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公述人(原豊君) 原でございます。
私に与えられました
課題は、対外
経済摩擦と通貨問題、こういうことでございますので、ここでは最近のそういう情勢のもとで今度の
予算案を見ました場合どういう感慨を得たかということを
中心にしてお話ししてみたいと思います。
申すまでもなく、貿易
摩擦は激化しておりますし、同時に
円高も非常に不安定ながらだんだんと高い方へ高い方へと動いているわけでございまして、私、率直に申しまして、ここしばらくが
日本経済にとりまして非常に重要な時期であろうと考えております。そういう観点から今度の
予算を見ますと、どうもそうした緊急の
事態を前に置いた
予算としては
政策スタンスの
転換というものが必ずしも明確ではないというような感じがしております。
税制改革の問題が含まれておりましたのでまだしもという感があったんですけれども、それも今回また別途な形で審議される形になりましたから、そういう意味では、なおその上にどうも性格がはっきりしなくなってしまった、こういう環境に対してはどうも
予算の力強さは感じられないという感慨を持っております。
そういう認識でございますけれども、現実に半導体の報復関税が
アメリカにおいてとられました。しかも、半導体と
関係ない電動工具にまで及んでいるというこういう
事態でございます。考えてみますと非常に荒っぽい話になっておりますけれども、こういう荒っぽい
事態までも招いたというそういう背景とか環境を我々は考えてみなければならないと思います。
それからさらに、御
承知のように
アメリカの包括通商法案がゲパート条項を含めて下院で可決される、こういう
状況でございます。上院に回されまして修正を受けることでございましょうけれども、今言ったような
状況を前にいたしますと、恐らく今度は
かなり日本に厳しい形で一本化されるんじゃないかと心配をしております。
そういう
状況のもとでまた最近
我が国の六十一年度の貿易収支の
黒字が一千億ドルを超えるという
数字が発表されましたし、また対米
黒字も五百億ドルを超えるというような
数字が発表された。こういう点を考えますと、いろいろやはり
我が国を取り巻く情勢は厳しくなっていると考えざるを得ないわけです。もちろんこれに対して
我が国といたしましては、前川
委員会、昨年四月に出ました報告書がございますし、さらには最近出ました新報告でございますか、三年以内にもっと
政策努力を重ねるという一応タイムリミットを課しました上で七項目ですか、いろいろ具体的な提案もなされているようでございますけれども、そういうものもなされておりますし、また
政府におきましても緊急な総合
経済対策を
検討する、あるいは
公共事業の前倒し等々で対応なさっておられます。そのことは重々知っておりますけれども、どうもやはりもっとこの厳しさを認識した上での
予算編成をしていただきたかった、こういうふうに考えております。
また困ったことに最近は、そういう情勢が厳しくなる反面で、
アメリカが悪いんだ、
アメリカがこの問題の
原因だと、そういうことを強硬に主張する
意見が強く出てまいりました。私は確かにこの中には正論側の
部分が
かなりあると考えております。しかし、やはり国際環境というものは一国だけでできるはずはございませんで、
政策の問題を考えてみましても、
アメリカの今批判されておりますレーガノミックスの
減税それから
財政赤字の
拡大というような方向をとりました時点と対応いたしまして、
我が国は少し早かったんですけれども、
財政再建のための路線を歩んでまいりました。ですから、片方ではどちらかといいますと需要を
拡大し消費を
拡大するような
政策がとられている、片方では逆に締める
政策がとられて、しかもその両国が非常に緊密な
関係にあるし、しかも困ったことに両国の
産業構造というものが補完的になっておりますので、片方にとりましていいことが片方にとって悪いという形になっているようなそういう形でございます。
ですからこの場合確かに、
アメリカに対してその問題点を
指摘し、早急に例えば
財政赤字の削減を初めといたしまして
