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1986-04-02 第104回国会 参議院 外務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和六十一年四月二日(水曜日)    午前十時一分開会     —————————————    委員異動  三月二十七日     辞任         補欠選任      久保田真苗君     八百板 正君      小西 博行君     関  嘉彦君  三月二十八日     辞任         補欠選任      坂元 親男君     板垣  正君      八百板 正君     久保田真苗君  三月二十九日     辞任         補欠選任      板垣  正君     後藤 正夫君  四月一日     辞任         補欠選任      秋山 長造君     寺田 熊雄君      久保田真苗君     中村  哲君  四月二日     辞任         補欠選任      寺田 熊雄君     秋山 長造君      関  嘉彦君     小西 博行君     —————————————   出席者は左のとおり。     委員長         最上  進君     理 事                 石井 一二君                 宮澤  弘君                 松前 達郎君                 秦   豊君     委 員                 大鷹 淑子君                 鳩山威一郎君                 原 文兵衛君                 平井 卓志君                 寺田 熊雄君                 中村  哲君                 和田 教美君                 立木  洋君                 関  嘉彦君    国務大臣        外 務 大 臣  安倍晋太郎君    政府委員        外務大臣官房長  北村  汎君        外務大臣官房外        務報道官     波多野敬雄君        外務大臣官房審        議官       都甲 岳洋君        外務大臣官房審        議官       斉藤 邦彦君        外務大臣官房会        計課長      須藤 隆也君        外務大臣官房領        事移住部長    妹尾 正毅君        外務省アジア局        長        後藤 利雄君        外務省北米局長  藤井 宏昭君        外務省中南米局        長        山口 達男君        外務省欧亜局長  西山 健彦君        外務省中近東ア        フリカ局長    三宅 和助君        外務省経済局長  国広 道彦君        外務省経済協力        局長       藤田 公郎君        外務省条約局長  小和田 恒君        外務省国際連合        局長       中平  立君        外務省情報調査        局長       渡辺 幸治君    事務局側        常任委員会専門        員        小杉 照夫君    説明員        内閣審議官    根本 貞夫君        警察庁警備局警        備課長      井上 幸彦君        防衛施設庁総務        部会計課長    大原 重信君        防衛施設庁施設        部施設取得第二        課長       志滿 一善君        経済企画庁調整        局経済協力第一        課長       小川 修司君        外務省経済局次        長        池田 廸彦君        大蔵省銀行局銀        行課長      藤原 和人君     —————————————   本日の会議に付した案件 ○昭和六十一年度一般会計予算内閣提出、衆議  院送付)、昭和六十一年度特別会計予算内閣  提出衆議院送付)、昭和六十一年度政府関係  機関予算内閣提出衆議院送付)について  (外務省所管) ○扶養義務準拠法に関する条約の締結について  承認を求めるの件(内閣提出)     —————————————
  2. 最上進

    委員長最上進君) ただいまから外務委員会を開会いたします。  委員異動について御報告をいたします。  去る三月二十七日、小西博行君が委員辞任され、その補欠として関嘉彦君が選任されました。  また、去る二十八日、坂元親男君が委員辞任され、その補欠として板垣正君が選任されました。  また、去る三十一日、板垣正君が委員辞任され、その補欠として後藤正夫君が選任されました。  また、昨日、秋山長造君及び久保田真苗君が委員辞任され、その補欠として寺田熊雄君及び中村哲君が選任されました。     —————————————
  3. 最上進

    委員長最上進君) 去る三月二十八日、予算委員会から、四月二日の一日間、昭和六十一年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算中、外務省所管について審査の委嘱がありました。  この際、本件を議題といたします。  安倍外務大臣から説明を求めます。安倍外務大臣
  4. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 昭和六十一年度外務省所管一般会計予算案概要について御説明申し上げます。  外務省予算の総額は、四千百九十三億一千百六十九万三千円であり、これを昭和六十年度予算と比較いたしますと、百八十二億四千六十四万三千円の増加であり、四・五%の伸びとなっております。  我が国を取り巻く国際情勢は依然として厳しく、外交役割はいよいよ重大であります。近年国際社会における地位が著しく向上した我が国は、世界に開かれた日本として各国からの期待にこたえて、その地位にふさわしい国際的役割を果たし、積極的な外交を展開していく必要があります。この観点から、昭和六十一年度においては定員機構拡充強化在外勤務環境改善等外交実施体制強化政府開発援助ODA)及びその他の国際協力拡充等格別配慮を加えました。特に外交強化のための人員の充実外務省にとっての最重要事項一つでありますが、昭和六十一年度においては定員九十名の純増を得、この中から内閣に振りかえる五名を差し引いた八十五名を加えて、合計三千九百七十一名に増強されることになります。また、機構面では、在外公館としてスペインのバルセロナに総領事館を開設することが予定されております。  次に経済協力関係予算について申し上げます。  今や自由世界第二位の経済力を有するに至った我が国が、平和国家として、世界の平和と安定に貢献する上で、経済協力の持つ意義はますます大きなものとなっております。なかんずく、政府開発援助ODA)の果たす役割は年を追って重要なものとなっております。政府は昨年九月にODA第三次中期目標を設定し、その着実な拡充に努めることを宣明いたしました。昭和六十一年度はこの中期目標の初年度に当たります。我が国としてはその国際的責務を果たすべく、ODA一般会計予算については、厳しい財政事情にもかかわらず、政府全体で対前年度比七%増とする特段の配慮を払いました。  このうち外務省予算においては、無償資金協力予算を対前年度比九十億円増の一千二百四十億円としたほか、技術協力予算拡充に努め、なかんずく、国際協力事業団事業費を対前年度比八%増の九百五十七億円とする等格別配慮を払った次第であります。さらに情報機能強化のための予算充実に努め、また、各国との相互理解の一層の増進を図るための文化人的交流予算についても一層の手当てを講じております。  このほか、海外で活躍される邦人の方々の最大の関心事一つである子女教育の問題については、全日制日本人学校二校の増設を図る等の配慮をしております。  以上が外務省関係予算概要であります。よろしく御審議のほどお願い申し上げます。
  5. 最上進

    委員長最上進君) 以上で外務大臣説明は終わりました。  この際、お諮りをいたします。  外務省所管昭和六十一年度予算大要説明は、これを省略して、本日の会議録末尾に掲載することにいたしたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 最上進

    委員長最上進君) 御異議ないと認め、さよう取り計らいます。  これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  7. 石井一二

    石井一二君 私はまず東京サミットについてお伺いをしたいと思います。  御承知のごとく、東京サミットが目前に迫っており、その主要課題世界経済活性化のための政策調整と平和と軍縮に置くということが既に決まった旨報道されております。実務者レベルにおける事前協議が予定どおり進行しておるのかどうか。サミット経済サミットから戦略サミットに大きく変質したと言われる中で、このサミットの性格、運営に関する外相所見をまず簡単にお伺いしたいと思います。
  8. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 東京サミットも近づいてまいりました。この議題を決めるために各国首脳個人代表協議を続けております。大分煮詰まりつつあるわけでございますが、まだ最終的な決定というところまでは至っておりません。  しかしいずれにしましても、世界経済持続的成長確保、あるいは国際的な通貨の安定、自由貿易体制維持強化累積債務問題等途上国の抱える諸問題への取り組み等が主として討議される。経済サミットでありますからこうした国際経済問題が中心になるわけでございますが、同時にやはり、これまでの例もございますように、政治の問題も首脳間では議論されることはこれは当然のことであろうと思います。第二回の米ソ首脳会談開催可能性も踏まえて、米ソ軍備管理交渉を初めとした東西対話の問題もサミット話題となると思いますし、その他地域問題等話題となってくるであろう、こういうふうに思います。
  9. 石井一二

    石井一二君 今回のサミットの特徴として、フランスより大統領首相の二名の参加、また、オランダ首相EC議長国としての出席等従来とやや違った面があるわけでございますが、これら要人の取り扱いについてどのように考えておられるか、特に全体会合に続く首脳個別会合出席者はだれとだれになると予定しておられるのかお伺いしたいと思います。
  10. 国広道彦

    政府委員国広道彦君) 御指摘のとおり、今回はEC議長国オランダでございまして、通常のサミット参加国ではございません。したがいまして、ECとしてどういうふうに参加者を決めるかという問題が当然あるわけでございます。また、新聞報道でもフランス大統領のほかに首相も来られるというような話を聞いておりますが、それぞれの国の参加形態がどういうふうになるかということにつきましてはまだ当事者と打ち合わせ中でございます。したがいまして、現時点で御質問にそのまま直截にお答えできない状態にございますので、またこれからあと一月ぐらいの間に当事者とも話した上で決まっていく、こういうことでございますので、きょう現在ではこの程度の御説明で御了承いただきたいと思います。
  11. 石井一二

    石井一二君 くどいようですが、主宰者国として、一つの国から二名の個別会談への参加を認めるケースがあると思うのかないと思うのか、その辺の御感触はいかがですか。
  12. 国広道彦

    政府委員国広道彦君) これは、私、政府委員レベルでお答えできる問題ではございませんで、総理自身のお考えを承って御説明しなければいけないと思うわけでございますが、過去の例で申しますと、ベルサイユ・サミットのときに同様の状況がございまして、EC首脳EC委員長EC議長国とが同時に参りました。ただ、そのときは全体会議が全部でございまして、首脳だけの会合というのがございませんでした。したがいまして、そこのところは、事実、適宜処理されたということでございまして、先例はございません。  しかしながら、いろんな取扱方があると思います。現実にはいろんな案が考えられておりますが、ちょっと現時点におきまして御説明できる状況ではありませんので、御勘弁いただきたいと存じます。
  13. 石井一二

    石井一二君 このところ、我が国ではいわゆる過激派が活発に動いております。すなわち、重要防護対象施設というような名前が新聞にも出ておりますし、具体的には、二十五日には皇居と米国大使館火炎弾が発射された、二十八日には大阪で府警本部、さらに三十一日には東宮御所とか迎賓館が金属砲弾の発射を受けております。  このような状況のもとで、今回は前回、つまり昭和五十四年の規模を大幅に上回る一日三万人態勢警備に当たるとも報道されておりますけれども、最終的にどのような態勢規模外交上の責任を全うされようとしておられるのか、お伺い申し上げたい。
  14. 井上幸彦

    説明員井上幸彦君) 今回のサミットをめぐりましては、極左暴力集団が早い段階からこれを絶対爆砕するというような主張を掲げて、早くもいわゆる前段闘争という形でただいま御指摘のようなゲリラ事件を引き起こしているところでございます。  前回の五十四年のサミット時に比べますと、そのように情勢というものは一段と厳しくなっておる、こういう状況でありまして、私どもではこの情勢の、厳しい認識の上に立ちまして、全国的な支援態勢をとる中で、ただいまもお話にございましたような、最終時には三万名態勢というような点も踏まえましてがっちりした警備をやってまいりたいというふうに思っております。ただ、この警備の成功のためにはやはり幅広い国民皆様方の御理解と御協力がどうしても必要になってまいりますので、その辺の御協力を賜りながら、警察に与えられた責めを果たしてまいりたいというふうに思います。  特に、お話もございましたとおり、今回の外国からのVIPの来日というものが前回を上回るというような情報もあるわけでありますが、警視庁としてはそのような点も既に織り込み済みで、SPの態勢を固め、さらに訓練を強化するなどして、与えられた責務を果たしてまいる、それが結局は日本国際威信確保というものに連なるという認識のもとに頑張ってまいりたいというように考えております。
  15. 石井一二

    石井一二君 予算に計上されておりますサミット関係警備関係予算を見てみますと、昭和六十年度予算から七十億三千百万円、それに別途六十一年度予算で約五億円、このような非常態勢下で、この範疇で十分な警備態勢の実現が可能かどうか。予算と、今からしこうと思っておられる体制との絡みで一言御所見はいかがですか。
  16. 井上幸彦

    説明員井上幸彦君) 御指摘のとおり、七十億余というものは六十年度の予備費として使用が認められたものでございまして、これは発注から納品まで時間のかかる警護警備活動に必要な車両であるとか通信機材等、これらの整備のために使用さしていただいたものであります。  また、実際に警護・警戒・警備活動に伴います費用につきましては、今もお話ございましたような額もございますが、十二分にその態勢に見合うような所要額というものを現在はじいておるところでありますし、またその枠の中で精いっぱい頑張っていこうというふうに考えておるところであります。
  17. 石井一二

    石井一二君 先ほど私も申しましたし、答弁者も一日三万人態勢というお言葉が出たわけですが、いずれ地方から東京応援をお願いするということになるんじゃないかと思います。そうすると、必然的に今度は地方手薄になる、そういったことも考えられるわけでございますが、そういった意味を含めて間隙をつかれるということもあり得ると思うのですが、その辺の御自信のほどはいかがですか。
  18. 井上幸彦

    説明員井上幸彦君) 各県からトータルにいたしますとかなりの数の応援をいただくわけでありますが、それぞれの府県警察におきましては自分の県警からそれぞれ所要の数の応援が出るわけでありますけれども、後の守りというものは十二分にその点はできるんだという自信のもとに今諸計画を練っておるところでありまして、応援に出したがために手薄になって、県内の治安に問題が生じるということのないように、それぞれ今対策を練りつつあるところでございます。
  19. 石井一二

    石井一二君 自信という言葉が出ましたので安堵いたしますが、ひとつよろしくお願いを申し上げます。  次に、日ソ関係に移りたいと思います。  十年ぶりの外相訪日であると言われたソ連シェワルナゼ外相訪日からはや三カ月が経過しつつございます。その間、貿易支払い協定文化交流の取り決めの延長、その他諸協定の調印、書簡交換を行ったのみならず、ゴルバチョフ書記長中曽根総理相互招待を原則として受諾したとか、いろんな話し合いがあったわけでございますが、三カ月を経過した今日、その成果がどのように進展しつつあるか、まず現状を簡単に御説明願いたいと思います。
  20. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 御承知のように、一月、日ソ定期外相協議が行われたわけでありますが、この結果につきましては一月十九日付の日ソ共同コミュニケに述べておるとおりでございまして、今お話しの最高首脳レベルを含めまして日ソ間の政治対話の一層の強化につき合意を見たこと、特に外相間定期協議が、本年の私自身訪ソと明年のシェワルナゼ外相訪日という具体的年度を明示して合意されましたことは、外相間定期協議定着化という初期の目的が達成されたと、こういうふうに思っておりまして、有意義であったと考えております。  領土問題は日ソ間において最も重大な懸案でございますが、この領土問題については、一九七三年十月十日付の日ソ共同声明において確定した合意に基づいて、三時間以上にもわたりまして領土問題を含む平和条約交渉を再開し、さらに次回協議においてもその継続につき合意を見ましたことは、再び領土問題についてのソ連との交渉出発点に立ったという意味において重要であったと考えております。  しかし、領土問題自体につきましては、ソ連側は依然として従来の厳しい姿勢を崩しておりません。残念ながら、その点については前進は見られなかった。テーブルに着くということについては合意は見られたわけでありますが、ソ連自身主張につきましては残念ながら変化はなかったわけです、領土問題そのものに対しては。したがって、領土問題についてはソ連との交渉出発点に立ったにすぎないのでありまして、今後、北方領土返還に向けて粘り強く交渉することの必要性、さらにはその交渉をバックアップするため、国民の総意を結集する必要性がますます高まってきていると考えております。  その他、御承知のように、租税協定であるとか貿易支払い協定等の署名もいたしました。文化協定については継続して今交渉を続けております。これも大体の大筋は合意に達しておりまして、まだ二、三残っておるという状況であります。  なお、北方領土へのいわゆる墓参の問題につきましても、私からシェワルナゼ外相に対して強く配慮を要請いたしました。これに対して人道的な立場から十分考慮したいということで、これも今後の日ソ間の交渉にゆだねられておる。我々としては何としても墓参を従来のように実現したい、こういう姿勢で今後取り組んでいきたい、こういうふうに思っておるところであります。
  21. 石井一二

    石井一二君 日ソ関係については、日ソ経済協力に関して我が国からの大型代表団訪ソ、また日ソ漁業交渉については羽田農林水産大臣訪ソ等が報道されておりますけれども、特にこの漁業交渉については一部国民は非常に強い関心を持っております。これらの見通しについて、ごく簡単で結構ですから所見を伺いたい。
  22. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 日ソ漁業交渉が三カ月に至るもまだ決着がつかないということで、大変日本関係の漁民の皆さんはもちろんですが、我々も憂慮をいたしております。何とかこれは決着がつくように、外務省としても外交ルートを通じましてソ連側に対して要請を続けてまいりました。先般、アブラシモフ駐日ソ連大使を招致いたしまして、シェワルナゼ外相に対する私の所信をお伝えをしたわけであります。日ソ関係がこんなに改善の方向に向けて日ソ外相会談が行われた、さらに第二回目が行われようという状況の中で、非常に問題解決可能性が出てきておるそういう状況の中で、今まで円満にずっと決着してきた漁業交渉が暗礁に乗り上げて進まないということは極めて残念である。これは全体の日ソ関係にも影響を及ぼすことになるので、この際、日本もできるだけの努力をするからソ連もひとつ努力をしていただいて、そしてぜひとも決着を図りたい。そこで、羽田農水相も場合によっては行くというふうな考えを持っておられる。こういうこともそのときの話題になったわけでございますが、その後また農水大臣も、自分が行ってひとつ決着をつけたいと、こういう非常に強い希望もありましたし、またソ連側もその後の交渉の結果、これを受けて、ソ連カメンツェフ漁業大臣招待をしてひとつ話し合いをしようという状況に事態が展開をいたしました。  きょうになりますかあすになりますか、恐らく農水大臣は出発されると、こういうことでありまして、我々としましては、何とか外交的にもバックアップしてこの交渉が妥結することを願っておるわけでございます。外交当局としてもひとつ全力を傾けたい、こういうふうに思います。
  23. 石井一二

    石井一二君 経済協力についてお答えがなかったですが、ちょっと先を急ぎますので先を聞かしていただきます。  北方領土というお言葉が先ほど大臣の口からも出ましたけれども、我々も町を歩いておりますと、よく北方領土返還を呼びかけるような政府広報宣伝活動を見受けます。例えば「北方領土返る日 平和の日」だとかなんとかいって大きな看板も出しておられますけれども、六十一年度ではこういった啓蒙宣伝等を行うための必要な経費として六億三百万円が計上されておる。こういった中で国民意識を高揚されるということは極めて大事かと思いますが、返還を決めるのはやはりソ連国家である。いかに国民がそれを必要なことだと思っても相手国は皆向こうにおる。しかも、現在の軍事基地化されておる北方領土の様相とか社会主義国家であるソ連ということを考えた場合、私個人としてはかなりこれは時間を要する問題である、そのように受けとめておるわけですが、毎年毎年五、六億の予算を費されて、長年いつまでたっても返ってこないということになった場合に、かえって挫折感と反ソ感情というものが国民の間に起こることも考えられますけれども、どのような考え方に立ってこのような一般日本国民に対する宣伝啓蒙活動を行っておられるのか、その辺の哲学についてちょっと聞いておきたいと思います。
  24. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは外務大臣立場から申さしていただきますと、ぜひともこういう世論喚起といいますか、世論の結果というものはこれからの日ソ交渉、特に領土問題をめぐっての腰を据えた交渉を進めていく上においては絶対に必要だと。やはり世論が、日本国民全体が北方四島についての返還への確信を持って強く政府をバックアップする、政府姿勢を支持していただく、そして外交交渉に非常に叱咤激励をしていただくということが、この問題を解決していく一つ雰囲気づくりになっていくんじゃないか。もちろん相手のあることで、ソ連側もなかなか容易でないことは御承知のとおりであります。時間もかかるわけでありますが、しかしそれだけにこれはどうしても腰を据えてやらなければなりません。それにはやはり政府だけじゃなくて、国民の腰が砕けないといいますか、これが一番大事じゃないかという意味において、今政府あるいはまた民間で努力をしていただいておるこうした北方領土返還世論を盛り上げるという運動は、極めて私は大事なことであろう、こういうふうに心からこれから活動がさらに活発化することを念願しております。
  25. 石井一二

    石井一二君 私がよく乗りおりする新神戸駅の前にもこの種の看板が出ておりますが、以前は「行政改革を推進しよう」といったような看板が出ておりました。この件については私は外相と意見を異にしますので、折があれば一遍再検討も願いたいと要望しておきたいと思います。  次に、いわゆる一元外交に関連して若干の質問をいたしたいと思います。  安倍外相は、かねてより創造外交であるとか一元外交を標榜しておられるわけでございます。現在政府が最も力を入れております対外経済協力関連の予算の明細を見てみますと、各関連予算がおよそ十五省庁にもまたがって計上されております。例えば外務省の二千九百億円余を筆頭に、大蔵省が二千五百億円余、詳細は省略いたしますが、経企庁、通産、文部、農水、厚生、労働、総務・総理府、運輸、法務、建設、科学技術、郵政、環境と、非常に幅が広いわけですが、対外援助の重複を避け、より効果あるものにする、そういった意味で中核的機関としての機能というものを私は外務省が持つべきである、そのように解釈をいたします。  このことは、さきに「政府開発援助ODA)の効果的・効率的実施について」と題するいわゆるODA実施効率化研究会の報告にも書かれておるわけでございます。こういった貴重な提言は、やはり実行に移していかねば何にもならない。そういった面で、この問題をどう受けとめられ実行に移されようとしておるのか、その辺あたりについて御所見を賜りたいと思います。
  26. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) まず、基本的に援助の問題について申し上げます。  これはいろいろと国会でも御審議をいただいておるわけですが、我が国は二国間ODAのうちの円借款については四省庁体制、これは外務省、経企庁、通産省、大蔵省、この四省庁のもとで、外務省が対外的な窓口となりまして対外経済協力基金を通じて実施をいたしております。また、無償資金協力については、国際協力事業団の協力を得て外務省が実施をしておる。さらに技術協力につきましても、外務省が案件ごとに関係省庁と協議しながらJICAを通じて実施をいたしておるわけでございます。  そういうことで、以上全体的には外務省を中心とする現在の実施体制は順調に機能しておるんじゃないかと考えております。しかし、いろいろと今後とも現行体制の運用面での改善強化を通じまして、経済協力の一層の効果的、効率的実施を図らなければならない、こういうふうに考えて、いろいろと学識経験者等の意見等も承っておるわけでございます。
  27. 石井一二

    石井一二君 もう一つ、一元外交絡みでございますが、御承知のごとく内閣官房にその設置が予定されておる外政調整室についてお伺いしたいわけでございますが、この部屋は定員十九名、各省庁間の振りかえで十二名、行政改革の逆風をつくように新規増の七名という規模になっておりますけれども、現在作業はどの程度進んでおるのか、まずそこからお伺いしたいと思います。
  28. 根本貞夫

    説明員(根本貞夫君) お答え申し上げます。  今先生御質問の内閣の準備状況でございますけれども、外政調整室につきましては、御承知のとおり昭和六十年十二月に、「昭和六十一年度に講ずべき措置を中心とする行政改革の実施方針について」という閣議決定におきまして、その内閣官房の組織の再編成については、安全保障会議の設置のための法律の施行にあわせて実施すると付されているところでございます。それに従いまして、現在所要の準備を進めているところでございます。それで、懸案の安全保障会議設置法案につきましては、既に国会の御審議をお願いしているところでございますが、外政調整室の設置を含みます内閣官房の再編成につきましても、この法律の施行日、これは六十一年七月一日ということになっているわけでございますけれども、これとあわせまして、本年の七月に実施することを目途に政令改正等の所要の準備を進めてまいりたいと考えているわけでございます。
  29. 石井一二

    石井一二君 といたしますと、現在既に設けられておる特命事項担当室との関係は、将来どうなるわけですか。
  30. 根本貞夫

    説明員(根本貞夫君) その点につきましては、安全保障会議設置法の成立を待って検討していきたい、こう考えている所存でございます。
  31. 石井一二

    石井一二君 新聞報道等によりますと、安倍外務大臣は、当初一元外交の観点から、この問題については非常に強く反発をされたと聞いております。最近は内容が変わられまして、内閣官房の主要ポストに人を送り込めるとの期待感とか、一元外交というものが守られるならばということで、評価を前向きにしておられると、そう聞いておるわけですが、御本心はどちらにあるんですか。
  32. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは、外政調整室が設置されることに決まったわけですが、いろいろと経緯がありました。その行革審等の答申が出る前には、私も非常にこれに対しては警戒的な気持ちを持っていまして、やっぱり外交が二元化しては困るんだと、これは二元化することが国益を損なうという例は歴史の中であるわけですから、幾多の事例を我々は身をもって経験していますから、二元外交だけはやってはいかぬ、そういう一つの端緒になっちゃいかぬのだ。そこで、強く私はそれに対して警戒の気持ちを表明しておったわけです。これに対しまして、行革審等も二元化は絶対に避ける、そういうことで外政調整室を設けるんじゃないんだということの説明が私に対してもありましたし、外務省に対してもありましたし、そして同時に、外交はすべてこれはもう外務省でやってもらうんだ、外政調整室が外交をやるんじゃない、こういうこともはっきりいたしました。同時に、外務省との関係も人的面で非常に濃密に行う、こういう考え方も示されまして、それならいいんじゃないかということで私も賛意を表したわけで、何も思想が変わったわけじゃありませんし、考え方が変わったわけじゃありません。  私は、あくまでも外交は二元化をしてはならない、日本の国益という立場から見ましても二元化してはならないというのが私の信念で、これは変わっておらないわけです。それもやっぱり、国家外交の二元化につながるものじゃないという判断をしたわけであります。
  33. 石井一二

    石井一二君 私は個人的に、だれが総理の座にあられるかによっても違いますが、これは二元化外交につながる可能性が非常に強い、そう解釈をいたしております。特に、マスコミの報じるところによりますと、この作業は大統領首相を掲げる中曽根総理の強い意向であるというようにされておるわけでございますが、先ほど私は増員の話もいたしましたけれども、こういうとかく論議のある組織改革というものは、先ほども七月めどと、あくまで予定は未定でございますから、何だったらいっそのこと今秋の自民党の総裁選挙の後に最終的判断を下すとか、もう一遍再考していただきたいという所見を申し述べておきたいと思います。  次に、政府開発援助ODA絡みでお伺いをいたしたいわけでございます。  昨今はODA花盛りという観もございまして、第三次七カ年倍増計画も進行中、やれ貸せや貸せやというような数値追従のような嫌いもなきにしもあらずでございますが、一方債務国の累積債務の問題が非常に深刻化いたしております。外相我が国の官民対外貸し付け残高を幾らと把握しておられるのか、ごくごく簡単に地域別、国別な数値を示しておいていただきたいと思います。
  34. 国広道彦

    政府委員国広道彦君) 東欧を除く開発途上国に対する我が国の民間金融機関及び公的機関の中長期の対外債務残高は、六十年九月未で六百六十億でございます。そのうち民間金融機関からの貸し付けは四百八十億ドル、公的機関からの貸し付けは百八十億ドルでございます。  国別の数字は、済みません、今持っておりませんが、また後で御報告いたします。
  35. 石井一二

    石井一二君 ごく初歩的な問題なんで、局長クラスになると国別な数字は常に頭に入っておると、私は個人的に理解をいたしておるわけですが、それではこれは後日またお伺いに上がりましょう。私は、ブラジルが約八十億ドル、メキシコが百億ドル程度と理解いたしておりますけれども。  ところで、最近のこの債務国会議というものが、例えば昨年十二月に行われ、モンテビデオ宣言というように、金利を引き下げろとか産品の買い付けを要求するとかいうようにいろんな要求をして、それを通してくれないともう返さないというような開き直りの姿勢が見られるわけであります。こういった中で現在リスケジュールの要求国がどのくらいに上がっておるのか、その辺はいかがですか。
  36. 国広道彦

    政府委員国広道彦君) リスケジュールは、昭和六十年におきまして既に合意ができているものが十四カ国でございます。十四カ国とパリ・クラブの合意に基づいて交換公文を結んでおります。このやり方は、我が国もパリ・クラブに参加することを通じましてリスケジュールに応じてくるという形態をとっております。しかしながら、今の御質問につきましては、例えばユーゴがリスケジューリングを希望しているというような情報とか報道がございますけれども、個々の国にしますと、そういう意向を表明したということが伝わることが、またその国の経済的な信用力というようなことにも絡みまして、国の名前が外に出ることを非常に警戒しております。パリ・クラブもそこを考慮しまして、それに対しては非常に配慮をしておるわけでございまして、私、現時点承知しておるのは、現在持っておりますリスケジュールの計画に追加しましてさらに希望している国というものの数は非常に少ないと聞いております。  しかしながら、このリスケジュールしている国の、今までリスケジュールされている債務の返済期限というものを見ますと、もう次の手当てが必要そうな国はございます。そこは推測のほかはございませんが、今までのところ多くの国は申し出ることを非常に慎重に検討しているという状況でございます。
  37. 石井一二

    石井一二君 先ほどの御答弁によりますと、全体で約六百六十億、そのうちいわゆる民間が四百八十億と、民間の方がかなり多いわけですが、民間金融機関の保護のために、行政としてどのような施策を行ってこられておるのか、また今後どのようなことを行おうとしておられるのか、その辺いかがですか。
  38. 国広道彦

