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参考人(伊藤昭君) 私は、立命館
大学学生部厚生課長であります。事務職制ではありますが、ここに来ておりますのは
大学の見解を述べるということではなくて、私個人の
意見を申し上げるということで最初にお断りしておきたいと思います。
なお、職制であるにもかかわらず、このような場所に出席をいたしましたのは、直接担当であります私の職場のかかわりで、
学生実態を知れば知るほど、今回の
法案が質的な後退を招くという点で、やはり、これはもう賛成しがたいということに私
どものところでは非常に強く
感じまして、ここに出席したわけであります。特に、現場の実情を十分御承知いただいて、当面の緊急
措置をとっていただきながら、十分
関係者、
国民の納得いく御
審議を
お願いしたいと思います。
それで、私は主として
実態の点からこの
法案をどのように見ていったのかということを中心に申し述べたいと思います。
第一に、
奨学金は生きているということを、本学の
実態から申し述べたいと思います。
その
一つとして、私のところで行っておりますアンケートがおよそ三種類あるわけですが、一九八二年度卒業予定の
奨学生アンケートから若干御紹介をしたいと思います。これは八一年十一月に、四百八十四名、回収率五二・二%で、記述式の回答であります。
まず一点目として、
奨学金の使途であります。ここではどのようなことになっていますかと申しますと、学費が三七%、下宿代などの生活費三七%、教科書、教材、書籍等が一八%、サークル
活動二%、趣味、レジャー費六%というわけであります。いずれにしろ、学費、生活費、教科書などで九二%に上るわけであります。ここで、趣味、レジャー費などについてはわずか六%にすぎないということを御留意いただきたいと思います。
二点目には、
奨学金がどのような点で役立ったのかということであります。記述式の回答の中から、特に
精神的側面の評価という点で上位二つをとってみますと、これは前年度に比べてみましても、さらに感謝の気持ちが一層強くなっているというわけであります。そして、経済的な側面上位三つをとってみますと、単なる経済的な援助以上に、非常に効率的な使い方をして有意義な
学生生活を送れたといった点が大変急上昇しております。八一年度の一一%から二七%であります。
次に、全体として、記述式の回答の中では、増枠や増額要求というのが八一年に比べて、これは三分の二近くに減っておりますが、逆に、臨調の動向を批判的に見ながら、自分はこの
制度がなければ学び得なかった、ぜひ後輩のために、
日本の発展のためにも絶対後退させないでほしいという
意見が大変増加をしております。そして、文章の中には、私が読んでみましても、思わず熱いものが込み上げてくるような文章が幾つもあり、本当にやっていてよかったとつくづく思った次第であります
次に、その二としまして、一九八三年度の二、三回生在校生
奨学生アンケートから御紹介いたします。これは、八三年の十月に、千四百五十九名、回収率九二・六%からマークシート式で回答を得ております。ここでは、特に同じ十月に
実施いたしました本学の全学
学生実態調査と比較しながら、若干特徴点を申し述べたいと思います。
まず一点目でありますが、家庭の年間所得です。これは、とりわけ三百万円以下という大変厳しいところで見てみますと、
奨学生は何と五四%に上ります。ところが、全学のところでは一二%にしかすぎません。あと刻みがちょっとありますが、省略をいたしまして、もう
一つ五百一万円以上、これが一番上の刻みでありますが、
奨学生のところはわずか四%を割るといったような状態であります。逆に、全学のところでは約四八%ということで、このような数字を見て一遍におわかりかと思いますが、全学に比して
奨学生の家庭が圧倒的に厳しいと、こういうことが明らかと思います。
二点目は、学費、生活費負担及び仕送りの
状況という点であります。特に学費の負担のところで、家族が全部という部分と家族が大部分というところを見てみますと、
奨学金を受けている
学生は約六六%に対して、全学の方では九二%に上ります。生活費負担では、家族が全部と家族が大部分というところで見ますと、
