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参考人(
糠澤和夫君) それでは、本
法案についての私どもの
考え方を述べさせていただきます。
まず初めに、
基本的立場と、それから
検討の経緯というところを申し上げます。
外国法事務弁護士の問題につきましては、
経団連としては主として
法律サービスの
受益者という
立場から
検討してまいりました。また、
ガットにおける国際的な
サービス貿易自由化の
推進、
ガット以外にOECDその他でもやっていると思いますが、そういった
見地からこの問題に関心を持ってまいったわけであります。
最近におきましては、
昭和五十八年の九月二十七日の
経団連意見書「
自由貿易体制の維持・強化に関する見解と提言」という文書におきまして、
相互理解あるいは
人的交流の促進という
見地から、「
外国弁護士の
日本における
弁護士事務所の開設、
活動を
相互主義に基づいて認める等、各種の
専門的資格の
相互容認により
交流を拡大し易くすべきである」というふうに主張をいたしております。
次いで
昭和六十年、昨年の二月の二十六日に発表いたしました
経団連意見書「
自由貿易体制の再建・強化に関する基本的
考え方」においても、
人的交流の促進という
立場から「欧米諸国が強く求めている
外国人
弁護士の
日本における事務所の開設、
活動については、
相互主義に基づいて双方の納得の行く
解決を早急にはかるべきである。」としております。
本年に入りまして、二月二十五日の
経団連の
意見書「
世界経済の安定と繁栄を目指して」という題、副題で「
国際社会における
わが国の責務」と題しておりますが、その中で
サービス貿易の
自由化推進という
見地から「
わが国経済の国際化
推進に伴い、
外国法弁護士の参入は必然的
方向としてこれを受けとめるべきである」と述べております。したがいまして、現在に至るまで
経団連といたしましては本問題の積極的
推進の
態度で一貫しております。
本年二月、先ほど申し上げました
意見書の中で、特に「
わが国経済の国際化
推進に伴い」としておりまして、これは
日本の金融・資本市場の
自由化を含む
サービス市場の
自由化の進展、それから対外直接投資の拡大など、今後の
我が国経済の国際化に伴う渉外的
法律事務活動の需要が増大するであろうということを予定した表現でございます。また、
法案提出の動きに伴い、それまで
外国弁護士という表現をとっておりましたが、
法案で書いておりますように
外国法事務弁護士と言った方がよかったかもしれませんが、
外国法弁護士という表現をことしから用いております。
経団連としては、この間に、
日弁連の
方々あるいは
法務省の担当の
方々、それから
外国のいろんな
弁護士などと本問題について情報あるいは
意見の交換を行ってまいりました。本年四月には経済界の
実務担当者ベースで
法務省から
法案の内容につき説明を受け、懇談をいたしております。
経済界の
ニーズはどこら辺にあるかということを次に述べたいと思います。
今回の
法案は渉外的
法律事務に限って
外国法弁護士の
日本における営業を認めようというものでありますが、かかる渉外事務は
外国企業との合弁、それから
企業の買収、技術の提携、それから
外国におけるあるいは
国内における債券の発行、国際的な融資などの契約行為にかかわるものが主になるのではないかと思われます。
我が国企業といたしましては従来から、例えば
外国の中で
米国に例をとれば、アンチダンピング法、それから相殺関税、アンチトラスト法その他、もろもろの
我が国の輸生
活動ないしは投資
活動の
関係で、
米国通商
関係法規等を中心とした面において、
米国人
弁護士をワシントンDCもしくはカリフォルニアその他各州等で雇用してまいっております。こういった準司法的な面の
サービスのほかに、一部は司法的なものもありますが、そういった面の
サービスのほかに、それから
立法府、行
政府に対するロビイングというのが特に
アメリカの方では非常に多いのですが、ロビイング
活動、情報収集、そういったことに
弁護士の事務所を使うということが非常に今までも多いということは皆さん御承知のとおりと思います。
さらに、
日本の金融機関などの対外投融資
活動の激増、
我が国産業の対外直接投資の激増などに伴いまして、このような種々の面における
