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1983-03-24 第98回国会 参議院 法務委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和五十八年三月二十四日(木曜日)    午前十時七分開会     ─────────────    委員の異動  三月二十三日     辞任         補欠選任      近藤 忠孝君     宮本 顕治君  三月二十四日     辞任         補欠選任      土屋 義彦君     梶原  清君      宮本 顕治君     近藤 忠孝君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         鈴木 一弘君     理 事                 名尾 良孝君                 真鍋 賢二君                 寺田 熊雄君                 中尾 辰義君     委 員                 臼井 莊一君                 梶原  清君                 八木 一郎君                 小谷  守君                 近藤 忠孝君                 中山 千夏君    国務大臣        法 務 大 臣  秦野  章君    政府委員        警察庁警備局長  山田 英雄君        法務大臣官房長  根岸 重治君        法務大臣官房会        計課長      村田  恒君        法務大臣官房司        法法制調査部長  千種 秀夫君        法務省民事局長  中島 一郎君        法務省刑事局長  前田  宏君        法務省矯正局長  鈴木 義男君        法務省保護局長  吉田 淳一君        法務省人権擁護        局長       鈴木  弘君        法務省入国管理        局長       田中 常雄君        厚生省医務局長  大谷 藤郎君    事務局側        常任委員会専門        員        奥村 俊光君    説明員        警察庁刑事局捜        査第二課長    森廣 英一君        警察庁刑事局保        安部防犯課長   古山  剛君        外務省アジア局        北東アジア課長  小倉 和夫君        厚生省児童家庭        局育成課長    蒲地 清弘君        厚生省援護局業        務第一課長    森山喜久雄君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○昭和五十八年度一般会計予算内閣提出衆議院送付)、昭和五十八年度特別会計予算内閣提出衆議院送付)、昭和五十八年度政府関係機関予算内閣提出衆議院送付)について  (法務省所管) ○裁判所職員定員法の一部を改正する法律案内閣提出衆議院送付)     ─────────────
  2. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  昭和五十八年度総予算法務省所管を議題といたします。  秦野法務大臣から説明を求めます。秦野法務大臣
  3. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 昭和五十八年度法務省所管予算内容について、概要を御説明申し上げます。  昭和五十八年度の予定経費要求額は、三千五百九十四億六千三百六十一万円でありまして、これを前年度補正予算額三千五百三十二億五百七十二万一千円と比較いたしますと、六十二億五千七百八十八万九千円の増額となっております。  その内訳を大別いたしますと、人件費六十一億三千三百三十一万八千円の増、一般事務費二億二千六百四十九万一千円の増、施設費一億百九十二万円の減となっております。  まず、増員について申し上げますと、第一に、検察庁において、事務官百人が増員となっております。その内容は、まず、特殊事件処理体制充実を図るため、事務官二十五人が増員となっておりますほか、財政経済公安労働国際犯罪等事件処理体制充実強化及び公判審理適正迅速化を図るため、合わせて事務官七十五人が増員となっております。  第二に、法務局において、事務官百六十九人が増員となっております。その内容は、まず、登記事務の適正迅速な処理を図るため事務官百六十一人が増員となっておりますほか、国の利害関係のある争訟事件処理充実を図るため事務官六人、人権侵犯事件処理充実を図るため事務官二人がそれぞれ増員となっております。  第三に、刑務所において、保安体制充実を図るため看守百十一人、医療体制充実を図るため看護士(婦)五人並びに栄養士二人がそれぞれ増員となっております。  第四に、非行青少年対策充実強化を図るため、関係職員四十人が増員となっております。その内容は、少年院分類保護体制充実を図るため教官七人、医療体制充実を図るため看護士(婦)二人、少年鑑別所観護体制充実のため教官十三人、保護観察所の直接処遇強化等のための保護観察官十八人であります。  第五に、地方入国管理官署において、出入国審査及び在留資格審査業務適正迅速化を図るため、入国審査官十七人が増員となっております。  なお、前述の増員の中には、部門間配置転換による振替増員として、法務局登記事務職員に二十三人、保護観察官に一人の計二十四人が含まれております。  増員内容は以上のとおりでありますが、御承知のとおり、昭和五十六年九月の閣議決定に基づく「定員削減計画(第六次)の実施について」による昭和五十八年度定員削減分として、四百四十四人が減員されることになりますので、差し引き純増減員はゼロとなるわけであります。  次に、一般事務費につき、それぞれ前年度補正予算額と比較しながら御説明申し上げますと、まず、全体としては、前年度補正予算額に比較して、旅費の類が二億三千三百八十二万円の増額庁費の類が二十一億三千八百六十四万六千円の増額、その他の物件費が二十一億四千五百九十七万五千円の減額となっております。  以下、主要事項ごとに御説明申し上げます。  第一に、法秩序確保につきましては、関係組織職員人件費を含めて二千七十一億六千五百万円が計上され、前年度補正予算額に比較して二十五億九千八百万円の増額となっております。  その増額分内容について申し上げますと、まず、検察庁関係としては、十五億二千八百万円が増額されておりますが、その中には、人件費のほか、検察費に二億三千九百万円及び財政経済事件等各種検察活動充実を図るための経費一千五百 万円が含まれております。  次に、矯正施設関係としては、六億二千百万円が増額されておりますが、その中には、刑務所作業運営に関し、第三セクター化により刑務所作業の受注の安定と確保等を図るため、新規に刑務所作業提供事業費補助金を十億三千四百万円計上したことにより、原材料費が二十八億七千八百万円減額されておりますほか、保安機能充実経費四千万円、被収容者処遇改善経費十一億九千二百万円等の増額が含まれております。  右の処遇改善経費内容は、被収容人員の増加に伴う所要経費増額を含め生活用備品日用品等改善に要する経費六億八千七百万円並びに被収容者食糧費における主食、副食の単価改定等に要する経費五億五百万円であります。  次に、更生保護関係として、一億八千三百万円が増額されておりますが、その中には、人件費のほか、保護観察体制充実を図るための経費六百万円、保護司実費弁償金三千九百万円、更生保護委託費一千九百万円等の増額が含まれております。  次に、訟務関係としては、国の利害関係のある争訟事件処理経費として、八千三百万円が増額されております。  次に、公安調査庁関係としては、一億八千三百万円が増額されておりますが、その内容は、人件費がほとんどであります。  第二に、国民の権利保全強化につきましては、まず、法務局における登記事務処理適正化に関する経費として、関係職員人件費を含めて六百十六億二千七百万円が計上され、前年度補正予算額に比較して十四億三千九百万円の増額となっております。  その増額分の主な内容は、登記事務処理経費八千三百万円、全自動謄本作成機等事務能率機器整備に要する経費二億四千百万円、謄抄本作成事務の一部請負処理に要する経費二億二千三百万円等であります。  なお、第九十五回国会で成立した供託法の一部改正により、昭和五十七年四月一日から三カ年の間は、供託金に利息を付さないことになったことに伴い、供託金利子五億八百万円が減額されております。  次に、人権擁護活動充実に関する経費としては、二千三百万円が増額されております。その内容は、人権侵犯事件調査強化を図るための経費であります。  第三に、非行青少年対策充実につきましては、一部法秩序確保関係と重複しておりますが、関係職員人件費並びに少年院等収容関係諸費を含めて三百十三億六千七百万円が計上され、前年度補正予算額に比較して六億三千八百万円の増額となっております。  そのうち、事務的経費増額分内容について申し上げますと、まず、検察庁関係としては四千万円が増額されておりますが、これは検察活動に要する経費であります。  次に、少年院関係としては一億二千三百万円が増額されておりますが、これは生活教育備品整備等に要する経費であります。  次に、少年鑑別所関係としては二千七百万円が増額されておりますが、これは生活備品整備及び日用品充実等に要する経費であります。  次に、保護観察所関係としては四千七百万円が増額されておりますが、これは補導援護活動充実に要する経費であります。  第四に、出入国管理業務充実につきましては、関係職員人件費を含めて九十七億九百万円が計上され、前年度補正予算額に比較して二億二千万円の増額となっております。  その増額分の主な内容は、出入国審査及び在留管理業務充実を図る経費一千百万円、在留外国人登録事務処理改善経費一千九百万円等であります。  第五に、施設整備につきましては、矯正収容施設整備費三十四億二千万円、法務合同庁舎整備費三十二億六千百万円及び登記所等単独施設整備費二十七億三千万円を含め百七億三千七百万円が計上されておりますが、前年度補正予算に比較して一億二百万円の減額となっております。  なお、このほか、大蔵省及び建設省所管特定国有財産整備特別会計において、南陽法務総合庁舎ほか八施設施設整備費として三十一億七千万円が計上されていることを申し添えます。  以上が、法務省所管歳出予算予定経費要求概要であります。  終わりに、当省主管歳入予算について御説明いたします。  昭和五十八年度法務省主管歳入予算額は、七百二十六億六千八百五十八万九千円でありまして、前年度補正予算額七百十三億一千九百三十万三千円と比較いたしますと、十三億四千九百二十八万六千円の増額となっております。  以上をもって、法務省関係昭和五十八年度予算についての御説明を終わります。
  4. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) これより質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  5. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 きょうは警察庁警備局長においでをいただいておりますが、ちょっと時間の関係があるようですから、まず警備局長お尋ねをいたします。  先般、警視総監公舎爆破未遂事件で、東京地裁で十一年ぶりに判決がありました。桐野敏博以下五人の被告人無罪判決を受けまして、検察庁控訴断念によって無罪判決が確定したようであります。非常にこの判決いろんな意味で考えさせられる面が多いのでありますが、とりわけ判決理由の中で、五人の自白調書信用性が全く否定されていますね。裁判官判断として、この自白利益誘導の結果なされたという疑惑の表明があるように報道せられておるわけであります。もしそうしますと、捜査官が違法な捜査方法をとったということになって、その責任は決して軽くないと私は考えておるのでありますが、警察庁は全体を包括をし、指導をせられる立場にあるわけですが、いまどのように考えておられるか、この点についてまずお伺いしたい。
  6. 山田英雄

    政府委員山田英雄君) お尋ねの三月九日の東京地裁警視総監公舎爆破未遂事件無罪判決につきましての私の所感を申し上げたいと思います。  これは、本事件発生の前後、特に昭和四十六年、四十七年におきましては、御承知四ツ谷署追分交番におけるクリスマスツリー爆弾などを初めとしまして、大変残虐な、凶悪な爆弾事件が続発しておりました。これは二年間で八十三件続発しておりました。当時、警察当局としましては市民の不安感も高まっておりましたし、一刻も早い爆弾事件の終息を図るために懸命の捜査を行っておったわけでございまして、四十六件に及ぶ爆弾事件を検挙しまして、そのうち三十九件につきましてはすでに有罪判決が出ておるわけでございます。この警視総監公舎爆破未遂事件につきましても、当事の懸命な捜査の一環として、犯人に到達して、慎重な捜査を行って送致、起訴に至ったわけでございまして、その間の第一線捜査員の血のにじむような努力を思いますと、苦労を思いますと、やはり無罪判決が一審で出ましたが、私どもとしては上級審判断を仰ぎたいという気持ちでいっぱいであったわけでございます。しかし、検察当局において控訴を断念されたわけでございまして、それなり理由があるわけでございます。やむを得ないことと思っております。  ところで、本無罪判決につきまして見ますと、ただいま御指摘のように、被告人犯人であると裏づけるのに十分な客観的証拠に乏しいということが言われておると判断いたしております。必ずしも犯人でないと断定はされていないようでございますが、ただ本事件につきましては、共犯の一人がすでに四十七年四月五日、東京地裁刑事三部において懲役五年の有罪判決が出ておるわけでございまして、これは控訴審に係属しておるわけでございますが、裁判官心証形成過程についていろいろな事柄があることは十分承知しております が、ただいま御指摘のような証拠に対する心証形成をされて無罪判決が出て、それが確定したわけでございます。私どもとしては判決内容を十分に研究いたしまして、御指摘の点を含め、将来の捜査に資すべき点は十分に今後の第一線捜査指導に生かして当たってまいりたいと、かように考えております。
  7. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そういういろいろな公安を害する事件が頻発しておったということも事実であったようであります。でも、あなた方が鋭意捜査され、大変努力されたことも事実でありましょう。しかしそれだからといって、やはり冷静に科学的に捜査をしなければいかぬ。特に警視総監公舎が爆破されんとしたということで、多少捜査官がいきり立つというか、熱意の余り若干急ぎ過ぎたのじゃないだろうか、自白を強要する面があったのじゃなかろうかという、そういう想像もできるわけですね。あなた方としてはあるいは心外かもしれないけれども、しかし裁判所はやはりその事件有罪無罪を決定する最終の国家的なこれは機関でありますからして、その判断はやはり尊重していかなきゃいかぬ。裁判所はどう言おうとおれは信ずるといったんじゃいけないんで、裁判所判断にはやはり服して、改むべきものは改めていっていただかなきゃ困るわけですね。その点は十分おわかりでしょう。いかがでしょうか。
  8. 山田英雄

    政府委員山田英雄君) 先ほどもお答えいたしましたとおり、将来の捜査に資すべき点は十分に生かして、今後の捜査指導に当たってまいりたいと思っております。
  9. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ことに刑事局長お尋ねするけれども警察当局としてはやはり検事控訴を期待して、上級審判断を仰ぎたいという気持ちがあったといういま警備局長の御意見があったわけですね。検察当局としては、もちろん私ども検察当局の御判断それなり理由があるということはよく承知しておるけれども、あなた方のそういう御判断はどういうことになるのですか。
  10. 前田宏

    政府委員前田宏君) 御指摘無罪判決につきまして、結論的に控訴しないことにいたしておるわけでございますが、検察当局立場からいたしますと、判決内容について、内容的に若干承服しがたいという点もないわけでもないわけでございますけれども、全体的に見ました場合、いろいろな角度から高検、あるいは最高検とも検討したわけでございますけれども、結論的に今回の無罪判決の結論を控訴をいたしまして覆すということは困難であろうという判断になったわけでございまして、そういうことから控訴を断念したという次第でございます。
  11. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 裁判所判断もさることながら、検察庁も、上級審判断を仰いでも一審判決を覆すだけのやはり自信をお持ちでなかったということなんですが、これはこの事件だけではなくして、私どもも長い間弁護士をやって、警察捜査が裁判の後になりまして、どうもやっぱり適切でなかったという判断を受けることがあります。そして、後でその判決を見直したときに、もうちょっと検察官が警察捜査経過というものをよく見据えて、それを慎重に検討してくれたら、こういう結果にならなかったんではなかろうかと思うことがあるわけですよ。その意味では警察だけの責任じゃないんです、検察当局責任もあります。その点は刑事局長よくおわかりですか。
  12. 前田宏

    政府委員前田宏君) 先ほど警察庁の方からも御説明がございましたが、当時大変厳しい状況下にあったわけでございます。その状況下におきましては、警察もまた検察当局犯人の検挙、あるいは事案の解明ということに最大限の努力をしたわけでございますけれども、結果といたしまして、このたびのような結果になったということは大変遺憾でございますし、また残念にも思っておるわけでございます。私どもといたしましては、ただいま寺田委員のような御意見、御指摘もあるわけでございますので、この判決内容等もしさいに分析検討いたしまして、反省すべき点を明らかにいたしますとともに、今後一層捜査体制整備であるとか、あるいは捜査技術の向上であるとかというような点に努めまして、このような事態を招かないように十分に配慮してまいりたいと、かように考えております。
  13. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大変刑事局長のどう言いますか、率直な御意見を承ったわけですが、法務大臣は前に警視総監をなさいましたね。法務大臣後任者事件ではあったようでありますが、こういう事件警察検察の御努力にもかかわらず、どっちかというと無惨な敗北といいますか、そういうことになったわけですね。そういう事件われわれはどう考えたらいいのか、被告人が十一年も大変苦労をした。結局、結果的にはその真犯人が見つからないで終わってしまうという結果にもなる。これもまた残念なわけですね。いろいろのことを考えさせられますが、法務大臣としては、全体を見てどのような所感をお持ちでしょうか。
  14. 秦野章

    国務大臣秦野章君) はしなくも、いま寺田先生おっしゃるように、無残な敗北ということもあると。人間努力というものは、脂汗かいて一生懸命やっても所期の目的を達せないこともあるという、そういう人間の仕事の、神様から見れば未熟だとおっしゃられるし、裁判官神様じゃないけれども、われわれよりは神様に近いでしょうから、そこから見れば未熟だというふうに見れる場合があるだろうと思うんですね。非常にこの苦しい環境の中、限られた条件の中で、一生懸命努力しても、その努力が足りなかった——足りなかったことは、これはしようがないんだと言わないで、やっぱりいろいろ反省をし、一つ具体的事件ですから反省をし、いわば捜査なり、検察の方でも、足らざるところなきやというような、そういう気持ちで当たるべきだと。やはりそれは今後の一つの教訓として学ぶべきだというふうに考えます。
  15. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはそれで一応私の質問は終わります。  次に、この種の事件——この種の事件といいますか、私ども警察になお一層の努力を期待したいと思う事件が多いんです。  ことに最近の新聞報道によりますと、尼崎の警察署で、刑事事件参考人調書偽造したということが報道せられておる。この偽造調書証拠として、有罪判決がなされたということも報道せられておる。また、事によりましては再審事件に発展する可能性もあるわけでありますが、第一に警察官のモラル、特に職業上のモラルが厳しく問われなければいけないと私は考えておるんです。いやしくもそういう職掌の範囲で非常識な、全く想像を絶するようなことが起きたわけで、これはよほど警察庁としては考えてもらわないと困る。これはどうでしょう。
  16. 古山剛

    説明員古山剛君) 御質問の件につきましては、まことに遺憾に存じておるところでございます。現在その詳細につきましては調査中でございますけれども警察本部警察署に対する事件捜査についての指導強化するとか、あるいは幹部による事件捜査指揮掌握並びに捜査に対してのチェックの徹底を図りますとか、あるいは捜査員に対する教育強化を図りますなど、所要の施策を講じまして、この種事案の防止に努めたいと存じております。
  17. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 警察の方は大変いま率直な御答弁がありました。先ほど刑事局長からも大変いい御意見があったんですが、この種事件でもちょっと私理解ができないんだけれども、これは検事が全く参考人に当たらなかった事件でしょうか、それとも当たったけれども見抜けなかったというのでしょうか、この点いかがでしょう。
  18. 前田宏

    政府委員前田宏君) 先ほど警察の方から御答弁がございましたが、どういう実態であるのかということをいま調べている段階でございまして、その点がまだはっきりしないわけでございます。したがいまして、具体的なことはまだ申し上げかねる段階にありますが、この偽造されたと言われております事件は、大体本人も争わないで、そのまま略式命令であるとか、そういうようなことで処理されているわけでございまして、そういう関係で多くの場合は参考人を調べないのが普通でござ います。したがいまして、全部についてそうであったかどうかということは、先ほど申し上げたように調査中でございますけれども、おおむねそういうことであったんじゃないかというふうに見られるわけでございます。
  19. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうすると、事件が軽微であるという場合には、ほとんど検察庁警察が送ってきた調書信憑性といいますか、それを御信頼になって、一々参考人に当たらないんだという事例が多いわけですね。ただ、こういう事件が現実に起きてみると、やはり何らかあれをチェックする手段を講じないとまずいように思いますが、その点いかがでしょう。
  20. 前田宏

