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1983-08-10 第99回国会 衆議院 法務委員会 第2号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年八月十日(水曜日)     午前十時十二分開議  出席委員    委員長 綿貫 民輔君    理事 太田 誠一君 理事 熊川 次男君    理事 中川 秀直君 理事 羽田野忠文君    理事 稲葉 誠一君 理事 横山 利秋君    理事 沖本 泰幸君 理事 岡田 正勝君       今枝 敬雄君    上村千一郎君       大西 正男君    木村武千代君       高鳥  修君    森   清君       山崎武三郎君    鍛冶  清君       安藤  巖君    林  百郎君  出席国務大臣         法 務 大 臣 秦野  章君  委員外出席者         内閣法制局第一         部長      前田 正道君         警察庁刑事局捜         査第一課長   三上 和幸君         警察庁刑事局保         安部保安課長  仲村 規雄君         警察庁警備局審         議官      三島健二郎君         警察庁警備局外         事課長     吉野  準君         法務省民事局長 枇杷田泰助君         法務省刑事局長 前田  宏君         法務省矯正局長 鈴木 義男君         法務省保護局長 吉田 淳一君         法務省入国管理         局長      田中 常雄君         外務省アジア局         北東アジア課長 小倉 和夫君         大蔵省銀行局中         小金融課長   朝比奈秀夫君         厚生省児童家庭         局育成課長   蒲地 清弘君         自治省行政局行         政課長     中島 忠能君         最高裁判所事務         総局総務局長  山口  繁君         最高裁判所事務         総局人事局長  大西 勝也君         最高裁判所事務         総局民事局長  上谷  清君         最高裁判所事務         総局刑事局長  小野 幹雄君         最高裁判所事務         総局家庭局長  猪瀬慎一郎君         日本国有鉄道総         裁室秘書課長  井手 正敬君         日本国有鉄道総         裁室法務課長  本間 達三君         法務委員会調査         室長      藤岡  晋君     ───────────── 七月二十二日  一、刑事施設法案内閣提出、第九十六回国会閣法第八〇号)  二、国籍法の一部を改正する法律案土井たか子君外六名提出、第九十三回国会衆法第六号)  三、最高裁判所裁判官国民審査法の一部を改正する法律案稲葉誠一君外五名提出、第九十三回国会衆法第七号)  四、最高裁判所裁判官任命諮問委員会設置法案稲葉誠一君外五名提出、第九十三回国会衆法第八号)  五、刑事訴訟法の一部を改正する法律案稲葉誠一君外五名提出、第九十三回国会衆法第九号)  六、刑法の一部を改正する法律案稲葉誠一君外五名提出、第九十三回国会衆法第一〇号)  七、利息制限法の一部を改正する法律案正森成二君外二名提出、第九十四回国会衆法第二一号)  八、利息制限法の一部を改正する法律案稲葉誠一君外五名提出、第九十四回国会衆法第四〇号)  九、刑法の一部を改正する法律案岡田正勝君外二名提出、第九十八回国会衆法第一八号)  一〇、裁判所司法行政に関する件  一一、法務行政及び検察行政に関する件  一二、国内治安及び人権擁護に関する件 の閉会中審査を本委員会に付託された。     ───────────── 本日の会議に付した案件  裁判所司法行政法務行政検察行政及び人権擁護に関する件      ────◇─────
  2. 綿貫民輔

    綿貫委員長 これより会議を開きます。  お諮りいたします。  本日、最高裁判所山口総務局長大西人事局長上谷民事局長小野刑事局長及び猪瀬家庭局長から出席説明の要求がありますので、これを承認するに御異議ありませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 綿貫民輔

    綿貫委員長 御異議なしと認めます。よって、さよう決しました。      ────◇─────
  4. 綿貫民輔

    綿貫委員長 裁判所司法行政法務行政検察行政及び人権擁護に関する件について調査を進めます。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。太田誠一君。
  5. 太田誠一

    太田委員 きょうは、ふだん法務行政を周辺で支えているいろいろな団体あるいは個人の抱えている諸問題につきまして、幾つかお伺いしたいと思っております。  まず最初に、保護司の問題についてお伺いいたしたいと思いますが、いま日本には保護司制度というものが定着をしておりますけれども海外にはこういう日本保護司制度のようなものはないというふうに聞いておりますが、制度外国との比較をした場合に、外国では一体どうなっているのでしょうか、そこを保護局長さん……。
  6. 吉田淳一

    吉田説明員 お答えいたします。  外国でもわが国保護司に類似した制度を持っている国は幾つかございます。しかし、そう申しましても、わが国と全く同じような保護司制度というものがあるとは承知しておりませんで、保護司制度は、司法保護と言われていたわが国の戦前の時代からの長い歴史と伝統のもとに生まれたものであると思っております。ただ、最近わが国保護司制度を模範といたしまして、たとえば東南アジアの一部の国においてわが国保護司制度に類似した更生保護制度をとろうとしている国があると聞いております。
  7. 太田誠一

    太田委員 海外では、いろいろな国があるわけですから、もちろん保護司という、似たような制度を持っているところもあるかと思いますけれども、聞き及ぶところでは、基本的にはこれは日本保護観察官に当たるいわゆる行政官がこの保護司の役回りを果たしているというふうに聞いておるわけでございます。ということは、日本保護司制度というのは、いわば本来行政がやる役目をボランティアに依存をしているという形になるかと思いますし、また、それは今日の行政改革考え方というものからいいますと、むしろその方がいいのではないか、すぐれた制度であるというふうにも理解ができるわけであります。  そういう場合に、それにつけても考えられますのは、保護司の現在の活動を円滑に進める上においていろいろな形の実費弁償金といったものがあるわけであります。この実費弁償金の水準と申しますか、これが妥当であるのかどうか。特に民生委員という、似たようなというか、これは全然違うと言えば違うのですけれども末端においては似たような活動をしておるわけでありますけれども民生委員比較をした場合に、その弁償金のあり方というものが若干不足であるというふうな声も聞くわけであります。この辺についてどのようにお考えでしょうか。
  8. 吉田淳一

    吉田説明員 わが国保護司制度は、世界でも非常に冠たるものの一つだと私は考えておるのでございますけれども、その保護司方々わが国では更生保護の面において負うところが非常に大きいと考えております。本来、犯罪者予防更生法によりますと、保護司保護観察官を補って更生保護活動を行うというふうに規定されておるのでございますが、実情はかなり保護司に依存しながらあるいは協力をして更生保護行政をやっている、保護の成果を上げているというのが実情でございます。  そこで、その保護司につきましては、御承知のように保護司法十一条の規定によりまして、給与支給しない、そして予算範囲内においてその職務を行うために要する費用の全部または一部の支給をする、こういうふうに規定されております。  さて、その費用というものがいわゆる実費弁償金と言われているものでございますが、実費弁償金の本年度予算総額は二十二億九千五百四十五万一千円でございます。これの内訳といたしましては、実際に対象者を補導指導するという補導費環境調整費等事件事務関係の諸経費と、それから次に犯罪予防活動のための経費、それから保護司さんたちにいろいろ研修をしてもらうという経費、おおむねこの三つに分かれておるわけでございます。  そこで、これらの経費が果たして御指摘のような民生委員との対比においてどうかというお尋ねでございますけれども実費弁償金というのは、法律にも明らかなとおり、実際に保護司活動をしたその費用の一部または全部を支給するということでございまして、保護司さんにも、事件と言うとおかしいのですけれども保護観察の取り扱った件数が多い人と、病気その他でできなかった人とか、件数の多い少ないによって実費弁償金支給金額がおのずから違うわけでございます。  そういうわけでございますので、多い少ないと民生委員の場合とすぐ比較することはできないのでございますけれども民生委員の場合につきましてはこういうふうに承知しております。本年度予算案におきまして、地方交付税交付金といたしまして一人当たり単価四万一千円が、これは定額、年額でございますが、支給できるようになっております。そのほかに、これだけでは必ずしもないようでございますが、国からのこの交付金以外に地方公共団体から若干の手当支給されているというところもあるやに聞いております。  したがいまして、そんなことでございますので、一概にこれを比較することはできませんけれども、算数的に平均値を出してみますと、いわゆる事件関係経費保護司支給する経費総額犯罪予防活動に協力してもらったというそういう活動経費合わせますと、民生委員手当総額、この四万一千円よりか多少平均額保護司の方が上回るということになっております。しかし、これはあくまでも算数的なものでありまして、実際にどの程度おやりになっているかということにかかってくるわけであります。  しかし、それにいたしましても、私どもといたしましては必ずしもこの実費弁償金金額というものがいろいろな更生保護のためにやる活動のために十分な経費である、あるいは実費であるとは思っておりません。ただし、非常に厳しい財政事情でございますので、私どもとしてはその中でも許す範囲内で今後も努力したいと思いますけれども、基本的にはやはりこの保護司ボランティアの精神でやっていただく、給与支給しないというたてまえをとっている、そのこと自体は保護司さんにも共感を持たれているところだと私は考えております。しかし、それにいたしましても、少しでも実費を支弁、支給できるように今後とも努力をしてまいりたいと思っておりますし、現に、多少ではございますが、少しずつ増額を得ているというところでございます。
  9. 太田誠一

    太田委員 もちろん、これが民生委員にしても保護司さんにしても、いずれにしてもボランティア活動であることには間違いがないわけでして、ただ、いまの地方交付税交付金の算定の場合に民生委員に対して四万一千円ぐらいのことを考え予算措置がなされているということでありますけれども、実際末端に行きますと、各市町村の中でそれぞれ手当をそれに追加をするわけでありますから、たとえば福岡市の場合なんかは、一般の場合で六万円、そして地区総務といった責任のある民生委員になりますと七万二千円ぐらいになっているわけであります。そして、民生委員保護司も、両方ともそれぞれの地域社会の中では非常に似たような方々が似たような役割りを担っておられるわけでありますから、この辺は末端までよく調査をされまして、バランスのとれた実費弁償金が支払われるように願うものであります。  それからもう一つ、これも保護司さんから苦情と申しますか、不満をよく聞く点は、特に実費弁償金の中の補導費でありますけれども補導費の中を三段階に分けて、補導費をそれぞれ評定するという制度になっております。A、B、Cというふうに三段階になっておりますけれども、実際にこの規定を見ましても決して説得力のあるものではないわけでありまして、特にこれが現実運用というのは、実態がどうであるかということではなくて、むしろ予算配分上たとえばAランクのものは一〇%とか、そういうふうに最初から一〇%を超えないように枠を定めてこのA、B、Cというふうにしているわけですから、むしろこのような三段階制度というのは全体の予算総額を抑えるための何か方便であるような気がしてならないわけであります。  このA、B、C三段階制度というのは余り説得力もないものでありますし、これは一本にしてしまった方がいいのではないかというふうに私なども考えるわけであります。この点について、これは前もってお伺いしておりませんけれども、お考えをお聞きしたいと思います。
  10. 吉田淳一

    吉田説明員 まず、民生委員手当との関係につきましては、御指摘の点は十分私どもも了解しておりますので、民生委員手当との関係ばかりじゃなくて、保護司制度全般充実強化のために今後もできるだけの措置を講じてまいりたいと思っております。  そこで、ただいま御指摘のA、B、Cのランク補導費についてでありますが、これは実際問題といたしまして、保護司実費弁償金というものの予算年度当初に定めまして、その上で支給をしていくというたてまえをとります以上、これが後で実際に支給をし過ぎて実費弁償金不足を生ずるというようなことになっては、また保護司さんに申しわけないわけでありますので、一応の基準としてその運用パーセンテージを決めておるのでございまして、それはあくまでも一応の運用でございます。  このA、B、Cが果たして合理的かどうかという点につきましてはいろいろ御批判があるところかと思いますけれども、やはり事件の難易度あるいは対象者との距離あるいは一件についてどの程度期間を担当したか、保護観察期間担当期間、それから対象者と何回接触を試みたかという、そういう幾つかの基本的な実績なりメルクマールをとらえましてA、B、Cという形で支給金額を一応決めておるわけでありまして、これは先ほど申しましたようにパーセンテージについてはあくまでも一応の基準でございますので、ただいま直ちに今後A、B、Cをやめる、あるいは一段階だけにするということには多少問題があるかと思います。  と申しますのは、事件といたしましては、たとえば交通事件のように比較的簡単に済む事件もございますし、相手覚せい剤あるいは暴力団の事件、そういうようなことで対象者と何回も接触する、そういうようなことがある。やはりそこにはおのずから差異があるわけでありまして、そこを何らかのランクを設けてそれ相応の弁償金支給していくというたてまえをとるのは、個々のあれには多少ずれる場合があるかもしれませんけれども、大局的には公平を期する措置ではないかというふうに思っております。  内容についてはさらに検討を加えますけれども、一応いまの御質問につきましては、基本的にはそのように考えておるのでございます。
  11. 太田誠一

    太田委員 もう時間がありませんが、保護司さんの予算定数の確保もなかなかむずかしいというふうに聞いておりますので、ぜひともいまの三段階制度は、別に一本にしなくても結構ですけれども、余り事細かに二回会ったとか三回会ったとかいうことまで定めて、特にAとBの間の違いは全くよくわからないので、二段階ぐらいに簡単化した方がいいのではないかというふうに考える次第でございます。  保護司さんの問題についてはこれで終わらせていただきます。  次に、司法書士に関連する問題を取り上げさせていただきたいと思います。  臨調最終答申に、司法書士登録事務司法書士会に委任をせよというふうな答申が盛られたわけでございますけれども、この機会に司法書士会というものにもっと大きな権限を持たせるといいますか、弁護士会、日弁連までいかないまでも、司法書士さんの団体というものが、もっともっと権威あるものに司法書士会がなった方がよいというふうな考え方も一部にあるようでございますけれども、たとえば自主懲戒制度といったようなものまで含めまして司法書士会の権能を強めるという考え方については、民事局長さん、どういうふうにお考えでしょうか。
  12. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 ただいまお話ございました登録権限委譲関係につきましては、臨調答申に従ってその方向で進めるように検討しております。  その際に、自主的な面を広げたらどうかというお話でございますけれども、私ども司法書士会調査士会が自主的に運営されるということは望ましいことだというふうに考えております。  ただ、具体的な問題といたしましてただいま懲戒権のことが御指摘になりましたけれども、この懲戒権と申しますのは、これはまさに国家の権力の行政処分というものでございまして、これを会に与えるということは、わが国におきましても弁護士会を除いてはないわけでございます。弁護士会につきましては、これはかつても当委員会におきまして議論があったところだと承知しておりますけれども、特別な理由からそのようなことが認められておるわけでございまして、最終的に行政権内閣に属するという憲法上のたてまえからいたしましても、これをにわかに会の方に回すということは少し問題があるのではなかろうかと思います。     〔委員長退席中川委員長代理着席〕  しかし、実際の懲戒運用の問題につきましては、会の方で会員の中で非行がある者については積極的に御調査になって、それを官の方に申し入れていただきまして、そして処理をしていくというふうなことは現にやっておりますし、できる限りの範囲内で会の自主的な立場を尊重していきたいという考えでおる次第でございます。
  13. 太田誠一

    太田委員 いまの懲戒権の問題ですけれども、これは何も司法書士会でもって完全に懲戒権を持とうということよりも、官民合同懲戒委員会のようなものを設置してほしいというふうな要望であるようにも、一部そういう考え方もあるようでございます。  それから、これは正確な報告かあるわけではありませんけれども、たとえば司法書士法違反といったようなものに対して余り毅然たる措置がなされていないというふうにお考えになる人も、司法書士さんの中にはおられるようでございます。その辺にひとつ御留意をいただきたいと思うわけでございます。  それから、いま司法書士さんの仕事のボリュームというものは、一時いわゆる不動産の開発が急速な勢いで進んできた時期には、司法書士さんあるいは土地家屋調査士さんの仕事も急速にふえてきたわけでありますけれども、昨今では少しそのような動きというものが停滞をしておりまして、調査士さんあるいは司法書士さんの仕事伸びが横ばいである、伸びがゼロである、あるいは少し減っているというような報告もあるぐらいでありまして、そういう中でいわゆる法務事務官方々大臣認定でもって司法書士になられるわけでありますけれども、いまこの大臣認定の場合のチェックがどのようになされているか、現状と将来についての展望をお聞かせをいただきたいと思います。  特に近年もうじき大臣認定司法書士さんが大量に生まれるということが予想されておるようでございまして、この点についてあわせて見通しをお聞かせをいただきたいと思います。
  14. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 現在の司法書士は、毎年国家試験を合格する者が約三百八十名であるのに対しまして、いわゆる大臣の特別の認可によって司法書士になる者が二百名前後という数字になっております。この大臣の特別の認可対象者としますと、法律の上では法務事務官とか裁判所書記官とか検察事務官を十年以上勤務した者ということが一つの条件になっておりますけれども、実際の運用といたしますと、十年どころではなくて、最低でも二十五年あるいは三十年というようなところを一つ基準にしておりますし、年齢も五十歳を超える者を原則とするというふうなことで、かなりしぼりをかけて運用をいたしておるのが実情でございます。  なお、今後の問題でございますけれども、御指摘のように数年後から少しずつ退職者がふえていくということが予想される状況にありますので、司法書士会の内部では、その際に大量の者が出てくるのではないかというようなことを危惧する向きがあるやに聞いておる次第でございますけれども退職者がふえますと若干の増加ということはあろうかと思いますけれども、二百名前後という数字が何倍にも一挙にふえるというようなことはとうてい考えられませんし、その辺は全体の状況を見ながらしかるべく認可をしてまいりたいというふうに考えておる次第でございます。     〔中川委員長代理退席委員長着席
  15. 太田誠一

    太田委員 次に、司法書士、そして土地家屋調査士両方から要望が出ておると思いますけれども公共嘱託登記受託という問題であります。  いま全国で登記件数というのが二千三百万件ぐらいあるというふうに聞いておりますけれども、そのうちの推定によると七百万件ぐらいが官公署から発生してくる公共嘱託登記ということになるようでございます。そして、これはただいまのところは、それぞれの官庁の中で官庁の職員の方々司法書士あるいは土地家屋調査士方々がされる仕事をかわってしておられる、現実はそうなっておるようでございまして、ごくわずかのものが民間に、土地家屋調査士あるいは司法書士さんの仕事になって出てきているにすぎないというふうにお聞きをしておるわけでございます。  いまの行政改革理念というのは、民間でできることは極力民間でやらせるんだ、政府がどうしてもしなければならないようなことは政府がやるけれども政府が必ずしもやる必要がないことは全部民間でやったらいいという考え方が実はあるわけでありまして、そうであれば、この公共嘱託登記がもっともっと民間の手に任せられるということが、本来はただいまの時代行政改革理念からいいますと望ましいわけでありまして、そうであれば、どうやってこの公共嘱託登記民間の方で受託をするかというその制度的な枠組みというのがあるかどうかということになるわけでありますが、これについてはいろいろな考え方があると思います。賛否両論それぞれあると思いますけれども、一部ではいわゆる公共嘱託登記受託組織といいますか、社団法人をつくって、法人化をしてこういうものを地域ごと受託をできるようにしたらどうかという考え方があって、それが検討をされておるというふうに聞いておりますけれども、この点について法務省のお考えを聞かしていただきたいと思います。
  16. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 いわゆる公共嘱託事件につきまして司法書士調査士受託をするということは私どもも望ましいと考えておりまして、実は十数年前からむしろ私どもの方からそういう体制をつくることを提唱してまいったわけでございます。そこで、いろんな形で両会で進めてまいりましたけれども、一部はうまくいっておるところもありますけれども、なかなかうまくいっていないところもある。その一つ問題点受託団体の性格、これがいわば個人集合体というようなことでありますと、相手官公庁との関係でどうも法律関係がはっきりしないというようなことが一つの隘路になっておるということが前々から指摘されておったわけであります。したがいまして、いまの公共嘱託事件受託をさらに進める上におきましては、その問題をどうしても検討しなければいけないだろうということで、私どもの方も両会の方も共通の認識に立っておりまして、これを進めるという方向で現在進めております。  ただ、そう申しましても、どのような組織体がいいのか、ただいま財団法人というお話がございましたけれども財団法人がいいのかどうか、そういうふうなこと、それから実際の運用、それから官公庁との関係どもいろいろ考慮した上でうまい方法を考えなければなりませんので、現在検討中でございますが、ともかく前向きに進めたいということでおるわけでございます。
  17. 太田誠一

    太田委員 土地家屋調査士仕事につきまして、この間五十四年に土地家屋調査士法の一部を改正する法律案が採決に付された際の附帯決議の中に、「土地家屋調査士の報酬については、その業務の実態に即して速やかに改善を図ること。」ということになっておりますが、この報酬体系、報酬の水準ではなくて報酬体系の改定については、その後いわゆるその土地の値上がりということが、たとえばその土地家屋調査士さんの仕事では、土地が値上がりしたということが一つの測量ミスみたいなものがあったときにそれをかぶらなければいかぬというふうなことが生ずるわけでありますが、土地の値上がりというふうなものを考慮して報酬体系というものの改定が図られているかどうか、その辺をお聞きしたいと思います。
  18. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 土地家屋調査士仕事と申しますのは、土地と建物の調査でございますけれども、具体的に申しますと、その調査の対象の土地建物の形状とか位置とか、これは千差万別でございます。また、ただいま御指摘のように、時価の非常に高いところもあれば安いところもあるということでございますので、この報酬を体系的に決めるということはむずかしい問題がございます。  報酬規定ということになりますと、大なり小なり類型的にとらなければならないということがありますために、個々の事件についての不満というものは個々の会については常につきまとうことでございますけれども、ただ、なるべく合理的な要素を全部織り込んで報酬を決めていこうということで、土地家屋調査士会連合会と報酬改定の際に十分に協議をいたしまして、いろいろな要素、ただいまおっしゃった時価の関係ばかりではございませんで、いろいろな技術的な要素なども織り込んだ上での報酬体系を築いていくようにということで努力を重ねております。まだ完全なものができ上がったとは思っておりませんので、今後とも連合会の意見も聞きながらできるだけ合理的なものにやってまいりたいと考えております。
  19. 太田誠一

    太田委員 どうもありがとうございました。
  20. 綿貫民輔

  21. 稲葉誠一

    稲葉委員 法務大臣にお尋ねをいたしますが、免田栄さんの再審が無罪で確定をした、このことに関連をいたしまして、法務大臣としてはこのことから、三十数年死刑判決を受けて拘置されておったわけですが、どういうような教訓といいますか、そういうふうなものを考えられるかどうか。それからどこにこの問題点があってこういう事件が起きたのかとか、それからその教訓なり何なりをこの中からどうやって将来生かしていくか、こういうふうな問題について最初に法務大臣のお考えというか、感想をお聞かせ願いたい、こう思います。
  22. 秦野章

    ○秦野国務大臣 免田事件というのは、御案内のとおり、ともかく一審、二審、最高裁まで行って有罪の、しかも死刑の判決が確定をした、それが六回の再審の請求があってそして無罪になったという、私は実に奇妙な事件だと思っております。おっしゃるように、こういったことが繰り返されたらたまったものじゃない。死刑の判決というのは、恐らくは証拠が真っ黒でなければ、有罪の確心に満ちたものでなければ死刑判決というのはできないはずだと思うのです。しかし、再審の結果では、言うならば真っ白、こういう判決です、大体が。  細かなことはまた私自身よりも政府委員の方から御説明させていただきますけれども、そういうようなことで、歳月の長さを考えてみても、率直にこの問題を評価することがしにくい。事件は、無罪ということで確定をいたしました。解決をいたしました。しかし、この事件を顧みて、少なくとも免田さんはもう外側の人ですから、内側の関係の側においては決して解決してない、いろいろ検討、反省という問題があるはずだ、私はこう思っております。まだ時間もそうたっておりませんが、その途上にあるというふうに考えております。
  23. 稲葉誠一

    稲葉委員 いま大臣がおっしゃった検討なり反省、このことについて具体的にはどういう点を検討され、どういう点を反省されるかということは、どうでしょうか、大臣の方からお答え願えないでしょうか。
  24. 秦野章

    ○秦野国務大臣 経過の問題になりますと、私から申し上げるよりも政府委員からお答えさせていただきたいと思いますけれども、一言だけ申し上げますならば、私は、この問題というものは、結局司法制度運用をしている人間、運用の問題――制度が悪いからというふうに一挙に持っていきますと、やはり運用という問題がすっぽ抜けるから、私は、制度論に持っていくことよりも、その前提として、一言で言えば運用といいますか、運びの問題、プロセスの問題、これが大事だろう、こう考えております。
  25. 稲葉誠一

    稲葉委員 私、この事件、率直に言いますと前から注目していたわけです。ということは、ちょうど私が参議院におりましたときに、中垣さんが法務大臣だったことがあるのですよ。そのときに、当時法務省の中に安倍治夫君という検事がおったわけです。これは御案内の方も多いと思うのですが、彼が文芸春秋の昭和三十八年六月号に、「もう一人の巌窟王 免田栄 獄窓に無実を叫ぶ十四年の歳月」、これは匿名になっておりますが、徳明人という評論家というか、それで書いておるので、私はこれを見まして当時のいろいろな人と話をしたりなんかしたことがあるのです。  それはそれといたしまして、事実関係は確定しておるわけで、記録が膨大な記録で恐らく法務省の方でも十分な検討がまだできていないと思いますからあれと思いますが、これはどうも最初の出発点がよくわからないのです。まず、昭和二十四年一月十三日に窃盗被疑事件で緊急逮捕していますね。一月十六日に釈放しているわけです。釈放したその日に追っかけていって、今度は強盗殺人等の事件でこれまた緊急逮捕しているのですよ。これは釈放したのは、勾留請求して勾留が認められなくて釈放したのやら何だかさっぱりわからないのですが、記録を調べればよくわかるのかもわかりませんが、しかもその足で、帰っていったのを途中でまたつかまえて、今度は強殺で緊急逮捕している。これは出発点が非常におかしいですね。     〔委員長退席太田委員長代理着席〕  これはあるいは検察庁がここまで関与したかどうかは問題ですが、しかもその窃盗事件について、ずっときて、公判は強盗殺人の公判をやってきた後で、次の年の一月十六日窃盗事件で公判請求しているのですよ。普通の検察庁の態度としてはこんなことはあり得ないことなんですよ。どうしてこういうやり方をしたのでしょうか。まずそれが第一の私の疑問です。
  26. 前田宏

    前田(宏)説明員 この件につきましては、いろいろといま御指摘のような点もあるわけでございますが、何分にも古いことでございますし、いま稲葉委員も仰せのように記録が手元にないというようなこともございまして、明確なお答えがしにくい点もあるわけでございますが、いまの第一点と申しますか、最初窃盗ということで逮捕をし、その身柄を釈放してまた改めて強盗殺人ということで逮捕をしたという経過はそのとおりでございます。最初の窃盗の事実につきましては勾留請求はしていないようでございます。それ以上詳しいことはなかなかわからない点があるわけでございますけれども、要するに、最初免田氏について強盗殺人の疑いがあるというようないろいろな情報等もありまして任意に事情を聴取した。そして、窃盗の事実が最初に明らかになったので一応――一応といいますかとりあえず逮捕をした。その間並行的に強盗殺人事件の捜査もやっていたようでございますが、逮捕時間が切れるということで窃盗の方は一たん釈放して、改めて強盗殺人事件で逮捕をする、こういうことになったのだろうと思うのでございまして、それ以上の詳しいことといいますのはよくわからないわけでございます。  それから、いま窃盗の事件について大分たってから起訴しているじゃないかということでございますが、それも客観的事実としてはそのとおりでございます。これも何分にも前のことでございまして、当時の経過等は記録を見ても恐らくわからないだろうというふうに思うわけでございます。ただ、この窃盗は、御案内のとおり今度の無罪判決の中におきましても一応この点は有罪ということになっているわけでございまして、それなりの起訴価値のある事件であったというふうに思われるわけでございますから、当然当初から起訴してもよかったと言えばよかったのじゃないかと思いますけれども、これは想像的になりますが、強盗殺人事件で起訴しておれば、その時点では少なくともこれだけでいいのじゃないかというような判断もあるいはあったのじゃないかなというふうに思います。その後追起訴したということになりますと、あるいは考えが変わったのかということになるかもしれませんが、その辺は定かでございません。
  27. 稲葉誠一

    稲葉委員 私は余りこれにこだわるあれはないのですけれども、いまあなたが無意識に言われた、とりあえず逮捕したという言葉が出ましたね。これは明らかに別件の逮捕ですよ、不用意に発言したのかもわからぬけれども。  それから、私が聞いておるのは、一年たった後に、もう強殺の事件の審理がずっと進んでからその窃盗について起訴しているのでしょう。これは俗に突っかい棒と称することですよ。あなた方は使うでしょう、突っかい棒というのを。強殺の事件が危なくなってきているから、ここで窃盗だけでもやっていて、そうすれば全面無罪でなくなるからということでやったことですよ。しかし、これはここではこれ以上論議しないことにしましょう。私はそう思うのですね。これはやり方が余りフェアじゃないですよ。  それはそれとして、再審公判で無罪の判決が出たときに法廷で身柄を釈放された。その法律的な根拠をお聞かせ願いたいというふうに思うのです。
  28. 前田宏

    前田(宏)説明員 結論から申しまして、刑事訴訟法の四百四十二条のただし書きという規定がございまして、その規定によったものでございます。
  29. 稲葉誠一

    稲葉委員 そう言われてもわからないので、その四百四十二条ただし書きというふうなものをかみ砕いて説明をしていただきたい、こう思うのです。
  30. 前田宏

    前田(宏)説明員 刑訴の四百四十二条には、「再審の請求は、刑の執行を停止する効力を有しない。但し、管轄裁判所に対応する検察庁の検察官は、再審の請求についての裁判があるまで刑の執行を停止することができる。」こういう規定に相なっておるわけでございます。  このただし書きの規定の解釈ということになりますが、まず基本的に明確なことは、検察官も刑の執行停止をすることができるということがあるわけでございます。あと、文理の問題にもなるわけでございますけれども、再審の請求についての裁判があるまでという要件といいますか、文言があるわけでございまして、それにつきましていろいろな考え方があり得るだろうと思うわけでございます。  一つ考え方では、この再審の請求についての開始するかどうかの裁判があるまでというふうに考え考え方もあろうかと思いますけれども、そういうふうに限定的にといいますか、狭く解するまでの必要はないので、再審の請求についての最終的な実体裁判があるまでというふうに解することも十分可能であろうというふうに思うわけでございます。  それからもう一つは、刑の執行を停止することができるという点でございまして、この刑の執行停止ということは、たとえば死刑の場合には、いわゆる絞首そのものの停止であることはまず明らかでございますが、そのほかに死刑の執行まで監獄に拘置するというふうな刑法規定になっているわけでございますが、その拘置の執行停止もあわせて、あるいは場合によっては追加してといいますか、そういうこともできるかどうかということが一つの問題であろうかと思います。この点につきましてはまたいろいろな考え方があろうと思うわけでございまして、刑の執行停止というのは、死刑の場合には絞首そのものの停止だけであるというふうに考え考え方も十分あり得るかと思いますけれども、さらにいわゆる絞首の停止とあわせて拘置の執行の停止もできるという解釈もあり得るというふうに考えるわけでございまして、今回の場合にはその後者の考え方をとったということになっているわけでございます。
  31. 稲葉誠一

