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参考人(
原田博夫君) 専修大学の
原田でございます。
本日は
地方交付税等の一部を
改正する
法律案について
意見を述べる機会を与えていただきまして、ありがとうございました。
私は、現場の
立場とかあるいは現場の
実情についてさほど通じておるわけではございませんので、やや抽象的な
観点から私の
地方財政及び
地方交付税等に関する
意見を申し述べたいと存じます。
まず最初に、
地方財政に関する
基本的な原則というのは一体どういうものがあるだろうかということを考えてみますと、これは必ずしも
地方財政だけには限らないのでありますが、社会的なルール、国民全体に及ぶような社会的なルール一般というものは、少なくとも
人々がどういう
立場にあるかわからないということが将来的には考えられますので、いかなる
立場に陥ったとしても、つまり将来において考えられるどんな不確実な事態に対応しても十分に対処できるような、そういうシステムであることが望ましいと考えられます。したがいまして、
地方財政制度ということにやや問題を限定して考えますと、
人々がどういう
地域に住むかわからないということが考えられます。つまり、住居に関しては一応不確実であると。ですから、そういう意味においてどういう
地域に住むことになっても
基本的な
住民サービスあるいは公共サービスというものに関しては一定水準を享受できるということが前提にされていなくてはならないだろうと思われるわけであります。
それで、そういういわばナショナルミニマムが満たされているという前提の上で、その原則が満たされた上で次に問題になるのは、
人々の
地域サービスに対する選好の
多様性にふさわしいバラエティーを持った公共サービスというものが各
地方団体ごとに給付されているという事態が生じていることが望ましいのではないか。すなわち、第一の原則はナショナルミニマムであり、もう一つの原則は
人々の選好の
多様性とそれを維持するにたる
自治体側の給付のバラエティー、この二大原則が満たされていなくてはいけないだろうと思われるわけであります。
そして、次にいささか具体的に
地方財政のモデルを考えてみますと、ちょっと抽象的になって恐縮でございますが、もし
人々が
地域間を自由に選択して移動することが可能であり、かつそれに対応した形で
行政サービスが
地域ごとにバラエティーを持って給付することができるとするならば、もしその場合の
住民移動というものがいささかのコストをかけずに移動できるのであるならば、
住民の選好を最大限に尊重するような
地方制度をつくってしまえば、ある意味では
基本的な
地方財政問題というのはそれで解決してしまうということになろうかと思います。しかし現実には、
人々の
地域間の移動ということはコスト面で、直接的なコストだけではありませんで、それ以上の機会費用、さまざまな問題を考えましても無視できないものでありますので、この
住民移動というものにはかなり重大な制約条件が課せられているだろう。つまり、
人々はむしろ移動をする可能性が
確保されているという、そういう意味での機会の平等が達成されている状態よりも、むしろどの
地域に住んでいても結果として
基本的に共通の公共サービスを享受できるという、そういう結果の平等の方を支持するのではないだろうかと思われるわけであります。
そして、もしそうであるとすれば、次にどういうような
地方税の体係が要求されるかということになるわけであります。その場合、
地方税の税目というのを各
地域間でばらばらに設けることはまことに全国的に
住民を差別的に扱う可能性がございますので、そういう意味からしましても、
地方税の税目は各
地域間で均一であることが望ましいだろう。そしてまた、もう一つの原則としては、
税源が
地域的に偏在の少ない税目というものが
地方税としては望ましいはずである。少なくともこの程度のことは
地方税に関して要求される原則だろうと思います。
そして、それでは設定された
地方税に関しての税率の問題になるわけでございますが、
我が国の場合には一応標準税率というものが設けられておりまして、それに多少制限税率までも課税することは許されておるようであります。しかし、
地方税収全体で見ましても、標準税収に加えて上がってくる税収の割合というのはわずか二、三%であるというふうに言われておりますので、
基本的には標準税率で課税がなされていると、こういうふうに考えて結構だろうと思います。そして、その場合に問題になりますのは、支出水準の状態に応じて必要税額が決まってくるわけですけれ
ども、その必要税額の多寡に応じて税率変更をすることができないということであります。そのことはどういうことになるかというと、支出水準が別の基準で決定されている、税収額で決定されているのではないということであります。したがって、支出水準と税収額とのギャップを埋めるために全国的な
規模でのトランスファーシステムというものが必要になってくる。
そういうふうに考えますと、現在
我が国で行っております
地方交付税というのは、その
機能面においてはこのような趣旨に一応沿ってつくられているというふうに考えられます。しかし、このような
地方交付税によって達成されているものはどういう事態であるかというと、
基本的にはフローとしての
財政収支が
地域間でバランスされているにすぎない、修正されているのにすぎない。例えば社会資本あるいはその他の
生活関連指標に関してまで格差が
地域間で完全に
解消するということは
基本的に考えてはならないのではないか。したがいまして、余り過大な期待を持つことは危険であるということであります。そして、もう一つの問題点としましては、
地方交付税というのは
基本的に
地方税によって生じるであろう
地域間のギャップを調整するような、そういう課税ベースを
財源とすることが望ましいのではないだろうかということが考えられるわけであります。
以上、
基本的なフレームワークを申し上げたわけでありますが、さて次に、先般来成立しました高率
補助金一括
