で日本は突出した存在とイニシアチブをとれるし、またとるべきではないかと。そのためには、やはり予防外交というものを、学問的にもあるいは政策面でももう少し具体的に探究してみる必要があると思います。その意味で、ややこの予防外交に関する努力については今後検討の余地があるのかなと思います。  もう一つは、私は冒頭説明の中でやや抽象的に述べましたが、この地域における信頼醸成措置というのは非常にたくさんの問題を議論している。ちょっと考えられないぐらい、人間の頭で考え得るすべての問題をこの地域で議論している。ただし、この議論をしてでき上がったものというのは、ほとんど各国の任意ベースというんでしょうか、つまり各国の自発的な努力に任せるという指針ができているというだけであって、各国がこういうことをやりなさいということには今はなっていないわけです。  例えば、防衛白書の発行一つをとってみても、各国が出すか出さないかは各国の自発的な判断に任せるということになっているわけです。こういう状況をずっと続けていきますと、いずれは来世紀に何か具体的な合意ができてくる可能性がある。そのときに、防衛白書を出すということや、あるいは防衛関係者の交流を進めるということぐらいであればそれは問題ないのですが、そこから先の分野に踏み込みまして、例えば海洋協力をやろうとか捜索・救難をやろうとか、あるいは共同して哨戒活動をやろうとかいうことになりますと、実は非常に難しいところに日本は入り込む。  今まで必死になって積極的にイニシアチブをとっていた、ところが自衛隊というものを領域外に出さないといけないような合意というものが来世紀現実の問題になったときに、そこではたと困って、実は我が国には憲法というものがありまして、今まで一生懸命やっていたのですが、ここから先はちょっと考えさせていただきますと。こういうことが果たして将来できるのかどうかという非常にジレンマに来世紀初めに入ってくるのではないかと思います。この二つの問題が常にジレンマとしてこの地域の具体的なイニシアチブの背後に存在するのではないかと思います。  さて、御質問のもう一つの民間レベルにおけるこの種協議は、これは非常に重要でございまして、特にアジア太平洋では、アジア太平洋地域における民間の研究所が政策決定に大変かかわってきています。我が国は最もかかわっていない国の一つでありまして、我が研究所もいろいろな政策提言をやっていますが、役所にお取り上げいただいたことなんというのはほとんどないわけです。大体がそういうふうな仕組みになっていませんで、私も役所にいるときは研究所から上がってきた提言というのは余り見なかったんです。  さて、こういう日本の政策決定のプロセスというものを考えた場合に、これから、トラック1とトラック2というんでしょうか、政府間のいろいろな交流と民間の交流というものをどのように調和させるかというのがやはり重要で、今は政府間の協議の内容というのは本当にある特定の方に御説明いただくということだけで、かなり広範な専門家の、政府がやっている活動に対するアクセスというのがないです。この点はやはり法律の枠組みも国家公務員法もありますが、もう少しトラック1とトラック2というものを交流させ、政策提言に民間の専門家をかかわらせるという配慮が必要なんだろうと思います。  第二に、そのためには日本に非常に少ない政策研究所というものをもう少しつくり、これを進展させるという配慮が必要で、既に文部省を中心として政策研究所が一、二つくられるということになって動いていますけれども、これをどのようにして日本の政策決定のプロセスの中に生かすかというのは今後の課題であると考えます。  以上でございます。
  29. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) 私は、信頼醸成につきましては、もちろん全く反対をするものではございません。しかし、私よりも軍事史をずっとやっております人間にとりましては、それがそれほどの決定的効果を有するかどうかをまた同時に疑問とせざるを得ないところでございます。例えばヨーロッパ諸国間では、もちろんイギリス、ドイツ、フランスなんというのはお互いに相手を十分に理解しておる。それから、特に第一次大戦前ですと、国王、王族同士、貴族同士は親戚関係でもあり、十分に個人的な信頼関係があるという場合でも、やはり国益が対立し、国民が興奮しますとあれだけの大戦争になっていくわけですから、それだけの効果があるのかなというふうに片一方で思います。  ただ信頼醸成、それから自衛官と各国の軍人等の交流というのは、特に自衛隊の幹部にとって教育的価値はかなりあるもので、もちろんやって何も悪いことはない、少なくとも何もしないよりはましなものであろうという程度のことかというふうに思っております。  それから、研究所に関しましては、私は若いころにアメリカのワシントンにありますCSIS、戦略国際問題研究所研究員をいたしておりました。また、十年ほど前にはスウェーデンのストックホルム国際平和研究所の客員研究員もいたしておりましたので、そういうところにおりますと、日本にもやはりこういうものがあった方がいいなということはつくづく思わざるを得ません。特に、SIPRIに関しましては、これは政府が金を出しますと、政府の影響があるというわけで、中立性を妨げるのではないかというわけで議会の費用であれはやっておりまして、議会立の研究所であります。その方が政府立よりはやはり若干なりと中立性が高まるというふうに考えます。  特に日本では、よその国でもそうなんですけれども、防衛政策に関しまして政府の当局は、何か政策を決めて実現したいということに合わせまして情報を出すとかいうことになります。しかも、それを出すのはおおむね防衛当局者でございますから、都合の悪いことはやはり出さない。都合のいいことばかりできるだけ並べたがるというわけで、脅威を過大見積もりするということは、これはもうどの国でも実はありまして、お互いに過大見積もりをするものだから軍備競争になってしまうという面がございます。  ですから、そういったことを防ぐためにも政府立というよりはむしろ議会立のような研究所でもつくり、そこで各国の軍事情勢を冷静に見張る、それからよその国の人たちもそこへ来てもらうということは大事なことで、SIPRIのような機関をつくられることは私は非常に結構なことであるというふうに考えております。
  30. 笠井亮

    ○笠井亮君 日本共産党の笠井亮でございます。  お三方、どうもありがとうございました。それぞれに一問ずつ伺いたいと思います。  最初に、川島局長に伺いたいんですけれども、最近のアメリカのコーエン国防長官の発言で大変話題になりました。朝鮮半島統一後も米軍十万人の体制を維持するということで、来日したときに若干修正したんだとかいろいろな見方もされたりもしたんですが、私はクリントン政権のある意味で本音を言ったのではないかなというふうに受けとめたわけです。  実際に、四月十五日だったと思うんですけれども、上院の外交委員会の東アジア太平洋小委員会でキャンベル国防副次官補ですか、証言をしたということで報道もありました。その中で要するに私が読み取ったのは、米国の利益を守って促進する我々の戦略という位置づけの全体の話の中で、無期限の将来にわたって現在の在日米軍の水準を維持するという趣旨のことが言われて、そういうことを含む米国の誓約というんですか、誓いがコーエン国防長官が来日したときに再確認されたというふうに言っているわけなんですけれども、そういう話が長官来日時に実際にあったのかどうか、事実かどうか。  それから、政府がそういう中で、中長期的にはとか予見し得る将来とかというようなことも含めて、この削減問題が言われてきたと思うんですけれども、米側のキャンベル証言が事実とすれば、日本側から言わない限り無期限、永久に在日米軍の削減はないということになってしまうと思うんですけれども、その辺の事実関係と日本政府としての認識を例えればと思います。  それから、森本参考人に伺いたいんですが、二十一世紀に向けてアジア太平洋の軸となる日米同盟ということで興味深く伺いました。ソ連崩壊後の性格変化も含めて認識されているということだと思うんですけれども、今日の日米同盟性格と、それから端的に言ってガイドラインの見直しとの関係ということで私は伺ってみたいと思うんです。  私が理解しているところでは、参考人がおっしゃったことというのは、従来の日米同盟目標の対象というのはいわば共通の敵というんですか、共通目標、仮想敵とでも言ってみればいいのか、ある意味ではそういうものであって非常に具体的だったと思うんです。  今度は、参考人がおっしゃったのは、要するに共通の価値とか国益の共有ということをおっしゃっていると思うんですけれども、かつてのソ連があった時代と比べて、そういう意味では特定の国でなくて様相も含めてというお話もありました。それから、民主主義とか自由とか人権とかアジア太平洋の平和と安定とかという意味では、かつてかなり具体的だったのに比べるとかなり幅広い解釈があり得るような、そういう価値とか国益の共有の前提に立った今日の日米同盟ということであるのかなというふうにお話を伺いながら理解をしたんです。  そういうお考えに立つと、参考人も同盟が未来永劫に続いた例は過去にもないんだということも言われましたが、将来そういう日米同盟の関係の中で、かなり幅広い解釈の上に成り立っている共通の価値、国益がありながら具体的問題がぶつかってくるわけです。  そうすると、かなり具体的問題に直面したときに、日米間でも一致しない可能性というのは相当出てくるんじゃないかというふうに思うんですけれども、そういう具体的になってくると一致しないような可能性もある国益だとか、それから共通の価値とかということを前提にして、アメリカの国益に立つ戦略観に合わせてガイドラインの見直しを一方では進めていくということになると、日本の国益の立場とぶつかる問題というのは実際には出てくるんじゃないか。  つまり私なんかは、ガイドラインの見直しによって憲法が明確に禁じているような集団自衛権の行使につながる道に進むというのは非常に問題だと思うんです。つまり、かなり幅広い前提に立った上で具体的なガイドラインで日本が縛られていくというか、日米で共同していくということで見直しをしていくと、その辺の矛盾はどうなるのかということが率直な疑問としてあるんですけれども、御見解をいただければと思います。  それから田岡参考人には、日本周辺の情勢分析ということでリアルにかなり冷静な分析をされているというので大変多くの共感もさせていただいたんです。  伺いたいのは海兵隊の削減問題なんですけれども、海兵隊をめぐっては沖縄の海兵隊の役割も含めて、日本防衛とかかわりがなくていわゆる殴り込み部隊だということが一方では言われたり、もう一方では海兵隊は実際は役に立たないんだということも含めて、いろんな議論が言われていると思うんですが、参考人の海兵隊削減論、撤退論についてのお考えについてどうかということを端的に伺いたいと思います。
  31. 川島裕

    政府委員川島裕君) まず最初の点でございます。  お話にありましたキャンベル次官補代理のやりとりというのは私読んでおりませんので、ちょっとこれは御容赦いただきたいと思いますが、基本的には米国はこれまでも、昨年の日米安保共同宣言を初めとしていろんな機会に、我が国における現在の水準の兵力を含めてアジア太平洋地域には約十万人の前方展開能力を維持するという基本的な政策を表明しているわけでございます。  先般来、オルブライト国務長官、ゴア副大統領、そしてコーエン国防長官と相次いで訪日があったわけでございますけれども、いずれも現時点で今申しました基本的な政策を見直すことは考えていないということを言っております。その意味で、何か変化があったのではないかという御質問であるとすれば、それはそういうことではないということでございます。  それで、朝鮮半島が仮に統一とかいろんなことが言われております。ただ、基本的には米国のこの地域におけるプレゼンスというものが朝鮮半島があるから必要で、朝鮮半島の必要性がなくなるとなくなるというような、一対一でつながっているものではないんだろうと私は考える次第でございます。
  32. 森本敏