    政府委員前田宏君) 必ずしも事案が軽微であるというわけでもございませんが、先ほど申し上げましたように、被疑者が争っておって、公判請求とかいうことになりますと、当然検事が調べまして調書もつくっておくと。それが公判対策にも必要であるわけでございますけれども、最初から本人が認めておる、それから関係証拠もそろっておるというような場合には、一々当たらないで、警察調書十分立証ができるという場合が多いというふうに申したわけでございます。  ただ、本件の場合、内容がどういうことであったか、はっきりいたしません点がございますが、偽造といいましても、一応の話といたしましては、そういう事実はあって、たとえば参考人なら参考人の方が、風俗営業の場所で卑わいな行為を、卑わいな接待を受けたというような事案があるようでございますが、その事実はあるようでございますけれども、その参考人の方が自分の名前は出したくないというようなことで、名前を変えてくれというような依頼といいますか、話があって、調書名前本人以外の名前にしたというような一例もあるようでございます。そういうことで、実態が全然なかった事件について調書をつくったというようなことでもないように聞いておるわけでございますが、それはそれといたしまして、先ほど来申しておりますように、普通の処理といたしては、一々警察で調べられた参考人の方を全部検察庁へ呼ぶということもないわけでございますし、またいまのようなことが通常考えられないことでもあるわけでございますから、結果から見ますと、それを看破できなかったという、手落ちとも言えるかもしれませんが、そういうことも現に起こっているわけでございますので、今後とも万一にもそういうことのないように注意してまいらなきゃならないというふうに思います。  第一次的には警察の方で十分御指摘いただくということであろうと思いますが、私どもといたしましても十分注意をしなければならない。  ただ、どういうふうにしたらいいかということにつきましては、いま、どういう実態であったかということがはっきりいたしておりませんので、その結果を待って適切に対応したいというふうに思っております。
  21. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務大臣警察の大先輩でいらっしゃる。最近、警察官のいろんな非違行為が報道をせられておるようでありますが、参考人調書偽造すると、中には実在しない人の参考人調書もでき上がっておるという新聞報道がある。それから、いま刑事局長が言われたように、実在の人間名前を偽って、他の人間名前にした調書もあったようだというようなお話がある。これは職務上のモラルが大変低いということでしょう。あなたは警察の大先輩として、やはり関心をお持ちでなくてはならぬと思うけれども、どういうふうにお考えですか。
  22. 秦野章

    国務大臣秦野章君) どういう考えを持つかとおっしゃられれば、まことに遺憾と言うほかはないわけでございまして、大ぜいの中にはたまにおかしなのが出るといっても、捜査官としての本質的な姿勢ですね。こういう問題については、もっとしっかりしにゃいかぬなということを、直接責任立場じゃないんですけれども、私も痛感をしております。
  23. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 まあ警察官になりたての人というんじゃなくて、警部補なんというのはかなり警察の中に育った人です。そういう人が出るということは何か全体の雰囲気に締まりがないような印象も受けるわけで、これは防犯課長よほどしっかりしてもらわなきゃいかぬですね。よくひとつ今後しっかりするように頼みますよ。いいですか。どうです。
  24. 古山剛

    説明員古山剛君) 今後ともこのようなことが起きないように十分努力してまいりたいと思います。
  25. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 厚生省医務局長、大変お忙しいのを無理しておいでいただいておるんですが、そういう関係で最初にお尋ねしたいと思うんです。  死の判定の問題で、従来は脈搏終止説というものがほぼ専門家の定説になっておったようでありますが、脈搏が終止しなくても、脳死の状態が生ずればもう死んだと見ていいんだということで、前にもこれたしか北海道大学の和田教授が心臓を摘出して、これな起訴猶予処分になったようですね。ところが最近は堂々と腎臓を摘出するというようなことが相次いだように新聞報道があるわけです。そうするとこの問題は、一体死亡時期をいつに見たらいいのか。われわれ法律家として考えると、ちょうどきょうの十二時に被相続人が死んだと、それは脳死の状態だと、心臓死は、夜の十二時に死んだと、その間に相続人が死んだような場合、これは死亡時期の判定によって相続人がかわってくるような問題も理論的には考えられますね。それから、一体死亡してない人間の腎臓を取っちまうということになると、それは医者といえども正当な業務行為に入るのか入らないのか。入らなければこれは傷害罪になってしまう。それによって本格的に死亡したというようになると傷害致死にもなる、理論的な問題ですわね。それが果たして可罰的違法性があるかどうかという、これは刑事局長お尋ねしないとよくわからぬが、そういう問題もあるわけでしょう。ところが、私がびっくりしたのは、まだ死の判定について公権的な国家的判断がなされてないということのようですね。諸外国ではこれが立法によってはっきりしているというのに、日本の場合はこの点が何かあいまいなままに来て、医者の間にも議論があるということ、そうすれば素人はますますわからぬようになってしまう。  そこで、特に医務局長においでいただいたんだが、一体国としてはどう考えているのか、国家的判断ですね。これはやはり厚生大臣が判断すべきことでしょう。そうすると、厚生大臣の判断すべきことというと、医務局長がその最高のスタッフでいらっしゃるから、どうしてもやっぱりあなたがどう考えていらっしゃるかということをお聞きしないわけにはいかない。いかがでしょうか。
  26. 大谷藤郎

    政府委員(大谷藤郎君) 死亡という事実は、人間の体のどの時点を指すのかということでありますが、人間の体は細胞から成っております。細胞がさらに組織、内臓になっております。またその組織、内臓が全個体を構成しているわけでございます。その場合に、どの部分が死んだ場合に死と言うのかということになるのでございますが、一般的には、不可逆的な死亡に至る時点が死亡であるというふうに一般的には考えられます。したがいまして、主に内臓でございますが、どの内臓が死亡した時点で不可逆性になるかという点で議論が分かれてくるわけでございます。従来は呼吸の停止、それから心臓の停止、それから瞳孔の散大、対光反射の消失という三つの状態がそろったときに、その全個体は、もちろんこれは組織とか、細胞の生きている部分はまだあるわけでございますが、これは死亡であるというふうに言われてきたわけでありまして、現在のといいましょうか、従来のおおむね医師の判断というものにつきましては、そういいふうなことで行われてきているわけでございます。  ところが、最近医療機器の進歩によりましして、脳の状態というのが非常によくわかるようになってまいりまして、いわゆる脳死の問題というのがクローズアップされてきたわけでございます。たとえば、脳の方が先に完全にやられました場合に、まだほかの内臓が、生きていると言うと ちょっと誤解を与えますが、活動的な状況にあるというふうな場合、その場合に、その脳の死亡がある程度進みますと、いかなるあれをもってしても当然不可逆的な全個体の死亡に至るという状態があると、こういうことが言われるようになりまして、それがいわゆる脳死ということになっているわけでございます。  そこで、その脳死の判定というのは非常にむずかしいものでございまして、これが軽率に行われますと、確かに大変むずかしい点が出るわけでございまして、昭和四十九年に世界の進歩の状況を見きわめまして、日本脳波学会ではいわゆる脳死の判定というのは大体こういう基準でやるべきだということを決めているわけでございます。それはちょっと長くなりますが、一つは深昏睡、意識の状態が完全になくなる。それから両側の瞳孔散大、対光反射及び角膜反射が消失している。それから自発性の呼吸停止、つまり息を全然しない。それから急激な血圧降下とそれに引き続いた低血圧がある。それから脳波が完全に停止した状況にある。こういった状況が六時間以上続いている場合にこれを脳死としたらばどうか、こういった場合には、完全にいかなるあれをもってしても絶対に個体が不可逆性の状態にあるというふうに学会では主張しておりますし、外国でも大体これに似た基準でいわゆる脳死としているわけでございます。  しかしこれは、いま私が申し上げましたのは、日本脳波学会、脳の専門家の方々の学会において主張されているところでございまして、私どもとしては、この問題につきましては、まだ全医学界が十分議論を尽くされるべきものであるというふうに考えているわけでございます。したがいまして、いまこれを直ちに法律でどうこうするというふうなことにつきましては、私どもは考えておらないわけでありまして、これにつきましては学会の議論というものを十分見きわめてまいりたいという考えでございます。
  27. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、私がお尋ねしましたのは、現時点で国としては——まあこの場合国というのはいろいろあるでしょう。裁判事件になれば裁判所が判定してしまいますわね。それから、その事件がたとえば告訴されたなんという場合には、これは検察庁が判定する場合もあるでしょうが、いまあなた方は生死の問題を一応扱っていらっしゃる国家機関として、現時点では死亡というものをどの時点で判定なさっていらっしゃるのか、現時点におけるあなた方の御判断といいますか、御意見、そういうものを伺っているわけです。いろんな学界では諸説紛々であることはわかっているわけです、私も多少読んでいるから。
  28. 大谷藤郎

    政府委員(大谷藤郎君) 先生が厚生省はどう考えているかということでございますが、私どもといたしましては、これはやはり医師による医学的判断による固体の生命現象の終結ということが死亡であるというふうに考えておりまして、従来からの概念からすれば、先ほど申しました古典的な三つの条件にはまる場合に死亡というふうに言われているわけでございますが、アメリカ等では脳死をもって死亡とするというふうに、先進諸国におきまして、そういったことが死亡と認められていることは、もうすでにその歴史があるわけでございますので、こういった問題につきまして、やはりすぐれて医学的な問題ではないかというふうに考えておるわけでございます。したがいまして、厚生省が統一見解を示すというふうな状況にはないわけでございます。
  29. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうでしょうかね。この生命についての大切な判断を厚生省がお持ちでないというのはおかしいんじゃないですかね。  国家が判断しないで、結局、局長の御説明によりますと、死亡時期の判定というのは、個々の医師の判断に任してしまうという、そういう結果になりますね。一体、人間がいつ死亡したかという大切な問題を、国家的な判断がなし得ずに、個々の医師の判定に任すということが妥当でしょうかね。だから諸外国では、それが妥当でないから法律で決められているわけでしょう。あなたは法律で決める意図はないと。そうすると、結論としては何らかの機会に裁判所に持っていって、裁判官判断するのにまつか、あるいはそれまでは個々の医師の判断にゆだねてしまう、ばらばらでも構わないということになると、ちょっとおかしいように思いますが、どうでしょうか。
  30. 大谷藤郎

    政府委員(大谷藤郎君) ばらばらでもよいということは、結論的にはそういうことになるかもしれませんが、当然ばらばらな結論にいたしましても、医学界の通念というものが当然ございますから、その通念に従って行われていくべきものであるというふうに考えているわけでございます。  なお、この脳死と、従来の古典的な死というものとの関係につきましては、厚生省で臓器移殖の研究会というのを組織いたしまして、専門家の方々に集まってもらって、大変な御議論をしていただいたわけでございますが、この場合にも、やはり両論併記というふうなことで、現在の世界の医学の進み方、わが国の医学の進み方というふうなものから考えて、当然医学の常識に従ってその判定がなされるべきであるというふうになっているわけでございます。
  31. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それはよくわかりますよ。あなたのおっしゃることは間違っていないと思います。だけれども、医学界に二つ説があって、おれはどっちが正しいかわからないよと、だから、個々の医師の判断に任すんだよというのはどうでしょうかね。医学界のあなたは指導監督の任にある方として不適当じゃないんでしょうか。
  32. 大谷藤郎

    政府委員(大谷藤郎君) 確かに先生おっしゃいますように、直ちに結論を出していないということについては、非常に不分明の感じをお与えするかもしれませんが、私どもといたしましては、いろんな学界、研究会というものにおきまして、現在いろいろ検討を行っていただいているわけでございます。そういった結論を見守っていきたいというのが、先ほどから私の申し上げておる趣旨でございます。
  33. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうしますと、現在では厚生大臣なり、あるいは厚生省としては、死亡時期については一定の見解を持っていないと伺ってよろしいか。
  34. 大谷藤郎

    政府委員(大谷藤郎君) 一定の見解と申しますのは、先ほどから申しましたように、個々の医師の医学的判断に基づいて決定されるのでありますが、しかし、当然現在の医学界の常識、通念といったものによってそれがなされるというふうな解釈でございます。
  35. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それもわかるんですが、その医学界の通説、常識というのは二つに分かれているわけでしょう。その二つに分かれているいずれをとるべきかは自分としてはわからないと、こう言うんでしょう。だから、それが私としては無責任のそしりを免れないのじゃないだろうかといってお尋ねしているんですよ。
  36. 大谷藤郎

    政府委員(大谷藤郎君) 直ちにいま結論を示せないということが無責任であるというふうな御指摘でございますが、私どもといたしましては、この問題につきましてはすぐれて学問的な問題でございまして、研究班を組織していただき、そういった問題でできるだけ日本の医学界の知能を集めて御研究をいただいているわけでございまして、その点についてできる限り、やはり医学界全体がわかりやすいものになるように期待しているわけでございます。
  37. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 国家的判断をたとえば統一しようとか、そういう御意図はあるんでしょうか、ないんでしょうか。
  38. 大谷藤郎

    政府委員(大谷藤郎君) この問題につきましては、そういうふうな問題は大変デリケートなむずかしい問題でございますので、毎々申し上げておりますように、研究会を組織して専門家の方々に、特に脳死をめぐりまして御研究をいただいているわけでございますが、また、最近では厚生大臣の御発議によりまして、このこと自身を目的とするのではありませんが、新しい医療技術というふうなものと、人間の生死に関する倫理の問題等について、医学界だけでなく、各界の方々にお集 まりいただいて御議論をいただくと、こういうふうにしているわけでございます。
  39. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは民事局長お尋ねしますが、何か判例で死亡時期はいつだという裁判所判断が下されたようなことがありますか。また、刑事局長も何か刑事事件でこういう判例があったような事実があったら、おっしゃっていただきたいんですが。
  40. 中島一郎

    政府委員(中島一郎君) 準備をしておりませんので、適確なことを申し上げられませんけれども、やはりわれわれの常識といたしましては、先ほど医務局長がおっしゃいました、いわゆる古典的な三つの点、呼吸がとまり、心臓がとまり、瞳孔が開くということをもって死亡という認定をしておったように思うわけでありまして、それが特に問題になって判例として残っておるというものは記憶がないわけであります。ただ、それは非常に古い考え方であって、現在は新しいいろいろな技術の進歩とともに、医学の進歩とともにいろいろ新しい考え方が出てきておるということもわれわれ承知をしておるわけでありますから、そういうことについても今後研究をしていかなければならないと、こういうふうに考えております。
  41. 前田宏

    政府委員前田宏君) 刑事の判例で死亡の定義といいますか、時期といいますか、その点を正面から取り上げて判示した判例はどうもないようでございますが、やや暴論的なことかもしれませんけれども犯人が被害者の首を絞めて殺した後で、その死体を川の中へ投げ込んだというような事件がございまして、その場合に殺人罪のほかに死体遺棄罪になるかどうかということが議論になった事例がございます。その場合に、その観点からの議論でございますけれども、死体と言えるためには、心臓の鼓動が完全にとまることが必要であるというような判示が、いま申し上げましたような論点との関係で出ているのがございます。従来私どもとしては、いま厚生省の方から御説明もございましたが、古典的なという言い方がいいのかどうかわかりませんけれども、従来の三徴候説と申しますか、総合判断説と申しますか、呼吸、心臓、瞳孔、そういう三つの点からの総合判断というものが一応従来の、現在のまだ一応の多数説といいますか、通説ではないかというふうな理解に立っているところでございます。
  42. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 医務局長、これで終わりますけれども、やはりいま民事局長刑事局長が言われましたように、学界にはいろんなそれぞれ新しい説が生まれて、検討の必要はあるけれども、現時点ではあなたのおっしゃった、心臓がとまって、脈搏もとまって、それから瞳孔も散大して、三つの条件が完成したときに死亡と判定するのが現在の通説だと。それをとるという、何か自分の意見を持って、しかし、なお検討はいたしますと言うならわかるけれども、あなたのように自分の説はないんです、一切個人の医者に任せていますというのもちょっとやっぱり無責任ですよ。だから、その点の御反省を求めて私の質問を終わりたいと思いますが、その点ちょっと再検討を願えますか。
  43. 大谷藤郎

    政府委員(大谷藤郎君) 私が舌足らずで十分御理解いただけなかったかと思いますが、人間の死亡というのは、先ほども申しましたように、細胞から内臓、内臓はいろいろございまして、それらすべてトータルの死亡に至るということでございまして、どの時点で不可逆性の死の時点なのかという判定が問題でございます。ところが、従来は、先ほど申しましたように古典的な三つの症状に至ったときに、不可逆的な時点というふうに考えてきたわけでございますけれども、医学が非常に進歩いたしまして、脳の中の生理学、生化学的な状況というものが簡単に外から把握できるというふうになってきまして、そこで脳死の状態から不可逆性であるというふうな意見が出てきまして、すでに欧米、あるいはその他の国々で、その時点をもって死亡とするというふうに現在行われているわけでございます。したがいまして、私どもはそういった現在の過渡的な状況というものにつきまして、やはりこれは医学的に十分御検討をいただきまして、それはもし必要ならばいろんな点も考慮すべきであるというふうな点も含めまして検討をいたしておるということでございます。  厚生省にもそういう研究班を設置いたしまして、御勉強いただいているわけでございまして、決してこの問題につきまして、全く私どもがこれをそのまま放任しているというふうなことでございませんで、厚生省といたしましても、先生とお気持ちの上では全く同じように、この問題につきましても研究をしていきたいと、現にやっているわけでございます。どうかその点御理解をいただきたいと存じます。
  44. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務大臣、いまいろいろ死の判定について質疑応答をお聞きになっておられたと思います。これについては最近、安楽死、極楽死の問題が大変興味ある法律の問題として論ぜられておりますね。あなたはいま法務大臣というお立場で、この極楽死の問題についてどんな御所見をお持ちですか。  これは御承知のように、本人の希望をかなえてやっていいかどうか。生命維持装置を取っても構わないのか、あくまでも生命の尊重という念慮で生命維持装置というものは死亡に至るまで存続すべきかどうか。また、それをさらにまた場面を変えますと、苦痛に耐えかねた患者を殺すと、「高瀬舟」みたいなね。いろんな問題がありますね。これは嘱託殺人の問題も出ますね。こういうことを考えると、なかなかこれ私ども迷うんですが、法務大臣としてはどんなお考えでしょうか。
  45. 秦野章

    国務大臣秦野章君) お尋ねの問題は大変難問だと思います。法律的には、確かに嘱託死の問題も出てくるし、安楽死がいいんだということになると、かなり波及された社会的ないろんな問題が出てくるという感じもいたします。そうかといって、ぎりぎりの極限におかれた状態の安楽死というようなものが認められるケースはないのであろうかというような問題を考えると、その場合は安楽死というものがあってもいいのかなと思うような場面も想像の上ではあるわけでございます。これはもう想像の上でです。私がいまここで簡単にこれをお答えするというような問題ではない、これはもう宗教、哲学、あらゆる分野における問題が含まれておりますので、やはり広く論議されるべき問題だろうと、いまはそうだろうと、こう思っております。
  46. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ちょっと不得要領な答弁でよくわからないんだけれども刑事局長、この安楽死の問題は、あなた方は実務をお扱いになっていらっしゃるんですが、これはどんなふうに取り扱っていらっしゃるんでしょうか。
  47. 前田宏