    稲葉委員 再審裁判で無罪判決があった段階で今度の場合は釈放しました。その前の段階で、たとえば再審開始決定が確定した段階でも同じ条文でやろうと思えばできるのですか、できないのですか。あるいは再審開始決定があった段階もあるし、それが確定した段階もあるし、いろいろ段階があると思うのですが、そういう段階でもいまの条文でやろうと思えばできるのですか。
  32. 前田宏

    前田(宏)説明員 抽象的な解釈といたしましては、そういう場合もやろうと思えばできないことはないという程度の言い方になろうかと思いますけれども、そういうふうに思います。しかし、やはり実態的に考えますと、確定判決が現在現に存するわけでございますので、それに基づいて身柄が拘置されているということでございます。そういう事実は十分重視しなければならないことでございますから、請求があった段階、あるいは開始決定の言い渡しがあった段階、あるいは開始決定が確定した段階におきましてはまだその原確定判決による拘置を解くにはふさわしくないといいますか相当でないといいますか、そういう場合がむしろ通常であろうというふうに思うわけでございます。
  33. 稲葉誠一

    稲葉委員 だから、あなたの言われる論理を貫けば、再審裁判が確定してから釈放するのが筋だということになるんじゃないですか。それがまだ確定してない段階で釈放したのがおかしいんだということになってくるんじゃないでしょうか。だから、これは裁量の問題かもわかりませんけれども、再審開始決定があって、しかもそれが確定した段階ではもう釈放していいんですよ、普通の場合は。そういうふうに私は考えるのです。  それが一つと、同時に、再審裁判のことは私自身やったことがないからよくわかりませんけれども、その執行を停止しますね。再審のいつの段階で執行停止の決定が下るのか。死刑の執行を停止するということになれば、それが主でそれに伴う拘置というのは従の要素的に考えられるわけですから、従物、主物の考え方はおかしいですけれども、当然主たるものの執行が停止されればそのときに従たるものの執行も停止されていい。こういうのは常識的に考えられていいんじゃないでしょうか。そうなれば、死刑の執行を停止したということになれば、それに伴うところの拘置も当然停止してもいいということになってくるんじゃないでしょうか。
  34. 前田宏

    前田(宏)説明員 稲葉委員がいま恐らく裁量の問題であろうからとおっしゃったのを援用するわけではございませんが、まさしく裁量の問題であるわけでございます。したがいまして、ケース・バイ・ケースと申しますか、事案に応じ、また訴訟の進行状況に応じてその事件ごとにふさわしい措置をとるべきものと考えるわけでございまして、いま稲葉委員が仰せになりましたような議論が学者等におきましてもあることは十分承知しておりますけれども、私どもといたしましては、開始決定が確定したら直ちに釈放すべきものだというふうには考えておりませんし、また、いわゆる主従の関係に当然になるものというふうにも考えていないわけでございます。
  35. 稲葉誠一

    稲葉委員 裁量の問題だということは、現行法では裁量の問題というふうに考えられる余地があるというふうに私は言ったつもりですけれども、そこをしっかりとした明文で置くという考え方はないわけですか。はっきりしておいた方がいいのではないでしょうか。
  36. 前田宏

    前田(宏)説明員 抽象的に申せばすべてはっきりした方がいいということは間違いないわけでございますけれども、いつぞやお尋ねもあったかと思いますが、たとえばここのところについてだけちょこっと手を入れるというわけにもまいらないような気がするわけでございます。  と申しますのは、稲葉委員に申し上げるまでもないと思いますけれども、再審事由もいろいろ多岐にわたっておりまして、すべてが無罪の可能性を持っている場合ではないわけでございます。したがいまして、開始決定があったということで直ちに釈放するというふうに、非常に単純にといいますか改正するというわけにもいかないわけでございまして、全体的な再審事由との関係あるいはその審級の問題等も含めた再審制度全体を眺め渡した上でないと、この問題についてもはっきりした規定が設けられないのではないか。ただ、考えますに、いまもちょっと申しましたように再審事由はいろいろと多岐にわたるわけでございますし、事案もいろいろ違うわけでございます。また、裁判の進行状況、その間における裁判所の決定なり判決なり、またいろいろと違うわけでございまして、そのいろいろの場合を果たして十分に類型化できるだろうかという問題があろうかと思います。
  37. 稲葉誠一

    稲葉委員 いま再審の問題についていろいろ問題があると言われるのですが、そうすると、再審の問題について現行法上どういう点が問題になっておるというふうにお考えでしょうか。そして、それに伴って再審法の改正に関連をしてはあなた方としてはどういうふうに考えておられるのかということですね。
  38. 前田宏

    前田(宏)説明員 同じような趣旨のお尋ねを受けたような記憶がございますけれども、先ほど大臣もお答えになりましたように、現行法というものがそれなりの規定を持っているわけでございます。それが果たして適当であるのかどうか、改正を要するのかどうかということになりますと、その前に運用について問題がないかどうか。逆に言えば現行法でやっていけないかどうかということを十分に詰める必要があろうと思うわけでございます。  その点がまず先決であろうと思いますし、またこの再審制度につきましては、従来から日弁連なりまた社会党の御提案等もあるわけでございます。そういう点もありますし、また最近のいろいろな事象にかんがみまして、学者等の方からもいろいろな御意見が出ているわけでございます。そういう点を全体的に、総合的に考えまして、どこに問題があるか、改正の要否ということを十分慎重にかつ真剣に考えていきたいと考えております。
  39. 稲葉誠一

    稲葉委員 いま答弁の中で、どこに問題があるかということを慎重に考えていきたいという話がありましたね。それと改正の問題とあるわけですけれども、改正は改正として、どこに問題点があるかということ、これはあなた方の方ではもう十分に研究をして把握をしておられるのではないですか。それをどうするかは別ですよ、どうするかを私は聞いているのではなくて、どこに問題点があるかということについてはあなた方の方としてお答えできるのではないですか。
  40. 前田宏

    前田(宏)説明員 その点も前々から何回かお答えしたような気がしたので、はしょって失礼いたしましたけれども、従来から特に言われておりますのは、再審事由をもっと拡大するというか緩和すべきではないかという点が一つあるわけでございます。それから特に稲葉委員が何回か御指摘になったと思いますが、検察官が不服を申し立てる抗告を認めるべきではないのではないかという点も一つあると思います。そのほかいろいろ手続的に細かい点もあるわけでございまして、問題点は社会党の御提案の法案でも、いわば網羅されているというふうにも思うわけでございますけれども、これまでの時点では、今度のいわゆる免田事件のような切迫したといいますかいろいろな問題が顕出されてきたといいますか、そういうことがない一種の抽象論といいますか、そういう状態で議論がされていたように思うわけでございます。  片やいわゆるラジオ商殺し事件等で、亡くなった方に対する再審という問題も起こっているわけでございまして、従来議論されていただけで果たして十分であるかどうかというふうに思うわけでございます。  たとえばいまの検事抗告の問題についてだけ考えてみましても、それだけをいいとか悪いとか論ずるのは必ずしも適当ではないので、なぜそういう仕組みに再審制度がなっているかという基本に立ち返って見直してみる必要も一面にはあるのではないか。つまり、現在は再審請求が一審にありますと、それについてどちらかの決定がある、それについて当事者のいずれからかまた不服の申し立てができて、場合によっては最高裁判所まで不服の申し立てができる、そこで再審開始決定があった場合に初めて再審開始になって、それから再審公判が始まる。それがまた三審制でいくという過程をとっておりますし、今度の身柄問題の前提でも御議論がありましたように、原確定判決と再度の再審裁判との関係、そういう問題もなかなか解決困難な問題を含んでおりますが、それもいわば最高裁まで行った事件が一審でまた無罪になる、そういう構造をとっていることによるおかしさといいますか疑問、そういう点もないとは言えないわけでございますし、また、そういう再審開始決定までに場合によっては三回要するし、また再審の裁判で有罪か無罪か決定するまでまた三回の裁判が必要だというようなことによる時間の経過といいますか、所要時間というようなこともあるわけでございます。  それやこれや考えますと、従来議論されておりましたような再審事由の緩和であるとか手続面での整備であるとか、そういう言葉が適当であるかどうかわかりませんけれども、いわゆる現象的な面だけの問題じゃなくて、この再審制度そのものがどうあるべきかという基本に立ち返って、御案内のとおり旧々刑訴から旧刑訴に変わり、現行刑訴に変わったといういきさつも十分必ずしも定かでないわけでございますし、外国の立法例等もいろいろあるわけでございますので、そういう再審制度の基本に立ち返った見直しというものが必要であろうというふうに実は考えておりますけれども、まだその方向をどのように考えたらいいかというまでには私ども考えも固まっていないといいますか、勉強が十分できていないという状態でございます。
  41. 稲葉誠一

    稲葉委員 この問題の中では、結局いわゆるその新規性と明白性ということが問題になってくるわけですね。  その新規性ということについて、日本の再審の場合は非常にやかまし過ぎる、厳格過ぎるということになってきておるのではないでしょうか。白鳥決定以後それは多少変わってきたかもわかりませんけれども、たとえばこの中で安倍治夫君、これは安倍治夫君が書いたのかどうか、本人の名前は出ていませんけでども、これは恐らく法務省には顕著な事実だと思うのですけれども、私にも顕著な事実ですからあれですけれども、その中で言っておりますことは、結局この免田事件についても「弁護側として唯一の起死回生の策は、証拠品の血痕について再鑑定を求める以外にはない。再鑑定はフランスでは新しい証拠になるが、日本でもそう解すべきだ。(フランスのヴァレー事件について安倍治夫検事著「新刑事訴訟法における均衡と調和」二二六頁参照)」こうあるのです。  実は私もある人からこの本をもらったのです。名前は言いませんけれども、ある先輩からこの本をもらって、よく読んでみろと言われたのです。とにかく非常にむずかしくてよくわからなかった。皆さん方にはわかるでしょうけれども、僕らとてもむずかしくてよくわからないのですが、これはどういう意味でしょうかね。これが一つですね。これは法律論ですね。  それからもう一つの事実論としては、ここで証拠品がなくなってしまったということが出ているのですね。上着ですか、これははっぴですか、チョッキ、マフラー、なた、これらの証拠品がなくなってしまった、こういうのですが、これは具体的にどういうことなんですか。これは事実論ですね。前のは法律論、後が事実論といいますか、二つの点について。
  42. 前田宏

    前田(宏)説明員 安倍元検事の論文等の中でフランスの刑事訴訟法で新しい鑑定が即再審事由になるというような記載があるようでございます。  ただ、必ずしも十分定かでない点もあるわけでございますけれども、そこで引かれておりますいわゆるヴァレー事件というのでしょうか、何かその事件は脅迫事件でございまして、まず第一の人が脅迫の手紙を送ったということで有罪、罰金になっている、ところが、犯人は自分ではなくて別人だということで、その第二の人を私人訴追をした。その私人訴追につきまして裁判所が問題の手紙の筆跡鑑定をやりまして、その筆跡はいま言った別人であるらしいけれども、その確証もない、確認もできないということで、その別人の方を無罪にしたようでございます。そしてその無罪判決が確定した、無罪判決になったということ、それで、裁判所がそのように別人らしいというふうに認定をして無罪にした、そういう認定事実と申しますか、それを再審の事由の新事実ということで第一の人についての再審が認められたという経過をたどっているようでございまして、いわゆる再鑑定が即その再審事由になるということではどうもないように思われるわけでございます。  フランスの刑事訴訟法では、一応の訳でございますけれども、「刑の言い渡しがあった後、その言い渡しを受けた者の無実を証明すべき事実が生じ、もしくは発見されたとき、または弁論の際知られていなかった同性質の証拠があらわれたとき」というふうに、日本語訳では「事実が生じたとき」という訳にもなるような表現であるようでございまして、その辺は日本の刑訴と文理的にも少し違うように思われるわけでございます。  あとは若干想像になりますけれども、そういう再審事由の条文があって、そういう条文の解釈、適用の問題といたしまして、さっきのような脅迫の手紙についての犯人がだれであるか、筆跡がだれであるかということが問題になって、結局両方ともよくわからないということになった結果だと思いますけれども、そういうことで再審になったという一つの特異な事例といいますか、そういうことであって、必ずしも一般的な問題ではないのではないかというふうに理解しておる次第でございます。(稲葉委員「後の証拠品はどうしたの」と呼ぶ)  それから第二の証拠品の問題でございますが、これも相当前に問題になりまして、国会で当時御説明をした経過があるようになっておりますが、またその点について民事訴訟も起こされておりまして、この事件は国が二審で一応負けて、現在まだ上告中であるというふうになっておりますが、これは原告の敗訴部分についての原告の上訴があったということでございます。そういうことでまだ民事事件における最終的な結論が出ていない点もあるわけでございますが、その当時も御説明をしましたように、問題は三つの証拠品があるわけでございまして、凶器に使ったというふうに言われておりましたなた、それからいわゆる着衣としての上着とマフラーという問題があるわけでございます。  このなたとマフラーについては、これは時期がまたはっきりしませんわけでございますが、廃棄処分にしている。それから上着については、どうもよくわからない点がありますけれども、検察庁における保管が不適切で紛失したということに相なっているわけでございまして、その点は当時も、大変遺憾なことであるというふうに御説明をさせていただいているところでございます。
  43. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまの本はむずかしくて私もわからないのです。  そこで、問題は前に返るのですけれども、確定有罪判決の効力は再審開始決定の確定により消滅するのか、それとも再審判決の確定により消滅するのかということについていろんな説がありますね。大きく分けると大体三つぐらいありますかな。そうすると、念を押すことになるのですけれども法務省としてはその説のうちのどれをとっておるわけですか。
  44. 前田宏

    前田(宏)説明員 その点につきましては、従来からいろいろな場でお答えをしたことがあると思いますけれども、結論から申しますと、少なくとも現段階におきましては、再度の判決の確定によって初めて効力を失うというふうに考えているわけでございます。
  45. 稲葉誠一

    稲葉委員 これはいまのところの通説ですね。これは、いまもあなたもおっしゃったとおり、現在のところという話がある。現在のところの通説はそのいまの説ですよ。これはだんだん変化していっておることは御案内のとおりですね。だんだん、その再審開始決定の確定と確定有罪判決の効力との関係についてそう厳格に解さないで、全体的な考慮の中で問題を解決しようという動きが新しい学説の中に出てきておる、これは御案内のとおりだと思うのですが、いずれにいたしましても、今後は再審裁判の中で無罪判決があればそこで身柄を釈放するということは一つの大きな例になる、あるいは重みを持っているという言葉がいいですか、そういうふうに理解をしてよろしいですか。
  46. 前田宏

    前田(宏)説明員 今回のいわゆる免田事件につきまして、検察当局がとった措置というものが事実そのとおりあるわけでございまして、それをどのように評価されるかということはそれぞれの評価の問題であろうと思いますので、私から申し上げるのは適当でないと思います。  それから、いわゆる法律解釈の問題といたしましてだんだん変化してきているということは言えるかどうかと思いますが、そういう説があるということは十分承知しておりますけれども、これもさっき申し上げましたように、再審事由、いろいろあるわけでございまして、再審開始決定になったら直ちに原判決は消滅するというふうに、そう簡単にはいかない問題じゃないかというふうに考えておりますので、一言つけ加えさせていただきます。
  47. 稲葉誠一

    稲葉委員 これは、大臣はもうさっき免田栄さん――私がそういうふうに言ったからかもわかりませんが、免田栄さんという言葉を大臣も使われましたね。そこで、これはちょっと関係ないというか別のことになるのですけれども、伝えられているところでは、何か大臣が、どういう趣旨なのかどうもよくわからないのですが、刑事被告人になった人に対して呼び捨てや何かにする、そういうようなことはどうも、どういう意味かな、考え直さなくちゃいけないとかなんとかという意味のことを言われて、何か個人的な諮問をされたとかなんとかということが一部に伝えられているのですね。ちょっとあなたの本当のお気持ちというか、そういうのがよくわからないものですから、この機会にむしろはっきり説明していただいた方がいいのではないかと私は思うものですから、お聞きするわけです。
  48. 秦野章

    ○秦野国務大臣 いまの御質問の問題は、刑事被告人、有罪判決が確定する以前の刑事被告人というものは、確定する以前は無罪を推定されるという国連が採択した人権宣言、これがあるわけですね、無罪を推定するということがある限り、刑事被告人だからといっていかにももう犯罪者だというふうに一律に扱うことは問題があるだろう。しかし、一般的に言って、たとえば殺人事件だとか、かなりはっきりしているような現行犯、準現行犯みたいなそういうようなものは、これはやはり常識で判断せにゃいけませんから、一律に判断することは問題なんだ。社会常識というか、一般の社会的な人々の意識というものを前提に考えるならば、新宿のあの放火事件だとか、あるいは深川にございましたね、あれも現行犯的につかまりましたけれども、ああいうものまで何も敬称をつける必要はないと私は思うのですよ。  ただ、とにかく逮捕されたらもうそれが有罪だというふうに印象づけるような報道というものは決して好ましいものではなかろうという感じが私はしますので、これは少し論議をしたらどうだろう。私は、論議をする一石を投ずる意味なんだ。別に、それに法務省基準をつくるとか、法律をつくるとかいったようなやかましい問題じゃなくて、これはやはり一石を投ずる必要があるなと思ったから私はそういう発言をしたんだ。法務省にも人権の関係委員会もあるし、そういうところで議論をしてもいいし、あるいは外国が一体どういうような扱いをしているかという問題なんかを拾って研究をして、それを皆さんにお示しすることだけでも意味があるというふうに思うのですよ。そういう意味で申し上げた。  たとえば、これは一番手近な例ですけれども、この間、福岡の知事の選挙のときに奥田夫人がお布施を何千円配ったとかいう事件がありましたね。逮捕になった。あれが、テレビでも新聞でもそうだけれども、一遍に呼び捨てですわな。そんな全国に向かってそれほど宣伝する大罪人だとはだれも思っちゃいませんね。それは呼び捨てにする必要はないではないか。やはりあれも結果的には略式罰金だったでしょう。あれは全部呼び捨てでしたよ、私はテレビを見ていても新聞を見ても。やはり事件にもよるし、いろいろケース・バイ・ケースで若干の違いはもちろんあるんだけれども、一般論としてそういう問題をひとつ討議するということ自体に私は意味があると思っている。  それからまた、これを扱っておられるマスコミの方々も、内心やはり多少疑問を持っておられる人があると私は思うんだよ。つかまったら全部呼び捨てだという大原則はどこにもないわけだから、やはりいささかの疑問もあるのではなかろうかということで、問題提起ということで私は言っているわけでございます。その辺のところは論議をしてもらった方がいい、やはり民主主義社会において人権というものは大事だし……。  それから、私はこの間、北海道の月形の刑務所というのを視察に行きました、ちょっと余談になりますけれども。このごろの刑務所というものは大変よくできているんですよ。しかし、自由が拘禁されてその中に入れば、懲役なら働かされるということもあるけれども、ああいう刑務所に入って働くことといっても、日本の昔の人間が働く働きなんかよりはるかに軽いと私は思いますよ。それから、下手な東京の場末のアパートなんかよりもましな住まいですわ。ただ、自由が拘禁されるということに苦痛があるのだけれども、しかし、もっともっと大きな苦痛は何だろうといったら、あそこへ五年間なり三年間なり懲役でもって入るのだということがマスコミに載っかりますね、そしてその社会的制裁の方がはるかに重いな、私自身が月形に三月懲役で入れといって入ったって、新聞に出ないんじゃ、ちっとも苦痛じゃないなと、率直に言ってそういう感じを持ったのです。だから、そういう意味においては、私はこの問題はやはり検討の余地があるだろうというふうに思って発言をしているわけでございます。そういうわけでございます。
  49. 稲葉誠一

    稲葉委員 そうすると、涜職事件なんかでつかまった人をまるで有罪のようにして呼び捨てにするのはけしからぬということにもなるわけですか。
  50. 秦野章

    ○秦野国務大臣 だから、ケース・バイ・ケースと先ほど申し上げておりますけれども、何罪とか何かということは必ずしも一概に言えないと思いますけれども、あえて言うならば、凶悪犯なんかで、しかもそれが余り争いの余地がないような歴然たる現行犯や準現行犯に近いようなもの――やはり三十四年もたって無罪になるようなこともあるのだから、本当は死刑になるような人でも、あるいは「さん」をつけた方がいいかと思わぬでもないけれども、しかし、世の中の常識というものは、やはり殺人や凶悪犯なんかでもって現行犯、準現行犯的なものなんかは敬称をつけるということも、これは人々の心にどう映るであろうか、そういうふうに思うわけです。したがって、やはりそこにも常識の線でもって決められていく問題が、あくまでもボーダーラインがあろうかと思います。
  51. 稲葉誠一

    稲葉委員 その常識の線ですけれども、あなたの常識と私どもの常識と、これは各人みんな違うかもわからないですね。たとえば田中角榮、何と言ったらいいのかな、氏というのか元首相というのか、あるいは被告人というのか、いずれにしてもそれを呼び捨てにしたりなんかして、判決の出ない前にいかにも有罪扱いしている。そういうのは、あなたとしてはどうにも腹に据えかねるとは言わないかもわからぬけれども、とにかく人権上どうも問題がある、こういう理解の仕方ですか。
  52. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私も、あのことを言い出す前に、自分自身で過去を、戦後の状況を調べてみました。芦田さんがつかまったときには芦田元首相とかそういう新聞記事でしたよ。それから、参議院で社会党の方がつかまったことがある。これも何々議員と書いてありました。だから、こういうものにも世の中の移り変わりがあるのかもしれませんけれども、公判廷に関する記事、事件に関する記事を書かなければならぬときに、何々被告、だれそれと、敬称をつけなくたっていいのじゃないですか。  しかし、いまおっしゃった田中事件についても、マスコミの経過を見ると初めといまでは違います。初めは呼び捨てが多かった、このごろはちょっと元首相とか、そういうふうにつけるようになったという経過を見ても、確かに常識は人によって違うと言えば違うかもしれませんが、人権という問題については、おのずから常識というほかはないような問題である程度の考慮が働いてしかるべきじゃないのか。私は、国連が採択した有罪の確定判決が出るまでは無罪を推定するというあの人権宣言というものはやはり大事じゃなかろうかと思ったので、私の発言になっているわけでございます。
  53. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまの大臣の答弁については、それに伴ってどういうアクションがあるか、それは私の方もよくクールに受けとめて、そしてまた別の機会にお聞きをしたい、こういうふうに考えております。  この免田さんの事件については鍛冶委員もお尋ねになるということでございますし、私はまだほかにもいろいろありますからこの程度にさせていただきます。ただ、この事件のいまの大臣の言葉を聞いていると、最初に三十何年間死刑のあれで入っていてそして無罪になったのだ、それに対して一言免田さんに済まなかったという言葉は出ないものでしょうか。これはどうなのでしょうか。
  54. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私は、さっきちょっと奇妙な事件という言葉を使ったのですけれども、三十四年ですか、一審の死刑の判決が出て三十二年、そして一審、二審、三審、最高裁までとにかく死刑という重い判決が下ったことも歴史的事実でございますね。それが無罪になった。無罪になったのだから、無罪という最終的な事実に即して評価するほかはない、評価すべきだと私は思うのですよ。  だけれども、そう簡単な事件でないということを頭の中に置きますと、私どもとしては、司法関係を含めて官憲全部が痛烈な反省をしていかなければならぬ問題だということが先立つわけでございます。そういう意味で申し上げておるわけでございます。
  55. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまのお答えについても、私もいろいろ考えがあるのですけれども、時間の関係もあって、別の質問に移らせていただきましょう。  これは民事局関係ですね。国連の婦人の差別撤廃条約というのがあるわけですが、これに伴いまして、国内法はどういう点が問題なのか、国内法についてどういうふうに考えていくのかということについての御説明を願いたいと思います。
  56. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 私どもの所管しております法律で婦人差別撤廃条約との関係で問題になりますのは、まず第一番目に国籍法でございます。これは現在のところ父母両血統主義を採用するという方向検討を進めております。なお帰化の関係につきましても、配偶者がどちらであるかということによって差異のないようにという方向検討を進めておりまして、これはいずれの時期かに改正法律案を御審議願いたいと考えておる次第でございます。  もう一つは民法でございます。条約の十六条の一項(a)に、婚姻について同一の権利ということを認めるようにということがうたってあるわけでございまして、この関係で問題になりますのは、民法の七百三十一条の婚姻適齢の問題と、それからもう一つは七百三十三条の待婚期間、再婚禁止期間と申しますが、この二点だろうと思います。この民法の関係につきましては条約に抵触するものであるかどうかということがまず最初に問題になるわけでございます。  御承知のとおり十六条は、ただ裸で同一の権利と言っているわけではございませんで、その前文として婦人の差別を撤廃する措置一つとして特にということで挙げられておるものでございます。先ほど申し上げました民法の婚姻適齢の問題と待婚期間関係が婦人の差別の問題であるかどうかについては、これはいろいろな見方があるわけでございます。私どもは、形式上は男女の取り扱いが違うということは明らかでございますけれども、それが差別につながる規定であるかどうかということについては若干疑問を持っております。したがいまして、外務省とも最終的には詰めまして抵触条項になるかどうかということを決めなければなりませんけれども、私どもの立場といたしますと、いずれにいたしましても、この七百三十一条の規定と七百三十三条の規定が民法独自の見解から改正の必要があるかどうかというような面で検討する必要はあろうかというふうに考えております。そういう面で法制審議会の民法部会の身分法小委員会におきましても先生方の御意見を聞き始めておるわけでございますが、御承知のとおり、いずれにいたしましてもいろいろな問題がございますので、その検討には若干の時間が必要であろうかと考えております。
  57. 稲葉誠一

    稲葉委員 いまのお話は、国籍法の問題は来年の通常国会に出したいということですね。それから結婚年齢は、いま男が十八、女が十六ですね。それと再婚禁止期間が六カ月ということですね。これは女性だけにあるということの問題ですね。わかりました。  そこで、今度は外国登録法の関係、特にいま問題となっております指紋の問題を中心としてお聞かせを願いたいというふうに思うわけなんです。  私が最初にお聞きしたいのはこういうことなんです。帰化の場合に、どういうときに十指の指紋を押すことになっているのですか。
  58. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 帰化の場合には、実際には帰化をしたいとおっしゃる方が法務局へお見えになりまして、いろいろ相談をして、いよいよ正式に帰化の申請をしようということで申請書をお出しいただきます。その際に指紋を押していただくという扱いにいたしております。
  59. 稲葉誠一

    稲葉委員 どうしてそんなことをするのですか。ちょっとよくわからないのですね。そんな必要はあるのですか。
  60. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 外国人の場合には本人の同一性というのが非常に判別しにくいという面がございますので、したがいまして、後々法務大臣の帰化許可になった者がこの本人に間違いないということの確認資料としてとるという扱いにしておるわけでございます。
  61. 稲葉誠一

    稲葉委員 帰化申請のときですよ、いまの話は。帰化申請のときはちゃんとあなたの方に写真がついている。古いのがついている場合もあるけれども、大体それを見ればわかるわけですね。何も帰化申請のときに十指の指紋を押させることはない。それが嫌だというので帰化をしない人もいるでしょう。これは名前は言わないけれども、ある著名な女の方が、それが嫌だと言って帰化をやめてしまったということも言われているわけですよね。ちょっと私、どうもこれはわからないのですよ。そうするとあれですか、帰化になってしまうというと、その指紋用紙はどうするのですか、廃棄してしまうのですか。
  62. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 帰化になりますと、その関係書類の中にとじられたまま法務省の所管課で保存をするということにいたしておりまして、これは外部に出すものではございません。
  63. 稲葉誠一

    稲葉委員 それはプライバシーの問題だから、外部に出すものでないことはわかりますけれども日本人になってしまったんでしょう、日本人になってしまったのに、あなたなぜ指紋をとっておるのですか。
  64. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 これは本人の特定認識の問題でございまして、(稲葉委員「もう帰化になっちゃったんだよ」と呼ぶ)もちろん帰化になれば、なるわけでございますけれども、それは帰化になった者が、帰化になった対象の人物その者であるかということの同一性を確保する必要があるだろうということでとっておるわけでございます。
  65. 稲葉誠一

    稲葉委員 それはおかしいですよ、帰化になれば日本人になってしまうのですもの。日本人になったのに、十指の指紋を押したものがそのまま置かれているというのは筋が通らないですよ。そんなものは当然廃棄すべきですよ、日本人になってしまうと。帰化の取り消しなんて認められてないでしょう、いまの日本法律で。そんなのおかしいんじゃないですか。
  66. 枇杷田泰助

    枇杷田説明員 そのような御意見はかねがねあることは承知いたしておりますけれども、ただ生来の日本人の場合には、戸籍とかその他血縁、地縁の関係で本人の識別ができるというふうなことが前提になっておりますけれども外国人の場合にはその立証方法がつかないということもたまたまあるわけでございます。したがいまして、その指紋をとっておくということが同一性の識別のために必要であろう、要するに身がわりみたいなものがあってはならないということからそのような措置をとっておるわけでございます。
  67. 稲葉誠一

    稲葉委員 ちょっと私よく理解できませんけれどもね。  そこで、よくわからないのですが、日本の場合は、たとえば五年なら五年に一遍指紋をとるとか切りかえどきにとるとか、いろいろやっていますね。アメリカでは一遍とったら終わりだということを言っている人がいるのですよ。だれが言っているのか別として、その人がここにいるのかどうか知らぬけれども、そういうことを言っているようなのですね。どうなんですか。どういう理由なんですか。
  68. 田中常雄