政策転換要求をすることは当然のことと思いますけれども、同時に我々といたしましては、国際的な責任のもとで我々に何ができるかを考えて我々自身の対応もとらなきゃいかぬ。先ほど既にとっていると申しましたけれども、それだけじゃやはりまだ不十分じゃないだろうか、このように考えております。
今の
状況を見ますと、例えば悪いかもしれませんですけれども、どうも
日本と
アメリカという両家がありまして、その二つの家の間に火が燃え上がっている。そして両家とも火がついている。ところが
日本におきましては家が傾いておりまして、一生懸命にナーバスになりましてその傾きを直そうとしている。片方は、火がついておりますから、まずその傾きを直すより先に、この傾きは放置しておきましてもすぐ倒れるわけじゃございませんですから、したがってその傾きを少しずつ直しながらやるということよりはむしろ先に火を消すという、あるいは水を持ってきて火を消すという、そういう対策を早急にとるべき時点に来ているのに、何となくその傾きを直すことに
中心を置いているような気がしてならないわけでございます。例えが悪いかもしれませんですが、そういう感を非常に持っております。
そして、こういう形で進んできまして放置しておきますと、為替レートはこのままでは非常に不安定でございますし、昨今のいろんな
調整のもとでも、これは安定はなかなか難しいわけでございましょう。一千億ドルから二千億ドルに達するようなドルが投機的に動いている中で三十億ドル、四十億ドルの介入を行いましても、これは到底安定させる力はないわけでございます。
そうした
状況でございますので、やはり大きな
経済の流れというものが通貨の安定の方に向かっていかなければならないのであって、介入といったような、もちろんこれも必要でございましょうけれども、いささかテクニカルな形だけで安定させようと思っても無理だと。下手をするとドルの暴落ということにもなりかねないものですから、それだけはぜひとも避けたい。しかし現在の
状況というものは、既に
アメリカもドルが安くなって金利が上がる傾向を示しておりますので、こうなりますと
アメリカでもインフレ懸念どころじゃなくて、
アメリカ経済の停滞という懸念も出ておりますし、
アメリカ経済が停滞しますとまた
日本にはね返ってまいりますと同時に、ヨーロッパ、近隣諸国すべてが影響を受けるごとになってまいります。やはりこれは避けたい。
それから
日本におきましても、
アメリカ経済がそういう形で弱体化いたしますとなお
円高になる可能性が強くなりますから、そうなりますと現在ですら
円高不況といわれておりますように、これはもちろん
円高によってプラスになっているところもございますけれども、地方を回ってみますと
かなりの
部分で非常にダメージを受けている
地域が集中的に出ているということ、こういったところはなお一層の被害をこうむる形になる。そうした形で悪い方に悪い方に一潟千里の形になって流れていく傾向はぜひとも避けるべきだし、避けるタイミングは今だと私は考えております。
巷間では世界恐慌が来るかというような物騒な声も聞かれますけれども、一九三〇年代と違いまして現在のこの国際化した
状況のもとで、国際的な交流も行われておりますし、
政策技術も
かなりよくなっておりますから、現在ではそのような心配が一挙に来ることはないと考えております。殊さら不安感を助長するような表現は避けたいと思いますけれども、しかし放置しておきますとそういう可能性なきにしもあらずということを考えます。
そういう点からこの
予算を見ますと、やはり不十分な感じがいたします。もっと私はこうした国際
経済上の危機感というものが何か読み取れるような
予算であってほしかったという気がいたします。もちろん毎年毎年
予算が、その年その年の
基本方針が大きく変わるようじゃ困るわけでございますから、ある程度の継続が必要でございますし、また
予算の経費の中には継続しなければいけないものもたくさんございます。重々
承知しておりますけれども、そこをなおかつ工夫するのがやはり政治のあり方じゃなかろうか、このように考えているわけでございまして、そうした意味では国際
経済上の危機感がもう少し反映した
予算であってほしかった、現在はむしろ
財政上の危機感の方が表に出ているんじゃないかという、これは口が悪うございますけれども、そんな感じがしてならないということでございます。最近の