    政府委員前田宏君) ただいま大臣から御答弁がございましたように、大変むずかしい問題でございまして、法律的な、いわば事務的なといいますか、技術的な面だけからも結論を出しがたい問題であろうかと思います。  いま大臣も仰せになりましたように、非常に極限的な場合に、本人の嘱託、あるいは承諾のもとに楽に死なせてやるという行為が、法律的に言っていわば違法性が阻却されるかどうか、またその場合にどういう条件があれば処罰されないかという問題になるわけでございますが、その点につきましても、判例や学説が必ずしも一致しているわけではございませんで、具体的なケース、ケースに応じて、場合によっては違法性を阻却する場合もあり得るというふうに考えられているのが通説と言えば通説であろうと思います。それも非常に抽象的なことでございまして、具体的にどういう場合になればどうかということは、抽象的にはなかなか言いがたいわけでございまして、やはり事案事案に応じて判断していくほかないというふうに考えております。
  48. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 八三年の二月九日、仙台高裁で勾留中の被告人が、空き缶を加工した凶器で証人となった被害者の女性を襲った。しかし、幸いその凶器は使用しないで、何か手でその証人である女性の顔面をたたいたというような報道でしたけれども、それは矯正局長の方でお調べになったんでしょうかね。それで現実はどうであったのか、どういうふうにしてその凶器を手にしたのか、そう いう点ちょっと御説明いただきたいと思います。
  49. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) ただいま御指摘のような事実が、本年二月八日、仙台高等裁判所の法廷で発生いたしました。  事実関係でございますが、これもただいま御指摘のように、これは本人の供述でございますが、初めは凶器を使って傷をつけようとしたらしいのでございますが、その犯行の瞬間に凶器は使わないで、手の甲でほほを打ったと、こういう事案でございます。そのとき持っておりました凶器と申しますのは、パイナップルの缶詰の缶の横の部分と申しますか、円い部分、これを開きましてそれを四つに折った物でございまして、長さが約十九センチメートルの物でございます。これは本人が自弁で購入いたしましたパイナップルの缶詰を、房内に残しておってそれを加工した、こういうことでございますが、現在までの調査では、昨年の暮れごろからそういうものをつくり始めている。この日の公判の際に、まず出廷いたしますときの身体検査の際には、またの間に狭んで、外側からの検診を免れた、その後持ち場所を変えて法廷に出たと、こういう状況でございます。
  50. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 その缶というのはいつ取得したんでしょうか。
  51. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) これは昨年の暮れごろという調査になっております。
  52. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 いや、それはわかりましたが、つまり未決監で取得したのか、それとも未決監に入る前に、警察段階でもうすでにまたにひそましておったのかということです。
  53. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 未決監において取得したものでございます。
  54. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 普通は考えられないことが起きたわけだから、だから、そこのところはあなた方がはっきりと入手経路を御捜査になったのかと伺っているわけです。
  55. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) これは自弁をいたしました缶詰の空き缶、これは通常回収して、本人に持たせないようにするというのが決まりでございますが、この事件におきましては、その点について回収を忘れたということがございましたために、その未回収の缶詰の缶を加工をするという事態が出たわけでございます。  このほかに、本来で申しますと、収容者の舎房については随時必要あるごとに検査をいたしまして、不当なもの、違法なものを持っていないかどうか、これを確認しなきゃいかぬわけでございます。それからさらに、収容者被告人を法廷に連行いたします際には、そういうものを持って出ないかどうかという検査が必要なわけでございます。そういう意味におきまして、この事件を見ますと、缶詰の空き缶を回収しなかったこと、それから舎房内の捜検と申しておりますが、検査が十分でなかった、行き届かなかったこと、さらに出廷の際の身体検査が十分でなかったと、こういう三つの点がございますので、その点については十分反省をいたしておるところでございまして、それ以後、宮城刑務所の仙台拘置支所におきましてはもちろん、他の施設におきましても、そういう点には十分配意をするということでございまして、持ち物の空き缶等のこういう凶器等に用いられそうなものの所持、それからそれについての検査、それから出延の際の検査を厳重にするようにいたしております。それとともに、裁判所検察庁等の関係機関と緊密な連絡をとりながら、法廷内における証人の保護という点にも配慮をしていこうということでやっておるところでございます。
  56. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務大臣お尋ねをいたしますが、法務大臣の所信表明の中で、刑法改正の問題と、それから拘禁二法の問題——拘禁二法といいましても、法務省の所管は監獄法の改正の形をとって刑事施設法案ですね。この問題になるわけでありますが、この二つの点ですね。これは所信表明というプリントを私どもいただいておって、それをずっと見ておりますと、その二ヵ所の点は省略して表明をなさいましたね。私きょうその点を質問しようと思いましたら、きのうの晩のNHKのテレビ、それからきょうの各紙で、刑法の改正については今国会の提出を断念したんだというテレビであるとか、あるいは新聞の報道がありましたので、多分そうだろうと考えたわけでありますが、この刑法改正を断念したというテレビや新聞の報道は、これは間違いないわけですか。断念に至った理由といいますか、それはどういうことだったんでしょうか。
  57. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 刑法改正の問題は、何とか国会の御審議を願いたいということで、作業を進めてきておったわけでございます、御案内のとおり。そういう努力は続けてきたのでございますけれども、今国会の審議の状況、政治情勢等で、審議の期間等を、日がだんだんたつに従って、審議日程がどの程度あるかというようなことも考えたり、弁護士会との折衝等もあるわけでございますが、なかなかそう簡単な問題ではない。これはもう当然のことなんでございますけれども、時間がたってだんだんこれ考えてみると、正直言って、提案するということなら、来月初めにかかっても提案させてもらうことは可能なんですけれども、だんだん少し情勢が困難になってきたなという判断を私どもがしたわけでございます。やはりいろいろな条件を見ながら御審議を願わなければなりません。継続になっているものもあるわけでございますし、そういうようなことで大変困難になったと。いますっかりあきらめてしまったというわけでもないけれども、非常に困難になったということを私ども判断をしたというのが実情でございまして、その点は御理解をいただきたいと思います。
  58. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 そうすると、これはやはり法務大臣のお考えとしては、次の通常国会を目指すということなんでしょうか。それをちょっとお伺いしましよう。
  59. 秦野章

    国務大臣秦野章君) どうしてもむずかしく、断念するというようなことの決着、決断をしてしまえばそういうことになるんですけれども、これは今国会の間でも、たとえば例の治療処分の問題で厚生省の関係とか、そういうものはやっぱり精力的にいまでも一生懸命やっているわけでございます。大変、そう簡単じゃないにしても、やはり必要性は、これはもう刑法全体もそうなんだし、それからその中にある治療処分の問題にしても、やっぱり私は客観的にはこれはぜひひとつ御審議を願わなければならぬ問題だと思っているんですよ。思っているんですけれども先ほど申し上げましたような事情で、いまの段階判断をしたというのが事実でございます。
  60. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 結局、厚生省との協議というものは、大分前の法務委員会刑事局長、もう前から精力的にやっているんだというお答えでしたね。  結局、最近のその協議の状況というのは、一口で言いますと、やはりあなた方が法務省として独自の治療機関といいますか、国立病院の活用にあらずして、あなた方独自の治療病院といいますか、治療施設といいますか、そういうものをつくる方向に向いているわけですか。その点どうでしょう。
  61. 前田宏

    政府委員前田宏君) 厚生省との関係では、施設の問題以外にもいろいろとあるわけでございますが、とりあえず施設の問題について言いますと、私どもといたしましてはできる限り厚生省の方の御協力を得たいという気持ちは現在も持ち続けているわけでございます。したがいまして、なお協議継続中ということでございますが、仮にいまどうしてもいろいろな面から無理だということになりました場合には、それだからこの制度の導入をやめてしまうというわけにもまいらないわけでございますので、その場合には厚生省の御協力を得ながら、法務省所管施設をつくるということも考えなきゃならぬだろうということで、いわば両面作戦と申しますか、そういうことでいろいろな準備検討を進めておるわけでございまして、その点が未解決だから法案が提出できない、こういうふうには考えておりません。
  62. 根岸重治

    政府委員(根岸重治君) けさの新聞をごらんになっての御質問でございましたが、実は新聞記者 会見をいたしましたのは私でございますので、一言だけつけ加えさしていただきますと、私が記者会見で申しましたことは、大臣も先ほどお触れになりましたが、法務省としては刑法改正が必要だと考えておるけれども、現下の政治情勢、それから提出法案の審議状況、国会の審議日程等を総合勘案すると、現段階において刑法改正案を今国会に提出することは困難であると判断していると。ただ、これは最終的に改正案の今国会提出を断念すると決定したものではないので、念のため申し添えますということを私は申したわけでございます。そして、新聞は、従来のいろいろな情報等もありまして、ああいう、たとえば断念とか、厚生省等の名前が出ておるかと思いますが、私が申し上げましたことは、いまのことに尽きておりますので、ひとつその点は御了解いただきたいと思います。
  63. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 ただ、刑事局長のお答えがあったように、厚生省との間の協議がいまだにまとまらないということになると、これは提案しようにも提案できないでしょう。つまり、あなたのお話では、厚生省の協力が得られるならばそれでいいけれども、得られなければやはり独自のものをつくらなきゃいかぬと、そういう両てんびんをかけていま検討しているという、そのあなたのお答えでは、まだ厚生省との協議が実らないということをよく物語っているわけでしょう。じゃ法務省提案しようがないじゃないですか。
  64. 前田宏

    政府委員前田宏君) 先ほど申しましたように、結論的に申しますと、いずれかに決めなければ法案提出ができないわけではないというふうに申したわけでございます。その意味を若干補足さしていただきますと、いま御提案しようと思っておりますのは、刑法の改正でございまして、いわば実体法でございますから、一応の案といたしましては、たとえば治療施設に収容するという表現で実体法は十分規定できるわけでございます。その治療施設を具体的にどういう施設にするかということは、その後の施設法的な法律の問題になるわけでございまして、それがいずれにせよ実現可能であるということであれば、実体法の改正は可能であるというふうに考えているわけでございます。
  65. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それは強がりにすぎないんで、そんな法案をわれわれは通しませんよ、絶対に。どこへ持っていくかも決まらずに、ただ名目だけ治療するんだなんて、そんな無責任な法案を提出されちゃ困るんで、それは国家機関相互の間で完全な意見の調整を図って、それが統一して、どこへ持っていくかということがはっきりしてから法案を提出していただかぬと困るわけですよね。そんなに、何といいますか、速成的な粗雑な法案であれば、それはとても一般の批判にも耐えられませんし、国会の批判にも耐え得ないですよ。
  66. 前田宏

    政府委員前田宏君) 若干同じようなお答えになって恐縮でございますが、先ほど申しましたように、厚生省の施設が利用できればより好ましいけれども、それが不可能な場合には、法務省所管施設でやるほかないということで、その場合に備えていろいろな準備をしておるわけでございまして、そういうふうに決断をすれば、それなり内容が具体的にお示しできるように準備をしているわけでございますから、いずれかわからないというような不確定な状態であるということではございません。
  67. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 しかし、あなたよく考えてください。厚生省の協力が得られなければこれは独自な施設をつくらなければいかぬといいましても、それはある程度の予算も要るでしょうし、それから土地の取得も必要でしょうし、建物の取得も必要です。何よりも医師の取得が必要でしょう。人的なものがそろわなくてはとてもできない。そうしたら、裁判官だってそんな判決できない。だからそんな強がり言ったってしょうがない。やっぱりちゃんと国家的な意見統一をして、方向を決めて、そしてもしも独自の施設をつくるならば予算がどのぐらいかかるのか、その施設を完備し、医師を整備するにはどのぐらいの期間を要するのかというはっきりとした見通しをつけて法律を提案しなきゃいけませんよ。
  68. 前田宏

    政府委員前田宏君) 御指摘の点はまことにそのとおりでございまして、私もそれと同じような考え方で先ほど申したつもりでございまして、法務省でやります場合に備えて、どういう施設をどういうふうにつくるか、予算はどのくらいかかるか、お医者さんなり、看護婦さんなり、いろいろな医療法関係の技師の方なり、あるいは保安要員なり、そういうものがどのぐらいかかるかというような積算、いろいろ準備をしておるわけでございまして、法案を提出するに当たりましては、十分御説明できる資料を整えて提出しなければならないし、またできるものというふうに考えているわけでございます。
  69. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 法務大臣、いま私もちょっと刑事局長の御答弁に対して厳しくそれを批判したわけだけれども、やはり厚生省との間の意見の完全な一致と、それから日弁連との間のやはり完全な一致じゃなくても、ほぼ大筋の了解は得られるということが望ましいわけですよね。私どもはやはりそれを期待しているわけです。ですから、余り速戦即決で、何か急いで粗雑なものを出すというのだけはやめてもらいたいんですよ。十分慎重に各方面の了解を得てお出しいただくということが何より必要だと思いますが、大臣としての御所感を伺います。
  70. 秦野章

    国務大臣秦野章君) ただいまの御意見十分念頭に置いて進めたいと思います。ただ、一〇〇%一致というのはなかなかむずかしい。そんなら突っ走るかといってもそうもいかぬ。その間の問題でいろいろ悩みがあるし、またその間にどの程度の合意というものが可能か、そこも点検の余地がある、こんなふうに考えて、御趣旨のところはよくわかります。
  71. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それから、大臣にお尋ねしたいのは、監獄法の改正につきましては、第九十六回国会に刑事施設法案を提出し、現在衆議院において継続審査となっているところでありますが、今国会において十分な審査を経て成立に至るよう念願している次第であります。この個所を衆議院ではお読みになったようですね、ところが、参議院ではこれをお読みにならなかった。衆議院と参議院と所信表明が違うというのもちょっといままでに例がないんですよね。ただ、事情変更の原則というのがあるから、事情変更の原則で違うんですと言えば、それはそれでよろしいが、一体それじゃこれ事情変更の原則をどういうふうに適用なさったのか、その辺のことをちょっと説明していただけませんか。
  72. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 若干の事情変更はこれは認めざるを得ません。そういうことで、説明が衆参少し違ったわけでございますが、ニュアンスとしては、例の共同住宅の法案もお願いしたし、継続審議案件が一つふえたわけですね。そういうことで、私どもとしては優先的に、全部が全部いってもらえればいいけれども、どうも全体を見るとそうもいかぬようだというようなことで、その中でどういう選択をしていただくかというようなことも御相談しながらという配慮があったもんですから、ちょっと説明の仕方が衆議院と参議院は違いましたけれども、しかし、いずれにしても継続審議になっておりますので、われわれの気持ちとしては、継続になっているものは全部やっていただきたいという気持ちなんだけれども、これはまた他官庁、あるいは弁護士会の折衝等も御案内のとおりあるわけでございます。そのことを頭に置きながらも、先ほど申し上げた国会の情勢、政治情勢、審議情勢等を見ながら、これ時間がちょっとたちましても、意外と事情が若干変わってくるというような昨今でございますので、少し言葉が変わったわけでございます。その辺の含みはあったということを御了承いただきたいと思います。
  73. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 大臣のお気持ちはよくわかりました。結局一口で言うと、強く促進する熱意を失ったといいますか、どうも見通し困難だと判断したということですな。
  74. 秦野章

    国務大臣秦野章君) これもやはり一言で言え ば、法案をまた新たに一つお願いをして、そして継続の分だけでも三つになったということになると、困難性が増したということは言えると思うんですね、御審議いただくについて。しかし、かねがねの念願でもありますので、できるならばという気持ちは、継続案件につきましては当然私どもとしては熱意を失っておらぬつもりでございます。その点は国会も目下審議をしていただいているさなかでありますから、状況というものは少しは変わってきましたけれども、主体的な私ども気持ちは変わってないというふうにわれわれは努力を続けてまいりたいと、こう思っております。
  75. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 御苦心のほどはよくわかるんですけれども、ただ、とりわけいま私どもが関心を持っている問題で、衆議院では御主張になり、参議院では御主張にならなかった、そのわけは状況の変化があったからだということになりますと、やはりそういう状況の変化を重く見たということではあるんでしょう。これは間違いないでしょう。
  76. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 状況が若干変わってきたということは事実認めざるを得ないと、こう思っております。
  77. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 それで、刑法改正、監獄法改正の問題が二つ、大体のお気持ちよくわかりましたが、いま私どもの念頭にあるものは、御承知のように国籍法の改正ですね。これはあらゆる種類の男女の不平等を絶滅しようという条約が成立いたしましてからまず第一に実現しなければならない問題。これが国籍法の中にひそんでおる男女の不平等、これを取り去るということですが、これは前の奥野法務大臣も坂田法務大臣も大変御熱意があったようです。それからいまの大臣も大変御熱意をお持ちのようでありますが、ただ問題は、法制審にかかっておりますね。法制審の答申というものはいつごろ出る見通しなのか、答申が出たらどのくらいで立法作業が終わるのか、そして、来通常国会に提出が可能なのかどうか、またあなた方がそういうおつもりでこれからもこの問題の解決に当たるお気持ちなのか、その辺ちょっと御説明願いたいと思います。
  78. 中島一郎

    政府委員(中島一郎君) 国籍法の改正問題につきましては、二月の一日に、それまでの法制審議会の審議の結果を整理いたしまして、国籍法改正に関する中間試案というものを公表いたしております。これは民事局第五課という名前で公表したわけでございます。現在、この中間試案に基づきまして、大学、裁判所、日弁連、その他の法律団体、経済団体、市民団体等に書面で意見照会を行っております。それとは別に、国籍法改正に関して意見を聞く会というものを開きまして、大阪と東京で、合計三十名ばかりの参考人の方から口頭で御意見を聴取することになっております。大阪の分はつい一週間ぐらい前に終わりました。東京の分は今月末に行うことになっております。  こういった意見が出そろいました上で、五月ごろから法制審議会の審議を、こういった御意見を参酌しながらやっていただきまして、審議会の審議の結果でありますから、私から何とも申し上げられないわけでありますけれども、いままでの審議の状況とか、私どもの希望とかいうことからいえば、本年の秋、遅くとも本年いっぱいには法制審議会の答申をいただきたいと思っております。年内に答申をいただきますれば、遅くとも来年のいまごろまでには法案をつくるということはいたしたいと、このように考えております。
  79. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 これは三重県の鈴鹿市で幼児を近隣の者に預けたところ、池に落ちて死亡したと。両親が損害賠償の訴えを起こしたところ、その両親や子供に他人からさまざまないやがらせがあった。そういういやがらせに耐えかねて両親は訴えを取り下げたという事件が新聞等で大きく報道せられました。  どうもこのいやがらせというもの、おせっかいと言えばおせっかいで困ったものだし、しかし、その人たちは、必ずしもいやらしい気持ちでなくて、何か素朴な市民的な正義感のようなものに耐えかねてやったのかとも思える。まあ余り感心したことではないことは事実でありますが、人権擁護局は、これを人権侵犯事件としてとらえたと報ぜられておりますが、この間の事情をちょっと人権擁護局長に御説明いただきたいと思います。
  80. 鈴木弘

    政府委員鈴木弘君) お答えいたします。  先生の申されました幼児の事故につきまして、原告夫婦が隣人である被告夫婦を相手として本件訴訟を提起したことの是非等につきましては、いろいろと議論の余地があるわけでございまして、適切な方法で意見を述べるということ事態は結構だとは思っておるわけでございます。しかしながら、少なくとも市民が、法律上認められております権利があるとして、民事訴訟の提起という最も正常な方法をとったのに対して、報道されておりますように多くの人たちが投書、電話等によって、寄ってたかって脅迫まがいのいやがらせまでして訴えを取り下げさせたという事実があるとしますと、これは基本的な人権である裁判を受ける権利の侵害に当たる疑いがあるわけでございまして、少なくともこのような行為が人権擁護上きわめて問題のあるものであると、かように考えまして、調査を管轄法務局長等に指示したわけでございます。  本件調査は、そのようないやがらせをした者を追及することが目的ではなく、このような行為に対して反省を求める一般的な啓発を行うための前提となる事実関係、これを確認いたしますとともに、法務局はこのような観点から調査に着手したという事実自体が広く報道されることによって、いやがらせの電話等をした人たちの反省を求めることにその目的があるわけでございます。したがいまして、調査といたしましては、原告、被告各本人及びそれぞれの訴訟代理人等の関係者からの事情聴取や、送付された手紙等の提供を受けるなどして、事実関係を確認した上で、近隣の地域住民や一般国民に対して啓発活動を行うことになろうと思いますが、その一つの方法といたしまして、この問題についての人権擁護機関としての考え方を取りまとめて、広く国民に訴えることや、人権週間、その他の人権擁護活動の中で、この問題を積極的に取り上げていくことを現在のところ考えております。
  81. 寺田熊雄