    ○田中説明員 お答えいたします。  米国においては移民法第二百二十一条に基づきまして、米国に入国申請をする時点において指紋を押捺するということが義務づけられております。そして、押す指紋は二十指でございます。十指、それは個々に押しまして、その後でまとめて十指押すという意味において二十指の指紋を押します。それで、その中で短期滞在者、一年を超さない者は指紋押捺義務がございません。それからまた、相互主義の原則がございまして、指紋押捺を義務づけてない国の人に対しては指紋押捺義務を免除しております。その他外交官等は特別の取り扱いでございます。それで、米国においては、その指紋をレジストレーションカードの中に一指押させておりまして、それ一回限りで、二回目からの指紋の押捺の義務はございません。ただし、米国の法律には切りかえ申請の制度が明確に書いてはございません。  しかしながら、米国は、町に偽造外国登録証が出回っているというようなことを察知したような場合においては、移民局の権限で一斉切りかえをいたしております。たとえば最近の一斉切りかえは、一九七五年から八一年までの五年間にかけてレジストレーションカードを一斉切りかえいたしました。その一斉切りかえした場合においては、改めてそこにおいて指紋を押させております。その場合においては左手の人さし指の一指でございます。だから、法律には書いてございませんが、実際上法務省及び国務省が合同してそのようなアクションをとっております。
  69. 稲葉誠一

    稲葉委員 私の聞いているのは、日本外国登録法というのはアメリカの移民法をほとんど敷き写しにしたものでしょう。アメリカのあれを手とり足とりして教えられたのだというふうに言っている人がいるのですよ。それはそのとおりなんです。ところが、アメリカの場合は、いまの場合で言うと法律的には一遍やればいい。日本の場合には定期的にやるんでしょう。いまは何年置きになるのか、五年置きになるのかな。今度は昭和六十年になりますね。六十年に大体三十万人くらいやる人がありますね。どうしてそういうふうに違うのかと言うのですよ、僕の言うのは。手とり足とりしてアメリカの移民法か何かをほとんど敷き写しにしたのが日本外国登録法だとあなた方の方で言っている人もいるし、そういうふうに言われているのだから、その点が非常に食い違うのですよ。どういうわけでしょうかと聞いているのです。
  70. 田中常雄

    ○田中説明員 お答えいたします。  指紋原紙及び登録原票に指紋を押させ、そのときに登録証明書に指紋も押させます。そして五年ごとの切りかえ申請のときに再び指紋を押すわけでございますが、そもそも指紋を押すのはその本人の同一人性を確認するためでございます。そして旧法におきましては、外国登録証は外国へ行くときには全部関係の役所に置いていくことになっておりましたが、最近は改正されまして、全部国外に持ち出すことができるようになりました。毎年二十何万人が外国へ再入国許可証を持って出ていく際に登録証明書も持っております。その最中において人間がすりかわられるという事実もあり得ると思います。そのために、指紋を押す以上、五年ごとにもう一遍指紋を押させて、本人同一人性を確認するということが外国登録法を的確に施行するために必要だと考えております。
  71. 稲葉誠一

    稲葉委員 同じことを何回聞いてもあれですけれども、アメリカの場合は定期的じゃないというでしょう。一回だというでしょう。それは何かたくさん入ってきたときにはやるというのはあるけれども、アメリカだといま一千万人くらい不法入国者がいるとかなんとか言っているでしょう。恐らく率直な話、英語を話す国民ではないですね。主としてスペイン語を話す国民でしょう。そういう人たちがいるというのですね。日本の場合だけどうして五年ごとにやるのか、定期的にやる必要があるのかと言うのですよ。何もやる必要はないじゃないですか。あなたのいまの説明でもなかなか納得できるような説明じゃないでしょう。理屈をくっつければ、アメリカはうんと広い、それでたくさんいて大変だからという理屈はつくかもわからぬけれども、アメリカは一回しかやってないというのは、指紋が変わるわけじゃないのですから、一回でいいのじゃないか、こう言うのです、私の考え方は。  それに対してあなたの方は、いま言ったようないろいろな理屈を並べているけれども、結局これは前から出ておる外国人を管理していくという考え方だ。管理というのはコントロールだと言うんでしょう、あなた方の考え方によれば。そのために流れか何かあって、その流れを的確につかまえるためにコントロールするのだということをあなたの方で言われておるということから来るのですけれども、何か私には筋が合わないように考える。何も五年ごとでなくたっていい。それはあなた方の立場から言うと、いろいろな犯罪者、密入国者なんかを見つけるためにやるということになるのでしょうが、アメリカでは一遍しかやらないというのなら、一遍しかやらないでも指紋は変わるわけじゃないのですから、それでいいのじゃないかと私は思うのです。ここで押し問答しても始まりませんけれども、後でまた答えがあれば答えていただきたいと思います。  もう一つ、大阪でこういう事件がありましたね。最近、日本の高等学校の二年生を含めた一家全部で五人の人たちが夏休みに墓参を兼ねて韓国へ行こうとした。それで再入国を申請した。協定移住の人、一二六の人ですね。僕は、協定移住の人は何も再入国申請までしなくてもいいのじゃないかという考え方を持つのですけれども、これは別として、再入国の申請をして一たん許可された、そうしたら後から取り消しだ、こう言ってきたという。この間の経過はどういうことなんですか。
  72. 田中常雄

    ○田中説明員 御説明いたします。  七月十一日、大阪入管局におきまして、金智隆さんの父親が家族五名――両親、本人、兄、弟でございますが、この五名の再入国許可を申請いたしまして、大阪入管局は同日、右家族全員に対して再入国を許可いたしました。そして七月十二日、その家族のうちの金智隆さんが本年二月二十二日、東大阪市役所において登録事項の確認申請をした際、指紋押捺を拒否したものであるということが判明いたしました。この二月二十二日に金さんは十六歳になったわけでございます。大阪入管局は翌十三日に同人に対して再入国許可処分を取り消し、その旨を同人の父親に連絡いたしました。また、念のため十四日に処分取り消しの通知書を送りました。  それで、御指摘の点でございますけれども、従来から在留外国人在留管理行政上、現に法違反の状態にある外国人に対しては、再入国許可の申請がありましても、人道上真にやむを得ないような緊急な用務による場合を除きましてはこれを許可しない方針をとっております。大阪入管局の窓口は事務上の手違いからこれを見過ごしたわけでございまして、それが次の日になって発見されたわけでございます。そして、これをそのまま放置することは、あらゆる外国人に対して在留管理上公正な取り扱いをするという目的に反するもので、われわれとしては再入国許可を取り消した次第でございます。
  73. 稲葉誠一

    稲葉委員 大臣、いまの話は一家五人で韓国へ墓参か何かで行くのだったですね。ところが、大阪府立高津高校の二年生なんです。日本で生まれた人ですから日本語しか恐らく話せない人で、日本の高等学校へ行っている人なんですよ。その人が指紋押捺を拒否しているということで、一たん許可したのですけれども、再入国許可を次の日か何かに取り消してしまったのですね。  もちろん、大臣はそんな話は聞いておられなかったと思うのですけれども。ですから、結局その家族は一人が行けないものだから全部行かないということになって、全部が行けなくなってしまったのですよ。お父さんは牧師です。こんなことはそんなにしゃくし定規で取り扱わなくていいのだと私は思うのです。それは法違反か何か知らぬけれども外国登録証を提示することになっているらしいのですね、そのときに係の方で、協定移住の人です、一二六の子供ですから、再入国をそのまま認めてしまったわけですね。墓参で行くということについて、そういうようなことは僕は認めてやってもいいのじゃないかと思うのですが、これは一体どうなんでしょうか。そんな点について、しゃくし定規過ぎるじゃないかと私は思うのですが、大臣はどうでしょうか。     〔太田委員長代理退席、委員長着席
  74. 秦野章

    ○秦野国務大臣 できれば、そういうときに神父さんが娘を説得して、やはりそういう制度になっているのだから指紋を押せよ、こう言ってもらわぬと、法律でそういうふうになっているのだからしようがないのじゃないかと思うのですけれども。墓参というような事柄なんだから、お気持ちはよくわかりますけれども、やはり制度がそういうふうにきちっとなっていれば、それを乗り越えるとそれが今度波及したりなんかするというおそれがありますので、御質問の趣旨はよくわかるのだけれども、ぜひひとつ敬虔なる神父さんがやはり日本法律を守るということについて御尽力を賜りたい、こう思うのです。
  75. 稲葉誠一

    稲葉委員 いま娘と言われたような気がしたな。息子です。  こういう事件ではなくてもう一つあるのですよ。私も驚いたのですが、日本へ来ている留学生がいるでしょう、それが何かアルバイトをするのに制限があるのだそうですね。私は初めて聞いて驚いたのですよ。これは一体どういうことなんですか。アルバイトは、二十時間以上はやってはいけないことになっているのですか。その経過、現在どうなっているのですか。  それから、そのことについて、そんなやかましく言わないでいいじゃないかということは、大臣に聞くのですよ。いまの状態を説明してください。
  76. 田中常雄

    ○田中説明員 留学生のアルバイトの規制の問題につきましては、最近、大臣の御指示もあり、非常に緩和いたしました。そして、基本的には、留学生は四―一―六という資格で入っているわけでございますが、これがいかなる資格で入っていようと、やはりある特定の在留資格がある以上、主と従という問題がございます。留学生というのはあくまで留学生でございまして、アルバイトをして自分の生活費を稼ぐまたは学費を稼ぐという問題はやはり従の問題だというところに基本的な発想がございますが、いままで、資格外活動をするに当たりましては、すべて資格外活動の許可の申請をしなければならなかったわけでございます。  それを今回取りやめまして、週――週という場合には日曜を除くわけでございますけれども、月曜日から土曜日までの間、大体二十時間を超さないようなアルバイトの場合においては、改めて資格外活動の申請をする必要がないということになりました。その他、夏休み中は自由に仕事をすることができるわけでございます。それから学校の休暇中も同じようなことでございます。それで、二十時間を超すような場合でございますけれども、特別に法令に違反するような、または公序良俗に反するような仕事でない限り、資格外活動の申請があった場合においては、法務省としてはこれを前向きに処理する考えでございます。それが現状でございます。
  77. 秦野章

    ○秦野国務大臣 外国人留学生のアルバイト問題というのは、これは留学生として来ているのだから、アルバイトは労働、働くことだから、それは資格外だ、こういう考え方で来ておったわけですけれども外国の例なんかを調べさせますと、やはり労働問題があるものだから、イギリスなんかは留学生で来た者は一時間も働かせないのですよ。働いたら違反だ、こうなんです。日本はそれほど、労働問題はそこまでいっていないし、日本の学生はアルバイトが日常化しているということもありますので、一週二十時間ぐらいはいいではないか。それと、日本の留学生というのは三分の二ぐらいがアジアなんですよ。貧しい国から来ている。だから、学資も、それから生活費も思ったよりも高いということもあるだろう、それだったら一週二十時間――アメリカが二十時間なんですよ。アメリカが二十時間だけれども、二十時間以上はびた一文させないということなんです。日本は、二十時間にしておいて、それ以上もなおしたいというならひとつ許可を申請してくれ、こういうように広げたわけでございます。  だから、アメリカも労働問題は日本よりは厳しいようですけれども日本の現状からすれば、労働省とも相談しまして、この程度の自由化をすることは妥当ではなかろうか。これは世界の列国、そういう先進国の中では、したがって留学生のアルバイトは日本が一番自由化したことにこれでもなるわけですよ。そういうような現状でございますので、御理解いただきたいと思います。
  78. 稲葉誠一

    稲葉委員 そのことを大臣から言われなければやらないようなことでは、しようがないと思うのですよ。大臣が言ってからそれは変わってきたのじゃないですか、何か話を聞くと。そういう点、余りやかましくする必要はないのじゃないかな、しゃくし定規過ぎるのじゃないかと僕は思うのですがね。  それから、ちょっと気になった。いま、アジアの国の何か貧しい国という言葉も、ちょっと使い方がどうかな。それがいいか悪いか、ちょっとどういうふうにしたらいいですかな、言葉として。それは後であれですけれども。  せっかく大蔵省の方から人が来ていただいて済みませんでした。  実は、サラ金規制法が十一月一日から施行になるわけです。これは率直に言いまして、いろいろな問題があるわけですね。今度はジュリストなんかでも特集号をやっておりますけれども、それはそれとして、大蔵省としてはこの施行に伴って、きょうの官報で公布になるわけですか、具体的にどういうふうな対策を考えておられるのですか。  実は、この前あるところの大蔵省の財務部の部長、僕の方ですが、いろいろ話を受けまして、これが施行に伴っていろいろ取り立てその他の苦情が大蔵省の方へいっぱい来る、財務部へいっぱい来るから対策を十分立てていかなければ大変だというようなことを言っておられたのですけれども、そういうようなものを含めてこの施行に伴うところの具体的な施策を大蔵省としてはどういうふうにしていくのかということですね。  それから、この法律について大蔵省としては一体今後どうするのか。ただ、これは議員立法ですから、あなたの方ではその点言いにくいかもわからぬけれども、どういうふうにするのか、考えているのか、そこら辺のところを明らかにしていただいて質問を終わりたいと思います。
  79. 朝比奈秀夫

    ○朝比奈説明員 稲葉先生御指摘のように、この法律の施行につきましては大変ないろいろな問題が発生するだろうと私ども考えております。  まず第一点の本日の官報で公布されました政令、省令につきましては、いわゆる貸金業二法の施行のために準備をするという内容になっておりまして、具体的には貸金業法の適用対象外となるもの、いろいろな労働組合だとか特別の法律に基づいて貸し金的な業務を行うことが認められているようなもの、こういったものを除く、そういう規定。  それから登録更新手数料の額、これも政令に任されておりまして、これは四万三千円という形にさせていただきました。  さらに登録の際に審査を要する者の範囲、よく言われますが、刑の執行が終わってから三年未満の者とか禁治産者、準禁治産者、破産宣告を受けておる者、こういったような欠格者の範囲。  それから法律、政令を先生御指摘のように十一月一日から施行していく、こういう施行期日などについて規定いたしております。  それから省令につきましては、登録を要する者の範囲のさらに省令に委任された部分、それから登録の手続あるいは添付書類、さらに監督面で行政処分の手続とか、業務関係におきましては、貸付条件を店内に掲示すべき事項、たとえば金利とか期間とか担保とか賠償金だとか、そういった具体的なことを規定いたしまして、要するに借り入れする側の人たちの保護ということを考えております。  さらに広告なんかでも似たような規定を設けまして、そういった金利、期間、担保等についても広告に書きなさい、そういうことを言っておる。これも保護に資すると思います。  さらに貸し付けの利率につきましては、いままで日歩何銭とか、十万円借りると月々の利息は何千円ですというような非常に少ない、低い利率と思わせるような表示方法が多いわけでございますが、今回は年利何%、七三%なら七三%という形で年利率の表示を定めました。これはやはり借入人の保護に相当つながるのじゃないか、こう考えております。  また、受取証書に記載する事項、一部返済したときに残額は幾らあるかあいまいなまま受取証を出すというようなことのないように、あるいは受取証書自体を出さないというようなそういう乱暴なことがないように、そういう配慮でございます。  その他の手続規定について省令で具体的に規定したところでございます。  先生の御質問の第二点、財務局や財務部あるいは単一県内にあるものは県庁の方へいわゆる苦情相談、そういったものが殺到するのではないか、こういう心配があるわけでございますが、現実に苦情相談の件数というものがいろいろな形で、聞いてみますと相当ふえてきているということは確かでございます。  そういった問題に対処するために、私どもできるだけ財務局、財務部に人員の面でも体制整備をして具体的な相談にできる限り応じるということを考えておりますが、何分、先生も御指摘のように、金融の相談だけなのか警察的な相談なのか生活保護的な相談なのか、その辺が非常に渾然一体となった相談が来るんじゃないか、こういうふうなことも考えられます。ですから、私どもといたしましては、財務局、財務部だけではなくて、県庁やそれから警察、さらに法務省あるいは厚生省、そういったところともできるだけの連絡調整をしながらこの問題に当たっていく必要があるんじゃないか、非常に複雑な社会現象となっておるという面がございますので、それに対応する的確な対応を考えていく必要があるんじゃないか、かように考えております。
  80. 綿貫民輔

    綿貫委員長 午後零時四十分再開することとし、この際、暫時休憩いたします。     午後零時七分休憩      ────◇─────     午後零時四十二分開議
  81. 綿貫民輔

    綿貫委員長 休憩前に引き続き会議を開きます。  質疑を続行いたします。横山利秋君。
  82. 横山利秋

    ○横山委員 まずもって委員長初め同僚諸君にお礼を申し上げたいのでありますが、今月の二日、名古屋市内におきまして右翼に暴力を受けたことにつきまして大変お見舞いをいただきましたことをお礼を申し上げます。  八月二日、私は国会報告のために、こういう形の服装で、社会党員二名と一諸に名古屋市内を街頭報告をいたしておりました。そして、中区の右翼の事務所がある前を通過するときでありました。私は、そこに右翼の事務所があることは前から知っておりましたが、たまたま通ったわけであります。一方通行のところでございまして、何げなしに前を見ますと、後であっと思ったのですが、大きな街宣車がございました。その街宣車がもしなかったならば、バックしてくる右翼の小さい街宣車が目にとまったわけでありますが、大きな車がありますためにずっと徐行をいたしていきましたら、いきなり人がぱっと出た。そこで、秘書の運転手が少し右へ曲がって蛇行いたしました瞬間に、ざっと出てきた右翼の街宣車がバックで私の車の後尾に接触をいたしました。はっと横を見ますと、ここが右翼の事務所だったなと思ったわけであります。  そうすると、運転手が飛び出てまいりまして、このやろうというわけであります。私は、秘書に接触の状況を見てこいと言いまして、秘書がおりました瞬間にぶん殴られました。ここは一方通行の道であるし、私どもの車が一町も二町も前から街宣をして声が聞こえておるのだから、あなたの方が問題ではないかと言った瞬間に、もうだめでありました。これは歩道のところで話をしようというわけで、争いがあるなら警察を呼んで、そしてその指示に従おうではないかと言った瞬間に、何をきさま生意気な、横山だろう。そうだと言いましたその瞬間から暴力を受けました。  党員が一人とめようといたしましたところ、塀に彼を押しつけて肩を押さえながらいきなり頭突きを食らわせました。思わず上へ顔を上げましたのでよかったのですが、めがねは割れず、そのかわり鼻に激突をいたしまして鮮血がわっと出てきました。鼻血を出しているじゃないか、暴力はやめろと言いましたら、そんな鼻血ぐらいはひっくり返ったら自然にとまるわ、こう言うわけであります。  そうして私の方へ向きまして、それからもうとにかく政治の現状を悪く言い、既成政党を悪く言い、特に社会党を悪く言い、地元で衆議院議員をやっております私の悪口をさんざん言いまして、そのうちに、国会活動をできないようにしてやると言いまして、まず私のバッジをちぎって大地に投げ捨てました。その次に、日本社会党国会議員団と書いてあります私の赤いたすきを引きちぎりまして大地に投げ捨てる。その次に、この棒ネクタイでありますが、これをつかんで引きずり回しまして、とうとう私も倒れてしまいました。私をけり上げましたので、秘書が私の体に覆いかぶさりましたら、今度は秘書の髪の毛をつかんで離しました。  私は、とにかく二人の者に、これは受け答えをするな、抵抗もするな、そして早く一一〇番をしろと言ったわけであります。秘書は心配しておりましたから、いいから行けと言いまして、秘書が駆けていきましてその間お巡りさんが来ますまで、長い時間だと思いましたが、十分か十五分ぐらいでしょうか、昼からの二時ごろでございますから、炎天下やけつくような歩道上で、ひっくり返っております私の前からける、後ろからける、肩をける。一番ひどくショックを受けましたのが、横になっております私の前へ回って腹をけり上げたわけであります。これが一番絶句をするといいますか吐き気がするような感じを受けまして、思わずエビのように縮こまっておりますと、また後ろへ回ってける。十数回にわたって私をけり上げておりました。  横になって周辺を見ておりますと、右翼の事務所のある町内の皆さんがもうほとんど窓から鈴なりのようになって私の方を見ておるわけでありますが、長年そこに右翼の事務所があってうるさいところでございますから、かかわり合いになるのを避けたのでありましょうか、気の毒そうに見ておるけれども、だれもとめる者はないわけであります。ようやく十分か十五分ぐらいたって中の警察署の警官が来まして、言い争いはしておりましたけれども、さすがに私に対する暴力はやめました。そして現行犯として逮捕され、私どもは救急車で国立病院へ担ぎ込まれました。幸いにも向こうもプロでございますから、頭突きを食らわせ、けりはいたしますけれども、あばら骨はけられなかった。腹をけられたわけでありますから、レントゲン検査の結果は骨に異状はない、しかし一両日は絶対安静でうちにおってくれ、こういう状況でありました。  マスコミがそれを知りまして、直ちにテレビ会社が取材に日本同盟へ行きましたところ、またそこで暴力が起こりまして、記者が殴られる、マスコミの放送車のガラス窓がたたき割られる。そしてまた、NHKが昼から報道いたしました報道の仕方が気に食わないというわけで、NHKへ抗議に日本同盟が押しかける。まあそこで言い争いがあったとかいうわけで、おかしな話でありますが、右翼がけがをしたというわけで、右翼は入院した。右翼が入院したというわけであります。警察で聞きますと、そのことについて医者の意見を聞きましたら、大したことないというのでそのままぱくったという話だそうでございますが、まことに痛烈な体験を私はいたしたわけであります。  接触の原因については私の方に理屈があるわけでございますが、しかし、接触の原因がどうのこうのということではないのであります。一町も二町も手前から、一方通行の道で時速二十キロか三十キロぐらいの緩やかな速度のことでございますので、日本同盟はたまたま恐らく下におったでありましょう。そして、放送の声が聞こえたので、これはいいところへ来やがったということではなかったかと思うのであります。そうでなければバックでいきなり路上へざっと出てくるということはあり得ないと私は思います。  そして、原因のことはともかくとして、何はともあれこのやろうと、おまえら政治家はとか、社会党はおれらを暴力と言うけれども、言論の暴力をしているのじゃないかということで、さんざん政治、政党、それから社会党の悪口を言いまして、もう国会活動ができないようにしてやるという理屈で私にさんざん乱暴をいたしましたことは、まことに私としても、ひとり衆議院議員横山利秋個人の問題ではなくて、日本の今日の政治あるいはまた社会党に対して加えられた暴力だと痛嘆をせざるを得ないと思うのであります。  各方面からお見舞いや激励をいただきまして、きのうも愛知県警本部へ参りまして若干の御報告をいただいたわけでありますが、まず警察当局としてこの右翼暴力事件についてどんな措置をおとりになったか、改めて公式に伺いたいと思います。
  83. 三島健二郎

    ○三島説明員 お答えいたします。     〔委員長退席、羽田野委員長代理着席〕  この事件は、国会議員であられる横山先生が直接被害に遭われるというまことに悪質な事件でございまして、その概要につきましてはただいま先生から御説明がございましたが、簡単に触れてみたいと思います。  八月二日でございますが、午後二時十分ごろでございます。名古屋市の中区千代田四丁目に荒木ビルというのがございます。ここに先ほど御指摘の右翼の日本同盟の愛知県本部がございます。その一階におきまして日本同盟員の井沢貴光という三十一歳になる男が車を洗車しようということで、これは街宣車でございますが、路上に後ろ向きに出てきたということでございまして、ほかの男がこれを誘導しておったという状況でございます。そのときに横山先生がお乗りになっております社会党の宣伝カーがちょうど一方通行を参りましてこの車と接触をしたということであります。  事故そのものは社会党の宣伝カーの後部のバンパーが脱落いたしまして、左の後ろの車輪の部分のボデーに三カ所へこみができたということでございます。右翼の車につきましては、バンパーの塗料の部分がはげ落ちたという程度でございます。  この物損事故に激高いたしまして、運転しておりました井沢がおりてまいりまして、ただいま先生から御説明がございましたように、横山先生ほか二人に対しまして殴打あるいは足げり等の暴行を加えたわけであります。横山先生は左胸部、それから左肋骨部に挫傷等で加療十五日間のけがを負われました。その他社会党の方も顔面に挫傷等五日間のけがを負われたということでございます。 この事件につきましては直ちに十四時十五分に一一〇番で連絡が警察に参りました。地元の中警察署員が直ちに現場に急行いたしまして、二時二十分に犯人井沢をその現場でもって現行犯逮捕いたしております。傷害及び暴行の罪ということで逮捕いたしました。その後、取り調べをいたしまして、八月四日に検察庁に身柄ごと送検をいたしまして、現在勾留中という状況にございます。現在、警察といたしましては、この事件の内容、事実、背後関係等につきまして鋭意厳しく取り調べをしているところでございます。また、交通事故そのものにつきましては、これは交通事故として処理をいたしているところでございます。  また、第二の事件といたしまして、その同じ日でございますが、夕刻ごろ、この事件に関連いたしまして取材活動ということで、地元の報道機関数社が日本同盟の事務所の近くへ来たわけでありますが、その際に、五時四十分ごろでございますが、日本同盟の本部員と見られる男が三、四人、中京テレビ放送の取材車を取り囲みまして、ボンネットの上に飛び乗る、あるいはアンテナを折る、ウインドーガラスを破るというような行為がございまして、約五十八万円の被害を与えたわけであります。また、同社のカメラマン一人に対しましては、これは加療一週間ぐらいのものでございますが、傷害を加えました。さらに、付近におりました中部日本放送契約のタクシーに対しましてボデーをへこますといったふうな行為をいたしたわけであります。  この現場におきまして、直ちに捜査をいたしましたが、犯人が明らかでないということで、その後捜査を推進いたしまして、八月八日に犯人二名を割り出しました。これは日本同盟員の同じく愛知県の本部員でございますが、新谷勝則、それから同じく戸高昭彦、この二名を暴力行為等処罰ニ関スル法律違反によりまして通常逮捕をいたしておりまして、現在鋭意捜査を進めているという状況下にございます。  それから、第三の事件でございますが、これは同じ八月二日の午後六時過ぎごろでございますが、NHKから所轄の東警察署に対しまして右翼の者が二人暴れているという通報がございましたので、直ちに警察官が現場に参りましたが、現場ではすでにそのような事態が終わっておったわけであります。しかし、この件につきましても一応事件の容疑があるということで現在捜査を進めている、こういう状況にございます。
  84. 横山利秋

    ○横山委員 井沢貴光という私に暴力をふるった男は、何か本年刑務所を出所した前科四犯だという話でございますが、日本同盟と井沢との関係並びにこの経歴はどんな状況でございますか。
  85. 三島健二郎

    ○三島説明員 犯人の井沢貴光でございますが、三十一歳の男であります。五十六年の十月ごろから日本同盟愛知県本部に出入りをいたしているというふうに聞いているわけでございまして、住所等も一応この日本同盟がございます中区の荒木ビルになっている、こういう状況でございまして、職業も別にないということでございますので、大体日本同盟の活動に専従しているというふうに見られるところでございます。  また、犯罪経歴等につきましても、ただいま御指摘がありましたように、過去に四回警察に検挙され、内容といたしましては窃盗、詐欺、賭博といったふうなものでございますが、犯罪経歴がございます。
  86. 横山利秋

    ○横山委員 日本同盟の組織の実態について御報告を願います。
  87. 三島健二郎

    ○三島説明員 日本同盟は三十八年の十月に発足をいたしました団体でございます。東京都内の渋谷区に事務所を持っております。また、全国二十都道府県下におきまして二十の支部を持っている。構成員といたしましては、大体二百五十人ぐらいではなかろうかというふうにわれわれは見ているところであります。  この団体活動状況といたしましては、特に日教組批判あるいは北方領土問題等を主な議題といたしまして活発に活動している、こういう団体でございます。  また、日本同盟の愛知県本部でございますが、これは四十九年の二月ごろ、この二十の支部の一つといたしまして発足結成されたものでございまして、先ほどの場所に事務所を有しているという状況でございます。  構成員といたしましては、約十名ぐらい、活動内容は大体中央本部の方針と同じでございまして、日教組批判あるいは北方領土問題等を主な課題として活動している、こういう状況でございます。
  88. 横山利秋

    ○横山委員 私は、そこに日本同盟の事務所があることは、選挙区内でございますから、かねがね承知をいたしておりますが、市内のかなりの皆さんが一年も前から指摘をいたしておりますことは、その日本同盟の前に、先ほど申しましたように、巨大な宣伝車がるあわけです。本当に大きな宣伝車でございます。その宣伝車が常にそこにあって、違法駐車をして交通の妨害になっておることは、もう名古屋市内の有識者の周知をいたしておるところでございまして、時によってはその川ほとり、橋梁の上に違法駐車をしておることもあると言われております。この事件でも、もしそこの玄関に違法駐車していなければ、私どもの車はバックをしてくる車を認め得たでありましょう。今回この暴力事件が発生いたしましたので、多くの市民の皆さんは、はて警察は、あの不法駐車がいまや公然たるものになった、テレビにも映っておる、あれはかねがねそうなんだと、そう言っております。  したがって、この機会に、一体あの宣伝車は車庫証明をちゃんとしておるのか。どこかに車庫を確保されて、そして認められたものであるか。仮に車庫があっても、年がら年じゅうあそこへ置いておることについて、中警察の右翼に対する取り締まりは一体見逃しておったのであるかどうか。今回の事件によって、中警察なり県警が断固とした右翼に対する物の考え方措置を明らかにする試金石はまさにあの右翼の不法駐車であると多くの人が言っておるのでありますが、この点はどういう考えでありますか。
  89. 三島健二郎

    ○三島説明員 お答えいたします。  ただいまの大型の宣伝カーにつきましては、車庫証明は正規に受けておりまして、名古屋市内の中川区の名鶴パーツというところに車庫がございます。  この違法駐車の問題でございますが、警察といたしましても、あの事務所の前に違法駐車があることを現認いたしましたときには、日本同盟に対しまして厳しく警告をいたしております。ところが、警告いたしますと、警告をするときは車を動かしてそこから出ていくという状況でございまして、その意味では彼らはわれわれの警告に従っているという状況でございます。ただ、過去に警告に従わずにそのままとどめたような場合がございまして、これは小型の宣伝カーでございますが、レッカー車で引いたという事例もございます。  いずれにいたしましても、このような違法な駐車というものが常時行われるということになっては大変なことでございますし、違法行為は看過しないという姿勢でございますので、このような違法行為に対しましては、今後とも積極的に警告をすると同時に、違法行為の実態によりましては検挙を含めた強い姿勢で臨んでまいりたい、かように思っております。
  90. 横山利秋

    ○横山委員 注意をすれば持っていく。一日たってまた出ていく。恐らく私もそうだろうと思うのです。しかし、今回こういう全国的に喧伝されましたこの暴行事件によって、右翼に対する警察の態度というものが改めて問い直されておるときでありますから、一たん持っていった、また持ってきたというような抜け道的なことについて、名古屋市民は絶対に認めないと思うのです。ですから、今後の県警察なり中警察の処置は市民注目の的でありますから、厳重な措置を衷心望みたいと思います。  この機会に、全国的な右翼の動向についてひとつ総括的な御報告を求めたいと思います。
  91. 三島健二郎