    参考人森本敏君) 御質問の趣旨を私なりに解釈してお答えすれば、先生の御指摘のように、日米同盟冷戦後における目的というのは、同盟国が共有する共通の価値とか国益、その中にはもちろんこの地域における平和と安定という重要な問題が日米両国にとって重要な国益である限りそれが入ると思います。  それは冷戦期における同盟というものより広がったのではないかという御指摘ですが、広がったという意味をどう考えるか。例えば、共通の敵あるいは共通の軍事脅威というものに対応するものとして位置づけられていたかつての日米同盟というものをそのように説明すれば、説明の文書が非常に多くなるので、目的やあるいは機能が広くなったというふうに説明できるのかもしれませんが、私はむしろそういうことではなくて、日米同盟の持っておる対象というのが非常に複雑で多岐にわたるようになったということなのではないかと思います。  例えば、北東アジアにおける不安定な様相がもし生起して、その結果この地域における海域の交通路が非常に不安定になり、例えば一般の方々が自由に航行できなくなる、あるいは避難民の方が流れ出てくる。それをどういうふうにしてその海域の安定を維持するかということがもし日米同盟の対象になり得るとすれば、つまりそういう意味では日米同盟の対象というのは、大変複雑な様相になるということを先ほどから申し上げているわけです。  もしそういうことになるとすれば、それでは日米が一致しないときはあるのかというと、私は一致しないことがあるのは当然だと思います。大体同盟国といえども、すべての価値とすべての国益が全く一〇〇%一致するなどということはあり得ないわけでして、米国にとっての国益と日本の国益が一致しないことは当然あり得るわけです。  問題は、ガイドラインというのは、日米両国が共有できる価値あるいは国益というものを念頭に置いた場合に、どのような協力が日米両国でできるかということについて、かつて一九七八年に設定した現在のガイドラインを、今日冷戦後の情勢に適用できるように見直すということなのであって、そのガイドラインの見直しには日米両国が共有しない国益の部分は私は入っていないと思います。  その意味において、ガイドラインというのは、あくまで日米両国が共有できる双方の関心と双方の国益を、両国にとって最も最良の追求の仕方をするためには、どのような協力が具体的にあり得るのかということについての指針を決めるということです。私がたまたま外務省の北米局にいるときにこのガイドラインの作業が行われたのですが、日本の領域がそもそも他国によって武力の攻撃を受けるということを念頭に置いた現在のガイドラインより、我が国も含めて我が国の周辺で不安定な状況が起きたときに、日米両国がどのように対応するのかということを念頭に置いた今回のガイドラインというものは、日米両国が双方に持っておる個別の国益で、両国が共有しないものについては入っていないということです。そういうふうに解釈するのが正しいのではないかと思います。
  33. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) ただいまの笠井先生からの御質問の重要なポイントは、アメリカの海兵隊は、これは攻撃部隊であるのか、それとも役に立たないのかという御質問であったと存じますけれども、実はこれは両方とも正しいと。専ら攻撃部隊でございますけれども、しかし実は役に立ちそうもないという、両方が正しいというのが私の見方でございます。  もちろん、海兵が攻撃部隊であることはもう明らかであります。海兵隊の部隊は遠征軍、エクスペディショナリーフォースという名前がついていて、遠征するためにおるんでございまして、沖縄を守るということは別に考えておりません。日本を守るためですと、もちろんロシアの侵攻が最も予期される北海道におらぬといけませんですが、そこから三千キロも南の一番安全そうな沖縄におったということを見ても、沖縄にだれも攻めてきそうにないわけですから、沖縄を守っているわけじゃ毛頭ない。  これは、八二年の九月二十一日のアメリカ上院の歳出委員会での質問に答えまして、当時の国防次官カルーチ氏が答えております。沖縄に海兵隊を置いて日本を守る必要はどこにあるのかという趣旨の質問に対しまして、いや、沖縄の海兵隊は日本防衛のために配置されているのではございません、あれは西太平洋、インド洋全体に派遣するためにあそこに置いておりますと。これはまさにそのとおりで、正確な答弁をカルーチ氏はいたしております。  ただ、それで問題はもう一つ、じゃ、沖縄におって役に立つのかどうかというのも一つの重要なポイントでございまして、アメリカは海兵三個師団を持っておりますけれども、そのうち本土に二個師団、沖縄に一個師団です。ところが、船の方がどんどん減ってまいりまして、現在一個師団を運べるものがない。そうすると、船が一個師団分で海兵三個師団とはおかしいじゃないかと。あたかも騎兵隊の乗り手が三百人、馬が百頭というふうな話ですから、こんなものはおかしいじゃないかということは議会なんかでも時々言われております。  ところが、今のところ日本には一個師団という名前でおって、しかし実際乗れる船は佐世保に四隻だけ、これで二千人程度が運べる。ところが、沖縄には海兵が一万八千人、岩国を入れますと二万一千人いるわけですから、これは何のことかと言う方が当然おります。航空機でそれを運ぶのかというわけですけれども、航空機だって空の飛行機をわざわざ本土から持ってきて、沖縄でピックアップしてどこかへ行くぐらいであれば、いきなり本土から海兵隊を、しかも最精鋭の第一師団、第二師団が乗った方がいいに決まっております。ロサンゼルスよりまだ南のサンディエゴに母港がありまして、そこに揚陸艦が十数隻おりますけれども、それも出航するときに空船を沖縄へ回してピックアップするわけがないんで、当然第一師団を乗せて出るということになっております。ですから、あれは実際上もう遊兵に近い状態になっている。  そこで、海兵隊もそれをもちろん十分承知であります。ですから、師団というのは名前だけで、普通はどの国の編成でも大体そうですけれども、師団というのは三個歩兵連隊、一個砲兵連隊、それから戦車一個大隊ぐらいから成るんです、海兵の場合には。ところが、実は沖縄のものは海兵一個連隊で、本来三個連隊あるところに一個連隊しか歩兵はおりません。砲兵もそれに従って一個連隊あるはずのところに一個大隊十八門しかありません、戦車はゼロですというふうな実に貧弱な、アメリカで言いますとスケルトン、骸骨師団という形にいたしまして、形だけが残っておる。しかも、その歩兵連隊及び砲兵大隊はすべて全員が六カ月交代で、本土の第一師団、第二師団から派遣されている。  これは、もう日本でそういう組織をやったらスキャンダルで、恐らく行革対象の第一に挙げられる。例えば役所で申しますと、局長がいて、審議官か何かはいるけれども、あと一人の課長しかいませんと。しかもその課長は、どこか別の局から時々交代で勤務しておりますと、何かそういった妙な形のものになっている。  ですから、来させられる部隊は大変な迷惑でして、一個大隊単位で来るんですけれども、荷づくりをして移動して、沖縄へ着いたら荷ほどきをして、ちょっと訓練するとまた荷づくりして帰らぬといかぬ、六カ月間家族と別れておらなくちゃいかぬ。しかも、沖縄は訓練も極めて不自由なところで、狭過ぎて制約が多い。何のためにああいうところにおるのかということは、もうアメリカの海兵隊の雑誌、マリーン・コー・ガゼットにもしょっちゅうそういう論文が堂々と出ております。言論の自由にはびっくりするんですけれども、沖縄勤務の将校の、沖縄から撤退せよという論文が幾らでも載りますし、私も海兵隊の人と話しますと、大佐以下はほとんど全員沖縄撤退論であるというふうなことを言う人もいる。  ただ、それでもやめられないのは、やはりそういう組織が現に残っておりますから、だから、何らかのきっかけがないと、ポストもありますし、またいろいろ政治的影響が出るということでなかなかやめられないということです。  それから、もう一つ言われますのは、北朝鮮に対する抑止力がなくなる、そうすると北朝鮮の攻撃を誘発するんだということです。  ただ、これは怪しげな話でございまして、実は韓国にはアメリカ陸軍の第八軍、それに第二歩兵師団以下がおります。ですから、北朝鮮がもしも攻撃をすればアメリカ軍とぶつかり、アメリカ軍の全面的参戦を招くことは火を見るよりも明らかである。そうなると、航空優勢は韓国、アメリカ軍が圧倒的なわけですから、ピョンヤンあたりは猛爆撃されます。多分突っ込んできても、まさに韓国軍の言っている作戦計画五〇二七号のようにソウルの前面でやられてしまって、結局北朝鮮が統一されてしまうということはもう明白です。だから、北朝鮮がよほど非合理でそういう計算もできない、自暴自棄で突っ込んでくるということを前提といたしますと、これは沖縄におるのが抑止になるという理屈も成り立たない。  抑止というのは、あくまで相手が冷静に計算をするから抑止になるわけで、相手がむちゃくちゃなことをするんだということになれば、韓国から、DMZから千三百キロ沖縄までありますから、そんな遠くにおる海兵隊が、しかも輸送手段もどうもあるかないか怪しげだというようなものが抑止力になるわけがない。何だかんだ無理な理屈を唱えて組織の温存を図っているのじゃないかと。  あと、台湾防衛とかいうことまで中には言う人がおります。ところが台湾は、申しましたように、自分でも金門、馬祖まで確保するぐらい制海権、制空権をずっと握っております。ですから、別に台湾アメリカが守る必要もないし、仮にもしもあるとしても、それは台湾海峡の制海権、制空権が勝負であって、海兵隊が中国の本土に上陸作戦をするということは、どう考えてもありそうもないわけです。ですから、いろいろまじめに考えてみても本当に意味がない。私も海兵隊の多くの将校と同じように、あれは要らぬものだなと。ですから、あれは日本からうまく押せば下がるものだろうというふうに思います。  もう一つ日本では、今度減らせというと同盟に響くということがよく言われますけれども、これは実は怪しい話でございます。同盟と駐留とは本来はまた別の問題でして、アメリカは五十カ国ほど同盟国を持っておりますけれども、そのうち一万人以上の兵力を置いていますのは、ドイツ、日本、韓国、イタリア、イギリス、この五カ国。これはいずれも第二次大戦後の占領下もしくは第二次大戦中の来援の結果、既得権が生じた。あとは、少数の兵力を置いていますのが、少数というか二百人以上一万人以下のところが十カ国ほど、それから二百人以下のところが七カ国、それから全くいないという国も二十八カ国ほどございまして、とにかくいないというのがむしろアメリカ同盟国の普通の姿です。  歴史的に見ましても、日英同盟はもちろんイギリスの海軍基地があったわけでもなし、日独の同盟もそうでありました。日本に戦前駐留しましたのは、あの生麦事件の後、文久三年に老中が変なことを言って認めちゃったものですから、それ以来明治八年まで横浜にイギリス軍、フランス軍が駐屯しておったというのが戦前の例でございます。  戦前の場合には、駐兵権というのは同盟国に対するものというよりは、むしろ日本が北京の公使館地域に北清事変の後に持つとか、満州の満鉄沿いに持つとか、併合前の韓国に一時持つとか、そういったふうに半植民地の支配の手段というところがございました。現在でも、パナマとかそれからキューバには、キューバはアメリカ同盟国だとはとても言えませんけれども、あそこにも一応千六百人ぐらい置いているのは、これはまさに十九世紀的駐兵権の残滓であろうというふうに思っております。  ですから、歴史的に見ても、現在のアメリカを見ても古今東西を見ても、別に駐留を減らしたところで同盟がだめになるわけじゃなくて、仮に全くおらなくても、海上自衛隊の基地、横須賀、佐世保に向こうの船が来るなら、どうぞお使いくださいというだけで十分済む。アメリカは、海外に海軍基地を持っていますのは、日本の横須賀、佐世保と、それから先ほど申したキューバのグアンタナモとの三カ所だけで、ヨーロッパでは全部同盟国の港に入れてもらって、そこで水を入れたり休んだりする、これが普通の対等な同盟国の姿でございます。  日本国民も、世論調査をうちの社でもやりますけれども、それを見ますと、同盟の維持に賛成か反対かと申しますと、大体六十数%から七〇%が安保条約の維持に賛成。同時に、米軍を減らすかどうかということですと、これは削減にまた六十数%から七〇%が賛成と。三分の二ずつが同盟を維持しつつ米軍を減らせということを言っております。ですから、特にどう見ても軍事的に意味のなさそうな海兵隊、しかも沖縄では兵力の六三%、それから沖縄にあります米軍基地の七五%をアメリカの海兵隊が占めているわけでございます。だから、とにかくまずこれを何とかすると。ごく一部残してもいいでしょうけれども、もちろん船に乗れる二千人ぐらいは残しても構いませんでしょうけれども、それ以外はおってもしようがないわけです。ですから日本としては、削減の交渉をできるだけ早くまじめにやるべきであろうというふうに私は考えております。
  34. 益田洋介

