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1986-04-22 第104回国会 参議院 法務委員会 第7号
公式Web版
会議録情報
0
昭和
六十一年四月二十二日(火曜日) 午後一時開会
—————————————
委員
の
異動
四月十一日
辞任
補欠選任
柳川
覺治
君 林
ゆう
君 四月十四日
辞任
補欠選任
橋本
敦君
小笠原貞子
君 四月十五日
辞任
補欠選任
抜山
映子
君
中村
鋭一
君 四月十六日
辞任
補欠選任
中村
鋭一
君
田渕
哲也
君 四月十七日
辞任
補欠選任
安永
英雄
君
矢田部
理君
小笠原貞子
君
橋本
敦君
田渕
哲也
君
抜山
映子
君 四月十八日
辞任
補欠選任
矢田部
理君
安永
英雄
君 四月二十二日
辞任
補欠選任
林
ゆう
君
吉村
真事
君
橋本
敦君 立木 洋君
—————————————
出席者
は左のとおり。
委員長
二宮
文造
君 理 事
海江田鶴造
君 小島 静馬君 寺田
熊雄
君 飯田 忠雄君 委 員
大坪健一郎
君 土屋 義彦君 秦野 章君
吉村
真事
君
安永
英雄
君
橋本
敦君
抜山
映子
君 中山 千夏君
政府委員
法務大臣官房長
根來
泰周
君
法務大臣官房審
議官
稲葉 威雄君
法務省民事局長
枇杷田泰助
君
事務局側
常任委員会専門
員 片岡 定彦君
参考人
立教大学教授
澤木
敬郎
君
一橋大学教授
あき
場準一
君
—————————————
本日の
会議
に付した案件 ○
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律案
(
内閣提出
)
—————————————
二宮文造
1
○
委員長
(
二宮文造
君) ただいまから
法務委員会
を開会いたします。
委員
の
異動
について御報告いたします。 去る四月十一日、
柳川覺治
君が
委員
を
辞任
され、その
補欠
として
林ゆう
君が選任されました。 また、本日、
林ゆう
君が
委員
を
辞任
され、その
補欠
として
吉村直事
君が選任されました。
—————————————
二宮文造
2
○
委員長
(
二宮文造
君)
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律案
を議題といたします。 本日は、
本案
につきまして御
意見
を伺うため、お
手元
に配付いたしております名簿のとおり、二名の
方々
に
参考人
として御
出席
をいただいております。 この際、
参考人
の
方々
に一言ご
あいさつ
を申し上げます。 本日は、御多忙中のところ当
委員会
に御
出席
をいただき、まことにありがとうございます。皆様から忌憚のない御
意見
を拝聴し、今後の
本案審査
の
参考
にいたしたいと存じます。よろしくお願いいたします。 なお、御
意見
の
陳述
は、議事の進行上、お一人十五分以内でお願いし、お二人の御
意見
の
陳述
が終わりましたら、二時間
程度委員
の質疑にお答え願いたいと存じますので、御了承願います。 それでは、これより各
参考人
に順次御
意見
をお述べいただきます。 まず、
立教大学教授澤木敬郎参考人
、お願いいたします。
澤木敬郎
3
○
参考人
(
澤木敬郎
君) 御紹介いただきました
澤木
でございます。 ただいまは
委員長
から大変御丁重なご
あいさつ
をいただきましてありがとうございます。また、この
委員会
における
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律案
の御
審議
に当たりまして、私
ごと
き者の
意見
を述べる
機会
を与えていただきましたことを御礼申し上げます。 それでは、短い時間でございますので、私から若干の点について
意見
を述べさせていただきたいと思いますが、
あき場参考人
とも相談いたしまして、私の方からはこの
法案提出
の背景になる
一般
的な
問題点
、それから
法案
をめぐる春子細かな論点について
あき場参考人
の方からということで二人で相談してまいりましたので、私からはこの
法案
の背後にある基本的な
考え方
とか
提案理由
に準ずるようなことを申し上げさせていただきたいと思います。 なお、これからお
手元
に
法務省
の方で準備されました「
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律案関係資料
」というのがございますが、この一枚目の目次のところに一から七までの番号が振ってございます。それで、それぞれの場所によってさらにそれが
細目次
になっているところがございますけれ
ども
、
資料
一の何ページというような形でこの中から若干の
資料
を援用しながら
説明
をさせていただきたいと思います。 私のお話ししたいのは、その
資料
の一になりますが、
法務省
の方でつくられました「
法律案提案理由説明
」の一ページでございますが、そこで二つほどのことが述べられております。この点についてまず
意見
を述べさせていただきたいと思います。 その
提案理由説明
の二行目のところに、
昭和
四十八年に
ヘーグ国際私法会議
において
扶養義務
に関する
国際私法
の
統一
を
目的
とする
条約
ができた、こういう
趣旨
のことが書かれておりますが、この点は本
法案
の
性質
ということに関連しまして非常に重要なポイントでございますので、一言述べさせていただきたいわけですが、
国際私法
という
法律分野
につきましては諸
先生方
既に御存じのとおりでございますが、ごく簡単に申し上げますと、現在の
国際社会
は国によって
法律
の
内容
が違うという
状態
になっております。例えば本
法律案
の
対象
になります
扶養
という問題ですと、
日本
ですと三親等以内の
親族
の範囲でしか
扶養義務
を負わない。しかし、すぐお隣の
韓国
では八親等内の
親族
まで
相互
に
扶養義務
を負うというふうに、各国の
民法
が全く
内容
が違っているのが現在の
国際社会
でございます。そういたしますと、
日本在住
の
韓国人
の
扶養
問題とかそういったような問題が起こってまいりますと、
日本民法
を適用して
判決
をするのかあるいは
韓国
の
民法
を適用して
判決
をするのかということによって解決が違ってまいりますので、これでは困るということになります。 そこで、
国際私法
という
分野
がわずか百五十年ほど前からだんだんにできてきたわけでございますが、その
法律
の基本的な
仕組み
は、そういう国際的な
法律
問題が起こったときにどこの国の
法律
を適用して裁判をするか。
扶養
について申しますと、現在、
日本
の
法例
二十一条という
規定
は「
扶養
ノ
義務ハ扶養義務者
ノ
本国法
ニ依リ」と、こういう
規定
の仕方をしております。そうしますと、
国際結婚
をした
夫婦
あるいは国際的な
親子
の間での
扶養
というような問題が起こったときには、
日本
の
裁判所
では
扶養義務者
の
本国法
、
扶養
を請求される人の
本国
の
民法
を適用して
扶養
という問題を解決する、こういうふうに考えているわけでございます。したがって、
国際私法
という
法律
は、その
国際社会
の中にたくさんある
法律
の中のどれを具体的な国際的な
性質
を持った
民事紛争
について適用するか、チョイス・オブ・ローというふうに申しますが、法の
選択
を規律する、そういう
法律
でございます。そうやって選び出された
法律
のことを
準拠法
というふうに言うわけですが、そうしますと、この
国際私法
もまた実は
国ごと
に違っているわけでございます。
日本
の
国際私法
では、例えば
扶養義務
は
扶養義務者
の
本国法
によるということになっておりますが、今度御
審議
いただくこの
法律案
では、
扶養義務
は
扶養権利者
の
常居所地法
によるというような
考え方
がとられておりまして、どこの国の
民法
を適用するかということの
考え方そのもの
が国によって違っているわけでございます。そういたしますと、国によって
国際私法
が違っているということの結果、実は
判決
の不調和といいますか、どこの国の
裁判所
に
訴え
を起こすかによって
判決
の
結論
が変わるという非常に不都合な
状態
ができてしまうわけでございます。例えば
日本
の
裁判所
へ
訴え
を起こせば
扶養義務者
の
本国
の
法律
が適用される、だったら一番
扶養給付
がたくさんもらえるような国はどこか、そういうことを考えながら、どこの国の
裁判所
へ
訴え
を起こすかというようなことも作戦としては成り立つようなことになるわけでございます。 そこで、国によって
国際私法
の
内容
が違っていては困るではないか。要するに、どこの国の
裁判所
に
訴え
を起こすかによって
判決
の
結論
が違うというような事態は
国際社会
にとって望ましいことではないということから、
国際私法
の
統一運動
というものが起こってまいりました。 この
資料
に書かれております
ヘーグ国際私法会議
というのは一八九三年、非常に古い時代でございますが、
オランダ
のアッセルという
学者
が言い出しまして、それで、
オランダ政府
がイニシアチブをとって
ヨーロッパ諸国
十四カ国に働きかけて、
最初
はたから非常に小ぢんまりとしたものだったわけでございますが、
国際私法
の
統一
を
ヨーロッパ
の中で実現しようという形で始まったものでございます。しかし、現在ではこの
構成国
は、この
資料
六の六でございますが、五十六ページのところにこの
条約
の現在の
構成国
が載っておりますが、三十四カ国でありまして、
最初
は
ヨーロッパ圏
だけであったものが、イギリス、アメリカあるいは
東欧圏
の
国々
、あるいは南米な
ども
含んでおります。しかも、ここに載せられております三十四の
構成国
のほかに、非
加盟国
であっても二十四カ国もの
国々
、その中には東ドイツであるとかソビエトあるいはルーマニア、シンガポールといったような
国々
が含まれますが、そういう
国国
もこの
ハーグ会議
で成立した
国際私法統一条約
を
批准
しております。そんな国が二十四カ国もあるということで、かなり国際的な規模の
国際私法統一運動
ということが言えるわけでございます。 そして、この
ハーグ国際私法会議
と
日本
との
関係
でございますが、先ほど申しましたように一八九三年にこの
会議
がスタートいたしまして、
資料
六の六の四十六ページのところにこの
会議
の規則が載せられておりますけれ
ども
、そこの三条のところでは四年に一度ずつ
会議
を開くということが
規定
されております。ずっと四年
ごと
にこの
会議
が開かれて今日まできておりますが、
日本
は第四回の
国際会議
、一九〇四年からこの
ハーグ国際私法会議
に代表を派遣してきております。そのすぐ前、四十五ページのところをごらんいただきますと、
ヘーグ国際私法会議関係資料
として
会議規程
が載っておりますが、その冒頭には十六の国の名前が載っております。その中に
日本
が入っておりまして、この一九五一年時点ではまだ十六カ国の
構成
であったわけですけれ
ども
、
局本
はこの中の一員になっております。そういう
意味
で、
日本
はこの
国際私法
の
統一
を
目的
とする
ハーグ国際私法会議
に古くから積極的な
協力関係
に立っていたということが言えるわけでございます。
日本
の
批准状況
は、同じくその五十六ページのところに書かれておりますが、今まで
ハーグ国際私法会議
で成立した
条約
のうちの五つを
批准
しております。私
ども国際私法学者
といたしましては、この
国際私法
の
統一
という問題の
重要性
、意義を国会も十分御理解いただきまして、積極的に
ハーグ
の
国際私法会議
の成立した諸
条約
のうち、
日本
の国益にとって妥当と考えられるものはむしろ積極的に
批准
するというふうにお考えいただければ非常にうれしく思うわけでございます。そういう
意味
で、本
条約
の
批准
ということは私
ども
にとって非常に重要なことであるというふうに考えている次第でございます。 それから第二点でございますが、以上が
ハーグ
の
国際私法会議
で成立した
条約
を
批准
するという事柄に関連した
部分
でございますが、こういう
条約
を
批准
した場合に、