外国弁護士の起用が一層多面的になって、かつ増加していくということは当然だと思います。もちろん今までのところを見ますと、こういう需要は相手の国において相手の国の
弁護士を起用して大分満たされてきているわけです。事実、
経団連のメンバー
企業などに当たりましても、現在の状態、この
法案ができる前までの状態でさほど不便を感じているという声は余り聞かないわけであります。
しかし、今後の経済の国際化に伴ってだんだん需要がふえてくるのではないかという気がいたします。
日本を中心とした国際的な
企業活動というのはどんどんふえるわけでございますし、それから今進展中の金融の国際化、
自由化、そういったものが進みますと、
東京がロンドン、
ニューヨーク、フランクフルトなどと並ぶ、あるいはそれを凌駕する国際金融センターとして成長していくというふうなことがあります。そういったことがありますと
我が国内で
外国人
弁護士もしくは
外国法弁護士の
ニーズが高まってくるのではないか。そういうことで、
我が国に渉外的な
法律事務の本拠を置いた方が顧客にとっても
法律サービスの提供者にとってもお互いに便利であるという面もふえる
傾向にあるのではないかというふうに存じております。現実に優秀な
弁護士が多数
存在するということが情報の集積
都市としての
一つの
要因になっていくのではないかというふうに、ほかの国の観察上、思われます。
我が国内の需要は、従来は
我が国の
法律事務所のトレーニーないしはコンサルタントの
資格で
法律事務に当たってきた
外国人
弁護士等の短期訪日のベースで
活動していた
方々、そういった
方々によってほとんど満たされてきたわけでありますが、今
我が国にあります
外国企業は現実にいろいろ不便を感じてきたことであろうと思います。現に欧州の
企業では、特に小さな
企業の方は非常に不便をこれまで感じてきたのだということを言っている人が多いようであります。しかし、今度の
法案が通過して施行されましても、顧客はまず
日本国内の
外国企業が主になっていくように観察しております。
我が国の
弁護士は、そういう需要に対しまして、
日本法については非常に立派な専門的知識を持っていても、
外国法についてまで習熟しているものは少数であるのが現状であろうと思います。それから、それぞれのいろいろな国の
外国語できちんと形の整った
法律的文書を作成するということができる
弁護士もごく限られた数ではないかというふうに観察いたしております。
こうして見ますと、
我が国の現状では、
外国法弁護士の専門的知識あるいは文書作成能力などを活用するのが
企業としては当然の道であると思います。今次の
法案では
日本の
弁護士事務所に対して
外国法律
事務弁護士を雇用することを認めておりますが、これを通じまして、あるいはその他のルートを通じまして
日本の
弁護士が渉外的
法律事務について一層習熟されて、全体としての
法律サービス、リーガル
サービスの面での国際
競争力が高められるということを希望いたします。
日本の産業の国際
競争力がかなりついているということは皆様御承知のとおりであると思いますが、そういったことに並んでリーガル
サービスの面でも国際
競争力が強められていけば非常にいいのではないかというふうに思います。
現在ある
弁護士の
法律のもとでは、
弁護士事務所の法人化並びに複数事務所設置といったような問題は認められていないようでありますけれども、
外国から法人経営の大資本
法律事務所が
日本に進出することに対して、非常にそういった面から危惧を皆様抱いておられるというふうにこれまで聞いております。しかし、積極的に今後の
日本の経済の国際化、
企業の国際的
活動の活発化といったことを前提といたしますならば、リーガル
サービスの提供者の方の国際
競争力を強化するといった面から、こういった制限についても再考の余地がありはしないかというふうに存じております。これはちょっと横道のようでありますが、付言させていただきます。
それから、将来の展望といいますか、こういうふうになるのではないかなといったような問題をちょっと述べさせていただきます。
今度の
法案は、現段階としては非常によく整ったものであるというふうに拝見しておりまして、私どもとしては一日も早く通過することを希望しております。まだ、在日
米国商業
会議所ですか、それからEBC、ユーロピアン・ビジネス・カウンシルというのですか、そういったところから非常な不満が述べられておって、文書が私どもの方にも届いております。そういった点ありますが、そういった点もなるべく今後の政省令の段階でできるだけ吸収していただけるものと存じております。