    ○三島説明員 右翼の動向でございますけれども、最近の右翼は、憲法問題あるいは北方領土の問題、あるいは教育問題、さらにはスパイ事件どもございまして、そういうテーマをとらえまして敏感にこれに反応いたしまして数多くの抗議あるいは要請活動、さらには街宣活動を行っております。数多くの批判あるいは反対の行動をしているわけでございまして、こういう活動の中でしばしば違法行為が発生しているという、こういう状況下にございます。  警察といたしましては、このような右翼の行動に対しましては、不偏不党の立場を堅持いたしまして、いかなる立場であれ違法行為は絶対に看過しない、こういう基本方針のもとに厳重な取り締まりを行ってきているところでございます。その結果、たとえば昨年でありますが、右翼事件といたしましては四百五十九件、六百八十三人の検挙をいたしておりますけれども、これは戦後の右翼検挙といたしましては最高の数になっているところでございます。  いずれにいたしましても、今後とも警察といたしましては、このような違法行為に対しましては、これを徹底して取り締まるという姿勢でございます。
  92. 横山利秋

    ○横山委員 右翼の組織状況は何団体、何人、そして注目すべき検挙の事案、そういうことについて御説明を求めます。
  93. 三島健二郎

    ○三島説明員 お答えいたします。  右翼活動といいましても、大変内容が多岐にわたっておりますし、あるいは目的あるいは性格、それから運動方法等もそれぞれいろいろと幅がございますので、また非常に消長も目立っておりまして、できたかと思うとまた消えていくといったふうな組織も数多くございます。したがいまして、実は団体数とか構成員ということをはっきり的確な数字で申し上げるということは大変むずかしいことでございますが、大ざっぱな数字で申し上げますと、全国でおおむね八百四十団体、構成員といたしましては十二万余を数えるというふうにわれわれは見ているところでございます。
  94. 横山利秋

    ○横山委員 私ども国会で政治活動をしておりまして、日ごと夜ごとに目に立ちますのが、国会周辺における右翼の活動であります。この国会周辺において日ごと夜ごとやっております右翼の宣伝活動、もうめちゃくちゃに大きな、マイクロホンを最高にしてどなっております姿は、人が聞いておろうといまいとにかかわらず、その内容に説得力があろうがあるまいが、とにかく自己顕示といいますか、すべてのものを恐れないという立場で彼らは国会活動を妨害しておると思うのであります。  それに対して、私どもが警察官の動き、警備の人たちの動きを見ておりますと、そばへ寄って窓口へ行って、おい、ここへ入ってはいかぬ、出ていけとか、あるいは国会の周辺に警備車をとめて道路を通行をさせないようにするとか、見ておってもずいぶん歯がゆいようなやり方だと思うのであります。恐らくあの話しぶりから言うと、その警察官と右翼の幹部とはお知り合いだろうという感じがしてならぬのであります。知り合いだから、おい、もういいかげんに行けとかなんとか言っているんじゃないかという感じがいたすわけであります。恐らく仕事の上だから、右翼に対応するそれぞれの警察署なり県警の諸君は、相手を知っており、相手とまあ暗黙の、ここまで言ったらもう出ていけよ、まあそこまで言うなら出ていくわというような、暗黙の理解と認識というものがあるのではないか。そこを市民が見ておりまして、警察は右翼となれ合いじゃないかとか、あるいはまたまあまあということで、たまにはおれの言うことを聞け、おまえがときどき言うのならそれじゃ聞いて帰ったるわとか、適当にやっておるのじゃないかという気がどうしても市民から離れないのであります。  私ども労働組合の大衆活動の中における警察官の対応と、それから右翼に対する警察官の対応とはちょっとニュアンスが違うのじゃないかと労働組合の諸君はみんな言っておるわけであります。昨年は戦後最大の検挙数だとおっしゃいましたけれども、どうも一抹そこに鋭さといいますか、厳しさといいますか、そういうところに警察は欠くるところがあるのではないか。注意をしたら、車を持っていった。またあした来た。その追いかけっこ競争をして、注意しました、あるいは帰しました、あした来ました、また撤去を命じました、そういうことを適当にやっておるのではないかという感じがしておりますのは私一人ではないと思うのでありますが、どうお考えでしょうか。
  95. 三島健二郎

    ○三島説明員 お答えいたします。  右翼の違法行為に対しまして、警察が違法行為を看過しないという姿勢でもって取り締まっているということは先ほど御答弁申し上げました。  先ほど国会周辺の右翼の騒音の問題等もございましたが、騒音の検挙につきましては、いろいろな手段を講じまして実は最大限努力をしているところでございます。御存じのように、大変法律的にむずかしい問題がございまして、現段階では軽犯罪法を適用して騒音を取り締まるという形をやっておるわけでございますが、ここ五、六年の間にも全国で二十三件、三十二人の騒音の取り締まりをしているわけであります。  ところが、問題は、国会周辺におきましては現にもう騒音を出されてしまう、出されてしまえば審議が妨害されるという大変重大な事態に至るわけでございます。したがいまして、出されないようにするという意味で、あるいは騒音を出されても国会の審議が妨害されないという意味で、実はある一定の幅を持たせて途中で右翼の車両を阻止をしている形でございます。これは実は警察官としましては、たとえば突っ込んでくる車を、その前に身を乗り出してでもとめなくちゃならないという、ある意味では現場的には大変むずかしい、厳しい処置でございますけれども、にもかかわらず、これをしなければ国会の審議が騒音によって影響される、そういうことになってはならないということで真剣にやっておるわけであります。この辺のところは現場といたしましては大変な苦労をしているということを実は御認識をいただきたいと思うところでございます。  同時にまた、日教組大会等におきましても、先生も御承知だと思いますが、大変多くの右翼が参集いたしますが、その際におきましても、警察といたしましては車両をもって、あるいはその他の資機材をもちましてこれを阻止し、あるいは彼らの行動をいろいろな形でもって検挙をしているのが実態でございまして、そういう意味では実はなれ合いとかあるいはまあまあという姿勢は、警察といたしましては全くそういう考え方はないし、現段階でもとにかく徹底して右翼の違法行為に対してはこれを取り締まるということで、上から下まで全部その気持ちでもって右翼に対応している、こういうことでございます。
  96. 横山利秋

    ○横山委員 私は道路上に引き転がされて、打つ、ける、殴る、突く、猫が無抵抗のネズミと言っちゃぐあい悪いけれども、全く乱暴ろうぜきを働きました。そのときに私はつくづく脳裏にひらめいたことが二つあるわけであります。  一つは、五年、十年前の右翼と言えば、もう汚い車で、日の丸も海軍旗も本当にぼろみたいなものでやっておったのが、いまや政党、政治家の街宣車よりもはるかに堅固なりっぱなきれいな車で、旗もきれいにして、どこから金が入るか知らぬけれども、この五年、十年の間にもうすごい力を持つようになったこと。こういうことでいきますと、もう五年、十年の後に一体どんなことになるだろうか。国会議員の私を衆人環視の前で打つ、殴る、ける、それはもう接触の原因とかそういうことではないのであります。政治家に、既成政党に、社会党に、私に対する憎しみが間髪を入れずに暴力になってあらわれたということで、今後この勢いで右翼が発展をしていきましたならば、日本はどんなことになるだろうかということが脳裏にひらめいた一つであります。  もう一つは、いま言及なさいました岡山県の問題であります。  岡山県議会は、七月十一日の本会議で、右翼団体の岡山県愛国者協議会などから出されておりました五十八回日教組定期大会岡山県開催の断固阻止・関係施設の貸与反対などの陳情二件を自民党県会議員団単独の賛成多数で採択をいたしたというのであります。  試みに取り寄せましてこの陳情書を見ますと、こういう陳情で、陳情そのまま認めたわけではなかろうけれども、結果としてこの陳情が採択されたわけであります。  内容を読みますと、「第五十八回日教組大会でありますが、申し上げるまでもなく占領政策の民族不統一と日本弱体化はもとより日教組による歴史、文化、伝統の破壊、道義道徳の敗退、校内、家庭内暴力等の諸現象は私達国民の全責任でありますと共に、日共組に依る赤化思想の洗脳と亡国教師の偏向教育の結果生まれたものに他なりません。」「私達国民は皇紀二千六百四十三年悠久なる歴史、文化、伝統を正しく認識しなければならない時が来たのであります。破滅の一途をたどりつつある現状を最早見過すわけにはゆきません。」「ここに於きまして私達民族主義者はかかる亡国教師赤色革命集団の集会である日教組大会岡山県開催を断固阻止し各関係官庁の施設貸与を強く反対すると共に正しい判断と御理解を切に御願いする次第であります。」と書いてあります。  もう一つの陳情も同様でございまして、末尾には「現体制の変革(共産革命)を目指し己れの理想郷である共産主義社会、社会主義社会の実現のために祖国を根底から覆えそうとする日教組大会開催に公共福祉を優先すべき公共施設に於いて日教組大会開催に貸与しない様陳情するものです。」とあります。  これが県会に提出をされまして、県議会は自民党単独の賛成多数で採択をいたしました。  私は、そのときにつくづく脳裏にひらめいたわけでありますけれども、もう政党、政治家、国会議員、そういうものを全く憎み、批判どころではありません、憎み、暴力をもってこれをやっつけるという気持ちが本当に目の色にまざまざと見えるわけでありますし、岡山県の場合は、右翼が騒ぐとうるさいから、県議会は多数決で貸与しないと決めた。それに基づいて岡山県知事が日教組に対して拒否をした。まさに右翼の暴力が地方自治体を動かした、暴力に地方自治体が屈した、こういう結果を私はその瞬間改めて認識をいたしたわけでありますが、自治省はこの岡山県議会のあり方についてどういうふうにお考えでしょうか。
  97. 中島忠能

    ○中島説明員 お答え申し上げます。  岡山県で県有施設を日教組大会にお貸しすることができないというふうに判断したのは二つの理由があるというふうに聞いております。  一つは、日教組大会がすでに予定されておる期間につきまして、日教組から申し出のありました体育館、武道館が他にすでに使用が許可されておったということと、もう一つは、非常に警察当局に御迷惑をかけ、いろいろ警備上の御配慮を願っているんだと思いますけれども、なおそれでも市民生活に対する影響が生ずるおそれがあるというこの二つのことを考えて日教組大会に県有施設をお貸しすることができない、こういうふうに判断したと聞いております。
  98. 横山利秋

    ○横山委員 この種の右翼の暴力を取り締まるのが第一義的に警察であるとすれば、岡山県で日教組の大会をした場合に警察当局としては自分たちではお手上げだ、こう言ったんですか。自分たちの能力がありませんと言ったんですか。自信が持てないと言ったんですか。
  99. 三島健二郎

    ○三島説明員 先生御承知のように、日教組の大会につきましては、毎回警察といたしましては大変大量な警察官を動員いたしまして警戒体制をとっておりまして、安全に日教組大会が遂行できるような措置を毎回講じているところでございます。警察といたしましては、会場がどこであれ、大会が開催されるということであるならば、治安上の責任を果たすという意味で、安全に大会を開催していただけるように万全を尽くすということでございます。
  100. 横山利秋

    ○横山委員 そうでなければならないと思います。  そうすると、岡山県は、警察がそういうふうに言っておるのにかかわらず、勝手に推量して、警察では混乱を招いてはいかぬというふうに判断したということですね。  それから、自治省から岡山県議会がどうしたこうしたということについては意見をお差し控えになるかもしれぬ。けれども、憲法上の問題であって、憲法のもとに結社、集会の自由を保障されておるときに、右翼の圧力によって県議会が左右されるということは断じて看過することのできぬ問題だと思います。そういう点については、議会で案件がかかったときに県知事が一言、問題の提起があるべきだと思うのです。地方自治体としてはそういう場合にどうあるべきだと思いますか。
  101. 中島忠能

    ○中島説明員 申し上げるまでもございませんが、議会というのは住民から選ばれた代表者が構成しているものでございまして、その活動のあり方についてわれわれ公務員たる者がとやかく申し上げる立場にございませんけれども、そういうことを前提にいたしまして、七月十一日、岡山県議会において議論されましたものを読んでみますと、自由民主党の賛成討論の中の言葉でございますが、「県民に迷惑をかけるばかりでなく、警備体制等の関係経費を含め多大な県費のむだ遣いになる」というようなことが書いてございます。  先ほど先生がお読みになりました陳情書の言葉はこの議論の中には出てきておりませんが、そういうような判断から議会がこの問題について議論を尽くした上で結論を下したものだというふうに私は思いますし、その限りにおいて議会の判断に違法性があるとか非常な妥当性を失しておるというふうに思いませんので、県民の代表者がそういうふうに議論されてお決めになったということでございましたら、それに知事が最大限の敬意を表していくというのは普通のあり方だろうというふうに思います。
  102. 横山利秋

    ○横山委員 いま県議会の討論の内容をここで議論するつもりはございません。しかし、県費のむだ遣いとかという言葉がございましたが、私どもいまこの日本の社会にあって一番大事なことは、政治の倫理だとか、あるいは人間の自由だとか、あるいは人権だとか、あるいは憲法に基づく結社、言論の自由だとか集会の自由だとか、そういうものは金にかえがたい問題だ、銭と比較することのできない重要な問題だ、根本的な問題だと私どもは思いますよ、いまあなたと議論しようと思いませんが。そんなむだ遣いがあるからこれはやめておこうという問題と問題の所在がまるきり違うと私は思います。  この問題に余り長く時間をとってもいけませんから、法務大臣に少し御意見を伺いたいと思うのです。  私は、本当に政治家として痛烈な体験をいたしました。今日までこの場をもちまして右翼についての質問をいたしたこともございますし、政府その他の御意見も伺ったこともございますけれども、この痛烈な体験が私には身にしみました。右翼に対して、法を無視し、民主主義を無視するようなあり方について本当に心から憤りを感ぜざるを得ないのでありますが、ましてや岡山県の問題を含めて、将来の日本の政治に対して、力で政治を変えようとする右翼のやり方について法務大臣はどうお考えでございますか。
  103. 秦野章

    ○秦野国務大臣 横山委員の痛烈な体験、受も新聞やテレビを拝見しておりましたが、また改めていまお伺いしながら、確かに警察とか検察とかという取り締まりの立場にある者が、暴力は絶対に許しがたいという信念で取り組んでいかなければならぬということを改めて思いますと同時に、やはり基本的には民主主義の世の中で暴力が許されたのでは、あるいは許されるというよりも暴力が介入したのでは民主主義そのものの危殆になるわけでございますから、私どもはそういう意味においては格段の覚悟の上に立って取り組んでいかなければならぬだろうということを痛切に思うわけでございます。  これは当然のことなんだけれども、しかし、社会の土壌といいますか、日本社会の土壌の中にそういうものがぽこぽこっと出てくるという、そういう土壌そのものの問題があるのですね。だから、これは法治主義、法の問題以前の問題もあるという意味においては、ひとり法務省のみならず、広くこれに対応していかなければならぬ非常に重要な問題だと思っております。
  104. 横山利秋

    ○横山委員 せっかくいまおっしゃった土壌の問題に私も触れたいと思うのでありますが、時間がございません。それらを含めまして、警察、検察陣の的確な、峻厳な措置を衷心より望みたいと思います。  次に、先般私ども委員長を初め同僚諸君とともに北陸、石川県、富山県、それから長野県の国政調査をいたしました。そこで私は、皆さんの御協力も得まして少年問題を中心にして国政調査を担当したわけであります。といいますのは、先般ここで戸塚ヨットスクールについて最初の質問の口火を切ったこともございますし、その後の戸塚の発展が、きわめて国民の多くの皆さんにいまなお関心を強めておるわけでありますから、国政調査の中で特にその問題について法務省関係機関の現場におられる皆さんの御意見を聞いてまいりました。そこから質問をいたしたいと思います。  まず、戸塚ヨットスクールについて、現在までの逮捕、起訴、取り調べの状況について御報告を求めます。
  105. 三上和幸

    ○三上説明員 五月二十六日に暴走族少年らに対しますリンチ事件で戸塚ヨットスクールのコーチ六名を逮捕したのに続きまして、六月の十三日、十四日にかけまして、傷害致死事件で校長の戸塚宏ほか七名のコーチを逮捕または再逮捕いたしました。その後、各種の事件を通じまして、これまで二十名を検挙いたしております。現在までの状況は、起訴された者が九名、逮捕勾留中の者が七名、少年四人につきましては観護措置が二名、釈放が二名でございますが、釈放された少年は裁判所において保護者引き渡しということになっております。     〔羽田野委員長代理退席、委員長着席
  106. 横山利秋

    ○横山委員 ここに昨日の加藤校長代理の逮捕の記事がございまして、残ったコーチが記者会見をいたしております。  その記者会見の内容を二、三摘出をいたしますと、「本日の加藤校長代理ほか一名の逮捕は、さる七月二十五日の訓練生の逮捕、さらに八月四日の支援者三人の逮捕に続く一連のものであり、その目的はいずれも明らかにヨットスクールを廃校に追い込むことをねらったものであって、きわめて不当なものであります。弁護人らは捜査当局のこれらの行為に対し満腔の怒りをこめて抗議するものであります」とされております。  警察が戸塚校長を逮捕した後、なおかつ加藤校長代理等を逮捕いたしました理由が、この戸塚側の言うようにヨットスクールを廃校に追い込むということなのか、どういう理由でさらに続いて逮捕していったのであるか、その点を明らかにしてもらいたい。
  107. 三上和幸

    ○三上説明員 申すまでもなく、捜査におきます警察の基本姿勢は、法律に照らし犯罪を構成する行為があれば厳正に取り締まることといたしております。戸塚ヨットスクールをめぐる事件は、戸塚校長逮捕後におきましても、訓練生の入校に際して暴行を加え、ロープで手首を縛るなど強制的に連行する逮捕監禁事件あるいは逮捕監禁の被害を申告した訓練生に対しまして暴力行為を行う、こういった事件の発生を見ておりまして、これらの事件に対して警察として所要の捜査を行ったものであります。
  108. 横山利秋

    ○横山委員 要するに、戸塚を逮捕しても戸塚逮捕以前のような暴力行為は少しも直らない、戸塚を逮捕した後においても引き続き同様な暴行事件が継続されておる、こういうわけですね。――わかりました。  私も、警察当局がこの戸塚を廃校に追い込む目的を持っておるとは思わないのでありますが、しかし、世間はこういう新聞を見まして、警察が戸塚をとことんまでやるという気持ちを、こういう記事を見てそういうふうに推量をし始めておるわけなんであります。この記事の中にも、ほかのところにも出ておりますが、戸塚ヨットスクールはあくまで継続をするという、そして後援会が署名運動をやっておるという、いまも最低一日二件ぐらいは入校の問い合わせはあるという、子供を引き取りたいという親もないという、子供が治ってからうちへ帰ってきてほしいという気持ちが強いという、これは戸塚側のあれでございますがね。国民の中に一割か二割ぐらい、新聞の投書を見ましてもまだまだ戸塚の方に、戸塚でなくては子供は治らない、こういう心理があるということだと思います。これは投書やその他いろいろなことを見ましてもそういうことが考えられるわけであります。私は、それは非常に残念なことだと思っておるわけであります。  こういう風潮があって、いわゆる戸塚スパルタ方式というものが是認をされる、一割でも二割でも是認をされるというような風潮は政治の世界として考えなければならぬ。一体どこに誤りがあるだろうか。そういうことを私は考えるわけでありますが、それを二つのことから考えたいと思います。  一つは、戸塚でなければ情緒障害児は治らないのである、百万円払っても二百万円払っても戸塚のところへ持っていった方が親としても楽だとか、戸塚でも成功した例があるとか、そういう宣伝があって戸塚のところでなければだめだということが一般に広まっておる。そうでなくて、厚生省傘下あるいは地方自治体傘下あるいは民間の中で情緒障害児を収容し治しておる、その実績があり、その方式の方が効果があるということが浮かび上がってこないで、戸塚がいいか悪いかでなくして、戸塚と対照的に行われておる情緒障害児の施設のありようが、その成果が戸塚と比べてどちらが正しいかという比較論が全然ない。そういう点を私は非常に残念だと思っておるわけであります。  そういう点では、厚生省おいでになっておるわけでありますが、詳しく話を聞く時間はございませんけれども、厚生省の調査の中における情緒障害児の収容施設なりその成果というものは、戸塚と比較してどういうことなのか、担当しておられる人々としては戸塚をどうお考えになっておるか、それを承りたいと思います。
  109. 蒲地清弘

    蒲地説明員 私ども児童福祉行政として実施をいたしております情緒障害児短期治療施設でございますが、これは軽度の情緒障害を有しますおおむね十二歳未満の児童を短期間収容してあるいは通所の形で情緒障害を治療することを目的とした施設でございます。  この施設の現状でございますが、五十八年三月一日現在におきまして、公立が十カ所、民間経営が一カ所、合わせまして十一カ所ということになっております。受け入れられる定員でございますが、五百五十二人ということになっております。また、この時期に入所しております児童の数は四百三十四人というような状況でございます。  なお、五十八年の三月一日現在でございますが、入所している子供のうち、いわゆるやや軽快というような、治療の程度をあらわすものでございますが、やや軽快以上で、八割程度が治癒されているというような状況に相なっております。  以上でございます。
  110. 横山利秋

    ○横山委員 それで、どうなんですか。あなた方は戸塚をどうお考えになっておるか。戸塚のスパルタ教育とあなた方が担当しておるそれらの情緒障害児、この子供を扱う基本的理念、あるいは戸塚と比べて自分のところはどうなんだという点についてはどうお考えになりますか。
  111. 蒲地清弘

    蒲地説明員 すべて児童は児童福祉の理念に基づきまして虐待や不当な取り扱いから守られまして、心身ともに健やかに育てられなければならないというふうに考えているわけでございます。  情緒障害児を治療するに当たりましては、児童の発達段階、心身の状態等につきまして、医学的、心理学的及び社会学的な面から調査、判定をした上で、その児童に最も適した治療を行うことが必要であるというふうに考えております。このような配慮をすることなく、すべて一律に暴力等をもって対処するというようなヨットスクールの行き方につきましては、児童の人格に深い傷を残すものであり、根本的な障害の改善は期し得ないというふうに考えているところでございます。
  112. 横山利秋

    ○横山委員 読み上げられただけで、あなたの真情がよくわからないのですけれども、かたくならないでもっとざっくばらんに聞かせてもらいたいと思うのですが、私が言っているのは、要するに戸塚ヨットスクールというものは、法務省の少年関係の各少年院だとか少年鑑別所だとか、あるいはまた少年刑務所の仕事及び厚生省の仕事にあいくちを突きつけたものだ。あなた方はかなえの軽重を問われておる。  あなた方は役に立たないから、国民の皆さんは、そんなものは役に立たないから戸塚に預けた方がいい、百万かかろうが二百万かかろうがいい、そういう感覚ではないか。ないしは、あなた方の施設なり成果を全然世間に宣伝されておらぬ、人数も少ない、とてもそんなところでは相手にならぬから戸塚の方へ駆け込むという状況ではないか。自分たちの仕事に対して世間が認めておらぬ証拠ではないか。そういう点についてどう思うか。  戸塚のやり方と自分のところのやり方と、もっと胸襟を開いてあなたが説明をしてもらわぬと、紙を読み上げただけではわからぬ。
  113. 蒲地清弘

    蒲地説明員 まず、情緒障害児短期治療施設というものが全国的にまだ十分普及していないという反省は、私どもといたしても痛感しておるところでございます。  その理由でございますが、情緒障害というのは、御存じのように家庭や地域での人間関係のゆがみによる心の病気であるということで、身体障害とか精神薄弱のように器質的な障害と違いまして、診断というのが非常に困難であるということが一つ言われております。それからまた、処遇技術の面におきまして情緒障害の範囲というのは非常に広いわけでございます。そういう関係等も一つはこれまでの経験の積み重ねというのが非常に少ない、そういうこと等によって全部のケースについて治らない場合もある、こういうようなことで全県設置にまでは至っていない、こういうようなことになっているかと思います。  そういうことで、今後私どもといたしましてはこの面についての研究開発を進めまして、この施設の全県設置に向けまして努力をしてまいりたいというふうに考えている次第でございます。
  114. 横山利秋

    ○横山委員 どうもかみ合わないような気がするのだな。  それでは、法務大臣に伺うのですが、私はこの間、国政調査で非常に感銘を受けたことがあるのです。それは松本少年刑務所長の話です。私がいま言ったように、あなた方の仕事のかなえの軽重が問われておる。少年問題の三県の皆さんの話を聞けば、少年問題の権威者であるような気がする。実際法を犯した少年を預かっていらっしゃる体験というものがにじみ出ておる。しかし、いま申したように、すべて戸塚スパルタがいいか悪いか、それでも戸塚に預けるということは、少年問題を担当しておられるすべての皆さんにあなた方では役に立たぬというふうに思われているのではなかろうか、こう言ったら、松本少年刑務所長が立ち上がりまして言うことは、大変激励を受けて恐縮をするけれども、たとえば私どもの刑務所で子供を預かっておるけれども、罪に服させるということが私どもの目的ではありません、何とかして社会に出るときに仕事を覚えさせたい、何とかしてりっぱな人間にしてこの刑務所を出させたい、そういうことが私どもの願いである、ほかの刑務所とは違いますと言うのですね。  そして、言葉を続けて言うのに、たとえば子供がかぜを引いたというときに、戸塚の場合だったら怠けるなと言って殴ったりけったりするでしょう、私どもは体温計を出す前にまず子供の頭と自分の頭とをくっつけて、そして、おっ、これは熱があるぞ、ちょっとはかってみようと言って、体温計は後から出す。要するに、人間は、特に子供というものは感動なくしてよくならない、子供ばかりでなくてすべての人間が感動の累積によってこそりっぱな人間になる、私はそう信じていますということをおっしゃった。私は非常に感銘を受けまして、いいことをおっしゃった、一遍今度の法務委員会であなたの言葉を御披露すると言うたわけなのであります。  この前も言ったのでありますが、この戸塚の中には感動がない、暴力はあるけれども。スパルタ教育というものは、本来のスパルタ、ギリシャの昔のスパルタは、やはり騎士道精神といいますか、節度といいますか、高い愛情といいますか、そういうものがスパルタの中にはあったのであって、戸塚がスパルタの名前を僣称するのはおこがましいと私は思っておるわけなのであります。決して私は厳しさというものを否定するものではないのですけれども、戸塚には一片の愛情のかけらもなければ、限界というものを何にも知らないと思っておるわけです。私がいま厚生省に聞いてもらいたいと言って言わせようとしたのは、まさに戸塚と違うあり方というものがもっと出てこなければうそだと思う。そういうことなんですよ。どうお考えになりますか。
  115. 秦野章

    ○秦野国務大臣 いまの刑務所長のお話にありましたけれども、確かに少年時代には感激とか感動とかというものが伴わないと、言われたことが本当に自分のものにならない。要するに、仮に頭一つ殴られても、それによって悪かったという受けとめ方、一種の感動にまで及ぶようなやり方というものは私はゼロだとは思わない。そういう意味においては、基本的にたとえば三歳児とか五歳児の問題なんかで、悪いことをしたらおしりをめくってぴしっとたたく、スパルタと言っていいか悪いかわかりませんけれども、そういうようなことは私はいいことだと思っているんです。それがだんだん長じていったときには、やはり赤ん坊と違って、感情的にだんだん一人前に近い人間になれば、やはりそれが感動として受けとめられないと逆作用になってしまう。そこで、いまの戸塚なんというのは、結局は世の中の親とか、私は一般の学校の問題もあろうかと思いますけれども、そういうところがまともになっていないことから出てきている一つの現象だというふうに考えざるを得ない。  いま刑務所の所長の話がありましたけれども、ある程度の年齢に達した者を扱って、汗をかいてそこに接触をしてくると、そういった人間と人間の出会いの中で愛情というものを感じながら接していけば、ときには相手にそのまま感動のような気持ちになって伝わっていく、治ってくる、そう思うんです。だから、戸塚の問題、本当にいろいろな教訓を含んでおると思います。おっしゃるように、ほかが間に合うような組織がないものだからあすこがばっこしたんだというようなこともあるかもしれません。そういう意味においては、あすこ自体の問題じゃなくて、あすこ以外の問題として受けとめることの方が真っ当な受けとめ方かもしれない、そんなふうに思っております。
  116. 横山利秋