批准
しっ放しでそのままにしておくという
措置
も可能なわけでございます。事実、この
資料
にも載せられております。十七ページのところの六の三ですが、そこには「子に対する
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
」というのが載せられておりますが、これは
条約
を
批准
しただけで特別の
国内法
を制定しておりません。しかし、十九ページのところを見ていただきますと、第六条ですが、「この
条約
は、第一条の
規定
によって指定される
法律
が
締約国
の
法律
である場合にのみ適用する。」と、これを
相互主義
と言っておりますが、
条約加盟国同士
の間でだけこの
条約
を適用しようといういわば閉鎖的な
条約
なわけでございます。したがって、子供の
扶養義務
については
日本
にも
国内法
があるわけですけれ
ども
、その
国内法
はそのままにしておいて、
あと
は
条約加盟国相互
の間でだけはこの
条約
によろうと、そういう閉鎖的な
条約
であるために
特別国内法
上の
措置
をしなくても済むことになったわけでございます。 ところが、今度の
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
は開放的な
条約
なわけで、六の一の
資料
の一ページ目のところでございますが、第三条として「この
条約
によって指定される
法律
は、いかなる
相互主義
の
条件
にも服することなく、また、
締約国
の
法律
であるかないかを問わず、適用する。」と、こういう
規定
になっておりますので、したがって
日本
がこの
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
を
批准
いたしますと、この
条約
によって指定される
準拠法
が
締約国
の
法律
であるか否かを問わず適用するということになりますので、従来
日本
に存在しております
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律
の
条文
を廃止して、そしてこの
条約そのもの
を
日本法
の一部に取り込む、こういうことをしなければいけないことになるわけでございます。それがこの
条約
を
批准
するという
趣旨
になります。 したがって、この
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
を
批准
いたしますと、現在
扶養
に関しては
法例
二十一条という
条文
がございますが、これは
資料
の四のところで
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律案
の
新旧対照条文
を
規定
しておりますけれ
ども
、そこで
現行
の二十一条を削除するというふうに書かれております。この
趣旨
は、現在
日本
には「
扶養
ノ
義務ハ扶養義務者
ノ
本国法
ニ依リテ之ヲ定ム」という
条文
がございますが、
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
を
批准
いたしますと、現在
国内法
としてあるこの
日本
の
扶養義務
の
準拠法
に関する
規定
を廃止いたしまして、
条約そのもの
を
日本
の
国内法
として採用する必要がある、そういうことから この
法律案
が
特別法
として立法されているわけでございます。 そういう
意味
で、この
法律案
は
条約
の
趣旨
を
国内法
化するということに主眼が置かれている
法律
でありまして、
条約
の
条文
がそのまま
国内法
の
条文
になっているわけではございませんけれ
ども
、
内容
的に見ますと、
条約
の
条文
を読みやすくする
条文
の整理とか、そういうことが中心になって全体が
構成
されております。 時間が参りましたので、
あと
は御質問の中で
説明
をさせていただきたいと思います。 どうも御清聴ありがとうございました。
二宮文造
4
○
委員長
(
二宮文造
君) どうもありがとうございました。 次に
一橋大学教授
あき
場準一
参考人
、お願いいたします。
あき場準一
5
○
参考人
(あき
場準一
君) ただいま御
指名
にあずかりましたあき
場準一
でございます。このたびは、本
委員会
の席上、当方の卑見を申し述べる
機会
を賜り光栄に存じております。 当面の課題でありますところの
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律案
につきまして、その
法案
に盛り込まれた諸
政策
並びにそれらを今ここで上程するに至ったその
趣旨
、
目的
に関しましては既に
法務省
の方から御
説明
のあったところと伺っております。また、ただいまの
澤木教授
による御指摘によって本
法案
についての諸問題はほぼ十分に
説明
が尽くされており、今さらそれにつけ加えるべきものが残っているかという疑問もございますが、せっかくの御
指名
でございますので、ただ一点についてだけお話し申し上げることとし、諸
先生方
の御教示を賜りたく存じます、 それは、本
法案
を
法律
として制定するに当たって他の
法令等
と矛盾、
抵触
を示すところがあるかないか、このところに尽きます。この点の検討に入る前に、現在
我が国
では当面の問題たる
扶養義務
の
準拠法
についてどのような法の
仕組み
になっているのか、この大略を通説に従い御
説明
を申し上げておく方がよろしくはないか、こう思いますので、これまでの
澤木教授
の御
説明
と多少重複するところもあり得ましょうが、その点はお許しいただきたく存じます。 今回上程されております
法律案
の
対象
とする
夫婦
間、
離婚当事者
間、
親子
間、その他の
親族
間のいわゆる
親族法的扶養
に関し、
我が国
の
国際私法
ではそれらの
準拠法
を次のように定めております。これにつきましては、この
参考資料
の五の
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律案参照条文
の一ページ「
法例
」というところに十四条から後の
条文
が載っておりますが、それをごらんになれば直ちにおわかりのところと思います。 まず、
夫婦
間につきましては婚姻の効力の問題の
一つ
として
法例
十四条に従い夫の
本国法
、
離婚当事者
間のものは
離婚
に付随するいわゆる
離婚給付
の問題として
法例
十六条により
離婚原因発生
当時の夫の
本国法
、その他の
親族
間の
扶養
は
法例
二十一条に基づき
義務者
の
本国法
にそれぞれよらしめております。そして、最も重要な
親子
間のものは、これを大ざっぱに分けて、
未成年子
に対するものと既に成年になった
親子
間のものとに区別し、後の方は
一般
の
親族
間の
扶養
と同様に
法例
二十一条に従い
義務者
の
本国法
、
未成年
の子に対するものは
法例
二十条を根拠に父があるときは父の、父のないときは母のそれぞれ
本国法
、これらを
準拠法
といたしておりました。 ところが、既に御承知のとおり
我が国
は子に対する
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
、これは六の
参考資料
の十七ページについてございますが、これを
昭和
五十二年に
批准
し、同
条約
は五十二年九月十九日から
我が国
に関し発効いたしておりますために、同
条約
の
適用対象
たる二十一歳
未満
で
未婚
の子の
条件
に該当します子が、
我が国
及び同
条約
の
締約国
、これは同じく
参考資料
の二十五ページに記載がございますが、その
締約国
に
常居所
を持つ限り、この
条約
に従い、さきに述べました父または母の
本国法
ではなくて、子の
常居所地
の
法律
を
準拠法
とすることになっております。 このたびの
法律案
は、その
子条約
と略称いたしますが、
子条約
においてとられております子、言いかえれば
権利者
の
常居所地法
を基準とするという
準拠法選択
の
政策
を
一般
の
扶養義務
についてまでいわば拡大しようという基本的な立場を持っており、その限度で、先ほど述べました我が
国際私法
の
現行規定
を
改正
する実質を持っているわけでございます。その
基本方針
に関しましては私も賛意を表するものでございますが、子に関する
部分
につきましては、それは
我が国
の
現行法
ではありますけれ
ども
、
我が国
だけのいわば独自の
改正
が不可能な
国際的合意
、つまり
条約
をもとにしている箇所がありますために、このたびの
法律案
と
子条約
との間の
抵触
のいかんが気にかかるということになるわけでございます。 そこで、この点についてだけ申し上げてみようと考えました。この点につきましては、お
手元
の
法律案関係資料
の
最後
のところ、
法律案逐条説明
の一ページ、第三条第二項のところにもう既に
説明
がなされております。
子条約
との
関係
では
姻族
についてのみ問題を生ずるわけでございますが、
姻族
間の
扶養義務
につき、本
法案
第三条第一項は
義務者
に
異議申し立て権
を与えております。
子条約
にはこうした
政策
はなく、真正面からの
抵触
があると言えるかもわかりません。そこで、
我が国
が
子条約
に従わねばならない場合には、こうした
異議申し立て権
を認めるわけにはいかない。そこで、第二項を置いて、少なくともこの点では
子条約
によることをいわば
規定
しているわけでございます。 ところで、右に述べましたような
子条約
によらねばならない場合とは
我が国
にとってどういう場合か、この点にちょっと触れておきますと、まず
条約締約国相互
の間という局面で言いますと、今回上程されております
法律案
のもとは、先ほどの
澤木教授
の御
説明
にもございましたように、
参考資料
の一ページにつけられております、
ハーグ
で一九七三年に採択された
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
、以下七三年
条約
と申しますが、これでございます。この七三年
条約
は、同じく
ハーグ
で一九五六年に採択されました、今まで
子条約
と申し上げてきた
条約
にかわるべきものとしてつくられたものでありまして、その
趣旨
は七三年
条約
の第十八条第一項に明らかにされております。
参考資料
の六ページにございますが、そこで七三年
条約
と五六年
条約
、つまり
子条約
ですが、その双方の
締約国
の間では、同項によりまして七三年
条約
の方が優先する、七三年
条約
によって取ってかわられる、このことが明文化されております。その第二項では、仮に七三年
条約
をも
批准
したとしても、子については七三年
条約
に従わないことを定め得る
余地
が認められております。ところが、今日までのところ、両方の
条約
を締約した国で本項を援用し、留保した国はございませんわけですので、両
条約
の
当事国
となった国の
相互
の間では、現在のところ七三年
条約
が常に優先するということになるわけでございます。したがって、問題を生ずるのは、五六年の
子条約
だけの
当事国
との
関係
ということになりましょう。 これは
参考資料
の二十五ページにありますように、それは具体的にはオーストリア、ベルギー、
西ドイツ
、スペイン、リヒテンシュタインとの間だけにとどまります。こうした
国々
との間では、
子条約
に従い、二十一歳
未満
で
未婚
の子に対する
扶養義務
に関しましては、その者がこれらの国に
常居所
を有する以上、
法律案
第三条第一項の
義務者
に与えられた
異議申し立て権
が認められない結果が生まれてくるわけであります。また、
法律案
第八条第二項の、
権利者
の需要、
義務者
の資力、これらの考慮もなされない。しかし、
政策
的に見まして、これらはいわば保護を必要とする子に有利な結果になるわけでして、仮に
抵触
が生ずるとしましても、実質的にはその難点とはならない。しかも、右の
子条約
だけの
当事国
のうち、
我が国
と最も
関係
の深いと思われます
西ドイツ
では、今のところ七三年
条約
の
批准
はなされていないようですが、同
条約
の
批准
を前提とし、
国際私法
の
改正作業
が進んでおりまして、その一九八三年の