    寺田熊雄君 人権擁護局長から大体御説明のあったことで、私としてはもう満足しておりますが、法務大臣、やはりこの事件興味をお持ちになったと思うのですが、あなたはこの事件についてどういう御所感をお持ちになりましたか。
  82. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 法務省の立場として、いま局長が申したような処置を一応とるということは、これはやっぱり必要だと思うんですね。結局これはもう私はある意味ではマスコミ事件だと思っています。マスコミの扱い方によって啓蒙されるし、また非難さるべき者が非難されたりする。そんなことが一つの社会的効果として、いろいろ意見がありますけれども、人権の問題がそういうふうに波紋を描くということ自体に意味があると。これは後の始末でどういうふうに啓蒙するかといっても、これは時間がたつと余り報道効果もなくなりますから、それほどの効果はないとは思うんでございますけれども、これは正直言ってそういう角度で見た場合には、裁判批判というのはいけませんけれども、たとえば私のこれは個人的な感情で言うと、自治体もあったわけですね、あそこには。だから、子供を預ったあの人だけが非難さるべきものなのかどうかという問題も、これはマスコミなら自由ですからね。そういうことは大いに書いてもらえばいいんじゃないかというふうに思っています。     ─────────────
  83. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) この際、委員の異動について御報告いたします。  本日、宮本顕治君が委員辞任され、その補欠として近藤忠孝君が選任されました。     ─────────────
  84. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 最初に刑務所における不祥事件に対する法務省の対応につきましてお伺いをしたいと思います。  昨年は刑務所不祥事件がずいぶん起こったわけ ですけれども、事もあろうに福岡の刑務所の中で散弾銃を密造した、こういう事件もありましたし、また府中刑務所の覚せい剤の持ち込み等々刑務所をめぐる不祥事件や疑惑事件が、マスコミに報道されておったわけでありまして、このことは参議院の決算委員会におきましても、昨年追及されたわけですけれども、これは非常に重大な問題でありますし、まずこの問題について法務大臣所感をお伺いしたいと思います。  それと、決算委員会におきまして、前田刑事局長は、関係者の中には所在不明者、死亡者もおり難航しているが、重大な問題なので調査、解明をすると、こういうふうに答えているわけでございますけれども、その後の調査結果はどういうふうになっておりますか、御報告願いたいと思います。
  85. 秦野章

    国務大臣秦野章君) まず、不祥事件について法務大臣どう思うかとおっしゃる御質問でございますけれども、これは当然われわれとしては非常に遺憾な、残念なことでございまして、こういうことが再びあってはならない。銃がつくられ、しかもそれが使われたなどということが、非常に社会的な大きな反響を呼んでいる。これに対する対応策としては、処遇の問題や、中の管理の問題について、具体的に矯正局の方でも具体案をつくって、示して、再びこれが起きないような、そういう万全の方策を講じておる次第でございます。
  86. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) この福岡刑務所におきます猟銃の密造の事件につきましては、昨年中に捜査が完了いたしまして、捜査の結果を私どもの方へも知らせていただいたわけでございますが、事実関係を簡単に申し上げますと、昭和五十四年の八月から十一月ころまでの間、福岡刑務所に当時受刑しておりました受刑者三名が、この刑務所の工場内にありました金属関係の残材を利用いたしまして、二丁の猟銃、すなわちいずれも幾つかの部分に分かれる銃を作製いたしまして、これを当時、刑務作業を発注しておりました企業から派遣されて刑務所の工場に来ておりました作業指導員、すなわち作業の内容等について指導をする者に依頼をいたしまして、これを外部に運ばした、こういうことでございまして、昨年末、関係の受刑者はいずれも福岡地方検察庁裁判所へ起訴するという措置がとられたわけでございます。
  87. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 法務大臣、いまお聞きのとおり刑務所の中で二丁の猟銃をつくった。これは大変なことですよ。刑務所がこれはたるんでおるんですね。だから私はあなたに対して所感を聞いたんだけれども、今後起こらぬように一生懸命努力すると、これはまあ大体決まり文句みたいに思うんですけれども、こういうことが、これは刑務所の中ですよ、一般国民はどう思いますか。もう少し指導員の指導を厳重にやってもらいませんと、何が起こるかわかりません。  それで、今度法務省として行刑施設運営問題調査対策委員会、こういうものをつくられたのでしょう、これは新聞に出ておりますけれども。これができてどういうふうになったのか、その対策は出されておるのか。それとその対策の内容及び法務省がどういうような具体的措置をおとりになったのか、まずお伺いしましょう。
  88. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) ただいま御指摘のございました行刑施設運営問題調査対策委員会と申しますのは、事務次官が委員長となりまして、それから関係局長すなわち刑事局、保護局、矯正局の局長、それから官房長、それから官房の各課の長、これだけを委員といたします委員会でございます。昨年の十月末に設けられまして、本年の一月までに委員会は三回、しかし、そのほかに幹事会というのを七回開きまして、今後の対策について検討をいたしたわけでございます。一番中心になりましたのは、この福岡刑務所事件をもとにいたしておりますけれども一つ刑務所、それから拘置所における作業の管理の問題でございます。それからもう一つは一般的な刑務所における規律の維持の問題でございますが、この二つを中心にいたしまして、現状を検討し、対策を考えたわけでございます。  主な事項について申し上げますと、まず作業の方法につきましては、一つは作業指導員の扱いの問題でございまして、先ほども申しましたように、福岡刑務所事件では、この作業指導員が受刑者から頼まれて、できた銃を部品に数回に分けて出しておりますので、本人はそれが銃であったということは知らなかった、あるいは知っていたという認定ができないわけでございますけれども、いずれにしろ運び出したということでございますので、この作業指導員につきましては、刑務所へ通ってくる指導員の数を必要最小限度にとどめること。それから作業指導員を選任する場合には、派遣する企業との間で、本人の平素の行動等について企業と十分相談して、身元の確かな人だけを任命する。それから作業指導員と認めました者につきましては、まずなった場合に計画的な研修を行って作業指導員としてはどういう態度で工場に出入りすべきかという点について研修を行う。それからさらに、この作業指導員が職員のいないところで受刑者からおどされたりということがありませんように、常に問題があれば職員、特に幹部の職員に通報して保護を仰ぐようにする、こういうようなことを作業指導員との関係では考え、結論が出たわけでございます。  それからもう一つは、工場の管理でございますが、工場へは毎日たくさんの材料が外部から運ばれてまいりますし、それから製品が外へ出ていくわけでございますが、そういう物の出入りについてのチェックを強化するということ。それから、本件福岡の事件で特に問題になりましたのは、材料とか、あるいは余った素材、そういう物の管理が必ずしも十分にいっておりませんために、そういう余った材料を使って銃がつくられたという状況がございますので、そういう材料、製品、それから残材、そういうものを含めて工場内にある物の管理を厳重にするということに努める、特に工場に不当な物が置いてないかどうかということも十分チェックするということでございます。  それから、作業に関連いたしまして、作業の中には福岡の場合のように銃ばかりではございませんが、何か凶器に使われるような材料を使うものもございますので、そういう危険のある作業には一体どういう受刑者をつかせるべきかという点についても、暴力団等に関係する受刑者は、そういう作業につかせないように配慮するということなどを決めて結論として出したわけでございます。  それからもう一つは、一般的な規律の問題でございますが、一つには、職員の研修を従来以上に充実させていきますとともに、この個々の職員収容者からおどされたり、あるいは誘惑されたりということがないように、受刑者の処遇については、施設の全職員が一丸となって対応する、特に第一線職員が問題があるというような場合には、常に上司の方で十分事情を聞き、それに基づいて対応できるような体制をつくるということ、それから、
  89. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 要点だけ言ってください。
  90. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 以上のようなことにつきましては、すでにこの対策委員会の結論を待ちまして、矯正局長から各現地の施設に通達をいたしておるところでございます。その他現在多少、完全に規律を維持しチェック等をいたしますためには、職員不足の問題もございますので、来年度の予算等におきましては、さらにその点について関係当局の御理解を得るように努めようということでございます。
  91. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 いまのことにも関連しているんでしょう、これは。五十八年度予算の中で、ここにも書いてあります、新規に刑務所作業提供事業費補助金十億三千四百万円、これを計上しておるわけです。その補助金によって、新規事業がどういうのが行われるのか、その新規事業の目的及びその構想につきましてまずお伺いしたい。
  92. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) この刑務所作業提供事業費補助金は、刑務作業のうち政策収入作業と呼んでおりますものについての新しい構想でございます。刑務作業の中には、製作収入作業、これは国が原材料を提供いたしまして、それを収容者が 加工し、これを国が売るというものでございます。それからこのほかに、賃金収入作業と申しまして、外部の業者から加工を依頼されて、加工だけをやるという作業もございます。このうち製作収入作業の方は、現在本年度までは約四十億円の原材料費を国が支出いたしまして、
  93. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 時間がないから簡単に要点だけ。
  94. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 支出して作業を行っておるわけでございますが、この四十億円をやめまして、原材料費をやめまして、そのかわり矯正協会という財団法人が原材料を提供して、それを加工して矯正協会に渡す、矯正協会の方でそれを売ると、こういうことでございますが、矯正協会の方には十分な原材料を仕入れる資金がございませんので、その分といたしましてこの補助金を出すという行き方をとったわけでございます。
  95. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 いまお話がありました矯正協会、これは財団法人でもありますけれども、これに今後資材の購入、販売等を任せるというようなことでしょうが、この矯正協会の組織と機構ですね、それと事業の目的、それから主要幹部の前歴並びに法務省がどの程度の監督をしているのか、それと、今回の措置によって監督がより一層厳しくなるのか、そこら辺のところを時間がありませんので、要点をひとつ。
  96. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) 要領よく御答弁をしてください。
  97. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 矯正協会の組織でございますが、本部に会長、理事長、常務理事、理事、幹事等の役員を置いております。それから支部といたしまして、矯正局、それから各施設に支部を置いておるわけでございますが、この目的としては、社会福祉の増進を図るため、犯罪者及び非行少年の矯正に関する事案に協力して、その進歩、改良を図るとともに、広く社会に矯正の思想を普及させ、犯罪の防止に寄与するということでございます。現在役員、すなわち理事といたしましては十四名でございますが、このうち半数の七名は現職の公務員が理事になっております。残りの七名は元矯正関係にいた者等から成っております。現在は会長が二十年ばかり前矯正局長をしていた人でございます。理事長としては、矯正局長が当たることになっております。  現在の監督の方法でございますが、監督の方法といたしましては、予算、決算それから事業報告等を法務大臣に提出して、それを審査するということで、監督をいたしておるわけでございます。  なお、この協会は、一つには国の矯正という仕事に協力するという面、それからもう一つには資金が大体会員すなわち全国の矯正職員が出しておるもので賄っておるのでございますので、矯正局の方から十分な監督を行う必要があるということで、この理事等の中に矯正関係の現職の職員も入っておるわけでございます。  今後は、もちろん国の補助金を使うということになりますので、そういう面での監督はさらに強めてまいることになるわけでございますが、その補助金をもらったその事業について、国の職員がそれを動かすということは必ずしも適切でないというふうに考えられますので、今後はこの刑務作業に関する事業につきましては、国の職員である理事は表決権を持たない、すなわち国の職員でない理事だけで表決を行うということにいたしております。
  98. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 そうしますと、これまで刑務作業、運営に携わってきました職員の職務上の負担の軽減等は、これは変化があるのかどうか、その辺いかがですか。
  99. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 職員につきましては、今後も矯正協会と十分な連絡をとりながら、作業の円滑な運営を図っていかなきゃいけないわけでございますので、国の職員の負担が軽くなるということはないと考えておりますので、その点については変動を見ていないわけでございます。
  100. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 それじゃ余り時間がありませんので、次に、保護司につきましてお伺いしますけれども、大臣の所信にもございましたけれども、犯罪者及び非行少年の改善更生につきましては、保護司と協働態勢を強化することが必要であると考えると、こういうふうに出ていますが、そこで、保護司法によりますと、この定数は全国を通じて五万二千五百人を超えないとされておるわけですけれども、現在の保護司は何人おるのか、またその年齢別、職業別の内訳をお伺いをしたい。それから保護司の高齢化が指摘されておりますが、この点の配慮についてお伺いしたいと思います。
  101. 吉田淳一

    政府委員(吉田淳一君) 現在保護司は、その実人員といたしましては約四万七千人でございます。その内訳でございますけれども、年齢別といたしまして、五十歳未満の方が約一一%、それから五十歳から六十歳末満の方が三四・六%、まあ三十数%、それから六十歳から七十歳未満、この方々も同じでございます、三五・六%。そういう状況になっております。  それで、職業別につきましては、地方の方が全国的には多いわけでございますので、農林漁業の方が二〇%弱、それから宗教家が約一二%、それから商業の方が約一二%、それから会社団体役員の方、あるいは教員、公務員をおやりになっている方がそれぞれ約七%ということになっております。  そこで、保護司の方の高年齢化の問題でございますが、この点につきましては、現在の少年非行等の現状にかんがみまして、年齢的なずれから処遇が適切を期しがたいということであっては困ります。そういう観点から、私どもといたしましては、活発に保護の活動を実際にしていただける方になっていただくように各地を指導しておるわけでございます。  最近におきましては、新任の際には約六十歳を一応めどにいたしまして、六十歳以下のところで新しくなっていただく。再任の際は、八十以上の方は御遠慮いただくと。再任の期間の間にそういう八十のような年齢になる方につきましては、全国的に再任は遠慮していただくというような措置をとっておるのが実情でございまして、今後とも保護司の方には、高い活動力をやっていただけると、そういう方々をより選任していきたいというふうに思っております。ただ一言、いわゆる年齢につきましては、高齢化社会と申しますか、非常にお年寄りの方でも大変活発に理解をしてやっていただいて、成果を上げているという例がたくさんございますので、その点をお知らせしておきます。
  102. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 それで、いま保護司の点についてお伺いしたわけですけれども、これはまた要らぬ質問かもしれませんが、新聞報道されているからこれも質問をせざるを得ないのです。これはどういうことなんかね、三月九日東京新聞ですよ。宇都宮市で九日、保護司が交通事故の示談金を百十一万円着服して逃げた。これはお読みになっているでしょう。保護司がこういうことをやるのじゃ話にならぬですな。この保護司は前科のある者で、山田という前科十犯の男だったというんですな。前科十犯の者を保護司はどういう基準で選考しているのか。保護司というのは、これは非常勤国家公務員でしょう。法務大臣が委嘱するようになっているんです。前科十犯の者を法務大臣が委嘱しているんでしょう。あなた目をつぶってお聞きになっているかしれませんが、もう少しこういうところは目をあいて答弁してもらわないと、これは笑い事では済まされませんよ。保護司選考会でやっているんでしょうが、一般の人は新聞見てぎょっとしますよ。こういう者を保護司に任命するというのはこれはどういうことなんでしょうかね。選考基準どうなっているのか。大臣の委嘱というのはあれですか、ただ証書を渡すだけですか。はなはだ私は疑問を感じますが、その辺、大臣と両方答弁してください。
  103. 吉田淳一

    政府委員(吉田淳一君) 御質問の点は大変残念なことだと思っております。  それで、これのいろいろ原因を調べました。結局尽きるところ、保護司の候補者として、保護観察所長が保護司選考会に推薦をする制度になっているわけですけれども、その制度自体はそれでよろしいと思うんですけれども、その保護観察所長 が推薦をする際に、その候補者の人についての十分な調査をしなきゃいけない、罪跡照会などはもちろんのことですけれども、あるいは前科の関係についてもそうでございますけれども、そういうことをしなきゃいけないのが、本件につきましては、どうもその手続について慎重さなり、厳密さを欠いたということは否めない事実でございます。地元の保護司の方からの推薦があって、この保護司を結局推薦することになったわけなんですけれども、そのときの調査について手抜かりがあったということは否定できないと思います。この点につきまして、早速、保護局といたしましても、このようなことが二度と起きないように、全国的に現在の選考事務手続についての実態を十分調査いたしまして、所用の措置を講じたいと思ってますし、現に、すでにこの事例につきましては、直ちに全国に通報をいたしまして、厳重にその点の調査を怠らないようにということを示達したところでございます。  私どもといたしましては、多くの保護司の方は一生懸命やっていただいて、しかも無報酬でやっていただいているというのにかかわらず、そういう方々の信用をこれで失堕するようなことになっては大変申しわけないということで、今度のようなことが再発しないように、できるだけ努力してまいりたいと思います。
  104. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 私も、最初新聞で見てびっくりして、保護司に前科十犯なんていうのは話にならぬですからね。これはやっぱり選考のところがたるんでいるんだと思うんです。そういう意味においては、こういうのが起きたということでびっくりして、全国の選考を担当する者が緊張して、十犯なんか、そんなのはよく調べなくたってわかるんですよ、十犯ともなれば。これはもう非常にたるんでいる話だと思います。十犯というのは、それはもうそんなに調べなくたってわかるようなものをやっているんだから、よほどたるんだ話なんです、これは正直言って。四万も五万もおれば、私の立場ではめくら判になるのはしょうがない。要するに、現実に実際に第一線で選考すところがたるんでいるとこういうことが起きてしまう。この点は、痛烈な反省と、それから選考する人たちの緊張というのか、あたりまえなことをやっていないということについて私も大変残念に思います。
  105. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 いろいろ弁解がましいことを聞きましたがね。一つは、無報酬の点もございましょうけど、厳重にひとつ大臣、注意してください。  きょうは時間がありませんから、これは法務省と警察庁関係でありますけれども、改正商法施行後の状況につきまして二、三お尋ねしたいんですが、昨年の十月から商法の一部改正法が施行されたわけですけれども、改正の一つの柱と言われておりました利益供与禁止規定、これは第二百九十四条ノ二で、「会社ハ何人ニ対シテモ株主ノ権利ノ行使ニ関シ財産上ノ利益ヲ供与スルコトヲ得ズ」、こうなっているわけですが、この点につきまして改正法の目的が達せられたのかどうか。新聞等の報道を見てみますると、企業でも、不本意ではありますけれども総会屋とつき合うと、こういうような、これは一部の企業でしょうけれども、新聞等に報じられておるわけですが、改正法施行後の企業の対応、総会屋に対する対応、それから総会屋の動向、この辺のところをひとつお伺いしたい。
  106. 中島一郎

    政府委員(中島一郎君) 私の方は、企業をこういう法律に基づいて監督するという立場でございませんので、実情を十分把握いたしておりませんけれども、新聞紙上等で見ますと、総会がいままでのような総会屋主導型の総会ではなくなって、中には総会が四時間も五時間もかかったという例が報道されておりますので、企業と総会屋との絶縁というものはかなり効果が上がっておるのではないかというふうに見ております。ただ、総会の実態を見ておりませんけれども、四時間も五時間もかかったというのは行き過ぎの面もあるのではないかというふうに考えるわけでありまして、一時的に行き過ぎがあるにいたしましても、関係者がいずれも改正商法の趣旨を正しく理解して、あるべき姿に株主総会が運営をされるようになるということを期待しておるような次第でございます。
  107. 森廣英一

    説明員森廣英一君) 商法改正後の元総会屋の動向につきましては、強い関心を持って視察をしておるところでございますが、彼らの動向としては、いろいろあるわけでございますが、特に目立った動きにつきまして御報告申し上げますと、従来のような賛助金等の金銭を要求しないままに総会に出席いたしまして、実に詳細なる質問をなすというような動きが一つ目立っております。それからいま一つは、新聞や雑誌等の出版物を無断で送りつけてきまして、しかも、これも金銭の請求はしない、こういうような動きが目立っております。ここら辺を見ますと、やはり商法改正の効果というものは相当程度あるのではないかというふうに認められます。私どもとしましては、改正商法の趣旨にのっとりまして、利益供与の違反とか、あるいはそうでなくても、刑法の恐喝というような犯罪が行われてないかどうか、この点を注目しておるところでございます。
  108. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 かなり効果が出たことはただいまお伺いしました。新聞報道にも出ておるわけですけれども、また行き過ぎも少しあったんじゃないか、こういうことも出ておるようですが、総会屋と直接関係のない一部経済誌、あるいはミニコミ誌が企業に断わられている、企業もおじけづいてしまって、何でもかんでもこういうものは金銭供与ということで断ってしまう。それで、こういうような総会屋と関係のない経済誌、ミニコミ誌が休刊や廃刊に追い込まれていると、こういうようなことも出ておるわけですが、これはどうですか、実情は。
  109. 森廣英一