    ○益田洋介君 まず最初に、川島局長にお尋ねを申し上げたいと思います。  先週十七日、参議院の沖縄特措法の特別委員会において、私は安保の適用対象ということについて若干の質問を外務大臣にさせていただきました。尖閣列島については、昨年来アメリカの高官が繰り返し安保の対象になるんだ、ただし政治的にはうまく中国との間の話し合いを進めなきゃいけないので急にどうこうするということはないと。だから、アクションはとらないだろうという立場なわけですが、一方、竹島について安保条約の対象になるのかどうかという質問をしましたところ、外務大臣は、日本国有の領土であることは間違いない、しかし施政下にないので安保条約の適用はないんだと言ったので、それはおかしいんじゃないかと。  これは、昭和四十四年の衆議院の内閣委員会でも論議され、四十六年の参議院の予算委員会でも論議された。それ以来、不思議なことに一切論議がなされていないわけです。条約局長の一貫した、外務省と言った方がいいんでしょうか、一貫した考え方、外務大臣が言われたこと、私はこれは間違いじゃないかと。沖縄はあの返還交渉のときに何が返還されたかというと、これは領有権の返還でなしに、条約によってアメリカに移転していた統治権が返還されたのだというのが一般的な考え方であります。  韓国の場合は、竹島に関しては条約に基づいてもいないし、占拠しているだけでございますから統治権なんかもともとあるわけがない。ですから統治権は、私は日本が持ち続けているのであるし、したがって日本の施政下にある。しかし、占拠しているので要するに行使できない。こういう状態で、集団的自衛権と似たような状況になっているんだと思いますけれども。  それから、一つおもしろいことで、局長というお立場だとやはり外務省の統一見解ということになるかもしれませんけれども、私が発見しました判例があるんです。残念ながら、これは最高裁の判例じゃなくて東京地裁の判例で、昭和三十六年十一月九日、「課税権の国際法上の限界-竹島の地位」、こういうふうな副題がついた判決が下されました。  どういうことかといいますと、原告は、昭和二十九年二月二十六日に採掘権を許可されている、竹島において。登録もなされている。ところが、二十九年五月以降、竹島は韓国によって占拠されたので実質的に採掘作業を行えなくなった。しかし、課税はされておりまして、課税処分はしたがって違法であって、それによって莫大な損害をこうむったので、得べかりし利益ということですが、内閣総理大臣の義務懈怠によるものだとして、国に損害賠償を請求した。  判決はどういうことかといいますと、日本国の統治権は日本国民及び日本の領土内にあまねく及んでいるんだと。国際的二重課税防止の見地から、課税対象である鉱業権の所在地である竹島は、日本国の統治権の一作用としての課税権が消滅する理由はないんだと。鉱区所在地域に対する統治権が失われたわけではなく、その行使が事実上不可能になったにすぎないんだから、鉱区税の賦課徴収権は消滅していないんだと。したがって、納付義務がないとの確認を求めた部分は却下されましたし、損害賠償請求は棄却された。  明らかに竹島に日本の国の行政権の一部は残っている、こういう状態であれば施政のもとにないということは間違いであって、施政のもとにあるというふうに私は主張しました。そうなるとどうなるかというと、要するに安保の適用対象になってくるんだと。日本の自衛隊がなかなかPKOだのPKFだと言って出動するのを嫌がるのであれば、アメリカに助けてもらえばいいじゃないですかと。そのために大変膨大な費用を日本は負担している。ちょうど沖縄の基地の問題を話し合っていたところですから、沖縄にただプレゼンスしているだけじゃなくてアクションをとってもらったらどうですか、そういう話をしましたけれども、快い返事は得られませんでした。  この件についての見解を局長からお伺いさせていただきたいのと、もう一つ、小さなことですが、いただいたペーパーの中で3の(1)、QDRというのがありますが、これは今作成中だといいますが、どこが作成して、QDRそのものはアブリビエーションだと思いますが、何のアブリビエーションなのか、この件を局長にお伺いしたいと思います。  そして、森本参考人につきましては、いろいろな勉強をさせていただきました。そして私は、一九七八年に出たガイドラインの見直し作業というのは、これから沖縄問題それから日米安保の焦点になってくるというふうに考えているわけですが、五条事態、六条事態日本有事、極東有事、これをやはり包括的に見直さなければならない、集団的自衛権の取り扱いを克服しなきゃいけないと。これは参考人が書かれた「朝鮮半島日本安全保障防衛論集」、昨年の九月に発行された文書を読ませていただいたわけです。  そして、さらに続けて、内閣法制局は法の番人として、一度国会で説明したからには論理の一貫性を持たせようとして非常に無理をしている。憲法解釈は五〇年代に日本の置かれた国内政治上の事情によって生まれたわけなので、いわば政治解釈である、真の文理解釈とは言えないんだというふうに主張されている。さらに結論として、現実問題として個別的自衛権と集団的自衛権の差は限りなく存在しないと。この結論についてもう少しエラボレートした御説明をいただければということでございます。  それから、田岡参考人につきましては、私もナイ・イニシアチブを読みまして、半島の緊張の緩和というのも近いんだということを彼は述べております。二つ目としては、先ほど田岡参考人もるる説明をくださいましたが、中国はもう脅威じゃない、むしろアメリカと同盟関係になってくるんだと、これからは。そうすると、二〇〇三年か二〇〇五年あたりにはもう海兵隊が沖縄に駐留している理由は全くないんだと。もう今でもないんだということを田岡参考人はおっしゃいましたけれども。  それから、もう一つ彼が挙げているのは、これは興味深いんですが、戦闘の方法が変わってくるんだと。湾岸戦争で十四名でしたか、海兵隊の戦死があると、戦死した段階で議会はもう撤退を命令した、ソマリアのときだったですか。そういうことで海兵隊そのものが、これからの近代戦といいますか戦闘体制の中に組み込まれていく必要もないという、この三つの理由から沖縄の兵力削減は当然のことだと言われていたわけでございます。  コンテーンメントよりもエンゲージメントで中国についてはいけばいいんだ、こういうような論理でございました。タイミング的に言うと、アメリカはその辺から兵力を撤退することを実際に考えているのかどうか。この辺についての見解。  それから、森本参考人が非常に興味深いお話をされまして、日米同盟のほかに韓国とオーストラリアを含めた緩やかな協調関係が望ましい、またそれは可能であるというふうな御発言がありました。  私、昨年オーストラリアに行きまして、十三年ぶりに政権が交代した直後でございまして、国防大臣とも会っていろいろと意見交換をいたしました。オーストラリアは御存じのとおり、アメリカとは毎年海上の共同訓練をしているわけでございます一私がした質問は、日本の基地の一部、特に沖縄の基地の一部をオーストラリアに移転するという話し合いがアメリカと持たれたのかどうかと。それは多分ないと思う、自分が就任してからはないと。  私は、オーストラリアが、どの部分が基地の候補になるかわかりませんけれども、地政学的に見て、あるいは地経学的に見て、沖縄にかわるものかどうか、東アジア太平洋地域安全保障をこれから充実させて維持していくために。その辺の参考人の専門的な御見解をお伺いしたいと思います。
  35. 川島裕

    政府委員川島裕君) 竹島の話の前にQDRという簡単な御質問の方からでございますが、これはカドレニアル・ディフェンス・レビューということで、要はカドレニアル、四年ごとということでございます。四年ごとに国防計画の見直しをするということで、大統領の任期初年度にQDRというのをやるようなことが決定したのは九五年でございます。したがって、今まで出たことはなくて、今度初めて五月十五日に、いわば米国において最初の見直しに関するQDRが国防長官より議会に提出されるということでございます。  そこで、竹島の話でございます。これは、必ずしも御納得のいく御答弁と申しますか、お答えになるとは思わないのでございますけれども、先生から見れば。私も、あのやりとりのときに座っておりましたものですから。あのときの大臣の答弁を繰り返させていただければ、要は竹島は我が国の固有の領土でありますと。しかしながら、残念ながら事実の問題として、韓国による占拠が行われていて日本の施政が行われていない地域でありますということでございます。補足すれば、それは権利に関する話ではなくて、事実上占拠が行われてしまっていて、そういう状況のもとで韓国との間で係争地域になっておるということでございます。  そういう日本の施政が行われていないという地域であるので、日米安保条約第五条では、「施政の下にある領域」ということが書かれてございますので、日米安保条約第五条の適用はないという考え方でございます。一方、竹島は我が国固有の領土である、法的には我が国が施政を行う立場にある地域であるという立場を私どもはとっております。  ただ、今の残念な状況をどうやって解消するか。これは、まさに韓国とのこの係争地域に関する問題、この領土問題について主張を続けて、そして我が国の領土として問題の解決を図るということに尽きるのではないかと考えておる次第でございます。施政が行われていないということ、したがって今の段階で日米安保条約の五条の対象地域ではないということと、しかし領土権、権利についての我が方の立場は、これは明確なものであるというのがこれまでとってきた立場でございます。  判例につきまして私も聞いておりまして、承ったんですけれども、まさに先生も御指摘のとおり、最高裁のではなくて地裁のところのものでございました。それで、一つの考え方が示されているわけですけれども、私どもの政府としての竹島に関する立場というものは、私が今申したところでずっと対応してきているということで御理解をいただきたいと思います。
  36. 森本敏

