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政府委員(
井嶋一友君) いろいろ細かいデータで御
説明するとなおよく御理解いただけると思い
ますが、私の方からはまずその
経緯と概括的な物の
考え方につきまして御
説明をさせていただきたいと思います。
今
委員御
指摘のとおり、
逮捕、
勾留が制限されます罪の
基準となります
罰金の額、
現行は
刑法等につきましては十万円、その他の罪につきましては八千円となっておるわけでございますが、それを
刑法等の罪につきましては三十万円、その他の罪につきましては二万円というふうに
改正を提案しているわけでございます。それから、
公判の
期日における
出頭義務の免除に関する
基準として、現在
刑法等が二十万、その他の罪が二万とされておりますのを、御
指摘のとおり
刑法等は五十万、その他は五万というふうに改めることといたしております。
この
意味合いは、要するに
刑法等の罪につきましては、
法定刑が
罰金・
科料のみであり、かつ三十万円以下の罪については
通常の
勾留、
逮捕の
要件にプラス住居不定とかいったようなもう
一つ要件がないと
逮捕ができないという
定めになっておる
規定であることは御
承知のとおりでございます。それから、
公判の
期日の
出頭義務につきましても、その
金額を
基準といたしまして、それ以下の罪につきましては免除されるという
規定になっておるわけでございます。
ところで、なぜ
刑訴法で例えば
逮捕、
勾留等につきましては一律に五百円以下の罪についてはというふうに書いておるのにかかわらず、この
二つの
基準つまりダブルスタンダードでやってきておるのかということの御
指摘でございます。これには、結局
罰金等臨時措置法を
定めました
昭和二十三年の制定当時の
経緯までさかのぼらなければなりませんので、若干
説明をいたします。
刑法は明治四十年に制定されまして四十一年から施行しておりますが、
法定刑は今日まで全然いじっていないわけでございます、特に
罰金刑につきましても。したがいまして、ずっと戦前その形でまいったわけでございますが、終戦後に経済の著しい
変動がございまして、
刑法に
定められております
罰金額では到底
機能しないということになりましたために、
昭和二十三年に
罰金等臨時措置法でとりあえず
罰金の
金額を
引き上げようということが行われたわけでございます。そのときに、
刑法等につきましては、当時五十倍という計算の
倍率を
定めまして、
法定刑に五十倍を掛けるという形で
運用をしてまいりましたが、その当時
刑法等以外の行政罰則、非常に多数ございましたけれども、それらの罰則につきましては非常にたくさんあるということと、それから非常に千差万別だったということ、いろいろ
法定刑の
定め方も
刑法等とは違いまして差異があったというようなことがございまして、なかなか二十三年の
段階で統一的にこれをまとめることができなかったわけでございます。
したがいまして、当時はとりあえず余りにも低いものは是正しようということで、二十三年のときには
罰臨法で、特別法につきましては
罰金の
多額の
上限が二千円に満たないものは二千円まで
引き上げる、それから
寡額の下限が千円に満たないものは千円まで
引き上げるという形で統一的に整理をいたしまして、それ以外に個別の
改定はしなかったわけでございます。そういったことを導入しましたために、
刑事訴訟法の今のそれぞれの
規定を適用する上におきましては、どうしても一本でやりますと、ほとんどの特別法の罪が結局例外といいますか、
逮捕、
勾留が制限される罪の方へ入るというようなこともございましたために、結局
ダブルスタンダードにせざるを得ないということで、当時、
刑法等の罪と特別法等の罪を分けて
規定するようになった。この形でずっと戦後
運用されてまいりまして実務が定着いたしましたので、結局四十七年の
改正の際にも、やはり同じように当時行われていた実務のやり方をそのまま特別の変更を加えずに持ってこようとすれば、やはり同じ
基準で同じ
倍率でやれば実態としては同じに移行するということで、当時
刑法については十万円、それからその他については八千円というような決め方をしたわけでございます。
今回につきましても同じような
意味で、
刑法等で十万円以下の
罰金とされております罪について制限があるわけですから、同じものを持ってこようといたしますと、十万円のグループが幾らになったか、つまりそれは三十万円になるんだということになりますから、同じように扱うためには三十万円というふうにせざるを得ない。それから、その他の罪につきましては八千円とされておりますけれども、それを今度その他の罪についての
罰金の
多額の下限といたします二万円、これを持ってこざるを得ないということで、やはり
ダブルスタンダードを引き継ぎながらそういったスライドをしたわけでございまして、そのことによりまして若干特別法につきましては制限される罪の範囲が広がります、ふえます。ふえますということは、
人権保障上はむしろ
要件がもう
一つ加わらなければ
逮捕、
勾留ができないというような形で運営される特別法がふえるわけでございますから、そういった
意味では、むしろ有利になるといいますか、そういった形になるんだろうと結果的に思いますけれども、いずれにいたしましても、実務の体制をそう大きく変えないという基本がございましたためにこういった
ダブルスタンダードをそのまま引き継いだということなのでございます。
それではこれをどうしたら解消できるかということになりますと、もう今まで御
説明したことでおわかりいただけますように、特別法の方を
刑法等の罪の
基準と似たようなものに近づけていけば、つまりそれを全部一体化したものとして評価して運営するような形が整いますれば、結局刑訴の
原則に戻って一本化ができるのではないか。しかし、特別法をこの際全部
刑法と同じような形で
罰金の
あり方、
金額の
あり方をそろえるということは極めて至難のわざでございますので、そういったことで、将来、行政罰則につきましてはできるだけ
刑法等の罪の決め方と近づけるように努力はするけれども、しかしそれにはとても時間もかかりますので、やはり二重のスタンダードを設けざるを得なかった、こういうことなのでございます。