    説明員森廣英一君) 私どももすべての事情を知悉しているわけではございませんが、企業からの話を聞いてみますと、元総会屋と目される人物が雑誌や新聞を送りつけてきて、購読料や広告料を請求するような動きが若干はある。それから逆に、お話のように新聞とか、雑誌の経営者等からお話を聞いてみますと、何も総会屋とは無縁の存在であるのに、購読や広告の掲載を断られて困っておるというようなお話も一部伺っております。こういった現象がなぜ起こってきたかということの認識でございますが、私どもとしてはやはり一つには総会屋との企業の縁切りということが相当に徹底をした。と同時に、最近の経済の実態に伴いまして、企業側の経費の節減というようなことが時を同じくして相当徹底しておる、こういうことの相乗作用の結果ではないかというような見方をしております。
  110. 中尾辰義

    ○中尾辰義君 それじゃ、時間がありませんので終わります。
  111. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) 午前の質疑はこの程度とし、午後二時まで休憩いたします。    午後零時二十一分休憩      ─────・─────    午後二時九分開会    〔理事中尾辰義君委員長席に着く〕
  112. 中尾辰義

    ○理事(中尾辰義君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  まず、委員の異動について御報告をいたします。  本日、土屋義彦君が委員辞任され、その補欠として梶原清君が選任されました。     ─────────────
  113. 中尾辰義

    ○理事(中尾辰義君) 休憩前に引き続き、昭和五十八年度総予算中、法務省所管を議題とし、質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言を願います。
  114. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 きょうは、予算の委嘱審査と、それから昨日の法務大臣の所信表明と両方に対して質問いたします。  所信表明の冒頭で「法務行政の使命は、法秩序の維持と国民の権利の保全にある」と言っております。そこで二つ、刑事面、民事面あわせて質問いたしますが、厚生省の関係で一番先に民事をお 聞きいたしますが、人権の問題としていま見逃せないのが、中国残留孤児の国籍問題だと思うんです。先日も中国から残留孤児の皆さんが帰ってこられて、親子の対面何組か行われまして、国民もこれ感激しながら見ておったんですが、新聞報道によりますと、そのうちの何組の人かは家族、親戚等の都合で国籍を取得できないというように聞いておりますが、その実情を報告していただきたいと思います。
  115. 森山喜久雄

    説明員森山喜久雄君) 中国残留孤児の肉親捜しでございますが、これは昭和五十六年から中国の孤児の方々を日本にお招きしまして、こちらで直接面接して調査をやるという方法をとっておるわけでございます。第一回目は五十六年に実施したわけでございますが、この場合は二十七名の身元が判明いたしました。この二十七名の方につきましては、すべて戸籍が回復されております。それから第二回目が昨年の二月でございますが、この場合は四十五人の方が身元が判明いたしました。わが方でちょっといまつかんでおります資料によりますと、この四十五名のうち二十七人の方はすでに戸籍が復活しております。それからそのほかに二人の方につきましては、現在戸籍回復の手続を行っているところでございます。残る十六名につきましては、ちょっと現況を承知しておりませんけれども、こういう方々は肉親が判明し、新聞なんかにも報道された方々でありますので、肉親の方の都合で戸籍の回復を拒否するというケースはまれにしかないんではないかというふうに了解しております。
  116. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 戦時死亡宣告の制度と、これの取り消しの制度はどうなっているか、ということは技術的問題だと思うんです。もし親族の者が諸般の事情で取り消しの申請をしない、あるいはできない場合に、厚生大臣が取り消しの申請をするなど便法があるんじゃないかと思うんですが、その辺はどうなんですか。
  117. 森山喜久雄

    説明員森山喜久雄君) 戦時死亡宣告と申しますのは、未帰還者に関する特別措置法というのが昭和三十四年にできまして、これに基づきまして、いわゆる民法三十条の失踪宣告の請求を利害関係人のほかに厚生大臣もできるというふうにしたわけでございます。こういう制度によりまして、中国残留孤児の方々の中にも、戦時死亡宣告をされている方が現にいらっしゃるわけでございます。それでその方が生きているということがわかれば、当然これは取り消しの請求をするわけでございます。それで第一義的には利害関係人の方がその手続をされるようにという指導をしておりますが、まあそういう方々が何かの事情でできないという場合には、これは厚生大臣もできるということになっておりますので、そういう事情を十分調査をいたしまして、最終的には厚生大臣がやるということで善処してまいりたいというふうに考えております。
  118. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 じゃ、そのことを強く要望いたします。  同じ関連の問題で法務省ですが、戦後中国で生まれて戸籍のなかった人が就籍手続をしようとしたところ、実母に事情があって手続をしてくれない。そこで、帰国できず宙に浮いているという報道もあるわけですね。こういう場合はどうしたらいいのか御答弁いただきたいと思います。
  119. 中島一郎

    政府委員(中島一郎君) 就籍は御承知のように家庭裁判所の就籍許可を得て戸籍をつくるという制度でありますが、この許可の申し立ては本人もできますので、本人から許可の申請をしていただくということがいいのではないかと思います。
  120. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 その場合にはそんなに厄介な手続でなく、それは行政の方の指導も必要かと思いますけれども、ひとつ円滑にいくようにお願いしたいと思います。  そこで、次に刑事の関係で、最近無罪事件が多発をしておりますし、冤罪事件も再審開始決定などかなり出ている、こういう状況であります。  そこで、先ほど法秩序の維持、国民の権利保全という点から見てみますと、これは徳島ラジオ商殺し事件で、死後再審決定があった富士茂子さんですが、生前こう語っています。法律は人権を守ってくれると思っていたのに、つつましい庶民の幸福を根こそぎ奪ってしまう悪魔の力だということですね。この八年来主な事件を拾ってみましても、死刑確定者を含む八件に再審開始決定が下って、三名無実が確定しておるのです。  まず、法務大臣に伺いますけれども、こういう事態を法務大臣としてはどう思うかお尋ねしたいと思います。
  121. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 再審決定がときどきあるわけでございますが、一つ一つ事情はそれぞれあろうかと思いますが、いまお話しの徳島の事件なんか見ますと、やはり検察としても反省をするような問題があるであろうと、詳細なことは私もまだ検討の結果を聞いておりませんけれども、そういうふうに考えます。
  122. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 原因を探ってみますと、見込み捜査とか、あるいは別件逮捕とか、さらに抵抗力の弱い被疑者をねらっての利益誘導など、あるいは虚偽自由などを要求するわけです。そういうようなことの結果ということが多いと思うのですね。そこでこれだけいろいろ出ていますと、特にこれは検察庁に要望したいのは、再審開始決定に対してしばしば抗告などがされて、さらに開始が延びるわけですね。その間も大変な時間がかかるわけですが、大体再審開始決定自身が針の穴をラクダが通るほど困難だと言われる、そこをくぐってきたわけですから、そういう場合には被告人あるいは家族、弁護人のそういうやはり努力というか、そこを認めてもらう。そして、片方は警察あるいは検察という、絶大な権力を相手にやっとそこまで行ったというわけですね。そうだとすると、私は再審開始決定、それはもちろん検察にすれば不服なことたくさんあると思うのですけれども、抗告などはまずしないことを原則に考えるべきじゃないか、こう思うのですがどうですか。
  123. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 検察も一審、二審、三審という三審制度の経過の中で、とにかく全力をふるって、特に死刑犯になるような犯罪、凶悪犯のようなものについては、全力をふるって三審制度を経て、そして一定の判決を受ける、有罪判決を受けるということなんで、そういう点を考えると、ある意味では全身全力を尽くしているということは私は認めないわけにはいかぬと思うのですよ。ただ、神様じゃないから、人間のやることですから、反省がないなどということは私は申しませんけれども、そういう努力の結果三審制度をやって、日本では無罪率が非常に低いわけですよ。大体それだけの努力をしてやると裁判官も心証を得て、証拠を見て、有罪の判決が圧倒的に多いわけですね。だけれども、まれに三審制度があったとしても、なおかつ後から見ればやっぱり問題がある部分もあったであろうと、私はそういうものも率直に反省の上に立たなきゃいかぬと思います。そういう観点からすれば、抗告等についてもやはり慎重に扱わなきゃいかぬだろうというふうに考えます。
  124. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 前向きの答弁をいただきましたが、さらにもう一歩踏み込んで、再審開始決定まで長時間かかると、悪くすれば死んでしまう。問題は再審開始決定があっても、再審の確定までは身柄は釈放されないのですね。いろいろ解釈がありましてね、執行取り消ししてもあくまで死刑の分であって、そのための身柄の拘置の方はこれは消えないという意見もあるのですが、従来それが通説とされてきましたけれども、最近どうもそうでない、決して通説とはいえないんじゃないかという状況になっておるんですね。というのは、主たる刑が死刑ですからね。それが効力がなくなったわけじゃない、そのために存在する拘留が存続しているのはおかしいじゃないかということが一つ。それから、何しろ再審というのは、いままである裁判の取り消しじゃなくて裁判のやり直しですね。あるものの取り消しならそれがあるまでは効力があるというのはいいんですけれども、裁判のやり直しというのがこれは基本的な考え方だと思うし、それはいわば国民の間の法意識として定着しているわけですから、そうなれば法理論的に も私はこれは釈放しても差し支えないし、そこを法務省で法理論上明確にならなければできないということでもないんではないか。私はそれこそ法務大臣の勇断をもって、確定前の釈放ということは考えるべきじゃないか。と同時に、その再審に自由な身柄で十分に闘って、無罪なら無罪をかち取るという場を与えて私はしかるべきじゃないか。それが先ほど言われた大臣の反省の言葉とつながってくるんじゃないかと、こう思うんですが、どうですか。
  125. 前田宏

    政府委員前田宏君) いま近藤委員の御指摘のような御意見も一部にはあることは承知しておるわけでございますが、ただいま近藤委員は、再審開始になりますと、いわゆる原判決、確定判決の効力が失われるので、その失われたのにと、こういうふうにいまおっしゃったわけでございますけれども、まずそこが問題であるわけでございまして、私どもとしては再審の裁判で改めて裁判があった場合に、初めて前のいわゆる原裁判、確定判決の効力が失われるというふうに考えておるわけでございます。それはただ解釈だけではなくて、現行の刑事訴訟法のたとえば四百四十八条の二項の規定を見ましても、これは逆な面から言っているわけでございますが、「再審開始の決定をした場合には、刑の執行を停止することができる」ということが規定されているわけでございます。ということは、とりもなおさずもとの原判決といいますか、確定判決が効力を失っていないということを明らかに前提としているわけでございまして、そういうことからも御議論の前提である開始決定になれば、原判決の効力が失われたというふうにはどうも解しがたいのが基本にあるわけでございまして、そういうことからいまのような解釈になってくるというふうに御理解をいただきたいわけでございます。
  126. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 ここで法律論争をする気はないんで、やるんだったら論文でお互いにやり合いたいと思いますし、また日弁連なんかでもそういう意見が大変強いわけですね。ですから私は、しかし、法理論的にそうであっても、余地はないのかどうか、その辺検討されていますか。
  127. 前田宏

    政府委員前田宏君) 法理論的に無理でも何か方法はないかとおっしゃられますと、どうも超法規的なことを考えるというようなことになるわけでございまして、それも場合によってはそういうこともないとは言えませんけれども、それはよほどのことでないとできないわけでございますし、そういうことはまたなかなかあってはならないことだと思うわけでございます。したがいまして、私どもとしては現行法の明文の規定もあるわけでございますので、その線にのっとった解釈、運用をするというのがたてまえであろうというふうに考えております。
  128. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 そうだとしますと、立法的に解決せざるを得ないんですけれども、そういう検討をひとつお願いしたいと思います。  それから、あと法務大臣にお伺いしますが、これはよくいままでも予算委員会などで議論されてきた秦野さんの参議院のロッキード特別委員会における発言、いままでの答弁聞いていますと、一委員立場、議員の立場と大臣の立場が違うからというので、大変すれ違いの答弁、やりとりなんですけれども、きょうはそうならないようにひとつ、私は直接お答えやすいように質問をしたいと思うので答弁いただきたいのですが。たとえば五十一年八月四日の質問で、田中元総理の外為法違反の逮捕について、別件逮捕的な逮捕だと、別件逮捕とははっきり法律の専門家だから、——決して別件逮捕じゃないのですけれども、別件逮捕的逮捕であると。それからもう一つは、任意でできるのなら任意で起訴もできるだろう、そして違法でないけれども、果たしてこれ歴史的批判にたえ得るであろうという感じがすると言って批判をされたわけですね。  そこでお伺いしたいのは、これは総理大臣であった者をこういう逮捕のやり方をしたのはけしからぬというのか、もともとこういうやり方がこれはいかぬというのか、このときの意味はどういう意味ですか。
  129. 秦野章

    国務大臣秦野章君) いままで私は、衆参両院の委員会その他でお答えをしておりますけれども、ロッキード事件に関する私が議員のときの発言は、要するに解釈論ですよね、法律の運用解釈論です。通用解釈論について私がいまおっしゃったようなことを質問したことは事実でありますけれども、それは議員のときで、法務大臣になったらその疑義をここで繰り返すというようなことをしたら、これは法務大臣というものは要するに法律家であることを必須条件としないわけですよ。また、そうであって、そういう論争の延長線上にあるとしたら、それは法務大臣という立場は職責は遂行できない。これは立場の議論になりますけれども、そこのところはいま近藤さんおっしゃったような論争を続けることはふさわしくないのですよ、私の立場では。なぜならば、法務大臣は法律家であることを要件としない。むしろ余り法律家的なことを言っちまったら、かえっておかしくなる。法律的意見はスタッフがあって、そして一つ一つ事件については検事が研究をして、その法を適用するという、そういう一家でございますから、そういうことで、法務大臣というのは要するにそういう役所の行政の長として仕事をするわけでございますので、その過去の私の法律論や、いまのお話のような問題を、いまどう思うかということは、いま裁判も係属中だし、私の立場としてはそういう論争は好まない、またすべきではないというのが私の考え方でございまして、これは立場の議論というものは非常に職責から出てくるので、職責からまたいろんな考え方が出なきゃならぬ、こう考えますので御了承願います。
  130. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 立場の問題というのは、たとえば指揮権発動するのかしないのか、いわば職務に関する事柄だと思うんですよ。ところがそうじゃなくて、私はいま聞いておるのは、そんな解釈の問題じゃなくて、当時この別件逮捕のことを言われたことはどういう意味を持っていたんだろうかということ。私が理解するには、これはこういうことはいかぬと批判されたということですね。それがいまそう思っているのかどうかということを聞けば、それはまさに大臣の判断になるので、私は何も聞きませんけれども、しかし、そういう弁解の仕方はあると思います。しかし、私が聞いているのは、この意味はどうかと素直に解釈すれば別件逮捕的逮捕を批判したと、こう受けざるを得ないのですがね、御答弁ないから私はそういう前提としてこれは質問せざるを得ないのです。よろしいですか。
  131. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 質問したときはでたらめを言ったのじゃなくて、そのときそう思ったから言ったんでございます。  ただし、法律の解釈とか運用とかというものは、いわゆる社会科学である限りいろんな解釈が成り立つわけですね。そして私は、法務大臣としては法律解釈のスタッフをちゃんと持っているわけですよ。ここにいるのはみんなそうですよ。それだけのスタッフを持って、言うならばその組織の私は長なんです。私の個人的意見で仕事をすべきじゃないんです。私が議員のときにやった解釈は、私の個人的意見なんです。そこが立場の違いだということを考えていただかなきゃならぬ。そのためにはおわかりいいように私はちょっと一つ例を申し上げますと、京都大学の滝川教授が問題を起こしてやめましたね。あれは弁護士になった。弁護士になったときに滝川さんは滝川理論でない別の理論を使ったわけですよ。そうしたら学会から反対が来た。反対というのか、あなたは自分の学説がやっぱり間違っていたということを認めたのかと、こういう議論が起きたという話です。しかし、滝川さんはやがて復活して総長にまでなったのだけれども、滝川理論というものは燦然と輝いて、これを引っ込めたわけじゃない。だけれども、弁護士という商売をやれば弁護士という商売にふさわしい職責の理論をしなきゃ商売にならない、またそれが職責を尽くすことにならない。私は職責というものは、こういう日本のような自由社会においてはいろんな職責がときどき変 化して与えられるわけですね。それに応じた理屈と理論というものがあるだろうと思うんです。それは法務大臣としては、法理論というものはほとんどこれはもうスタッフの理論というものを聞きながらやるのであって、私は社会科学というものはそれだけの相対性、融通性、それが日本のような自由社会における一つの特色だと思っております。
  132. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 滝川さんの例を出されたけれども、私の言っていることと全然すれ違っているのです。私は、いまの大臣のこの問題に関する見解とか、立場を聞いているのではないのです。当時の気持ちを聞いたのです。  それから、滝川さんが問題を起こしたと言いますから、歴史のために言っておきますと、これは当時の軍部がまさに追放したのですよ。まさにこれは学問の自由の侵害だということをひとつ御理解いただきたいと思います。  そこで、これから具体的に事実をお伺いしますが、秦野さんが警視総監だった時代は昭和四十二年三月から四十六年三月までと聞いてよろしいですか。
  133. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 終わったのは四十五年の七月だと思います、四十二年から。
  134. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 その間に、これも過去の具体的事実で、いまの大臣の職務と関係ありませんので遠慮なしにお答えいただきたいのですが、警視総監として任意捜査の原則を貫いたかどうか。それからもう一つは、別件逮捕などをしたことがなかったかどうか、いかがですか。
  135. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 任意捜査の原則というのは、刑事訴訟法上の原則で法律に書いてあることです。これはできるだけ励行しようという心構えであったことは当然でございます。  それから、別件逮捕というのは、やはり判例もあるし、ここにも専門家がいるから聞いてもらえばいいのだけれども、別件逮捕というのはある限界のもとには行使されていいということになっております。
  136. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 そこで、本当は答弁いただいた方がいいのですが、もう時間が余りないので私の方から言います。  秦野さんが警視総監に在職中に二つの有名な事件が発生しましたですね。いずれも別件逮捕です。それから、任意捜査に対して言いますと、秦野さんが警視総監になる前にやはり警察の幹部時代、弁護士ずいぶん忙しかったのです。実はほんのちょっとしたことでつかまってしまうかもわからない、それこそ任意捜査ではなくて、まさに強制捜査原則と思われる事件がありました。大変繁盛さしていただきましたけれども。それは別としまして、別件逮捕だけについていいますと、一つは近田事件——近田事件と申しますのは昨年無罪が確定した事件ですが、これはいわゆる別件で逮捕されて、いろいろ本人の手記を見ますと相当な拷問などあったようです。そして起訴されたけれども、これは無罪となった。それからもう一つは三億円事件。これも有名です。これは四十三年十二月十日に発生した府中の日本信託銀行を襲った事件で、四十四年十二月十二日に草野という人が逮捕されましたね。幸いなことにアリバイがあったからよかったけれども、しかし、これはあわやそれこそ冤罪事件になりかねなかったという事件ですが、これらはいずれも秦野さんが警視総監として指揮をとられた事件ですね。
  137. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 余り古証文出されても、忘れた部分もあるのだけれども、まず、任意かどうかという問題は、量じゃないのですよね、量が任意の方が多いことが任意捜査の原則だとか、量じゃなくて質の判断だと私は思うのです。  それから、いまの三億円事件関係では、あれはやはり警視庁がちょっとあせって少しまずかったなということだと思います。私も当時総監ですから、もちろん責任があるのだけれども、やはり事件というものは、あせったりなんかすると、ときどきしくじることもあるなということは、当時の一種の反省でございます。
  138. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 そうすると、あれですか、そういう反省であったので、五十一年八月四日に検察庁あせったなというので、こういう質問をしたと思うんですね。私は、ここで言いたいことは、いままでの論争と違うということです。かって御自分が警視総監として警察の大親分だった、そのときにはこんな有名な二つの別件逮捕事件がありましたね。そして、今度議員になられて、この検察の元総理逮捕については別件的逮捕はけしからぬ。だから要するに別件逮捕はもっとけしからぬということになるんですよね。私はこういうことはやはり問題があるのではなかろうか。そして、私は、そういう点でも、秦野さんを責めるよりは、中曽根さんがそういう方を大臣にされたという点で、これはちょっと問題がありはしないかと思うのですが、そういう点について大臣の所感はいかがですか。
  139. 秦野章