    参考人森本敏君) 御質問の第一点目について言えば、我が国がさきの大戦後に制定し発布した我が国の憲法第九条の条項は、多くの専門家が指摘しておられますように、一九二八年の不戦条約と一九四五年、さきの大戦が終戦を迎えた年に、五十一の国と代表が集まって署名された現在の国連憲章を基礎にしてつくられたものであると考えられます。  しかるに、その後、一九五〇年の六月、突然朝鮮戦争が勃発し、この年七月にマッカーサー、時の在日米軍司令官が朝鮮国連軍司令官を命ぜられたその日に、マッカーサー司令部より我が国に警察予備隊の編成が指示され、それに基づいて一九五四年に誕生した自衛隊。自衛隊ができるまで、もちろん一番最初は警察予備隊で、それからそれが保安隊になって自衛隊になったのでございますが、そこまでは憲法第九条の解釈の中で、個別的自衛権と集団的自衛権というのはそれほど重大な解釈の問題にならなかったのだろうと思います。  といいますのは、我が国はそもそも自衛力をその当時は持っていませんでしたので、もうそういうことを議論する余地さえないということだったと思います。    〔会長退席、理事板垣正君着席〕しかるに、今申し上げたように、警察予備隊の後、保安隊になり、自衛隊ができ、一九五四年に自衛隊法が制定されたときの国会の審議の中で、そもそもこの自衛隊が違憲であるかどうかという議論に対する政府説明として、憲法第九条の規定は、我が国が個別的自衛権を国として擁するということはいわゆる主権国家として持っておる固有の権利であると。  すなわち、いかなる国の憲法であるといえども国家が持つ固有の権利である個別的自衛権までは排除しないという説明をし、一方において、しかしながらその自衛権の行使については自衛のために必要最小限度に限られており、集団的自衛権の行使は、この自衛のための武力行使を超えるものであって認められないという解釈をとることによってみずから枠をはめ、その枠をはめることによってむしろ自衛隊を認知させるという方法を当時の政府がとったのだろうと思います。そのことは、多くの専門家がその後になって指摘するところであると思います。  したがって、現在の自衛隊合憲論という解釈は、いわば国民により憲法九条の解釈を理解しやすいものとしつつ、一方において他のアジア諸国に不必要な懸念を呼び起こさないように、繰り返しになりますが、我が国がみずから、個別的自衛権は行使できるが集団的自衛権は行使できないという枠とたがをはめることによって、むしろいろいろな不安とか警戒心とか、あるいは不必要な懸念を排除することによって、この自衛隊を合憲のものとするという政治的な配慮から行われた解釈であって、あの文章を繰り返し読んでも、現在の有権解釈というのはやや無理があるという趣旨のことを述べたつもりでございます。  なお一方において、軍事的に言えば、個別的自衛権と集団的自衛権というのは法律解釈上はできても、現実の軍事行動の中で限りなく差があるということはあり得るわけです。例えば、アメリカの艦艇と日本の艦艇が公海上で共同作戦をやっておると。その際、米国の艦艇にミサイルが飛んでくるのを、米国の艦艇はみずからの自衛権を行使して排除するが、〇・一秒後にそのミサイルが日本の艦艇に到達するかもしれないときに、そのことを十分予知して、米国の艦艇に飛来するミサイルを日本の艦艇が米国の艦艇とともになって警戒監視を行い、対撃用のミサイルを発射しこれを排除すると。それが集団的自衛権の行使に当たると法的にはしても、日本の艦艇に飛んできたもののみを排除することは個別的自衛権の行使に当たるんですが、そのようなケースを念頭に置いた場合、どこまでが個別的自衛権でどこまでが集団的自衛権なのかというような問題を、法律解釈を当てはめて個々の軍事活動を考えるということはつまり現実的ではない。  したがって、私が申し上げているのは、現実問題として、どこまでが個別的自衛権でどこまでが集団的自衛権かということを、一々法の解釈を当てはめて行動をとるということは、これは現実の問題として不可能である。したがって、軍事的なケースとしては両方の差というのは限りなく小さいのであるという説明をしたつもりです。  さて、第二の問題については、私は現在の沖縄の問題というのは、さきの特別措置法改正案の審議の経過にかんがみても、いわば日本国全体の安全保障と、そのために個々の国民、県民の受ける負担あるいは犠牲、あるいは福利厚生をどのように調和させるかという問題であると思います。  そのことを考えると、在日米軍基地の七五%もが沖縄に集中しているという問題は、いかにそれが日本国家安全保障全体のためであるとはいえ、やはり徐々に解決していくべきであるし、またそのように努力することが政治の大きな責任であると思います。  しかし、一日でこれを実現するということはどだい不可能なことでありますので、当面のプロセスとしては、在日米軍の整理、縮小を進めるとしても、当面する沖縄の米軍の活動によって沖縄県民が受けておる負担あるいは犠牲をできるだけ軽減する方法をもし模索するとすれば、例えば沖縄に駐留する米軍が行っている沖縄での演習や訓練を、日本国内あるいはアジア太平洋地域のその他の国、例えば先生御指摘のように豪州、あるいは場合によってはパラオとか韓国とかフィリピンとか、あるいはアメリカの領土ではありますがグアムなどに訓練をローテーションで持っていく。    〔理事板垣正君退席、会長着席〕 つまり、本籍地は変えないが現住所を変えるという形によって沖縄の負担を軽減することができれば、緊急時にいつでも沖縄に戻れるということであり、かつ沖縄の負担が少し軽減するという意味で、豪州に在日米軍を一部持っていくということは、やはり全体の米国プレゼンスの構成という意味ではやや効率性が落ちるかなと思いますが、訓練や演習を部分的にしかもローテーションで持っていくということは、現実の問題として検討の余地があるのではないかと考えています。  以上でございます。
  37. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) ただいまの御質問は、アメリカの海兵隊の兵力の削減はかつて考えておったのではないかというふうな御質問だというふうに理解いたしましたけれども、確かに九〇年ごろ、沖縄の第三海兵師団の撤退はほとんど決まりかけておったというふうに私は考えております。  先ほど申しましたカルーチ国防次官は、後に国防長官になりまして八九年におやめになったんですが、その後十二月に私は彼と会ったときに、あれをどうするのかということを聞きましたら、第三海兵師団はアンテナブル、維持不可能であって、私の感覚ではもう間もなくあれは解隊になるんじゃないかというふうなことも彼はおっしゃっておりました。  まさに、その翌年の九〇年の六月になりますと、太平洋統合軍司令官のハーディステイ大将が防衛庁に参りまして、沖縄海兵隊は五千人削減してハワイへ移駐するというふうなこともおっしゃっておりました。またアスピン国防長官、彼はボトムアップ・レビューをやった方ですが、そのときの彼の原案では海兵二個師団というふうになっておりました。ただ、ちょうどそのころ、沖縄の第三海兵師団長のヘンリー・スタックポール少将は、ワシントン・ポストの記者のインタビューにおきまして、我々がいなくなったら日本は大変な軍事大国になる、だから我々は日本を見張るためにおるのであるということを言いましたのも、つまり彼としては、何とか自分の部隊の存続を図るために何か無理な理屈でも唱えないといけないという焦燥感に駆られてああいう発言をしたんだろうというふうに私は見ております。  ただ、それが残りました理由というのは、一つ北朝鮮の核疑惑というのがちょうどそのころから騒がれて、誤ったシグナルを与えるという説が、これは私が先ほど申しましたようにアメリカは陸軍も空軍も韓国にいるわけですから、本当は誤ったシグナルなのかどうかわからないけれども、一応海兵隊がそう言うと何かアメリカの議会の先生方も、ついそうかなと思ってしまうというところもあったんでしょう、それで結局残る。さらにもう一つのファクターとしては、日本が駐留経費の七五%を出しておりますから、本国に引き揚げるよりは日本におった方が安くつく。この二つのファクターで残ってしまったものだというふうに思います。  先ほどの、これからの近代化と海兵隊の価値という話でございますけれども、まさにこれが海兵隊にとっての最大の問題でございます。かつて海兵隊というのは、硫黄島とか沖縄の場合なんかは夜陰に乗じて接近をしまして、夜明けとともに五キロぐらいのところまで揚陸艦を持ってきまして、そこから上陸用舟艇もしくは水陸両用装甲車で出す。朝鮮戦争とかベトナムとかその後になりますと、ヘリコプターでも一部上がるというふうにいたしましたんですが、ところがこれが対艦ミサイルとレーダーの発達で不可能になってまいりました。  対艦ミサイルの射程は、現在百キロとかそれぐらいは出ます。ですから、これに対抗するために海兵隊としては水平線の向こう、陸のレーダーに映らないところから発進させなくちゃいけないという大問題になってくる。その水陸両用車は時速十キロぐらいで行っておりましたが、九十キロ沖で出すとしますと九時間ぐらいかかってしまう。これは冗談じゃないというわけで、水陸両用で速力が七十キロぐらい出まして、三十ミリ機関砲の直撃に耐えて自分も二十五ミリ機関砲を積み、それで二十人ほど乗せるという何かすごい高速のモーターボート兼戦車のようなものを今開発しようということで何とか努力をしております。  それから、ヘリコプターでも輸送能力、スピードが足りませんものですから、双発輸送機のエンジンを一番端に置きまして、エンジンだけ上に向ける。プロペラが普通よりすごく大きいもので、ヘリコプターのように上昇しまして、上空に上がりますとエンジンを前に向けて輸送機として飛ぶというような、MV22オスプレーというのもこれまた今開発中でございます。  それから、ほかにも今ハリアーという垂直離着陸機がありますけれども、これも古くなってまいりましたので後継機もつくらないといけないというわけで、どれもこれも大変な金のかかるプロジェクトで、私の試算では少なくとも五兆円程度これはかかりそうだなと。そのほかにもいろいろなプロジェクトがございます。  ところが、海兵隊の予算が実は余りさほどございませんで二兆円程度、つまり陸上自衛隊と大体同程度。陸上自衛隊が一兆九千億ぐらいだと思いますから大体同程度であります。にもかかわらず陸上自衛隊が十五万、海兵隊が十七万四千というわけで、六分の一ほど多い兵力を持っている。さらに、航空部隊が五百十五機かなんか持っておりまして、航空自衛隊が三百七十機です。だから航空自衛隊よりもはるかに多い航空機を持たなくちゃいけないというわけですから、とても金がもたない。今でも非常に困っておる。さらに、そこで近代化をせざるを得ないとなりますと、これは結局は人員を減らすということにならざるを得ないんだろうと私は見ております。  つまり、アメリカ政府のクリントン政権の第一の優先目標は均衡予算の実現であって、今までの赤字が大分減ってきたのもこれは専ら軍事予算の削減で来たわけですから、さらに減らそうとすればとても軍事費は伸ばせない。  その中で海兵隊の近代化ということをよほどしなくては、今の対艦ミサイルの時代に海兵隊が今までのままですと、あたかも機関銃が出た後の騎兵のようなものでありましてとても役に立たない。騎兵は、戦車に乗りかえてやっと存続をしたわけだけれども、海兵隊としても、そういったヘリコプター兼輸送機のようなものに乗りかえるとか、物すごい高速の水陸両用装甲車をつくるとか、何かそういう近代化を図らなくてはどうにもなりません。ですから、そういう面から海兵隊はもちろん現在は近代化もしたい、兵力は十七万四千の線を維持したいと言っておりますけれども、それを両方保つということはなかなか容易ではないというふうに考えております。
  38. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) 予定時間まで残り五十分になりました。まだ発言を希望される委員が七名いらっしゃいます。質疑、答弁はできるだけ簡潔に述べられるようにお願い申し上げます。
  39. 林芳正