削減法についての
意見を申し上げたいと思います。
この問題につきましては幾つかの問題点があるのですけれ
ども、まず第一に、
補助金削減を行うということですけれ
ども、その前提としての国と
地方の
事務配分の
見直しというものは必ずしも十分になされていなかったのではないかというふうに考えられます。例えば
地方の側では、非効率な零細
補助金の廃止あるいは
地方に同化定着した
事務事業に支出されている国庫
補助金の廃止といったようなこと、そしてそれを
地方一般財源へ振りかえても構わないというようなことを既に主張していたにもかかわらず、そういう主張が非常に機械的な形での高率
補助金一括
削減というような形で行われてしまったために、残念ながら十分ではなかった。
それから第二としては、これは私の推測にもなるわけでございますが、国あるいは
大蔵省側としましては、
地方行革を推進する
観点からというよりも、より差し迫った目標として、国の
財源難を回避するために
地方への
補助金削減を強行している、こういうふうにしか思えないわけであります。つまり、国で不足している分を
地方で肩がわりしていただこう、こういうような形になってしまっているのではないか。しかし、現実に行われました
昭和六十
年度の
地方財政対策について検討してみますと、
地方の
負担増が五千八百億円、しかしながら、このうち国が何らかの形で結局
負担せざるを得ないあるいは手当てを用意せざるを得なくなっている部分というのは、
交付税の増額一千億以外にも
建設地方債の分が四千八百億円、これにつきましては全額ではないまでも、かなりの部分が後
年度地方交付税によって
財源措置を講ずるという取り決めができているように伺っておりますので、そうしますと、かえって将来的に
負担を
交付税制度にかけていることになるのではないだろうか、こういうふうに思われるわけです。
そうしますと、これだけの反対を押し切って進めたこの
法律案というのは一体どういうことをそもそもねらいとしていたのかというのが、いささか私にはわかりかねるわけであります。
そもそもこういう
補助金削減というものの進め方というもの、これは
補助金削減ということそれ自体に関しましてはかなりの程度コンセンサスができているかと思います。しかし、その進め方には、まず幾つかの方法論といいますか、ルールがあるのではないだろうか。例えば今回特に
削減の対象となりました
生活保護費の場合についてみますと、
補助率は八割でございますが、この八割の
補助率ということは本来、国と
地方の責任が八対二であるということを
基本的には踏まえているはずであります。それを一割
カットして七割にするということは、国の責任がこの業務に関してはいささか後退したということに関して国民的な合意が成立していた、あるいはしているべきであろうかと思うわけであります。しかし、そういう問題に関して十分な検討がなされたというふうには、残念ながら思えないわけであります。そういう点がまず第一の問題点であろうかと思います。
それから次に、そもそも
行政サービスというものを、特に
基本的なものに関してでありますけれ
ども、一種の価格メカニズムを利用したような形で賞罰システムを導入するというやり方は必ずしも適切ではないのではないか、まあやってもやらなくてもいい、あるいは多少減らしてもいいというようなそういう
行政サービスであるならば、そもそも必ずしも国が全国的なべースで介入する必要は
基本的にないはずであろう、こういうふうに思うわけであります。
次に、仮に
補助金行政のウエートを縮小するということにかなりの程度コンセンサスができたとしました場合に、その場合に二つほど
方向として考えていただきたいわけであります。
その第一は、
事務内容を実施
事務だけを
地方に押しつけるというようなことをせずに、既に企画立案の
段階からの
事務内容を
地方に移管するような形で
補助金の
整理合理化を図っていただきたい。それから、今回のようにいわゆる高率の
補助率のものについて
カットするという行き方よりも、むしろ少額零細
補助金こそ
削減の対象とすべきではないだろうかということであります。幸いにして
補助金の
整理合理化という問題について官民を問わず、あるいは交付する側あるいは受領する側を問わず、かなりの程度コンセンサスができているというふうに思われます。総論賛成の
立場には皆さん立っていらっしゃるのではないだろうかと思うのであります。ですから、本
年度のやり方は六十
年度限りということでございますから、ぜひとも中長期的な
観点に立って国と
地方の
事務配分の
見直しあるいは
財源配分の
あり方というものについて検討する機会をこの際どうしても設けていただきたいということであります。
それから、最後になりましたけれ
ども、一言
地方税について申し上げておきたいと思います。
最近、税制
改革の論議がアメリカ、イギリス等を初め、日本でも中曽根総理大臣以下多くの方面から議論に上っておりますけれ
ども、導入が予定あるいは予想されているといいましょうか、そういうものとしては、現在大型間接税あるいは一般消費税といったようなものが考えられているように伺っております。これは
先ほど地方税の原則のところで申し上げましたように、本来の趣旨からいってこういった一人当たりの課税ベースに
地域的な偏在が比較的少ないと思われるような税目、大型間接税あるいは一般消費税といったようなものですが、そういうものは
地方へ大幅にその権限をゆだねていっていただきたい。つまり、
地方間接税あるいは
地方一般消費税というようなものがぜひ設けられてほしいと思うわけであります。これは今日の
地方税の体系が、本来の趣旨ではさほど
地域間の格差が出ていないだろうと思われているのにもかかわらず、現実には所得税などの場合よりも、課税ベースで見ますと、
地域間の格差はむしろ大きくなっているということでございますので、こういう点にも
配慮していただきたいと思うわけでございます。
以上、やや抽象的な
立場からでしたけれ
ども、今回の問題について
意見を述べさしていただきました。
ありがとうございました。