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若山参考人 奈良女子大学の
若山でございます。本日は
参考人として
意見を述べさせていただく
機会を与えていただきましてありがとうございます。
地方交付税法等一部
改正の問題に関連して、若干関連した参考
意見を述べさせていただきます。
このたびの
地方交付税法等の一部
改正問題は、単なる
法律の一部手直しのように見受けられますけれ
ども、しかし、
地方自治体の
財政運営へのインパクトは極めて大きなものと考えられます。それで、問題は幾つかに分けられまして、
一つは当面の、すなわち六十一年度の
地方自治体の
財政運営の側面へのインパクト、もう
一つは長期的な社会動向を踏まえた
地方財政のあり方の側面、こういう二点があるように考えられます。ミクロな面とマクロな面というふうに説明してもいいと思います。
それで、第一の短期的といいますかミクロといいますか、この面については既にお二人の
参考人の方が
自治体の
市長さんとしてさまざま詳しいお話をされましたので、私といたしましては、後者のマクロといいますか長期的といいますか、そういう社会的動向を踏まえた
地方財政のあり方に関連する問題について議論をさせていただきたいと思います。その中で、一応、私といたしましては二点に分けて議論をさせていただきたい。第一点はこの問題についての一般的な考察、第二点目は今後迎えます
高齢化社会における、とりわけ
老人福祉サービスのあり方と
地方交付税制度のかかわりあるいは役割等について私なりの
意見を述べさせていただきたいと思います。
まず第一点目の問題に触れさせていただきます。
地方制度の中でも、
地方交付税制度と申しますのは、
財源保障を目指した
財源調整
制度として非常に有効に機能しております。その
内容も非常に精緻でうまくつくられており、世界でも他に例を見ないものでございます。また、
地方自治体の
財政運営の
観点からいたしましても、
地方税とともに
地方交付税は
一般財源として
地方自治体の自主権を
保障するかなめとなる
財源でもございます。もちろん、時代の推移とか社会
構造の変化に伴いまして、
制度そのものの中には改善すべき点も多く抱えているのは事実でございます。
一見したところ、今日の
地方財政の収支
状況は、以前の
状況からいたしましたら比較的景気の上向きもございまして、
地方税収入の
伸びやそれぞれの
地方自治体の経営努力等に支えられまして実質収支も深刻な
状況ではなくなっております。表面上はかなり改善されているように見受けられます。しかし、反面では公債費比率の上昇が目立っておりますし、
人件費率も依然として上昇傾向にあり、その結果、経常収支比率の上昇を招き
財政構造そのものは
硬直化しているように思われます。つまり、
構造的には、
地方財政は相変わらず
硬直化傾向が続いているというふうに考えることができると思います。今後の経済動向あるいは国の
財政状況からいたしましても、依然として
地方財政は硬直的な
財政基調で推移していくのじゃないだろうかというふうに思われます。
確かに、国の
財政と比較いたしますと
地方財政の悪化は軽症のように見受けられることも事実でございます。しかし、抜本的な
制度や
施策の
見直しとか改善を十分にやらないで、国の
財政が苦しいからという理由だけで、また一見ゆとりある
地方財政がその苦しさの一部を
肩がわりして、国と
地方の双方が苦しさを分担し合うといったけんか両成敗的な対応、ちょっときつい言葉を言いますと、国のツケを
地方に回して国の
財政再建を図るといったような形で、とりわけ一律に国庫支出金の
補助率を
引き下げるといったような方向での調整は好ましくないのじゃないだろうか。もっと何らかのそれぞれの
地方自治体の
状況に対応したような、バラエティーに富むといいますか、差別的といったら言葉が悪いのですけれ
ども、そういうような対応が必要じゃないかと思います。今度の
法案の
改正につきましても、そういうことをやらなければならないということは当然でございます。だけれ
ども、問題はそのやり方にあるのじゃないだろうかというふうに考えております。
現代社会は、先進社会化、
高齢化、福祉社会化というものが著しくて、それに対応して
地方の
行政は、
住民のニーズも
多様化、個性化、高度化いたしてまいりますので、当然それに対応していく非常に難しい問題を抱えております。それからさらに、
地域的な差異といいますかそういうものも拡大化する傾向にございます。このような趨勢に対して、
地方自治体がどう対応していくかということがこれからの大きな課題でございます。
今後、
地方自治体はナショナルミニマムの
行政水準の
確保は当然といたしまして、
多様化、個性化、高度化した
住民ニーズに応じてそれぞれの
地域に合った個性的な
行政の実現が必要であります。しかし、このためには安定的な
一般財源の
確保がまず必要でございます。さらに、
地方自治体がある
程度自由に創意工夫を行うことが可能な自主権の確立が必要でございます。これからの複雑化していく社会に対応できる
地方財政環境の
整備が必要になってまいりますけれ
ども、そのためには
地方自治体が
自主性を発揮できるような形での長期的な視点に立った根本的な国庫支出金
制度と
地方交付税制度の改善が理想的な意味では必要だと思われます。国に比べまして
地方財政にはまだゆとりがあるからといった視点からの国庫支出金の
補助率の一律
引き下げと
地方交付税による
暫定的な一時対応を続けていくのは、望ましい姿だとは思えないと思われます。
また、このような一律的な
措置の
地方自治体の
財政運営に対するインパクト、とりわけ短期的なインパクトが必ずあるものと考えられます。例えば、
地方交付税の
交付団体と不
交付団体との間の問題とか、