    ○林芳正君 ありがとうございます。会長からのお達してございますから、なるべく短く御質問したいと思います。  お三方より大変示唆に富むお話をいただきました。ちょっと順番を変えましてまず森本先生にお聞きをしたいと思うんですが、大変におもしろいといいますか示唆に富むヒントをいただいたと思っております。マルチの安全保障ということで、私は今まではARFといったものが、例えば言われておりますようなOSCEに対応する、OSCAとでも呼ぶべきものにだんだんと進化をしていくというようなイメージを持っておったわけでございますが、むしろ日米同盟がマルチにふえていくということで、ARFとの補完関係を持ちながらというようなアイデアというかヒントをいただいたわけでございます。  その中で、いただいた論文の中に統一コリアというお話が出ておりまして、もしも半島で統一がなされた場合には、これをこちらの方になるべく引き込んでおかなければならないということを書かれておられました。先ほどのオーストラリアとコリアというのは、そういう意味でとらえますと統一コリアという意味になるのかなと思いながらお聞かせをいただいていたわけです。そういった中で、中国というのはむしろ向こう側にいるというとらえ方をされておられるように拝聴いたしたわけでございます。この日米がだんだんとふえていく順番というのが、時期的に大体統一コリアよりも前に、例えばASEANとかオーストラリアを考えるのか、その辺をもう少しエラボレートしていただければと思います。  それから、その中でTMDという話があるわけでございますけれども、これをマルチの場で考えていくということとTMD構想との関連ということも含めましてお聞かせ願いたいと思います。  そのときに、中国というのは社会主義市場経済ということですから、市場経済の方で一致できても共産党一党独裁である限り、社会主義という括弧つきはなかなかとれないのではないかということを、この問渡辺先生の論文を読んだわけですけれども、そういったところを乗り越えて本当に中国も取り込んでいけるのかという面も含めてお聞かせ願いたいと思います。  そしてその後で、川島局長にお尋ねするわけですけれども、この会の最初のころにマルチとバイの話について私は御質問を申し上げて、そのときはたしか補完関係でコンプリメントでやっていくんだということでありました。今のような、むしろ日米の方がだんだんと膨らんでいくということになった場合のマルチということについて、政府といいますかいろんな研究所関係で、先ほど来トラック1、トラック2という話もありましたけれども、いろんな御検討をされておられるのか、また今からそういうことに対してどういうふうにお考えを詰めていかれるのかということについて、コメントがもしありましたらお聞かせを願いたいということであります。  それから、田岡先生にはいろいろとお聞かせを願ったわけでございますけれども、ちょっと私最近非常に関心を持っていることがございます。ジャーナリスト御出身ということであえてお聞きをするわけでございますが、先ほど森本先生の中に、主体の拡大ということで個人も入ってくるということでありましたけれども、例えば今のペルーにおけるテロ事件といった場合の、メディアと安全保障のかかわりというのは大変に今から大事になってくるのではないかな、こう思っております。  例えば、テレビ朝日系だったと思いますけれども、カメラマンがあそこに入っていくといったこともございました。また、これは全くの想像でありますけれども、公邸の下にトンネルを掘っておったということが犯人側に漏れたために、今は二階に行っているというような話もあるわけでございますけれども、報道の自由と人命を含めた安全保障とのバランスについて、御見解があればお聞きをいたしたいと思います。  以上でございます。
  40. 森本敏

    参考人森本敏君) 先生御質問の点は二つの問題が含まれているというふうに思います。第一の点について申し上げれば、もし日米同盟を共有できる価値や国益というものを念頭に置いて緩やかな協力体制に広げるとしても、第一に加われるのはやはり豪州なのではないかなと思います。そこから先はまだ相当先のことになるのではないかと思います。  統一につきましては、まさに半島統一のプロセスがどのようなことになるのか、さらに統一された国、つまり統一国がどのような性格の国になるのかということによって、北東アジアにおける安全保障構造的に大きな変化を遂げると思います。乱暴な言い方を申し上げれば、統一国が混乱のプロセスを経て進むか比較的混乱なく進むか、その場合北朝鮮の体制や軍隊が残るのか残らないのかということによって、統一国は大きく三つの性格を持つと考えられます。  第一は、中国同盟国あるいは友好国になるような性格の国になり得るという可能性、第二は、米国との同盟関係を維持しつつも、しかし在韓米軍については恐らく実戦部隊の撤退を含めかなり構造的な変化が起こるという可能性と、いずれにも属さない、いわばある種の中立国の状況になるといった幾つかのケースがあると思います。しかし、どの場合をとっても我が国にとっては極めて重要な問題を提起することになると思います。  統一のプロセスが終わった後の北東アジア情勢というものを考えると、今までにない大きな構造変化が起き、七千五百万の人口を持つ国が半島にできるということでありますので、その国とどのようなおつき合いをしていくかということは、我が国の将来にとって重要な問題を意味すると思います。  したがって、そのようなプロセスが進む前にできれば韓国と、現在行っている日米の防衛協力ガイドラインをその次のプロセスとして日米韓のガイドラインヘと発展させ、できれば韓国を統一のプロセスが進む前に、日米と協力体制の中に組み入れるということが日本安全保障にとってクリティカルなのではないかということだと思います。もし、そういうことが可能であるとすれば、豪州の次に韓国が緩やかな協力体制になり得るということだと思います。  第二の問題はTMDでありますけれども、このTMDというのは大変難しい問題で、軽々に結論を申し上げることはできないと思いますが、TMDを日本が取得し配備することには、極めて大きな政治的、経済的、法的あるいは軍事的な障害があると思います。この障害をどのように克服するかということが日本にとって問われていると思います。  そして、そのTMDというものを考えるときに、日本が将来、日本国家安全保障にとって極めてクリティカルな弾道ミサイルの供与を受けるというようなことにもしなるとすれば、TMDの配備というのは日米同盟を維持するときの極めて重要な試金石になると思います。  裏返して言うと、TMDに対してノーと言うことは、日米同盟の将来にとって大変難しい問題を提起することになると思います。しかし、だからといって、脅威がないのに莫大な経費をかけるということは、今日の日本の政治、経済的な状況から許されないと思います。  したがって、日米同盟を将来どう考えるかということとの関連において、TMDを取得し配備するということは非常に重要な意味を持っているんです。この場合、もし北東アジアにおける弾道ミサイルの脅威がより深刻な状況になり得るとすれば、日米だけのTMDというのではなく、TMDという言葉が示すように、まさに戦域におけるミサイル防衛システムにゆっくり韓国や台湾が入っていくということは、一つ防衛システム、すなわちアメリカの偵察衛星の情報をお互いにシェアしつつ、共同した防衛体制の中に入っていくということを意味するわけです。したがってこのことは、日米同盟だけの問題にはとどまらない意味合いを持っているのではないかということを申し上げたわけであります。  以上でございます。
  41. 川島裕

    政府委員川島裕君) 日米がだんだん膨らんでいってマルチという、大変おもしろい提言だろうと思います。ただ、その場合に何が起こるかということは、面として広がっていくのではなくて、アメリカを中心としてそれぞれとの、アメリカ域内の同盟関係がどういうふうな整理になるかということでないと動かないんではないかなという気がちょっといたします。  それは、私の申したいのは、例えば日本の場合は御承知のとおり、集団的自衛権はあるけれども、それは憲法上許されないということですと、面としていろんな国に広げますと、要するにいろんな国に、日本が攻撃されたら守ってください、しかし日本はやりませんからねというようなのが非常に広がったものとしてできるのかどうかというのは、私は若干疑問があるわけでございます。  他方私は、同感の感じを持つのは、米国価値観を共有するかどうかというのが広がりの一つの基準ではないかという点でございまして、御承知のとおり米国というのは理念でもって国をつくってきた国でございます。そして、実はベトナム戦争当時、私もベトナムにいたんですけれども、ベトナム国民は何であれだけ米国がみずから血を流したか余り納得できなくて、それで実は権益が将来ある、石油が出るから米国は戦っているんだとか当時言ったわけですけれども、経済的権益で戦ったのではもとよりなくてそこは理念の対決であったわけですし、理念のためにあそこまで血を流したわけです。何と申しますか、基本的価値というものを共有しているかしていないかというのがやっぱり同盟の基本だろうと思うわけでございます。  その点、この地域の若干の緊張を招き得るものがあるとすれば、全地域の各国が同じ価値観を持つに至っていない。市場経済というところまでは来たわけでございますけれども、やっぱり民主主義とかそういう話になりますと、例えば中国の場合は、民主主義というのは和平演変といってむしろ国内を混乱させる企てではないかという理論でもって警戒心を示す向きがあるわけでございます。そうすると、やっぱり価値観というものがその同盟関係、それが二国間であれもうちょっと広がったものであれ、非常に重要なものだろうという気がいたします。  それから、一点ちょっと最初に申したくて時間がなかったんですけれども、この地域は私は全部グローバルに見ておりまして、一つほかの地域より恵まれているなと思うのは、エスニックというか、民族対立というものが割に少ないということでございます。  これは、先ほど冷戦が終わって非常によい状況になったと申し述べた際に申すべきだったんですけれども、例えばチェチェンとかボスニアの、要するに隣の村がもはや全部敵で、何百年殺していたというようなのがあっちこっちにありますと、これは非常な不安定要因でございます。アフリカに至ってはフツ族とツチ族とか、ずっと殺し合いが続くという状況、もちろんポル・ポトの虐殺とかございましたけれども、エスニックな対立が割にない地域というのが東アジアであって、そこはよそに比べるとありがたいなという気は、常々グローバルなのをやっておる実感でございます。ちょっと補足かたがた。
  42. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) ただいまの私に対する御質問と同時に、若干TMDにも私の考えでいることを申し上げさせていただきたいと思います。先ほどTMDの経緯について森本先生からも御説明がございましたけれども、私の見ますところ、まず一番に我々として考えなくてはいけないことは、アメリカでSDIが既に失敗しておるということでございます。SDIは、あの場合には当時のソ連からアメリカまで一万キロほどの距離がありまして、発射から弾着まで三十分以上かかるという状態でございました。それで、アメリカがあのころの技術の総力を挙げ、さらに核弾頭まで宇宙で使うことを考えてやったけれども、結局は失敗して中止になってしまった。はるかにそれよりはTMDの方が難しいわけで、距離が短いわけですからせいぜい十分ぐらいしかかかちない、弾道も低い、核は使うわけにはいかないというわけですからもともと難しい。  それで、今アメリカが最も期待されていますTHAADというのを実験しておりますけれども、最近まで四回実験しまして全部失敗に終わっております。また、これが仮にうまくできるとしましても二〇〇五年とか、それぐらいにしか配備には多分ならないというふうに、日本で仮に入りましてもそれぐらいになりましょう。そうしますと、そのころまでに北朝鮮が今のままでおるということもなかなか考えがたい、もしも残っておるとしても相当変わっておりましょう。ですから、北朝鮮対策としては余り意味がない。  じゃ、中国の核に対してどうかというふうに申しますと、これは相手が核ミサイルでありますとSDIと同じ問題になってまいりまして、全部を撃墜、破壊するわけにいかない。仮に、相手が今八十発ぐらい持っておりましょうか、それが仮に二十発飛んできて、それでああいうミサイルを迎撃して半分壊せるとすれば技術的には大成功ですが、仮に十発飛んできまして五発は撃墜して壊しました、五発が東京に弾着しましたということになれば、効果としては同じことである。  さらに、そのコストは少なくとも四兆円とか、いやもっとかかるかもしれないというふうに言われております。防衛費の中での装備費は八千億円、九千億円というレベルですから、四年、五年は何もせずに、小銃弾も買わずに全部を突っ込んで、それで数年間かかってやっと一カ所守れるかというところです。そういった点で防衛庁が非常に慎重であるというのは、もう理の当然であろうかというふうに私は考えております。  さて、次の私に対する御質問では、メディアと安全保障の関係についてどうかというお話で、私はメディアというのは安全保障上、もう今や大事な軍事力と並ぶほど極めて重要なものになってきているというふうに存じます。  アメリカを見ましてもそれから世界の国を見ましても、結局は国力というのは三つのMであろうというのが私の前からの説であります。一つはマネーであり、もう一つはミリタリーパワー、ミリタリーであり、もう一つはメディアである。特に、最近アメリカのメディアの世界における影響力の強さというのは本当に目をみはるほどであります。アメリカのメディアというのが実は世界の国連なんかの議題を決めてしまう、それで世界の基本資料といいますかイメージも提供する。さあそれで皆さん議論をしてくださいと言っても、これは何かあたかも役所の審議会のようなもので、議題も決まっておれば基礎資料も出てくる。その中で自由に議論しろというふうな、そういう状態に立ち至っておる。  この点で、例えばヨーロッパの人と話しておっても、日本の不公正な貿易慣行というようなことを言う。その国とは特別トラブルもないので何のことかなと思ったら、いや最近タイムにそういう特集があったからというようなわけで、ヨーロッパ人も日本のことを知るにはアメリカの情報経由、我々もまたアメリカ経由の、アメリカ人の見た目でほかの国を見るというわけです。これは極めて危険な話で、何とかメディアも強力にしないと日本安全保障上非常に重大な問題を生じるというふうに考えております。  さて、じゃテロ事件との関係はどうなのかというお話ですけれども、あれは現地の報道でトンネルを掘っているということが出たから向こうに知れたわけじゃなくて、もともとあれは大使公邸の床にひびが入ったので、何かと思ってトゥパク・アマルが耳を澄ませたら、下の方でコツコツ音がしたからばれたというふうな話ですから、報道の結果ではもちろんない。  それから、広島のテレビ局の記者が公邸に入った件ですけれども、あれは別に秘密にこっそりどこかから忍び込んだ話でもなくて、あの公邸の前を堂々と行って正面玄関から入っておる。それで、入られて困るというのであれば本来はペルー警察が入るのはやめてくれと言うべきであって、入られて困るのならペルー警察の手落ちでございましょう。  さらに、それではなぜそれがいけないかというと、犯人を刺激すると人質が危ないじゃないかという話なんだけれども、実はそれが入って本当に人質が危険になるということはどう見てもありそうもない。いろんな人も入っているわけですから、トゥパク・アマルの言い分を聞いたところで人質が危険になるということはどうも理屈上考えにくい。むしろ人質を危険にさらすような行為は、こちらの方からいろいろ嫌がらせをしたりして、相手をわざわざ挑発する行動をペルー警察がするとか、もしくはトンネルを掘るとか、そういったことの方がはるかに危険であって、ペルーの警察がテレビのカメラマンが中に入ったことが危険であると言ったのは、何のことか私にはよく理解いたしかねるというのがあれに対する個人的な評価でございます。
  43. 直嶋正行