    国務大臣秦野章君) それはひとつ中曽根さんに聞いていただいた方がいいと思います。
  140. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 ただ、秦野さんとしてもやはり一貫していないんじゃないか。自分のときには大いにやる、しかし人のそういう別件逮捕は責める、こういう態度はこれは政治家としてもやはり一貫してなかったのではないか、こういう反省はおありになりませんか。
  141. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 近藤さんあたりから見れば一貫もしていないし、でたらめだということになるでしょう。しかし、私自身は一貫しているつもりであります。
  142. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 そういう一貫性は私は困るということを一つ申し上げて次の質問に入ります。  次に、これは衆議院の予算委員会でも議論になりましたが、ことし二月三日に自民党の石井議員が質問をしまして、法務大臣検察人事についての権限を持っているんじゃないかという質問に対しまして、秦野さんの答弁は、「人事というのは各省とも皆同じようなことだと思います。別にとりたてて変わったことはないと思います」という御答弁ですが、その認識はいまも変わりがないですか。
  143. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 変わりありません。
  144. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 これは検察庁法第二十五条ですと、検察官は、その意思い反して、その官を失うことがないという規定ですが、その「官」というのは「検察官」を指すのか、それとも検事総長、次長検事検事長、検事、副検事、そういう官を指すのか、大臣はどうお考えですか。
  145. 前田宏

    政府委員前田宏君) 大臣のお答えの前に御説明をさしていただきますが、近藤委員の御指摘検察庁法第二十五条の「官を失い」の「官」につきましていろいろな解釈があるわけであります。この規定の一般的な解釈といたしましては、検事総長、次長検事検事長、検事、副検事その中での異動といいますか、そういうものは「官」を失わせることにならないというふうに一応解し得るわけでございますけれども、やはりこの規定の趣旨、あるいはこの三条がそういうふうに列挙しておるというようなことを総合的に考えますと、先ほど指摘のように、それぞれが「官」に当たるんだという解釈もまた一面成り立つわけでございまして、このいずれもが明らかに間違いだというふうにも言えないような状態でございます。  ただ、実際の運用の問題になります場合には、やはりこの規定の趣旨、つまり、検察官の身分保障というものを定めておる規定の趣旨にかんがみまして、人事異動の具体的な運用に当たっては、その本人の意思に反するようなみだりな転換というものはしないというふうに考えておりまして、そのように従来から運用されておるところでございます。    〔理事中尾辰義君退席、委員長着席〕
  146. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 いまの運用の話はわかりましたけれども、大臣として二つの解釈のうちどちらに立たれるのか。これはやはり現に法律があり、大臣としてそれに基づいて行動するわけですから、これはお答えいただけると思うのですが。
  147. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 私は人事というものは何というか、普通のことを普通にやるとよく言うけれども、ただ、身分保障があるというのは制度の 問題ですから当然のことですよ。裁判官とか検察官とかいうものは、法律の制度として身分保障がある。その身分保障があるという趣旨にのっとってやはり解釈しなければいかぬ、こう考えます。
  148. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 それは法律があるんですから当然なんですけれども刑事局長が言われた解釈が二つあるでしょう。ここで言う「官」とは検察官なのか、それとも個々の検事総長、次長検事なのか、大臣としてはどちらとお考えですか。
  149. 秦野章

    国務大臣秦野章君) いま刑事局長答弁したようなことでいいと思いますよ。いままでもそういうふうに国会でも答えているようだし、そういう問題は余りくるくる変わらない方がいいんじゃないですか。
  150. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 いや、刑事局長は、二つ考えがあって、運用上のどちらが正しいかということ、あるいはどちらが刑事局長の考えかは言わなかったですね。これはある意味ではお役人としての立場かもしれませんね。これは、大臣は一応長ですから、最終的には大臣の判断で動くということになっているわけですから。  そこで、運用はもちろんそれぞれの実情に応じてやっていくということでいいわけですが、法の解釈としてはどちらのお考えか。
  151. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 法の解釈としてはいま刑事局長が言ったような解釈で私はいいと思うんです。そして人事というものは、私が独断先行するというふうにごらんになるかもしらぬが、何でも役所というのは余り独断先行せぬ方がいいという私は感じを持っていますからね。いろいろ人事というものはやっぱり組織の中で説得力のあることをやらなきゃいかぬ。これは常識ですよ。
  152. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 時間が来ましたので、最後に指摘だけにとどめますけれども、これは大臣も御承知だと思うんです。昭和二十六年に有名な木内事件というのがありましたですね。次長検事検事長に転出させる問題が起きた。そのときにも解釈で大問題になったでしょう。それ以来の解釈論なんですが、そこで私は、大臣が本当に検察人事に不当に介入しないとおっしゃるんなら、これは指揮権とうらはらの問題ですからね。となれば、この場合の「官」とは検察官ではなくて、検事総長とか、次長検事などの「官」を指すという解釈をとっていただければ、私は安心してもう大臣にお任せしますということでいいんですけれども、いまどちらともわからないように思うんですが、これはやっぱり昔のように検事総長や検察官だと解して、要するに指揮権発動があったって従わない者はどんどん吹っ飛ばすというようなことになる余地もあるものだから、心配して言うんですが、どうですか。
  153. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 人事はひとつ行政長官としての私の任された仕事でございます。そして、運用は私は常識的にいつもやろうと、こう心がけておりますので、先ほど刑事局長が答えておりますが、それ以上のことは私の責任で善処したいと思います。
  154. 近藤忠孝

    近藤忠孝君 終わります。
  155. 中山千夏

    ○中山千夏君 法務大臣の所信の中に、人権擁護行政について述べていらっしゃるところがあります。こんなふうになっています。「人権擁護行政につきましては、本年が世界人権宣言採択三十五周年に当たることでもありますので、国民の間に正しい人権思想をより効果的に普及徹底させるため、」、以下、人権思想の普及高揚に努めていくとか、それからいわゆる差別事象についても積極的に啓発活動を続けてその根絶に寄与するとか、もって国民の基本的人権の保障をより確かなものにしていきたいとか、こういうことが述べられてあります。これぜひお進めいただきたいと思うんですが、この人権——つまり人の権利というときの人の中には、被告人とか、それから刑に服している人々、そういう人も当然平等に含まれていると考えてよろしいんですよね。
  156. 秦野章

    国務大臣秦野章君) それは当然含まれていますね。
  157. 中山千夏

    ○中山千夏君 そこで、一つの具体的な事件について、ちょっと人権にもかかわりがあると思いますので、いろいろお伺いしていきたいと思います。  先日総監公舎爆破未遂事件という事件について無罪判決が出まして、それについて二十二日に検察控訴を断念したというふうに聞いております。断念したことで五人の被告の方々の無罪が確定したと。その間十一年間だということなんですね。十一年間というのは、一口に言いますけれども、ずいぶん長い間だなあ、その間裁判にかかっていた被告の人たちはずいぶん大変だったろうなと思うんです。法相としては、こういう事件についてどのような点を反省しておられるか。さっきちょっと寺田さんの御質問にも少し御答弁あったと思うんですけれども、その点お聞きしたいと思います。
  158. 前田宏

    政府委員前田宏君) 御指摘の総監公舎爆破未遂事件につきましては、ただいま仰せのように相当な期間かかりまして無罪判決に至ったわけでございますが、それにつきまして検察当局といたしましては、いろいろな角度から検討したわけでございますけれども裁判所の見方というものもいろいろあるわけでございまして、これを控訴して争っても果たして有罪の判決が得られるかどうかという問題がありまして、結局控訴をしないということにいたした次第でございます。  いろいろと捜査内容等についての問題、御指摘もあるわけでございまして、その点につきましては十分判決内容等も検討いたしまして、もし反省すべき点があれば十分その点は明らかにいたしまして、今後の教訓といたしたい、かように考えております。
  159. 中山千夏

    ○中山千夏君 新聞の報道ですので、直接私が聞いたわけじゃありませんけれども控訴断念に当たって、地検が冤罪であったとは考えておらず、見込み捜査との批判も当たらないというような言い方をしているんですけれども、こういう意見についてはどうお考えですか。
  160. 前田宏

    政府委員前田宏君) 判決内容を十分しさいに検討いたしませんと、明確なお答えもできないわけでございますが、結論から申しまして、全く人違いであるとかいうようなほどはっきりした判示ではないように思われるわけでございます。また、捜査のやり方、あるいは証拠の見方につきまして、いろいろな見方が可能であるわけでございまして、検察立場からすれば、必ずしも裁判所の判示のとおりには納得できないという点もないわけではないという趣旨でございます。
  161. 中山千夏

    ○中山千夏君 多分検察なんかの場合には、こうと信んじてやってこられたことについて控訴しなかったからといって、すぐごめんなさい、反省していますというふうには普通の場合みたいに簡単にはいかないとは思うんですけれども、いつもこのときに感じるのは、やっぱりどこか判決がおりて、しかもここで控訴を断念したというときに、反省の仕方というのはちょっと的外れなんじゃないかなという気が少しするわけなんです。そこで、反省の仕方をちゃんと反省しておかないと、またこういう事件が起きちゃうだろうという心配が強くあるんですね。これはちょっと聞き間違いだったかもしれませんけれど、さっき最初に寺田さんがこの件について御質問をなすったときに、たしか法相がお答えになったんだと思いますが、一生懸命やっても目的を達せられないときというものはあるものだというようなことをおっしゃった。その一生懸命やるやり方に実は問題があって、一生懸命やらなかったということを反省するとか、一生懸命やったかどうかということじゃなくて、一生懸命やったやり方について反省をしなくちゃいけないんじゃないかと思うんですよね。そこをたとえば国民の方に向いての、明らかにここのところをこう反省していくんだというふうなことを、大体輪郭だけでもおっしゃらないと、どうも不服だ不服だと、必ずしもその判決について自分たちは納得しておらぬのだということばかり表に出てくると、聞いている方としては非常に心配になるんですよね、本当にきちんと反省して今後ないようにやっていけるんだろうかということで。判決理由というのは新聞なんかでも報道され ます。そうするとそれを見てはっきりわかることは、たとえば「別件の窃盗事件による身柄拘束中に、司法警察員により、本件爆取事件について極めて法定刑の低い火薬類取締法違反の嫌疑による取り調べが行われ、その過程で利益誘導的な取り調べが行われた結果、被告人らが自白するに至った疑いがあること」というようなことをはっきり判決では言っているわけですよね。それから自白調書信用性についてということに関しても、いろいろと問題があるということを細かに取り上げて述べているし、「信用性に乏しいと言われなければならない。」という言い方をはっきりしているし、そして結論のところでは、「本件爆取事件を犯したことを証明するに足る証拠はなく、かえって被告人らの犯行とみるには疑問を抱かせるような消極的証拠もあり、いずれにしても犯罪の証明がないことになる。」というふうに言っているわけです。だからこそもちろん無罪判決というふうに報道されたんだろうと思うんですけれども、結局こういう部分について、このような判決が出る、こういう取り調べの仕方、自白のとり方をしたということについて反省を明らかにしていくこと、それからこういう判決が出るような件を告訴して、十一年もの年月を労費したんだということについて、どこかやり方がそれについてはまずかったんじゃないかということの反省を具体的に出していかないと、今後のためにならない、何となく不満だという感じだけが残っていたんじゃ、前面に出てきていたんじゃ、今後のためにならないと思うんですけれども、いかがでしょうか。
  162. 前田宏

    政府委員前田宏君) 御説明が十分でなかったかもしれませんけれども反省すべき点は十分それこそ反省しなきゃならないというふうに考えておるわけでございます。ただ、裁判制度というものは三審制度までありまして、検察官側が不服があれば控訴をし、さらに上告するということも道があるわけでございまして、そういう点があるけれども、結論的にこれはむしろ上訴しない方がいいという判断をした過程としてそういうことを申しているわけでございます。  それから、強いて申しますと、こういうことが問題になりますのは、やはり事件そのものがいわば難事件——むずかしい事件だということから出発しているわけでございまして、その場合に、事実の認定につきましても、証拠の見方につきましてもいろいろな見方があり得るわけでございます。相対立する見方があるわけでございまして、そこに争いがあるからこそ時間もかかるという理屈もあるわけでございます。もし逆に明々白々にどちらかであれば、すぐにどちらかに結論が出るわけでございますけれども、それだけにやはりむずかしい問題を含んでいるということで、それだからといって長くかかっていいということを申しているわけじゃございませんけれどもそれなりの時間もかかることもやむを得ない点があるだろうというふうに申したわけでございます。
  163. 中山千夏

    ○中山千夏君 私はこの事件を見ていまして、明々白々でないものであれば、裁判所だってなかなか判決を出せないということはもちろんあると思うんです。だけど、私が見たところでは、裁判所がお出しになった判決というのは、非常に明々白々であるというふうに見えるわけなんですね。それから、そんなに詳しいわけじゃありませんけれども、私が知り得る範囲で、その裁判の経過を拝見していますと、幾つかのことに気がつくわけです。たとえば、裁判が始まって初期の段階で、ある程度結論が、いま出るような結論が見えてきた。その後に検察側の立証の引き延ばしが行われたという感じがあります。それから被告弁護人の側が反証を始めた段階で補充捜査が行われましたけれども、これなんかも事実を見てみますと、ためにしているとしか思えないような、大変それは一生懸命やっているという点では精力的に行われているんですけれども、だけれどもためにしているとしか思えないような補充捜査が行われていた。  それからもう一つ、たくさんの、たとえば出てくればもっと明々白々に五人の方たちの無実が早期に証明されるのではないかと思われるような証拠がなかなか出てこない。いまだにたくさんそういう証拠が出されないままになっている、検察の側から。そういうところが経過の中に私なんかには見えるわけなんですね。実はいろいろな見方があるでしょうと言われてしまえばそれまでなんですが、そういう見方があればこそ、こういう明々白々な判決が私は出てきたんだろうと思うんです。真実を求めるというよりも、一生懸命検察の側がおやりになったことは、とにかく勝とうという、そういう姿勢が私には見えるわけなんですね、この経過の特徴をこう見ていくと。それは私だけではなくて、かなりいろいろな専門家の間なんかでも問題にされてきたことだと思います。そうすると、そういう姿勢というものが、やはりいたずらに裁判を長引かせて、そして五人の無実の人たちの人権を不当に長い期間抑圧する結果を招いたんじゃないかと思うわけなんです。だから、そういう姿勢についての反省というものが必要なんではないだろうか、もっと根本的なことを言えば。つまり、裁判をしていく、捜査をしていくという段階で、とにかく勝とうといういうような姿勢を持ってしまう、そのあたりの反省が必要なんじゃないかというふうに思うんですが、いかがでしょうか。
  164. 前田宏

    政府委員前田宏君) いろいろな御批判、御意見につきましては、もちろん謙虚に受けとめなければならないと思っておりますが、ここで弁解じみたことを申し上げてもどうかと思いますけれども刑事事件検察官が起訴します場合には、それなり証拠があるという判断処理をしているわけでございますし、また、そのもとにさかのぼれば、本件が特にどうこうという意味じゃなくて、一般論としてお聞き取りいただきたいわけでございますけれども、たとえば殺人なら殺人事件があったという場合に、その犯人がもし本当の犯人であるとすれば、それなりの処罰をされなければならないわけでございます。したがいまして、あくまで処罰されるべきものは処罰されなきゃならない。それは被害者のためでもあり、法秩序のためでもあるということでございますから、そういう立場において、もともと無責任なことをやっているとは考えていないわけでございます。  そうしますと、起訴の時点におきましては、検察側としてはそれなり証拠があるということで起訴をしているわけでございまして、その後、裁判に行きまして弁護人側からいろいろな反証活動もあるということになりますと、それがまた裁判での争点になって、それに対してまた反証の反証をするというようなことを繰り返すのが裁判の実態であるわけでございます。  その結果、裁判所が両方の主張、立証を公平に御判断いただいて、判決を下すというわけでございまして、その間、それが不当に長引いてはもちろんいけませんけれども、合理的な範囲内においての両方の主張、立証というものが繰り返されるのは裁判制度からいってある意味ではやむを得ないことであろうと思います。ただ、いま仰せのように、いたずらに引き延ばすとか、無理に何とかしようとかいうようなことがあってはならないことは当然でございまして、そういう考えは持っていないつもりでございますが、今後とも気をつけてまいりたいと思っております。
  165. 中山千夏

    ○中山千夏君 ぜひ今後その点を本当に気をつけて考えてやっていっていただきたいと思うんです。もちろんそういうことがありましたという話はここで決めるわけにもいかないことだと思いますが、私なんかが見たところでは、やはりこの十一年が合理的な時間だったとは思えない部分があるわけなんです。  こういう事例があった場合には皆さんでいろいろ反省なさるんでしょうけれども、実際前田さんですとか、いろいろなトップの方たちが、こういう事例があった場合に、まあ普通の言葉で言う反省会と言うんですか、そういうものを設営して、そして意見交換をするというようなことはあるんですか。
  166. 前田宏

    政府委員前田宏君) すべて私のところまで実 際にやるかどうかということになりますと、具体的な問題でございますが、一般的に申しまして、無罪事件が出ました場合には、それ自体は大変なことでございますから、その当該検察庁におきまして十分検討もし、また上級の検察庁とも相談をしていろいろ検討をする、そして本件のように結論を出すということでございますし、またその結果につきましては、部内でどこに問題があったのか、原因究明と申しますか、そういうことは常時やっているところでございます。
  167. 中山千夏

    ○中山千夏君 ぜひそういうお話し合いの場の中で、先ほど申し上げましたような、長い時間、ある程度かかるのは仕方がないかもしれないけれども、ぜひそれが合理的な時間であるように心がけてやっていただきたいと思います。  それからもう一つ、ある新聞の報道で、この五人の方たちに対する補償のことがちょっと記事になっているんです。これは刑事補償法に基づいて、拘置期間に応じて補償を請求できるということで、その最高額が認められた場合には、約四百十万円から約百四十万円が五被告に支払われることになると、こういうふうに出ているんですけれども、大体そういう感じなんでしょうか。
  168. 前田宏

    政府委員前田宏君) 具体的に当事者の方から補償請求が出ますと、裁判所がそれを御判断になって決定するわけでございまして、いますぐにどういう金額になるかということになりますと、正確なお答えはできないわけでございますが、刑事補償法に基準金額も決められておるわけでございますから、従来からいろいろ運用もあるわけでございまして、それにのっとった適正な決定が裁判所でなされるというふうに御理解いただきたいわけでございます。
  169. 中山千夏

    ○中山千夏君 それぞれ拘置されていた日にちも違うわけですから、いろいろな額が出てくるんでしょうけれども、大体認められた場合には約四百十万から約百四十万になるというのを聞きまして、大臣、これすごい安いなあと、十一年間拘置されていただけじゃなくて、ずっと裁判にかかわって、裁判抱えるというのは大変なことだと思うんですよね。そのあげく、こういうお金では補償できないことがあるということを別にしましても、すごく安いなあっていう気が一つショックとしてあったんですけれども、大臣はどんなふうにお感じになりますか。
  170. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 裁判所がこの問題は所管になっておりまして、私ども直接の問題じゃないんです。したがって、私から余りお気に召す答弁はできないんでございますが、ただ一言この際申し上げますけどね、日本の裁判制度で検察立場というのは、要するに疑わしきは捜査する、疑わしいものはとにかくやるんだと。裁判所は疑わしいものはぱいにするんだと、ぺいにするんだと、全然別の立場なんです。そこに弁護士と検察裁判官、実に私は制度としてはうまくできていると思うんですよ。制度としてはうまくできているんだけれども、実際に真実の追求というものはとにかくむずかしい。真実の追求はむずかしいし、平和なこの社会を、大ぜいが住む社会を維持するためには、どっかでだれかがちっとは犠牲になるんだみたいなところあるんだよね、ある程度。これはしようがないんだよ、この世の中は。裁判制度、いまのようなものがなかったらこれはしょうがないもの。そういうことだけはひとつ御理解願って、全体の社会の平和の維持のために検察も一生懸命やってるし、警察も一生懸命やっている。だから反省の余地がないと言うんじゃありませんよ。反省というものは常にせにゃいかぬものだからそれはするんだけれども、全体の制度としてやっぱりそういうふうな仕組みになっているということは、これはもうやむを得ないことなんだと、制度全体としては。この御理解もひとつぜひしていただきたいと思います。
  171. 中山千夏

