○
今泉昭君 先ほどから申しておりますように、この労働時間短縮の問題は、
法律がきょう決まったから例えば来年じゅうにはすぐ直せというような荒っぽい取り組みではなかったと思うんです。ある程度期限を区切りまして、こういうふうに
努力をせいと、相当時間の猶予を与えた上での取り組みが行われてきたというふうに私
ども判断をしているわけであります。
しかしながら、今のお話によりますと、来年に迫っている猶予措置撤廃の問題がまだ相当対象
企業の中に実現されていないような
実態ということを、私
自身大変残念に思うわけです。苦しいのはみんなどこだって同じだと思うんであります。大変まじめに取り組んでいる
企業というのは、計画を立て、苦しい中にも社会の
一つのルールを守ろうとして一生懸命
努力をして実現をしてもらっているわけでございます。にもかかわらず、実現できないからさらにまた猶予をしてくれと。それをやることによって実現できるかどうかということも、計画書でも出せば別でございましょうけれ
ども、これも保証できないわけであります。
加えて、私が先ほどから申しておりますように、これからの
我が国の
産業構造の大きな
変化を考えてみた場合に、特にこの猶予措置の対象になっているところというのは第三次
産業に多いわけであります。そういうところの
中小零細企業がこれからふえていくという中にありまして、ますますそういうところが多くなっていくような私は実は危惧をしているわけでございまして、そういう
意味ではぜひひとつ強力な
指導をしていただきたいと思うわけであります。
かつて、定年制の延長に当たりましては、定年制延長の計画を立てなさい、計画も出さないところにおいては名前を公表するというような強い
指導も行ってきたやに聞いておりますが、それと同じように、実際に
努力をしていないところにはそれなりに強い
指導を行っていかなければ、やっぱり人間安易な方にどうしても
流れていきがちでございますから、ぜひひとつ
労働省としても御
指導のほど
お願いをしたいと思うわけであります。
特に、
中小企業の場合は、悪意であるところと悪意でないところと両方あるわけですよ。悪意でないところというのは、要するに社長さんは労務部長も兼ね、営業部長も兼ね、
財政部長も兼ね、何でもかんでも全部やっているわけでございまして、何といったって一番真っ先に
企業の収益に
関係のあるところに目が行くのはこれは当たり前のことであって、いかにしてお客をとるか、いかにして収益率を高めるかというところには目は行くけれ
ども、やはり
労働者の生活改善というところにはどうしてもなかなか目が行かないんですよ。これは当たり前のことだろうと思うんです。そういう
意味で、専門的な知識を持っている人がこの
中小零細企業には少ないわけでございますから、特に
行政のアドバイスや
指導というものが必要ではないかと思っております。
私がこういうことを申し上げますと、いやそれは商工会議所であるとか中央会であるとか、あるいはいろいろな地域の相談所であるとかというところで
指導体制はとっているとおっしゃるんですが、これはどちらかといえばそういう相談に乗っている
立場の
人たちというのは経営側のスタンスにある方が多いんですね、私
どもがつき合ってみますと。そういう面ではなかなか実効を上げていないという
実態もございます。
私
どもも実はこれまで長いこと、
労使が話し合いをする中で
企業発展をさせていかなきゃならないという
立場の
労使関係を重視してきた運動の
経験がある人間でございますから、一方的に経営側の苦境であるとか、経営側の
立場の苦しいところを理解していないということはあり得ないと思うわけでございますので、ぜひ
行政の強い
指導を
お願いしたいというふうに思いますし、当初予定の一九九七年にはこれが実現されることを心から実は願っているところでございます。
次に、別の課題に移らさせていただきます。最近、実は
日本の
労使慣行を抜本的に変えるということが、新しい
時代に向けての
我が国の
経済発展に欠かすことができないという論議を大変目にいたします。例えば、退職金制度の見直しであるとか、あるいはまた福利厚生費の法的負担の減少であるとか、そういうコストの削減であるとか、あるいはまた労働時間に関して成果に見合う
賃金なり報酬が出せるような裁量労働というものをもっと大きくふやしていくというような論議であるとか、あるいは
賃金制度というものを今までの一般的に言われている、これはキャッチフレーズ的に言われていることだろうというふうに私