    ○直嶋正行君 お三方、きょうはどうもありがとうございます。  簡単にお伺いしたいんですが、まず川島局長にお伺いしたいんですけれども、これは田岡さんのレジュメの中にもあったかと思うんですが、日米安保というのはアジア太平洋における一種の平和と安定の公共財だ、こういう言い回しが最近よくされます。  ただ、今までのお話を聞いていまして、さっき森本さんからも、今後の日米同盟を考えるともっと日米間の協力日本がより踏み込んでいかないとこの同盟関係を維持するのは難しい、こういうお話があったわけなんですが、一方で先ほど中国のお話がございました。今回の日米安保再定義を初めとするこの動きに対して中国が反発をしておると。さっき申し上げたように、日米安保を我々が公共財だというとらえ方をするとすれば、これを周辺諸国、とりわけ中国にどのように理解してもらうかといいますかあるいは納得してもらうかといえば、非常にこれは難しい問題だと思うんですね。  私の意見で言いますと、これまでのようないわゆる日中間のおつき合い、例えば経済関係を中心にしたおつき合いでは、なかなかこのあたりをより理解していただくというのは難しいんじゃないかなと。例えば最近の半島情勢なんかを見ていましても、北はややもするとアメリカとの直交渉というのにいろいろ走っています。恐らく米中関係も、日米が同盟関係にあるだけに、逆に言うと中国日本の頭越しにアメリカといろんな話をしていく、この方が中国にとっても外交的な問題解決につながりやすいと。  ですから、日米安保というのは非常に重要なんですが、より緊密化していけばいくほど日本の外交にとっては、一方では非常にやりづらい一種の手かせ足かせになってくるんじゃないか、こういう感じもするんです。特に、この安保についての対中政策というんですか、これについて御見解をお伺いしたい。この点はできましたら森本さんにもちょっとお答えをいただきたいと思うんです。  それで、もう一点森本さんに御質問申し上げたいのは、さっき朝鮮半島の統一後の御議論がございました。私は、最近のアメリカ政府高官の、例えば在日米軍に対する、あるいはアジア太平洋地域における米軍の十万人体制維持というような発言も含めて考えますと、やはり朝鮮半島統一後の状況も見据えながらさまざまなことが検討されているんじゃないか、こういう感を持つわけなんです。特に、さっき三つのケースのお話があったんですが、今中国との関係を申し上げましたけれども、今後仮にそういう状況になってくるとすると、率直に言うと米中間の一種の影響力争いというようなことがだんだん激しくなってくると、これはなおさら日米安保に対する中国の反発というのは強くなるだろうと思いますし、この日本のポジションというのは非常に難しい状況に立ち至ってくるんじゃないかと思うんですけれども、この点もつけ加えてお話をいただければありがたいと思います。  それから三点目なんですが、三点目は森本さんと田岡さんにお伺いしたいんですけれども、アジア太平洋における米軍プレゼンスが非常に重要だ、平和と安定のために重要だという議論がなされるんですけれども、この米軍アジア太平洋におけるプレゼンスと在日米軍基地。私は、日米安保条約の根本は、やはりアメリカ日本と同盟関係を結んでいる大きなポイントの一つ日本が基地を提供している、このことはもう明白だと思うんです。ですから、そういうことも含めて考えますと、このアジア太平洋における米軍プレゼンスと、それが日本に駐留するということの意味合いについて、やはりきちっと整理をしておかなければいけないと思うんですが、この点に関して森本先生と田岡先生の御見解をお伺いしたいと思うんです。
  44. 川島裕

    政府委員川島裕君) 私もこの間、日中安保対話というのに出ておりまして、六時間中五時間ぐらいでしょうか、日米安保について中国側が非常に心配を表明するというようなやりとりでございました。それで、結論的に申せば、そう簡単に理解をするというふうになる話ではない部分があるんだろうと思います。特に中国にしてみれば、日米安保というよりもアメリカプレゼンスというものが、自分の行動を制肘する大きな枠組みになるんではないかというおそれでございます。  当たっているかどうかは別として、九五年の当時一つの分析が中国についてなされていまして、聞いたことがございます。要するに、台湾の李登輝総統が訪米しまして、あれに非常に中国の指導部がショックを受けて、アメリカが軸足を台湾防衛に移して封じ込めの方向に流れ出したんではないかと。時まさにそのときに米越正常化ができて、ベトナムASEANに加盟してとか、ある意味見方によっては何か大包囲網が米国の主導のもとにできたと受け取っているんじゃなかろうかというような分析でございます。  これは、猜疑心を持てばそういうふうに見えてしまう部分があろうかと思いますけれども、実態は米国の対中政策というものは封じ込めとかいうふうに、あるいは中国脅威としてやっていくということではなくて、むしろ中国を関与、エンゲージする。つき合いを拡大して、先ほど申しましたように利害関係共通する部分をふやしていくという形で、米中関係を安定化させるということを米国としてはやっているつもりなわけです。ただ、そういう何と申しますか、脈絡の中で米国プレゼンスについて、昔のそれこそ冷戦当時とは中国の受けとめ方が一つまだ違う。  日本にしても米国にしても、特に日米安保につきましては法的枠組みは全く変わっていない。それからいずれにせよ日本は、自衛隊がとことこ外に出ていって米国と一緒に戦闘をやるというような話はそもそも想定していない次第ですし、そこはいろいろ誤解というか、心配のし過ぎの部分については随分やりとりをしておりますが、これはまさにある意味信頼醸成の安保対話の基本みたいな話だろうと思っております。  ただ、中国にとっても米国プレゼンスというのは利益になるはずであると。それは米国が去った後で力の真空というものがこの地域に生じた場合はより流動化するのではないかと。そういう意味から、別に中国を対象とし脅威とし、封じ込めるということではないのみならず、むしろ中国にとっても米国プレゼンスが残るということは意味があるではないかという議論を、中国側に対して米側のいろんな人がしているわけでございます。なかなかそうかそうかというふうにはならないわけでございますけれども、基本的に敵対関係を目指してやっている国ではないわけですので、そういう中で共通利害関係というものがむしろ大きいということを、どうやって見出していくかというプロセスを続けるということだろうと思っております。
  45. 森本敏