奨学生はわずか二二%を切るという状態でありまして、全学のところでは約六〇%と、もう大変大きな差がここで見られます。もう一点つけ加えますと、仕送り額でありますが、六万一円以上というのをとってみますと、
奨学生は五%を切るという厳しい
状況であります。これに対して全学のところでは約五七%と、こういう数値が出ております。
以上のようなことから見てみましても、全学のところから比べて
奨学生の肩にずっしりとこの負担がかかっているということは明らかであります。
三点目として、アルバイトの理由というところでの比較を見てみました。学費などの補助と日常の生活費補助という部分でありますが、
奨学生は約七〇%、それに対して全学は約四四%弱であります。もう
一つの項目、レジャー、耐久消費財で見てみますと、
奨学生は約一八%強、全学は三九%強ということであります。これは先ほどの所得と負担の
状況からして、当然アルバイトの理由も大きく違ってきているということになります。
全体として四点目、
奨学生は、幾つかの項目を見渡してみますと、勉学の姿勢が非常に堅実である、あるいは自習時間も非常に長く、単位もよくとって図書館もよく利用すると。そして将来進みたい分野は何かという項目でいきますと、全学と
奨学生で一番大きな差が出てくる項目でもあるわけですが、教員、研究者というのが二三・四%あります。これが全学と比べても一番大きく違うところであります。一言で言って、やはり
奨学生は非常によくやっている、すぐれているというように言って間違いなかろうと思います。
次に、三つ目の
調査から述べてみたいと思います。
これは一九八三年度
日本育英会奨学生の一回生一次出願者の家計収入
調査からであります。少し古いですが、
国民の家計所得の十分位を援用しながらすべて分けて統計をとったわけであります。特に六学部ありますうちの三学部をとって見てみましたが、時間の都合がありますので、三つのポイントだけ申し上げたいと思います。
一つは、いわゆる課税最低限に近い二百五万円という第一分位のところであります。そして二つ目には五百七万円、これは第七分位になりますが、ほぼ
日本育英会の有資格かどうかというところに当たるかと思います。そして七百四十万円以上、これが第十分位というわけであります。これで見てみますと、
一般奨学生の場合は二百五万円未満が約二三%、五百七万円未満で七五%、七百四十万円以上でわずか三・二%というわけであります。特別
奨学生のところでは、二百五万円未満が二五%、五百七万円未満が約八九%、七百四十万円以上は〇・六%にしかありません。そして推薦漏れと失格者の点で、二百五万円未満は六・四%、五百七万円未満が二六・九%、七百四十万円以上が二二・一%というわけであります。これを押しなべて見てみますと、実に一番厳しい層に非常に正確に
奨学金が渡っているということは明白であります。そして成績基準による失格者はこの中で約二七%もあって、特に二百五万未満層でだめになるといった場合が六%強もいると、この点に注目をする必要があろうかと思います。
なお、やむなく
一般の方に、特別を本当は渡したいんですが
一般に回さざるを得ないという事例のあることもつけ加えておきたいと思います。さらに、七百四十万円以上のところでも多額の住宅ローンなどを抱えて可処分所得は低い、大変苦しいというように
感じている
学生も多いということもつけ加えておきたいと思います。
以上、私
ども三つの
調査、新入生、在校生、卒業回生、こういった
調査と窓口での面接などを通して、本学の場合は経済条件の本当に厳しい有資格者にきっちりと
奨学金が交付されているし、
奨学生もまたその
趣旨を十分生かして有効に活用しながら、卒業するときには感謝とともに後輩にもぜひこの
制度を残して、後退させてはならないということを願いながら、また社会に出てからは大いにその
奨学生であったことを確信して役割を果たしていこうとしていることは明らかであります。
以上、
奨学金は生きているということを確信を持って申し述べたいと思います。
続きまして、第二点目としまして、このような
奨学金を生かしてきたという背景について少しだけつけ加えておきたいと思います。
私