    政府委員国広道彦君) 行政はもちろん大蔵省でやっていることでございますので、私ども大蔵省から聞いて承知している範囲で答えさせていただきたいのでございますが、民間銀行の対外貸し付けにつきましては、民間銀行自身が内外金融の市場の状況を勘案しつつ自主的に決定しておりますけれども、大蔵省では従来から、まず対外資産が自己資本に比べて過大にならないようにすること、それから貸付先のカントリーリスクに関しては貸し付けが特定国に集中することを回避するなどのガイドラインを設けて、銀行の業務の健全性を確保する観点から適切な指導を行っているというように聞いております。  そのほか、外国との接点におきましては、例えば世銀等と民間銀行が協調して融資するというようなことも間接的にはリスクを軽減する方便になりまして、それも進めておりますし、それから今検討中のMIGA、国際投資条約機構等もできますと、これは銀行そのものに対する保証ではございませんが、安全な投資、それに従ってそれに伴う債権がより安全になるという意味におきまして役立つのであろうと、こういうふうに考えております。
  39. 石井一二

    石井一二君 わかりました。よろしくお願いします。  ところで、ODA関連でもう一問ですが、円借款の実施中心機関である海外経済協力基金いわゆるOECFですが、この赤字の漸増傾向というものが問題になっておることは御高承のとおりでございます。例えば昭和六十一年度予算においても赤字補てんのための一般会計からの交付金は三百十八億円、数年後には赤字累積が一千億円に上ると、こう言われておるわけでございまして、いわゆる第二の国鉄論というものがここに出てくるわけでございますが、政府はこれについて具体的に何をどのようになさろうと思っておられるのか、この問題をどう受けとめておられるのか、御所見を賜りたい。
  40. 小川修司

    説明員(小川修司君) 海外経済協力基金の赤字につきましては、ただいま先生御指摘のとおり、昭和五十六年度から赤字が生じておりまして、この原因といたしましては借入金利と貸付金利との逆ざやということに主要な原因があるわけでございますが、これが昭和五十九年度におきましては三百十八億ということになりまして、これが二年度後の交付金という形で補てんされるということになっておりまして、昭和六十一年度の予算で三百十八億円の交付金の予算案の中に組み入れていただいております。  この問題につきましてはいろいろな対策を講じておりまして、その一環といたしまして、昭和五十八年度に貸付金利の平均〇・六%の引き上げというような対策も講じておりますけれども、基本的にはやっぱり一般会計の出資金をできる限りいただくということによりまして収支をよくしているということであろうかと思っております。そういうことで、昭和六十一年度予算におきましても出資金千八百億円、この交付金と合わせまして二千百十八億円の予算案ということになっておりまして、前年度比六・七%の伸びということで、できる限り一般会計からの出資金を調達してまいりたいというふうに考えておる次第でございます。
  41. 石井一二

    石井一二君 私は、私見ですが、答弁極めて不十分だと思うんですね。というのは、一般会計からの金をできるだけたくさんもらうというような答弁であれば問題の根本解決にならないと思うんです。例えば、手数料をさわるとか、別途財源としての経済協力債を云々するとか、目的税について論議をするとか、円借款供与の全体幅について考え直すとか、いろいろ方法はあると思うんですよ。  そういった面で、余り時間的な余裕もございませんが、一般会計から金をもらうんだというような答弁というのは私はいただけない。一遍この問題について、また機会もございますから、ひとつ慎重に再検討願いたいことを強く強く要望しておきます。  続いて、やや議題は変わりますが、おとついの三十一日付の日経新聞の夕刊を見ておりますと、日本でアメリカの自由の女神の記念コインを売り出すと。一見結構な話にも聞こえるわけでございますが、米国の市場で一ドル、つまり約二百円足らずのものが、我が国では金融機関の窓口で五千五百円ないし六千円。二分の一ドル、すなわち百円そこそこのものが千四百円から千六百円。こういう値段で、金融機関の窓口、すなわち具体的には全国銀行協会連合会、都市銀行、地方銀行、信用金庫、信用組合、日本証券業協会の関係五団体に、口頭で大蔵省が販売促進方を伝達した、こうなっておるわけでございますが、何か二百円のものがなぜ国内で六千円で売られねばならないのか、その差額は一体どこへ行くのかというような素朴な疑問を持つわけなんです。  また、海外へ旅行された方は、発行枚数はアメリカでは相当な数、一ドルの場合が一千万枚、五十セントの場合が二千五百万枚ですから、旅行者が何ぼでもポケットへ入れて持って帰れるんじゃないか。  こういった中で、この問題について、その差額の問題も含めて、どのようなメカニズムで動いておるのか、ちょっと御説明を願いたい。
  42. 藤原和人

    説明員(藤原和人君) お尋ねの件でございますが、自由の女神の記念硬貨につきましては、アメリカの法定通貨でございまして、自由の女神建設百年を記念いたしまして、自由の女神の像及びエリス島の修復を図るために特別に発行をするという記念硬貨でございます。米国の造幣局長が私どもの局長のところに参りまして、米国造幣局が発行する自由の女神記念硬貨の販売を金融機関でもやってほしいというお話があったわけでございます。  私どもといたしましては、いろいろと現行行政法上の検討をいたしまして、金融機関が取り次ぎの形で店頭販売することは差し支えがないということにいたしまして、関係業界に口頭で御連絡をいたしたわけでございますが、このような例といたしましては五十八年のロサンゼルスオリンピックの記念硬貨につきましても同じような処理をいたしているわけでございます。  先ほど御質問がございました、一ドルのものがなぜそんなに高くなるのかということでございますが、これは今申し上げましたように特別法で発行されるわけでございまして、いわゆる額面に付加金というのが加えられるわけでございまして、例えば今度日本で販売をされます一ドル銀貨はプルーフ貨といいまして表面をきれいに磨いたものでございますが、米国の国内では一ドルの額面に加わりまして二十四ドルで売られるということになっているわけでございます。これが日本では輸入価格その他コストを加えまして六千円で販売されるということでございます。  したがいまして、日本の金融機関はあくまでも取り次ぎを行うわけでございまして、金融機関は手数料を若干いただくということはございますが、基本的には取り次ぎ業務を行うと、こういうことでございます。  したがいまして、その差額というのは、差額によりまして自由の女神像とエリス島周辺の修復を行うとこういうことで、全体として特別法として、アメリカでそういう法律に基づいて発行される、こういうふうなことでございます。
  43. 石井一二

    石井一二君 私が理解しておるところでは、今加工して高くなっておると言われたけれども、加工しているものと加工していないものと二種類ある、そういうぐあいに感じているわけでして、加工していないものについては余りにも差額が大き過ぎる感じがいたします。  それで、その輸入元が株式会社泰星スタンプコインという一社に限定されておる。その一社に限定されている品物を大蔵省が全国いろいろなところの金融機関に売れということを奨励する。特定業種に対する援護策のような気もするわけですが、その辺についてはどう考えておられますか。
  44. 藤原和人

    説明員(藤原和人君) 最初に、加工されているものとされていないものとの差が大きいのではないかという話でございますが、今アメリカで一ドル銀貨の場合、加工されていない場合には二十二ドルで売ると、こういうことでございます。加工されてきれいになったものは二十四ドルで売るということでございまして、日本の場合には国内販売価格は、それぞれ五千五百円と六千円ということでございます。したがって、付加料の部分が相当大きいと、こういうことかと思うわけでございます。  それから、次に泰星スタンプコインの件でございますが、これは私どもの理解では、日本の総販売元として米国造幣局が指定をしているというふうに承知をいたしております。
  45. 石井一二

    石井一二君 まあ一応置いておいて次へ移ります。  国際化の時代で多数の外務省職員が海外に出ておられますけれども、外務省はかねてより在外勤務環境改善等外交実施体制強化ということをおっしゃっておるわけでございますが、在外勤務手当というものはどのような算定基準に立ってどのような要素を加味して決定されておるのか、ちょっとそこだけお教え願いたいと思います。
  46. 北村汎

    政府委員(北村汎君) 先生御指摘の在外勤務手当というものにはいろんな種類の手当があるわけですが、大きなものはやはり在勤基本手当と言っておるもので、これはその任地で職員が職務を遂行できるに十分な生活費を見る、こういうことが主でございますので、為替あるいは物価の変動、そういう要素、それから勤務条件、生活条件、非常に厳しい生活条件のところには多少加算をする、そういうような要素が入っております。  それから住居手当というのがございますが、これは職員が体面を保つに十分な家に住んでそして外交活動をするというためのもので、これにつきましてはその土地の家賃の上昇率であるとか、あるいはほかの先進国の外交官たちがどういう家に住んでおるとか、そういうようなところも勘案して決める。  それから子女教育手当というのがございます。これは子女が適当な教育を受けられるに十分な手当てをしてやろうということで、その土地の学校の事情等を勘案して決めております。
  47. 石井一二

    石井一二君 ありがとうございました。  いずれにしろこの場合、在外職員は円ベースで算定された報酬を受けとってドルベースで使って生活をするなり貯蓄をためていく。その計算ベースは実勢レートに近いものでなければならない、基本論として私はそう感じるわけです。ところが、最近の百七十円台の円高下において、最近の改定レートが昭和五十八年四月の二百三十円ベースであるとするならば、これは自動的に約三割の実収増ということになっておるはずである。このことは逆に円安・ドル高下では逆のことが自動的に起こるわけです。したがって、公平の原理、また逆の救済の原理からいっても何らかの実質収入ベースでの調整が近々なされてもしかるべきである。特にこのことは政令において随時その変更が可能とされている現状から考えて近々何かなさる御予定があるんじゃないかというふうな感じがするわけですがいかがですか。
  48. 北村汎

    政府委員(北村汎君) ただいま先生御指摘のとおりでございまして、私どもの同僚が在外で在勤手当を受けますときはその土地において実質的な価値を持つ手当てをするということが大前提でございますので、最近のような非常な円高という状況のもとでは円ベースはこれは多少減額をいたしまして、実際に現地で受ける現地ベースの手当には、これは何ら変動がないようにしていく、そういうことを考えております。
  49. 石井一二

    石井一二君 私の質問はきょう現在の百七十何ぼというレートの中において、今そういう意味で実勢を反映しておらないのではないかということをお聞きしておるわけですが、その辺どう認識しておられますか。
  50. 北村汎

    政府委員(北村汎君) 十二月に一度改定をいたしまして、これは各地のあれによって違いますが、大体六・八%ぐらいのところの改定を行いました。そしてさらに今後またそれ以後の円高を見まして財政当局ともいろいろ協議をいたしております。それに先生のおっしゃるようにこれは円安になった場合のことも考えなければなりませんので、そういうバランスをとるために十分その点を考慮した適正な在勤手当を決めるということで今協議中でございます。
  51. 石井一二

    石井一二君 次に、日韓絡みでございますが、皇太子殿下並びに同妃殿下の訪韓が取りざたされております。けさの新聞等によりますともう既に十月第二週の後半というぐあいに時期までもほぼ内定しかかっておると。そういう中で大いに結構なことだとは思いますが、ただ、この問題について安倍外相のこれまでの御発言を見ておりますと、全斗煥大統領訪日に対する答礼の意味であるとか、おいでになる以上韓国政府国民に心から歓迎してもらいたいと思うとか、そういう発言もしてこられておるわけでございます。ところがマスコミ報道等見ておりますと韓国では非常に強い反対が一部にある。反対制団体、例えば民主統一民衆運動連合、野党第一党の新韓民主党、民主化推進協議会その他の団体が積極的な反対の中であらゆる手段を通じて訪韓を阻止すると、こういうような声明も出しておるわけでございます。こういった中で過去の日韓関係の経緯とか、最近特に憲法改正要求にまつわる不安定な政情、また妃殿下の御健康状態ということもいろいろ取りざたをされております。私は必ずしもこの時期での訪韓が最良のタイミングとは考えない。例えば一時延期をしてオリンピック見学等の違ったタイミングでやや違った名目で再検討する余地はないのかどうかというぐあいに感ずるわけですが、既に時遅しですか、いかがですか。
  52. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 今、皇太子殿下御夫妻の訪韓につきましては政府としても推進する方向で検討いたし、同時に日韓間で話し合いもいたしております。これは現在の良好な日韓関係にかんがみまして全斗煥大統領訪日に対する答礼の意味も含めてこれが実現できれば望ましいとの見地からでありまして、御訪韓が行われ、両国の相互理解と友好協力関係がさらに深まることが願われるわけでございますが、韓国側においていろいろと動きがあることも私も承知しております、この問題をめぐって。外交ルートではいろいろと今話を進めておりますが、基本的には、皇太子の訪韓というものに対して外務大臣として言わしていただけば、やはり韓国において朝野を挙げて歓迎していただく、歓迎されるという形が最もこれは望ましいわけでございますし、そういう面から今後とも折衝をしながら慎重に対応してまいりたいと、こういうふうに思っております。
  53. 石井一二

    石井一二君 今、外務大臣は向こうの国民から歓迎されるという言葉をあえて言われましたけれども、私は先ほど申し上げた反政府体制のデモというのは五万人規模で行われておると、決して多数の国民、過半数かもわかりませんけれども、私はもろ手を挙げて歓迎されるムードではないというぐあいに感ずるわけでございます。再考をお願いしておきたいと思います。  また、さきに全斗煥大統領訪日されましたけれども、昭和五十九年九月六日、その際天皇陛下は次のような発言をされております。「今世紀の一時期において両国の間に不幸な過去が存したことは誠に遺憾であり、再び繰り返されてはならないと思います。」と表現されておりますけれども、この種の発言を晩さん会か何かで、どうせされねばならないという局面もあり得るというぐあいに感ずるわけですが、この種の発言について現在外務大臣はどのような心づもりをなさっておるのか伺っておきたいと思います。
  54. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) まだ皇太子の御訪韓については外交ルートで具体的には詰めておらないわけですね、いつとかあるいは韓国の中でどういうところを御訪問していただくとか、何泊とか。そういう点についてまだまだ全然詰まっていないという状況でありますし、我々としてはこれからの問題として韓国側の意向もありましょうから、韓国側の意向等も十分お聞きをしながら基本的にはやはり皇太子の御訪韓というのが非常に成功する、心から歓迎をしていただくということでなきゃならぬと思っておりますし、そういう立場からいろいろな問題点については慎重に煮詰めていきたい、こういうことであります。
  55. 石井一二

    石井一二君 詰まっていないとおっしゃったのは手続とか、タイミングの問題である。それで韓国側の意向とおっしゃいましたけれども、皇太子の御発言の内容は日本の意向であるべきである、そういう面で私は担当省庁としての心づもりはどうかということをお聞きしておるわけでございまして、ひとつこの問題については多角的な角度から慎重に検討をしていただきたいことを要望しておきたいと思います。
  56. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 誤解されるといけませんから、韓国側の意向というのは、今皇太子のお言葉とか、そういうことを言っているわけじゃないんです。いろいろとこれからの日程、その他具体的な問題が詰まっていないわけですから、今から詰めていかなきゃならないということを申し上げたわけです。
  57. 石井一二

    石井一二君 お言葉ですが、私がお聞きしているのは天皇陛下のお言葉を引用して、この種発言についてどう思っておるかということを御質問しておるわけですから、だから予定される発言内容についての質疑ですから、やはり日本側の意向を重んじて答弁を願いたいということを申したわけで、それも誤解のないようにお願いいたします。  あと私の持ち時間は四分でございますので、最後に安倍外務大臣がかねてから申しておられます日本外交の原点をアジアに置くというアジア外交についてお聞きしておきたいと思いますが、昨今新聞その他含めてとにかくフィリピン一色である。そういった中で過去の具体的なアジア外交の実績を見てみますと、援助の額にして、一位がインドネシアの一兆円余、これは八四年累計の合計でございます。二位がタイ、三位がフィリピンであり、その他中国、韓国、ビルマ等々と続いております。したがって今問題となっておりますフィリピン外交も極めて重要でございますが、やはり多角的なアジア外交というものを今後やっていただかねばならぬ、そういう意味で、今後のアジア外交のあり方として、遠い未来ではなしにここ一両年、どのような方針で臨んでいかれるのか、フィリピンのこういう問題があるときだけにお考えをただしておきたいと思います。
  58. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) やはり基本的には日本はアジアの一国ですから、そういう原点に立った外交を進めていくということが極めて大事であろうと思うわけです。やはりアジアの安定、平和があって初めて日本の平和と安定があるわけでありますし、またこれまでのアジアと日本との歴史的な関係というものもあるわけであります。そういう点から見まして、これからの日本外交というものを考えるときに、やはりアジアに相当の重心をもっと置いた外交を進める必要がある。これは援助という問題だけじゃなくて、援助はもちろんアジア主力といいますか、アジアに対して七割という援助の重心を置いておりますし、ASEANは三割ということになっておりますが、その基本的な大きな流れは、方向というものは、これはやはり続けていくのは当然でありますが、ただ援助ということだけじゃなくて、もっと政治、経済、文化、やはり人的交流ですね、そういう面も今お話しのように多角的な面を踏まえたアジアとのつながり、特に私はアジアとの関係におきましては、やはり心と心のつながりといいますか、そういう触れ合いといいますか、それが極めて大事なことではないだろうか。  何か日本が先進国家になって、そしてアジアの人たちから見ると日本はアメリカの方を向いている、あるいはヨーロッパの方向を向いている、そういう一つの空気がないわけでもない。やはりアジアの中での日本だという考えをアジアの国民にも知ってもらう、そういう触れ合いを幅広く持っていく、時間は長くかかりますけれども、そういう外交を展開していかなければならぬ。それが日本のこれからの外交一つの大きな基本ではないか、こういうことを強調しておるわけです。
  59. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 最初に、日ソ平和条約をめぐる北方領土の問題をお尋ねしたいんですが、北方領土を要求する、アメリカの秘密外交文書などを見ますと、日本のクレイムズという、要求という言葉を使っておりますが、この日本の要求というのは政治的な要求でしょうか、それともやはり法律的な正当性を持つと外務省考えておられるんでしょうか、その点をまずお伺いしたいと思います。
  60. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) ただいま御質問の趣旨でございますが、要求しているという言葉を大変恐縮ですが、どこが使っているとおっしゃいましたですか。要求しているという言葉を使ったのは。
  61. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 アメリカの秘密外交文書が発表されたね、ああいうものの中に日本のクレイムズという言葉が使われているからね。
  62. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 一九四五年から五一年ぐらいまでにわたりまして種々の外交文書が現在アメリカで公表されるに至っております。その中に、御指摘北方領土の問題はいろいろな人がいろいろの所見を述べた形で出ているのは事実でございます。したがいまして、その場合にクレイム、求められていると言っている場合に、それはその人がどういうふうに個人的にそれぞれ問題を見ていたかということによって違うのであろうと思います。ただ一般的に、日本は終始一貫北方の四島は日本国有のものであると言っていたわけでございますから、いかなる場合にも日本立場はそういうものである、そういう了解の上に立ってその言葉が使われたのではないかと思います。
  63. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、私がお尋ねしたのは、日本ソ連に対してこの四島を当然日本返還すべきであるという主張をしているでしょう。それは政治的な御主張なのか、それとも法律的な正当性を持っているというふうにあなた方は考えておられるのか、その点を伺っている。
  64. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 私どもの考え方は、北方四島につきましては、これは歴史的に申しましてもまた法律的に申しましても我が国固有の領土であったということでございまして、したがいまして、サンフランシスコ平和条約でもって我が国が放棄いたしましたところの千島列島というものの一部分ではないと。したがって、これは当然我が国に戻るべきであるというのが我々の態度でございます。
  65. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今あなたはサンフランシスコ平和条約日本が主権、領土権を放棄した千島列島の一部ではないと、つまり国後、択捉などは一部ではないとおっしゃったね。それはどういう根拠でそういう主張ができますか。
  66. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 現在のソ連がまだ帝政ロシアと言われておりましたころに二つの我が国条約を結んでおります。そのうちの第一が、もう御承知のとおり一八五五年に調印されましたところの日魯通好条約でございます。それからもう一つがその二十年後に調印されました、つまり一八七五年に調印されました樺太千島交換条約でございまして、この両方の条約によって当時の帝政ロシアが、現在我々が北方領土と呼んでおります四島については初めからこれが日本のものと認めていた、そういう法律的な根拠があるというふうに考えているわけでございます。
  67. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今の安政元年条約ですね、これは確かに国後、択捉は日本の領土と認めたことは間違いないけれども、ただそのとぎの条約では、これがやはり千島の一部であるということははっきり条約の文面にあらわれていると思うんだけれども、それはどうです。
  68. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) この安政元年の日魯通好条約、通称下田条約と申すものでございますが、これの第二条にございます文言は「今より後日本國と魯西亜國との境ヱトロプ島とウルップ島との間にあるへしヱトロプ全島は日本に属しウルップ全島夫より北の方クリル諸島は魯西亜に属す」こういうふうに規定してございまして、したがいまして、「ウルップ全島」を含みそれより北の方がクリル諸島という名前であるということがこの条文の書き方から明らかというのが我々の考え方でございます。
  69. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、あなた方のその条約の解釈が間違っているんですよ。つまり、外務省から出ている「旧條約彙纂」という分厚い条約集がありますね。これはあなたも御存じでしょう。この安政元年の条約によりますと、第二条。この条約は、正文はどこの国の文が正文だとあなた方は見ていらっしゃるの。
  70. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 私の承知しておりますところでは、これは四カ国語で書かれておりまして、いずれが正文という特段の定めがない、そういう条約でございます。当時の日本の置かれた特殊な状況を反映しているのかと存じます。
  71. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうなんですね。四カ国語で書かれたわけは、当時まだ日本側はソ連語に堪能の人が一人もいなかった、ソ連側日本語に堪能の者がいなかった、そこで、両者ともオランダ語はよく知っておったのでオランダ語で書いたというふうに歴史的に我々は調べておるんだけれども、その三カ国語のうちのオランダ語でもフランス語でも、いずれも日本語の「夫より北の方クリル諸島は」という点が「夫より北の方その他のグリル諸島」という、「その他の」という文句がみんな入っているのね。ところが日本語は、故意か偶然が、「その他の」というものを落としているわけだ。「その他のクリル諸島」ということになると、国後、択捉もクリル諸島の一部だということは条約上はっきりするんだけれども、なぜ「その他の」というのを落としたのか、そこがわからない。つまり、オランダ語を見ますと「met de overigeKoerilsche eikanden」、「その他のクリル諸島」とはっきり「overige」という言葉が入っておる。それからフランス語のあれを見ても「les autres flesKouriles」、「その他のクリル諸島」、ソ連語の方も「прочiе Курильскiе」というふうに書いてある。つまり、あなたのおっしゃる、四カ国語でできているうち三カ国語はいずれも英語のいうジ・アザー・クリルアイランズ、「ジ・アザー」というのが入っている。なぜ日本語だけ「ジ・アザー」を取っちゃったんだろうか。だから、あなた方の北方領土に関する根本的なそこに相違点というのが生まれてしまった。だから私はある意味では、これは故意に落としたんじゃないかという疑いさえも持っているんだけれども、どうだろうか。
  72. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 非常に精緻な御指摘でございますけれども、私どもも、何しろ百年以上も前のことでございますので、当事者がどういう気持ちでその部分を特に訳さなかったのかは推測する以外にないわけでございます。しかし、現在外国語の方を見ますと、これはウルップ島とそれからそのほかの千島列島、つまりクリル列島ということで、そのウルップ島及びその他の島々それ全体をクリル島と呼ぶというつもりで解釈していたと。したがって、日本語の場合には「ウルップ全島夫より北の方クリル諸島」と言えば外国語でもって「その他」と言っている部分はそれによってカバーされると、恐らくそう考えて訳したのではなかろうかというふうに思います。
  73. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その「les autres」とか「overige」とかいうようなことを「その他のクリル諸島」という「その他」を抜かしちゃうと、もうそれは意味ががらっと違ってくるわけですよ。だから、私はある意味ではこれは外務省が故意にこの「その他」というのを除外して、そして国後、択捉はクリル諸島にあらずという結論を導き出そうとしたんじゃないかと思うんだけれども、そうとすると、これは大変国民を欺くことになるので、これは重大な問題だと思うんですよ。
  74. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 条約の解釈ですので後に条約局長からもお答えを申し上げたいと思いますけれども、私どもの考え方といたしましては、いわゆる千島列島というのはウルップ島とそれからその他の島々から成る島の一部である、そういう前提に立ちましてウルップ島については特記されたと、しかしその他のものについては、先生がおっしゃいました「その他」「les autres」というような言葉でもって一括したということでございまして、それ以外に千島列島というものが存在したということを言っているのではないのであろうというふうに思っております。
  75. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 この条文の解釈につきましては、私は日本の言語学者、それからオランダ人の言語学者、オランダ人の言語学者は、日本の国立国語研究所研究員のグローダースという人ですね。これは相当の権威者で、オランダ語に堪能なことはもちろんだけれども、フランス語にも堪能な人です。両親の一方がフランス人である、一方がオランダ人である。この方の御意見も伺ってみたけれども、オランダ語にせよフランス語にせよその点の解釈は疑う余地がありませんということですね。ですから、これは外務大臣条約日本訳といいますか、日本文といいますか、それがそのとき同時にできた三カ国語の外国の条文と極めて重要な点で乖離しているという点は、これは、それがあるとないとでは意味が大変違うということは非常に重大な問題なんですよ。これはよほど外務省で間違ったなら間違ったという正直な態度をとっていただかないと、あなた方の国際的な信頼にも響くことですからお考えをいただきたいと思いますが、いかがでしょうか。
  76. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 条約の解釈あるいは北方領土の法的地位に関する問題でございますので、若干補足して申し上げたいと思います。
  77. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あのね、これはもう大所高所からやっぱり判断していただくべきことなので、大臣の御所見を伺ったんですよ。
  78. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) ちょっと条約局長から。
  79. 最上進