    ○中山千夏君 かなり勇気ある御発言をいまなさったと思うんだけれども法務大臣としては。私は、たとえば運悪くそういうところに陥った人が、たくさんあることだし、全体のためには僕がこういう目に遭うのもしようがなかったかなと言うならわかるけれども、やっぱり事件に当たる検察とか、それから法務省の方たちとか、裁判所の方たちとかは、幾ら全体のためとはいえ、たった一人の人でもやっぱり権利を踏みにじられたりしないようにいつも気をつけてやっていただきたい。それはもうわかってらっしゃると思います。そのことは反省もしていくとおっしゃったんですから、そこをとらえて特にいじめませんけれども、でもそこで、何となくいっぱいあるんだから一人ぐらいしようがないなというような気持ち一つ許されてくるとやっぱりこわいと思うんですよね。だから、できるだけそういう気持ちは中でお持ちにならないように、一人の人の損でも、それから痛みでも、やっぱり人権ということに照らして、人権を踏みつけることがないように考えていっていただきたいんですね。  それともう一つは、さっき補償について安いという感想を申し上げましたけど、これはもらう側としてはすごく安いですね。でも逆に今度は国費ということから言えば、これだけ十一年裁判にかけて、おまけに補償というお金を出すわけですよね、だから、こういう意味でもこういう事件は本当に今後ないようにしていただかないと、むだだと思うんです。それと、幾ら全体のために時には間違いがあったり、損をする人があるとはいえ、やはりわざわざ間違いをつくってしまうようなことはつまりませんから、幾ら疑わしきは罰するですか、疑わしきはつかまえるという、そういう役目についている場合でも、わざわざ疑わしき者をつくってしまうようなことがあってはならないだろうと、そういうところも反省会のときにあわせて皆さんでお考えいただけたらと思うんです。  それともう一つ、この五人の方の自白に基づいて指名手配を受けている人がいましたよね。佐藤憲一さんという方ですか、いままだたしか写真が警察なんかのところに張ってあったように思うんですが、こういう大もとの自白信用性というものが否定されたときに、いまどうなるわけですか、この指名手配をされているという方は。
  172. 前田宏

    政府委員前田宏君) 事務的には警察の問題ではございますけれども、いまのような事態が起こっておるわけでございますから、検察庁におきましても、警察と十分協議をいたしまして、事態に応じた適切な措置をとるというふうに御理解いただきたいと思います。
  173. 中山千夏

    ○中山千夏君 たしか指名手配というのは、ある期間で、期間ごとに更新するというシステムになっていましたかしら。
  174. 前田宏

    政府委員前田宏君) 恐らくは逮捕状のことを指しておられるんだろうと思いますけれども、逮捕状の有効期間というものは決まっておりまして、切れました場合に、必要があればそれをまたとり直すということでございますから、そのことではないかと思いますが。
  175. 中山千夏

    ○中山千夏君 そうすると今度切れる期間に際して扱いを考えるということでしょうか、この方に関しては。
  176. 前田宏

    政府委員前田宏君) その面でも考えなければならぬと思いますし、いまおっしゃいましたいわゆる指名手配というものの面でも両面から考えなきゃいかぬと思っております。
  177. 中山千夏

    ○中山千夏君 次に、死刑制度についてちょっとお伺いしたいと思いますが、死刑制度というのは、やはり人権というものにまつわる大きな問題だと思うんです。先日もアムネスティーという国際的な人権を守る運動の組織の代表者の方が、法務委員会に見えられまして、そして死刑廃止のアピールといいますか、そういうものをお話しになって、いろいろ御意見を伺ったりしたんですけれども、私も死刑というのには反対なんです。それは、死刑そのものが非常に反人道的な刑罰であるというふうに私は思いますし、それから、生きる権利というのは、だれにでも、どんな人にでも認められなければならないのに、それを奪ってしまうということで、人権というところから見ても非常に反人権だというふうに思いますし、それから、現実のとても悲しい問題として、誤審があったときに、これはさっきも秦野さんおっしゃいま したけれども神様じゃないから、時には間違いがあるかもしれないと。だけれども、それを何らかの形で取り戻せるものならいいけれども、間違いがあったときに死刑がもし執行されてしまっていたら、これ取り戻しがつかないわけですよね。そういう点、こういうところから私は死刑には反対なんです。死刑はなくすべきだと考えて、いろいろな方たちの御意見を聞いたり、そういう意見をちょっと世の中で言ってみたりしているんですけれども法務大臣はどうお考えになりますか、死刑について。
  178. 秦野章

    国務大臣秦野章君) これは、死刑を廃止するかどうかという問題は昔からあるし、昔といってもそう昔じゃないかもしれないが、どこの国家でも、特に近代国家ではそういう議論がいつもあるわけですよ。これは恐らく永遠に争われる問題だと思うんですけれども、中山さんのような御意見が日本でも相当根強くあることも十分承知しているし、それは高邁なヒューマニズムといいますか、人間愛というか、そういうことからすれば当然だという感じもいたします。  ただ、現実の世の中で処理する、現実の社会でこの問題にどう対処するかという問題になると、新聞のアンケート調査なんかをやっても、何か事件があると死刑廃止はとんでもないと言って、七割もぱっと死刑廃止の反対が出てくる。それから、平穏な社会が続くとこの率が下がる。ただ、日本の場合は、私がいままで聞いた範囲では、大体半分以上はやっぱり置いておいた方がいいという意見なんですよ。こういうアンケート調査だけが絶対でもむろんないわけですね。ないわけだから、結局現実の問題としては哲学論争してもしようがない。現実問題としては法律の制度の問題であり、立法府や政府やそういうところが決断をせにゃならぬ問題だと思いますけれども、現在ただいまの現状では、やっぱり今度の刑法改正でも死刑の範囲をちょっと狭めたと、改正案では。少しでも減らそうとそういう努力はしておりますけれども、全廃というところまでいくにはちょっと無理があるという感じなんですよ、私の感じは。
  179. 中山千夏

    ○中山千夏君 いますぐということではそういう御意見だと思うんですけれども、長い将来、先々のことを考えますと、やっぱり少しずつでもとにかく死刑はなくしていってもらいたいという気持ちがあるんですね。それでそういう意見を持っている人は、いまおっしゃったようにかなりいる。ただ世論ということで言うと、お説のとおりに確かにまだまだたくさんの人が死刑があった方がいいと思っていますね。でもそれは死刑というものの実態を余り知らないということもあると思うんですよ。それから何となく死刑があれば凶悪犯罪が減るだろうというような、そういう考えを持っている方もいるだろうし、それから罪を犯した人には、いわゆる目には目という、そういうどちらかというと新しい社会にはふさわしくない考え方を根強く持っている方もいるだろうし、そこで、法務大臣などにはお願いしたいのは、政府は幾ら少ない意見しかないのについても、いいことだと思ったら率先してみんなに実態を知らせて、そしてこうなっていった方がいいんじゃないかという方向を示すというようなこともできるわけですよね。私は政府の意見広告というものには反対しているけれども、たとえば死刑というもののありようとか、実態とか、それから死刑についてみんながもう少し考えを深めていくような方向で考えを深めたり、論議をしたりできるようなきっかけをつくるといいますか、そういうことはおできになるんじゃないかと思うんですね。そういうことも含めて、なるべく死刑がなくなっていく方向に御努力をいただきたいというふうに私は思っているんですが、いますぐじゃないですよ。いかがですか。
  180. 秦野章

    国務大臣秦野章君) さっき申し上げたように、刑法改正の中では、そういうことを狭くしてきているというのも一つ努力なんですけれども、まあ死刑をすぱっと廃止するということが近々のうちにできるだろうかということはかなり問題があるし、世の中は余り変わらないんですよ。人間のさがなんてものは何年たったって善と悪の闘いでね、文明が進歩した、文化が発達したといっても、人間そのものの性情というか、そういうようなものがなかなか変わらぬところを見ると、なかなかむずかしい問題だなあという感じはしますけれども、やっぱり一つのロマンというか、遠い遠い一つの夢というか、そういうものも大事ですから、遠いからいいかげんでいいということもないから、私は人類のヒューマニズムとして、人が人を殺すということはよろしくないという考えは同じなんです。だけど、制度としてそれが現実社会の中で樹立をされるということになると、相当の時間だなあという考えでございます。
  181. 中山千夏

    ○中山千夏君 ありがとうございました。終わります。
  182. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 近時少年非行問題というものが非常にクローズアップされて、あるいは家庭内の暴力、それから学校内の暴力、そういうことに対する予防対策はどうするかというようなことが盛んに叫ばれておるんですけれども、きょうは私はこの予防ではなくて、非行少年を矯正をする立場にある法務省所管の各考え方をひとつ聞いていきたいと思うんです。  そこで、まず少年院についてお聞きをし、この教護院というのは実は法務省の管轄ではございません、これは厚生省の管轄でありますけれども、しかし、家庭裁判所を通って少年院に行く者、これは十四歳以上の場合ですね。それから家庭裁判所を通って教護院に行く者ということで、法務省の関係と厚生省の関係というものが、そこで接点みたいなものになって絡み合っている。きょうは厚生省にも来てもらっておりますから、少年院と教護院についてまずお聞きをしてまいりたい、こういうふうに考えております。  そこで、少年院に送致される少年、この人員が現在漸増しておるというふうに言われておりますけれども、まずその点についてどの程度漸増しておるのか、一般保護事件の中で少年院に送致される少年というのは何%ぐらいあるのか、その点をまずお聞きしておきたい。
  183. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 少年院に収容される少年の数が戦後一番減りました時期が昭和五十年ごろでございます。このころは年間少年院に収容される少年の数が約二千五百人であったわけでございますが、最近ではこれが五千人と約倍に上がっております。ただし、この少年が少年院にいる期間に若干違いがございますので、一日平均少年院にどのくらいいるのかということを比べてみますと、昭和五十年には二千五百三十三人であったわけでございますが、昭和五十七年には三千九百六十一人ということで、約五割の増加ということになっております。  それからもう一つ、保護処分の中で、家庭裁判所で審判のあった少年の中で少年院に送られる少年の数、割合等でございますが、ちょっとこれは家庭裁判所の統計にありますので、それを引用させていただきますが、昭和五十六年をとりますと約十九万人の、これは交通事件を除いた事件でございますが、約十九万人の一般事件の少年の中から、少年院に送致されましたのが四千六百十七人で二・四%ということになっております。さかのぼりまして昭和五十年を見ますと、約十二万人の中から二千二百三十人、一・九%と、こういうことになっております。
  184. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 その少年院に収容される少年が非常にふえた。そこで、少年院に送致される者の中には虞犯少年と犯罪少年というのがあるわけですけれども、矯正局の方から見て、たとえば送られるいろいろな非行とか犯罪があると思うんです。窃盗、暴行、傷害、いろんなものがあると思うんですが、特に目立ってどういうものがふえたことによって少年院送致の事件がふえてきたというふうに見られるか、これをひとつお聞きします。
  185. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) ただいま正確な統計を用意しておりませんが、少年院に入ってくる最近の少年たちについて見ますと、一つは薬物、特に覚せい剤を乱用する少年の数、絶対数もそうでございますし、割合もふえてきております。それか らもう一つは、粗暴犯と申しますか、家庭内暴力、あるいは学校内暴力ということで入ってくる少年が、これは絶対数はそれほど大きくございませんが、前に比べて目立つということでございます。それから、虞犯は必ずしもふえておりませんが、男子少年に比べますと女子少年の場合に虞犯の数がかなり多いわけでございます。
  186. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 要するに、いずれにしても少年院の矯正措置というのは、普通の刑罰もそうですけれども、大体教育であるということに尽きるだろうと思うんです。  そこで、最近少年院の運営というのがいままでと違って大きく変わった。たとえば長期と短期に分けて、少年を教育していくというようなことが行われているということを聞いておりますが、その内容をひとつ聞きたいし、長期、短期というのは、どういうふうにして決められるのか、また、どのような態様の構成によって決められているのか、あるいは家庭裁判所からそういう意見をつけてくるのか、そういうこともあわせてお聞きしておきます。
  187. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) ただいま御指摘の長期と短期とを分けるようになりましたのは昭和五十二年からでございます。そのころまで、法務省の法制審議会におきまして少年法の改正についていろいろな議論が行われたわけでございますが、その中で、長期の収容処遇が必要な者と、短期で足りる者とを分けるべきではないかという意見がかなり出ていたわけでございます。これは最終的に答申の中にも入っておるわけでございますが、そういう考え方はまことにごもっともでございますので、それを現行法の中でやれる範囲内でやっていこうということでございます。  現行法の中では、少年院の収容期間というのは原則として二十まで、あるいは送致のときから一年ということになっておりますけれども、この中で比較的短い期間の間に矯正教育が完了し得るというように考えられる者につきましては、大体短期としては少年院で五ヵ月ないし六カ月処遇をして、あとは法務局の保護観察の方へお任せをして家に帰して処遇をするというふうに考えたわけでございます。これを使うにつきましては、家庭裁判所が、この少年は短期の方がよろしい、この少年は長期の方がよろしいという御意見をおつけになることにいたしておりまして、これは法律的には拘束力はございませんけれども、実際上は家庭裁判所のそういう短期か長期かという御意見がありました場合には、これに従って短期なら短期でそれに適した施設、短期の少年を収容する施設に収容する、こういう形でやっておるわけでございます。  どういう場合にかということでございますが、非常に大ざっぱに申しますと、非行の程度が進んでおる者はやはり長期の処遇をする、それから、まだとにかく少年院での訓練が、あるいは教育が必要だけれども、非行の程度は長期間収容しなくても非行性を何とか直せるという者については短期の処遇をするということで、振り分けをいたしておるわけでございます。  なお、短期を二つに分けておりまして、一般短期と、それから交通短期というふうにいたしております。交通短期の場合は、主な非行が交通事犯であるという者につきまして、ほかの面の非行が、それほど一般的な非行という面が進んでいないというふうに思われる者は、交通短期ということで、収容期間も三カ月か四カ月ということで、さらに短くしてやっておるわけでございます。  一般的に申しますと、期間も違いますし、それから施設の何と申しますか、開放の程度も違っておりまして、一般短期もそうですし、それから交通短期もそうでございますが、なるべく塀を少なくし、かぎ等も少なくするという、できる限り開放的な処遇ということを心がけておるわけでございます。
  188. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 いまの交通短期の中に暴走族は入るんですか。
  189. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 交通短期にどういう少年を送るのかという点につきましては、反社会的組織に所属している者は避けるということでございますけれども、暴走族すべてが反社会的組織というところまで見るわけにもまいりませんし、それから暴走族に所属している者であっても加入の程度等が非常に浅く、もはや足を洗いつつあるというような子供もいるわけでございますので、暴走族に入っていたからすべてだめだということではなしに、そういう少年でもごく短期、交通短期の処遇になじむと思われる者につきましては、交通短期処遇による収容が行われております。
  190. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 そこで、私お聞きしたいのは、家庭裁判所の審判というのは、それ以前の少年鑑別所の長くても二十七日ですか、普通は二十日ぐらい鑑別をしたその鑑別結果を家庭裁判所裁判官が見て、それで審判で、そう時間なんかかけやしませんよ、一つ事件にせいぜい三十分か一時間でもって少年限送致、そのときに短期、長期とこう書くんですけれども、それをいざ受け取った方の短期の少年院、特に短期のことを聞くんですけれどもね、入れてみたけれども、とてもこれは短期じゃ、家庭裁判所はそう言ってきているけれども、どうもこの少年の性格からいって、その短期もわずか一般短期の四カ月ぐらいでは改過遷善できそうもないというような場合というのが出てくることはないんですか。
  191. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 短期にするか、長期にするかにつきましては、ただいま御指摘のように、少年鑑別所でどちらがいいかということを調査いたしまして、それを家庭裁判所に報告して参考にしていただいております。それからまた家庭裁判所では、そのほかに家庭裁判所調査官に調査をさせまして、その調査官からもやはり短期か長期か、あるいは保護観察かという意見を聞いてお決めになるわけでございます。  実際に、家庭裁判所から送られてくる少年を受け取る少年院の側といたしましては、これは裁判所でお決めになったことというのを前提に全力を尽くすわけでございまして、大体においては家庭裁判所から短期少年院に送られた者について、短期の処遇で間に合うというような実情でございますけれども、送られてみた者を見ますと、ちょっとこれは手に負えないという者も中には例外ではございますが出てまいります。そういう場合につきましては、家庭裁判所とも連絡をとりながら、短期ではだめだからということで、長期の少年院に変えるということも非常に数は少のうございますけれども、実際はございます。
  192. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 そこで、短期で少年院に送致をしておいて、四カ月でもう改過遷善されたから退院、交通の方は二カ月なしい三カ月で矯正の目的を達したから退院という程度のことならば、私はむしろ保護観察を強化すべきだと思うんですよ。ということはね、私が言いたいのは、一度刑務所に入って幾らいい成績で悔悟徹底をしても、出てくるといわゆる昔の言葉で言えば刑余者ということで世間の評価というのは違うの。少年院の場合でも、少年院に行って帰ってきたということになると、これはそれは前科にはならないにしても、少年に対して暗い烙印が押されるわけですよ。いわんや少年鑑別所に行って、保護観察処分で出てきても、どこの少年鑑別所に行った、練鑑に行っていたなんということになると、それだけでこの少年の価値判断がされるということになるわけなんです。だから私が言いたいのは、長期の方は別として、短期がこの程度で済むんなら、保護観察をもっと慫慂すべきだ。さらに私は、これは家庭裁判所に言いたいのは、どうも少年事件というのは、そっちは家庭裁判所でやることだから、矯正局の方は関知しておりません、こういうのが出てくる。というのは、私はもっともっと試験観察を強化しなさいと言っているんですよ。要するに、試験観察処分に一応しておいて、半年でもいいじゃないですか、半年なら半年それを受け取ってくれる施設に入れて、そうして教育をして、そうしてよくさしておいて戻ってきてそれを保護観察にしてやる。だめな者はこれはもちろん少年院に送ることもあるでしょう。だから、四カ月や二、三カ月入れて済むんなら少年院に入れる必要ない と思うんですよ。その点どうなんですか。
  193. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 短期にするか、長期にするか、あるいは少年院に送致するか、保護観察にするかということの最終的な決定は家庭裁判所でございますし、それからただいま御指摘の試験観察、あるいは保護観察の効果というものについて、またいろいろ御意見があろうかと思いますが、少年院に入ってくる少年を見てみますと、たとえば学校内暴力の事件、これはいろんな事件がございますので一律にはまいりませんけれども、学校内暴力で短期で入ってくるというのは、もうその場では何ともしょうがないというような子供たちが多いわけでございます。そのまま保護観察、あるいは試験観察という制度もございますが、それで足りるような子供ももちろんございますけれども、中には外に置いといては何ともしょうがないという子供たちが入ってくるわけでございます。そういう子供たちについて、期間に長短はございますが、二ヵ月、三ヵ月、あるいは四ヵ月、五ヵ月、この少年院に置いて本当に一対一に近いような処遇を行うことによりまして、次第に落ち着きを取り戻し、そういう非行性と申しますか、非行傾向というものがだんだんなくなってくるというのが実情でございまして、保護観察でもこういうやり方をすればいいんじゃないかという場合もあるだろうと思いますし、それから、試験観察に期待できる場合もあると思いますが、大体一般的な裁判所のお考え方ですと、なるべく少年院へは送らないで、施設の外で、施設に入れないで処遇改善を図りたい、こういうことでやっていらっしゃるわけでございますが、それができないので、たとえば試験観察をしたけれども、結果はうまくいかない、あるいは前に保護観察に一度なったことがあるというようなことも含めまして、裁判所の方では保護観察よりは少年院、こういう御判断で送られてくるわけでございまして、私どもは大体そういう御判断は正確になされておると思っております。
  194. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 私は、この家庭裁判所と法務省との関係を、成人の場合と同じように考えてはいけないと思う。成人の場合なら、有罪判決があって刑の執行はこれはもう検察庁が執行する、その執行によって今度それはおたくの方でやるわけでしょう。だから、それはそれでもう裁判所判決を下したことなんだからということで済むけれども、少年の場合には、家庭裁判所がやったことが何でもいいんですと、全部そのまま受け入れるんですというんではなくて、家庭裁判所がいろいろな処置をして送ってくるけれども、しかし、それを受け取った方の少年院としては、少年というのはやってみるとこうだとかああだとかという矯正をした上のあなた方の考え方を、それをやはり家庭裁判所の方に意見を具申するといいますか、その実情というものを理解してもらうということをやっぱり少年の場合にはやる必要があると思うんですが、そういうことはやっておられるんでしょうか。
  195. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) これは大人の刑務所の場合でございますと、矯正と申しますか、実際に刑務所を扱っておるものは全く発言権がございません。これは検察官と弁護士と裁判官が決められるのは裁判所でございますが、関与して刑が決まる。刑務所といたしましてはそれを受けるだけでございます。しかしながら、少年の場合につきますと、これは矯正ばかりではございませんけれども、少年の処遇に当たる者も家庭裁判所に十分意見を述べられるようなシステムになっておるわけでございます。  まず、先ほど指摘少年鑑別所というのがございまして、この少年鑑別所裁判官にこの事件についての意見を述べるということでございますし、それから家庭裁判所調査官も同様でございます。それからもう一つの特色は、たとえば家庭裁判所少年院保護観察所、それから少年鑑別所、それから少年に関する警察、あるいは少年係の検察官、あるいは教護院も含めまして、そういう少年の審判、処遇、あるいは非行の防止ということに関係しております機関というものは、もう定期にいろんな形の会合を開きまして、少年の処遇はどういうふうにしたらいいのかということを相談し、情報を交換し合っておるわけでございます。特に、家庭裁判所から少年院に送られた、あるいは保護観察に付せられたという少年の処遇のあり方につきましては、この家庭裁判所と、それから少年院保護観察所、それからさらに少年鑑別所職員を加えまして、ケース研究会ということで、もちろん名前は伏せますけれども、具体的なケースを細かく取り上げて、これは一体どこに問題があったか、あるいはこういう処分でよかったのかということを定期的に会合を開いて検討しております。それから中央でも、この少年非行防止、あるいは非行少年の処遇に携わる機関警察に始まりまして検察裁判所、それから更生保護、それから矯正と、こういうところで種々の機会に意見の交換、情報の交換をいたしておるわけでございます。そういう意味で、大人の場合に比べますと、はるかに執行期間と申しますか、処遇をする者の意向、意見というものは家庭裁判所の審判に反映するような仕組みになっております。
  196. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 先ほど覚せい剤の事犯がふえてきているということなんですが、覚せい剤の事犯を犯した少年の矯正教育というのはどういうふうにしてやっているんですか。
  197. 鈴木義男