どものところでは、一九六三年の学園の長期計画を立てましたときに、相対的低学費政策というのを定立をしたわけであります。このことから、相対的な低所得層が入りやすい、したがって
教育の
機会均等の一側面をできるだけ実現したいということをとりました結果、またこのことが
日本育英会の有資格者を大変たくさん引きつけているということになっているかと思います。ここに私たち厚生課のところで
日本育英会の
奨学金を
根幹としながら本学独自のものもつけ加えて
学生生活の全うを図るといった姿勢が生まれてきたわけであります。特に、一九八〇年度の新入生から、いわゆる低所得層
調査をやってきております。これは一回生の間に集中的に
日本育英会などの
制度に結合して早く生活の見通してつけようといったことをやってきたわけであります。
ちなみに、八三年度の昼間部、一部の方では六百五十一人、一六・一%に上り、そのうち
日本育英会には三百十三人、四八・一%、学内学費貸与
制度に六十七人、一〇・三%を結合させて見通しをうんとよくしてきております。
第三に、ここから先の見解になるわけですが、先ほど申しましたようなところから、現行の
制度を守り発展させるということを強く望みたいと思います。
ここも若干
実態から述べていきますと、その
一つとしては無
利子のこの
制度を維持していただきたいということであります。
まず一点目ですが、いわゆる相対的低所得層の
調査でリストアップをして第一次に応募しなかった者をずっと呼び出して事情聴取をしておりますと、無
利子でも借金であって、借金はよろしくないという哲学を持っておりまして、質素な生活とやっぱり考えてアルバイトをやっております。
第二点目、女子
学生の場合ですが、特に借金を抱えては嫁に行けないと、こういうことで借りないと、しかも母子家庭にそういった例が非常に多いというところが大変厳しいところかと思います。
第三点目は、アンケートからですが、
有利子なら
奨学金を受けないかという点では、もう明らかに受けないという意思表示が大変たくさん出されております。
四点目には、幾つかの府県
育英会のところでは、
日本育英会に準じて運営を行っております。したがって、ここで
有利子制度等が導入されますと、全国的に非常に大きな波及効果をもたらすんではなかろうかと憂慮をしております。
五点目には、
日本育英会と本学の学費貸与を併用した場合ですが、これは現在でも最高五百万円近い借金になります。これは初任給の動向から見ても、どうしても債務過多になる。その上に
利子がつきますと、これはもう完全に返済できないし、返済できる者しか借りられないという点で、この
制度から離れていくんではないかと思っております。そしてアルバイトなんかで非常に勉学に支障を来すんではなかろうかということで、むしろ給費制の導入こそ検討をしていただきたいと思います。
その一としては、成績基準の引き上げということは、これはやはり足切りになるという点でぜひやめていただきたいというように考えます。
先ほど申しましたようなことでありますが、最も憂慮しますのは、経済事情がよくないから高校以下のところで三・五未満になっているという層が大変たくさんおりますが、ここが切り捨てられるということで、むしろ、私
どものところから見てみますと、三・〇への引き下げ等、これこそ検討をしていただきたいというわけであります。
なお、人員枠で削られるならともかく、門前払いで今後成長の可能性を閉じてしまうという点については、やはりこれはいただきかねるということであります。
その三としては、経済基準や学力基準、いずれにつきましても基準に少し満たない、しかし、本当に必要とすべき、考慮すべき事情の者がおりますので、こういった点については
大学推薦の基準について余裕を与えていただいて、有効に活用されたいということであります。
最後に、私が申しました見解は、ひとり私
どものところだけではなくて、既に関西学院
大学さんが学長要望書ということで八三年五月二十六日に文部
大臣、
日本育英会理事長に出しておられます。また、関西
大学さんも要望書を八二年の十二月二日と八四年の一月二十四日に出しておられるということから見ても、広く
大学関係者の声でもあるということをつけ加えさしていただいて、発言を終わります。