    ○横山委員 戸塚ヨットスクールは、最初はヨットの練習、貸与から始めたんですね。いまは真っ当から子供を治すということだと言っておるわけです。事実またそういうふうに世間も戸塚側も理解をしておる。情緒障害児を治すには戸塚だというふうに、ある意味ではうぬぼれておるとも言えます。そうだとすれば、きょうは文部省に来てもらってないのですけれども、情緒障害児なり子供を治すことがいま政府機関、民間機関、根本から問い直されておると思うのです。私は、その意味において法務省傘下の少年院だとか少年鑑別所だとか少年刑務所のあり方についてもやはり問い直されていると思うのです。  この間、なるほど私も知らなかったと思いましたのは、少年院ですね。承れば、全国で半分くらいはもう少年院と言わないそうですね。私ども行きましたのは有明寮です。昔からの印象というものが根強く残っておりまして、少年院帰りというか、練鑑帰りだとか少年院帰りとかいうものが非常にダメージを与えておると思うのです。そういう点では、有明高原寮だとか、そういうふうに名前を変えたのは非常にいいことだと私は思う。単に名前を変えただけでなくて、少年刑務所長の言うように、その内容も変わっていかなければうそだと私は思うのです。  それと同時に、たびたびここで言っているのですけれども、少年鑑別所という名前です。愛知県は鶏の王国でございまして、鑑別というとすぐ鶏の雄と雌の鑑別を思い出すのです。子供を鑑別するとは何事だと私は言いたいのです。この鑑別所というものが何か非常に冷たい感覚を与えています。鑑別所長の話を聞きますと、おやっと思うほど高い次元で仕事をしている。分析やいろいろなことをしておる。単に科学的分析ばかりではなくて、人間的な分析を含めて非常に高い次元でやっておられることに感銘を覚えた。私は、その鑑別所という名前も変えたらどうかと思うのです。あるいはまた、少年刑務所も名前を変えたらどうだと思うのです。  たとえば少年鑑別所は少年研究所にしたらどうだ。少年刑務所は少年指導院にしたらどうだ。指導院が悪ければ指導所でもよろしいですが、要するにあなた方はと私は言ったのですが、あなた方は罪を犯した人間、犯しそうな人間を預かって、それだけで自分の仕事だと考えておる。法務省も大蔵省もまあまあで、聞けばまことにお寒いことでございますけれども、暖房費がないから冬になると小さな部屋にみんな集まってきてそこで仕事をするというのですね、暖房費節約のために。木造のところもあるわけですね。  そういうような、いま少年が問われておるときなんでありますから、単に収容されておる人間ばかりではなくて、あなた方も社会的にいろんな意見を聞かれるときがあるでしょうと言ったら、たまにはありますと、こう言うわけですね。警察から、学校から、いろんなところから、少年院長が話をするんではなくて、有明高原寮長が少年補導の大きな経験を話してくれる、少年研究所長が――鑑別所長ですね、社会の期待にこたえて、テレビでもラジオでも町内会でも学校でもいろいろ話をしてくれる、そして交流することをこの際ひとつ思い切って考えたらどうか、こういうふうに私は思うわけであります。  あるところの鑑別所長が、私ども国政調査のときに、資料をみな出しますね、出しました冒頭に、こういうことが書いてあった。行革が問題になっておる今日、われわれとしても節約、合理化に一生懸命になる、また任務に邁進したいと書いてある。何でおまえさんが、行革が問題になっている今日なんてプリントにせねばならぬ、少年問題が重大化している折からとなぜ書かぬかと私は言ったんです。おまえさんがそんなことを心配する必要はない、こう言ったのです。あなた方は認識が、まあ法務大臣が節約せよと言ったせいかもしらぬけれども、少年問題が重大化しておる折から自分たちは任務に邁進するというのならわかるけれども、行革が問題になっておる今日となぜおまえさんが書かんならぬかと言ったのです。  少年問題というものは、私はきょう一体どなたにお答え願ったらいいか知らぬ、総理府の少年室が来たらいいのか、文部大臣が来たらいいのか、だれが来たらいいかと思い迷ったわけですけれども、結局いま罪を犯しておる少年たちを生身で体験している法務大臣が、少し自分の傘下のこの種の施設の名前から内容に至り、そして単に法に触れる少年の体験から、より広い立場で閣議でひとつ少年問題の音頭をとってもらうことが今日必要ではなかろうかと思うのです。  国政調査で数々の意見を聞きました。有明高原寮では親と一回懇談をしているし、非常に成果があった。あるいは鑑別所では、いま言ったように人員と予算不足から、同じ狭い部屋で冬には仕事をする。あるいはまた、中学校へ行ったけれども、中学校よりも少年刑務所の学習態度の方がいいと世間で言われておるとか、鑑別の内容、教育の水準についても世間はよく知っていないとか、長野県には青少年条例がないとか、少年問題を扱う保護司がこれで十分だろうかとか、そういうずいぶんたくさんの意見が随所で出たわけであります。  それらを総括して、時間がございませんけれども、この名前を変えることから、内容を現時点に順応させることから、法務省傘下からさらに発展して少年問題について各関係機関が社会的にも貢献する問題から、私は法務省としてなすべき点が多いと思いますが、いかがでございますか。
  117. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 ただいま御指摘になりました国政調査でおいでになりました現地の各施設の実情は、先生のおっしゃられたとおりでございます。  これらの施設の中で、少年鑑別所は、主としてこれは家庭裁判所からの依頼に応じまして、少年の資質がどうなっておるのか、あるいはどういう問題を持っておるのかということを調査いたしまして、その結果を家庭裁判所報告する。これは家庭裁判所だけではなくて、ほかの機関からも同様な依頼を受けるわけでございますが、そういう子供を直すということを直接の目的にはいたしておりませんで、そういう性格、資質等を、さっきの言葉の問題がございますが、鑑別する、こういうことを目的にしておるわけでございます。  ほかの二つの少年院と少年刑務所、その少年院の方は、家庭裁判所から保護処分としての少年送致を受けた者を収容して教育する。それから少年刑務所の方は、刑事裁判で有罪になって懲役あるいは禁錮になった少年を収容して刑の執行をする。しかし、刑の執行ではありますけれども、基本は教育、すなわち真人間になって社会に帰すということを目指しておるわけでございます。先ほど松本少年刑務所長のお話がございましたが、この所長さんは長いこと少年院の教官あるいは院長ということで仕事をなさってきたわけでありまして、そういう少年院でやってきたことをこの少年刑務所でもやってみたいという理想に燃えて仕事をなさっておるわけでございます。  少年院の教育につきましては、先ほど先生おっしゃいましたように、やはり厳しい面と、それから親身になって子供のことを考えるという二つの面が必要であろうと思っております。現在、少年院に入ってくる子供たちの大部分について見ますと、一方では非常に放任されてきておる、あるいはやりたいことは全部できるような生活環境で育ってきておる。したがって、非常に自己中心的な面、それからだらしのない面、こういうのが多いわけでございます。それとともに、他方見ますと、この少年たちの多くは家庭ではのけものにされ、学校へ行きますと落ちこぼれということで邪魔者扱いにされる。そういう意味で、社会においてはだれも自分のことを考えてくれないというような状況のために、結局非行の道に走ったという者が非常に多いわけでございます。  そういうことでございますので、少年院におきましての基本的な考え方といたしましては、一方では厳しいしつけをする、しゃんとさせるということを考えますとともに、それはただ単に厳しくするということではなしに、本人に対する思いやりを十分に持った上で厳しい措置をとるときは厳しい措置をとる、それからさらに、愛情と申しますか、本人の気持ちを酌んでという面ではそういう温かい措置をとるという、二つの面を中心に処遇を行っておるわけでございます。  これは戸塚ヨットスクールとの比較という問題になりますけれども、私ども戸塚ヨットスクールの実態についてとやかく言うことはございませんが、私どもにわかっております範囲でも、これはもう暴力を使って、直そうという目的はあるのかもしれませんけれども、暴力ということでやっておるわけでございまして、暴力を使っていろいろな矯正をするということは、この少年院の教育においては全く問題にならない。そういうことは絶対にすべきではないというように私ども考えておるわけでございます。  それから、戸塚ヨットスクールと私ども少年院に参ります少年との間には、これは対象も違いますし、親なら親が戸塚へ入れるか少年院に入れるかという選択を持っているわけでもございません。それから、戸塚ヨットスクールの場合は情緒障害児という自閉症等の情緒障害児が中心のようでございますが、少年院は必ずしも自閉症ではなく、むしろ自閉症というような子供は少ないわけでございます。ただ、少年院に入ってくる子供は多かれ少なかれ情緒障害を持っておるわけでございますので、そういう点についての配慮は十分していかなければいけないというように考えておるわけでございます。  それから名前の問題でございますが、少年院につきましては、先ほど先生御指摘のとおり、法律上は少年院でありますが、組織法上の名前としては、何々学院であるとか何々学園であるとか何々寮であるとか何々の家であるとか、そういうものを使っておるのが約四割ございます。  それから、鑑別所につきましては、この鑑別という言葉がもうすでに戦前、昭和一けたの時代から使われておる言葉でございまして、当時感化院から教護院というのに制度が変わりましたときに、教護院の中へ鑑別機関を設けることができるというのが始まりでございまして、私ども仕事をしております者の間では非常になれた言葉になっておるわけでございますが、ただいま先生御指摘のように、鶏の鑑別というようなニュアンスも多少ないわけではございません。これは医学の面でも使っておる言葉でございますのでなんでございますが、そういう言葉を使っておるうちに汚れたりあるいは嫌な連想を生じさせるということは必ずしも好ましいことではございませんので、この点はまた先生の御示唆も受けながら、どういういい名前があるのかということを考えてまいりたいと思っております。  それから、少年刑務所につきまして、すぐさま変えた方がいいということはちょっと私申し上げかねますけれども、これも一つの課題として検討させていただきたいと思っております。
  118. 横山利秋

    ○横山委員 時間がございませんので、国政調査の中で特に印象に残った点だけを御注文申し上げて、次に移りたいと思います。  いずくの法務局長からも文書をもって、登記所の人員が足りないと数字をもって陳情をもらいました。これは私ども毎年の国会の国政調査の中で痛切に痛感をし、あらゆるところで陳情を受けるのでありますから、いまさらどうこうとは言いませんけれども、特に今回は各法務局長から非常な強い陳情を受けました。長野の法務局を見ましたけれども、全く狭隘で、どうしてこんなつくりをしたのか、要するに法務局をそのいまの時点でつくって、将来性というものを全然考慮しない建物であるからこうだと思います。  法務局の人員増、それから、たとえば施設を見ますと一番古いのが屋代簡裁でございますが、明治三十六年の木造建築物、八十年経過しておるわけなんです。そのほか話題になりましたのが、きょうは最高裁はお見えになっておりませんけれども、最高裁の三十年たった人でも表彰を受けられる人は年に一人か二人。あるいは、あれは富山でございましたか、三十年経過しておる人でも全員が最高裁長官の表彰を受けるのは三十年かかると私は計算をいたします。それら調査室から報告が出ておるはずでございますから、どうぞひとつ法務省におきましては、国政調査は単に行って話を聞いて意見交換をしただけでは本当に相済まぬことでございますから、調査報告書をごらんになりまして、十分ひとつ配慮をいただきたいと思いますが、よろしゅうございますか。――御了承を願ったものと思います。  先ほど同僚議員から、免田被告の身柄を無罪判決を受けたので控訴問題と切り離して即日釈放をされたことについて、刑事局長とのやりとりがございました。時間の関係上、なるべくふくそうしないつもりで聞くわけでありますが、前田さん、要するにこういうことでございますか。  この間ほかの委員会で、四百四十八条の停止決定をできる裁判所はどこか、再審開始決定をする裁判所と再審公判をする裁判所との関係、訴訟の二段階構造をどうするかということをあなたはおっしゃっておられました。再審構造、現在の刑訴法は二面性があって具体的な扱いについて問題があることはお認めなのでございますか。検察の判断に、先ほども常識だというお話が法務大臣から出たわけですが、このまま検察の裁量権にねだねられる問題でいいのか。私は今度の判断は少し法解釈を拡張したものだと思いますよ。そういう拡張解釈が一体許されて本当はいいのだろうか、常識という名前で拡張解釈を許されていいのだろうかという疑念は、やはり依然として私は残っておると思うのであります。ですから、常識でありますと言うけれども、今度の解釈は明らかに、私の感覚から言うならば、裁判所の判断するべき問題に立ち至っているのではないかという気がするわけであります。  今回は、今回の事件に限ってということだけれども、本当に今回の事件に限られ、前例にならないだろうか。財田川や松山事件が控えておるのだけれども、今回はそれとは違うという確たる問題が一体本当にあるのだろうか、問題を残してしまったと私は思うのであります。ですから、説明はいいのですけれども、結論として、これからこれはこのままだということなのか、新たな検討をこの機会に、多少時間はかかるかもしれぬけれども、すべき性質のものなのか、検討すべきだとすれば一体どんなところを検討を必要とするかという点を結論的に聞かせてもらいたい。
  119. 前田宏

    前田(宏)説明員 現在の再審制度につきましては、いろいろな改正の御提案もあるわけでございますし、またいろいろの御議論もあるわけでございます。したがいまして、いろいろな角度から慎重に、かつ真剣に取り組まなければならない問題が含まれているというふうに理解をいたしております。  ただ、さしあたっての身柄の問題でございますけれども、今回の私ども措置につきましては、現行法の解釈として十分成り立ち得るものであろうというふうに考えておるわけでございまして、仮に若干拡張的ではないかという御批判があるといたしましても、そういう立場に立ちましても、それはやはり法の許容される範囲内のことであろうというふうに考えておるわけでございます。  しかし、いろいろ御議論もあるわけでございまして、そういう個々の問題にとどまらず、再審制度全体についていろいろな角度から検討をいたしたいというのが私どもの現在の考えでございます。
  120. 横山利秋

    ○横山委員 いろいろな角度から検討したいとおっしゃるが、私どもは、今度の解釈は検察官の、検察陣の許された法の解釈から少し拡張解釈であり、しかもこの前あなたが委員会でおっしゃったようなことを含めて検討すべきものを新たに生み出した、そう思っております。社会党も提案をいたしておるところでありますから、この機会に十分にひとつ検討をしてもらいたいと思います。  最後に、きょうの新聞で、先ほども話があったようでありますが、金大中事件で目撃者である金敬仁氏が九日にソウルで非難声明をいたしました。要するに、その声明書の中で金氏が指摘しておりますのは、  ①事件当時、金大中氏らと食事を一緒にしたホテルの二二一二号室から飛び出して、三、四回も大声でどなったが、ホテルの二十二階は泊まり客も従業員もだれ一人現れなかった②梁一東氏(当時民主統一党党首)と私が、金氏が連れ去られた後、在日韓国大使館と宇都宮徳馬議員に連絡、同議員の秘書が関係当局に通報したが、目と鼻の先である麹町警察署からはだれ一人現れなかった③金大中氏を犯人らが閉じ込めた向かい側の二二一六号室は自動ロックの部屋だったのに、犯人らは自由に出入りしていた。これはホテルの事前了解なしには考えられない④犯人らが金氏を拉致、東名高速道路を走っていた時、日本警察は要所要所の検問を放棄ないし放任していた――の四点をあげ、拉致事件日本警察が事前に了解していた、と主張している。  また、先般の別途の新聞では、すでに金東雲が金大中氏を何かするという予測を日本警察はつかんでおって、金東雲にそれを阻止するように言っておったにかかわらず、かかわらずというのは、金東雲がやらないと言っておったにかかわらずやってしまったから、金東雲にだまされたということを警察のOBかあるいは現役の覆面の人が、複数の人がそう言っておったという記事が載っておりました。  いずれにしても、この金敬仁氏の非難声明は、ときがときだけに、捜査本部を解散したときに期せずして起こったこの金敬仁氏の非難声明と金大中氏の米国における意見等々相まって、新たなる波紋を起こしたと思います。この点について、一番最初に田中伊三次法務大臣が断固として閣議で日本への内政干渉、国権侵害という問題で取り上げたときのいきさつを私は思い起こすわけでありますが、法務大臣の御意見を伺います。
  121. 秦野章

    ○秦野国務大臣 いまの報道にある事態については、私も詳細に何も聞いておりません。おりませんから、正確なお答えはできませんけれども、正確な答えも、またここで答えること自体にもいささかの逡巡を感じますけれども、せっかくの御質問だから私の感想を申し上げますと、警察が見逃したとかなんとかという記事のようですけれども、それは私は多分でたらめな話だと思うんですよ。日本の警察というものはもっとまじめで、もっと愚直にやっているはずですよ。私がおったときじゃもちろんないのだけれども、多少とも中身を知っている私としては、全くこの発言は問題にならぬというふうに考えております。
  122. 横山利秋

    ○横山委員 警察は御意見ありますか。
  123. 吉野準

    ○吉野説明員 けさの新聞では御指摘のような記事がございまして、いろいろ言っておられる中で金敬仁氏は、「世界でも有能な日本警察が、拉致されるまで金大中氏の一挙一動をつかんでいながら」云々、あるいはさらに進みまして、「拉致事件日本警察が事前に了解していた」というようなくだりがあるようでございますけれども、これは全く事実無根でございまして、警察としては大変迷惑なことでございます。  まあこれだけの大きな事件で、しかも特殊な事件で初めての経験でございますから、捜査をやるに当たりましてはいろいろと困難な問題、状況があったのは事実でございますけれども、私は、警視庁はその困難な状況の中で大変よく、りっぱにやってきておると思っております。いわんや、事前に承知しておった云々というのは全くいわれのないことであるというふうに申し上げたいと思います。
  124. 横山利秋

    ○横山委員 終わります。
  125. 綿貫民輔

    綿貫委員長 鍛冶清君。
  126. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 私は、最初に免田さんの事件につきましてお尋ねをいたします。こういう関係については私も素人でございますので、多少わかりにくい御質問等あるかもわかりませんが、御答弁をお願いいたします。  最初に、大臣にお尋ねをいたしますが、この件につきましては、午前中から、またいまも横山委員からも御質問がございました。重複は避けるつもりでございますが、午前中の大臣の御答弁をお聞きしておりまして、私、素人と申しますか第三者的にお聞きしておって、ちょっとあれっと思った感触のところがございます。多少言葉じりを取り上げるようで意地の悪い質問になるかもわかりませんが、お答えをいただきたいのです。  大臣は、この件については奇妙な事件であるということをおっしゃいましたですね、二度おっしゃった。それから最初にまた率直に、この件は評価しにくいというような答弁もあったわけです。これは私お聞きしておりまして、余り素直ではないんじゃないかな、この判決には腹の底ではどうも納得いきがたいところがあるけれども、判決が下ったのだからこれはやむを得ないというふうな感触にも聞き取れたわけでございますが、大臣、この件についてもう一度御答弁をお願いいたしたいと思います。
  127. 秦野章

    ○秦野国務大臣 いろいろ受け取られるであろうと思いますけれども、いずれにしましても、とにかく長期裁判ですね、三十四年もかかるのだから。私は、長期裁判というのは国家の昼寝だぐらいに思っているのですよ。やはり基本的には、もっとスピーディーにやらなければいけない。無罪なら無罪、有罪なら有罪。これは三十何年もかかるということは、とにかくそれ自体が奇妙だと私は思うんですよ。  それから後の問題では、とにかく無罪の判決が出たんだということは、これは判決ですから、それ自体を当然率直に認める。その結果については、それなりの評価をすることは裁判の独立の日本では当然です。しかし、私が必ずしも素直でないように受け取られたという意味は、とにかく長期裁判だったということと、一審、二審、三審の、しかも死刑などという犯罪は、それはもう十分な証拠がなければ死刑なんか判決をするわけがないし、してはいかぬものだと私は思っているから、それがどうしたんだろうな、私も実はある意味では素人的判断なんですよ。かえってその方がとらわれないでいいぐらいに思っているのですよ。そういうような意味で私は奇妙と言った。時は戻らないし、時は返らないし、時は返せないし、とにかくこれは苦渋に満ちた、苦悩に満ちた事件だ、そんなに率直にすらっと、おまえ感想どうかといって言えるような事件じゃないということだけは率直な私の考えでございます。
  128. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 いみじくも大臣は素人の判断の方がというふうにおっしゃったわけですが、国民の立場から見、私自身もそう思うのですけれども、こういう判決が出ますと、特にもう最終的な決定がされて完全に無罪になったわけですから、そういう観点から言えば、以前の捜査並びにいろいろな裁判のあり方が、内容的に見て、素人ですからこういう表現がいいのかどうかわかりませんが、要するに誤りがあった。それならばなぜそういうことになったのかということについて、捜査当局を含め、最高裁、裁判関係も含めて、司法当局も含めて、こういうことにならないようにという形の中で一生懸命やるという姿勢が一番根本のように思うのです。  けさほどから、これは大臣だけじゃなくて刑事局長さんを初めいろいろな方の御答弁をお聞きしておりましても、何かこう少し持って回ったような感触がありまして、むしろそれはもう、確かにいろいろなことがあってまずい点もありました、だからそういう点については今後改めるようにやっていきますと言われた方が率直にわれわれも受け取りやすいし、今後むしろ検察当局を含め、また裁判関係も含めて、皆さんも信頼がおける、なるほどというような感じもするのですが、そういう感触がどうもないというのは私どもちょっと腑に落ちない点があるのですが、そういう点はいかがでしょうか、大臣に再度。
  129. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私がお答えしているのも、実はそういう趣旨を十分に込めているつもりなんです。といいますのは、やはりこの事件から反省というか、検討材料がたくさんあると私は思う。そういうふうな一種のそれぞれの自己批判といいますか、反省なんというものがなければ進歩はないのですから、現状に満足するなどということでいいような筋合いのものではなかろう。そういう意味で、少なくとも免田さんは別として、とにかくこれに携わった人たちがそういう気持ちを持たなければ、信頼というものが――広い意味で司法に関係する者、これの信頼というものが一番大事ですから、私はそういう意味で、おっしゃるようにそこにそういう意味を込めて、研究材料としていっぱいあるだろう、これはこれから大いにやらなきゃならぬだろう、こう思っております。
  130. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 大臣に同じようなお尋ねがありましたので、最高裁の方にお尋ねするわけでありますが、私が申し上げるまでもなく、今回の免田事件は三十四年を費やして六回の再審請求によってようやく無罪になった。その間に携わった裁判官の方々は六十数名というふうに報道もされておりますし、事実そうだろうと思いますが、私ども国民のサイドからいいますと、司法制度というものが完備されて裁判所のやることは完璧だ、本当は人間がやることですから間違いもあるのでしょうけれども、大方の考えとしてはそういうことが定着をしている。その中で、あれだけ時間をかけ、あれだけ繰り返してやってこういう間違いがあった。しかも死刑ということが絡む問題ですから重大なショックであったわけですが、そういう点について今回こういう形で決着がついたわけですが、最高裁はこの点についてどういうふうなお考えを持っていらっしゃるか、お伺いをいたしたいと思います。
  131. 小野幹雄

    小野最高裁判所長官代理者 申すまでもないことでございますけれども、無辜を罰してはならないというのは、これは刑事裁判の鉄則でございます。裁判官といたしましては、このようなことがないように、裁判の適正を期して日ごろから努力を重ねているところでございます。今回このような結果となりましたということにつきましてはまことに遺憾で、私どもといたしましても、これを深刻に受けとめているところでございます。  この事件につきましては、私どもは証拠資料というものに触れることもございませんので、その事案の証拠関係の詳細ということもわかりませんので、その原因というようなことについては何ともお答えいたしかねるところでございますが、この事件に限らず、刑事裁判に携わる裁判官といたしましては、こういうことがないように、事実認定につきましては全力を傾けて、そして証拠を精査検討するということで誤りなきを期しているわけでございまして、この事件でもそうであったろうというふうに確信はしているところでございます。しかし、いずれにいたしましても、とにかく結果的にこういうことで、確定裁判が誤りであったということで決着いたしたわけでございます。こういうことが二度と起こらないように、特に私どもはこの刑事裁判の重大さというようなことに思いをいたしまして、改めて研さんに努めるとともに、適正な事実認定ということに努めてまいりたいというふうに考えております。  なお、ただいま六十余名の裁判官が関与したということ、まさにそのとおりでございますけれども、ただ、実際のこの裁判というもの、有罪無罪というものの意味で関係したのは、当初の一審、二審、三審と今回の再審の裁判をした裁判官でありまして、その余の五十余名の方はいずれも再審請求という、これは刑事訴訟法規定がありまして、どういう場合に再審請求ができるかという要件を定めているわけでございますが、その要件に合うかどうかという、いわばその法律判断をしたということでございまして、有罪無罪という意味での裁判に関与したわけではございません。特に第一次、第二次の再審請求というようなものは理由が全然示されなかったということで、いわば手続違背ということで決着をしているというようなことでもございまして、六十何名関与しているといいましても、それは実体に関与されたのはそうではないということは御理解いただきたいと思います。  以上でございます。
  132. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 いろんな大枠のお答えは、いまのお答え、大臣のお答えになると思うのですが、立ち入った中で私どもわかりにくいところもありますし、それから繰り返しますように、いろいろいままでやりとりをやられた中で、私どももう一歩、こういうところがどうなのかなというふうなこともございますので、あれこれ話が飛ぶかもわかりませんが、ちょっと御質問を申し上げたいと思います。  この問題についていろいろ言われている中で、特に捜査段階とそれから裁判段階と二つの面で大きく考えなければいけないというようなことが言われておりますが、この中で、捜査段階の形の中で従来から自白中心主義ということでやられておった。これは一番指摘されているようでありまして、いわゆるこの自白が強要されるというような傾向が強いということが一般的に言われているわけですが、今回の事件から、こういうことについて、捜査のあり方についてのいろんなお考えもあると思いますが、この件について法務、検察当局はどういうふうにお考えになっていらっしゃるのか、お尋ねをいたします。
  133. 前田宏

    前田(宏)説明員 今回の事件につきましては、先ほど大臣からお答えもございましたように、たくさんの反省材料といいますか、教訓材料といいますか、そういうものを含んでいるだろうというふうに考えておるわけでございまして、判決当日の検事総長の記者会見におきましても、この事態を深刻に受けとめているという答えを検事総長がしているわけでございます。  したがいまして、私どもといたしましても、この事件を、一つの教材というと言葉が適当でないと思いますけれども、十分あらゆる角度から検討いたしまして、捜査あるいは公判の運用面における問題点、あるいはさらにそれが制度的に関係するとすれば制度面での問題点、すべてにつきまして十分検討をし、反省すべき点は反省をし、直すべき点は直すということを基本にいたしたいというふうに考えておるわけでございます。  具体的にいま自白の問題を御指摘になったわけでございますけれども、この事件におきましては自白の強要というようなこともいろいろ言われておりますけれども、今回の判決文の上では、自白の任意性について若干問題はあるけれども、明らかに任意性がないという判断は示されていないわけでございます。したがいまして、いわゆる一般論的なことになるかと思いますけれども、自白を強要するというようなことがあってはならないわけでございますし、逆にそのことによって、御本人の不利益のみならず、裁判自体が間違った判断をするということにもなりかねないわけでございますから、そういう誤った供述を得るというようなことがないように十分配慮しなければならないことは当然でございます。  しかしながら、これは一般論でございまして誤解を受けるといけないわけでございますけれども、いわゆる科学捜査とか物証とかいうようなことが言われておりまして、できる限りその線でやっていかなければならないわけでございますけれども、事案の実体を明らかにする上において無理のない調べによった本人の自供、供述というものはやはりそれなりの重要性を持つわけでございまして、自白というものは絶対得てはいけないのだというふうに決めつけるわけにもいかないだろうと思います。要は、その自白というものがいろいろな経過で間違ったものであってはならないというところに問題があるわけでございまして、その点については十分な配慮が必要だろうというふうに考えております。
  134. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 この自白強要を引き起こす最大の原因は、被疑者を取り調べているときに身柄を長期に拘束しまして長時間取り調べをしたりする、それが可能な代用監獄ですか、こういったことが原因の大きなものにあるということが言われているようであります。免田さんの場合、果たしてどういう形で代用監獄が使われたのか私承知しておりませんが、それがわかれば明らかにしていただきたいのでありますけれども、そういう意味で自白強要を起こす可能性があると指摘されておる代用監獄、これはやはり廃止すべきであろうというふうにも私は思うのであります。この点についてはいかがでありましょうか。
  135. 前田宏

    前田(宏)説明員 とりあえず免田事件につきましてのいわゆる代用監獄の問題でございますが、この事件に関します限り、いわゆる代用監獄である警察に勾留された期間はございません。
  136. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 代用監獄の問題につきましては、現在継続審査となっております刑事施設法案において、名前は変わっておりまして警察の留置施設への代替収容という言葉を使っておりますが、この法案においても存置するということにいたしておるわけでございます。この結論は、昭和五十五年に法制審議会から答申がありましたところをもとにして立案したわけでございます。  法制審議会におきましては、ただいま御指摘のような自白の強要の問題等の批判があるということも十分考慮いたしまして検討いたしました結果、法務省の施設であります拘置所あるいは拘置支所を全国的に設けるということは大変困難であるということ等を考慮いたしまして制度を存置するという結論になったわけでございますが、それと同時に、被疑者、被告人等代用監獄に収容される者の人権保障、それからさらには代用監獄に収容される者と刑事施設に収容される者との間で処遇が違っては困る、同じように扱うということを確保するという二つの観点から、制度上及び運用上、種々の改善を加えるということにしておるわけでございます。  刑事施設法案、これは百六十三条でございますが、これと、同法案と同時に国会に提出されました留置施設法案では、法制審議会の右の趣旨に従いまして、代用監獄制度につき、次の三点について改善を考えておるわけでございます。  第一点は、警察の留置施設に留置される被勾留者につきましても刑事施設に収容される場合と同様の権利を保障するという観点から、刑事施設法案のうち、面会及び信書の発受、自弁、医療、宗教、書籍等の閲覧など、被勾留者の防御権その他の基本的な権利に関係する規定は留置施設の被留置者にも適用するということにいたしております。しかも、これらの事項に関します刑事施設法案規定は現在の監獄法に比べまして被収容者の権利を大幅に拡大しておりますので、この代用監獄に収容される者の権利もそれだけ広げられることになるわけでございます。  それから第二番目には、同様の観点から、法務大臣は、国家公安委員会に対し、留置施設の運営について必要な事項の通報を求め、またはこの留置施設における被勾留者の処遇について公安委員会に意見を述べることができるというようにいたしておりますし、また、内閣総理大臣が、留置施設法案のもとで、留置施設における被勾留者の処遇に関し総理府令を制定いたします場合には、あらかじめ法務大臣と協議してそごが生じないようにするということにされております。  それからさらに、これは留置施設法案にある規定でございますが、留置施設において留置を担当する警察官はその事件についての捜査に従事してはならないということ、これは現在でも組織上警察で行われているところでございますが、法律上明文の規定を置くということなどにしておるわけでございまして、代用監獄につきましては現状に比べてはるかに改善した上で存置するということにしておるわけでございます。
  137. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 御丁寧な答弁でしたが、私が聞きたいと思うことはそういうことではなくて、それはそれとして、将来を展望したときに廃止の方向で行くべきではないのかということをお尋ねしたわけです。一言でお答えをいただきたい。
  138. 鈴木義男

    ○鈴木説明員 先ほど申しました法制審議会の答申におきましても、改正法の実施に当たり配慮すべき事項ということで、法務当局は将来できる限り被勾留者の収容の必要に応じることができるよう拘置所または拘置支所の増設及び収容能力の増強に努めて、被勾留者を刑事留置場に収容する例を漸次少なくすることという一項がございます。  その趣旨は、勾留場所の指定が裁判官の適正な裁量にゆだねられておるということを前提としつつ、拘置所等が足らないためにやむを得ず代用監獄に勾留するというような事態を徐々に少なくしていくという努力を要請されたものでございまして、私どもといたしましては、その重要性を十分認識しております。  現在、財政事情大変困難でございますが、これまでも刑事施設の増改築等の際には未決の被勾留者の収容定員の増加を図ってまいっておりまして、ここ数年で約千の定員増をいたしたわけでございますが、今後も財政当局の御理解を得ながらこの点についての施策を進めてまいりたいと思っております。
  139. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 新聞報道等を見ますと、再審になりますと事実上六審制になるというようなことで、現在の二段階構造が適当かどうかというようなこと等、また再審では一審からやるのではなくて適当な上級審で行って時間短縮を図る、こういったような検討を行っているようであります。また、こういったことになってきますと、原審と再審の裁判における位置づけというものが大変問題になってくるような気がいたしますが、こういった点についてお答えをいただきたいと思います。
  140. 前田宏