草案
の
扶養義務
のところ、同
草案
の第十八条に当た りますが、これを見ますと、同条の
内容
はただいま御
審議
中の
法律案
や七三年
条約
とほとんど同一でありまして、同国との間ではほとんど問題を生ずる
余地
はないように思われます。 それからもう
一つ
、さらに本来の
準拠法
である子の
常居所地法
によれば
扶養
を受けられない場合どうするかという点に関しまして、今回の
法律案
の第二条及びそのもとになった七三年
条約
の第五、第六条に従いますと、まずは
当事者
の
共通本国法
を見、それによっても
扶養
を受けられない場合、
最後
は
法廷地
、
日本
で問題になっているときならば
日本法
に従うと、こういう三
段階
の
仕組み
になっているわけです。もう一度申し上げますと、まず
権利者
の
常居所地
、それでだめであれば
当事者
の
共通本国法
、それでもだめならば
日本法
と、こういう三
段階
にして何とか
扶養
を受けさせようと、こういう
政策
になってございます。 五六年の
子条約
では、その第三条におきまして、同様の問題について、
常居所地法
の次は今の例で言いますと
日本
の
国際私法
の
規定
によって定められている
準拠法
に従うと、こういうふうになっております。ここでは二
段階
でありまして、まず
常居所地法
、その次は
日本
の
国際私法
、こうなっておるわけです。この点も形の上では
子条約
と異なるところでありますが、この場合の
法廷地
、今の例では
日本
の
国際私法
の
規定
は
我が国
が独自に定めているものでよいわけですので、今回
法律案
のように定めますと、その
法律案
が右に言う
法廷地
の
国際私法
の
規定
に該当するわけで、その
内容
は七三年
条約
と同
趣旨
であるがためにここでも実質的には問題がないと、こういうふうになろうかと思います。 このようにいたしまして、ほかにも幾つか論点はございましょうと思いますが、時間の
関係
もございまして、できるだけ
先生方
の御
意見
を承りたいと思いますので、この辺で私が一方的に申し上げるのは差し控えたいと存じます。以上のようなぐあいで、
澤木教授
からもお話がございましたように、
現行法
との
抵触
というものもほとんどございません。大変
内容
におきましてもその根本的な精神におきましても妥当な
政策
を持った今回の
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律案
でございますので、私
ども
といたしましては、できるだけ慎重御
審議
を願った上でこれを
法律
として制定していただければ幸甚に存ずる次第でございます。 御清聴ありがとうございました。
二宮文造
6
○
委員長
(
二宮文造
君) どうもありがとうございました。 以上で
参考人
各位の御
意見
の
陳述
は終わりました。 これより
参考人
に対する質疑を行います。 質疑のある方は順次御発言を願います。
寺田熊雄
7
○寺田
熊雄
君 大変簡にして要を得た御
説明
をいただきまして、ありがとうございました。 まず第一にお伺いしたいのは、
先生方
がおっしゃった
関係
資料
の五十二ページ、ここに「
ヘーグ国際私法会議
諸
条約
」というのがありますね。「(注) 戦後に採択されたものを掲げる。」として、ここに(1)ないし(30)の
条約
が挙げられておりますが、その中で
我が国
が署名したもの並びに
批准
まで進んだもの、全然未サインのものと、こう分かれるわけでありますが、まず
先生方
におかれて、この
条約
は速やかに調印ないし
批准
すべきではないかと考えられるものはどれとどれでしょうか。ちょっとそれを両
参考人
にお伺いしたいと思います。
澤木敬郎
8
○
参考人
(
澤木敬郎
君) 私の方が先に御
説明
させていただきましたので、私の方から先に申し上げます。 なかなか難しい御質問なんですけれ
ども
、学界の中でそういう話題が出ますときに一番話が出ますのは、十四番のところにあります管轄の合意に関する
条約
、これは訴訟法上の問題なんですけれ
ども
、どこの国の
裁判所
に
訴え
を起こすかという問題について管轄合意というものを認めるか認めないか、こういうことが国によって違っていることは余り望ましくないし、早く
統一
した方がいい。しかも、この問題の
批准
に当たってはそう極端な政治的な利害
関係
の対立がないわけでございます。 そういうことで申しますと、例えば二十一番の、製造物責任の
準拠法
に関する
条約
というのがございますが、これは現在
日本
をめぐってこれだけの商品が輸出され、輸入されているそのときに製造物責任という非常に重要な消費者保護の問題についでこれが国によって法が
統一
されていないということは非常に望ましくないわけですから、
ハーグ会議
がこういう問題を取り上げて既に
条約
をつくっているということ、しかもこれは発効しておりますので一定の
国々
が
批准
しているということなんですが、このあたりになりますと本当に国際的な利害の対立が非常に明確に出てまいります。恐らくまだ
我が国
としてこういう問題をすぐ
批准
というところまでいくのにはいろいろ検討すべき問題が多いのではないかというふうに思います。 それに対して、一番は既に
日本
は
批准
しておりますが、二番、三番、このあたりも、有体動産の国際的
性質
を有する売買という文字が書かれておりますけれ
ども
、これは平たく申し上げれば貿易取引のことなんで、貿易取引がこれだけ
日本
をめぐって起こっているときに、一々契約が後で紛争になったときにどこの国の
民法
で処理するのか、例えば
日本
とアメリカで貿易取引をやっておいて、裁判になってからこの契約は
日本民法
で裁くのかそれともアメリカの
民法
で裁くのかがその時点になって問題になるということじゃ困るわけなんですから、できればそういうことは
統一
した方が望ましいと考えますけれ
ども
、やはりこのあたりも輸出国と輸入国といったようないわば一種の国際的な利害の対立がございますので、そう簡単に
批准
というところまで進めるかどうかは問題がございます。 そういう
意味
で、無難なものを選ぶというだけが能ではないわけですが、これまで恐らく
法務省
当局あるいは法制
審議
会の
国際私法
部会等々で、
日本
の立場として
批准
可能な
条約
から順次取り上げていくということでこれまで処理してきたのではないかと思っております。 私、直接御質問にお答えできなかったのですが、よく話題として出るのは、管轄
条約
などはどうだろうかということが話題に出ているということは申し上げてよろしいと思います。
あき場準一
9
○
参考人
(あき
場準一
君) 先ほど
澤木教授
が御
説明
になりましたところでほぼ尽くされているかとは思いますが、先ほど
澤木教授
も触れられました二番から四番、この問題につきましては、実は三十番でございますが、これでいわば改定が進められているようなこともございます。これは今日の国際的な物の交流
関係
の発展、複雑化に対応して幾分手直しが必要だということがあって出てきたものでございましょう。また、このような事柄に対しましては国際連合の国際貿易法
委員会
、UNCITRALと言っておりますが、そちらで
統一
法がつくられている、こういうこともございます。 そこで、そうなりますと、
統一
法でやる方がよろしいのか、こういう
国際私法
的な処理がよろしいのか、大きな問題がございますが、やはりより広い舞台でつくられました国際連合の貿易法
委員会
の案、これはウィーン
条約
というのがあるのですけれ
ども
、そういう方をそのまま直接やる方がいいのかもしれないというような
考え方
もございます。そういうわけで、この点はまだ多少流動的でございますけれ
ども
、恐らく早い時期に
批准
の方へ進んでいく可能性があるのではないかという感じがいたします。 なお、そもそもこの
ハーグ
の
国際私法会議
といいますのは、後ろの方に
構成国
が出ておりますけれ
ども
、当初はやはり西
ヨーロッパ
主導型で、大ざっぱな言い方をいたしますと、いわば北のクラブであったかもわかりません。それに対しまして国連の方は地球的なクラブである、場合によりましては南の
意見
、新国際経済秩序などと言われておりますけれ
ども
、そういう方に傾いた議論があるかもわかりません。こういう問題とも絡んでお りまして、単に全く無性格な
法律
の議論だけでは済まないこともございますので、なお慎重に検討した上で
意見
を申し述べたいと思うわけでございますけれ
ども
、このような問題につきましては、確かに
一般
的に言いますならば、早い時期に世界
統一
法ができる方がよろしいであろう、こういうふうに考えます。 その他の点につきましては、これはいろいろございますわけですけれ
ども
、例えばでアトランダムに申し上げますと十七番の、
離婚
及び別居の承認に関する
条約
であるとか、あるいは二十四番の、
夫婦
財産制の
準拠法
に関する
条約
であるとか、二十五番の、婚姻の成立及び効力の承認に関する
条約
、実はこういった問題につきましては、この
条約
を
批准
するという形もございますけれ
ども
、その
内容
をいわば先取りして
我が国
の
法律
を変える、こういう方法もございます。これは諸国で行われているやり方でございますけれ
ども
、そういうところで我が
法務省
の方では、法制
審議
会の場等々を通じましてその
条約
の中身を既に実現に移そうと努力をいたしておるわけでございまして、そういう点から言いますと単に
ハーグ
条約
の
批准
の数をふやせばいいというものではないような感じもいたします。要はその中身でございますので、中身において国際的な協調を旨とする
我が国
の全体の方針に従う方向で動いている限り、方法はいかようであろうともこれはよろしいのではないかと、こういう感じがいたしておるわけでございます。 以上、先生の御質問に対しまして十分にお答えできなかったかもわかりませんが、今回の
扶養義務
等々のような問題について言いますと、判断基準を何にするか、これが今回の問題でございますが、外国でこの
条約
に基づいてなされたそのような裁判を
日本
で承認すること、これが必要な局面もございます。そのような点につきましては、できるだけ容易に承認するような方向に持っていくか、あるいは
日本
でなされた
判決
を外国でより容易に承認してもらうような方向に持っていくか、これはそういう種類の問題に関する
条約
もないわけではございません。例えば二十二番がそうでございます。
扶養義務
に関する
判決
の承認及び執行に関する
条約
でございますが、これな
ども
観念的に言えば
批准
した方がいいのかもわかりません。ただ、訴訟手続といいますものは御承知のとおり国によって大変異なっておりますので、にわかにこのままでいいという形にもまいりません。そういうところで、この点もやはり
法務省
の方で慎重に
審議
をされている途中だと伺っております。 以上でございます。
寺田熊雄
10
○寺田
熊雄
君
我が国
の
国際私法
に関する
法律
は御承知のような
法例
がありますが、何分にもこれ非常に古い
法律
で明治三十一年の
法律
第十号であります。今
法務省
の方でこれのやはり全面的
改正
を法制審の方に諮っているようでありますけれ
ども
、私
ども
が気になるのは、やはり先般
批准
を完了いたしましたあらゆる形態の男女不平等の撤廃に関する
条約
であるとか、その以前に暁に
批准
をいたしました国際人権規約、あるいは男女平等を要求しておる憲法第十四条、そういうものに
抵触
するかのような
規定
が間々見られるわけでありますけれ
ども
、こういうことを考えますと、
法例
の速やかな
改正
を必要とするという、私の方はそういう持論を持っておるわけであります。それについて
先生方
はどういう御見解を持っていらっしゃるのか。 それからまた、これは
日本
だけでなくして、かなり西欧の民主主義国家にもやはり
国際私法
規則において男女平等
規定
に対する
抵触
というのもあるようでありますが、そういう点の御見解を両先生にお伺いできればと思います。
澤木敬郎
11
○
参考人
(
澤木敬郎
君)
意見
を述べさせていただきます。 ただいまの御質問は二点にわたるように思います。一点は、女子差別撤廃
条約
の
批准
ということあるいはその他
一般
に両性平等原則との