    委員長最上進君) それでは先に小和田条約局長、その後大臣にお願いします。
  80. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 欧亜局長から御答弁したとおりですが、若干整理して申し上げた方が誤解がないかと思いますので、ちょっと補足させていただきたいと思います。  この北方領土が、先ほど申し上げましたように歴史的にも法的にも日本の領土であるというのが日本政府立場だということを申し上げましたが、そのことの持っている意味は二つあるわけでございます。  一つは、歴史的にも日本の固有の領土であるという意味では一八五五年の条約にも明らかなように、もともとこれは日本の固有の領土であって、一八五五年の条約のときにおきましてもロシア側があれが日本の領土でないということを主張したことはなかったということ、つまり歴史的に見てずっとこれは日本の固有の領土であったということが五五年の条約でも七五年の条約でも明らかである。それ以降も他国の手に渡ったことがないということが第一点でございます。  第二点の法的な問題につきましては、これは基本的には一九五一年のサンフランシスコ平和条約の解釈問題になるわけでございます。サンフランシスコ平和条約我が国が放棄をしたクリルアイランズと、これは日本語は正文ではございませんので、英語で申しますならばそこで言っているところのクリルアイランズというのは一体どの範囲であるかという解釈の問題になるわけでございます。その解釈の根拠、一番のベースになりますのは、そもそも第二次大戦の結果として結ばれた平和条約の中で領土というものがどういうふうに処理されるかということにさかのぼるわけでございまして、政府が前々から申し上げておりますように、連合国共同宣言に発しましてカイロ宣言の中で明確にされているところの領土不拡大の原則、これが確実に守られなければならないということがカイロ宣言の中に入っておりまして、それがさらに我が国が受諾をいたしましたポツダム宣言の中で「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルベク」と、こういうことが入っているわけでございます。つまり我が国が戦争を終結いたしましたポツダム宣言において我が国と連合国との間の基本的な合意になっておりますのがポツダム宣言であって、そのときに「カイロ宣言ノ条項ハ履行セラルベク」、すなわち連合国は領土拡大を求めるものではないということが戦争終結の一つの条件になっておる。そういう前提から出発をして桑港平和条約の規定ができておる、こういうことでございます。  したがいまして、もともと日本の国のものであったものに対して連合国がそれをサンフランシスコ平和条約によって日本から取り上げるということはポツダム宣言の条項から言ってあり得ないことである、これが解釈の場合の前提になる第一の点でございます。  第二番目の点として、それでは文字どおりの解釈として、クリルアイランズというものはどういうふうに解釈をすべきであるかということになってまいりますと、今寺田委員が御指摘になりましたような条約その他で使われておりますクリルアイランズというものが一体どういう意味で用いられてきたかということが一つの解釈の上での参考資料になる、こういうことになるわけでございます。  その参考資料として今問題になっております一八五五年の条約は、ではどういうことであるかということになりますと先ほど来御指摘がありましたようにこれは四カ国語でできておりまして、そのいずれが解釈上の正文であるかということは何も書いていないということでございますから、この四つのテキストというものをもとにして解釈をするということになるわけですが、御承知のとおり多数の言葉条約ができておりますときにはこの条約はすべて同じ価値を持つわけで、そのテキストの解釈として調和する解釈というものを探さなければならないわけでございます。  そういう見地から見ますと、私どもが政府立場として申し上げておりますように、日本語では「夫より北の方クリル諸島」というふうに書いてありますので、日本語に関する限りはこの点は全く問題がない。今御指摘になりましたロシア語、オランダ語、フランス語について見ますと確かに「他の」という言葉が入っております。この「他の」というのをどういうふうに解釈すべきかということについては私どもも慎重に検討をいたしましたが、考え方といたしましてはこれは「他の」ということが、そもそもクリルアイランズというものがあって、そのうちの一部が日本に属し、それ以外のその他のクリルアイランズがロシアに属するという、今委員が御指摘になったような解釈の仕方と、それからこの島々の中で日本に属するものについては既にその前に書いてあるわけで、それ以外のその他の島であるところのクリルアイランズについてはこれはロシアの所領とすると、こういう解釈も私どもはロシア語、オランダ語、フランス語と全部見てみましてそういう解釈も可能であると。その二つの解釈のいずれが正しいかということについて、この三つの言葉に関する限りはどちらとも言えないであろう。しかし、日本語に関する限りはその点は極めて明確に「夫より北の方クリス諸島」と、こういうふうに書いてあるわけでございますから、全体を調和して全体について適用し得る解釈としては私ども政府が申し述べているような考え方が正しい解釈ではないかと、こういうふうに考えて従来から申し上げているわけでございます。  ただ、繰り返しで恐縮でございますが、あくまでもこれは桑港条約第二条で言っておりますところのクリルアイランズというものを解釈する上での一つの参考資料として申し上げているわけでございまして、もともと一人五五年条約について政府が言及をしておりますのは、これが本来歴史的に見て日本の固有の領土であって、一八五五年に日本とロシアとの間で領土画定をいたしましたときから既にこれは日本領として認められておったということに私どもの主張の重点があるわけでございますので、補足させていただきたいと思います。
  81. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 条約局長のこの説明でもうすべて尽きているんじゃないかと思います。  固有の領土であるという点についてはこれは安政元年の条約以来日露間で確認、合意しておると、こういうふうに思っておりますし、なおサンフランシスコ平和条約のいわゆる千島列島という中には、これはもうポツダム宣言あるいはカイロ宣言の精神を踏まえても、その中には入っていないというのが日本政府としての立場であることは、これはもうしばしば申し上げているとおりであります。
  82. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今あなたは盛んに歴史的な根拠をおっしゃるが、それはこの条約上明白なことで、それに対しては私はいささかも異議を差し挟んでおらぬのですよ。ですからそれを強調なさるのは無意味なのね。あえて質問の対象としていないわけです。  それからカイロ宣言やポツダム宣言は確かにあなたのおっしゃるような意味を持つことは確かだが、同時にポツダム宣言は日本の領土を本州、四国、九州、北海道並びに我らの決定する諸島嶼に限られるといって、まだそれはそういう決定がないわけだから、その決定がないのに、一方サンフランシスコ平和条約では日本はクリル諸島を放棄したということになっているわけだから、だから余り両条約を盾に放棄したことが否定できるものじゃない。あなた方のおっしゃった歴史的にこれは本来日本の領土であるという点は吉田さんもサンフランシスコ平和条約のときに発言しているわけですよ。発言はしているけれども、放棄したという点に対しては異議を差し挟んでいないんです。やっぱりこれは日本国有の領土だから放棄しませんよと日本が所有権なり主権なり領土権を留保しますということは言っていないわけなんですね。だからこれはやはり放棄した千島列島に含まれるか含まれないかということに問題は尽きてくるんです、法律的には。だからちょっとあなた方のはそういう点をまだごまかしているといっちゃ失礼だが、何とか詭弁で乗り切ろうという気持ちがある、正しい態度じゃない。  それからもう一つは、樺太千島交換条約もあなた方の方は大変有力な根拠になさるけれども、この条約日本文を見てもらっても「現今所領クリル群島即チ」何々という十八島をここに言っているので、クリル群島は北千島だけだと、南千島は含まないんだという一つの論拠になさっておられるね。これは間違いないでしょう。だけれども、このフランス語はこれは正文になっておるんでしょう。どうですか。
  83. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) この樺太千島交換条約につきましては日本語とフランス語のテキストがございます。フランス語が正文であるという規定があったかどうか私ちょっと今記憶しておりませんが、そういう規定がございましたらちょっと御指摘いただければありがたいと思います。
  84. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これはフランス語が正文なことは、あなたの方の出していらっしゃる「舊條約彙纂」の六百八十ページを読んでごらんなさい。「樺太千島交換條約」と書いて、「明治八年五月七日比特堡府ニ於テ調印」となっているんですね。これは漢字だからちょっとわからぬが、それで括弧して「佛文」と書いてある。これは明らかに調印したのは仏文だということを示しているんじゃないんですか。
  85. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 大変恐縮でございますが、私は今ここに樺太千島交換条約のテキストを持っておりますけれども、今御指摘のページをちょっと手元に持っていないものですから。
  86. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これを見てごらんなさい。それから、日本文の方は「譯文」というのが最初に書いてあるよ。これを見てごらんなさい。
  87. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) その点については、さらに調査をしてお答えをしたいと思いますが、条約自体は日本語とフランス語と両方で印刷はしてございます。ただし、今、寺田委員が御指摘になりましたように、この条約自体はセント・ピータースブルクで署名をされた条約でございます。それで、日本とロシアの間の条約でございますから、日本語とフランス語が正文であったということはちょっと考えにくいので、日本語とフランス語とロシア語でつくってフランス語が正文であったということはあり得ることだと思いますが、条文の中にはちょっと今、それが正文であるという記載は入っていないようでございます。
  88. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それじゃ、何であなた方が出した条約集に仏文で調印したと、日本語の上には「訳文」と書いたの。御自分で書いておいてそれを否定なさるのは、それはおかしいじゃないか。
  89. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 誤解があるといけませんので申し上げますが、私は寺田委員のおっしゃっていることを否定しているわけではないんです。私が持っておりましたテキストにはどれが正文であるかということについての注記もございませんし、通常は条約の条文の中に何が正文であるかということを書くわけでございますが、この条約についてはそういう規定が今見当たらないということを申し上げたわけでございまして、今いただいたこの「舊條約彙纂」の方には「譯文」という言葉日本語の方についておりますので、それにはそれなりの根拠があったんであろうと思います。私が持っておりました方のテキストにはそれが入っていなかったので今のようなお答えをしたわけですが、この点はちょっと調査をしてお答えさせていただきたいと思います。
  90. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 私どもは、セント・ピーダースバーグ、そこで仏文で調印というのをあなた方の権威ある条約集で見たんだけれども、その中にも、これは第二款が今の北方領土に触れていることだけれども、その北方領土に関する、つまりクリル諸島に関する文を見ますと、これはフランス語だけれども、クリル諸島と称せられる島々のグループ、「le groupe des les dites Kourikes qu’Ellepossede actuellement」と書いてある。これは、結局ロシア皇帝が現時点において持っているクリルと称せられる島々のグループ、それを大日本国の皇帝陛下に譲ると言っているので、これをつまり日本語では「現今所領」という何かわけのわからない言葉で言っているけれども、クリル諸島というのは、この今挙げた十八島じゃなくして、ロシア皇帝が現時点において持っているところのクリル諸島、こういうふうに訳すべきなのを、何かはっきりしない訳をつけて、これを根拠にクリル諸島というのは旧ロシア帝国が十八島だけだと認めたというふうな理論的根拠にしている。それは非常に条約の解釈を誤ったものだと思いますが、これはどうですか。
  91. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 今御指摘になりました樺太千島交換条約の第二款でございますが、フランス語は、確かに御指摘のように、「le groupe desles dites Kouriles qu’Elle possede actuellement」と、こう書いてありますので、それをどういうふうに解釈するかという問題であろうと思います。    〔委員長退席、理事宮澤弘君着席〕  ここで明らかにはっきり「le groupe des lesdites Koureles」と、こう言っているわけで、クリルと呼ばれる一連の島々、クリルと呼ばれも群島、つまりクリル群島ということが書いてあって、その後で、「qu’Elle possede actuellment」というのは、それをロシアが現在所有をしておる、こういうことが書いて。あるわけでございまして、そのこと自体は、何もクリル群島というものが別個に存在して、その中でロシアが持っている部分というふうに書いてあるわけではないというふうに考えております。  ちなみに、訳語であるかどうかという点ですが、今手元にありました資料で申し上げますと、現在検討可能な署名本書から判断する限り、この条約の正文は仏語であると思われるということが記載してございます。先ほども申し上げましたように、条約がセント・ピータースブルクというロシアの首都で結ばれているということから考えましても、日本語とフランス語が正文であってロシア語が入っていないということはちょっと考えられませんので、恐らく交渉の結果でき上がったものは第三国語であるフランス語でつくられた、それにロシア語と日本語の訳文ができたということではないかというふうに想像いたします。  ただ、この日本語というのも、何も後でつくったわけではなくて、そのときあるいはその直後につくられたものであろうというふうに考えますので、そういう意味で申しますと、ここに書いてあります「現今所領クリル群島」というのは、当時の交渉当事者としての日本政府理解を示しているというふうに考えていいであろうというふうに考えます。  そういうふうにいたしますと、この樺太千島交換条約ができた当時における日本政府認識としては、やはりこのクリル群島というものが、ここに書いてありますように、すなわち「第一シュムシュ」から「第十八ウルップ」に至る十八島ということを指しておるという認識に基づいてこの条約ができていたというふうに考えていいのではないかというふうに思っております。
  92. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その点は、第七回国会における衆議院外務委員会会議録でも明らかなように、国会でもう論議が一度なされているわけですよね。そのときにやはりあなたのような意見を述べた議員がおる。それに対して西村熊雄条約局長は、そうじゃないんだと、  明治八年の交換條約で言う意味は、いわゆる日露間の国境以外の部分である千島のすべての島という意味でございましょう。ですから千島列島なるものが、その国境以北だけがいわゆる千島列島であって、それ以南の南千島というものが千島列島でないという反対解釈は生れないかと思います。非常に遠慮深げではあるけれども、そうじゃないんだと、やはり南千島というのは千島列島でないという反対解釈が生まれないのだと、あなたのような意見に対して答えておるわけですね。  それから、私は、今回発表されましたアメリカの秘密外交文書、これを調べてみたところが、これは一九四九年ですから昭和二十四年になりますが、十一月二十五日、国務省の政治問題に関する法律顧問、ジ・アシスタント・リーガル・アドバイザー、これは法律顧問補ですか、このメモランダム、このメモランダムは当時の極東委員会のアメリカ代表でありましたマクスウェル・M・ハミルトン、ハミルトン極東委員会アメリカ代表に送られた秘密文書ですがね、その秘密文書をあなたは持っていらっしゃるかな。
  93. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 持っております。
  94. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その秘密文書の中に、今あなたがおっしゃった両条約、これは一八五五年と七五年になるが、安政元年と明治八年の両条約について述べた後、この条約の文言は日本に譲渡された島々は、つまりクリル群島の一つのグループに過ぎぬことを示している。他のグループは択捉、国後であるのだと。この二つの条約は少なくも択捉はクリル諸島の部分であることの証拠である、ということをはっきり言っているわね。ですから、これは、国務省の法律顧問が当時の極東委員会のアメリカ代表にあてたものの中にも、私のような解釈がとられて、あなたが今言われたような解釈はとられていないんですね。外務省の現在の両条約を根拠とする国後、択捉が千島列島に属しないという解釈はとられていないんです、これはアメリカの国務省のリーガルアドバイザーだ。あなた方どう考えるか。
  95. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) アメリカが公表いたしました外交文書の中に、今寺田委員が御指摘になりましたような文書が入っておるということは承知しております。それから、その中におきまして、政治問題担当の法律顧問部の法律顧問補でございますが、アシスタント・リーガル・アドバイザーがそういう意見を述べておるということは御指摘のとおりでございます。ただ、これは御承知のとおり一九四九年という時点において出されているということからおわかりのとおり、平和条約を控えて、米国政府の内部におきまして、あるいは米国政府とその他の関係国との間においていろいろな平和条約の内容について協議が行われていた段階における内部文書でございます。  その過程においていろいろな議論があったであろうということは単に想像にかたくないだけではございませんで、同じこの公開された外交文書の中に含まれております。その他の文書の中におきまして、例えば在日の米国の代表部から、国後、択捉は日本返還されるべきものであるというような意見が出ておるとか、いろいろな異なった意見が出て、議論をされている過程において、政治担当の法律顧問補が一つの意見として出したものである、スノーという法律顧問補佐の意見としてここに掲載をされておるというふうに私ども理解しているわけでございます。  他方、御承知のように、アメリカが対外的な関係におきまして、例えば当時の英国でございますとかあるいは当時のフランスに対しまして行っている立場の表明におきましては、このクリルアイランズの正確な定義というものは、これは日ソ間で決めるべき、合意すべき問題である、あるいは、国際的な紛争解決手続に委ねるべき問題であるということを言っているわけでございまして、外との関係におきましては、この時点におきましても、あるいはその後の時点におきましても、米国は、今寺田委員が御指摘になったような立場というものを米国の立場として表明しておるわけではございません。  むしろ逆に、御承知のように、一九五五年あるいは五十六年の国際司法裁判所への米国政府の見解の表明におきましては、米国としては対外的に公式にこの国後、択捉が日本に所属するものであるということを言っているわけでございまして、そういう意味におきまして、内部の文書として一時期にそういうことを書いた文書が存在しておる、一人の国務省の法律顧問補佐の作成した文書が存在しておるということは私ども承知しておりますけれども、そのことが米国政府の見解を示すものでもなければ、あるいは、私どもが先ほど来申し上げておりますような考え方を否定するものでもないというふうに理解をしておるわけでございます。
  96. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうじゃない。これは、あなたが言われた秘密外交文書の今のこのスノー法律顧問の見解が表明された以前に、例えばケナンの覚書がある。これは、一九四七年十月十四日にやはりアメリカ政府部内にあったこと、これはどっちかというと、四島を日本に保持させようとする意見ですね。それから、ボートンという方の、これは、狭く解釈すれば、日本が四島を保持することも可能であるという意見。それから、地理学者が、歯舞、色丹は千島とは別である、ヤルタ条約では地図を使った形跡がないというような意見。それから、先ほど私がちょっとお話をした、日本のクレームズという問題を、国務長官の代行がシーボルトに対してこう言った。これは、日本のアクティング・ポリティカル・アドバイザーというから、これは占領中日本政治顧問代行と訳すべきだろうか、それに対して、アメリカのジ・アクティング・セクレタリー・オブ・ステート、だから、国務長官代行からシーボルトにあてた文書の中にも、これは歯舞、色丹や国後、択捉に対する日本のクレームズ、要求をサポートする。サポートする問題について注意深く検討するであろうという文句がある。  つまり、日本がアメリカに盛んに、この四島を日本に欲しい、返してくれ、持たしてくれという要求を出しておることに対して、国務省が慎重に検討するであろうという検討の段階を経まして、それから、中途においてはどちらかというと反対意見が勝って、そしてサンフランシスコ平和条約となった。サンフランシスコ平和条約となったときは、ダレスの演説をあなたも知っていらっしゃると思うが、ダレス演説は、歯舞群島は千島列島には入っておりませんとだけ演説しているわけだ。このことがいろいろ問題になったけれども、歯舞群島は千島列島に入っておりませんと、国後、択捉が入っていないということは言ってない。  そういう経過を経て今度はアメリカが態度が次第に変わってきた。それはどういうふうに変わったかというと、つまり日本がソビエトと平和条約を締結しようということになると、アメリカの日ソを対立させておこうという世界戦略にとって利益でないから何とかしてこの四島返還に関する日本の要求をサポートして、そうして日ソ平和条約を結ばせまいとするアメリカの戦略というものが途中で生まれて、そうしてあなたのおっしゃる一九五六年の意見となったと、それに私どもはもう間違いないと見ているが、その一つの、いろいろな証拠があるわけだけれども、昭和三十一年の日ソ共同宣言ですね、そのときに松本俊一さんが「モスクワにかける虹」という本を出しておられること、これはあなたも御存じでしょう。  この中に、一九五五年六月末から七月中旬にかけてアメリカ、イギリス、フランスに対して、「ポツダム宣言第八項の決定はヤルタ協定の決定を指すものと考えるか。」と。それからもう一つは、「ソ連は南樺太及び千島列島をポツダム宣言第八項の規定により単独、かつ一方的に自国領土と決定し得るや。」と、この二つの点について三国の見解を求めたという記述があります。  さらに十月に至って、改めてアメリカ政府に対して、ヤルタ会談に参加した連合国首脳は、ヤルタ協定中にクリール諸島の話を使用するに際し、直接北海道に近接する国後、択捉両島が多数日本人のみの居住する固有の日本領土であり、かつていかなる外国の支配にも属したことがなく、また一八七五年の日露間条約において、国後、択捉両島を除いたウルップ島までの十八島のみが千島列島として定義されているという歴史的事実を承知していたかどうか。という点、それから二番目が、サン・フランシスコ平和条約起草に主な役割を演じた米国政府は、当時同条約第二条C項にいうクリール諸島とは、国後、択捉両島を含まないものと了解していたかどうか。という点で質問をした、この二件についてアメリカの国務省から回答が来た。この回答を私があなた方に資料の要求をしたわけです。あなた方はこれは秘密であるから差し上げるわけにはいかぬのですと、御了承くださいということでこのアメリカ政府の回答を私どもに示さないわけですね。そうして翌年の自己に都合のいいやつだけを私どもにくれるわけなんです。これは、やはりあなた方が自己に不利益なものは国民に示さない、国会にも示さない、有利なものだけを示して、国民に事実を知らしめない。簡単に言うとごまかすわけなんです。そういう態度をとっておることを示しているんじゃないでしょうか。
  97. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 技術的な点にわたりまして大変恐縮でございますが、御指摘がありますのでちょっとお答えさせていただきたいと思いますが、先ほど寺田委員の方から、シーボルト駐日代表代行から国務長官代行あての電報の件について言及がございました。この電報は私もここに今原文持っておりますけれども、ここで言っておりますのは、まさに在日米国当局といたしましては、歯舞、色丹、国後、択捉というものに対する日本のクレームと、主張というものについては十分な考慮が与えられるべきであるということを言っているわけでございまして、先ほど私が申し上げましたように、平和条約に至る過程において米側において内部でいろいろな議論が行われたということが推定されるわけでございます。  その議論というのは政治的な議論もございましたでしょうし、法律的な議論もあったと思います。その法律的な議論との関係で言えば、これも先ほど寺田委員から御指摘がありましたように、このクリルアイランズというものについては狭い解釈と広い解釈があり得るであろう。狭い解釈というものをとれば、国後、択捉等は日本に属すべきものであるというような意見も内部の意見として開陳されていることは先ほど御指摘になったとおりでございます。  他方、今申し上げましたのは米国の内部における議論の経過、公表されました外交文書にあらわれておりますところの内部の議論の模様でありますけれども、先ほど私が申し上げましたように、対外的な意図の、意思の表明ということになりますと、一九五一年に、恐らくこれは英国からの照会があってそれに対する答えであろうかと思いますが、米国の国務省から在米の英国大使館あてにエードメモワールが出ておりまして、その中で、先ほど私が申し上げましたように、クリルアイランズの範囲に関する正確な定義というものは日ソ二国間で合意されるべきもの、あるいは国際司法裁判所によって司法的な決定をまつべきものであろうというような意見が出されているわけでございます。  つまり、このことから推定されますのは、平和条約締結に至ります過程において米国の内部でいろいろな議論があった。あったけれども、米国としてはこの点について正確な定義を置かない形で平和条約をつくるということになったのであろうと。それで、定義条項はこの条約の中に設けられておりません。  そこで、私が先ほど来申し上げておりますのは、そういう中において米国が公式にこの問題について法的な立場というものを明らかにしたのは、先ほど申し上げましたような一九五六年の国際司法裁判所における事件との関連において、米国政府が国際司法裁判所という、世界で最も重要な司法機関でありますところの国際司法裁判所に対して、みずからの政府の公式的な見解として、このクリルアイランズという問題についての意見を明確にしたということが米国の立場を最終的に表明しているものであるということを申し上げているわけでございます。  そのことと別に、このクリルアイランズというものの解釈を、どういうふうに日本政府としてこの規定についてするかということになりますと、先ほど来申し上げておりますような、本来カイロ宣言に規定をされ、ポツダム宣言で確認をされ、日本がポツダム宣言を受諾するに当たってその一つの基礎となっておるこのポツダム宣言の条項の中でカイロ宣言に言及をして、カイロ宣言は領土不拡大ということが基本原則としてうたわれているわけでございますから、それがサンフランシスコ条約第二条の規定を解釈するに当たっての一つの基本的な前提になるべきであろうというのが日本側の考え方であるということを申し上げておるわけでございまして、ポツダム宣言あるいはカイロ宣言によってこの問題が決せられているということを申し上げているわけではないわけです。  むしろ私が最初に申し上げましたように、このクリルアイランズの範囲という問題はサンフランシスコ条約第二条によって決められている問題であるけれども、その第二条を解釈するに当たっての基準となるべき原則としてはポツダム宣言、さらにはそれからさかのぼってのカイロ宣言の規定と、連合国がそれを原則として戦争を終結したその原則というものが、この桑港条約第二条の解釈に当たっての非常に重要な基準になるべきであるということを申し上げているわけでございます。
  98. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あなた方の御主張は大変矛盾があるのは、カイロ宣言の条項、それを受けたポツダム宣言の条項ということを大上段に振りかぶって、そして国後、択捉の帰属を論じようとするとこれは大変な矛盾があるんですね。というのは、もしもカイロ宣言の条項を盾にとって領土問題を解決しようとするならなぜ国後、択捉だけに限定するのか。北千島だって同じように暴力で奪取したものじゃない。平和的に日本に一たん帰属したものなんですね。だから北千島全体を言うべきなのに、あなた方はその条項を言いながらまた国後、択捉だけに限定しようとする。そこに非常に論理的に矛盾がある。だからそれはだめなんです。  それはやはりサンフランシスコ平和条約で千島列島を主権、領土権、所有権すべてを放棄したその中に果たして南千島は包含されるかどうかという、そこに論点を当てないと、あなた方の御主張は矛盾だらけになる。第一、吉田さんだってサンフランシスコ平和条約のときの演説で北千島、南千島という表現を用いておられるわけです。アメリカの秘密外交文書の中でもやはりノースクリルアイランズとサウスクリルアイランズと、やっぱ り南千島、北千島という表現は随所に出てくるんです。だから、あなた方盛んにカイロ宣言を強調するのはちょっと筋違いなんで、その点の論争はもういいですよ。だって明らかに矛盾なんだから。  それより先に一つ聞きたいけれども、一九五五年の十月に今言ったようにアメリカの意見を聞いたときに、アメリカが、千島の地理的名称問題を国際司法裁判所へ提訴する代案として、米国は、日本が択捉、国後をこれら諸島が千島列島の一部でないという理由で日本返還するよう、ソ連を説くことになんら反対するものではない。しかし、歯舞、色丹についてソ連がすでに表明した立場から考えると、この企てが成功することはあるまいと思う。こういう回答をしたということが松本全権の著書に書いてあるんだけれども、こういう回答がアメリカからあったことはお認めになりますか。
  99. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) ただいま御指摘の点については欧亜局長の方から御答弁いたしますが、その前に一言だけ、寺田委員が御指摘になったことについて誤解があるといけませんので申し上げますが、私が申し上げておりますのは、領土問題の最終的な帰属は平和条約によって決するのであって、したがってこの問題は基本的には、サンフランシスコ平和条約で言っておるところのクリルアイランズというのはどういう範囲であるかということに帰着をする、こういうことを申し上げておるわけです。ただ、それを解釈するときの一つの重要な基準として、そのもとにあるところのポツダム宣言、さらにはそれよりさかのぼってのカイロ宣言の原則というものが一つの非常に重要な基準として考えられるべきであるということを申し上げているわけです。  したがって、寺田委員が御指摘になったように、もしカイロ宣言、ポツダム宣言を言うのであれば全千島が日本に返ってくるべきではないかというのは、カイロ宣言、ポツダム宣言だけをとればあるいはそういう主張も可能かと思いますけれども、桑港条約第二条は極めて明確にクリルアイランズに対する権利、権原を放棄するということを言っているわけでございますから、いわゆる千島列島、つまりウルップ以北の島々に対して日本がそれが日本のものであるということを主張することは、桑港条約上法的に不可能になっておるというのが政府立場であるということは再々申し上げているとおりでございます。  他方、先ほど来吉田全権あるいは西村政府委員の答弁について御指摘がありましたけれども、吉田首相はこの件につきましてこういうふうに言っているわけでございます。千島列島の件につきましては、日本の見解は米国政府に早くすでに申入れてあります。これは後に政府委員をしてお答えをいたさせますが、その範囲については多分米国政府としては日本政府主張を入れて、いわゆる千島列島なるものの範囲もきめておろうと思います。しさいのことは政府委員から答弁いたさせます。こういうふうに申しまして、その後西村条約局長が、先ほど寺田委員が御指摘になりましたように、「條約にある千島列島の範囲については、北千島と南千島の両者を含むと考えております。」という答弁がございますが、その後、しかし南千島と北千島は、歴史的に見てまったくその立場が違うことは、すでに全権がサンフランシスコ会議の演説において明らかにされた通りでございます。あの見解を日本政府としてもまた今後とも堅持して行く方針であるということは、たび々この国会において総理から御答弁があった通りであります。こういうふうに述べているわけでございまして、要するに日本政府としては、今私が申し上げましたようなことを背景にして、国後、択捉というものは基本的に我が国の固有の領土であって……
  100. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その歴史的なことは私ども認めているんだから、それを強調なさらぬでいいんです。
  101. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) それを前提にして桑港条約第二条の解釈というものが行われるべきであるし、そのことはまた法律的にいっても正当化されることであるという考え方を従来からとってきているわけでございます。
  102. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 あなたは盛んに歴史的なことを言われるけれども、今私が問題としているのはあくまでも法律的な正当性を持つかということだから、歴史的なことはいいんです。  それから、あなたの今お答えになったことは、結局私が今まで言ったことをそっくり認めたことになる。やっぱりカイロ宣言から言えば千島全島を主張するべきであるけれども、歴史的な根拠で国後、択捉だけにするんだ、サンフランシスコ平和条約で何しろ全部放棄したんですからというような、すべて私の今まで言ってきたことを是認することになっているんですよ、あなたの答弁は。それより、先に御質問した、アメリカ政府が国後、択捉の要求というものはしても構わないけれども成功することは恐らくあるまいと思うという回答をしたことが事実かどうか、これを答えていただきたい。
  103. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 当時、重光外務大臣が対米照会につきまして衆議院外務委員会でもって御説明をしておられますけれども、その中では、長いのでこれを読み上げることは避けますけれども、米側の回答だけ申し上げれば、ヤルタにおいてはクリル諸島の地理的定義が下されたことはなく、また国後、択捉両島の歴史について論議が行われたこともない。ヤルタ協定は、同協定に表明された諸目標を最終的に決定したものではなく、いかなる地域についてもこれに対する権原を移す目的、または効果を有したものでもない。ヤルタ協定の当事国が以前にロシア領でなかったいずれかの地域をソ連に領有させることを意図したという記録はない。  これが一でございます。  そして二で、クリル諸島については平和条約中にもサンフランシスコ会議の議事録中にも何らの定義がくだされなかった。クリル諸島の定義についてのすべての紛争は、平和条約第二十二条の定めるところに従って、国際司法裁判所に付託することができるというのが米国の見解であるとの回答を受け取った。こういうふうに答えておられます。したがいまして、先ほど先生から御指摘がありましたような、そのような企ては成功する見込みはあるまい云々ということは当時の記録にはございません。
  104. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、それがそもそも事実を私どもとしては隠していると見ているわけです。今あなたがおっしゃったのは、アメリカの国務省から次のような回答がもたらされたと松本さんが言っておられる一項と二項なんですね。三項というのが抜けているんです。この三項が大事なんです。三項はそれじゃあなた方ないとおっしゃるのか、松本さんがうそついているとおっしゃるのか、どうです。
  105. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 松本俊一氏は我々の尊敬すべき大先輩でございますけれども、後に回顧録にお書きになりました本の記述につきましては、私どもがこれをオーソライズと言うのは変ですけれども、それを認めるというふうな立場にはございません。
  106. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そもそも我々は司法官を経験してきておるわけだ。裁判が正確なためには、証人が真実を述べなきゃいかぬ。その真実を述べるというのは、単に積極的に真実と思ったことを言うだけじゃなくて、何事も隠さないということが大事なんですね。あなた方は、この回答を我々に資料として提出してもらいたいということも、それは秘密だと言って示さない。そして、松本さんの本には、今言ったように、三項についての回答があったことに触れている。だから、もしその辺があなた方の主張どおりなら、アメリカ政府の回答を我々に示してそれが一項と二項だけならいいけれども、松本さんのような権威あるあなた方の大先輩、しかもこのとき全権だったでしょう。それで述べていらっしゃることが全然ないというようなことが了承できるだろうか。普通では考えられぬことだね。
  107. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 私が申し上げましたのは、公的な場で重光外務大臣が本件につきまして公式にお答え申し上げました内容でございまして、その松本俊一氏が書かれました回顧録のようなものは、これは公的な文書というわけにはいかないのであろうと、そういうことを申し上げた次第でございます。
  108. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これはやはりあなた方が、自己の都合の悪いことは隠していらっしゃると断ぜざるを得ないわけなんです。  アメリカ政府は、この事件においては択捉、国後は千島列島の一部ではないという理由で、日本返還するようソ連に説くことには反対はしないと。しかし、「この企てが成功することはあるまいと思う。」と言っておることがこの松本さんのあれに書いてある。この松本さんが虚偽な事実を書いたというふうには到底考えられない。したがって、アメリカ政府の意向というのは、サンフランシスコ平和条約の後でもやはり日本主張というものを是認する立場にはまだなかった。ところが、鳩山さんが訪ソして、重光さんと松本さんと三人の全権が日ソ平和条約交渉に入ると、アメリカ政府考え方がだんだんと変化してきて、ダレス国務長官は重光外務大臣に対して当時圧力をかけた、この条約を結ぶべきでないと。歯舞、色丹だけで平和条約を結ぶというようなことになれば、アメリカは、沖縄は返さぬぞという、もうこれは恫喝だ、そういうことをしたということが松本さんのあれに書いてある。そこからアメリカ政府の態度ががらっと変わってきた。そして、国後、択捉に対する日本主張はサポートすると言い出した。それは明らかに日ソを対立させて、一朝有事の際には日本に軍事的な役割を担わせようとするアメリカの世界戦略なんだ。だから、今、日ソ平和条約の問題はアメリカの世界戦略の上に乗らされてしまった。どうです。
  109. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) ただいま先生が御指摘になりましたさまざまなことは私も御指摘のような本の中で読んだことがございます。国際政治一つの側面を示すものとして興味深くそういう部分は読んだことがございます。  しかしながら、この北方四島に関します我が国立場というものは、そういう経緯が何であれ、ともかく我が国一つの歴史的な使命としてAの国がどう言った、Bの国がどう言ったということとは切り離して一つの大きな歴史的課題として達成していくべき問題である。そのためには先ほど来お答え申し上げておりますように、我々はこの四島というものほかってどこの国にも属していたことがないという事実、それから法的には先ほど申し上げましたような帝政ロシアですらそれを認めていたというそういうことの上に立脚いたしまして、一貫してその立場を貫くべきであるというふうに考えております。
  110. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣にお伺いしますが、松本俊一さんの「モスクワにかける虹」はお読みになりましたか。
  111. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 一度読んだことはあります。
  112. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 今局長から御答弁がありましたように、重光さんは一たんは歯舞、色丹の返還日ソ平和条約を結ぼうという決意をなさったようです。ところが、ダレスの方から非常な圧力があって、そんなことをしたら沖縄は返さぬぞという恫喝を受けて大変怒ったことがこの著書に書かれております。そのころからアメリカの態度が急に国後、択捉に対する日本主張のサポートに変わってきておる。そういう文書が一九五六年から出始めました。これは明らかに東西の対立を背景に日本とソビエトとをいつまでも無条約のまま置いて対立させていくことがアメリカの世界戦略にかなうゆえんだと。それはアメリカの戦略的な一環としてもとらえられていることだと私は思うんですが、大臣はどうお考えでしょう。
  113. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いろいろと歴史的な文書から確かにアメリカの対ソ関係というのが冷戦時代に入って変化を示す、この事実なんかも出ていることは、これは歴史的にも明らかでありますし、また日ソ交渉の中で確かに重光さんが歯舞、色丹で合意しようとしたこともこれも歴史の中で明らかになっておるわけですが、これで決着しなかったのは、むしろ私は日本国内の政治的な大きな変化といいますか、圧力といいますか、そういうものが背景にあったんじゃないかと思います。アメリカが戦略的にどういうふうな形で進んでいったかというのは、それはアメリカ自身の問題ですが、少なくとも私は日ソ交渉に関する限り、特に領土問題に関する限りは、日本政府としての主張は、やはり終始一貫をしておったんじゃないか、こういうふうに思います。  すなわち、北方四島につきましてはこれは固有の領土である、歴史的にも法律的にも日本の領土として返還を求めなければならないという日本姿勢は一貫して変わらなかったし、今日に至るまでも変わらない、こういうことでありますし、いろいろと客観情勢の変化はありますけれども、日本立場は私は不動の立場で今日まで貫かれておる、こういうふうに思っております。
  114. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣と私とは考え方が違うことはやむを得ません。私は法律的な正当性は、つまり国後、択捉が千島列島に含まれないという主張は、法律的な正当性は一切持っておらないと考えておるわけです。そこが大臣と違うわけですが、ともあれ、この今の主張日ソ平和条約の締結の条件とする限りは、これは平和条約は私はできないと思います。これは今のアメリカ政府も「この企てが成功することはあるまいと思う。」という見解、回答を一九五五年の十月にもたらしたという松本さんのこの記述からも明らかでありますし、私自身がかつて本会議で質問したんですが、ソ連に行きましてソ連の共産党中央委員会の国際部副部長のコワレンコ氏と二時間にわたって大激論して、私はやっぱり日本立場主張しますからね、大変な激論になったんですが、しかし彼はこういう紙に、第二次大戦で決まった国境というものはこれは変えるわけにはいかないんだと。国後、択捉というようなもの、この一番右下の端のところですね、例えば国後、択捉、これが破られればやっぱり全体に影響が出てくるんだ、だからそれは絶対に承諾しがたい、第二次大戦で決まった国境線は守らなきゃいかぬのだ、これが世界平和のかぎなんだというような主張をかたくなに維持した。  そういういろんな体験、それからまた日本も吉田さんにしろ西村さんにしろ、それからアメリカにしろ既に南千島、北千島という呼称を用いておる。フランス政府も、その当時日本政府に対して、日本の代表がサンフランシスコ条約で北千島、南千島という呼称を使っているじゃないかということで、アメリカ政府の意向には従うことはできないという回答をよこしたようですね。それからイギリス政府も、ヤルタ協定に関するアメリカの考え方には同意できない、ヤルタ協定のインテンションについてアメリカと同調できないということを回答したとこの松本さんは言っているようですが、そういういろんなことを考えて、これを平和条約の条件とする限りは私は何ぼ安倍さんが大変な御努力をなさってもこれはもう無理だと思います。また、安倍さんが将来どういう地位におつきになるかわかりませんが、そのときにどういう御努力をなさってもこれはできないと思いますよ。どうでしょう、できると思われますか、あなた。
  115. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 確かにこれは大変困難な交渉だと思います。そう簡単に決着がつくとは私も思っておりません。既にもう戦後今日までたっておる、国交が回復されましてから三十年もたっておるわけでありますし、そして今私自身外相会談で領土問題を直接ソ連外相と論議しましても非常にやはり難しいという感じは身をもって感じておるわけでありますが、しかしソ連の態度、姿勢というものも必ずしも私は一貫してはいないと思うんですね。例えば松本・グロムイコ書簡なんかを見ておりますと、領土問題については当時のグロムイコ次官から松本全権に対して、ソ連政府は、上記の日本政府の見解を了承し、両国間の正常な外交関係が再開せられた後、領土問題をも含む平和条約締結に関する交渉を継続することに同意することを言明しますと、こういうこともあったわけでありますし、その後の共同宣言、さらにフルシチョフ書簡とか、また田中・ブレジネフ共同声明といったような事態、いろいろと変化の中で、ソ連が、領土問題は解決済みであるとか、領土問題は日ソ間にはないとか、そういうことを言ってまいりました。  テーブルにも着かないというのが今度は着いたという経緯もありまして、確かにソ連の今の姿勢はこれまでと変わらないということを言っておりますし、非常に厳しい姿勢ではありますけれども、しかし、この三十年の期間の間にもいろいろとソ連自身のやはり領土問題に対する変化というものも出ておるわけでございますし、私は、今後とも日本自身としてはこれはもう不動の姿勢としてこれに取り組んでいくわけでございますし、何としてもこれを解決して平和条約を締結するというのが日本外交の基本ですから、これを踏まえて粘り強くやっていくことによって道が開ける可能性も私はある。  全くこれは困難ではありましょうが、決して不可能な道ではない。幸いにして、アメリカもあるいはまた中国も、最近の、私自身が中国の外相、アメリカの国務長官から聞いた限りにおきましては、ソ連に対しまして二国間の会談で堂々とこの北方四島問題を持ち出して、日本に返すべきであるということを主張されたということでありますし、国際的な世論もそういう意味では日本を支持するという状況が強くなってきておるというふうに思っております。大変厳しいとは思っておりますけれども、とにかく全力を尽くさなきゃならない、こういうふうに思うわけです。
  116. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 サンフランシスコ平和条約の二十二条でしたかね、国際紛争は国際司法裁判所の裁定にゆだねるということが規定されていますね。ソ連がサンスランシスコ平和条約参加していないものですから、この二十二条でしたか、これはストレートには適用はありませんけれども、しかし国際司法裁判所に提訴することをソ連にやはり慫慂するということはあってもいいんじゃないでしょうかね。かってそういう試みをしたことがあるんでしょうか。それからまた、将来そういうようなお考えがあるかどうか、ちょっと伺いたいんですが。
  117. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 寺田委員が御指摘になりましたように、桑港条約第二十二条には、この条約の解釈についての問題は国際司法裁判所に付託することになっておりますが、ソ連は当事国ではございませんのでこれによって問題を国際司法裁判所に提起することはできない、こういうことになっておるわけでございます。  そこで、そういうことを離れまして、一般にこの問題をソ連との関係において国際司法裁判所の判断を求めたらいいではないかという点につきましては、私どもも基本的にはこれは条約の解釈の問題という法的な問題でございますから、国際司法裁判所に付託することが適当であろうと考えて、ソ連側に対してそういうことを打診をしたことがあったというふうに記憶をしております。しかし、御承知のとおり国際司法裁判所は強制管轄権を自動的に持っているわけじゃございませんし、ソ連は裁判所の管轄権を受諾しておりませんので、ソ連の同意なくしてこの問題を裁判にかけることはできないわけでございまして、ソ連側がこれに対して応じないという状況で今日まで至っておると、こういうことでございます。ちなみにこの打診をいたしましたのは昭和四十七年のことでございます。当時の大平外務大臣からグロムイコに対してこの問題を提起したのに対して、グロムイコ外務大臣はこれに応ずる考えはないということを明確に述べたという経緯がございます。
  118. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その後客観情勢も変わっておりますからね、大臣ソ連が応諾すればこれはいいわけですから、やっぱり御提案になったらどうでしょうか。
  119. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) かつて日本が正式に提案したこともありますし、これは主として日ソ間で協議によって解決したいというのが基本的な日本姿勢でございますが、しかし国際司法裁判所というところで堂々と争うということもそれなりに大きな意味を持つものでありましょうし、今後の課題として十分ひとつ検討さしていただきたいと思います。
  120. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 最後に国際的にどのようにこの問題が扱われておるかという点を調べるために、アメリカのセンターやイギリス大使館の広報部、それから日仏会館等へ行ってアメリカ、イギリス、それからフランスの地図を調べてみたんです。いずれもクリルアイランズの範囲をやはり国後、択捉の方にまで及ぼしているのが大部分のようですね。これはどうでしょうか、やはり諸外国では南千島、北千島という考え方が支配的なんじゃないかというふうに思うんですが、これはどういうふうに考えられますか。
  121. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 地図の問題は、ただいま御指摘のとおり、国によりまして扱い方がいろいろであるというのが現状でございます。北方四島を日本領土として明記しております国は、韓国、中国、西独、トルコというふうな幾つかの国でございまして、そのほか幾つかの国は、これを係争地域として書いておりますが、そのほかは事実上実態的にソ連の管轄下に置かれているということから、ソ連領のように扱っているものもございます。我々の方といたしましては、その総点検と申しますか、地図は極めて重要な問題でございますので、在外公館を通じましてその都度申し入れを行っているわけでございますけれども、地図というものはそれぞれの出版会社がそれぞれの方針に基づいてつくっているということがあることが一つと、それから、地図を改訂いたしますのは何年に一回しかできないということがございまして、方針としては日本側の言い分を了解しても、それがにわかには変わらないということもございます。  しかしながら、最近の事例といたしまして、非常に我々にとっては心強い動きといたしましては、米国が、これから、米国の公式の地図につきましては、一九四五年以来ソ連が占領、日本が領有権を主張という注記を必ずつけて、それで、北方四島につきましては、これは斜線を交差させた印をつけるということにした。同じ態度を、米国の、地図事典と申すのでございましょうか、地名事典という、各出版社が参考とする文書の中でもそれをとるということに最近なりました。したがいまして、徐々にそういう考え方が広がっていくことを我々は期待しております。
  122. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 またほかに質問があるんですが、疲れましたし、時間がないので、これでほかの質問は放棄します。
  123. 宮澤弘