    前田(宏)説明員 午前中、稲葉委員の御質問に対するお答えの中でも若干触れたところでございますが、ただいまの鍛冶委員の御質問は、新聞報道で法務省が再審制度について抜本的に検討を始めたというような趣旨の記事があったことに関連してのお尋ねであろうかと思いますけれども、私どもといたしましては、この再審制度につきましてはいろいろな問題が含まれておるし、現にこうやって御論議もされているわけでございますから、いろいろな角度から検討しなければならないというふうに考えておるわけでございます。  しかし、それをどのような方向で持っていくべきかということにつきましては、個々の問題もございますけれども、やはりすべて基本にかかわる問題でございまして、個々ばらばらに片づけていくというような性質の問題ではないように思っているわけでございます。したがいまして、その中にはいま御指摘になりましたような再審制度の仕組みと申しますか、つまり原確定判決があって、それについて再審開始をするかどうかを決める、そしてその上で開始決定になった場合に改めて裁判をするという形、さらには、その場合に、原確定判決が依然として厳然として残っているその状態で二度目の裁判が行われるという、そういう意味でのまた二重的な形、そういうところにもなお検討を要する点が含まれているのではないかというふうに思っております。  その中にはやはり審理の促進、先ほど大臣も申されましたけれども、審理を速やかにやるという面からもそういう構造そのものについて検討を要する点があるのではないかというふうなことは、問題点としては考えておりますけれども、なお具体的にどういう方向でどういうふうにしたらいいかというところまではまだ考えが固まっているわけではございません。
  141. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 もう一つ、そういった点で司法の国民参加のあり方というものも真剣に考えていいときではないかなというふうに思いますが、この点についてはいかがでしょうか。
  142. 前田宏

    前田(宏)説明員 司法の国民参加ということになりますと、具体的にはいわゆる陪審制とか参審制の問題を指すのだろうと思います。  ただ、この問題はいろいろ前からも議論があるわけでございまして、諸外国の例を見ましても、現に陪審制をとっている国ももちろんございますが、当初陪審制をとりながら、その後それをやめていわゆる参審に変わったという国もあるわけでございまして、日本の場合も御案内のとおり一時陪審制度があったわけでございますけれども、それが停止されたままになって今日に至っているということでございます。その場合に、その利害得失ということになろうかと思いますけれども、基本的に陪審制度をとっているイギリスなりアメリカにおきましても、その陪審制度についていろいろな批判というか弊害といいますか、そういう意見も出ておるわけでございます。  それから、この裁判制度をどのようにするのかということにつきましては、やはり国民の通念といいますか国民感情といいますか、そういうことは大変大事でございまして、諸外国の例をそのまま移しかえるというわけにもまいらないわけでございます。日本でかつて陪審制度が行われておりましたけれども、ほとんど実例といいますか件数が少なかったということも事実でございますし、その原因についてもいろいろな研究がなされておるわけでございます。また、さかのぼりますと、憲法との関係で果たしてどのような内容の陪審制あるいは参審制が取り入れられるかというような基本の問題もございます。それから、陪審員なり参審員なりの資格なり選定の問題とかいろいろな問題もあるわけでございまして、陪審制が一番いい制度だというように言い得るかどうかというような基本からやはり考えなければならぬのではないかというふうに思うわけでございます。  日本の場合に陪審制が必ずしも育たなかったというのは、国民が余りそういう制度を望まなかったといいますか、そういうこともあるようでございますし、当時のお話でございますが、やはり心配でしようがなかったというふうなことを言っておられた弁護士さんも当時あったように聞いておるわけでございまして、それやこれやいろいろ考えますと、確かに国民の司法参加という問題は一つ大事な検討事項だと思いますけれども、そう軽々に結論を出すべきものではないと思います。  しかし、いろいろな面から研究は十分いたしてまいりたいというふうに思います。特に、誤判防止という問題に直ちにつながるかという問題もあるわけでございまして、逆に、その点では逆な場合もあるというような御批判もあるわけでございまして、やはりそういう面からだけで結論を出すべきでもないというふうに思って、いろいろと考えているところでございます。
  143. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 これと関連しまして、今度は死刑ということでちょっとお尋ねをしてみたい、こう思っておるわけでありますが、本当に最近は、七月八日に永山則夫被告の死刑を示唆した最高裁の差し戻し判決というのがございました。それから、七月十三日にはイギリスの下院で死刑復活法案が否決をされた。さらには今回の免田さんの件でございますけれども、こういった問題が引き続いてまいりまして、私は本当に死刑ということ、それはひいては人間の生命の尊厳ということにもつながってくることでありますが、大変考えさせられたわけです。  永山被告の場合は悔悟した人だというふうに言われておりましたし、そういう実績もあったようであります。確かにやった時点では大変なことをやったと思うけれども、本当に悔悟した人が、果たして死刑になるかならないかわかりませんけれども、そういうことはどうなんだろうかというようなこと。それから英国の下院における否決ですね。これは、死刑による威嚇といいますか抑止力といいますか、こういうものについて犯罪の防止に役立たないという結論になったのかどうかわかりませんけれども、これを理性的な立場から判断して死刑をやるということを退けたということ、こういうことですね。免田さんの場合は、私は本当によかったと思うのですが、ああいう形で無罪になった。これらの問題。  さらには、私は教育関係にも首を突っ込んでおりますので痛感をするのですけれども、ちょっと違う角度ですが、ことしに入りましてから、中学生、高校生によるいろいろな事件が起きました。横浜における浮浪者殺傷事件、警察の方々、取り締まりに当たった方々にお聞きしてみると、どうも自分が殺したのが悪かったという意識が――五、六回いろいろ取り調べをしてようやくおれたちは悪いことをしたのかなというようなことを言っておったということを伝え聞きまして、大変恐ろしい思いがしたわけです。こういう事件。それから忠生中学における、先生が生徒を傷つけるという、いろいろないきさつはともかく、そういう事件が続く中で、いろいろな形でいま起こっておる現象は無関係ではない。そういった絡みの中での死刑というもの。  これは現在確かに、殺人、人を殺すというのは一番けしからぬことだということで、世界各国で重罪を科せられておる、こういう事実関係を見てみましても、場合によっては死刑ということでやっておるわけですから、人を殺すということは大変よくないということは一致している。裏返しすれば、それほど生命というものは、たった一人の生命でも、これは大変に重いものであり、尊厳は保たなければいかぬ、こういうことの裏返しの表現になっておるんだろう、こういうふうに思うわけですね。  特にまた、この生命の尊厳ということについては、いいにつけ悪いにつけ、これを損なうということは最高に悪いことであろう。したがって、そういう観点から見てみますと、死刑というものはやはりやるべきではないんではないかというふうな考えに私ども立つわけでありますけれども、まず、この死刑ということについてないしは死刑の制度について、あった方がいいと思われるのか、ない方がいいと思われるのか、大臣個人的なお考えでも結構でございますが、それを含めて大臣のお考え最初に承りたいと思います。
  144. 秦野章

    ○秦野国務大臣 死刑の問題につきましては、日本でも廃止論がかなりありますね。総理府のアンケート調査をとれば、死刑は廃止しない、存置論の方が多いようでございますけれども、この問題は、いまいろいろおっしゃいましたとおり、いろいろな意見、いろいろな側面からの議論があって、きわめてむずかしい問題だと思うのです。  アメリカとかイギリスあたりのこの間の状況なんかの比較はすぐ出るのですけれども、今度の免田事件なんかで、私は関係者の反省といったような問題を強調もしたのですけれども、それにもかかわらず、日本の司法制度というのは正直言ってアメリカやイギリスよりは卓越しているのではなかろうかという気はするのですよ。なぜかといいますと、さっき陪審のお話が出ましたけれども、陪審だけでもない。たとえば、アメリカなら検事や裁判官が選挙で出るところがありますが、スタンドプレーで判決するというような話もよく聞きます。ニューヨーク大学のジョージ・ジュニアというかなり著名な教授、これは比較刑事法といいますか、日本の司法制度なんかも研究して、いまの最高裁の団藤さんの刑事訴訟法なんかも翻訳をした人ですけれども、この人がこういうことを言っているのです。自分がもし本当に無罪なら、これは日本で裁判した方がいい。自分が有罪なら、本当に有罪ならアメリカで裁判をした方がいい。こういう比喩的なことで制度の特徴みたいなことを説明しておられるのですよ。これは両方制度を研究した人ですから。私は正直言って、冤罪は絶対出してはいかぬ、しかし、冤罪が日本とたとえばアメリカとどっちがあるだろう、こう思うと、やはりアメリカの方があるだろうと思うのですよ。だから、日本の方がその点ではまだ安全というか安定性がある。  イギリスも陪審制は入っていますね。陪審制は、いいところもあるが、実体的真実の追求という観点に立ったときには必ずしもそれが最良だとは言いがたいような、日本の例でも、日本が陪審を一時制度としてやりましたけれども、結局入れられなかったのですけれども、そんなことを考えますと、日本は私は正直言って司法制度はかなりよくできていると思いますので、死刑を存置するか廃止するかという問題は、その国のそういった制度の、一種の制度の優劣なりあるいは風土なり成り立ちなり文化なり――アメリカという国は多少冤罪があっても秩序が大事だみたいな話があるのかもしらぬ。きわめて自由な国、すばらしく自由に過ぎるような国柄だから、日本とは違った文化の風土もあれもあるだろうと思うのですね。  そんなことをいろいろ考えますと、日本でいま私の口から個人の意見だとしても死刑というものはやはり廃止した方がいい、こういうふうには言い切れないものがあるというふうなのが率直な私の意見でございます。
  145. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 そこで、死刑制度の存廃について世界での趨勢というのはどうなっているのか、これは簡単にひとつお答えをいただきたいと思います。
  146. 前田宏

    前田(宏)説明員 一九八〇年の国連の調査結果が出ておるわけでございますけれども、国連加盟国が百五十二カ国ということでございまして、それについて一九七四年から七八年までの調査結果ということになって出ております。数だけで言うのもどうかと思いますけれども、死刑廃止国が二十一、通常犯罪については死刑を廃止しているけれども特殊な犯罪については死刑を残しているというのが十二、それから一部の州で死刑を廃止している連邦国家、アメリカ等でございますが、それが二、残りの百十七が死刑を存置しているという数字が出ております。  したがいまして、数から言えば圧倒的に死刑存置国が多いということでございますが、西欧等のいわゆる主要国といいますか、そういうところにおきましては死刑廃止国が多くなっているということは言えるわけでございます。また、ある国におきましては、一たん死刑を廃止してまた復活した、またあるいは廃止、復活、廃止というような過程を経ている国も若干あるようでございます。
  147. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 日本の過去の歴史の中で死刑を廃止した時期があるというようなこともちょっと聞いているわけですが、そういう時期、それから時代背景、民情、世情、こういったものはどうだったろうかというふうに思うのですが、その点についておわかりでありましたらお答えくだざい。
  148. 前田宏

    前田(宏)説明員 詳細に研究をしているわけでございませんけれども、いろいろな学者の方の論文等もあるわけでございまして、それぞれの学者によりまして期間等も若干違っているので、どれが正しいのかということははっきりしない点もございますが、ある説によりますと、嵯峨天皇の弘仁九年、西暦では八一八年から、後白河天皇の保元元年、一一五六年までの三百三十九年間、その間死刑が行われなかったというふうに言われておりますが、これが、法律的に死刑が廃止されたのか運用上死刑が行われなかったのかという点がちょっとはっきりしておりません。むしろ法律的には残っていたように見られるわけでございます。  どうして相当長期間にわたってそういう時代があったかということにつきましてもいろいろと述べられておりますが、非常に刑罰が寛刑化の傾向にあったとか、あるいは仏教の影響であるとか、いろいろなことが言われておるわけでございます。ところが、死刑を実際上言い渡さなかったり、あるいは言い渡してもそれをいわゆる流刑に変えたりというようなことで、相当寛大な扱いが実際上行われたようでございますけれども、そのためにいわゆる良民は大変苦しんで、社会秩序が乱れたというふうにも言われておるわけでございます。ある論文の言葉では、この時代の京都は群盗横行のちまたと化したというふうな言葉も言われているわけでございまして、果たしてそれがどのような状態であったかということは定かでございませんけれども、一般的に政治あるいは文化が軟弱化した、あるいは無力化したというようなことが背景にあるようにも説かれているわけでございます。そして、非常に治安が乱れたということから、また死刑が実際に復活したというふうに説かれておるところでございます。
  149. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 時間が詰まってきましたので、ちょっと一問一答式にお願いしたいのですが、近代の行刑は教育刑の方に重点が置かれつつある、こう言われているわけですが、こういう趨勢についてどういうふうにお考えでしょうか。
  150. 前田宏

    前田(宏)説明員 刑罰の本質につきましてはいろいろな考え方があることは委員も御案内のとおりだと思います。いわゆる応報刑的な考え方と教育的な考え方といろいろあるわけでございますが、いま御指摘のように、近代の刑事政策思想が進むにつれまして、犯人の改善更生、社会復帰というために教育の点に力を入れるということが強くなっていることは事実であるわけでございますし、現在の矯正におきましてもそういう考え方が働いていると思います。
  151. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 死刑の歴史というのは応報とかみせしめ等によってきたと言われているわけでありますけれども、現時点での死刑ということを考えてみましたときに、応報、みせしめ的な点で考えられるものかどうか、この点についての見解を承りたいと思います。
  152. 前田宏

    前田(宏)説明員 これも歴史的な検討から始めなければいかぬわけだと思いますけれども、古い時代におきましては、いま御指摘のように応報とかみせしめとかいうことが強く考えられていたと思います。その点は現在でも全くなくなったかといいますと必ずしもそうでないと思いますけれども、現在はそういう単純なといいますか、いわゆる目には目をといったような形での考え方はとられていないわけでございまして、死刑の存置については、先ほど大臣もお答えになりましたように、いろいろな角度から検討の上で存置されておるし、また将来も恐らくなお存置されるだろうというふうに考えておるわけでございまして、それはやはり単なる応報とかみせしめというだけではなくて、そのことによる一般予防手段としての効果というようなものが無視できないというふうに考えるべきじゃないかというふうに思っております。     〔委員長退席太田委員長代理着席〕
  153. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 七月十三日には英国下院において死刑をやろうというのを否決したわけですが、これについては、当日ですかの英国の新聞によれば、七七%は死刑復活を望んでいるという世論調査の結果が出ていたようでありますけれども、それをあえて乗り越して、党議拘束せずという各党間の話し合いの中で投票をしたところ、結局これが否決された。要するに、六つの罪に対する死刑復活がすべて否決されて、死刑は犯罪の抑止に役に立たない、結果的にそういうふうな形で判断されたともとれるわけですが、これについてどういうふうなお考えを持っていらっしゃるのか、特にまた、抑止力という点で死刑はどういう作用をしているのか、どういう考え方に立っておられるのか、お伺いをしたいと思います。
  154. 前田宏

    前田(宏)説明員 イギリスにおきまして、死刑の復活に関する六つの提案があって、それが順次否決されたというふうに理解をしておるわけでございまして、その六つといいますのは、いろいろな罪質といいますか、態様に応じて、こういうものは復活すべきであるという形での提案であったようでございます。たとえば強盗殺人については復活すべきであるというような提案、あるいは広く一般殺人についても復活すべきであるというような提案、いろいろあるようでございまして、それが順次否決されたというふうに聞いておるわけでございます。  ただ、その理由につきましては詳細に承知しておりませんし、恐らく明らかにされていないのだろうと思いますので、何とも申し上げかねるわけでございますし、やはり、先ほどのお話もございましたが、その国その国の立法政策の問題としてのことでございますから、それをどのように考えるかということは、直ちにわが国に当てはまるとも考えられないわけでございますし、いま御指摘のように、犯罪の抑止に役立たないということが明示されて否決されたというふうにも考えていないわけでございます。     〔太田委員長代理退席、委員長着席〕  この死刑に抑止力があるかどうかということにつきましては、両説といいますか、いろいろな考え方があるわけでございますけれども、やはり存置論の中には、そういう凶悪犯罪の抑止効果があるというふうに考えている人が多いというふうに実は考えている次第でございます。
  155. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 わが国の世論調査でも死刑というものを存続の方が多いようにも聞いているわけでありますけれども、しかし、またそのもう一つ奥を探ってまいりますと、やはり死刑は廃止すべきであるというのが、人間としての、人類としての願望であるような気もするわけですね。したがって、私どもはその方向に行くべきであろうと考えるわけですが、最初大臣の、死刑制度というものはやはりなきゃならぬだろうというようなお答えもあったわけでありますけれども、これはやはりいろいろなものを乗り越えて廃止に向かって漸次進めていくべきであろうと思うわけでありますが、その点についてどういうふうにお考えか、お答えをいただきたいと思います。
  156. 前田宏

    前田(宏)説明員 お言葉を返すようでございますけれども、死刑の廃止が人類の願望だというふうに直ちに言っていいかどうかというふうな気もするわけでございまして、願望と言えば、そういう死刑を必要としない平和な社会が到来するということが願望であろうというふうに私ども考えておりますけれども、直ちにそういう理想的な社会になるかということになりますと、現実的にはなかなか問題が多いのではないかというふうに思うわけでございます。  世論調査も、総理府等でやっておりましても、先ほど大臣のお答えにもありましたように、廃止不要、存置論の方が多いということでございますし、最近もNHKで似たような調査結果が出ているようでございます。ただ、もちろん死刑制度が好ましいというか、いいことだという意味で申し上げているわけではございませんで、やむを得ないといいますか、そういうような感じで申し上げている次第でございます。  なお、刑法の改正の中でも、この問題は法制審議会でいろいろな御意見がございまして、十分検討されて、死刑を定める罪種は少しでも減らそうということで草案ができていることは、御案内のとおりだと思いますが、つけ加えさせていただきます。
  157. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 死刑の問題、それから生命の問題というのは大変な問題でありますので、きょうはちょっと触れさせていただいた程度にとどめて、いずれ機会を見て、これは正面切っていろいろと議論をしてみたいなという気もいたしておりますので、これでとどめておきます。  次に進ませていただきますが、外国人の指紋押捺の件ですね。これも稲葉委員、それから横山委員からもたしかいろいろお話があったと思いますので、重複を避けてお尋ねをします。  現在、指紋押捺の拒否運動というものが非常に全国的に高まってきているわけであります。しかもこれが、全国市長会とか経団連等を含めて、従来にない形で、それこそ国民すべてと言っても言い過ぎではないぐらいな形でいまそういう運動が盛り上がってきているというふうにも思うのでありますが、この点について、状況認識を含めて、どういうふうにお考えになっていらっしゃるか、お尋ねをいたします。
  158. 田中常雄

    ○田中説明員 お答えいたします。  最近、指紋押捺問題について新聞等においていろいろ報道されております。また、一般市民の方々からもいろいろな声が寄せられております。これらの声の中には、指紋押捺制度を廃止ないし改善すべきであるという意見もございますし、また同時に、外国人は日本国にいる以上日本の法令に従うべきであるという意見もございます。  われわれといたしましては、それが賛否いかなる議論であっても謙虚にこれらの意見を聞いておりますけれども、やはり外国人の身分関係、居住関係を明確にし、そして公正な管理をするという外国登録法の基本的な目的を遂行するためには指紋制度というものは必要だと考えておりますもので、今後とも機会をとらえて指紋制度に関する公正な評価というものをますます得るように努力したい、このように考えております。
  159. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 外国人の出入国とか滞在については、いろいろな形で諸外国とも厳しくチェックしているようでありますから、そういう意味で、その点に立てば、日本だけが外国人に対してチェックが厳しいということにはならないのだろうとも思うのです。ただ、指紋を強制的に、いわば強制になりますね、押させるということについて、国際社会の中で日本という立場を考えてみると、結果的に指紋を強要するというような手段、これは非人道的だと言われても仕方がないのじゃないか。こういういろいろなものを含め、けさほどからの議論も含め、在留外国人を特定する手段について、諸外国の動向も勘案しながら、もっと柔軟な対応をしてもいいのじゃないか。  大変素人考えにはなりますが、たとえば、今日写真技術が発達しているわけですから、これを――当初写真だけでは偽造されていかぬというのも指紋に切りかえた理由の一つであったようでありますけれども、そういうことを乗り越えて、ビニールコーティングというような形も行われておって、これは偽造できるのかどうかわかりませんが、しにくいのじゃないか。その他、非常に科学的、合理的な確認をする方法、こういったものを開発するとか、米国のような相互主義の枠を広げるとかいうような工夫をしながら、この指紋押捺というものはなくすという方向にやはり持っていくべきではないか、私どもはこう思っておりますが、この点についてお尋ねをいたします。
  160. 田中常雄

    ○田中説明員 われわれといたしましては、諸外国の事例等々についてはいろいろ研究しております。現在判明しているだけでも、米国、韓国を初めとして、世界三十数カ国が指紋押捺制度を採用しております。またたとえば、いま韓国と申しましたが、韓国においては自国民の居留証明書に指紋押捺させておりますし、また南米諸国においては、自国民の旅券に指紋押捺させております。そして、国際慣習法上におきましても、指紋押捺というものが直ちに人権違反になるという意見は聞いておりません。  それで、外国人の入国、滞在及びその滞在条件等につきましては、条約において定めがない限り各国の主権の問題であるということは国際慣習法上一般に認められておりまして、われわれとしましても適法に指紋押捺制度を遂行しているわけでございます。  また、いま人権問題ということの御指摘がございました。特にこれは人権規約との問題があると思いますけれども、人権規約上においては二つの条項がございます。人権規約の第七条と第二十六条でございますが、第七条は、人間の品位を傷つけるような行為を禁止するという条項でございます。しかし、この条項の成立経過というものを調べますと、要するに、この条項はナチドイツのコンセントレーションキャンプにおける生体実験を前提として定められたわけでございます。したがいまして、条項の中にもメディカル・オア・フィジカル・エクスペリメンテーションというような言葉がありまして、生体実験そのもの自体がこの条項の対象となったわけでございます。また、二十六条でございますけれども、法の前の平等という問題がございますけれども、この成立過程をやはり同じように調べますと、英国を初めとして各国から、要するに外国人の入国及び滞在条件はこれは主権行為である、それを大前提として、その上でこの条項を定めようというような経緯でこの条項ができ上がっているわけでございます。  それで、ただいま先生からビニールコーティングという問題もありましたが、先生も御存じのように、昭和二十年代においては顔写真だけで本人の同一人性を確認しておりました。しかしながら、外国登録証明書の不正入手事件というのが余りに横溢いたしまして、切りかえ申請をするたびに数万人の在留外国人の数が変わるというような事態に直面しまして、顔写真だけではだめだということで指紋制度を昭和三十年から採用したわけでございます。  それで、ビニールコーティング等々、こういうことを特に開発し、いろいろな方法を考えるということは過去においても研究いたしたわけでございますけれども、要するに、顔写真を確保するということは本人の同一人性を確認する一つの手段ではございますが、やはり確実に本人の同一人性を確認するためには、どうしても、ビニールコーティング等々を用いてたとえば顔写真を確保しても、それと同時にやはり指紋制度も必要である、そう考えている次第でございます。
  161. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 余りがちんがちんと答えないで、もう少し柔軟ににこにこしてせめて答えてくれるといいのだけれども、私が言っているのは、必要だとか何だとか、それはいろいろ答弁もあったりやりとりもあって、一応調べていますから私も知っているのですが、ただ、趨勢を見たら少し柔軟に考えて、やはり経団連を含めて各層がそういうふうに出ているということはそれぞれ理由があってのことですよね。  だから、内なる正確な理由はともかくとして、やはり外の要因というものも考えながら、あるいは国際性というものも考えながら、柔軟に考えていくべきときではないか、ないしは、意見は聞きますと言いながらこうだということではなくて、ではそういう方向で何か方法はないかという考えを進めていくぐらいのことはやってほしいし、それだけの柔軟性はあっていいのじゃないか。そういう四角四面のところが経済摩擦にひょっとしたらなるのかもわかりませんから、そういう意味で、変な論理になっているかもわからないけれども、私が申し上げたのはそういう意味なんです。だから、そういう柔軟な考え方を持つか持たないかだけでもいいです。一言でいいですから、それはいかがですか。
  162. 田中常雄

    ○田中説明員 委員の御示唆のとおり、いろいろ世界各国の情勢も調べ、また日本を取り巻く国際環境というものについても思いをいたしまして、いろいろ物事を柔軟的には考えたいと思いますけれども、この指紋押捺制度につきましては、われわれとしましても昨年外国登録法が改正審議されました際にその基本事項数点にわたりましていろいろ検討したわけでございますが、その結果、やはり指紋制度は必要であるという結論になった次第でございます。  しかしながら、委員の御指摘のように、われわれは柔軟的に物事を考える、いろいろ国際環境も考えるということは決して忘れることはいたさないつもりでございます。
  163. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 時間がいよいよ参りましたので、最後に敬称問題で、稲葉委員も触れられましたが、私もちょっと大臣にお聞きしたいのです。  大臣にお尋ねをしたことはもう省きまして、大臣は有識者による諮問委員会を設置してこの件についていろいろ検討してもらうというような意味の発言をされているようでありますが、これはその後の経過はどういうふうになったかお尋ねいたします。
  164. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私の趣旨は午前中申し上げたようなことなんでございますが、法務省にはいろんな委員会がありまして、人権関係委員会もあるし、そういったようなものの中で論議できればそれでもいいのではないかというふうに考えて、問題は、こういう問題に対して文明国あるいは先進国と言われる国がどのような対応をしているかという資料の収集の方にむしろ重点を置いて、資料提供という考え方で目下進んでおりますので、委員会の問題というのは余りとらわれておりませんから、改めて発足をさせるほどのものではないのではないかというふうに考えております。
  165. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 これは新聞報道では全国人権擁護委員会に要請をしてということですが、いま大臣がお答えになったのは内容的にはそういうことになるわけですね。それから、どんな形で出てくるのかわかりませんが、結論が出てきた場合にはそれは政府としても尊重しよう、こういうことでございますか。
  166. 秦野章

    ○秦野国務大臣 政府として尊重するというよりも、そういうことでいろんな意見があって、そういう意見を発表すること自体で、政府が尊重するというよりも、世間で、世の中でそういう意見があるのかなというふうに思ってもらえばいい。要するに、一石を投ずるということだけで、それ以上、それによって基準をつくるとか政府が守るべきとかそういうやかましいことを余りねらわないという考え方でございます。  というのは、やはり言論の自由という問題が基本的にございますので、それとの関係考えれば、せいぜい政府が言えることは、人権の立場である種の資料の提供とか話題の提供とかということにならざるを得ないだろう、こう思っております。
  167. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 重ねて大臣にお尋ねしますけれども大臣がそういうふうに言い出されたわけですが、大臣は、国会の委員会、本会議等での答弁とかほかのいろんな会合の折に、容疑者、被疑者に対してどういうふうに言っておられるのか、ちょっと改めてお聞きをいたしたい。
  168. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私がですか。
  169. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 はい。
  170. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私はいままで言ったことはないと思いますね。呼び捨てなんかにしたことはないと思いますよ。
  171. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 言ったことはないということでしたが、言ったことがないということは、敬称をつけられているわけでしょうが、それはそれなりに御自分で基準というのを持っていらっしゃると思うのです。そういうことについてその基準というのはどういうふうな考え方でお考えになっているのか、ちょっとこれもお聞かせ願えればと思います。
  172. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私が提言したのはいわゆる刑事被告人の呼称の問題であります。私自身は、友達でも呼び捨てにすることがあるし、それはケース・バイ・ケースでやっているわけでございますが、私の問題提起のあれは、刑事被告人についての呼称について多少論議の余地があるだろう、こういう角度でございます。
  173. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 これは最後の質問で大臣に再度お聞きをいたしますが、隗より始めよという言葉もありますから、大臣御自身はともかくとして、総理を初め閣内で各大臣にもこういう話を持ち出されて、ひとついろいろ考えてみようじゃないか、そういう「さん」をつけるとかつけないとかも、使うときはわれわれも統一して考えようじゃないかとかいうふうな提案でもなさって話をしてみようというようなお気持ちはございませんか。
  174. 秦野章

    ○秦野国務大臣 そこまでの考えは持っておりません。閣議で統一するとかなんとかという問題じゃなくて、それ以前の――以前といいますか、以外の立場で問題提起をしてみたい、こういう考え方でございます。
  175. 鍛冶清

    ○鍛冶委員 どうもありがとうございました。質問を終わります。
  176. 綿貫民輔

    綿貫委員長 林百郎君。
  177. 林百郎

    ○林(百)委員 最近マスコミなんかで騒がれていますが、靖国神社への公式参拝の問題です。これは憲法二十条との関係で、国家護持というようなことで、神道が国家の事実上の唯一の宗教になって、天皇が現人神となって、それがもとになって戦争の精神的な動員の基礎になったということで、これは軍国主義の復活と重要な問題が絡んでいるのでマスコミ等も取り上げていると思うのですが、法制局の見解は、公式参拝については憲法違反の疑いがあるのでというような解釈だというのですが、法制局の見解をここで改めて聞かしていただきたいのです、靖国神社の公式参拝について。
  178. 前田正道

    前田(正)説明員 法制局の見解と申しますよりは、昭和五十五年十一月十七日に衆議院の議運委員会理事会におきまして、当時の宮澤官房長官が政府の統一見解として述べられておりますので、これを申し上げます。   政府としては、従来から、内閣総理大臣その他の国務大臣が国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することは、憲法第二十条第三項との関係で問題があるとの立場で一貫してきている。   右の問題があるということの意味は、このような参拝が合憲か違憲かということについては、いろいろな考え方があり、政府としては違憲とも合憲とも断定していないが、このような参拝が違憲ではないかとの疑いをなお否定できないということである。   そこで政府としては、従来から事柄の性質上慎重な立場をとり、国務大臣としての資格で靖国神社に参拝することは差し控えることを一貫した方針としてきたところである。 というものでございます。
  179. 林百郎

    ○林(百)委員 それは宮澤官房長官の考えですが、法制局が法制的な考えから言うと、どういうところが疑いがあるということになるのですか。その宮澤官房長官の答弁についてどう解釈しているのですか。
  180. 前田正道

    前田(正)説明員 この政府統一見解が作成されました段階におきましては、法制局も当然意見を聞かれたわけでございますし、この見解に私どもとしては服しているわけでございます。  この統一見解を作成する上におきましては、特に憲法第二十条第三項の宗教的活動について判示をいたしました昭和五十二年の津地鎮祭についての最高裁の判決というものを参照にいたしまして結論を出しているわけでございます。
  181. 林百郎

    ○林(百)委員 そのとき三木首相が、各大臣が参拝するならば、公式参拝と一線を画するために、公式参拝は疑惑があるから次の条件が必要だと言って条件を出していますね。それはどういう条件だったのですか。
  182. 前田正道

    前田(正)説明員 ただいまお尋ねのことに関しまして、巷間いわゆる四条件というようなものが言われておりますけれども、法制局の方から四条件ということでお示ししたことはございません。また、その事実がないことにつきましては、これまでの委員会等におきましてもお答えしているところでございます。
  183. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、三木首相がこういう四条件を出したことはないということですね、法制局としてはないと言えるのですね。
  184. 前田正道