    参考人森本敏君) 先ほど御説明いたしましたように、この一年余、中国があらゆる機会に日米同盟の強化について懸念を表明しているということは事実であり、その点については川島局長の今の御説明どおりです。  どうしてこの一年余、一年少し前からなのかということを思い返すと、やはり一つ中国台湾関係があると思います。昨年、NHKで「極東有事」という二回にわたるスペシャル番組というんでしょうか、が放映された際の第一回目を御記憶の方もおられると思います。台湾海峡が波高かった昨年の春、結局のところ米国は、二つの空母機動部隊を台湾海峡付近に配備し、日本も海上自衛隊、航空自衛隊のいわゆる偵察機あるいは情報収集用の航空機を沖縄中心に配備して、ある種の日米協力を行ったわけです。つまり、中国から見ると、冷戦後の日米同盟の実態というのがこのような形で、台湾海峡における活動の具体的なケースとしてあらわれてくるということに、恐らく中国人民解放軍が大変大きな懸念を持ったのではないかと思います。  もちろん、日米共同宣言が昨年の春あのような形で表明されたのは、日米双方の事情があってあのような時期になったのですが、中国から見ればそうは考えられず、台湾の総統選挙、その前後に台湾が大規模な演習を行い、ミサイルの発射を行うということを十分に念頭に置いて日米共同宣言を出したように中国は受け取ったのではないかと思います。中国日米同盟の強化に極めて深刻な懸念を表明し出したのは、昨年の春のこの日米共同宣言と台湾海峡における作戦以降のことであります。したがって私は、現在の日米同盟というものに基づき、中国がいずれにせよこの地域の周辺国に将来その影響力を拡大せんとするときに、一番大きな障害というふうに受け取っているのではないかというふうに思います。  一方このことは、米国中国というのは実は双方とも覇権国ということを示しているのであり、覇権国というのは他の覇権の出現を許さないということでありますので、米中関係は、いかに両国首脳が交流し対話が進もうとも、米中関係が実質的にこれ以上格段に進展する可能性は低いと思います。この意味中国にとって大きなジレンマでありまして、中国の専門家とよく話すのですが、アメリカから見ると、日米同盟というのは、中国という覇権国に対抗するために日本日米同盟の「びんの栓」の中に入れ、そして中国の覇権国としての出現を、日本を利用し活用して阻止するということでありますから、いわば日米同盟というのはアメリカから見ると一挙両得の意味を持っていると思います。  しかし、中国から見ると、日米同盟が強化されるのは受け入れられないが、日本日米同盟の傘の中から離れて、独立独歩の道を歩んで核大国になるということも中国にとってはもっと大きな脅威であり、中国にとっては日米同盟というのは常にジレンマだろうと思います。したがって、中国にとって最も望ましいのは、日米同盟が維持されるが、しかしそのもとで日本が大きな力を発揮しない、しかも日米同盟中国封じ込めることはできない。日米間は常に問題があり混乱の状態にあるということが中国にとって一番利益ということだろうと思います。  したがって、繰り返しになりますけれども、昨年の春の日米共同宣言によって、冷戦後の日米同盟のいわゆるたがが緩んだ部分をぐっと締め直したという状態は中国にとって国益にならないと。しかし、日米同盟をやめたといって日米が離婚するということは中国にとってもっと大きな脅威だと。それじゃ、どちらを選択するのかということについて彼らは答えられない。こういうのが現在の中国状況だろうと思います。  アジアにおけるもう一つの御質問ですけれども、米国プレゼンスと在日米軍の基地をどう位置づけるかということについて、私は、アメリカが在比米軍基地から引いた後、在日米軍基地というのは米国アジア太平洋におけるプレゼンスの最大の根拠基地として最も大きな機能を持つに至ったと思います。しかし、将来のことを考えると、朝鮮半島問題が解決した後、在日米軍は恐らく海軍と空軍の機能を中心とするプレゼンスが強化されるという形で存続するのが米国にとって最も利益に合致するということだと思います。  その意味において、私は沖縄の基地は縮小し、本土の基地が十分に米国によって利用し活用できるような体制があれば、米国は在日米軍基地というものを今後とも柔軟にかつ十分に利用できるということになり、在日米軍基地の持っておる意味合いというのは、アメリカの海空軍を中心とする抑止力の機能を強化するような役割を果たすのではないかというふうに考えています。  以上でございます。
  46. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) 先ほどの御質問にありましたとおり、基地の提供は日米同盟の要点ではあるまいかというお話でございました。私、まさにそのように考えておりまして、もともと沿革から考えますと、一九五二年に日本が独立を回復しましたときはまだアメリカは朝鮮で戦闘中でございました。ですから、もちろん独立を日本がしても基地を使えなくちゃ困るわけでありますから、安保条約というのはもともと基地提供協定の性格が強かったことは、これはもうけだし当然の話であろうかというふうに思います。  ただ、その後は、基地の提供のみならず、また日本が現在直接の支払いだけで四千八百億円以上の米軍の経費を分担しております。これはもう世界で他の国に全く類例を見ないほどの金額でございます。費用の負担が一つの要素でございましょう。さらにまた、経済的に非常に強大になってまいりました日本アメリカ同盟国であるということが、陰に陽にアメリカ世界的な国際政治上の影響力を強めていることもまた間違いないというふうに考えております。  アメリカとしては、同盟国をふやすことには非常に熱心でございまして、これはかつての同盟国というのは、共通の敵あっての同盟国というのが今までの同盟国のパターンでございました。敵の敵は味方というやつで、実は最近でも必ずしも共通価値観がないものとも同盟国になる。例えば、シリアはテロ支援国家だというふうにアメリカは言っておりましたけれども、湾岸戦争のときにはシリアとも同盟を結ぶということがございました。  それから、かつてはルーズベルトはスターリンと同盟を結んでドイツと戦い、それからもともとアメリカの独立自体が、ジョージ・ワシントンは共和主義者、フランスのブルボン王朝はもちろん王党派なわけですけれども、それと結んでイギリスの独立戦争を戦うというわけですから、同盟というのは価値観とか民主主義とか、そういった甘いものでは決してなくて、実は利害の打算、共通の敵の敵は味方という国際政治の根本的プリンシプルに基づいてもともと生まれ消えていくものだというふうに私は思っております。  今後も恐らくは同盟の意義を、今は共通の敵がなくなって見出すために、そういったいろんなほかのものということを、例えば民主主義でありますとか、何かいろんなことを言っておりますけれども、そういったものは別に軍事的協力でもってできるものでもない。共通価値観軍事力とか同盟でもってほかの国に押しつけるということは無理でございます。ですから、そういったことは、同盟の価値がなくなった上に何か無理やり次の理由を発見しようということで努力をしている、そういう側面も私にはあるように思えるところでございます。  さて、基地の提供に関しましても、確かにもともと基地を提供していることは同盟の要点ではありましたけれども、基地の提供にもいろんな形がございます。例えば横須賀、佐世保のように、全く排他的にアメリカ海軍に使わせる、こういった基地というのは、これはもう第二次大戦の占領の遺物でございまして、ほかの国ではどうかと。例えば、イタリーも占領されましたけれども、ナポリ湾なんかは一応はイタリア海軍の基地で、そこをアメリカ海軍が使う。ましてイギリスのポーツマスなんかでは、もちろんイギリス海軍基地に入る。  日本の場合には、横須賀に関しましては、もともと日本海軍の基地であって、現在は一〇〇%その経費も日本が負担しております。にもかかわらず、あれはアメリカ軍人が指揮官であって、日本の方はその端っこの方を少し使わせてもらう。海上自衛隊は、陸から入る場合にも正門じゃなくて裏口からこっそり入るという形になっております。  これはフィリピンのスービック湾をかつて持っておりましたが、これとはえらい違いでございまして、フィリピンではアメリカは一種の地代を払って、それでスービック湾を確保しておりました。にもかかわらず、地元の感情に配慮してフィリピン海軍の提督を基地司令官とし、アメリカ人の大佐が副司令官をいたしておりました。そこまでやっておるんですが、日本の場合には甘いもんですから金まで出して、それで向こうは指揮権も全部握ってしまうというふうな、非常に世界的に見れば異常な状態になっておるように思います。  将来、確かにアメリカ軍がこの辺にいることが安定に役立つじゃないかというお話、まさに私もそう思っております。ただ、それは海兵隊のように上陸作戦をするということも、そうそう大部隊の上陸作戦ということはありそうもないし、海軍さえ、特に第七艦隊がこの辺におれば一応の役には立つだろうと。  これはかつて十九世紀にパクス・ブリタニカ、イギリスによる平和というのが保たれましたのも、これはイギリス海軍のおかげでありました。アメリカはそれによって非常に得をしまして、自分の方はほとんど海軍を持たず、陸軍もインディアン討伐の騎兵隊ぐらいを持ちながら、それでどんどん発展をしたわけです。ですから、アメリカ人に言わせりゃ、そのころと似ておるかということを言いますので、私も同じように思うと。だけれども、あのころアメリカはイギリス海軍に基地も貸さず、経費分担もしなかったじゃないかと言ってアメリカ人をいつもそうやってからかうわけです。  そういったわけで、今後パクス・アメリカーナの主体はアメリカ世界的制海権だろうというふうに私も思います。ですから、日本としては、それに逆らってはなかなかうまくいかないと思いますから、だから海上自衛隊の基地を彼らに使わせる。必要であれば、例えば埠頭何本かの一、二本はアメリカ海軍が来たときに使えるように専用にしてやるとか、若干のそのための連絡要員とか通信関係の要員とか、補給関係の要員ぐらいは残すというふうなことで十分私は日米の同盟は保てるんじゃないかと。その方が、恐らく無理をしない方が長もちする同盟関係になるんじゃなかろうかというふうに私は考えております。
  47. 今泉昭