    ○理事(宮澤弘君) 午前の質疑はこの程度にとどめ、午後一時三十分まで休憩いたします。    午後零時三十三分休憩      —————・—————    午後一時三十分開会
  124. 最上進

    委員長最上進君) ただいまから外務委員会を再開いたします。  委員異動について御報告をいたします。  ただいま、寺田熊雄君が委員辞任され、その補欠として秋山長造君が選任されました。     —————————————
  125. 最上進

    委員長最上進君) 休憩前に引き続き、昭和六十一年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算中、外務省所管議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  126. 中村哲

    中村哲君 ちょうど一年前、この外務委員会に特別に出していただきまして、ユネスコをイギリスが脱退するかどうかという直前でありまして、日本もそういう機運の中にあるように見えましたので、安倍外務大臣日本は決してユネスコから手を引かないようにということを要請しましたので、私がこの委員会に出てくる意味は、ユネスコを脱退してなければこれで昨年の国際関係のこととしては最悪の状態を避け得た、こういうふうに思ったわけです。その後、ユネスコについては、先に既に手続をとっておりましたアメリカが脱退し、それから英国は条件を出しておりましたけれども、ペンディングの形をとっておりました。しかし、これも、脱退を差し控えてもらいたいと思いましたけれども、よその国のことでありますから。少なくとも日本があの大戦の渦中から立ち上がって新しい民主主義と平和の決意をした、その主役を務めた国としてこのユネスコの線及び国連というものを中心として国際問題のいろいろ困難なことがあってもそれを解決していく、こういう線をどうか安倍外相に辛抱強く探求してほしい、こういうことを当時要請したわけなんです。  むしろ、英国が脱退することになってもそのかわりに日本が主役になってユネスコをリードしていくというような方向にあると考えていたわけです。これは殊に昨年二月に欧州評議会に議員の一人として、オブザーバー国の一員として出席しましたときに、帰りがけにパリに出ましてユネスコ関係の人、殊に当時渦中にあったムボウ事務局長と一時間余り話す機会ができまして、そして彼としても、いろいろ問題もあり、自分たちの方でも考え直さなければならないことがあるけれども、どうか日本の積極的な努力を願いたいんだということでありまして、私は昨年はムボウさんのことも言いませんでした。しかし、その後ムボウさんは万博のときに来て安倍さんに会っているようで、そのとき多少安倍さんは話をされましたですか。そのことだけちょっと。
  127. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) ユネスコにつきましては、これはいろいろと問題もありまして、御承知のようにアメリカが脱退する、イギリスも脱退するというふうな状況が相次ぎまして、いわばひとつの危機的な状況を迎えていたわけでありますが、そういう中で日本としましては、できるだけ残って、そしてやっぱり改革をしなきゃならぬという基本方針のもとに取り組んだわけでありまして、昨年秋のユネスコの総会では、予算につきましてもいろいろな面で節約を進めましたし、また事業計画の一部改善であるとか改革の監視に当たる特別委員会の設置等の成果を上げられたと思いますが、なお、この事務局の改革であるとか事業内容の一層の改善等ユネスコの改革に残された課題は多いわけです。  そういう中で、我が国は今やこのユネスコに対する最大の分担金拠出国となりました。また改革監視特別委員会のメンバーに選出されたこともありまして、今後とも志を同じくする諸国とともにユネスコの一層の改革のために努力するとともに、ユネスコの健全な発展のために協力していく考えでありまして、ムボウさんともこれまで何回か会いまして私もそうした日本側の意思を伝えまして、ムボウさんがひとつ中心となってこのユネスコの改革をやっていただきたいということを強く主張をいたしたわけでございます。
  128. 中村哲

    中村哲君 私非常に心配しましたのは、一昨年の終わりでありましたか、アメリカの国際機構を担当しているニューウェル国務次官補が日本にやってきまして、それでシンガポールでアジアの集会をしておりまして、しかるべき関係のお役人等が出ておりまして、このニューウェルさんは日本では余り詳しく伝えておりませんでしたけれども、ジュネーブだとかあるいは西独なんかの新聞を見ますと、脱退のための工作をしている人だということが非常に明らかでありまして、その人が日本にやってきていて種々工作しているということで、それで私は非常に心配したんですが、昨年夏にエセックス大学での政治関係のシンポジウムがありまして、その機会にユネスコに立ち寄りましたらば、ニューウェル氏は外交官としてどこかの大使になって出たと、こういうことを聞きましたので、アメリカも多少ニューウェル氏の行き過ぎというのか、方向を転換するのかというような感じを私は受けました。  それで、このユネスコ問題というのは、新聞ですと割合にムボウさんの個人的なやり方、ボス的なやり方、殊にアフリカ、セネガルの出身でありますので、セネガル式なやり方がユネスコに持ち込まれたりして、そして人事が膨張してしまったというようなこと、それから当時はユネスコの本館がパリで焼けまして、これは春に行ったときと夏も大体そのままになっておりましたけれども、これも何のためにどうしてあそこが焼けたのか新聞を見ますと、ユネスコの幹部が都合が悪いんで、アメリカからのいろいろな調査が入ることを前にしてああいう火災を起こしたように書く新聞がありましたけれども、実際聞いてみますと、そういうことでは全然ない、失火のようでありました。そういうことなどありましたので、当時このユネスコ問題非常に心配したわけです。  しかし、ユネスコ問題はそういう行政改革をしなきゃならないとか、ムボウ氏個人が近代化されていない政治家であるために各国の意思を代表しないとかこういう問題じゃなくて、実際にはユネスコに代表されて来ておりますいわゆる第三世界の国々、この第三世界と言っていいかどうか知りませんけれども、新聞じゃ第三世界と書いておりますから言うんですが、そういう最近のアフリカその他の国々、こういう国々の発言が非常に強くなり、そしてその背景にはソビエトがいろんな形で支援しようとしている。そのことに対するアメリカから見たユネスコ観というものがあるようで、これはそのときの国際情勢としてはそういうことがあるとしても、この前ここでも申しましたように、それはユネスコの問題であるし、同時にその力関係というものは国連の問題なんで、ユネスコの場合にはあそこであまりに平和の問題やらそういう政治的な問題が言われ過ぎる、こう言っておりましたが、また国連でもやはりそれを言われている。そして国連に対して昨年の十一月でしたか、アメリカは国連に対する予算の支出を削る、こういうことをアメリカの下院で決めたということがありました。  しかしユネスコとか国連というものをそのときの政治関係で判断するというのは、私はこれは第二次大戦後せっかくこういうふうな大きな決意のもとで戦争の反省から出発した国際会議というものは、これを盛り立てていかなきゃならないもので、国際的には国連、それから国内的にはやはり国会である、こういうふうに私は終戦初期から言っているわけであります。  それでいろいろお聞きしたいこともあるんですが、それはまた聞きますけれども、一言このユネスコの精神というものをここで確認しておく必要がある、こう思いますので、そのことだけは言っておきたいと思うんです。  このユネスコの前文ははっきりと戦争が人間の心の中から、心といってもただ物理的な心じゃなくて、これはマインドという言葉を使っていますから人間の決意によってそしてこの平和を守っていかなきゃならないものだ。日本文では心と言っていますけれども、マインドというと人間の決意、行動、こういう主体的な努力によってユネスコを平和のとりでとしていかなきゃならないと、こういう意味のことを言っているわけで、このことがユネスコの精神であるわけです。そして、あの第二次大戦が国と国との、あるいは民族と言ってもいいかもしれませんが、そういうところの衝突であったのに対して、人類ということを強く打ち出した。これは国連が採用しました世界人権宣言とか、あの戦争後に打ち出したものは、人類という意味での普遍主義、このことが日本憲法の中にも入ってくるし、それからまた教育基本法の中にも入ってくる、このことの再確認がやはり今必要なんだ、こういうことを考えるものですから、ユネスコはただ学芸文化のことだということであっても、これを手がかりにやはり国際主義、普遍主義そして人類全体の共通の幸福あるいは平和、こういうことの自覚が現在必要だ、こういうふうに思っているんであります。  中曽根首相が国連に対して国内でやった行政改革と同じような口調で行政改革が必要だと、ちょうどユネスコに対してもそういうことが言われていたわけだけれども、そんな小さな問題じゃなくて、私ども戦前の大正デモクラシーの時代も知っているし、満州事変から戦争にだんだん入っていき、その中で学生生活もし、国立大学の憲法の教授を八年間やっておりまして、まさにこういう戦争等の問題に正面から取り組んでおりました者として、その上学徒出陣の人たちと違って、学生たちは学徒出陣で出ていきましたけれども、私どもは戦場に引っ張り出されましたけれども、実戦をやったわけでありまして、そういう経験の中から、このユネスコや国連が言っている平和とか人類とか普遍主義、こういうものこそ、そういうことの惨禍の中でそれぞれの反省で出てきたことを実感を持って感ずるんです。  だんだん時代が変わってきたものですから、何か一昔前の話をしているような印象を受けるかもしれませんが、そういう意味で国連のこの普遍主義というものこそを守ることが必要だと思うんですが、この点安倍さん、一言お願いします。
  129. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 国連につきましては、一九四五年の創設以来世界の平和と安全の維持及び諸国民の福祉の向上のための国際協力の促進を図る普遍的な国際機構として着実な発展を遂げてきておる、こういうふうに思っております。今日その活動分野は、平和と安全の維持、軍縮、援助、貿易、社会、人権、環境、科学技術等極めて多岐にわたり、これらの分野において国際社会が直面している諸問題の解決のための国際協力の場としてますます重要な役割を果たしてきておると思います。  我が国は、平和に徹し、軍事大国にならないという基本的な立場に立って積極的に世界の平和と繁栄に貢献していくことを外交の基本方針といたしておりますし、その意味で国連外交は重要な一環でございます。我が国としては、国連に対し今御意見もございましていろいろと批判があることは十分承知しているわけでございますが、現在の世界が直面している諸問題を国際協力によって解決するために国連が果たしている重要な役割にかんがみまして、我が国の国際的地位、国力にふさわしい国際的責任を遂行するために今後とも国連に対する協力を積極的に推進していかなければならない、こういうふうに考えておるわけでございます。  以上が我が政府の、また私自身の国連に対する基本的な考え方であります。
  130. 中村哲

    中村哲君 東京サミットが開かれるわけですけれども、このところレーガン・中曽根ライン、さらにサッチャーというようなところが強く印象づけられておりますけれども、しかしこのユネスコ問題で、私たまたま英国の議事録を見ますと、イギリス労働党は全然脱退のことは考えていない。そして、政変が今後ある場合にサッチャーが出てくることはなくて、大佐言われているのはキノックであります。ただ、世論調査ではキノックの労働党よりも、労働党から脱退した社会民主主義、ドイツ流のいわゆる社会民主主義というか、バート・ゴーデスベルク以後の社会民主主義を正面から掲げて、それと自由党とのアライアンスを組んでいる、これが何か評判としては第一のようで、第二が労働党と言うけれども、自由党というものは、小選挙区でありますから実際は労働党の中に、自由党の声が反映されているようで、結局サッチャーにかわればやはり労働党が出ていくものだと、既にもううわさされているわけであります。  そういう中で、これからの何年間、世界政治は行われるのでありまして、先ほど申しましたように、欧州評議会に出ましても、これは各国の議会単位で個人投票で代表者が出てくるんですが、一番数の多いのが社会党なんです。その次がカトリック党、それから保守党、それから共産党と、こういうふうになっておりまして、欧州評議会といってもいろんな人が関係しているわけだし、また欧州における社会党の力というのは相当強い。イギリスの場合には、相当はっきりとそういう方向をとりそうでありますので、そういう中で次の日本の政権も登場することになりますので、今までやってきたようなレーガン・中曽根ラインという形だけでやろうとすると、これは世界の論調に合わないであろうと思うんです。これはお答え願わなくてもいいけれども、私はそう思うものですから、安倍外相の国際的ないろんな努力を一層お願いするわけです。  殊に、安倍さんは二、三年前でありましたか、イラン、イラクの間で双方から紛争の調停を依頼されたように新聞は伝えておりましたけれども、この点はその後どうなってるんですか。
  131. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) イラン・イラク問題につきましては、私も外務大臣になりましてからいわば一つの情熱を持って、何とかこのイラン・イラク戦争の平和解決への環境づくりをしたい。日本立場から言いましても、ある意味においては適格者である、こういうふうに思って積極的なアプローチをいたし、イラン、イラク両国を訪問もいたしましたし、そしてその後イラン、イラク両国の首脳外務大臣の皆さんとは平和問題について突っ込んだ話をして今日に至っております。  おかげさまで、イラン、イラク両国とも政治的パイプは確立して、そしてまた日本がイラン・イラク戦争の平和解決に向かっての全く純粋な情熱、気持ちを持っておるということは両国とも非常に理解をしておりまして、比較的信頼関係の中で話を進めております。なかなか、戦争そのものは依然として厳しい状況にありますけれども、いろいろとしかし変化の兆しも見えておるようでありますし、また日本に対する平和解決に向かっての環境づくりのためのいろんな働きかけといいますか、日本もまた積極的に働きかけて今日に至っておりますし、私はこれまでの努力は決してむだにはならないと思っております。今後ともこの努力が結実するように、今一番大事なときじゃないかと思っておりますので、ひとつ懸命に頑張ってみたい、こういうふうに考えておるわけであります。
  132. 中村哲

    中村哲君 先ほど申しましたように、ユネスコに出ている問題というのはユネスコだけの問題でなく、同時にそれは国連も共通しているわけでありまして、その国連の中にいわゆる第三世界の発言が非常に強くなっているということ、これは現実の今の世界がそうなんでありまして、その中で日本がどういう発言をしていくかということであります。安保条約というものはあるとしましても、日本が国際的に主導権を持ってやっていくのは、やはり戦争直後に吉田首相自身も発言し、私の直接の先生である南原先生も同じように言われたりした文化国家であります。そういう意味で、このユネスコを中心とした文化国家としての日本というものを強く今後経済的な背景を裏づけとして進めるということが、これが戦後の我々の悲願でありましたけれども、悲願でなくてそういう方向で実際は進み得るのじゃないかというふうに思いますので、そういう何か日本がエコノミックアニマルだというふうに言われることを払拭する意味でも、文化的なあるいは科学的なそういう方面に日本の英知を、日本の知恵を集めて、それを国際的に発揮する、こういう方向をどうか打ち出していただきたい、こういうふうに思います。その点、特に何かあれば。
  133. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 我が国文化国家、平和国家として戦後一貫して進んできておることは御承知のとおりでありますし、今後ともそうした日本としての基本的な方向を失ってはならない、こういうふうに考えておるわけであります。特に、いわゆる国際的な枠組みを重んじていくということは日本にとって非常に大事なことじゃないか。ですから、国連に対する日本参加がおくれましたけれども、しかし、戦後のあの敗戦といいますか、第二次大戦終結後生まれた国際連合というのが世界の平和と発展のために、いろいろと批判はありながらもそれなりの役割を果たしてきておりますし、その一つの機関としてのユネスコはユネスコなりの文化、教育面での国際的な活動一つの成果も上げてきている。やっぱりそうした活動、枠組みというものを支援していくことによって日本がこれからさらに文化国家、平和国家としての道を進んでいく上においては非常に結びつきというのは大事じゃないか、私自身はそういうふうに考えております。したがって、国連を尊重しながら今後とも日本の道を開いていかなきゃならない、進んでいかなきゃならない、こういうふうに思っております。
  134. 中村哲

    中村哲君 イラン、イラクがなかなか簡単に解決しないようなところがありますけれども、しかし、こういう中近東に日本政治家が発言し得るというのは、あの中近東は回教でありまして、この回教というか、そういうアラブの宗教というものはナショナルな宗教ではないんでありまして、この点が救いであって、あのコーランを見ましても、コーランの中には十数カ所キリストの名が出てきます。これはマホメットがバイブルを見た上でああいう新宗教をつくりましたから、その意味でキリスト教にあるような普遍性というものを意外に持っているんでありまして、それを見忘れてはならないと思う。それで、その前のキリスト教、それからキリストの出てくる前のユダヤ教、こういうものが一貫して普遍宗教である。つまり、人類宗教であるという要素を持っているということ。  それから、それはインドの場合は、ヒンズー教というのはインド教ということでありますからナショナルなものだが、仏教というものはこの民族宗教に反対して出てきた普遍宗教であります。こういうものと自然に接近し得る、受け入れやすい体質を持っている日本、こういう日本がこだわりなく世界全体の人類の平和のために果たしやすい性格を持っておる、こういうふうに私は思うわけです。ですから、きょうは本当は国際交流のことをお聞きしようとは思っていたし、多少はお聞きしようとは思いますけれども、国際交流と日本で言っているのは、日本文化を外に出す、殊に日本の歴史……
  135. 最上進