    前田(正)説明員 委員のお尋ねがどういう趣旨かは存じませんけれども、私としては、三木総理がそういう四条件を出されたということは承知しておりません。
  185. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、肩書きに内閣総理大臣という肩書きを書き、それから公用の自動車を用い、随員を連れて、そして参拝をするということについて、そうしても公式参拝にはならないという――これは法制局の見解を聞いているのですよ、そういうことになるのですか。もちろん玉ぐしは個人的な玉ぐし料でないとまずいということが入りますけれどもね。
  186. 前田正道

    前田(正)説明員 ただいま御指摘の点につきましては、同じく昭和五十三年十月十七日の参議院の内閣委員会におきまして、当時の安倍官房長官からお答え申し上げております。ちょっと読ましていただきますが、   先般の内閣総理大臣等の靖国神社参拝に関しては、公用車を利用したこと等をもって私人の立場を超えたものとする主張もあるが、閣僚の場合、警備上の都合、緊急時の連絡の必要等から、私人としての行動の際にも、必要に応じて公用車を使用しており、公用車を利用したからといって、私人の立場を離れたものとは言えない。   また、記帳に当たり、その地位を示す肩書きを付すことも、その地位にある個人をあらわす場合に、慣例としてしばしば用いられており、肩書きを付したからといって、私人の立場を離れたものと考えることはできない。   さらに、気持ちを同じくする閣僚が同行したからといって、私人の立場が損なわれるものではない。 以上のような見解が政府統一見解として示されておりまして、法制局といたしましてもこれと同様の考え方を持っております。
  187. 林百郎

    ○林(百)委員 そうすると、内閣総理大臣という肩書きで、そして内閣総理大臣の公用車を使って、そして各閣僚を引き連れて靖国神社に参拝しても、これは私人の参拝だ、こう法制局も考えているということですね。  そんな考え、どこから出てくるのですか。これはもう憲法学者の通説からいっても、宗教的な中立の立場を保つためには、宗教団体が国から特別な特権を受けないとか、あるいは宗教的な特別な礼拝ないし宣伝を受けないとか、公権力による特殊な利益的取り扱いを受けないとか――靖国神社だけは、総理大臣という肩書きをもって、総理大臣の公用車を使って各大臣を引き連れてお参りしても、国家的な特別な取り扱いを受けてないということになるのですか。そんなことを法制局は考えているのですか。
  188. 前田正道

    前田(正)説明員 ただいまの点につきましては、先ほど読み上げさしていただきました政府統一見解の中に述べておりますように、公用車の利用に関しましては、閣僚……(林(百)委員「公用車はいいですよ。肩書きはどうです」と呼ぶ)肩書きにつきましては、慣例としてしばしば行われているというところから、それを書いたからといって私人の立場を離れたものではないであろう、こういう考え方をとっておりまして、このことにつきましては国会でもたびたび御議論がありまして、同様のお答えをしております。
  189. 林百郎

    ○林(百)委員 それでは、今度中曽根総理が、公式参拝をするたびに問題が起きる、疑惑がある、それをはっきりしろと言ったのはどういうわけですか。何も問題ないことになるじゃないですか、あなたの言うことになれば。
  190. 前田正道

    前田(正)説明員 法制局といたしましては、特段の指示もお話も受けておりませんので、その点については承知いたしておりません。
  191. 林百郎

    ○林(百)委員 あなたの言うのは全く詭弁ですよ。法制局自身がそんなこと言っていたら、これはもう再び靖国神社が国家護持を受けることに通ずることは明らかじゃないですか。東条英機も祭られているし、そういうようなものへ内閣総理大臣が改めて参拝する。それじゃ違う神社へそういうことをしたことがありますか。  まああなたを幾ら怒ってもしようがないけれども、そんなことを法制局が考えていたら問題ですよ。  それで、法務大臣、聞きますよ。  内閣では、八月十五日に終戦記念日でまた皆さんおいでになるでしょう。参拝についてはいまどういうことになっているのですか。参拝するについては、いま言った三木総理が言われたという四条件というものがあることはあるのですよ。われわれ見ているわけですよ、マスコミやいろいろで。そんなこともありますが、どういう話にいまなっているのですか。みんな肩書き書いていい、公用車を使って行ってもいい、それから随員も何もみんな行く、玉ぐし料をどうするか知らぬけれども、どんなことになっているのですか、いま内閣は。
  192. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私が閣僚になってこの問題で特に話し合いしたことも何もないのですけれども、私自身は、秦野章という個人といいますかね……(林(百)委員「ちょっと小さい声で聞こえない」と呼ぶ)今度のいまおっしゃった問題で、私は閣僚になってから閣議その他で話し合ったことは何もないのですよ。ないのですが、法制局の見解は法務省の方に参考に配ってきています。  私自身は、言うならば法務省の代表者としてお参りするなどということはあり得ない。秦野章として参拝するということはあり得る。まだ行くと決めていませんけれどもね。要するに自然人といいますか――ただ、肩書きが、職業が法務大臣だから、職業欄があれば国務大臣と書いたって構わぬだろう。しかし、秦野章が行くんだから、それは自分の個人の自動車で行って、もちろんおさい銭は自分のお金を出す、これはあたりまえのことだと思うのですよ。それを、公人、私人なんて論議が大分やかましいようだけれども、私は、神社参拝というようなことは、お寺でもどこでも自分個人で行くものだ、こう思っていますから……。
  193. 林百郎

    ○林(百)委員 それじゃ、東本願寺、西本願寺あるいはキリスト教の教会へ大臣たちが行くときに、みんな大臣の肩書きを書くのですかね。それはどうなっているか御存じですか。あなたも初めて法務大臣になって、今度はそういう問題に直面しているわけですが……。  法制局に聞きましょう。法制局、そういうことあるのですか。内閣総理大臣が自分の菩提寺にお参りするのに、内閣総理大臣中曽根康弘ということで菩提寺にお参りして、そして肩書きを書いてくるのですか。そうやっているのですか。そして公用車を使って、それから随員も連れて、そういうことをやっているのですか。そういうことを聞いたことありますか。
  194. 前田正道

    前田(正)説明員 私は存じません。
  195. 林百郎

    ○林(百)委員 私は存じませんのに、靖国神社にだけそういうことがあることは御存じだ。それは別に公人としての参拝でないということは、全く詭弁ですよ、あなたの言うことは。法制局がそんな詭弁を弄していたら、再び軍国主義の方向へ行く危険というのは国民は皆感じているのですよ。  だから、法務大臣にもう一度お聞きしますが、法務大臣は、まだはっきりは決めていないけれども、靖国神社へ参拝される。しかし、それは法務大臣の秦野ということで行くんだ、私用の車を使うつもりだし、玉ぐしは個人的な玉ぐし料で、まだ行くとも行かないとも決まってないけれども、行くとすればそういうつもりだということですね。それは宗教の自由があるから、あなたがどこへ行っても私は構わないと思う。ただ、内閣総理大臣とかあるいは公用車を使うとか、あるいは随員を連れていくとか、異常な参拝の仕方は、これは明らかに公式の参拝、内閣総理大臣として、国としての特別な靖国神社への配慮になるということを私は言っているわけなんですよ。あなたが個人としてどうしようと構いませんがね。もう一度はっきり言ってもらいたい。
  196. 秦野章

    ○秦野国務大臣 私は、たとえば公用車で用があってあの辺を通ったときに、ちょっとそこでおりてお参りするという程度なら、仮に公用車を使ったって、そのために使ったのじゃないのだから大したことはないだろうと思っているのですよ。だけど、靖国神社にお参りするというのにわざわざ公用車を使ったこともないし、また使うつもりもない。私は自家用車がありますからね。  それと、お言葉を返すようだけれども、靖国神社にお参りするということの私の心境は、気持ちは、私の弟も戦死しているしするから、あそこに戦死者のみたまが祭ってあるんだということなら、あそこに、祭られているところにおさい銭を投げてお参りするということは自然の感情だ。  肩書きの問題でも、私はいわば社務所みたいなところへ上がって何かしませんから、そうっと入っていって、おさい銭を投げてお参りするんだから、余り書くことはなかろうと思うのですよ。仮に肩書きを書くとしても、いま法務大臣をやっているから、職業は、どこかの会社の社長が社長と書いて名前書いてあれするのと余り変わらない程度の意味で、書いても一向に、色紙に名前を書くのと同じだというような程度に私は感じておりますが、あくまでも法務省を代表し法務大臣がというのじゃなくて、秦野章がお参りするんだ。たまたま職業を書く。だって同姓同名もあるからね。職業でも書かぬと間違えることがある。私のような名前でも同姓同名が東京都にありましたからね。  そんなことで、余り力んで行くつもりはありません。私は何も十五日じゃなくたって、たまにお参りいたしますから……。その程度でございます。
  197. 林百郎

    ○林(百)委員 私が特に靖国神社ということを問題にするのは、戦没者の霊を祭るということ、これは国民としてそういう気持ちがあるのは当然だと思うのですよ。それなら千鳥ケ淵に――何百万人という日本人が死んでいるし、広島、長崎では原爆で何十万人という人が二千度もの熱で焼け死んでいるわけですよ。靖国神社だけ各大臣がみんな行って、そしてそういうところで大臣が戦争で犠牲になった人の霊を祭るということは聞いたことがないのですよ。だから、そういう意味で、東条英機まで祭られている靖国神社へ大臣の肩書きをもって堂々とお参りをして、そして天皇の名のもとで戦争に協力した者を祭って、そしてそれを国家が護持するということになれば、それはかつての旧憲法の時代の戦争へ通ずる、神道の国家護持に通ずるのではないかということを心配してお聞きしているわけです。大臣大臣のそういうお考えで行くなら、それはそれで――私としてはでき得べくんば何も法務大臣などと書かなくてもいいと思うのですけれどもね。  それから、法制局の見解は全く憲法に違反しておりますよ。法制局自身が憲法に違反しているような解釈を公然と認めることは、われわれ全く承服できませんが、この問題はこの問題として、次の問題に移ります。  金大中問題がしばしば出ますが、金大中問題について、殺人罪ですから十五年の時効ですけれども、時効は継続している。この特捜部をここで解いたのはどういうわけですか。これは警察ですか、法務省ですか、刑事局ですか、どこですか。
  198. 吉野準

    ○吉野説明員 いわゆる金大中氏事件の特別捜査本部は八月一日をもって解散いたしましたが、その理由は、長期間じみちに捜査を続けてきたわけでございますが、最近の情勢を分析いたしますと、一つに、重要な関係者が国内にいないという特殊な状況が続いてきておる。もう一つに、やはり時の経過とともに捜査資料、捜査情報の入手が非常に少なくなってきているという状況が残念ながらあるわけでございます。そういう状況を勘案いたしまして、捜査の体制も捜査の実情に見合ったものにしようということで特別捜査本部を解散したわけでございます。  なお、特別捜査本部を解散したからといって捜査をやめるわけじゃなくて、その後も引き続き、少数でございますけれども、精鋭の人間をもって捜査を継続するということで考えております。
  199. 林百郎

    ○林(百)委員 金大中は、日本政府が誠意さえあれば幾らでも本人の事情聴取に応ずると言うのですが、日本の警察は金大中自身に本人の事情聴取をどうしてやらないのですか。
  200. 吉野準

    ○吉野説明員 金大中氏は事件の被害者でありますから、いうまでもなく警察としては事情を聞きたいという希望を持っているわけでございます。長らく韓国におられてそれが実現しないままでおったのでございますが、昨年の十二月に、御案内のとおり、金大中氏が米国に出国して滞在するということになりましたので、この際事情聴取が可能になるのではないかと考えまして、外務省の外交ルートを通じて金大中自身の意向を打診したわけでございます。  その結果、いろいろやりとりがございましたけれども、五月の中旬に、金大中氏から文書で回答があったわけでございますが、その中で三点を挙げておられるわけですが、まず自分の安全保護の問題、それから、第二に政治決着の問題、第三に自分の死刑判決の問題、これらの三点を挙げまして、これらに関する日本政府考えを聞くまでは日本の捜査当局の事情聴取に応じるか否かの確定的な回答はできないというふうに述べたわけでございまして、これは、私ども捜査当局から見ますと、事情聴取という捜査にかかるための前提条件というふうに解さざるを得ないわけでございまして、しかも、中身を見ますと、総じて政治的な事項でございまして、警察として答える立場にない事柄でございますので、大変残念でございますけれども、捜査当局としては、事情聴取は断られたも同然というふうに解しておるわけでございます。
  201. 林百郎

    ○林(百)委員 あたりまえのことじゃないですか、金大中氏が自分の身の安全を図ってくれ、それから、政治決着ということはどういうことなのか、日本政府が誠意を持ってこの問題に当たってくれるか。何でそんなことを言われたからと言って本人聴取できないのですか。日本の警察の特徴は、本人の自供調書をとるということが中心でしょう。こんなことを言われたぐらいで、ああそうですかと言って言うことを聞いて金大中氏本人の事情聴取をしないということは、結局本人の事情聴取を逃げているということ以外の何物でもないじゃないですか。  第一、金東雲の指紋もちゃんととっているし、それから、アメリカのフレーザー委員会における金炯旭氏の証言もありますし、高橋元警察庁長官もあの当時から、私は金大中は危ないと思っていた、あれがKCIAであることは間違いない、さらに田中法務大臣も、あれはまず間違いないということを言っているのに、それまで言っているのに日本の警察があえて本人の事情聴取をしないということは、逃げているということじゃないですか。結局これをうやむやにしよう。うやむやにするには、警察はKCIAがやったということはちゃんとわかっているけれども、それに触れては国際問題になるから、日韓の間が何かとげがそこへ挟まってはいけないからと言って逃げているのじゃないですか。  あなたの言った三条件なんてあたりまえですよ。自分の事情聴取をする限りは、私の身の安全を図ってくれと日本の警察に言うのはあたりまえじゃないですか。何でその三条件が出たから日本の警察は本人の事情聴取ができないのですか。
  202. 吉野準

    ○吉野説明員 被害者から事情を聞くというのは、これはどの捜査でもそうでございますが、捜査の常道でございますし、第一歩でございますので、私どもも、捜査をやっている以上はぜひ聞きたいという希望は持っておりましたし、現在も持っているわけでございます。  ただ、先ほどの繰り返しになりますが、こちらから協力の依頼をいたしましたに際して、金大中氏の方から、いわば実質的に前提条件ともとれる、しかも警察として応ずる立場にないようなものを出してこられて、その返事がもらえるまでは応じない、こういうふうに言っておられるわけでございますので、私どもとしては残念ながらいかんともしがたい、こういう状況にあるわけでございます。
  203. 林百郎

    ○林(百)委員 それは全く詭弁じゃないですか。もし政治的な、たとえば政治決着が一次、二次とあったとすれば、それは外務省に聞けばわかることですから、外務省に問い合わせたところ、第一次政治決着はこうです、第二次政治決着はこうです、外国の公権力から日本の主権が侵された以上は、あなたの原状回復は当然ですから、あなたの身の安全は図ります、どうか日本の警察の真相究明に協力してもらいたい、そんな誠意を警察が尽くすのはあたりまえじゃないですか。ロッキード事件を見たってそうじゃないですか。わざわざ行って、検事の調書をとって、それを裁判所は援用しているじゃないか。なぜこれでできないのですか、結局警察は、これはうやむやにしている。  それじゃ金東雲の指紋というのは、警察の調べた範囲では、一体何だったんですか。
  204. 吉野準

    ○吉野説明員 警察は捜査をする機関でございまして、政治決着について何かのコメントを申し上げるという立場にないわけでございます。  それから、言うまでもないことでありますけれども、決してうやむやにするつもりではなくて、現に捜査を継続しているわけでございます。私どもとしては、金大中氏が純粋に捜査上の立場から被害者として事情聴取に応じていただくことを望んでいるわけでございます。
  205. 林百郎

    ○林(百)委員 被害者として事情聴取に応ずるといっても、本来は日本の国へ原状回復させるべきでしょう。それは日本の国の義務じゃないですか。外国の公権力から日本の主権が侵されている場合に、その侵したことに対して外国に抗議をし、それをもとへ戻すということはあたりまえで、むしろ金大中氏の身を保護して、そしてもう一度日本の国へ原状回復をして、そうして事情聴取するというのがあたりまえなんで、金大中はその国際的なあたりまえのことを日本の警察に要求しているんじゃないですか。  それを日本の国が応ずることができないということは、いわゆる政治決着なるもの、日韓との間の臭い物にはふたをしろ、日韓の安保条約もあるし、日米韓の三国の軍事同盟もというか、安保条約も結ばれるし、レーガンも近く来るし、その間に日韓の間のとげは除いておこう、そういう政治的な意図に、金大中氏が踊らされているんじゃなくて、日本の警察が踊らされているんじゃないですか。そう思いませんか。そうでなかったら、世界的に権威のある日本の警察が、金大中が海の中へほうり込まれて殺されそうになっているということの真相を探れないなんということはないじゃないですか。どう思いますか。これから捜査するって、こんな状態で、何を捜査するんですか。
  206. 吉野準

    ○吉野説明員 十年たっておりますので、何を捜査するかと言われますと、やはり今後大変厳しいものがあるということは認めざるを得ないと思いますけれども、しかし、なお私どもとしましては努力をいたしまして、新しい証拠の発見とかその他いろいろ努力してまいりたいというふうに考えておるわけでございます。  なお、先ほどお尋ねの原状回復、それから政治決着につきましては、これは警察としては政治決着、政治の場とは関係なく捜査を続けておるわけでございます。さらにKCIAによるところの公権力の行使云々というお話もございましたけれども、私どもこれまで捜査をしてきた結果では、KCIAが犯行に加担したという証拠はございません。
  207. 林百郎

    ○林(百)委員 金東雲がKCIAでないとか、それから李厚洛がKCIAでないとか、あるいは金炯旭がKCIAでないなんて、あなたそんなでたらめを国会で言ったってだめですよ。そんなことはもう韓国でわかり切っていることなんですよ、KCIAがやったということは。しかもKCIAは日本の警察と密接な関係があるんですよ。そんなことをあなた国会でごまかそうと思ったってだめですよ。  それじゃ外務省に聞きますが、第一次政治決着、第二次政治決着というのは内容はどういうことですか、ちょっとここで簡単に説明してください。
  208. 小倉和夫

    ○小倉説明員 御説明申し上げます。  通常金大中事件につきまして外交的決着と言われておりますのは、一九七三年十一月二日、いわゆる第一次外交的決着と言われているものでございますが、これは犯人の処理と監督責任者の処分、金大中氏の自由、陳謝、それから第四番目の事項といたしまして、再びかかる事態を生じないよう努力するという将来の保障、こういったものから成っております。  それから、先生いま御指摘のいわゆる第二次外交的決着と言われておりますのは、一九七五年の七月、韓国側の口上書によるものでございまして、金東雲の嫌疑事実は立証できなかった、韓国では不起訴処分となった、しかし、金東雲の公務員の地位を喪失させた、そういう内容を含む韓国側の口上書が提出されまして、これがいわゆる第二次外交的決着と言われているものでございます。
  209. 林百郎

    ○林(百)委員 もう少し具体的に私の方から言いましょう、あなた逃げているから。  第一次政治決着の第一条件は、韓国側も金東雲の容疑を認め、取り調べて相当の措置をとる。第二は、金大中氏は、一般市民と同様、出国を含めて自由とする。第三は、金大中氏の在日、在米中の言動の責任を問わない、はっきり言えばこういうことでしょう。そうじゃないですか。犯人は処罰しないなんて、犯人なんて言わないで金東雲と言ったらいいじゃないですか。金東雲はKCIAで、しかも指紋を握られている男ですよ。この男が関係しているのに、警察じゃわからないとかなんとか言っているんです。そうでしょう、金東雲のことでしょう。  それから、在米、在日中の金大中氏の政治行動については責任を問わない、第一条はこうだったんじゃないですか。そうならそうだとここで言ってください。
  210. 小倉和夫

    ○小倉説明員 第一次決着の内容につきましては、ほぼ先生のおっしゃったとおりでございまして、一般市民と同様、出国を含めて自由ということ、日米両国滞在中の言動につき責任を問わないといったことももちろん入っております。  それから、犯人の処理と言いました場合に、金東雲の容疑を認め、取り調べの後相応の措置をとるということでございます。
  211. 林百郎

    ○林(百)委員 ところが、金大中氏の第一審の判決については、在日中の金大中氏の政治行動については責任を問わないというにもかかわらず、在日中の韓民統の彼の行動によって、国家保安法によって死刑の判決を受けたのじゃないですか。要するに、第一次政治決着に違反した判決で金大中氏が一審の死刑の判決を受けたのじゃないですか。これに対して外務省は何と言ったのですか。
  212. 小倉和夫

    ○小倉説明員 その点につきましては、すでに国会で何遍も御説明申し上げたところでございますけれども、私どもが韓国政府から受けております説明によりますと、金大中氏の滞日中の言動は単なる背景説明であって、処罰の対象となる行為としてとらえられていないということでございますので、政治決着との関係で問題となることはない、こういう考え方でございます。
  213. 林百郎

    ○林(百)委員 背景説明としても、それが大きな要因になって死刑の判決を受けたとすれば、外務省としては第一次政治決着に違反しているということを一言言うべきじゃないですか。これについては何にも言わなかったのですか。金大中氏の死刑判決については日本の外務省としては何も言わなかったというのですか。
  214. 小倉和夫

    ○小倉説明員 先生の御質問の御趣旨は、金大中事件にまつわるいろいろな要素があると思いますが、そのいろいろな要素について外務省なり政府としてどこまで、何を考えて、何を韓国政府に言うべきか、その点をよく考えて行動したのだろうか、こういう御趣旨じゃないかというふうに拝察いたしますが、正直に申し上げまして、私どもは先生のおっしゃっておられる趣旨もよくわかる面もございます。したがいまして、私どもは金大中事件に関しまして、金大中氏の身柄についての関心の表明、そういうことを通じまして、韓国政府に対しまして金大中事件に対して全く口をぬぐって何もしない、決してこういう態度で終始してきたわけではございません。  ただ、いま私が申し上げましたのは、金大中氏に対する裁判の判決文の内容、それとの関連での申し入れ、特にこの点が政治決着に触れるか触れないかという点につきましては、私どもも政治決着に触れるという考えをとっているわけではございませんので、その点につきましては韓国政府に特に申し入れその他はしていない、こういう趣旨でございます。
  215. 林百郎

    ○林(百)委員 それは全く詭弁ですよ。金大中氏の在日、在米中の言動の責任を問わないと言いながら、死刑判決の背景条件として在日中の韓民統の彼の行動が述べられている。それが一体判決のファクター、要因になるのか、背景事情になるのかなんということは、解釈の仕方ですよ。しかし、それが述べられていることは間違いない。それは問わないということに第一次政治決着ではなっているんじゃないか。それをどうしたんだ。それから金東雲を謝罪させるというのは、どうしてシロになったのか、そういうことをあなたは問い合わせしたのですか。  そこで、これも限りがないから大臣にお尋ねします。  あなたも愛国者の一人だから聞きますが、かつて西ドイツにいる韓国の学生が西ドイツで反国家的な行動をすると言って、韓国の学生を西ドイツから全部引き揚げたことがあるのですよ。そこで西ドイツは、そういう西ドイツの主権を侵すようなことをするならば、われわれは国交を断絶しても断固として抗議をするという毅然とした態度をとって、韓国へ引き揚げた学生を全部また西ドイツへ引き揚げたのですよ。だから、一国の行為について外国から干渉を受けるなんということは、とんでもない話ですよ。  ところが、日本の憲法で住居の自由、それから身柄の自由、安穏な生活が保障されているのに、外国のKCIAが来て日本のホテルから拉致していって、しかも途中でおもりをくっつけて海の中へ落とそうとまでした。日本の国における安穏な生活がそんな外国の権力によって侵されるということに対して、日本政府が臭い物にはふたをしろというような態度を続けていることについて、法務大臣は一体どういう見解をお持ちになっているか。また、さっき警察では捜査はまだ続けていくつもりですと口では一応言っています。そんなものはわれわれは当てにしませんが。今後どういう捜査を続けていくのでしょうか、ちょっと法務大臣、お尋ねします。(秦野国務大臣関係ない」と呼ぶ)いや、大臣の見解だ、これは国の大事な問題だもの。
  216. 秦野章

    ○秦野国務大臣 これは、警察、それからまた政治決着云々の問題は外務省が責任持ってやっているので、幾ら国務大臣といえども、過去のことでもあるし、私は知らないのですよ。  ただ、私も全然無関心でいたわけじゃないから、あえて、強いて感想を言えば、やはり日韓の問題はなかなか絵にかいたような理想どおりにはいかないなということはあるのですよ。端的に言えば、原状回復といったようなことは理想ですし、それは私もそう思うんだ。それができなかった。政治というものは理想がなかなかできないという現実もある。そういうリアリティーな立場も私は全然わからぬでもないから、けしからぬ、けしからぬとも言い切れない。  確かに原状回復してやるべき――これは主権の侵害ということですからね、主権の侵害の疑いがあるから。だけれども、そういうことがドイツのようにいかなかったというのは、ドイツと韓国は距離が遠くて過去の因縁話がないわけですよ、率直に言えば。日本と韓国というものはいろいろ因縁があって、韓国には歴史的に負い目がある。私はそんなことをいろいろ考えて、絵にかいたように理想どおりにいかなかったのは残念だなという気持ちを持っている、この気持ちだけ申し上げておきます。
  217. 林百郎

    ○林(百)委員 それは何もドイツと日本が韓国と遠いか近いかの問題じゃないですよ。国と国との関係なんですよね。(秦野国務大臣「因縁」と呼ぶ)まあ人間だって、人情で、何も国の大事な主権が侵されているところを人情だからそれを許しておこうというわけにはいかぬですよ。国の主権を守るかどうかの重大な問題なんですよ。  そこで、朴大統領にしても全斗煥大統領にしても、これは軍事ファッショで、ファッショ的な政府なんですよ。それへそんなに日本が近づいていくということは、日本がむしろその危険な軍事ファッショ政権と近づくことになるのです。その面もあるわけなんですよ。だから私はこのことを厳しく言うわけなんですよ。金大中氏はその軍事ファッショ政権に対して韓国の民主的な権利を復活しようという運動をしていたのですよ。それが殺されそうになったのだ。しかも日本にいる金大中氏が白昼公然とホテルから引っ張り出されている。日本政府は何にも言わない。あなたのように人情が通じているからとかなんとか言っていますが、私はあなたが愛国者だという言葉は取り消しますよ、そんなことを言うなら。  そこで、警察にお尋ねしますが、あと取り調べを継続していって何の取り調べを継続するのですか。第一、本人尋問もできないような、本人の事情聴取もできないようなものが、しかもこれだけの証拠が方々にいっぱいにあるのに、何を今度は取り調べるつもりですか。
  218. 吉野準

    ○吉野説明員 今後の捜査方針でございますが、五名の専従捜査員をもって、一つは新たな情報の掘り起こしと裏づけ捜査、二つ目に関係者の洗い直し捜査、三つ目に既存捜査資料の再検討と補充捜査、こういう点を中心に警視庁では捜査を推進していくという方針でございます。
  219. 林百郎

    ○林(百)委員 そんなことを口で言ったって、そんなことならいままで全部そろっているじゃないですか。第一、本人の事情聴取もできないような警察が、今後何するつもりですか。完全に政治的に従属していることになるわけですね。  私はもうこれで時間がありませんからあとはやりません。  そこで、最近のサラ金問題について一言だけお聞きして終わりますが、まず裁判所にお聞きしますが、サラ金事件についての事件はどういう状態にふえていますか。ちょっとここ三年ぐらいのふえ方調べてください。
  220. 上谷清

    上谷最高裁判所長官代理者 いわゆるサラ金調停と言われます事件は、簡易裁判所の調停事件で扱われておりますので、簡易裁判所の調停事件数について御説明申し上げます。  御理解を得やすいように簡易裁判所の全民事調停事件との対比で数字を申し上げたいと思いますが、サラ金の調停事件につきましては、毎年一月から三月までの実数を把握いたしまして、それで年間の数字を推計いたしておりますので、年間の数字としては若干推定による数字であることを御了解いただきたいと存じます。  昭和五十五年で申しますと、全国の簡易裁判所の民事調停事件の新受件数は六万二千七百十四件、そのうちサラ金の調停事件は二万一千四百四十八件でございまして、割合で申しますと全事件の三四・二%でございます。昭和五十六年度は、全民事調停事件数が七万一千四件ございまして、そのうち二万八千七百五十七件がサラ金調停事件と見られます。割合にいたしますと四〇・五%でございます。同じように、昭和五十七年度で申しますと、全国の民事調停事件全体が七万四千七百三十件でございまして、そのうち三万四千六百件、割合にいたしますと四六・三%がサラ金調停事件ということになっておりまして、逐年サラ金調停事件数は増加しておりますし、したがいまして全事件に占めるサラ金調停事件の割合も年々高くなっているというのが実情でございます。
  221. 林百郎

    ○林(百)委員 大蔵省にお尋ねしますが、プライバシーを利用して、要するに調査機関でだれが幾らサラ金から借りているということを聞いて、たとえば武富士というような大手が立てかえて払っておいて、自分が債権者になって取り立てをするというような事案が最近あるのですが、そういう事案をつかんでいるかどうか。  それから、外国の銀行だとか日本の大手の銀行が、投資先がなかなかいいところがないということで、サラ金に金融機関が金を貸している、そして利息稼ぎをしている、八・何%の利息を、というような事情は、大蔵省としては握っておられるかどうか、そしてそれに対する規制をしているかどうか。
  222. 朝比奈秀夫

    ○朝比奈説明員 先生の御指摘の第一点につきまして、そのようなやり方で業者が融資を行っているというような、そういう一般的な情報、これは金融関係の新聞とか何かでときどき報道されております。しかしながら、それの実情調査となりますと、まだ、御承知のように、私ども法律、政省令、ようやく公布までこぎつけまして、この施行が十一月一日でございますので、それ以降になれば、おっしゃるような点につきましても、苦情相談等を通じまして私どもに情報が入ってくるのじゃないか。ただいまのところは、残念ながら、そういう具体的な情報は入手していない……(林(百)委員「事実はあるんだね」と呼ぶ)事実についての確認も、できておりません、非常に残念でございますけれども。まだそこまで私ども権限はいただいていないという形でございます。(林(百)委員「肩がわり、要するに大手のサラ金が小さいサラ金を立てかえて自分が債権者になって自分が直接請求していく、そういうことをつかんでない」と呼ぶ)それも私どもうわさとして聞いております。しかしながら財務局とか私どもの窓口にそういう相談がまだ全然来ておりません。それは恐らくことしの十一月一日以降にはそういう相談が来て、いろんな苦情が入ってくるのじゃないか、こういうふうに考えられます。  それから、その次に、第二点の、金融機関の融資のしぶり、これをつかんでいるかという御質問でございますが、その点は、私ども、金融機関の監督はすでに十分やれる体制になっております。したがいまして、先般も、本年の三月末現在で実情調査をいたしました。これは国会にもお約束した関係で実態調査をいたしまして、その結果をつかんでおります。それで、金融機関を通ずるサラ金専業者に対する直接融資、この数字が出てまいりまして、各金融機関を通じまして五千七十七億円、さらに間接融資の点も、いわゆる関連会社を通じる融資でございますね、五千九百十八億円、こういう形で数字はつかんでおります。  これに対してどういう態度であるかという御質問でございますが、私ども、この実態調査にあわせまして金融機関に対する自粛と申しますか抑制について通達を出さしていただいたところでございます。また、あわせて、消費者金融の健全化にも資するように金融機関の協力を求めた、こういう形の通達を出したところでございます。  以上でございます。
  223. 林百郎