    ○今泉昭君 三人の参考人の先生、長い時間どうも御苦労さまでございます。  私は、三点ほどお聞きしたいと思うんですが、まず最初に川島局長にお伺いいたします。かつてニクソン政権の国務長官をやっておりましたキッシンジャーさんは、世界の平和を維持するためには方法は二つしかないと。一つは、一人の餓鬼大将が自分の子分を力でもって抑えつけて社会の安定を図っていくという形の、一つの大国が支配をするような形ででしょうけれども、平和を構築していくというやり方。  それからもう一つは、二つないし三つの大国がそれぞれ相当な力を持って、その大国同士がけんかしたら、相手も力が強いから、殴ったらこっちも大けがをするというようなバランスある関係をつくることによって世界の平和を構築できる、こういう関係が冷戦時代に行われた形だったんだろうと思うんですけれども、実はそういう形での平和の維持があるんだということをよく言っていたのを覚えているんです。  冷戦構造が崩壊して以来、今盛んに言われていることは、地域の対話であるとか協調を促進する、友好を促進することによって平和をひとつ維持していこうではないかという流れがあるんです。よく考えてみますと、どうも近隣諸国との関係というのは常に何かの利害がある、身近にあるわけでありまして、どうも隣り合わせの国との友好関係とか安全保障の関係というのが生まれたような形はどうもないような気がしてならないわけです。むしろ遠い国の、ある力を持った国との協定関係を結びながら、その力を背後に持ちながら、一つのその地域におけるところの力のバランスを保っていこうというような流れがあったような気がしてならないわけです。  かつて日本が日英同盟で成功したのも、あるいは今アメリカがこのアジア地域の中にプレゼンスを大きくして成功しているのも、アメリカというのはアジアの一部に言われているけれども、実質的には遠く離れた存在でして、太平洋の向こう側にあるんでして、実はアジア地域にない存在でございます。遠いところにある大きな力があってこそ、その地域の安定が保たれているというような実態があるわけでございます。  そういうことを考えてみますと、今の社会というのも、どちらかといえば一つの大きな力を持っている国が、ある意味では直接的にその地域に余り手を突っ込まないでバランスを保っているというような一面があるような気がしてならないんです。そういう状況の中で、今後我が国世界の平和の中で大きな役割を示していくという意味で、例えば日韓関係を考えてみても、表面上は確かに日韓協力体制をとっているようですけれども、両国民の間には大変大きな溝がある、あるいは対立関係も内包されているというようなことがございます。もしアメリカがいなくなった場合、そういう関係が保たれるかどうかというのは大変疑問な一面もあるわけでございます。  そういうことを考えてみた場合、今後の日本の外交戦略として、遠い国とのそういう協調をいろいろな形で、外交的な立場に立って構築をしていくというようなやり方もあるのじゃないだろうかというふうに考えているんですが、その点についてまずお伺いしておきたいと思います。  それから、森本先生でございますけれども、これからの安全保障というのは今までの国益を守るという軍事的な側面から、その他のいろんな要因というのが大変大きくなっていくということを申されました。全くそのとおりだろうと思うんです。  特に、アジアのことを考えてみますと、ヨーロッパの国々と違いまして、アジア諸国というのは大変国民の貧富の差が激しい国でもあるということと同時に、もう一つは、今大変な勢いでアジアの国が経済成長をしている状況にあるわけでございます。これからやっぱりいろいろと出てくる問題は、世界の三分の二を占める人口を持っているアジアの中で、ますます人口がふえてくれば食糧がどうなるのか、エネルギーの供給がどうなるのか、公害の排出がどうなるのかというような問題やら、あるいは犯罪がますます多発していくというような可能性を持っているこの地域におきまして、その国益を守るという軍事的な側面よりも、そういう面での大変不安要因を抱えているような状況に実はあるわけです。  そういう中において、一体地域の対話や協調を図りながら安定をしていくということについて楽観的に考えられるかどうか。むしろ私は、危険要因が大変多く含まれているんじゃないだろうかという気がしてならないわけでございますけれども、そういう点について、先生の御見解をお聞かせ願いたいと思うわけであります。  それから、田岡先生でございますが、先ほど先生のお話の中で、通常戦力に関しましては、ロシア中国北朝鮮ももう古い兵力ばかりであって大したことないんだ、脅威はほとんどないんだというような御説明の印象を私受けたわけでございます。そういう中で、むしろ最新の実質的な兵力を持っているのは韓国と日本である、日本はそういう意味では最先端の兵力を持っていると。そういう中で、韓国の方では対日戦略とかいうようなことを意識した発言がいろいろ出ている、こういうことでございましたけれども、いかがなものでしょうか、通常戦力に関しては確かにそういう一面もあることはもう私も否定するわけではございませんが、例えば通常戦力がなくなっている、低下している中国といえどもロシアといえども、かの国は核を保有しているわけです。  この核を持っているということに対する周辺国の脅威というんでしょうか、これは大変なものではないだろうかと思うわけです。そういうことを考えてみますと、核であるとかミサイルとかというものを持っている力から生じてくるところのいわゆる抑止力というんでしょうか、そういうものの考え方、これについては先生はどのようにお考えになっているかお聞かせ願いたいと思います。  以上、三点お願いします。
  48. 川島裕

    政府委員川島裕君) 大変おもしろい御質問をいただいて、お答えになるかどうかあれですけれども、キッシンジャーさんの大好きな世界というのはヨーロッパ世界でございまして、バランス・オブ・パワー、勢力均衡でございます。要するに、まさに隣国で利害関係対立するわけですけれども、それを一々戦争で片づけていたらそれはもたないということで、どうやってバランスを保つかだったわけですけれども、そのバランサーとしてあったのがイギリスでございます。  これは要は、いわゆる俗に言えば、バランスが崩れそうになると弱い側をちょいちょいと助けて、逆になり出すと逆側を助けるということで、ある意味でバランスの維持といえばバランスの維持ですけれども、何と申しますか、同盟関係とかいうので常に一つの国と、あるいは助けるというのとはちょっと違う種類のシステムでございます。  そこで、東アジアについても、そういう勢力均衡のバランサーとしてアメリカがやるべきではないかという議論があるわけですけれども、これは、ちょっと今あるような米国日本、あるいは米国と韓国のような同盟関係を基本としたシステムとは違うような気がいたすわけでございます。  他方、遠い国との協調というのは大変おもしろいあれでございまして、特に隣の国というのは本当に領有権とかありとあらゆる摩擦が生じ得る話です。冷戦の終わったときに一番注意すべきだと思ったのは、冷戦が終わってそれぞれの国が将来の脅威はどこかと水平線、地平線を見ますと、そのときの教科書は歴史になっちゃうわけです。そうすると、過去におけるやりとりというものの記憶がみんな出てくるものですから、みんな敵に見えてきてしまう。そこをどうやって封ずるかというのが実は冷戦後の一つの大きな課題なんだろうと思います。  単に歴史の記憶が再びよみがえるだけでなく、先ほど申しましたとおり、地域によってはその結果として恨みつらみ、もっと殺し合いを始めた地域が多数あるわけでございまして、そこまでなっていないのはここの地域は結構なことだと思うんですけれども、そういう常に歴史の教訓というものがネガティブに動き得るというのが一つあると思います。  ただ、遠い国というのはあるわけですけれども、その遠い国にしても、この地域の安定維持、平和維持というものに、いざというときは主体的にかかわり合いを持つ、血を流すと申しますか汗を流すといいますか、そういう用意があるかどうかがポイントでありましょうし、やっぱり遠くて無関心な国に頼んでもなかなか動かないんではないか。そういう観点からすると、アメリカというのは、この地域に一貫して死活的な利害関係を持ってきたという意味でいろんな役割を果たしている、こういうことではないかと思います。
  49. 森本敏

    参考人森本敏君) 先生御指摘のように、アジア太平洋の将来というものを考えますと、この地域における人口増加及びそれに伴う食糧、エネルギーあるいは環境問題といった問題が、この地域における安全保障上の極めて重要な課題になるというのは、そのとおりだろうと思います。特に、二〇三〇年ごろを念頭に置きますと、そのときの人口約八十五億のうち、インドの人口が十六億、中国の人口も十六億ですが、インドの人口が中国の人口を超えるという状況になり、その時点でのインドや中国の食糧不足、あるいは経済成長を続けるために必要なエネルギーや環境問題というのは、これはもうこの地域全体の安全保障上の問題になり得るんだろうと思います。  さてこの際、専門家の中で議論になっておるテーマというのが一つあるわけです。それは何かというと、人間の歴史を見ますと、各地域の国というのが発展する、経済発展をすると地域が安定する、すべての国及び地域が安定するという考え方が正しいのか。あるいは国家が発展していくことに伴って国益がどこかでぶつかり、紛争などが起こり、かえって不安定な状況になるというふうに考えるのがいいのかということなんです。  例えば、第一次世界大戦の原因はドイツの経済成長であり、第二次世界大戦の原因は日本経済成長ということに遠因があるとすれば、まさにそういう歴史の教訓が繰り返されるのかということが一つの命題なんだろうと思います。  この問題も実はいろいろな議論があり、かつて人間の歴史の中で行われたこの種の紛争というのは、いわばある種自己の領地を拡大したり、あるいは植民地化するといったかつての歴史的な経緯があって、国家関係というのが厳しくなるということであり、今日そのような要因はほとんど見当たらないという指摘もあります。一方、いやいや、必ずしもそういうことではなく、各国が経済発展をするとどこかで領有権あるいは食糧、エネルギーを求めて国と国がぶつかるんだという議論も依然としてある。この問題をどう考えるかということは、例えば我が国にとってみれば、この地域における経済協力というものがこの地域の安定にどのような意味を持っているかという点で、大きなインプリケーションを持っているだろうと思います。  しかし、とは言いながら、いずれにせよ豊かになって腹膨れればほかの国と紛争しないだろうという考え方に立って経済協力を進めるということは非常に重要です。しかし、もう少し国益というものを念頭に置いた戦略的な経済協力というものの道があるとすれば、我が国にとって外交上のてこが広がるのかなという点があるんだろうと思います。  もう一つの問題は、今先生がおっしゃったような、いろいろな個々の問題を解決するために地域的な協力というものがあり得るのかということです。特に、この地域で現在考えられているのは、例えば中国などを念頭に置いた環境問題、食糧とかエネルギーというのはちょっと気が遠くなるような、これに先進国が手を染めますと援助国の方がつぶれてしまうということであり、例えば環境や一部のエネルギー、一部のエネルギーというのは、この際ある種の原子力エネルギーというものを、地域共通に管理するようなシステムというのがこの地域であり得るのかどうかということは、現在この地域で真剣に検討がなされているということだろうと思います。  以上です。
  50. 田岡俊次

    参考人田岡俊次君) 今の中国ロシアが核保有をしておってその脅威にどう対処するかということは、まさにこれこそ非常に日本防衛安全保障にとっても極めて重要なポイントだというふうに私も考えておりまして、この資料の中に書いてあるとおりでございます。確かに中国は、むしろ通常兵力は一般に言われているのと逆に減少中でありますし、将来も減少するでしょう。しかし、中国の核兵器はミサイルの数では減っておりますけれども、撃たれたらこちらでは対抗策がない、やられてしまうという点においてはいささかも昔と変わりがない。ロシアも数は減っておりましても、やはり日本を破壊する十分な核戦力を将来も保有するということはこれまた疑いない。そうすると、じゃこれに対してどう対処するのかということです。しかも、先ほど申しましたように、どうもTMDもSDIと同じようにうまくいきそうにないなと考えられる。  それから、もう一つの方法としては、独自でやれというんでしたら自分で核戦力を持ち報復をするということで抑えがきくわけですが、これに関しましては九五年に核拡散防止条約、核不拡散条約の永久化、無期限化を日本としてはのんでしまってこの選択肢は放棄した。  そうしますと結局、論理的にはアメリカの核の傘というのは観念的なものであるとしても、現実にアメリカが本当に撃ってくれるとか、それでとまるとかはそれは怪しいものですけれども、とにかくそれでもなければ論理的に整合性がっかなくなるという問題が常に出てまいります。ですから私は、日米安保条約は何とか残した方がいいじゃないかという一つの理由はまさにそこにあるわけでして、この防衛政策の整合性がとれない。  これは、例えばスウェーデンなんかは非常に苦労しまして、やはり一時は核兵器を持とうかということまでまじめに考えたけれども、やっぱりどうもこれは難しそうだというわけで、地下に相当大きなシェルターをつくってそこに逃げ込むということにしたわけです。それも飛行機で爆弾を運んでくるんですと逃げられますけれども、ミサイルになるととても逃げる時間がないというわけですから、結局は唯一その可能性があるのは日米安保条約を残すと。  それは駐留があるかどうかは別であって、仮に駐留があろうがなかろうが、アメリカとしては、日本が核脅迫に屈して相手側の同盟国になるとか、相手側の言うことは何でもかんでも聞くようになれば非常に困るわけですから、これは彼らとしては日本を一応同盟国にし、核の傘は差しかけますからねということを言っておかないと、日本が核武装するようになればまたこれはアメリカはもっと大変なわけです。ですから、結局は核の傘というものは駐留が仮に減ったとしても残るものだろうというふうに私は考えております。
  51. 林田悠紀夫

    会長林田悠紀夫君) ありがとうございました。  まだまだ質疑もあろうかと存じますが、予定した時間が参りましたので、政府及び参考人に対する質疑はこの程度といたします。  一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、大変お忙しい中、川島局長並びに森本参考人田岡参考人におかれましては長時間御出席をいただき、貴重な御意見を賜りましてまことにありがとうございました。本調査会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後五時三十八分散会