    委員長最上進君) 中村君、時間になります。
  136. 中村哲

    中村哲君 歴史的なものを外に紹介したり、出すということだけれども、そうじゃなくて、日本自身が戦後の憲法、あるいは戦後の我々が民主主義と言っているようなものが、つまり人類の文化というもの、そういうものを日本が吸収して、そして世界的に日本人の積極さで貢献していこうという、それはまさに……
  137. 最上進

    委員長最上進君) 中村君、時間になりますのでまとめてください。
  138. 中村哲

    中村哲君 まさにそれは、国連あるいはユネスコ等を通じて——日本文化のあり方が国際性を持ち得る性格を持っておりますので、ただ日本の歴史的なものを御紹介する、いわゆるヤパノロギーとかヤパノロジーとか言っている日本学ではなくて、現在でも国際交流の中にもっと世界文化を吸収していくという方向を強化していかれることを希望する次第です。  国際交流会館のこともお聞きしようと思いましたけれども、これは私本来文教委員会に属しておりますので文教委員会で文相その他にお聞きしたいと思います。
  139. 和田教美

    ○和田教美君 フィリピン円借款をめぐるいわゆるマルコス疑惑については私はきのう予算委員会の集中審議で取り上げましたので、きょうは予算の委嘱審査ですから外務省予算を中心にお聞きをしたいと思うんですけれども、新しい情報もございますから、このいわゆるマルコス疑惑について二、三まず冒頭にお聞きしたいと思います。  きのうの予算委員会で、アジア局長は私の質問に答えて、フィリピンに対して現段階ではいわゆるリベート関係などに関するフィリピンのアキノ新政権が押さえておるマルコス時代の文書について新しくそれを提供しろということを求める考えはないという答弁がございました。  ところが、これはきょうの朝日新聞ですけれども、朝日新聞の特派員がラウレル副大統領、これは外務大臣も兼任しているわけなんですけれども、それと会見した記事が出ております。それによりますと、「対フィリピン円借款に絡む日本企業とマルコス前大統領の手数料疑惑に関連して、日本政府が必要とすればフィリピン側資料を引き渡す用意がある、と言明」したというふうに報道されております。フィリピン側が渡すと外務大臣が言っておるわけですから、もちろん真相究明ということから見ればこの資料は非常に貴重だと思うんですが、これをそれじゃひとつ渡してほしいと当然要求すべきだと思うんですけれども、まずこれは政治的な問題だと思いますから外務大臣のお答えを願いたいと思います。
  140. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) フィリピンの要人がこうした発言を行ったということは承知をしておりますが、その詳細につきましてはまだキャッチしておりませんので直接今ストレートにお答えするのは差し控えたいと思います。  なお、我が国の援助に関連して種々の支払いが行われたとされる問題については、我が国としても事実関係の把握に努めておるところでありまして、フィリピン側からも関係資料が公表される場合には我が方としてもこれを入手して、我が方による事実関係の把握に活用してまいりたいと思っておるわけでございます。  特に比政府に対しまして資料の提供を求めるという考え方は現段階においては持ってはおりません。
  141. 和田教美

    ○和田教美君 それは非常に納得できないわけでございます。  私がなぜフィリピンの持っている資料が重要だというふうに考えるかという点について申し上げたいんですが、アメリカの下院から提供されましたいわゆるマルコス文書の資料というものは、これは既にもう公表されているわけなんですが、日本関係について、特にリベート関係について言えば一九七七年までの、円借款年次で言えば第五次円借款、これまでの資料が大部分でございます。それ以後の新しい資料は出ていないわけです。しかも、この間のアジア局長の答弁だったと思いますけれども、アメリカに問い合わせたところ、アメリカが未公表の持っておる資料、この中には日本関係は入っていないという答えであったということでございます。そうなると、それ以後の、つまり第五次以後の、第六次円借款から第十二次に至るまでの円借款に絡むいろんな文書というものは、あるとすればマルコス前大統額がフィリピンに残していった資料、つまりアキノ新政権が現在押さえている文書その他の資料の中にあるというふうに判定せざるを得ないわけでございます。それだけにこのフィリピンの持っている資料というものは非常に真相究明という立場から見れば重要だと思うわけでございますが、日本政府としては今その資料を必要としないと。なぜ必要としないのか、その理由をはっきりおっしゃっていただきたいと思います。
  142. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) ただいま外務大臣からの御答弁がございましたように、現在のところ私どもといたしましては事実関係の把握に努めているというところでございまして、特にフィリピンに対して資料の提供を求めるというつもりはございません。  また、報道されておりますラウレル副大統領の御発言につきましても、どのようなコンテクストの中で正確にどういう御発言であったかということは私どもも承知しておりませんので、報道を承知しているのみでございますので、直接私どもからコメント申し上げるという立場にはございません。
  143. 和田教美

    ○和田教美君 このお答えも非常におかしいわけで、これだけ重大な問題に国内でもなっているときに、一新聞が書いたからといってこれは信用できないと、我々の立場としてコメントできないということでほっぽり出すような性質の問題ではないと思うので、少なくともそういう報道がある。この報道だけではなくて、民社党の委員長がサロンガ委員会の委員長代行に会ったときも、必要とあれば資料を日本の国会に出してもいいというふうなことを言っておる。つまり、フィリピン側の状況から見れば資料提供を拒否するような雰囲気は全くないということがこれで判定できるわけでございますから、少なくとも即刻大使館からフイリピンの外務省考え方というのを積極的に確かめるべきである、そして向こうが喜んで応じるというのであれば資料を要求するというのは当然ではないかと政治的な問題のまずやらなければならないことではないかと思うんですが、重ねて外務大臣のお答えを願いたいと思います。
  144. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 外務大臣経済協力局長からお答えしたことを多少補足して御説明して御理解をいただきたいと思います。  まず第一点として、フィリピン側の要人がその種の発言をされたということについては、今正確にどういう発言であったのかということについて承知しておりませんので、それをもう少し正確に知る必要があるということを第一点として申し上げたわけで、この点は御理解いただきたいと思います。  第二点として、じゃ、一般論として、フィリピン側に対してそういう資料要求をするかというお尋ねだと思いますが、この件につきましてはこの委員会で前に私からも御答弁申し上げたと思いますが、現在問題になっておりますいわゆるマルコス関連の問題というのはいろいろな側面を持っているわけでございます。外務省として、第一義的に責任を持たなければならない問題と申しますのは経済協力が適正に実施されておるかと、こういう観点でございます。  他方、そういう問題とは別に、例えばフィリピンの国内においてフィリピン国内法違反の事実があったのかどうかというような問題、あるいは我が国におきまして、我が国の法律の目から見てそれに反するような行為があったのかどうかという問題がまた別途あるわけでございます。  そこで、先般来お答えをしておりますのは、とりあえず我が方として調べなければならないことというのは、現在既に公表されて、いろいろな資料があるわけでございますので、それについて外務省立場からは、経済協力の適正執行という見地からいろいろとまだやらなければならないことがある、そういうことに今、現に従事をしておるのであって、事実関係の把握ということをまず力を入れてやりたい、こういうことをお答えしているわけでございます。  フィリピンの国内法違反という問題は、これはフィリピン側がしかるべき措置をとるべき問題であるし、さしあたり、我が方としてどうこうという問題ではございませんけれども、他方、我が国における法律違反の事実があったかどうかというような問題につきましては、御承知のとおり、我が国政府の中にそれぞれいろいろな関係部局があるわけでございますから、その関係部局が関心を持っておるということは予算委員会でも既に答弁があったわけでございます。そういう見地から、今後事態がさらに進んで、究明をしたいので必要な調査を行う事態が生ずるというようなことになってまいりますれば、これは政府政府関係において、どういうふうに処理をするかという手続その他のいろいろな問題が出てくると思います。  そういう問題を今排除してお答えをしておるわけではございませんけれども、現段階において、外務省としての立場からお答えをすれば、先ほど大臣がお答えをしたようなことになる、こういう趣旨でございます。
  145. 和田教美

    ○和田教美君 それではもう一度確認をいたしますけれども、国税庁あるいは通産省などは既に日本国内の問題として調査を始めておるわけです。そうして調査を始めて、今、局長のおっしゃった国内の問題ということで法律的に問題になる事態というのはまだ時効にかかっていない最近の問題ということになってくると思うんですけれども、そういう問題に発展をしていって、仮にほかの省庁からどうしてもこれは資料がほしいという要求があれば、外務省としてはそれを拒むものではない、こういうふうに理解をしていいわけですか。
  146. 小和田恒

    政府委員(小和田恒君) 今、具体化している点ではございませんので、一般論としてお答えしたいと思いますが、我が国で国内法に反する行為についての捜査等が行われまして、その過程で外国に対する協力要請の必要が生じてくるというような場合になりますときは、そのときの具体的な状況に応じて法律的な手続の問題を含め、政府全体としての決定をしなければならないということになるのであろうと思います。
  147. 和田教美

    ○和田教美君 次に、やはり円借款の問題ですけれども、去年の暮れに結んだ十三次円借款を含めまして、供与額は四千六百六十七億円になっております。これは借款ですから向こうはいずれ返さなきゃいかぬ、あるいは既に一部分は返している金でありますが、順調に借金を返すことが進んでおるのかどうか、その点をお聞きしたい。あるいはなかなか経済事情から返すのが難しくて、手形の借りかえのように新しい借款をまた与えてつないでおるということなのか。その内訳を、大体どれくらい返しておって、現在どのくらい、要するに借金が残っておるか、その点をお聞かせ願いたいと思います。
  148. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 御承知のとおり、フィリピンは経済的な困難ということに直面をいたしまして、債務の繰り延べ交渉というのが国際的に合意を見まして、我が国もそれに基づきまして債務の繰り延べを認めております。その繰り延べられたスケジュールに従ってフィリピンがきちんと返済をしてきております。繰り延べの以前、合意ができます以前も返済は順調であったということが申し上げられると思います。  ちなみに、円借款につきましての現在フィリピンが日本に負っております債務は約二千億円ぐらいかと承知しております。
  149. 和田教美

    ○和田教美君 二千億円まだ残っておるということですね。
  150. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 残っておると申しますか、当初供与いたしました条件に従いまして支払い猶予期間それから返済がそれぞれ何年目に幾らというふうに決まっておりますので、それを全部含めまして債務として、対日債務として残っておるものがその程度であろうということでございます。別に遅滞しているという意味ではございません。
  151. 和田教美

    ○和田教美君 なぜ私はそのことを申し上げるかというと、これまた外電でございますけれども、フィリピン側のモンソド経済計画相兼経済開発庁長官が、先日、リベートなどの水増し分についてはこれを除外して返済を考える。要するにそれだけ引いて返済をするということを考えておる。そういうことを、つまりその分については返済拒否ということを考えておると、あるいはまた借款協定に不誠実な点があったとしてすべての債務を帳消しにする、この二つが考えられるというふうに語ったという記事が、外電がございました。もしそういうことになってくると借金が返ってこないということにもなるわけでございまして、日本にとっては決して軽視できない問題だと思うのですが、そういうこととの関連で申し上げたのですが、その点はいかがですか。
  152. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 第一のモンソド経済開発庁長官の発言でございますが、これは報道によりますと、新華社の記者に対するインタビューでそういう発言があったということで外電で伝えられたわけでございます。  私どもも、発言の内容自体、かなり重要なことを言っておられる点にもかんがみまして、早速に在フィリピンの大使館に訓令を出しまして、この発言の詳細な発言ぶり、それからその真意等について照会するように努めております。  それから第二番目の問題といたしまして債務の継承の問題でございますけれども、このモンソド長官の発言は発言といたしまして、フィリピン側のその他の方々の発言等におきましても、前政府と申しますか、フィリピンの負っている債務というものは継承するという発言もございますし、私どもはそれはむしろ当然のことであるという立場に立っております。
  153. 和田教美

    ○和田教美君 それでは、質問を次に進めます。  まず、総理外務大臣の訪米についてお尋ねしたいと思います。  安倍外務大臣は十二日からの総理の訪米に同行されるわけですけれども、アメリカとはどのようなテーマを主として話し合ってくるつもりか。私の推測では五月の東京サミットをめぐるテーマが中心になると思うのですけれども、どういう問題を中心に話し合ってくるか、それをまずお答え願いたいと思います。
  154. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 十二日に発ちまして、総理とともにワシントンを訪問いたします。  二回にわたりまして首脳会談が行われる予定になっておりますが、今お話しのようにサミットも控えておりますし、日本が主宰国でありをすし、これを成功させなければならないという立場で意見の交換もしなければなりません。同時に、日米間には依然として貿易問題が横たわっております。大量の貿易の黒字、そういう日米貿易問題を今後どういうふうにとらえて解決をしていくか、これは日本だけの努力ではやっていけないわけで、アメリカの努力ということも必要でありましょう。そうした二国間の問題、あるいはまた通貨の問題もこれはサミット議題にもなるでしょうが、今日の円高というこういう状況の中で意見の交換というのもあり得ると思います。また、政治的な問題としては、米ソ首脳会談、米ソ関係の軍備管理、軍縮交渉の問題あるいはアジア情勢の問題等々、首脳が久しぶりに会うわけですから話題には事欠かないといいますか、相当広範にわたって、二国間だけでなくて世界の問題にわたっての意見の交換が行われる、こういうふうに考えております。  私もシュルツ長官との間では、今申し上げましたような観点で、二国間のみじゃなくて世界情勢等についても意見の交換をしたい、こういうふうに考えております。
  155. 和田教美

    ○和田教美君 いわゆる経済摩擦問題について松永駐米大使が、ちょっとしたきっかけで対日批判に火がつく心配があるというようなことを発言しているわけですけれども、一方、経済構造調整研究会、これが訪米に先立って報告書を提出するということになっておりますね。報道によりますと、この報告書は、経済摩擦を解消するため中長期的に内需主導型の経済成長を図って、輸出入、産業構造の抜本的な転換を推進していくことを提言するというふうなことが言われておりますが、こういう提言を受けて内需主導型の経済成長というふうな積極策を出されるのかもしれませんが、そういうことでどの程度アメリカの火を消すというか理解を求めることができるか、その辺の感触はいかがでございますか。
  156. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 日米間では、アクションプログラムを日本が進めることにいたしましたし、あるいはまたMOSSの協議等も一応決着も見たし、あるいはまた円・ドル関係もああいう形で是正をされてきておる、こういうことで全体的には非常に厳しいときに比べると多少空気は和やかになっている。しかし、そうはいっても農産物の問題もまだ残っている、あるいは日米航空交渉の問題も横たわっておる、漁業の問題等もありますし、それに同時に黒字が依然としてふえてきておる。こういうことで決して平穏無事だとは言えないわけで、議会は特に選挙をアメリカは控えておりますし、ですから何がきっかけになるかそれはわからぬというのが今の日米経済の状況から見れば当然のことだろうと、大使が憂えるのが私はわからぬ気持ちがしないわけではありません。  しかしそういう中で、日米両国ともこうした問題に火をつけて対立を起こすということじゃなくて、やはりお互いに協力関係をさらに進めて、むしろニューラウンドを推進していくということの方が大事じゃないかと思いますし、サミットを成功させるということも日米の一つの目標であろうと思うわけで、そういう点でいろいろと建設的な話し合いはしなければならぬと思います。その中の一環として日本もやはり、中長期な産業構造の改善等も含めた日本の経済の基本的なあり方というものを中心にした経構研の答申が出ていますから、これを日本政府としても十分説明をして、これをどういうふうに具体化していくかというのはこれからの政府の取り組み方でありますが、せっかくの総理大臣の諮問機関として有識者に集まってもらってあれだけの答申をいただいたわけですから、これは十分アメリカ側にも説明をする、これはやはりあれだけの答申をいただいたというのは日本政府としても積極的に取り組んでいこうという気持ちがその背景にあるわけですから、そういうものを踏まえてアメリカ側に説明をしていこう、こういうことで大河原前大使なんかにも既に、きょうですか、出発していただいて、いろいろとアメリカの官民にわたってそうした答申等についての説明はせめて行っていただこうと思っております。  なお、まず訪米の前には経済対策閣僚会議も開きまして、予算成立も踏まえてこれからの内需振興といいますか、当面の日本の内需振興策についての具体的な一つの方向というものが出てくるのじゃないか。これなんかもアメリカ側にも十分説明をしなければならぬ、こういうふうに思っております。  なお、経構研の報告書は、大体概略はわかっていますけれども、まだ正式な報告というのは何かということのようであります。
  157. 和田教美

    ○和田教美君 今のお話にもありましたけれども、米ソの核軍縮、核軍備管理交渉、これがサミットでも日米首脳会談でもやっぱり一つ話題の中心になると思うんですが、我々日本人の立場から見ると特にこの問題について強い関心を持つのは、例のゴルバチョフ提案、これは一月十五日のゴルバチョフ提案ですが、それに対するアメリカの二月二十二日の反対提案、この中でも特にアジアにおける中距離核をどう扱うか、つまりINFをどう扱うかという問題ではなかろうかというふうに思うんです。御承知のとおりアメリカの提案は、アジアの中距離核も含めて要するに中距離核は全廃をする、そういう提案だと思うんですが、それに先立ってゴルバチョフ・ソ連共産党書記長の提案は、まずヨーロッパにおいて中距離核の全廃をやる、そしてアジアの中距離核の問題は第二段階というふうな考え方に受け取れるわけでございます。私はその問題に関する限りはアメリカの提案の方が我々にとっては非常に望ましいわけでございまして、そういう評価をするわけでございますけれども、外務省として基本的にこの問題についてどういう態度をとっておられるのか、お聞かせ願いたいと思います。
  158. 中平立

    政府委員(中平立君) ゴルバチョフ提案につきましては、今先生御指摘のように一月十五日に提案されたわけでございますが、確かに二十一世紀に向かいまして一応タイムテーブルをつけたという意味におきましては非常に注目に値するのではないかとも考えるわけでございますけれども、やはり全体として非常に概略的な提案でございますので、必ずしもその意図はわからないという点もございます。他方、先生今御指摘のように、INFにつきましては欧州のみに重点を置いておる、第一段階は欧州だけしか言及されておらないというようなこともございまして、我々としては受け入れられない、こういう考え方でございます。また戦略核兵器につきましても、ソ連にとって一方的に有利な提言を主張しておる。これは昨年の九月三十日にソ連の提案がなされたわけでございますけれども、それと同じラインで、ソ連に一方的に有利な提言に固執しておるという問題がございます。  他方、二月二十三日でございますか行われましたレーガン大統領の反対提案につきましては、先生御指摘のように、日本にとって一番関心の深いINFにつきましては、欧州のみでなく全世界的に八九年末までに廃絶しようではないかという具体的な提案をしておるわけでございまして、我々といたしましては従来からINFの問題につきましては全世界的な観点からできるだけ低いレベルに削減してもらいたいという主張をしておりました関係上、これを非常に歓迎しておるところでございます。したがいまして、ソ連が今後アメリカの提案に非常に前向きに対応してきてくれることを我々としては念願しておる次第でございますし、機会あるごとにソ連に対しても日本立場を今後とも主張していきたい、こう思っておるわけでございます。
  159. 和田教美

    ○和田教美君 ただ、米御提案の問題点というのを私なりに考えてみましたら、確かに日本立場から見ると、アジアも含めた中距離核の全廃というのは非常に評価できるわけですけれども、しかしアジアに限定していえば、ソ連のSS20の全廃ということ、アジアのSS20も全廃ということを言っておるわけなんで、それに見合って、一体アメリカは何を削減するという対応策が具体的に出ていないという点ではないか。つまり、軍備管理交渉などというのは、やっぱり相互性ということが非常に重要だと思うし、現にこのアメリカの提案に対しては、ソ連はこれを受け入れがたいと。なぜかというと、アメリカが、要するに日本関係があるわけですけれども、海上発射巡航ミサイルのトマホークを太平洋に配備を始めておる。そのトマホークも、ソ連立場から見れば、当然中距離核ということになるわけでございまして、そういうものも削減することが前提であって、それと見合ってソ連のSS20、アジアのSS20も減らそう、そうでなければだめだというふうなことを何回も繰り返し言っておるわけでございます。最近も、ソ連関係者が同じようなことを言っておる報道がございました。そうなると、提案としてはなるほど我々にとっては非常に好ましい米提案ではあっても、実現の可能性ということになってくると非常に難しいという感じはするわけで、やはり本当に軍備管理交渉、特に中距離核についての軍備管理交渉を進展させるためには、アメリカもそれじゃトマホークをどうするのか、どの程度減らすとか、あるいは自制するとかというふうな、そういう具体的な提案がなければ、なかなかアジアの問題ということは進展しないんではないかというふうに私は思う。その点は、外務省としては基本的にどうお考えでしょうか。
  160. 中平立

    政府委員(中平立君) 今後、五月から米ソの軍備管理交渉第五ラウンドが始まるわけでございますけれども、米ソの間でどういう話が進展するかということは、この場でお話ができないのは残念でございますけれども、一般的に申し上げまして、先生御存じのように、極東のソ連軍は、一九六〇年代ぐらいからかなり増強されておりまして、特に七〇年代になりましてSS20とかそれからバックファイア等の配備が増強されましたし、その他太平洋艦隊の増強も見られているわけでございます。ソ連が、アメリカが増強しておるから自分の方がSS20などを配備するんだという話を主張しておるわけでございますけれども、これを歴史的に見ましたら、そのSS20というのは先ほど申し上げましたように、一九七〇年代に極東に配備されているわけでございますけれども、例えばソ連が問題にしていると一部伝えられております三沢のF16というような問題ですね、こういうものなどは一九八二年に配備されたわけでございますけれども、これなどは歴史的に見まして、やはりソ連の方が極東軍の配備というものを先に、しかも相当なペースで増強しておりまして、SS20について申し上げますと、八三年には百八基と、それから八四年には百三十五基と、八五年には百七十基前後というくらいに非常に急激に増強されているわけでございます。  したがいまして、このようなソ連の一貫した軍備増強に対応するものとして、アメリカ側としてはやはり北西太平洋地域において多少は軍備を増強しなければならないのではないかと、こういう判断に立っていると我々は承知しているわけでございまして、ソ連が言うように、SS20をソ連が配備するのは、アメリカが配備したからそれに対抗するんだということは客観的に事実にも反しておりますし、政府としてはソ連の言い分は必ずしも受け入れられないと、こういうふうに考えておる次第でございます。
  161. 和田教美

    ○和田教美君 次に、日ソ関係についてお尋ねしたいと思います。  ことしの一月、八年ぶりに日ソ外相定期協議が再開されて、平和条約締結交渉が行われる、継続するということが合意されたわけですが、しかし、その後のソ連側の出方を、いろんな見解の表明などを見ておりますと、北方領土問題に対するソ連側の態度は、どうも従来と余り変わっていない、全く変わっていないとさっきも外務大臣がお答えになったことでございますけれども、それが今度外務大臣が近く訪ソされる意向だというふうなことですが、もし行かれた場合に、次回の協議においては、この問題がどういうふうになってくるか、一体またどんな姿勢で臨まれるか、またいつ訪ソされるのか、その辺のところをお答え願いたいと思います。
  162. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私の訪ソにつきましては、これは一月の日ソ外相定期協議でも共同コミュニケにうたっております、いわば約束事になっておりまして行かなければならない。そうしてまた、来年はシェワルナゼ外相日本に迎える。こういうやはり定期協議の路線を確立しなけりゃならぬと思いますし、そういう意味でも行くことになるわけでありますが、ただ、時期につきましてはいつがいいか、ソ連側立場もあるものですから、今外交ルートを通じまして打診をいたしておる。ソ連側はまだ検討中ということで、ここで確たるこの見通しを申し上げられる状況ではないわけでございます。  しかし、訪ソはいたしますし、訪ソの際には、一月十九日付の日ソ共同コミュニケに基づきまして、北方領土問題を含む日ソ平和条約交渉を継続する、これは確認しておりますから、継続するとともに、日ソ間の諸懸案及び国際情勢等について十分話し合いたいと、こういうふうに考えております。特に一九七六年以来中断している北方墓参につきましては、一月の外相定期協議の際に私から人道上の問題ということで提起をしたのに対して、シェワルナゼ外相より改めて検討を進めていきたい、あなたが訪ソした際に意見交換を行いたい、こういうことを言っておりましたので、ぜひともこれは実現をさせたいと、こういうふうに思います。
  163. 和田教美

    ○和田教美君 今までの懸案という中に文化協定の問題もあると思うんですが、これはこの前シェワルナゼさんが来たときにはまとまらなかったわけですが、今度、訪ソの際には調印、署名というところまでいくのか、あるいはまたちょっと細かい問題ですが、広報文化センターのモスクワ設置、政府広報資料の配付制限の撤廃、こういう問題はどういうふうに解決したか、されるのかお答え願いたい。
  164. 波多野敬雄

    政府委員波多野敬雄君) 先般シェワルナゼ外務大臣訪日の際の共同コミュニケにおきまして、日ソ文化協定交渉の早期妥結を図ることを確認をし合ったことは御存じのとおりでございますけれども、このことを踏まえまして、我々といたしましては、現在安倍大臣訪ソの際にはこの署名を行いたいということで鋭意努力中でございます。  交渉の内容につきましては、具体的内容は相手のあることでもございますので、申し上げにくいんでございますけれども、当方といたしましては、ソ連との文化交流においては相互主義、そしてこれに基づく拡大均衡と、同じ相互主義でも縮小均衡ではなくて拡大均衡という方向で努力しておりますけれども、社会体制の相違等もありまして、現時点で確たる見通しを申し上げることは難しい状況にございます。
  165. 和田教美

    ○和田教美君 次に、日ソ貿易関係についてお尋ねします。  八三年、八四年とこれは落ち込んで、八五年若干上向きということになったわけですが、先月の十一日、十二日でしたか、局長級から次官級に格上げされて行われました日ソ政府間貿易経済年次協議では、日ソ貿易の拡大についてどのようなことが話し合われたのかお伺いしたい。  また、今月の十五日からは、日ソ経済合同委員会が開かれて河合団長を初めとする大型代表団訪ソすることになっておるわけですけれども、政府としてはこの日ソ経済合同委員会に何を望んでいるか、お答え願いたいと思います。
  166. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 御指摘のとおり三月の十一日及び十二日の両日、日ソ政府間の貿易経済協議がモスクワで開催されました。この協議の双方のレベルは、先般シェワルナゼ・ソ連外相訪日の際に安倍外務大臣との間で一つ格を上げるということで次官級ということにされまして、日本側からは手島外務審議官、先方からはマンジューローという外国貿易次官が出席いたしまして、それぞれの代表団がその下で出席したということでございます。  協議の中身自身につきましては、枠組みといたしましては、一九八六年から一九九〇年に至ります日ソ貿易支払い協定というものの中で規定されております。従来と違いますのは、単に貿易問題のみならず経済関係一般についても話し合うということが、今回のこの貿易支払い取り決めにおいては従来と異なった規定として特記されておりまして、したがいまして広い範囲にわたりまして貿易経済問題の話し合いを行った次第でございます。  若干、より具体的に申し上げれば、日ソ貿易の最近の実績の検討、それからいかなる開発プロジェクトがあるのか、またその進行状態はどうなのか、それから商品の規格あるいは品質管理、それからそれぞれの貿易に従事している当事者がそれぞれの国においてどういうふうな問題を抱えているか、それをどういうふうに解決したらいいかというような問題でございます。  ただ、一点特に申し上げておきたいのは、先方より非常に強く、日本ソ連との貿易も日本側の黒字になっておる、これを減らしてもらうことが非常に重要であるということが強く出されたという点を特に申し上げておきたいと思います。  それが貿易経済協議概要でございます。  他方、日ソの経済合同会議でございますが、この日ソ経済合同会議はこれは民間の会議でございまして、政府といたしまして我々が直接に関与すべき立場ではございませんけれども、しかし我々といたしましては、日ソ間の貿易経済関係に最も関心を持っておられる実力者の方々がこの機会に一堂にお集まりになって、具体的なプロジェクトにつき、またそれをどうやったら一番よく進め得るか、その方途につきまして率直に意見を交換されるという極めて有意義な会議であるというふうに考えておりますので、側面からこれを実りのあるものにするように御協力していきたいというふうに考えております。
  167. 和田教美

    ○和田教美君 次に、日ソ漁業交渉についてお尋ねします。  漁業交渉は非常に難航しておるわけですが、農水相が訪ソして打開を図るということですけれども、農水相の訪ソによる解決の見通しはどうでしょうか。  また、例年になく厳しいソ連側の態度からして、解決したとしても、我が国にとって非常に厳しい内容となるであろうことが予想されるわけなんですが、関係漁業者に対する救済措置を何か考えておく必要があるんではないかと思うわけです。  あるいはまたこの交渉の結果がこれから始まるサケ・マス交渉に与える影響も大きいと思います。沖取りの禁止、協力金の引き上げ等のソ連側の要求にどう対処するのか、お聞かせ願いたいと思います。
  168. 西山健彦