売上税をめぐるいろいろな議論におきましても、何かそういう感じがしておりました。
そして今度の
予算でございますけれども、編成の
基本方針を読みましたけれども、これは毎年大して変わっていない。実は私、一応毎年読みますし、
予算委員会もここ数年間に数回出ておりますので関心を持って読んでおりますし、その
内容もある程度見てきたつもりでございます。読み方が浅いかもしれませんですけれども、今申しましたような環境が変化しているにもかかわらず
予算の
基本方針というものは、片方では行革路線をしっかり守って、経費を節約して、そして安定的な
経済の発展に寄与するような
予算を組むというような方針でございまして、まことに立派な文章でございますけれども、どうもやはり食い足りない。しかも、余り変わりばえがしないという気がしてならないんです。
私も
行政改革の必要性は重々存じでおりますし、従来も景気と行革の両にらみでやってもらいたいということを強調してまいりました。現在でも必要だと思います。それから
財政再建の必要なことも重々
承知しております。今回の
売上税法に係る問題あるいは国民の反応を見ましても、あれだけ国民の反応が強かったということは、単なる新税は悪税なりというような新税拒絶反応だけじゃなくて、やはり国民が行政のむだを省いてしっかりと行政を組み直ししなければ増税一本やりになってしまうという危機感を持っていた、そういうことがあの強い反対にあらわれた側面があったというふうに考えておりますので、その点はしっかりと踏まえると同時に、行政のむだを省くという姿勢は変えてはならないと思います。しかし、そのことと、こういう時期に至って積極的な
予算を組んでこの危機に対応した積極的な行動を起こすということとは決して両立不可能だとは考えたくないわけであって、その辺の工夫を皆様方に要求したいわけでございます。
財政再建につきましても、経費の削減合理化、確かに必要でございますけれども、ここのところずっとマイナス
シーリングを課すとか、あるいは中期の
財政展望というものが出ておりまして、一九九〇年度までに
赤字国債発行ゼロの
目標を示すという、そういう方向は変わっていないわけでございまして、この辺のところはやはり従来と大きな変化がない。したがって私は、ことしにかけまして、本にも書いておきましたけれども、緊急時ですから、この中期の展望にしても
財政再建路線にしても、一時棚上げをしてしばらく後に延ばす、緊急
事態に備えて何かをやるという、国民は
事情を知っておりますから理解できると思いますので、その辺のところをはっきりとして何か積極的な
政策を組めなかったかどうか。
財源にいたしましてもそうでございまして、もちろん財源を伴わないようなやり方もございます、規制緩和とか市場開放などはそれほどたくさんの財源は必要といたしませんでしょう。しかし、それだけでは現在のような
状況に対しては不十分でございますので、やはり場合によっては建設
国債、さらには場合によっては
赤字国債も
発行して、そして積極的に何らかの形でアクションを起こしたという、そういうことを内外に実証し示すということと同時にその効果に期待するという、そういう方向をとっていただきたかったということでございます。
しかも時期は、今金利が安くなっておりますから、
発行した場合の負担は非常に少ない時期でございます。したがって、今
発行いたしまして将来
状況が変わって高くなりましたときは少なくするというような形で、少し長いレンジで見て
国債の償還を考えていく。そういうことも場合によっては許されますし、緊急時には許されるんじゃなかろうか、こういうことでございます。
また、
税制改革につきましては、もちろん私は直間比率を見直す必要性は感じておりますから、じっくりと審議なさってやはり立派な改革案をつくっていただきたい、拙速は避けてつくっていただきたい、こういうことでございます。
それから、さらにいろいろ工夫ができるかと思われますので、行政のむだを省くことを含めましてさらには