関係
で
日本
の
現行法
例をどう評価するかという問題と、そもそも
日本
の
現行法
例が非常に古くなってしまっているのではないか、そういうこととは別に全面的な見直しが要るのではないかという二つの問題があったと思います。 順次答えさせていただきますと、第一の問題、両性平等原則と
現行法
例の
関係
につきましては、一応私個人といたしましては、
法例
十四条から十六条まで、婚姻の効力、それから
夫婦
財産制、
離婚
について夫の
本国法
を適用するとしているもの、それから
法例
二十条で、
親子
間の
法律
関係
で「父ノ
本国法
ニ依ル」と言っている
部分
は両性平等原則の少なくとも精神には反する。 と申しますのは、実は夫の
本国
の
法律
の方が大変民主的であって妻の
本国
の
法律
の方が女性差別の
法律
を持っているということが現実には起こり得るわけなものですから、妻の
本国
の
法律
を選べばいいということにはならないわけですね。そこが
国際私法
といわゆる
民法
の違いなわけです。憲法十四条の両性平等原則ということから、実質的な差別ということで考えますと、むしろ夫の
本国
の
法律
を選ぶ方が
民法
上は非常にいい
民法
と言ったら変ですけれ
ども
、そういうことになっていて、妻の
本国
の
民法
の方が大変差別的だということも起こらなくはない。だから、夫の
本国
の
法律
を選ぶのか妻の
本国
の
法律
を選ぶのかというだけでは、直接両性平等原則には反しないという
考え方
もございます。 しかし、私は先ほど精神としてと申しましたが、確かに夫の
本国
の
民法
の方が男女平等原則を十分貫徹した
民法
を持っていたとしても、だからといって夫の
本国
の
法律
を
準拠法
にするということが許されるわけではない。やはり憲法の精神からいって望ましくないというふうに考えております。 したがって、両性平等原則に反するか反しないかという評価、判断についてはそれぞれの見解があると思いますけれ
ども
、現在私の了承しておりますところでは、そういう
規定
を
改正
するという方向で現在法制
審議
会は
審議
をしているというふうに申し上げてよろしいと思います。 それからもう一点ですが、そもそもこの
法例
は古くなったのではないか、全面
改正
の要はないかという
問題点
でございますが、その点も私賛成でございます。
国際私法
は非常に理論的な
法律
なんです。
民法
も刑法も千五百年近い歴史を持っているのに、
国際私法
という
法律
は、いわば近代国家ができてきてたかだか百五十年ぐらいの間にこういう法
分野
ができ上がってきたものですから、まだ十分な歴史的な背景もありませんし、かなり理論で法が積み重ねられている
部分
がございます。ところが、
国際社会
の実情がどんどん変わっていくにつれまして、やはりその理論構造も非常に変わってきているわけです。そういう
意味
で、確かに非常に古くなってきておりまして、この
条文
はどうも現代の
国際社会
の実情に合わないということが指摘されている
条文
が非常に多いことも事実なんです。 それではどう直すかということになりますと、またこれが議論百出という
状態
で、まだ十分おさまるところまでおさまり切っていないのじゃないか。現在法制
審議
会でも十分いろんなテーマについて検討中ではございますが、
ヨーロッパ
などではここ十年ぐらいの間に各国がどんどん
国際私法
の全面
改正
を実現しております。そういう
意味
では、
一つ
の
国際私法
の全面
改正
の立法の時期がだんだん近づいているということは言えるのかもしれませんが、私としては、今直ちに
日本
において
国際私法
の全面
改正
をするのはちょっと時期尚早ではないかというふうに考えております。
あき場準一
12
○
参考人
(あき
場準一
君) お答え申し上げます。 先ほど
澤木教授
がまとめられました二点、やはり先生の御質問の
趣旨
であろうかと思います。 まず
最初
に、婦人に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する
条約
、これとの
関係
で申しますと、やはり私も基本的には
現行法
例が直ちに違反するとは考えられないわけでありまして、また、そのゆえにこそこの
法例
が直ちに無効とはなっておらないとは思いますけれ
ども
、
条約
の表題にもありますように、「あらゆる形態の差別」という わけでして、
澤木教授
が御
説明
をしてくださいましたのは、いわば
民法
のレベルにおける差別があるかないか、
国際私法
の上では差別があるように見えるけれ
ども
、下の
民法
のところではある
意味
ではフィフティー・フィフティーであって、夫の
本国
の
法律
の方が妻に有利な場合もあり得る。だから、実質的な差別がないからこれは必ずしも基本的には差別になっておらないという、通常私
ども
教壇の上からはそういう
説明
をいたしまして
現行法
のことを解説いたしておるわけでありますけれ
ども
、個人的な見解で申し上げますと、幾分先走るかもわかりませんが、「あらゆる形態」というところに少し手がかりを求めまして、
民法
のレベルでの差別はもちろんのこと、
国際私法
の上のところでも差別があってはいかぬだろう、こう思います。 その
意味
では、少なくとも憲法二十四条あるいはこの差別撤廃
条約
と
抵触
するおそれのあるところは直ちに
改正
した方がよろしいというふうに考え、また、実は
法務省
の側といたしましても、記憶は幾分正確ではございませんが、既に
昭和
三十四年にこのような夫の
本国
、夫の国籍を優先するような
政策
はやめようということがもう内部的には決まっているはずでございます。これは三十四年ですから、もう相当以前のことになりますね。なかなかそれが実現しなかったのは
一般
の社会情勢の
関係
があるのかもわかりませんが、今日では、かつてとりましたそのような方向をさらに一歩進めるような形で
審議
が進んでいると伺っております。それを大いに期待するわけでございまして、そのような
改正
案が本
委員会
にかかりましたときには、ぜひとも早急に通していただけるようにお願いいたしたいと思います。幾分場違いではございますが、そういう感じがいたすわけでございます。 もう
一つ
、古いという観点、これは確かにそうでございますが、実は
日本
の場合には幾つかの時代を
日本
は過ごしてまいりました。現在の
日本
の領土以外にも
日本
の領土と称されるところがあった時代がございます。その時代には、国籍としましては
日本
でございますけれ
ども
、民族的には異なる
方々
が幾つか分かれておりまして、
日本
の国内だけでも、ある
意味
では国際的と申しますか、そのような本来の
意味
におけるインターナショナルな
関係
がございましたわけでございますが、今日の
段階
になりますと、物あるいは技術、学術、こうした交流はやや活発になってはおりますけれ
ども
、人の間の交流、特に日常生活の交流というのは必ずしも
日本
は活発ではないように思われます。 例えば結婚について話をしますと、
国際結婚
ということが盛んにジャーナリズムを騒がすことはございますが、統計を見ますと、
日本
の場合には千人に二人ぐらいしか
国際結婚
をいたしません。その
国際結婚
をする
方々
の中の八五%はいわゆる
日本
に長い間おられます朝鮮籍の方とされるのが多く、いわば
日本
の国の外へ出ていって結婚する方というのは非常に少ないようです。これがドイツですと百人に十七人、スイスですと百人に三十五人ぐらいは
国際結婚
をされるわけでして、そういう
国々
に比べますと、いわば本来の
意味
での
日本
人の通婚圏といいますか、それが狭いわけです。これは、ある
意味
では
国際私法
ということに対する需要といいますか、これが少ない。極端なことを言えば、
国際私法
なくても何とかやっていけるような社会ではないかという、実はこういう面がちょっとあるのじゃないか。だから、結果としてなかなか時代に対応するような
改正
ができなかった、
改正
を要請するような社会的な需要がなかったと言えるかもわかりません。 近時、先ほど
澤木教授
が御
説明
されました欧米諸国における
改正
の最大の原因は、既に御承知かと思いますけれ
ども
、いわゆる移住労働者の問題なんです。実はこの
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
もそれにかかわるところが少なくないわけですけれ
ども
、これは先生十分御承知だと思いますが、ベルリン市内の三分の一の人口はトルコ人である、こういうような状況がございます。しかも、なかなか
本国
へ帰っていかない。そういう状況をいかに処理しようかという形で非常に急務になってきている、こういうこともあったかもわかりませんので、ただ古いということだけではやはりそれを
改正
する理由にはならないだろうと思います。 単に古さだけではなく、
改正
を促すような何らかの社会的な需要というものがある
意味
で果たして
日本
にあったか、その結果がこういうふうになっているのではないか。しかし、今日
先生方
のお知恵を拝借せざるを得ないような状況になっているということは、徐々にではございますが、まさに
日本
も真の
意味
における国際化へ移りつつあるのではないか、こう思いますので、今後はますますこうした
国際私法
関係
の法令の御
審議
を願う
機会
が多くなろうかと思います。
寺田熊雄
13
○寺田
熊雄
君 それから、今、男女の平等の理想に
抵触
する
規定
、これは
澤木
先生ですな、夫の
本国法
を適用する方が
当事者
に有利であると。それは両
当事者
に有利というふうにおっしゃるのか、女性の側に有利とおっしゃるのか、その点はちょっと聞き漏らしましたけれ
ども
、
当事者
はいずれの
本国法
も適用できるというふうにしておいて、そして判例にありますように、非常に不合理な結果を生ずるような場合は公序良俗の法理を適用して救済していく、信義則を適用する場合もあるかもしれませんが、あるいは法の理想というようなものを掲げて、夫の
本国法
を適用した方が法の理想にかなう、あるいは女性の
本国法
を適用した方が法の理想にかなうというような
裁判所
の裁量の範囲内にその決定をゆだねるか、いろいろな立法技術があると思いますけれ
ども
、何にしても、夫だけに限定して
規定
するということは、どうも私
ども
、やはり先ほどの男女平等撤廃
条約
なり憲法十四条あるいは国際人権規約等に正面から
抵触
するような感じを持つわけで、これは私
ども
もこれから十分検討してみたいと思うんです。 きょうは
先生方
の御
意見
は御
意見
としてお伺いしておくわけですが、このような
国際私法
の
統一
に仮に関連をいたしまして、将来は各国の私法の
内容
を
統一
する、そういう方向がやっぱりあり得ると思うんですね。それから、また渉外的な事項に関する私法
関係
にのみ適用される
統一
私法を制定する、いわゆる渉外
統一
私法というんですか、そういうこともあり得るわけですが、これは
先生方
の御
意見
としては、どうですか、近い将来にやはり可能だと思われますか。どうも私
ども
は非常に困難なように思うんです。殊に財産
関係
は非常に経済的な利害を追求いたしますので合理主義が支配する、ところが身分
関係
の
法律
といいますと、やっぱりいろいろ国民感情なり伝統なり風俗習慣等の支配がそこにありますのでなかなか難しいのじゃないかと思うんですが、その点はいかがでしょうか。それを
最後
にお伺いして質問を終わりたいと思います。
澤木敬郎
14
○
参考人
(
澤木敬郎
君) お答えさせていただきます。 ただいま私法の
統一
、
国際私法
の
統一
ではなくて、いわば
民法
、商法等々ですが、私法の
統一
という方向で国際的な問題の解決ができないかということが御質問の
趣旨
だったと思います。 これはやはり法領域、
分野
ごと
に考えていくより仕方がないと思いますが、家族法の
分野
に関して言いますと、よほどのことがなければ
統一
はできないのじゃないか。と申しますのは、カトリックですと一夫一婦制で
離婚
禁止というところから始まりまして、イスラム圏では一夫多妻制、タラクディボースといいますか、男子の一方的専制
離婚
がまだ認められているというような状況で、果たしてカトリック圏の
国々
とイスラム圏の
国々
が集まって