    政府委員(西山健彦君) 御指摘のとおり、日ソ漁業交渉は、例年になく非常に難しい局面をただいま迎えております。私どもも全力を挙げてこれの解決のために努力いたしておるわけでございますけれども、農水大臣がお出かけになるということになれば、それを機会に事態が解決に向かうのではないかということを我々は期待し、そういうふうに事が運ぶように目下全力を傾注している。現在の時点で申し上げられることはそういうことでございます。  他方、出漁が遅延いたしましたためにいろいろな形でその影響を受けておられる方が大きいということは、私どももたび重なる陳情という形で状況を十分に承知をいたしておりまして、関係者一同心を痛めておりますけれども、これは水産庁当局が関係地方公共団体あるいは金融組織等と協議いたしまして、いろいろ当面のつなぎ融資等々を含めて検討中であるというふうに承知いたしております。
  169. 和田教美

    ○和田教美君 次に、経済協力ODA関係の問題についてお尋ねをしたいと思います。  ODAは、五カ年倍増計画を決めた中期目標が昨年で終わったわけですけれども、結局実績では何%達成できたのか。また、一〇〇%達成はできなかったわけですけれども、その理由は何か。お答え願いたい。
  170. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) ODAの中期計画でございますけれども、委員承知のとおり、予算ベースで見ますと九八%の達成ということになっております。実績ベースの数字は四年間の、八四年までの暦年が現在までわかっておりまして、最終年でございます昨年の実績は今計算中でございまして、これがわかりますのが五月の末ぐらいになるんじゃないかと考えられます。  したがいまして、現在までのところ実績ベースでどのくらいの達成率になるのかというのは、まだ不明ということでございます。
  171. 和田教美

    ○和田教美君 そうすると、予算ベースでは九八%というんだから、大体一〇〇%に近いというふうに見ていいわけですね。
  172. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) おっしゃるとおりでございます。
  173. 和田教美

    ○和田教美君 ことしから始まる七カ年倍増計画、第三次中期計画というんですか、この目標の達成には毎年一〇%の伸びが必要だというふうなことを言われているんだけれども、昭和六十一年度予算ではODA予算、七%の伸びですね。ことしは円高によってドルベースではかなり伸びるというふうに私も見ますけれども、しかし、長期的に見て、この国内予算ベースで七%程度の伸びで間に合うんですか。
  174. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) まさに委員指摘のとおりこの第三次の計画はドル表示の実績ベースで七年間に四百億ドル以上の実績を行い、かつ一九八五年の実績を一九九二年最終年に倍にする、この二つの点が主体になっております。もちろんGNP比の改善、質の改善等も掲げてございますけれども、その点から申しますと、昨年末御決定いただきました政府開発援助につきましての一般会計の伸びが七%でございますが、その政府原案決定の際の外務大臣の記者会見談話にもございますが、その際の円・ドルレートで本年が一年間推移すると仮定をいたしますとドル換算では二〇%ぐらいの伸びになるはずであるというお話がございますが、それから以降円高もまた進んでいるという状況でございますのでかなりいい出発をしたということが申せるのではないかと思います。
  175. 和田教美

    ○和田教美君 七%程度の成長でともかく目標は達成できるんですか、予想ですけれども。
  176. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) ドルで申しますと一〇・四%で毎年実績が伸びてまいりますとちょうど倍増になりまして、かつ四百億ドル程度ないし以上になるということは一応数字上は計算できます。
  177. 和田教美

    ○和田教美君 先月の六日に対外経済援助に関する日米定期協議が開かれましたけれども、この定期協議ではどのようなことが話し合われたのでしょうか。政府はかねてより戦略援助はしないというふうに言っておられたわけですけれども、このような協議を通じて米国の戦略に加担するというふうな形の援助を要請されているのではないかというふうな見方が一部にあるのですけれども、この点はいかがですか。
  178. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 本年三月の六日にワシントンで行われました日米政務担当次官級協議でございますが、この協議外交政策全般に関する意見交換を行い、その一環として援助に関しても話し合いを行うということで行われたものでございます。実際には日米おのおのの援助の基本政策に関して相互説明を行いますとともに、特に最近の両国の関心地域でございますフィリピン、中南米、アフリカ等に対するそれぞれの国の援助の実績及び方針について情報と意見の交換を行ったというものでございまして、米国側よりいわゆる戦略援助につきましての要請がなされたということはございません。
  179. 和田教美

    ○和田教美君 去年の十二月にODA実施効率化研究会の報告書が提出されました。この内容については今の例のマルコス疑惑をめぐる国会論議でもしばしば登場するわけなんですけれども、それと関係ありません。国際開発大学の設立等の具体的提案もございました。外務省はこれにどう対応するつもりかお聞かせ願いたいと思います。
  180. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 外務大臣の諮問機関でございます勉強会でございますODA実施効率化研究会が十二月の中旬に今委員指摘の国際開発大学の、仮称でございますが、設立を提言しておられます。私どもといたしましても技術協力を初めといたしまして援助のソフト化の要請というものが非常に強いということと、それから我が国経済協力に携わる優秀な専門家を多数確保する必要性が非常に強いという二点から同研究会の御提言たる国際開発大学の設立構想はまことに時宜を得た御提言であると考え外務大臣よりも早速この御提言の実現に向けて準備を進めるようにとの御指示がございます。同提言におきましても、この構想の具体化のために官民合同の設立検討会議を設置して検討を進めようというふうに述べられております。現在、文部省と関係省庁及び例えば新潟にございます国際大学の関係者の方などからいろいろお話を伺いまして、現在設立検討会議のメンバーの人選を行っている状況でございます。
  181. 和田教美

    ○和田教美君 アメリカ、ECはOECDにおいてひもつき政府借款に対する規制の強化というのを主張しました。そしてアメリカは借款の禁止領域をグラントエレメント二五%以下から五〇%以下へ広げるように求めて、またECの方はグラントエレメントの算出に各国の市場金利を使うよう提案をしております。もしこれらの主張が通ると我が国の円借款はこれまでのような供与が難しくなるのではないかと、こう思うわけですが、政府はこれらのヨーロッパ、アメリカの動きにどう対処されるおつもりでしょうか。
  182. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 今御質問のございます問題は、過去二年来いわゆる混合借款問題という形でOECDの輸出信用部会及び開発援助委員会両方で討議をされてきた問題でございます。考え方の基本としましては、EC諸国が特に多用しております混合借款、すなわちODAを輸出信用の中にまぜまして商談を有利に進めようという動きが貿易歪曲及び援助歪曲の効果を持つものということでこれを規制しようということから出発したわけでございますけれども、その過程におきまして単なる混合借款にとどまらず我が国の供与しております円借款中の一般アンタイドでないもの、すなわちLDCアンタイド及びタイドの借款、我が国はタイドはほとんどございませんが、LDCアンタイドの借款もやはり同じ歪曲効果があるのではないかということで規制の対象にしようということで一年半ばかり前から議論になっております。  アメリカの主張はただいま委員指摘のとおり、グラントエレメントの現在二五%以下が禁止ということになっておりますが、これを禁止領域を五〇%まで高めてより規制を徹底しようという主張でございます。  他方、ECは強硬なアメリカの主張を回避する目的もあってかと存じますが、二五%の禁止領域を三五%までは上げるけれども、グラントエレメントの計算方式を現在の一〇%をもって商業金利とみなすという人為的な算定方法を改めて、現実の市場金利、各国によって違いますけれども現実の市場金利を導入する、それによって高金利国は非常に恩恵を受ける、こういう方式で進めたいと、こういう主張を行っております。  我が国も貿易歪曲ないし援助歪曲が起こるような形での援助というのは好ましくないという立場には立っておりまして、そういう形での援助は規制されるべきであるという立場をとっておりますが、この市場金利の導入というものは果たしていかなるものであろうかという感じで現在両者との間の内々の協議を進めているという状況でございます。
  183. 和田教美

    ○和田教美君 ODAの六十一年度の一般会計予算、この額は六千二百二十億円ですね。さっきもお話ございましたように前年度比伸び率七・〇%ですね。まあ六十一年度は円高のためにドルベースでは二〇%とか三〇%ぐらい伸びるというふうなことです。とにかくODAをDAC諸国と比較してもアメリカに次いで第二位だと、つまり援助大国だというふうにも言えるわけですけれども、これだけODAのずうたいが大きくなってくると、私は以前からそういうことを言っていたんですけれども、やっぱりその大枠を決める開発援助基本法というふうなものが必要になってくるのではないかというふうに思います。他の省ならいろいろ仕事をするのに必ずベースになる法律というのがあって、そしていろいろな役所としての仕事をしているわけなんですけれども、ODAに関してはそういう国内的な縛りをかけるような法律というのは全くないですね、基本法は。特に今度ああいうリベートの問題などというのが起こってまいりまして、援助に対する不正防止というふうな問題も非常に国民関心が強くなってきているだけに、リベートについてのつまりチェックの問題なども含めたそういう規制も盛り込むというふうな形の基本法というものをお考えになる時期に来ているんではないかというふうに思うわけです。ヨーロッパでもたしかそういう何か基本法というふうなものをつくっている国があると思うんですが、人権抑圧の国には援助しないというような一句を入れているというふうな話も聞いたことがあるわけですけれども、ヨーロッパの実情も説明をしていただきたいんですが、それとあわせて援助基本法についてひとつ見解をお聞かせ願いたいと思います。
  184. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 立法の問題、私の立場から申し上げるのもいかがかと思いますが、従来政府側で御答弁申し上げておりますラインは、我が国におきましては御承知のとおり、援助関係各省の設置法という根拠法及び国際協力事業団法、海外経済協力基金法及び日本輸出入銀行法等の法令によって援助が進められておりまして、また現実の姿におきましても四省庁で進められる円借款でも、外務省が一応窓口ということで調整役に任じ、無償資金協力、技術協力はもっぱら外務省が行っているということで、現在の実施体制は全体として順調に機能しているということが今までの御答弁でございます。  第二の各国の法制いかんという御質問でございますけれども、援助基本法という名を冠しました法律を持っておりますのはオーストリア、イタリア及び英国でございます。それぞれの法律は援助の理念を書きました後に、我が国で申しますと設置法でございますね、外務省ないしほかの省の設置法に準ずるものを記載してあるもの、それからイギリスの場合でございましたか、援助目的でもって民間が寄附した場合には免税にするというようなことが書いてあるものということでございまして、必ずしも独立の法律を、我が国と対比してみまして必要とされるというような内容を含んでいるものとは思われません。  他方、委員指摘の人権云々でございますが、これは米国の対外援助法が人権抑圧国、それから共産主義国への援助はいけないということを指摘してございますが、対外援助法は御承知のとおり、あれは日本で申しますと予算に当たるものでございまして、毎年毎年そういう実質的事項を書き込んだものは予算という形で上がってきて議会の承認を得るという形になっております。
  185. 和田教美

    ○和田教美君 次に、これは外務省予算ではないんですけれども、日米安保関係ですからお聞きしたいんです。  在日米軍経費の、いわゆる思いやり予算について防衛施設庁の方、来ておられますか。  まず、在日米軍経費の日本側負担分のうち、いわゆる思いやり予算についてお聞きしたいんです。  日米安保条約に基づく地位協定によって日本は国内に駐留する米軍のため、さまざまな経費を負担しておりますが、六十一年度防衛施設庁予算で大体二千八億円ですかになると思うんですけれども、これは防衛施設庁予算の何%ぐらいに当たりますか。
  186. 大原重信

    説明員(大原重信君) お答え申し上げます。  昭和六十一年度防衛施設庁予算として御審議をいただいております予算額は、三千二百八十二億八千五百万円でございまして、このうちいわゆる在日米軍駐留経費は先生御指摘のとおり、二千八億一千五百万円でございます。  なお、防衛施設庁予算に占める率は約六一%でございます。
  187. 和田教美

    ○和田教美君 十年前の五十二年度を見てみましたけれども、防衛施設庁の在日米軍経費は約一千億円でありました。それが十年間で二倍になっているわけですけれども、こういうふうにふえてきた主な理由はどういうことでしょうか。
  188. 大原重信

    説明員(大原重信君) 先生御指摘のとおり約一・九倍、約二倍弱の増になってございますが、この増の要因といたしましては、五十四年度から始めました提供施設の整備、住宅防音工事等の周辺対策、これの関連でございますが、それの伸び及び地価の上昇等に伴う借料の伸び、それから五十三年度及び五十四年度から始めました労務費の一部負担が要因として挙げられようかと思います。
  189. 和田教美

    ○和田教美君 防衛施設庁分の米軍経費は、さっきも約二千億円ということなんですけれども、それ以外にも自治省だとか労働省だとか、厚生省などで在日米軍に関連して日本側が負担している経費がありますね。これはまだ六十一年度で計算することはちょっと難しいと思いますけれども、六十年度でそういう経費も含めてトータルとして大体どのくらいになるか、お知らせを願いたいと、こう思います。
  190. 藤井宏昭

    政府委員(藤井宏昭君) ただいまの先生御質問の金額は、先ほど思いやりという言葉が出てまいりましたけれども、思いやり予算につきましては防衛施設庁だけにあるわけでございまして、それとは別に駐留米軍関係経費ということでございますと防衛施設庁関係は六十年度では千九百六十九億円、ちなみにそのうちいわゆる思いやり予算は八百七億円でございます。それから自治省が百九十五億円、労働省が二十四億円、それから厚生省約六百万円、それから総理府が二十六万円ということでございまして、これ以外に提供普通財産借入資産といたしまして五百八十七億円計上されますので、全体といたしまして在日駐留米軍関係経費は六十年度におきまして二千七百七十五億円、うちいわゆる思いやり経費は防衛施設庁にあります八百七億円ということでございます。
  191. 和田教美

    ○和田教美君 思いやりの予算の問題はこれから聞こうと思っているんです。今は在日米軍経費のことを聞いておったわけです。  在日米軍経費はふえてきておるわけなんですが、そこで思いやりのことなんですけれども、そのふえた理由の中にやっぱり思いやり予算がふえているということがあるんじゃないかというふうに思うんですが、思いやり予算の中身がどういうふうにふえてきているかというふうな傾向についてひとつお知らせ願いたいのと、六十一年度の思いやり予算の中身、そういうものを御説明願いたいと思います。時間もありませんから、余り詳しくやらないで結構です。
  192. 志滿一善

    説明員志滿一善君) お答えいたします。  日米安全保障体制の堅持を防衛の基本方針とする我が国といたしましては、在日米軍駐留経費の負担につきまして、地位協定の範囲内でできる限り努力をすべきであると考えまして、労務費につきましては昭和五十三年度から、また提供施設整備につきましては昭和五十四年度からそれぞれ負担してきているところでございます。  その予算額については、労務関係と提供施設整備関係双方負担した昭和五十四年度が約二百八十億円であり、これに対し昭和六十一年度は約八百十七億円を計上しているところでございます。  次に、思いやり予算のうちに提供施設整備につきまして御説明を申し上げますと、提供施設整備につきましては昭和五十四年度から昭和六十年度まで隊舎八十六棟、住宅三千三百四十九戸、消音装置、汚水・ごみ処理施設等環境関連施設等の整備を実施してきたところでございまして、その総額は歳出予算額約二千五百六十二億円でございます。  また昭和六十一年度の思いやり予算の中身といたしまして、提供施設整備につきましては隊舎十七棟、住宅九百六十五戸、環境関連施設として汚水処理施設、貯油施設等その他の施設として倉庫、管理棟、厚生施設等でございまして、これらの整備に要する経費としては歳出予算額約六百二十六億八千三百万円を計上しておるところでございます。
  193. 和田教美

    ○和田教美君 今のお話にもありましたように、思いやり予算というのは五十四年度から始まったわけだけど、六十一年度の思いやり予算八百十七億円は五十四年度の二百八十億円の約二・九倍ぐらいの計算になりますね。ちょっと悪口を言えば思いやり予算でなくて、思いっ切り予算じゃないかというふうに僕は思うんですけれども、そういう冗談はともかくとして、一番ふえた理由は何ですか。また今後ふえ続けるかどうか。
  194. 志滿一善

    説明員志滿一善君) 提供施設整備費の予算額が増加しております主な理由といたしましては、米軍の兵役制度が一九七三年に徴兵制度が廃止になりまして志願兵制度のみになったために隊員の生活環境の改善が必要となったことと、また一九八一年から、これは海兵隊でございますが、海兵隊の家族同伴基準が逐次緩和されましたために家族住宅の不足が深刻となったこと等によりまして、家族住宅、隊舎等の生活関連施設の整備について特に配慮する必要が生じたためでございます。また、昭和五十九年度からはF16三沢配備関連の家族住宅等の整備、それから昭和六十一年度には池子住宅地区及び海軍補助施設の家族住宅の整備、また、これは佐世保でございますが、針尾住宅地区の家族住宅の整備等のため所要の経費を計上したことも増加の要因となっておるわけでございます。
  195. 和田教美

    ○和田教美君 急速な円高・ドル安の進行でアメリカ側が思いやり予算の増額をどうも望んでおる、これが日米防衛協力上の一つの懸案として浮上してきているという報道があります。それはどういうことかというと、アメリカ側にとって影響が大きいのは約二万一千人に上る日本人基地従業員に対する給与の支払いなんですね。これが年間約九百億円あると言われるんですけれども、米軍は本国政府から送られたドル建て資金を円に換算をして支払っているんだけれども、円高・ドル安のあおりでかなりの支出増になっていると。そこで、つまりその円高差損の分を思いやり予算で埋めてくれないかというふうな話が出ていると言われておるんですけれども、そういうことが現実にあるのか、正式になり非公式にそういう話があるのか、それをお聞かせ願いたいと思います。
  196. 藤井宏昭

    政府委員(藤井宏昭君) ただいま先生御指摘のとおり、円高によりまして駐留米軍経費が一定の圧迫をこうむるということは間違いないことであると思います。  いろいろ試算がございます。例えば、先生御指摘になりましたけれども、労務費については約九百億円ということでございますので、円が昨年の九月から三三%程度上昇したということを見ますと、約三百億円ぐらいのそれだけで負担増ということになるかと思います。一般的に米軍がこの負担増を心配しているということ、それから一般的に日本がその経済力に見合った責任を果たしていっていただきたいという希望、これはあるわけでございますけれども、先生今御指摘のように、具体的にこの円高によります米軍のドルによる駐留軍経費増を日本で負担してもらいたいというような話は現在までのところ公式にも非公式にも参っておりません。
  197. 和田教美

    ○和田教美君 もう時間が余りなくなってきましたけれども、簡単に外交実施体制についてお尋ねをしたいと思います。  外務省定員は、さっきお話があったかもしれませんが、六十一年度予算案では純増九十人ですね。六十一年度末の定員が三千九百六十八人となるわけです。しかし、外務省がかねてから提唱しておられます五千人体制というものの目標にはまだほど遠いということが言えるわけです。このペースでいけば大体まだ十年ぐらいかかるということになりますね。一体こういう着実ペースで果たして外交処理がやっていけるのかどうか、その辺もっと抜本的な定員増加の方途を考えていかなければならないんではないかと思うんですが、いかがですか。
  198. 北村汎

    政府委員(北村汎君) 確かに委員指摘のように五千人体制にまだ非常にほど遠い現状でございます。五千人体制というのは我々外務省の悲願でございます。悲願である以上そう簡単に達成できないのかもしれませんけれども、やはり各方面の御理解を得まして、ここのところやはりほかの省庁に比べますと相当多い純増を得ておるわけでございます。例えば今年度でも外務省以外の全体では四千五百二十八人の公務員が減らされておる、純減されておる中で九十人の純増ということでございますから、これは外務省定員の問題に相当理解が得られておると思っております。ただおっしゃいますように、まだまだ五千人の体制にほど遠いわけでございますが、いろんな省庁の中の間でも外務省に受け入れることもやっておりまして、そういうような各方面の御理解を得まして、少し時間はかかるかと思いますけれども、何とか早く五千人体制を達成したいと考えております。
  199. 和田教美

    ○和田教美君 現在、在外職員の在勤期間が平均二年七カ月というふうに聞いておりますが、外交活動充実させるためには在勤期間の延長は望ましいんだけれども、しかしいわゆる不健康地域における在勤期間の延長は、十分な健康対策というかそういうものが必要だと私は思うんですが、そういう不健康地対策というものにどんな具体的な施策を講じているのか、お答え願いたい。
  200. 北村汎

    政府委員(北村汎君) 不健康地対策は、これは私どもの予算の中で最重点事項の一つとして大臣にまで上げて予算を折衝いたしておりますが、具体的にはまず住居環境の整備、これがまず第一でございまして、そのためには官費で借り上げる宿舎をできるだけふやす。今回も大幅な増加を図ることができております。  それから、職員が健康管理のために休暇をとって旅行ができるようにしてやる、そのときの健康休暇のための対象になる公館の数もふやしてやる、あるいは医務官を配置して医務官が医療の方で貢献できるようにする、あるいは警備員の雇用経費を補助してやるとか、いろいろそういう対策がございます。この点におきましても財務当局の御理解を得まして最近相当予算もふやしていただいております。
  201. 和田教美

    ○和田教美君 最後に外務大臣にお尋ねしたいんですが、ことしの七月には内閣官房に外政調整室が設置されることが予定されております。先ほどの質問にも出ておりましたけれども、外政調整室の設置については、行革審の答申でも「二元外交の弊は厳に回避すべきである。」というふうに出ておりますが、二元外交の弊害を防止する具体的な担保があるのかどうか、それは大丈夫だというふうに外務大臣はお考えなのか、その点を最後にお伺いをして私の質問を終わりたいと思います。
  202. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 外政調整室の設置が外交一元化を損なうものであってはならないということにつきましては、行革審答申にも明確にされております。私も答申の前にこの委員会でもいろいろと質問も出まして、一元化を損なうような外政調整室ならばこれは問題だという趣旨の発言もいたしたわけでございますが、そうしたあの国会での発言もやはり一つの背景となったと思います。行革審の答申で明確に一元化を損なうものであってはならぬということが明記されたわけでございますし、このような趣旨は、今後内閣官房の組織改正が行われる場合においても貫かれるというふうに考えておりますし、私は外交関係の処理に必要な国内調整はこれは外務省が第一義的に行う、その上で内閣としての統一保持上必要な場合に所要の総合調整を行うことが外政調整室の主たる任務であろうと思います。  最近ではやはり内政と外交というのは大変重なり合っておるものですから、内政が即外交外交即内政といったような面が非常に強いわけです。それなりにやはり外交に絡んだ内政問題を行わなきゃならぬという面があるわけでございますから、そうした貿易摩擦の問題とかいろいろと総合的な調整が必要だということは事実です。そしてこれは外交に絡んで調整が必要だということは事実ですが、そういう面での調整室の役割はあると思っておりますけれども、しかし調整室は外交を行うものじゃないし、外交はあくまでもそれは外務省でやるわけでございますし、その辺ははっきりしておるわけでございます。  もちろん、外政調整室のトップにつきましても外務省と有機的な関係のもとにこれが組織されるということになるわけでございますから、二元的にわたるということは私はあり得ないと思いますし、そういうことはもう絶対にないように私も責任を持って対応していきたいと考えております。
  203. 関嘉彦

    関嘉彦君 いわゆるマルコス疑獄の問題につきまして予算委員会でほとんど連日のように取り上げられましたし、きょうも若干取り上げられましたけれども、私はきょうはその問題には触れません。現在民社党塚本委員長を団長とするミッションがマニラでいろんな情報を収集しておりますので、それが帰りましてからいろいろ情報を集めました上で改めて取り上げたいと思っております。きょうは特にフィリピンの問題に限らないで一般的に経済協力の問題について質問いたしたいと思っております。  今まで経済協力、特にODA予算は増加してきて非常にうれしく思っていたんですけれども、今度のマルコス疑獄というふうな問題が起こりますと国民経済協力あるいはODA予算に対する支持の熱意がさめてくるんではないかということを私は非常に心配しております。そのためにはやはりこういった疑獄が起こらないような透明な方法でやる必要があるんではないかと思います。同時に経済協力あるいはODA予算というのは一体何のために使うのかということを国民に十分認識してもらうことが必要ではないかと思います。  その意味で最初に経済協力、特にODA政府開発援助の目的及び性格というのは一体どういうものであるか、そのことをまず最初にお伺いしておきたいと思います。
  204. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 我が国は戦後四十年たって今日世界の自由主義国家の第二位というそういう豊かな経済力を持った地位を占めております。そういう過程におきまして、先進国の地位を占めるにつれましてやはり開発途上国に対する援助ということが国の責任として浮かび上がったわけでありますし、世界的にもそうした役割を果たすということが日本のあり方だと、こういうことで援助を行うことに相なり、その援助を拡大をして今日に至っておるわけでございますが、我が国はそうした援助はあくまでも我が国の持っておる独自な立場から一つの基本的な理念のもとに行われておるわけでありまして、これはあくまでも一つは人道主義、そして一つ相互依存、この二つの理念に基づいて援助を行っております。そして援助の主力は今のところはアジアでありまして、アジアは援助の七割を占めておるわけでございますが、最近ではアジア以外にもアフリカであるとか中東であるとかあるいは中南米等々積極的に日本の国の経済力が伸びるにつれて援助の量も拡大をしている、アメリカに次いで量は二番目になっておるわけでございますが、まだまだ質の点からいきますとDACの中では低い方でございまして、その質的な改善というのは今後に残された課題であろうと、こういうふうに思っております。いずれにしても、この援助を積極的に進めるということが世界的に日本自身が信頼を博していくということにもつながっていくわけですし、国際責任を果たすという意味からも日本のこれからやはり取り組まなければならない最も大きな国際的な課題の一つであろうと思っております。  今回は第三次の七カ年倍増計画をつくったわけですが、これを着実に実施をしていかなきゃならないと、こういうふうに考えております。世界はむしろ援助疲れというふうな状況にあるだけに、日本のこうした積極的なやはり援助への意欲というものはむしろ世界から評価されていると私は思っておりますし、マルコス問題が起こりまして援助についての疑惑等が一部表明をされておりまして、あれは非常に残念に思っております。我々としてはその問題はやっぱり明らかにしなきゃならぬと思いますが、しかしそれでもって日本の援助全体がいろいろと何だかんだ言われることは大変心外でありまして、私は日本の援助はこれまでも非常にきちょうめんに積み上げてきて、そして相手の国の立場を重んじた形で実施をされております。    〔委員長退席、理事宮澤弘君着席〕 そしてこれは世界の開発途上国から非常に評価されておると私は思っておるわけでありまして、全体的にはそういう意味では非常にうまくいっておると、こういうふうに思いますが、しかし改善する点もあると思いますし、そういう点は十分踏まえてこれから取り組んでいきたいと思っております。
  205. 関嘉彦

    関嘉彦君 外務省経済協力局で編さんされた「経済協力の理念」という本を読みますと、経済協力というのはやはり平和で安定した国際秩序を構築することが回り回って日本の国益にもなるんだと、結局日本の安全にも寄与して日本の繁栄にも寄与する、援助そのものはコストであり、つまり日本人としては犠牲を払うんであるけれども、その犠牲を払うことが回り回って日本の利益になるんだというふうに書いてあります。私もそのとおりだと思う。ただし、これはあくまで向こうの要請に基づいて行われるべきもので、日本が押しつけてやるべきものではないというふうに理解いたしますけれども、いかがでしょうか。
  206. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは全くおっしゃるとおりであります。援助の本質は、相手の自助努力協力していくということが本質じゃないだろうかと思いますし、援助をする場合においても相手立場を十分踏まえていく、相手も主権国家でございますし、そうした相手立場というものを十分前提に置いた取り組みでなければならない、援助してやるというふうなそういう気持ちで、立場で援助というものは行うべきじゃないと、こういうふうに思います。
  207. 関嘉彦

    関嘉彦君 有償の場合であれ無償の場合であれ、日本経済協力の資金によって相手国政府が公開入札によって業者を決めて事業を行う、その場合に入札した商社の名前あるいは金額、そういったふうなものはフィリピンについては今発表し得る立場にないというふうに今まで外務省としてお答えになってきたように理解しておりますけれども、フィリピンに限らずほかの国の場合においてもそれを公表し得る立場にないというのはどういう理由に基づくものですか。
  208. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) ただいま御質問の公開入札でございますが、これはオープンテンダーということで応札が制限されていないという意味のオープンでございまして、正確に訳しますと国際競争入札といった方がよいのかと思います。このオープンテンダー、俗に公開入札と言っておりますが、公開入札を原則としてとるようにということを相手国に義務づけております。その入札を行いました結果につきましては、国によってはもちろん公開している国もございますけれども、別に公開することを義務づけているという種類の入札ではございません。ちなみにフィリピンの場合におきましては、業者名等の入札結果は公表していないというふうに承知いたしております。  それでは、何ゆえに公表しないという立場をとっているのかという御質問でございますが、日本政府は有償ないし無償で当該事業の援助は行いますが、その入札及び入札行為、それから入札の評価を行いまして、その結果に基づきまして業者との間に契約を行うというのは、あくまでも相手国政府が当該応札企業、落札企業との間で行っている商行為と申しますか、行為でございまして、日本政府は、入札の評価を先方が行います際に協議を受けまして、きちんとした入札評価を行っているかどうかというのは、円借款の場合ですと海外経済協力基金がそれを見ることにしておりますし、それから、その結果として落札者が決定し、契約を結びました後に、その契約が基金による承認のために審査に付されますので、私どもはそれを知り得る立場にはございますけれども、契約の当事者ではない、相手国政府とその当該企業との間の行為であるという立場から、我が方として、当事者でもない、契約ないしは入札の結果を公表する立場にはないというのが従来御説明をしてきたところでございます。
  209. 関嘉彦