NTT株をどうするかということ。今非常に株価が高うございます。一千万株あたり手持ちになるわけでございますから、私どもにとりましても。毎年約二百万株近くを放出されるわけなんで、それならもう少したくさんお売りになって、今株価が高い時期でございます、三百万円超えておりますから、NTT、この際売っておきますとそれだけ差益が出てくるわけでございます。だから安くなって売るよりも今高く売っておきますと、株価が高騰いたしましてかえって困るような
事態もありますから、少し熱を冷やすという意味でも意味があるという、そういうところでこの辺のところを、二・二兆円という
数字が出ておりますけれども、もう少したくさんお売りになりますと、
売上税でも一兆何千億というレベルでお考えになっているわけですから、そういった形でやればもっと
政策もできるんじゃなかろうか。
そうなりますと、片方で
公共事業支出と
減税というものを二本の柱にいたしまして、どれをどうするかという技術的な問題は省略いたしますけれども、そういうものを
中心にして積極的な
財政が組めるんじゃなかろうか。それで
公共事業支出も、これは効果は確かに昔に比べて少のうございますけれども、これも一般的なことじゃなくてやはりやり方次第でございます。地方の非常に落ち込んだ
地域に対しては重点的に配分し、しかもその効率、乗数効果が高く出るような使い方をするというようなことですね。私は、都会よりもむしろ
公共事業は
地域に配分する、都会は規制緩和を初めとするようなそういう金のかからない
政策をとるというようなことも考えられるんじゃなかろうかというふうに考えております。
具体的な話は省略いたしますけれども、そのようにしてやると同時に、
減税もできるなら先行していきたいし、投資
減税を初めとして
産業構造の
転換に役立つような
減税は積極的にやっていただきたい、そういうことでございます。
そうやりましても
経常収支の
黒字というのは一遍には減りませんし、これは無理でございましょう。背後に構造的なものもございます。また、為替レートで
調整するということもどだい無理でございます。日経のNEEDSの計算によりましても、GNPの一%、約三百五十億ドルぐらいですか、そこまで持ってくる場合にはやはり百十円ぐらいのレートに下げなければいかぬ、そうすると
成長率は一%そこそこかゼロに近いようになってしまうという。そうまでしてやる必要はございませんし、そうやりますと
日本経済自体がおかしくなってしまう。これはちょっととれない
政策でして、逆に
アメリカもそれほどドルが急落いたしますとこれは大きな問題点が出てまいりますし、かえって自分の首を絞める形になってくる。
したがって、この辺のところは、やはりある程度
日本の
経済の体質を今のような形で積極性を外に示すと同時に、ある程度市場メカニズムを生かしながら随時介入、大きな役に立たぬにしても介入するとか、今度なさったようにちょこちょこと文句を言う。私は去年あたりから言ってよかったと思っていましたけれどもね、あの投機とかいろんな形でドル売りに走る
企業とか機関に対して。余り介入しますと、これは自由
経済に対する挑戦になりますから困りますけれども。そういうところで落ちつくところにある程度落ちつかせていく。適正為替レートもいろいろ問題、考える点がございましょうけれども、そうした形でやっていただきたいと考えております。
そうこうしているうちに、
円高ドル安になっておりますので、
アメリカも数量的には輸出は
伸びてきております。それから海外直接投資、
日本から出ております場合でも、今まで原材科は
日本から
輸入しておりましたけれども、それが現地で調達するような形になってきましょう。その場合に、
雇用問題が出てまいりますからそれはまた
雇用政策でやるといたしまして、いろんな形で
円高ドル安の効果がやがては出てまいります。それまでのつなぎですから、やはり小手先の
調整だけはこれは適当にやりまして、あとはもうどうにでもなれといって開き直った方がかえっていいんじゃなかろうか、レートにつきましては。私はそのように考えております。そうして、
アメリカだけではなくて海外、ヨーロッパもございましょう、中国もございましょう、アジアもございましょう、その国々に対してもやはり要求すべきところは要求し対応すべきところは対応する。
アメリカばかりに顔を向けておりますとかえって他国の反発を招きますから、そういう点を配慮なさって対応していただきたい、このように考えております。
どうも失礼しました。