国際会議
を開いて世界婚姻法というものがつくれるかといえば、そう単純ではないと思います。ただし、もちろん人権問題とかそういう
部分
的な
国際的合意
というものは徐々につくっていくことは可能だろうと思うんです。 これに対して、取引法の
分野
ですと、ある程度経済的な合理性があれば
統一
は可能なんですけれ
ども
、現実には経済的利害、東西南北の対立のほ かにも、実は
法律
の
分野
では非常に技術的な違いが多うございまして、実際には法の
統一
がかなり困難なわけです。よく私
ども
が講学上例に引きますのは、手形小切手法の
統一
ができているのですが、アメリカとイギリスがこれに入っていない。結局、英米法系と大陸法系の
考え方
の根本的な違いが法の
統一
の大きな障害になっているということがよく指摘されるわけです。その他、最近の大韓航空事故なんかで問題になりましたワルソー
条約
、航空運送に関する
条約
、あれも一見
統一
法のようなんですけれ
ども
、実はオリジナル・ワルソーといいましょうか、
最初
のワルソー
条約
から始まりましてグアテマラ修正
規定
だとかいろんな修正
規定
がありまして、なかなか国際的な
統一
ができないのが実情でございます。 お答えになったかどうかわかりませんけれ
ども
、その程度で……。
あき場準一
15
○
参考人
(あき
場準一
君) 私も
澤木教授
と大体同じようなふうに考えておりますが、寺田先生の御
意見
を伺いまして、まさによく御存じであるなという感じがいたしました。 先生のおっしゃいますとおり、財産
関係
につきましては
統一
の可能性もあるやに思いますが、身分
関係
それから財産
関係
でも土地に関する問題、これはなかなか
統一
が難しいのじゃございませんでしょうか。ですから、物権的な側面とでもいいますか、ここはかなり難しい。やはり郷に入れば郷に従う、こういうやり方にならざるを得ないのではないか。 しかし、考えてみますと、
親族
法の方も、身分
関係
と申しましても財産的な側面があるわけです。今回上程されておりますような
扶養
、これは家族
関係
を基礎にしてはおりますが、基本的にはお金の問題ですね。そういうこともあるわけですから、
一般
に身分法、
親族
法だから難しいと言うこともできませんし、
一般
に財産法だから
統一
ができるとも言えない。やはり個々別々に考えていかなければなりません。結局、何も言わない結果と同じではありますが、できることから国際的に
統一
していかなければいけないと、こうなるわけです。 ただ、その際に何でも一挙に、いわば国連方式とでもいいますか、全地球的なレベルで
統一
をするということを考える必要はないのでありまして、例えば環太平洋地域だとかあるいは
日本
と朝鮮とか中国とか、こういういわば地域的な
国際社会
でならば、一見困難と思われますような
親族
法のところでも何か
統一
が可能かもわからない。だから、いつも全世界的に目を配ることは必要でありますけれ
ども
、結果としてそれで北と南が対立してみたりすることはよくないのでありますから、できるところからという
意味
はそういうこともあるのじゃないかと、こういうふうに考えております。
寺田熊雄
16
○寺田
熊雄
君 ありがとうございました。終わります。
飯田忠雄
17
○飯田忠雄君 ただいまいろいろお話を承りまして大変ありがとうございました。 二、三お伺いいたしたいのは、今度の
法案
の三条と四条に関しましてこれの背景となるもの、つまり必要性はどういうところからこういう
条文
が出てきたのだろうかという点につきまして、もしお差し支えなければお教え願いたいと思います。と言いますのは、第四条で見ますと、「
離婚
をした
当事者
間の
扶養義務
」と、こうございますが、
離婚
をしてしまえば赤の他人なのにどうして
扶養義務
が問題になるのだろうかということが常識的に考えられます。ところが、国を異にすればこういうこともあるのだろうかということもまた思われますのでお尋ねをするわけでございます。 また、三条の方でいきますと、例えば「傍系
親族
間又は
姻族
間の
扶養義務
」とございますが、これは国籍は
関係
ないとしましても、それにしても何か特別にこういうことを必要とする背景があったのだろうかということを考えるわけです。例えば
姻族
間の
扶養義務
といいますと、これは国と国とを異にするところに住んでおる
姻族
間の
扶養義務
ということだろうと思いますけれ
ども
、一体だれを中心としての
姻族
なのか、また、その
姻族
というものの範囲が、それぞれの国によって
姻族
というものは違う定義があるのか、あるいは傍系
親族
につきましても、これも国を異にするところにおける傍系
親族
間の
扶養義務
だと思いますが、こういうものについてそういうことを特に決めなければならぬようなことだろうか。例えば
日本
国内におるところの傍系
親族
であればもちろん
日本
のこれで済むようです。 ただ、問題は
日本
国内において外国人同士の
夫婦
がやってきてそれで起こる問題だということになりますと、それは一体どういう場合に生ずることなのだろうか。考えてみますと、私
ども
知識が足らぬものですからこの三条、四条は全くわからない
条文
だと、こういうことになっておりますので、ぜひお教えを願いたいと思います。よろしくお願いします。
澤木敬郎
18
○
参考人
(
澤木敬郎
君) お答えさせていただきます力 まず、四条の方が簡単でございますので、四条の方を申しますと、実は私
ども
がごく常識的に
扶養
と考えますのは、生活能力のない人に対してほかの
親族
関係
にある者がその生計の資を補給する、そういう制度でございますが、だれに一体どの程度でどういう義務を負わせるかということについては各国非常に多様な制度をとっているわけでございます。 先ほど御質問の中にありましたように、確かに
日本
の
民法
では
離婚
後
扶養
という観念はないわけでございますが、アメリカ等では昔からアリモニーといいまして、よくハリウッドの俳優さんなんかの
離婚
で、
離婚
した後も毎月別れた妻に送金をしなきゃならぬというような記事が出ることがあるわけですけれ
ども
、アメリカ法なんかではかつては、
離婚
後
扶養
、配偶者が再婚するまで一定期間
扶養
料を毎月送るといったような制度もございます。ドイツなんかではごく最近
民法
を
改正
しまして、それまでは
離婚
の際の慰謝料というようなものを認めていたわけですけれ
ども
、それを廃止しまして完全な破綻主義
民法
を採用すると同時に、
離婚
によっては、いわば財産
関係
の清算といいましょうか、
離婚給付
をしない、そのかわり、もし
離婚
後配偶者の一方が生活能力がない場合には、
離婚
後も経済力のある一方配偶者が他方配偶者を
扶養
する、こういう
離婚
後
扶養
というような制度をドイツの比較的最近の
民法
で新しく入れているぐらいでございます。 ですから、まさに
国際社会
の中には
国内法
でも
離婚
後
扶養
という制度をとっている国があるということですね。それが
一つ
の前提になりまして、そうしますと、
離婚
後
扶養
というような問題をこの
扶養義務
の
準拠法
条約
の
対象
にすることが適当かどうかということを判断して、どうもこれはむしろ
離婚
の効果の問題だから、
国際私法
的な表現を使いますと、
扶養
の問題として考えるよりは
離婚
の問題として考える。
日本法
的に言いますと、財産分子とか慰謝料とかという言葉があるわけですが、むしろそういう
性質
の問題として問題を処理した方が妥当ではないかというのが
ハーグ会議
での
結論
でこのような
条文
、四条ができ上がっている。 もう一度詰めて簡略に申しますと、要するに
離婚
の際の財産給付に関して、
日本
のようにこれを全く
離婚
の効果の問題として考えている国と、そうではなくて、
民法
の用語としましては
扶養
というような言葉を使っている国がドイツとかアメリカとかございますが、これを一体
国際私法
上
扶養
条約
の
対象
として考えるべきか、あるいは
離婚
条約
というものを別につくった場合ですね、
離婚
の効果の問題として考えるかということを議論した結果、これはやっぱり
離婚
の問題として扱おうということになった。こういうふうに四条に関しては御理解いただければと思います。 これに対して三条の方ですが、これは全く
性質
の違う問題でございまして、例えば子と親との間の
扶養
ですと、
扶養
を請求する方は大体子供で、親が
扶養
の
義務者
になります。特に子供が未成熟子の場合には親が子供に向かって
扶養
を請求するというようなことは普通考えられないわけです が、傍系
親族
とか
姻族
ということになりますと、例えば兄が
日本
人で弟がブラジルへ移民して現在ではブラジル国籍を持っている、そういう兄弟のようなものを考えてみますと、兄の方が生活力がなくなれば弟に対して生活を助けてくれということになりますし、逆の場合も考えられる。 そのときに二人に共通な
法律
というのがあればいいのですけれ
ども
、この
条約
のように
扶養権利者
の
常居所地法
ということにしますと、兄弟が
日本
とブラジルに別れている場合に、
日本
にいる方が生活力がなくなりますと
日本法
に基づいてブラジルにいる兄弟に請求する、
日本法
上は兄弟は
扶養義務
がある、だから何がしかのものがいただける。ところが、逆に今度ブラジルにいる弟の方が生活力がなくなって請求しようとしたら、もしもブラジル法が兄弟同士は
扶養義務
がないと言っておりますと、向こう側からは取れなくなってしまいます。一種のそういう不公平のようなものが生じてしまう可能性があります。 したがって、
親子
扶養
、特に
未成年
の子と親との
扶養
であるとか
夫婦
間
扶養
の場合はこういう特例を設ける必要がないと
条約
は考えたのでございますが、傍系
親族
とか
姻族
のような
関係
の
扶養
の場合には一種の公平みたいなものを考えて、それぞれの
扶養
を必要としている要
扶養
者の
常居所地
の
法律
だけで問題を処理してしまうのじゃなくて、たとえそこで権利が認められていても、その二人に共通の
法律
によって
扶養義務
がない場合、その場合には断れるというような制度をつくる方がいいのではないかというのがこの三条の背後にある
考え方
ではないかと思いますが、
あと
あき場
さんの方からまた補充していただきたいと思います。
あき場準一
19
○
参考人
(あき
場準一
君) 補足いたします。
最初
に
澤木教授
の御
説明
の順番に従いまして第四条
関係
を申し上げますが、恐らく飯田先生御質問の
趣旨
は、
離婚
した
当事者
間はもう既に
親族
関係
がない、本来
親族
関係
があるのを前提にしての
扶養義務
ではなかろうか、理論的にも幾分疑問がありはしないかと、こういう御
趣旨
ではなかろうか。誤解かもわかりませんが、その
趣旨
でお答えいたしたいと思います。 これは確かにおっしゃるとおりでございまして、そういう
意味
では、
草案
の
説明
などを見ておりますと、今回の
法律案
の前提になりました
条約
では、単に
親族
関係
だけではなく、疑似
親族
関係
に基づくもの、こういうものも入れておりまして、その
一つ
がこれに当たるのじゃないかと思います。認知をされていない子供との間もある
意味
では疑似
親族
関係
でございます。それがあるわけですが、じゃ、なぜそのようなものの間にということになるわけでございます。 これは
一つ
には、今日
離婚
法の主たる観点は、これは既に
澤木教授
も御
説明
になりましたように、
離婚
することによって経済的な困難に陥ることあり得べき
当事者
、これは今日では女性だけではございませんで、男の場合も少なくないわけでございますけれ
ども
、そういう者に対する保護というものを考えなければいけないということで、これがいわば
離婚
法の法
政策
の二大支柱の
一つ
になっておるわけであります。そこで、やはりこれが通常は一定の何がしかの全員の給付をもってなされると同時に、これも
澤木教授
おっしゃるおつもりで私のためにとっておかれたことでございますが、社会保障との
関係
がございます。 最近、
澤木
先生もお触れになりましたドイツの
改正
法では、いわば夫が将来六十歳になったときに受けることあり得べき年金の一
部分
について、もう既にそれを
離婚