    関嘉彦君 そうしますと、フィリピンの場合は公表し得る立場にないと言いましたが、ほかの国の場合は公表する場合もあるんですか。
  210. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 一律公表はしておりません。
  211. 関嘉彦

    関嘉彦君 確かに、相手政府と業者との商行為だと思うんですけれども、同時にこれは国民の税金ですね。やはり日本国民としてそれがどういうふうに使われているかということは知る権利があると思うし、またそれを知らせるのでないと、今後国民が喜んで経済協力あるいはODA予算をふやそうという気持ちにならないんじゃないかと思うんです。その意味で、私は発表されるのが当然ではないかというふうに考えるんですけれども、いかがですか。
  212. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) そのような御主張もございます。その場合に一体どこまでを発表するのか、契約の受注企業名、金額等、契約の内容がございますけれども、すべてを発表するべきであるのか、今御指摘の企業名だけを発表すれば国民理解が得られるというものなのかという点は非常に難しい問題を含んでいるんではないかと思います。契約企業名も受注企業名も契約の内容ということになりますし、相手国政府が発表していない状況下で我が国がこれを発表するというのは、我が国としてはそういう立場にはないというのが今までの御説明をしてきたところでございます。
  213. 関嘉彦

    関嘉彦君 受注の細かな内容まで発表しろということを私は言っていないんです。つまり、その受注した企業の名前、それから契約金額、その程度のことも発表できないわけですか。もし発表できないとすれば、どういう理由が。
  214. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 現在までのところ発表しないという立場をとっておりますし、理由は、先ほど申し上げましたように、契約の当事者でない我が方として発表する立場にはないということでございます。
  215. 関嘉彦

    関嘉彦君 ただいまの御答弁は、納税者の立場として極めて不満足に考えます。しかし、これはまたいずれ特別委員会なんか設置されるでしょうから、そのときに改めて取り上げることにいたしまして、今後こういう経済協力ODAに基づくところの協力を進めていく場合に、応札した会社名であるとか契約金額、そういったことを公表することを援助の条件にする、そういうお考えはありませんか。
  216. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) ただいま御説明申し上げたことの繰り返しになるかと思いますけれども、我が方の基本的な立場は、あくまでも先方の行っております事業に援助国として御協力を申し上げるという立場でございますので、受注企業主の決定、その契約というのは、基本的には事業主たる被援助国政府の責任において締結され、実施されるものであるというのが私どものとっている立場でございます。したがいまして、援助の本来の目的ということにかんがみまして、受注企業名を公表するか否かということは、原則的には相手国と受注企業との間の問題でございまして、我が国政府が企業名公表を条件づけるということは適当ではないんではないかと考えております。
  217. 関嘉彦

    関嘉彦君 一番最初に質問しましたように、これは日本が押しつけているわけじゃないわけですね。日本の輸出をふやすために、どうかこれだけの援助を受け取ってくれと、こちらから頼んでいるわけじゃないでしょう。としますならば、そういう問題を、つまりガラス張りにすることを何も遠慮する必要は少しもないんじゃないかと思うんですけれども、大臣いかがお考えでしょうか。
  218. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは、国会でも随分この問題一つをめぐりまして論議もされておるわけですけれども、これまでの政府の答弁としては、今、局長が申し上げましたように、要するに相手国政府とそれから受注者との契約ですから、その点については日本政府としては介入していないわけです。ですから、相手が公表しないのに日本が公表するということは外交的に見てもまずいということもありますし、公表は相手の国の問題であるということでしないという建前を貫いてきておりまして、その点はずっと理解をしていただいておるわけですが、こうした問題が出ましたので、さらに、それでは解明にならないんじゃないかというふうな御議論等もありまして、この辺のところは外交的に非常に難しい微妙な関係があるものですから、ここで、それでは今すぐ公表をしますということは、今の日本政府立場としてはどうしても言えないという立場にあるわけでございます。しかし、マルコス文書等に出ておるそういう企業名等は我々も入手しておりますし、これは世間に明らかになっておるわけで、そして、そうしたマルコス文書の中身については、私も非常に重い存在であるということでこれを見ておるわけでございまして、その限りにおいては国会で議論等もされておることはそれなりに我々としてもこれに対して認めておるといいますか、それは理解しておる、こういうことであります。
  219. 関嘉彦

    関嘉彦君 私が言っているのは、いわゆるマルコス疑惑で今度公表された文書の中の過去の問題ではなしに、今後の問題としてそういう条件をつける、公表するんだ、それを援助の条件につけ加えることは向こうの政府に何らやましいことがなければ一向差し支えないことではないかと思うんです。今後の援助の条件としてそういうことを条件の中に織り込まれるかどうか。
  220. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは今すぐ御返事するというわけにもまいりません。これは四省庁でこういう問題はいろいろと協議しなきゃならぬことであります。外務省だけの判断でできないわけでもありまして、しかし、改善するところはしなきゃならぬということを私も言っておりますし、やはり援助が本当に国民から十分理解をされて、相手国民からも支持されるような、そういう形の援助でなければならぬことは当然のことですから、そういう点はやはり今後の検討課題としていろんな角度から今回の事件を契機にして国会の論議等も踏まえてひとつ研究をさせていただきたい、こういうふうに思います。
  221. 関嘉彦

    関嘉彦君 今後大いに改善努力をしていただきたい。今すぐどうしろということは要求いたしませんけれども、今後大いに改善努力をしていただきたいということを申しまして、次にやはり経済協力の問題で次の問題に移りますが、NGOというんですかね、民間援助団体と訳すんですか、ノン・ガバメンタル・オーガニゼイションの頭文字じゃないかと思いますが、それについて八五年度、それから八六年度、それぞれ調査費が計上されておりますですね。今まで例えば八五年度でどういうことを調査されたか。
  222. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 一応NGO、民間非営利団体と訳しておりますが、このNGO活動が援助の面におきましては非常に最近注目を浴びております。我が国は比較的歴史は浅うございますけれども、かなり活発な活動を行ってくださっておられるNGOもふえてきている状況にございます。  昭和六十年度におきましては三百六十万円の調査の費用を予算でいただきまして、現在我が国の中で援助面で活動しておられるNGOのダイレクトリーを作成するということと、それからNGO関係団体と私ども行政機関との交流の費用ということで六十年度は三百六十万円をいただいております。  現在御審議いただいております六十一年度予算におきましては、これを八百万円余りということに強化拡充を図っておりますが、これは第一にNGOによります援助の実績調査、各地でもっていかなる援助活動を行っておられるかという実績の調査、それから第二番目にはNGOとODAとの連係策に関する調査及び研究を行うこと、それからNGO関係団体との交流、これは六十年度も同じでございます。それからNGOがアジア諸国のNGOの代表者と意見交換を行いますためのアジア開発フォーラムを開催していただく、この援助をいたす費用というもので八百万円の予算を計上している状況でございます。
  223. 関嘉彦

    関嘉彦君 その調査費を計上されているということは、やっぱり将来NGOを援助の一つのチャンネルとして利用していく、そういうつもりだと承っておりますけれども、それでよろしゅうございますね。
  224. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 従来もかなりの程度NGO関係諸団体との連係を補助金の形でございますとか、例えばシルバーボランティア専門家派遣の旅費でございますとかということで連係プレーを行っていますが、今後ますますこの拡充に努めてまいりたい。ただ、NGOの自主性は尊重しながらも連係プレーの拡充には努めてまいりたいという方針で臨んでおります。
  225. 関嘉彦

    関嘉彦君 私は、NGOがこういった例えばプロジェクトなんかの問題で大きな役割を果たし得るとは思いませんですけれども、しかし、例えば無償援助なんかの場合に医薬品の配布であるとか、あるいは職業指導ですね、そういったふうな問題については、スウェーデンであるとカナダあたりではかなり力を注いでいるというふうなことを聞きますし、また東南アジアをとりましても、例えばタイにおける仏教徒の組織であるとかフィリピンにおけるカソリック教会のネットワーク、それから日本のカソリック教会も向こうに進出して職業訓練、簡単な医療なんかやっているようですけれども、そういったふうな民衆に直接触れるような援助と申しますか、これがやはり向こうの人たちの本当の心をつかむ意味で、日本人の心を伝える意味で私は非常に大事じゃないかというふうに思うんです。そういった点についてもっと前向きに今後取り組んでいただきたいというふうに思っておりますけれども、大臣いかがでしょうか、その考え方。
  226. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 事実関係だけちょっと申し述べさしていただきますと、今委員が御指摘になりましたのと類似のケースで我が国がやっておりますものでは、バングラディシュにおきますオイスカと申します我が国のNGO団体が農村婦人の職訓センターというものを設立されたいという構想がございまして、我が国の無償資金協力で建屋を建てまして実際の専門家、行って教えてくださる方、それから機材等はオイスカというNGO側で負担をしてやっておられるという協力の例がございます。  医薬品等の頒布につきましても、昨年来のアフリカの飢餓等の状況下で日本のボランティア団体によりまして我が国の拠出に伴います国連難民高等弁務官に対する拠出の一部分の頒布等をお願いしているという例もございます。
  227. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) NGOにつきましては、諸外国と比べまして日本の場合は比較的この活動が最近まではまあ少し活発さを欠いておったように思いますけれども、去年、おととしなんかのあのアフリカの飢餓問題等を契機にしまして非常に全国的にも盛んになっておりますし、日本政府としても側面的にこうしたNGOの活動を支援をしていきたいと思っております。これはやっぱりこれからの日本の援助活動を広げていく上におきまして、政府がやると同時に民間の活動ということで非常に大きな意義を持った活動であろう、こういうふうに考えております。
  228. 関嘉彦

    関嘉彦君 ただいまの大臣のお答えを評価いたしましてその問題はそれで終わります。  次に、これは先ほど和田委員からも提起された問題でございますが、OECDの今度の会議でいわゆる援助の質を高める、殊にグラントエレメントの見直しを図るというふうなことが討議されるように聞いております。EC諸国の方では、グラントエレメントを計算する一つの基準としての金利の問題で、一律一〇%から援助の金利を差し引くんじゃなしに、その国の実勢金利との比較においてグラントエレメントの率を計算していく、そういう提案がなされているようですけれども、日本の対応策、先ほどちょっとお答えになりましたけれども、改めてお聞きしておきたいと思います。
  229. 池田廸彦

    説明員(池田廸彦君) 御指摘のように、OECDの輸出信用アレンジメントの枠の中でグラントエレメントの計算方法を再検討しよう、こういう動きが出ております。ただいま御指摘がありましたような案も一つの案として提示されております。  これに対しましては、我が国は基本的には貿易歪曲効果を最小限にとどめて援助資金が適切に供与される、これがあくまでも筋である。これらを基本的な方針といたしておりまして、具体的に今後どういう方針でいろいろな案に取り組むか、これはただいま、関係の省庁の間で調整している最中でございます。
  230. 関嘉彦

    関嘉彦君 仮に、実勢金利と、それから援助の金利との差によってグラントエレメントを計算するという方式になった場合に日本は非常に困りますか。
  231. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 御承知のとおり、我が国は極めて低金利国でございますので、高金利の国と比べますと、それに伴いましてグラントエレメントの計算上はODAとしての計算と申しますか、許され得る借款の条件というものが非常に実際上は狭まる形になります。
  232. 関嘉彦

    関嘉彦君 確かに、もしそういうことになれば日本のグラントエレメントの率は低下するだろうと思います。しかし、それは計算上低下しているだけであって、実際には何の関係もないわけでしょう。
  233. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 相手国側の立場に立ちますと確かにおっしゃるとおりでございますけれども、現在の議論は、グラントエレメントの一定の水準以下のもので、かつタイド性と申しますか、一般アンタイドでないものを規制しよう、禁止しようという考え方でございますので、例えば現在我が国が七%と仮定をいたしますと、現在一〇%がグラントエレメントゼロの一応基準になっておりますが、七%まで我が国のその円借款につきましてはゼロの水準が下がってくるという結果になります。計算上では約一七%ぐらい圧縮される、禁止領域が広がるという結果になります。
  234. 関嘉彦

    関嘉彦君 したがって、各国を比較した統計上は日本のグラントエレメントのパーセンテージが下がるし、日本は余り援助してない、金額は別として、質的に余り援助していないという悪い評価を受けるかもしれない。しかし、実際問題変わらないわけです。  逆に言えば、日本国民に対してはまだまだ日本の援助の質は低いんであって、もっと国民にその点は我慢してもらいたい。先ほど私確認しましたように、ODA経済協力というのは日本のコストなんだ。つまり犠牲度をはかる。犠牲度をはかる点からいえば、日本人の犠牲度はまだ少ないんだ、もっと高めてもらいたい。そういうことを国民にアピールする上においては一向差し支えないことじゃないですか。
  235. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 国内では、委員指摘のとおりかと思います。
  236. 関嘉彦

    関嘉彦君 私は外の風評を気にするよりも、やはり日本国民の心からなる支持を得るということが大事じゃないかと思う。そのためには、実際はこうなっているんだ、金額としては日本は非常に多いけれども、グラントエレメントの点においてはまだまだ劣っているんだということをやはり国民にはっきり知らして、国民協力を求めていくというのが私は外務省姿勢じゃないかと思いますけれども、大臣いかがでしょうか。
  237. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) それは全く私も同感です。今の日本の援助は量からいくとアメリカに次いで二番目ですが、やはり非常に薄く広くといいますか、幅広くやっておるために、どうしても——ヨーロッパ等は無償が中心になっていますけれども、日本の場合は円借等でいっておるわけで、無償の占める割合というのはヨーロッパ、アメリカなんかに比べると率は非常に低いわけですから、これからの援助のあり方というものを考えますとき、日本もこれだけの力を持ってきましたから、もっとそうした質を高める、グラントエレメントの量を拡大していくということが非常に大事なことだろうと、こういうふうに思っております。これはこれからのやはり日本の課題だと、こういうふうに思います。
  238. 関嘉彦

    関嘉彦君 先ほどちょっと言うのを忘れていたんだすけれども、経済協力をもっとオープンなものにしていく一つの方法として、アメリカで一九七七年でしたか、カーター政権時代に、海外腐敗活動防止法というんですか、フォーリン・コラプト・プラクティス・アクトというのが制定されております。実際にはこれは適用されたケースはないらしいんですけれども、しかしこれはやはり例えば外国のお役人なり高官に金品を渡すことによってその意思決定に影響を与える、インフルエンスを与えることを禁止する法律だと思うんですが、やはりこういうのがあることが一つの精神的な効果を生むんじゃないかと思うんですけれども、これも今すぐおやりなさいということを言っているわけじゃないんですけれども、こういう問題もあわせて研究して、援助の方を改善する場合の一つの参考資料にしていただきたいと思います。何か御意見があればお伺いしますし、なければ次に移りますけれども、よろしゅうございますか。  それから今度は別な問題に入ります。  今年一月、報道官なんかがアメリカに行かれまして、対米関係のPRあるいは広報活動、それを刷新するというんでアクションプログラムを制定されたように承っております。これは日本政府が昨年の六月に決めましたアクションプログラムと同じように、単にプログラムだけに終わるんじゃなしに、アクションを伴ってもらいたいと思うんですけれども、その主な柱だけで結構ですからそれをちょっとお知らせ願いたいと思います。
  239. 波多野敬雄

    政府委員波多野敬雄君) 日米関係は全般的には良好な関係にあると思いますけれども、経済摩擦がやはり何といっても大きな影響を落としていると思います。そして、我が国の市場開放努力、内需拡大努力といったものが必ずしも十分な理解を得ていないという状況のもとで、米国に対して、またヨーロッパ諸国に対して、我が国努力の次第を十分に理解させようということでアクションプログラムなるものを策定したわけでございますけれども、その主な柱といたしましては、まず外国のプレスに有効な働きかけをするというか、十分な情報を提供するということが必要だと思います。東京でも在京プレスには相当な我々も便宜を図りつつあるつもりでございます。それから、米国議会、議会と申します場合には、議員とあわせて議員のスタッフがあると思いますけれども、これに十分な情報を提供する、そして対話を強化するということであると思います。あわせて、いわゆる草の根レベルの広報対策としまして講演、スピーチ等のキャンペーンを行う。それから、アメリカのオピニオンリーダーと言われるような人を日本招待する等々の計画を考えております。  最後に、主な柱だけ申し上げておりますけれども、やはりアクションプログラムというものは役所、政府の行動だけで十分な効果をあらわすものではないと思います。民間がいろいろな活動をやっておりますけれども、民間との協力、調整を今後とも強化していきたいと存じております。
  240. 関嘉彦

    関嘉彦君 そのときに、新聞報道なんかで読みますと、今まで重点を置いていたロビイストと言うんですか、コンサルタントと言うんですか、そういうふうな活動を減らしていく。そのかわりに、今おっしゃられたアクションプログラムを充実していくんだというふうに新聞なんかで拝見しましたけれども、そのとおりでございますか。
  241. 波多野敬雄

    政府委員波多野敬雄君) いわゆるコンサルタント、ロビイストの活用につきましては、米国内で日本がいかにもコンサルタント、ロビイストを大量に使って米国議会に圧力をかけているかのごとき誤った報道がなされていることもあって、これはやはり慎重に扱わなければならないと思います。日本も、戦後しばらくの間はコンサルタントを使うことによって偉い人とのアポイントメントをとったり、アメリカの議員の人といろいろな接触を図ったりすることも多かったわけでございますけれども、このごろはもう日本自体が大国でございますから、何もコンサルタント、ロビイストにそういうことを頼まなければいけない時代ではないという意味で、コンサルタントの活用を減らしても十分な外交活動ができると思っております。  他方、だからといってコンサルタントを使わないという必要もないわけでございまして、やはりコンサルタントはそれなりにアメリカの事情を知っているわけでございますし、例えば我々がスピーチを書きます場合にも、アメリカ的な表現を使うとか、アメリカ的なジョークを中に入れるとかいうような意味においてコンサルタントもそれなりに有用な役割は果たし得ると思っております。
  242. 関嘉彦

    関嘉彦君 私もコンサルタントはすべてやめてしまえなんということを言っているわけじゃないんですけれども、例えば英文原稿を見てもらう、直してもらうとか、あるいはアポイントメントをとるのを世話してもらうとか、もしそういうふうなことに今までコンサルタントが使われていたとしますならば、私はこれは大使館自体のスタッフをふやすことによって、あるいは質のいい現地職員を使うことによってやるのが本筋じゃないかというふうに考えております。殊に、先ほども和田委員からちょっと質問がございましたけれども、平均在任期間が二年間だというふうな話がございましたが、これは確かに健康状態の悪いような地域、そういう地域のことは十分考慮する必要があるんですけれども、アメリカのような重要な国において、例えば二年なり二年半なり三年ぐらいで交代したのでは、本当に電話一本で情報をとるとかアポイントメントを頼むというふうなことができなくなってくるんじゃないか。  私外国のことは余り詳しく知りませんけれども、ここのイギリス大使館にしても、アメリカ大使館にしましても、それぞれ日本のスペシャリストというのがいまして、三、四年で交代して一時ワシントンに帰る、ロンドンに帰る、あるいはほかの国に一時行ったにしてもその任期の半分ぐらいは日本で生活する、そういうスペシャリストがいて、我々のところへも簡単に電話でいろんなことを連絡してくる、そういう外交姿勢外交体制といいますか、そういうふうにしていくことが必要ではないか。あるいは現地職員、どういう現地職員をアメリカあたりで採用しておられるか知りませんけれども、かなり優秀な現地職員を相当しかるべき待遇で、しかも彼らに気持ちよく仕事をさせる、そういう方策を講ずれば何も外部に頼まなくても演説の原稿ぐらいはすぐ直せるのじゃないかというふうに思うんで、そういう点、外交の中心をいわゆる外部に頼むのじゃなしに内部でやっていく、そういうふうに移すべきじゃないかと思いますけれども、いかがでしょうか。
  243. 藤井宏昭

    政府委員(藤井宏昭君) ただいま先生の御質問の大事に関することは私の管轄外でございますので、大使館の行動という点についてお答え申し上げたいと思います。  ただいま先生の御指摘の問題、先生のおっしゃるとおりでございますれば私も全く同感でございます。ただ、ここで御指摘申し上げたいことは、先生具体的にスピーチの話とそれからアポイントということをおっしゃったわけでございますけれども、大使館がコンサルタントを通じてアメリカ側のアポイントをとるということは考えられないことでございます。これは大使館自身でいろいろなコンタクトを持ってアポイントをとっているというふうに考えます。それから、スピーチでございますけれども、これは先ほど波多野報道官の方から御説明ございましたように、もちろん英語の文法とかということではございませんで、むしろ大使なりがなさいますスピーチにつきまして、アメリカ人に本当に訴えるような、同じことを言うのでも単なる言い回しだけじゃございませんで、こういうプレゼンテーションというようなことは非常に高度な素養でございますし、そういうものを利用しないということはかえって私どもの感じでは本当の外交をやっていないということになるんではないかと思います。そういう意味におきまして、間々世上ではあたかもスピーチを外部の人に頼んで書いてもらっているというようにとられるわけでございますが、そういうことでは決してございませんで、スピーチを書きまして、その英語を立派に本当にアメリカ人にわかりやすいように、アメリカ人に訴えるようにしていくということでございます。  よく世上ロビイストと言われるわけでございますけれども、コンサルタントと申しますのは先生御存じのとおり、ワシントンにおきましては大変に重要な存在でございます。我々といたしましてこのコンサルタントを有効に使っていきたいと、もちろんコンサルタントに過重に依頼するというようなことはあってはならないことでございますし、外交の主体はあくまで大使館自身で行っているわけでございまして、その一部にコンサルタントに助力を求めているという面はございますけれども、その点についてもこれを効率的にやっていきたいというのが我々の本旨でございます。
  244. 関嘉彦

    関嘉彦君 確かにスピーチなどのプレゼンテーションの方式なんかが非常に大事だということはよくわかりますけれども、そういうことができる人を大使館の中に現地職員で使うというのが私は本当じゃないかということを申し上げたわけです。  それから、アクションプログラムを実行するのに、やはり在外職員の旅費なんかが十分にいってなければ、こういったアクションプログラムが単なるプログラムだけに終わってしまうのじゃないかと思うんですけれども、今まで私聞いた話では必ずしも旅費なんかが十分ではないように思う。したがって、そういったコンサルタントに払う金を節約して、もっと重点的に旅費なんかに支給した方がいいんではないかと、そのことを私書いたかったわけで、今後の施策の参考にしていただきたいと思います。時間があと一分しかございませんので。  本当は国際緊急援助隊構想について、国家公務員以外の人たちを使う場合の身分の問題であるとか休職期間中の不利益にならないようにとか、そういうふうなことを聞くつもりでおりましたけれども、時間がございませんので、あるいは事故の場合の保障とか、そういうふうなことを聞くつもりでおりましたけれども、時間がございませんので、またいずれ機会を改めてやりたいと思いますが、ただ一つだけ、やはりそういった人たちには犠牲的な精神で行ってもらうわけでございます。万一の場合、事故を覚悟して行ってもらわなくちゃいけない。やはりそういった人たちの物質的な補償、物質的な収入が目的で行っているわけじゃないんで、物質的な補償はしかるべくやる必要があると思いますけれども、同時にそういった人たちの名誉を表彰するような考え方をとるべきではないか。これは単にそういった国際緊急援助隊だけではなしに、例えばベトナム難民なんかの救援活動に挺身している人たちあるいは団体、あるいは青年海外協力隊に行って長く働いて非常に功績のあったような人たち、そういった人たちの名誉を表彰する。そのために、私前に申したんですけれども、国際協力デーというふうなものをつくって、その日に日本全国で例えば姉妹都市間の交流をやるとか、あるいはそういった行事と並んで、そういう日に総理大臣として感謝をする、そういった名誉を表彰するような方法を考えていただきたい。そのことについて一言だけで結構ですから、大臣のお答えを伺って質問を終わります。
  245. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 確かに国際緊急援助隊に参加されておる方々はすべて物質的な目的じゃなくて、あくまでも人道的な熱意に燃えて参加されておられるわけでありまして、これまでもそうした国際援助活動等に積極的に参加していただいておる人たちもおります。  そういう方々に対して、やはり確かに名誉という立場でお迎えするということは非常に大事なことじゃないか。気持ちの問題として、これは国家として取り上げなきゃならぬことであろうかと思います。  ぼつぼつ私のときになりましてもやってはきておりますけれども、全体的にもう一回こういう問題もひとつ見直してみながら、一つのこれからの何らかの形で表彰する、あるいはまた名誉にこたえる、名誉の待遇をするというようなことで、ひとついろいろと検討してみたいと思います。
  246. 関嘉彦

    関嘉彦君 終わります。
  247. 立木洋

    ○立木洋君 フィリピンの問題について私も若干ただしておきたいと思いますが、フィリピンの行政管理委員会がマラカニアン宮殿で膨大な文書を入手して、数十ケースに上るマルコスの疑惑にかかわる文書ですね、こういうものが入手されておる。それで行政管理委員会の責任者は、フィリピン国民に知る権利があるのでこの文書は公表するというふうに発表しているわけですね。  先ほど同僚議員がラウレル副大統領の発言に言及して質問されたのに対して大臣が、関係資料が公表される前にそれらを入手してというふうに述べられましたけれども、これはフィリピンの文書が公表される前に入手するという努力をされるという意味でしょうか。
  248. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) そういうふうに申し上げたとは思っておりませんが、関係文書を公表されれば入手をしたいと、こういうことです。
  249. 立木洋

    ○立木洋君 そうすると、フィリピンとの問題を解明する努力をされるということをこれまでも繰り返し大臣言われてきたわけですが、外務省というのは、御承知のように外務省単独ではなくて、この問題の対外協力の窓口になっている、責任を持っているわけですし、通産、大蔵、経企等々ですね。だから、そういう問題も含めて、この問題を解明していく上でフィリピンとの協力についてどのようにお考えになっておるのか。全く今協力をしないということなのか、こういう点でフィリピンとの問題解明のために協力していくというふうに考えておられるのか、その点はいかがでしょうか。
  250. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これはフィリピンとは協力関係にあるわけですから、そしてまた友好関係にあるわけですから、そうした関係というものを十分踏まえながら、この問題に対しても対処していかなきゃならない。  今いろいろと日本でも、外務省だけではもちろんありません、各関係省庁が調査も行っておるわけでありますし、それは政府全体としての取り組みとしてやっているわけでございます。外務省外務省なりにいろいろと努力はいたして、情報の入手等にも努めておるわけであります。
  251. 立木洋

    ○立木洋君 先ほどの対外援助の公表にかかわる問題ですね。これは、これまでも外務委員会で何回もやりとりしてきましたけれども、政府立場としては公表する立場にないということで一貫した主張をしてこられたわけですが、先ほども言いましたように、フィリピンの文書が公表されたならばそれを入手する。外務省としても当然検討されるということになるわけですが、その場合には、公表されている文書についてその事態が国会で問題になった場合には、その事実関係が正しければそれを確認するというふうな態度は当然とれるわけですね。みずから公表するという立場になくても、確認するということは当然できるわけですね。
  252. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 我が国政府として確認し得る立場にあるものにつきましては確認いたします。
  253. 立木洋

    ○立木洋君 それからもう一点、公表の問題。  これは、公表しないということを対外経済協力の問題については一貫して確認しているということからいいますと、これは納税者の立場からいえば知る権利があるという一つの論点がありますね。  もう一つの論点からいえば、これはロッキード事件なんかの場合と違って相当膨大な金額に上っているわけですが、そして多くの企業がこれに介在しているということが問題にされている。  そうすると、公表されないんだということで、これぐらいのことは業者がやってもいいだろうということで、実際には悪を温存するというふうなことにならないのかどうなのか。  これは、先日も予算委員会で問題になったですね、藤田さんのことが。業者のことを戦友だというんですね。戦友というのは、自分の命をかけても守るということになるので、業者が、どんなことがあっても担当責任者の藤田さんは我々のことはしゃべらないと。そうすると、隠しておいてくれるからということに、これは悪く解釈すればですよ。そんなことを思って藤田さんがやっているというふうに言うわけではありませんけれども、しかし、そういうふうに業者が考えて、自分は温存してもらえるんだ、日本政府からは絶対に事実はばれないんだということがわかったら、それで悪を働くという人がいないとは言い切るわけにいかないと思うんですよね。  だから、結局公表しないということは悪の存在をやっぱり事実上認めるようなことにつながらないか。その点、大臣どうお考えですか。
  254. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これはやっぱり相手のあることですからね、主体は相手なんです。相手の国ですから、相手の国が発注するわけですからね。発注しまして、それを受けるのが企業ですから。ですから、相手の国がその企業名を表に出す、そういう国もあるんですね、公開すると。フィリピンのように公開しない国もあるわけですから、それは相手の国の問題ですから、これは日本政府として、公開される国のものは公表をするまでもない、明らかになるわけですから。日本の国は、相手の国が公表しないものをここで公表するということはできないわけです。日本が発注するわけじゃないのですから、発注するのは相手の国ですから、その辺のところを我々はどうしても踏まえざるを得ない。外交に国家の立場があるということを申し上げているわけです。
  255. 立木洋