さて、やや遠い将来を展望いたしますと、
事態の推移によっていろいろな問題点や便法といったものが出てくることが考えられます。例えば
日本の大学においては
法律教育を受けた者のほとんど、九八%が官庁あるいは
企業に入って、ごくわずかが司法試験を経て
弁護士になるというのが現状ですが、こういった事情もあって、むしろ
企業の法務部などに、契約交渉の
実務を通じて
外国、特に英米の通商法等に精通し、また、たびたびの実際の
訴訟経験を経て特許法、アンチダンピング、アンチトラスト法係争などに精通した
専門家が多く生まれつつありますが、こうした人たちは
我が国または
外国の
弁護士資格を持っていない場合が多いのでありますが、そういうふうになりますと、今度の仕組みですと定年退職後や中途転職などの場合にその専門的知識及び
経験を社会のお役に立てるということが制限されるというふうな感じもいたします。
しかし、こういった問題は、
外国、特に
アメリカ等の
弁護士事務所あるいは欧州の
弁護士事務所等でも同じですが、
弁護士だけでなくてエコノミストなども雇用されておるようでありますし、コンサルティングというふうな方に進む手もありますので、そう大きな問題ではないのかもしれません。
それから次に、
日本の司法試験が難しいことから、語学に堪能な青年が
日本の大学を卒業した後に、あるいはそれも省略して、欧米のロースクールで勉強して
アメリカその他の国の
弁護士資格を取って、現地で
実務を数年行って
日本に帰国して
外国法事務の
弁護士として業務を開始するという便法も考え得られるようであります。これは、
外国人の
弁護士を今度の
外国法事務弁護士として予定していたのではないかというふうに拝察しておりますが、そういった事情から見ると、若干食い違う印象も生ずるかと思いますが、これはとりたてて
日本弁護士との間の権衡を失するということにはならないのではないかと思います。
また、
外国法弁護士で新しい
法律の規定する
実務年数の足りない者は、
日本の
企業あるいは在日
外国企業の法務部などにおいて社員などの形で、
東京で別途
サービスを提供するというふうな便法も考えられます。
いろいろのことを御
参考までに申し上げましたが、それもいずれも可能性の
分野の問題でありまして、私どもとしては基本的に、どんな形をとっても多様な
サービスというものを
競争的に提供していただく形の方がお互いに技量の向上が期待できるものというふうに信じております。
最後に、この
法案は基本的に
相互主義という
立場で書かれておりますようですが、
経団連としては、前二回の
意見書におきましては
相互主義の
見地をとっておりましたが、本年の
意見書ではその文言が取れております。これは他意はございませんで、
相互主義について物の貿易の
分野でもいろいろな
経験を踏みまして、これが果たして交渉の準則としていいものかどうか、あるいは結果の公平さをはかる尺度としていいものであるかということについて私どもは今のところ必ずしも自信が持てないという理由によるものであります。
御高承のように、
ガットにおきましては、内国民待遇と最恵国待遇ということを貿易全体を律すべき基本原則として採用いたしておりまして、
相互主義につきましては、各交渉における全体的
相互利益の均等を図っているということで個別
分野での
相互主義というものを排除してまいったわけでございます。したがって、これから
ガット交渉が本格化していく、あるいは
サービス貿易についての
ガット交渉が本格化していくというふうな段階で、これは
ガット交渉があるいはOECDにおける交渉によるかまだわかりませんが、いずれにしろ国際交渉が本格化していくという段階で、
相互主義を主とした
態度で臨むべきだと主張するというところまで私どもとしては踏み切れないということでございます。もちろん、
法務省がこの問題で
相互主義の
立場で応ずべきだと判断されたといたしましても、それはまた別問題でございます。
以上、いろいろ申し上げましたが、これら単なる可能性の問題として申し上げた点を含めまして、今後実際の
事態の発展を数年間見てみまして再び見直すようになるのではないかと思います。現在の時点で見る限りこの
法案は望ましい
方向にあると思いまして、一日も早く成立することを強く期待しております。
以上でございます。