の際に配分してしまうというような年金調整といいますか、
扶養
調整といいますか、そういう制度すらできておるわけであります。これは、一度結婚してもう別れてしまったにもかかわらずという問題は残るわけでございますけれ
ども
、やはり
離婚
をした結果保護を必要とする
状態
になったいずれかの
当事者
に対して何らかの救済をする、その第一次の責任をかつての配偶者が負うべきではないか、こういう発想に基づいていると思います。 もしその点につきまして、それもすべて社会が第一次に責任を負う、こういう制度に変わったなら話はまた別でございますが、そうはなっていない。ほとんどすべての国でそうはなっておりません。まず第一は、
我が国
の場合には、この後ろにもついておると思いますが、生活保護法の第四条で
親族
関係
に基づく者の間の
扶養
を優先して考えております。その中にこの疑似
親族
関係
も入ってくるのでありまして、これはいわば社会
政策
的立法の
趣旨
がないわけではない。だから、これがここに入っているのだ、そう理解いたしますとあながち場違いな感じがないのではないかと私は考えるわけでございます。 もう
一つ
、第三条、先生の御質問の
趣旨
、これもまた誤解いたしておるかもわかりませんが、なぜ傍系あるいは
姻族
の者に対してだけ
異議申し立て権
を認めたのか、こういう形でとらえるといたしますと、これも既に
説明
がなされておりますけれ
ども
、通常、
扶養義務
といいますものは、
権利者
のいわば社会的なニーズにこたえるというのが
一つ
、つまりニーズがなければいけないというのが大原則でありますが、必要のないところにする必要はない、これが
一つ
。もう
一つ
は、やはり一定の
関係
の深い者からお互いに助け合うというのが本来ではないか、これもやはり世界的な立法の傾向でございます。 そこで考えていきますと、直系の
親族
に比べ傍系あるいは
姻族
は非常に
関係
が薄い。だから、その者に対してはもしその義務がないという
法律
があり、かつそれが同じ国に属している場合、そのようないわば一種の家族
関係
における民族的な慣行というものを尊重すればどうか、こういう形でこの
異議申し立て権
が特に認められている。 しかし、この
異議申し立て権
は、そこにも書いてありますように、
裁判所
が黙っておれば当然にあなたは異議が認められますよという形でするのではなくて、あくまでもその
当事者
の主張を待っているわけですので、もちろん
姻族
であろうと傍系であろうと進んで
扶養
する気持ちがある人に対しては、それを抑えるような方向にはなっていないのであります。ただ本人が、いやそれならば自分よりもほかの人の方にという気持ちがある場合には、より近い近親の方に義務をまず負わせる、こういうことがより妥当ではなかろうか、こう考えられてできているのではないか、このように私は考えておるのでございます。
飯田忠雄
20
○飯田忠雄君 大変御丁寧な御
説明
でありがとうございました。よくわかりました。 ついでに、これは少し出過ぎた質問かもしれませんが、お尋ねをいたしたいのは、
我が国
には、終戦後たくさん女性の人がアメリカの軍人と
関係
を持ちまして、実際はこちらで子供ができておるが、夫はもうアメリカへ行ってしまっている、こういうのが非常に多いわけです。こういう場合にこの
法律
を適用になるようなことになるでしょうかという質問なんです。 つまり、昔は内縁
関係
にあったんですが、現在はもう内縁
関係
は切れてしまっておる、しかし子供はいる、その子供が大きくなっておるんですが、大きくなったその子供はアメリカにおる親の子供との間で
扶養義務
が生ずるだろうか。父親が向こうへ行きまして結婚して子供ができておる、その子供と
日本
におる子供との間は、これは
親族
関係
としての
扶養義務
があるかという問題。それから、母親とは
姻族
関係
でこの
扶養義務
関係
が生じておるだろうかという問題ですが、こういう問題はどういうことになるのでございましょうか。
澤木敬郎
21
○
参考人
(
澤木敬郎
君) お答えさせていただきます。 確かに、戦後間もないころに、
日本
をめぐる国際
関係
、
国際私法
上の問題として最もたくさんあったものは、アメリカの軍人と
日本
人女性が結婚し、さらにその後
離婚
、そして大抵の場合子供を
日本
人女性が引き取ってアメリカ人男性は
本国
へ帰ってしまう、そういう後の問題が多かったわけでございますが、御質問の論点、
国際私法
上の問題と
民法
上の問題との区別が必要かと思いますけれ
ども
、
扶養
がとれるかとれないか、これは特 定の国の
民法
による判断でございます。だから、
日本
の
民法
では、子供は母親の
離婚
後も生みの父親に対して請求ができるということでございますが、国によってそういう権利がない国があるかもしれませんので、どこの国の
民法
で決めるかということが問題になろうかと思います。 そうしますと、この
条約
の
批准
以前は、
日本
の
法例
では二十一条で、
扶養
は
扶養義務者
の
本国法
によることになっておりました。
親子
関係
ですと
法例
二十条という学説もあるわけですが、一応
説明
の便宜のために二十一条の方で
説明
いたします。そうすると、子供が父親に向かって
扶養義務
を請求する場合には
義務者
の
本国法
、したがってアメリカのいずれかの州の
法律
が適用されまして、そのアメリカの州の
法律
上父親が子供に対してどういう
内容
の
扶養義務
を負うか、それに従ってそれを負う義務が裁判上の
判決
として認められるということになります。 これが、今度この
法律案
が通りますと、今後は全部
扶養権利者
の
常居所地法
ということになりますので、もし子供が母親とともに
日本
に住んでいるという場合には、今度はアメリカの
法律
ではなくて
日本
の
民法
によって父親に対する
扶養
請求権が認められるかどうかということが決定されることになります。 そこから先は、
参考資料
に
ハーグ
の
国際私法会議
のいろいろな
条約
が並んでおりますが、その中で、
扶養義務
に関する裁判の承認執行
条約
というのがございます。例えばアメリカに住んでいるアメリカ人父親を被告として
日本
の
裁判所
で
日本
人の子供を原告とする
扶養
料支払いの
判決
がおりたときに、その
判決
がアメリカで有効な
判決
として認めてもらえるか、アメリカで直ちに強制執行ができるかといったような、そういう問題ですね。 これは、
日本
裁判所
の
判決
をアメリカが承認してくれるかどうかという問題に係りますし、国によっては、今度は外為法の
関係
で送金不能といったような国もございます。そうしますと、一国で取り立てた
扶養
料を国外に送金するためのまたさらに国際的な
仕組み
とか、かなり実際問題としては、国際的に
親子
が別れている場合のお金の送金についてはいろいろな問題がございますけれ
ども
、一応そういうことで、この
法律
が
日本
の
国内法
になりますと、少なくとも適用する
法律
に関しては、子供が
日本
にいる限り
日本法
が基準になって、それで裁判ができる、そこの点が違うということが言えると思います。
飯田忠雄
22
○飯田忠雄君 どうもありがとうございました。
橋本敦
23
○
橋本
敦君 二、三お尋ねをさせていただきます。 先ほど先生からお話がありましたいわゆる
子条約
ですが、この
子条約
を締結をしておる国がオーストリア、ベルギー、フランス、
西ドイツ
以下、この
参考資料
にもありますように、割にたくさんあるわけです。
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
の
締約国
はそれに比べると非常に少ないという状況になると思います。この
関係
はどういうように見たらいいのでしょうか、これがまず第一点でございます。 それからこの
条約
の第十四条で、この
条約
を適用しない権利の留保、留保権ということでございますが、どういう場合にどういう支障で留保しているのか、その実例が幾らかございましたら御
説明
をいただきたい。 まず、この二点お願いしたいと思います。
澤木敬郎
24
○
参考人
(
澤木敬郎
君) それではお答えさせていただきます。 前の点でございますが、私も事情よく存じません。
あき場参考人
が御存じでしたらお答えいただいた方がよろしいと思いますが、ごく常識的に申しますと、子の
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
の方はかなり前にできております。なかなか
条約
の
批准
というのは各国それぞれ
問題点
の検討等時間がかかりますので、恐らくこの国の差は
条約
の成立の時期にかなり影響されているのではないかと私は考えております。
扶養義務
の方が特に加入が難しいような
条約
だというふうには考えませんのでそんなことではないかと思いますが、一応存じ上げないのでその程度にさせていただきます。 それから、十四条の留保でございますが、この
条約
の二十四条のところに
規定
がございまして、いずれの国も
条約
の
批准
等々の際に十三条から十五条までに
規定
されている事柄について留保できるということですから、今十四条というふうに御発言がありましたけれ
ども
、十三条及び十四条、十五条、この三カ条に
規定
されている事項についての留保権でございます。 そして、十三条留保というのはこの
条約
の適用を一定の
扶養義務
の範囲だけに限るという限定的な留保でございます。要するに、
扶養
に関して言いますと配偶者間の
扶養
それから子供の
扶養
、これが恐らく最も重要な
扶養
だと思いますが、それ以外にも先ほど話題になりました
離婚
後
扶養
であるとか
一般
の傍系
親族
扶養
あるいは
姻族
間
扶養
というようなものがあるわけでございます。そのうち、この十三条留保は、最も重要な現在
夫婦
である者の間の
扶養義務
と、それから二十一歳
未満
の
未婚
の子供に対する
扶養
、これだけについてこの
条約
を適用する、それ以外の
扶養
は、先ほ
ども
あき場参考人
の方から御発言がありましたように、比較的縁の薄い者同士の
扶養義務
ですので、その問題についてまではこの
条約
で縛られたくない、そういうことを考えた場合にこの留保ができるという
規定
でございます。 それから、十四条の留保はそれの裏側ということになるのでしょうか、次のような
扶養
については今度この
条約
を適用しないということで三つ、傍系
親族
間の
扶養義務
と
姻族
間の
扶養義務
、それから
離婚
後の
扶養義務
についてはこの
条約
によらないということを
規定
しているわけでございます。 それから十五条、これはちょっとそういう
扶養
の
性質
によるものではなくて、実質的に自分の国に密接な
関係
に立つ
扶養
関係
であって、しかも
準拠法
が外国法になってしまうケース、ここで考えておりますのは、
扶養権利者
も
扶養義務者
も
日本
国民であって、しかも
扶養義務者
が
日本
に
常居所
を有しているというケースですから、例えば
親子
扶養
で考えてみますと、子供だけが外国に
常居所
を持っていて親が
日本
にいる、二人とも
日本
国民である、そういうときにこの
条約
をそのまま適用いたしますと、この
親子
の間の
扶養義務
は、
扶養権利者
である子供が
常居所
を持っている外国の
法律
によって決めるということになってしまうわけですが、
日本
人同士の
扶養
で
義務者
も
日本
人でしかも
日本
に住んでいる、こういうときはまさか
日本
の
法律
以外の国の
法律
でもって
扶養義務
を判断するのは妥当ではないというふうに考える国は、そういうシチュエーションだけは
我が国
はこの
条約
を適用しない。要するに
扶養権利者
の
常居所地法
によるというルールの例外を認めてほしいということで、やはり自国民同士の間の家族法上の
関係
には自分の国の
民法
を適用するのだという
考え方
をとる国もございますので、そのために認められている留保でございます。 そんなことでよろしいでしょうか。
あき場準一
25
○
参考人
(あき
場準一
君) 幾分補足をさせていただきます。 まず
最初
に、
一般
条約
の方が
子条約
よりも
批准
数が少ないのではないかは、
澤木
先生のおっしゃったとおりの事情だと思います。 他方、
子条約