どもは思っているんですが、年功
賃金制というのを抜本的に変えていく、そういうことをやらなければ、何か新しい
時代の
産業構造なり新しい
時代の国際化の中で、
日本の
企業の競争力が落ちていくんではないだろうかというような論議が盛んに聞かれるわけでございます。
考えてみますと、これまで実は外国からいろいろ言われてきた
日本の特色である
終身雇用であるとか、あるいはまた
年功賃金制度であるとかということは、
我が国全体の
企業の中で本当に実施されていたんだろうかということを調べてみますと、これは一部の大
企業においてやられてきたことであって、一般的な
中小企業には
関係のなかったことではないだろうかなという気がしてならないわけです。
確かに、戦後の
日本の
経済成長につれまして、
中小企業から物すごい大
企業に育った
日本の
企業はたくさんございます。そういう中で、
日本独特の
終身雇用制度であるとか
年功賃金制度であるとかということを大
企業ではっくり上げてまいりましたし、それが特に
我が国の労働力人口の年齢構成が大変低いときにはうまいぐあいに回転してきたことも事実でございます。
しかし、全体の
労働者の大多数である
中小零細企業において、果たして年功
賃金というものがあったのかどうか、あるいはまた
終身雇用制度があったのかどうかということをつぶさに検証してみますと、どうも
中小零細企業の中ではそんなものはなかったような気がしてならないわけでございます。
しかしながら、
中小企業に働く
労働者というのは、大
企業と
賃金だけではなくして、すべての
労働条件で
格差がございましたから、何とか一生懸命働いて我々もあの恵まれた大
企業に働いている
労働者と同じような生活
条件、
労働条件を実現したいという気持ちで一生懸命働いてきたことは事実でございます。
ところが、最近の
流れでは、今まであこがれというふうに見られていた大
企業の中でそういう制度をむしろ崩してしまって、一般的に
中小企業でとられてきたような形のものが望ましいんじゃないか、そういうことをやることによって労務費を下げて競争力を高めようではないかというような風潮がどうも強いような気がしてならないわけでございます。私は、これは大変危険なことであろうと思うわけであります。
一般的に、新聞なんかは特にそういう形で物を報道したがるわけでございますが、最近は年功給から能力給に移行するなんと言う。何も今まで能力給がなかったわけではないわけでございまして、ちょっとそういうことを言うと、すべて何か今までなかったものが新しく出てくるように一般的に見られるような風潮がどうも
我が国においてはあるわけですね。私は、
中小企業において今まで目指していた望ましい生活
水準、すべての
労働条件というものの目標がなくなされていくということは、大変危険な風潮ではないだろうかなという気がするわけです。
というのはどういうことかと申しますと、学校を卒業する優秀な学卒者の
方々は、実は
中小企業にはなかなか就職したがらないわけです。魅力がないからですね、これは。労働環境もしかり、
労働条件もしかり、いろんな
意味で魅力がなかったからなかなか
中小企業に行かなかったわけでございます。今、特に新卒者の就職が大変厳しい厳しいと言われておりますけれ
ども、確かに大
企業、中堅
企業においては厳しいわけでございますが、
中小零細企業においては人が足らなくて人が欲しいというような
状況にある。しかしながら、そこに向けて就職をしようという気を起こさない。そういうところに、例えば留年をしようかとか、あるいはまたフリーターとして残っていこうとかいうような
方々も含めて、就職難、就職難ということが一面では言われる点も私は否定できないと思うんです。
私は、こういう優秀な学卒者の
方々の能力を活用するためにも、今まで中小の
方々が目指していた大
企業の
労働条件体系のあり方を否定するようなこの大きな
流れというものは、ぜひひとつ余りこの風潮を助長するような形にしてもらいたくないと思っているわけでございます。
そういう
意味で、
中小企業を魅力ある職場ということにするためには
幾つかの
条件をつくってやらなきゃいけないと思うんですが、特に
労働省の方で魅力ある
中小企業にするために必要不可欠だと思われているような点についてちょっとお聞きしたいと思うんです。どういう点が優秀な人材が
中小企業に積極的に出向いていくような
条件というふうにお考えか、お聞かせ願いたいと思います。