    政府委員鈴木義男君) 覚せい剤の乱用で少年院に送られた少年、あるいは覚せい剤の乱用の経験のある少年というものが少しずつふえておりますことは、先ほど申し上げたとおりでございますが、こういう少年につきましては、やはり一般的に非行と申しますか、生活態度そのものに問題があるという一面と、それからやはり覚せい剤を使っておるということで問題があるという二面があるわけでございます。それで、生活態度、これは普通の非行少年と同じように、非常に自己顕示性が強いとか、わがままであるとか、こらえ性がないとか、そういう面が一つございます。それから環境を見ますと、やはり家庭に問題がある、さらに学校教育の際に十分な教育を受けていないというような面もございまして、こういう点につきましては一般の少年と同じように考えていかなきゃいかぬわけでございますが、そのほかに覚せい剤を使っておるという問題があるわけでございまして、そういうように、本人生活態度を改めさせるという面と、覚せい剤をやめさせるという面があるわけでございます。覚せい剤を使っておる者につきましては、大体三つの時期に分けて教育を行っておるわけでございますが、入ってきた当座には覚せい剤がいかに害悪の強いものであるのか、これは肉体的にも健康を害しますし、それから家族、その他の関係者の生活を乱すという点でも大きな害悪があるわけでございますが、そういう点について一種の啓蒙的な講話、あるいはテレビ、VTR等を見せて理解を深めさせてるということをいたしておりますが、一番少年院で現在力を入れておりますのは、最初の、入ってきたときを過ぎまして、それから中間期と申しておりますが、実際には収容期間の大部分でございますが、そういう間に覚せい剤の乱用の経験のある者だけを十人ぐらいずつグループに組みまして、そのグループに対して覚せい剤がいかに害があるかということを、これはお説教をしたり、あるいは講演で知らせるというだけではなしに、お互いのやり方としては、たとえばグループディスカッションと申しまして、自分の覚せい剤の経験、そういうものをお互いに交換させ、それによって心からこれは害悪の大きいものだということを自覚させますし、それからさらに、私これは専門家ではございませんけれども、サイコドラマ——心理劇といいまして、これは一定の覚せい剤を使ったり何かしたときの状況を各少年に分担させて、それを演じさせることによって問題をつかませる、こういう技法を用いまして、覚せい剤問題についての理解、要するに覚せい剤が大変有害なものであるということを、ただ単に知識だけではなしに、心の底から理解させるということに努めておるわけでございます。
  198. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 次に保護局の方に聞きますがね。 いまの覚せい剤の問題について聞きたいんですが、覚せい剤事犯で少年院に入って、少年院から退院してきたという者に対する保護観察、これは保護司さんがついてやるわけでしょう。そうするとそれが十分にいわゆる保護観察できるのかどうか、その点が一つ。また再犯を犯す者がいままで出てくるような例があるかどうか。
  199. 吉田淳一

    政府委員(吉田淳一君) ただいま御指摘のケースは、保護観察を取り扱っている対象の中でもなかなかむずかしいケースでございます。覚せい剤の関係で保護観察になったり、あるいは少年院に収容されて仮退院になった場合には、必ず保護観察になりますので、そういうことで私どもがその対象者を処遇しているわけでございますが、やはり成功しなかった事例もございます。しかし、覚せい剤の事犯につきまして、保護観察の関係で特に重点を置いておりますのは、まず保護司さんに覚せい剤の事犯についての知識なり、そういうものについて、私どもとしては地域的に研修をやっておりまして、これは保護観察所が中心になってやっておるわけでございますが、そういうことで、この種事犯の実態についてのまず知識を十分持っていただくというように相努めております。この種の事件でいろいろむずかしい点があるのでございますが、一番の問題は、一つはやはり暴力団的な組織とのつながりというものがあるケースがございまして、これが一たん覚せい剤が切れて、それがまたつながるというようなことになる下地になるわけでございます。その暴力団との離脱をどういうふうに図るか、この辺にひとつ保護司さん、あるいは保護観察官と協力しまして、そこの調整をやる。それからもう一つは家庭に問題があります。家庭の両親がおれば、あるいは親がおれば、それらの者に協力を求めて、そして覚せい剤事犯の実態についての恐ろしさを十分理解してもらって、それで何とかその保護者が対象少年につきまして、できるだけ善導してもらえるように、保護司なり、保護観察官が直接出向きまして、よく話し合いをして、家庭の調整を行うというようなところに重点を置いてやっております。  いつも成功しているかと申しますと、先ほど申しましたように、なかなかむずかしいケースでございますので、必ずしも成功しているということではございません。特に少年院を仮退院いたしました場合につきましては、少年の非行度が進んでいる場合が多うございますので、実際に成績が良好で、これは覚せい剤に限りませんけれども、一般に仮退院になった少年につきましては、約二〇%が成績良好ということになりますと、これは正式の退院という形にする手続が犯罪者予防更生法上ございますので、そういう形で成功した者が約二割、それから成績不良で仮退院にせっかくなりましたが取り消し、いわゆる戻し収容になった者が約一九・三%、残りが一応何事もなく期間が終了したと、こういうケースになっております。
  200. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 保護観察をして一番むずかしいことをお聞きしたんですが、これは少年院仮退院の場合だけでなくて、家庭裁判所の審判の結果、保護観察という決定を受けた者も含めてお聞きしたいのは、保護司のことなんですが、保護司さんというのが、われわれも家庭裁判所に付添人で行って、それで保護観察ということで家庭に帰される、保護司さんの保護観察を受けなさいということになるんですが、どうも保護司さんを見ますと、もう一応仕事が終わって隠居になっているような方だとか、なかなか活発に動き回るだけの年齢、あるいは手当、経済面、そういう面からどうしても活動が鈍くなるような場合があるんですよ。だから、よく保護観察を受けた少年に、家庭訪問をすることなんかしないで、一月に一遍私のところに来なさいと言うだけで保護観察を済ましているというような場合もあるし、そこでこれは予算の問題ですけれども、もう少し保護司制度というものを充実する考えがあるかないか、時間がないのでひとつ簡単に答弁してください。
  201. 吉田淳一

    政府委員(吉田淳一君) ただいまの点につきましては、私どもといたしまして、できるだけ努力しているつもりでございます。保護司さんの方の年齢層がどうしても高齢化しているというのが現状でございます。五十から六十、あるいは六十から七十あたりの方が合わせて七割を超えるかと思いますが、七十以上の方も十何%おいでになるわけでございます。保護司さんは全国で四万七千四百人ばかりが現在の人員でございますけれども、これらの方々が、実際のこういう少年非行のケースとうまくずれないで、どれだけマッチしてやっていただくか、そして大いにいろいろ奔走していただけるかというところが最大の主眼でございます。そのためには、何といっても最近のいろいろな少年の物の考え方、こういうものについて、もちろんお子さんをお持ちの方が多いわけでございますし、子弟の教育については十分御経験の方が多いわけでございますけれども、そういう一般的な情報、一般的な知識というものにつきまして、私どもといたしましては、いろいろな形で保護司さんに知識をフィードバックしております。それは研修もございますし、ここにお持ちしました「更生保護」という雑誌でございますけれども、これを保護司さんお一人お一人に配りまして、その中に少年非行の特徴について座談会をし、あるいは研究論文を読んでいただくというようなことで、そういう形で保護司さんにそういう知識を十分持っていただいて、そしてやっていただいているのが実情で、先ほどの研修などもそうでございます。それでなおやはりどうも保護司さんの力だけでは無理だという場合には、なるべく直接保護観察官が出向きまして、あるいは保護司さんと一緒に出向いて相手の少年に会って、そして何とかいい方法を見つけ出すと、そういうような努力もしておるわけでございまして、この点につきましては特に最近学校の問題もございますし、先ほどの覚せい剤の問題もいろいろありますので、私どもといたしましては、この現状につきまして、少しでも保護観察が充実して行われるようにしなければいけない、そういう努力はこの二、三年やってきたつもりですけれども、過般、今月私どもといたしましても通達を出しまして、幾つかの十数項目にわたる具体的な留意事項を掲げまして、そしてこういう点に注意して保護司さんと共同して保護観察に当たるようにという通達を過般発したばかりでございます。
  202. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 教護院について、これは厚生省せっかく見えているのでお聞きしたいと思ったんですが、時間がないので簡単に一、二点だけ聞いておきたいと思うんですが、教護院というのは、御承知のように十四歳以下、あるいは十四歳以上で家庭裁判所から送致される場合、それから児童相談所から送致される場合がある。そこでまず第一点としてお聞きしておきたいのは、国・公立、法人立を含めて五十七ヵ所で、いま入所は何人入所しているのかということが第一点。  それから、要するに教護院に送致される児童というのは、保護観察と少年院との間、十四歳以上の場合には間程度のものということになるわけなんですけれども、結局これは家庭にむしろ問題があるという場合が多いだろうと思うんですが、教護院としての教護の方針、それをひとつ第二点としてお聞きしたいと思います。
  203. 蒲地清弘

    説明員蒲地清弘君) まず第一点の教護院の入所児童でございますが、全国で教護院というのは五十七カ所でございます。国立が二カ所でございまして、それから都道府県立が五十三カ所、民間、いわゆる社会福祉法人立が二カ所でございます。そこに入っております人員でございますが、五十七年の十月一日現在で三千二十五人ということになっておりまして、前年同期と比較いたしますと、百二十一人ぐらい増加してきていると、こういうような状況でございます。  それから、教護の方針でございますが、教護院というのは、非行児童を収容して教護をすることを目的とする施設でございます。そこで、入りました児童に対しましては、適正な環境を与え、教護職員が児童と日常の生活をともにし、家庭的処遇のもとで生活指導、学科指導、それに職業指導を一体的に行って教護をすると、こういうような内容になっております。
  204. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 そこでお聞きしたいのは、いま県立の教護院、これは埼玉県にも埼玉学園という教護院があるんですけれども、これは現在収容されている者が、これは数がその時点その時点で変わりますからはっきりしませんが、いま現在入所している者が大体七十六名、そうして定数は八十五だというのですよね。そのくせ児童相談所に埼玉学園に入れないで待機をしている者が六十数名おる、こう言われておるんですが、なぜ定員いっぱい収容できないのか。だからそのことについては、少なくとも定員を認めているのになぜ定員が入れないのか、職員の数が足りないのか。そういうことがまず第一点。  それからもう一つは、国立の教護院はたった二つしかない、そしていわゆる県立が五十三カ所もある、公立が五十三カ所もあるということから見て、こういうもうすでに定員の上で足りないような地方の教護院に対しては、いま国庫補助が二分の一だそうですけれども、もう少しそういう施設を拡充することについて、国も協力をしてやるべきじゃないか、またこの足りない分については、たとえば、もし隣の県で収容する余地があればそこに回すとか、そういうような方法は講じることができないのか、その点をお聞きして、教護院の点については終わりたいと思います。
  205. 蒲地清弘

    説明員蒲地清弘君) 第一点の埼玉県の教護院の関係でございますが、私どもの方で県の方から聞きました話によりますと、現在受け入れられる定員というのは八十三人、現在入っている子供の数が七十五人ということで九〇・四%の充足率ということになっているわけでございます。一方、待機児童というのは、私どもが県の方から聞きましたところによりますと二十一名ということでございます。定員と現員の差八名ぐらいあるわけでございますが、二十一名待機しているということは、教護院に入る場合は親の同意というものが必要でございます。そういう関係等もありまして、現在待機をしていると、こういうような状況に伺っております。  それから、施設が不足しているということで施設整備に積極的にというようなお話だと思いますが、これにつきましては、私どもといたしましては、埼玉県でありますとか、千葉県、東京都、この辺は待機児童を抱えております。定員で県内の非行児童を収容できないと、こういうような問題を抱えておりますので、これにつきましてはまず隣接県と連絡をとりまして、定員に余裕のある県におきましては、その待機児童を抱えている県の子供さんを受け入れると、こういうような指導をいたしております。  それから、次の施設を増築することにつきましては、これはこういう非行問題が大きな社会問題になっている折でもございますし、その施設整備につきましては優先的に採択をして、国庫補助を行うというような方針で臨んでおります。  以上でございます。
  206. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 この一点でやめますが、実は北朝鮮在住日本人の問題なんですけれども、このことにつきましては、昭和五十五年に、衆議院の法務委員会で山崎武三郎議員が質問をいたしておりますが、そのときに法務省では、北鮮に渡った六千六百七十一名の名簿ができているということを答弁されておりますが、その名簿とはどういうものかということが第一点。  それから第二点は、その後、外務省の関係で安否調査をされた結果、九名に対してのみ返事が来たと。ところが、里帰りのことについては全然北朝鮮の方も触れていないということなんですが、その点について今後どういうふうに考えておられるのか。最終的にはそのときに時の法務大臣の倉石国務大臣が、この北朝鮮に在住している日本人妻の安否の調査と、それから一時里帰りの問題については、これについては出入国の関係で法務省が関係があるし、外務省も関係がある。したがって、これについてはどうしても窓口になる役所を決めてあげなければいけないだろうということが一つ。第二は、閣議に諮ってやはりこれは政府の問題として今後取り上げていくように努力をしましょうと、こう確約されているわけですが、そのことについて法務省の御意見を伺いたいということで質問を終わります。
  207. 田中常雄

    政府委員(田中常雄君) お答えいたします。  昭和三十四年以来、朝鮮人の北朝鮮に帰還した数は合計九万三千三百十名になりますが、そのうち日本人は六千六百七十九名になっております。これらの人々につきましては、第一回帰還船として帰還して以来、毎船ごとに北朝鮮帰還者名簿から日本人名前を抽出して作成した名簿を法務省は持っております。昨年十月一日をもって新たに消息がわかりました九名の者につきましても、われわれの持っている名簿の中で確認できております。
  208. 秦野章

    国務大臣秦野章君) ただいま名尾さんのお話、私もたしか倉石さんのとき、それから奥野さんのときにも問題提起があったと思うんでございますけれども、なかなかうまくいってないというのが現状でございます。しかし、これは人道上の問題でございますので、主としてこれは外務省がどうしても中心になろうかと思いますが、私どももできるだけ協力して、何か糸口はないだろうかということで努力をしてまいりたいと思います。
  209. 小倉和夫

    説明員(小倉和夫君) ただいま法務大臣が申されましたように、私どもも、この問題につきましては、単に九名の方の安否の問題のみならず、いずれ里帰りの実現のためにも今後努力したいというふうに思っておりますが、実はこの問題には三段階ございまして、かつてはその都度いろいろ安否調査をやっておった。それが一九八〇年になりまして、一括しまして北朝鮮側に赤十字を通じまして照会した。しかし、それでもなかなか問題の解決に結びつかないということで、さらに赤十字、あるいはほかのルートも通じまして、とにかくプライオリティーのある人は先にしてくれとか、そういうことも含めまして、あるいはいままで日本語の名前で出しておりましたのがこれはいけない、やっぱり朝鮮名で出しましょうということで、照会も朝鮮名で出したり、いろいろ工夫いたしまして、その結果、先生御指摘のように、やっと昨年九月九名の安否が出たようでございますので、私どもとしましては、やっとそこで一つの取っかかりができたというふうに考えておりますので、あくまで人道問題としまして、留守家族の御意向、あるいは御本人の御意向、日朝間のいろいろな問題もあわせて検討しながら、できるだけ前向きにこの問題に取り組んでまいりたいと、こういうふうに思っております。
  210. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 一点だけ。いま法務省で持っておられる名簿ですね、それは留守家族の団体の人に、希望があれば見せてもらえるのですか。
  211. 田中常雄

    政府委員(田中常雄君) 法務省に対して問い合わせがございますれば、協力するにやぶさかでございません。
  212. 名尾良孝

    ○名尾良孝君 終わります。
  213. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) これをもって昭和五十八年度一般会計予算、同特別会計予算、同政府関係機関予算中、裁判所及び法務省所管についての委嘱審査は終了いたしました。  なお、委嘱審査報告書の作成につきましては、これを委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  214. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  215. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) 次に、裁判所職員定員法の一部を改正する法律案を議題といたします。  政府から趣旨説明を聴取いたします。秦野法務大臣
  216. 秦野章

    国務大臣秦野章君) 裁判所職員定員法の一部を改正する法律案について、その趣旨を御説明申し上げます。  この法律案は、下級裁判所における事件の適正迅速な処理を図るため、裁判所職員の員数を増加しようとするものであります。その内容は、地方裁判所における特殊損害賠償事件等及び覚せい剤取締法違反等刑事事件の適正迅速な処理を図るた め、判事の員数を七人増加しようとするものであります。  これがこの法律案の趣旨であります。  何とぞ慎重に御審議の上、速やかに御可決くださいますよう、お願いを申し上げます。
  217. 鈴木一弘

    委員長鈴木一弘君) 以上で趣旨説明の聴取は終わりました。  本案に対する質疑は後日に譲ることといたします。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時八分散会