ができました背景は、先ほどちょっと申し上げました
ヨーロッパ
では移住労働者、これが例えばイタリア人なりトルコ人なりがドイツへやってきて家族を顧みず帰ってもこない、送金も滞りがちになる、こういう事態に対して何とかしなきゃいけないというのでつくったということもありまして、それぞれの国でかなり実質的なものがあったのだろうと思います。 今回のは、先ほ
ども
説明
いたしましたように、そういう
未成年
の子だけではなくて、傍系
親族
とか
姻族
とか
離婚当事者
、いろいろ入ってございます。この
委員会
でも
先生方
御議論なられましたと思いますが、幾分範囲が広がっていますだけに、こちらはいいがこちらは果たしてどうかという議論が必ず起こってくると思いまして、各国それぞ れ慎重に
審議
をしているからおくれているのではないか、こういうふうに思います。 大ざっぱに言いますと、ゲルマン系の諸国、ドイツとか
オランダ
とか、イギリスもアメリカもそうですが、こういう国では傍系にはまず認めないわけです。
姻族
には認めることもございます。それに対して、傍系なり
姻族
、これを非常に広く認めますのはラテン系の国でありまして、イタリアなどというのは、ある調査によりますと、国民が一番信頼するのは家族であり、次は教会、国家は三番目に来るというような話がございますように家族の国でございまして、マフィアなどというのも何がしかのファミリア、こう言っているようでございまして、それからもわかりますように広いんです。そのあたりの、地中海諸国とそうでないアルプスから北の国との間の調整なんかいろいろあって、ちょっとやっぱり難しいのだろう、そういうことじゃなかろうか。これは単なる憶測でございまして、先生へのお答えとしては少し不謹慎でなかろうかと恐れますが、要するに余りよくは存じ上げないということじゃないかと思います。
あと
十四条等々の留保でございますが、この点は
参考資料
の二十五ページの各国
批准状況
等一覧表に、
扶養義務
の
準拠法
に関する
条約
についての各
締約国
の留保状況が三番のところに書いてございます。先生は既に御承知であったので、なおこの背景をと言われますと困るのでございますが、例えば十四条一項、ちょっとわかりにくいのでございますが、これは対照して見るとわかりますように、これは傍系
親族
に
関係
するものですね。二項が
姻族
であり、三項が
離婚当事者
の問題。 十五条は、これは一定の
条件
を従えましたときには
常居所地
の
法律
じゃなくて
法廷地
の
法律
を適用するという
考え方
でございます。この十五条的な留保、つまり十五条の方を見るとわかりますように、「
扶養権利者
及び
扶養義務者
が当該
締約国
の国籍を有し、かつ、
扶養義務者
が当該
締約国
に
常居所
を有する場合には、当該
締約国
の当局がその
国内法
を適用する」という形になるわけで、結局
日本
でやるときはもう全部
日本
だ、簡単に言えばそういう形の留保ですので、外国法の調査も必要ではございませんし非常に便利なので、これはかなり行われる可能性があるのではないか、これはもう非常によくわかることだろうと思います。
あと
傍系とか
姻族
とか
離婚当事者
、これについて留保するしないといいますのは、先ほど
澤木教授
からも
説明
のございました、各国によって
親族
、
姻族
の範囲が違います。そこで、そもそも傍系には認めないような国もございますものですから、国内
関係
で、例えばこれですとどこに
常居所
があるかが基準になるわけで国籍いかんはかかわりありませんから、本来、同一人で、兄弟姉妹にないのに例えば
日本
へ来ると
扶養義務
ができてしまう、これは果たしていいことだろうか考えますわけですね。そうしますと、どうしてもこれは留保していくということですので、
日本
のように御承知のとおり比較的広く認めている国ではまず問題はないと思いますが、そうじゃない国にとりましては、あるいは重大な問題だろうと思います。そのような結局、
国内法
制、基本的には家族というものに対する法感情、それの違いによって起こってくることだというふうに考えております。
橋本敦
26
○
橋本
敦君 ありがとうございました。よくわかりました。 もう
一つ
お尋ねしたいことは、さきの私の質問に関連するんですが、この
資料
によっても、十三条で一項、二項を留保しているという国がないわけです。つまり、十三条の子供に対する
扶養
あるいは配偶者間の
扶養
ということについてはほとんどの国が、国際的にも私法の
統一運動
というお話もございましたが、平均化していっているという
国際社会
の現状が
一つ
はあるのではないか。それともう
一つ
は、子に対する
扶養
というのが非常に大事な中心的課題になることが多いので、この
子条約
をかなりの国が
批准
をしておる、そういう状況がやはり
国際社会
の今日の平均的基準をもうつくっているのじゃないか。 そうしますと、
子条約
はお話しのように閉鎖的な
相互主義
でありますけれ
ども
、これはやっぱり
一般
的に
我が国
からしていくという建前も含めて、
子条約
についての
準拠法
をはっきり決めるか、そういうようなことを検討する時期にそろそろ来ているのではないかという気もするんですが、そこらあたりの御見解はいかがでしょうか。
澤木敬郎
27
○
参考人
(
澤木敬郎
君) お答えさしていただきます。 今の御質問の
趣旨
でございますが、子の
扶養義務
に関する
準拠法
条約
というのが既にできている、それの
内容
をもっと検討するという御
趣旨
でございましょうか。
橋本敦
28
○
橋本
敦君 それは、この十三条を留保している国がないという事実から見ても、いわゆる
子条約
は
相互主義
で
批准
した国同士の
関係
しか規律しないと、こうなっているが、これはもう国際的に
一般
的に通用性を持っているのじゃないだろうか、そういう状況にもうなっているのじゃないだろうかと、こう
一つ
は思うわけです。だから、そういう方向に向けての
条約
なり国内立法なりという運動がもっと進んでもいい
段階
に今国際的にあるのじゃないかと、こういう私の考えがあるので、そういう認識はどうだろうかと、こういう質問でございます。
澤木敬郎
29
○
参考人
(
澤木敬郎
君) 先ほど
あき場参考人
の方からの御
説明
の中にございましたように、この
扶養
条約
では、少なくとも
子条約
の
加盟国
相互
に関して言えば、
子条約
にとってかわるという
条文
がございます。ということは、
子条約
の
趣旨
は実質的にこの
扶養
条約
の方に吸収されたのだ、今まで閉鎖的な
相互主義
条約
であったわけですけれ
ども
、もう子供に対する
扶養義務
の問題の処理の仕方は、これは
一般
条約
としてこういう形で今後規律していこうと、そういう合意ができてこれへ移行したというふうに御理解いただいてよろしいと思います。そういう
意味
では私も全く同じように考えております。
橋本敦
30
○
橋本
敦君 それにしてもこの
一般
条約
の
批准
国が少ないのが気になる、こういうことでございます。結構でございます。
抜山映子
31
○
抜山
映子
君 もう既に同僚
委員
から数々の問題が提起されましたので、私は一問だけちょっとお伺いしたいと思います。 今度の
扶養義務
の
準拠法
に関する
法律
によりまして、今まで
扶養義務者
の方を保護する方に力点がありましたのが百八十度転回したと、こういうふうに了解していいのだと思うんです。 この第八条なんでございますけれ
ども
、
扶養
の程度は
扶養権利者
の需要と
扶養義務者
の資力を考慮して定めると、こういうようになってございます。私が疑問というか、どういうように実際にはその
扶養
料を決定するのかなというように感じますのは、例えば貨幣価値が十倍も二十倍も違う国同士の国籍を有する
当事者
の間で
扶養
料の請求があったときに、これはどういうように
扶養
料を決めるのだろうか。
日本
の家庭
裁判所
では
扶養
料の決め方について一定のルールを設けてはおりますけれ
ども
、国際的なものにつきましては、例えば中国と
日本
というように考えて、中国の兄弟から
日本
の兄弟に請求してきたというような場合に、恐らく
日本
の月給は初任給でも十五万ぐらい、向こうの初任給は五千円ぐらいと、こういうことになってくると随分格差が開くわけで、そういう場合にこれはどういうように
扶養
料を決めるのか。あるいはこの書き方の順序によって、
扶養権利者
の需要の方に力点が置かれるのかどうか、そのあたりどういうようにお考えでしょうか。
澤木敬郎
32
○
参考人
(
澤木敬郎
君) 大変難しい御質問なんですが、これはこの
扶養
条約
のみに限った問題ではございませんで、国際的にこれだけ経済的な
条件
の違いがございますと、国際的な
性質
を持った紛争における損害賠償額の算定の問題にしましても、こういう
扶養
料の算定にしましても、常にそういう問題が起こります。 ちょっと脱線してしまうようで申しわけないんですけれ
ども
、例えばまだ経済水準がそう高くない国の国民が
日本
へ観光旅行にやってきて交通事 故に遭って損害賠償というときに、例えば
日本
並みの相場で一千方とか二千万というお金をもらって
本国
へ帰りますと、
本国
では大財閥になるという可能性もございます。逆もあるわけで、
日本
人が外国へ観光旅行に行って、そこのお金としてはもう精いっぱいの最高の損害賠償をもらって帰ってきても、
日本
では到底何の
意味
もないというようなことになってしまうので、これは本当に国際的な経済格差がそのまま国際的な損害賠償額の算定というような問題になるわけでございます。そういうことを前提にしますと、果たして国際的な
性質
を持った事件で、損害賠償額にしろ
扶養
料の算定にしろ、どういう基準が妥当か大変難しい問題だと思います。 実はこの
規定
は非常に奇妙なところに
規定
が置かれておりまして、
条約
ですと十一条ですし
法律案
ですと八条なんですが、見出しは「公序」というところに書いてあるわけです。公序というのは、
準拠法
になった外国の
法律
が
日本
から見て非常に妥当性を欠く場合、本来は外国の
法律
を適用するのだけれ
ども
、その適用を排除して
日本
独自の解決をする場合があるという、一種のそういう留保に関する
条文
なんですが、そこにこういう
規定
を入れているわけです。 したがって、この
規定
の
性質
がどういうことなのかというのは、私
ども
もいろいろ考えたわけですけれ
ども
、今御質問がありましたように、一応
準拠法
国の経済水準あるいは損害賠償額の算定の相場といいましょうか、そういうもので機械的に数字を出しただけでは実際に
扶養
料を支払ったことにならないとか、あるいは逆に今度は
扶養義務者
の側からすると到底支払い能力がなくなってしまうとか、両面あると思うんですが、その総合的な配慮が必要だということをここでは言ったのじゃないか。 それを公序というふうに考えるかどうかなんですけれ
ども
、あえて
扶養
料の額の問題につきましてこういう条項を置いたというのは、本当に御指摘のとおりの問題が背後にあってのことだろうと思います。実際に今後実務の上でこの問題を
裁判所
が処理していくときに、今まででもあった問題でございますけれ
ども
、やはり重要な問題だろうと思います。お答えになりませんですけれ
ども
……。
あき場準一
33
○
参考人
(あき
場準一
君) 幾分補足をさせていただきます。
一つ
には、先ほど
澤木教授
からの御
説明
の中にございましたように、八条二項の意義づけ、大変難しいわけでございますが、これが入りましたいきさつを
説明
しました報告書がございまして、それを見ますと、例えば
扶養
の程度を決める際に
権利者
の需要を調べるのはどこでもやるわけでありますが、国によりましては
義務者
の資力を考慮しないという国があるわけでございます。例えばドイツ
民法
の千七百八条という
規定
が、これは現在
改正
されておりまして、ないのでありますが、これは非嫡出子に対する父親の義務に関する
規定
でございまして、これは父親の資力いかんにかかわらず、とにかく
扶養
せよという強行的な
規定
がございました。これは今日、少なくとも分娩費用については必ず負担せよという形で残っているようでございますけれ
ども
、今は変わっているのでありますが、そういう国はほかにもあるだろう、そういうものに対して、それではやはりよろしくないということで、むしろ