地方自治体の計画的な
財政運営の障害になる。長期的な計画をやってまいりましても、突然こういう問題が起こってくるとそれによって違った対応をせざるを得なくなる。それから
地方自治体の経営努力と
地方行革への意欲に水を差すことにならないかといったような問題がございます。同じ一時的、
暫定的に対応するのであれば、もう少しきめの細かな各
自治体の
状況を
配慮できるような形の
措置が望ましいように思われます。
最後に、
高齢化社会の
老人福祉と
地方交付税のかかわりについて私見を述べさせていただきます。
老人問題といいますのは、人間だれでも長く生きて高齢者になれば、所得、社会的地位、境遇などに
関係なくすべての人が遭遇しなければならないものでございます。また、一面から見ますと、社会的にそれらの問題に対して対応していかなければならないものでございます。これは一面では義務教育と似た側面を持っております。そこで、
老人福祉サービスは、
基本的には所得などに
関係なく、享受を必要とする人々にすべてに準備されるのが理想的でございます。
老人福祉サービスは低所得者のみが対象となる弱者救済型のものじゃなく、一般財に近いものであると考えることができると思います。
そこで、こういった
老人福祉サービスの対象も、低所得者のみでなく、中高所得者にも広げるべきでございます。低所得者に対しては純粋公共サービスとして無料で供給し、中高所得者に対しては市場化を図る、言葉をかえますと福祉サービスを
一つの商品として供給する、つまり、
負担能力に応じて供給費用を
負担する福祉的傾斜料金システムを導入して行うべきじゃないかと思われます。その場合に、サービスとしての外部性とか個人への利益の帰属性をよく
配慮いたしまして料金を考えることが必要であることは言うまでもございません。
こういう
老人福祉サービスの市場化を図るのであれば、その供給主体の
自治体はその供給方法についても
多様化を進めることが必要でございます。これは
財政運営の理念からしても当然のことでございます。しかし、民間や
住民の活力の利用を図ると申しましても、その性格上から、究極的には一定の枠内での
政府のコントロールが必要でございます。いわば、ある範囲内での市場化の実現を図っていく必要があると思います。
しかし、
老人福祉サービスの供給に
住民や民間の力を活用して一定の市場化を促進すべきではありますけれ
ども、老人問題というのにはかなりの
地域性が存在いたしますし、主体となる
地方自治体の
財政力あるいはその
地域の潜在的な経済力等にもかなり格差がございますから、一律に対処することは非常に困難でございます。また、そういうことは回避すべきであろうと考えます。ですから、それぞれの
地域に合った
内容の
施策を行うべきだし、そういうものを実現していくべきであります。
それで、
老人福祉が
機関委任事務である限り、
行政を実施するのに必要な最低限の費用の
負担を国が行うべきことは当然でございます。しかし、それを超えるものについては、各
地方自治体の
自主性と自由裁量の余地を残すためにも、
財政的に余力のあるところは
自主財源によって行うべきだ、しかし、
財政力の低い
地方自治体に対しては国が
一般財源として補助すべきだと考えられます。
いずれにいたしましても、それぞれの
地方自治体がその
地域のポテンシャリティーを十分に生かしまして、その
地域に合致した
施策を実現していくのが今後の
財政運営の理念からしても望ましいことであると考えられます。
地方自治体が自由裁量を発揮して、その
施策を行うことができるような環境の
整備、つまり、
地方制度の改善が必要だと思われます。
このようにそれぞれの
地域に適した福祉
行政の実現には、
基本的な、ある
程度の
財政基盤の
拡充が不可欠の要件でございます。
人口の老齢化が進んだ
市町村に対してはある
程度の
財源保障が
地方交付税制度において必要でございます。また、積極的に
老人福祉行政を進めようとする
団体に対しては、国庫支出金あるいは
起債の上で何らかの優遇
措置が必要でございます。特に、
地方交付税制度に関連した問題といたしましては、現行の
地方交付税制度の中でも
人口の老齢化に対しての
措置が皆無ではございませんけれ
ども、より現実を反映できるように
制度の改善と手直しが必要だと考えられます。
その具体的な対応策としては、次のような点があると私は思います。
一点は、
人口の老齢化を反映するような
制度にすべきだ。現行の
制度においても、密度補正の中で老人
医療費に関連して七十蔵以上の老人数を考慮いたしておりますけれ
ども、老年
人口指数等を用いて
老人福祉行政全般への反映を考慮できるような形にすべきじゃないかと考えております。
二点目は、
事業費補正への反映といたしまして、現在、小学校や中学校等の義務教育施設の建設の場合あるいは過疎対策
事業法に基づく過疎
地域の
公共施設の
整備を行う場合、
地方債によって調達した
財源分に対して元利償還分の大部分が
事業費補正の対象となり、
市町村の
負担が
軽減されております。これと同様の
措置が
老人福祉にも適用されるように
配慮されることが望ましいのじゃないかと思われます。少なくとも
財政力の余裕に乏しい、老齢化の激しい山間僻地を抱える
市町村に対しては十分に
配慮することが必要じゃないだろうか、このような対処なしに来るべき
高齢化社会への対応もできないのじゃないかと考えております。
老人福祉施策は、
基本的なものは別といたしまして、それぞれの
地域に応じた
行政ができるような体制が必要でございます。それが確立されて初めて、民間と
住民の活力を利用した、
行政的にも
財政的にも効率的な福祉システムの実現が可能じゃないかと思われます。
これで、私の陳述を終わらせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)