    ○立木洋君 いや、私が聞いているのは、悪を温存するという結果にならないかという意味なんです。今言えば、我々も前々から指摘をしてきましたけれども、マルコスというのは長期にわたって不正、いわゆる汚職をやってきているわけでしょう。大変な金を自分で蓄財するというようなことを現実にやってきたということが明らかになってきているわけですね。それにもかかわらず、いろいろ問題にされながらも実際にそれに対しては援助をやってきたわけです。マルコスが言わないからといって、結局日本政府も公表しないということになると、結果としては悪を温存するということにならないかということです。だから、この問題は先ほどよく検討すると言われましたけれども、そういう悪を温存するということも関連して検討していただきたい。  私はある商社の方から聞きましたけれども、丸紅・マルコス作戦というのが一年前からやられているんですよ。結局は、公表されないために、この一年余り前から、マルコスというのはもう長くない、だから関係資料がわからないように全部撤退したというんですよ。相手側からそういう資料が出ないように作戦をとった、MM作戦というんです。現実にあるんですよ。賢い人になってくると、何回も悪いことをやって捕まってきますと、だんだんそういうことをやり出す。いわゆる法をつくれば法の網の目をくぐり、さらにそれに法律をつくるというふうなことが、もう大臣承知でしょうけれどもそういうことが現実です。やっぱりすべて人間は善人だとは言えませんからそういう事態が起こるわけで、そういうことを厳しくする上でも、国民の税金を使っているこの公表問題というのは真剣に考えるべきだということを私は重ねて強く要求しておきたいんですが、大臣いかがですか。
  256. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 今後の課題として、国会の審議、今回のマルコス問題の反省、解明、いろいろとそういうものを踏まえてこれからの援助を公明に行う、適切に、効果的に行うという角度から、あるいは改善できる点があればこれは改善をしていかなきゃならぬというのが私の立場であります。
  257. 立木洋

    ○立木洋君 この事態から十分な反省をして、そういうことをよく検討して、納税者の知る権利にも答え得る、またそういう悪を温存することがないような、そういう公明正大な形での対外援助ということを私は真剣に考えていただきたいということを重ねて申し述べておきたいと思うんです。  それから、先ほどちょっと出ましたけれども、戦略援助という問題ですが、アメリカのフィリピンに対する援助の基本的なねらいといいますか、枠組みといいますか、これをどういうふうに外務省としては理解していますか。
  258. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) アメリカの援助はアメリカの援助、日本の援助は日本の援助ですから、アメリカがどういう立場でやっておるか——これは、アメリカはフィリピンに軍事援助もしているわけですから、アメリカとフィリピンとの関係が非常に特殊であるということは私たちも承知しておりますし、立木さんもよく御承知のとおりですから、アメリカ自身が戦略的にも軍事的にも援助を行っていることはもう当然だと思っております。それと日本の援助とは関係ない。
  259. 立木洋

    ○立木洋君 まだそこまで聞いていないんです、それは次の段階ですから。  今言われたように、フィリピンの軍事的な地位ということについてアメリカが極めて重視しているということは、私が言うまでもなく御承知だろうと思うんですね、これはもう繰り返しアメリカは公表していますから。そういう立場での援助ということが一つの中心に置かれているということは今、大臣も言われたとおりです。  ただ、こうした戦略的な立場に立ってアメリカが援助をしているというわけですが、ここから問題になるんですが、日本はいわゆる世界の、これは私たちはそういう言葉は使いませんけれども、いわゆるですが、自由主義陣営という立場で同じ価値感を共有しているわけですね。そうすると、日本がフィリピンに対する援助という場合にもそういう同じ価値観に立っているということは言えるんではないですか、どうでしょうか。
  260. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いや、これはもう自由主義国家としての、民主国家としての共通の価値観を持っていることは当然ですね。
  261. 立木洋

    ○立木洋君 二月二十六日の衆議院の予算委員会審議で、ちょうど議事録を読んでいたら、そこのところ安倍外務大臣が途中から中座と書いてあるから、そこの発言は聞いてないかもしれませんけれども、ある議員がフィリピンの位置づけについて質問しているんです。そして、その前段は一つは安倍大臣が答えられた。その後、中座された後中曽根総理が、このフィリピンの位置づけについて、アジアにおける位置及びその国力、あるいはさらに世界戦略上から見た位置という面から見ましても、非常に重要な位置であり、国であると考えておりますと、こういうふうに日本も同じ評価を持っているということを総理大臣が言明しているわけですね。そうしたら、この見地は日本のフィリピンに対する援助と全く無関係だと私は言えないと思うんですよ。そういう認識をフィリピンに持っているから、やはり援助の場合にも当然そういうことが配慮されている、考慮に入れられていると、無関係だと私は言えないと思うんです。総理大臣はこういうふうに言明しているんですが、大臣いかがですか。
  262. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) これは、もちろんフィリピンはASEANの一国ですし、日本とは海を隔てておりますが隣国でありますし、歴史的にも深いつながりがある、友邦国としてこれまでの深いつながりを持っておるわけですから、アジアの安定と平和、日本の平和と安定、そういうことを考える場合に、やはりフィリピンが平和であり、そしてまた経済が安定するということは極めて大事なことであろう、こういうふうに思います。そういう点に日本が重大な関心を持つということはもう当然のことだと思います。そうした見地に立って、日本もまたフィリピン経済の安定、国民生活の向上のためにそれなりの協力をしていくことは隣国としての日本の責任ではないか、こういうふうに私は考えます。
  263. 立木洋

    ○立木洋君 そういうのを日本語で言えば世界戦略上の見地に立ったということだろうと私は思うんです。だから、結局アメリカの世界戦略と共通の価値観を持つ、そして今、大臣が述べられたような見地に立つならば、やはり世界戦略的な援助をアメリカと共通の価値観の上に立ってフィリピンに対して行ってきているということを、大臣自身がお認めになった発言だというふうに思いますが、いかがですか。
  264. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) しかし、援助の質は違いますね。やっぱりアメリカの場合は、軍事基地も二つ持っていますし、アメリカとフィリピンとの特殊な関係もあるし、軍事援助を膨大に行っているということであります。日本の場合は、日本の援助の本質から見まして、軍事的な援助はしない、あくまでも人道的な立場あるいはまた相互依存という立場に基づいた援助である。しかし、同時に日比関係というものは、先ほど申し上げましたように非常に重要であるということを認識した上で、そうした方向で援助を進めておるということでありますから、アメリカの援助とごっちゃにされるというのはちょっとおかしいと思いますね。
  265. 立木洋

    ○立木洋君 私は、アメリカと同じ援助を行っているということを述べているんではないんです。日本の国会の決議だって、いわゆる軍事施設に対する援助を行ってはならないということになっていますから、これはやはり経済援助だということで行われているわけで、アメリカが行っている軍事援助と私は一緒にしているわけじゃないんです。しかし、どのような援助を行おうとも、それがやっぱり世界戦略の見地を補完しているということは、大臣、率直にお認めになった方がいいだろうと私は思うんですよ。  これは、大臣自身が前に私の質問に対して、日本日本立場を貫いて援助を行っているというふうにお述べになった。これは六十年の五月二十八日ですよ。しかし、日米で補完的なところがあるというならば、確かにアジアなんかについてはあり得ると。それは、なかなかアジアなどにはアメリカの手が届かなくなっているから、そういう意味では相互補完ということが言えると思いますということをお認めになっているんです。私は、援助の違いがあるということを何も認めていないわけじゃないんです。しかし、世界戦略上という意味で言えば、補完しているということは大臣もお認めになっているんですから、どうです、それははっきりそうだと言われたらいかがですか。
  266. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 世界戦略上というのがわからないんですね。日本はアジアの平和と安定、特にASEANとの友好関係を貫くということは、これは日本一つ外交の基本ですから、日本外交立場外交の基本からフィリピンに対する援助を進めるということならわかりますけれども、世界戦略というのはどういうことでしょうか。
  267. 立木洋

    ○立木洋君 よく言われましたように、西側の一員だとか自由陣営の一員だとか、そういう立場から平和だとか云々する、これはやっぱりアメリカと価値観を共有しているわけですから、そういう意味でのアメリカの世界戦略があるわけですね。社会主義陣営なんかに対置して、そして自由陣営の一員としてやるというような、そういう点ではやはり世界戦略という見地に立っているということであって、世界戦略ということを言葉として大臣が認めるのが嫌であれば、それはもうこれ以上押し問答してもだめかもしれませんけれども、しかし実際上は、この援助というのがアメリカの世界戦略を補完するものになっているということを、現に大臣自身が認めておられたんですから、これは私は重ねてそのことを指摘しておきたいと思うんですよ。  現にこのフィリピンの問題で言うならば、八三年の八月にアキノ事件が起こりましたね。あの後直ちに十一月に日米首脳会談がやられている。そして、その首脳会談の席上でフィリピン問題が協議されて、日米両国が緊密に協力していかなければならないということを日米間で確認しました。そして、その後直ちに公的債務の返済繰り延べの問題だとか新規の融資などという問題が検討されて、    〔理事宮澤弘君退席、委員長着席〕 第十二次の借款、これが、八四年の四月ですか、決定された。  このうちそれまで五年間なかった八三%が商品借款ですよね。新たに商品借款が大幅にがばっとこのとき再び登場してきたわけです。そして、しかも時期的にいえばフィリピンの国民議会選挙の直前であった。決定は、議会、国会で問題になりましたから若干延期したものの、やはり選挙の直前だった。  それから、その後八五年の三月にアマコスト・アメリカの国務次官と日本の浅尾外務審議官協議をしている。ここでもフィリピンの援助の問題で両国が緊密に連絡し合うことを重ねて確認しているんです。これも明らかにされた。そして、第十二次の商品借款の消化率が四〇%に満たないにもかかわらず、八五年になって再度第十三次の借款を取り交わした。これもフィリピンの大統領選挙の直前ですよね。その状況の中で八五年の七月にアーミテージ・アメリカの国防次官補がこういう発言をしています。これは、アキノの事件の後にフィリピンの情勢というのは極めて危機的な状況になった、我々はフィリピンの状況の悪化をますます心配している、我々は必要な場合は軍事手段をも用いるであろうということを述べているわけです。こういう大変な状況だったんですよ。  だから、そういう中でこういう選挙の直前に援助をやるということは、事実上やっぱりマルコスの政権を結果的に見れば支えてきた、と言われてももうやむを得ない状況だということも私は外務省としては率直に認めるべきだと思うんです。だから、結局はこれらの援助というのは、危機に立つマルコス政権のてこ入れをする、これがやはりアメリカの軍事基地を支えるのに側面的に援助になっている、協力になっている。そしてこれはやはりアメリカの世界戦略を補完するものだ。こういう状況の中で日本が行った援助というのは、事実そういうふうになっているということを大臣お認めになりませんか。
  268. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 何か立木さんの話によりますと、もう日本がアメリカと初めから手を組んで非常にスケジュールをきっちりつくって、そのスケジュールの上に乗ってマルコス政権を助けてきた、その最大の役割を担ったと、こういうふうな発言ですが、私は自分でいろいろとアメリカとの間でもフィリピン問題についで話をした経緯もありますし、また援助その他についてもそれなりの責任を持っておるわけですけれども、そうした何かスケジュールを組んで、選挙があるとかないとか、そういうこととは関係なしに、ずっとフィリピンに対する援助というのは、これは十三次まで続けてきているわけですよ。これは事務的に積み上げてきてフィージビリティースタディーもやって、そしてその後も評価等もやってきているという形の中で毎年続けてやってきているわけですから、そういう中での一環としてやっておるわけです。  同時にまた、我々が十三次をやる、あるいは十二次をやるということについても、やはりIMF等が出動しまして、フィリピンの経済は大変苦しくなった、このままでは政治の方も多少混乱があるということを我々も心配しておりましたけれども、経済がもっと混乱をして、フィリピンの国民が塗炭の苦しみをされるということは、これは日本としても友好国として見るに忍びない。ですから、マルコス政権を助けるということじゃなくて、フィリピンの国民を助けなきゃならぬと。幸いにしてIMFもいよいよ調査に入ったという段階でございましたので、日本としても今までのスケジュールどおりの形で踏み切ったわけであって、何もマルコス政権を助けるとかそういう立場でやったことでは毛頭ないわけです。  同時に、商品借款等については、これは国際収支も非常に悪くなったということで商品借款にしたわけですけれども、その点については我々としてもこの実施等は非常に慎重に行おうということでフィリピン側とも協議をしてきたわけです。それがやはり商品借款の実行をおくらせるということにもつながったかもしれません。つながったかもしれませんが、しかし全体的には日本としてはあくまでもこれまでの日比関係というものを考えて、そしてフィリピン経済の悪化、フィリピン大衆の非常に苦難というものを見て我々が踏み切ったということですから、何かアメリカと手を結んで戦略的にどうだこうだということは全く違います。
  269. 立木洋

    ○立木洋君 私はよく考えてもらいたいと思うんだけれども、アキノ大統領自身大統領になる直前にちゃんと日本のフィリピン駐在の大使に対して、マルコス政権に援助するような、マルコス政権を助けるような援助はやめてほしいということをはっきり言っているんですよ、フィリピンの現在の大統領が。これはただ単なるそこら辺の新聞が書いたとかどうとかでなくて、現に大統領になっているアキノ大統領自身がそういうことを述べているわけですから、これは真剣に私は考えなければならないことだと思うんです。もちろんアメリカと手を組んでフィリピンが日本などの思うようになっていないということは、これは私はそのとおりだと思うんです、フィリピンの人民がちゃんと決起してマルコス政権を倒しているわけですから。ですから、そういう意味ではいつまでも何かマルコスがうまくいくようにと思ってアメリカはやったかもしれませんけれども、そうはならないということはこれは歴史の必然ですから、何も思うとおりにいっているなんて私は思いませんよ。しかし、そういうふうなマルコス政権を支えるような、相手大統領になる人から指摘をされるような、そういうふうなことをまかり間違ってもやるべきではないということぐらい大臣はやっぱり考えなければならない。本当にそういう意図が伝わっているならば、アキノさんでも、自分たちに対する援助はこれまでもよかったと、これからも同じように続けてくださいと言われるはずでしょう。そうはなっていないんだから、これからの援助を考える場合に、相手国大統領のそういう発言をやっぱり念頭に置いてこれからの援助ということは考えるべきじゃないでしょうか。どうでしょう、アキノ大統領の発言について。
  270. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) アキノ大統領大統領になられる前のいろいろと発言もありましたし、それからラウレル副大統領、私も実は東京で会いましていろいろと意見の交換もしました。日本の援助の真意というものはそのときお伝えしております。これは私はそれなりに理解していただいておると思いますよ。そういう意見が出たことは承知していますけれども、日本のやっていることが何もマルコスさんを助けるためにやっているんじゃない、今フィリピンはこんな苦しい状態になっているんですからこれはやっているんですという日本の真意というものは、それなりに私は理解していただいた、こういうふうに思っております。何か日本がやれば大変な騒動が、暴動が起こるとか、デモが起こるとか、こう言われましたけれども、そういうものも起こらなかった。こういうことは日本のそうした真意というのがやはりフィリピンの人たちにも率直に伝わったことであろうと思っております。  なお、現アキノ政権は日本に対して援助を強く求めておられる、これはフィリピンのこれからの再生のためには日本の援助が必要だということで率直な要請がありまして、我々もそれにこたえていかなきゃならぬということで今いろいろの面で協議をしているわけですから、非常にその辺では我々としても全体を見ながら、日本立場は十分説明をしながら今日に至っておりまして、今日では新しいアキノ政権との間でも誤解ない形で十分に援助についての話し合いが進められるという関係にあることを申し上げておきます。
  271. 立木洋

    ○立木洋君 きのうも問題になりましたけれども、通産省がアジア経済研究所に委託してフィリピンに対する経済協力の効果について八二年の夏二カ月間現地調査をした、その報告書が八三年の、初め、三月に提出されていますが、外務省は当然あれはお読みになって御承知でしょうね。
  272. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 読んでおります。
  273. 立木洋

    ○立木洋君 それで外務省の見解を聞いておきたいんですが、この日比友好道路の問題について、これはフィリピン側が何をねらっていたかについては一九六六年三月に出された「日比友好道路プロジェクトスタディ報告書」に、次のように述べられているというふうにして、「このプロジェクトが完成すれば、域間交通が短縮され、われわれの軍事防衛力が強化され、」云々、こういうふうに指摘されています。これはフィリピンの見解として報告書で述べられています。  それからもう一つは「結論」、この報告書を書いた日本当事者が結論づけている部分で、  この道路は、フィリピンのいわば背骨を成す幹線中の幹線であり、その影響は多岐にわたってきわめて大きい。フィリピン政府がこの道にかけた期待も、軍事防衛力の強化、云々であったと、こういうふうに書いてあるわけです。これは報告者の結論づけとして書いてあるわけです。  それで、もうこれは言わなくてもわかるように、先ほど大臣も確認されているように、国会では、軍事施設等、軍事的用途に充てられる経済技術協力は行わないことという決議があるわけです。これには若干やはりフィリピン政府としてもそういう見地での考え方がある、日比友好道路の建設については。日本側の調査団の結論としても、軍事力の強化に役に立っているという指摘がある。そうすると、この国際協力の内容については、当然国会の決議の見地からやはりただしておく必要が私はあっただろうと思う。ですから、外務省としては、これがわかった時点でフィリピンに日本政府立場としてはこういう立場である、だからこういうふうなことになるのは我々としては了承し得ないというふうなことをフィリピン政府に申し入れをしたのかどうなのか、それはいかがですか。
  274. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) まず第一点でございますけれども、フィリピン政府からこの日比友好道路、これは数次にわたりまして、たしか七回だったと思いましたけれども、円借款供与申請が参りまして、それを審査して円借款の供与を行っております。その際には、当然のことながら軍事力云々ということはございませんで、フィリピンの経済開発の目的のためにこの道路を建設するという要請でございまして、私どももそういうものとして建設を行ったということでございます。  第二点といたしまして、まさに今委員指摘のとおり、アジア経済研究所の月報と申しますか、評価の報告書でございますが、その中に引用してありますフィリピン側の資料というものは、日本政府に対しましてフィリピン政府から要請をされました内容とは違ったことが書いてございます。  それから、その評価を行いました方の結論、これは若干軍事目的云々ということが書いてございますが、これにつきましては昨日、通産省通政局長が御答弁を申し上げましたように、全般的な、経済的な効果の増大ということに伴ってそういう効果があるということを書いたものではないかと思うという説明がございましたけれども、ちょっとどうも説明と申しますか、結論のつけ方としては、我が国経済協力の基本ということを御存じない方が書かれたものではないかという感じで、私どもは読みました。
  275. 立木洋

    ○立木洋君 いや、藤田さん、質問に答えてほしいんですよ。  こういう問題を見た後、フィリピン政府に、こういうふうな報告書が提出されているけれども、調査に行ったメンバーから、我々の見解というのはこういう見解だと、だからこういう意味での援助というのは行わないことに日本としてはなっているんだということを、フィリピン側に明確に伝えたんですかと聞いているんですよ。伝えでなかったら伝えてないでいいんですよ。伝えたなら伝えたと。
  276. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) 伝えておりません。
  277. 立木洋

    ○立木洋君 そうすると、そういうことを伝えないで、今度第十三次の中にも日比友好道路が入っているでしょう。そして、そういう軍事的な用途に供せられるというおそれがあるというふうに判断される、そういうものに確かめもせぬ、相手にも言わない。しかも、十三次の協力の中には日比友好道路を再び出している。これは国会の決議から見て、国会決議に反する態度じゃないでしょうか。
  278. 藤田公郎

    政府委員(藤田公郎君) フィリピンの例にとって申し上げますと、例えば軍事的用途に向けられるごとき経済技術協力は行わないという国会決議との関係で、この国会決議の趣旨に沿わないような可能性があり得るものにつきましては、委員も御承知のとおり、例えばスービックの造船所等につきましては特に相手方に念を押しまして、我が国の基本的な態度はこうであるということを明示的に申しまして、討議の記録等の形で先方の確認を得ております。したがいまして、フィリピン側はそういう我が国の基本的な態度というのは十分承知しているものと考えておりますし、この道路の件につきましては、この道路が軍事的目的云々という国会決議の観点から問題になり得るという認識は持っておりませんでしたので、特に念を押すということはございません。
  279. 立木洋

    ○立木洋君 大臣、私は決して無理なことを言っているんじゃないんです。初め経済協力をやるということで日比友好道路をやったと、援助をですね。そしてそれは軍事目的に供するものではないということでやったと。そしてずっとやってきて、しかし、調査に行った人がそういうふうに結論づけている。だとするならば、その時点でこの問題は日本政府立場はこうですよと、ですから日比友好道路でこういうふうな報告書が提出されておりますけれども、この点は十分に注意してもらわないと困るんだということを相手に伝えて、その上で十三次の日比友好道路をやれば、それはそれで筋が通るけれども、その訂正も何もしないで、相手日本側の立場をわかってくれるだろうから援助しましょうということでは、やっぱり国会の決議から見て反することになるんではないかという意味ですよ。
  280. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私は道路を、これは幹線道路ですね、幹線道路は、それは軍事的にも使われることがあるかと思います。だからこういうことを一々何といいますか、軍事ということで押さえるということはなかなか難しいんじゃないですかね、道路ですから。民用にも使われるし、あるいは軍用にも使われることもあると思いますし、フィリピン自体が命戦争しているわけではありませんし、ですからそういう点では今の日比友好道路というのはもっと広くフィリピンの国民経済全体に寄与する道路であると、こういうように私は解釈しております。
  281. 立木洋

    ○立木洋君 大臣、そういう形でだんだん軍事的な施設に対する援助を広げていくというようなことになれば、これは私は大変危険だと思うんです。現に日本の調査団が行って、通産省が依頼したその調査団が結論づける第一項目に、この道路について軍事防衛力の強化ということをちゃんと報告してあるんですから、この点を相手のフィリピンの政府に注意を喚起するぐらいの態度は、国会決議に準じて私はやるべきだと思う。それは道路だから軍事用に使われるかもしれぬ、経済用かもしれない、そんなことは構いませんというふうな態度で、もしか海外に対する経済協力に臨むならば、これは大臣、大変ですよ、私はそういうことを言っているんじゃないんです。少なくともこういう点は注意を喚起して、きちっとした日本立場に基づいた援助がやられるように、こういうことは努力すべきではないかという指摘をしているんです。だから、大臣その点については引き下がれないんです。
  282. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) いや、私はそれは軍事的な施設、軍事的用途に充てられる、そういう経済技術協力は行わないこと、これはきちっと守っていかなければならぬ。国会の決議でもありますから、これは当然なんです。しかし今のこれは、道路というのは公共施設ですよね。今おっしゃるように、この決議にありますような軍事施設等の軍事的用途に充てられる経済技術協力には私は当てはまらないと、こういうふうに思いますよ。  ですから、報告といいますけれども、それが正式な報告であるかどうか私は知りませんけれども、私の解釈からすれば日比友好道路というのは、日比間の友好を確認するための主要な幹線道路、公共道路である。そしてこれはフィリピン経済のこれからの発展に大きく資するものであると、こういうふうに考えます。
  283. 立木洋

    ○立木洋君 調査内容をやっぱり厳密に読んで、国会決議に遵守した立場で物事を図るように私はすべきだと思うんです。私の質問している経過の中で、どういう質問だったかという経過が十分におわかりにならないで、そして道路だからといって単純に答弁されるような態度というのは、私は慎んでいただきたい。それだけ申しておきます。この問題については、今大臣が述べられたようなことでは私は承服できません。  それで、時間がありませんから、最後の結論に入らなければなりませんけれども、これまでも日本の援助に対してフィリピンの新聞が極めて厳しい指摘をしてきたということは大臣承知だろうと思うんです。それから、この点に立ってやはり反省すべき点は反省しなければならないということも、今日の時点ではもう明白になっていると思うんです。  ところで、アメリカのワインバーガー長官がアジアを訪問するということが、去る三月の二十七日、アーミテージ次官補によって発表されました。これに対して、フィリピンの新聞にこれがどういうふうな反響を出しているか御存じでしょうか。——もう時間がありませんから私の方で述べさせていただきますが、この中では朝刊紙マラヤ、これは三月三十日付で、アメリカがフィリピンで心配しているのは自由でもなければ民主主義でもないという論評を掲げまして、アメリカの目的について、米軍基地と経済権益の維持であると厳しい批判をしております。また、マニラ・タイムズ三月三十一日付は、アメリカの軍事援助を拒否しようという主張を出して、招待もされないのにワインバーガー・アメリカ国防長官がフィリピンに立ち寄って、安全保障上の必要について話し合うと言っているけれども、ピープルズパワーを動員してワインバーガーを空港で出迎えようというふうな報道がなされているんです。私は、やはりこの問題というのは考えるべきだと思うんです。そして、この点について、三月の……ちょっと委員長、済みません、もうこれで終わりますが。
  284. 最上進

    委員長最上進君) まとめてください。
  285. 立木洋

    ○立木洋君 三月の四日にシュルツ長官が、国力に対する防衛支出の割合から見て、日本はフィリピンに対してより大きな援助をする余裕があるはずだという発言をしておりますし、また先ほど言いましたアーミテージ国防次官補がワインバーガーのアジア訪問を発表したときに、アメリカがフィリピンへの軍事援助を増額する可能性は極めて高いというふうに述べながら、日本に対しても対比援助増額を求める意向であるというふうに表明しているわけです。こういう今までの状況を引き継いだ態度での援助ということは、私はやるべきではない。これは、ここでアキノ大統領大統領になってから述べられているように、農民が飢えないような援助だとか伝染病から子供を守るような援助だとかあるいは技術を身につけて自立できるような職業訓練などなどの援助だということを述べているわけですから……
  286. 最上進

    委員長最上進君) 立木君、まとめてください。
  287. 立木洋

    ○立木洋君 こういう点で十分に反省した態度をとるべきで、だから、アメリカの要請に対してどういう態度をとるのか、フィリピンの援助に対してこれからどういう考えをお持ちなのか、最後に大臣の見解をお聞きしておきたいと思います。
  288. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) 私は、アメリカとフィリピンの新しいアキノ政権との協力関係といいますか、友好関係はこれから進んでいくんじゃないかと、こういうふうに思います。  それから、先ほどから援助について申し上げましたように、日本日本立場で援助するわけでありますし、もちろんアメリカとの間でいろいろと相談もしまして、あくまでも日本の援助の姿勢に、基本方針に基づいてやるわけです。それで、今のフィリピンの困難な経済の状況から見て、我々はアキノ政権との間で十分相談をして、本当にフィリピン経済、フィリピン国民の期待にこたえるような援助を行ってまいりたいと、こういうふうに思っております。
  289. 最上進

    委員長最上進君) これをもって昭和六十一年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算中、外務省所管についての委嘱審査は終了いたしました。  なお、委嘱審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  290. 最上進

    委員長最上進君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     —————————————
  291. 最上進

    委員長最上進君) 委員異動について御報告いたします。  ただいま、関嘉彦君が委員辞任され、その補欠として小西博行君が選任されました。     —————————————
  292. 最上進

    委員長最上進君) 次に、扶養義務準拠法に関する条約の締結について承認を求めるの件を議題といたします。  まず、政府から趣旨説明を聴取いたします。安倍外務大臣
  293. 安倍晋太郎

    国務大臣安倍晋太郎君) ただいま議題となりました扶養義務準拠法に関する条約の締結について承認を求めるの件につきまして、提案理由を御説明いたします。  この条約は、ヘーグ国際私法会議における検討の結果、昭和四十八年十月二日に作成されたものであります。この条約は、国際的な扶養義務について、裁判等において争われる場合には、扶養を請求する者が常居所を有する国の法律を適用することを原則とする統一的な準拠法規則を定めております。  我が国がこの条約を締結することは、国際的な扶養義務に関する法律の抵触について扶養を請求する者の保護を重視しつつ適切な解決を図る見地から、また、国際私法規則の統一に寄与する見地から有意義であると認められます。  よって、ここに、この条約の締結について御承認を求める次第であります。なにとぞ御審議の上、速やかに御承認あらんことを希望いたします。
  294. 最上進

    委員長最上進君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。  本件に対する質疑は後日に譲ることといたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時五十六分散会      —————・—————