義務者
の資力を考慮し、いわば最も妥当な線を持ってくるためにできた
規定
ではないか、こういうふうに考えるわけでございます。 今日、ドイツの先ほ
ども
例に出しました一九八三年の
国際私法
の
草案
十八条の第七項は、この第八条の
規定
と全く同じでございまして、そこでもこの
扶養義務者
の資力を考慮するような方に変わっております。だから、ドイツも事情が変わったのでありますが、そういうのがありましてこれが入っているわけなんです。こんなことは実は書かなくても当たり前のことじゃないかと思いますが、そういう
規定
の国がありますために特にこれを書いておかなきゃいかぬ。そういう
義務者
だけ書いて
権利者
の需要を書かないのもおかしいだろう、需要がないにもかかわらず
扶養
しなきゃいけないような誤解を生じてはいけないだろうという形でこれは残っているのじゃないか。これは私の全くの偏見でございますが、そのように考えます。 なお、先生の御質問されました一番肝心なポイント、つまり実質的にどの程度なのか、この程度を決定する標準というものは、
扶養義務
といいますものが本来はその要保護者のニーズにこたえるというところにあるとすれば、やはりその要保護者がどのようなニーズの状況にあるかというところを客観的に調査した上でやる。だから、非常に形式的に申し上げますと、
権利者
の
常居所地
の標準というのになるのではないかと思います。ただ、具体的にそれがどれぐらいかということを決定するのは、これはやはり大変難しいことであり、今後私
ども
が知恵を絞らなきゃいけないところとは思いますが、ルールだけで申し上げますならば、やはり現実の生活費の基準に従う、こういうのでよろしいのじゃないかと思っております。
抜山映子
34
○
抜山
映子
君 ありがとうございました。
中山千夏
35
○中山千夏君 私は、二点につきまして両教授のお話を伺いたいと思います。
一つ
は、
最初
の
澤木教授
のお話の中で一例を示していただいたんですけれ
ども
、
扶養義務
の範囲について各国で差があると思うんです。広いところ、狭いところ、これの例を幾つかもう少しお示しいただければと思うんです。 それからもう
一つ
、第二点は、第八条の一項に関連したことなんですけれ
ども
、従来の
我が国
の
裁判所
で公序
規定
というものが適用されているその適用状況についての御所見をちょっと伺いたいんです。両方とも、実際この
法律
が運用されていく上で現実にどういうことが起こるのか、ちょっと考えてみたいものですから、その
参考
にお話を聞かせていただければと思います。
澤木敬郎
36
○
参考人
(
澤木敬郎
君) それではお答えさせていただきます。 学殖豊かな
あき場参考人
が下調べの時間をとる間、私が場つなぎをするというぐらいにお心得おきいただきたいと思います。 第一点でございますが、
扶養義務
の範囲に関する比較法的な
問題点
ということですけれ
ども
、ごく常識的に私などはとらえておりまして、
夫婦
、
親子
の間では、大体どこの国でも
扶養義務
がある。ただ、順位とか、これは例えば
現行法
がそうかどうかわかりませんけれ
ども
、
扶養義務
について兄弟
扶養
の方が
夫婦
扶養
よりも優先するなんという
考え方
、要するに血縁社会ですと配偶者というものの位置づけがずっと低くなりますから、まず兄弟に
扶養
を請求して、それでもだめなとき、
最後
に
夫婦
関係
といったような
考え方
もあるやに聞いておりますし、若干、順位については差があるかもしれませんけれ
ども
、範囲については
夫婦
と
親子
に関して言えば、恐らくどこの国も
扶養義務
をほぼ認めていると言っていいと思うんです。 問題になるのは、傍系
親族
、それから
姻族
にどこまで
扶養義務
を認めるかということですが、先ほど
韓国
が父の系統では八親等と申し上げたのは、
日本
に非常に近くて実際に
国際私法
的な問題が最も起こりやすい国の
一つ
である、それがいかに
日本
と違うかという例として申し上げたので、そうたくさん比較法的な
資料
をきょう持ってきたわけではございません。ただ、
日本
はかなり狭いのではないか、兄弟姉妹三親等までですが、かなり狭いように思います。これはちょうど相続権と裏腹になっておりまして、ある人が死亡した場合にその人の遺産をどの範囲の人が承継できるかという範囲、それが今度は裏返しになりますと
扶養
の義務の範囲につながっておりまして、
韓国
なんかではやはり相続権の範囲も非常に広うございます。 ですから、それぞれの国家、民族の伝統に従って差異があるのだと思いますが、そこまで
資料
を準備してきませんでしたので、大変申しわけありませんが、お許しいただきたいと思います。 それから公序ですが、
日本
の判例で公序則を援 周した判例はかなりの数がございます。しかも、私
ども
はよく反対するんですが、外国の
法律
を適用して出てきた
結論
が
日本
の
民法
を適用して出てきた
結論
とちょっとでも違う場合には、もう公序良俗に反するというようなことを言いがちな判例がどちらかといえば多いわけです。代表的な例を申しますと、現在では
韓国
民法
は
改正
になってしまいましたのでそういう問題はなくなりましたが、死後認知という問題がございまして、
日本
では父親が死んだ後、認知の
訴え
というのは、三年間
訴え
を起こすことができる、父親が死んでから三年間なんですが、
韓国
ではかつて二年。そうすると、
日本
だったら実の父親が死んでから三年間死後認知の
訴え
を起こせるのに、
韓国
では二年でもう
訴え
が起こせなくなってしまう。そうすると、二年数カ月たってから
訴え
を起こした場合に、
準拠法
である
韓国
法によればもうあなたは認知の
訴え
を起こせませんよと、こうなるわけですけれ
ども
、そんなことを認めるのは公序良俗に反すると、こういう形で結局認知を認めてしまうわけです。 しかし、二年か三年かぐらいのことでもって公序良俗といったような伝家の宝刀をすぐ抜くのが妥当かどうか。むしろ本当にそんな外国法を適用したら
日本
の公序良俗に反する場合、教科書に書いてある代表的な例では、奴隷制を認めるとか一夫多妻制を認めるとかというような例があるわけですけれ
ども
、そこまでいかないにしても、もう少し公序良俗という場合には要件そのものをきちんと考える必要があろうかと思っております。 それから、
あと
もう少し理論的な問題になりますけれ
ども
、
法例
三十条の公序という
条文
が、この八条もそうなんですけれ
ども
、「外国法によるべき場合において、その
規定
の適用が」というふうに八条ではなっておりますが、
法例
三十条の方は、その
規定
が公序良俗に反するときはというふうに書いておりますので、何か外国の
条文
だけを見る失うに
条文
上は読めるわけです。しかし、私
ども
の考え、
日本
の通説と言ってよろしいと思いますが、その
規定
が問題なんではなくて、
規定
の適用の結果が
日本
の公序良俗に反する場合というふうに解釈すべきだ。 わかりやすい例で申しますと、フィリピンは
離婚
を禁止しております。そうしますと、
日本
の女性がフィリピン人の男性と結婚した場合に、
離婚
を夫の
本国法
によらせるということになりますと、フィリピン法では
離婚
禁止ですから、そうすると
離婚
は許されないということになるわけですが、そんなことでは公序良俗に反すると、これはもう
日本
の
裁判所
一貫してそう言っているわけですけれ
ども
、その場合でも程度とか
夫婦
の生活状況というものがあろうかと思います。 特に問題なのは
日本在住
のフィリピン人
夫婦
の場合です。それも会社の用務で二、三年
日本
にいるだけというのであれば、いずれは
日本
から帰ってフィリピンへ行く人だし、
離婚
が認められなくても仕方がないということになりますから、外国の
法律
の
規定
だけが問題なんではなくて、その
規定
の適用結果が問題だというふうに考えております。 しかし、今のところ
日本
の
裁判所
の
判決
の中では、むしろ
規定
を問題にする判例がかなり多かったことは事実ですけれ
ども
、最近では適用結果を十分評価した上で個別事案
ごと
に公序を発動するという方向に変わりつつあると言っていいと思います。全体の印象として申しますと、公序判例はかなり
日本
では出ておりますけれ
ども
、初期には今申しましたように若干問題がありましたけれ
ども
、だんだんよくなってきているというふうに申し上げていいと思います。
あき場準一
37
○
参考人
(あき
場準一
君) しばらく
資料
をあさる時間を与えていただきましたので申し上げることができるかと思います。 まず
最初
に、どの程度まで
扶養義務
があるのかということですが、
日本
が恐らく今後このような問題について最も
関係
を持つことがあり得べき
韓国
の
法律
についてちょっと申し上げますと、考えようによりましては、ある
意味
では明治時代の
日本
の
民法
と同じような範囲と言ってもいいかもわかりません。三本立てになっておりまして、まず
一つ
は直系血族及びその配偶者間、これは九百七十四条一号ですが、それからもう
一つ
のラインは戸主と家族間、これがあります。その他の者の間では、生計を同じくする
親族
の間に限られる。だから、この場合、戸主の
扶養義務
というのがあるところが少し違うのじゃないかと思いますし、一概に
親族
の範囲と必ずしも一致しない。実際上の共回生活をしているかどうかということでやりますものですから、実は兄弟姉妹は
扶養義務
がないんですね。それは他の
親族
と生計を同一にしている場合に限って兄弟姉妹の間にあるというような違いがございます。これがちょっと違うところじゃないかと思います。
一般
に
親族
の範囲といいますと、これは
韓国
民法
の七百七十七条に
規定
がございまして、八親等以内の父系血族、四親等以内の母系血族、夫の八親等以内の父系血族、夫の四親等以内の母系血族、妻の父母、配偶者、こういう範囲になっているわけですが、今言いましたように家が同じかとか生計を同一にしているかとか、限定がつきますので、実際上は具体的にどうなっているのかよくわかりませんが、それほど不合理なものではないと思います。 そのほかに、南欧系の国なんかでも
扶養義務
が広いのだという話をいたしましたが、例えば一九七〇年のスペインの
改正
法を見ていきますと、
夫婦
、直系血族、父母及び
裁判所
の決定により嫡出子の身分を取得した手並びにその直系卑属、父母及び認知された嫡出でない手並びにその直系卑属等々まで広がっております。さらに、兄弟姉妹は、直系血族の場合に限り、他方が肉体または精神的不具者であり、もしくは被
扶養
者の責めに帰せられない理由により独力で生活を維持し得ない場合は、
扶養
する義務を有する。こういうことでありまして、このような場合の
扶養義務
の中身ですが、初等教育及び専門または職業教育を与える義務が含まれる、こういうふうにどうもなっているのが多いようです。ここは兄弟姉妹はあるわけです。 それでは、例えばの話ですが、東の方の国はいかがであろうかと、こう思いましてロシアなどを見ていきますと、ソビエト連邦のロシア共和国の方です。これを見ていきますと、ここでは、継父及び継母の継男子及び継女子を
扶養
する義務というような
規定
が第八十条にございまして、そういう
関係
のこれも明文の
規定
で認められている、こういうのがございます。ここではもちろん兄弟姉妹の傍系も認められております。こういう例が幾つかございます。このような実例につきましてはそれなりの本があると思いますので、ごらんいただければと思います。以上でございます。 公序の点につきましては
澤木教授
の
説明
でほぼ尽きていると思います。
中山千夏
38
○中山千夏君 ありがとうございました。終わります。
二宮文造
39
○
委員長
(
二宮文造
君) 以上で本日御
出席
いただきました
参考人
に対する質疑は終わりました。
参考人
の
方々
に一言お礼を申し上げます。 本日は、長時間にわたり貴重な御
意見
をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。
委員会
を代表して厚くお礼を申し上げます。 以上をもちまして本日の
審議
を終わります。 本日はこれにて散会いたします。 午後二時五十五分散会 —————・—————