    ○林(百)委員 これで終わります、時間が来ましたので。  最後のお尋ねをしますが、貸金業規制法、それから出資法の改正法ですね。このうちの貸金業の規制等に関する法律の第二十一条で「貸付けの契約に基づく債権の取立てをするに当たつて、人を威迫し又はその私生活若しくは業務の平穏を害するような言動により、その者を困惑させてはならない。」と非常に抽象的なことが書いてありますが、これは省令で具体的な事例が示されておるのか、あるいは示す意図があるのか、これを大蔵省に聞きます。ちょっと待ってください。まとめて聞きますから。  それから警察に、この貸し金、サラ金業者と暴力団との結びつきがあって、貸す方はビジネスとして貸すけれども、取り立てになると暴力団が乗り込んでくるということが言われておりますが、貸金業者と暴力団との関係についてはどうなっているのか。また、それについて警察はちゃんと取り締まりをしているのかどうか、その二点をお聞きして私の質問を終わります。
  224. 朝比奈秀夫

    ○朝比奈説明員 貸金業法第二十一条の点につきましては、お話にございますような形によって取り立てをするという点につきまして、これを未然に防ぐということを主眼としてかかる規定ができたのではないかと考えております。  具体的に、じゃどうやってこれを取り締まるのかという点でございますが、政令とか省令とかにその行為の形態を列挙するということも非常に技術的にむずかしい。すなわち、ある取り立てのやり方を書きますと、それとちょっと違ったやり方で抜け道を考えるというようなことになる。そういう点につきまして形式的に政令、省令に書けば済むという問題でもなかなかないようでございます。ですから、この辺についてはこの法律自体、かなり詳しく書いてございます、二十一条に。その実質的な趣旨を具体的にその趣旨に沿って運用していく。その場合、大蔵省だけではちょっとどうしようもない問題がいろいろ出てまいります。したがいまして、県の方とかあるいは警察当局その他関係省庁と協力しながら、連携をとりながら対処していくほかないのではないか、かように考えております。
  225. 仲村規雄

    ○仲村説明員 お答えします。  貸金業者と暴力団との関係につきましては、必ずしもはっきりとした実態というものは把握しておりませんが、昭和五十七年中に出資法違反等で貸金業者について検挙いたしました中で、暴力団員が約一一%ほど含まれております。したがいまして、貸金業を営む暴力団員も多少おるということははっきりしております。私どもといたしましては、こういった暴力団員等が貸金業を行いまして、その貸し金の取り立てに伴いましていろいろ暴行、脅迫、そういったものを行っているものにつきましては厳正な取り締まりをやっておりまして、従来までも相当数検挙いたしております。
  226. 林百郎

    ○林(百)委員 結構です。
  227. 綿貫民輔

    綿貫委員長 安藤巖君。
  228. 安藤巖

    ○安藤委員 最初に、最高裁判所民事局長さん見えておりますね。――お尋ねをいたします。  これは具体的な事件があるのですが、一般論としてお尋ねをしたいので仮定の話としてお尋ねをすることになりますが、民事の裁判が係争中でAとBが争っている。Aの方から証拠の申請、証人申請あるいは鑑定あるいは検証の申し出というのが出されている。そしてBの被告の方がしかるべくという応答をして裁判所が証拠決定をしますね。そしていよいよその証拠の審理に入るという段階になったときに、そのBの方が、証人の場合で言うと不出頭にさせるとかあるいは証言を拒否させるとか、あるいは鑑定で言うと、その関係のある人が鑑定人として選ばれておるならばその鑑定人に鑑定をするなとか、したら処分するとか、あるいは検証に応ずるというようなことだったら処分をするとかというようなことになると、これは裁判所が真実を発見して公正な判断をするということに対して重大な支障になる、まことにこれは好ましくないことだと思うのですが、その点は最高裁としても私と同じような考えを持っていただけるのかどうか、そしてそのBが公の機関だということになったら、その点好ましからざる点はさらに増幅されるのではないかと思うのですが、いかがですか。
  229. 上谷清

    上谷最高裁判所長官代理者 一般論として申しますと、証人その他当事者あるいはまた訴訟関係人を含めまして、法律に定めるところに従ってあるいはまた裁判所の訴訟指揮に従って裁判に協力していただくことが望ましいことは申すまでもないことでございます。
  230. 安藤巖

    ○安藤委員 いまは一般論としてお尋ねをしたので、これからひとつ具体的にお尋ねしたいと思うのですが、ですからこれは具体的な問題だから答弁しかねるならしかねるでいいんですよ。しかし私はお答えいただけるのではないかと思うからお尋ねするのですが、御承知のようにいま名古屋高等裁判所でいわゆる名古屋新幹線訴訟というのが係属中でございます。この訴訟の中で、いま二百キロで新幹線が走行しているわけですが、それを百十キロに減速走行してもらえば騒音、振動が相当軽減されるというのを原告の方が主張、まあ原告ですな。双方控訴していますからね、これは。一審原告、主張して争っておるわけです。名古屋の高等裁判所は、その二百キロと百十キロの走行の違いによってどの程度騒音、振動が軽減されるのか、これを検証してほしいという一審原告の申し出を採用して、そして五月二十六日にその検証をやったわけですね。国鉄側が一審被告になっておるわけですが、代理人はその口頭弁論で、証拠申請に対してしかるべくという意見を出した。ところが、国鉄当局は、百十キロに減速するというようなことを運転士、国労、動労に加盟している労働者の人たちですが、そういうことに協力をして減速をするというようなことをしたら処分するということを検証の日の直前になってから通告をした。そして現実に百十キロに減速運転をしたわけです。だから、検証の目的は達せられたわけです。ところが、そういう処分をするぞと言うのを、言うことを聞かないで減速したからというので六十三名の人たちを戒告もしくは訓告などの懲戒処分にしたわけですね。  ということになりますと、先ほどは一般論としてお尋ねしたのですが、名古屋の高等裁判所が二百キロと百十キロでどのくらい違うかということを検証することによって判断をしようということをお考えになって、その証拠決定をして臨まれた。にもかかわらずそういうようなことを国鉄当局がするということは、これは現実の問題としては検証の目的を達することはできたんですが、やっぱりそういう裁判所の真実を発見して公正な判断をしようとするその態度に対して妨害的な態度をとったのではないかとしか言いようがないわけですね。だから、やはり好ましくないことを国鉄当局がおやりになったということになるのではないかと思うのですが、どうですか。
  231. 上谷清

    上谷最高裁判所長官代理者 ただいま御指摘の具体的な事件につきましては、やはり当該事件裁判所がその訴訟関係人の行為が妥当であるかどうかを御判断なさることでございまして、私ども事務当局の立場として、当該事件の訴訟関係人の態度が果たして好ましいものであったかどうかということについてお答えする立場にはございませんので、答弁を差し控えさせていただきたいと思いますが、御了解いただきたいと思います。
  232. 安藤巖

    ○安藤委員 やはり無理ですかね。そうしますと、最初にお答えいただいた一般論ということになりますね。  そこで、国鉄の方からも来ていただいているのですが、実は国鉄の方に対しましては、この減速走行の問題について高木総裁が現地をごらんになったときの発言等もこれあり、そして今回の処分が、もちろん当然のことですが、高木総裁から出されているということからして、高木総裁の出席を強く要請したのですが、ほかに所用があるということでおいでになられないのは非常に残念だと思うのです。しかし、出席していただいている方はいずれもその総裁の代理ということで答弁をさせていただくということで私も了承しておりますので、そういうことで答弁をしていただきたいと思います。  そこで、最初に私が申し上げた検証なんですが、私が申し上げた検証の目的というのは十分御承知だったと思いますが、いかがですか。
  233. 本間達三

    ○本間説明員 お答えいたします。  検証の目的は承知いたしております。
  234. 安藤巖

    ○安藤委員 なかなかそっけない答弁ですが、私が先ほど申し上げたからだろうと思うのですが、二百キロ走行と百十キロ走行によって騒音、振動にいかなる相違が出てくるかということを明らかにするのが検証の目的であったわけですね。
  235. 本間達三

    ○本間説明員 私どもの理解といたしましては、原告側の申請になりました名古屋沿線住民、これはたしか五軒だったと思いますけれども、住民宅において国鉄が行いました防振、防音工事の効果を検証するということが目的であったというふうに理解しておるわけでございます。  先生のおっしゃった減速という問題でございますけれども、確かに原告側からひとつ減速をお願いしたいという要望裁判所に出されたことはよく承知しております。しかし、これにつきましては、国鉄といたしまして減速走行ということはできませんということは率直に申し上げまして、その旨裁判所にもお伝えしてあります。そういうことは裁判所も御承知の上で御決定になったことでございますので、減速がなされるということは決して前提とはなっていないというふうに理解しております。
  236. 安藤巖

    ○安藤委員 減速がなされるということが前提になっておるということは私は何も言うておらぬのです。検証の目的というのは、先ほど防音工の効果がどうなのかということもあったかもしれませんが、二百キロで走行している場合と百十キロに減速した場合とで、沿線の住居に対して騒音、振動にどういうような違いがあるかということを明らかにするということであったというふうに私どもはちゃんと聞いておるし、私も実はその一審原告の代理人の一人でもありますので、そのことはよう知っておるのです。  そこで、裁判所の方からも減速について協力してほしいという要請が国鉄の方になされたのではありませんか。
  237. 本間達三

    ○本間説明員 特段の要請はございません。
  238. 安藤巖

    ○安藤委員 しかし、裁判所がその検証をすることを決定をしたということは、減速をした場合とそうでない場合との沿線の住宅に対する影響の違いをはっきり見定めるということであったことは間違いないと思うのです。  この問題についてそう長い時間をとる余裕がありませんので簡単に申し上げるのですが、結局、その運転に従事する国労、動労の労働者の諸君は、その裁判所の要請にこたえて減速運転をした、だから裁判所としてはその検証の目的を達することができたと思うのです。そうしますと、この人たちはまさに裁判所の公正な判断を仰ぐために一般の国民として協力をしたということが言えると思うのですね。しかし、国鉄当局がそういう協力をした人たちに対して、戒告、訓告を含めた懲戒処分をしたということ、あるいはすると言って前もって、これは簡単に言えば協力をしたら懲戒処分にするぞと言っておどかしてそういうような行為を妨害した、そして行ったことに対して処分をしたということは、まさにそういう正当な行為に対して国鉄当局が処分をもって報いたとしか言いようがないと思うのです。  しかも、これは昭和五十六年ですから二年前の六月に、私も現地での高木総裁を囲んでの関係者との懇談会には同席したのですが、この後の記者会見での話のようですが、東京―名古屋間は二時間一分で走るように定められている、運転士がダイヤどおりに走れば問題にすることはない、こういうようなことを言っておられるわけですね。そして、現実に私も利用させていただいておりますけれども、減速はしておるけれどもダイヤが乱れておくれたという経験は私はありません。だから、こういう総裁の発言からしても、そういう検証に協力したということをもって処分をしたというのは、国鉄当局の方にこそ非はあれ、それに協力をした労働者の方には非はないというふうに私は思うのです。だから、私は、総裁がいないから全然迫力に欠くのですが、国鉄に対してこの不当な懲戒処分を撤回すべきだというふうに要求します。これに対してどういうふうに検討してもらえますか。
  239. 井手正敬

    ○井手説明員 お答え申し上げます。  本件はいま先生の御指摘のように、一部の新幹線の運転士が当局の事前の警告にもかかわらず業務命令に違反いたしまして、原告らの要請に基づくものと称しておりますが、ほしいままに減速を行ったものでありますので、懲戒規定に照らし厳正に対処いたしておりますので、撤回するつもりはございません。また、先生のお話にございました、事前に、私どもの方は五月二十四日に警告書並びに申し入れ書でもって厳重な申し入れをいたしております。
  240. 安藤巖

    ○安藤委員 ほしいままにということをまたおっしゃったのですが、決してほしいままではないと私は思います。そしてさらに、先ほど最高裁の民事局長さんの方からも一般論として、国鉄のやったこと、当局のやったことがですよ、それは好ましくないことなんだという答弁をいただいているのです。そういうことからすると、いまそういう意思はないとおっしゃるけれども、それは意思はないというふうに答弁してこいということになって来ていると思いますから、そういう答弁をされるのはもっともだと思うのですが、これはやはり帰ってもう一度相談をしていただきたい、このことを強く要望をいたしまして、次の質問に移ります。  そこで、免田事件と再審の問題について、これはすでにいろいろ質問、答弁がありましたから、簡単に一、二だけお尋ねをしておきたいと思います。  前田刑事局長の答弁を伺っておりますと、再審開始決定が出された段階あるいはその決定が確定をした段階、この段階でも当然釈放すべきものとは考えてないというふうにおっしゃったのですが、そうしますと、いまの法制度の中で釈放することもあり得るということになりますかどうかということです。
  241. 前田宏

    前田(宏)説明員 先ほどのお尋ねに対しても、そのように申したかと思いますけれども、それは一般論というか抽象論といいますか、そういう意味においてはそういう余地もないわけではないということでございますが、それに恐らく加えて申したと思いますけれども、ケース・バイ・ケースであり、事案の内容なり裁判の進行状況なりいろいろな事態に応じての裁量でございますから、そういうような御指摘段階では、そういうことはまず行われないのではないかというふうに申したつもりでございます。
  242. 安藤巖

    ○安藤委員 免田さんの釈放の問題につきましては、再審第一審の判決言い渡しの少し前に、私、法務大臣のところにお邪魔しまして、釈放すべきであるというふうに要請、陳情を申し上げたことがありますが、判決言い渡しと同時に釈放になりました。これはまさに一歩前進であるというふうに評価をさしていただいておるところなんです。  そこで、いま財田川、それから松山事件、この二つが再審開始になって第一審の審理が始まっております。この二つの事件におきましても、いまの段階はまさに再審開始決定が確定をして、そして再審が始まっておるという段階ですね。だから、抽象的にはあり得るけれども、事案の内容に即して釈放できないのだ、こういうことで、いままだ釈放されておらないわけなんですが、この再審の一審の判決が免田事件と同じように無罪ということになったときは釈放されるということを期待していいのかどうか、お尋ねしたいのです。
  243. 前田宏

    前田(宏)説明員 安藤委員も仰せのように、いまの財田川事件あるいは松山事件は現に再審の審理が行われている段階でございます。したがいまして、その判決結果がどうなるかということはこれから先のことでございまして、無罪になったらという仮定論をここで申し上げるのは、まずそれ自体が適当でないのじゃないかというふうに思うわけでございます。
  244. 安藤巖

    ○安藤委員 私どもは無罪間違いないと思っているから、そういうふうに申し上げておるわけです。  それから、もう一つだけ念のために、これは私どもがいつも言うておることなんですが、刑事訴訟法の四百三十五条一項六号ですね、いわゆる再審規定のうちの一つですが、無罪を言い渡すべき明らかな証拠が新たに発見されたときということですね。これはまた、免訴とかあるいは軽い刑罰をというのも入っておりますけれども、そういうときに再審にするのだという規定からいきますと、これはもう再審開始決定が確定している事件ですね。だから、再審開始決定が確定した段階で、やはりそういうような結論でもって再審開始が決定されたわけですから、これは身柄を拘束しておく理由というものが全くないというふうに考えるべきだと思うのです。  いまそういうふうに私が申し上げてお尋ねしても、また同じような答弁が返ってくるだけだろうと思いますので、そういうこともちゃんと踏まえて、抽象的には云々というようなことではなくて、そのことを重点に置くならば、身柄を拘束しておく理由は全くないとしか言いようがないと思いますので、再審開始決定確定の段階で直ちに釈放さるべきである、そういう方向検討さるべきであるということを要望して、次の質問に移ります。  委員長、国鉄の方はもうお帰りいただいて結構ですから……。  少年の非行の問題、これがいま非常に大きな問題になっておることは、御承知のとおりです。そこで、私は、最高裁判所が、この少年非行の対策について、あるいは非行、虞犯少年の立ち直りについて、どういうようなことを具体的に考えておられるのかということを、まず最初にお伺いしたいと思います。
  245. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 少年非行に対しまして、家庭裁判所としましては、少年法にございますように、少年の健全育成という観点から、教育を主として、教育的な手段によりまして社会への復帰を図っていくという考え方に基本的に立って事件処理に当たっております。
  246. 安藤巖

    ○安藤委員 まさに基本的なお話をお伺いしたわけですが、こういうような状況になって、少年非行の問題が大きくクローズアップされて、しかも、これは日本の国の将来をしょって立ってもらわなければいかぬ人たちですね。まじめな青少年ももちろん圧倒的に多数おられるわけですけれども、この非行少年の問題あるいは少年非行の問題は最高裁判所、特に家庭裁判所として、これは本当に重視をして取り組んでいただかなければならぬ問題だと思うのですよ。だから、そういう意味でお尋ねしたので、もう少し積極的な、熱のこもった御答弁がいただけるかと実は期待しておったのです。  それでは、具体的にお尋ねしますが、署限りという言葉、そして実際に行われていることがあるそうですね。署というのは警察署限り、それに限定するという意味の署限り、この署限りというのはどういうものですか。
  247. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 少年事件は、少年法に規定がございますが、捜査機関において犯罪の嫌疑があると認めた事件は、すべて家庭裁判所に送致しなければならない。つまり、いわゆる全件送致主義のたてまえをとっているわけでありまして、その趣旨とするところも、先ほど申し上げましたように、少年を教育によって立ち直らせよう、こういう理念に出ているものであります。したがいまして、家庭裁判所としましては、捜査機関から送致されてきた事件について事件処理を行っているものでありまして、その法のたてまえに従って、少年事件については、非行事実が認められる限り、家庭裁判所に送致されているものというふうに理解しております。
  248. 安藤巖

    ○安藤委員 そうしますと、署限りなんということはあり得べからざることであるし、そういうことはないというふうに理解しておられるということですか。
  249. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 法律のたてまえから、非行事実が認められる限り、そういうことはあってはならないことというふうに理解しておりまして、現実的にどうかということまでは、私どもとして十分把握できる立場にございません。
  250. 安藤巖

    ○安藤委員 いや、それは無責任な御答弁だと思うのですよ。最高裁判所の家庭局長さんが、そんなものは全く知らぬ、あり得べからざることだ、あり得ないのだというふうにおっしゃるのですが、これは最高裁判所の家庭局がこの署限りということで非行事実のある少年を処理してもらって差し支えないのだということでやってもらっておる。そして、現実に警察署から家庭裁判所調査官に電話がかかってきて、実は何々少年がこうこうこうでいま警察でいろいろ事情を聞いているけれども、これは署限りにさせてもらいますがいいですねと、具体的にはそういうことが起こっているというのです。そんなこと知らぬのですか。
  251. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 私どもとしては、そういうようなことは存じておりません。
  252. 安藤巖

    ○安藤委員 それでは、早速これはすべての家庭裁判所へ連絡をとっていただいて調査していただきたいのです。そういうことを最高裁の家庭局長さんがお知りにならないということは、これは重大問題です。  警察がいまの少年法のいわゆる全件送致主義を踏みにじって警察の段階で物を処分してしまう、処理してしまう、一件処理これは少年法のいま計画をされておる、私どもは改悪と言うのですが、その先取りとしか思えないのです。それを実際にやっておって、それが最高裁の方でもそういうふうに処理してもらって差し支えなし、逆に奨励さえしているというお話まで私どもは聞いているのです。こうなったらこれはまさに、最初におっしゃったように、家庭裁判所が少年法の趣旨に基づいてこういうふうにやっていくのだとおっしゃったことが完全に踏みにじられています。家庭裁判所の少年の人権を守るという司法的な抑制、そういうものが全くなくなってしまって、まさに警察任せになっているのです。これは知らぬでは済まされませんよ。だから、これは早速調査をしていただきたい。これは家庭裁判所の任務放棄だとしか言いようがありません。どうですか。
  253. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 捜査機関において非行事実があると認める限りにおいては全件送致すべきたてまえになっておりまして、また、そういうふうに運用がなされているであろうというふうに考えているところでございますが、裁判所の立場は、安藤委員も御存じのとおり、送致された事件について初めて家庭裁判所はその職務活動を始める、そういう受動的な司法機関でございますので、捜査機関の実態について私どもの立場から調査をするということは適当ではないのではないかというふうに考えております。
  254. 安藤巖

    ○安藤委員 ですから、私が聞いていることと家庭局長さんが認識しておられることとは全く違っておるのですよ。ですから、そういうようなことがあるのかないのか、一遍早速調査をしていただきたい、そして警察に対し、警察と家庭裁判所当局との間に連絡協議会というのが定期的に持たれているということも聞いています。だから、そういうような場でも、そういうことをきちっとくぎを刺しておくこともできると思いますし、これは全国各地の家庭裁判所に対して早速問い合わせていただきたい。それも簡単な形式的な問い合わせではなくて問い合わせていただきたいと思うのです。これはまさに少年の非行対策にとって家庭裁判所が任務放棄していると言われてもしようがないと思うのです。  現実にこういうことがあるのです。たとえば暴走族。暴走族は集団になっていますね。それでスピード違反とか、あるいはいろいろあります。そういうような暴走族の一人を、あるいは一人か二人を警察が家庭裁判所へ送らないで三人か四人だけは送っておいて、そして家庭裁判所へ送らないということで助けてやった、だから、おれの言うことをこれから聞けというので暴走族の情報を提供させて、その暴走計画があるということをキャッチして、おまえは加わるな、よそにおれ、それでそれを阻止したり検挙したりするわけです。その少年は加わるなと言われて加わらなかったから助かった。またあったら教えてくれ。これでは全件送致主義に反するばかりじゃなく、まさにその少年をスパイとして警察が使っておると言われてもしようがないじゃないですか。これは少年をそういうふうに扱う警察もけしからぬと思うのですが、そういうようなことを家庭裁判所が知らない、これは大事な問題ですから早速調べてください。  それから、簡易送致というのがあるそうですが、これはどういうものですか。
  255. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 一定の軽微な事件で再犯可能性がないと明らかに認められるようなものにつきまして、昭和二十五年から家庭局長の通達で、警察の方から毎月まとめて簡単な手続で、検察庁あるいは家庭裁判所の方へ、物によっては検察庁を経由して、あるいは罰金以下の刑の軽いようなものにつきましては家庭裁判所に直接事件を送致し、それをごく簡単な手続で処理するものを簡易送致と申しております。
  256. 安藤巖

    ○安藤委員 そうしますと、そういう簡易送致というのは、普通軽い処分でとか処置でとかいうふうにいまおっしゃったのですが、審判不開始あるいは不処分、そういうようなことでもって処理をされることになっていくわけなんですね。――うなずいておられるからそうだと思うのですが、そういうふうに理解していいですか。
  257. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 簡易送致事件は原則として審判不開始で処理しております。
  258. 安藤巖

    ○安藤委員 ということになりますと、これは家庭裁判所調査官がその少年に当たっていろいろ調査をしてどういうふうに立ち直りを図るとかいうようなことについてあれこれ福祉、教育の役割りを果たすかどうか、そういうような段階は全く省略されるということになりますか。
  259. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 そのとおりでございます。簡易送致事件は、類型的に非行性がきわめて軽微であるというもので、専門的な調査官の詳しい調査を経るまでもないというようなものを簡易送致として定めておりますので、そういう取り扱いになっております。
  260. 安藤巖

    ○安藤委員 ほかにもまたいろいろあるのですが、この簡易送致も問題だと思うのですよ。というのは、結局、軽微な事件だからということでもってその少年を処遇するわけでしょう。だから、なぜその少年がそういう事件を起こしたのか、なぜそういう非行を起こしたのか、その原因の究明というのは全くないのです。軽微だからこれでいい、審判不開始でいいということでしょう。処理してしまって一件落着ですよ。  そうしたら、なぜそういうことをしたのかということの追求、調査をして、だから、それに対してはこういうふうに環境を改めなくてはならぬとか、あるいは保護者に対してどういうことを言うかとか、そんなのは全く手抜きでしょう。これは裁判所の手抜き工事としか言いようがないと思うのですよ。これは問題です。まさに事案主義であって、少年の人権をいかにして守るか、非行少年をいかにして立ち直らせるかという大事なところが完全にネグレクトされておるとしか言いようがないと思うのですよ。これは改めてもらう必要があると私は思います。どうですか、そういう必要性を感じませんか。
  261. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 簡易送致事件は昭和二十五年から今日まで行われておりまして、その運用の結果も特によろしくないというような結果は出ていないところでございまして、簡易送致の基準については、長年にわたる経験等をもとにして基準が設定されてございますので、特にその点について改めなければならぬという考え方は持ってございません。
  262. 安藤巖

    ○安藤委員 改める考えがないとおっしゃるとなると、本当にいまの少年の非行対策に対して家庭裁判所の積極的な役割りを果たそうという姿勢が全く見られないとしか言いようがないのです。  ほかにもいろいろあるのですが、時間が来ましたから、これだけ一つお伺いしておきたいと思うのですが、インテーク制度、これはなかなか調子がいいぞということでいろいろやっておられるようですが、これは軽微な事件についての受理選別をするという制度でしょう。だから、結局、非行少年が送られてきても、それを幾つかのランクに分けて、軽微な事件はこういう処理をする、重い事件はこういう処理をするというふうに選別をして処理をする、こういう制度だというふうに伺っておるのですが、これが調査官の人たちの間で、うん、なかなかいい制度だなというふうに評判がいいのですか。これは本当は調査活動が、その少年の具体的な環境について調査をしてどうこうというようなことができないというので、いろいろな批判が出ている制度じゃないのですか。
  263. 猪瀬慎一郎

    ○猪瀬最高裁判所長官代理者 安藤委員も御存じと思いますが、軽微な事件についての受理選別の運用は、経験豊かな主任家裁調査官が記録をよく調査しまして、要保護性の微弱な事件を選別して、少年の持っている問題性の程度に応じた簡易な調査により事件処理を行う試みでございまして、これは熟達した家庭裁判所調査官が単純軽微な事案について選別して、再犯危険性がまずないというふうに認められる事件では、あえて踏み込んだ詳しい調査をしないで簡易迅速に処理しておるわけでございますが、このような取り扱いは、そういう非行性の微弱な少年の心情の安定を図り、少年福祉の増進の目的にもむしろ合致しているというところからとられておるのでございまして、家庭裁判所において、そのような運用につきまして特に評判が悪いとか、これは問題だというような一般的な認識は持っていないものと理解しております。もちろんその選別の手がかりとなります一応の基準については、各庁において絶えずその適正さを吟味しつつ、適正な事件処理に工夫をしておるというふうに理解しておるところでございます。
  264. 安藤巖

    ○安藤委員 時間がありませんから余り議論をしませんが、インテーク制度について調査官内部からも「慎重に取り扱わなければいけない少年事件を機械的に右、左と分類していいものだろうか」という切実な疑問が出されているんですよ。  それから、これも新聞の報道ですが、日弁連の少年法改正対策本部の佐々木さんとおっしゃる事務局長さんですが、「少年法の問題からいうと大変な問題です」「外形上の問題の大小だけで」、というのは、結局軽微かそうでないかという事件の「大小だけで機械的に処理されるのでは何の意味も持たなくなってしまう。」ケースワーカーとして子供の保護、育成に当たらなければならないのに、そういう点が全部おろそかにされてしまう、これは大問題だという指摘があるんですよ。いまの家庭局長さんの非常にほんわかとした、万事順調に、順風をはらんで船が走っておるみたいな、そんな問題じゃないですよ。  まだほかに調査報告書の査閲の問題とかいろいろありますけれども、時間がないからもうやめますが、結局は人手不足事件はたくさん来る、家庭裁判所調査官の人手不足、それを調査官をふやさないで事件をうまく処理していくにはいかにしたらいいかということからしか発想されてないやり方だと僕は思うのですよ。  法務省でも少年鑑別所で今度コンピューター化なんということを――法務大臣、この問題を問題にしたいと思っているのですよ。コンピューターでもって少年を鑑別するのですよ。先ほど鑑別という言葉が鶏のひなの鑑別と同じようでいかぬということで、今度コンピューターを使ってやるのですから、もっとひどいのですよ。名前を変えるどころの騒ぎじゃないと思うのですよ。これも大きな問題ですが、それもやはり家庭裁判所で人手不足を理由にしてそういうような選別がやられようとしているのです。これでは非行少年対策にはなりません。だから、私はまず調査官をこそふやすべきだと思うのですよ。どうですか。そういう方向に対して考えていただく余地があるのかどうか、これだけ最後にお尋ねして、一応まずこの質問を終わりたいと思います。
  265. 山口繁

    山口最高裁判所長官代理者 家裁調査官の増員につきましてはたびたび御指摘をいただいておるところでございます。  安藤委員よく御承知のように、昭和四十年代の前半におきましては、家裁の事件が非常に高い数値を示しておりまして、これに対応いたしますために四十年代に約百二十人の増員を図ってきたわけでございます。五十年以降は増員いたしておりません。これは、前にも申し上げましたように、事件の増加傾向というのがある程度鎮静化してまいりましたということが一つと、それから家裁調査官の任用基準が非常に高うございまして、給源に限度がある、養成にもかなり長期間研修所に入れて教育しなければならない、そういう点から充員の困難性というものがございますので、充員の可能性を見ながら欠員を補充する程度にとどめておったわけでございますが、昨今、御承知のように特に少年事件は年々増加しております。数万件ずつ伸びておりますし、少年事件の適正な処理のためには、調査官の執務体制の整備を図るとか、いろいろ考えなければならない点もございますけれども、私どもといたしましては、事件の係属状況、それから調査官の充員の可能性の見通し等を慎重に検討しながら考えてまいりたいというように考えております。
  266. 安藤巖

    ○安藤委員 終わります。
  267. 綿貫民輔

    綿貫委員長 本日は、これにて散会いたします。     午後四時五十八分散会